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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第34巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 筑紫の不知火
第1章 筑紫上陸
第2章 孫甦
第3章 障文句
第4章 歌垣
第5章 対歌
第6章 蜂の巣
第7章 無花果
第8章 暴風雨
第2篇 有情無情
第9章 玉の黒点
第10章 空縁
第11章 富士咲
第12章 漆山
第13章 行進歌
第14章 落胆
第15章 手長猿
第16章 楽天主義
第3篇 峠の達引
第17章 向日峠
第18章 三人塚
第19章 生命の親
第20章 玉卜
第21章 神護
第22章 蛙の口
第23章 動静
余白歌
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海洋万里(第25~36巻)
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第34巻(酉の巻)
> 第1篇 筑紫の不知火 > 第8章 暴風雨
<<< 無花果
(B)
(N)
玉の黒点 >>>
第八章
暴風雨
(
ばうふうう
)
〔九四九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
篇:
第1篇 筑紫の不知火
よみ(新仮名遣い):
つくしのしらぬい
章:
第8章 暴風雨
よみ(新仮名遣い):
ぼうふうう
通し章番号:
949
口述日:
1922(大正11)年09月12日(旧07月21日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
黒姫は二人をせきたてたが、芳公と房公はどうしたことか、その場から動けなくなってしまった。黒姫は怒って二人をその場に置いて、先に行ってしまった。
残された二人は身体が動かないことに不安になったが、神様が休養をさせようとしているのだろうと善意に受け取り、気を落ち着かせた。そして逆に、先に一人で行ってしまった黒姫の身の上を案じ、自分たちの身体の回復と併せて祈願をこらした。
日は次第に傾き、大粒の雨が降り出した。二人は一生懸命に三五教の大神に祈りをこらしている。強風が吹きだして山の老木や巨石を吹き飛ばし始めた。
そんな中、風のままに宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌の主は玉治別であった。玉治別は黒姫が恋の闇に迷って筑紫の島まで高山彦を追ってきたのを言向け和して、心を鎮めて聖地に連れ戻すためにやってきたのであった。
房公と芳公は、神徳高い玉治別の宣伝歌を聞いて感謝の涙を流した。玉治別の宣伝歌が終わると暴風雨はぴたりと止んだ。二人の身体も自由がきくようになっていた。
二人は玉治別の姿を探したが、辺りには見つけることができなかった。そこでまず、先の暴風雨で行き悩んでいるであろう黒姫に追いつくこととし、先を急いで急坂を登って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-09-13 13:10:15
OBC :
rm3408
愛善世界社版:
101頁
八幡書店版:
第6輯 398頁
修補版:
校定版:
107頁
普及版:
41頁
初版:
ページ備考:
001
房公
(
ふさこう
)
、
002
芳公
(
よしこう
)
の
二人
(
ふたり
)
は、
003
どうしたものか、
004
尻
(
しり
)
が
大地
(
だいち
)
に
吸
(
す
)
ひついたやうになつて、
005
ビクとも
動
(
うご
)
けなくなつて
了
(
しま
)
つた。
006
黒姫
(
くろひめ
)
は『
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』と
急
(
せ
)
き
立
(
た
)
てる。
007
されど
二人
(
ふたり
)
の
身体
(
からだ
)
はビクとも
実際
(
じつさい
)
動
(
うご
)
かなくなつてゐるのだ。
008
黒姫
(
くろひめ
)
はそんなこととは
少
(
すこ
)
しも
気
(
き
)
がつかず、
009
余
(
あま
)
りのジレツたさに
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らし、
010
黒姫
(
くろひめ
)
『コレコレ
両人
(
りやうにん
)
、
011
お
前
(
まへ
)
はこんな
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
て、
012
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
を
困
(
こま
)
らす
所存
(
しよぞん
)
だな。
013
あれ
程
(
ほど
)
事
(
こと
)
をわけて
言
(
い
)
ふのに、
014
何故
(
なぜ
)
立
(
た
)
たないのかい』
015
房公
(
ふさこう
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さーま、
016
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さつても、
017
如何
(
どう
)
したものか、
018
チツとも
足
(
あし
)
が
立
(
た
)
ちませぬワ、
019
……なア
芳公
(
よしこう
)
、
020
お
前
(
まへ
)
はどうだ。
021
チツと
動
(
うご
)
けさうかなア』
022
芳公
(
よしこう
)
『おれも
如何
(
どう
)
したものか、
023
チーツとも
動
(
うご
)
けないよ。
024
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
から
鼈
(
すつぽん
)
でも
居
(
を
)
つて
吸
(
す
)
ひつけるやうに、
025
どうもがいたとて、
026
動
(
うご
)
きがとれぬのだよ。
027
あゝ
困
(
こま
)
つたことが
出来
(
でき
)
た。
028
……モシモシ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
029
一
(
ひと
)
つ
鎮魂
(
ちんこん
)
をして
下
(
くだ
)
さいな』
030
黒姫
(
くろひめ
)
『ヘン、
031
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
あれ
丈
(
だけ
)
能
(
よ
)
く
喋
(
しやべ
)
り、
032
あれ
丈
(
だけ
)
無花果
(
いちじゆく
)
を
食
(
く
)
つておき
乍
(
なが
)
ら、
033
そんな
元気
(
げんき
)
な
顔
(
かほ
)
をして
居
(
を
)
つて、
034
足
(
あし
)
が
立
(
た
)
たぬの、
035
腰
(
こし
)
が
動
(
うご
)
かぬのと、
036
能
(
よ
)
う
云
(
い
)
へたものだ。
037
動
(
うご
)
けな
動
(
うご
)
けぬで、
038
私
(
わたし
)
は
先
(
さき
)
に
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します』
039
とピンと
身体
(
からだ
)
をふり、
040
不足
(
ふそく
)
そうな
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
041
エチエチと
登
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
042
瞬
(
またた
)
く
中
(
うち
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
の
姿
(
すがた
)
は
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みに
隠
(
かく
)
れて
了
(
しま
)
つた。
043
芳公
(
よしこう
)
『オイ
黒姫
(
くろひめ
)
も
余程
(
よつぽど
)
水臭
(
みづくさ
)
い
奴
(
やつ
)
だないか……
落
(
おち
)
ぶれて
袖
(
そで
)
に
涙
(
なみだ
)
のかかる
時
(
とき
)
、
044
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
の
奥
(
おく
)
ぞ
知
(
し
)
らるる……と
云
(
い
)
ふ
古歌
(
こか
)
があつたねえ、
045
黒姫
(
くろひめ
)
に
依
(
よ
)
つて、
046
此
(
この
)
歌
(
うた
)
の
意
(
い
)
を
実地
(
じつち
)
に
味
(
あぢ
)
はふことが
出来
(
でき
)
たぢやないか』
047
房公
(
ふさこう
)
『オウさうだ……
腰
(
こし
)
ぬけて
涙
(
なみだ
)
に
曇
(
くも
)
る
山
(
やま
)
の
路
(
みち
)
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
心
(
こころ
)
知
(
し
)
らるる……
048
黒姫
(
くろひめ
)
が
何時
(
いつ
)
もベラベラ
口先
(
くちさき
)
で チヨロマカしたる
尾
(
を
)
は
見
(
み
)
えにけり……
049
だ。
050
アハヽヽヽ』
051
芳公
(
よしこう
)
『
此
(
この
)
様
(
やう
)
に
脛腰
(
すねこし
)
立
(
た
)
たぬ
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
共
(
ども
)
誹
(
そし
)
る
所
(
どころ
)
か……
052
どうしても
脛腰
(
すねこし
)
立
(
た
)
たぬ
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
野垂死
(
のたれじに
)
より
外
(
ほか
)
はあるまい……』
053
房公
(
ふさこう
)
『オイ、
054
芳
(
よし
)
、
055
そんな
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
いことを
言
(
い
)
ふものぢやないよ。
056
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
何
(
なに
)
かの
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
で、
057
吾々
(
われわれ
)
に
少時
(
しばらく
)
休養
(
きうやう
)
を
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さつたのかも
知
(
し
)
れないよ。
058
大方
(
おほかた
)
此
(
この
)
向
(
むか
)
うあたりに、
059
大
(
おほ
)
きな
大蛇
(
をろち
)
が
居
(
を
)
つて、
060
俺
(
おれ
)
たち
一行
(
いつかう
)
を
呑
(
の
)
まうと
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へてをるのを、
061
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
助
(
たす
)
ける
為
(
ため
)
に、
062
ワザとに
足
(
あし
)
が
立
(
た
)
たないやうにして
下
(
くだ
)
さつたのか
知
(
し
)
れぬ。
063
何事
(
なにごと
)
も
善意
(
ぜんい
)
に
解釈
(
かいしやく
)
し、
064
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
065
何事
(
なにごと
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
ても、
066
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
恵
(
めぐみ
)
を
感謝
(
かんしや
)
し、
067
災
(
わざはひ
)
に
会
(
あ
)
うても
神
(
かみ
)
を
忘
(
わす
)
れず、
068
喜
(
よろこ
)
びに
会
(
あ
)
うても
神
(
かみ
)
を
忘
(
わす
)
れぬ
様
(
やう
)
に、
069
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つを
立
(
た
)
てぬきさへすれば、
070
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さるに
違
(
ちが
)
ひない、
071
サア
是
(
これ
)
から
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
072
病気
(
びやうき
)
平癒
(
へいゆ
)
の
祈願
(
きぐわん
)
をしようぢやないか』
073
芳公
(
よしこう
)
『それもさうだ。
074
併
(
しか
)
し
黒姫
(
くろひめ
)
さまが、
075
一人
(
ひとり
)
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つたやうだが、
076
其
(
その
)
大蛇
(
をろち
)
に
呑
(
の
)
まれるやうなことはあるまいかな。
077
俺
(
おれ
)
はそれが
心配
(
しんぱい
)
でならないワ。
078
何程
(
なにほど
)
憎
(
にく
)
いことをいふ
婆
(
ば
)
アさまでも、
079
ヤツパリ
可哀相
(
かはいさう
)
なからな』
080
房公
(
ふさこう
)
『それが
人間
(
にんげん
)
の
真心
(
まごころ
)
だよ。
081
俺
(
おれ
)
だつて、
082
あゝ
喧
(
やかま
)
しく、
083
黒姫
(
くろひめ
)
さまを
捉
(
つかま
)
へてからかつてはゐるものの、
084
はるばると
夫
(
をつと
)
の
後
(
あと
)
を
尋
(
たづ
)
ねて、
085
こんな
所
(
ところ
)
までやつて
来
(
く
)
る
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは、
086
滅多
(
めつた
)
にあるものぢやない。
087
実
(
じつ
)
に
女房
(
にようばう
)
としては
尊
(
たふと
)
い
志
(
こころざし
)
だ。
088
俺
(
おれ
)
はモウ
黒姫
(
くろひめ
)
のあの
心
(
こころ
)
に、
089
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
感服
(
かんぷく
)
してゐるのだ。
090
どうぞ
途中
(
とちう
)
に
災
(
わざはひ
)
のない
様
(
やう
)
、
091
怪我
(
けが
)
のない
様
(
やう
)
に
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
御
(
ご
)
祈願
(
きぐわん
)
し、
092
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
に
自分
(
じぶん
)
たちの
病気
(
びやうき
)
の
平癒
(
へいゆ
)
を
御
(
お
)
祈
(
いの
)
りすることにしようかい』
093
芳公
(
よしこう
)
『ヤツパリお
前
(
まへ
)
もさう
思
(
おも
)
ふか、
094
それは
有難
(
ありがた
)
い、
095
どうしても
人間
(
にんげん
)
の
性
(
せい
)
は
善
(
ぜん
)
だな』
096
房公
(
ふさこう
)
『そこが
人間
(
にんげん
)
の
万物
(
ばんぶつ
)
に
霊長
(
れいちやう
)
たる
所以
(
ゆゑん
)
だ。
097
神心
(
かみごころ
)
だ。
098
サア
斯
(
か
)
うして
腰
(
こし
)
は
立
(
た
)
たないが、
099
其
(
その
)
外
(
ほか
)
は
何
(
なん
)
ともないのだから、
100
まだしも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
恵
(
めぐみ
)
だ。
101
先
(
ま
)
づ
感謝
(
かんしや
)
の
詞
(
ことば
)
を
捧
(
ささ
)
げて、
102
次
(
つぎ
)
に
祈願
(
きぐわん
)
することにしよう』
103
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
104
二人
(
ふたり
)
は
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
了
(
をは
)
り、
105
静
(
しづ
)
かに
祈願
(
きぐわん
)
をこらし
始
(
はじ
)
めた。
106
房公
(
ふさこう
)
『あゝ
天地
(
あめつち
)
を
造
(
つく
)
り
固
(
かた
)
め、
107
万物
(
ばんぶつ
)
を
愛育
(
あいいく
)
し
玉
(
たま
)
うたる、
108
宇宙
(
うちう
)
の
大元霊
(
だいげんれい
)
たる
大国治立
(
おほくにはるたちの
)
大
(
おほ
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め
奉
(
まつ
)
り、
109
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
、
110
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
、
111
八百万
(
やほよろづの
)
神々
(
かみがみ
)
様
(
さま
)
、
112
私
(
わたくし
)
はあなた
方
(
がた
)
の
尊
(
たふと
)
き
御
(
ご
)
威光
(
ゐくわう
)
と、
113
深
(
ふか
)
きあつき
御恵
(
みめぐみ
)
に
依
(
よ
)
りまして、
114
此
(
この
)
尊
(
たふと
)
い
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
生
(
うま
)
れさして
頂
(
いただ
)
き、
115
何
(
なに
)
不自由
(
ふじゆう
)
なく、
116
尊
(
たふと
)
き
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
らして
頂
(
いただ
)
きました。
117
そうして
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
重々
(
ぢうぢう
)
の
罪科
(
つみとが
)
を
重
(
かさ
)
ね、
118
人間
(
にんげん
)
としての
天職
(
てんしよく
)
を
全
(
まつた
)
う
致
(
いた
)
さず、
119
不都合
(
ふつがふ
)
なる
吾々
(
われわれ
)
をも
御
(
お
)
咎
(
とが
)
め
玉
(
たま
)
はず、
120
いたはり
助
(
たす
)
けて
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
安
(
やす
)
く
楽
(
たの
)
しく
送
(
おく
)
らせ
玉
(
たま
)
ふ、
121
広
(
ひろ
)
きあつき
御
(
ご
)
恩寵
(
おんちやう
)
を
有難
(
ありがた
)
く
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
します。
122
……
此
(
この
)
度
(
たび
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
123
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
伴
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しまして、
124
万里
(
ばんり
)
の
海洋
(
かいやう
)
を
渡
(
わた
)
り、
125
恙
(
つつが
)
なく
此
(
この
)
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
に
渡
(
わた
)
らして
頂
(
いただ
)
き、
126
此処迄
(
ここまで
)
無事
(
ぶじ
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
懐
(
ふところ
)
に
抱
(
いだ
)
かれて
登
(
のぼ
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
127
乍併
(
しかしながら
)
、
128
如何
(
いか
)
なる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
摂理
(
せつり
)
にや、
129
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
此
(
この
)
木蔭
(
こかげ
)
に
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めますると
共
(
とも
)
に、
130
不思議
(
ふしぎ
)
にも
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
たなくなつて
了
(
しま
)
ひました。
131
これと
云
(
い
)
ふのも、
132
全
(
まつた
)
く
吾々
(
われわれ
)
の
重々
(
ぢうぢう
)
の
罪
(
つみ
)
が
酬
(
むく
)
うて
来
(
き
)
たので
御座
(
ござ
)
いませう。
133
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
の
大御心
(
おほみこころ
)
を、
134
吾々
(
われわれ
)
として
計
(
はか
)
り
知
(
し
)
ることは
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ませぬが、
135
乍併
(
しかしながら
)
、
136
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
吾々
(
われわれ
)
人間
(
にんげん
)
をどこ
迄
(
まで
)
も
愛
(
あい
)
し
玉
(
たま
)
ふ
尊
(
たふと
)
き
父母
(
ちちはは
)
で
御座
(
ござ
)
いまする
以上
(
いじやう
)
、
137
何
(
なに
)
か
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
して
手篤
(
てあつ
)
き
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
の
為
(
ため
)
に
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
吾
(
わ
)
が
身
(
み
)
をお
縛
(
しば
)
り
下
(
くだ
)
さつたことと
有難
(
ありがた
)
く
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
します。
138
つきましては
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
は
一足先
(
ひとあしさき
)
に
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
遊
(
あそ
)
ばして、
139
此
(
この
)
坂路
(
さかみち
)
を
登
(
のぼ
)
られました。
140
何卒
(
どうぞ
)
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
て、
141
悩
(
なや
)
み
災
(
わざはひ
)
の
起
(
おこ
)
りませず、
142
どうぞ
恙
(
つつが
)
なく
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
の
都
(
みやこ
)
へお
着
(
つ
)
きになりますやう、
143
特別
(
とくべつ
)
の
御
(
ご
)
恩寵
(
おんちやう
)
を
与
(
あた
)
へ
玉
(
たま
)
はむことを
懇願
(
こんぐわん
)
致
(
いた
)
します。
144
又
(
また
)
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
如何
(
いか
)
なる
深
(
ふか
)
き
罪科
(
つみとが
)
が
御座
(
ござ
)
いませうとも、
145
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
大御心
(
おほみこころ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
146
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
147
何卒
(
なにとぞ
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く、
148
此
(
この
)
身体
(
からだ
)
に
自由
(
じいう
)
を
御
(
お
)
与
(
あた
)
へ
下
(
くだ
)
さいますやう、
149
慎
(
つつし
)
み
敬
(
うやま
)
ひ
祈
(
いの
)
り
上
(
あ
)
げ
奉
(
たてまつ
)
りまする、
150
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
151
と
合掌
(
がつしやう
)
し、
152
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
流
(
なが
)
してゐる。
153
何程
(
なにほど
)
祈
(
いの
)
つても、
154
如何
(
どう
)
したものか、
155
二人
(
ふたり
)
の
身体
(
からだ
)
はビクともせない。
156
日
(
ひ
)
は
追々
(
おひおひ
)
と
西山
(
せいざん
)
に
傾
(
かたむ
)
き、
157
一天
(
いつてん
)
俄
(
にはか
)
に
黒雲
(
くろくも
)
起
(
おこ
)
り、
158
礫
(
つぶて
)
のやうな
雨
(
あめ
)
パラパラとマバラに
降
(
ふ
)
り
来
(
きた
)
る。
159
雷鳴
(
らいめい
)
か
暴風雨
(
ばうふうう
)
か
将
(
は
)
た
地震
(
ぢしん
)
の
勃発
(
ぼつぱつ
)
か、
160
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
凄惨
(
せいさん
)
の
気
(
き
)
が
四面
(
しめん
)
を
包
(
つつ
)
むのであつた。
161
二人
(
ふたり
)
は
撓
(
たゆ
)
まず
屈
(
くつ
)
せず、
162
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に……
三五教
(
あななひけう
)
を
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
ふ
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
、
163
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
を
始
(
はじ
)
め、
164
黒姫
(
くろひめ
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
守
(
まも
)
らせ
玉
(
たま
)
へ……と
主一
(
しゆいつ
)
無適
(
むてき
)
に
祈願
(
きぐわん
)
をこらしてゐる。
165
山
(
やま
)
の
老木
(
おいき
)
も
打倒
(
うちたふ
)
れむ
許
(
ばか
)
りの
強風
(
きやうふう
)
、
166
忽
(
たちま
)
ち
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
り、
167
巨石
(
きよせき
)
を
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
如
(
ごと
)
く
四方
(
しはう
)
に
飛
(
と
)
ばせ、
168
木
(
き
)
を
倒
(
たふ
)
し、
169
枝
(
えだ
)
を
裂
(
さ
)
き
其
(
その
)
物音
(
ものおと
)
の
凄
(
すさま
)
じさ、
170
何
(
なん
)
に
譬
(
たと
)
へむものも
泣
(
な
)
く
計
(
ばか
)
りなりき。
171
此
(
この
)
時
(
とき
)
何処
(
いづこ
)
よりともなく
風
(
かぜ
)
のまにまに、
172
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
たりぬ。
173
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
174
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
175
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
176
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
177
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
178
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞直
(
ききなほ
)
せ
179
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
180
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
181
吾
(
われ
)
は
玉治別
(
たまはるわけの
)
司
(
かみ
)
182
三五教
(
あななひけう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
が
183
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
に
渡
(
わた
)
りたる
184
高山彦
(
たかやまひこ
)
を
探
(
たづ
)
ねむと
185
棚
(
たな
)
なし
舟
(
ぶね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
186
渡
(
わた
)
り
来
(
き
)
ますと
聞
(
き
)
きしより
187
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
立出
(
たちい
)
でて
188
メソポタミヤを
打
(
うち
)
わたり
189
ヨルダン
河
(
がは
)
に
棹
(
さを
)
さして
190
フサの
海
(
うみ
)
をば
横断
(
わうだん
)
し
191
いよいよ
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
192
思
(
おも
)
ひもよらぬ
山嵐
(
やまあらし
)
193
げに
凄
(
すさま
)
じき
光景
(
くわうけい
)
ぞ
194
さはさり
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
は
195
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
196
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
も
恐
(
おそ
)
れむや
197
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
る
共
(
とも
)
曇
(
くも
)
る
共
(
とも
)
198
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つ
共
(
とも
)
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
199
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
む
共
(
とも
)
200
岩石
(
がんせき
)
雨
(
あめ
)
をふらす
共
(
とも
)
201
筑紫
(
つくし
)
ケ
岳
(
だけ
)
はさくる
共
(
とも
)
202
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
此
(
この
)
身体
(
からだ
)
203
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
真心
(
まごころ
)
に
204
如何
(
いか
)
なる
風
(
かぜ
)
もおし
鎮
(
しづ
)
め
205
天ケ下
(
あめがした
)
なる
人草
(
ひとぐさ
)
の
206
百
(
もも
)
の
災
(
わざはひ
)
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
207
助
(
たす
)
けてゆかむ
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
208
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
209
神
(
かみ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
幸
(
さち
)
はひて
210
国霊神
(
くにたまがみ
)
と
現
(
あ
)
れませる
211
純世
(
すみよ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
神柱
(
かむばしら
)
212
吾
(
わ
)
れに
力
(
ちから
)
を
添
(
そ
)
へ
玉
(
たま
)
へ
213
吾
(
わ
)
れは
是
(
これ
)
より
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
の
214
都
(
みやこ
)
に
出
(
い
)
でて
黒姫
(
くろひめ
)
が
215
暗路
(
やみぢ
)
に
迷
(
まよ
)
ふ
恋雲
(
こひぐも
)
を
216
伊吹払
(
いぶきはらひ
)
に
払
(
はら
)
ひのけ
217
誠
(
まこと
)
の
魂
(
たま
)
を
光
(
ひか
)
らせて
218
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
中心地
(
ちうしんち
)
219
四尾
(
よつを
)
の
山
(
やま
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
220
大宮柱
(
おほみやばしら
)
太知
(
ふとし
)
りて
221
鎮
(
しづ
)
まりませる
神
(
かみ
)
の
前
(
まへ
)
222
導
(
みちび
)
き
帰
(
かへ
)
り
助
(
たす
)
けなむ
223
神
(
かみ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
幸
(
さち
)
ありて
224
此
(
この
)
山嵐
(
やまあらし
)
速
(
すみやか
)
に
225
鎮
(
しづ
)
め
玉
(
たま
)
へば
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
226
教司
(
をしへつかさ
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
227
三五教
(
あななひけう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
に
228
出会
(
であ
)
ひて
神
(
かみ
)
の
御詞
(
みことば
)
を
229
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
伝
(
つた
)
へなむ
230
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
231
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
232
と
歌
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
、
233
二人
(
ふたり
)
の
耳
(
みみ
)
に
響
(
ひび
)
き
来
(
き
)
たりぬ。
234
房公
(
ふさこう
)
『オイ
芳公
(
よしこう
)
、
235
あの
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
聞
(
き
)
いたか、
236
どうやら
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
間近
(
まぢか
)
く
見
(
み
)
えたらしいぞ、
237
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
有難
(
ありがた
)
いものだなア。
238
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
にすてられた
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は、
239
脛腰
(
すねこし
)
立
(
た
)
たず、
240
苦
(
くるし
)
み
悶
(
もだ
)
えている
矢先
(
やさき
)
、
241
レコード
破
(
やぶ
)
りの
暴風雨
(
ばうふうう
)
に
出会
(
でつくわ
)
し、
242
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
守
(
まも
)
りは
信
(
しん
)
じ
乍
(
なが
)
らも、
243
戦々
(
せんせん
)
兢々
(
きようきよう
)
として、
244
如何
(
どう
)
なることか、
245
今
(
いま
)
も
吾
(
わ
)
が
身
(
み
)
を
案
(
あん
)
じて
居
(
ゐ
)
たが、
246
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
といふものは
実
(
じつ
)
に
尊
(
たふと
)
いものだ。
247
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
き
玉治別
(
たまはるわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
にこんな
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかからうとは、
248
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
知
(
し
)
らなかつた。
249
あゝ
有難
(
ありがた
)
い……
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
250
早速
(
さつそく
)
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
の
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
に
下
(
くだ
)
し
賜
(
たま
)
はりました。
251
何
(
なん
)
とも
御
(
お
)
礼
(
れい
)
の
詞
(
ことば
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬ』
252
と
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
感謝
(
かんしや
)
する。
253
芳公
(
よしこう
)
も
はな
を
啜
(
すす
)
りしやくり
泣
(
な
)
きし
乍
(
なが
)
ら、
254
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
してゐる。
255
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
がピタリと
止
(
と
)
まつたと
思
(
おも
)
へば、
256
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
山岳
(
さんがく
)
も
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
れよと
許
(
ばか
)
り
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
うて
居
(
ゐ
)
た
暴風雨
(
ばうふうう
)
も、
257
拭
(
ぬぐ
)
ふが
如
(
ごと
)
く
払拭
(
ふつしき
)
され、
258
空
(
そら
)
には
雲
(
くも
)
の
綻
(
ほころ
)
びより
青雲
(
せいうん
)
の
肌
(
はだ
)
をチラチラと
現
(
あら
)
はすやうになつて
来
(
き
)
た。
259
雲
(
くも
)
の
帳
(
とばり
)
をあけて、
260
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
は
漸
(
やうや
)
く
二人
(
ふたり
)
の
頭上
(
づじやう
)
を
斜
(
ななめ
)
に
照
(
て
)
らし
始
(
はじ
)
めた。
261
芳公
(
よしこう
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
262
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
263
重
(
かさ
)
ね
重
(
がさ
)
ねの
御
(
おん
)
恵
(
めぐ
)
み、
264
どうぞ
今
(
いま
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
主
(
ぬし
)
に
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さいませ、
265
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひで
御座
(
ござ
)
います』
266
と
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
267
又
(
また
)
もや
祈願
(
きぐわん
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
268
不思議
(
ふしぎ
)
や
二人
(
ふたり
)
の
腰
(
こし
)
は
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に、
269
自由
(
じいう
)
が
利
(
き
)
くやうになつてゐた。
270
房公
(
ふさこう
)
『あゝ
有難
(
ありがた
)
い、
271
足
(
あし
)
が
立
(
た
)
つた、
272
腰
(
こし
)
が
直
(
なほ
)
つた。
273
オイ
芳公
(
よしこう
)
、
274
お
前
(
まへ
)
は
如何
(
どう
)
だ。
275
チと
立
(
た
)
つて
見
(
み
)
よ、
276
俺
(
おれ
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りだ』
277
と
四股
(
しこ
)
ふみならし、
278
嬉
(
うれ
)
しげに
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ふ。
279
芳公
(
よしこう
)
も
案
(
あん
)
じ
案
(
あん
)
じソウと
腰
(
こし
)
を
上
(
あ
)
げてみた。
280
芳公
(
よしこう
)
『ヤア
俺
(
おれ
)
もいつの
間
(
ま
)
にか、
281
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
直
(
なほ
)
して
貰
(
もら
)
つた、
282
あゝ
有難
(
ありがた
)
し
勿体
(
もつたい
)
なし、
283
……サア
房公
(
ふさこう
)
、
284
是
(
これ
)
からあの
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
のした
方
(
はう
)
を
捜
(
さが
)
してみようぢやないか』
285
房公
(
ふさこう
)
『どうも
不思議
(
ふしぎ
)
だなア。
286
つい
間近
(
まぢか
)
に
聞
(
きこ
)
えた
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
、
287
斯
(
か
)
うして
登
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
た
坂路
(
さかみち
)
を
遠
(
とほ
)
く
見
(
み
)
はらしてみても、
288
人
(
ひと
)
らしい
影
(
かげ
)
は
見
(
み
)
えない。
289
乍併
(
しかしながら
)
あの
声
(
こゑ
)
は
此
(
この
)
坂
(
さか
)
の
下
(
した
)
から
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た
様
(
やう
)
だ。
290
不思議
(
ふしぎ
)
なことがあるものだなア。
291
確
(
たしか
)
に
吾
(
わ
)
れは
玉治別
(
たまはるわけの
)
司
(
かみ
)
と
歌
(
うた
)
はれた
様
(
やう
)
に
聞
(
きこ
)
えたがなア』
292
芳公
(
よしこう
)
『
確
(
たしか
)
に
俺
(
おれ
)
もさう
聞
(
き
)
いた。
293
ヒヨツとしたら、
294
あの
宣伝使
(
せんでんし
)
が
最前
(
さいぜん
)
の
蜂
(
はち
)
の
巣
(
す
)
の
下
(
した
)
で、
295
休息
(
きうそく
)
され、
296
あの
猛烈
(
まうれつ
)
な
青蜂
(
あをばち
)
に
目
(
め
)
でもさされて、
297
苦
(
くるし
)
んで
御座
(
ござ
)
るのだあろまいかな』
298
房公
(
ふさこう
)
『ヨモヤそんなヘマなことはなさる
気遣
(
きづか
)
ひもあるまい、
299
又
(
また
)
あれ
丈
(
だけ
)
神力
(
しんりき
)
のある
宣伝使
(
せんでんし
)
のことだから、
300
蜂
(
はち
)
の
布
(
ひれ
)
も
大蛇
(
をろち
)
のヒレも
持
(
も
)
つて
御座
(
ござ
)
るに
違
(
ちがひ
)
ない。
301
そんな
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
はせなくてもよからうぞよ』
302
芳公
(
よしこう
)
『そうだらうかなア。
303
そんなら、
304
これからボツボツ
此
(
この
)
坂
(
さか
)
を
登
(
のぼ
)
ることとしよう。
305
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
も
最前
(
さいぜん
)
の
暴風雨
(
ばうふうう
)
で、
306
嘸
(
さぞ
)
お
困
(
こま
)
りだらうから、
307
一
(
ひと
)
つ
追
(
お
)
つついて
御
(
ご
)
慰問
(
ゐもん
)
を
申上
(
まをしあ
)
げねばなろまいぞ。
308
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
も、
309
或
(
あるひ
)
は
此
(
この
)
坂
(
さか
)
の
上
(
うへ
)
に
御座
(
ござ
)
るのかも
分
(
わか
)
らない。
310
風
(
かぜ
)
の
吹
(
ふ
)
きまはしやら、
311
木谺
(
こだま
)
の
反響
(
はんきやう
)
で、
312
下
(
した
)
の
方
(
はう
)
から
声
(
こゑ
)
がしたやうに
聞
(
きこ
)
えたのだらうも
知
(
し
)
れぬ。
313
サア
行
(
ゆ
)
かう』
314
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
315
両人
(
りやうにん
)
は
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
を
力
(
ちから
)
に
急坂
(
きふはん
)
を
又
(
また
)
もや
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
316
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
317
(
大正一一・九・一二
旧七・二一
松村真澄
録)
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