霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 暴風雨(ばうふうう)〔九四九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第1篇 筑紫の不知火 よみ(新仮名遣い):つくしのしらぬい
章:第8章 暴風雨 よみ(新仮名遣い):ぼうふうう 通し章番号:949
口述日:1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黒姫は二人をせきたてたが、芳公と房公はどうしたことか、その場から動けなくなってしまった。黒姫は怒って二人をその場に置いて、先に行ってしまった。
残された二人は身体が動かないことに不安になったが、神様が休養をさせようとしているのだろうと善意に受け取り、気を落ち着かせた。そして逆に、先に一人で行ってしまった黒姫の身の上を案じ、自分たちの身体の回復と併せて祈願をこらした。
日は次第に傾き、大粒の雨が降り出した。二人は一生懸命に三五教の大神に祈りをこらしている。強風が吹きだして山の老木や巨石を吹き飛ばし始めた。
そんな中、風のままに宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌の主は玉治別であった。玉治別は黒姫が恋の闇に迷って筑紫の島まで高山彦を追ってきたのを言向け和して、心を鎮めて聖地に連れ戻すためにやってきたのであった。
房公と芳公は、神徳高い玉治別の宣伝歌を聞いて感謝の涙を流した。玉治別の宣伝歌が終わると暴風雨はぴたりと止んだ。二人の身体も自由がきくようになっていた。
二人は玉治別の姿を探したが、辺りには見つけることができなかった。そこでまず、先の暴風雨で行き悩んでいるであろう黒姫に追いつくこととし、先を急いで急坂を登って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-13 13:10:15 文字数:4144 OBC :rm3408
愛善世界社版:101頁 八幡書店版:第6輯 398頁 修補版: 校定版:107頁 普及版:41頁 初版: ページ備考:
001 房公(ふさこう)、002芳公(よしこう)の二人(ふたり)は、003どうしたものか、004尻(しり)が大地(だいち)に吸(す)ひついたやうになつて、005ビクとも動(うご)けなくなつて了(しま)つた。006黒姫(くろひめ)は『早(はや)く早(はや)く』と急(せ)き立(た)てる。007されど二人(ふたり)の身体(からだ)はビクとも実際(じつさい)動(うご)かなくなつてゐるのだ。008黒姫(くろひめ)はそんなこととは少(すこ)しも気(き)がつかず、009余(あま)りのジレツたさに声(こゑ)を尖(とが)らし、
010黒姫(くろひめ)『コレコレ両人(りやうにん)、011お前(まへ)はこんな所(ところ)へ来(き)て、012此(この)黒姫(くろひめ)を困(こま)らす所存(しよぞん)だな。013あれ程(ほど)事(こと)をわけて言(い)ふのに、014何故(なぜ)立(た)たないのかい』
015房公(ふさこう)『黒姫(くろひめ)さーま、016何(なん)と仰有(おつしや)つて下(くだ)さつても、017如何(どう)したものか、018チツとも足(あし)が立(た)ちませぬワ、019……なア芳公(よしこう)、020お前(まへ)はどうだ。021チツと動(うご)けさうかなア』
022芳公(よしこう)『おれも如何(どう)したものか、023チーツとも動(うご)けないよ。024地(ち)の底(そこ)から鼈(すつぽん)でも居(を)つて吸(す)ひつけるやうに、025どうもがいたとて、026動(うご)きがとれぬのだよ。027あゝ困(こま)つたことが出来(でき)た。028……モシモシ黒姫(くろひめ)さま、029一(ひと)つ鎮魂(ちんこん)をして下(くだ)さいな』
030黒姫(くろひめ)『ヘン、031今(いま)迄(まで)あれ丈(だけ)能(よ)く喋(しやべ)り、032あれ丈(だけ)無花果(いちじゆく)を食(く)つておき乍(なが)ら、033そんな元気(げんき)な顔(かほ)をして居(を)つて、034足(あし)が立(た)たぬの、035腰(こし)が動(うご)かぬのと、036能(よ)う云(い)へたものだ。037動(うご)けな動(うご)けぬで、038私(わたし)は先(さき)に失礼(しつれい)致(いた)します』
039とピンと身体(からだ)をふり、040不足(ふそく)そうな顔(かほ)をし乍(なが)ら、041エチエチと登(のぼ)つて行(ゆ)く。042瞬(またた)く中(うち)に黒姫(くろひめ)の姿(すがた)は木(き)の茂(しげ)みに隠(かく)れて了(しま)つた。
043芳公(よしこう)『オイ黒姫(くろひめ)も余程(よつぽど)水臭(みづくさ)い奴(やつ)だないか……落(おち)ぶれて袖(そで)に涙(なみだ)のかかる時(とき)、044人(ひと)の心(こころ)の奥(おく)ぞ知(し)らるる……と云(い)ふ古歌(こか)があつたねえ、045黒姫(くろひめ)に依(よ)つて、046此(この)歌(うた)の意(い)を実地(じつち)に味(あぢ)はふことが出来(でき)たぢやないか』
047房公(ふさこう)『オウさうだ……腰(こし)ぬけて涙(なみだ)に曇(くも)る山(やま)の路(みち) 黒姫(くろひめ)さまの心(こころ)知(し)らるる……
048黒姫(くろひめ)が何時(いつ)もベラベラ口先(くちさき)で チヨロマカしたる尾(を)は見(み)えにけり……
049だ。050アハヽヽヽ』
051芳公(よしこう)『此(この)様(やう)に脛腰(すねこし)立(た)たぬ身(み)を以(もつ)て 人(ひと)の事(こと)共(ども)誹(そし)る所(どころ)か……
052どうしても脛腰(すねこし)立(た)たぬ其(その)時(とき)は 野垂死(のたれじに)より外(ほか)はあるまい……』
053房公(ふさこう)『オイ、054芳(よし)、055そんな気(き)の弱(よわ)いことを言(い)ふものぢやないよ。056神(かみ)様(さま)が何(なに)かの御(ご)都合(つがふ)で、057吾々(われわれ)に少時(しばらく)休養(きうやう)を与(あた)へて下(くだ)さつたのかも知(し)れないよ。058大方(おほかた)此(この)向(むか)うあたりに、059大(おほ)きな大蛇(をろち)が居(を)つて、060俺(おれ)たち一行(いつかう)を呑(の)まうと待(ま)ち構(かま)へてをるのを、061大慈(だいじ)大悲(だいひ)の神(かみ)様(さま)が助(たす)ける為(ため)に、062ワザとに足(あし)が立(た)たないやうにして下(くだ)さつたのか知(し)れぬ。063何事(なにごと)も善意(ぜんい)に解釈(かいしやく)し、064神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、065何事(なにごと)が出(で)て来(き)ても、066神(かみ)様(さま)の恵(めぐみ)を感謝(かんしや)し、067災(わざはひ)に会(あ)うても神(かみ)を忘(わす)れず、068喜(よろこ)びに会(あ)うても神(かみ)を忘(わす)れぬ様(やう)に、069誠(まこと)一(ひと)つを立(た)てぬきさへすれば、070神(かみ)様(さま)が助(たす)けて下(くだ)さるに違(ちが)ひない、071サア是(これ)から神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し、072病気(びやうき)平癒(へいゆ)の祈願(きぐわん)をしようぢやないか』
073芳公(よしこう)『それもさうだ。074併(しか)し黒姫(くろひめ)さまが、075一人(ひとり)先(さき)へ行(い)つたやうだが、076其(その)大蛇(をろち)に呑(の)まれるやうなことはあるまいかな。077俺(おれ)はそれが心配(しんぱい)でならないワ。078何程(なにほど)憎(にく)いことをいふ婆(ば)アさまでも、079ヤツパリ可哀相(かはいさう)なからな』
080房公(ふさこう)『それが人間(にんげん)の真心(まごころ)だよ。081俺(おれ)だつて、082あゝ喧(やかま)しく、083黒姫(くろひめ)さまを捉(つかま)へてからかつてはゐるものの、084はるばると夫(をつと)の後(あと)を尋(たづ)ねて、085こんな所(ところ)までやつて来(く)る女(をんな)と云(い)ふものは、086滅多(めつた)にあるものぢやない。087実(じつ)に女房(にようばう)としては尊(たふと)い志(こころざし)だ。088俺(おれ)はモウ黒姫(くろひめ)のあの心(こころ)に、089実(じつ)の所(ところ)は感服(かんぷく)してゐるのだ。090どうぞ途中(とちう)に災(わざはひ)のない様(やう)、091怪我(けが)のない様(やう)に先(ま)づ第一(だいいち)に御(ご)祈願(きぐわん)し、092其(その)次(つぎ)に自分(じぶん)たちの病気(びやうき)の平癒(へいゆ)を御(お)祈(いの)りすることにしようかい』
093芳公(よしこう)『ヤツパリお前(まへ)もさう思(おも)ふか、094それは有難(ありがた)い、095どうしても人間(にんげん)の性(せい)は善(ぜん)だな』
096房公(ふさこう)『そこが人間(にんげん)の万物(ばんぶつ)に霊長(れいちやう)たる所以(ゆゑん)だ。097神心(かみごころ)だ。098サア斯(か)うして腰(こし)は立(た)たないが、099其(その)外(ほか)は何(なん)ともないのだから、100まだしも神(かみ)様(さま)の御(お)恵(めぐみ)だ。101先(ま)づ感謝(かんしや)の詞(ことば)を捧(ささ)げて、102次(つぎ)に祈願(きぐわん)することにしよう』
103と云(い)ひ乍(なが)ら、104二人(ふたり)は天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し了(をは)り、105静(しづ)かに祈願(きぐわん)をこらし始(はじ)めた。
106房公(ふさこう)『あゝ天地(あめつち)を造(つく)り固(かた)め、107万物(ばんぶつ)を愛育(あいいく)し玉(たま)うたる、108宇宙(うちう)の大元霊(だいげんれい)たる大国治立(おほくにはるたちの)大(おほ)尊(みこと)様(さま)を始(はじ)め奉(まつ)り、109天津(あまつ)神(かみ)、110国津(くにつ)神(かみ)、111八百万(やほよろづの)神々(かみがみ)様(さま)、112私(わたくし)はあなた方(がた)の尊(たふと)き御(ご)威光(ゐくわう)と、113深(ふか)きあつき御恵(みめぐみ)に依(よ)りまして、114此(この)尊(たふと)い地(ち)の上(うへ)に生(うま)れさして頂(いただ)き、115何(なに)不自由(ふじゆう)なく、116尊(たふと)き日(ひ)を送(おく)らして頂(いただ)きました。117そうして知(し)らず識(し)らずに重々(ぢうぢう)の罪科(つみとが)を重(かさ)ね、118人間(にんげん)としての天職(てんしよく)を全(まつた)う致(いた)さず、119不都合(ふつがふ)なる吾々(われわれ)をも御(お)咎(とが)め玉(たま)はず、120いたはり助(たす)けて此(この)世(よ)を安(やす)く楽(たの)しく送(おく)らせ玉(たま)ふ、121広(ひろ)きあつき御(ご)恩寵(おんちやう)を有難(ありがた)く感謝(かんしや)致(いた)します。122……此(この)度(たび)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、123黒姫(くろひめ)様(さま)の御(お)伴(とも)を致(いた)しまして、124万里(ばんり)の海洋(かいやう)を渡(わた)り、125恙(つつが)なく此(この)筑紫(つくし)の島(しま)に渡(わた)らして頂(いただ)き、126此処迄(ここまで)無事(ぶじ)に神(かみ)様(さま)の懐(ふところ)に抱(いだ)かれて登(のぼ)つて参(まゐ)りました。127乍併(しかしながら)、128如何(いか)なる神(かみ)様(さま)の御(ご)摂理(せつり)にや、129吾々(われわれ)両人(りやうにん)は此(この)木蔭(こかげ)に息(いき)を休(やす)めますると共(とも)に、130不思議(ふしぎ)にも腰(こし)が立(た)たなくなつて了(しま)ひました。131これと云(い)ふのも、132全(まつた)く吾々(われわれ)の重々(ぢうぢう)の罪(つみ)が酬(むく)うて来(き)たので御座(ござ)いませう。133神(かみ)様(さま)の広大(くわうだい)無辺(むへん)の大御心(おほみこころ)を、134吾々(われわれ)として計(はか)り知(し)ることは到底(たうてい)出来(でき)ませぬが、135乍併(しかしながら)、136神(かみ)様(さま)は吾々(われわれ)人間(にんげん)をどこ迄(まで)も愛(あい)し玉(たま)ふ尊(たふと)き父母(ちちはは)で御座(ござ)いまする以上(いじやう)、137何(なに)か吾々(われわれ)に対(たい)して手篤(てあつ)き御(ご)保護(ほご)の為(ため)に斯(かく)の如(ごと)く吾(わ)が身(み)をお縛(しば)り下(くだ)さつたことと有難(ありがた)く感謝(かんしや)致(いた)します。138つきましては黒姫(くろひめ)様(さま)は一足先(ひとあしさき)に御(ご)立腹(りつぷく)遊(あそ)ばして、139此(この)坂路(さかみち)を登(のぼ)られました。140何卒(どうぞ)途中(とちう)に於(おい)て、141悩(なや)み災(わざはひ)の起(おこ)りませず、142どうぞ恙(つつが)なく火(ひ)の国(くに)の都(みやこ)へお着(つ)きになりますやう、143特別(とくべつ)の御(ご)恩寵(おんちやう)を与(あた)へ玉(たま)はむことを懇願(こんぐわん)致(いた)します。144又(また)吾々(われわれ)両人(りやうにん)は如何(いか)なる深(ふか)き罪科(つみとが)が御座(ござ)いませうとも、145大慈(だいじ)大悲(だいひ)の大御心(おほみこころ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、146宣(の)り直(なほ)し下(くだ)さいまして、147何卒(なにとぞ)一(いち)時(じ)も早(はや)く、148此(この)身体(からだ)に自由(じいう)を御(お)与(あた)へ下(くだ)さいますやう、149慎(つつし)み敬(うやま)ひ祈(いの)り上(あ)げ奉(たてまつ)りまする、150あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
151と合掌(がつしやう)し、152感謝(かんしや)の涙(なみだ)をハラハラと流(なが)してゐる。153何程(なにほど)祈(いの)つても、154如何(どう)したものか、155二人(ふたり)の身体(からだ)はビクともせない。
156 日(ひ)は追々(おひおひ)と西山(せいざん)に傾(かたむ)き、157一天(いつてん)俄(にはか)に黒雲(くろくも)起(おこ)り、158礫(つぶて)のやうな雨(あめ)パラパラとマバラに降(ふ)り来(きた)る。159雷鳴(らいめい)か暴風雨(ばうふうう)か将(は)た地震(ぢしん)の勃発(ぼつぱつ)か、160何(なん)とも云(い)へぬ凄惨(せいさん)の気(き)が四面(しめん)を包(つつ)むのであつた。
161 二人(ふたり)は撓(たゆ)まず屈(くつ)せず、162一生(いつしやう)懸命(けんめい)に……三五教(あななひけう)を守(まも)り玉(たま)ふ皇(すめ)大神(おほかみ)、163吾(われ)等(ら)両人(りやうにん)を始(はじ)め、164黒姫(くろひめ)の身辺(しんぺん)を守(まも)らせ玉(たま)へ……と主一(しゆいつ)無適(むてき)に祈願(きぐわん)をこらしてゐる。165山(やま)の老木(おいき)も打倒(うちたふ)れむ許(ばか)りの強風(きやうふう)、166忽(たちま)ち吹(ふ)き来(きた)り、167巨石(きよせき)を木(こ)の葉(は)の如(ごと)く四方(しはう)に飛(と)ばせ、168木(き)を倒(たふ)し、169枝(えだ)を裂(さ)き其(その)物音(ものおと)の凄(すさま)じさ、170何(なん)に譬(たと)へむものも泣(な)く計(ばか)りなりき。
171 此(この)時(とき)何処(いづこ)よりともなく風(かぜ)のまにまに、172宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)え来(き)たりぬ。
173玉治別(たまはるわけ)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
174善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
175此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
176心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
177只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
178直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
179身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)せ
180三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
181吾(われ)は玉治別(たまはるわけの)司(かみ)
182三五教(あななひけう)の黒姫(くろひめ)が
183筑紫(つくし)の島(しま)に渡(わた)りたる
184高山彦(たかやまひこ)を探(たづ)ねむと
185棚(たな)なし舟(ぶね)に身(み)を任(まか)せ
186渡(わた)り来(き)ますと聞(き)きしより
187斎苑(いそ)の館(やかた)を立出(たちい)でて
188メソポタミヤを打(うち)わたり
189ヨルダン河(がは)に棹(さを)さして
190フサの海(うみ)をば横断(わうだん)し
191いよいよ此処(ここ)に来(き)て見(み)れば
192思(おも)ひもよらぬ山嵐(やまあらし)
193げに凄(すさま)じき光景(くわうけい)ぞ
194さはさり乍(なが)ら吾々(われわれ)は
195誠(まこと)の道(みち)の宣伝使(せんでんし)
196如何(いか)なる事(こと)も恐(おそ)れむや
197朝日(あさひ)は照(て)る共(とも)曇(くも)る共(とも)
198月(つき)は盈(み)つ共(とも)虧(か)くる共(とも)
199仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)む共(とも)
200岩石(がんせき)雨(あめ)をふらす共(とも)
201筑紫(つくし)ケ岳(だけ)はさくる共(とも)
202神(かみ)に任(まか)せし此(この)身体(からだ)
203玉治別(たまはるわけ)の真心(まごころ)に
204如何(いか)なる風(かぜ)もおし鎮(しづ)め
205天ケ下(あめがした)なる人草(ひとぐさ)の
206百(もも)の災(わざはひ)吹(ふ)き払(はら)ひ
207助(たす)けてゆかむ吾(わが)心(こころ)
208あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
209神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
210国霊神(くにたまがみ)と現(あ)れませる
211純世(すみよ)の姫(ひめ)の神柱(かむばしら)
212吾(わ)れに力(ちから)を添(そ)へ玉(たま)へ
213吾(わ)れは是(これ)より火(ひ)の国(くに)の
214都(みやこ)に出(い)でて黒姫(くろひめ)が
215暗路(やみぢ)に迷(まよ)ふ恋雲(こひぐも)を
216伊吹払(いぶきはらひ)に払(はら)ひのけ
217誠(まこと)の魂(たま)を光(ひか)らせて
218自転倒(おのころ)島(じま)の中心地(ちうしんち)
219四尾(よつを)の山(やま)の山麓(さんろく)に
220大宮柱(おほみやばしら)太知(ふとし)りて
221鎮(しづ)まりませる神(かみ)の前(まへ)
222導(みちび)き帰(かへ)り助(たす)けなむ
223神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)ありて
224此(この)山嵐(やまあらし)速(すみやか)に
225鎮(しづ)め玉(たま)へば玉治別(たまはるわけ)の
226教司(をしへつかさ)は逸早(いちはや)く
227三五教(あななひけう)の黒姫(くろひめ)に
228出会(であ)ひて神(かみ)の御詞(みことば)を
229一日(ひとひ)も早(はや)く伝(つた)へなむ
230あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
231御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
232と歌(うた)ふ声(こゑ)、233二人(ふたり)の耳(みみ)に響(ひび)き来(き)たりぬ。
234房公(ふさこう)『オイ芳公(よしこう)、235あの宣伝歌(せんでんか)を聞(き)いたか、236どうやら玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)が間近(まぢか)く見(み)えたらしいぞ、237神(かみ)様(さま)は有難(ありがた)いものだなア。238黒姫(くろひめ)様(さま)にすてられた吾々(われわれ)両人(りやうにん)は、239脛腰(すねこし)立(た)たず、240苦(くるし)み悶(もだ)えている矢先(やさき)、241レコード破(やぶ)りの暴風雨(ばうふうう)に出会(でつくわ)し、242神(かみ)様(さま)の御(お)守(まも)りは信(しん)じ乍(なが)らも、243戦々(せんせん)兢々(きようきよう)として、244如何(どう)なることか、245今(いま)も吾(わ)が身(み)を案(あん)じて居(ゐ)たが、246神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐみ)といふものは実(じつ)に尊(たふと)いものだ。247神徳(しんとく)高(たか)き玉治別(たまはるわけの)命(みこと)様(さま)にこんな所(ところ)でお目(め)にかからうとは、248神(かみ)ならぬ身(み)の知(し)らなかつた。249あゝ有難(ありがた)い……神(かみ)様(さま)、250早速(さつそく)御(ご)神徳(しんとく)を吾々(われわれ)両人(りやうにん)の目(め)の前(まへ)に下(くだ)し賜(たま)はりました。251何(なん)とも御(お)礼(れい)の詞(ことば)が御座(ござ)いませぬ』
252と涙(なみだ)と共(とも)に感謝(かんしや)する。253芳公(よしこう)もはなを啜(すす)りしやくり泣(な)きし乍(なが)ら、254両手(りやうて)を合(あは)せ感謝(かんしや)の意(い)を表(へう)してゐる。255宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)がピタリと止(と)まつたと思(おも)へば、256今(いま)迄(まで)山岳(さんがく)も吹(ふ)き散(ち)れよと許(ばか)り荒(あ)れ狂(くる)うて居(ゐ)た暴風雨(ばうふうう)も、257拭(ぬぐ)ふが如(ごと)く払拭(ふつしき)され、258空(そら)には雲(くも)の綻(ほころ)びより青雲(せいうん)の肌(はだ)をチラチラと現(あら)はすやうになつて来(き)た。259雲(くも)の帳(とばり)をあけて、260天津(あまつ)日(ひ)は漸(やうや)く二人(ふたり)の頭上(づじやう)を斜(ななめ)に照(て)らし始(はじ)めた。
261芳公(よしこう)『神(かみ)様(さま)、262有難(ありがた)う御座(ござ)います。263重(かさ)ね重(がさ)ねの御(おん)恵(めぐ)み、264どうぞ今(いま)の宣伝歌(せんでんか)の主(ぬし)に一目(ひとめ)会(あ)はして下(くだ)さいませ、265御(お)願(ねが)ひで御座(ござ)います』
266と両手(りやうて)を合(あは)せ、267又(また)もや祈願(きぐわん)に耽(ふけ)つてゐる。268不思議(ふしぎ)や二人(ふたり)の腰(こし)は知(し)らぬ間(ま)に、269自由(じいう)が利(き)くやうになつてゐた。
270房公(ふさこう)『あゝ有難(ありがた)い、271足(あし)が立(た)つた、272腰(こし)が直(なほ)つた。273オイ芳公(よしこう)、274お前(まへ)は如何(どう)だ。275チと立(た)つて見(み)よ、276俺(おれ)は此(この)通(とほ)りだ』
277と四股(しこ)ふみならし、278嬉(うれ)しげに踊(をど)り狂(くる)ふ。279芳公(よしこう)も案(あん)じ案(あん)じソウと腰(こし)を上(あ)げてみた。
280芳公(よしこう)『ヤア俺(おれ)もいつの間(ま)にか、281神(かみ)様(さま)に直(なほ)して貰(もら)つた、282あゝ有難(ありがた)し勿体(もつたい)なし、283……サア房公(ふさこう)、284是(これ)からあの宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)のした方(はう)を捜(さが)してみようぢやないか』
285房公(ふさこう)『どうも不思議(ふしぎ)だなア。286つい間近(まぢか)に聞(きこ)えた宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)、287斯(か)うして登(のぼ)つて来(き)た坂路(さかみち)を遠(とほ)く見(み)はらしてみても、288人(ひと)らしい影(かげ)は見(み)えない。289乍併(しかしながら)あの声(こゑ)は此(この)坂(さか)の下(した)から聞(きこ)えて来(き)た様(やう)だ。290不思議(ふしぎ)なことがあるものだなア。291確(たしか)に吾(わ)れは玉治別(たまはるわけの)司(かみ)と歌(うた)はれた様(やう)に聞(きこ)えたがなア』
292芳公(よしこう)『確(たしか)に俺(おれ)もさう聞(き)いた。293ヒヨツとしたら、294あの宣伝使(せんでんし)が最前(さいぜん)の蜂(はち)の巣(す)の下(した)で、295休息(きうそく)され、296あの猛烈(まうれつ)な青蜂(あをばち)に目(め)でもさされて、297苦(くるし)んで御座(ござ)るのだあろまいかな』
298房公(ふさこう)『ヨモヤそんなヘマなことはなさる気遣(きづか)ひもあるまい、299又(また)あれ丈(だけ)神力(しんりき)のある宣伝使(せんでんし)のことだから、300蜂(はち)の布(ひれ)も大蛇(をろち)のヒレも持(も)つて御座(ござ)るに違(ちがひ)ない。301そんな取越(とりこし)苦労(くらう)はせなくてもよからうぞよ』
302芳公(よしこう)『そうだらうかなア。303そんなら、304これからボツボツ此(この)坂(さか)を登(のぼ)ることとしよう。305黒姫(くろひめ)様(さま)も最前(さいぜん)の暴風雨(ばうふうう)で、306嘸(さぞ)お困(こま)りだらうから、307一(ひと)つ追(お)つついて御(ご)慰問(ゐもん)を申上(まをしあ)げねばなろまいぞ。308玉治別(たまはるわけ)の宣伝使(せんでんし)も、309或(あるひ)は此(この)坂(さか)の上(うへ)に御座(ござ)るのかも分(わか)らない。310風(かぜ)の吹(ふ)きまはしやら、311木谺(こだま)の反響(はんきやう)で、312下(した)の方(はう)から声(こゑ)がしたやうに聞(きこ)えたのだらうも知(し)れぬ。313サア行(ゆ)かう』
314と言(い)ひ乍(なが)ら、315両人(りやうにん)は金剛杖(こんがうづゑ)を力(ちから)に急坂(きふはん)を又(また)もや登(のぼ)り行(ゆ)く。316惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
317(大正一一・九・一二 旧七・二一 松村真澄録)
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