霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 筑紫(つくし)上陸(じやうりく)〔九四二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第1篇 筑紫の不知火 よみ(新仮名遣い):つくしのしらぬい
章:第1章 筑紫上陸 よみ(新仮名遣い):つくしじょうりく 通し章番号:942
口述日:1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫が高砂島に玉探しに行く前のこと、竜宮の一つ島から自転倒島に帰還した黒姫と高山彦は夫婦喧嘩の末、高山彦は姿を隠してしまった。黒姫は夫は筑紫の島に向かったものと思い込み、孫、房、芳の三人の従者を連れて筑紫の島に船出した。
一行は長い航海の末、建日の港に上陸した。ここはその昔、面那芸司や祝姫らが上陸した由緒ある港である。
黒姫は、黄金の玉を探しに行くというのは口実で、実際にはすでに玉への執着をほとんど脱却していた。ただ高山彦に衆人環視の中で縁切りされてその未練と執念から、老躯を駆ってまではるばると筑紫の島まで出てきたのであった。
孫公、房公、芳公は黒姫に甘言をもって連れ出されたが、黒姫の言動一致しないのを道中さんざん目撃し、黒姫への信頼はなく、ただただ早く高山彦を見つけ出して自転倒島に帰りたいという思いでいっぱいだった。
一行は港から山道に入って行った。三人は道中、黒姫を出しにして文句の掛け合いをしながら進んで行く。黒姫が、小島別が油を搾られた岩窟にさしかかるからと注意したが、黒姫の威厳は失墜しており、三人は何かと黒姫の粗を言い立てて反抗する。
黒姫は怒って叱りつけるが、孫公は軽口で返して笑いこける。孫公はその拍子に道端のとがった石に腰を打ち付け、真っ青な顔になって人事不省になってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-10 12:29:52 OBC :rm3401
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第6輯 365頁 修補版: 校定版:7頁 普及版:2頁 初版: ページ備考:
001黄金(こがね)(たま)所在(ありか)をば
002(さが)して四方(よも)彷徨(さまよ)ひし
003三五教(あななひけう)黒姫(くろひめ)
004(たま)(たい)する執着(しふちやく)
005(やうや)(はら)自転倒(おのころ)
006(かみ)御国(みくに)中心地(ちうしんち)
007(あや)聖地(せいち)立帰(たちかへ)
008(しばら)(わが)()(ひそ)みつつ
009麻邇(まに)宝珠(ほつしゆ)間違(まちが)ひに
010二世(にせ)(ちぎ)りし(わが)(つま)
011高山彦(たかやまひこ)衝突(しようとつ)
012離縁(りえん)(さわ)ぎが持上(もちあ)がり
013高山彦(たかやまひこ)聖地(せいち)より
014筑紫(つくし)(しま)()かむとて
015執念深(しふねんぶか)()きまとふ
016(つま)黒姫(くろひめ)振棄(ふりす)てて
017ドロンと姿(すがた)(かく)しける
018(こひ)しき(つま)()てられし
019黒姫(くろひめ)(いま)()(たて)
020(たま)らぬ(やう)になり()てて
021(たま)捜索(そうさく)第二(だいに)とし
022(つま)所在(ありか)(さぐ)らむと
023皺苦茶(しわくちや)だらけの中婆(ちうばば)
024心猿(しんゑん)意馬(いば)(あふ)られて
025万里(ばんり)波濤(はたう)打渡(うちわた)
026(こころ)(つく)()(つく)
027(いのち)(かぎ)筑紫潟(つくしがた)
028行方(ゆくへ)(たしか)不知火(しらぬひ)
029(うみ)(そこ)(まで)(さぐ)らむと
030(まご)(ふさ)(よし)(さん)(にん)
031(とも)(したが)由良(ゆら)(うみ)
032真帆(まほ)(はら)みて()(いだ)
033日本海(につぽんかい)をかけ(はな)
034太平洋(たいへいやう)横切(よこぎ)りて
035竜宮島(りうぐうじま)(おき)()
036印度(インド)(うみ)(みぎ)()
037筑紫(つくし)(しま)東岸(とうがん)
038(やうや)(わた)()きにけり。
039 此処(ここ)建日(たけひ)(みなと)()ひ、040(その)(むかし)()出神(でのかみ)041面那芸(つらなぎの)(かみ)042祝姫司(はふりひめのかみ)宣伝使(せんでんし)上陸(じやうりく)された由緒(ゆいしよ)(ふか)(みなと)なりけり。
043 黒姫(くろひめ)(さん)(にん)従者(じゆうしや)(とも)麻邇(まに)(たま)所在(ありか)や、044黄金(こがね)(たま)所在(ありか)捜索(そうさく)すると()ふは、045(ただ)(たん)表面(へうめん)理由(りいう)であつて、046(その)(じつ)(たま)(たい)しては、047(すで)執着心(しふちやくしん)(ほとん)脱却(だつきやく)してゐたのである。048(ただ)高山彦(たかやまひこ)衆人(しうじん)環視(くわんし)(まへ)にて夫婦(ふうふ)(えん)()られ、049(その)(はぢ)(すす)がむとする一念(いちねん)と、050高山彦(たかやまひこ)(たい)する未練(みれん)とが(ひと)つになりて、051心猿(しんゑん)意馬(いば)(たちま)(かしら)(もた)げ、052(この)老躯(らうく)()つて、053結構(けつこう)聖地(せいち)(あと)に、054(ふたた)()かる野蛮国(やばんこく)()れられて()られたのである。055黒姫(くろひめ)高山彦(たかやまひこ)仮令(たとへ)大蛇(をろち)還元(くわんげん)しようが、056(おに)にならうが、057(また)(いし)唐櫃(からひつ)(かく)れて()らうが、058(をんな)意地(いぢ)059どうしても一度(いちど)面会(めんくわい)して、060(こころ)(うづだか)(つも)れる鬱憤(うつぷん)(ちり)()らし、061都合(つがふ)()くば、062(ふたた)旧交(きうかう)(あたた)め、063夫婦(ふうふ)となり、064()()()つて聖地(せいち)(かへ)り、065高姫(たかひめ)(その)()面々(めんめん)に、066自分(じぶん)意地(いぢ)(この)(とほ)りと()せてやらねば、067(いま)(まで)(つく)して()尽力(じんりよく)()になる。068自分(じぶん)面目玉(めんぼくだま)丸潰(まるつぶ)れである……と(めう)(ところ)脱線(だつせん)して、069(こひ)()悪魔(あくま)(とり)ひしがれ、070(ほとん)半狂乱(はんきやうらん)(ごと)く、071()釣上(つりあが)り、072(ほほ)(やせ)こけ、073顔色(がんしよく)(あを)ざめ、074(じつ)物凄(ものすご)面相(めんさう)になつて()た。
075 (まご)076(ふさ)077(よし)(さん)(にん)は、078黒姫(くろひめ)色々(いろいろ)甘言(かんげん)(もつ)(あやつ)られ、079ここ(まで)()いては()たものの(べつ)宣伝(せんでん)目的(もくてき)もなければ(なん)(たのし)みもない、080(ただ)一日(ひとひ)(はや)高山彦(たかやまひこ)所在(ありか)(たづ)ねて、081黒姫(くろひめ)(とも)自転倒(おのころ)(じま)(かへ)りたいのが胸一杯(むねいつぱい)であつた。082黒姫(くろひめ)(また)宣伝使(せんでんし)()であり(なが)高山彦(たかやまひこ)捜索(そうさく)心魂(しんこん)(うば)はれ、083(ただ)一日(ひとひ)(はや)(つま)()はせ(たま)へと、084朝夕(あさゆふ)祈願(きぐわん)するのみで、085(みち)宣伝(せんでん)すると()(その)使命(しめい)(ほとん)忘却(ばうきやく)して()た。086老婆(らうば)(こひ)(くる)うた(くらゐ)始末(しまつ)()へぬものはない。087黒姫(くろひめ)(この)建日(たけひ)(みなと)()(まで)には幾度(いくど)となくあちらの(しま)()り、088此方(こちら)(しま)()り、089(きび)しい捜索(そうさく)をやつて()(ため)090余程(よほど)日子(につし)(つひ)やしてゐる。091(ほとん)(いち)(ねん)(ばか)(かか)つた。
092 さうして(ふね)二三回(にさんくわい)難破(なんぱ)し、093便宜(べんぎ)方法(はうはふ)にて(ふね)()つたり、094(ひろ)つたりし(なが)ら、095(やうや)くここへ辿(たど)()いたのである。096(その)(あひだ)には随分(ずゐぶん)背中(せなか)(はら)()へられないやうな憂目(うきめ)()天則(てんそく)違反(ゐはん)(てき)行動(かうどう)をも(つづ)け、097(しま)(つな)ぎありし、098何人(なにびと)かの(ふね)をソツと失敬(しつけい)して、099()つて()(こと)もあるのであつた。
100 (さん)(にん)従者(じゆうしや)黒姫(くろひめ)随従(ずゐじゆう)して(かへつ)宣伝使(せんでんし)として数多(あまた)黒姫(くろひめ)矛盾(むじゆん)目撃(もくげき)してゐるので、101聖地(せいち)()(とき)黒姫(くろひめ)(たい)する信用(しんよう)と、102(いま)黒姫(くろひめ)(たい)する態度(たいど)とは、103ガラツと(かは)つてゐる。104黒姫(くろひめ)(えう)するに(くち)(ばか)りの人間(にんげん)で、105(おこな)ひの(ともな)はざる執念深(しふねんぶか)悪垂(あくた)(ばば)アと()観念(かんねん)106(さん)(にん)(むね)()せずして(きざ)してゐる。107それ(ゆゑ)()()うて黒姫(くろひめ)軽蔑(けいべつ)し、108(いま)容易(ようい)黒姫(くろひめ)命令(めいれい)(ふく)しない(やう)になつて()る。109のみならず(かへつ)(こと)()(もの)(せつ)し、110からかつて()ては、111黒姫(くろひめ)喜怒(きど)哀楽(あいらく)112愛悪欲(あいおよく)面部(めんぶ)(いろ)(あら)はるるを()て、113せめてもの(たび)(なぐさ)みとしてゐた(くらゐ)である。114(しか)(なが)()()けた(ふね)115途中(とちう)引返(ひきかへ)(わけ)にも()かず、116幾分(いくぶん)(かみ)(さま)(をしへ)(さん)(にん)(とも)(はら)()(わた)つてゐるお(かげ)で、117太平洋(たいへいやう)()(なか)()時分(じぶん)から、118(さん)(にん)はヒソビソと(ささや)()ひ、119一層(いつそう)(こと)黒姫(くろひめ)(うみ)(なか)(ほう)()んで、120素知(そし)らぬ(かほ)自転倒(おのころ)(じま)(かへ)らうかと(まで)121孫公(まごこう)発起(ほつき)相談(さうだん)した(こと)もあつた。122されどそんな無茶(むちや)(こと)をすれば、123(たちま)天則(てんそく)違反(ゐはん)大罪(だいざい)(かさ)ね、124如何(いか)なる厳罰(げんばつ)神界(しんかい)から(しよ)せらるるやも(はか)(がた)しと、125直日(なほひ)(たま)(ひらめ)きに見直(みなほ)()(なほ)し、126厭々(いやいや)(なが)ら、127万里(ばんり)波濤(はたう)艱難(かんなん)辛苦(しんく)してここ(まで)()いて()たのである。
128 黒姫(くろひめ)一行(いつかう)(ふね)()りすて、129建日(たけひ)(みなと)上陸(じやうりく)し、130激潭(げきたん)飛沫(ひまつ)渓流(けいりう)(さかのぼ)り、131四方(よも)風景(ふうけい)(なが)(なが)ら、132(くさ)()けて(ほそ)谷道(たにみち)(のぼ)つて()く。133比較(ひかく)(てき)人通(ひとどほ)りが(おほ)いと()えて、134羊腸(やうちやう)小径(こみち)九十九(つくも)(をり)(しろ)(ひか)つて()る。
135孫公(まごこう)黒姫(くろひめ)さまのお(かげ)で、136(おも)はぬ絶景(ぜつけい)()せて(もら)ひました。137際限(さいげん)もなき海原(うなばら)()()りつけられ、138汐風(しほかぜ)()らされ、139(あめ)()てられ、140(まる)渋紙(しぶがみ)さまの(やう)になつて(しま)つた。141黒姫(くろひめ)さまは(もと)から(からす)(やう)()(かた)だから、142(あま)目立(めだ)たぬが、143(おれ)(たち)自転倒(おのころ)(じま)(かへ)つて、144(うち)のお(やす)(この)(つら)()せようものなら、145どれ(だけ)(くや)むであらう。146それを(おも)へば残念(ざんねん)(たま)らぬワイ。147(これ)()ふも、148(もと)(ただ)せば黒姫(くろひめ)さまが、149(あま)りハズバンドに(たま)()かれて()るものだから、150こんな結果(けつくわ)になつて(しま)つたのだ……なア芳公(よしこう)151房公(ふさこう)152(まへ)(かほ)随分(ずゐぶん)(くろ)くなつたよ。153貴様(きさま)とこのお(たき)やお(てつ)が、154さぞ(くや)(こと)だらう。155(いま)から(おも)ひやられて、156可哀相(かはいさう)なワイ』
157芳公(よしこう)『ナアニ、158(おれ)(とこ)のお(たき)房公(ふさこう)(とこ)のお(てつ)も、159(もと)より覚悟(かくご)して()(はず)だ。160(たき)(やつ)161(おれ)()(とき)に、162名残(なごり)(をし)さうに、163(おれ)背中(せなか)をポンと(たた)きやがつて……コレコレこちの(ひと)164(まへ)さまは黒姫(くろひめ)さまのお(とも)()くのだから、165(かほ)(いろ)(まで)黒姫(くろひめ)さまの感化(かんくわ)()けて()なあきませぬぞえ。166(こころ)(なか)(まで)(くろ)うなつて()なさいと(ほざ)きやがつた。167けれど(おれ)(こころ)(なか)(だけ)真平(まつぴら)御免(ごめん)だ。168アハヽヽヽ』
169孫公(まごこう)(こころ)(なか)(まで)貴様(きさま)(かか)が、170黒姫(くろひめ)さまのやうに(くろ)くなつて()いと()うたのは(ひと)つの(なぞ)だよ。171貴様(きさま)何時(いつ)(はし)まめな(やつ)だから、172(あさ)から(ばん)(まで)(たき)二人(ふたり)が、173(いぬ)()はぬ悋気(りんき)喧嘩(げんくわ)(ばか)りやつて、174生疵(なまきず)絶間(たえま)なし、175近所(きんじよ)合壁(がつぺき)迷惑(めいわく)をかけた代物(しろもの)だ。176それだから黒姫(くろひめ)さまが高山彦(たかやまひこ)(した)(やう)に、177(この)(たき)一心(いつしん)になれ、178さうしてお(たき)(ため)には仮令(たとへ)(せん)()万里(ばんり)山坂(やまさか)()えても、179(あへ)(いと)はぬと()熱心(ねつしん)(なさけ)(ふか)(をとこ)になつて()なさい、180黒姫(くろひめ)さまの貞節(ていせつ)(まな)んで、181それを(わたし)にソツクリ(その)(まま)(おこな)うて()れ……と()(むし)()(なぞ)だ。182貴様(きさま)(かか)アも中々(なかなか)行手(やりて)だ。183余程(よほど)貴様(きさま)とは智慧(ちゑ)(すぐ)れて()るワイ。184アハヽヽヽ』
185芳公(よしこう)(おれ)やモウそんな(こと)()くと、186女房(にようばう)(こひ)しうなつて()た。187(つばさ)でもあれば、188(この)(まま)()つて(かへ)りたいのだがなア』
189孫公(まごこう)(なん)()つても()うなりや、190モウ仕方(しかた)がない。191黒姫(くろひめ)泥棒(どろばう)乾児(こぶん)になつたやうなものだから、192(どく)()はば(さら)まで(ねぶ)れだ。193()(かく)高山彦(たかやまひこ)のハズバンドに出会()あうて、194ヤイノヤイノの乱痴気(らんちき)(さわ)ぎを一幕(ひとまく)二幕(ふたまく)()せて(もら)ひ、195(その)(あと)には吾々(われわれ)居中(きよちう)調停(てうてい)(らう)()り、196夫婦(ふうふ)機会(きくわい)均等(きんとう)主義(しゆぎ)発揮(はつき)して、197目出(めで)たく自転倒(おのころ)(じま)凱旋(がいせん)(あそ)ばす(まで)は、198(はな)れる(こと)出来(でき)ない因縁(いんねん)がまつはつてゐるのだ。199(いま)ヤツと建日(たけひ)(みなと)()いた(ばか)りだ。200今頃(いまごろ)望郷(ばうきやう)(ねん)()られては駄目(だめ)だぞ。201自転倒(おのころ)(じま)人間(にんげん)何時(いつ)望郷心(ばうきやうしん)(つよ)いから大事業(だいじげふ)到底(たうてい)成功(せいこう)出来(でき)ないのだ。202()うなつた以上(いじやう)は、203(かか)一人(ひとり)二人(ふたり)()うでも()いぢやないか。204都合(つがふ)()ければ(この)筑紫島(つくしじま)永住(ゑいぢう)して大事業(だいじげふ)(おこ)し、205一生(いつしやう)自転倒(おのころ)(じま)へは(かへ)らないと()決心(けつしん)肝腎(かんじん)だ』
206芳公(よしこう)『お(まへ)女房(にようばう)のお(やす)を、207(はじ)めから(きら)つて()るのだから、208自転倒(おのころ)(じま)未練(みれん)はなからう。209(おれ)はあれ(だけ)親切(しんせつ)な、210惚切(ほれき)つた女房(にようばう)が、211膝坊主(ひざばうず)()いて(おれ)(かへ)るのを、212(いま)(いま)かと(かみ)(さま)(ぐわん)かけて()つてるのだから、213そんな無情(むじやう)(こと)出来(でき)ない。214(いち)(にち)(はや)(かへ)つて、215女房(にようばう)(よろこ)(かほ)()るのが(おれ)唯一(ゆゐいつ)(たのし)みだ。216()(なか)夫婦(ふうふ)(くらゐ)大切(たいせつ)なものはない。217何程(なにほど)こんな(ところ)成功(せいこう)をしたと()つても、218女房(にようばう)()一生(いつしやう)あはれぬやうな(ところ)で、219(なに)面白(おもしろ)い』
220孫公(まごこう)『アハヽヽヽ、221毎日(まいにち)日日(ひにち)あれ(だけ)(にく)(さう)()うて喧嘩(けんくわ)をし(なが)ら、222矢張(やつぱり)あんなやん茶嬶(ちやかか)(こひ)しいのか。223(こひ)といふものは(わか)らぬものだなア』
224房公(ふさこう)『ソリヤ(その)(はず)だ。225黒姫(くろひめ)さまでさへも、226()うと()まぬが、227夕日(ゆふひ)影干(かげぼ)しのやうな無恰好(ぶかつかう)禿頭(はげあたま)(おやぢ)を、228こんな(ところ)(まで)はるばる(たづ)ねて()やつしやるのだもの、229(をつと)女房(にようばう)(した)ふのは当然(あたりまへ)だ。230(おれ)(とこ)のお(てつ)でもそれはそれは親切(しんせつ)なものだよ。231孫公(まごこう)(とこ)のお(やす)は、232(あま)親切(しんせつ)にないのは、233つまり孫公(まごこう)(わる)いのだ。234(をんな)()ふものは、235(をとこ)(はう)から親切(しんせつ)真心(まごころ)(もつ)可愛(かあい)がつてやれば、236どうでもなるものだ。237貴様(きさま)(やう)に、238女房(にようばう)(いへ)道具(だうぐ)だとか、239器械(きかい)だとか、240産児機(さんじき)だとか()つて、241虐待(ぎやくたい)するやうな(こと)では、242()つかちの女房(にようばう)だつて、243(をつと)親身(しんみ)になつて(おも)つては()れないよ。244チツと黒姫(くろひめ)さまに(なら)つて、245(まへ)女房(にようばう)大切(たいせつ)にしたら如何(どう)だい。246こんな遠方(ゑんぱう)(まで)()土産(みやげ)として、247女房(にようばう)(たい)する親切(しんせつ)益々(ますます)濃厚(のうこう)()(なほ)して(かへ)るが、248(なに)よりの女房(にようばう)への土産(みやげ)だよ……なア黒姫(くろひめ)さま……』
249(した)をニユツと()し、250(あご)をつき()して、251(やや)嘲弄(てうろう)(てき)()(そそ)ぐ。252黒姫(くろひめ)(はじ)めて(くち)(ひら)き、
253黒姫(くろひめ)『お(まへ)さま(たち)(さん)(にん)自転倒(おのころ)(じま)()(とき)は、254随分(ずゐぶん)誠実(せいじつ)熱心(ねつしん)信者(しんじや)であつた。255それが如何(どう)したものか、256一日(いちにち)々々(いちにち)(まこと)がうすらぎ、257(つひ)には(わたし)(まで)258軽侮(けいぶ)()(もつ)()るやうになつたぢやないか。259(なん)(ため)にお(まへ)さまは遥々(はるばる)修業(しうげふ)()()たのだい。260これから(さき)建日別(たけひわけの)(みこと)(むかし)(あぶら)()られた筑紫峠(つくしたうげ)谷間(たにあひ)岩窟(がんくつ)があるから、261(いま)(うち)(こころ)(なほ)しておかぬと、262(むかし)小島別(こじまわけ)のやうに(あぶら)をとられて、263ヘトヘトになりますぞえ。264(いま)(うち)改心(かいしん)をしなされ』
265孫公(まごこう)『アハヽヽヽ黒姫(くろひめ)さま、266改心(かいしん)する(ひと)吾々(われわれ)(さん)(にん)(ばか)りですか? まだ(ほか)一人(ひとり)267第一(だいいち)改心(かいしん)をせなくてはならぬ(ばば)んつがある(こと)をお(わす)れになりましたか?』
268黒姫(くろひめ)改心(かいしん)()つた(もの)が、269()うして改心(かいしん)する余地(よち)がありませうか。270(まへ)さまは(この)黒姫(くろひめ)(おこな)ひを()なさつたら、271大抵(たいてい)(わか)るだらう』
272孫公(まごこう)惟神(かむながら)だ、273(てん)(あた)へだ……と()つて、274(ひと)(ふね)(だま)つてチヨロまかし、275それに()つて()るのが(まこと)ですか。276あんな(こと)が、277改心(かいしん)()つた(ひと)(おこな)ひとすれば、278吾々(われわれ)よりも泥棒(どろばう)(はう)余程(よほど)改心(かいしん)しとるぢやありませぬか』
279黒姫(くろひめ)『エヽ、280ツベコベと小理屈(こりくつ)()ひなさんな。281途中(とちう)(ふね)(やぶ)れて、282進退(しんたい)これ(きは)まつた(とき)に、283(ぬし)のない(ふね)がそこへ(なが)れて()たのは、284所謂(いはゆる)(てん)(あた)へだよ。285(ことわざ)にも(てん)(あた)ふるを()らざれば、286(わざはひ)(かへつ)()(およ)ぶと()(こと)があるぢやないか。287(かみ)人間(にんげん)になくてならぬものを(あた)(たま)ふと()聖者(せいじや)(をしへ)がある。288(ふね)一艘(いつそう)大切(たいせつ)か、289吾々(われわれ)()(にん)生命(いのち)大切(たいせつ)か、290()(こと)軽重(けいちよう)大小(だいせう)(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。291()(のぞ)(へん)(おう)ずるは、292(すなは)惟神(かむながら)大道(だいだう)だよ。293こんな(こと)(わか)らぬ(やう)(こと)で、294()うお(まへ)さまも、295三五教(あななひけう)信者(しんじや)ぢや、296宣伝使(せんでんし)(たまご)ぢやと()つて、297こんな(ところ)(まで)()いて()ましたな、298オツホヽヽヽ』
299孫公(まごこう)(あき)れて(もの)()へませぬワイ。300(しか)(なが)ら、301(まへ)さまが(をつと)(ため)には大切(たいせつ)神務(しんむ)(わす)れ、302宣伝(せんでん)(つぎ)にし、303あれ(ほど)気違(きちがひ)のやうになつて()つた黄金(こがね)(たま)(こと)をケロリと(わす)れて、304大勢(おほぜい)(まへ)肱鉄砲(ひぢでつぱう)をかましてくれた高山彦(たかやまひこ)さまを(した)(その)貞節(ていせつ)には(じつ)感心(かんしん)だ。305(おほい)(まな)ぶべき(てん)オホアリ大根(だいこん)だ。306アハヽヽヽ、307オホヽヽヽ、308ウツフヽヽヽ、309エヘヽヽヽ、310イヒヽヽヽ』
311黒姫(くろひめ)『コレ孫公(まごこう)312(まへ)(この)年老(としより)嘲弄(てうろう)するのかい』
313孫公(まごこう)岩屋(いはや)(かみ)さまがソロソロ孫公(まごこう)さまに(うつ)つて、314言霊(ことたま)(はじ)めかけたのだよ。315ウフヽヽヽ』
316(わら)ひこける。317途端(とたん)路傍(みちばた)(とが)つた(いし)(こし)(うち)つけ『アイタタ』と()つたきり、318真青(まつさを)(いろ)になり、319(かほ)をしかめ、320()(ふさ)いで、321人事(じんじ)不省(ふせい)になつて(しま)つた。
322大正一一・九・一二 旧七・二一 松村真澄録)
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