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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第34巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 筑紫の不知火
第1章 筑紫上陸
第2章 孫甦
第3章 障文句
第4章 歌垣
第5章 対歌
第6章 蜂の巣
第7章 無花果
第8章 暴風雨
第2篇 有情無情
第9章 玉の黒点
第10章 空縁
第11章 富士咲
第12章 漆山
第13章 行進歌
第14章 落胆
第15章 手長猿
第16章 楽天主義
第3篇 峠の達引
第17章 向日峠
第18章 三人塚
第19章 生命の親
第20章 玉卜
第21章 神護
第22章 蛙の口
第23章 動静
余白歌
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(B)
(N)
孫甦 >>>
第一章
筑紫
(
つくし
)
上陸
(
じやうりく
)
〔九四二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
篇:
第1篇 筑紫の不知火
よみ(新仮名遣い):
つくしのしらぬい
章:
第1章 筑紫上陸
よみ(新仮名遣い):
つくしじょうりく
通し章番号:
942
口述日:
1922(大正11)年09月12日(旧07月21日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫が高砂島に玉探しに行く前のこと、竜宮の一つ島から自転倒島に帰還した黒姫と高山彦は夫婦喧嘩の末、高山彦は姿を隠してしまった。黒姫は夫は筑紫の島に向かったものと思い込み、孫、房、芳の三人の従者を連れて筑紫の島に船出した。
一行は長い航海の末、建日の港に上陸した。ここはその昔、面那芸司や祝姫らが上陸した由緒ある港である。
黒姫は、黄金の玉を探しに行くというのは口実で、実際にはすでに玉への執着をほとんど脱却していた。ただ高山彦に衆人環視の中で縁切りされてその未練と執念から、老躯を駆ってまではるばると筑紫の島まで出てきたのであった。
孫公、房公、芳公は黒姫に甘言をもって連れ出されたが、黒姫の言動一致しないのを道中さんざん目撃し、黒姫への信頼はなく、ただただ早く高山彦を見つけ出して自転倒島に帰りたいという思いでいっぱいだった。
一行は港から山道に入って行った。三人は道中、黒姫を出しにして文句の掛け合いをしながら進んで行く。黒姫が、小島別が油を搾られた岩窟にさしかかるからと注意したが、黒姫の威厳は失墜しており、三人は何かと黒姫の粗を言い立てて反抗する。
黒姫は怒って叱りつけるが、孫公は軽口で返して笑いこける。孫公はその拍子に道端のとがった石に腰を打ち付け、真っ青な顔になって人事不省になってしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-09-10 12:29:52
OBC :
rm3401
愛善世界社版:
7頁
八幡書店版:
第6輯 365頁
修補版:
校定版:
7頁
普及版:
2頁
初版:
ページ備考:
001
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
をば
002
捜
(
さが
)
して
四方
(
よも
)
を
彷徨
(
さまよ
)
ひし
003
三五教
(
あななひけう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
は
004
玉
(
たま
)
に
対
(
たい
)
する
執着
(
しふちやく
)
を
005
漸
(
やうや
)
く
払
(
はら
)
ひ
自転倒
(
おのころ
)
の
006
神
(
かみ
)
の
御国
(
みくに
)
の
中心地
(
ちうしんち
)
007
綾
(
あや
)
の
聖地
(
せいち
)
に
立帰
(
たちかへ
)
り
008
暫
(
しばら
)
く
吾
(
わが
)
家
(
や
)
に
潜
(
ひそ
)
みつつ
009
麻邇
(
まに
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
間違
(
まちが
)
ひに
010
二世
(
にせ
)
を
契
(
ちぎ
)
りし
吾
(
わが
)
夫
(
つま
)
の
011
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
衝突
(
しようとつ
)
し
012
離縁
(
りえん
)
騒
(
さわ
)
ぎが
持上
(
もちあ
)
がり
013
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
聖地
(
せいち
)
より
014
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
へ
行
(
ゆ
)
かむとて
015
執念深
(
しふねんぶか
)
く
付
(
つ
)
きまとふ
016
妻
(
つま
)
黒姫
(
くろひめ
)
を
振棄
(
ふりす
)
てて
017
ドロンと
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しける
018
恋
(
こひ
)
しき
夫
(
つま
)
に
捨
(
す
)
てられし
019
黒姫
(
くろひめ
)
今
(
いま
)
は
矢
(
や
)
も
楯
(
たて
)
も
020
堪
(
たま
)
らぬ
様
(
やう
)
になり
果
(
は
)
てて
021
玉
(
たま
)
の
捜索
(
そうさく
)
第二
(
だいに
)
とし
022
夫
(
つま
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さぐ
)
らむと
023
皺苦茶
(
しわくちや
)
だらけの
中婆
(
ちうばば
)
が
024
心猿
(
しんゑん
)
意馬
(
いば
)
に
煽
(
あふ
)
られて
025
万里
(
ばんり
)
の
波濤
(
はたう
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
026
心
(
こころ
)
を
尽
(
つく
)
し
身
(
み
)
を
尽
(
つく
)
し
027
命
(
いのち
)
の
限
(
かぎ
)
り
筑紫潟
(
つくしがた
)
028
行方
(
ゆくへ
)
は
確
(
たしか
)
に
不知火
(
しらぬひ
)
の
029
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
迄
(
まで
)
探
(
さぐ
)
らむと
030
孫
(
まご
)
、
房
(
ふさ
)
、
芳
(
よし
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
031
伴
(
とも
)
に
従
(
したが
)
へ
由良
(
ゆら
)
の
海
(
うみ
)
032
真帆
(
まほ
)
を
孕
(
はら
)
みて
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
いだ
)
す
033
日本海
(
につぽんかい
)
をかけ
離
(
はな
)
れ
034
太平洋
(
たいへいやう
)
を
横切
(
よこぎ
)
りて
035
竜宮島
(
りうぐうじま
)
の
沖
(
おき
)
を
越
(
こ
)
え
036
印度
(
インド
)
の
洋
(
うみ
)
を
右
(
みぎ
)
に
見
(
み
)
て
037
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
の
東岸
(
とうがん
)
に
038
漸
(
やうや
)
く
渡
(
わた
)
り
着
(
つ
)
きにけり。
039
此処
(
ここ
)
は
建日
(
たけひ
)
の
港
(
みなと
)
と
言
(
い
)
ひ、
040
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
、
041
面那芸
(
つらなぎの
)
司
(
かみ
)
、
042
祝姫司
(
はふりひめのかみ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
上陸
(
じやうりく
)
された
由緒
(
ゆいしよ
)
深
(
ふか
)
き
港
(
みなと
)
なりけり。
043
黒姫
(
くろひめ
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
従者
(
じゆうしや
)
と
共
(
とも
)
に
麻邇
(
まに
)
の
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
や、
044
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
捜索
(
そうさく
)
すると
云
(
い
)
ふは、
045
只
(
ただ
)
単
(
たん
)
に
表面
(
へうめん
)
の
理由
(
りいう
)
であつて、
046
其
(
その
)
実
(
じつ
)
玉
(
たま
)
に
対
(
たい
)
しては、
047
既
(
すで
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
を
殆
(
ほとん
)
ど
脱却
(
だつきやく
)
してゐたのである。
048
只
(
ただ
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
に
衆人
(
しうじん
)
環視
(
くわんし
)
の
前
(
まへ
)
にて
夫婦
(
ふうふ
)
の
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
られ、
049
其
(
その
)
恥
(
はぢ
)
を
雪
(
すす
)
がむとする
一念
(
いちねん
)
と、
050
高山彦
(
たかやまひこ
)
に
対
(
たい
)
する
未練
(
みれん
)
とが
一
(
ひと
)
つになりて、
051
心猿
(
しんゑん
)
意馬
(
いば
)
は
忽
(
たちま
)
ち
頭
(
かしら
)
を
擡
(
もた
)
げ、
052
此
(
この
)
老躯
(
らうく
)
を
駆
(
か
)
つて、
053
結構
(
けつこう
)
な
聖地
(
せいち
)
を
後
(
あと
)
に、
054
再
(
ふたた
)
び
斯
(
か
)
かる
野蛮国
(
やばんこく
)
へ
連
(
つ
)
れられて
来
(
こ
)
られたのである。
055
黒姫
(
くろひめ
)
は
高山彦
(
たかやまひこ
)
が
仮令
(
たとへ
)
大蛇
(
をろち
)
に
還元
(
くわんげん
)
しようが、
056
鬼
(
おに
)
にならうが、
057
又
(
また
)
は
石
(
いし
)
の
唐櫃
(
からひつ
)
に
隠
(
かく
)
れて
居
(
を
)
らうが、
058
女
(
をんな
)
の
意地
(
いぢ
)
、
059
どうしても
一度
(
いちど
)
面会
(
めんくわい
)
して、
060
心
(
こころ
)
に
堆
(
うづだか
)
く
積
(
つも
)
れる
鬱憤
(
うつぷん
)
の
塵
(
ちり
)
を
晴
(
は
)
らし、
061
都合
(
つがふ
)
好
(
よ
)
くば、
062
再
(
ふたた
)
び
旧交
(
きうかう
)
を
温
(
あたた
)
め、
063
夫婦
(
ふうふ
)
となり、
064
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
聖地
(
せいち
)
に
帰
(
かへ
)
り、
065
高姫
(
たかひめ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
面々
(
めんめん
)
に、
066
自分
(
じぶん
)
の
意地
(
いぢ
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りと
見
(
み
)
せてやらねば、
067
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
尽
(
つく
)
して
来
(
き
)
た
尽力
(
じんりよく
)
が
無
(
む
)
になる。
068
自分
(
じぶん
)
の
面目玉
(
めんぼくだま
)
は
丸潰
(
まるつぶ
)
れである……と
妙
(
めう
)
な
所
(
ところ
)
へ
脱線
(
だつせん
)
して、
069
恋
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふ
悪魔
(
あくま
)
に
取
(
とり
)
ひしがれ、
070
殆
(
ほとん
)
ど
半狂乱
(
はんきやうらん
)
の
如
(
ごと
)
く、
071
目
(
め
)
は
釣上
(
つりあが
)
り、
072
頬
(
ほほ
)
は
痩
(
やせ
)
こけ、
073
顔色
(
がんしよく
)
青
(
あを
)
ざめ、
074
実
(
じつ
)
に
物凄
(
ものすご
)
い
面相
(
めんさう
)
になつて
居
(
ゐ
)
た。
075
孫
(
まご
)
、
076
房
(
ふさ
)
、
077
芳
(
よし
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
078
黒姫
(
くろひめ
)
に
色々
(
いろいろ
)
と
甘言
(
かんげん
)
を
以
(
もつ
)
て
操
(
あやつ
)
られ、
079
ここ
迄
(
まで
)
従
(
つ
)
いては
来
(
き
)
たものの
別
(
べつ
)
に
宣伝
(
せんでん
)
の
目的
(
もくてき
)
もなければ
何
(
なん
)
の
楽
(
たのし
)
みもない、
080
只
(
ただ
)
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
たづ
)
ねて、
081
黒姫
(
くろひめ
)
と
共
(
とも
)
に
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
帰
(
かへ
)
りたいのが
胸一杯
(
むねいつぱい
)
であつた。
082
黒姫
(
くろひめ
)
も
亦
(
また
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
身
(
み
)
であり
乍
(
なが
)
ら
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
捜索
(
そうさく
)
に
心魂
(
しんこん
)
を
奪
(
うば
)
はれ、
083
只
(
ただ
)
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
夫
(
つま
)
に
会
(
あ
)
はせ
給
(
たま
)
へと、
084
朝夕
(
あさゆふ
)
祈願
(
きぐわん
)
するのみで、
085
道
(
みち
)
を
宣伝
(
せんでん
)
すると
云
(
い
)
ふ
其
(
その
)
使命
(
しめい
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
忘却
(
ばうきやく
)
して
居
(
ゐ
)
た。
086
老婆
(
らうば
)
の
恋
(
こひ
)
に
狂
(
くる
)
うた
位
(
くらゐ
)
始末
(
しまつ
)
に
了
(
を
)
へぬものはない。
087
黒姫
(
くろひめ
)
が
此
(
この
)
建日
(
たけひ
)
の
港
(
みなと
)
に
着
(
つ
)
く
迄
(
まで
)
には
幾度
(
いくど
)
となくあちらの
島
(
しま
)
へ
寄
(
よ
)
り、
088
此方
(
こちら
)
の
島
(
しま
)
へ
寄
(
よ
)
り、
089
厳
(
きび
)
しい
捜索
(
そうさく
)
をやつて
居
(
ゐ
)
た
為
(
ため
)
、
090
余程
(
よほど
)
日子
(
につし
)
を
費
(
つひ
)
やしてゐる。
091
殆
(
ほとん
)
ど
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
り
掛
(
かか
)
つた。
092
さうして
船
(
ふね
)
は
二三回
(
にさんくわい
)
難破
(
なんぱ
)
し、
093
便宜
(
べんぎ
)
の
方法
(
はうはふ
)
にて
舟
(
ふね
)
を
買
(
か
)
つたり、
094
拾
(
ひろ
)
つたりし
乍
(
なが
)
ら、
095
漸
(
やうや
)
くここへ
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いたのである。
096
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
には
随分
(
ずゐぶん
)
背中
(
せなか
)
に
腹
(
はら
)
の
替
(
か
)
へられないやうな
憂目
(
うきめ
)
に
遭
(
あ
)
ひ
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
的
(
てき
)
行動
(
かうどう
)
をも
続
(
つづ
)
け、
097
島
(
しま
)
に
繋
(
つな
)
ぎありし、
098
何人
(
なにびと
)
かの
舟
(
ふね
)
をソツと
失敬
(
しつけい
)
して、
099
乗
(
の
)
つて
来
(
き
)
た
事
(
こと
)
もあるのであつた。
100
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
従者
(
じゆうしや
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
に
随従
(
ずゐじゆう
)
して
却
(
かへつ
)
て
宣伝使
(
せんでんし
)
として
数多
(
あまた
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
の
矛盾
(
むじゆん
)
を
目撃
(
もくげき
)
してゐるので、
101
聖地
(
せいち
)
を
出
(
で
)
た
時
(
とき
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
に
対
(
たい
)
する
信用
(
しんよう
)
と、
102
今
(
いま
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
に
対
(
たい
)
する
態度
(
たいど
)
とは、
103
ガラツと
変
(
かは
)
つてゐる。
104
黒姫
(
くろひめ
)
は
要
(
えう
)
するに
口
(
くち
)
計
(
ばか
)
りの
人間
(
にんげん
)
で、
105
行
(
おこな
)
ひの
伴
(
ともな
)
はざる
執念深
(
しふねんぶか
)
き
悪垂
(
あくた
)
れ
婆
(
ばば
)
アと
云
(
い
)
ふ
観念
(
かんねん
)
、
106
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
胸
(
むね
)
に
期
(
き
)
せずして
兆
(
きざ
)
してゐる。
107
それ
故
(
ゆゑ
)
日
(
ひ
)
を
逐
(
お
)
うて
黒姫
(
くろひめ
)
を
軽蔑
(
けいべつ
)
し、
108
今
(
いま
)
は
容易
(
ようい
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
の
命令
(
めいれい
)
に
服
(
ふく
)
しない
様
(
やう
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
109
のみならず
却
(
かへつ
)
て
事
(
こと
)
に
触
(
ふ
)
れ
物
(
もの
)
に
接
(
せつ
)
し、
110
からかつて
見
(
み
)
ては、
111
黒姫
(
くろひめ
)
が
喜怒
(
きど
)
哀楽
(
あいらく
)
、
112
愛悪欲
(
あいおよく
)
の
面部
(
めんぶ
)
の
色
(
いろ
)
に
現
(
あら
)
はるるを
見
(
み
)
て、
113
せめてもの
旅
(
たび
)
の
慰
(
なぐさ
)
みとしてゐた
位
(
くらゐ
)
である。
114
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
乗
(
の
)
り
掛
(
か
)
けた
舟
(
ふね
)
、
115
途中
(
とちう
)
に
引返
(
ひきかへ
)
す
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
116
幾分
(
いくぶん
)
か
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
腹
(
はら
)
に
浸
(
し
)
み
渡
(
わた
)
つてゐるお
蔭
(
かげ
)
で、
117
太平洋
(
たいへいやう
)
の
真
(
ま
)
ん
中
(
なか
)
へ
出
(
で
)
た
時分
(
じぶん
)
から、
118
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はヒソビソと
囁
(
ささや
)
き
合
(
あ
)
ひ、
119
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
黒姫
(
くろひめ
)
を
海
(
うみ
)
の
中
(
なか
)
へ
放
(
ほう
)
り
込
(
こ
)
んで、
120
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
で
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
帰
(
かへ
)
らうかと
迄
(
まで
)
、
121
孫公
(
まごこう
)
が
発起
(
ほつき
)
で
相談
(
さうだん
)
した
事
(
こと
)
もあつた。
122
されどそんな
無茶
(
むちや
)
な
事
(
こと
)
をすれば、
123
忽
(
たちま
)
ち
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
の
大罪
(
だいざい
)
を
重
(
かさ
)
ね、
124
如何
(
いか
)
なる
厳罰
(
げんばつ
)
に
神界
(
しんかい
)
から
処
(
しよ
)
せらるるやも
計
(
はか
)
り
難
(
がた
)
しと、
125
直日
(
なほひ
)
の
魂
(
たま
)
の
閃
(
ひらめ
)
きに
見直
(
みなほ
)
し
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し、
126
厭々
(
いやいや
)
乍
(
なが
)
ら、
127
万里
(
ばんり
)
の
波濤
(
はたう
)
を
艱難
(
かんなん
)
辛苦
(
しんく
)
してここ
迄
(
まで
)
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たのである。
128
黒姫
(
くろひめ
)
一行
(
いつかう
)
は
舟
(
ふね
)
を
乗
(
の
)
りすて、
129
建日
(
たけひ
)
の
港
(
みなと
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し、
130
激潭
(
げきたん
)
飛沫
(
ひまつ
)
の
渓流
(
けいりう
)
を
遡
(
さかのぼ
)
り、
131
四方
(
よも
)
の
風景
(
ふうけい
)
を
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら、
132
草
(
くさ
)
を
分
(
わ
)
けて
細
(
ほそ
)
き
谷道
(
たにみち
)
を
登
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
133
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
人通
(
ひとどほ
)
りが
多
(
おほ
)
いと
見
(
み
)
えて、
134
羊腸
(
やうちやう
)
の
小径
(
こみち
)
が
九十九
(
つくも
)
折
(
をり
)
に
白
(
しろ
)
く
光
(
ひか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
135
孫公
(
まごこう
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さまのお
蔭
(
かげ
)
で、
136
思
(
おも
)
はぬ
絶景
(
ぜつけい
)
を
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
ひました。
137
際限
(
さいげん
)
もなき
海原
(
うなばら
)
を
日
(
ひ
)
に
照
(
て
)
りつけられ、
138
汐風
(
しほかぜ
)
に
晒
(
さ
)
らされ、
139
雨
(
あめ
)
に
当
(
あ
)
てられ、
140
丸
(
まる
)
で
渋紙
(
しぶがみ
)
さまの
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
141
黒姫
(
くろひめ
)
さまは
元
(
もと
)
から
烏
(
からす
)
の
様
(
やう
)
な
御
(
お
)
方
(
かた
)
だから、
142
余
(
あま
)
り
目立
(
めだ
)
たぬが、
143
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
帰
(
かへ
)
つて、
144
宅
(
うち
)
のお
安
(
やす
)
に
此
(
この
)
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
せようものなら、
145
どれ
丈
(
だけ
)
悔
(
くや
)
むであらう。
146
それを
思
(
おも
)
へば
残念
(
ざんねん
)
で
堪
(
たま
)
らぬワイ。
147
是
(
これ
)
と
云
(
い
)
ふも、
148
元
(
もと
)
を
糺
(
ただ
)
せば
黒姫
(
くろひめ
)
さまが、
149
余
(
あま
)
りハズバンドに
魂
(
たま
)
を
抜
(
ぬ
)
かれて
居
(
を
)
るものだから、
150
こんな
結果
(
けつくわ
)
になつて
了
(
しま
)
つたのだ……なア
芳公
(
よしこう
)
、
151
房公
(
ふさこう
)
、
152
お
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
も
随分
(
ずゐぶん
)
黒
(
くろ
)
くなつたよ。
153
貴様
(
きさま
)
とこのお
滝
(
たき
)
やお
鉄
(
てつ
)
が、
154
さぞ
悔
(
くや
)
む
事
(
こと
)
だらう。
155
今
(
いま
)
から
思
(
おも
)
ひやられて、
156
可哀相
(
かはいさう
)
なワイ』
157
芳公
(
よしこう
)
『ナアニ、
158
俺
(
おれ
)
ン
所
(
とこ
)
のお
滝
(
たき
)
も
房公
(
ふさこう
)
ン
所
(
とこ
)
のお
鉄
(
てつ
)
も、
159
元
(
もと
)
より
覚悟
(
かくご
)
して
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
だ。
160
お
滝
(
たき
)
の
奴
(
やつ
)
、
161
俺
(
おれ
)
の
出
(
で
)
る
時
(
とき
)
に、
162
名残
(
なごり
)
惜
(
をし
)
さうに、
163
俺
(
おれ
)
の
背中
(
せなか
)
をポンと
叩
(
たた
)
きやがつて……コレコレこちの
人
(
ひと
)
、
164
お
前
(
まへ
)
さまは
黒姫
(
くろひめ
)
さまのお
伴
(
とも
)
に
行
(
ゆ
)
くのだから、
165
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
迄
(
まで
)
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
感化
(
かんくわ
)
を
受
(
う
)
けて
来
(
こ
)
なあきませぬぞえ。
166
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
迄
(
まで
)
黒
(
くろ
)
うなつて
来
(
き
)
なさいと
吐
(
ほざ
)
きやがつた。
167
けれど
俺
(
おれ
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
丈
(
だけ
)
は
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
だ。
168
アハヽヽヽ』
169
孫公
(
まごこう
)
『
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
迄
(
まで
)
貴様
(
きさま
)
の
嬶
(
かか
)
が、
170
黒姫
(
くろひめ
)
さまのやうに
黒
(
くろ
)
くなつて
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
うたのは
一
(
ひと
)
つの
謎
(
なぞ
)
だよ。
171
貴様
(
きさま
)
は
何時
(
いつ
)
も
箸
(
はし
)
まめな
奴
(
やつ
)
だから、
172
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
お
滝
(
たき
)
と
二人
(
ふたり
)
が、
173
犬
(
いぬ
)
も
喰
(
く
)
はぬ
悋気
(
りんき
)
喧嘩
(
げんくわ
)
計
(
ばか
)
りやつて、
174
生疵
(
なまきず
)
の
絶間
(
たえま
)
なし、
175
近所
(
きんじよ
)
合壁
(
がつぺき
)
に
迷惑
(
めいわく
)
をかけた
代物
(
しろもの
)
だ。
176
それだから
黒姫
(
くろひめ
)
さまが
高山彦
(
たかやまひこ
)
を
慕
(
した
)
ふ
様
(
やう
)
に、
177
此
(
この
)
お
滝
(
たき
)
に
一心
(
いつしん
)
になれ、
178
さうしてお
滝
(
たき
)
の
為
(
ため
)
には
仮令
(
たとへ
)
千
(
せん
)
里
(
り
)
万里
(
ばんり
)
の
山坂
(
やまさか
)
を
越
(
こ
)
えても、
179
敢
(
あへ
)
て
厭
(
いと
)
はぬと
云
(
い
)
ふ
熱心
(
ねつしん
)
な
情
(
なさけ
)
の
深
(
ふか
)
い
男
(
をとこ
)
になつて
来
(
き
)
なさい、
180
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
貞節
(
ていせつ
)
を
学
(
まな
)
んで、
181
それを
妾
(
わたし
)
にソツクリ
其
(
その
)
儘
(
まま
)
行
(
おこな
)
うて
呉
(
く
)
れ……と
云
(
い
)
ふ
虫
(
むし
)
の
好
(
よ
)
い
謎
(
なぞ
)
だ。
182
貴様
(
きさま
)
の
嬶
(
かか
)
アも
中々
(
なかなか
)
行手
(
やりて
)
だ。
183
余程
(
よほど
)
貴様
(
きさま
)
とは
智慧
(
ちゑ
)
が
優
(
すぐ
)
れて
居
(
ゐ
)
るワイ。
184
アハヽヽヽ』
185
芳公
(
よしこう
)
『
俺
(
おれ
)
やモウそんな
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと、
186
女房
(
にようばう
)
が
恋
(
こひ
)
しうなつて
来
(
き
)
た。
187
翼
(
つばさ
)
でもあれば、
188
此
(
この
)
儘
(
まま
)
翔
(
た
)
つて
帰
(
かへ
)
りたいのだがなア』
189
孫公
(
まごこう
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
斯
(
こ
)
うなりや、
190
モウ
仕方
(
しかた
)
がない。
191
黒姫
(
くろひめ
)
泥棒
(
どろばう
)
の
乾児
(
こぶん
)
になつたやうなものだから、
192
毒
(
どく
)
を
喰
(
く
)
はば
皿
(
さら
)
まで
舐
(
ねぶ
)
れだ。
193
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
のハズバンドに
出会
(
で
)
あうて、
194
ヤイノヤイノの
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎを
一幕
(
ひとまく
)
か
二幕
(
ふたまく
)
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
ひ、
195
其
(
その
)
後
(
あと
)
には
吾々
(
われわれ
)
が
居中
(
きよちう
)
調停
(
てうてい
)
の
労
(
らう
)
を
執
(
と
)
り、
196
夫婦
(
ふうふ
)
が
機会
(
きくわい
)
均等
(
きんとう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
発揮
(
はつき
)
して、
197
目出
(
めで
)
たく
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
凱旋
(
がいせん
)
遊
(
あそ
)
ばす
迄
(
まで
)
は、
198
離
(
はな
)
れる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない
因縁
(
いんねん
)
がまつはつてゐるのだ。
199
今
(
いま
)
ヤツと
建日
(
たけひ
)
の
港
(
みなと
)
へ
着
(
つ
)
いた
許
(
ばか
)
りだ。
200
今頃
(
いまごろ
)
に
望郷
(
ばうきやう
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られては
駄目
(
だめ
)
だぞ。
201
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
人間
(
にんげん
)
は
何時
(
いつ
)
も
望郷心
(
ばうきやうしん
)
が
強
(
つよ
)
いから
大事業
(
だいじげふ
)
は
到底
(
たうてい
)
成功
(
せいこう
)
出来
(
でき
)
ないのだ。
202
斯
(
こ
)
うなつた
以上
(
いじやう
)
は、
203
嬶
(
かか
)
の
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
何
(
ど
)
うでも
好
(
よ
)
いぢやないか。
204
都合
(
つがふ
)
が
好
(
よ
)
ければ
此
(
この
)
筑紫島
(
つくしじま
)
に
永住
(
ゑいぢう
)
して
大事業
(
だいじげふ
)
を
起
(
おこ
)
し、
205
一生
(
いつしやう
)
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へは
帰
(
かへ
)
らないと
云
(
い
)
ふ
決心
(
けつしん
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だ』
206
芳公
(
よしこう
)
『お
前
(
まへ
)
は
女房
(
にようばう
)
のお
安
(
やす
)
を、
207
始
(
はじ
)
めから
嫌
(
きら
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
208
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
に
未練
(
みれん
)
はなからう。
209
俺
(
おれ
)
はあれ
丈
(
だけ
)
親切
(
しんせつ
)
な、
210
惚切
(
ほれき
)
つた
女房
(
にようばう
)
が、
211
膝坊主
(
ひざばうず
)
を
抱
(
だ
)
いて
俺
(
おれ
)
の
帰
(
かへ
)
るのを、
212
今
(
いま
)
か
今
(
いま
)
かと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
願
(
ぐわん
)
かけて
待
(
ま
)
つてるのだから、
213
そんな
無情
(
むじやう
)
な
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
214
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて、
215
女房
(
にようばう
)
の
喜
(
よろこ
)
ぶ
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
るのが
俺
(
おれ
)
の
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
楽
(
たのし
)
みだ。
216
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
夫婦
(
ふうふ
)
位
(
くらゐ
)
大切
(
たいせつ
)
なものはない。
217
何程
(
なにほど
)
こんな
所
(
ところ
)
で
成功
(
せいこう
)
をしたと
云
(
い
)
つても、
218
女房
(
にようばう
)
子
(
こ
)
と
一生
(
いつしやう
)
あはれぬやうな
所
(
ところ
)
で、
219
何
(
なに
)
が
面白
(
おもしろ
)
い』
220
孫公
(
まごこう
)
『アハヽヽヽ、
221
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
あれ
丈
(
だけ
)
憎
(
にく
)
相
(
さう
)
に
云
(
い
)
うて
喧嘩
(
けんくわ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
222
矢張
(
やつぱり
)
あんなやん
茶嬶
(
ちやかか
)
が
恋
(
こひ
)
しいのか。
223
恋
(
こひ
)
といふものは
分
(
わか
)
らぬものだなア』
224
房公
(
ふさこう
)
『ソリヤ
其
(
その
)
筈
(
はず
)
だ。
225
黒姫
(
くろひめ
)
さまでさへも、
226
云
(
い
)
うと
済
(
す
)
まぬが、
227
夕日
(
ゆふひ
)
の
影干
(
かげぼ
)
しのやうな
無恰好
(
ぶかつかう
)
な
禿頭
(
はげあたま
)
の
爺
(
おやぢ
)
を、
228
こんな
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
はるばる
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
やつしやるのだもの、
229
夫
(
をつと
)
が
女房
(
にようばう
)
を
慕
(
した
)
ふのは
当然
(
あたりまへ
)
だ。
230
俺
(
おれ
)
ン
所
(
とこ
)
のお
鉄
(
てつ
)
でもそれはそれは
親切
(
しんせつ
)
なものだよ。
231
孫公
(
まごこう
)
ン
所
(
とこ
)
のお
安
(
やす
)
は、
232
余
(
あま
)
り
親切
(
しんせつ
)
にないのは、
233
つまり
孫公
(
まごこう
)
が
悪
(
わる
)
いのだ。
234
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは、
235
男
(
をとこ
)
の
方
(
はう
)
から
親切
(
しんせつ
)
に
真心
(
まごころ
)
を
以
(
もつ
)
て
可愛
(
かあい
)
がつてやれば、
236
どうでもなるものだ。
237
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
に、
238
女房
(
にようばう
)
を
家
(
いへ
)
の
道具
(
だうぐ
)
だとか、
239
器械
(
きかい
)
だとか、
240
産児機
(
さんじき
)
だとか
云
(
い
)
つて、
241
虐待
(
ぎやくたい
)
するやうな
事
(
こと
)
では、
242
目
(
め
)
つかちの
女房
(
にようばう
)
だつて、
243
夫
(
をつと
)
を
親身
(
しんみ
)
になつて
思
(
おも
)
つては
呉
(
く
)
れないよ。
244
チツと
黒姫
(
くろひめ
)
さまに
倣
(
なら
)
つて、
245
お
前
(
まへ
)
も
女房
(
にようばう
)
を
大切
(
たいせつ
)
にしたら
如何
(
どう
)
だい。
246
こんな
遠方
(
ゑんぱう
)
迄
(
まで
)
来
(
き
)
た
土産
(
みやげ
)
として、
247
女房
(
にようばう
)
に
対
(
たい
)
する
親切
(
しんせつ
)
を
益々
(
ますます
)
濃厚
(
のうこう
)
に
持
(
も
)
ち
直
(
なほ
)
して
帰
(
かへ
)
るが、
248
何
(
なに
)
よりの
女房
(
にようばう
)
への
土産
(
みやげ
)
だよ……なア
黒姫
(
くろひめ
)
さま……』
249
と
舌
(
した
)
をニユツと
出
(
だ
)
し、
250
頤
(
あご
)
をつき
出
(
だ
)
して、
251
稍
(
やや
)
嘲弄
(
てうろう
)
的
(
てき
)
に
目
(
め
)
を
注
(
そそ
)
ぐ。
252
黒姫
(
くろひめ
)
は
始
(
はじ
)
めて
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
253
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
を
出
(
で
)
た
時
(
とき
)
は、
254
随分
(
ずゐぶん
)
誠実
(
せいじつ
)
な
熱心
(
ねつしん
)
な
信者
(
しんじや
)
であつた。
255
それが
如何
(
どう
)
したものか、
256
一日
(
いちにち
)
々々
(
いちにち
)
と
誠
(
まこと
)
がうすらぎ、
257
遂
(
つひ
)
には
妾
(
わたし
)
に
迄
(
まで
)
、
258
軽侮
(
けいぶ
)
の
目
(
め
)
を
以
(
もつ
)
て
見
(
み
)
るやうになつたぢやないか。
259
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
にお
前
(
まへ
)
さまは
遥々
(
はるばる
)
と
修業
(
しうげふ
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのだい。
260
これから
先
(
さき
)
は
建日別
(
たけひわけの
)
命
(
みこと
)
が
昔
(
むかし
)
脂
(
あぶら
)
を
取
(
と
)
られた
筑紫峠
(
つくしたうげ
)
の
谷間
(
たにあひ
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
があるから、
261
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
に
心
(
こころ
)
を
直
(
なほ
)
しておかぬと、
262
昔
(
むかし
)
の
小島別
(
こじまわけ
)
のやうに
脂
(
あぶら
)
をとられて、
263
ヘトヘトになりますぞえ。
264
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
改心
(
かいしん
)
をしなされ』
265
孫公
(
まごこう
)
『アハヽヽヽ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
266
改心
(
かいしん
)
する
人
(
ひと
)
は
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
計
(
ばか
)
りですか? まだ
外
(
ほか
)
に
一人
(
ひとり
)
、
267
第一
(
だいいち
)
に
改心
(
かいしん
)
をせなくてはならぬ
婆
(
ばば
)
んつがある
事
(
こと
)
をお
忘
(
わす
)
れになりましたか?』
268
黒姫
(
くろひめ
)
『
改心
(
かいしん
)
し
切
(
き
)
つた
者
(
もの
)
が、
269
何
(
ど
)
うして
改心
(
かいしん
)
する
余地
(
よち
)
がありませうか。
270
お
前
(
まへ
)
さまは
此
(
この
)
黒姫
(
くろひめ
)
の
行
(
おこな
)
ひを
見
(
み
)
なさつたら、
271
大抵
(
たいてい
)
分
(
わか
)
るだらう』
272
孫公
(
まごこう
)
『
惟神
(
かむながら
)
だ、
273
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
へだ……と
云
(
い
)
つて、
274
人
(
ひと
)
の
舟
(
ふね
)
を
黙
(
だま
)
つてチヨロまかし、
275
それに
乗
(
の
)
つて
来
(
く
)
るのが
誠
(
まこと
)
ですか。
276
あんな
事
(
こと
)
が、
277
改心
(
かいしん
)
し
切
(
き
)
つた
人
(
ひと
)
の
行
(
おこな
)
ひとすれば、
278
吾々
(
われわれ
)
よりも
泥棒
(
どろばう
)
の
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
改心
(
かいしん
)
しとるぢやありませぬか』
279
黒姫
(
くろひめ
)
『エヽ、
280
ツベコベと
小理屈
(
こりくつ
)
を
言
(
い
)
ひなさんな。
281
途中
(
とちう
)
に
船
(
ふね
)
が
破
(
やぶ
)
れて、
282
進退
(
しんたい
)
これ
谷
(
きは
)
まつた
時
(
とき
)
に、
283
主
(
ぬし
)
のない
船
(
ふね
)
がそこへ
流
(
なが
)
れて
来
(
き
)
たのは、
284
所謂
(
いはゆる
)
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
へだよ。
285
諺
(
ことわざ
)
にも
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
ふるを
取
(
と
)
らざれば、
286
災
(
わざはひ
)
却
(
かへつ
)
て
身
(
み
)
に
及
(
およ
)
ぶと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるぢやないか。
287
神
(
かみ
)
は
人間
(
にんげん
)
になくてならぬものを
与
(
あた
)
へ
給
(
たま
)
ふと
云
(
い
)
ふ
聖者
(
せいじや
)
の
教
(
をしへ
)
がある。
288
船
(
ふね
)
一艘
(
いつそう
)
が
大切
(
たいせつ
)
か、
289
吾々
(
われわれ
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
生命
(
いのち
)
が
大切
(
たいせつ
)
か、
290
能
(
よ
)
く
事
(
こと
)
の
軽重
(
けいちよう
)
大小
(
だいせう
)
を
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
291
機
(
き
)
に
臨
(
のぞ
)
み
変
(
へん
)
に
応
(
おう
)
ずるは、
292
即
(
すなは
)
ち
惟神
(
かむながら
)
の
大道
(
だいだう
)
だよ。
293
こんな
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
で、
294
能
(
よ
)
うお
前
(
まへ
)
さまも、
295
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
ぢや、
296
宣伝使
(
せんでんし
)
の
卵
(
たまご
)
ぢやと
云
(
い
)
つて、
297
こんな
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
ましたな、
298
オツホヽヽヽ』
299
孫公
(
まごこう
)
『
呆
(
あき
)
れて
物
(
もの
)
が
言
(
い
)
へませぬワイ。
300
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
301
お
前
(
まへ
)
さまが
夫
(
をつと
)
の
為
(
ため
)
には
大切
(
たいせつ
)
な
神務
(
しんむ
)
も
忘
(
わす
)
れ、
302
宣伝
(
せんでん
)
を
次
(
つぎ
)
にし、
303
あれ
程
(
ほど
)
気違
(
きちがひ
)
のやうになつて
居
(
を
)
つた
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
事
(
こと
)
をケロリと
忘
(
わす
)
れて、
304
大勢
(
おほぜい
)
の
前
(
まへ
)
で
肱鉄砲
(
ひぢでつぱう
)
をかましてくれた
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまを
慕
(
した
)
ふ
其
(
その
)
貞節
(
ていせつ
)
には
実
(
じつ
)
に
感心
(
かんしん
)
だ。
305
大
(
おほい
)
に
学
(
まな
)
ぶべき
点
(
てん
)
が
オホアリ
大根
(
だいこん
)
だ。
306
アハヽヽヽ、
307
オホヽヽヽ、
308
ウツフヽヽヽ、
309
エヘヽヽヽ、
310
イヒヽヽヽ』
311
黒姫
(
くろひめ
)
『コレ
孫公
(
まごこう
)
、
312
お
前
(
まへ
)
は
此
(
この
)
年老
(
としより
)
を
嘲弄
(
てうろう
)
するのかい』
313
孫公
(
まごこう
)
『
岩屋
(
いはや
)
の
神
(
かみ
)
さまがソロソロ
孫公
(
まごこう
)
さまに
憑
(
うつ
)
つて、
314
言霊
(
ことたま
)
を
始
(
はじ
)
めかけたのだよ。
315
ウフヽヽヽ』
316
と
笑
(
わら
)
ひこける。
317
途端
(
とたん
)
に
路傍
(
みちばた
)
の
尖
(
とが
)
つた
石
(
いし
)
に
腰
(
こし
)
を
打
(
うち
)
つけ『アイタタ』と
云
(
い
)
つたきり、
318
真青
(
まつさを
)
な
色
(
いろ
)
になり、
319
顔
(
かほ
)
をしかめ、
320
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
いで、
321
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
322
(
大正一一・九・一二
旧七・二一
松村真澄
録)
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