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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第34巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 筑紫の不知火
第1章 筑紫上陸
第2章 孫甦
第3章 障文句
第4章 歌垣
第5章 対歌
第6章 蜂の巣
第7章 無花果
第8章 暴風雨
第2篇 有情無情
第9章 玉の黒点
第10章 空縁
第11章 富士咲
第12章 漆山
第13章 行進歌
第14章 落胆
第15章 手長猿
第16章 楽天主義
第3篇 峠の達引
第17章 向日峠
第18章 三人塚
第19章 生命の親
第20章 玉卜
第21章 神護
第22章 蛙の口
第23章 動静
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<<< 蛙の口
(B)
(N)
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第二三章
動静
(
どうせい
)
〔九六四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
篇:
第3篇 峠の達引
よみ(新仮名遣い):
とうげのたてひき
章:
第23章 動静
よみ(新仮名遣い):
どうせい
通し章番号:
964
口述日:
1922(大正11)年09月14日(旧07月23日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三公は六公を自分の居間に呼んで、虎公暗殺の首尾を確認する。六公は虎公の勢いに負けて逃げ出してきた手前、話をはぐらかして結果をごまかそうとしている。三公はあきれはて、六公の報告を与三公と勘公に任せ、自分は徳公のところへ出立の催促に行った。
徳公は、この闇の中に深い森の中へお愛を掘り出しに行くことがにわかに恐くなり、三公、与三公、勘公に役目をおろしてもらうように頼み始めた。
そこへ子分たちがやってきて、虎公とお愛の幽霊が、大勢を引き連れて押し寄せてきたと注進した。与三公と勘公はアッといって腰を抜かし、その場に倒れてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-09-21 10:01:56
OBC :
rm3423
愛善世界社版:
286頁
八幡書店版:
第6輯 466頁
修補版:
校定版:
299頁
普及版:
126頁
初版:
ページ備考:
001
六公
(
ろくこう
)
の
一部隊
(
いちぶたい
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たと
聞
(
き
)
いて、
002
大蛇
(
をろち
)
の
三公
(
さんこう
)
は、
003
六公
(
ろくこう
)
を
秘
(
ひそ
)
かに
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
通
(
とほ
)
した。
004
そこには
与三公
(
よさこう
)
、
005
勘公
(
かんこう
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
両脇
(
りようわき
)
に
控
(
ひか
)
へてゐる。
006
三公
(
さんこう
)
『オイ
六
(
ろく
)
、
007
甘
(
うま
)
く
往
(
い
)
つたらうなア』
008
六は頭を
一寸
(
ちよつと
)
かき、
009
首を三つ四つ
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
010
六公
『へー、
011
夫
(
そ
)
れは
夫
(
そ
)
れは
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
012
筑紫
(
つくし
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
高山峠
(
たかやまたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
参
(
まゐ
)
りました
所
(
ところ
)
、
013
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
は、
014
忽
(
たちま
)
ち
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
つて、
015
行方
(
ゆくへ
)
知
(
し
)
らずとなりにけり……と
云
(
い
)
ふ
為体
(
ていたらく
)
でごぜえやした。
016
誠
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
て
大勝利
(
だいしようり
)
を
得
(
え
)
ましてごぜえやすから、
017
どうぞ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
018
三公
(
さんこう
)
『
随分
(
ずゐぶん
)
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れただらうな』
019
六公
(
ろくこう
)
『イーエ、
020
どうしてどうして、
021
滅相
(
めつさう
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ。
022
大親分
(
おほおやぶん
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
と
云
(
い
)
ふものは、
023
大
(
たい
)
したもので
御座
(
ござ
)
いますワ。
024
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
が
高山峠
(
たかやまたうげ
)
へ
行
(
い
)
つてみると、
025
虎公
(
とらこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
026
吾々
(
われわれ
)
の
匂
(
にほ
)
ひを
嗅
(
か
)
いで、
027
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
り、
028
猫
(
ねこ
)
の
子
(
こ
)
一匹
(
いつぴき
)
居
(
を
)
らぬやうになつて
了
(
しま
)
ひました』
029
与三
(
よさ
)
『オイ
六公
(
ろくこう
)
、
030
虎公
(
とらこう
)
は
逃
(
に
)
げたのぢやあるまい。
031
居
(
を
)
らなかつたのぢやないか』
032
六公
(
ろくこう
)
『そらさうだ。
033
逃
(
に
)
げたから
居
(
を
)
らないのだ。
034
居
(
を
)
らないから、
035
逃
(
に
)
げたと
云
(
い
)
ふのだ』
036
与三
(
よさ
)
『
貴様
(
きさま
)
、
037
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
何
(
なに
)
をして
居
(
ゐ
)
たのだ』
038
六公
(
ろくこう
)
『
俺
(
おれ
)
は、
039
大親分
(
おほおやぶん
)
の
命令
(
めいれい
)
に
依
(
よ
)
つて、
040
虎公
(
とらこう
)
一統
(
いつとう
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
たづ
)
ねむと、
041
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
に
継
(
つ
)
いで、
042
筑紫
(
つくし
)
ケ
岳
(
だけ
)
に
向
(
むか
)
つて、
043
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら、
044
崎嶇
(
きく
)
たる
山路
(
やまぢ
)
を、
045
ウントコドツコイ、
046
ヤツトコマカセと
登
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
れば、
047
レコード
破
(
やぶ
)
りの
大
(
だい
)
暴風雨
(
ばうふうう
)
、
048
岩石
(
がんせき
)
は
中天
(
ちうてん
)
に
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
り、
049
凄
(
すさま
)
じい
音
(
おと
)
をして、
050
ドサン、
051
バタンと
所
(
ところ
)
構
(
かま
)
はず
降
(
ふ
)
つて
来
(
く
)
る、
052
大木
(
たいぼく
)
は
惜気
(
をしげ
)
もなく、
053
根元
(
ねもと
)
から
吹倒
(
ふきたふ
)
される、
054
木
(
き
)
の
股
(
また
)
は
裂
(
さ
)
ける、
055
礫
(
つぶて
)
の
雨
(
あめ
)
は
降
(
ふ
)
る、
056
夫
(
そ
)
れは
夫
(
そ
)
れは
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
の
大騒動
(
おほさうどう
)
だつた。
057
其
(
その
)
中
(
なか
)
を
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
として
行進
(
かうしん
)
を
続
(
つづ
)
けたのは、
058
此
(
この
)
六公
(
ろくこう
)
の
一行
(
いつかう
)
だ。
059
六公
(
ろくこう
)
も
偉
(
えら
)
いが、
060
親分
(
おやぶん
)
の
威勢
(
ゐせい
)
も
大
(
たい
)
したものだよ。
061
生
(
うま
)
れてからあの
位
(
くらゐ
)
壮快
(
さうくわい
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
つた
事
(
こと
)
はねえワ。
062
虎公
(
とらこう
)
の
野郎
(
やらう
)
、
063
此
(
この
)
烈風
(
れつぷう
)
に
吹
(
ふ
)
かれて、
064
どつかの
谷底
(
たにぞこ
)
へ、
065
ズデンドーと
落込
(
おちこ
)
んでくたばりやがつたに
違
(
ちが
)
ひないと、
066
千尾
(
ちを
)
千谷
(
ちたに
)
隈
(
くま
)
なく
捜
(
さが
)
し
求
(
もと
)
むれど、
067
狼
(
おほかみ
)
に
食
(
く
)
はれて
了
(
しま
)
つたか、
068
虎
(
とら
)
にいかれたか、
069
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
もなくなりにけり。
070
ハテ
不思議
(
ふしぎ
)
と、
071
山頂
(
さんちやう
)
に
佇
(
たたず
)
み、
072
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
073
思案
(
しあん
)
をして
見
(
み
)
れど、
074
根
(
ね
)
つから、
075
良
(
よ
)
い
思案
(
しあん
)
も
浮
(
うか
)
んで
来
(
こ
)
ず、
076
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ずオーイオーイと
味方
(
みかた
)
を
呼
(
よ
)
び
集
(
あつ
)
め、
077
一旦
(
いつたん
)
高山峠
(
たかやまたうげ
)
の
絶頂
(
ぜつちやう
)
で
人員
(
じんゐん
)
調査
(
てうさ
)
を、
078
一
(
いち
)
二
(
に
)
三
(
さん
)
……とやつた
上
(
うへ
)
、
079
石塊
(
いしころ
)
だらけの
峻坂
(
しゆんぱん
)
を、
080
エンヤラヤアと
駆降
(
かけくだ
)
り、
081
樫
(
かし
)
の
木
(
き
)
の
森蔭
(
もりかげ
)
に
一同
(
いちどう
)
集
(
あつ
)
まり、
082
大方
(
おほかた
)
虎公
(
とらこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
083
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
だから、
084
建日
(
たけひ
)
の
館
(
やかた
)
へ
行
(
ゆ
)
きよつたに
違
(
ちがひ
)
なからう、
085
これにより
一隊
(
いつたい
)
を
引
(
ひき
)
つれ、
086
華々
(
はなばな
)
しく
館
(
やかた
)
にかけ
向
(
むか
)
ひ、
087
一戦
(
いつせん
)
を
試
(
こころ
)
み、
088
一泡
(
ひとあわ
)
ふかしてくれむかと
許
(
ばか
)
り
思
(
おも
)
つたが、
089
イヤ
待
(
ま
)
て
暫
(
しば
)
し、
090
軽々
(
かるがる
)
しく
進
(
すす
)
んでは、
091
却
(
かへつ
)
て
戦
(
たたか
)
ひ
利
(
り
)
あらずと、
092
あせる
胸
(
むね
)
をグツと
押
(
おさ
)
へ、
093
手具脛
(
てぐすね
)
曳
(
ひ
)
いて
待
(
ま
)
つ
所
(
ところ
)
へ、
094
虎公
(
とらこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
095
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
知
(
し
)
る
由
(
よし
)
もなく、
096
ヌツクリと
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
りけり……だ』
097
三公
(
さんこう
)
『それから
如何
(
どう
)
したと
云
(
い
)
ふのだ。
098
早
(
はや
)
く
後
(
あと
)
を
云
(
い
)
はねえか』
099
六公
(
ろくこう
)
『
言
(
い
)
はぬが
花
(
はな
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
いますから、
100
モウここらで
打切
(
うちき
)
りにさして
頂
(
いただ
)
きませうか、
101
六公
(
ろくこう
)
が
六
(
ろく
)
でもない
事
(
こと
)
をしよつたと
云
(
い
)
つて、
102
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
なせえましては、
103
双方
(
さうはう
)
の
気
(
き
)
が
悪
(
わる
)
うなりますから、
104
何
(
いづ
)
れ
六
(
ろく
)
のやつた
事
(
こと
)
に
六
(
ろく
)
な
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬワイ』
105
三公
(
さんこう
)
『オイ
六
(
ろく
)
、
106
シツカリせぬか。
107
貴様
(
きさま
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
支離
(
しり
)
滅裂
(
めつれつ
)
、
108
前後
(
ぜんご
)
矛盾
(
むじゆん
)
、
109
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だか
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬだないか』
110
六公
(
ろくこう
)
『ヘヽすべて
物事
(
ものごと
)
は
分
(
わか
)
らぬ
所
(
ところ
)
に
価値
(
かち
)
が
御座
(
ござ
)
いますので……』
111
三公
(
さんこう
)
『ナニ、
112
分
(
わか
)
らぬ
所
(
ところ
)
で、
113
勝
(
かち
)
を
得
(
え
)
たと
云
(
い
)
ふのか。
114
虎公
(
とらこう
)
は
如何
(
どう
)
なつたのだ』
115
六公
(
ろくこう
)
『トラ
一寸
(
ちよつと
)
分
(
わか
)
りかねますなア。
116
何
(
いづ
)
れ
何
(
なん
)
とかなつて
居
(
ゐ
)
るでせう。
117
そこ
迄
(
まで
)
詳
(
くは
)
しう
査
(
しら
)
べる
余裕
(
よゆう
)
がなかつたので……
無念
(
むねん
)
乍
(
なが
)
らも、
118
残党
(
ざんたう
)
を
引集
(
ひきあつ
)
め、
119
やみやみ
立帰
(
たちかへ
)
つて
候
(
さふらふ
)
……と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
でごぜえす』
120
三公
(
さんこう
)
は
面
(
つら
)
をふくらし、
121
三公
(
さんこう
)
『エヽ
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
碌
(
ろく
)
な
奴
(
やつ
)
アないワイ。
122
オイ
与三公
(
よさこう
)
、
123
勘公
(
かんこう
)
、
124
六
(
ろく
)
をトツクリ
査
(
しら
)
べて、
125
委細
(
ゐさい
)
を
俺
(
おれ
)
に
報告
(
はうこく
)
してくれ。
126
俺
(
おれ
)
はこれから、
127
徳
(
とく
)
に
一寸
(
ちよつと
)
用
(
よう
)
があるから……』
128
と
云
(
い
)
ひすて、
129
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
今
(
いま
)
酒宴
(
しゆえん
)
の
開
(
ひら
)
かれてゐた
広
(
ひろ
)
い
座敷
(
ざしき
)
へ
進
(
すす
)
み
行
(
い
)
つた。
130
徳
(
とく
)
、
131
高
(
たか
)
の
二人
(
ふたり
)
は
差向
(
さしむか
)
ひになつて、
132
相変
(
あひかは
)
らず
管
(
くだ
)
を
巻
(
ま
)
き
乍
(
なが
)
ら、
133
何事
(
なにごと
)
か
囁
(
ささや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
134
三公
(
さんこう
)
は
声
(
こゑ
)
をかけ、
135
三公
(
さんこう
)
『オイ
徳
(
とく
)
、
136
お
前
(
まへ
)
に
言
(
い
)
うておいた
仕事
(
しごと
)
に
早
(
はや
)
く
往
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れないと、
137
遅
(
おく
)
れちや
駄目
(
だめ
)
だぞ』
138
徳公
(
とくこう
)
『ヘエ、
139
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
は
行
(
ゆ
)
きますが、
140
どうも
根
(
ね
)
つから
葉
(
は
)
つから、
141
はづみませぬワイ。
142
今日
(
けふ
)
は
余
(
あま
)
りお
酒
(
さけ
)
がまはりましたので、
143
体
(
からだ
)
が
自由
(
じいう
)
になりませぬから、
144
明日
(
あす
)
に
延
(
の
)
ばして
下
(
くだ
)
せえなア』
145
三公
(
さんこう
)
『
明日
(
あす
)
に
延
(
の
)
ばせる
位
(
くらゐ
)
なら、
146
貴様
(
きさま
)
に
言
(
い
)
ひ
付
(
つ
)
けるか。
147
サア
早
(
はや
)
く
用意
(
ようい
)
をせよ』
148
徳公
(
とくこう
)
『
用意
(
ようい
)
をせよと
仰有
(
おつしや
)
つても、
149
是
(
これ
)
丈
(
だけ
)
ヨーイ
が
廻
(
まは
)
つたら、
150
此
(
この
)
上
(
うへ
)
、
151
ヨーイ
の
仕方
(
しかた
)
もありますめえ。
152
あんなシヤンに
対
(
たい
)
して、
153
私
(
わたし
)
の
此
(
この
)
レツテルでは、
154
如何
(
どう
)
も
成功
(
せいこう
)
覚束
(
おぼつか
)
なしと
観察
(
くわんさつ
)
致
(
いた
)
しましたから、
155
実
(
じつ
)
ア、
156
胴
(
どう
)
を
据
(
す
)
ゑて
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
り
酒
(
さけ
)
をあふつた
所
(
ところ
)
でげす』
157
三公
(
さんこう
)
『お
前
(
まへ
)
は
此
(
この
)
用
(
よう
)
を
果
(
はた
)
す
迄
(
まで
)
、
158
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
まぬと
言
(
い
)
つたぢやないか。
159
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
時
(
とき
)
になつて、
160
さうヘベレケに
酔
(
よ
)
うて
如何
(
どう
)
なるものか、
161
サア
早
(
はや
)
く
立
(
た
)
てい』
162
徳公
(
とくこう
)
『
親方
(
おやかた
)
、
163
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さつても、
164
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
ちませぬワ、
165
腰
(
こし
)
が……それよりも
直接
(
ちよくせつ
)
に
親方
(
おやかた
)
が
行
(
ゆ
)
かれた
方
(
はう
)
が、
166
手取早
(
てつとりばや
)
う
話
(
はなし
)
がつくかも
知
(
し
)
れませぬで。
167
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
は
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
り
埋
(
うづ
)
めておき、
168
お
愛
(
あい
)
のシヤン
丈
(
だけ
)
を、
169
山奥
(
やまおく
)
へかつぎ
込
(
こ
)
み、
170
そこは
甘
(
うま
)
く、
171
あなたの
御
(
ご
)
器量
(
きりやう
)
で
要領
(
えうりやう
)
を
得
(
え
)
なさい。
172
それが
何
(
なに
)
より
早道
(
はやみち
)
だ。
173
三五教
(
あななひけう
)
の
言
(
い
)
ひ
草
(
ぐさ
)
だないが、
174
人
(
ひと
)
を
杖
(
つゑ
)
につくな
子分
(
こぶん
)
をたよりにするなと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がごぜえますからな、
175
ゲーゲブプーエー、
176
あゝ
苦
(
くる
)
しい、
177
斯
(
か
)
う
苦
(
くる
)
して
如何
(
どう
)
して
道中
(
だうちう
)
がなるものか。
178
動中静
(
どうちうせい
)
あり
静中動
(
せいちうどう
)
ありだ。
179
ドウセイ
お
前
(
まへ
)
さまの
物
(
もの
)
になるのだもの、
180
私
(
わたし
)
が
ドウチウ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かないのだから、
181
親方
(
おやかた
)
ドウ
ドウセイセイ
行
(
や
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいな。
182
私
(
わたし
)
も
セイ
一杯
(
いつぱい
)
ドウ
を
据
(
す
)
ゑて、
183
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
んで、
184
親分
(
おやぶん
)
の
セイ
功
(
こう
)
を
祈
(
いの
)
つてゐませうかい』
185
三公
(
さんこう
)
『
ドウ
も
仕方
(
しかた
)
のねえ
奴
(
やつ
)
だなア』
186
徳公
(
とくこう
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
ドウ
も
仕方
(
しかた
)
のねえ
奴
(
やつ
)
だ。
187
他人
(
ひと
)
の
女房
(
にようばう
)
に
横恋慕
(
よこれんぼ
)
をするなんて、
188
人
(
ひと
)
の
風上
(
かざかみ
)
に
立
(
た
)
つ
親分
(
おやぶん
)
にも
似合
(
にあ
)
はねえ
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
な
行方
(
やりかた
)
だねえか、
189
エーゲブ、
190
ウーーー』
191
三公
(
さんこう
)
は
癇高
(
かんだか
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
192
三公
(
さんこう
)
『
与三公
(
よさこう
)
勘公
(
かんこう
)
』
193
と
呼
(
よ
)
んだ。
194
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
与三
(
よさ
)
、
195
勘
(
かん
)
の
両人
(
りやうにん
)
は、
196
行歩
(
かうほ
)
蹣跚
(
まんさん
)
として
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
197
与三
(
よさ
)
『
親分
(
おやぶん
)
、
198
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
でげすかなア』
199
三公
(
さんこう
)
『
徳公
(
とくこう
)
を
一
(
ひと
)
つ
裏
(
うら
)
の
谷川
(
たにがは
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて、
200
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
ませ、
201
酔
(
ゑい
)
をさまさして、
202
早
(
はや
)
く
今
(
いま
)
の
所
(
ところ
)
へ
行
(
ゆ
)
く
様
(
やう
)
にしてくれないか』
203
与三
(
よさ
)
『そりや
与三
(
よさ
)
さうな
事
(
こと
)
です、
204
オイ
徳
(
とく
)
、
205
立
(
た
)
たぬか。
206
貴様
(
きさま
)
ア、
207
肝腎
(
かんじん
)
の
時
(
とき
)
になつて、
208
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
209
そんな
事
(
こと
)
で
親方勤
(
おやかたづと
)
めが
出来
(
でき
)
ると
思
(
おも
)
ふか』
210
徳公
(
とくこう
)
『
トク
と
思案
(
しあん
)
をして
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
、
211
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うても
人里
(
ひとざと
)
はなれた、
212
あの
森林
(
しんりん
)
だ。
213
モシもお
愛
(
あい
)
の
奴
(
やつ
)
、
214
息
(
いき
)
でも
止
(
と
)
まつて
居
(
を
)
らうものなら、
215
ヒユードロドロだ。
216
夫
(
そ
)
れを
思
(
おも
)
へば
怖
(
こわ
)
くも…
何
(
なん
)
ともないが、
217
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
酒腰
(
さけごし
)
がぬけやがつて、
218
如何
(
どう
)
しても
動
(
うご
)
けないのだよ。
219
哥兄
(
あにき
)
、
220
頼
(
たの
)
みだが、
221
今日
(
けふ
)
は
俺
(
おれ
)
の
代理
(
だいり
)
を
命
(
めい
)
ずるから、
222
トツトと
行
(
い
)
つてくれねえか。
223
本当
(
ほんたう
)
に
親方
(
おやかた
)
もあこ
迄
(
まで
)
仕組
(
しぐ
)
んだ
大芝居
(
おほしばゐ
)
だから、
224
此
(
この
)
儘
(
まま
)
オジヤンになつては
残念
(
ざんねん
)
だらうし、
225
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
甘
(
うま
)
い
酒
(
さけ
)
を
親方
(
おやかた
)
からおごらした
手前
(
てまへ
)
、
226
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
でならねえからなア』
227
与三
(
よさ
)
『
俺
(
おれ
)
や
駄目
(
だめ
)
だ。
228
そんなら
仕方
(
しかた
)
がねえから、
229
オイ
勘州
(
かんしう
)
貴様
(
きさま
)
、
230
徳
(
とく
)
の
代
(
かは
)
りに
行
(
い
)
つたら
如何
(
どう
)
だい』
231
勘公
(
かんこう
)
『おれやモウ
御免
(
ごめん
)
だ。
232
今日
(
けふ
)
は
親
(
おや
)
の
命日
(
めいにち
)
だからなア』
233
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
二三
(
にさん
)
の
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
慌
(
あわただ
)
しく
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
み
来
(
きた
)
り、
234
乾児たち
『ヤア
与三
(
よさ
)
の
哥兄
(
あにき
)
、
235
タヽヽ
大変
(
たいへん
)
だ
大変
(
たいへん
)
だ。
236
お
愛
(
あい
)
の
幽霊
(
いうれい
)
と
虎公
(
とらこう
)
の
幽霊
(
いうれい
)
が、
237
沢山
(
たくさん
)
の
亡者
(
まうじや
)
を
連
(
つ
)
れて
押寄
(
おしよ
)
せて
来
(
き
)
よつたぞ。
238
サア
用意
(
ようい
)
だ
用意
(
ようい
)
だ』
239
与三
(
よさ
)
、
240
勘
(
かん
)
の
両人
(
りやうにん
)
は『アツ』と
云
(
い
)
つた
儘
(
まま
)
、
241
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かしてその
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
242
館
(
やかた
)
の
外
(
そと
)
には
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
夏
(
なつ
)
の
風
(
かぜ
)
がゴーゴーと
吹
(
ふ
)
き
渡
(
わた
)
つてゆく。
243
油蝉
(
あぶらぜみ
)
の
声
(
こゑ
)
は
館
(
やかた
)
の
庭先
(
にはさき
)
の
木
(
き
)
の
上
(
うへ
)
から、
244
耳
(
みみ
)
が
痛
(
いた
)
い
程
(
ほど
)
ゼミゼミ、
245
ミンミンミンと
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
246
(
大正一一・九・一四
旧七・二三
松村真澄
録)
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