霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 三人塚(さんにんづか)〔九五九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第3篇 峠の達引 よみ(新仮名遣い):とうげのたてひき
章:第18章 三人塚 よみ(新仮名遣い):さんにんづか 通し章番号:959
口述日:1922(大正11)年09月14日(旧07月23日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
そこへ通りかかった宣伝使は孫公であった。孫公は大蛇の三公の一味が三人を縛って打ちかかっている惨状を目にし、木陰から大音声に呼ばわった。孫公は、筑紫の島の神司・高山彦の名を借りて、一味を驚かそうとしたが、樹上に潜んでいた子分たちに見破られてしまう。
孫公も一味に打倒されて、同じく縛られてしまった。日が落ちて暗闇になったのを幸い、お梅はどこかへ逃げてしまっていた。
三公と子分の与三公は、さらにお愛に気を変えるように迫るが、お愛はまったく相手にせず、自分を早く殺して他の者たちは助けるようにと答え、三公を激しくののしった。三公は怒ってお愛をなぐり殺してしまった。
三公は子分たちに下知して深い穴を掘り、三人を埋めて地固めをし、上にたくさんの石を乗せてしまった。三公は高笑いをし、子分たちを引き連れてその場を去った。
闇に隠れて様子をうかがっていたお梅はこわごわ近寄ってきて、三人を埋めた塚を掘り起こそうと上に乗せられた石をどかそうとしたが、石は重くびくとも動かなかった。お梅はその場に泣き崩れてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-18 10:12:41 文字数:4868 OBC :rm3418
愛善世界社版:228頁 八幡書店版:第6輯 444頁 修補版: 校定版:238頁 普及版:99頁 初版: ページ備考:
001孫公(まごこう)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
002善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)ける
003醜女(しこめ)探女(さぐめ)や鬼(おに)大蛇(をろち)
004虎(とら)狼(おほかみ)の吠(ほ)え猛(たけ)り
005勢(いきほひ)猛(たけ)く攻(せ)めくとも
006などか恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
007誠(まこと)の道(みち)の神司(かむつかさ)
008弱(よわ)きを助(たす)け強(つよ)きをば
009言向(ことむ)け和(やは)す神業(かむわざ)に
010仕(つか)ふる身(み)こそ楽(たの)しけれ
011此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
012心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
013唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
014直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
015宣(の)り直(なほ)し行(ゆ)く其(その)時(とき)は
016天(あめ)が下(した)なるもろもろは
017残(のこ)らず吾(われ)の味方(みかた)のみ
018仇(あだ)も曲津(まがつ)も忽(たちま)ちに
019旭(あさひ)に露(つゆ)と消(き)えて行(ゆ)く
020三千(さんぜん)世界(せかい)の梅(うめ)の花(はな)
021一度(いちど)に開(ひら)く神(かみ)の道(みち)
022此(この)世(よ)を救(すく)ふ生神(いきがみ)は
023国治立(くにはるたちの)大神(おほかみ)や
024神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大御神(おほみかみ)
025筑紫(つくし)の島(しま)を守(まも)ります
026国魂神(くにたまがみ)の純世姫(すみよひめ)
027神(かみ)の御稜威(みいづ)の現(あら)はれて
028常世(とこよ)の泥(どろ)もすみ渡(わた)る
029朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
030月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
031曲津(まがつ)は如何(いか)に猛(たけ)るとも
032誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ
033黒姫(くろひめ)さまの一行(いつかう)は
034今(いま)はいづこにさまよふか
035聞(き)かま欲(ほ)しやと来(き)て見(み)れば
036片方(かたへ)の森(もり)に人(ひと)の声(こゑ)
037唯事(ただごと)ならぬ気配(けはい)なり
038あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
039御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましまして
040此(この)世(よ)の中(なか)の人々(ひとびと)は
041互(たがひ)に誠(まこと)を尽(つく)しあひ
042愛(あい)し愛(あい)され末長(すゑなが)く
043神(かみ)の作(つく)りし神(かみ)の世(よ)に
044常世(とこよ)の春(はる)を楽(たの)しみて
045栄(さか)えと光(ひかり)と喜(よろこ)びの
046雨(あめ)に浴(よく)させたまへかし
047あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
048御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
049 かく宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ひながら、050怪(あや)しき人声(ひとごゑ)を聞(き)きつけて、051唯事(ただごと)ならじと駆(か)けて来(き)たのは孫公(まごこう)であつた。052孫公(まごこう)は、053大蛇(をろち)の三公(さんこう)の手下(てした)共(ども)数十(すうじふ)人(にん)集(あつ)まつて二人(ふたり)の男女(だんぢよ)を縛(しば)り上(あ)げ、054打(う)つ、055蹴(け)る、056擲(なぐ)るの大惨状(だいさんじやう)を見(み)るより早(はや)く、057夕暮(ゆふぐれ)を幸(さいは)ひ木蔭(こかげ)に佇(たたず)んで大音声(だいおんじやう)、
058孫公(まごこう)『ヤアヤア、059此(この)方(はう)は火(ひ)の国都(くにみやこ)の高山彦(たかやまひこの)命(みこと)であるぞ。060此(この)森林(しんりん)に若(わか)き女(をんな)を連(つ)れ来(きた)り、061乱暴(らんばう)を致(いた)す曲者(くせもの)、062今(いま)高山彦(たかやまひこ)が神力(しんりき)によつて打(う)ち亡(ほろ)ぼし呉(く)れむ。063どうだ、064改心(かいしん)致(いた)してそれなる男女(だんぢよ)を助(たす)け、065此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)らばよし、066聞(き)かぬに於(おい)ては、067神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の神力(しんりき)によつて、068其(その)方(はう)共(ども)一人(ひとり)も残(のこ)さず冥途(めいど)の旅立(たびだ)ちをなさしめむ。069どうだ返答(へんたふ)を聞(き)かせ!』
070 此(この)時(とき)樟(くす)の樹上(じゆじやう)より、071五六(ごろく)人(にん)の声(こゑ)、
072声『ヤイ何処(どこ)の奴(やつ)かは知(し)らね共(ども)、073高山彦(たかやまひこ)とは真赤(まつか)な偽(いつは)りだらう。074面(つら)を上(あ)げい!』
075と呶鳴(どな)りつけた。076此(この)声(こゑ)と共(とも)に孫公(まごこう)はフト樹上(じゆじやう)を見上(みあ)げる一刹那(いちせつな)、077孫公(まごこう)の両眼(りやうがん)めがけて木(き)の上(うへ)より砂(すな)を掴(つか)んで投(な)げつけた。078孫公(まごこう)は両眼(りやうがん)に砂(すな)をかけられ『アツ』と一声(ひとこえ)其(その)場(ば)に踞(しやが)み目(め)を擦(こす)つて居(ゐ)る。079其(その)隙(すき)をねらつて、080与三公(よさこう)は矢庭(やには)に首(くび)に縄(なは)を引(ひ)きかけ、081二三間(にさんげん)ばかり引(ひき)ずり出(だ)した。082孫公(まごこう)は余(あま)りの不意打(ふいう)ちに肝(きも)をつぶし手足(てあし)を藻掻(もが)いてゐる。083そこへ数多(あまた)の手下(てした)はバラバラと寄(よ)り集(たか)り、084孫公(まごこう)を高手(たかて)小手(こて)に縛(いまし)めて仕舞(しま)つた。
085 日(ひ)は漸(やうや)く地平線(ちへいせん)下(か)に没(ぼつ)し四辺(あたり)は烏羽玉(うばたま)の闇(やみ)に包(つつ)まれて仕舞(しま)つた。086お梅(うめ)は闇(やみ)に紛(まぎ)れて辛(から)うじて此(この)場(ば)を逃(に)げ出(だ)し、087いづくともなく姿(すがた)を隠(かく)して仕舞(しま)つた。
088三公(さんこう)『アハヽヽヽ、089いらざる邪魔立(じやまだて)を致(いた)して此(この)醜態(ざま)は何(なん)の事(こと)だ。090火(ひ)の国都(くにみやこ)の高山彦(たかやまひこ)とはそれや何(なに)を吐(ぬか)す。091此(この)方(はう)を何(なん)と心得(こころえ)て居(ゐ)るか。092大蛇(をろち)の三公(さんこう)と云(い)つたら火(ひ)の国(くに)に鳴(な)り渡(わた)る侠客(けふかく)の大親分(おほおやぶん)だ。093いらぬ構(かま)ひ立(だて)を致(いた)し、094飛(と)んで火(ひ)に入(い)る夏(なつ)の虫(むし)、095実(じつ)に憐(あは)れな者(もの)だなア……オイ与三公(よさこう)、096此奴(こいつ)をたたんで仕舞(しま)へ!』
097与三(よさ)『ハイ、098斯(か)うやつて縛(いまし)めて置(お)けば逃(に)げる気遣(きづか)ひはありませぬから、099マア悠(ゆつ)くりと嬲殺(なぶりごろ)しにしてやりませうかい。100それよりも第一(だいいち)お愛(あい)の奴(やつ)、101もう一談判(ひとだんぱん)して、102親分(おやぶん)の言(い)ひ条(でう)につくやうにしてはどうですか』
103三公(さんこう)『こんな事(こと)は俺(おれ)から直接(ちよくせつ)に云(い)ふのも些(ちつ)と気(き)が利(き)かねえから、104能弁(のうべん)のお前(まへ)に任(まか)す。105旨(うま)くやつて呉(く)れ。106其(その)代(かは)り褒美(ほうび)は幾何(いくら)でも遣(つか)はすから……』
107与三(よさ)『ヘイ承知(しようち)致(いた)しました。108何(なん)と云(い)うてもウンと云(い)はせて見(み)ます。109併(しか)しかう暗(くら)くてなつては顔(かほ)も碌(ろく)に見(み)えませぬから……オイ勘州(かんしう)、110灯火(ひ)をつけい……親分(おやぶん)安心(あんしん)して下(くだ)さいませ』
111と云(い)ひ乍(なが)ら、112お愛(あい)の傍(そば)へ探(さぐ)り探(さぐ)り近寄(ちかよ)つた。113勘州(かんしう)は森(もり)の枯木(かれき)を集(あつ)め、114火(ひ)を切(き)り出(だ)してパツとつけた。115四辺(あたり)は忽(たちま)ち昼(ひる)の如(ごと)くなつて来(き)た。116沢山(たくさん)の乾児(こぶん)が枯枝(かれえだ)や木(こ)の葉(は)を掻(か)き集(あつ)めて山(やま)のやうに積(つ)んだ。117火(ひ)は益々(ますます)燃(も)え上(あが)り、118四辺(あたり)は昼(ひる)の如(ごと)くなつて仕舞(しま)つた。
119与三(よさ)『これこれお愛(あい)さま、120どうだな。121もう思案(しあん)が付(つ)きましたかなア。122よもやこれだけ威勢(ゐせい)の強(つよ)い三公(さんこう)さまを夫(をつと)にもつのを嫌(いや)とは云(い)ひますまいねえ』
123お愛(あい)『エヽ汚(けが)らはしい又(また)しても又(また)してもそんな事(こと)を云(い)うてお呉(く)れるな。124誰(たれ)が此(この)様(やう)な悪人(あくにん)に靡(なび)くものがありますかい。125些(ちつ)と三公(さんこう)の面(つら)と御(ご)相談(さうだん)なさいませ。126仮令(たとへ)乾児(こぶん)は尠(すくな)うても、127武野村(たけのむら)の侠客(けふかく)虎公(とらこう)さまと云(い)つたら、128界隈(かいわい)に名(な)の響(ひび)いた、129善(ぜん)を勧(すす)め悪(あく)を誡(いまし)め、130弱(よわ)きを助(たす)け強(つよ)きを挫(くじ)く侠客(けふかく)だ。131此(この)お愛(あい)は痩(やせ)てもこけても虎公(とらこう)さまの女房(にようばう)だ……否(い)やと云(い)ふのにお前(まへ)は諄(くど)い、132一度(いちど)いやなら何時(いつ)もいや……と云(い)ふ都々逸(どどいつ)の文句(もんく)ぢやないが腸(はらわた)まで染(し)み込(こ)んだこの嫌(きら)いが、133どうして洗(あら)ひさらはるものか。134そんな事(こと)いつ迄(まで)も掛(か)け合(あ)つて居(ゐ)るよりも早(はや)く殺(ころ)しなさい。135牛糞(うしぐそ)に火(ひ)のついたやうに、136クスクスと埒(らち)の明(あ)かぬ野郎(やらう)だなア』
137与三(よさ)『オイお愛(あい)の姐貴(あねき)、138ほんとに太(ふと)い度胸(どきよう)だなア。139俺(おれ)もすつかり感服(かんぷく)して仕舞(しま)つた。140こんな姐貴(あねき)を親分(おやぶん)にもつた乾児(こぶん)共(ども)は幸福(しあはせ)な事(こと)だらう。141俺(おれ)も同(おな)じ事(こと)ならこんな親分(おやぶん)が持(も)ちてえワ』
142三公(さんこう)『これやこれや与三(よさ)、143それや何(なに)を云(い)ふのだ』
144与三(よさ)『ヘイ、145うつかりと心(こころ)を空(むな)しうして居(ゐ)たものだから、146兼公(かねこう)の生霊(いきりやう)奴(め)、147与三公(よさこう)の肉体(にくたい)へ入(はい)りやがつて、148こんな事(こと)を吐(ぬか)しやがるのです。149イヤもう困(こま)つた野郎(やらう)でげすわい』
150三公(さんこう)『是(これ)から些(ちつ)と気(き)をつけないと、151悪魔(あくま)に憑依(ひようい)されて忽(たちま)ち兼公(かねこう)のやうに心機(しんき)一転(いつてん)し、152こんな目(め)に遇(あ)はなければならないぞ』
153与三(よさ)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。154今後(こんご)はキツと注意(ちゆうい)を致(いた)します。155時(とき)に親分(おやぶん)、156此処(ここ)へ来(き)よつた高山彦(たかやまひこ)と云(い)ふ餓鬼(がき)ア一体(いつてい)どこの奴(やつ)でせう』
157三公(さんこう)『どこの奴(やつ)でも構(かま)やしねえ。158叩(たた)き伸(の)ばして埋(う)めて仕舞(しま)へばいいのだ。159兼公(かねこう)も序(ついで)に埋(う)めてやれ』
160与三(よさ)『モシ親分(おやぶん)、161兼公(かねこう)丈(だけ)や許(ゆる)してやつて下(くだ)さいな。162彼奴(あいつ)も中々(なかなか)親分(おやぶん)の為(ため)には蔭(かげ)になり日向(ひなた)になり、163力(ちから)を尽(つく)した奴(やつ)ですからなア。164親分(おやぶん)がこれだけ顔(かほ)が売(う)れたのも、165兼公(かねこう)の斡旋(あつせん)預(あづか)つて大(おほい)に力(ちから)ありと云(い)つても宜(よろ)しい』
166 兼公(かねこう)は此(この)問答(もんだふ)を聞(き)き、167手足(てあし)を縛(しば)られた儘(まま)声(こゑ)をかけ、
168兼公『モシ親分(おやぶん)、169此(この)縄(なは)を解(と)いて下(くだ)さい。170最前(さいぜん)は大変(たいへん)にお腹(はら)を立(た)てさせましたが、171あれや俺(わつち)が云(い)つたのぢやない、172虎公(とらこう)の生霊(いきりやう)奴(め)がフイと憑(うつ)りやがつて、173俺(わつち)の口(くち)を借(か)り、174あんな事(こと)云(い)つたのですよ。175俺(わつち)は真実(ほんと)に迷惑(めいわく)でげす』
176与三(よさ)『兼公(かねこう)、177気(き)がついたか。178アヽ結構(けつこう)々々(けつこう)。179確(しつか)りせないと又(また)、180虎公(とらこう)の霊(れい)に憑(つ)かれるぞ。181なア親分(おやぶん)さま、182兼公(かねこう)の縄(なは)を解(と)いてやりませうか』
183三公(さんこう)『マア待(ま)て待(ま)て、184さう慌(あわて)るにや及(およ)ばない。185それよりも、186早(はや)くお愛(あい)に結局(けつきよく)の話(はなし)を極(き)めさせて呉(く)れ、187それが第一(だいいち)の目的(もくてき)だから……』
188兼公(かねこう)『オイ与三公(よさこう)、189貴様(きさま)一人(ひとり)ぢや覚束(おぼつか)ないぞ。190俺(おれ)も加勢(かせい)をしてやるから、191早(はや)く此(この)縄(なは)を解(と)けい』
192三公(さんこう)『オイ与三(よさ)、193俺(おれ)の命令(めいれい)が下(くだ)る迄(まで)決(けつ)して解(と)いちやならぬぞ。194此奴(こいつ)はどうしても二心(ふたごころ)だから、195些(ち)つとも油断(ゆだん)は出来(でき)やしねえ』
196与三(よさ)『オイ兼公(かねこう)、197貴様(きさま)の聞(き)く通(とほ)りだ、198親分(おやぶん)の云(い)ふ通(とほ)りだ、199俺(おれ)も此(この)通(とほ)りだ。200仕方(しかた)がねえや、201まア暫(しばら)く其処(そこ)に辛抱(しんばう)するがよい』
202三公(さんこう)『オイ与三公(よさこう)、203お梅(うめ)の阿魔(あま)ツちよが居(を)らぬぢやねえか。204彼奴(あいつ)に逃(に)げられちや大変(たいへん)だぞ』
205与三(よさ)『ヤア如何(いか)にもお梅(うめ)の奴(やつ)、206いつの間(ま)に風(かぜ)を喰(くら)つて逃(に)げよつたのかな。207何(なん)と機敏(すばしこ)いやつだなア。208彼奴(あいつ)が此(この)事(こと)を虎公(とらこう)にでも報告(はうこく)しようものなら夫(それ)こそ大変(たいへん)だ。209オイ乾児(こぶん)の奴(やつ)等(ら)、210早(はや)くお梅(うめ)の後(あと)を追(お)つかけて探(さが)して来(こ)い』
211勘公(かんこう)『鼻(はな)を摘(つま)まれても分(わか)らねえやうな、212真(しん)の闇(やみ)に探(さが)しに往(い)つたつて分(わか)りませうか。213此処(ここ)には灯(ひ)があるから足許(あしもと)が見(み)えるが、214一町(いつちやう)先(さき)は真闇(まつくら)がりだ。215明朝(あす)の事(こと)にしたらどうでげせうな』
216与三(よさ)『それもさうだ。217仕方(しかた)がねえなア。218もし親分(おやぶん)さま、219明朝(あす)悠(ゆつ)くり探(さが)す事(こと)にしませうか。220虎公(とらこう)の野郎(やらう)も、221六(ろく)があれだけの手下(てした)を連(つ)れて行(い)つたのだから、222もう今頃(いまごろ)は寂滅(じやくめつ)為楽(ゐらく)になつて居(ゐ)るのは鏡(かがみ)にかけて見(み)るやうなものでげせう。223虎公(とらこう)なんぞに気遣(きづかひ)はいりますまい』
224三公(さんこう)『いやいや、225彼奴(あいつ)も中々(なかなか)の強者(しれもの)だ。226さう闇々(やみやみ)と斃(くた)ばりもしよまい。227余(あま)り楽観(らくくわん)は出来(でき)まいぞ。228併(しか)し乍(なが)ら此(この)暗夜(やみよ)では仕方(しかた)が無(な)い。229まアまア明朝(あす)の事(こと)にしたがよからう』
230お愛(あい)『コラ三公(さんこう)、231与三公(よさこう)、232何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)るのだ。233早(はや)く此(この)お愛(あい)を片付(かたづ)けないか。234辛気臭(しんきくさ)いワイ。235其(その)代(かは)りに今(いま)其処(そこ)へ見(み)えた高山彦(たかやまひこ)さまとやらを助(たす)けてやつて呉(く)れ。236些(ち)つとも関係(くわんけい)ない人(ひと)だから気(き)の毒(どく)で堪(たま)らねえから……』
237与三(よさ)『エイ、238お愛(あい)さま、239他人(ひと)の事(こと)ども云(い)ふ所(どころ)ぢやあるまいぞ。240お汝(まへ)さま生死(せいし)の境(さかひ)に立(た)つて居(ゐ)て、241そんな気楽(きらく)の事(こと)を云(い)つて居(を)れるものかい』
242お愛(あい)『ホヽヽヽヽこれ与三(よさ)何(なに)を呆(はう)けた事(こと)を云(い)ふのだい。243生死(せいし)一如(いちによ)だ此(この)肉体(にくたい)は仮令(たとへ)虎(とら)狼(おほかみ)の餌食(ゑじき)にならうとも、244肝腎要(かんじんかなめ)のお愛(あい)さまの御魂(みたま)は、245万劫(まんがふ)末代(まつだい)生通(いきどほ)しだ。246早(はや)く殺(ころ)しなさい。247その代(かは)り幽冥界(いうめいかい)へ行(い)つたら数多(あまた)の亡者(まうじや)を手下(てした)に使(つか)ひ餓鬼(がき)も人数(にんず)の中(うち)、248沢山(たくさん)の乾児(こぶん)を引(ひ)き連(つ)れてお前(まへ)さまの生首(なまくび)を貰(もら)ひに来(く)るから、249それを楽(たの)しみに早(はや)くお愛(あい)をやつつけて仕舞(しま)ひなさい』
250与三(よさ)『もし親分(おやぶん)、251どうにもかうにも取(と)りつく島(しま)がありませぬわ。252命(いのち)を捨(す)ててかかつとる女(をんな)に何程(なにほど)脅喝(おどし)文句(もんく)を並(なら)べても豆腐(とうふ)に鎹(かすがひ)糠(ぬか)に釘(くぎ)だ。253どうしませうかなア』
254三公(さんこう)『可愛(かあい)さうなものだが仕方(しかた)がない。255思(おも)ひ切(き)つて殺(やつ)つけて仕舞(しま)へ』
256お愛(あい)『これ三公(さんこう)、257置(お)いて下(くだ)さい。258可愛(かあい)さうなものだなんて、259何(なん)とした弱音(よわね)を吹(ふ)くのだい。260此(この)お愛(あい)はお前(まへ)のやうな悪垂(あくたれ)男(をとこ)に、261可愛(かあい)さうだなんてそんな汚(けが)らはしい事(こと)を云(い)はれると、262小癪(こしやく)に触(さは)つてならないのだよ。263虎公(とらこう)さまがいつもいつも可愛(かあい)い女(をんな)だと、264連発(れんぱつ)的(てき)に云(い)つて下(くだ)さるのだから、265ヘン、266そんな馬鹿口(ばかぐち)はやめて下(くだ)さい。267それよりも侠客(けふかく)で立(た)つてゆかうと思(おも)へば、268もつと気(き)を強(つよ)く持(も)たねえと駄目(だめ)だよ。269悪(あく)なら悪(あく)で徹底(てつてい)的(てき)に悪(あく)をやつたが好(よ)い。270改心(かいしん)をして善(ぜん)に立(た)ち帰(かへ)るのなら善一筋(ぜんひとすぢ)を行(おこな)ひなさい。271それが男(をとこ)たるものの本分(ほんぶん)だ。272気骨(きこつ)もなければ度胸(どきよう)もない空威張(からゐば)りの贋侠客(にせけふかく)が、273こんな大(だい)それた謀反(むほん)を起(おこ)すとはちつと柄(がら)に合(あ)ふめえよ』
274三公(さんこう)『云(い)はして置(お)けばどこ迄(まで)も図(づ)に乗(の)る悪垂女(あくたれおんな)奴(め)!』
275と云(い)ひながら、276拳骨(げんこつ)を固(かた)めて滅多(めつた)矢鱈(やたら)に打(う)ち据(す)ゑる。277お愛(あい)は打(う)たれたまま痛(いた)いとも痒(かゆ)いとも云(い)はず黙言(だま)つて縡切(ことぎ)れて仕舞(しま)つた。
278与三(よさ)『もし親分(おやぶん)、279とうとう斃(くたば)つて仕舞(しま)ひましたよ。280惜(を)しい事(こと)をしたものですな』
281三公(さんこう)『何(なに)惜(を)しくても仕方(しかた)がない。282他人(たにん)の花(はな)と眺(なが)めるよりも、283三公嵐(さんこうあらし)が吹(ふ)いて無残(むざん)に散(ち)らした方(はう)が、284未練(みれん)が残(のこ)らなくていいわ。285オイ愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)ると何(なに)が飛(と)び出(だ)すか知(し)れやしないぞ。286序(ついで)に今(いま)来(き)た奴(やつ)も兼公(かねこう)も、287息(いき)の根(ね)を止(と)めて穴(あな)でも掘(ほ)つて埋(い)けて仕舞(しま)へ』
288 与三公(よさこう)はお愛(あい)の体(からだ)を撫(な)でて見(み)て、
289与三(よさ)『ヤアまだ温(ぬくみ)がある。290何(なん)と好(よ)い肌(はだ)だな。291まるで搗(つ)きたての餅(もち)のやうだ。292虎公(とらこう)が惚(ほ)れやがつたのも無理(むり)はない。293親分(おやぶん)一寸(ちよつと)来(き)て見(み)なさい。294此(この)世(よ)の名残(なごり)にお愛(あい)の肌(はだ)を一(ひと)つ撫(な)でて見(み)たらどうですか。295余(あま)り悪(わる)い気持(きもち)もしませぬぞ』
296三公(さんこう)『馬鹿(ばか)云(い)ふな早(はや)く兼(かね)と旅(たび)の奴(やつ)とを埋(い)けて仕舞(しま)へ。297オイ皆(みな)の乾児(こぶん)共(ども)此処(ここ)に穴(あな)を掘(ほ)れ』
298と下知(げち)する。299勘州(かんしう)を始(はじ)め数多(あまた)の乾児(こぶん)共(ども)は、300携(たづさ)へて来(き)た色々(いろいろ)の得物(えもの)をもつて土(つち)を掘(ほ)り三(さん)人(にん)の縛(しば)つた体(からだ)を穴(あな)の中(なか)へ放(はう)り込(こ)み、301上(うへ)から土(つち)をきせ、302寄(よ)つて集(たか)つて足(あし)でどんどんと地固(ぢがた)めをし、303其(その)上(うへ)に沢山(たくさん)の石(いし)を拾(ひろ)つて来(き)て積(つ)み重(かさ)ねて仕舞(しま)つた。
304三公(さんこう)『アハヽヽヽとうとう三(さん)人(にん)とも果敢(はか)ない事(こと)になつて仕舞(しま)つた。305オイ皆(みな)の奴(やつ)、306水(みづ)でも手向(たむ)けてやれ。307水(みづ)が無(な)ければ貴様(きさま)の燗徳利(かんとつくり)から小便(せうべん)でも出(だ)して手向(たむ)けるのだな。308アハヽヽヽ』
309と豪傑(がうけつ)笑(わら)ひをして見(み)せる。310数多(あまた)の乾児(こぶん)は各自(めいめい)に裾(すそ)を引(ひ)きまくり、311寄(よ)つて集(たか)つて小便(せうべん)を垂(た)れかける。
312三公(さんこう)『これでまアお愛(あい)も成仏(じやうぶつ)するだらう。313オイお愛(あい)、314貴様(きさま)も残念(ざんねん)だらうが、315かうなるも前世(ぜんせ)からの因縁(いんねん)だと諦(あきらめ)てくれい。316冥途(めいど)へ往(い)つて虎公(とらこう)に遇(あ)つたら……大蛇(をろち)の三公(さんこう)は御(ご)壮健(さうけん)で燥(はしや)いで御座(ござ)る……と伝言(でんごん)をしてくれえ。317一人旅(ひとりたび)は気(き)の毒(どく)だと思(おも)つて、318俺(おれ)の乾児(こぶん)の兼公(かねこう)と風来(ふうらい)の旅人(たびびと)をお前(まへ)の途連(みちづ)れにつけてやる。319これがせめてもの俺(おれ)がお前(まへ)に対(たい)する好意(かうい)だ。320きつと冥途(めいど)に往(い)つて三公(さんこう)を恨(うら)んではならないぞ。321南無(なむ)お愛(あい)頓生(とんしやう)菩提(ぼだい)、322モウかうなつては誰(たれ)だつて何(なん)の法蓮華(ほふれんげ)経(きやう)だ。323オイ与三公(よさこう)、324帰(け)えらうぢやないか』
325と先(さき)に立(た)ち、326闇(やみ)に紛(まぎ)れて乾児(こぶん)を引(ひ)き連(つ)れ、327心地(ここち)よげに此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)つて仕舞(しま)つた。
328 最前(さいぜん)から闇(やみ)に隠(かく)れて慄(ふる)ひ慄(ふる)ひ此(この)様子(やうす)を見(み)て居(ゐ)たお梅(うめ)は、329四辺(あたり)に人(ひと)なきを見済(みす)まし、330怖々(こわごわ)此(この)場(ば)に近(ちか)よつて来(き)た。331まだ薪(たきぎ)は燃(も)えて居(ゐ)る。332その為(た)め三(さん)人(にん)を埋(うづ)めた塚(つか)はハツキリと分(わか)る。333お梅(うめ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に石(いし)を掻(か)き分(わ)けて救(すく)ひ出(だ)さうとすれども、334荒男(あらをとこ)が四五(しご)人(にん)もよつて担(かつ)いで来(き)た重(おも)い石(いし)、335押(お)せどもつけどもビクとも動(うご)かばこそ、336遂(つひ)には力(ちから)尽(つ)き脆(もろ)くも其(その)場(ば)に泣(な)き倒(たふ)れて仕舞(しま)つた。
337(大正一一・九・一四 旧七・二三 加藤明子録)
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