霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 玉(たま)の黒点(こくてん)〔九五〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第2篇 有情無情 よみ(新仮名遣い):うじょうむじょう
章:第9章 玉の黒点 よみ(新仮名遣い):たまのこくてん 通し章番号:950
口述日:1922(大正11)年09月13日(旧07月22日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
筑紫ケ岳の山脈の中心である高山峠に、四五人の男たちが車座になって座っている。
玉公という男は、昔父親が日の出神の案内をした際にいただいた家宝の水晶玉(第7巻第32章)に、このごろ黒い点が現れて、水晶玉による判じものの邪魔をして困っていると言う。黒姫が筑紫の島にやってきたことが国魂に悪い影響を与えているのではないかと疑っている。
一方、建日別命の一人娘である建能姫にこのごろ立派な婿ができ、建野ケ原の神館に後継ぎができた慶事があったことを噂し合っていた。また、玉公は黒姫は国魂に災いを及ぼす人間に違いないからといきり立っている。
そこへ黒姫が山道を一人でやってきて、筑紫の島に高山彦という宣伝使が来ていないかを尋ねた。男たちの一人・虎公は、高山彦は筑紫の島で日の出の勢いで活動しており、愛子姫という若い奥方をもらって暮らしていると答えた。
黒姫はそれを聞いてはらはらと涙をこぼし、男たちに自分が黒姫であり、高山彦の本妻であると告げた。しかし男たちは、筑紫の島の高山彦は若い男であり、釣り合わないと不審に思う。
それでも玉公は、自分は黒姫を滅ぼそうと思っていたが、神徳高い高山彦の本妻であったとなると手出しをするわけにはいかないと、黒姫にいきさつを糾す。
虎公は、黒姫が三十五年前に生き別れた男の子がいるという話を聞いて、建野ケ原の後継ぎ婿になった建国別は、ちょうど孤児であり年のころも一致することに思い至り黒姫に告げた。黒姫は、建国別が自分の息子かもしれないと思い至る。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-14 11:12:08 文字数:4748 OBC :rm3409
愛善世界社版:115頁 八幡書店版:第6輯 403頁 修補版: 校定版:121頁 普及版:47頁 初版: ページ備考:
001 筑紫(つくし)ケ岳(だけ)の山脈(さんみやく)の中心(ちうしん)、002高山峠(たかやまたうげ)の頂上(ちやうじやう)に四五(しご)人(にん)の男(をとこ)、003車座(くるまざ)になつて何事(なにごと)か囁(ささや)き乍(なが)ら、004白黒(しろくろ)の石(いし)を砂(すな)の上(うへ)に並(なら)べ、005烏鷺(うろ)を争(あらそ)うてゐる。
006甲(かふ)(玉公)『どうも斯(か)うも此(この)黒(くろ)がしぶとうて、007邪魔(じやま)んなつて仕方(しかた)がない。008此奴(こいつ)一(ひと)つ殺(ころ)して了(しま)ふと後(あと)は大勝利(だいしようり)になるんだがなア』
009乙(おつ)(虎公)『馬鹿(ばか)言(い)へ、010此(この)世(よ)の中(なか)は苦労(くらう)(黒(くろ))が肝腎(かんじん)だ。011苦労(くらう)なしに物事(ものごと)が成就(じやうじゆ)すると思(おも)ふか』
012甲(かふ)(玉公)『すべての汚濁(をだく)や曇(くも)りや、013塵(ちり)芥(あくた)を除(のぞ)き去(さ)つた純白(じゆんぱく)の此(この)石(いし)は、014丸(まる)で神(かみ)様(さま)の御霊(みたま)の様(やう)なものだ。015能(よ)く見(み)よ、016中(なか)迄(まで)水晶(すゐしやう)の様(やう)に透(す)き通(とほ)つてゐるぢやないか。017俺(おれ)の爺(おやぢ)は昔(むかし)日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が火(ひ)の国(くに)へ御(お)出(い)でになつた時(とき)、018御(ご)案内(あんない)申(まを)した御(お)礼(れい)として、019水晶玉(すいしやうだま)を下(くだ)さつたが[※これは第7巻第32章「水晶玉」に出るエピソード]、020今(いま)に俺(おれ)ん所(とこ)の家宝(かほう)として、021大切(たいせつ)に保存(ほぞん)してあるが、022其(その)水晶玉(すいしやうだま)の前(まへ)に行(い)つて、023何(なん)でも御(お)尋(たづ)ねすると、024宇宙(うちう)の森羅(しんら)万象(ばんしやう)がスツカリ映(うつ)るのだ。025それに此(この)頃(ごろ)は如何(どう)したものか、026二三(にさん)日前(にちまへ)から水晶玉(すいしやうだま)の一部(いちぶ)に黒点(こくてん)が出来(でき)よつて、027非常(ひじやう)に見(み)つともなくなり、028九分(くぶ)九厘(くりん)と云(い)ふ所(ところ)迄(まで)は何事(なにごと)も判然(はんぜん)と分(わか)らして貰(もら)へるが、029其(その)一厘(いちりん)の黒点(こくてん)の為(ため)に遺憾(ゐかん)乍(なが)ら、030十分(じふぶん)の判断(はんだん)がつかなくなつて了(しま)つたのだ。031それだから黒(くろ)は面白(おもしろ)くない、032殺(ころ)して了(しま)へと云(い)ふのだよ。033黒(くろ)い奴(やつ)に碌(ろく)なものがあるかい、034三五教(あななひけう)の黒姫(くろひめ)とかいふ真黒(まつくろ)けの婆(ばば)アが、035何(なん)でも此(この)筑紫島(つくしじま)へ渡(わた)つて来(き)よつたに違(ちがひ)ないのだ。036さうでなければ、037国玉(くにたま)とも譬(たと)ふべき水晶玉(すいしやうだま)に黒点(こくてん)が現(あら)はれる筈(はず)がない。038それで今(いま)此処(ここ)でお前(まへ)達(たち)と白黒(しろくろ)の勝負(しようぶ)を闘(たたか)はしたのも、039一(ひと)つは水晶玉(すいしやうだま)が如何(どう)なるか、040黒姫(くろひめ)が果(はた)して此(この)国(くに)の邪魔(じやま)をするか……と云(い)ふ事(こと)を卜(うら)なつたのだ。041どうしても此(この)黒(くろ)い石(いし)が邪魔(じやま)になつて仕方(しかた)がないワイ』
042丙(へい)『此(この)黒(くろ)い石(いし)を殺(ころ)すと云(い)つたつて、043元(もと)から鉱物(くわうぶつ)だ。044動植物(どうしよくぶつ)と違(ちが)つて、045生命(いのち)をとる訳(わけ)にも行(ゆ)かず、046斬(き)り倒(たふ)して枯(か)らす訳(わけ)にも行(ゆ)かぬぢやないか』
047甲(かふ)(玉公)『それよりも、048建野(たけの)ケ原(はら)の神館(かむやかた)の建能姫(たけのひめ)さまは、049此(この)頃(ごろ)立派(りつぱ)な婿(むこ)様(さま)が出来(でけ)たぢやないか。050何(なん)でも建国別(たけくにわけ)と云(い)ふ立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だと聞(き)いたがなア』
051丙(へい)『建能姫(たけのひめ)さまは建日(たけひ)の岩窟(がんくつ)に館(やかた)を構(かま)へて御座(ござ)つた建日別(たけひわけの)命(みこと)の一人娘(ひとりむすめ)で、052永(なが)らく神(かみ)様(さま)の道(みち)を宣伝(せんでん)してゐられたが、053余(あま)り男(をとこ)が沢山(たくさん)に参拝(さんぱい)して酒(さけ)に酔(よ)うた揚句(あげく)、054其(その)美貌(びばう)に現(うつつ)をぬかし、055何(なん)だかだと言(い)ひ寄(よ)つて、056蒼蝿(うるさ)くて堪(た)まらないから、057独身(どくしん)主義(しゆぎ)を執(と)つて居(を)られた建能姫(たけのひめ)さまも、058到頭(たうとう)決心(けつしん)なさつて、059建野(たけの)ケ原(はら)へ宿替(やどが)へをなされたのだよ』
060乙(おつ)(虎公)『貴様(きさま)も建能姫(たけのひめ)に肱鉄(ひぢてつ)を喰(く)はされた一人(ひとり)だらう……否(いや)一人(ひとり)でなくて猥褻(わいせつ)行為(かうゐ)犯人(はんにん)だらう、061アハヽヽヽ』
062丙(へい)『馬鹿(ばか)を言(い)ふない。063建能姫(たけのひめ)さまは体中(からだぢう)から何(なん)とも云(い)へぬ水晶玉(すいしやうだま)の様(やう)な光(ひかり)が絶(た)えず放射(はうしや)してゐるのだから、064到底(たうてい)吾々(われわれ)凡夫(ぼんぶ)がお側(そば)へでも寄(よ)りつかうものなら、065夫(そ)れこそ目(め)が潰(つぶ)れて了(しま)ふワ。066何(なん)でも色(いろ)の黒(くろ)い、067鼻(はな)の曲(まが)がつた男(をとこ)が、068水晶玉(すいしやうだま)を懐(ふところ)に入(い)れて行(ゆ)きよつてなア、069建能姫(たけのひめ)さまに面会(めんくわい)し……これは吾(わが)家(や)に伝(つた)はる重宝(ぢうほう)で御座(ござ)います、070これを貴女(あなた)に献上(けんじやう)致(いた)します……としたり顔(がほ)に差出(さしだ)した所(ところ)、071建能姫(たけのひめ)様(さま)は厭(いや)相(さう)な顔付(かほつき)し乍(なが)ら、072ソツと手(て)に受取(うけと)り、073クルクルと転(ころ)がして見(み)て……ハハー此(この)水晶玉(すいしやうだま)には恋慕(れんぼ)と云(い)ふ執着心(しふちやくしん)の黒点(こくてん)が現(あら)はれてゐるから、074折角(せつかく)乍(なが)ら御(お)返(かへ)し申(まを)します……と無下(むげ)につき返(かへ)された馬鹿者(ばかもの)があると云(い)ふ事(こと)だ。075それで其(その)男(をとこ)は玉(たま)の黒点(こくてん)が気(き)になつて堪(たま)らず、076何(ど)うぞして此(この)黒点(こくてん)が除(と)れたならば、077建能姫(たけのひめ)様(さま)に献(たてまつ)り、078歓心(くわんしん)を買(か)うて、079ソツと婿(むこ)にならうと云(い)ふ野心(やしん)があるのだ。080其(その)野心(やしん)が除(と)れぬ間(あひだ)は、081何程(なにほど)日(ひ)の出神(でのかみ)から頂(いただ)いた水晶玉(すいしやうだま)でも其(その)黒点(こくてん)は除(と)れはせないよ』
082と言(い)ひ乍(なが)ら、083稍(やや)冷笑(れいせう)気味(ぎみ)に甲(かふ)の顔(かほ)をグツと見上(みあ)げる。084甲(かふ)は電気(でんき)にでも打(う)たれた様(やう)に胸(むね)を轟(とどろ)かせ乍(なが)ら、085顔(かほ)を赤(あか)らめて沈黙(ちんもく)に入(い)る。
086丁(てい)『それで玉公(たまこう)が、087黒姫(くろひめ)がどうの斯(か)うのと言(い)つて居(ゐ)やがるのだな。088白石(しろいし)が負(ま)けて黒石(くろいし)が勝(か)つた時(とき)、089掌中(しやうちう)の玉(たま)を取(と)られた様(やう)な顔色(がんしよく)をしよつたと思(おも)うたら、090そんな深遠(しんゑん)な計略(けいりやく)があつたのか、091アハヽヽヽ、092……忍(しの)ぶれど色(いろ)に出(で)にけり吾(わが)恋(こひ)は、093物(もの)や思(おも)うと人(ひと)の問(と)ふ迄(まで)……とか云(い)ふ百人(ひやくにん)一首(いつしゆ)の歌(うた)そつくりだな』
094乙(おつ)(虎公)『オイ玉公(たまこう)、095そんな曇(くも)りのある水晶玉(すいしやうだま)は、096貴様(きさま)ん所(とこ)の不吉(ふきつ)だから、097いい加減(かげん)に川(かは)へでも投(な)げ込(こ)んで了(しま)つたら如何(どう)だ。098災(わざはひ)の来(きた)る前(まへ)にはキツト宝(たから)の表(おもて)に黒(くろ)い影(かげ)がさすと云(い)ふ事(こと)だ。099人間(にんげん)の面体(めんてい)だつて、100凶事(きようじ)の来(きた)る前(まへ)は、101どこともなしに、102黒(くろ)ずんだ斑点(はんてん)が現(あら)はれるのだからなア』
103 甲(かふ)は力(ちから)無(な)げに、
104玉公(たまこう)『捨(す)てよといつた所(ところ)で、105爺(おやぢ)の言(い)ひ付(つ)け、106どんな事(こと)があつても、107此(この)玉(たま)は吾(わが)家(や)を出(だ)す事(こと)は出来(でき)ぬ。108それ共(とも)尊(たふと)き神(かみ)様(さま)が現(あら)はれなさつたならば献上(けんじやう)して良(よ)いが、109決(けつ)して人(ひと)に売(う)つたり譲(ゆづ)つたり、110捨(す)てちやならぬと、111死(し)んだ爺(おやぢ)の遺言(ゆゐごん)だから、112俺(おれ)の自由(じいう)にはならないのだ。113建能姫(たけのひめ)様(さま)が御(お)受取(うけと)り下(くだ)さらねば、114もう仕方(しかた)がない、115此(この)玉(たま)の黒点(こくてん)が除(と)れる迄(まで)、116御(ご)祈願(きぐわん)をこらして身(み)を慎(つつし)むより、117俺(おれ)には方法(はうはふ)がないのだ。118併(しか)し俺(おれ)の考(かんが)ヘでは、119如何(どう)しても此(この)筑紫島(つくしじま)へ黒姫(くろひめ)がやつて来(き)たに違(ちがひ)ない、120本当(ほんたう)に困(こま)つた奴(やつ)が来(き)たものだ。121日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)のやうな方(かた)がお出(い)でになれば、122此(この)玉(たま)は益々(ますます)光(ひか)り輝(かがや)くのだが、123黒点(こくてん)が次第(しだい)々々(しだい)に拡(ひろ)がつて、124此(この)頃(ごろ)では半透明(はんとうめい)に曇(くも)つて了(しま)つた。125あの玉(たま)の黒点(こくてん)から考(かんが)へて見(み)ると、126どうしても黒姫(くろひめ)と云(い)ふ奴(やつ)、127今日(けふ)此(この)頃(ごろ)は此(この)峠(たうげ)のあたりへ近付(ちかづ)いて来(く)る象徴(かたち)が見(み)える。128それで実(じつ)の所(ところ)はお前(まへ)達(たち)を無花果(いちじゆく)取(と)りにかこつけて、129ここ迄(まで)誘(さそ)うて来(き)たのだ。130其(その)序(ついで)に、131白黒石(しろくろいし)の勝負(しようぶ)をやつて見(み)たのだ。132こりや如何(どう)しても黒(くろ)が障(さは)つてゐる。133黒姫(くろひめ)を……否(いや)黒石(くろいし)を叩(たた)き割(わ)つて了(しま)はねば、134此(この)国(くに)はサツパリ駄目(だめ)だよ。135水晶玉(すいしやうだま)の筑紫(つくし)の島(しま)がサツパリ泥水(どろみづ)になつちや堪(たま)らない。136国魂(くにたま)の神(かみ)様(さま)は此(この)世(よ)を水晶(すゐしやう)に御(お)澄(すま)し遊(あそ)ばす純世姫(すみよひめの)命(みこと)だ。137俺(おれ)ん所(とこ)の秘蔵(ひざう)の水晶玉(すいしやうだま)は、138言(い)はば純世姫(すみよひめ)様(さま)の国玉(くにたま)だ。139どうかして黒(くろ)と名(な)のつく物(もの)は亡(ほろ)ぼして了(しま)はなくちや、140国家(こくか)の一大事(いちだいじ)だよ』
141丁(てい)『そんな小(ちつ)ぽけな水晶玉(すいしやうだま)に、142広大(くわうだい)無辺(むへん)のアフリカの国魂神(くにたまがみ)様(さま)が憑(うつ)つて御座(ござ)るとは、143チと理屈(りくつ)が合(あは)ぬぢやないか』
144玉公(たまこう)『馬鹿(ばか)云(い)ふな。145伸縮(しんしゆく)自在(じざい)の活動(くわつどう)を遊(あそ)ばすのが、146所謂(いはゆる)神(かみ)様(さま)の御(ご)高徳(かうとく)だ。147至大(しだい)無外(むぐわい)、148至小(しせう)無内(むない)、149無遠近(むゑんきん)、150無広狭(むくわうけふ)、151無明暗(むめいあん)、152過去(くわこ)、153現在(げんざい)、154未来(みらい)を只(ただ)一塊(いつくわい)の水晶玉(すいしやうだま)に集(あつ)めて、155俺(おれ)達(たち)が掌(てのひら)で玉(たま)を転(ころ)がす様(やう)に、156自由(じいう)自在(じざい)になさるのが神(かみ)様(さま)だ。157其(その)神(かみ)様(さま)の御霊(みたま)があの様(やう)に曇(くも)りかけたのだから、158吾々(われわれ)筑紫島(つくしじま)の人間(にんげん)はウカウカしては居(を)られないのだ。159お前(まへ)達(たち)は直(すぐ)に建能姫(たけのひめ)様(さま)に俺(おれ)が恋慕(れんぼ)をして居(を)る様(やう)に、160妙(めう)な所(ところ)へ凡夫心(ぼんぷごころ)を発揮(はつき)しよるが、161そんな陽気(やうき)な事(こと)ぢやない。162今(いま)に地異(ちい)天変(てんぺん)が何時(いつ)突発(とつぱつ)するか分(わか)つたものぢやないぞ。163最前(さいぜん)の暴風雨(ばうふうう)だつて、164茲(ここ)二十(にじふ)年(ねん)や三十(さんじふ)年(ねん)、165聞(き)いた事(こと)がない荒(あ)れ方(かた)ぢやないか。166大(おほ)きな岩(いは)が木(こ)の葉(は)の如(ごと)くドンドンと降(ふ)つて来(く)る、167大木(たいぼく)は根(ね)から倒(たふ)れる、168木(き)の枝(えだ)は裂(さ)ける、169無花果(いちじゆく)の様(やう)な雨(あめ)が降(ふ)る。170よく考(かんが)へて見(み)よ。171こりや決(けつ)して只(ただ)事(こと)ぢやないぞ』
172 斯(か)く話(はな)す所(ところ)へ、173蓑笠(みのかさ)草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)に金剛杖(こんがうづゑ)の軽(かる)き扮装(いでたち)にて、174コツンコツンと、175坂路(さかみち)を叩(たた)き乍(なが)ら登(のぼ)つて来(く)る一人(ひとり)の中婆(ちうばば)アがあつた。176此(こ)れは言(い)はずと知(し)れた三五教(あななひけう)の黒姫(くろひめ)である。
177 黒姫(くろひめ)は漸(やうや)く頂上(ちやうじやう)に登(のぼ)り詰(つ)め、178ヤツと一安心(ひとあんしん)したものの如(ごと)く、179左(ひだり)の手(て)に金剛杖(こんがうづゑ)を固(かた)く握(にぎ)り体(からだ)をグツト支(ささ)へ、180右(みぎ)の手(て)の拳(こぶし)を固(かた)めて、181腰(こし)を三(み)つ四(よ)つ打(う)ち叩(たた)き、
182黒姫『アーア』
183と云(い)ひ乍(なが)ら、184グツと背伸(せの)びをした途端(とたん)に、185五(ご)人(にん)の男(をとこ)が車座(くるまざ)になつて、186何(なに)か囁(ささや)いてゐるのに目(め)がつき、187黒姫(くろひめ)は、
188黒姫『モシモシそこに御座(ござ)るお若(わか)い御(お)方(かた)、189一寸(ちよつと)物(もの)をお尋(たづ)ね致(いた)しますが、190火(ひ)の国(くに)には高山彦(たかやまひこ)といふ尊(たふと)い宣伝使(せんでんし)が御(お)見(み)えになつてをると云(い)ふことを、191お聞(き)きぢや御座(ござ)いませぬか』
192乙(おつ)(虎公)『何処(どこ)の婆(ばば)アか知(し)らぬが、193此(この)山路(やまみち)を大胆(だいたん)至極(しごく)にも一人旅(ひとりたび)とは如何(どう)したものだ。194高山彦(たかやまひこ)様(さま)の身(み)の上(うへ)を尋(たづ)ねて、195お前(まへ)は何(なん)とする考(かんが)へだ』
196丙(へい)『オイ虎公(とらこう)、197余(あま)りぞんざいな物(もの)言(い)ひをしちやならぬよ。198高山彦(たかやまひこ)様(さま)のお母(か)アさまかも知(し)れないからなア』
199虎公(とらこう)『モシモシ貴女(あなた)は御(ご)子息(しそく)の所在(ありか)を尋(たづ)ねて、200はるばる此処迄(ここまで)、201御(お)出(い)でになつたのですか』
202黒姫(くろひめ)『イエイエ私(わたくし)は高山彦(たかやまひこ)の妻(つま)で御座(ござ)います。203夫(をつと)の後(あと)を慕(した)うて此処迄(ここまで)参(まゐ)りました。204高山彦(たかやまひこ)さまは御(ご)無事(ぶじ)でゐらつしやいますかな』
205虎公(とらこう)『御(ご)無事(ぶじ)も御(ご)無事(ぶじ)、206夫(それ)は夫(それ)は大変(たいへん)な勢(いきほ)ひだ。207乍併(しかしながら)、208お前(まへ)さまが高山彦(たかやまひこ)様(さま)の女房(にようばう)とはチツと合点(がてん)のゆかぬ話(はなし)だ。209愛子姫(あいこひめ)様(さま)といふ立派(りつぱ)な奥様(おくさま)が御座(ござ)るのに、210お前(まへ)の様(やう)な腰(こし)の曲(まが)りかけた婆(ば)アさまを女房(にようばう)にお持(も)ちなさるとは、211チツと可笑(をか)しいぢやないか、212ソリヤ大方(おほかた)人違(ひとちがひ)だらう。213俺(おら)又(また)そんな年老(としよ)りが男(をとこ)の後(あと)を慕(した)うて来(く)ると云(い)ふ事(こと)は、214昔(むかし)から聞(き)いた事(こと)がない、215息子(むすこ)の間違(まちがひ)ぢやないかな』
216黒姫(くろひめ)『私(わたし)も息子(むすこ)があつたのだけれど、217若(わか)い時(とき)に世間(せけん)の外聞(ぐわいぶん)が悪(わる)いと云(い)つて、218四辻(よつつじ)に捨(す)て、219人(ひと)に拾(ひろ)はしたのだ。220其(その)天罰(てんばつ)で夫(をつと)には別(わか)れる、221吾(わが)子(こ)の行方(ゆくへ)は知(し)れず、222年(とし)は追々(おひおひ)寄(よ)つてくる、223自分(じぶん)の子(こ)はなし、224力(ちから)とするのは神(かみ)様(さま)と高山彦(たかやまひこ)の夫(をつと)計(ばか)りだ。225其(その)高山彦(たかやまひこ)さまに若(わか)い女房(にようばう)があるとは、226嘘(うそ)ぢや御座(ござ)いますまいかなア』
227虎公(とらこう)『決(けつ)して嘘(うそ)は言(い)ひませぬ。228一言(ひとこと)でも嘘(うそ)を言(い)はふものなら、229国魂神(くにたまがみ)様(さま)の罰(ばち)が当(あた)つて、230忽(たちま)ち口(くち)が歪(ゆが)んで了(しま)ひます。231此(この)熊襲(くまそ)の国(くに)の人間(にんげん)に口(くち)が歪(ゆが)んだ奴(やつ)の多(おほ)いのは、232皆(みな)嘘(うそ)を言(い)つて神罰(しんばつ)を受(う)けた奴(やつ)計(ばか)りですよ、233なア新公(しんこう)』
234新公(しんこう)『オウそうともそうとも、235恐(おそ)ろしいて、236嘘(うそ)のウの字(じ)も言(い)はれたものぢやない』
237黒姫(くろひめ)『あゝそうですかなア。238折角(せつかく)此処迄(ここまで)長(なが)の海山(うみやま)越(こ)え、239やつて来(き)た黒姫(くろひめ)の心(こころ)も知(し)らずに、240高山(たかやま)さまとした事(こと)が、241若(わか)い女(をんな)を女房(にようばう)に有(も)つとは、242余(あま)り没義道(もぎだう)だ。243チツとは私(わたし)の心(こころ)も推量(すゐりやう)してくれても能(よ)かりさうなものだのに。244あゝ如何(どう)しようかな。245進(すす)みもならず退(しりぞ)きもならず、246困(こま)つたことになつて来(き)たワイ』
247と涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し、248立(た)つた儘(まま)、249歎(なげ)きに沈(しづ)んで居(ゐ)る。
250玉公(たまこう)『コレコレお婆(ば)アさま、251お前(まへ)さまは今(いま)、252黒姫(くろひめ)だと言(い)ひましたねえ』
253黒姫(くろひめ)『ハイ、254火(ひ)の国(くに)の都(みやこ)にまします高山彦(たかやまひこ)の宣伝使(せんでんし)の真(まこと)の女房(にようばう)で御座(ござ)います』
255玉公(たまこう)『ハテ困(こま)つた事(こと)が出来(でき)て来(き)た。256私(わたし)は此(この)黒姫(くろひめ)を亡(ほろ)ぼしてやらねば、257此(この)国(くに)が泥海(どろうみ)になつて了(しま)ふと、258水晶玉(すいしやうだま)の知(し)らせに依(よ)つて此処迄(ここまで)やつて来(き)て待(ま)つてゐたのだが、259御(ご)神徳(しんとく)高(たか)き高山彦(たかやまひこ)様(さま)の奥(おく)さまとあれば、260如何(どう)することも出来(でき)ない。261高山彦(たかやまひこ)様(さま)は筑紫(つくし)の島(しま)の生神(いきがみ)様(さま)、262親様(おやさま)と、263国民(こくみん)全体(ぜんたい)が尊敬(そんけい)して居(ゐ)る立派(りつぱ)な御(お)方(かた)、264其(その)奥様(おくさま)を虐(しひた)げる訳(わけ)には行(ゆ)かない。265さうすると黒姫(くろひめ)さま、266貴女(あなた)は高山彦(たかやまひこ)様(さま)の本当(ほんたう)の奥様(おくさま)に間違(まちがひ)ありませぬか』
267黒姫(くろひめ)『決(けつ)して間違(まちがひ)はありませぬ、268愛子姫(あいこひめ)と云(い)ふのは、269つまり高山彦(たかやまひこ)さまのお妾(めかけ)でせう。270一夫(いつぷ)一婦(いつぷ)の掟(をきて)の厳(きび)しい三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が、271二人(ふたり)も本妻(ほんさい)を持(も)つ道理(だうり)は有(あ)りますまい』
272玉公(たまこう)『ハテ合点(がてん)のゆかぬ事(こと)だ。273あれ丈(だけ)立派(りつぱ)な高山彦(たかやまひこ)様(さま)が、274妾(めかけ)を御(お)持(も)ちなさるとは、275何(なん)たる矛盾(むじゆん)であらう。276何程(なにほど)恋(こひ)は思案(しあん)の外(ほか)といつても、277コリヤ又(また)余(あま)りの脱線振(だつせんぶり)だ。278……モシモシ黒姫(くろひめ)さま、279貴女(あなた)は一旦(いつたん)離縁(りえん)されたのぢやありませぬか。280斯(こ)う云(い)うと失礼(しつれい)だが、281あんな立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)が、282お前(まへ)さまの様(やう)な黒(くろ)い御(お)方(かた)と夫婦(ふうふ)にならつしやるのは、283丁度(ちやうど)月(つき)と鼈(すつぽん)、284鷺(さぎ)と烏(からす)が結婚(けつこん)した様(やう)なものだから、285お前(まへ)さま自転倒(おのころ)島(じま)とやらで、286三行半(みくだりはん)を貰(もら)はしやつたのぢやありませぬか。287さうでないと、288如何(どう)しても高山彦(たかやまひこ)さまの神格(しんかく)に照(て)らし、289合点(がてん)の行(ゆ)かぬ節(ふし)が沢山(たくさん)あるのだ』
290虎公(とらこう)『モシ黒姫(くろひめ)さま、291最前(さいぜん)お前(まへ)さまは一人(ひとり)の子(こ)を捨(す)てたと仰有(おつしや)つたが、292其(その)子(こ)は今(いま)生(いき)て居(を)つたら幾(いく)つ位(くらゐ)になつてゐられますかな』
293黒姫(くろひめ)『ハイ、294今(いま)から三十五(さんじふご)年前(ねんぜん)の事(こと)、295今(いま)居(を)つたならば三十五(さんじふご)歳(さい)の血気(けつき)盛(ざか)りの立派(りつぱ)な男(をとこ)になつて居(ゐ)るだろう。296若(わか)い時(とき)は親(おや)の許(ゆる)さぬ男(をとこ)の子(こ)を拵(こしら)へて、297世間(せけん)に外聞(ぐわいぶん)が悪(わる)いと思(おも)ひ、298無残(むざん)にも四辻(よつつじ)へ捨(す)てたのだが、299今(いま)になつて考(かんがへ)えて見(み)れば実(じつ)に残念(ざんねん)なことを致(いた)しました』
300と今更(いまさら)の如(ごと)く涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し憂(うれ)ひに沈(しづ)む。
301虎公(とらこう)『建野(たけの)ケ原(はら)の神館(かむやかた)の建能姫(たけのひめ)様(さま)の御(ご)養子(やうし)に見(み)えたのは、302今年(こんねん)卅五(さんじふご)歳(さい)、303建国別(たけくにわけ)といふ立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だ。304其(その)お方(かた)も話(はなし)に依(よ)れば、305赤児(あかご)の時(とき)に捨児(すてご)をしられ、306今(いま)に両親(りやうしん)の行方(ゆくへ)が知(し)れぬので、307三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)を信(しん)じ、308一日(ひとひ)も早(はや)く誠(まこと)の父母(ふぼ)に会(あ)はして下(くだ)さいといつて、309一心(いつしん)不乱(ふらん)に信仰(しんかう)を遊(あそ)ばし、310遂(つひ)には尊(たふと)い宣伝使(せんでんし)にお成(な)りなさつたといふ事(こと)です。311今(いま)から丁度(ちやうど)一年前(いちねんまへ)だつた。312火(ひ)の国(くに)の館(やかた)の高山彦(たかやまひこ)様(さま)が御(ご)媒酌(ばいしやく)で建能姫(たけのひめ)様(さま)の御(ご)養子婿(やうしむこ)になられ、313夫婦(ふうふ)睦(むつ)まじく、314御(ご)神徳(しんとく)は日(ひ)に夜(よ)に高(たか)く、315それはそれは大変(たいへん)な勢(いきほひ)で御座(ござ)いますよ。316よもやお前(まへ)さまの捨(す)てた御(お)子(こ)さまではあろまいかなア』
317黒姫(くろひめ)『何(なに)、318建国別(たけくにわけ)の宣伝使(せんでんし)が捨児(すてご)だつたとなア。319さうして其(その)お年(とし)が卅五(さんじふご)歳(さい)、320ハテ合点(がてん)のゆかぬ事(こと)だなア』
321(大正一一・九・一三 旧七・二二 松村真澄録)
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