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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第34巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 筑紫の不知火
第1章 筑紫上陸
第2章 孫甦
第3章 障文句
第4章 歌垣
第5章 対歌
第6章 蜂の巣
第7章 無花果
第8章 暴風雨
第2篇 有情無情
第9章 玉の黒点
第10章 空縁
第11章 富士咲
第12章 漆山
第13章 行進歌
第14章 落胆
第15章 手長猿
第16章 楽天主義
第3篇 峠の達引
第17章 向日峠
第18章 三人塚
第19章 生命の親
第20章 玉卜
第21章 神護
第22章 蛙の口
第23章 動静
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第34巻(酉の巻)
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<<< 空縁
(B)
(N)
漆山 >>>
第一一章
富士咲
(
ふじさく
)
〔九五二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
篇:
第2篇 有情無情
よみ(新仮名遣い):
うじょうむじょう
章:
第11章 富士咲
よみ(新仮名遣い):
ふじさく
通し章番号:
952
口述日:
1922(大正11)年09月13日(旧07月22日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
建日館の別殿に招かれた黒姫は、建日別、建能姫とともに話し合い、実の親子かどうかの確認をしていた。
黒姫は自分の出自とこれまでの経緯を語った。黒姫は、自分の夫・高山彦を追って来たのだと明かすが、建日別は自分の師匠であり筑紫の島の神司である高山彦と、黒姫の夫という高山彦が一致せずに不審に思っている。
また、黒姫の息子は幼名を富士咲と言い、背中に富士の山のような白い痣があると聞いて、建日別は自分は黒姫の息子ではないと悟った。建日別は真珠で十の字をかたどり「東」「高」という字の彫られた守り刀と共に捨てられていたという。
黒姫はその守り刀の特徴を聞いて、以前に高姫が印としていた十の字のことが思い当った。黒姫は、高姫も若いころに身の過ちから男の子の捨て子をしたことがあることを聞いていたので、なおさら怪しんだが、推測で間違ったことを吹聴しても迷惑をかけるだけだと思い直し、建日別夫婦には高姫のことは黙っていた。
実の親子でないことがわかって三人は残念がったが、建日別、建能姫は世界を宣伝に歩いている黒姫に対して、もし何か建日別の両親に関することを聞いたなら知らせてほしいと懇願した。
黒姫は建日別夫婦の切実な願いを聞いて、自分の子供ももし健在ならばこのように母である自分を尋ねているであろうと思い当り、心に感じて懺悔の涙を流した。
そうしているところへ、門番の幾公の早とちりを真に受けた差配の健彦が幹部連を連れてやってきて、建日別に母親との再会のお祝いの言葉を述べた。建日別は、母親でないことがわかったところだと説明するが、健彦は、すでに村中に発表してしまったという。
あきれた建日別は幾公を呼ぶが、幾公もすっかり黒姫が建日別の母親だと思い込んでしまっていた。
さらにそこへ、小間使いのお種がやってきて、黒姫のお供の宣伝使が黒姫を訪ねて館にやってきたと伝えた。建日別は、すぐに奥に通すようにと伝えた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-09-19 14:06:11
OBC :
rm3411
愛善世界社版:
141頁
八幡書店版:
第6輯 413頁
修補版:
校定版:
147頁
普及版:
60頁
初版:
ページ備考:
001
一方
(
いつぱう
)
は
巍峨
(
ぎが
)
たる
高山
(
かうざん
)
を
控
(
ひか
)
へ、
002
前
(
まへ
)
には
清流
(
せいりう
)
奔
(
ほとばし
)
る
幽谷
(
いうこく
)
流
(
なが
)
れ、
003
一方
(
いつぱう
)
は
大原野
(
だいげんや
)
を
見晴
(
みは
)
らす
絶勝
(
ぜつしよう
)
の
地点
(
ちてん
)
に
建
(
た
)
てられた
建日館
(
たけひやかた
)
の
別殿
(
べつでん
)
に、
004
主客
(
しゆかく
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
鼎坐
(
ていざ
)
してヒソビソと
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
005
建国別
(
たけくにわけ
)
『
御
(
ご
)
老体
(
らうたい
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
006
よくもお
訪
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいました。
007
貴女
(
あなた
)
も
矢張
(
やつぱ
)
り
御
(
ご
)
子息
(
しそく
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
探
(
たづ
)
ねてお
廻
(
まは
)
りになつてゐると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ですが、
008
何卒
(
どうぞ
)
其
(
その
)
事情
(
じじやう
)
をお
差支
(
さしつかへ
)
なくば
簡単
(
かんたん
)
に
御
(
お
)
明
(
あ
)
かし
下
(
くだ
)
さいませぬか』
009
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイ、
010
妾
(
わたし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
011
只今
(
ただいま
)
は
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
を
)
りまする
宣伝使
(
せんでんし
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
012
或
(
あ
)
る
事情
(
じじやう
)
の
為
(
ため
)
に
此
(
この
)
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
に
遥々
(
はるばる
)
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
伴
(
とも
)
を
連
(
つ
)
れ、
013
夫
(
をつと
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
さむ
為
(
ため
)
に
参
(
まゐ
)
つたもので
御座
(
ござ
)
います。
014
さうした
処
(
ところ
)
、
015
高山峠
(
たかやまたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
で
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
が、
016
いろいろと
話
(
はなし
)
をして
居
(
を
)
るのを
承
(
うけたま
)
はれば、
017
建日
(
たけひ
)
の
館
(
やかた
)
の
建国別
(
たけくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
本年
(
ほんねん
)
三十五
(
さんじふご
)
才
(
さい
)
、
018
さうして
両親
(
りやうしん
)
の
行方
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
らず
非常
(
ひじやう
)
にお
探
(
さが
)
しになつてると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きましたので、
019
妾
(
わたし
)
も
何
(
なん
)
とはなしに
心
(
こころ
)
動
(
うご
)
き、
020
妾
(
わたし
)
の
捨
(
す
)
てた
子
(
こ
)
も
本年
(
ほんねん
)
三十五
(
さんじふご
)
才
(
さい
)
、
021
よもや
其
(
その
)
伜
(
せがれ
)
ではあるまいかと
存
(
ぞん
)
じまして、
022
御
(
お
)
取込
(
とりこみ
)
の
中
(
なか
)
をも
顧
(
かへり
)
みず
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました』
023
建国別
(
たけくにわけ
)
『
貴女
(
あなた
)
の
夫
(
をつと
)
と
申
(
まを
)
すのは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふお
名
(
な
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
024
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイ、
025
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
申
(
まを
)
します。
026
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
の
都
(
みやこ
)
に
於
(
おい
)
て、
027
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝
(
せんでん
)
をやつて
御座
(
ござ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はりまして、
028
其処
(
そこ
)
へ
探
(
たづ
)
ねに
行
(
ゆ
)
く
道
(
みち
)
すがらで
御座
(
ござ
)
います。
029
さうした
処
(
ところ
)
、
030
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
の
話
(
はなし
)
によつて、
031
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
事
(
こと
)
を
想
(
おも
)
い
出
(
だ
)
し、
032
よもや
貴方
(
あなた
)
が、
033
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
に
捨
(
す
)
てた
子
(
こ
)
ではないかと
思
(
おも
)
ひ、
034
失礼
(
しつれい
)
をも
顧
(
かへり
)
みずお
尋
(
たづ
)
ねした
次第
(
しだい
)
です』
035
建国別
(
たけくにわけ
)
『え、
036
何
(
なん
)
と
仰
(
あふせ
)
られますか。
037
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
が
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
とは、
038
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はります。
039
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
は
実
(
じつ
)
は
私
(
わたくし
)
の
御
(
お
)
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
040
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
御
(
おん
)
長女
(
ちやうじよ
)
愛子姫
(
あいこひめ
)
様
(
さま
)
をお
娶
(
めと
)
り
遊
(
あそ
)
ばし、
041
今
(
いま
)
では
夫婦
(
ふうふ
)
睦
(
むつ
)
まじく
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
され、
042
神徳
(
しんとく
)
四方
(
よも
)
に
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り、
043
飛
(
た
)
つ
鳥
(
とり
)
も
落
(
おと
)
す
勢
(
いきほひ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
044
如何
(
どう
)
して
又
(
また
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
が
貴女
(
あなた
)
と
云
(
い
)
ふ
正妻
(
せいさい
)
があるのに、
045
奥
(
おく
)
さまを
持
(
も
)
たれたのでせうか。
046
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
は
左様
(
さやう
)
な
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
的
(
てき
)
な
行為
(
おこなひ
)
をなさる
様
(
やう
)
なお
方
(
かた
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬが、
047
何
(
なに
)
かの
間違
(
まちがひ
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
048
黒姫
(
くろひめ
)
『
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
聖地
(
せいち
)
に
於
(
おい
)
て、
049
一寸
(
ちよつと
)
の
事
(
こと
)
から
夫婦
(
ふうふ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
を
致
(
いた
)
しまして、
050
夫
(
そ
)
れを
機会
(
きくわい
)
に
夫
(
をつと
)
の
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
妾
(
わたし
)
を
振捨
(
ふりす
)
て、
051
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
とかへ
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
つて
出
(
で
)
たきり、
052
今
(
いま
)
に
何
(
なん
)
の
便
(
たよ
)
りも
御座
(
ござ
)
いませぬ。
053
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
駆
(
か
)
け
着
(
つ
)
いて
人々
(
ひとびと
)
の
噂
(
うはさ
)
をきけば、
054
貴方
(
あなた
)
の
仰
(
あふ
)
せの
通
(
とほ
)
り、
055
若
(
わか
)
い
女房
(
にようばう
)
を
持
(
も
)
つて
暮
(
くら
)
して
居
(
を
)
られるとの
事
(
こと
)
、
056
到底
(
たうてい
)
妾
(
わたし
)
のやうな
婆
(
ばば
)
アが
参
(
まゐ
)
りましても
取
(
とり
)
あつて
下
(
くだ
)
さいますまい。
057
然
(
しか
)
し
折角
(
せつかく
)
此処迄
(
ここまで
)
参
(
まゐ
)
つたのですから、
058
一目
(
ひとめ
)
なりと
会
(
あ
)
ひ、
059
言
(
い
)
ひ
度
(
た
)
い
事
(
こと
)
も
言
(
い
)
ひ、
060
先方
(
せんぱう
)
の
出様
(
でやう
)
によつては
妾
(
わたし
)
も
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
061
あとに
何
(
なに
)
も
残
(
のこ
)
らぬ
様
(
やう
)
に
離縁
(
りえん
)
をして
貰
(
もら
)
ふ
考
(
かんが
)
へで
御座
(
ござ
)
います。
062
乍併
(
しかしながら
)
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
て
貴方
(
あなた
)
の
噂
(
うはさ
)
を
聞
(
き
)
き、
063
若
(
も
)
しや
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
ではあるまいかと
思
(
おも
)
ふにつけ、
064
気
(
き
)
の
多
(
おほ
)
い
夫
(
をつと
)
よりも
自分
(
じぶん
)
の
腹
(
はら
)
を
痛
(
いた
)
めた
伜
(
せがれ
)
に
出会
(
であ
)
ひ、
065
老後
(
らうご
)
をお
世話
(
せわ
)
になり
度
(
た
)
いものだと
思
(
おも
)
ひ、
066
失礼
(
しつれい
)
を
顧
(
かへり
)
みず
御
(
お
)
伺
(
うかが
)
ひを
致
(
いた
)
しました。
067
然
(
しか
)
し
違
(
ちが
)
ひますれば
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
068
建国別
(
たけくにわけ
)
『
其
(
その
)
御
(
ご
)
子息
(
しそく
)
には
何
(
なに
)
か
目印
(
めじるし
)
でも
御座
(
ござ
)
いますか』
069
黒姫
(
くろひめ
)
『はい、
070
赤児
(
あかご
)
の
時
(
とき
)
で
確
(
しつか
)
り
分
(
わか
)
りませぬが、
071
確
(
たしか
)
に
背中
(
せなか
)
の
真中
(
まんなか
)
に
白
(
しろ
)
い
痣
(
あざ
)
があり、
072
それが
富士
(
ふじ
)
の
山
(
やま
)
の
形
(
かたち
)
に
似
(
に
)
て
居
(
を
)
りますので、
073
これは
大方
(
おほかた
)
富士
(
ふじ
)
の
山
(
やま
)
の
木花
(
このはな
)
咲耶姫
(
さくやひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
生
(
うま
)
れ
替
(
が
)
はりかもしれませぬと
存
(
ぞん
)
じまして、
074
富士咲
(
ふじさく
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
をつけ……この
子供
(
こども
)
は
一寸
(
ちよつと
)
様子
(
やうす
)
あつて
此処
(
ここ
)
に
捨
(
す
)
てておきますから、
075
何卒
(
どうぞ
)
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
なりとも
慈愛
(
じあい
)
深
(
ふか
)
きお
方
(
かた
)
の
手
(
て
)
にかかり
育
(
そだ
)
てて
下
(
くだ
)
さいます
様
(
やう
)
に……と
言
(
い
)
つて
少
(
すこ
)
しのお
金子
(
かね
)
を
添
(
そ
)
へ
名
(
な
)
を
書
(
か
)
いて
捨
(
す
)
てました。
076
それつきり
伜
(
せがれ
)
は
如何
(
どう
)
なつた
事
(
こと
)
やら、
077
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
は
伜
(
せがれ
)
の
事
(
こと
)
も
何
(
なに
)
かに
紛
(
まぎ
)
れて
忘
(
わす
)
れて
居
(
ゐ
)
ましたが、
078
斯
(
こ
)
う
年老
(
としよ
)
るとそこらが
淋
(
さび
)
しくなり、
079
捨
(
す
)
てた
子
(
こ
)
は
如何
(
どう
)
なつたかと
明
(
あ
)
けても
暮
(
く
)
れても
忘
(
わす
)
れた
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
080
然
(
しか
)
し
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
ら
貴方
(
あなた
)
はさういふ
印
(
しるし
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬか』
081
建国別
(
たけくにわけ
)
『
私
(
わたくし
)
も
赤児
(
あかご
)
の
時
(
とき
)
に
両親
(
りやうしん
)
に
捨
(
す
)
てられた
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
082
自分
(
じぶん
)
の
背中
(
せなか
)
は
自分
(
じぶん
)
で
見
(
み
)
ませぬから
何
(
なん
)
とも
存
(
ぞん
)
じませぬ』
083
建能姫
(
たけのひめ
)
『
妾
(
わたし
)
が
何時
(
いつ
)
もお
背
(
せな
)
を
流
(
なが
)
しますが、
084
本当
(
ほんたう
)
に
美
(
うつく
)
しいお
身体
(
からだ
)
で、
085
黒子
(
ほくろ
)
一
(
ひと
)
つ
無
(
な
)
く
灸
(
やいと
)
の
痕
(
かた
)
一
(
ひと
)
つありませぬ。
086
況
(
ま
)
して
痣
(
あざ
)
等
(
など
)
は
何処
(
どこ
)
にも
御座
(
ござ
)
いませぬ』
087
黒姫
(
くろひめ
)
『あゝさうですかな。
088
さうすると
矢張
(
やつぱ
)
り
妾
(
わたし
)
の
尋
(
たづ
)
ねる
富士咲
(
ふじさく
)
では
御座
(
ござ
)
いますまい』
089
建国別
(
たけくにわけ
)
『
何
(
なに
)
か
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
印
(
しるし
)
に、
090
物品
(
ぶつぴん
)
でもお
添
(
そ
)
へになつた
事
(
こと
)
はありませぬか』
091
黒姫
(
くろひめ
)
『
別
(
べつ
)
に
何
(
なに
)
も
添
(
そ
)
へた
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
092
守袋
(
まもりぶくろ
)
に
木花
(
このはな
)
咲耶姫
(
さくやひめ
)
の
御
(
ご
)
神号
(
しんがう
)
を
入
(
い
)
れ、
093
富士咲
(
ふじさく
)
と
云
(
い
)
ふ
子供
(
こども
)
の
名前
(
なまへ
)
を
入
(
い
)
れたばかりで
御座
(
ござ
)
います』
094
建国別
(
たけくにわけ
)
『さうすると
私
(
わたくし
)
は
貴女
(
あなた
)
の
伜
(
せがれ
)
では
御座
(
ござ
)
いますまい。
095
私
(
わたくし
)
が
捨
(
す
)
てられた
時
(
とき
)
には、
096
一
(
ひと
)
つの
守刀
(
まもりがたな
)
が
添
(
そ
)
へてあり、
097
其
(
その
)
守刀
(
まもりがたな
)
に
真珠
(
しんじゆ
)
を
以
(
もつ
)
て
十
(
じふ
)
の
字
(
じ
)
がハツキリと
記
(
しる
)
して
御座
(
ござ
)
いました。
098
その
守刀
(
まもりがたな
)
は
今
(
いま
)
に
所持
(
しよぢ
)
して
居
(
を
)
ります。
099
さうして
刀
(
かたな
)
の
根尻
(
ねじり
)
に「
東
(
ひがし
)
」といふ
字
(
じ
)
と「
高
(
たか
)
」といふ
字
(
じ
)
が
幽
(
かす
)
かに
現
(
あら
)
はれて
居
(
を
)
ります。
100
之
(
これ
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
両親
(
りやうしん
)
を
探
(
たづ
)
ねむと、
101
十五六
(
じふごろく
)
才
(
さい
)
の
頃
(
ころ
)
よりそこら
中
(
ぢう
)
を
駆
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
り、
102
フサの
国
(
くに
)
から
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
渡
(
わた
)
り、
103
遂
(
つひ
)
には
此
(
この
)
筑紫島
(
つくしじま
)
へ
参
(
まゐ
)
りまして、
104
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
の
弟子
(
でし
)
となり
宣伝使
(
せんでんし
)
に
仕立
(
したて
)
上
(
あ
)
げられ、
105
昨年
(
さくねん
)
の
今日
(
こんにち
)
此
(
この
)
館
(
やかた
)
の
養子
(
やうし
)
となつたもので
御座
(
ござ
)
います』
106
黒姫
(
くろひめ
)
は
手
(
て
)
を
組
(
く
)
み
暫
(
しばら
)
く
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
107
建国別
(
たけくにわけ
)
『
何
(
なに
)
か
貴女
(
あなた
)
にお
心当
(
こころあた
)
りは
御座
(
ござ
)
いますまいかな』
108
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイ、
109
真珠
(
しんじゆ
)
で
十
(
じふ
)
の
字
(
じ
)
を
記
(
しる
)
した
守刀
(
まもりがたな
)
、
110
それに
東
(
ひがし
)
に
高
(
たか
)
の
印
(
しるし
)
、
111
ハテ
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
事
(
こと
)
があるものだなア』
112
建国別
(
たけくにわけ
)
は
畳
(
たた
)
みかけた
様
(
やう
)
に、
113
建国別
『
貴方
(
あなた
)
は
世界
(
せかい
)
を
宣伝
(
せんでん
)
してお
歩
(
ある
)
きになつたさうですから、
114
何
(
なに
)
か
心当
(
こころあた
)
りは
御座
(
ござ
)
いませぬか。
115
仮令
(
たとへ
)
間違
(
まちがひ
)
でも
構
(
かま
)
ひませぬから、
116
少
(
すこ
)
しでも
掛
(
かか
)
りがあれば
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
117
今日
(
こんにち
)
は
如何
(
どう
)
しても
吾
(
わが
)
両親
(
りやうしん
)
に
由縁
(
ゆかり
)
ある
人
(
ひと
)
が
見
(
み
)
える
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がしてならなかつたのです。
118
そこへ
貴女
(
あなた
)
がお
越
(
こ
)
しと
聞
(
き
)
き、
119
ヒヨツとしたら
吾
(
わが
)
恋
(
こひ
)
しき
母上
(
ははうへ
)
ではないかと
喜
(
よろこ
)
んで
居
(
ゐ
)
ましたが、
120
実
(
じつ
)
に
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います。
121
乍併
(
しかしながら
)
これも
何
(
なに
)
かの
御縁
(
ごえん
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
122
若
(
わか
)
い
夫婦
(
ふうふ
)
の
気楽
(
きらく
)
な
家庭
(
かてい
)
ですから
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
御
(
ご
)
逗留
(
とうりう
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
123
何
(
なん
)
だか
因縁
(
いんねん
)
ある
方
(
かた
)
の
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がしてなりませぬから……』
124
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイ、
125
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
126
乍併
(
しかしながら
)
如何
(
どう
)
しても
一度
(
いちど
)
は
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかからなくてはなりませぬから、
127
又
(
また
)
御縁
(
ごえん
)
がありますれば
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりませう。
128
乍併
(
しかしながら
)
少
(
すこ
)
しばかり
何
(
なん
)
だか
心当
(
こころあた
)
りがある
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
も
致
(
いた
)
しますが、
129
今
(
いま
)
俄
(
にはか
)
に
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
せませぬから、
130
ユツクリと
考
(
かんが
)
へ
直
(
なほ
)
して
御
(
お
)
返事
(
へんじ
)
を
致
(
いた
)
しませう』
131
黒姫
(
くろひめ
)
は
或
(
ある
)
機会
(
きくわい
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
昔
(
むかし
)
の
述懐談
(
じゆつくわいだん
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
132
その
言葉
(
ことば
)
の
端
(
はし
)
に、
133
……
自分
(
じぶん
)
も
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
、
134
親
(
おや
)
の
許
(
ゆる
)
さぬ
男
(
をとこ
)
を
持
(
も
)
ち
子
(
こ
)
を
孕
(
はら
)
んでそれを
捨児
(
すてご
)
にした……といふ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いた
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
ふ。
135
高姫
(
たかひめ
)
さまは
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
十
(
じふ
)
の
字
(
じ
)
の
印
(
しるし
)
をつけて
御座
(
ござ
)
つたさうだが、
136
三五教
(
あななひけう
)
へ
這入
(
はい
)
つてから
十曜
(
とえう
)
の
神紋
(
しんもん
)
に
変
(
か
)
へられた。
137
よもや
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
の
子
(
こ
)
ではあるまいか、
138
いやいや、
139
うつかりした
事
(
こと
)
を
口走
(
くちばし
)
つて
迷惑
(
めいわく
)
を
掛
(
か
)
けてはならない、
140
高姫
(
たかひめ
)
さまは
今
(
いま
)
は
何処
(
どこ
)
に
御座
(
ござ
)
るやら、
141
根
(
ねつ
)
から
消息
(
せうそく
)
は
分
(
わか
)
らない。
142
うつかりした
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
143
行方
(
ゆくへ
)
分
(
わか
)
らぬ
人
(
ひと
)
を
探
(
たづ
)
ね、
144
建国別
(
たけくにわけ
)
様
(
さま
)
が
苦労
(
くらう
)
をなさつて、
145
折角
(
せつかく
)
会
(
あ
)
うた
処
(
ところ
)
で
今
(
いま
)
の
様
(
やう
)
に
間違
(
まちが
)
つて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
では
相済
(
あひす
)
まぬ、
146
知
(
し
)
らぬと
云
(
い
)
つた
方
(
はう
)
がお
互
(
たがひ
)
の
為
(
ため
)
に
安全
(
あんぜん
)
だらう……
147
と
心
(
こころ
)
に
打諾
(
うちうなづ
)
き
黒姫
(
くろひめ
)
は
言葉
(
ことば
)
を
改
(
あらた
)
めて、
148
黒姫
(
くろひめ
)
『どうも
心懸
(
こころがか
)
りが
御座
(
ござ
)
いませぬ。
149
乍併
(
しかしながら
)
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
物語
(
ものがたり
)
を
聞
(
き
)
きました
上
(
うへ
)
は
十分
(
じふぶん
)
気
(
き
)
をつけて
考
(
かんが
)
へておきませう。
150
若
(
も
)
し
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
に
相違
(
さうゐ
)
ないと
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
に
会
(
あ
)
ひましたら、
151
直様
(
すぐさま
)
にお
知
(
し
)
らせ
致
(
いた
)
しませう』
152
建国別
(
たけくにわけ
)
『はい、
153
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
154
何卒
(
どうぞ
)
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
します』
155
建能姫
(
たけのひめ
)
『
何分
(
なにぶん
)
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
156
不運
(
ふうん
)
な
夫
(
をつと
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
157
何卒
(
どうぞ
)
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
158
御
(
お
)
心当
(
こころあた
)
りがつきましたらお
知
(
し
)
らせ
下
(
くだ
)
さいませ。
159
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申上
(
まをしあ
)
げます』
160
黒姫
(
くろひめ
)
は
身
(
み
)
につまされて
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
も
無
(
な
)
くさし
俯向
(
うつむ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
161
さうして
心
(
こころ
)
の
裡
(
うち
)
に
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
、
162
黒姫
『あゝ
親子
(
おやこ
)
の
情
(
じやう
)
と
云
(
い
)
ふものは
何処
(
どこ
)
の
国
(
くに
)
に
行
(
い
)
つても
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だなア。
163
建国別
(
たけくにわけ
)
様
(
さま
)
が
両親
(
りやうしん
)
に
憧憬
(
あこが
)
れて、
164
朝夕
(
あさゆふ
)
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
り
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
に、
165
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
も
亦
(
また
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
生
(
い
)
きて
居
(
を
)
るならば、
166
定
(
さだ
)
めし
両親
(
りやうしん
)
を
慕
(
した
)
うて
居
(
ゐ
)
るであらう。
167
両親
(
りやうしん
)
のない
子
(
こ
)
は
其処
(
そこ
)
に
倒
(
こ
)
けて
居
(
を
)
つても、
168
起
(
おこ
)
してくれる
者
(
もの
)
がないと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
169
あゝ
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
若気
(
わかげ
)
の
至
(
いた
)
りとは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
罪
(
つみ
)
な
事
(
こと
)
をしたものだ。
170
こんな
罪
(
つみ
)
の
深
(
ふか
)
い
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
171
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
となり、
172
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
御用
(
ごよう
)
をしようなどとは
実
(
じつ
)
に
思
(
おも
)
ひ
違
(
ちが
)
ひであつた。
173
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
玉
(
たま
)
を
隠
(
かく
)
されたのも
無理
(
むり
)
はない』
174
と
口
(
くち
)
には
出
(
だ
)
さねど
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
懺悔
(
ざんげ
)
の
波
(
なみ
)
を
漂
(
ただよ
)
はして
居
(
ゐ
)
た。
175
かかる
処
(
ところ
)
へ
建彦
(
たけひこ
)
は
数多
(
あまた
)
の
幹部
(
かんぶ
)
を
引連
(
ひきつ
)
れドヤドヤと
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
176
丁寧
(
ていねい
)
に
両手
(
りやうて
)
をつき、
177
建彦
(
たけひこ
)
『
大先生
(
だいせんせい
)
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
様
(
さま
)
、
178
今日
(
こんにち
)
は
御
(
お
)
目出度
(
めでた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
179
何
(
なに
)
からお
喜
(
よろこ
)
び
申
(
まを
)
して
宜
(
よろ
)
しいやら、
180
吾々
(
われわれ
)
初
(
はじ
)
め
館
(
やかた
)
の
者共
(
ものども
)
は
実
(
じつ
)
に
抃舞
(
べんぶ
)
雀躍
(
じやくやく
)
の
態
(
てい
)
で
御座
(
ござ
)
います。
181
今日
(
けふ
)
は
日頃
(
ひごろ
)
お
慕
(
した
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばす
御
(
おん
)
母上
(
ははうへ
)
がお
見
(
み
)
えになりましたさうで、
182
こんな
喜
(
よろこ
)
ばしい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
183
一同
(
いちどう
)
に
代
(
かは
)
つてお
祝
(
いは
)
ひ
申上
(
まをしあ
)
げます』
184
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
185
今度
(
こんど
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
の
方
(
はう
)
に
頭
(
あたま
)
を
転
(
てん
)
じ、
186
丁寧
(
ていねい
)
に
再拝
(
さいはい
)
し、
187
建彦
(
たけひこ
)
『
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
大先生
(
だいせんせい
)
の
生
(
う
)
みの
御
(
おん
)
母上
(
ははうへ
)
でありましたか。
188
能
(
よ
)
うまあ
御
(
お
)
入来
(
いで
)
下
(
くだ
)
さいました。
189
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
一同
(
いちどう
)
は
大先生
(
だいせんせい
)
の
御
(
ご
)
恩顧
(
おんこ
)
に
日夜
(
にちや
)
預
(
あづか
)
つてる
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
190
何卒
(
どうぞ
)
御
(
お
)
見捨
(
みす
)
てなく
末長
(
すゑなが
)
く
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さいませ』
191
建国別
(
たけくにわけ
)
『これ
建彦
(
たけひこ
)
、
192
俺
(
わし
)
の
母上
(
ははうへ
)
が
見
(
み
)
えたのではない。
193
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
ふ
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
がお
見
(
み
)
えになつたのだよ』
194
建彦
(
たけひこ
)
『え、
195
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
います。
196
お
隠
(
かく
)
しになつてはいけませぬ。
197
確
(
たしか
)
にお
母上
(
ははうへ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
一同
(
いちどう
)
承知
(
しようち
)
して
居
(
を
)
ります。
198
もはや
隠
(
かく
)
れもなき
館内
(
くわんない
)
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
の
喜
(
よろこ
)
びで
御座
(
ござ
)
いますから、
199
そんな
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
らずに、
200
明
(
あきら
)
かに
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませな』
201
建国別
(
たけくにわけ
)
『そんな
事
(
こと
)
を
誰
(
たれ
)
に
聞
(
き
)
きましたか』
202
建彦
(
たけひこ
)
『はい、
203
門番
(
もんばん
)
の
幾公
(
いくこう
)
が
確
(
たしか
)
に
相違
(
さうゐ
)
ない、
204
貴方
(
あなた
)
のお
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いたと
云
(
い
)
つて、
205
駄賃
(
だちん
)
とらずの
郵便
(
ゆうびん
)
配達
(
はいたつ
)
をやりましたので、
206
やがて
此
(
この
)
村
(
むら
)
からもお
祝
(
いは
)
ひに
来
(
く
)
るでせう』
207
建国別
(
たけくにわけ
)
『これ
建彦
(
たけひこ
)
、
208
そりや
大変
(
たいへん
)
だ。
209
全
(
まつた
)
く
間違
(
まちが
)
ひだつたと
云
(
い
)
つて
取消
(
とりけ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
210
村人
(
むらびと
)
に
沢山
(
たくさん
)
お
祝
(
いはひ
)
に
来
(
こ
)
られては
迷惑
(
めいわく
)
だからなア』
211
建彦
(
たけひこ
)
『もはや
公然
(
こうぜん
)
発表
(
はつぺう
)
を
致
(
いた
)
しまして、
212
続々
(
ぞくぞく
)
とお
祝
(
いはひ
)
に
見
(
み
)
えますから、
213
此
(
この
)
際
(
さい
)
取消
(
とりけ
)
しなんか
出来
(
でき
)
ませぬ。
214
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
館
(
やかた
)
から
間違
(
まちが
)
つた
事
(
こと
)
を
触
(
ふ
)
れ
廻
(
まは
)
つたと
云
(
い
)
はれては、
215
それこそ
信用
(
しんよう
)
に
関
(
かか
)
はります。
216
そんな
事
(
こと
)
仰
(
あふ
)
せられずに、
217
間違
(
まちが
)
つて
居
(
を
)
つてもいいから
御
(
お
)
母
(
かあ
)
さまにして
置
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
218
何
(
いづ
)
れ
誰
(
たれ
)
かのお
母
(
かあ
)
さまでせうから……』
219
建国別
(
たけくにわけ
)
『
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
だなア。
220
幾公
(
いくこう
)
を
一寸
(
ちよつと
)
呼
(
よ
)
んでくれ』
221
幾公
(
いくこう
)
は
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
から
屁垂
(
へた
)
つて
居
(
を
)
つた
頭
(
あたま
)
をヌツと
上
(
あ
)
げ、
222
幾公
(
いくこう
)
『はい、
223
幾
(
いく
)
は
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
ります。
224
幾久敷
(
いくひさし
)
う
御
(
お
)
目出度
(
めでた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
225
もし
間違
(
まちが
)
ひましたら
幾重
(
いくへ
)
にも
御
(
お
)
免
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
226
行方
(
いく
へ
)
も
知
(
し
)
れぬ
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
後
(
あと
)
を
探
(
たづ
)
ねて
御
(
お
)
入来
(
いで
)
遊
(
あそ
)
ばしたお
母
(
かあ
)
さま、
227
何卒
(
どうぞ
)
大切
(
たいせつ
)
にして
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいませ。
228
何程
(
なにほど
)
お
隠
(
かく
)
し
遊
(
あそ
)
ばされても、
229
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
から
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ますれば、
230
御
(
ご
)
親子
(
しんし
)
の
間柄
(
あひだがら
)
に
相違
(
さうゐ
)
御座
(
ござ
)
いませぬ』
231
建国別
(
たけくにわけ
)
『ハテ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たわい。
232
……
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
233
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
しませうかな』
234
黒姫
(
くろひめ
)
『
妾
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
が
突然
(
とつぜん
)
参
(
まゐ
)
りましてお
館
(
やかた
)
に
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
をかけ、
235
何
(
なん
)
とも
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います……もしもし
幾公
(
いくこう
)
さまとやら、
236
妾
(
わたし
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
237
よくよく
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ますれば、
238
妾
(
わたし
)
の
息子
(
むすこ
)
ではなかつたので、
239
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
してガツカリして
居
(
ゐ
)
た
処
(
ところ
)
ですよ。
240
何卒
(
どうぞ
)
お
館
(
やかた
)
の
迷惑
(
めいわく
)
にならぬやう、
241
直様
(
すぐさま
)
お
取消
(
とりけし
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
242
幾公
(
いくこう
)
『
何
(
なん
)
とまあ
親子
(
おやこ
)
心
(
こころ
)
を
協
(
あは
)
して
堅
(
かた
)
く
締結
(
ていけつ
)
したものだなア。
243
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
以心
(
いしん
)
伝心
(
でんしん
)
、
244
教外
(
けうげ
)
別伝
(
べつでん
)
、
245
不立
(
ふりう
)
文字
(
もんじ
)
だ。
246
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
歓
(
よろこ
)
びの
色
(
いろ
)
が
相互
(
おたがひ
)
の
顔
(
かほ
)
にホノ
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
りますぞえ。
247
こんな
目出度
(
めでた
)
い
時
(
とき
)
に、
248
そんな
悪戯
(
いたづら
)
をして
吾々
(
われわれ
)
をじらすものぢやありませぬ。
249
………コレコレ
建彦
(
たけひこ
)
さま、
250
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
御
(
ご
)
親子
(
しんし
)
だ。
251
唇歯
(
しんし
)
輔車
(
ほしや
)
の
間柄
(
あひだがら
)
だ。
252
きつても
絶
(
き
)
れぬ
親子
(
おやこ
)
の
仲
(
なか
)
、
253
堪
(
こら
)
へきれない
歓
(
よろこ
)
びの
色
(
いろ
)
が、
254
先生
(
せんせい
)
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
顔
(
かほ
)
に、
255
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
るぢやありませぬか』
256
建国別
(
たけくにわけ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たわい、
257
なア
建能姫
(
たけのひめ
)
、
258
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
しませうか、
259
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
260
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
たぢやありませぬか』
261
黒姫
(
くろひめ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
間違
(
まちが
)
へば
間違
(
まちが
)
ふものですな。
262
これだから
世間
(
せけん
)
の
噂
(
うはさ
)
と
云
(
い
)
ふものは
あて
にならないと
云
(
い
)
ふのですよ。
263
……
幽霊
(
いうれい
)
の
正体
(
しやうたい
)
見
(
み
)
たり
枯尾花
(
かれをばな
)
……と
云
(
い
)
つて、
264
道聴
(
だうちやう
)
途説
(
とせつ
)
と
云
(
い
)
ふものは
あて
にはなりませぬ。
265
一犬
(
いつけん
)
虚
(
きよ
)
に
吠
(
ほ
)
へて
万犬
(
ばんけん
)
実
(
じつ
)
を
伝
(
つた
)
ふとやら、
266
実
(
じつ
)
に
人
(
ひと
)
の
噂
(
うはさ
)
と
云
(
い
)
ふものは
恐
(
おそ
)
ろしいものです。
267
人
(
ひと
)
の
口
(
くち
)
に
戸
(
と
)
を
閉
(
たて
)
られないとは
此処
(
ここ
)
のことですな』
268
幾公
(
いくこう
)
『
何処迄
(
どこまで
)
も
白々
(
しらじら
)
しい、
269
さうじらすものぢやありませぬ。
270
あつさりとして
下
(
くだ
)
さいな。
271
建彦
(
たけひこ
)
さま、
272
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
くお
祝
(
いはひ
)
の
用意
(
ようい
)
だよ。
273
ここの
先生
(
せんせい
)
は
意地
(
いぢ
)
が
悪
(
わる
)
いからな。
274
あんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
吾々
(
われわれ
)
をアフンとさす
悪
(
わる
)
い
洒落
(
しやれ
)
だよ』
275
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ
小間使
(
こまづかひ
)
のお
種
(
たね
)
が
慌
(
あわただ
)
しく
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
276
お
種
(
たね
)
『
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
277
只今
(
ただいま
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
のお
伴
(
とも
)
だとか
云
(
い
)
つて
二人
(
ふたり
)
の
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
[
※
房公と芳公
]
が
御
(
お
)
入来
(
いで
)
になりました。
278
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
しませうか』
279
建国別
(
たけくにわけ
)
『
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此処
(
ここ
)
へ
御
(
お
)
通
(
とほ
)
し
申
(
まを
)
せ!』
280
お
種
(
たね
)
は『はい』と
答
(
こた
)
へて
引
(
ひ
)
き
下
(
さが
)
る。
281
(
大正一一・九・一三
旧七・二二
北村隆光
録)
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