霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 歌垣(うたがき)〔九四五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第1篇 筑紫の不知火 よみ(新仮名遣い):つくしのしらぬい
章:第4章 歌垣 よみ(新仮名遣い):うたがき 通し章番号:945
口述日:1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人は寝つきもならず、岩窟のそばの暗闇の中に端座して世の開けるのを待っていた。すると岩窟の中からウーウーと唸り声が始まり、言霊により黒姫の行為を厳しく戒める声が聞こえてきた。
黒姫は悪神の声だとして岩窟からの声に口応えを始める。芳公は神様の声にさからうものではないと黒姫を諫めるが、黒姫は自分は国治立命様の片腕たる竜宮の乙姫の生き宮だと威張りだす。
芳公と房公は、生き宮はもっと立派な人間だと思ったがだまされたと黒姫に文句をつけ始め、口喧嘩のようになってしまう。
岩窟の声はさらに言霊により黒姫の所業を並べて非難し、改心を迫る。黒姫は気色ばんで、言霊により岩窟の声に対して孫公の作り声だろうと言い返す。
岩窟の声は最後には宣伝歌にて、高山彦が女を作っていると歌い、聖地の伊勢屋の娘といちゃついていると歌うと、何者か忍ばせて岩窟から出て行った。
黒姫はけしからんことを言うと立腹するが、芳公は高姫のローマンスが神界まで聞こえているのでしょうとすっとぼける。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:オースタリヤ(竜宮島・オーストラリヤ) データ凡例: データ最終更新日:2022-09-11 16:01:08 文字数:4231 OBC :rm3404
愛善世界社版:42頁 八幡書店版:第6輯 378頁 修補版: 校定版:45頁 普及版:19頁 初版: ページ備考:
001 三(さん)人(にん)は暗(やみ)の中(なか)に端坐(たんざ)し、002寝(ね)つきもならず、003夜(よ)の明(あ)けるのをもどかしげに待(ま)つてゐる。004忽(たちま)ち傍(かたはら)の岩窟(がんくつ)より『ウーウー』と唸(うな)り声(ごゑ)が始(はじ)まつた。005夜(よ)は既(すで)に丑満(うしみつ)の刻(こく)である。006森羅(しんら)万象(ばんしやう)寂(せき)として声(こゑ)なく、007蚯蚓(みみず)の鳴声(なきごゑ)さへ聞(きこ)える静(しづ)かさであつた。008そこへ岩窟(がんくつ)の中(なか)からウーウーと唸(うな)り声(ごゑ)が聞(きこ)えて来(き)たのだから、009一層(いつそう)三(さん)人(にん)の耳(みみ)には厳(きび)しく感応(こた)へるのであつた。010岩窟(がんくつ)の中(なか)より何者(なにもの)の声(こゑ)とも知(し)れず、
011(声)『エヽヽえぐたらしい婆(ばば)アだの。012折角(せつかく)ここ迄(まで)連(つ)れて来(き)た力(ちから)になつた孫公(まごこう)を途中(とちう)に見(み)すてて、013自由(じいう)行動(かうどう)を執(と)るとは、014実(じつ)にえぐい悪魔(あくま)のやうな精神(せいしん)だ。015此(この)世(よ)の閻魔(えんま)が現(あら)はれて、016汝(なんぢ)が襟首(えりくび)取(と)つ掴(つか)み、017千仭(せんじん)の谷間(たにま)へ放(はう)り込(こ)んでやらうか。
018オヽヽ鬼(おに)か大蛇(をろち)か曲神(まがかみ)か。019譬方(たとへがた)なき人非人(にんぴにん)、020恋(こひ)の暗路(やみぢ)に踏(ふ)み迷(まよ)ひ、021はるばる年(とし)を老(と)つてから、022亜弗利加(アフリカ)三界(さんがい)迄(まで)、023犬(いぬ)が乞食(こじき)の後(あと)を嗅(かぎ)つけたやうにやつて来(く)るとは、024さてもさても見下(みさ)げ果(は)てたる婆(ばば)アぢやなア。
025カヽヽ烏(からす)の様(やう)な黒(くろ)い顔(かほ)を致(いた)して、026何程(なにほど)秋波(しうは)を送(おく)つても、027高山彦(たかやまひこ)は見向(みむ)きも致(いた)そまいぞや。028かけがへのない大事(だいじ)の男(をとこ)だと、029其(その)方(はう)は思(おも)うて居(ゐ)るだらうが、030高山彦(たかやまひこ)は天空(てんくう)海濶(かいくわつ)、031汝(なんぢ)が如(ごと)き婆(ばば)アには一瞥(いちべつ)もくれず、032到(いた)る処(ところ)に青山(せいざん)あり、033行先(ゆくさき)や吾(わが)家(や)で、034世界(せかい)の女(をんな)は残(のこ)らず吾(わが)妻(つま)と、035極端(きよくたん)に慈善(じぜん)主義(しゆぎ)を発揮(はつき)し居(ゐ)る、036気(き)の多(おほ)い男(をとこ)の愛(あい)を、037独占(どくせん)しようと思(おも)つても駄目(だめ)だよ。038早(はや)く、039カヽヽ改心(かいしん)致(いた)して帰(かへ)つたがよからうぞ。
040キヽヽ気味(きみ)の悪(わる)い此(この)谷間(たにあひ)で、041夜(よ)を明(あ)かし、042月照彦(つきてるひこの)神(かみ)に散々(さんざん)脂(あぶら)を絞(しぼ)られて苦(くる)しむよりも、043一時(いつとき)も早(はや)く自転倒(おのころ)島(じま)へ立帰(たちかへ)れ。044神(かみ)は嘘(うそ)は申(まを)さぬぞよ』
045 黒姫(くろひめ)は首(くび)を傾(かたむ)け乍(なが)ら……どことはなしに、046最前(さいぜん)の孫公(まごこう)の声(こゑ)に能(よ)く似(に)てゐるなア……と半信(はんしん)半疑(はんぎ)の念(ねん)に駆(か)られてゐる。
047黒姫(くろひめ)『コレコレ、048何者(なにもの)の悪戯(いたづら)か知(し)らぬが、049此(この)暗(くら)い夜(よ)さに、050そんなせうもない言霊(ことたま)は止(や)めて貰(もら)ひませうかい。051アタ面白(おもしろ)くない、052悪神(あくがみ)さま迄(まで)が、053高山彦(たかやまひこ)々々々(たかやまひこ)と云(い)つて、054此(この)黒姫(くろひめ)をからかふのだな。055随分(ずゐぶん)柄(がら)の悪(わる)い厄雑神(やくざがみ)だなア』
056房公(ふさこう)『モシ黒姫(くろひめ)さま、057お前(まへ)さまはそれだから可(い)かぬと云(い)ふのだ。058神(かみ)様(さま)に口答(くちごた)へをするといふ事(こと)がありますか』
059黒姫(くろひめ)『黙(だま)つてゐなさい、060子供(こども)の口出(くちだ)しする所(ところ)ぢやありませぬ。061黒姫(くろひめ)には勿体(もつたい)なくも、062竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)が、063御(ご)守護(しゆご)遊(あそ)ばして御座(ござ)るのだから、064天地(てんち)の間(あひだ)に恐(おそ)るべき者(もの)は、065国治立(くにはるたちの)命(みこと)様(さま)只(ただ)一方(ひとかた)計(ばか)りだ。066其(その)他(た)の神々(かみがみ)は皆(みな)枝神(えだがみ)さまだ。067其(その)国治立(くにはるたちの)命(みこと)様(さま)の片腕(かたうで)になつて御(お)働(はたら)き遊(あそ)ばす竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の……ヘン生宮(いきみや)で御座(ござ)りますぞ。068何(なん)ぼ暗(くら)いと云(い)つても、069余(あま)り見違(みちがひ)をして貰(もら)ひますまいかい……なア竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)』
070房公(ふさこう)『ヘーン、071永(なが)らく竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまを聞(き)きませなんだが、072一体(いつたい)どこへ行(い)つて御座(ござ)つたのですか』
073黒姫(くろひめ)『竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の肉体(にくたい)は即(すなは)ち黒姫(くろひめ)だ。074黒姫(くろひめ)の霊(みたま)は即(すなは)ち竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)だ。075それが分(わか)らぬやうな事(こと)で、076三五教(あななひけう)の信者(しんじや)と言(い)へますか』
077芳公(よしこう)『私(わし)は又(また)、078竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)はモツト立派(りつぱ)な御(お)方(かた)で、079其(その)御(ご)神力(しんりき)の億万分(おくまんぶん)の一(いち)程(ほど)黒姫(くろひめ)様(さま)に霊(れい)が憑(うつ)つてゐるのだと思(おも)うてゐるのだが、080黒姫(くろひめ)様(さま)の霊(みたま)が全部(ぜんぶ)竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)と聞(き)いては、081最早(もはや)乙姫(おとひめ)様(さま)を尊敬(そんけい)する気(き)がなくなつて了(しま)つた。082何(なん)だ阿呆(あはう)らしい、083こんな事(こと)なら、084はるばる可愛(かあい)い女房(にようばう)子(こ)を棄(す)ててここ迄(まで)従(つ)いて来(く)るのだなかつたになア。085孫公(まごこう)はあんな目(め)にあはされて、086くたばるし、087黒姫(くろひめ)さまの箔(はく)はサツパリ剥(は)げるし、088岩窟(がんくつ)の中(なか)からは怪体(けつたい)な声(こゑ)がするし、089夜(よ)は追々(おひおひ)と更(ふ)けて来(く)る。090あゝ是(これ)程(ほど)ガツカリした事(こと)があらうか、091……なア房公(ふさこう)、092夜(よ)が明(あ)けたら、093お前(まへ)と二人(ふたり)孫公(まごこう)の坐(すわ)つてる所(ところ)へ往(い)つて助(たす)け起(おこ)し、094三(さん)人(にん)は元(もと)の聖地(せいち)へ帰(かへ)らうぢやないか。095本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)らしい目(め)にあうたものだ』
096黒姫(くろひめ)『コレコレ両人(りやうにん)、097お前(まへ)は此(この)黒姫(くろひめ)をまだ諒解(れうかい)してゐないのだなア。098千変(せんぺん)万化(ばんくわ)、099変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)極(きは)まりなき竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の御(ご)神力(しんりき)を御存(ごぞん)じないのだなア。100抑(そもそ)も竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)は一朝(いつてう)時(とき)を得(う)れば、101天地(てんち)の間(あひだ)に蟠(わだかま)り、102風雨(ふうう)雷電(らいでん)を起(おこ)し、103地震(ぢしん)をゆらし、104大国治立(おほくにはるたちの)尊(みこと)の御(ご)神業(しんげふ)の片腕(かたうで)に御(お)立(た)ち遊(あそ)ばすのだ。105今日(こんにち)は乙姫(おとひめ)殿(どの)の蟄伏(ちつぷく)時代(じだい)だ。106時(とき)到(いた)らざれば、107蠑螈(いもり)、108蚯蚓(みみず)と身(み)を潜(ひそ)めて、109所在(あらゆる)天下(てんか)の辛酸(しんさん)を嘗(な)め、110救世(きうせい)済民(さいみん)の神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)してゐるのだよ』
111芳公(よしこう)『ヘーン、112高山彦(たかやまひこ)のハズバンドをはるばる捜(さが)しに廻(まは)るのが、113それが救世(きうせい)済民(さいみん)の御(ご)神業(しんげふ)と申(まを)すのですか。114何(なん)と妙(めう)な救世(きうせい)済民(さいみん)もあつたものですなア』
115黒姫(くろひめ)『エヽ喧(やかま)しい。116ホヤホヤ信者(しんじや)の身(み)を以(もつ)て、117宣伝使(せんでんし)の心中(しんちう)が分(わか)つて堪(たま)るものか。118高山彦(たかやまひこ)様(さま)は因縁(いんねん)の身魂(みたま)、119此(この)身魂(みたま)と夫婦(ふうふ)揃(そろ)はねば、120経(たて)と緯(よこ)との仕組(しぐみ)は成就(じやうじゆ)しませぬぞや。121それだから、122黒姫(くろひめ)がはるばると高山彦(たかやまひこ)様(さま)を探(たづ)ねて来(き)たのだよ。123男旱(をとこひでり)もない世(よ)の中(なか)に、124高山彦(たかやまひこ)さまの様(やう)な老人(としより)を、125恋(こひ)や色(いろ)で、126どうして斯(こ)んな所(ところ)迄(まで)探(たづ)ねて来(く)る者(もの)がありませうか。127何程(なにほど)色(いろ)の黒(くろ)い黒姫(くろひめ)だとて、128ヤツパリ女(をんな)は女(をんな)だ。129捨(す)てる神(かみ)もあれば拾(ひろ)ふ神(かみ)もあるのだから、130男(をとこ)が欲(ほ)しければ、131高山(たかやま)さまだなくつても、132沢山(たくさん)にありますぞや。133人民(じんみん)と云(い)ふ者(もの)は直(すぐ)そんな所(ところ)へ心(こころ)を廻(まは)すから困(こま)つて了(しま)ふ。134チツとお前(まへ)も凡夫心(ぼんぷごころ)を捨(す)てなされ。135大神(おほかみ)様(さま)が笑(わら)つてゐらつしやいますよ。
136君(きみ)ならで誰(たれ)をか知(し)らぬ吾(わが)心(こころ)
137高山彦(たかやまひこ)の夫(つま)ぞ志(し)たはし……オツホヽヽヽ』
138房公(ふさこう)『ヘーン、139どないでも理屈(りくつ)はつくものですなア。140イヤもう貴女(あなた)の能弁(のうべん)にはサツパリ寒珍(かんちん)仕(つかまつ)りました。141イヒヽヽヽ』
142 岩窟(がんくつ)の中(なか)より、
143(声)『イヽヽいや広(ひろ)き筑紫(つくし)の島(しま)を捜(さが)す共(とも)
144高山彦(たかやまひこ)の影(かげ)だにもなし。
145うろうろとそこら辺(あた)りをうろついて
146しまひの果(はて)に糞(ばば)掴(つか)むなり。
147あこがれてここ迄(まで)来(きた)る黒姫(くろひめ)も
148アフンと致(いた)して泡(あわ)を吹(ふ)くなり。
149遠国(ゑんごく)を股(また)にかけたる黒姫(くろひめ)も
150詮方(せんかた)なさに涙(なみだ)こぼしつ。
151オースタリヤ竜宮島(りうぐうじま)に渡(わた)り来(き)て
152玉(たま)も取(と)らずに帰(かへ)る憐(あは)れさ。
153かしましき高姫司(たかひめつかさ)に従(したが)ひて
154竹生(ちくぶ)の島(しま)に玉(たま)をさがしつ。
155来(き)て見(み)れば真(ま)つ暗(くら)やみの岩(いは)の前(まへ)
156怪(あや)しき声(こゑ)の聞(きこ)え来(く)る哉(かな)。
157暗(くら)がりに何(なに)か知(し)らぬが物(もの)を云(い)ふ
158狐狸(きつねたぬき)と迷(まよ)ふ黒姫(くろひめ)。
159怪(け)しからぬ悪(わる)い心(こころ)を発揮(はつき)して
160孫公(まごこう)さまを見殺(みごろ)しにする。
161今夜(こんや)こそ一(ひと)つ脂(あぶら)を取(と)つてやろ
162二(ふた)つの眼(まなこ)白黒姫(しろくろひめ)の顔(かほ)。
163さてもさても迷(まよ)ひ切(き)つたる黒姫(くろひめ)の
164恋(こひ)の暗(やみ)をば如何(いか)に晴(は)らさむ。
165白波(しらなみ)を押分(おしわ)け来(きた)る四人(よにん)連(づ)れ
166黒姫司(くろひめつかさ)の口車(くちぐるま)にて。
167スタスタと此(こ)れの谷間(たにま)を登(のぼ)り来(く)る
168黒姫(くろひめ)の面(つら)青(あを)く見(み)えけり。
169瀬(せ)を早(はや)み岩(いは)にせかるる谷川(たにがは)の
170別(わか)れて末(すゑ)にあはれぬとぞ思(おも)ふ。
171空(そら)を行(ゆ)く雲(くも)を眺(なが)めて思(おも)ふかな
172高山彦(たかやまひこ)の峰(みね)はいかにと。
173立替(たてかへ)ぢや立直(たてなほ)しぢやと其処(そこ)ら中(ぢう)
174立(た)つて騒(さわ)いだ黒姫(くろひめ)の尻(しり)。
175千早振(ちはやふる)神代(かみよ)も聞(き)かず黒姫(くろひめ)の
176黒(くろ)き心(こころ)は顔(かほ)に出(で)にけり。
177月照(つきてる)の神(かみ)の命(みこと)の鎮(しづ)まりし
178此(この)岩穴(いはあな)の恐(おそ)ろしきかな。
179手(て)に合(あ)はぬ黒姫(くろひめ)なれど岩窟(がんくつ)の
180神(かみ)の足(あし)には踏(ふ)まれてぞ行(ゆ)く。
181トコトンの改心(かいしん)出来(でき)るそれ迄(まで)は
182高山彦(たかやまひこ)は姿(すがた)見(み)せまい。
183何事(なにごと)もおのれの我(が)では行(ゆ)かぬもの
184高姫司(たかひめつかさ)の改心(かいしん)を見(み)よ。
185西東(にしひがし)北(きた)や南(みなみ)と駆(かけ)まはり
186玉(たま)を捜(さが)した心(こころ)愚(おろ)かさ。
187烏羽玉(ぬばたま)の暗(やみ)より暗(くら)き黒姫(くろひめ)が
188心(こころ)の空(そら)を照(てら)せたきもの。
189ねんごろに月照彦(つきてるひこ)が説(と)きさとす
190道(みち)を畏(かしこ)み守(まも)れ三人(みたり)等(ら)。
191のど元(もと)を過(す)ぎて熱(あつ)さを忘(わす)るてふ
192黒姫司(くろひめつかさ)の心(こころ)果敢(はか)なさ。
193春(はる)すぎて夏(なつ)すぎ秋(あき)の夕間(ゆふま)ぐれ
194衣(ころも)の袖(そで)に露(つゆ)ぞこぼるる。
195久方(ひさかた)の高天原(たかあまはら)を立出(たちい)でて
196つくしの島(しま)に何(なに)をさまよふ。
197フサの国(くに)北山村(きたやまむら)の館(やかた)をば
198後(あと)に眺(なが)めて黒姫(くろひめ)の空(そら)。
199黒姫(くろひめ)が心(こころ)の倉(くら)を打(うち)あけて
200見(み)れば大蛇(をろち)がうごなはりゐる。
201怪(け)しからぬ変性(へんじやう)女子(によし)の行(おこな)ひを
202何(なに)も知(し)らずに吐(ほざ)く黒姫(くろひめ)。
203屁理屈(へりくつ)を朝(あさ)な夕(ゆふ)なにまくし立(た)て
204人(ひと)に嫌(きら)はれ国(くに)を立(た)ち去(さ)る。
205惚々(ほれぼれ)と高山彦(たかやまひこ)に目尻(めじり)下(さ)げ
206涎(よだれ)をくつた昔(むかし)恋(こひ)しき。
207ますかがみ見(み)むと思(おも)へば黒姫(くろひめ)の
208心(こころ)の塵(ちり)を吹(ふ)き払(はら)へかし。
209身(み)はここに心(こころ)は高山彦(たかやまひこ)の前(まへ)
210朝(あさ)な夕(ゆふ)なに神(かみ)を忘(わす)れて。
211むつかしき其(その)面付(つらつき)は何(なん)の事(こと)
212高山彦(たかやまひこ)に嫌(きら)はれぬよに。
213目(め)をあけて己(おの)が姿(すがた)を省(かへり)みよ
214高山(たかやま)だとて愛想(あいさう)つかさむ。
215もろもろの心(こころ)の罪(つみ)を吐(は)き出(だ)して
216神(かみ)の御前(みまへ)に宣(の)り直(なほ)しせよ』
217 黒姫(くろひめ)は稍(やや)景色(けしき)ばみ乍(なが)ら、218声(こゑ)する方(かた)に向(むか)つて、
219黒姫『ややこしい暗(やみ)の中(なか)から声(こゑ)出(だ)して
220口(くち)騒(さわ)がしく何(なに)吐(ほざ)くらむ。
221いろいろと人(ひと)の欠点(あら)をば並(なら)べ立(た)て
222それで気(き)のすむ奴(やつ)は曲神(まがかみ)。
223うかうかと聞(き)いてはならぬ房公(ふさこう)よ
224芳公(よしこう)腹(はら)の据(す)ゑ所(どころ)ぞや。
225幽霊(ゆうれい)のやうに取(と)りとめないことを
226岩(いは)に隠(かく)れて吐(ほざ)く曲神(まがかみ)。
227えら相(さう)に月照彦(つきてるひこ)の真似(まね)をして
228囀(さへづ)る奴(やつ)は孫公(まごこう)なるらむ。
229世(よ)の中(なか)に恐(おそ)ろしい者(もの)はない程(ほど)に
230おどしの利(き)かぬ黒姫(くろひめ)を知(し)れ。
231来年(らいねん)のこと言(い)や鬼(おに)が笑(わら)へ共(ども)
232吾(わが)行(ゆ)く末(すゑ)を見(み)て居(ゐ)るがよい。
233理屈(りくつ)計(ばか)り吐(ほざ)く舌(した)こそ達者(たつしや)でも
234身(み)の行(おこな)ひのそはぬ孫公(まごこう)。
235累卵(るゐらん)の危(あやふ)き身(み)とは知(し)らずして
236黒姫(くろひめ)さまを嬲(なぶ)る身知(みし)らず。
237恋慕(れんぼ)した高山彦(たかやまひこ)のこと計(ばか)り
238意地(いぢ)くね悪(わる)い孫公(まごこう)が言(い)ふ。
239ろくでない其(その)託宣(たくせん)はやめてくれ
240耳(みみ)がいとなる腹(はら)が立(た)つぞよ』
241 岩窟(がんくつ)の中(なか)より、242一層(いつそう)大(おほ)きな声(こゑ)で、
243(声)『わからない奴(やつ)は黒姫(くろひめ)計(ばか)りなり
244暗(やみ)に迷(まよ)ふも無理(むり)であるまい。
245ゐつまでも恋(こひ)の虜(とりこ)となり果(は)てて
246此処迄(ここまで)来(き)たか可哀相(かはいさう)な婆(ばば)。
247うつつにも夢(ゆめ)にも高山(たかやま)々々(たかやま)と
248吐(ほざ)く言葉(ことば)を聞(き)くぞうたてき。
249ゑん切(き)つた男(をとこ)の尻(しり)を追(お)ひまはし
250アフンとやせむアフリカの野(の)で。
251をに大蛇(をろち)狼(おほかみ)さやぐアフリカの
252荒野(あらの)さまよふ恋(こひ)の虜(とりこ)が。
253 ウツフヽヽ、イツヒヽヽ
254是(こ)れからは月照彦(つきてるひこ)も宿(やど)を替(か)へ
255火(ひ)の都(みやこ)へと進(すす)みゆかなむ。
256黒姫(くろひめ)よ胸(むね)に手(て)をあて思案(しあん)せよ
257高山彦(たかやまひこ)は独身(ひとり)でないぞよ。
258房公(ふさこう)よ早(はや)く心(こころ)を改(あらた)めて
259黒姫(くろひめ)さまを思(おも)ひ切(き)るべし。
260芳公(よしこう)よよしや天地(てんち)は沈(しづ)む共(とも)
261黒姫司(くろひめつかさ)に従(つ)いちやならぬぞ。
262孫公(まごこう)はモウ今頃(いまごろ)は火(ひ)の国(くに)の
263高山彦(たかやまひこ)の側(そば)にゐるだろ。
264高山彦(たかやまひこ)神(かみ)の命(みこと)は黒姫(くろひめ)の
265様(やう)な女房(にようばう)は好(す)かれまいぞや。
266淡雪(あはゆき)の若(わか)やる胸(むね)をそだたきて
267玉手(たまで)さしまきいねます高山彦(たかやまひこ)。
268黒姫(くろひめ)がこんな所(ところ)を眺(なが)めたら
269さぞや目玉(めだま)を白黒(しろくろ)にせむ。
270まなじりをつけ上(あ)げ口(くち)を尖(とが)らして
271鼻息(はないき)あらく熱(ねつ)を吹(ふ)くらむ。
272いざさらば月照彦(つきてるひこ)もこれよりは
273黒姫司(くろひめつかさ)をみすててぞゆく。
274小島別(こじまわけ)教司(をしへつかさ)の其(その)昔(むかし)
275あらはれましし岩窟(いはや)恋(こひ)しき。
276古(いにしへ)の建日(たけひ)の別(わけ)の御(おん)跡(あと)を
277後(あと)にみすてて行(ゆ)くぞ悲(かな)しき。
278孫公(まごこう)はさぞ今頃(いまごろ)は面白(おもしろ)く
279可笑(をか)しき歌(うた)をうたひ居(を)るらむ。
280アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、と笑(わら)ひこけ
281エヘヽヽ、イヒヽ、今(いま)ここを去(さ)る。
282暗(やみ)の夜(よ)に鳴(な)かぬ烏(からす)の声(こゑ)きけば
283あはれぬ先(さき)の高山彦(たかやまひこ)ぞ恋(こひ)しき。
284黒姫(くろひめ)がいかに心(こころ)を焦(こが)す共(とも)
285高根(たかね)の花(はな)よ手折(たを)られもせず。
286今頃(いまごろ)は高山彦(たかやまひこ)は聖地(せいち)にて
287伊勢屋(いせや)の娘(むすめ)と酒(さけ)を呑(の)むらむ。
288如意(によい)宝珠(ほつしゆ)紫玉(むらさきだま)は云(い)ふも更(さら)
289黄金(こがね)の玉(たま)は愛想(あいさう)つかして。
290黒姫(くろひめ)に肱鉄砲(ひぢでつぱう)をくはしつつ
291自転倒(おのころ)島(じま)にかくれましけり』
292と云(い)つた限(き)り、293足音(あしおと)を忍(しの)ばせ、294何処(どこ)ともなく行(い)きて了(しま)ひけり。
295黒姫(くろひめ)『コレ房(ふさ)、296芳(よし)の両人(りやうにん)、297今(いま)の歌(うた)を聞(き)きましたか、298怪(け)しからぬ事(こと)を云(い)ふぢやないかい』
299芳公(よしこう)『何(なん)だか知(し)りませぬが、300実(じつ)に感心(かんしん)な歌(うた)でしたよ、301あの神(かみ)さまの云(い)つた通(とほ)りですもの。302余程(よほど)黒姫(くろひめ)さまも、303神界(しんかい)迄(まで)ローマンスが話(はなし)の種(たね)になつてるとみえますな、304アツハヽヽヽ』
305黒姫(くろひめ)『オホヽヽヽ』
306(大正一一・九・一二 旧七・二一 松村真澄録)
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