霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 対歌(たいか)〔九四六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第1篇 筑紫の不知火 よみ(新仮名遣い):つくしのしらぬい
章:第5章 対歌 よみ(新仮名遣い):たいか 通し章番号:946
口述日:1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
房公は岩窟の声の歌を聞いて自分も歌心になり、歌を歌いだした。黒姫を立派な生き宮と思ってついてきたが、道中にその言動を見聞きしてすっかり幻滅し、付いてくるのではなかったという後悔を、滑稽な歌に託して笑い転げた。
芳公も黒姫の所業を挙げて非難し、高山彦に早くこのことを注進して逃がしてやろうと歌い、笑い転げた。
黒姫は二人を戒める歌を歌うが、房公は高山彦の浮気をねたにして、さらに黒姫をからかう歌を歌う。芳公は黒姫に愛想をつかしたと歌い、国に残してきた女房を懐かしむが、房公に茶々を入れられ、二人は歌で言い争いを始める。
黒姫は二人を叱りつけ、朝拝の準備をして朝餉をすませるようにと歌った。黒姫は道中もいできたイチジクの実を持っていたので、三人は掛け合いしながらイチジクを争った。イチジクの実を食べて機嫌を直した三人は、宣伝歌を歌いながら筑紫ケ岳を登って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-12 11:00:28 文字数:3432 OBC :rm3405
愛善世界社版:59頁 八幡書店版:第6輯 384頁 修補版: 校定版:63頁 普及版:26頁 初版: ページ備考:
001 房公(ふさこう)は今(いま)の歌(うた)に引出(ひきだ)され自分(じぶん)も歌心(うたごころ)になつたと見(み)え、002黒白(あやめ)も分(わ)かぬ闇(やみ)の中(なか)から腰折(こしを)れを謡(うた)ひ出(だ)したり。
003房公『房公(ふさこう)がいざこれよりは歌(うた)をよむ
004黒姫(くろひめ)さまよ確(しつか)りと聞(き)け。
005野(の)も山(やま)も青(あを)く茂(しげ)れる筑紫野(つくしの)に
006黒(くろ)い女(をんな)が一人(ひとり)立(た)つなり。
007如意(によい)宝珠(ほつしゆ)玉(たま)の所在(ありか)を探(たづ)ねたる
008高姫司(たかひめつかさ)は今(いま)やいづくぞ。
009黄金(わうごん)の玉(たま)の所在(ありか)を探(たづ)ねたる
010黒姫(くろひめ)さまは今(いま)は男(をとこ)探(たづ)ねつ。
011高山(たかやま)の彦(ひこ)の夫(をつと)にはじかれて
012恥(はぢ)も知(し)らずに探(さが)し来(く)るかな。
013黒姫(くろひめ)を竜宮(りうぐう)さまの乙姫(おとひめ)と
014思(おも)うて来(き)たが馬鹿(ばか)らしきかな。
015吾(わが)妻(つま)のお鉄(てつ)は嘸(さぞ)や今頃(いまごろ)は
016空(そら)を眺(なが)めて待(ま)ち佗(わび)るらむ。
017吾(わが)妻(つま)よお鉄(てつ)よしばし待(ま)つてくれ
018愛(あい)の土産(みやげ)を持(も)ちかへるまで。
019黒姫(くろひめ)が夫(をつと)を思(おも)ふ真心(まごころ)を
020汝(なれ)に移(うつ)して喜(よろこ)ばせて見(み)む。
021房公(ふさこう)も遥々(はるばる)海(うみ)を渡(わた)り来(き)て
022妻(つま)のみ恋(こひ)しくなりにけるかな。
023こんな事(こと)計(ばか)り云(い)ふのぢやなけれども
024黒姫(くろひめ)の御魂(みたま)憑(うつ)りしためぞ。
025神(かみ)様(さま)の道(みち)を忘(わす)れて妻(つま)ばかり
026思(おも)ふ心(こころ)の愚(おろか)しきかな。
027村肝(むらきも)の心(こころ)を妻(つま)に筑紫潟(つくしがた)
028深(ふか)き心(こころ)を不知火(しらぬひ)の汝(なれ)。
029如何(いか)にせむ海洋(かいやう)万里(ばんり)の波(なみ)の上(うへ)
030翼(つばさ)なき身(み)のもどかしきかな。
031黒姫(くろひめ)の甘(あま)き言葉(ことば)に乗(の)せられて
032知(し)らぬ他国(たこく)で苦労(くらう)するかな。
033今頃(いまごろ)は四尾(よつを)の山(やま)も紅葉(もみぢ)して
034錦(にしき)の宮(みや)は栄(さか)えますらむ。
035言依別(ことよりわけ)神(かみ)の命(みこと)の御(おん)姿(すがた)
036目(め)に見(み)る如(ごと)く思(おも)はるるかな。
037杢助(もくすけ)の神(かみ)の司(つかさ)の御姿(みすがた)を
038思(おも)ひ出(だ)しても心(こころ)勇(いさ)みぬ。
039黒姫(くろひめ)のけげんな顔(かほ)を見(み)るたびに
040浮世(うきよ)は厭(いや)になりにけるかな。
041来(き)て見(み)れば真暗(まつくら)がりの岩(いは)の前(まへ)
042怪(あや)しき神(かみ)の声(こゑ)ぞ聞(きこ)ゆる。
043黒姫(くろひめ)が負(ま)けず劣(おと)らず腰折(こしを)れの
044歌(うた)よみし時(とき)ぞをかしかりけり。
045芳公(よしこう)よ貴様(きさま)も一(ひと)つ歌(うた)を詠(よ)め
046歌(うた)は心(こころ)の闇(やみ)を晴(は)らすぞ。
047闇々(やみやみ)と闇(やみ)の帳(とばり)に包(つつ)まれて
048黒姫(くろひめ)さまの黒顔(くろがほ)も見(み)えず。
049アハヽヽヽ、オホヽヽホツホ、ウフヽヽヽ、
050エヘヽヽ、イヒヽ笑(わら)ひ置(お)くなり』
051 芳公(よしこう)は負(ま)けぬ気(き)になつてまた駄句(だく)り出(だ)したり。
052芳公『芳公(よしこう)が宣(の)る言霊(ことたま)をよつく聞(き)け
053玉(たま)をころばす様(やう)な音色(ねいろ)を。
054一条(ひとすぢ)や二条縄(ふたすぢなは)でゆかぬ奴(やつ)
055三筋(みすぢ)の糸(いと)で縛(しば)る黒姫(くろひめ)。
056孫公(まごこう)は今(いま)はどうして居(ゐ)るだらう
057心(こころ)にかかる闇(やみ)の世(よ)の中(なか)。
058是(これ)程(ほど)の無情(むじやう)な女(をんな)と知(し)らずして
059ついて来(き)たのを悔(くや)しくぞ思(おも)ふ。
060惟神(かむながら)神(かみ)の教(をしへ)に離(はな)れたる
061黒姫(くろひめ)こそは曲神(まがかみ)ならむ。
062曲神(まがかみ)の醜(しこ)の猛(たけ)びを恐(おそ)れつつ
063間近(まぢか)の曲(まが)を知(し)らざりし吾(われ)。
064三五(あななひ)の誠(まこと)の道(みち)を教(をし)へ行(ゆ)く
065神(かみ)の司(つかさ)が船(ふね)を盗(ぬす)みつ。
066此(この)船(ふね)は老朽(おいく)ちたれど高山彦(たかやまひこ)の
067神(かみ)の命(みこと)を乗(の)するなるらむ。
068闇(くら)がりの臭(くさ)い谷間(たにま)に包(つつ)まれて
069息(いき)はづまして暮(く)らす苦(くる)しさ。
070是(これ)よりは黒姫(くろひめ)さまに暇(ひま)くれて
071房公(ふさこう)と共(とも)に国(くに)へ帰(かへ)らむ。
072房公(ふさこう)よ思(おも)ひ切(き)るのは今(いま)なるぞ
073乙姫(おとひめ)さまの現(あら)はれぬうち。
074竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまの生宮(いきみや)と
075はしやがれては堪(たま)らざらまし。
076さア早(はや)く黒姫(くろひめ)さまに立別(たちわか)れ
077立(た)ち去(さ)り行(ゆ)かむ火(ひ)の神国(かみくに)へ。
078逸早(いちはや)くこれの谷間(たにま)を立(た)ち出(い)でて
079高山彦(たかやまひこ)の注進(ちうしん)やせむ。
080注進(ちうしん)を聞(き)いて高山(たかやま)驚(おどろ)いて
081姿(すがた)かくせば嘸(さぞ)面白(おもしろ)からむ。
082さうならば黒姫(くろひめ)如何(いか)に騒(さわ)ぐとも
083後(あと)の祭(まつり)の詮術(せんすべ)もなし。
084アハヽヽヽ、オホヽヽヽツホ、ウフヽヽヽ
085エヽイヽ加減(かげん)に止(や)めて置(お)くなり』
086 黒姫(くろひめ)は闇(やみ)の中(なか)より声(こゑ)を張(は)り上(あ)げて、
087黒姫『房芳(ふさよし)の二人(ふたり)の奴(やつ)等(ら)よつく聞(き)け
088竜宮(りうぐう)様(さま)の神(かみ)の教(をしへ)を。
089痩犬(やせいぬ)のやうな面(つら)してつべこべと
090囀(さへづ)る姿(すがた)臍(へそ)をよるなり。
091何事(なにごと)も知(し)らざる癖(くせ)に黒姫(くろひめ)の
092小言(こごと)云(い)うとは怪(け)しからぬ奴(やつ)。
093黒姫(くろひめ)は誠(まこと)の神(かみ)の生宮(いきみや)ぞ
094思(おも)ひ違(ちが)ひをするな房芳(ふさよし)。
095房芳(ふさよし)よよしや天地(てんち)はかへるとも
096高山彦(たかやまひこ)は黒姫(くろひめ)の夫(つま)。
097高山(たかやま)の吾(わが)背(せ)の命(みこと)に出遇(であ)ひなば
098汝(なれ)が無礼(ぶれい)を告(つ)げて聞(き)かせむ。
099独身(ひとりみ)の黒姫(くろひめ)なりと侮(あなど)つて
100後(あと)で後悔(こうくわい)するな両人(りやうにん)。
101後悔(こうくわい)は先(さき)に立(た)たぬと云(い)ふことを
102よくわきまへて口(くち)を慎(つつし)め。
103口(くち)計(ばか)り千年先(せんねんさき)に生(うま)れ来(き)て
104吐(ほざ)く曲神(まがみ)の愚(おろか)しきかな。
105これ位(くらゐ)分(わか)らぬ奴(やつ)が世(よ)にあろか
106黒姫(くろひめ)さへも愛想(あいさう)つかしぬ。
107如何(いか)程(ほど)に侮辱(ぶじよく)されてもおとなしく
108忍(しの)ぶは神(かみ)の道(みち)知(し)ればこそ。
109神(かみ)の道(みち)捨(す)てた事(こと)なら黒姫(くろひめ)は
110赦(ゆる)しちや置(お)かぬ房芳(ふさよし)の奴(やつ)。
111房芳(ふさよし)よ早(はや)く心(こころ)を立(た)て直(なほ)し
112誠(まこと)の道(みち)に歩(あゆ)みかへせよ。
113黒姫(くろひめ)の言葉(ことば)がお気(き)に入(い)らぬなら
114お前(まへ)の勝手(かつて)にするがよからう。
115待(ま)て暫(しば)し今(いま)両人(りやうにん)に逃(に)げられちや
116此(この)黒姫(くろひめ)も一寸(ちよつと)迷惑(めいわく)』
117房公(ふさこう)『さうか否(いな)一寸(ちよつと)迷惑(めいわく)なさるかな
118火(ひ)の都(みやこ)では大(だい)の迷惑(めいわく)。
119高山(たかやま)と黒姫司(くろひめつかさ)の争(あらそ)ひを
120今(いま)見(み)るやうに思(おも)はれにけり。
121黒姫(くろひめ)が死(し)ぬの走(はし)るの暇(ひま)くれと
122悋気(りんき)の声(こゑ)を聞(き)くぞうたてき。
123うたうたと闇(やみ)の帳(とばり)に包(つつ)まれて
124明(あか)りの立(た)たぬ歌(うた)を詠(よ)むかな。
125疑(うたが)ひの雲霧(くもきり)晴(は)れて黒姫(くろひめ)の
126心(こころ)の空(そら)の光(ひか)る時(とき)まつ。
127松(まつ)が枝(え)に鶴(つる)の巣籠(すごも)る悦(よろこ)びを
128愛子(あいこ)の姫(ひめ)が先(さき)にせしめつ。
129サア締(し)めたもつと締(し)めたと両人(りやうにん)が
130四畳半(よでふはん)にてしめりなきする。
131此(この)処(ところ)黒姫(くろひめ)さまが見付(みつ)けたら
132嘸(さぞ)しめじめと湿(しめ)るだらうに。
133遥々(はるばる)と探(たづ)ねて来(き)たのに夫(つま)の家(いへ)は
134入(はい)つちやならぬと戸(と)をしめの家(うち)。
135面白(おもしろ)いあゝをかしいと手(て)を拍(う)つて
136笑(わら)ふ時(とき)こそ待(ま)たれけるかな。
137アハヽヽヽウフヽヽヽヽヽオホヽヽヽ
138縁起(えんぎ)でもない云(い)ひ草(ぐさ)ぞ聞(き)く』
139 芳公(よしこう)は又(また)もや闇(くら)がりから謡(うた)ひ出(だ)したり。
140芳公『ほのぼのと夜(よ)は明(あ)け近(ちか)くなりにけり
141早立(はやた)ち往(ゆ)かむ火(ひ)の国(くに)都(みやこ)へ。
142やがて又(また)烏(からす)や雀(すずめ)が鳴(な)くだらう
143烏(からす)ばかりか泣(な)く人(ひと)がある。
144まごまごと此処(ここ)にかうしちや居(を)られない
145孫公(まごこう)さまは先(さき)にいただらう。
146孫公(まごこう)の後(あと)おつかけて進(すす)む身(み)は
147黒姫(くろひめ)さまが邪魔(じやま)になるなり。
148顔(かほ)ばかり黒姫(くろひめ)さまと思(おも)うたに
149心(こころ)黒(くろ)しと知(し)らず居(ゐ)たりし。
150何事(なにごと)もよしと呑(の)み込(こ)む男達(をとこだて)
151よしや此(この)身(み)は朽果(くちは)つるとも。
152頼(たの)まれた事(こと)は後(あと)へは引(ひ)かぬ俺(おれ)
153されど手(て)をひく黒姫(くろひめ)計(ばか)りは。
154手(て)を引(ひ)くといつてもこれの山坂(やまさか)を
155手(て)を曳(ひ)くのではない黒姫(くろひめ)婆(ば)さまよ。
156手(て)を曳(ひ)いて登(のぼ)り度(た)いとは思(おも)へども
157生憎(あひにく)お滝(たき)が居(を)らぬ悲(かな)しさ。
158お滝殿(たきどの)嘸(さぞ)今頃(いまごろ)は膝坊主(ひざばうず)
159かかへて此方(こなた)を眺(なが)め居(を)るらむ』
160 房公(ふさこう)は又(また)もや歌(うた)ひ出(だ)したり。
161房公『のろけないこりや芳公(よしこう)よあんまりだ
162俺(おれ)もお鉄(てつ)が国(くに)に居(を)るぞよ。
163色白(いろじろ)いお鉄(てつ)のやうな妻(つま)なれば
164のろけてもよしほめるのも芳(よし)。
165さりながらお滝(たき)のやうな蜥蜴面(とかげづら)
166ちと心得(こころえ)よ見(み)つともないぞよ』
167芳公(よしこう)『何(なに)吐(ぬか)す蜥蜴面(とかげづら)とは誰(たれ)に云(い)うた
168鼬面(いたちづら)した嬶(かか)を持(も)ちつつ。
169柿(かき)の木(き)に雨蛙(あまがへる)奴(め)が登(のぼ)るよな
170でかいお鉄(てつ)を夢(ゆめ)に楽(たの)しめ。
171鉄(てつ)のよな黒(くろ)い顔(かほ)した女房(にようばう)を
172房(ふさ)いくなとは思(おも)はぬか惚(ほ)れた弱(よわ)みで』
173黒姫(くろひめ)『矢釜(やかま)しい雲雀(ひばり)のやうな二人(ふたり)共(ども)
174もう夜(よ)が明(あ)けた手水(てうづ)つかへよ。
175さア早(はや)く天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し
176朝餉(あさげ)すまして出立(しゆつたつ)をせよ。
177無花果(いちじゆく)の木(こ)の実(み)はここにあるけれど
178雲雀(ひばり)に食(く)はす無花果(いちじゆく)はなし。
179惟神(かむながら)神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
180此(この)無花果(いちじゆく)は生命(いのち)助(たす)ける。
181麦(むぎ)の穂(ほ)があれば雲雀(ひばり)もよからうが
182実(げ)に気(き)の毒(どく)な次第(しだい)なりけり。
183兵糧(ひやうらう)さへ沢山(たくさん)あれば山坂(やまさか)を
184越(こ)えるも安(やす)し神(かみ)の御恵(みめぐみ)。
185御恵(みめぐみ)に外(はづ)れた二人(ふたり)のいぢらしさ
186空腹(ひもじ)かるらむ房(ふさ)芳(よし)憐(あは)れ。
187憐(あは)れをば知(し)らぬ吾(われ)にはあらねども
188余(あま)りの事(こと)に呆(あき)れ果(は)てけり。
189高山(たかやま)の吾(わが)背(せ)の君(きみ)が待(ま)つと聞(き)く
190火(ひ)の国(くに)都(みやこ)へ急(いそ)ぐ楽(たの)しさ。
191黒姫(くろひめ)は兵糧(ひやうらう)もたんと持(も)つて居(ゐ)る
192一宿(いちじく)二宿(にじく)三宿(さんじく)のため』
193房公(ふさこう)『これや婆(ば)さま一(ひと)つ俺(おれ)にも分配(ぶんぱい)せ
194余(あま)り冥加(みやうが)が悪(わる)からうぞや。
195桃太郎(ももたらう)が鬼ケ島(おにがしま)へと往(ゆ)く時(とき)も
196団子(だんご)半(はん)ぶんやつた事(こと)思(おも)へ』
197黒姫(くろひめ)『犬(いぬ)なれば半分(はんぶん)位(くらゐ)やろも知(し)れぬ
198欲(ほ)しくばワンワン鳴(な)くがよからう』
199芳公(よしこう)『ワンワンと犬(いぬ)の鳴(な)き真似(まね)するよりも
200雉(きじ)の真似(まね)してケンケンと云(い)ふ』
201黒姫(くろひめ)『ケンケンと吐(ほざ)く雉(きじ)にはやりはせぬ
202猿(ましら)のやうにキヤツキヤツと鳴(な)け』
203房公(ふさこう)『馬鹿(ばか)にすな婆(ばば)の癖(くせ)して桃太郎(ももたらう)の
204気取(きど)りで居(ゐ)るとは片腹痛(かたはらいた)い』
205黒姫(くろひめ)『片腹(かたはら)が痛(いた)いと云(い)ふのは嘘(うそ)だらう
206両腹(りやうはら)すいた、喰(く)いたからうに。
207痛々(いたいた)しその面付(つらつき)を見(み)るにつけ
208無花果(いちじゆく)の皮(かは)でもやり度(たく)ぞある』
209芳公(よしこう)『食物(しよくもつ)は神(かみ)の与(あた)へと聞(き)くからは
210其(その)無花果(いちじゆく)は俺(おれ)の物(もの)だよ。
211黒姫(くろひめ)が独占(どくせん)しようとはそりや無理(むり)だ
212天則(てんそく)違反(ゐはん)の罪(つみ)に問(と)ふぞよ』
213黒姫(くろひめ)『先取権(せんしゆけん)この黒姫(くろひめ)にあるものを
214掠奪(りやくだつ)するならして見(み)るも芳(よし)。
215掠奪(りやくだつ)の罪(つみ)を重(かさ)ねて天国(てんごく)の
216きつき戒(いまし)め喰(くら)ふ憐(あは)れさ』
217房公(ふさこう)『喰(くら)ふのが憐(あは)れさと云(い)つた黒姫(くろひめ)が
218持(も)つた無花果(いちじゆく)喰(くら)ふ嬉(うれ)しさ』
219黒姫(くろひめ)『房(ふさ)、芳(よし)の二(ふた)つの雲雀(ひばり)に暇(ひま)とられ
220早(はや)日(ひ)の神(かみ)は昇(のぼ)りましけり。
221カアカアと鳴(な)いた烏(からす)に与(あた)へよか
222雲雀(ひばり)に喰(く)はすを惜(を)しく思(おも)へば。
223さり乍(なが)ら此(この)雲雀(ひばり)とて天地(あめつち)の
224みたまと思(おも)へば捨(す)てて置(お)かれず。
225さアやらう一(ひと)つ喰(くら)へと投(な)げ出(だ)して
226社会(しやくわい)奉仕(ほうし)の善業(ぜんげふ)つまむ』
227房公(ふさこう)『有難(ありがた)う黒姫(くろひめ)さまの奮発(ふんぱつ)で
228いちじく二(に)じく三(さん)じくを喰(く)ふ』
229芳公(よしこう)『味(あぢ)のよい無花果(いちじゆく)だけは黒姫(くろひめ)が
230喰(くら)うた後(あと)のかすをくれけり。
231かすでさへ是(これ)程(ほど)甘(うま)い無花果(いちじゆく)は
232上等物(じやうとうもの)はいかに甘(うま)からう』
233黒姫(くろひめ)『オホヽヽヽ』
234 房(ふさ)、235芳(よし)一度(いちど)に、
236房公、芳公『アハヽヽヽ』
237 三(さん)人(にん)は無花果(いちじゆく)に機嫌(きげん)をなほし、238筑紫(つくし)ケ岳(だけ)を宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ひながら登(のぼ)り行(ゆ)く。
239(大正一一・九・一二 旧七・二一 加藤明子録)
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