霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第五章 五天狗(ごてんぐ)〔五七二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第1篇 正邪奮戦 よみ(新仮名遣い):せいじゃふんせん
章:第5章 五天狗 よみ(新仮名遣い):ごてんぐ 通し章番号:572
口述日: 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
エデン河に投げ出されて命を失った(第2章参照)安彦、国彦、道彦、田加彦、百舌彦の五人は、一途の川のほとりにやってきた。
一行は一途の川の婆の装置によって中空に巻き上げられてしまい、突然の電光雷鳴と共に落下したとみるや、気がつくと高山の間の谷川の流れの砂辺に横たわっていた。
これは妙音菩薩が一行をエデン河から救って、メソポタミヤ山中の谷川に降ろしたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-16 01:27:07 文字数:4684 OBC :rm1505
愛善世界社版:59頁 八幡書店版:第3輯 302頁 修補版: 校定版:59頁 普及版:26頁 初版: ページ備考:
001 天津(あまつ)御空(みそら)はドンヨリと薄墨(うすずみ)を流(なが)せし如(ごと)き光景(くわうけい)に引換(ひきか)へ、002青葉(あをば)茂(しげ)れる大野原(おほのはら)を三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、003治(をさ)まる御世(みよ)も安彦(やすひこ)や、004栄(さか)え久(ひさ)しき松(まつ)の五六七(みろく)の国彦(くにひこ)や、005聖(きよ)き教(をしへ)の道彦(みちひこ)は、006口(くち)から先(さき)に生(うま)れたる百舌彦(もずひこ)、007田加彦(たかひこ)伴(ともな)ひて、008とある川辺(かはべ)に着(つ)きにけり。
009安彦(やすひこ)『ヨー又(また)此処(ここ)は一途(いちづ)の川(かは)だ。010此(この)前(まへ)に来(き)た時(とき)は、011大変(たいへん)に清潔(せいけつ)な水(みづ)が淙々(そうそう)として流(なが)れてゐたが、012夕立(ゆふだち)もせないのに今日(けふ)は又(また)如何(どう)した拍子(へうし)の瓢箪(へうたん)やら、013素敵(すてき)滅法界(めつぽふかい)な泥水(どろみづ)だ。014此(こ)の川(かは)を少(すこ)しく上(のぼ)れば松並木(まつなみき)があつて、015其(そ)の根下(ねもと)に二間(ふたま)造(づく)りの瓦葺(かはらぶ)きの立派(りつぱ)な婆(ばば)の館(やかた)がある筈(はず)だ。016のう道彦(みちひこ)、017貴様(きさま)も未(ま)だ記憶(きおく)に残(のこ)つて居(ゐ)るだらう』
018道彦(みちひこ)『夢(ゆめ)だつたか幻(まぼろし)だつたか判然(はつきり)せないが、019二人(ふたり)の婆(ばば)が、020鋭(と)ぎすましたる出刃(でば)庖丁(ばうちやう)を振上(ふりあ)げて、021前後(ぜんご)左右(さいう)より斬(き)つてかかりよつた時(とき)のシーンは、022今(いま)思(おも)ひ出(だ)しても慄(ぞつ)とするよ。023移(うつ)り替(か)はるは浮世(うきよ)の習(なら)ひ、024此(こ)の清潔(せいけつ)な一途(いちづ)の川(かは)でさへも、025泥川(どろがは)と変化(へんくわ)した今日(こんにち)だから彼(あ)の鬼婆(おにばば)だつて、026さう何時迄(いつまで)も同(おな)じ所(ところ)に固着(こちやく)してゐる筈(はず)はなからう。027遠(とほ)の昔(むかし)に磨滅(まめつ)して了(しま)つて影(かげ)も止(とど)めず、028訪(おとな)ふ者(もの)は川風(かはかぜ)の音(おと)、029波(なみ)の響(ひびき)位(ぐらゐ)なものだらうよ。030さう心配(しんぱい)するには及(およ)ばぬさア』
031安彦(やすひこ)『誰(たれ)が心配(しんぱい)をして居(ゐ)るものか。032今度(こんど)は彼(あ)の婆(ばば)が居(を)つたら、033一(ひと)つ掛合(かけあ)つて見(み)ようと思(おも)うのだ。034なア国彦(くにひこ)、035お前(まへ)は未(ま)だ経験(けいけん)が無(な)いから、036非常(ひじやう)に恐(おそ)ろしい鬼婆(おにばば)だと思(おも)うであらうが、037それはそれは素敵(すてき)滅法界(めつぽふかい)な美人(びじん)だよ。038花(はな)の顔色(かんばせ)、039月(つき)の眉(まゆ)、040スノーの膚(はだへ)、041言(い)ふに言(い)はれぬ逸物(いつぶつ)だ。042年(とし)は寄(よ)つたと言(い)つても未(ま)だ残(のこ)りの色香(いろか)も失(う)せない姥桜(うばざくら)、043手折(たお)る可(べ)き価(あたひ)は確(たしか)にアリソの海(うみ)だ。044深(ふか)い契(ちぎり)を結(むす)び昆布(こぶ)、045俺(わし)とお前(まへ)と二人(ふたり)の仲(なか)は、046二世(にせ)も三世(さんせ)も先(さき)の世(よ)かけて、047一途(いちづ)の川(かは)の涸(か)れる迄(まで)、048たとへ大地(だいち)は沈(しづ)むとも……とノロケテ、049現(うつつ)を脱(ぬ)かすやうな別嬪(べつぴん)だ。050安彦(やすひこ)、051道彦(みちひこ)の両人(りやうにん)が仲人(なかうど)をして一(ひと)つ合衾(がふきん)の式(しき)を挙(あ)げさしてやりたいものだよ』
052国彦(くにひこ)『莫迦(ばか)にするない、053モウ忘(わす)れたか。054俺(おれ)も貴様(きさま)と一所(いつしよ)に探険(たんけん)したではないか。055俺(おれ)だつて未(ま)だ三十(さんじふ)男(をとこ)の花(はな)の盛(さか)りだ。056散(ち)りかかつた姥桜(うばざくら)を女房(にようばう)にせよとは、057あまり男(をとこ)を軽蔑(けいべつ)するにも程(ほど)がある。058男(をとこ)が四十(しじふ)で女(をんな)が三十(さんじふ)ならば、059些(ちつ)とはハーモニーも取(と)れるであらうが、060十(とほ)余(あま)りも老(お)うとると云(い)ふ様(やう)な女房(にようばう)は御免(ごめん)だよ。061女(をんな)旱(ひで)りも無(な)い世(よ)の中(なか)に、062あまり冷笑(ひやか)して呉(く)れるない。063アヽ何(なん)となく身体中(からだぢう)がぞうぞうして来(き)た。064何(ど)うやら娑婆(しやば)の空気(くうき)とは見当(けんたう)が違(ちが)ふやうだ。065一体(いつたい)此処(ここ)は何国(なにくに)の何(なん)と云(い)ふ所(ところ)だらう』
066安彦(やすひこ)『エデンの河(かは)の渡場(わたしば)で船(ふね)を濁流(だくりう)に流(なが)して、067河中(かはなか)に衝立(つつた)つた岩石(がんせき)に船(ふね)を打当(ぶちあ)て、068木葉(こつぱ)微塵(みぢん)に砕(くだ)いた結果(けつくわ)、069濁流(だくりう)漲(みなぎ)る水底(みなそこ)に暫時(しばし)蟄居(ちつきよ)したと思(おも)つたら、070何時(いつ)の間(ま)にかコンナ大野(おほの)ケ原(はら)を横断(わうだん)し、071又(また)もや一途(いちづ)の川(かは)の岸辺(きしべ)に着(つ)いたのだ。072吾々(われわれ)一同(いちどう)は一旦(いつたん)土左衛門(どざゑもん)となつて、073冥途(めいど)の旅(たび)を今(いま)やつてゐるのだ。074四辺(あたり)の状況(じやうきやう)が違(ちが)ふのも当然(あたりまへ)だよ』
075国彦(くにひこ)『困(こま)つたことだなア。076併(しか)し好(い)い死時(しにどき)だ。077可愛(かあい)い女房(にようばう)も無(な)ければ子(こ)もなし、078別(べつ)に娑婆(しやば)に執着心(しふちやくしん)も無(な)いのだから、079何(ど)うだ一(ひと)つ奮発(ふんぱつ)して幽冥界(いうめいかい)を跋渉(ばつせふ)し、080宣伝歌(せんでんか)でも歌(うた)つて三途(せうづ)の川(かは)の鬼婆(おにばば)や、081数多(あまた)の鬼(おに)共(ども)を片端(かたつぱし)から言向和(ことむけやは)し、082聴(き)かぬ奴(やつ)は笠(かさ)の台(だい)を縦横(じうわう)無尽(むじん)にチヨン斬(ぎ)つて、083地獄(ぢごく)開設(かいせつ)以来(いらい)のクーデターを開始(かいし)してやらうではないか。084エーンアーン』
085安彦(やすひこ)『猛烈(まうれつ)な勢(いきほひ)だなア、086併(しか)し乍(なが)ら今(いま)から喇叭(ラツパ)を吹(ふ)くと、087先(さき)へ往(い)つてから原料(げんれう)が欠乏(けつぼう)して了(しま)うよ』
088国彦(くにひこ)『ナーニ旧(もと)は与太彦(よたひこ)と云(い)つた此(この)方(はう)だ。089俺(おれ)の言(い)つたことは決(けつ)してノンセンスでは無(な)い。090深遠(しんゑん)微妙(びめう)の意味(いみ)が含(ふく)んでゐるのだ。091マア細工(さいく)は粒々(りうりう)仕上(しあ)げを見(み)て下(くだ)されよ。092開(あ)いた口(くち)が閉(すぼ)まらぬ、093牛糞(うしぐそ)が天下(てんか)をとるのは今度(こんど)のことであるぞよ。094世界(せかい)の人民(じんみん)改心(かいしん)致(いた)されよだ』
095安彦(やすひこ)『又(また)汽笛(きてき)を吹(ふ)き出(だ)しよつた。096コンナ奴(やつ)と道連(みちづ)れになると騒(さわ)がしくて烏(からす)も燕(つばめ)も雀(すずめ)も百舌鳥(もず)も、097みな逃(に)げて了(しま)ひよるから、098幽界(いうかい)旅行(りよかう)も面白(おもしろ)く無(な)いワイ。099好(い)い加減(かげん)に沈黙(ちんもく)せぬかい』
100国彦(くにひこ)『乃木(のぎ)将軍(しやうぐん)の猛烈(まうれつ)なる攻撃(こうげき)に会(あ)ひ、101南山(なんざん)の砲台(はうだい)は漸(やうや)く沈黙(ちんもく)したが、102二百三(にひやくさん)高地(かうち)の与太彦(よたひこ)砲台(はうだい)は仲々(なかなか)以(もつ)て容易(ようい)に沈黙(ちんもく)せない。103一度(いちど)生命(いのち)をステツセルの吾々(われわれ)、104旅順口(りよじゆんこう)の片顋(かたあご)がむしられようとも、105さうやすやすと休戦(きうせん)の喇叭(ラツパ)は吹(ふ)かないから、106其(そ)の積(つも)りで貴様(きさま)達(たち)も吾輩(わがはい)に従軍(じゆうぐん)するのだ。107一途(いちづ)の川(かは)の二人(ふたり)婆(ばば)の館(やかた)まで突貫(とつくわん)々々(とつくわん)。108全隊(ぜんたい)進(すす)め、109一(いち)二(に)三(さん)四(し)五(ご)』
110と自分(じぶん)一人(ひとり)、111人員(じんゐん)を数(かぞ)へ乍(なが)らコムパスに油(あぶら)をかけて、112急足(きふそく)滑車(くわつしや)を走(はし)らせた。113安彦(やすひこ)、114道彦(みちひこ)、115田加彦(たかひこ)、116百舌彦(もずひこ)は一斉(いつせい)に手(て)を揚(あ)げ、117声(こゑ)を限(かぎ)りに、
118四(よ)人(にん)『オーイオーイ』
119と呼(よ)び止(と)める。120国彦(くにひこ)は耳(みみ)にもかけず尻(しり)ひつからげて、121トントンと驀地(まつしぐら)に婆(ばば)の館(やかた)を指(さ)して走(はし)り行(ゆ)く。122勢(いきほひ)余(あま)つて半丁(はんちやう)ばかり通(とほ)り越(こ)して了(しま)ひ
123国彦『ヨー国彦(くにひこ)サンの御(ご)威光(ゐくわう)に恐(おそ)れてか、124一途(いちづ)の川(かは)の二人(ふたり)婆(ばば)も共(とも)に何処(いづこ)とも無(な)く煙散(えんさん)霧消(むせう)の大惨事(だいさんじ)とけつかるワイ。125それにつけても安彦(やすひこ)、126道彦(みちひこ)その他(た)の足弱(あしよわ)共(ども)、127何(なに)を愚図(ぐづ)愚図(ぐづ)してゐるのだらうか。128大方(おほかた)此(この)風(かぜ)に吹(ふ)き飛(と)ばされて、129夏(なつ)の蚊(か)が夕立(ゆふだち)に逢(あ)うたやうに木(こ)の葉(は)の裏(うら)に、130しがみついてゐよるのだらう。131アヽ弱虫(よわむし)だなア』
132と得意(とくい)になつて、133モノログを囀(さへづ)つてゐる。134此(この)声(こゑ)を聞(き)いてか、135松(まつ)の根下(ねもと)の小屋(こや)の中(なか)より渋紙(しぶかみ)のやうな手(て)を出(だ)し、136皺枯(しわが)れ声(ごゑ)を出(だ)して、
137婆『オーイ オーイ』
138と招(まね)く婆(ばば)の声(こゑ)、
139国彦(くにひこ)『ヤーあまり馬力(ばりき)をかけ過(す)ぎたので、140婆(ばば)の家(いへ)を見落(みおと)したと見(み)えるワイ。141ナアンダ、142安彦(やすひこ)の言(い)つたのとは余程(よつぽど)年(とし)の寄(よ)つた穢(きたな)い婆(ばば)だ。143大方(おほかた)彼奴(あいつ)の娘(むすめ)の中婆(ちうばば)のことだらう。144ナンデモ二人(ふたり)の婆(ばば)だと云(い)ふから一人(ひとり)の方(はう)は若(わか)い奴(やつ)に違(ちが)ひない。145どうれ、146首実検(くびじつけん)と出掛(でか)けてやらうかい』
147と又(また)もやテクテクと松(まつ)の下(した)の川縁(かはべり)の小屋(こや)を指(さ)して引返(ひきかへ)し来(き)たり、148門口(かどぐち)を三(み)つ四(よ)つ打叩(うちたた)き乍(なが)ら、
149国彦(くにひこ)『吾(われ)こそは音(おと)に名高(なだか)き与太彦(よたひこ)ドツコイ国彦(くにひこ)の宣伝使(せんでんし)、150眼(まなこ)涼(すず)しく眉(まゆ)秀(ひい)で、151鼻筋(はなすぢ)通(とほ)り口元(くちもと)凛(りん)として苦味(にがみ)を帯(お)び、152英気(えいき)に充(み)ちたる古今(ここん)無双(むさう)のヒーロー豪傑(がうけつ)、153一途(いちづ)の川(かは)の渡守(わたしもり)を致(いた)す鬼婆(おにばば)の娘(むすめ)の中婆(ちうばば)、154天下(てんか)の人民(じんみん)を救(たす)け、155幽界(いうかい)の身魂(みたま)を救(すく)ふ三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だ。156何時迄(いつまで)も斯様(こん)な所(ところ)に燻(くすぼ)つて霜(しも)枯(か)れ近(ちか)き無味(むみ)乾燥(かんさう)なる生活(せいくわつ)を致(いた)すより、157国彦(くにひこ)サンと手(て)に手(て)を握(と)つて死出(しで)三途(せうづ)は申(まを)すにおよばす、158地獄(ぢごく)の釜(かま)のドン底(ぞこ)迄(まで)探険(たんけん)と出掛(でか)けたら如何(どう)だ。159併(しか)し乍(なが)ら中婆(ちうばば)の四十(しじふ)女(をんな)に限(かぎ)るぞ。160皺(しわ)くちや婆(ばば)は真平(まつぴら)御免(ごめん)だ』
161と妙(めう)な手振(てぶ)り、162足(あし)つきし乍(なが)ら戸(と)の外(そと)に踊(をど)つて居(を)る。163中(なか)より十七八(じふしちはつ)歳(さい)の優(やさ)しき女(をんな)の声(こゑ)、
164女『何(いづ)れの方(かた)かは存(ぞん)じませぬが、165能(よ)くマアこの茅屋(あばらや)を御(お)訪(たづ)ね下(くだ)さいました。166御(お)供(とも)の衆(しう)がございませう、167何卒(どうぞ)一度(いちど)に御(お)這入(はい)り下(くだ)さいませ』
168国彦(くにひこ)『イヤーナンダ。169この茅屋(あばらや)を能(よ)う御(お)訪(たづ)ね下(くだ)さいましたナンテ、170四十(しじふ)女(をんな)どころか、171十七八(じふしちはつ)歳(さい)の優(やさ)しい鈴虫(すずむし)のやうな、172味(あぢ)はひのある玉(たま)の御(おん)声(こゑ)、173これだから旅(たび)はよいもの、174辛(つら)いもの、175辛(つら)いと思(おも)へばコンナ好(い)いことがある。176それに就(つい)て迷惑(めいわく)千万(せんばん)なのは、177安彦(やすひこ)、178道彦(みちひこ)其(その)他(た)の道連(みちづ)れだ。179声(こゑ)の色(いろ)から考(かんが)へても、180古今(ここん)無双(むさう)の逸物(いつぶつ)と見(み)える。181美人(びじん)か、182お多福(かめ)か、183婆(ばば)か、184娘(むすめ)かと云(い)ふことは声(こゑ)の色(いろ)に現(あら)はれてゐるものだ』
185と呟(つぶや)き乍(なが)ら、186武者窓(むしやまど)からソツと窃(ぬす)むやうに覗(のぞ)いて見(み)た。187娘(むすめ)は濡(ぬ)れ烏(がらす)のやうな髪(かみ)を結(ゆ)ひ窓(まど)の方(はう)を背(せ)にしてゐるから、188その容貌(ようばう)はしかとは分(わか)らぬが、189其(そ)の姿勢(しせい)の何処(どこ)となく優美(いうび)なるに肝(きも)を潰(つぶ)し、
190国彦『アーア成(な)るは嫌(いや)なり、191思(おも)ふは成(な)らずだ。192冥途(めいど)へ来(き)てもコンナ奴(やつ)が居(ゐ)るのならば、193娑婆(しやば)よりも幾何(いくら)か楽(たのし)みだ。194娑婆(しやば)に居(を)つた時(とき)には、195お多福(かめ)の奴(やつ)に肘鉄(ひぢてつ)の乱射(らんしや)に会(あ)ひ男(をとこ)を下(さ)げて自暴腹(やけつぱら)になり、196終(つひ)には宣伝使(せんでんし)にまでなつたが、197冥途(めいど)と云(い)ふ所(ところ)は、198ナントしたマア好(よ)い所(ところ)だらう。199夢(ゆめ)ではあるまいか……アー矢張(やつぱ)り夢(ゆめ)でも現(うつつ)でも無(な)い、200擬(まが)ふ方(かた)なき美人(びじん)の姿(すがた)、201コンナ女(をんな)をスウヰートハートとするのは、202男(をとこ)として別(べつ)に恥(は)づることは無(な)い。203先方(むかふ)の奴(やつ)屹度(きつと)俺(おれ)の顔(かほ)を見(み)て目(め)を細(ほそ)くしよつて、204此(こ)の国彦(くにひこ)サンにラブするは請合(うけあ)ひの西瓜(すいくわ)だ。205皆(みな)の奴(やつ)が出(で)て来(く)るまでに一(ひと)つ交渉(かうせふ)をやつて見(み)ようかナア』
206 安彦(やすひこ)、207道彦(みちひこ)外(ほか)二人(ふたり)は、208国彦(くにひこ)の後(あと)を追(お)うて走(はし)り来(き)たりしが、209其辺(そこら)は何(なん)となく俄(にはか)に暗(くら)くなり、210ナンダか途(みち)の真中(まんなか)に横(よこた)はる影(かげ)がある。
211安彦(やすひこ)『オイオイ三(さん)人(にん)の連中(れんぢう)、212ナンダか此処(ここ)に妙(めう)な者(もの)が横(よこた)はつてゐる。213どうだ一(ひと)つ貴様(きさま)の金剛杖(こんがうづゑ)を貸(か)して呉(く)れ。214こづいて見(み)るから』
215と言(い)ひ乍(なが)ら、216俄(にはか)造(つく)りの節(ふし)だらけの杖(つゑ)を百舌彦(もずひこ)の手(て)より引奪(ひつたく)り、217力(ちから)を籠(こ)めて乱打(らんだ)する。
218国彦(くにひこ)『アイタヽヽアイタヽヽ痛(いた)いワイ痛(いた)いワイ、219貴様(きさま)は可愛(かあい)らしい娘(むすめ)に似合(にあ)はぬ酷(ひど)い奴(やつ)だ。220ソンナ節(ふし)だらけの杖(つゑ)を以(もつ)て此(この)色男(いろをとこ)を打擲(ちやうちやく)するとは何事(なにごと)だ。221コリヤ婆(ばば)、222貴様(きさま)も一(ひと)つ挨拶(あいさつ)をせぬかい。223娘(むすめ)に斯様(かやう)な乱暴(らんばう)を働(はたら)かして置(お)いて、224親(おや)の役(やく)が済(す)むか。225これでも一途(いちづ)の川(かは)の渡守(わたしもり)か』
226安彦(やすひこ)『オイオイ国公(くにこう)、227ナンダ、228此(この)闇黒(くらがり)に横(よこ)になりよつて、229ナニ寝言(ねごと)を言(い)つて居(ゐ)るのだ、230しつかりせぬかい』
231国彦(くにひこ)『ヤー貴様(きさま)は安彦(やすひこ)ぢやないか、232娘(むすめ)の癖(くせ)に俺(おれ)を打擲(ちやうちやく)しよつた。233貴様(きさま)一(ひと)つ仇(かたき)を討(う)つてくれないか』
234安彦(やすひこ)『莫迦(ばか)、235恍(とぼ)けない』
236と云(い)ひ乍(なが)ら二(ふた)つ三(み)つ背中(せなか)をウンと言(い)ふほど叩(たた)きつける。237国彦(くにひこ)は漸(やうや)く起(お)き上(あが)り、
238国彦(くにひこ)『アーア妙(めう)だ、239冥途(めいど)へ来(き)てからでも夢(ゆめ)を見(み)るものかなア』
240安彦(やすひこ)『定(きま)つたことだ。241世(よ)の諺(ことわざ)にも幽冥(いうめい)に夢見(ゆめみ)る心地(ここち)と云(い)ふことがある。242ワハヽヽヽ』
243 小屋(こや)の中(なか)より婆(ばば)の声(こゑ)、
244婆(ばば)『コラコラ此(この)前(まへ)に出(で)てうせた二人(ふたり)の耄碌(まうろく)、245出刄(でば)の合戦(かつせん)が未(ま)だ残(のこ)つて居(ゐ)るぞ、246サア此処(ここ)で引返(ひきかへ)して尋常(じんじやう)に勝負(しようぶ)を致(いた)せ』
247安彦(やすひこ)『オー貴様(きさま)はホシホシ婆(ばば)だな。248蛙(かはづ)の日干(ひぼし)のやうな面(つら)をしよつて、249何時迄(いつまで)も何時迄(いつまで)も此(こ)の茅屋(あばらや)に腐(くさ)り鰯(いわし)が網(あみ)に附(つ)いたやうに平太張(へたば)りついてゐよるのか、250粘着性(ねんちやくせい)の強(つよ)い婆(ばば)だな』
251婆(ばば)『定(きま)つたことだい、252粘着性(ねんちやくせい)が強(つよ)い婆(ばば)だよ。253貴様(きさま)もモー此処(ここ)へ黐桶(とりもちをけ)に足(あし)を突込(つつこ)んだやうなものだ。254黐(とりもち)に蝿(はへ)がとまつたも同然(どうぜん)、255一寸(いつすん)でも動(うご)けるなら、256サア動(うご)いて見(み)よ。257今(いま)貴様(きさま)等(たち)の身体(からだ)に電気(でんき)をかけてやるから』
258と云(い)ひ乍(なが)ら、259柱(はしら)に装置(さうち)せる握手(とつて)をグイグイと押(お)した。260五(ご)人(にん)は適度(てきど)に間隔(かんかく)を置(お)いて円形(ゑんけい)を画(えが)き、261クルクルと舞(ま)ひ乍(なが)ら、262陸地(りくち)を離(はな)れて次第(しだい)々々(しだい)に中空(ちうくう)に昇(のぼ)り行(ゆ)く。
263国彦(くにひこ)『ヤー文明(ぶんめい)の利器(りき)と云(い)ふ悪戯者(いたづらもの)がコンナ所(ところ)まで跋扈(ばつこ)しよつて、264亡者(まうじや)の身体(からだ)を中天(ちうてん)に捲(ま)き揚(あ)げるとは面白(おもしろ)い。265ヤイ婆(ばば)の奴(やつ)、266モツトモツトハンドルを押(お)して、267俺(おれ)を此(この)儘(まま)天国(てんごく)まで上(あ)げるのだよ。268無形(むけい)の空中(くうちう)エレベーター式(しき)だ。269面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、270天国(てんごく)へ往(い)つたら貴様(きさま)の功(こう)に免(めん)じ、271蓮(はす)の台(うてな)に半座(はんざ)を分(わ)けて待(ま)つてゐてやらう。272併(しか)し乍(なが)ら皺(しわ)くちや婆(ばば)は此(この)限(かぎ)りに非(あら)ずだ。273若(わか)い奴(やつ)若(わか)い奴(やつ)』
274と呶鳴(どな)り乍(なが)ら、275次第(しだい)々々(しだい)に中空(ちうくう)に捲(ま)き揚(あ)げられた。276天上(てんじやう)に捲(ま)き揚(あ)げられたる五(ご)人(にん)の男(をとこ)は上空(じやうくう)の烈風(れつぷう)に煽(あふ)られ空気(くうき)稀薄(きはく)のため、277殆(ほとん)ど息(いき)も絶(た)えなむ許(ばか)りの苦痛(くつう)を感(かん)じた。278五(ご)人(にん)は一時(いつとき)に声(こゑ)を振(ふ)り絞(しぼ)り、
279五人『オーイオーイ、280一途(いちづ)の川(かは)の婆(ば)アサン、281ヤーイ、282マア一度(いちど)元(もと)の場所(ばしよ)に降(おろ)して呉(く)れ。283オーイオーイ』
284と叫(さけ)んで居(を)る。285婆(ばば)の声(こゑ)は蚯蚓(みみづ)の泣(な)くやうに幽(かす)かに聞(きこ)えて来(き)た。
286婆(ばば)『三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)及(およ)び二人(ふたり)の馬鹿者(ばかもの)共(ども)、287胴体(どうたい)無(な)しの烏賊(いか)上(のぼ)り、288宣伝使(せんでんし)たるの貫目(くわんめ)は全然(さつぱり)ゼロだ。289元(もと)の所(ところ)にをり度(た)くばモー少(すこ)し汝(なんぢ)が身魂(みたま)に重味(おもみ)を附(つ)けよ。290さすれば自然(しぜん)に元(もと)の所(ところ)に下(くだ)り来(く)るだらう。291塵(ちり)芥(あくた)の如(ごと)き軽々(かるがる)しき薄片(うすつぺら)な魂(たましひ)を以(もつ)て大地(だいち)を闊歩(くわつぽ)するとは分(ぶん)に過(す)ぎたる汝(なんぢ)の振舞(ふるまひ)、292蚊(か)、293蜻蛉(とんぼ)にも均(ひと)しき蝿虫(はへむし)奴(め)等(ら)、294今(いま)レコード破(やぶ)りの大風(おほかぜ)が吹(ふ)くぞ、295風(かぜ)のまにまに太平洋(たいへいやう)か印度洋(いんどやう)のごもくとなつて鱶(ふか)の餌食(ゑじき)になつたがよからう。296アハヽヽヽ、297オホヽヽヽ』
298と千切(ちぎ)れ千切(ちぎ)れに半(なか)ば毀損(きそん)した遠距離(ゑんきより)電話(でんわ)のやうに聞(きこ)えて来(き)た。299五(ご)人(にん)は風(かぜ)の波(なみ)に漂(ただよ)ひ乍(なが)ら互(たがひ)に堅(かた)く手(て)を握(にぎ)り、300右(みぎ)に左(ひだり)に上(うへ)に下(した)に縦(たて)になり横(よこ)になり、301頭(かしら)が下(した)になり上(うへ)になりしつつ、302ふわりふわりと何処(いづこ)ともなく風(かぜ)のまにまに散(ち)り行(ゆ)く。
303 忽(たちま)ち空中(くうちう)に電光(でんくわう)閃(ひらめ)き雷鳴(らいめい)轟(とどろ)き渡(わた)ると見(み)るまに、304電気(でんき)に打(う)たれた如(ごと)く五(ご)人(にん)は手(て)を繋(つな)いだ儘(まま)、305鳥(とり)も通(かよ)はぬ山中(さんちう)に矢(や)を射(い)る如(ごと)く一直線(いつちよくせん)に落下(らくか)するのであつた。306フツト気(き)が附(つ)けば高山(かうざん)と高山(かうざん)の谷間(たにま)を流(なが)るる細谷川(ほそたにがは)の細砂(まいごみ)の上(うへ)に、307五(ご)人(にん)は枕(まくら)を列(なら)べて横(よこた)はつてゐたのである。
308 これは妙音(めうおん)菩薩(ぼさつ)がエデンの河(かは)の河下(かはしも)にて漁夫(れうし)と変(へん)じ、309五(ご)人(にん)の男(をとこ)を網(あみ)を以(もつ)て救(すく)ひ上(あ)げ、310息(いき)を吹(ふ)きかけコーカス山(ざん)の大天狗(だいてんぐ)をして空中(くうちう)に引掴(ひつつか)み、311メソポタミヤの北野(きたの)山中(さんちう)に誘(いざな)ひ来(きた)り、312谷川(たにがは)の砂(すな)の上(うへ)にどつかと下(お)ろして自(みづか)らは密(ひそか)にコーカス山(ざん)に立帰(たちかへ)つたのである。
313 嗚呼(ああ)奇(くし)びなる哉(かな)、314神(かみ)のはたらき、
315 嗚呼(ああ)有難(ありがた)き哉(かな)、316大神(おほかみ)の救(すく)ひよ。
317(大正一一・四・一 旧三・五 外山豊二録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→