霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 山(やま)の神(かみ)〔五八二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第3篇 神山霊水 よみ(新仮名遣い):しんざんれいすい
章:第15章 山の神 よみ(新仮名遣い):やまのかみ 通し章番号:582
口述日: 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高国別は岩窟で不思議な女神を追いかけるうち、落とし穴にはまって命を落としてしまう。天国をさまよううちに、宣伝使亀彦、梅彦ら一行と出会い、活津彦根神と呼ばれる。亀彦と梅彦はそれぞれ、神素盞嗚大神の娘である菊子姫、幾代姫と夫婦となっていた。
そして高国別は神素盞嗚大神の長女である愛子姫と契りを結ぶが、木花姫神が現れて、まだ現界に役割が残っているとして生き返る。
目を覚ました高国別は、深い井戸の底に落ち込んでいることに気がついた。そこへ天国で見たとおりに亀彦、梅彦、菊子姫、幾代姫、愛子姫が現れる。
井戸の底から石段を上ってきた高国別は、一同と合流する。夢で見たとおり、愛子姫は高国別を夫として迎え、六人で岩屋の探検に進んで行くことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-16 18:38:24 文字数:5807 OBC :rm1515
愛善世界社版:184頁 八幡書店版:第3輯 348頁 修補版: 校定版:183頁 普及版:83頁 初版: ページ備考:
001此(この)世(よ)を澄(すま)す素盞嗚(すさのを)の
002神(かみ)の命(みこと)に従(したが)ひて
003御稜威(みいづ)も高(たか)き高国別(たかくにわけ)は
004奇(くし)の岩窟(いはや)に陥(おちい)りし
005老若(らうにやく)男女(なんによ)の生命(せいめい)を
006一人(ひとり)も残(のこ)さず助(たす)けむと
007地底(ちてい)の洞(ほら)に飛(と)び込(こ)みて
008神(かみ)に願(ねがひ)をかけまくも
009雄々(をを)しき姿(すがた)すたすたと
010声(こゑ)する方(はう)を辿(たど)りつつ
011往(ゆ)き当(あた)りたる岩(いは)の戸(と)に
012又(また)もや両手(りやうて)を組(く)みながら
013進退(しんたい)茲(ここ)に谷(きは)まりて
014暫(しば)し思案(しあん)に暮(く)れ居(ゐ)たる。
015 時(とき)しもあれや何処(いづこ)よりか、016閃光(せんくわう)輝(かがや)き高国別(たかくにわけ)が前(まへ)に火玉(ひだま)となりて進(すす)み来(く)るものあり。
017 高国別(たかくにわけ)は剣(つるぎ)の把(つか)に手(て)をかけて、018寄(よ)らば斬(き)らむと身構(みがま)へす。019巨大(きよだい)なる火(ひ)の玉(たま)は、020高国別(たかくにわけ)が四五間(しごけん)前(まへ)に万雷(ばんらい)の一(いち)時(じ)に落(お)つるが如(ごと)き音響(おんきやう)と共(とも)に落下(らくか)し、021白煙(はくえん)となつて四辺(あたり)を包(つつ)み咫尺(しせき)を弁(べん)ぜざる靄(もや)の中(なか)、022高国別(たかくにわけ)はきつと腹(はら)を据(す)ゑ臍下(さいか)丹田(たんでん)に息(いき)を詰(つ)め、023天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)しければ、024今迄(いままで)咫尺(しせき)を弁(べん)ぜざりし猛煙(まうえん)は拭(ぬぐ)ふがごとく消(き)え失(う)せて、025優美(いうび)なる一人(ひとり)の女神(めがみ)、026莞爾(くわんじ)として佇立(ちよりつ)して居(ゐ)たまふ。
027 高国別(たかくにわけ)は、
028高国別『ヤア汝(なんぢ)は何者(なにもの)なるぞ、029察(さつ)する所(ところ)此(この)岩窟(がんくつ)に蟠(わだか)まる金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)の眷属(けんぞく)ならむ、030吾(あ)が両刃(もろは)の長剣(ちやうけん)に斬(き)り捨(す)てむ』
031と云(い)ふより早(はや)く剣光(けんくわう)閃(ひらめ)く電(いなづま)の早業(はやわざ)、032斬(き)つてかかれば女神(めがみ)は中空(ちうくう)に舞(ま)ひ上(あが)り、033飛鳥(ひてう)の如(ごと)く右(みぎ)に左(ひだり)に上(うへ)に下(した)に体(たい)を躱(かは)し、034遂(つひ)には又(また)もや以前(いぜん)の火弾(くわだん)と化(くわ)し、035唸(うな)りを立(た)てて岩窟(いはや)の内(うち)を矢(や)を射(い)る如(ごと)く逃(に)げ去(さ)りにける。
036 油断(ゆだん)はならじと高国別(たかくにわけ)は附近(あたり)キヨロキヨロ見廻(みまは)す折(をり)しも、037身(み)の丈(たけ)一丈(いちぢやう)五六(ごろく)尺(しやく)もあらむと思(おも)はる大男(おほをとこ)、038異様(いやう)の獣(けもの)を引(ひ)きつれながら此(この)場(ば)に現(あら)はれ、039高国別(たかくにわけ)に一寸(ちよつと)会釈(ゑしやく)したり。040高国別(たかくにわけ)は又(また)もや魔神(まがみ)の襲来(しふらい)ならむと眼(め)を配(くば)り身構(みがま)へする。041大(だい)の男(をとこ)は大口(おほぐち)開(あ)けて高笑(たかわら)ひ、
042男『アハヽヽヽヽ、043汝(なんぢ)は高天原(たかあまはら)より下(くだ)り来(きた)れる俄造(にはかづく)りの似非(えせ)審神者(さには)、044吾(わが)正体(しやうたい)を見届(みとど)けよ』
045と鏡(かがみ)の如(ごと)き眼(め)を見開(みひら)き、046かつと睨(ね)めつけたり。047高国別(たかくにわけ)は両手(りやうて)を組(く)み、048鎮魂(ちんこん)の姿勢(しせい)を取(と)り、049ウンと一声(ひとこゑ)言霊(ことたま)を発射(はつしや)したるに、050大(だい)の男(をとこ)は忽(たちま)ち体(たい)を変(へん)じ優美(いうび)なる女神(めがみ)となりぬ。
051 高国別(たかくにわけ)は、
052高国別『千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の悪神(あくがみ)の悪戯(いたづら)、053今(いま)に正体(しやうたい)を現(あら)はして呉(く)れむ』
054と両刃(もろは)の長剣(ちやうけん)を閃(ひらめ)かし、055女神(めがみ)に向(むか)つて骨(ほね)も通(とほ)れとばかり突(つ)きかかる。056女神(めがみ)は手早(てばや)く体(たい)をヒラリと躱(かは)した途端(とたん)、057勢(いきほひ)余(あま)つて高国別(たかくにわけ)は岩窟(がんくつ)の中(なか)の隧道(すゐだう)を、058トントントン、059と七八間(しちはちけん)許(ばか)り行(ゆ)き過(すご)し、060底(そこ)ひも知(し)れぬ陥穽(おとしあな)に真逆(まつさか)さまに転落(てんらく)し、061高国別(たかくにわけ)は其(その)儘(まま)息(いき)絶(た)え、062最早(もはや)此(この)世(よ)の人(ひと)にはあらざりけり。
063 高国別(たかくにわけ)は唯一人(ただひとり)、064天(てん)青(あを)く山(やま)清(きよ)く百花(ひやくくわ)爛漫(らんまん)たる原野(げんや)を神言(かみごと)を奏上(そうじやう)しながら何処(どこ)を当(あて)ともなく、065足(あし)の動(うご)くままに身(み)を任(まか)せ進(すす)み行(ゆ)く。
066 前方(ぜんぱう)に屹立(きつりつ)する雲(くも)の衣(ころも)を半(なかば)被(かぶ)りたる高山(かうざん)が見(み)えて来(き)た。067高国別(たかくにわけ)は山(やま)に引(ひつ)つけらるる如(ごと)き心地(ここち)して、068足(あし)に任(まか)せて進(すす)み行(ゆ)く。069パタリと行(ゆ)き当(あた)つた峻坂(しゆんぱん)、070仰(あふ)ぎ見(み)れば鮮花色(せんくわしよく)の男女(だんぢよ)の群(むれ)四五(しご)人(にん)、071何事(なにごと)か面白(おもしろ)可笑(おか)しく囁(ささや)きながら、072此方(こなた)に向(むか)つて悠々(いういう)と進(すす)み来(きた)る。073高国別(たかくにわけ)は両手(りやうて)を組(く)んで独言(ひとりごと)、
074高国別『アヽ吾(われ)は素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の大神(おほかみ)の御(お)伴(とも)仕(つか)へまつり、075カナンが一家(いつか)に休息(きうそく)し給(たま)ふ尊(みこと)の命(めい)によつて諸人(しよにん)の後(あと)を追(お)ひ、076不思議(ふしぎ)の岩窟(いはや)に忍(しの)び入(い)りしと思(おも)ひきや、077天空(てんくう)快濶(くわいくわつ)一点(いつてん)の雲霧(うんむ)風塵(ふうぢん)もなき大原野(だいげんや)を渡(わた)り、078今(いま)又(また)此(この)山口(やまぐち)に来(きた)るこそ合点(がてん)がゆかぬことである哩(わい)』
079と後(あと)振返(ふりかへ)り四方(しはう)の光景(くわうけい)を眺(なが)めて思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。080五(ご)人(にん)の男女(だんぢよ)は此処(ここ)に現(あら)はれて一斉(いつせい)に恭(うやうや)しく目礼(もくれい)しながら、
081五人『貴下(きか)は高国別(たかくにわけ)の宣伝使(せんでんし)、082活津(いくつ)彦根(ひこねの)神(かみ)に在(おは)さずや、083吾(われ)等(ら)は神(かむ)伊邪諾(いざなぎの)大神(おほかみ)の使者(ししや)として貴下(きか)を迎(むか)への為(ため)に罷越(まかりこし)たり、084イザイザ御(ご)案内(あんない)申(まを)さむ』
085と先(さき)に立(た)つて進(すす)み行(ゆ)く。086高国別(たかくにわけ)は何心(なにごころ)なく、087いそいそと五(ご)人(にん)の後(あと)に従(したが)ひ急坂(きふはん)を登(のぼ)り行(ゆ)く。088漸(やうや)う坂(さか)の絶頂(ぜつちやう)に達(たつ)した。089二男(になん)三女(さんぢよ)の神人(しんじん)は口(くち)を揃(そろ)へて、
090五人『これはこれは高国別(たかくにわけ)様(さま)、091お疲(つか)れで御座(ござ)いませう。092此処(ここ)は珍(うづ)の峠(たうげ)の絶頂(ぜつちやう)、093先(ま)づ御(ご)休息(きうそく)下(くだ)さいませ』
094 高国別(たかくにわけ)は、
095高国別『アヽ思(おも)ひも寄(よ)らぬ一人旅(ひとりたび)、096何(なん)となく此(この)麗(うるは)しき山野(さんや)を跋渉(ばつせふ)するにも話相手(はなしあひて)もなく稍(やや)寂寥(せきれう)を感(かん)じて居(ゐ)ました。097然(しか)るに此(この)坂(さか)の下(した)より麗(うるは)しき貴方(あなた)等(ら)の御(お)迎(むか)へ、098一(いち)円(ゑん)合点(がてん)が参(まゐ)り申(まを)さず、099珍(うづ)の峠(たうげ)とは何国(なにくに)の山(やま)で御座(ござ)るか』
100 五(ご)人(にん)は、
101五人『ハイ』
102と云(い)つたまま、103ニコニコと笑(わら)つて答(こた)へぬ。104折(をり)しも得(え)も云(い)はれぬ涼(すず)しき風(かぜ)徐(おもむろ)に吹(ふ)き来(きた)り、105高国別(たかくにわけ)の顔(かほ)を撫(な)で颯々(さつさつ)たる声(こゑ)を立(た)て、106幅広(はばひろ)の木葉(このは)を翻(ひるがへ)しながら過(す)ぎて行(ゆ)く。
107高国別『オー恰(まる)で天国(てんごく)浄土(じやうど)のやうな心持(こころもち)が致(いた)す、108百鳥(ももどり)は空(そら)に謡(うた)ひ百花(ひやくくわ)爛漫(らんまん)として咲(さ)き乱(みだ)れ、109風(かぜ)は清(きよ)く香(かん)ばしく、110幽(かす)かに聞(きこ)ゆる微妙(びめう)の音楽(おんがく)、111曇(くも)り果(は)てたる葦原(あしはら)の国(くに)にもかかる麗(うるは)しき郷土(きやうど)のあるか、112アヽ心持(こころもち)よや』
113と芝生(しばふ)の上(うへ)にどつかと坐(ざ)し、114言葉(ことば)涼(すず)しく一同(いちどう)に向(むか)ひ、
115高国別『合点(がてん)の行(ゆ)かぬ今日(けふ)の旅行(りよかう)、116貴方(あなた)等(ら)は何(いづ)れの神(かみ)に坐(ま)し在(ま)すか、117名乗(なの)らせたまへ』
118 一人(ひとり)の男(をとこ)は恭(うやうや)しく、
119男『私(わたくし)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)たりし亀彦(かめひこ)で御座(ござ)います。120これなる女(をんな)は菊子姫(きくこひめ)と申(まを)し、121神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の第六(だいろく)の御(おん)娘(むすめ)、122今(いま)は大神(おほかみ)の御心(みこころ)により千代(ちよ)も変(かは)らぬ宿(やど)の妻(つま)、123此処(ここ)は地底(ちてい)の国(くに)の天国(てんごく)、124珍(うづ)の峠(たうげ)で御座(ござ)います』
125高国別『アヽ、126貴方(あなた)は音(おと)に名高(なだか)い亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)、127貴方(あなた)は大神(おほかみ)の御(おん)娘(むすめ)菊子姫(きくこひめ)様(さま)か、128思(おも)はぬ処(ところ)でお目(め)に懸(かか)りました。129してして父(ちち)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)は今(いま)何処(いづ)くに在(おはしま)すか、130聞(き)かま欲(ほ)しう存(ぞん)じます』
131 菊子姫(きくこひめ)は涙(なみだ)をはらはらと払(はら)ひながら、
132菊子姫『申(まを)すも詮(せん)なき事(こと)ながら、133父(ちち)大神(おほかみ)は天地(てんち)諸神人(しよしんじん)のために、134千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)はせたまひ今(いま)は味気(あぢき)なき漂泊(さすらひ)の一人旅(ひとりたび)、135何処(いづく)の果(はた)に在(おは)すらむ、136せめては其(その)御(ご)消息(せうそく)なりとも聞(き)かま欲(ほ)し』
137と涙(なみだ)ぐみ芝生(しばふ)の上(うへ)に泣(な)き伏(ふ)しにけり。
138 梅彦(うめひこ)は、
139梅彦『これはこれは菊子姫(きくこひめ)殿(どの)、140此処(ここ)は地底(ちてい)の天国(てんごく)で御座(ござ)る。141天国(てんごく)に涙(なみだ)は禁物(きんもつ)、142歓喜(くわんき)の花(はな)の開(ひら)くパラダイスで御座(ござ)るぞ。143いや高国別(たかくにわけ)様(さま)、144吾々(われわれ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)たりし梅彦(うめひこ)と申(まを)す者(もの)、145これなる妻(つま)は菊子姫(きくこひめ)の姉(あね)幾代姫(いくよひめ)で御座(ござ)います。146大神(おほかみ)の内命(ないめい)に依(よ)つて夫婦(ふうふ)の約(やく)を結(むす)びました。147此(この)後(ご)宜敷(よろし)くお願(ねが)ひ致(いた)します』
148高国別『アヽ左様(さやう)で御座(ござ)つたか、149思(おも)ひも寄(よ)らぬ不思議(ふしぎ)の対面(たいめん)、150全(まつた)く大神(おほかみ)様(さま)のお引(ひ)き合(あは)せ、151アヽ有難(ありがた)し。152斯(か)くも麗(うるは)しき山上(さんじやう)にて大神(おほかみ)の姫御子(ひめみこ)に御(お)目(め)に掛(かか)る事(こと)望外(ばうぐわい)の仕合(しあは)せで御座(ござ)る』
153梅彦『貴神(あなた)はペテロの都(みやこ)に於(おい)て驍名(げうめい)隠(かく)れなき御(おん)神様(かみさま)、154幾度(いくたび)か生死(せいし)を往来(ゆきき)遊(あそ)ばされ、155此処(ここ)に活津(いくつ)彦根(ひこねの)神(かみ)と現(あら)はれ給(たま)ひし天下(てんか)無双(むさう)の忠勇(ちうゆう)義烈(ぎれつ)の神(かみ)様(さま)と承(うけたま)はる。156天(あめ)の太玉(ふとたまの)命(みこと)の仲介(なかだち)により、157素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の御(お)許(ゆる)しを得(え)て第一(だいいち)の御子(みこ)たる、158此(この)愛子姫(あいこひめ)様(さま)を貴下(きか)の妻(つま)と神定(かむさだ)めさせ給(たま)へば、159今(いま)より愛子姫(あいこひめ)様(さま)を妻(つま)となし、160神国(しんこく)のためにお尽(つく)し下(くだ)されば有難(ありがた)う存(ぞん)じます。161貴方(あなた)にお渡(わた)し申(まを)す迄(まで)吾(われ)等(ら)は日夜(にちや)の気懸(きがか)り、162之(これ)にて吾(わが)願望(ぐわんばう)も成就(じやうじゆ)致(いた)しました』
163と梅彦(うめひこ)は心(こころ)落(お)ち付(つ)きし様子(やうす)なり。
164愛子姫『これはこれは、165音(おと)に名高(なだか)き高国別(たかくにわけ)様(さま)、166夫(をつと)となり妻(つま)となるも神(かみ)の結(むす)びたまひし身魂(みたま)の因縁(いんねん)、167千代(ちよ)も八千代(やちよ)も妾(わらは)と共(とも)に、168手(て)を携(たづさ)へて神業(しんげふ)に尽(つく)させたまへ』
169と顔(かほ)に紅葉(もみぢ)を散(ち)らしつつ優(やさ)しき手(て)を膝(ひざ)にあて語(かた)り出(いづ)るは愛子姫(あいこひめ)なり。170高国別(たかくにわけ)は、171夢(ゆめ)か現(うつつ)か幻(まぼろし)か合点(がてん)行(ゆ)かぬと、172暫(しば)し茫然(ばうぜん)として大空(おほぞら)打(う)ち仰(あふ)ぎ思案(しあん)に暮(く)れ居(ゐ)たり。
173 梅彦(うめひこ)はモドかしがり、
174梅彦『高国別(たかくにわけ)様(さま)、175何(なに)を御(ご)思案(しあん)なさいます、176何事(なにごと)も結(むす)びの神(かみ)の御(おん)定(さだ)め、177直(ただち)に御(ご)承諾(しようだく)なさいませ』
178高国別『アヽ、179有難(ありがた)し有難(ありがた)し、180思(おも)ひも寄(よ)らぬ山上(さんじやう)の見合(みあ)ひ、181山(やま)の神(かみ)様(さま)の御(お)仲介(なかだち)、182草(くさ)の筵(むしろ)に雲(くも)の天井(てんじやう)、183風(かぜ)の音楽(おんがく)に木々(きぎ)の木(こ)の葉(は)の舞(ま)ひ踊(をど)り、184イヤもう有難(ありがた)う承知(しようち)仕(つかまつ)りました』
185と高国別(たかくにわけ)は笑顔(ゑがほ)をもつて迎(むか)へゐる。186これより世俗(せぞく)は妻(つま)を山(やま)の神(かみ)と云(い)ふのである。187愛子姫(あいこひめ)は立(た)ち上(あが)り、188高国別(たかくにわけ)に向(むか)つて、189南方(なんぱう)の諸山(しよざん)を圧(あつ)してそそり立(た)てる高山(たかやま)を指(ゆび)さし、
190愛子姫『雲(くも)の彼方(かなた)の黄金(こがね)の山(やま)は我(われ)等(ら)が永久(とこしへ)の故郷(ふるさと)、191いざいざ御(ご)一同(いちどう)進(すす)みませう』
192と先(さき)に立(た)つて急坂(きふはん)を南(みなみ)に下(くだ)る。193一同(いちどう)は一歩(いつぽ)一歩(いつぽ)力(ちから)を入(い)れながらアブト式(しき)流(りう)に坂(さか)を下(くだ)り行(ゆ)く。194雲表(うんぺう)に屹立(きつりつ)せる彼方(かなた)の遠(とほ)き高山(たかやま)の山頂(さんちやう)に何時(いつ)の間(ま)にやら達(たつ)してゐた。195三夫婦(みふうふ)は山頂(さんちやう)に衝立(つつた)ち天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)するや、196山(やま)を包(つつ)みし五色(ごしき)の雲(くも)は扉(とびら)を開(ひら)きし如(ごと)く、197颯(さつ)と左右(さいう)に開(ひら)けた。198目(め)の届(とど)かぬ許(ばか)りの青野原(あをのはら)、199白(しろ)き、200赤(あか)き、201青(あを)き、202黄色(きいろ)き、203紫色(むらさきいろ)の三重(みへ)五重(いつへ)十重(とへ)二十重(はたへ)の塔(たふ)は、204眼下(がんか)の青野(あをの)が原(はら)の部落(ぶらく)の中(なか)に幾百(いくひやく)ともなく屹立(きつりつ)し、205其(その)絶景(ぜつけい)譬(たと)ふるに物(もの)なく、206遠(とほ)く目(め)を放(はな)てば紺碧(こんぺき)の波(なみ)を湛(たた)へたる大海原(おほうなばら)、207浪(なみ)静(しづか)に純白(じゆんぱく)の真帆(まほ)片帆(かたほ)、208右往(うわう)左往(さわう)に走(はし)り行(ゆ)くさま、209画伯(ぐわはく)の手(て)に成(な)れる一幅(いつぷく)の大画帳(だいぐわちやう)の如(ごと)く、210時(とき)の移(うつ)るも忘(わす)れて一同(いちどう)は絶景(ぜつけい)を見守(みまも)つて居(ゐ)た。211此(この)時(とき)山頂(さんちやう)の麗(うるは)しき祠(ほこら)の中(なか)より、212黄金(わうごん)の扉(とびら)を開(ひら)き現(あら)はれ出(い)でたる一柱(ひとはしら)の女神(めがみ)、213二人(ふたり)の侍女(じぢよ)を伴(ともな)ひ悠々(いういう)と六(ろく)人(にん)が前(まへ)に現(あら)はれて、
214女神『妾(わらは)は木花姫(このはなひめ)なり、215汝(なんぢ)等(ら)は忠勇(ちうゆう)義烈(ぎれつ)至仁(しじん)至愛(しあい)の神人(かみ)なれば、216汝(なんぢ)が永久(とこしへ)に住(す)むべき国(くに)は此(この)聖域(せいゐき)なり。217併(しか)しながら未(ま)だ現界(げんかい)に於(おい)て勤(つと)むべき事(こと)あれば、218再(ふたた)び現界(げんかい)に引(ひ)き返(かへ)されよ。219今後(こんご)は心(こころ)を緩(ゆる)ませ玉(たま)ふな。220体主(たいしゆ)霊従(れいじう)の魔風(まかぜ)に誘(さそ)はれなば、221再(ふたた)び此処(ここ)に来(きた)る事(こと)能(あた)はざるべし、222今(いま)より速(すみや)かに現界(げんかい)に帰(かへ)り給(たま)へ』
223と優美(いうび)にして荘重(さうちよう)なる言葉(ことば)を残(のこ)し、224黄金(わうごん)の扉(とびら)を閉(と)ぢて、225侍女(じぢよ)と共(とも)に又(また)もや祠(ほこら)の中(うち)に姿(すがた)を隠(かく)したまうた。
226 忽(たちま)ち四辺(しへん)暗黒(あんこく)となり、227身体(しんたい)に寒冷(かんれい)を覚(おぼ)ゆると見(み)る間(ま)に甦(よみがへ)り見(み)れば、228高国別(たかくにわけ)は岩窟内(がんくつない)の深(ふか)き井戸(ゐど)の底(そこ)に倒(たふ)れ居(ゐ)たるなり。
229高国別『アヽ夢(ゆめ)であつたか、230併(しか)し乍(なが)ら吾(われ)を活津彦根(いくつひこね)と仰(あふ)せられしは不審(ふしん)の一(ひと)つ、231吾身(わがみ)の守護神(しゆごじん)を知(し)らずして憖(なまじひ)に審神(さには)を行(おこな)ひしため、232大神(おほかみ)の御(ご)仁慈(じんじ)によつて教(をし)へたまひしか、233アヽ有難(ありがた)し有難(ありがた)し』
234と、235合掌(がつしやう)し声(こゑ)も涼(すず)しく天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)したりける。236フト空(そら)を仰(あふ)ぎ見(み)れば窟(あな)の周囲(まわり)に麗(うるは)しき二男(になん)三女(さんぢよ)の夢(ゆめ)に見(み)し神人(しんじん)が立(た)ち現(あら)はれ、237井底(せいてい)を覗(のぞ)きて何事(なにごと)か囁(ささや)き居(ゐ)るあり。238高国別(たかくにわけ)は夢(ゆめ)に夢見(ゆめみ)る心地(ここち)して、239又(また)もや両手(りやうて)を組(く)み心(こころ)の縺(もつ)れを手繰(たぐ)り居(を)る。240稍(やや)ありて高国別(たかくにわけ)は井底(せいてい)より空(そら)を仰(あふ)ぎながら、
241高国別『もしもし亀彦(かめひこ)様(さま)、242梅彦(うめひこ)様(さま)、243その他(た)三(さん)人(にん)の女性(めがみ)様(さま)、244私(わたくし)は高国別(たかくにわけ)で御座(ござ)います。245人(ひと)の命(いのち)を救(すく)はむために、246地中(ちちう)の岩窟(いはや)に忍(しの)び入(い)り、247過(あやま)つてかかる古井戸(ふるゐど)の底(そこ)に陥(お)ちました。248何(なん)とかして私(わたくし)をお救(すく)ひ下(くだ)さいますまいか』
249亀彦『ヤア噂(うはさ)に聞(き)き及(およ)ぶ高国別(たかくにわけ)様(さま)か、250それは嘸(さぞ)お困(こま)りでせう、251何(なん)とか一(ひと)つ工夫(くふう)をしてお救(すく)ひ申(まを)さねばなりませぬ。252併(しか)し乍(なが)ら斯(かか)る岩窟(いはや)の中(なか)にある古井戸(ふるゐど)には階段(かいだん)があるものです。253この亀彦(かめひこ)も一度(いちど)フサの国(くに)の醜(しこ)の岩窟(いはや)の古井戸(ふるゐど)に陥(お)ち込(こ)んだ時(とき)、254如何(いかが)はせむかと心(こころ)を痛(いた)めましたが、255フト傍(かたはら)を見(み)れば階段(かいだん)が刻(きざ)まれてありました。256よくよく調(しら)べなさいませ』
257高国別『有難(ありがた)う御座(ござ)います、258少(すこ)しの手(て)がかりも足(あし)がかりも御座(ござ)いませぬ。259恰度(ちやうど)竹筒(たけづつ)の中(なか)に落(お)ちたやうなものです』
260 梅彦(うめひこ)は、
261梅彦『アヽ、262困(こま)つたな、263吾々(われわれ)も一度(いちど)古井戸(ふるゐど)に陥(お)ちた経験(けいけん)があるが、264階段(かいだん)がないとは意外(いぐわい)だ、265何(なん)とか工夫(くふう)をせねばなりますまい。266亀彦(かめひこ)サン、267貴方(あなた)の褌(まはし)と帯(おび)を外(はづ)して下(くだ)さい、268吾々(われわれ)も帯(おび)と褌(まはし)とを解(と)きます。269これを繋(つな)いで井底(せいてい)に釣(つ)り下(くだ)しませう』
270と云(い)ひつつ、271くるくると帯(おび)を解(と)き、272褌(まはし)を外(はづ)し手早(てばや)く繋(つな)いだ。273亀彦(かめひこ)も同(おな)じく帯(おび)と褌(まはし)を取(と)り外(はづ)し、274手早(てばや)く繋(つな)ぎ合(あは)せ井戸(ゐど)に下(さ)げ降(おろ)して見(み)た。
275 梅彦(うめひこ)は、
276梅彦『モシモシ、277高国別(たかくにわけ)様(さま)、278この帯(おび)にお掴(つか)まり下(くだ)さい』
279高国別『イヤ、280有難(ありがた)う、281折角(せつかく)の思召(おぼしめし)ながらどうも届(とど)きませぬ。282加(くは)ふるに怪(あや)しき臭気(しうき)が致(いた)します』
283 梅彦(うめひこ)は、
284梅彦『アヽ、285何(なん)と云(い)ふまわしの悪(わる)い事(こと)だらう。286エヽ仕方(しかた)がない、287三(さん)人(にん)のお女中(ぢよちう)、288貴女(あなた)方(がた)の帯(おび)を解(ほど)いて下(くだ)さいませ』
289愛子姫(あいこひめ)『ハイ、290如何(どう)致(いた)しませう。291菊子(きくこ)さま、292幾代(いくよ)さま』
293二女(にじよ)『さうですなア、294吾(わたし)裸体(はだか)になるのは恥(はづ)かしいワ』
295梅彦(うめひこ)『恥(はづ)かしいの何(なん)のと云(い)つてゐる所(どころ)か、296人命(じんめい)に係(かか)はる大事(だいじ)だ。297サアサアコンナ時(とき)には恥(はぢ)も糞(くそ)もあつたものでない、298帯(おび)をお解(と)きなさい』
299愛子姫(あいこひめ)『それでも余(あま)り残酷(ざんこく)ですワ』
300亀彦(かめひこ)『これこれ愛子姫(あいこひめ)さま、301何(なに)を仰有(おつしや)るのだ、302貴女(あなた)こそ残酷(ざんこく)だ。303高国別(たかくにわけ)様(さま)が危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)、304サアサア、305キリキリとお解(と)きなさい。306もしもし高国別(たかくにわけ)さま、307何(ど)うも仕方(しかた)がありませぬ、308吾々(われわれ)が帯(おび)を解(と)き褌(まはし)を解(と)き、309三(さん)人(にん)の女神(めがみ)の帯(おび)を繋(つな)ぎ合(あは)して、310今(いま)垂下(すゐか)致(いた)しますからね、311少々(せうせう)臭(くさ)くても御(ご)辛抱(しんばう)下(くだ)さいませ、312女(をんな)の匂(にほ)ひと云(い)ふものは却(かへ)つて床(ゆか)しいものですよ、313アハヽヽヽ』
314高国別(たかくにわけ)『夫(それ)計(ばか)りは御免(ごめん)蒙(かうむ)り度(た)い、315ヤア神(かみ)様(さま)の宿(やど)り給(たま)ふ頭(あたま)の上(うへ)で、316ソンナ物(もの)をべらべらさして貰(もら)つては有難(ありがた)迷惑(めいわく)だ。317どうぞ早(はや)く手繰(たぐ)り上(あ)げて下(くだ)さい』
318亀彦(かめひこ)『エヽ、319無理(むり)計(ばか)り云(い)ふ神(かみ)様(さま)だな、320此(この)場(ば)に及(およ)んでどうも仕方(しかた)がありませぬワ。321些(ちつ)とは鼻(はな)を摘(つま)んで御(ご)辛抱(しんばう)なさいませ。322異性(いせい)の匂(にほ)ひは却(かへ)つてよいものですよ』
323高国別(たかくにわけ)『アハヽヽヽ、324ヤア皆(みな)さま、325御(ご)心配(しんぱい)をかけました。326何(ど)うやら梯子(はしご)が刻(きざ)まれてあるやうに思(おも)ひます』
327亀彦(かめひこ)『アハヽヽヽ、328矢張(やつぱ)り三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)は洒落(しやれ)が上手(じやうず)だなア、329此処迄(ここまで)洒落(しやれ)ると、330洒落(しやれ)も徹底(てつてい)して面白(おもしろ)い。331もしもし三(さん)人(にん)の姫御前(ひめごぜん)、332御(ご)安心(あんしん)なさいませ、333帯(おび)を解(と)くのだけは赦(ゆる)して上(あ)げませう』
334三女(さんぢよ)『ホヽヽヽ、335誰(たれ)が帯(おび)ども解(ほど)きますものか、336帯(おび)を解(と)く時間(じかん)にはも些(ちつ)と早(はや)いぢやありませぬか、337ホヽヽヽヽ』
338亀彦(かめひこ)『また貴女(あなた)方(がた)も洒落(しやれ)るのか、339モシモシ高国別(たかくにわけ)さま、340早(はや)くお上(あが)りなさらぬか』
341高国別(たかくにわけ)『アヽ矢張(やつぱ)り間違(まちが)ひだつた、342些(ちつ)とも手係(てがか)りがありませぬワ。343誠(まこと)に済(す)みませぬが私(わたくし)の一命(いちめい)を助(たす)けると思召(おぼしめ)し、344どうぞお慈悲(じひ)に三(さん)人(にん)の女性(めがみ)様(さま)の帯(おび)を解(と)いて、345繋(つな)ぎ合(あは)して助(たす)けて下(くだ)さい、346お願(ねが)ひぢやお願(ねが)ひぢや』
347亀彦(かめひこ)『エヽ、348何(なん)だ矢張(やつぱ)り虚言(うそ)だつたか、349これは仕方(しかた)がない。350サアサア三(さん)人(にん)の女性(めがみ)様(さま)、351ちつと時間(じかん)は早(はや)いが夫(をつと)の云(い)ふ事(こと)だ、352女房(にようばう)が聞(き)かぬと云(い)ふ事(こと)があるものか、353早(はや)く解(と)いたり、354解(と)いたり。355エヽ何(なに)、356恥(はづ)かしいと。357何(なに)が恥(はづ)かしい、358水(みづ)も漏(も)らさぬ夫婦仲(めをとなか)ぢやないか』
359菊子姫(きくこひめ)『それでも姉(ねえ)さまに恥(はづ)かしいワ』
360亀彦(かめひこ)『何(なに)、361姉(ねえ)さまのお婿(むこ)さまを助(たす)けるのだ。362ソンナ遠慮(ゑんりよ)が要(い)るものか』
363愛子姫(あいこひめ)『ホヽヽヽヽ、364エヽ仕方(しかた)がありませぬ、365妾(わたし)が率先(そつせん)して模範(もはん)を示(しめ)しませう』
366と帯(おび)を解(と)きかける。367井戸(ゐど)の底(そこ)より陽気(やうき)な声(こゑ)で、368鼻歌(はなうた)を謡(うた)ひながら、369トン、370トンと上(あが)つて来(く)る。
371高国別(たかくにわけ)『ヤア皆様(みなさま)、372種々(いろいろ)と御(ご)心配(しんぱい)をかけました。373お蔭(かげ)で梯子段(はしごだん)が俄(にはか)に出来(でき)ました。374兎(と)も角(かく)咄嗟(とつさ)の場合(ばあひ)急造(きふざう)したものですから、375実(じつ)にやにこいものです。376アハヽヽヽ』
377梅(うめ)、378亀(かめ)『何(なん)だ、379裸体(はだか)になり損(そん)をしたワイ』
380高国別(たかくにわけ)『人間(にんげん)は生(うま)れ赤子(あかご)にならねば神(かみ)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)は頂(いただ)けませぬよ、381赤子(あかご)の時(とき)には裸体(はだか)で生(うま)れたのだもの、382アハヽヽヽ』
383 高国別(たかくにわけ)は拍手(かしはで)を打(う)ち合掌(がつしやう)しながら天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めた。384一同(いちどう)は声(こゑ)を揃(そろ)へて合唱(がつしやう)する、385其(その)声音(せいおん)朗々(らうらう)としてさしもに広(ひろ)き岩窟(いはや)に響(ひび)き渡(わた)り、386天地(てんち)開明(かいめい)の気分(きぶん)漂(ただよ)ふ。
387愛子姫(あいこひめ)『貴方(あなた)は父(ちち)の許(ゆる)せし吾(わが)夫(をつと)、388活津彦根(いくつひこね)の神(かみ)様(さま)、389ようマア無事(ぶじ)で居(ゐ)て下(くだ)さいました』
390高国別(たかくにわけ)『ヤア合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)もあればあるものだなア、391お前(まへ)が珍(うづ)の峠(たうげ)でお目(め)にかかつた山(やま)の神(かみ)さまだなア。392ヤア有難(ありがた)い有難(ありがた)い、393三夫婦(みふうふ)揃(そろ)うた瑞霊(みづのみたま)の夫婦(ふうふ)連(づ)れ、394二三(にさん)が六(ろく)人(にん)手(て)を携(たづさ)へて睦(むつ)まじく、395此処(ここ)で結婚(けつこん)の式(しき)を挙(あ)げませうか』
396亀彦(かめひこ)『結婚(けつこん)の式(しき)を挙(あ)げやうと云(い)つた所(ところ)が、397此(この)様(やう)な岩窟(いはや)の中(なか)、398何(ど)うする事(こと)も出来(でき)ないぢやありませぬか』
399高国別(たかくにわけ)『イヤ、400御霊(みたま)と御霊(みたま)の結婚(けつこん)、401心(こころ)の盃(さかづき)の取(と)り替(か)はし、402千代(ちよ)も八千代(やちよ)も末長(すゑなが)く、403睦(むつ)びて進(すす)む六人(むたり)連(づれ)、404栄(さかえ)の花(はな)を三夫婦(みふうふ)が、405天地人(てんちじん)揃(そろ)うて岩窟(いはや)の探険(たんけん)、406三(み)つの御霊(みたま)の父(ちち)大神(おほかみ)の御(お)引合(ひきあは)せ、407アヽ有難(ありがた)し有難(ありがた)し、408目出度(めでた)し目出度(めでた)し、409一度(いちど)に開(ひら)く梅彦(うめひこ)さま、410万代(よろづよ)祝(いは)ふ亀彦(かめひこ)さま、411嬉(うれ)しき便(たよ)りを菊子姫(きくこひめ)、412幾代(いくよ)変(かは)らぬ幾代姫(いくよひめ)、413神(かみ)の恵(めぐみ)の愛子姫(あいこひめ)、414睦(むつ)び合(あ)うたる三夫婦(みふうふ)が、415身魂(みたま)の行末(ゆくすゑ)こそは楽(たの)しけれ』
416といそいそ神歌(しんか)を謡(うた)ひながら、417又(また)もや奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み行(ゆ)く。
418(大正一一・四・三 旧三・七 加藤明子録)
419(昭和一〇・三・二三 於花蓮港分院 王仁校正)
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