霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 北山川(きたやまがは)〔五七三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第1篇 正邪奮戦 よみ(新仮名遣い):せいじゃふんせん
章:第6章 北山川 よみ(新仮名遣い):きたやまがわ 通し章番号:573
口述日: 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
川のほとりで目が覚めた五人は、まだ幽界にいるのではないかといぶかる。百舌彦は、幽界の木の実には苦味があるはずだと言って、木に登って木の実を食べ出した。
百舌彦は田加彦をからかい、怒った田加彦は百舌彦に石を投げつけて、木から落としてしまう。一同の祝詞によって気がついた百舌彦は、象のような化け物に変身して、田加彦を木の上に置き去りにする。
木から下りてきた田加彦は、またしても百舌彦と喧嘩を始め、追いかけ合いながら走って行ってしまう。安彦、国彦、道彦らは二人を追って走り出す。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-16 01:28:21 文字数:4300 OBC :rm1506
愛善世界社版:71頁 八幡書店版:第3輯 306頁 修補版: 校定版:71頁 普及版:32頁 初版: ページ備考:
001誠(まこと)を教(をし)ふる四方(よも)の国(くに)
002広道別(ひろみちわけ)の宣伝使(せんでんし)
003太玉(ふとたまの)命(みこと)に従(したが)ひて
004ハムの一族(いちぞく)婆羅門(ばらもん)の
005教(をしへ)を築(きづ)き立(た)て籠(こも)る
006顕恩城(けんおんじやう)に向(むか)はむと
007エデンの河(かは)の渡(わた)し場(ば)に
008来(きた)る折(をり)しも枉神(まがかみ)の
009篠(しの)つく征矢(そや)に悩(なや)まされ
010或(あるひ)は倒(たふ)れ又(また)溺(おぼ)れ
011木葉(こつぱ)微塵(みぢん)に船(ふね)は割(わ)れ
012一同(いちどう)エデンの河底(かはぞこ)に
013沈(しづ)みつ浮(う)きつ河下(かはしも)の
014巌(いはほ)の間(あひだ)に挟(はさ)まれて
015露(つゆ)の玉(たま)の緒(を)縡(ことぎ)れし
016其(その)折柄(をりから)に何処(どこ)よりか
017微妙(びめう)の音楽(おんがく)聞(きこ)えきて
018救(すく)ひの網(あみ)を下(おろ)しつつ
019妙音(めうおん)菩薩(ぼさつ)の御守(みまも)りに
020生命(いのち)拾(ひろ)ひし五人(ごにん)連(づ)れ
021忽(たちま)ち来(きた)るコーカス山(ざん)の
022神(かみ)の使(つか)ひの鷹津(たかつ)神(かみ)
023小脇(こわき)に抱(かか)へ中空(ちうくう)を
024東(ひがし)を指(さ)して翔(かけ)り行(ゆ)く
025安彦(やすひこ)、国彦(くにひこ)、道彦(みちひこ)や
026百舌彦(もずひこ)田加彦(たかひこ)五人(ごにん)連(づ)れ
027神(かみ)に救(すく)はれ北山(きたやま)の
028千尋(ちひろ)の谷間(たにま)の砂原(すなはら)に
029投(な)げ下(おろ)されて目(め)を醒(さ)まし
030一途(いちづ)の川(かは)に向(むか)ひたる
031夢(ゆめ)の思(おも)ひ出(で)恐(おそ)ろしく
032身慄(みぶる)ひし乍(なが)ら起上(おきあが)り
033四方(よも)の景色(けしき)を眺(なが)むれば
034此(こ)はそも如何(いか)に此(こ)は如何(いか)に
035山(やま)と山(やま)とに包(つつ)まれし
036細谷川(ほそたにがは)の川(かは)の辺(べ)に
037枕(まくら)を並(なら)べて睡(ねむ)るこそ
038実(げ)に訝(いぶ)かしの限(かぎ)りなり
039実(げ)にも不思議(ふしぎ)の極(きは)みなり。
040国彦(くにひこ)『アーア恐(おそ)ろしい事(こと)だつた。041胆玉(きもたま)がすつての事(こと)で洋行(やうかう)する処(ところ)だつたよ。042マアマア御(お)蔭(かげ)様(さま)で何(ど)うやら無事(ぶじ)着陸(ちやくりく)した様(やう)な塩梅(あんばい)だ。043能(よ)う不思議(ふしぎ)な事(こと)があればあるもの、044エデンの河(かは)を渡(わた)る時(とき)に肝腎(かんじん)のスクリウを押(お)し流(なが)し、045乗(の)つたる船(ふね)は波(なみ)にまかせ、046生(いき)た心地(ここち)も無(な)く生命(いのち)からがら神言(かみごと)を奏上(そうじやう)する間(ま)もなく、047無残(むざん)や吾船(わがふね)は激流(げきりう)の中(なか)に立(た)てる大岩石(だいがんせき)に向(むか)つて大衝突(だいしようとつ)を試(こころ)み脆(もろ)くも木(こ)つ葉(ぱ)微塵(みじん)の厄(やく)に遭(あ)ひ、048太玉(ふとたまの)命(みこと)の宣伝使(せんでんし)を始(はじ)め吾々(われわれ)一同(いちどう)は水(みづ)の藻屑(もくづ)となつたと思(おも)へば際涯(はてし)もなき草野(くさの)の原(はら)を五人(ごにん)連(づ)れ、049テクテク彷徨(さまよ)ひつつ濁流(だくりう)漲(みなぎ)る辺(ほとり)にやつと到着(たうちやく)し、050怪(あや)しき婆(ばば)の妙(めう)な器械(きかい)に操(あやつ)られ、051木(こ)の葉(は)の如(ごと)く天上(てんじやう)高(たか)く捲(ま)き上(あ)げられ、052生命(いのち)も今(いま)や絶(た)えむとする折(をり)しも大空(たいくう)に轟(とどろ)く雷(いかづち)の声(こゑ)、053稲妻(いなづま)の光(ひかり)に打(う)たれて地上(ちじやう)に真逆(まつさか)様(さま)に墜落(つゐらく)し、054骨(ほね)も身(み)も木(こ)つ葉(ぱ)微塵(みじん)になつたかと思(おも)ひきや、055不思議(ふしぎ)にも生命(いのち)を助(たす)かつたは全(まつた)く大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)守護(しゆご)だ。056何(なに)しても不思議(ふしぎ)な事(こと)だ、057吾々(われわれ)は飽迄(あくまで)も生命(いのち)のつづく限(かぎ)りお道(みち)の為(ため)に驀進(ばくしん)せなくてはならないなア』
058安彦(やすひこ)『何(なん)とも知(し)れぬ吾々(われわれ)の境遇(きやうぐう)、059夢(ゆめ)に夢見(ゆめみ)る心地(ここち)がして現界(げんかい)に居(を)るのか、060幽界(いうかい)に居(を)るのかまだ判然(はつきり)と確信(かくしん)がつかぬ哩(わい)、061ヤイ道彦(みちひこ)サン、062お前(まへ)は如何(どう)思(おも)ふか、063矢張(やつぱり)冥土(めいど)の旅(たび)をやつて居(を)るのではあるまいかなア』
064道彦(みちひこ)『サア斯(こ)うなつて来(き)ては薩張(さつぱ)り見当(けんたう)が付(つ)かない。065現幽(げんいう)混淆(こんかう)、066判然(はんぜん)と区劃(くくわく)がついてゐないのだからお前(まへ)の考(かんが)へも決(けつ)して馬鹿(ばか)げた事(こと)とは断定(だんてい)出来(でき)ないなア』
067百舌彦(もずひこ)『モシモシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、068彼処(あすこ)に生(な)つて居(を)る香具(かぐ)の木(こ)の実(み)を一(ひと)つ採(と)つて食(く)つて見(み)ませう。069幽界(いうかい)の果実(このみ)は総(すべ)て苦味(にがみ)があると言(い)ふ事(こと)ですから、070若(も)しも苦(にが)かつたら矢張(やつぱ)り幽界(いうかい)でせうし、071酢(す)つぱかつたら矢張(やつぱ)り現界(げんかい)でせう。072私(わたくし)が一(ひと)つ木登(きのぼ)りをして採(と)つて来(き)ませうか』
073国彦(くにひこ)『それは良(い)い考(かんが)へだ、074早(はや)く登(のぼ)つて採(と)つて見(み)て呉(く)れ。075然(しか)し乍(なが)ら比較(ひかく)的(てき)大木(たいぼく)だ。076枝(えだ)も高(たか)いなり用心(ようじん)して登(のぼ)らないと、077今(いま)の夢(ゆめ)の様(やう)に空中(くうちう)滑走(くわつそう)を演(えん)じて樹下(じゆか)の岩石(がんせき)に頭蓋骨(づがいこつ)を衝突(しようとつ)させ、078又(また)もや幽界(いうかい)の行脚(あんぎや)をする様(やう)な事(こと)ではつまらないから十分(じふぶん)に気(き)をつけて呉(く)れ給(たま)へ』
079百舌彦(もずひこ)『私(わたくし)は顕恩郷(けんおんきやう)に於(おい)ても猿(さる)の百舌公(もずこう)と言(い)はれた位(くらゐ)木登(きのぼ)りの名人(めいじん)ですから、080決(けつ)して決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)はして下(くだ)さいますな』
081と言(い)ふより早(はや)く猿(さる)の如(ごと)くに大木(たいぼく)の枝(えだ)高(たか)く登(のぼ)り行(ゆ)く。082田加彦(たかひこ)は樹下(じゆか)に立寄(たちよ)り、
083田加彦『オーイ、084百舌彦(もずひこ)、085どうだ。086酸(す)つぱいか、087苦(にが)いか、088甘(あま)いか、089どちらだ』
090 百舌彦(もずひこ)はむしつて皮(かは)を剥(む)き、091グツと頬張(ほほば)り又(また)むしつては皮(かは)を剥(む)き、092咽喉(のど)をならせ乍(なが)ら眼(め)を細(ほそ)くして肩(かた)をすくめて食(く)つて居(を)る。093さうして皮(かは)を掴(つか)んでは、094樹下(じゆか)に口(くち)を開(あ)けてポカンとして見上(みあ)げてゐる田加彦(たかひこ)の顔(かほ)を目蒐(めが)けて打(う)ちつける。
095田加彦(たかひこ)『オーイ、096百舌公(もずこう)、097どうだ、098味(あぢ)は、099……早(はや)く返答(へんたふ)せぬかい』
100百舌彦(もずひこ)『八釜(やかま)しい哩(わい)、101二十(にじふ)や三十(さんじふ)食(く)つたつて味(あぢ)が分(わか)るかい。102酸(す)いか、103甘(あま)いか、104苦(にが)いか、105三(み)つの中(うち)だ。106坂(さか)の下(した)の子供(こども)ぢやないが、107お上(あが)り遊(あそ)ばすのを悠然(ゆつくり)と見(み)て御座(ござ)れ。108アヽ酸(す)い事(こと)も無(な)い、109甘(あま)い事(こと)もない、110苦(にが)い事(こと)もない哩(わい)。111何(なん)だか言(い)ふに言(い)はれぬ味(あぢ)がする、112アヽ生(いき)とればこそコンナ美味(おい)しい物(もの)が沢山(たくさん)に頂(いただ)けるのだ。113オイ田加公(たかこう)、114貴様(きさま)も一(ひと)つ登(のぼ)つて食(く)つたら如何(どう)だ』
115田加彦(たかひこ)『俺(おれ)は貴様(きさま)の知(し)る如(ごと)く身(み)が重(おも)くつて木登(きのぼ)りは出来(でき)ないのだ。116屋根(やね)葺(ふ)きの手伝(てつだひ)と木登(きのぼ)りする奴(やつ)は馬鹿(ばか)の中(なか)の大関(おほぜき)と言(い)ふ事(こと)だ。117オイ馬鹿(ばか)の大関(おほぜき)、118一(ひと)つ美味相(うまさう)な奴(やつ)を落(おと)さぬかい』
119百舌彦(もずひこ)『仲々(なかなか)一寸(ちよつと)落(おと)さぬ哩(わい)、120落(おと)したら最後(さいご)、121貴様(きさま)が皆(みな)拾(ひろ)つて食(く)つて仕舞(しま)ふから落(おと)し損(ぞん)だ。122それ程(ほど)欲(ほ)しけりや猿蟹(さるかに)合戦(がつせん)ぢやないが、123瘡蓋(かさぶた)のカンカンの石(いし)の様(やう)な奴(やつ)を落(おと)して与(や)らうか』
124と云(い)ふより早(はや)く田加彦(たかひこ)の頭(かしら)を目蒐(めが)けてピシヤツと打(う)ちつける。125田加彦(たかひこ)は烈火(れつくわ)の如(ごと)く憤(いきどほ)り手頃(てごろ)の石(いし)を拾(ひろ)つて樹上(じゆじやう)目蒐(めが)けて速射砲(そくしやはう)的(てき)に打(う)ちつける。126百舌彦(もずひこ)は青(あを)き果実(このみ)をむしつて田加彦(たかひこ)目蒐(めが)けて打(う)ちつける、127此(この)場(ば)に一場(いちぢやう)の戦闘(せんとう)は開始(かいし)された。128百舌彦(もずひこ)は飛(と)び来(く)る石(いし)を右(みぎ)に賺(す)かし左(ひだり)に賺(す)かし、129樹上(じゆじやう)を猿(ましら)の如(ごと)く駆廻(かけまは)り足(あし)踏(ふ)み外(はづ)しスツテンドウ…………、130田加彦(たかひこ)が頭(かしら)の上(うへ)に真逆(まつさか)様(さま)に唸(うな)りを立(た)てて落下(らくか)した。131田加彦(たかひこ)はヤツと一声(いつせい)、132体(たい)を躱(かは)した途端(とたん)に蛙(かへる)をぶつつけた様(やう)に百舌彦(もずひこ)は大地(だいち)に大(だい)の字(じ)になつてウンと一声(ひとこゑ)、133手足(てあし)を伸(の)ばしビリビリビリ、134眼(め)の玉(たま)はくるくるくる、135一言(ひとこと)も発(はつ)せず、136フンのびて仕舞(しま)つた。
137安彦(やすひこ)『ヤア大変(たいへん)だ、138酸(す)いとも苦(にが)いとも判断(はんだん)のつかぬ中(うち)に落命(らくめい)されては吾々(われわれ)も益々(ますます)方向(はうかう)に苦(くる)しむ訳(わけ)だ。139何(なん)とかして甦(よみがへ)らせ確(たしか)な答(こたへ)を聞(き)き度(た)いものだ。140オイ田加彦(たかひこ)、141百舌彦(もずひこ)は貴様(きさま)が殺(ころ)した様(やう)なものだ、142此(この)責任(せきにん)は貴様(きさま)にあるぞ。143何(なん)とか工夫(くふう)を致(いた)さぬかい』
144田加彦(たかひこ)『鷹(たか)も百舌(もず)も一所(いつしよ)には寄(よ)せぬぞよと神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)ります。145私(わたくし)は田加彦(たかひこ)、146到底(たうてい)百舌(もず)の世話(せわ)は出来(でき)ませぬ』
147安彦(やすひこ)『何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)言(い)つてるのだ、148早(はや)く水(みづ)でも呑(の)まして与(や)れ、149死(し)んだら如何(どう)致(いた)すか』
150田加彦(たかひこ)『一旦(いつたん)吾々(われわれ)一同(いちどう)は死(し)んだのですから滅多(めつた)に死(し)ぬ様(やう)な事(こと)はありますまい。151死(し)んだ奴(やつ)の昼寝(ひるね)でせう、152マア悠然(ゆつくり)目(め)の醒(さ)める処(ところ)まで放(ほ)つといたら如何(どう)でせうか。153大分(だいぶん)に百舌公(もずこう)も空中(くうちう)飛行(ひかう)の疲労(くたびれ)が出(で)て居(を)るから、154マアマア大目(おほめ)に見(み)てやつて下(くだ)さいな』
155道彦(みちひこ)『ヤア国彦(くにひこ)サン、156安彦(やすひこ)サン、157どうも吾々(われわれ)は未(ま)だ現界(げんかい)の人間(にんげん)らしい、158百舌公(もずこう)を此(この)儘(まま)にして置(お)けば本当(ほんたう)に死(し)んで仕舞(しま)ひます。159何卒(どうか)一同(いちどう)揃(そろ)うて神言(かみごと)を奏上(そうじやう)してやつて下(くだ)さいな』
160 三(さん)人(にん)は異口(いく)同音(どうおん)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めた。161百舌彦(もずひこ)は忽(たちま)ち身体(しんたい)振動(しんどう)し、162大口(おほぐち)を開(あ)けて、
163百舌彦『アヽヽ』
164と声(こゑ)張(は)り上(あ)げ、165中風(ちうぶう)病(や)みの様(やう)に涎(よだれ)をダラダラ流(なが)しかけムクムクと身体(からだ)を動(うご)かし始(はじ)めた。
166安彦(やすひこ)『ヤアヤアもう此方(こつち)の者(もの)だ、167生命(いのち)丈(だけ)は大丈夫(だいぢやうぶ)だ』
168 百舌彦(もずひこ)は忽(たちま)ち四(よ)つ這(ば)ひになり、169ヒン ヒン ヒンと馬(うま)の様(やう)な嘶(いなな)きを連発(れんぱつ)し乍(なが)ら足(あし)を以(もつ)て河砂(かはすな)を足掻(あしがき)し、170ムクムクと這(は)ひ出(だ)した。
171田加彦(たかひこ)『ヤア此奴(こいつ)一旦(いつたん)死(し)によつて馬(うま)に生(うま)れて来(き)よつたナ。172大善(だいぜん)大悪(だいあく)に中有(ちうう)は無(な)いと言(い)ふ事(こと)だが如何(いか)にも此奴(こいつ)は常(つね)から大悪人(だいあくにん)だつた。173中有(ちうう)なしに忽(たちま)ち畜生道(ちくしやうだう)へ早変(はやがは)り、174否(いな)生(うま)れ代(かは)り、175俺(おれ)も今迄(いままで)永(なが)らく交際(つきあ)つた誼(よしみ)で此奴(こいつ)の馬(うま)に跨(またが)つて与(や)れば因業(いんごう)が満(み)ちて再(ふたた)び人間(にんげん)に生(うま)れて来(く)るだらう。176サア百舌彦(もずひこ)の四(よ)つ足(あし)、177貴様(きさま)は余(よ)つ程(ぽど)幸福者(しあわせもの)だ。178労役(らうえき)に服(ふく)する畜生(ちくしやう)も沢山(たくさん)あるのに、179勿体(もつたい)なくも三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の御(おん)供(とも)、180田加彦(たかひこ)サンを乗(の)せて歩(ある)くとは何(なん)たる幸福者(しあわせもの)ぞ、181サア駆出(かけだ)せ駆出(かけだ)せ』
182百舌彦(もずひこ)『ヒンヒンヒン』
183田加彦(たかひこ)『ヤア此奴(こいつ)は本式(ほんしき)だ、184馬(うま)にしては少(すこ)し背(せ)が低(ひく)いから乗(の)り心地(ここち)が悪(わる)い。185然(しか)し乍(なが)ら資金(もとで)要(い)らずの小馬(こうま)だから辛抱(しんばう)するかい』
186と云(い)ひつつ百舌彦(もずひこ)の背(せ)に跨(またが)つたまま、187有(あ)りあふ木片(きぎれ)を以(もつ)て鞭(むち)に代(か)へ無性(むしやう)矢鱈(やたら)に鞭(むちう)つた。188忽(たちま)ち百舌彦(もずひこ)は身体(しんたい)膨張(ばうちよう)し、189象(ざう)の如(ごと)き巨大(きよだい)なる人面(じんめん)獣体(じうたい)の怪(あや)しき獣(けだもの)となつて仕舞(しま)つた。
190田加彦(たかひこ)『ヤア三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、191御覧(ごらん)の通(とほ)り顔(かほ)は人間(にんげん)、192胴体(どうたい)は象(ざう)の様(やう)な大(おほ)きな脚(あし)の太(ふと)い馬(うま)が出来(でき)ました、193皆(みな)サン御(ご)一緒(いつしよ)にお乗(の)りになつては如何(いかが)ですか。194昔(むかし)エデンの園(その)で此(この)世(よ)の造物主(つくりぬし)の大神(おほかみ)様(さま)がアダムとエバとの二人(ふたり)の男女(だんぢよ)にこの果物(このみ)を食(く)ふなと警(いまし)められた。195それも聞(き)かずにエバの奴(やつ)、196餓虎(がこ)の勢(いきほひ)でムシヤムシヤと採(と)つて食(く)ひ、197ハズバンドのアダムに迄(まで)勧(すす)め食(くら)はして遂(つひ)に神罰(しんばつ)に触(ふ)れ、198其(その)邪気(じやき)は凝(こ)つて八頭(やつがしら)八尾(やつを)の大蛇(をろち)となり、199金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)となり天下(てんか)に横行(わうかう)する様(やう)になつたと云(い)ふ事(こと)だ。200罰(ばつ)は覿面(てきめん)、201百舌公(もずこう)の奴(やつ)、202此(この)結構(けつこう)な果実(このみ)を唯一人(ただひとり)吾物顔(わがものがほ)に人(ひと)にも呉(く)れず食(くら)つた酬(むく)い、203樹上(じゆじやう)より顛落(てんらく)して生命(いのち)を失(うしな)ひ、204忽(たちま)ち畜生道(ちくしやうだう)に陥(おちい)りコンナ怪体(けたい)な人獣(にんじう)となつて仕舞(しま)つた。205皆(みな)サン、206袖(そで)振(ふ)り合(あ)ふも他生(たしやう)の縁(えん)だ、207此奴(こいつ)の罪亡(つみほろ)ぼしの為(た)めに乗(の)つてやつて下(くだ)さいな』
208 百舌彦(もずひこ)の身体(からだ)は忽(たちま)ちウ、209ウ、210ウと唸(うな)り始(はじ)めた。
211田加彦(たかひこ)『エー静(しづ)かにせぬかい、212あまり唸(うな)りよるので貴様(きさま)の身体中(からだぢう)がビリビリ震(ふる)うて、213俺(おれ)の尻(しり)まで擽(こそば)ゆくなつて来(き)た。214八釜(やかま)しう吐(ぬか)すと尻(しり)を叩(たた)くぞ』
215と木片(きぎれ)を以(もつ)てピシヤリピシヤリと打(う)ち叩(たた)く。216人象(にんざう)は上下(じやうげ)に運動(うんどう)を始(はじ)めた。217初(はじ)めの間(あひだ)は四五(しご)尺(しやく)の間(あひだ)を上下(じやうげ)しつつあつたが遂(つひ)には七八間(しちはつけん)の中空(ちうくう)を昇降(しやうかう)し、218上下(じやうげ)左右(さいう)に躍(をど)り始(はじ)めた。219其(その)震動(しんどう)に跳飛(はねと)ばされて田加彦(たかひこ)は以前(いぜん)の香具(かぐ)の木(き)の枝(えだ)に噬(しが)み付(つ)き顛落(てんらく)を免(まぬが)れた。220人象(にんざう)の姿(すがた)は忽(たちま)ち容積(ようせき)を減(げん)じ以前(いぜん)の百舌彦(もずひこ)の姿(すがた)に還元(くわんげん)して仕舞(しま)つた。
221百舌彦(もずひこ)『アハヽヽヽ、222オイ田加彦(たかひこ)、223どうだ、224酸(す)いか、225甘(あま)いか、226苦(にが)いか、227返答(へんたふ)せぬかい』
228田加彦(たかひこ)『ナヽヽヽ、229何(なに)を吐(ぬか)しよるのだ。230酸(す)いも、231甘(あま)いも苦(にが)いもあつたものかい。232俺(おれ)をコンナ甚(ひど)い辛(つら)い目(め)に会(あ)はせよつて、233こら、234俺(おれ)が死(し)んだら化(ば)けて出(で)てやるからさう思(おも)へ、235ヒユー、236ドロ ドロ ドロぢやぞ』
237 百舌彦(もずひこ)は目(め)を剥(む)き舌(した)をペロリと出(だ)して、
238百舌彦『御縁(ごえん)があつたら又(また)お願(ねがひ)致(いた)します、239サア サア サア三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、240彼奴(あいつ)をああして香具(かぐ)の木(こ)の実(み)に預(あづか)けて置(お)けば死(し)ぬ迄(まで)大丈夫(だいぢやうぶ)です。241皆(みな)サン一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)り宣伝(せんでん)に向(むか)ひませう』
242安彦(やすひこ)『アハヽヽヽ』
243国彦(くにひこ)『オホヽヽヽ』
244道彦(みちひこ)『ヤア百舌彦(もずひこ)、245貴様(きさま)は化物(ばけもの)だ、246妙(めう)な病気(びやうき)を持(も)つてるな。247然(しか)し乍(なが)ら田加彦(たかひこ)をあの儘(まま)に放擲(うつちやつ)て置(お)く訳(わけ)にはゆくまい、248之(これ)は貴様(きさま)の責任(せきにん)だからソツと樹下(じゆか)に下(おろ)して連(つ)れて行(ゆ)くが宜(よ)からう』
249田加彦(たかひこ)『モシモシ道彦(みちひこ)サン有(あ)り難(がた)う御座(ござ)います、250能(よ)う言(い)つて下(くだ)さいました。251人情(にんじやう)知(し)らずの安彦(やすひこ)、252国彦(くにひこ)の宣伝使(せんでんし)、253百舌彦(もずひこ)の馬鹿(ばか)野郎(やらう)、254永(なが)らく御(ご)心配(しんぱい)を掛(か)けました、255大(おほ)きに憚(はばか)り様(さま)』
256と云(い)ひ乍(なが)ら猿(さる)の如(ごと)く樹上(じゆじやう)よりスラスラスラと下(くだ)つて来(き)た。257四(よ)人(にん)一度(いちど)に、
258一同(いちどう)『アハヽヽヽ』
259と転(こ)けて笑(わら)ふ。260田加彦(たかひこ)は百舌彦(もずひこ)の尻(しり)をクレリと引(ひ)ん捲(まく)り、
261田加彦『コラ、262屁放(へこ)き馬(うま)、263能(よ)く此(この)方(はう)を馬鹿(ばか)にしよつたな』
264百舌彦(もずひこ)は『何(なに)ツ』と云(い)ひ乍(なが)ら矢庭(やには)に拳骨(げんこつ)を固(かた)めて田加彦(たかひこ)の頭(あたま)を続(つづ)け打(う)ちにポカポカとやつた。265田加彦(たかひこ)は烈火(れつくわ)の如(ごと)く又(また)もや拳(こぶし)を固(かた)めて骨(ほね)も挫(くだ)けと打下(うちおろ)す。266此(この)時(とき)遅(おそ)く彼時(かのとき)早(はや)く、267百舌彦(もずひこ)は細(ほそ)くなつて雑草(ざつさう)茂(しげ)れる田圃道(たんぼみち)を一目散(いちもくさん)に駆(か)け出(だ)す。268田加彦(たかひこ)は、
269田加彦『おのれ百舌彦(もずひこ)、270卑怯(ひけふ)未練(みれん)な、271逃(に)がしてならうか』
272と尻(しり)ひつからげ後(あと)を追(お)つかけ、273雲(くも)を霞(かすみ)と彼方(かなた)を指(さ)して姿(すがた)を隠(かく)して了(しま)つた。
274安彦(やすひこ)『ヤア、275面白(おもしろ)き活劇(くわつげき)を見物(けんぶつ)した。276然(しか)し乍(なが)ら此(この)儘(まま)にして居(を)れば二人(ふたり)の奴(やつ)、277如何(どん)な事(こと)をするかも知(し)れない。278国彦(くにひこ)、279道彦(みちひこ)殿(どの)、280一(いち)時(じ)も早(はや)く後(あと)追(お)つかけて彼(かれ)の所在(ありか)を探(さが)しませう』
281と安彦(やすひこ)は慌(あはただ)しく先(さき)に立(た)つて駆出(かけだ)せば、282二人(ふたり)も続(つづ)いて跡(あと)を追(お)ひ行(ゆ)く。
283(大正一一・四・一 旧三・五 北村隆光録)
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