霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第15巻(寅の巻)
序
凡例
総説歌
第1篇 正邪奮戦
第1章 破羅門
第2章 途上の変
第3章 十六花
第4章 神の栄光
第5章 五天狗
第6章 北山川
第7章 釣瓶攻
第8章 ウラナイ教
第9章 薯蕷汁
第10章 神楽舞
第2篇 古事記言霊解
第11章 大蛇退治の段
第3篇 神山霊水
第12章 一人旅
第13章 神女出現
第14章 奇の岩窟
第15章 山の神
第16章 水上の影
第17章 窟の酒宴
第18章 婆々勇
第4篇 神行霊歩
第19章 第一天国
第20章 五十世紀
第21章 帰顕
第22章 和と戦
第23章 八日の月
跋文
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第15巻(寅の巻)
> 第4篇 神行霊歩 > 第19章 第一天国
<<< 婆々勇
(B)
(N)
五十世紀 >>>
第一九章
第一
(
だいいち
)
天国
(
てんごく
)
〔五八六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
篇:
第4篇 神行霊歩
よみ(新仮名遣い):
しんこうれいほ
章:
第19章 第一天国
よみ(新仮名遣い):
だいいちてんごく
通し章番号:
586
口述日:
1922(大正11)年04月04日(旧03月08日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
神素盞嗚大神は、西蔵を越えてフサの国を打ち渡り、ウブスナ山の山頂に隠れ家を定めて、密かに神徳を現していた。
瑞霊の元津祖・豊国姫神の分霊である言霊別命は、国祖御退隠の際に幽界にて少彦名神となっていたが、神素盞嗚大神が漂泊の旅に出たと聞き、貧しい身分の人の腹を借りて、再びこの世に現れて、言依別命となった。
玉彦、厳彦、楠彦は言依別命の供となり、月の国を越えてフサの国の都・タールへと着いた。タールの都では、吾勝命が日の出別神と現れて、神政を敷いていた。言依別命一行は日の出別神に面会し、神素盞嗚大神の隠れ家を教えられ、喜び勇んで河鹿峠を越えていった。
神素盞嗚大神はウブスナ山の山頂、斎苑の高原に宮殿を構え、八十猛神に守らせた。自らは千種万様に御姿を変じ、変幻出没して御国を守らせつつあった。
斎苑の館に至るためには、河鹿峠を越えていくのが順路である。言依別命一行は、急坂を駒にまたがって進んで行く折、突風に煽られて谷底に転落してしまった。
と思う間に、一行はとある風景のよい高山の麓に降ろされていた。一行は、ここは天国ではなかろうかと不思議に思っていると、天の磐船が降りてきた。中から八人の童子神が現れると、大神の命であるとして言依別命一人を招きいれ、行ってしまった。
残された玉彦、厳彦、楠彦は、足の続く限り進んで行くこととした。途中、美しい河につかって禊をすると、三人の衣服は、鮮花色に変じた。
すると向こうから、多数の奇妙な鳥を連れた男がやってきた。男は、言依別命の命により、三人を迎えに高天原からやってきたという。男は言代別神・松彦と名乗った。
松彦は鳥たちを辺りに放すと、三人を案内して進んで行った。すると、鏡のように輝く岸壁に行き当たった。ここは鏡の岩と言い、三人が降り立った第二天国の終点にあたるという。鏡の岩を越えなければ、第一天国に入れない関門であるという。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-01-20 20:27:10
OBC :
rm1519
愛善世界社版:
237頁
八幡書店版:
第3輯 367頁
修補版:
校定版:
235頁
普及版:
108頁
初版:
ページ備考:
派生
[?]
この文献を底本として書かれたと思われる文献です。
[×閉じる]
:
出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 第四篇 神霊世界 > 第二十三章 人烏
001
久方
(
ひさかた
)
の
高天原
(
たかあまはら
)
の
岩窟
(
いはやど
)
も
002
開
(
ひら
)
けてここに
天地
(
あめつち
)
の
003
百
(
もも
)
の
神
(
かみ
)
達
(
たち
)
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち
004
あな
面白
(
おもしろ
)
やあなさやけおけ
005
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
賑
(
にぎ
)
はしく
006
言葉
(
ことば
)
の
花
(
はな
)
の
開
(
ひら
)
け
口
(
ぐち
)
007
常夜
(
とこよ
)
の
闇
(
やみ
)
は
晴
(
は
)
れぬれど
008
まだ
晴
(
は
)
れやらぬ
胸
(
むね
)
の
内
(
うち
)
009
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
010
天地
(
あめつち
)
百
(
もも
)
の
神人
(
しんじん
)
の
011
百千万
(
ももちよろづ
)
の
罪咎
(
つみとが
)
を
012
御
(
おん
)
身
(
み
)
一
(
ひと
)
つに
贖
(
あがな
)
ひつ
013
情
(
つれ
)
なき
嵐
(
あらし
)
の
吹
(
ふ
)
くままに
014
千座
(
ちくら
)
の
置戸
(
おきど
)
を
負
(
お
)
ひ
給
(
たま
)
ひ
015
高天原
(
たかあまはら
)
を
後
(
あと
)
にして
016
天
(
あめ
)
の
真名井
(
まなゐ
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
017
唐土山
(
もろこしやま
)
や
韓
(
から
)
の
原
(
はら
)
018
印度
(
つき
)
の
国
(
くに
)
をば
打過
(
うちす
)
ぎて
019
秘密
(
ひみつ
)
の
国
(
くに
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
020
高山
(
かうざん
)
四方
(
よも
)
に
繞
(
めぐ
)
らせる
021
由緒
(
ゆいしよ
)
も
深
(
ふか
)
き
西蔵
(
チベツト
)
の
022
山野
(
やまの
)
村々
(
むらむら
)
悉
(
ことごと
)
く
023
太
(
ふと
)
き
御稜威
(
みいづ
)
を
輝
(
かがや
)
かし
024
猶
(
なほ
)
も
進
(
すす
)
みてフサの
国
(
くに
)
025
タールの
都
(
みやこ
)
を
打過
(
うちす
)
ぎて
026
雲
(
くも
)
を
圧
(
あつ
)
して
聳
(
そそ
)
り
立
(
た
)
つ
027
百
(
もも
)
の
山々
(
やまやま
)
此処
(
ここ
)
彼処
(
かしこ
)
028
ウブスナ
山
(
やま
)
の
山脈
(
さんみやく
)
に
029
かかる
手前
(
てまへ
)
の
河鹿山
(
かじかやま
)
030
世
(
よ
)
の
荒風
(
あらかぜ
)
に
揉
(
も
)
まれつつ
031
足
(
あし
)
もいそいそ
上
(
のぼ
)
りまし
032
ウブスナ
山
(
やま
)
の
山
(
やま
)
の
上
(
へ
)
に
033
四方
(
よも
)
の
景色
(
けしき
)
の
美
(
うる
)
はしき
034
清
(
きよ
)
き
所
(
ところ
)
を
選
(
えら
)
みつつ
035
八尋
(
やひろ
)
の
殿
(
との
)
を
建
(
た
)
て
給
(
たま
)
ひ
036
千代
(
ちよ
)
の
住家
(
すみか
)
と
定
(
さだ
)
めつつ
037
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
忍
(
しの
)
ぶ
佗住居
(
わびずまゐ
)
038
黒雲
(
くろくも
)
四方
(
よも
)
に
叢
(
むら
)
がりて
039
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わ
)
かぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
040
神
(
かみ
)
の
稜威
(
みいづ
)
もいや
高
(
たか
)
く
041
ひそかに
四方
(
よも
)
を
照
(
てら
)
します
042
その
神徳
(
しんとく
)
を
慕
(
した
)
ひつつ
043
忍
(
しの
)
び
忍
(
しの
)
びに
遠近
(
をちこち
)
の
044
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
や
川
(
かは
)
の
瀬
(
せ
)
に
045
現
(
あ
)
れます
正
(
ただ
)
しき
神人
(
しんじん
)
は
046
吾
(
われ
)
も
吾
(
われ
)
もと
争
(
あらそ
)
ひつ
047
尋
(
たづ
)
ね
来
(
き
)
ますぞ
尊
(
たふと
)
けれ。
048
瑞霊
(
みづのみたま
)
の
元津祖
(
もとつおや
)
、
049
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
神
(
かみ
)
の
分霊
(
わけみたま
)
、
050
昔
(
むかし
)
は
聖地
(
せいち
)
エルサレムに
幸魂
(
さちみたま
)
の
神
(
かみ
)
として
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
へる
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
は、
051
国治立
(
くにはるたち
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
退隠
(
たいいん
)
に
先立
(
さきだ
)
ち、
052
千座
(
ちくら
)
の
置戸
(
おきど
)
を
負
(
お
)
ひて、
053
一旦
(
いつたん
)
幽界
(
かくりよ
)
に
出
(
い
)
でまし
少名彦
(
すくなひこ
)
の
神
(
かみ
)
と
改
(
あらた
)
めて、
054
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
を
永久
(
とこしへ
)
に
守
(
まも
)
り
給
(
たま
)
ひけるが、
055
瑞霊
(
みづのみたま
)
の
本津祖
(
もとつおや
)
、
056
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
の、
057
高天原
(
たかあまはら
)
を
退
(
やら
)
はれて、
058
豊葦原
(
とよあしはら
)
の
国々
(
くにぐに
)
を、
059
心
(
こころ
)
寂
(
さび
)
しき
漂泊
(
さすらひ
)
の、
060
旅路
(
たびぢ
)
に
上
(
のぼ
)
らせ
給
(
たま
)
ひしと、
061
聞
(
き
)
くより
心
(
こころ
)
も
安
(
やす
)
からず、
062
再
(
ふたた
)
び
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
現
(
あら
)
はれて、
063
賤
(
いや
)
しき
人
(
ひと
)
の
腹
(
はら
)
を
籍
(
か
)
り、
064
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
となり、
065
森鷹彦
(
もりたかひこ
)
の
霊
(
みたま
)
の
流裔
(
ながれ
)
、
066
玉彦
(
たまひこ
)
を
御伴
(
みとも
)
の
神
(
かみ
)
と
定
(
さだ
)
めつつ、
067
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
を
厳彦
(
いづひこ
)
や、
068
世人
(
よびと
)
を
救
(
すく
)
ふ
楠彦
(
くすひこ
)
の、
069
三人
(
みたり
)
の
神
(
かみ
)
を
従
(
したが
)
へて、
070
波路
(
なみぢ
)
遥
(
はる
)
かに
太平
(
たいへい
)
の、
071
海
(
うみ
)
を
渡
(
わた
)
りて
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
、
072
フルの
港
(
みなと
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し、
073
印度
(
つき
)
の
御国
(
みくに
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて、
074
歩
(
あゆ
)
みに
悩
(
なや
)
むフサの
国
(
くに
)
、
075
タールの
都
(
みやこ
)
に
出
(
い
)
で
給
(
たま
)
ふ。
076
吾勝
(
あかつの
)
命
(
みこと
)
は、
077
フサの
国
(
くに
)
の
首府
(
しゆふ
)
タールの
都
(
みやこ
)
に、
078
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
神
(
かみ
)
と
現
(
あら
)
はれて、
079
神政
(
しんせい
)
を
執
(
と
)
り
行
(
おこな
)
はせ
給
(
たま
)
ひつつありき。
080
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
はタールの
都
(
みやこ
)
の
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
神
(
かみ
)
に
面会
(
めんくわい
)
し、
081
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
のお
隠宅
(
かくれが
)
を
教
(
をし
)
へられ、
082
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
んで、
083
玉彦
(
たまひこ
)
、
084
厳彦
(
いづひこ
)
、
085
楠彦
(
くすひこ
)
と
共
(
とも
)
に
駒
(
こま
)
に
跨
(
またが
)
り、
086
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
越
(
こ
)
えさせ
給
(
たま
)
ふ。
087
意外
(
いぐわい
)
の
峻坂
(
しゆんぱん
)
難路
(
なんろ
)
に、
088
流石
(
さすが
)
の
駿馬
(
しゆんめ
)
も
進
(
すす
)
みかね、
089
幾度
(
いくたび
)
となく
駒
(
こま
)
の
転倒
(
てんたう
)
せむとする
危険
(
きけん
)
を
冒
(
をか
)
して、
090
徐々
(
しづしづ
)
と
山頂
(
さんちやう
)
目
(
め
)
がけて
進
(
すす
)
ませ
給
(
たま
)
ふ。
091
この
地
(
ち
)
一帯
(
いつたい
)
の
山脈
(
さんみやく
)
は、
092
風
(
かぜ
)
烈
(
はげ
)
しく、
093
寒熱
(
かんねつ
)
不順
(
ふじゆん
)
にして、
094
百
(
もも
)
の
草木
(
さうもく
)
の
生育
(
せいいく
)
悪
(
あ
)
しく、
095
見渡
(
みわた
)
す
限
(
かぎ
)
り
屹立
(
きつりつ
)
せる
岩山
(
いはやま
)
、
096
禿山
(
はげやま
)
、
097
此処
(
ここ
)
彼処
(
かしこ
)
に
起伏
(
きふく
)
し、
098
眺望
(
てうばう
)
としては
天下
(
てんか
)
の
絶景
(
ぜつけい
)
なり。
099
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
は、
100
ウブスナ
山脈
(
さんみやく
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
斎苑
(
いそ
)
の
高原
(
かうげん
)
に
宮殿
(
きうでん
)
を
造
(
つく
)
り、
101
四方
(
よも
)
の
神人
(
しんじん
)
を
言向和
(
ことむけやは
)
し
給
(
たま
)
はむと、
102
千種
(
せんしゆ
)
万様
(
ばんやう
)
に
御姿
(
みすがた
)
を
変
(
へん
)
じ、
103
此
(
この
)
宮殿
(
きうでん
)
を
本拠
(
ほんきよ
)
と
定
(
さだ
)
め、
104
八十猛
(
やそたけるの
)
神
(
かみ
)
をして
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
らしめ、
105
自
(
みづか
)
らは
表面
(
へうめん
)
罪人
(
ざいにん
)
の
名
(
な
)
を
負
(
お
)
ひ
給
(
たま
)
ひて、
106
大八洲
(
おほやしまの
)
国
(
くに
)
に
蟠
(
わだか
)
まる
大蛇
(
をろち
)
、
107
悪鬼
(
あくき
)
、
108
醜
(
しこ
)
の
神々
(
かみがみ
)
を
根絶
(
こんぜつ
)
せむと
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
き
身
(
み
)
を
苦
(
くる
)
しめ、
109
変幻
(
へんげん
)
出没
(
しゆつぼつ
)
極
(
きは
)
まり
無
(
な
)
く、
110
斯
(
か
)
くして
御国
(
みくに
)
を
守
(
まも
)
らせ
玉
(
たま
)
ひつつありき。
111
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
は
尊
(
みこと
)
に
拝謁
(
はいえつ
)
し
大御心
(
おほみこころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
めむと、
112
尊
(
みこと
)
を
思
(
おも
)
ふ
真心
(
まごころ
)
より
遥々
(
はるばる
)
此処
(
ここ
)
に
百千万
(
ひやくせんまん
)
の
艱苦
(
かんく
)
を
冒
(
をか
)
し、
113
訪
(
たづ
)
ね
来
(
きた
)
り
給
(
たま
)
ひける。
114
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
再
(
ふたた
)
び
平野
(
へいや
)
を
渉
(
わた
)
り、
115
ウブスナ
山脈
(
さんみやく
)
に
掛
(
かか
)
るが
順路
(
じゆんろ
)
なり。
116
言依別
(
ことよりわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
は、
117
板
(
いた
)
を
立
(
た
)
てたる
如
(
ごと
)
き
急坂
(
きふはん
)
を
駒
(
こま
)
に
跨
(
またが
)
り
四人
(
よにん
)
連
(
づれ
)
、
118
ハイ、
119
ハイハイと
手綱
(
たづな
)
引締
(
ひきし
)
め
下
(
くだ
)
らせ
給
(
たま
)
ふ
折柄
(
をりから
)
に、
120
俄
(
にはか
)
に
吹来
(
ふきく
)
るレコード
破
(
やぶ
)
りの
山嵐
(
やまあらし
)
に
煽
(
あふ
)
られて、
121
馬
(
うま
)
諸共
(
もろとも
)
に
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
千仭
(
せんじん
)
の
谷間
(
たにま
)
に、
122
脆
(
もろ
)
くも
墜落
(
つゐらく
)
し
給
(
たま
)
ひ、
123
数多
(
あまた
)
の
傷
(
きず
)
を
負
(
お
)
はせ
給
(
たま
)
ひ、
124
茲
(
ここ
)
に
一行
(
いつかう
)
四人
(
よにん
)
連
(
づれ
)
、
125
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
谷底
(
たにそこ
)
に、
126
痛手
(
いたで
)
に
悩
(
なや
)
み
坤吟
(
しんぎん
)
し
給
(
たま
)
ふこそ
果敢
(
はか
)
なけれ。
127
此
(
この
)
谷間
(
たにま
)
は
河鹿
(
かじか
)
の
名所
(
めいしよ
)
なり。
128
河鹿
(
かじか
)
の
声
(
こゑ
)
は
遠近
(
をちこち
)
に
床
(
ゆか
)
しく、
129
恰
(
あたか
)
も
金鈴
(
きんれい
)
を
振
(
ふ
)
るが
如
(
ごと
)
く、
130
琴
(
こと
)
を
弾
(
だん
)
ずるが
如
(
ごと
)
く、
131
美妙
(
びめう
)
の
音楽
(
おんがく
)
を
天人
(
てんにん
)
天女
(
てんによ
)
の
来
(
きた
)
りて
奏
(
かな
)
づるかと
疑
(
うたが
)
ふ
許
(
ばか
)
りの
雅趣
(
がしゆ
)
に
充
(
み
)
ち
居
(
ゐ
)
るなり。
132
言依別
(
ことよりわけ
)
一行
(
いつかう
)
は
谷水
(
たにみづ
)
を
掬
(
すく
)
ひ、
133
河鹿
(
かじか
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
き
乍
(
なが
)
ら、
134
心
(
こころ
)
ゆく
迄
(
まで
)
渇
(
かは
)
きし
喉
(
のど
)
を
癒
(
い
)
やさむとガブガブ
嚥下
(
えんか
)
し
給
(
たま
)
へば、
135
何時
(
いつ
)
とはなしに
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
は
何処
(
いづく
)
と
白浪
(
しらなみ
)
の
谷
(
たに
)
の
水音
(
みなおと
)
諸共
(
もろとも
)
に、
136
河鹿
(
かじか
)
の
声
(
こゑ
)
に
送
(
おく
)
られて
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せ
給
(
たま
)
ふぞ
悲
(
かな
)
しけれ。
137
夢
(
ゆめ
)
とも
分
(
わ
)
かず、
138
現
(
うつつ
)
とも
弁
(
わきま
)
へ
兼
(
か
)
ねし
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
、
139
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
の
一行
(
いつかう
)
は、
140
涼
(
すず
)
しき
河鹿
(
かじか
)
の
声
(
こゑ
)
に
送
(
おく
)
られて
夢路
(
ゆめぢ
)
を
辿
(
たど
)
る
心持
(
こころもち
)
、
141
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かるる
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
如
(
ごと
)
く、
142
地
(
つち
)
を
離
(
はな
)
れて
中空
(
ちうくう
)
を
五色
(
ごしき
)
の
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれつ、
143
東
(
ひがし
)
を
指
(
さ
)
して
風
(
かぜ
)
のまにまに
出
(
い
)
で
給
(
たま
)
ふ。
144
とある
高山
(
かうざん
)
の
麓
(
ふもと
)
の
風景
(
ふうけい
)
最
(
もつと
)
も
佳
(
よ
)
き
大河
(
おほかは
)
の
辺
(
ほとり
)
に、
145
一行
(
いつかう
)
の
姿
(
すがた
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
下
(
お
)
ろされ
居
(
ゐ
)
たり。
146
言依別
(
ことよりわけ
)
『オー
玉彦
(
たまひこ
)
、
147
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
御舎
(
みあらか
)
は、
148
どの
方面
(
はうめん
)
に
当
(
あた
)
らうかなア。
149
此処
(
ここ
)
は
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
山麓
(
さんろく
)
、
150
河鹿河
(
かじかがは
)
の
岸辺
(
きしべ
)
と
見
(
み
)
える。
151
暴風
(
ばうふう
)
に
吹捲
(
ふきまく
)
られ、
152
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
脆
(
もろ
)
くも
此
(
この
)
山麓
(
さんろく
)
に
吹散
(
ふきち
)
らされ、
153
何
(
なん
)
となく
一種
(
いつしゆ
)
不可思議
(
ふかしぎ
)
な
心持
(
こころもち
)
になつて
来
(
き
)
たが、
154
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
はどう
考
(
かんが
)
へるか』
155
玉彦
(
たまひこ
)
『
仰
(
あふせ
)
の
如
(
ごと
)
く
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
烈風
(
れつぷう
)
に
煽
(
あふ
)
られ、
156
千尋
(
ちひろ
)
の
谷間
(
たにま
)
へ
転落
(
てんらく
)
せしと
思
(
おも
)
ふ
間
(
ま
)
もなく、
157
風
(
かぜ
)
に
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
散
(
ち
)
る
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
し、
158
フワリフワリと
魂
(
たま
)
は
飛
(
と
)
んで
大空
(
おほぞら
)
高
(
たか
)
く
東
(
ひがし
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
りしよと
見
(
み
)
る
間
(
ま
)
に、
159
不思議
(
ふしぎ
)
や
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
の
身
(
み
)
は、
160
名
(
な
)
も
知
(
し
)
れぬ
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
の
風光
(
ふうくわう
)
明媚
(
めいび
)
の
河縁
(
かはべり
)
に
進
(
すす
)
んで
来
(
き
)
たのです。
161
吾々
(
われわれ
)
が
熟
(
つらつ
)
ら
考
(
かんが
)
へまするに、
162
此処
(
ここ
)
は
決
(
けつ
)
して
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
谷間
(
たにま
)
ではありますまい、
163
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
中心点
(
ちうしんてん
)
の
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
はれます』
164
厳彦
(
いづひこ
)
『さうだ、
165
玉彦
(
たまひこ
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
四辺
(
あたり
)
の
光景
(
くわうけい
)
、
166
現界
(
げんかい
)
とは
様子
(
やうす
)
が
大変
(
たいへん
)
に
違
(
ちが
)
つて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だ、
167
大方
(
おほかた
)
此処
(
ここ
)
は
天国
(
てんごく
)
ではあるまいかいなア』
168
楠彦
(
くすひこ
)
『たしかに
天国
(
てんごく
)
に
間違
(
まちがひ
)
ありませぬ、
169
迦陵
(
かりよう
)
頻迦
(
びんが
)
の
数限
(
かずかぎ
)
りもなく、
170
アレあの
通
(
とほり
)
に
舞狂
(
まひくる
)
ふ
有様
(
ありさま
)
、
171
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
風
(
かぜ
)
は
美妙
(
びめう
)
の
音楽
(
おんがく
)
を
奏
(
そう
)
し、
172
空気
(
くうき
)
は
何
(
なん
)
となく
香
(
かん
)
ばしく
梅花
(
ばいくわ
)
の
香
(
かほ
)
りを
交
(
まじ
)
へ、
173
見
(
み
)
るもの
聞
(
き
)
く
物
(
もの
)
一
(
いつ
)
として
快感
(
くわいかん
)
を
与
(
あた
)
へないものは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
174
……もしもし
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
、
175
御
(
お
)
案
(
あん
)
じなさいますな、
176
あなたの
真心
(
まごころ
)
を
大神
(
おほかみ
)
は
御
(
お
)
見
(
み
)
ぬき
遊
(
あそ
)
ばして、
177
斯
(
か
)
かる
天国
(
てんごく
)
に
導
(
みちび
)
き
下
(
くだ
)
さつたのでせう』
178
と
語
(
かた
)
る
折
(
をり
)
しも、
179
天空
(
てんくう
)
を
轟
(
とどろ
)
かして
一道
(
いちだう
)
の
光明
(
くわうみやう
)
と
共
(
とも
)
に
天
(
あま
)
の
磐船
(
いはふね
)
に
乗
(
の
)
りて
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
下
(
くだ
)
り
来
(
く
)
る
神人
(
しんじん
)
あり。
180
天
(
あま
)
の
磐船
(
いはふね
)
は
静
(
しづか
)
に
一行
(
いつかう
)
が
前
(
まへ
)
に
舞下
(
まひくだ
)
りぬ。
181
金銀
(
きんぎん
)
珠玉
(
しゆぎよく
)
、
182
瑠璃
(
るり
)
、
183
硨磲
(
しやこ
)
、
184
瑪瑙
(
めなう
)
、
185
真珠
(
しんじゆ
)
、
186
珊瑚
(
さんご
)
等
(
とう
)
を
以
(
もつ
)
て
飾
(
かざ
)
られたる
立派
(
りつぱ
)
なる
御船
(
みふね
)
なりき。
187
翼
(
よく
)
を
見
(
み
)
れば
絹
(
きぬ
)
でもなければ、
188
毛
(
け
)
でもない、
189
一種
(
いつしゆ
)
異様
(
いやう
)
の
柔
(
やはら
)
かき
且
(
かつ
)
強
(
つよ
)
き
織物
(
おりもの
)
にて
造
(
つく
)
られてあり。
190
手
(
て
)
を
伸
(
の
)
べて
此
(
この
)
翼
(
よく
)
をスウツと
撫
(
な
)
でる
刹那
(
せつな
)
に、
191
得
(
え
)
も
言
(
い
)
はれぬ
美妙
(
びめう
)
の
音響
(
おんきやう
)
が
発
(
はつ
)
するなり。
192
玉彦
(
たまひこ
)
は
右左
(
みぎひだり
)
に
翼
(
よく
)
に
張
(
は
)
り
詰
(
つ
)
めたる
織物
(
おりもの
)
を
撫
(
な
)
で
廻
(
まは
)
せば、
193
精巧
(
せいかう
)
なる
蓄音機
(
ちくおんき
)
の
円板
(
ゑんばん
)
の
如
(
ごと
)
く、
194
種々
(
しゆじゆ
)
の
美
(
うる
)
はしき
音響
(
おんきやう
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る。
195
此
(
この
)
時
(
とき
)
磐船
(
いはふね
)
の
中
(
なか
)
より
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
八
(
はち
)
人
(
にん
)
の
童子
(
どうじ
)
、
196
頭髪
(
とうはつ
)
は
赤
(
あか
)
くして
長
(
なが
)
く、
197
肩
(
かた
)
のあたりに
小
(
ちい
)
さき
翼
(
つばさ
)
あり、
198
歯
(
は
)
は
濡烏
(
ぬれがらす
)
の
如
(
ごと
)
く
黒
(
くろ
)
く
染
(
そ
)
め、
199
紅
(
べに
)
の
唇
(
くちびる
)
、
200
緑
(
みどり
)
滴
(
したた
)
る
眼容
(
まなざし
)
、
201
桃色
(
ももいろ
)
の
頬
(
ほほ
)
に
無限
(
むげん
)
の
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
202
五六
(
ごろく
)
才
(
さい
)
と
覚
(
おぼ
)
しき
童子
(
どうじ
)
、
203
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
204
細
(
ほそ
)
き
涼
(
すず
)
しき
声
(
こゑ
)
にて、
205
童子
『
貴下
(
きか
)
は
瑞霊
(
みづのみたま
)
の
分霊
(
わけみたま
)
、
206
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
に
生
(
あ
)
れましし
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
にましまさずや、
207
吾
(
われ
)
は
高天原
(
たかあまはら
)
より
大神
(
おほかみ
)
の
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
208
お
迎
(
むか
)
へに
来
(
きた
)
りし
者
(
もの
)
、
209
サ、
210
サ、
211
早
(
はや
)
くこの
船
(
ふね
)
に
召
(
め
)
させ
給
(
たま
)
へ』
212
と
言葉
(
ことば
)
を
低
(
ひく
)
うし、
213
礼
(
れい
)
を
厚
(
あつ
)
くして
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
つるにぞ、
214
命
(
みこと
)
は
何気
(
なにげ
)
なく
此
(
この
)
美
(
うる
)
はしき
船
(
ふね
)
に
心
(
こころ
)
を
奪
(
うば
)
はれ、
215
ツカツカと
側
(
そば
)
に
近付
(
ちかづ
)
き
給
(
たま
)
ふよと
見
(
み
)
る
間
(
ま
)
に、
216
磐船
(
いはふね
)
の
傍
(
かたはら
)
に
装置
(
さうち
)
せる
美
(
うる
)
はしき
翼
(
つばさ
)
、
217
命
(
みこと
)
の
身体
(
しんたい
)
を
包
(
つつ
)
みて
御船
(
みふね
)
の
中
(
なか
)
に
入
(
い
)
れ
奉
(
たてまつ
)
りけり。
218
忽
(
たちま
)
ち
美妙
(
びめう
)
の
音響
(
おんきやう
)
轟
(
とどろ
)
き
渡
(
わた
)
ると
見
(
み
)
る
間
(
ま
)
に、
219
磐船
(
いはふね
)
は
地上
(
ちじやう
)
を
離
(
はな
)
れ、
220
ゆるやかに
円
(
ゑん
)
を
描
(
ゑが
)
きつつ
空中
(
くうちう
)
に
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
221
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
突然
(
とつぜん
)
の
此
(
この
)
出来事
(
できごと
)
に
呆然
(
ばうぜん
)
として
空
(
そら
)
を
見上
(
みあ
)
ぐるのみなりき。
222
磐船
(
いはふね
)
は
空中
(
くうちう
)
高
(
たか
)
く
舞上
(
まひあが
)
り、
223
船首
(
せんしゆ
)
を
転
(
てん
)
じ、
224
中空
(
ちうくう
)
に
帯
(
おび
)
の
如
(
ごと
)
き
火線
(
くわせん
)
を
印
(
しる
)
し
乍
(
なが
)
ら、
225
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
目当
(
めあて
)
に
悠々
(
いういう
)
と
進
(
すす
)
み、
226
遂
(
つひ
)
には
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
も
全
(
まつた
)
く
目
(
め
)
に
止
(
とま
)
らずなりにけり。
227
玉彦
(
たまひこ
)
『
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
から
遥々
(
はるばる
)
と、
228
塩
(
しほ
)
の
八百路
(
やほぢ
)
を
渡
(
わた
)
り、
229
あらゆる
艱難
(
かんなん
)
と
戦
(
たたか
)
ひ、
230
雨風
(
あめかぜ
)
に
曝
(
さら
)
され、
231
汗
(
あせ
)
と
涙
(
なみだ
)
でフサの
都
(
みやこ
)
に
到着
(
たうちやく
)
し、
232
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
情
(
なさけ
)
深
(
ぶか
)
いお
詞
(
ことば
)
に、
233
旅
(
たび
)
の
疲
(
つか
)
れもスツカリ
忘
(
わす
)
れ
果
(
は
)
て、
234
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
絶頂
(
ぜつちやう
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いて
四方
(
よも
)
の
風景
(
ふうけい
)
を
眺
(
なが
)
めた
時
(
とき
)
の
愉快
(
ゆくわい
)
さは、
235
何
(
なん
)
ともかとも
譬
(
たと
)
へ
方
(
かた
)
がなかつた。
236
それより
板壁
(
いたかべ
)
の
如
(
ごと
)
き
峻坂
(
しゆんぱん
)
を
駒
(
こま
)
に
跨
(
またが
)
つて
下
(
くだ
)
つた
時
(
とき
)
の
心持
(
こころもち
)
は、
237
全然
(
まるきり
)
地獄道
(
ぢごくだう
)
の
一足飛
(
いつそくとび
)
でもする
様
(
やう
)
な
煩悶
(
はんもん
)
と
驚異
(
きやうい
)
に
充
(
み
)
たされ、
238
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
に
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
239
やがて
慕
(
した
)
ひ
奉
(
まつ
)
る
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
に
拝謁
(
はいえつ
)
が
得
(
え
)
られる
事
(
こと
)
だと、
240
一歩
(
いつぽ
)
一歩
(
いつぽ
)
苦痛
(
くつう
)
を
忘
(
わす
)
れ
楽
(
たの
)
しみ
進
(
すす
)
む
折
(
をり
)
しも、
241
俄
(
にはか
)
に
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
山嵐
(
やまあらし
)
に
煽
(
あふ
)
られ、
242
身
(
み
)
は
千仭
(
せんじん
)
の
谷間
(
たにま
)
に
落
(
お
)
ちて
粉砕
(
ふんさい
)
したと
思
(
おも
)
へば、
243
豈
(
あに
)
図
(
はか
)
らむや
通力
(
つうりき
)
自在
(
じざい
)
の
空中
(
くうちう
)
飛行
(
ひかう
)
、
244
心
(
こころ
)
イソイソ
風雲
(
ふううん
)
に
任
(
まか
)
す
折
(
をり
)
しも、
245
思
(
おも
)
ひきや、
246
斯
(
か
)
かる
美
(
うる
)
はしき
川
(
かは
)
べりに
下
(
お
)
ろされた。
247
どう
考
(
かんが
)
へても
此処
(
ここ
)
は
現界
(
げんかい
)
ではあるまい、
248
ヤレ
嬉
(
うれ
)
しやと
思
(
おも
)
ふ
間
(
ま
)
もなく、
249
力
(
ちから
)
に
思
(
おも
)
ふ
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
は、
250
神
(
かみ
)
の
迎
(
むか
)
への
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
りて、
251
中空
(
ちうくう
)
高
(
たか
)
く
月
(
つき
)
の
御国
(
みくに
)
へ
御
(
お
)
上
(
のぼ
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
時
(
とき
)
の
嬉
(
うれ
)
しき、
252
悲
(
かな
)
しき、
253
非喜
(
ひき
)
交々
(
こもごも
)
混
(
まじ
)
る
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
胸
(
むね
)
の
中
(
うち
)
、
254
アヽどうしたら
宜
(
よ
)
からうか』
255
厳彦
(
いづひこ
)
『
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
のまにまにお
任
(
まか
)
せするより
仕方
(
しかた
)
がない、
256
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
は
荘厳
(
さうごん
)
極
(
きは
)
まりなき
天国
(
てんごく
)
に
上
(
のぼ
)
られ、
257
大神
(
おほかみ
)
の
右
(
みぎ
)
に
座
(
ざ
)
し、
258
地上
(
ちじやう
)
の
経綸
(
けいりん
)
を
言問
(
ことと
)
はせ
給
(
たま
)
ふお
役
(
やく
)
と
見
(
み
)
える。
259
吾々
(
われわれ
)
は
最早
(
もはや
)
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
は
断念
(
だんねん
)
して、
260
足
(
あし
)
の
続
(
つづ
)
く
限
(
かぎ
)
り
進
(
すす
)
まうではないか、
261
ナア
楠彦
(
くすひこ
)
サン』
262
楠彦
(
くすひこ
)
『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います、
263
それにつけても、
264
何
(
なん
)
とした
気分
(
きぶん
)
の
良
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
でせう。
265
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
がイソイソとして
腰
(
こし
)
を
下
(
お
)
ろして
休
(
やす
)
む
気
(
き
)
にもなりませぬ、
266
サア
早
(
はや
)
く
前進
(
ぜんしん
)
致
(
いた
)
しませう』
267
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちて
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
した。
268
浅
(
あさ
)
き
広
(
ひろ
)
き
大河
(
おほかは
)
は
水晶
(
すゐしやう
)
の
水
(
みづ
)
ゆるやかに
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
269
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
270
三人
『アヽナント
綺麗
(
きれい
)
な
水
(
みづ
)
だナア、
271
是
(
こ
)
れが
生命
(
いのち
)
の
真清水
(
ましみづ
)
であらう。
272
……どうでせう、
273
一杯
(
いつぱい
)
手
(
て
)
に
掬
(
すく
)
つて
頂
(
いただ
)
きませうか。
274
身体
(
しんたい
)
の
各所
(
かくしよ
)
に
沢山
(
たくさん
)
の、
275
各自
(
めいめい
)
傷
(
きず
)
を
負
(
お
)
うて
居
(
ゐ
)
ますれば、
276
あの
河中
(
かはなか
)
に
浸
(
ひた
)
つて
見
(
み
)
れば、
277
この
疼痛
(
いたみ
)
も
癒
(
い
)
えるかも
知
(
し
)
れませぬぜ』
278
と
堤
(
つつみ
)
をゆるゆる
下
(
くだ
)
り、
279
真裸
(
まつぱだか
)
となつて
河
(
かは
)
にザンブと
飛込
(
とびこ
)
んだ。
280
清
(
きよ
)
き
流
(
なが
)
れの
河水
(
かはみづ
)
は、
281
河底
(
かはぞこ
)
の
金銀色
(
きんぎんしよく
)
の
砂利
(
じやり
)
、
282
日光
(
につくわう
)
に
映
(
えい
)
じてきらめき
亘
(
わた
)
る
其
(
その
)
美
(
うる
)
はしさ、
283
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
河
(
かは
)
の
中央
(
まんなか
)
にどつかと
坐
(
すわ
)
つた。
284
深
(
ふか
)
さは
坐
(
すわ
)
つて
乳
(
ちち
)
の
辺
(
あた
)
りまでよりない。
285
水
(
みづ
)
の
流
(
なが
)
れは
緩
(
ゆる
)
やかに、
286
冷
(
つめた
)
からず、
287
ぬる
からず、
288
水
(
みづ
)
は
名香
(
めいかう
)
を
薫
(
くん
)
ずるが
如
(
ごと
)
く、
289
味
(
あぢ
)
は
甘露
(
かんろ
)
の
如
(
ごと
)
く、
290
身体
(
しんたい
)
の
傷
(
きず
)
は
忽
(
たちま
)
ち
癒
(
い
)
えて、
291
肌
(
はだ
)
は
紫摩
(
しま
)
黄金
(
わうごん
)
の
色
(
いろ
)
と
変
(
へん
)
じ、
292
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
淡雪
(
あはゆき
)
の
如
(
ごと
)
く
柔
(
やはら
)
かく、
293
光
(
ひかり
)
を
放
(
はな
)
つに
至
(
いた
)
つた。
294
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
暫
(
しばら
)
くにして
此
(
この
)
川
(
かは
)
を
上
(
あが
)
り、
295
衣服
(
いふく
)
を
着替
(
きか
)
へむとした。
296
不思議
(
ふしぎ
)
や
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
衣服
(
いふく
)
は
得
(
え
)
も
言
(
い
)
はれぬ
鮮花色
(
せんくわしよく
)
に
変
(
へん
)
じて
居
(
ゐ
)
る。
297
玉彦
(
たまひこ
)
『ヤア
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
吾輩
(
わがはい
)
の
御
(
ご
)
着衣
(
ちやくい
)
を
失敬
(
しつけい
)
しよつたな』
298
と
其処
(
そこ
)
をウロウロと
探
(
さが
)
して
居
(
ゐ
)
る。
299
楠彦
(
くすひこ
)
『オー
此処
(
ここ
)
に
綺麗
(
きれい
)
な
衣服
(
いふく
)
が
脱
(
ぬ
)
いである。
300
恰度
(
ちやうど
)
三組
(
みくみ
)
だ、
301
これを
着服
(
ちやくふく
)
したらどうだらうなア』
302
厳彦
(
いづひこ
)
『ヤア
止
(
お
)
け
止
(
お
)
け、
303
是
(
こ
)
れは
天人
(
てんにん
)
の
羽衣
(
はごろも
)
だ。
304
ウツカリコンナ
物
(
もの
)
を
着
(
き
)
やうものなら、
305
それこそ
折角
(
せつかく
)
の
天国
(
てんごく
)
へ
来
(
き
)
た
喜悦
(
よろこび
)
は
忽
(
たちま
)
ち
変
(
へん
)
じて
地獄道
(
ぢごくだう
)
の
苦
(
くるし
)
みに
早替
(
はやがは
)
りするかも
知
(
し
)
れない、
306
……エ
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
に
任
(
まか
)
せて
裸
(
はだか
)
のまま
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
にせう。
307
風
(
かぜ
)
暖
(
あたた
)
かく、
308
肌具合
(
はだぐあひ
)
は
良
(
よ
)
し、
309
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
進
(
すす
)
まうではないか』
310
玉彦
(
たまひこ
)
『ヨー
此
(
この
)
着物
(
きもの
)
には、
311
何
(
なん
)
だか
印
(
しるし
)
が
附
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
るぞ』
312
と
手
(
て
)
に
取上
(
とりあ
)
げ
眺
(
なが
)
むれば、
313
玉彦
(
たまひこ
)
の
衣
(
ころも
)
と
印
(
しる
)
してある。
314
玉彦
(
たまひこ
)
『ヤア
此
(
こ
)
れは
妙
(
めう
)
だ、
315
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか、
316
吾輩
(
わがはい
)
の
汗
(
あせ
)
に
滲
(
にじ
)
んだ
衣裳
(
いしやう
)
と、
317
コンナ
新
(
あたら
)
しい
美
(
うる
)
はしい
衣裳
(
いしやう
)
と
交換
(
かうくわん
)
した
奴
(
やつ
)
があると
見
(
み
)
えるワイ、
318
……ヨウヨウ
是
(
こ
)
れには、
319
楠彦
(
くすひこ
)
、
320
厳彦
(
いづひこ
)
と
印
(
しる
)
してある、
321
……
吁
(
あゝ
)
、
322
天国
(
てんごく
)
の
泥棒
(
どろばう
)
は
変
(
かは
)
つた
者
(
もの
)
だなア、
323
サツパリ
娑婆
(
しやば
)
とは
逆様
(
さかさま
)
だ。
324
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
には、
325
自分
(
じぶん
)
の
履
(
は
)
き
古
(
ふる
)
した
足駄
(
あしだ
)
と
他人
(
ひと
)
の
新
(
あたら
)
しい
足駄
(
あしだ
)
と、
326
黙
(
だま
)
つて
交換
(
かうくわん
)
する
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
りだが、
327
天国
(
てんごく
)
は
又
(
また
)
趣
(
おもむき
)
が
違
(
ちが
)
うワイ』
328
厳彦
(
いづひこ
)
『そら、
329
そうだらうよ、
330
天国
(
てんごく
)
にはコンナ
汚
(
きたな
)
い
物
(
もの
)
は
珍
(
めづ
)
らしいから、
331
高天原
(
たかあまはら
)
の
徴古館
(
ちようこくわん
)
へでも
飾
(
かざ
)
る
積
(
つも
)
りで、
332
吾々
(
われわれ
)
が
河中
(
かちう
)
に
現
(
うつつ
)
をぬかしてる
間
(
ま
)
に、
333
泥棒
(
どろばう
)
が
取
(
と
)
つ
換
(
か
)
へこを
仕
(
し
)
よつたのだらう、
334
本当
(
ほんたう
)
に
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
335
天国
(
てんごく
)
へ
来
(
き
)
てもやつぱり
元
(
もと
)
は
人間
(
にんげん
)
の
霊
(
れい
)
が
来
(
く
)
るのだから、
336
泥棒
(
どろばう
)
根性
(
こんじやう
)
は
失
(
う
)
せぬと
見
(
み
)
えるワイ、
337
アハヽヽヽ』
338
楠彦
(
くすひこ
)
『ヤアナント
軽
(
かる
)
い
着物
(
きもの
)
だナア、
339
此
(
こ
)
れを
着
(
き
)
ると、
340
体
(
からだ
)
も
軽
(
かる
)
くなつて、
341
天
(
てん
)
へでも
自然
(
しぜん
)
に
舞上
(
まひあが
)
りさうだ。
342
身軽
(
みがる
)
になつたのは、
343
気分
(
きぶん
)
の
好
(
よ
)
いものだなア』
344
玉彦
(
たまひこ
)
『
定
(
き
)
まつた
事
(
こと
)
だよ、
345
幽霊
(
いうれい
)
の
体
(
からだ
)
は
軽
(
かる
)
いものだ。
346
此
(
この
)
美
(
うる
)
はしい
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
たが
最後
(
さいご
)
、
347
現世
(
うつしよ
)
の
衣
(
きぬ
)
を
脱
(
ぬ
)
いで、
348
神界
(
しんかい
)
の
羽衣
(
はごろも
)
と
着替
(
きか
)
へたのだから、
349
再
(
ふたた
)
び
恋
(
こひ
)
しき
娑婆
(
しやば
)
へ
帰
(
かへ
)
れない
事
(
こと
)
は
請合
(
うけあひ
)
だ』
350
厳彦
(
いづひこ
)
『
娑婆
(
しやば
)
だつて、
351
神界
(
しんかい
)
だつて
構
(
かま
)
はぬぢやないか、
352
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
353
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
に
働
(
はたら
)
ける
丈
(
だけ
)
働
(
はたら
)
けば、
354
吾々
(
われわれ
)
は
人生
(
じんせい
)
の
本分
(
ほんぶん
)
が
尽
(
つく
)
せるのだ。
355
サアサア
行
(
ゆ
)
かう、
356
……ヤア
体
(
からだ
)
も
足
(
あし
)
も
滅法界
(
めつぽふかい
)
に
軽
(
かる
)
くなつた。
357
アア
気分
(
きぶん
)
も
何
(
なん
)
となく、
358
爽々
(
さやさや
)
として
来
(
き
)
た。
359
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
乍
(
なが
)
ら、
360
往
(
ゆ
)
く
所
(
とこ
)
まで
行
(
ゆ
)
かうかい』
361
と
厳彦
(
いづひこ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
進
(
すす
)
み
出
(
だ
)
した。
362
前方
(
ぜんぱう
)
より
頭髪
(
とうはつ
)
漆
(
うるし
)
の
如
(
ごと
)
く
黒
(
くろ
)
く、
363
光沢
(
くわうたく
)
豊
(
ゆたか
)
に、
364
身
(
み
)
の
丈
(
たけ
)
は
六
(
ろく
)
尺
(
しやく
)
許
(
ばか
)
り
眉目
(
びもく
)
清秀
(
せいしう
)
の
一
(
いち
)
神人
(
しんじん
)
、
365
数多
(
あまた
)
の
美
(
うる
)
はしき
鳥
(
とり
)
を
数百羽
(
すうひやくぱ
)
引
(
ひ
)
きつれ、
366
金
(
きん
)
の
杖
(
つゑ
)
を
持
(
も
)
つて
指揮
(
しき
)
し
乍
(
なが
)
ら
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
367
玉彦
(
たまひこ
)
『ヤ、
368
何
(
な
)
ンと
綺麗
(
きれい
)
な
鳥
(
とり
)
が
居
(
を
)
るではないか、
369
到底
(
たうてい
)
現界
(
げんかい
)
では、
370
見
(
み
)
られない、
371
美
(
うる
)
はしいものだ』
372
かく
言
(
い
)
ふ
中
(
うち
)
、
373
件
(
くだん
)
の
男
(
をとこ
)
は
一足
(
ひとあし
)
一足
(
ひとあし
)
近付
(
ちかづ
)
き、
374
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
見
(
み
)
て、
375
男
『ヤアあなたは
高天原
(
たかあまはら
)
へ
御
(
ご
)
参詣
(
さんけい
)
ですか』
376
と
笑顔
(
ゑがほ
)
を
以
(
もつ
)
て、
377
言葉
(
ことば
)
優
(
やさ
)
しく
問
(
と
)
ひかけた。
378
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
379
三人
『ハイ、
380
不思議
(
ふしぎ
)
の
事
(
こと
)
で、
381
吾々
(
われわれ
)
は
斯様
(
こん
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
国
(
くに
)
へ
思
(
おも
)
はず
参
(
まゐ
)
りました。
382
高天原
(
たかあまはら
)
は
何方
(
どちら
)
を
指
(
さ
)
して
行
(
ゆ
)
けば
宜
(
よろ
)
しいでせうか』
383
男
(
をとこ
)
(松彦)
『マア
急
(
いそ
)
ぐ
旅
(
たび
)
でもなし、
384
この
美
(
うる
)
はしい
草
(
くさ
)
の
上
(
うへ
)
で、
385
皆
(
みな
)
サンゆつくりと
休息
(
きうそく
)
を
致
(
いた
)
しませうか、
386
吾々
(
われわれ
)
は
言依別
(
ことよりわけ
)
の
命様
(
みことさま
)
の
命
(
めい
)
に
依
(
よ
)
り、
387
あなた
方
(
がた
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
方
(
かた
)
をお
迎
(
むか
)
へに
参
(
まゐ
)
りました』
388
玉彦
(
たまひこ
)
『エー、
389
ナント
仰有
(
おつしや
)
います、
390
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
は、
391
最早
(
もはや
)
高天原
(
たかあまはら
)
へお
着
(
つ
)
きになりましたか、
392
それやマアどうした
事
(
こと
)
で、
393
そう
早
(
はや
)
くお
着
(
つ
)
きになつたでせう……ハテ……
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
だワイ』
394
男
(
をとこ
)
(松彦)
『
神界
(
しんかい
)
には
時間
(
じかん
)
空間
(
くうかん
)
は
有
(
あ
)
りませぬ、
395
仮令
(
たとへ
)
幾億万
(
いくおくまん
)
里
(
り
)
と
雖
(
いへど
)
も、
396
一息
(
ひといき
)
の
間
(
うち
)
に
往復
(
わうふく
)
が
出来
(
でき
)
ます、
397
それが
即
(
すなは
)
ち
神界
(
しんかい
)
の
特長
(
とくちやう
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
398
アハヽヽヽ』
399
茲
(
ここ
)
に
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
美
(
うる
)
はしき
花毛氈
(
はなまうせん
)
を
敷
(
し
)
き
詰
(
つ
)
めた
様
(
やう
)
な
河辺
(
かはべり
)
の
芝生
(
しばふ
)
に
腰
(
こし
)
うち
掛
(
か
)
け、
400
脚
(
あし
)
を
伸
(
の
)
ばして
種々
(
いろいろ
)
の
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
るのであつた。
401
風
(
かぜ
)
は
音調
(
おんてう
)
淑
(
しと
)
やかなる
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
いて、
402
河
(
かは
)
の
面
(
おも
)
をよぎつて
居
(
ゐ
)
る。
403
魚鱗
(
ぎよりん
)
の
波
(
なみ
)
は
金色
(
こんじき
)
の
光
(
ひかり
)
を
放
(
はな
)
ち、
404
風
(
かぜ
)
に
連
(
つ
)
れて
河下
(
かはしも
)
より
河上
(
かはかみ
)
に
流
(
なが
)
れ
行
(
ゆ
)
く
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
405
数多
(
あまた
)
の
美
(
うる
)
はしき
鳥
(
とり
)
を
熟視
(
じゆくし
)
すれば、
406
人
(
ひと
)
の
顔
(
かほ
)
に
翼
(
つばさ
)
の
生
(
は
)
えた
かつかう
鳥
(
どり
)
の
様
(
やう
)
なものばかり、
407
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
呟
(
つぶや
)
き
出
(
だ
)
した。
408
厳彦
(
いづひこ
)
『モシモシ
神界
(
しんかい
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
は、
409
総
(
すべて
)
の
物
(
もの
)
が
変
(
かは
)
つて
居
(
ゐ
)
ますな、
410
此
(
この
)
鳥
(
とり
)
は
又
(
また
)
何
(
なん
)
として
人間
(
にんげん
)
に
似
(
に
)
て
居
(
ゐ
)
るのでせうか』
411
男
(
をとこ
)
(松彦)
『イヤ
是
(
こ
)
れは
人鳥
(
にんてう
)
と
言
(
い
)
ひます、
412
高天原
(
たかあまはら
)
の
玩弄物
(
おもちや
)
になつたり、
413
或
(
あるひ
)
はお
使
(
つかひ
)
をするものですが、
414
もとはヤハリ
現界
(
げんかい
)
に
居
(
を
)
つて、
415
高
(
たか
)
い
所
(
ところ
)
へ
上
(
あが
)
つて
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬことを
囀
(
さへづ
)
り、
416
バカセだとか、
417
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
ふ
保護色
(
ほごしよく
)
や、
418
長
(
なが
)
い
嘴
(
くちばし
)
を
使
(
つか
)
つて
人間
(
にんげん
)
の
頭
(
あたま
)
をこついた
報
(
むく
)
いで、
419
コンナ
者
(
もの
)
に
変化
(
へんくわ
)
して
了
(
しま
)
つたのですよ、
420
今年
(
こんねん
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
三千
(
さんぜん
)
八百
(
はつぴやく
)
羽
(
ぱ
)
幽界
(
いうかい
)
から
輸入
(
ゆにふ
)
して
来
(
き
)
ました。
421
みな
言語
(
げんご
)
は
明瞭
(
めいれう
)
ではありませぬが、
422
各自
(
めいめい
)
に
小賢
(
こざか
)
しい
事
(
こと
)
を
喋
(
しやべ
)
る
怪鳥
(
くわいてう
)
ですよ』
423
厳彦
(
いづひこ
)
『そうすると
是
(
こ
)
れは
神界
(
しんかい
)
、
424
天国
(
てんごく
)
の
産物
(
さんぶつ
)
ではありませぬか』
425
男
(
をとこ
)
(松彦)
『
無論
(
むろん
)
の
事
(
こと
)
、
426
コンナ
畸形児
(
きけいじ
)
的
(
てき
)
鳥類
(
てうるゐ
)
は、
427
神界
(
しんかい
)
には
一羽
(
いちは
)
も
有
(
あ
)
りませぬ。
428
此
(
こ
)
れは
要
(
えう
)
するに
閻魔
(
えんま
)
の
庁
(
ちやう
)
より、
429
高天原
(
たかあまはら
)
には
珍
(
めづ
)
らしいと
云
(
い
)
つて、
430
神界
(
しんかい
)
のお
慰
(
なぐさ
)
みの
為
(
ため
)
に、
431
輸入
(
ゆにふ
)
されたものです、
432
言
(
い
)
はば、
433
舶来
(
はくらい
)
ですな。
434
アハヽヽヽ』
435
厳彦
(
いづひこ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
妙
(
めう
)
なものだ、
436
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
は
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
を
)
る
時
(
とき
)
には、
437
自由
(
じいう
)
恋愛
(
れんあい
)
だとか、
438
共和
(
きようわ
)
だとか、
439
民衆
(
みんしう
)
だとか
何
(
なん
)
とか
言
(
い
)
つて、
440
沢山
(
たくさん
)
な
娑婆
(
しやば
)
の
亡者
(
まうじや
)
を
煽動
(
せんどう
)
した
何々長
(
なになにちやう
)
とか
云
(
い
)
ふ
怪鳥
(
くわいてう
)
でせう。
441
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
綺麗
(
きれい
)
な
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
に
糞
(
ふん
)
をひりさがされては、
442
又
(
また
)
もや
娑婆
(
しやば
)
の
様
(
やう
)
になりはしますまいかなア』
443
男
(
をとこ
)
(松彦)
『イヤ
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
です、
444
此奴
(
こいつ
)
の
尻
(
しり
)
は
最早
(
もはや
)
糞詰
(
ふんづま
)
りですから……
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
を
)
る
時
(
とき
)
には、
445
何事
(
なにごと
)
も
知
(
し
)
つて
知
(
し
)
つて
尻
(
しり
)
抜
(
ぬ
)
いた
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて、
446
長
(
なが
)
い
嘴
(
くちばし
)
を
振
(
ふ
)
りまはし、
447
囀
(
さへづ
)
つては
喰
(
く
)
つて
居
(
ゐ
)
ましたが、
448
モウ
娑婆
(
しやば
)
でも
此
(
この
)
嘴
(
くちばし
)
が
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はなくなつて
口
(
くち
)
は
詰
(
つま
)
り、
449
尻
(
しり
)
は
塞
(
ふさ
)
がり、
450
行詰
(
ゆきつま
)
りの
悲境
(
ひきやう
)
に
陥
(
おちい
)
つてる
代物
(
しろもの
)
です。
451
娑婆
(
しやば
)
でもあまり
喰
(
く
)
へないので、
452
糞
(
ふん
)
をこく
種
(
たね
)
もなし、
453
清潔
(
きれい
)
なものですよ』
454
厳彦
(
いづひこ
)
『ソンナ
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
くと、
455
吾々
(
われわれ
)
も
生物識
(
なまものしり
)
の
聞噛
(
ききか
)
じり
学問
(
がくもん
)
をやつて
来
(
き
)
たが、
456
コンナ
事
(
こと
)
になると
思
(
おも
)
へば、
457
ガツクリして
胸
(
むね
)
も
学々
(
がくがく
)
致
(
いた
)
しますワ、
458
アハヽヽヽ』
459
玉彦
(
たまひこ
)
『
一寸
(
ちよつと
)
此
(
この
)
鳥
(
とり
)
に
物言
(
ものい
)
はして
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さいな』
460
男
(
をとこ
)
(松彦)
『ナンダか
言語
(
げんご
)
が
通
(
つう
)
じ
難
(
がた
)
いから、
461
聞取
(
ききと
)
れますまい、
462
此奴
(
こいつ
)
は
金鳥
(
きんてう
)
と
云
(
い
)
ひ、
463
此奴
(
こいつ
)
は
銀鳥
(
ぎんてう
)
と
云
(
い
)
ひます。
464
娑婆
(
しやば
)
で、
465
椅子
(
いす
)
とか
云
(
い
)
ふ
木
(
き
)
に
巣
(
す
)
を
作
(
つく
)
り、
466
月給
(
げつきふ
)
々々
(
げつきふ
)
と
鳴
(
な
)
いたり、
467
ホーホー
俸給
(
ほうきふ
)
々々
(
ほうきふ
)
と
囀
(
さへづ
)
つて
居
(
を
)
つた
鳥
(
とり
)
ださうです。
468
此
(
この
)
天国
(
てんごく
)
へ
輸入
(
ゆにふ
)
されてからと
云
(
い
)
ふものは、
469
何
(
なん
)
だか
鼠
(
ねずみ
)
の
病人
(
びやうにん
)
の
様
(
やう
)
にキウ
窮
(
きう
)
と
囀
(
さへづ
)
つて
居
(
ゐ
)
ます』
470
数多
(
あまた
)
の
人鳥
(
にんてう
)
は、
471
キウ
窮
(
きう
)
、
472
クウ
苦々
(
くく
)
と
鳴
(
な
)
き
乍
(
なが
)
ら、
473
家鴨
(
あひる
)
の
様
(
やう
)
に
河
(
かは
)
にバサバサと
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
心地
(
ここち
)
よげに
かいつぶり
の
真似
(
まね
)
をして、
474
浮
(
う
)
きつ
沈
(
しづ
)
みつ
戯
(
たはむ
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
475
楠彦
(
くすひこ
)
『ナント
天国
(
てんごく
)
も
変
(
かは
)
つたものですな、
476
迦陵
(
かりよう
)
頻迦
(
びんが
)
の
名鳥
(
めいてう
)
が
沢山
(
たくさん
)
居
(
ゐ
)
ると
聞
(
き
)
きましたが、
477
其
(
その
)
様
(
やう
)
な
鳥
(
とり
)
は
余
(
あま
)
り
見当
(
みあた
)
らないぢやありませぬか』
478
男
(
をとこ
)
(松彦)
『
其
(
その
)
鳥
(
とり
)
は
高天原
(
たかあまはら
)
を
中心
(
ちうしん
)
として、
479
十
(
じふ
)
里
(
り
)
四方
(
しはう
)
の
区域
(
くゐき
)
に
限
(
かぎ
)
つて
住
(
す
)
んで
居
(
ゐ
)
ます。
480
此
(
この
)
辺
(
へん
)
は
要
(
えう
)
するに
準天国
(
じゆんてんごく
)
と
云
(
い
)
つても
宜
(
よ
)
い
様
(
やう
)
な
所
(
ところ
)
ですよ、
481
まだまだ
此
(
この
)
先
(
さき
)
へお
進
(
すす
)
みになれば、
482
立派
(
りつぱ
)
な
所
(
ところ
)
があります。
483
……
私
(
わたくし
)
はウツカリとネームを
申上
(
まをしあ
)
げるのを
忘
(
わす
)
れて
居
(
ゐ
)
ましたが、
484
実
(
じつ
)
は
高天原
(
たかあまはら
)
の
使
(
つかひ
)
松彦
(
まつひこ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
、
485
昔
(
むかし
)
はヱルサレムに
於
(
おい
)
て、
486
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
にお
仕
(
つか
)
へ
致
(
いた
)
した
事
(
こと
)
のある
言代別
(
ことしろわけ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
487
楠彦
(
くすひこ
)
『ヤア
昔語
(
むかしがたり
)
に
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
つた
言代別
(
ことしろわけ
)
はあなたの
事
(
こと
)
ですか、
488
ヤアこれはこれは
妙
(
めう
)
な
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
に
掛
(
か
)
かりました』
489
松彦
(
まつひこ
)
『
然
(
しか
)
らば
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しませう』
490
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
かむとする。
491
玉彦
(
たまひこ
)
『もしもし
松彦
(
まつひこ
)
様
(
さま
)
、
492
あの
沢山
(
たくさん
)
な
鳥
(
とり
)
は、
493
連
(
つ
)
れてお
帰
(
かへ
)
りになりませぬか』
494
松彦
(
まつひこ
)
『
折角
(
せつかく
)
閻魔
(
えんま
)
の
庁
(
ちやう
)
より
輸入
(
ゆにふ
)
されたものですが、
495
十
(
じふ
)
里
(
り
)
四方
(
しはう
)
の
内
(
うち
)
には
置
(
お
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないと
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
厳命
(
げんめい
)
に
依
(
よ
)
りて、
496
十
(
じふ
)
里
(
り
)
圏外
(
けんぐわい
)
に
送
(
おく
)
り
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
ました。
497
……あの
様
(
やう
)
な
鳥族
(
てうぞく
)
には
少
(
すこ
)
しも
執着心
(
しふちやくしん
)
はありませぬ、
498
どうなつと
勝手
(
かつて
)
に
方針
(
はうしん
)
を
立
(
た
)
てるでせう』
499
と
足
(
あし
)
をはづませ、
500
飛鳥
(
ひてう
)
の
如
(
ごと
)
くに
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
501
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
何
(
なん
)
となく
足許
(
あしもと
)
軽
(
かる
)
く、
502
飛
(
と
)
び
立
(
た
)
つ
如
(
ごと
)
くに
追跡
(
つゐせき
)
する。
503
一時
(
ひととき
)
許
(
ばか
)
り
歩
(
ある
)
いたと
思
(
おも
)
ふ
頃
(
ころ
)
、
504
ピタリと
岸壁
(
がんぺき
)
に
行当
(
ゆきあた
)
つた。
505
此
(
この
)
岩
(
いは
)
は
鏡
(
かがみ
)
の
岩
(
いは
)
と
云
(
い
)
つて、
506
浄玻璃
(
じやうはり
)
の
鏡
(
かがみ
)
の
如
(
ごと
)
くに
光
(
ひか
)
り
輝
(
かがや
)
き、
507
日光
(
につくわう
)
鏡面
(
きやうめん
)
に
映
(
えい
)
じて、
508
得
(
え
)
も
云
(
い
)
はれぬ
美
(
うる
)
はしさ、
509
一行
(
いつかう
)
の
姿
(
すがた
)
は
鏡
(
かがみ
)
に
隈
(
くま
)
なく
映
(
うつ
)
つた。
510
見
(
み
)
れば
自分
(
じぶん
)
の
背後
(
うしろ
)
に
五色
(
ごしき
)
の
霊衣
(
れいい
)
現
(
あら
)
はれ、
511
優美
(
いうび
)
にして、
512
気品
(
きひん
)
高
(
たか
)
き
女神
(
めがみ
)
が
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
る。
513
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
思
(
おも
)
はず
合掌
(
がつしやう
)
した。
514
松彦
(
まつひこ
)
『
此処
(
ここ
)
が
鏡
(
かがみ
)
の
岩
(
いは
)
です。
515
大抵
(
たいてい
)
の
者
(
もの
)
は
此処
(
ここ
)
へ
来
(
きた
)
りて、
516
後
(
あと
)
へ
引返
(
ひきかへ
)
す
者
(
もの
)
が
多
(
おほ
)
いですよ。
517
天国
(
てんごく
)
にも
上中下
(
じやうちうげ
)
と
三段
(
さんだん
)
の
区劃
(
くくわく
)
があります。
518
此
(
この
)
鏡
(
かがみ
)
を
無事
(
ぶじ
)
に
通過
(
つうくわ
)
すれば、
519
最上
(
さいじやう
)
の
天国
(
てんごく
)
です。
520
此
(
この
)
鏡
(
かがみ
)
さへ
突破
(
とつぱ
)
すれば、
521
モウ
占
(
し
)
めたものです』
522
玉彦
(
たまひこ
)
『アー、
523
それは
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました。
524
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
は、
525
第二
(
だいに
)
の
天国
(
てんごく
)
を
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に
通過
(
つうくわ
)
したのですか、
526
まさか
途中
(
とちう
)
で
天国
(
てんごく
)
の
移転
(
いてん
)
と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
もありますまいが……』
527
松彦
(
まつひこ
)
『あなた
方
(
がた
)
は、
528
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
に
依
(
よ
)
りて、
529
第三
(
だいさん
)
の
天国
(
てんごく
)
は
抜
(
ぬ
)
きにし、
530
第二
(
だいに
)
の
天国
(
てんごく
)
へ
直接
(
ちよくせつ
)
お
下
(
お
)
りになつたのです。
531
夫
(
そ
)
れも
第二
(
だいに
)
天国
(
てんごく
)
の
殆
(
ほとん
)
ど
終点
(
しうてん
)
ですから、
532
大
(
たい
)
したものですお
喜
(
よろこ
)
びなさいませ』
533
三
(
さん
)
人
(
にん
)
『
身分
(
みぶん
)
に
過
(
す
)
ぎたる
有難
(
ありがた
)
き
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
待遇
(
たいぐう
)
、
534
恐縮
(
きようしゆく
)
の
至
(
いた
)
りだ、
535
………
此
(
この
)
鏡岩
(
かがみいは
)
をどうして
突破
(
とつぱ
)
すれば
可
(
い
)
いでせうか』
536
松彦
(
まつひこ
)
『
是
(
これ
)
より
以内
(
いない
)
は
宮
(
みや
)
の
内
(
うち
)
、
537
此
(
この
)
鏡岩
(
かがみいは
)
は
外囲
(
そとがこひ
)
です、
538
これを
突破
(
とつぱ
)
しなくては、
539
最上
(
さいじやう
)
天国
(
てんごく
)
へ
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
540
神界
(
しんかい
)
に
於
(
おい
)
ても、
541
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
一
(
ひと
)
つの
苦
(
くる
)
しみがありますワイ。
542
吾々
(
われわれ
)
は
幾度
(
いくたび
)
も
此処
(
ここ
)
を
往復
(
わうふく
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますから、
543
勝手
(
かつて
)
も
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
りますが、
544
あなた
方
(
がた
)
は
始
(
はじ
)
めての
事
(
こと
)
各自
(
めいめい
)
に
心
(
こころ
)
をお
開
(
ひら
)
きになれば、
545
自然
(
しぜん
)
に
此
(
この
)
鏡岩
(
かがみいは
)
の
通過
(
つうくわ
)
が
叶
(
かな
)
ひます。
546
神界
(
しんかい
)
の
厳
(
きび
)
しき
警告
(
いましめ
)
に
依
(
よ
)
りて、
547
此
(
この
)
事
(
こと
)
ばかりは
御
(
お
)
教
(
をし
)
へ
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ、
548
是
(
こ
)
れが
神界
(
しんかい
)
の
関門
(
くわんもん
)
、
549
霊
(
みたま
)
の
試金石
(
しきんせき
)
ですよ』
550
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
551
三人
『ハテナア』
552
と
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
553
首
(
くび
)
を
項低
(
うなだれ
)
る。
554
(
大正一一・四・四
旧三・八
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 婆々勇
(B)
(N)
五十世紀 >>>
霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第15巻(寅の巻)
> 第4篇 神行霊歩 > 第19章 第一天国
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第19章 第一天国|第15巻|如意宝珠|霊界物語|/rm1519】
合言葉「みろく」を入力して下さい→