霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 第一(だいいち)天国(てんごく)〔五八六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第4篇 神行霊歩 よみ(新仮名遣い):しんこうれいほ
章:第19章 第一天国 よみ(新仮名遣い):だいいちてんごく 通し章番号:586
口述日:1922(大正11)年04月04日(旧03月08日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
神素盞嗚大神は、西蔵を越えてフサの国を打ち渡り、ウブスナ山の山頂に隠れ家を定めて、密かに神徳を現していた。
瑞霊の元津祖・豊国姫神の分霊である言霊別命は、国祖御退隠の際に幽界にて少彦名神となっていたが、神素盞嗚大神が漂泊の旅に出たと聞き、貧しい身分の人の腹を借りて、再びこの世に現れて、言依別命となった。
玉彦、厳彦、楠彦は言依別命の供となり、月の国を越えてフサの国の都・タールへと着いた。タールの都では、吾勝命が日の出別神と現れて、神政を敷いていた。言依別命一行は日の出別神に面会し、神素盞嗚大神の隠れ家を教えられ、喜び勇んで河鹿峠を越えていった。
神素盞嗚大神はウブスナ山の山頂、斎苑の高原に宮殿を構え、八十猛神に守らせた。自らは千種万様に御姿を変じ、変幻出没して御国を守らせつつあった。
斎苑の館に至るためには、河鹿峠を越えていくのが順路である。言依別命一行は、急坂を駒にまたがって進んで行く折、突風に煽られて谷底に転落してしまった。
と思う間に、一行はとある風景のよい高山の麓に降ろされていた。一行は、ここは天国ではなかろうかと不思議に思っていると、天の磐船が降りてきた。中から八人の童子神が現れると、大神の命であるとして言依別命一人を招きいれ、行ってしまった。
残された玉彦、厳彦、楠彦は、足の続く限り進んで行くこととした。途中、美しい河につかって禊をすると、三人の衣服は、鮮花色に変じた。
すると向こうから、多数の奇妙な鳥を連れた男がやってきた。男は、言依別命の命により、三人を迎えに高天原からやってきたという。男は言代別神・松彦と名乗った。
松彦は鳥たちを辺りに放すと、三人を案内して進んで行った。すると、鏡のように輝く岸壁に行き当たった。ここは鏡の岩と言い、三人が降り立った第二天国の終点にあたるという。鏡の岩を越えなければ、第一天国に入れない関門であるという。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-20 20:27:10 文字数:7399 OBC :rm1519
愛善世界社版:237頁 八幡書店版:第3輯 367頁 修補版: 校定版:235頁 普及版:108頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 第四篇 神霊世界 > 第二十三章 人烏
001久方(ひさかた)の高天原(たかあまはら)の岩窟(いはやど)も
002開(ひら)けてここに天地(あめつち)の
003百(もも)の神(かみ)達(たち)勇(いさ)み立(た)ち
004あな面白(おもしろ)やあなさやけおけ
005天(あま)の数歌(かずうた)賑(にぎ)はしく
006言葉(ことば)の花(はな)の開(ひら)け口(ぐち)
007常夜(とこよ)の闇(やみ)は晴(は)れぬれど
008まだ晴(は)れやらぬ胸(むね)の内(うち)
009神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)は
010天地(あめつち)百(もも)の神人(しんじん)の
011百千万(ももちよろづ)の罪咎(つみとが)を
012御(おん)身(み)一(ひと)つに贖(あがな)ひつ
013情(つれ)なき嵐(あらし)の吹(ふ)くままに
014千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)ひ給(たま)ひ
015高天原(たかあまはら)を後(あと)にして
016天(あめ)の真名井(まなゐ)を打渡(うちわた)り
017唐土山(もろこしやま)や韓(から)の原(はら)
018印度(つき)の国(くに)をば打過(うちす)ぎて
019秘密(ひみつ)の国(くに)と聞(きこ)えたる
020高山(かうざん)四方(よも)に繞(めぐ)らせる
021由緒(ゆいしよ)も深(ふか)き西蔵(チベツト)の
022山野(やまの)村々(むらむら)悉(ことごと)く
023太(ふと)き御稜威(みいづ)を輝(かがや)かし
024猶(なほ)も進(すす)みてフサの国(くに)
025タールの都(みやこ)を打過(うちす)ぎて
026雲(くも)を圧(あつ)して聳(そそ)り立(た)つ
027百(もも)の山々(やまやま)此処(ここ)彼処(かしこ)
028ウブスナ山(やま)の山脈(さんみやく)に
029かかる手前(てまへ)の河鹿山(かじかやま)
030世(よ)の荒風(あらかぜ)に揉(も)まれつつ
031足(あし)もいそいそ上(のぼ)りまし
032ウブスナ山(やま)の山(やま)の上(へ)に
033四方(よも)の景色(けしき)の美(うる)はしき
034清(きよ)き所(ところ)を選(えら)みつつ
035八尋(やひろ)の殿(との)を建(た)て給(たま)ひ
036千代(ちよ)の住家(すみか)と定(さだ)めつつ
037此(この)世(よ)を忍(しの)ぶ佗住居(わびずまゐ)
038黒雲(くろくも)四方(よも)に叢(むら)がりて
039黒白(あやめ)も分(わ)かぬ世(よ)の中(なか)に
040神(かみ)の稜威(みいづ)もいや高(たか)く
041ひそかに四方(よも)を照(てら)します
042その神徳(しんとく)を慕(した)ひつつ
043忍(しの)び忍(しの)びに遠近(をちこち)の
044山(やま)の尾(を)の上(へ)や川(かは)の瀬(せ)に
045現(あ)れます正(ただ)しき神人(しんじん)は
046吾(われ)も吾(われ)もと争(あらそ)ひつ
047尋(たづ)ね来(き)ますぞ尊(たふと)けれ。
048 瑞霊(みづのみたま)の元津祖(もとつおや)、049豊国姫(とよくにひめ)の神(かみ)の分霊(わけみたま)、050昔(むかし)は聖地(せいち)エルサレムに幸魂(さちみたま)の神(かみ)として現(あら)はれ給(たま)へる言霊別(ことたまわけの)命(みこと)は、051国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)の御(ご)退隠(たいいん)に先立(さきだ)ち、052千座(ちくら)の置戸(おきど)を負(お)ひて、053一旦(いつたん)幽界(かくりよ)に出(い)でまし少名彦(すくなひこ)の神(かみ)と改(あらた)めて、054常世(とこよ)の国(くに)を永久(とこしへ)に守(まも)り給(たま)ひけるが、055瑞霊(みづのみたま)の本津祖(もとつおや)、056神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の、057高天原(たかあまはら)を退(やら)はれて、058豊葦原(とよあしはら)の国々(くにぐに)を、059心(こころ)寂(さび)しき漂泊(さすらひ)の、060旅路(たびぢ)に上(のぼ)らせ給(たま)ひしと、061聞(き)くより心(こころ)も安(やす)からず、062再(ふたた)び此(この)世(よ)に現(あら)はれて、063賤(いや)しき人(ひと)の腹(はら)を籍(か)り、064言依別(ことよりわけの)命(みこと)となり、065森鷹彦(もりたかひこ)の霊(みたま)の流裔(ながれ)、066玉彦(たまひこ)を御伴(みとも)の神(かみ)と定(さだ)めつつ、067常世(とこよ)の国(くに)を厳彦(いづひこ)や、068世人(よびと)を救(すく)ふ楠彦(くすひこ)の、069三人(みたり)の神(かみ)を従(したが)へて、070波路(なみぢ)遥(はる)かに太平(たいへい)の、071海(うみ)を渡(わた)りて月(つき)の国(くに)、072フルの港(みなと)に上陸(じやうりく)し、073印度(つき)の御国(みくに)を乗(の)り越(こ)えて、074歩(あゆ)みに悩(なや)むフサの国(くに)、075タールの都(みやこ)に出(い)で給(たま)ふ。
076 吾勝(あかつの)命(みこと)は、077フサの国(くに)の首府(しゆふ)タールの都(みやこ)に、078日(ひ)の出別(でわけの)神(かみ)と現(あら)はれて、079神政(しんせい)を執(と)り行(おこな)はせ給(たま)ひつつありき。080言依別(ことよりわけの)命(みこと)はタールの都(みやこ)の日(ひ)の出別(でわけの)神(かみ)に面会(めんくわい)し、081神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)のお隠宅(かくれが)を教(をし)へられ、082喜(よろこ)び勇(いさ)んで、083玉彦(たまひこ)、084厳彦(いづひこ)、085楠彦(くすひこ)と共(とも)に駒(こま)に跨(またが)り、086河鹿(かじか)峠(たうげ)を越(こ)えさせ給(たま)ふ。087意外(いぐわい)の峻坂(しゆんぱん)難路(なんろ)に、088流石(さすが)の駿馬(しゆんめ)も進(すす)みかね、089幾度(いくたび)となく駒(こま)の転倒(てんたう)せむとする危険(きけん)を冒(をか)して、090徐々(しづしづ)と山頂(さんちやう)目(め)がけて進(すす)ませ給(たま)ふ。
091 この地(ち)一帯(いつたい)の山脈(さんみやく)は、092風(かぜ)烈(はげ)しく、093寒熱(かんねつ)不順(ふじゆん)にして、094百(もも)の草木(さうもく)の生育(せいいく)悪(あ)しく、095見渡(みわた)す限(かぎ)り屹立(きつりつ)せる岩山(いはやま)、096禿山(はげやま)、097此処(ここ)彼処(かしこ)に起伏(きふく)し、098眺望(てうばう)としては天下(てんか)の絶景(ぜつけい)なり。
099 神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)は、100ウブスナ山脈(さんみやく)の頂上(ちやうじやう)斎苑(いそ)の高原(かうげん)に宮殿(きうでん)を造(つく)り、101四方(よも)の神人(しんじん)を言向和(ことむけやは)し給(たま)はむと、102千種(せんしゆ)万様(ばんやう)に御姿(みすがた)を変(へん)じ、103此(この)宮殿(きうでん)を本拠(ほんきよ)と定(さだ)め、104八十猛(やそたけるの)神(かみ)をして固(かた)く守(まも)らしめ、105自(みづか)らは表面(へうめん)罪人(ざいにん)の名(な)を負(お)ひ給(たま)ひて、106大八洲(おほやしまの)国(くに)に蟠(わだか)まる大蛇(をろち)、107悪鬼(あくき)、108醜(しこ)の神々(かみがみ)を根絶(こんぜつ)せむと心(こころ)を砕(くだ)き身(み)を苦(くる)しめ、109変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)極(きは)まり無(な)く、110斯(か)くして御国(みくに)を守(まも)らせ玉(たま)ひつつありき。111言依別(ことよりわけの)命(みこと)は尊(みこと)に拝謁(はいえつ)し大御心(おほみこころ)を慰(なぐさ)めむと、112尊(みこと)を思(おも)ふ真心(まごころ)より遥々(はるばる)此処(ここ)に百千万(ひやくせんまん)の艱苦(かんく)を冒(をか)し、113訪(たづ)ね来(きた)り給(たま)ひける。114河鹿(かじか)峠(たうげ)を乗(の)り越(こ)えて再(ふたた)び平野(へいや)を渉(わた)り、115ウブスナ山脈(さんみやく)に掛(かか)るが順路(じゆんろ)なり。116言依別(ことよりわけ)の一行(いつかう)は、117板(いた)を立(た)てたる如(ごと)き急坂(きふはん)を駒(こま)に跨(またが)り四人(よにん)連(づれ)、118ハイ、119ハイハイと手綱(たづな)引締(ひきし)め下(くだ)らせ給(たま)ふ折柄(をりから)に、120俄(にはか)に吹来(ふきく)るレコード破(やぶ)りの山嵐(やまあらし)に煽(あふ)られて、121馬(うま)諸共(もろとも)に河鹿(かじか)峠(たうげ)の千仭(せんじん)の谷間(たにま)に、122脆(もろ)くも墜落(つゐらく)し給(たま)ひ、123数多(あまた)の傷(きず)を負(お)はせ給(たま)ひ、124茲(ここ)に一行(いつかう)四人(よにん)連(づれ)、125河鹿(かじか)峠(たうげ)の谷底(たにそこ)に、126痛手(いたで)に悩(なや)み坤吟(しんぎん)し給(たま)ふこそ果敢(はか)なけれ。
127 此(この)谷間(たにま)は河鹿(かじか)の名所(めいしよ)なり。128河鹿(かじか)の声(こゑ)は遠近(をちこち)に床(ゆか)しく、129恰(あたか)も金鈴(きんれい)を振(ふ)るが如(ごと)く、130琴(こと)を弾(だん)ずるが如(ごと)く、131美妙(びめう)の音楽(おんがく)を天人(てんにん)天女(てんによ)の来(きた)りて奏(かな)づるかと疑(うたが)ふ許(ばか)りの雅趣(がしゆ)に充(み)ち居(ゐ)るなり。132言依別(ことよりわけ)一行(いつかう)は谷水(たにみづ)を掬(すく)ひ、133河鹿(かじか)の声(こゑ)を聞(き)き乍(なが)ら、134心(こころ)ゆく迄(まで)渇(かは)きし喉(のど)を癒(い)やさむとガブガブ嚥下(えんか)し給(たま)へば、135何時(いつ)とはなしに玉(たま)の緒(を)の行衛(ゆくゑ)は何処(いづく)と白浪(しらなみ)の谷(たに)の水音(みなおと)諸共(もろとも)に、136河鹿(かじか)の声(こゑ)に送(おく)られて消(き)え失(う)せ給(たま)ふぞ悲(かな)しけれ。
137 夢(ゆめ)とも分(わ)かず、138現(うつつ)とも弁(わきま)へ兼(か)ねし旅(たび)の空(そら)、139言依別(ことよりわけの)命(みこと)の一行(いつかう)は、140涼(すず)しき河鹿(かじか)の声(こゑ)に送(おく)られて夢路(ゆめぢ)を辿(たど)る心持(こころもち)、141風(かぜ)に吹(ふ)かるる木(こ)の葉(は)の如(ごと)く、142地(つち)を離(はな)れて中空(ちうくう)を五色(ごしき)の雲(くも)に包(つつ)まれつ、143東(ひがし)を指(さ)して風(かぜ)のまにまに出(い)で給(たま)ふ。
144 とある高山(かうざん)の麓(ふもと)の風景(ふうけい)最(もつと)も佳(よ)き大河(おほかは)の辺(ほとり)に、145一行(いつかう)の姿(すがた)は何時(いつ)の間(ま)にか下(お)ろされ居(ゐ)たり。
146言依別(ことよりわけ)『オー玉彦(たまひこ)、147神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の御舎(みあらか)は、148どの方面(はうめん)に当(あた)らうかなア。149此処(ここ)は河鹿(かじか)峠(たうげ)の山麓(さんろく)、150河鹿河(かじかがは)の岸辺(きしべ)と見(み)える。151暴風(ばうふう)に吹捲(ふきまく)られ、152吾(われ)等(ら)は脆(もろ)くも此(この)山麓(さんろく)に吹散(ふきち)らされ、153何(なん)となく一種(いつしゆ)不可思議(ふかしぎ)な心持(こころもち)になつて来(き)たが、154汝(なんぢ)等(ら)はどう考(かんが)へるか』
155玉彦(たまひこ)『仰(あふせ)の如(ごと)く河鹿(かじか)峠(たうげ)の烈風(れつぷう)に煽(あふ)られ、156千尋(ちひろ)の谷間(たにま)へ転落(てんらく)せしと思(おも)ふ間(ま)もなく、157風(かぜ)に木(こ)の葉(は)の散(ち)る如(ごと)き心地(ここち)し、158フワリフワリと魂(たま)は飛(と)んで大空(おほぞら)高(たか)く東(ひがし)を指(さ)して進(すす)み来(きた)りしよと見(み)る間(ま)に、159不思議(ふしぎ)や吾(われ)等(ら)一行(いつかう)の身(み)は、160名(な)も知(し)れぬ山(やま)の麓(ふもと)の風光(ふうくわう)明媚(めいび)の河縁(かはべり)に進(すす)んで来(き)たのです。161吾々(われわれ)が熟(つらつ)ら考(かんが)へまするに、162此処(ここ)は決(けつ)して河鹿(かじか)峠(たうげ)の谷間(たにま)ではありますまい、163自転倒(おのころ)島(じま)の中心点(ちうしんてん)の様(やう)に思(おも)はれます』
164厳彦(いづひこ)『さうだ、165玉彦(たまひこ)の言(い)ふ通(とほ)り合点(がてん)の行(ゆ)かぬ四辺(あたり)の光景(くわうけい)、166現界(げんかい)とは様子(やうす)が大変(たいへん)に違(ちが)つて居(ゐ)る様(やう)だ、167大方(おほかた)此処(ここ)は天国(てんごく)ではあるまいかいなア』
168楠彦(くすひこ)『たしかに天国(てんごく)に間違(まちがひ)ありませぬ、169迦陵(かりよう)頻迦(びんが)の数限(かずかぎ)りもなく、170アレあの通(とほり)に舞狂(まひくる)ふ有様(ありさま)、171吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)は美妙(びめう)の音楽(おんがく)を奏(そう)し、172空気(くうき)は何(なん)となく香(かん)ばしく梅花(ばいくわ)の香(かほ)りを交(まじ)へ、173見(み)るもの聞(き)く物(もの)一(いつ)として快感(くわいかん)を与(あた)へないものは御座(ござ)いませぬ。174……もしもし言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)、175御(お)案(あん)じなさいますな、176あなたの真心(まごころ)を大神(おほかみ)は御(お)見(み)ぬき遊(あそ)ばして、177斯(か)かる天国(てんごく)に導(みちび)き下(くだ)さつたのでせう』
178と語(かた)る折(をり)しも、179天空(てんくう)を轟(とどろ)かして一道(いちだう)の光明(くわうみやう)と共(とも)に天(あま)の磐船(いはふね)に乗(の)りて此(この)場(ば)に下(くだ)り来(く)る神人(しんじん)あり。180天(あま)の磐船(いはふね)は静(しづか)に一行(いつかう)が前(まへ)に舞下(まひくだ)りぬ。181金銀(きんぎん)珠玉(しゆぎよく)、182瑠璃(るり)、183硨磲(しやこ)、184瑪瑙(めなう)、185真珠(しんじゆ)、186珊瑚(さんご)等(とう)を以(もつ)て飾(かざ)られたる立派(りつぱ)なる御船(みふね)なりき。187翼(よく)を見(み)れば絹(きぬ)でもなければ、188毛(け)でもない、189一種(いつしゆ)異様(いやう)の柔(やはら)かき且(かつ)強(つよ)き織物(おりもの)にて造(つく)られてあり。190手(て)を伸(の)べて此(この)翼(よく)をスウツと撫(な)でる刹那(せつな)に、191得(え)も言(い)はれぬ美妙(びめう)の音響(おんきやう)が発(はつ)するなり。192玉彦(たまひこ)は右左(みぎひだり)に翼(よく)に張(は)り詰(つ)めたる織物(おりもの)を撫(な)で廻(まは)せば、193精巧(せいかう)なる蓄音機(ちくおんき)の円板(ゑんばん)の如(ごと)く、194種々(しゆじゆ)の美(うる)はしき音響(おんきやう)聞(きこ)え来(く)る。195此(この)時(とき)磐船(いはふね)の中(なか)より現(あら)はれ出(い)でたる八(はち)人(にん)の童子(どうじ)、196頭髪(とうはつ)は赤(あか)くして長(なが)く、197肩(かた)のあたりに小(ちい)さき翼(つばさ)あり、198歯(は)は濡烏(ぬれがらす)の如(ごと)く黒(くろ)く染(そ)め、199紅(べに)の唇(くちびる)、200緑(みどり)滴(したた)る眼容(まなざし)、201桃色(ももいろ)の頬(ほほ)に無限(むげん)の笑(ゑみ)を湛(たた)へ乍(なが)ら、202五六(ごろく)才(さい)と覚(おぼ)しき童子(どうじ)、203言依別(ことよりわけの)命(みこと)の前(まへ)に現(あら)はれ来(きた)り、204細(ほそ)き涼(すず)しき声(こゑ)にて、
205童子『貴下(きか)は瑞霊(みづのみたま)の分霊(わけみたま)、206常世(とこよ)の国(くに)に生(あ)れましし言依別(ことよりわけの)命(みこと)にましまさずや、207吾(われ)は高天原(たかあまはら)より大神(おほかみ)の命(めい)を奉(ほう)じ、208お迎(むか)へに来(きた)りし者(もの)、209サ、210サ、211早(はや)くこの船(ふね)に召(め)させ給(たま)へ』
212と言葉(ことば)を低(ひく)うし、213礼(れい)を厚(あつ)くして述(の)べ立(た)つるにぞ、214命(みこと)は何気(なにげ)なく此(この)美(うる)はしき船(ふね)に心(こころ)を奪(うば)はれ、215ツカツカと側(そば)に近付(ちかづ)き給(たま)ふよと見(み)る間(ま)に、216磐船(いはふね)の傍(かたはら)に装置(さうち)せる美(うる)はしき翼(つばさ)、217命(みこと)の身体(しんたい)を包(つつ)みて御船(みふね)の中(なか)に入(い)れ奉(たてまつ)りけり。218忽(たちま)ち美妙(びめう)の音響(おんきやう)轟(とどろ)き渡(わた)ると見(み)る間(ま)に、219磐船(いはふね)は地上(ちじやう)を離(はな)れ、220ゆるやかに円(ゑん)を描(ゑが)きつつ空中(くうちう)に上(のぼ)り行(ゆ)く。221三(さん)人(にん)は突然(とつぜん)の此(この)出来事(できごと)に呆然(ばうぜん)として空(そら)を見上(みあ)ぐるのみなりき。222磐船(いはふね)は空中(くうちう)高(たか)く舞上(まひあが)り、223船首(せんしゆ)を転(てん)じ、224中空(ちうくう)に帯(おび)の如(ごと)き火線(くわせん)を印(しる)し乍(なが)ら、225月(つき)の光(ひかり)を目当(めあて)に悠々(いういう)と進(すす)み、226遂(つひ)には其(その)姿(すがた)も全(まつた)く目(め)に止(とま)らずなりにけり。
227玉彦(たまひこ)『常世(とこよ)の国(くに)から遥々(はるばる)と、228塩(しほ)の八百路(やほぢ)を渡(わた)り、229あらゆる艱難(かんなん)と戦(たたか)ひ、230雨風(あめかぜ)に曝(さら)され、231汗(あせ)と涙(なみだ)でフサの都(みやこ)に到着(たうちやく)し、232日(ひ)の出別(でわけ)の神(かみ)様(さま)のお情(なさけ)深(ぶか)いお詞(ことば)に、233旅(たび)の疲(つか)れもスツカリ忘(わす)れ果(は)て、234河鹿(かじか)峠(たうげ)の絶頂(ぜつちやう)に辿(たど)り着(つ)いて四方(よも)の風景(ふうけい)を眺(なが)めた時(とき)の愉快(ゆくわい)さは、235何(なん)ともかとも譬(たと)へ方(かた)がなかつた。236それより板壁(いたかべ)の如(ごと)き峻坂(しゆんぱん)を駒(こま)に跨(またが)つて下(くだ)つた時(とき)の心持(こころもち)は、237全然(まるきり)地獄道(ぢごくだう)の一足飛(いつそくとび)でもする様(やう)な煩悶(はんもん)と驚異(きやうい)に充(み)たされ、238心(こころ)の中(なか)に神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し、239やがて慕(した)ひ奉(まつ)る神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)に拝謁(はいえつ)が得(え)られる事(こと)だと、240一歩(いつぽ)一歩(いつぽ)苦痛(くつう)を忘(わす)れ楽(たの)しみ進(すす)む折(をり)しも、241俄(にはか)に吹(ふ)き来(く)る山嵐(やまあらし)に煽(あふ)られ、242身(み)は千仭(せんじん)の谷間(たにま)に落(お)ちて粉砕(ふんさい)したと思(おも)へば、243豈(あに)図(はか)らむや通力(つうりき)自在(じざい)の空中(くうちう)飛行(ひかう)、244心(こころ)イソイソ風雲(ふううん)に任(まか)す折(をり)しも、245思(おも)ひきや、246斯(か)かる美(うる)はしき川(かは)べりに下(お)ろされた。247どう考(かんが)へても此処(ここ)は現界(げんかい)ではあるまい、248ヤレ嬉(うれ)しやと思(おも)ふ間(ま)もなく、249力(ちから)に思(おも)ふ言依別(ことよりわけの)命(みこと)は、250神(かみ)の迎(むか)への船(ふね)に乗(の)りて、251中空(ちうくう)高(たか)く月(つき)の御国(みくに)へ御(お)上(のぼ)り遊(あそ)ばした時(とき)の嬉(うれ)しき、252悲(かな)しき、253非喜(ひき)交々(こもごも)混(まじ)る吾(われ)等(ら)が胸(むね)の中(うち)、254アヽどうしたら宜(よ)からうか』
255厳彦(いづひこ)『何事(なにごと)も神(かみ)のまにまにお任(まか)せするより仕方(しかた)がない、256言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)は荘厳(さうごん)極(きは)まりなき天国(てんごく)に上(のぼ)られ、257大神(おほかみ)の右(みぎ)に座(ざ)し、258地上(ちじやう)の経綸(けいりん)を言問(ことと)はせ給(たま)ふお役(やく)と見(み)える。259吾々(われわれ)は最早(もはや)言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)の事(こと)は断念(だんねん)して、260足(あし)の続(つづ)く限(かぎ)り進(すす)まうではないか、261ナア楠彦(くすひこ)サン』
262楠彦(くすひこ)『左様(さやう)で御座(ござ)います、263それにつけても、264何(なん)とした気分(きぶん)の良(よ)い所(ところ)でせう。265何(なん)だか気(き)がイソイソとして腰(こし)を下(お)ろして休(やす)む気(き)にもなりませぬ、266サア早(はや)く前進(ぜんしん)致(いた)しませう』
267と先(さき)に立(た)ちて歩(あゆ)み出(だ)した。268浅(あさ)き広(ひろ)き大河(おほかは)は水晶(すゐしやう)の水(みづ)ゆるやかに流(なが)れて居(ゐ)る。269三(さん)人(にん)は、
270三人『アヽナント綺麗(きれい)な水(みづ)だナア、271是(こ)れが生命(いのち)の真清水(ましみづ)であらう。272……どうでせう、273一杯(いつぱい)手(て)に掬(すく)つて頂(いただ)きませうか。274身体(しんたい)の各所(かくしよ)に沢山(たくさん)の、275各自(めいめい)傷(きず)を負(お)うて居(ゐ)ますれば、276あの河中(かはなか)に浸(ひた)つて見(み)れば、277この疼痛(いたみ)も癒(い)えるかも知(し)れませぬぜ』
278と堤(つつみ)をゆるゆる下(くだ)り、279真裸(まつぱだか)となつて河(かは)にザンブと飛込(とびこ)んだ。280清(きよ)き流(なが)れの河水(かはみづ)は、281河底(かはぞこ)の金銀色(きんぎんしよく)の砂利(じやり)、282日光(につくわう)に映(えい)じてきらめき亘(わた)る其(その)美(うる)はしさ、283三(さん)人(にん)は河(かは)の中央(まんなか)にどつかと坐(すわ)つた。284深(ふか)さは坐(すわ)つて乳(ちち)の辺(あた)りまでよりない。285水(みづ)の流(なが)れは緩(ゆる)やかに、286冷(つめた)からず、287ぬるからず、288水(みづ)は名香(めいかう)を薫(くん)ずるが如(ごと)く、289味(あぢ)は甘露(かんろ)の如(ごと)く、290身体(しんたい)の傷(きず)は忽(たちま)ち癒(い)えて、291肌(はだ)は紫摩(しま)黄金(わうごん)の色(いろ)と変(へん)じ、292荒(あら)くれ男(をとこ)の肉体(にくたい)は淡雪(あはゆき)の如(ごと)く柔(やはら)かく、293光(ひかり)を放(はな)つに至(いた)つた。294三(さん)人(にん)は暫(しばら)くにして此(この)川(かは)を上(あが)り、295衣服(いふく)を着替(きか)へむとした。296不思議(ふしぎ)や三(さん)人(にん)の衣服(いふく)は得(え)も言(い)はれぬ鮮花色(せんくわしよく)に変(へん)じて居(ゐ)る。
297玉彦(たまひこ)『ヤア何時(いつ)の間(ま)にか吾輩(わがはい)の御(ご)着衣(ちやくい)を失敬(しつけい)しよつたな』
298と其処(そこ)をウロウロと探(さが)して居(ゐ)る。
299楠彦(くすひこ)『オー此処(ここ)に綺麗(きれい)な衣服(いふく)が脱(ぬ)いである。300恰度(ちやうど)三組(みくみ)だ、301これを着服(ちやくふく)したらどうだらうなア』
302厳彦(いづひこ)『ヤア止(お)け止(お)け、303是(こ)れは天人(てんにん)の羽衣(はごろも)だ。304ウツカリコンナ物(もの)を着(き)やうものなら、305それこそ折角(せつかく)の天国(てんごく)へ来(き)た喜悦(よろこび)は忽(たちま)ち変(へん)じて地獄道(ぢごくだう)の苦(くるし)みに早替(はやがは)りするかも知(し)れない、306……エ何事(なにごと)も惟神(かむながら)に任(まか)せて裸(はだか)のまま進(すす)む事(こと)にせう。307風(かぜ)暖(あたた)かく、308肌具合(はだぐあひ)は良(よ)し、309此(この)儘(まま)に進(すす)まうではないか』
310玉彦(たまひこ)『ヨー此(この)着物(きもの)には、311何(なん)だか印(しるし)が附(つ)いて居(ゐ)るぞ』
312と手(て)に取上(とりあ)げ眺(なが)むれば、313玉彦(たまひこ)の衣(ころも)と印(しる)してある。
314玉彦(たまひこ)『ヤア此(こ)れは妙(めう)だ、315何時(いつ)の間(ま)にか、316吾輩(わがはい)の汗(あせ)に滲(にじ)んだ衣裳(いしやう)と、317コンナ新(あたら)しい美(うる)はしい衣裳(いしやう)と交換(かうくわん)した奴(やつ)があると見(み)えるワイ、318……ヨウヨウ是(こ)れには、319楠彦(くすひこ)、320厳彦(いづひこ)と印(しる)してある、321……吁(あゝ)、322天国(てんごく)の泥棒(どろばう)は変(かは)つた者(もの)だなア、323サツパリ娑婆(しやば)とは逆様(さかさま)だ。324娑婆(しやば)に居(ゐ)る時(とき)には、325自分(じぶん)の履(は)き古(ふる)した足駄(あしだ)と他人(ひと)の新(あたら)しい足駄(あしだ)と、326黙(だま)つて交換(かうくわん)する奴(やつ)許(ばか)りだが、327天国(てんごく)は又(また)趣(おもむき)が違(ちが)うワイ』
328厳彦(いづひこ)『そら、329そうだらうよ、330天国(てんごく)にはコンナ汚(きたな)い物(もの)は珍(めづ)らしいから、331高天原(たかあまはら)の徴古館(ちようこくわん)へでも飾(かざ)る積(つも)りで、332吾々(われわれ)が河中(かちう)に現(うつつ)をぬかしてる間(ま)に、333泥棒(どろばう)が取(と)つ換(か)へこを仕(し)よつたのだらう、334本当(ほんたう)に油断(ゆだん)のならぬ世(よ)の中(なか)だ。335天国(てんごく)へ来(き)てもやつぱり元(もと)は人間(にんげん)の霊(れい)が来(く)るのだから、336泥棒(どろばう)根性(こんじやう)は失(う)せぬと見(み)えるワイ、337アハヽヽヽ』
338楠彦(くすひこ)『ヤアナント軽(かる)い着物(きもの)だナア、339此(こ)れを着(き)ると、340体(からだ)も軽(かる)くなつて、341天(てん)へでも自然(しぜん)に舞上(まひあが)りさうだ。342身軽(みがる)になつたのは、343気分(きぶん)の好(よ)いものだなア』
344玉彦(たまひこ)『定(き)まつた事(こと)だよ、345幽霊(いうれい)の体(からだ)は軽(かる)いものだ。346此(この)美(うる)はしい着物(きもの)を着(き)たが最後(さいご)、347現世(うつしよ)の衣(きぬ)を脱(ぬ)いで、348神界(しんかい)の羽衣(はごろも)と着替(きか)へたのだから、349再(ふたた)び恋(こひ)しき娑婆(しやば)へ帰(かへ)れない事(こと)は請合(うけあひ)だ』
350厳彦(いづひこ)『娑婆(しやば)だつて、351神界(しんかい)だつて構(かま)はぬぢやないか、352兎(と)も角(かく)、353神(かみ)様(さま)の為(ため)に働(はたら)ける丈(だけ)働(はたら)けば、354吾々(われわれ)は人生(じんせい)の本分(ほんぶん)が尽(つく)せるのだ。355サアサア行(ゆ)かう、356……ヤア体(からだ)も足(あし)も滅法界(めつぽふかい)に軽(かる)くなつた。357アア気分(きぶん)も何(なん)となく、358爽々(さやさや)として来(き)た。359神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し乍(なが)ら、360往(ゆ)く所(とこ)まで行(ゆ)かうかい』
361と厳彦(いづひこ)は先(さき)に立(た)つて進(すす)み出(だ)した。362前方(ぜんぱう)より頭髪(とうはつ)漆(うるし)の如(ごと)く黒(くろ)く、363光沢(くわうたく)豊(ゆたか)に、364身(み)の丈(たけ)は六(ろく)尺(しやく)許(ばか)り眉目(びもく)清秀(せいしう)の一(いち)神人(しんじん)、365数多(あまた)の美(うる)はしき鳥(とり)を数百羽(すうひやくぱ)引(ひ)きつれ、366金(きん)の杖(つゑ)を持(も)つて指揮(しき)し乍(なが)ら此方(こなた)に向(むか)つて進(すす)み来(く)る。
367玉彦(たまひこ)『ヤ、368何(な)ンと綺麗(きれい)な鳥(とり)が居(を)るではないか、369到底(たうてい)現界(げんかい)では、370見(み)られない、371美(うる)はしいものだ』
372 かく言(い)ふ中(うち)、373件(くだん)の男(をとこ)は一足(ひとあし)一足(ひとあし)近付(ちかづ)き、374三(さん)人(にん)を見(み)て、
375男『ヤアあなたは高天原(たかあまはら)へ御(ご)参詣(さんけい)ですか』
376と笑顔(ゑがほ)を以(もつ)て、377言葉(ことば)優(やさ)しく問(と)ひかけた。
378 三(さん)人(にん)は声(こゑ)を揃(そろ)へて、
379三人『ハイ、380不思議(ふしぎ)の事(こと)で、381吾々(われわれ)は斯様(こん)な立派(りつぱ)な国(くに)へ思(おも)はず参(まゐ)りました。382高天原(たかあまはら)は何方(どちら)を指(さ)して行(ゆ)けば宜(よろ)しいでせうか』
383男(をとこ)(松彦)『マア急(いそ)ぐ旅(たび)でもなし、384この美(うる)はしい草(くさ)の上(うへ)で、385皆(みな)サンゆつくりと休息(きうそく)を致(いた)しませうか、386吾々(われわれ)は言依別(ことよりわけ)の命様(みことさま)の命(めい)に依(よ)り、387あなた方(がた)三(さん)人(にん)の方(かた)をお迎(むか)へに参(まゐ)りました』
388玉彦(たまひこ)『エー、389ナント仰有(おつしや)います、390言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)は、391最早(もはや)高天原(たかあまはら)へお着(つ)きになりましたか、392それやマアどうした事(こと)で、393そう早(はや)くお着(つ)きになつたでせう……ハテ……合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)だワイ』
394男(をとこ)(松彦)『神界(しんかい)には時間(じかん)空間(くうかん)は有(あ)りませぬ、395仮令(たとへ)幾億万(いくおくまん)里(り)と雖(いへど)も、396一息(ひといき)の間(うち)に往復(わうふく)が出来(でき)ます、397それが即(すなは)ち神界(しんかい)の特長(とくちやう)で御座(ござ)いませう。398アハヽヽヽ』
399 茲(ここ)に四(よ)人(にん)は美(うる)はしき花毛氈(はなまうせん)を敷(し)き詰(つ)めた様(やう)な河辺(かはべり)の芝生(しばふ)に腰(こし)うち掛(か)け、400脚(あし)を伸(の)ばして種々(いろいろ)の話(はなし)に耽(ふけ)るのであつた。401風(かぜ)は音調(おんてう)淑(しと)やかなる笛(ふえ)を吹(ふ)いて、402河(かは)の面(おも)をよぎつて居(ゐ)る。403魚鱗(ぎよりん)の波(なみ)は金色(こんじき)の光(ひかり)を放(はな)ち、404風(かぜ)に連(つ)れて河下(かはしも)より河上(かはかみ)に流(なが)れ行(ゆ)く様(やう)に見(み)えて居(ゐ)る。405数多(あまた)の美(うる)はしき鳥(とり)を熟視(じゆくし)すれば、406人(ひと)の顔(かほ)に翼(つばさ)の生(は)えたかつかう鳥(どり)の様(やう)なものばかり、407妙(めう)な声(こゑ)を出(だ)して呟(つぶや)き出(だ)した。
408厳彦(いづひこ)『モシモシ神界(しんかい)と云(い)ふ所(ところ)は、409総(すべて)の物(もの)が変(かは)つて居(ゐ)ますな、410此(この)鳥(とり)は又(また)何(なん)として人間(にんげん)に似(に)て居(ゐ)るのでせうか』
411男(をとこ)(松彦)『イヤ是(こ)れは人鳥(にんてう)と言(い)ひます、412高天原(たかあまはら)の玩弄物(おもちや)になつたり、413或(あるひ)はお使(つかひ)をするものですが、414もとはヤハリ現界(げんかい)に居(を)つて、415高(たか)い所(ところ)へ上(あが)つて訳(わけ)の分(わか)らぬことを囀(さへづ)り、416バカセだとか、417何(なん)とか云(い)ふ保護色(ほごしよく)や、418長(なが)い嘴(くちばし)を使(つか)つて人間(にんげん)の頭(あたま)をこついた報(むく)いで、419コンナ者(もの)に変化(へんくわ)して了(しま)つたのですよ、420今年(こんねん)も殆(ほとん)ど三千(さんぜん)八百(はつぴやく)羽(ぱ)幽界(いうかい)から輸入(ゆにふ)して来(き)ました。421みな言語(げんご)は明瞭(めいれう)ではありませぬが、422各自(めいめい)に小賢(こざか)しい事(こと)を喋(しやべ)る怪鳥(くわいてう)ですよ』
423厳彦(いづひこ)『そうすると是(こ)れは神界(しんかい)、424天国(てんごく)の産物(さんぶつ)ではありませぬか』
425男(をとこ)(松彦)『無論(むろん)の事(こと)、426コンナ畸形児(きけいじ)的(てき)鳥類(てうるゐ)は、427神界(しんかい)には一羽(いちは)も有(あ)りませぬ。428此(こ)れは要(えう)するに閻魔(えんま)の庁(ちやう)より、429高天原(たかあまはら)には珍(めづ)らしいと云(い)つて、430神界(しんかい)のお慰(なぐさ)みの為(ため)に、431輸入(ゆにふ)されたものです、432言(い)はば、433舶来(はくらい)ですな。434アハヽヽヽ』
435厳彦(いづひこ)『兎(と)も角(かく)も妙(めう)なものだ、436此奴(こいつ)等(ら)は娑婆(しやば)に居(を)る時(とき)には、437自由(じいう)恋愛(れんあい)だとか、438共和(きようわ)だとか、439民衆(みんしう)だとか何(なん)とか言(い)つて、440沢山(たくさん)な娑婆(しやば)の亡者(まうじや)を煽動(せんどう)した何々長(なになにちやう)とか云(い)ふ怪鳥(くわいてう)でせう。441併(しか)し此(この)綺麗(きれい)な天国(てんごく)浄土(じやうど)に糞(ふん)をひりさがされては、442又(また)もや娑婆(しやば)の様(やう)になりはしますまいかなア』
443男(をとこ)(松彦)『イヤ大丈夫(だいぢやうぶ)です、444此奴(こいつ)の尻(しり)は最早(もはや)糞詰(ふんづま)りですから……娑婆(しやば)に居(を)る時(とき)には、445何事(なにごと)も知(し)つて知(し)つて尻(しり)抜(ぬ)いた様(やう)な事(こと)を言(い)つて、446長(なが)い嘴(くちばし)を振(ふ)りまはし、447囀(さへづ)つては喰(く)つて居(ゐ)ましたが、448モウ娑婆(しやば)でも此(この)嘴(くちばし)が間(ま)に合(あ)はなくなつて口(くち)は詰(つま)り、449尻(しり)は塞(ふさ)がり、450行詰(ゆきつま)りの悲境(ひきやう)に陥(おちい)つてる代物(しろもの)です。451娑婆(しやば)でもあまり喰(く)へないので、452糞(ふん)をこく種(たね)もなし、453清潔(きれい)なものですよ』
454厳彦(いづひこ)『ソンナ話(はなし)を聞(き)くと、455吾々(われわれ)も生物識(なまものしり)の聞噛(ききか)じり学問(がくもん)をやつて来(き)たが、456コンナ事(こと)になると思(おも)へば、457ガツクリして胸(むね)も学々(がくがく)致(いた)しますワ、458アハヽヽヽ』
459玉彦(たまひこ)『一寸(ちよつと)此(この)鳥(とり)に物言(ものい)はして見(み)て下(くだ)さいな』
460男(をとこ)(松彦)『ナンダか言語(げんご)が通(つう)じ難(がた)いから、461聞取(ききと)れますまい、462此奴(こいつ)は金鳥(きんてう)と云(い)ひ、463此奴(こいつ)は銀鳥(ぎんてう)と云(い)ひます。464娑婆(しやば)で、465椅子(いす)とか云(い)ふ木(き)に巣(す)を作(つく)り、466月給(げつきふ)々々(げつきふ)と鳴(な)いたり、467ホーホー俸給(ほうきふ)々々(ほうきふ)と囀(さへづ)つて居(を)つた鳥(とり)ださうです。468此(この)天国(てんごく)へ輸入(ゆにふ)されてからと云(い)ふものは、469何(なん)だか鼠(ねずみ)の病人(びやうにん)の様(やう)にキウ窮(きう)と囀(さへづ)つて居(ゐ)ます』
470 数多(あまた)の人鳥(にんてう)は、471キウ窮(きう)、472クウ苦々(くく)と鳴(な)き乍(なが)ら、473家鴨(あひる)の様(やう)に河(かは)にバサバサと飛(と)び込(こ)み心地(ここち)よげにかいつぶりの真似(まね)をして、474浮(う)きつ沈(しづ)みつ戯(たはむ)れて居(ゐ)る。
475楠彦(くすひこ)『ナント天国(てんごく)も変(かは)つたものですな、476迦陵(かりよう)頻迦(びんが)の名鳥(めいてう)が沢山(たくさん)居(ゐ)ると聞(き)きましたが、477其(その)様(やう)な鳥(とり)は余(あま)り見当(みあた)らないぢやありませぬか』
478男(をとこ)(松彦)『其(その)鳥(とり)は高天原(たかあまはら)を中心(ちうしん)として、479十(じふ)里(り)四方(しはう)の区域(くゐき)に限(かぎ)つて住(す)んで居(ゐ)ます。480此(この)辺(へん)は要(えう)するに準天国(じゆんてんごく)と云(い)つても宜(よ)い様(やう)な所(ところ)ですよ、481まだまだ此(この)先(さき)へお進(すす)みになれば、482立派(りつぱ)な所(ところ)があります。483……私(わたくし)はウツカリとネームを申上(まをしあ)げるのを忘(わす)れて居(ゐ)ましたが、484実(じつ)は高天原(たかあまはら)の使(つかひ)松彦(まつひこ)と申(まを)す者(もの)、485昔(むかし)はヱルサレムに於(おい)て、486言霊別(ことたまわけの)命(みこと)にお仕(つか)へ致(いた)した事(こと)のある言代別(ことしろわけ)で御座(ござ)います』
487楠彦(くすひこ)『ヤア昔語(むかしがたり)に聞(き)いて居(を)つた言代別(ことしろわけ)はあなたの事(こと)ですか、488ヤアこれはこれは妙(めう)な所(ところ)でお目(め)に掛(か)かりました』
489松彦(まつひこ)『然(しか)らば御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
490と先(さき)に立(た)つて行(ゆ)かむとする。
491玉彦(たまひこ)『もしもし松彦(まつひこ)様(さま)、492あの沢山(たくさん)な鳥(とり)は、493連(つ)れてお帰(かへ)りになりませぬか』
494松彦(まつひこ)『折角(せつかく)閻魔(えんま)の庁(ちやう)より輸入(ゆにふ)されたものですが、495十(じふ)里(り)四方(しはう)の内(うち)には置(お)く事(こと)が出来(でき)ないと大神(おほかみ)様(さま)の厳命(げんめい)に依(よ)りて、496十(じふ)里(り)圏外(けんぐわい)に送(おく)り出(だ)して来(き)ました。497……あの様(やう)な鳥族(てうぞく)には少(すこ)しも執着心(しふちやくしん)はありませぬ、498どうなつと勝手(かつて)に方針(はうしん)を立(た)てるでせう』
499と足(あし)をはづませ、500飛鳥(ひてう)の如(ごと)くに進(すす)み行(ゆ)く。501三(さん)人(にん)も何(なん)となく足許(あしもと)軽(かる)く、502飛(と)び立(た)つ如(ごと)くに追跡(つゐせき)する。503一時(ひととき)許(ばか)り歩(ある)いたと思(おも)ふ頃(ころ)、504ピタリと岸壁(がんぺき)に行当(ゆきあた)つた。505此(この)岩(いは)は鏡(かがみ)の岩(いは)と云(い)つて、506浄玻璃(じやうはり)の鏡(かがみ)の如(ごと)くに光(ひか)り輝(かがや)き、507日光(につくわう)鏡面(きやうめん)に映(えい)じて、508得(え)も云(い)はれぬ美(うる)はしさ、509一行(いつかう)の姿(すがた)は鏡(かがみ)に隈(くま)なく映(うつ)つた。510見(み)れば自分(じぶん)の背後(うしろ)に五色(ごしき)の霊衣(れいい)現(あら)はれ、511優美(いうび)にして、512気品(きひん)高(たか)き女神(めがみ)が現(あら)はれて居(ゐ)る。513三(さん)人(にん)は思(おも)はず合掌(がつしやう)した。
514松彦(まつひこ)『此処(ここ)が鏡(かがみ)の岩(いは)です。515大抵(たいてい)の者(もの)は此処(ここ)へ来(きた)りて、516後(あと)へ引返(ひきかへ)す者(もの)が多(おほ)いですよ。517天国(てんごく)にも上中下(じやうちうげ)と三段(さんだん)の区劃(くくわく)があります。518此(この)鏡(かがみ)を無事(ぶじ)に通過(つうくわ)すれば、519最上(さいじやう)の天国(てんごく)です。520此(この)鏡(かがみ)さへ突破(とつぱ)すれば、521モウ占(し)めたものです』
522玉彦(たまひこ)『アー、523それは有難(ありがた)う御座(ござ)いました。524併(しか)し乍(なが)ら吾々(われわれ)は、525第二(だいに)の天国(てんごく)を何時(いつ)の間(ま)に通過(つうくわ)したのですか、526まさか途中(とちう)で天国(てんごく)の移転(いてん)と云(い)ふ様(やう)な事(こと)もありますまいが……』
527松彦(まつひこ)『あなた方(がた)は、528言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)のお蔭(かげ)に依(よ)りて、529第三(だいさん)の天国(てんごく)は抜(ぬ)きにし、530第二(だいに)の天国(てんごく)へ直接(ちよくせつ)お下(お)りになつたのです。531夫(そ)れも第二(だいに)天国(てんごく)の殆(ほとん)ど終点(しうてん)ですから、532大(たい)したものですお喜(よろこ)びなさいませ』
533三(さん)人(にん)『身分(みぶん)に過(す)ぎたる有難(ありがた)き神(かみ)様(さま)の御(ご)待遇(たいぐう)、534恐縮(きようしゆく)の至(いた)りだ、535………此(この)鏡岩(かがみいは)をどうして突破(とつぱ)すれば可(い)いでせうか』
536松彦(まつひこ)『是(これ)より以内(いない)は宮(みや)の内(うち)、537此(この)鏡岩(かがみいは)は外囲(そとがこひ)です、538これを突破(とつぱ)しなくては、539最上(さいじやう)天国(てんごく)へ進(すす)む事(こと)は出来(でき)ませぬ。540神界(しんかい)に於(おい)ても、541斯(こ)う云(い)ふ一(ひと)つの苦(くる)しみがありますワイ。542吾々(われわれ)は幾度(いくたび)も此処(ここ)を往復(わうふく)致(いた)して居(を)りますから、543勝手(かつて)も分(わか)つて居(を)りますが、544あなた方(がた)は始(はじ)めての事(こと)各自(めいめい)に心(こころ)をお開(ひら)きになれば、545自然(しぜん)に此(この)鏡岩(かがみいは)の通過(つうくわ)が叶(かな)ひます。546神界(しんかい)の厳(きび)しき警告(いましめ)に依(よ)りて、547此(この)事(こと)ばかりは御(お)教(をし)へ申(まを)す事(こと)は出来(でき)ませぬ、548是(こ)れが神界(しんかい)の関門(くわんもん)、549霊(みたま)の試金石(しきんせき)ですよ』
550 三(さん)人(にん)は、
551三人『ハテナア』
552と双手(もろて)を組(く)み、553首(くび)を項低(うなだれ)る。
554(大正一一・四・四 旧三・八 松村真澄録)
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