霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 窟(いはや)の酒宴(しゆえん)〔五八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第3篇 神山霊水 よみ(新仮名遣い):しんざんれいすい
章:第17章 窟の酒宴 よみ(新仮名遣い):いわやのしゅえん 通し章番号:584
口述日: 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
岩窟の中に館があり、高姫、黒姫、蠑螈別を始めとするウラナイ教の信徒たちが酒宴を張っている。
黒姫は、池に投げ込んでおいた二人の女(岸子姫と岩子姫)を連れてきて、芸をさせて慰みものにしようと案を出す。丁ン助と久助は、二人を池から連れてこようとするが、池のほとりには三男六女の宣伝使たちが立っていた。
丁ン助と久助は恐れをなしてへたり込んでしまう。亀彦が二人を怒鳴りつけると、二人は逃げ出してしまった。
丁ン助と久助が、宣伝使たちがやってきたことを知らせると、館の門前に宣伝歌が響いてきた。高姫、黒姫、蠑螈別らウラナイ教の一同はたちまち苦しみを覚えてその場に倒れてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-16 02:16:46 文字数:3861 OBC :rm1517
愛善世界社版:219頁 八幡書店版:第3輯 361頁 修補版: 校定版:208頁 普及版:100頁 初版: ページ備考:
001 四面(しめん)岩壁(がんぺき)を以(もつ)て包(つつ)まれたる広(ひろ)き館(やかた)の内(うち)には糸竹(しちく)管絃(くわんげん)の響(ひびき)爽(さはや)かに、002飲(の)めよ、003騒(さわ)げの大乱舞(だいらんぶ)が行(おこな)はれて居(ゐ)る。004ずつと見渡(みわた)せば中央(ちうあう)に黎牛(やく)の皮(かは)を幾枚(いくまい)とも無(な)く積(つ)み重(かさ)ね、005其(その)上(うへ)に見(み)るも憎(にく)さうなる面構(つらがま)への蠑螈別(いもりわけ)は数多(あまた)の男女(だんぢよ)に酌(しやく)をさせ乍(なが)ら、006墨(すみ)の様(やう)な黒(くろ)き酒(さけ)をグビリグビリと傾(かたむ)けて居(ゐ)る。007数十(すうじふ)人(にん)の男女(だんぢよ)は何(いづ)れも一癖(ひとくせ)あるらしき面構(つらがま)へ、008けいを敲(たた)く、009笛(ふえ)を吹(ふ)く、010弓弦(ゆみづる)を弾(だん)ずる、011石(いし)と石(いし)とを打(う)ち乍(なが)ら真裸(まつぱだか)の儘(まま)踊(をど)り狂(くる)うて居(ゐ)る、012恰(あたか)も百鬼(ひやくき)昼行(ちうかう)の有様(ありさま)である。
013蠑螈別(いもりわけ)『ヤア大変(たいへん)に酔(ゑい)がまわつた。014如何(どう)だ、015皆(みな)の者共(ものども)、016一(ひと)つ何(なに)か面白(おもしろ)い芸当(げいたう)をやつて呉(く)れないか』
017黒姫(くろひめ)『さアさア皆(みな)サン、018これから須佐之男(すさのをの)尊(みこと)征伐(せいばつ)の芝居(しばゐ)をやりませう。019丁(ちよ)ン助(すけ)サン、020お前(まへ)が須佐之男(すさのをの)尊(みこと)になるのだよ、021黒姫(くろひめ)がお前(まへ)の髭(ひげ)をむしる役(やく)、022高姫(たかひめ)さまは手足(てあし)の爪(つめ)を脱(ぬ)く役(やく)だよ』
023丁(ちよ)ン助(すけ)『エーエ、024滅相(めつさう)な、025誰(たれ)がソンナ役(やく)になりませうか、026爪(つめ)を抜(ぬ)かれる様(やう)な悪(わる)い事(こと)は根(ね)つからした覚(おぼ)えが御座(ござ)いませぬ』
027黒姫(くろひめ)『吐(ぬか)すな吐(ぬか)すな、028貴様(きさま)は爪(つめ)に火(ひ)を点(とぼ)して吝(けち)な事(こと)許(ばか)り考(かんが)へ、029人(ひと)を苦(くる)しめる奴(やつ)だ、030鷹(たか)の様(やう)に爪(つめ)の長(なが)い代物(しろもの)だ、031喰(く)ひつめ者(もの)だ、032如何(どう)でも斯(こ)うでも此(この)婆(ばば)がつめかけて抜(ぬ)いてやらねば措(を)くものかいヤイ』
033丁(ちよ)ン助(すけ)『爪(つめ)の長(なが)いのは、034それやお前(まへ)サンの事(こと)だないか。035一途(いちづ)の川辺(かはべ)で往来(わうらい)の旅人(たびびと)を嚇(おどか)して肝腎(かんじん)の身魂(みたま)を引(ひ)きぬく欲婆(よくば)アサンだ。036お前(まへ)サンから爪(つめ)を抜(ぬ)きなさい』
037黒姫(くろひめ)『能(よ)うツベコベと理窟(りくつ)を言(い)ふ丁(ちよ)ン助(すけ)だナア、038エーエ憎(にく)らしい、039頬辺(ほつぺた)なと抓(つ)めつてやらうか』
040と鷹(たか)の様(やう)な鋭利(えいり)な爪(つめ)で丁(ちよ)ン助(すけ)の頬(ほほ)をグツト捻(ねぢ)る。
041丁ン助『イヽヽヽ痛(いた)い哩(わい)痛(いた)い哩(わい)、042放(はな)サンかい』
043黒姫(くろひめ)『放(はな)さぬ放(はな)さぬ、044神(かみ)が爪(つめ)を掛(かけ)たら、045いつかないつかな放(はな)しはせぬぞ。046話(はな)すのは庚申(かうしん)待(ま)ちの晩(ばん)だ、047人(ひと)の難儀(なんぎ)は見(み)ざる、048聞(き)かざる、049言(い)はざるの苦労人(くらうにん)の黒姫(くろひめ)だ。050尻(けつ)なつと喰(くら)ふとけ、051苦労(くらう)知(し)らずの真黒(まつくろ)々助(くろすけ)の丁(ちよ)ン助(すけ)奴(め)が』
052丁(ちよ)ン助(すけ)『ヤアヤア、053婆(ば)アサン、054ヒヽヽヽひどい哩(わい)、055ソヽヽヽそれや余(あんま)りぢや、056頬辺(ほうぺた)がチヽヽヽちぎれる哩(わい)』
057黒姫(くろひめ)『チヽヽヽちつとは痛(いた)からう、058血(ち)の出(で)るとこ迄(まで)、059いや頬(ほう)がちぎれるとこ迄(まで)、060いつかないつかな放(はな)しやせぬぞや。061チンチクリンのチンピラ奴(やつこ)、062ちつとは正念(しやうねん)が行(い)つたか、063貴様(きさま)は又(また)してもウラナイ教(けう)の裏(うら)をかく奴(やつ)ぢや。064今(いま)にひよつとして三五教(あななひけう)の奴(やつ)が出(で)て来(き)よつたならば、065直(すぐ)に黒(くろ)い黒(くろ)い燕(つばめ)の様(やう)に燕返(つばめがへ)しの早業(はやわざ)をやる代物(しろもの)だ。066この黒姫(くろひめ)が黒(くろ)い目(め)でグツと睨(にら)んだら違(ちが)ひはせぬぞや』
067丁(ちよ)ン助(すけ)『もしもし高姫(たかひめ)さま、068ちつと挨拶(あいさつ)して下(くだ)さいな』
069高姫(たかひめ)『マアマア十万(じふまん)億土(おくど)の成敗(せいばい)の事(こと)思(おも)へば磯(いそ)の様(やう)なものだ。070お前(まへ)の将来(しやうらい)のためだよ、071もつともつと黒姫(くろひめ)さま、072首(くび)の脱(ぬ)ける処(ところ)まで捻(ひね)つてやりなさい、073アーア一人(ひとり)の男(をとこ)を悪(あく)の道(みち)に引(ひ)き入(い)れ様(やう)と思(おも)へば骨(ほね)の折(を)れる事(こと)だワイ。074もしもし大広木(おほひろき)正宗(まさむね)さま、075何(なに)して御座(ござ)る、076酒(さけ)ばつかりあふつて居(を)らずに、077ちつとお前(まへ)さまも此(この)丁(ちよ)ン助(すけ)の成敗(せいばい)をなさつたが宜(よ)からうにナア』
078丁(ちよ)ン助(すけ)『もうもうもう、079改心(かいしん)致(いた)します、080之(これ)からは善(ぜん)のぜの字(じ)も申(まを)しませぬ、081飽迄(あくまで)も悪(あく)を立(た)て通(とほ)します』
082高姫(たかひめ)『これこれ丁(ちよ)ン助(すけ)、083何(なに)を言(い)ふのだ、084善一筋(ぜんひとすぢ)のウラナイ教(けう)の教(をしへ)ぢやぞい』
085丁(ちよ)ン助(すけ)『ソヽヽヽそのウラナイ教(けう)だから裏(うら)を言(い)つて居(を)るのだ。086悪(あく)と言(い)へば善(ぜん)、087善(ぜん)と言(い)へば悪(あく)ぢやがなア』
088黒姫(くろひめ)『はて扨(さ)て合点(がてん)の悪(わる)い男(をとこ)ぢや、089底(そこ)には底(そこ)がある、090奥(おく)には奥(おく)がある、091裏(うら)には裏(うら)がある。092エーエ、093もうもう手(て)が倦(だる)うなつて来(き)た、094モウこれで勘(こら)へてやらう。095いやまだまだ膏(あぶら)をとらねばならぬが、096婆(ばば)の手(て)が続(つづ)かぬから一寸(ちよつと)一服(いつぷく)ぢや、097エヘヽヽヽ』
098丁(ちよ)ン助(すけ)『何(なに)が何(なん)だか皆(みな)サンの仰有(おつしや)る事(こと)は一寸(ちよつと)も訳(わけ)が分(わか)りませぬワ。099善(ぜん)をすればお気(き)に入(い)るのやら、100悪(あく)がお気(き)に入(い)るのやら、101薩張(さつぱ)り訳(わけ)が分(わか)らなくなつて来(き)た。102善(ぜん)なら善(ぜん)、103悪(あく)なら悪(あく)と、104はつきり言(い)つて下(くだ)さい、105どちらへでも私(わたし)はつきます』
106高姫(たかひめ)『善(ぜん)とも悪(あく)とも分(わか)らぬのが神(かみ)の教(をしへ)ぢや。107人間(にんげん)の分際(ぶんざい)として、108さう善悪(ぜんあく)がはつきりと分(わか)つて堪(たま)るものかい。109何事(なにごと)も高姫(たかひめ)の仰有(おつしや)る通(とほ)りに、110ヘイヘイ、111ハイハイと盲目(めくら)滅法(めつぱふ)に盲従(まうじゆう)すれば良(い)いのだよ』
112丁(ちよ)ン助(すけ)『アーア又(また)しても又(また)しても、113人(ひと)の顔(かほ)を抓(つめ)つたり殴(なぐ)つたり、114爪(つめ)を抜(ぬ)いたりせねば改心(かいしん)さす事(こと)が出来(でき)ぬのか、115そこになるとアナヽ、116アヽヽヽ、117何(なん)ぢやつた、118忘(わす)れた忘(わす)れた。119あないでも、120あなでもあつたら隠(かく)れ度(た)い様(やう)な気(き)がします哩(わい)。121あな恐(おそ)ろしや、122あな有難(ありがた)や、123あな苦(くる)しや、124あな痛(いた)やなア』
125黒姫(くろひめ)『矢(や)つ張(ぱり)貴様(きさま)は三五教(あななひけう)に未練(みれん)があるな、126よしよしこれから須佐之男(すさのをの)尊(みこと)ぢやないが、127頭(あたま)の毛(け)も髭(ひげ)も爪(つめ)も一本(いつぽん)も無(な)い様(やう)に抜(ぬ)いてやらう。128これこれ久助(きうすけ)、129釘抜(くぎぬき)を持(も)つて来(こ)い』
130久助(きうすけ)『釘抜(くぎぬき)は此(この)館(やかた)には一(ひと)つも御座(ござ)いませぬ、131如何(いかが)致(いた)しませう』
132黒姫(くろひめ)『アヽそうか、133釘抜(くぎぬき)は無(な)いか、134それでは仕方(しかた)がない。135これこれ丁(ちよ)ン助(すけ)、136貴様(きさま)は余(よ)つ程(ぽど)幸福者(しあわせもの)だ、137之(これ)と言(い)ふも神(かみ)様(さま)の御(お)慈悲(じひ)ぢや、138ウラナイ教(けう)の神(かみ)様(さま)の御恩(ごおん)を夢(ゆめ)にも忘(わす)れてはならぬぞよ』
139 蠑螈別(いもりわけ)はグタグタに酔(よ)ひ潰(つぶ)れ、
140蠑螈別『オイオイ皆(みな)の奴(やつ)、141何(なに)か面白(おもしろ)い芸当(げいたう)をして見(み)せぬか、142折角(せつかく)飲(の)んだ酒(さけ)が沈(しづ)んで仕舞(しま)ふ、143ちつと浮(う)かして呉(く)れ、144瓢箪(へうたん)ばかりが浮物(うきもの)ぢやあるまい、145偶(たま)には人間(にんげん)の心(こころ)も浮(う)かさねばならぬ、146それだから此(この)世(よ)を浮世(うきよ)と言(い)ふのだ』
147黒姫(くろひめ)『アヽ其(その)瓢箪(へうたん)で思(おも)ひ出(だ)した、148水(みづ)の中(なか)に浮(う)かして置(お)いた二人(ふたり)の女(をんな)、149誰(たれ)か行(い)つて浚(さら)へて来(こ)い、150此処(ここ)で一(ひと)つ面白(おもしろ)い芸当(げいたう)をさして楽(たの)しまう』
151蠑螈別(いもりわけ)『アハヽヽヽ、152妙案(めうあん)々々(めうあん)、153面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、154サアサ皆(みな)の者共(ものども)、155二人(ふたり)の奴(やつ)を引摺(ひきずり)上(あ)げて此(この)場(ば)へ連(つ)れて来(こ)い』
156黒姫(くろひめ)『こら丁(ちよ)ン助(すけ)、157其(その)方(はう)は爪(つめ)抜(ぬ)きの成敗(せいばい)を許(ゆる)してやる、158其(その)代(かは)りに二人(ふたり)の女(をんな)を引摺(ひきずり)上(あ)げて此(この)場(ば)へ連(つ)れて来(こ)い』
159丁(ちよ)ン助(すけ)『はい、160畏(かしこ)まつて御座(ござ)います、161然(しか)し乍(なが)ら私(わたし)一人(ひとり)では到底(たうてい)手(て)にあひませぬ、162誰(たれ)か助太刀(すけだち)を貸(か)して下(くだ)さいませ、163一人(ひとり)づつ担(かつ)げて連(つ)れて参(まゐ)ります』
164黒姫(くろひめ)『久助(きうすけ)、165貴様(きさま)は丁(ちよ)ン助(すけ)の後(あと)から跟(つ)いて、166サア早(はや)く引(ひ)き上(あ)げて来(こ)い』
167久助『畏(かしこ)まりました』
168と二人(ふたり)は表(おもて)の石門(いしもん)を開(ひら)くや否(いな)や尻(しり)端折(はしを)つて池(いけ)の辺(ほとり)を指(さ)して一生(いつしやう)懸命(けんめい)に走(はし)つて来(き)た。169見(み)れば池(いけ)の辺(ほとり)に三男(さんなん)六女(ろくぢよ)の神人(しんじん)が立(た)つてゐる。
170丁(ちよ)ン助(すけ)『オイオイ久公(きうこう)、171貴様(きさま)先(さき)へ行(ゆ)かぬかい』
172久助(きうすけ)『何(なに)、173俺(おれ)は貴様(きさま)の助太刀(すけだち)だ、174言(い)はば代理(だいり)ぢや。175貴様(きさま)が先(さき)へ行(い)つて縮尻(しくじ)つたら其(その)控(ひか)へに俺(おれ)が出(で)るのだ、176先陣(せんぢん)は貴様(きさま)だ、177早(はや)う行(ゆ)かぬかい』
178と、179尻(しり)をトンと押(お)す拍子(へうし)に丁(ちよ)ン助(すけ)はトンと尻餅(しりもち)を搗(つ)く、
180丁ン助『アイタヽ、181ナヽヽヽ何(なに)をしやがるのだい、182アーア、183もう腰(こし)が抜(ぬ)けた。184貴様(きさま)が弱腰(よわごし)を無理(むり)に突(つ)いたものだから、185腰(こし)の蝶番(てふつがい)が折(を)れて仕舞(しま)つたよ、186貴様(きさま)が代理(だいり)するのだ。187サアサ行(ゆ)け行(ゆ)け』
188久助(きうすけ)『触(さわ)り三百(さんびやく)とは貴様(きさま)の事(こと)だ、189なまくらな、190起(おき)んかい。191一寸(ちよつと)押(お)した位(くらゐ)で腰(こし)の枢(くろろ)が外(はづ)れる奴(やつ)が何処(どこ)にあるか』
192丁(ちよ)ン助(すけ)『それでも抜(ぬ)けたら仕方(しかた)が無(な)い、193嘘(うそ)と思(おも)ふなら俺(おれ)を歩(ある)かして見(み)い、194一寸(ちよつと)も歩(ある)けやせぬぞ』
195久助(きうすけ)『エーエ、196腰抜(こしぬ)け野郎(やらう)だな』
197丁(ちよ)ン助(すけ)『オヽヽヽ俺(おれ)は腰抜(こしぬ)け野郎(やらう)だ、198それだから貴様(きさま)行(ゆ)けと言(い)ふのだ』
199久助(きうすけ)『俺(おれ)も何(なん)だか急(きふ)に足(あし)が抜(ぬ)けた様(やう)だ、200膝坊主(ひざぼうず)奴(め)が危(あぶ)ない危(あぶ)ないと吐(ぬか)しよる』
201丁(ちよ)ン助(すけ)『何(なん)だ、202乞食(こじき)の正(しやう)月(ぐわつ)の様(やう)に「餅(もち)無(な)い餅(もち)無(な)い」ナンテ、203団子(だんご)理屈(りくつ)を垂(た)れない、204サアサ行(い)け行(い)け、205俺(おれ)は絶対(ぜつたい)に腰(こし)が抜(ぬ)けた。206もう一足(ひとあし)も歩(ある)けぬ、207貴様(きさま)胆玉(きもだま)を放(ほ)り出(だ)してあの池(いけ)を覗(のぞ)きなつとして来(こ)い、208帰(かへ)つて申訳(まをしわけ)が無(な)いぞ』
209 亀彦(かめひこ)は二人(ふたり)の姿(すがた)を見(み)てツカツカと間近(まぢか)に進(すす)み、
210亀彦『ヤア其(その)方(はう)は悪神(あくがみ)の眷属(けんぞく)、211能(よ)くも三(さん)人(にん)の女(をんな)を苦(くる)しめよつたナア、212サア返報(へんぱう)がへしだ。213股(また)から引裂(ひきさ)き頭(あたま)から塩(しほ)をつけて齧(かぶ)つて喰(く)つてやらうか』
214と呶鳴(どな)りつけた。215二人(ふたり)はキアツと声(こゑ)を立(た)て腰(こし)の抜(ぬ)けたと言(い)つた丁(ちよ)ン助(すけ)は真先(まつさき)に韋駄天(ゐだてん)走(ばし)りに、216雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ去(さ)つた。
217 話(はなし)変(かは)つて蠑螈別(いもりわけ)は、
218蠑螈別『アーア、219何(なん)だか今日(けふ)は心(こころ)の沈(しづ)む日(ひ)だ。220皆(みな)の奴共(やつども)、221何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も芸(げい)無(な)し猿(ざる)の唐変木(たうへんぼく)許(ばか)りだな、222一(ひと)つ面白(おもしろ)い事(こと)をやつて見(み)せぬか、223アーア頭痛(づつう)がする』
224高姫(たかひめ)『これも何(なに)かの御(ご)都合(つがふ)で御座(ござ)いませう、225さう、226おなげき遊(あそ)ばすには及(およ)びませぬ、227日(ひ)の出(で)の神(かみ)の生宮(いきみや)が一(ひと)つ踊(をど)つてお目(め)に掛(か)けませう』
228と高姫(たかひめ)はお多福(たふく)面(づら)をニユツと出(だ)し、229山車尻(だんじり)をプリツプリツと振(ふ)り乍(なが)ら、230怪(あや)しき腰付(こしつき)で踊(をど)り始(はじ)めた。231此(この)時(とき)慌(あはただ)しく息(いき)せききつて丁(ちよ)ン助(すけ)、232久助(きうすけ)は此(この)場(ば)に走(はし)り来(きた)り、
233丁ン助、久助『タヽヽヽ大変(たいへん)で御座(ござ)います』
234と言(い)つたきり、235丁(ちよん)久(きう)二人(ふたり)は息(いき)を喘(はづ)ませて此(この)場(ば)にドツと倒(たふ)れたり。
236黒姫(くろひめ)『大変(たいへん)とは何事(なにごと)ぞ、237二人(ふたり)の女(をんな)は如何(どう)致(いた)した』
238久助(きうすけ)『ドヽヽヽ如何(どう)も斯(こ)うもありませぬ、239タヽヽヽ大変(たいへん)々々(たいへん)、240大変(たいへん)と言(い)へば矢(や)つ張(ぱ)り大変(たいへん)で御座(ござ)います』
241黒姫(くろひめ)『こら、242久助(きうすけ)、243丁(ちよ)ン助(すけ)、244しつかり致(いた)さぬか、245何(なに)が大変(たいへん)だ』
246丁(ちよ)ン助(すけ)『いやもう、247タヽヽヽ大変(たいへん)で御座(ござ)います、248大変(たいへん)と申(まを)すより申(まを)し上(あ)げる言葉(ことば)も無(な)かりけり、249アーン、250アンアンアン、251オーン、252オンオンオン』
253黒姫(くろひめ)『エー腑甲斐(ふがひ)無(な)い奴(やつ)だ、254又(また)歩(ある)きもつて夢(ゆめ)を見(み)よつたのだらう、255臆病(おくびやう)な奴(やつ)だ、256しつかり致(いた)さぬか』
257とキユーと鼻(はな)を捻(ねぢ)る。
258丁(ちよ)ン助(すけ)『イヽヽヽ痛(いた)い、259勘忍(かんにん)勘忍(かんにん)』
260黒姫(くろひめ)『サア、261しつかりと申(まを)さぬか、262様子(やうす)は如何(いか)に』
263丁(ちよ)ン助(すけ)『ヨヽヽヽ様子(やうす)も何(なん)にもあつたものか、264ヨヽヽヽ用心(ようじん)なさいませ、265酔(よ)つぱらつて居(ゐ)るどこの騒(さわ)ぎぢやありませぬぞ、266アヽヽヽ三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、267大(おほ)きな男(をとこ)が三(さん)人(にん)とアルマの様(やう)な別嬪(べつぴん)が而(しか)も六(ろく)人(にん)、268どうで、269ロヽヽヽ碌(ろく)な事(こと)は御座(ござ)いませぬ哩(わい)』
270黒姫(くろひめ)『貴様(きさま)の言(い)ふ事(こと)は何(なに)が何(なん)だか、271テンと分(わか)らぬ、272こらこら久助(きうすけ)、273様子(やうす)は如何(どう)だ。274女(をんな)は何処(どこ)に居(ゐ)る。275』
276久助(きうすけ)『女(をんな)どころの騒(さわ)ぎですかい、277たつた今(いま)、278貴方(あなた)等(がた)の頸(くび)は胴(どう)を離(はな)れますよ、279何卒(どうぞ)しつかりと用意(ようい)をして下(くだ)さい』
280高姫(たかひめ)『お前(まへ)達(たち)は何(なに)を狼狽(うろた)へ騒(さわ)ぐのだ、281昔(むかし)の昔(むかし)のさる昔(むかし)の根(こ)つ本(ぽん)の天地(てんち)の始(はじ)まりから、282何(なに)も彼(か)も調(しら)べて調(しら)べて調(しら)べ上(あ)げた此(この)方(はう)ぢや、283仮令(たとへ)百億万(ひやくおくまん)の敵(てき)押(お)し寄(よ)せ来(きた)るとも、284此(この)高姫(たかひめ)のあらむ限(かぎ)りは大丈夫(だいぢやうぶ)だ、285しつかり致(いた)さぬか。286してして女(をんな)は何(なん)と致(いた)した』
287 此(この)時(とき)門前(もんぜん)に勇壮(ゆうさう)なる宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)、288四辺(あたり)を轟(とどろ)かし響(ひび)き来(き)たりぬ。
289 高姫(たかひめ)、290黒姫(くろひめ)、291蠑螈別(いもりわけ)を始(はじ)め、292一同(いちどう)は俄(にはか)に頭(かしら)痛(いた)み胸(むね)は引裂(ひきさ)く許(ばか)り苦(くる)しくなつて、293其(その)場(ば)にドツと倒(たふ)れたり。294アヽ此(この)結末(けつまつ)は如何(いかが)なり行(ゆ)くならむか。
295(大正一一・四・三 旧三・七 北村隆光録)
296(昭和一〇・三・二四 於台湾蘇澳駅 王仁校正)
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