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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第15巻(寅の巻)
序
凡例
総説歌
第1篇 正邪奮戦
第1章 破羅門
第2章 途上の変
第3章 十六花
第4章 神の栄光
第5章 五天狗
第6章 北山川
第7章 釣瓶攻
第8章 ウラナイ教
第9章 薯蕷汁
第10章 神楽舞
第2篇 古事記言霊解
第11章 大蛇退治の段
第3篇 神山霊水
第12章 一人旅
第13章 神女出現
第14章 奇の岩窟
第15章 山の神
第16章 水上の影
第17章 窟の酒宴
第18章 婆々勇
第4篇 神行霊歩
第19章 第一天国
第20章 五十世紀
第21章 帰顕
第22章 和と戦
第23章 八日の月
跋文
余白歌
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霊界物語
>
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第15巻(寅の巻)
> 第1篇 正邪奮戦 > 第7章 釣瓶攻
<<< 北山川
(B)
(N)
ウラナイ教 >>>
第七章
釣瓶攻
(
つるべぜめ
)
〔五七四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
篇:
第1篇 正邪奮戦
よみ(新仮名遣い):
せいじゃふんせん
章:
第7章 釣瓶攻
よみ(新仮名遣い):
つるべぜめ
通し章番号:
574
口述日:
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
田加彦は、逃げる百舌彦に追いついて殴りかかった。二人が追いかけ合いをしていると、四五人の男が現れて、二人を捕まえて縛り、滝つぼまで引きずっていった。
男たちは、鳶彦の手下であった。鳶彦は、婆羅門教を裏切った田加彦と百舌彦に対し、修行と称して拷問を加える。
そこへ三人の宣伝使が声を頼りに二人を探しに来て、救出する。天津祝詞によって、息も絶え絶えになっていた田加彦と百舌彦は再生した。辺りには微妙の音楽が流れ、妙音菩薩のご加護が感じられた。
五人は広い道に出て、東南を指して進んでいった。十数件の小さな村に着いたが、この村にはそびえたつ大廈高楼があった。一行は高楼の前にたたずむと、琴の音が聞こえ、聴いたことのあるような女の声が聞こえてきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-08-27 03:05:11
OBC :
rm1507
愛善世界社版:
83頁
八幡書店版:
第3輯 311頁
修補版:
校定版:
83頁
普及版:
37頁
初版:
ページ備考:
001
百舌公
(
もずこう
)
、
002
田加公
(
たかこう
)
は、
003
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら、
004
蛙
(
かわづ
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
向
(
むか
)
う
見
(
み
)
ずと
云
(
い
)
ふ
大速力
(
だいそくりよく
)
を
以
(
もつ
)
て、
005
細
(
ほそ
)
き
田圃路
(
たんぼみち
)
をマラソン
競走
(
きやうそう
)
的
(
てき
)
に
進行
(
しんかう
)
して
行
(
ゆ
)
く。
006
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
十数丁
(
じふすうちやう
)
、
007
忽
(
たちま
)
ち
前途
(
ぜんと
)
に
突当
(
つきあた
)
つた
石像
(
せきざう
)
の
姿
(
すがた
)
、
008
百舌公
(
もずこう
)
は
此
(
この
)
石像
(
せきざう
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かして
見惚
(
みと
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
009
後
(
あと
)
より
追付
(
おひつ
)
いた
田加彦
(
たかひこ
)
は、
010
矢庭
(
やには
)
に
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
めてポカポカポカと
擲
(
なぐ
)
り
付
(
つ
)
ける。
011
石地蔵
(
いしぢざう
)
は
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
有余
(
いうよ
)
の
長
(
なが
)
き
舌
(
した
)
をノロノロと
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
し、
012
目
(
め
)
を
白黒
(
しろくろ
)
と
剥
(
む
)
いたまま、
013
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
許
(
ばか
)
りも
前
(
まへ
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
014
鼻
(
はな
)
をムケムケさせて
居
(
ゐ
)
る。
015
田加彦
(
たかひこ
)
は
又
(
また
)
もや
現
(
うつつ
)
をぬかして、
016
異様
(
いやう
)
の
石像
(
せきざう
)
を
見詰
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
017
百舌彦
(
もずひこ
)
は
又
(
また
)
もや
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
めて、
018
田加彦
(
たかひこ
)
の
横面
(
よこづら
)
をポカポカとやる。
019
田加彦
(
たかひこ
)
『アイタタ、
020
もう
是
(
こ
)
れで
借金
(
しやくきん
)
済
(
な
)
しが
済
(
す
)
んで
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
だのに、
021
又
(
また
)
二
(
ふた
)
つも
擲
(
なぐ
)
りよつて
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
だ。
022
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て
今
(
いま
)
に
返報
(
へんぱう
)
がやしをしてやらう』
023
と
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
となり、
024
拳
(
こぶし
)
を
握
(
にぎ
)
つて
打
(
う
)
つてかかるを、
025
百舌彦
(
もずひこ
)
はヒラリと
体
(
たい
)
をかはし、
026
百舌彦
『ヤア
田加彦
(
たかひこ
)
、
027
モウ
返金
(
へんきん
)
は
仕
(
し
)
て
要
(
い
)
らない。
028
利息
(
りそく
)
も
免除
(
めんぢよ
)
して
遣
(
や
)
る』
029
と
逃
(
に
)
げ
廻
(
まは
)
る。
030
田加彦
(
たかひこ
)
は、
031
田加彦
『ナニ、
032
貴様
(
きさま
)
に
借金
(
しやくきん
)
して
返
(
かへ
)
さずに
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
つかい。
033
ドツサリ
利子
(
りし
)
を
附
(
つ
)
けて、
034
返
(
かへ
)
してやらう』
035
と
追
(
お
)
ひかける。
036
百舌公
(
もずこう
)
は
石像
(
せきざう
)
の
周囲
(
ぐるり
)
を
逃
(
にげ
)
まはる、
037
田加彦
(
たかひこ
)
は
追
(
お
)
ひかけまはる。
038
殆
(
ほとん
)
ど
石像
(
せきざう
)
を
中心
(
ちうしん
)
に
巡
(
めぐ
)
る
事
(
こと
)
数十回
(
すうじつくわい
)
、
039
遂
(
つひ
)
には
両人
(
りやうにん
)
とも
目
(
め
)
をまわし、
040
山
(
やま
)
も
野
(
の
)
も
一時
(
いつとき
)
にモーターの
如
(
ごと
)
くに
廻転
(
くわいてん
)
し
始
(
はじ
)
めた。
041
二人
(
ふたり
)
は
大地
(
だいち
)
にしがみ
付
(
つ
)
き、
042
百舌彦、田加彦
『ア、
043
地震
(
ぢしん
)
だ
地震
(
ぢしん
)
だ、
044
天変
(
てんぺん
)
だ』
045
とわめいて
居
(
を
)
る。
046
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれた
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
、
047
手早
(
てばや
)
く
二人
(
ふたり
)
を
後手
(
うしろで
)
に
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げ、
048
肩
(
かた
)
に
綱
(
つな
)
をひつかけ、
049
ドンドンドンドンと、
050
草
(
くさ
)
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
る
畔路
(
あぜみち
)
を
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
に
駆
(
か
)
けて
行
(
ゆ
)
く。
051
二人
(
ふたり
)
は
引
(
ひ
)
きずられ
乍
(
なが
)
ら、
052
百舌彦、田加彦
『ア、
053
天変
(
てんぺん
)
だ、
054
地妖
(
ちえう
)
だ。
055
天
(
てん
)
が
地
(
ち
)
となり、
056
地
(
ち
)
が
天
(
てん
)
となる』
057
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
058
縛
(
しば
)
られたる
事
(
こと
)
に
気付
(
きづ
)
かず、
059
わめきつつ、
060
数百丈
(
すうひやくぢやう
)
の
滝
(
たき
)
の
下
(
した
)
に
引
(
ひ
)
きずられて
行
(
い
)
つた。
061
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
は、
062
忽
(
たちま
)
ち
滝水
(
たきみづ
)
を
汲
(
く
)
み
来
(
きた
)
つて、
063
二人
(
ふたり
)
を
仰向
(
あふむ
)
けに
寝
(
ね
)
させ、
064
目
(
め
)
鼻
(
はな
)
口
(
くち
)
の
区別
(
くべつ
)
なく
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
くに
注
(
そそ
)
ぎかけた。
065
二人
(
ふたり
)
は
苦
(
くる
)
しさに
眩暈
(
めまひ
)
も
止
(
と
)
まり、
066
百舌彦、田加彦
『ヤア
助
(
たす
)
けて
助
(
たす
)
けて』
067
と
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
すを
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
は
声
(
こゑ
)
を
荒
(
あら
)
らげ、
068
両人
(
りやうにん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
069
男
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
はエデンの
河
(
かは
)
の
関守
(
せきもり
)
を
致
(
いた
)
せし
百舌彦
(
もずひこ
)
、
070
田加彦
(
たかひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
であらう。
071
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
家来
(
けらい
)
、
072
鳶彦
(
とびひこ
)
であるぞ、
073
吾
(
わが
)
面
(
つら
)
をトツクリ
見
(
み
)
よ』
074
と、
075
ズズ
黒
(
ぐろ
)
い
顔
(
かほ
)
をヌツと
突出
(
つきだ
)
し、
076
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
見
(
み
)
せる。
077
百舌彦
(
もずひこ
)
『ヤア
貴様
(
きさま
)
は
鳶彦
(
とびひこ
)
だな、
078
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にコンナ
所
(
とこ
)
へ
来
(
き
)
よつたのだ。
079
俺
(
おれ
)
の
縛
(
いましめ
)
を
解
(
と
)
いて
呉
(
く
)
れぬかい、
080
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
奴
(
やつ
)
、
081
失敬
(
しつけい
)
千万
(
せんばん
)
な、
082
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
を
後手
(
うしろで
)
に
縛
(
しば
)
りよつて、
083
コンナ
所
(
とこ
)
へ
吹飛
(
ふきと
)
ばしよつたのだ。
084
友達
(
ともだち
)
の
好誼
(
よしみ
)
だ、
085
グヅグヅ
致
(
いた
)
さずに
早
(
はや
)
く
吾々
(
われわれ
)
の
縄
(
なは
)
を
解
(
と
)
かぬかい』
086
鳶彦
(
とびひこ
)
『ナニ
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
言
(
い
)
うのだ、
087
貴様
(
きさま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
に
寝返
(
ねがへ
)
りを
打
(
う
)
ち、
088
遂
(
つひ
)
には
神罰
(
しんばつ
)
の
為
(
ため
)
、
089
エデン
河
(
がは
)
の
藻屑
(
もくづ
)
となつた
其
(
その
)
方
(
はう
)
ではないか。
090
憎
(
にく
)
まれ
子
(
ご
)
世
(
よ
)
に
覇張
(
はば
)
るとかや、
091
又
(
また
)
もノソノソ
娑婆
(
しやば
)
に
甦
(
よみがへ
)
つて
来
(
き
)
よつて、
092
再
(
ふたた
)
び
三五教
(
あななひけう
)
を
開
(
ひら
)
かうと
致
(
いた
)
すのか、
093
……
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て
此
(
この
)
方
(
はう
)
にも
一
(
ひと
)
つの
考
(
かんが
)
へがある。
094
……サア
是
(
これ
)
からバラモン
教
(
けう
)
の
最
(
もつと
)
も
厳
(
きび
)
しき
修行
(
しうぎやう
)
を
為
(
さ
)
して
遣
(
や
)
らう。
095
霊主
(
れいしゆ
)
体従
(
たいじゆう
)
の
極致
(
きよくち
)
を
尽
(
つく
)
し、
096
貴様
(
きさま
)
の
肉体
(
にくたい
)
を、
097
散
(
ち
)
り
散
(
ぢ
)
りバラバラに
致
(
いた
)
して、
098
霊
(
みたま
)
丈
(
だけ
)
は
天国
(
てんごく
)
に
救
(
すく
)
うてやらう、
099
有難
(
ありがた
)
く
思
(
おも
)
へ』
100
と
縛
(
いまし
)
めを
解
(
と
)
き、
101
滝壷
(
たきつぼ
)
へ
押込
(
おしこ
)
まうとした。
102
百舌彦
(
もずひこ
)
は
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
103
百舌彦
『アー
恨
(
うら
)
めしやな、
104
吾
(
わ
)
れこそはバラモン
教
(
けう
)
の
信者
(
しんじや
)
となり、
105
エデンの
河
(
かは
)
の
関守
(
せきもり
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
たが、
106
思
(
おも
)
ひの
外
(
ほか
)
に
神力
(
しんりき
)
の
強
(
つよ
)
い
肝
(
きも
)
の
太玉
(
ふとたまの
)
命
(
みこと
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
勇士
(
ゆうし
)
を
伴
(
つ
)
れて、
107
ニユーと
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれた。
108
俺
(
おれ
)
は
計略
(
けいりやく
)
を
以
(
もつ
)
て
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
河
(
かは
)
の
中
(
なか
)
に
葬
(
ほうむ
)
つてやらうと
思
(
おも
)
うたが、
109
ハーテ
恨
(
うら
)
めしやなア、
110
ウ
恨
(
うら
)
めしやなア、
111
事
(
こと
)
志
(
こころざし
)
と
違
(
ちが
)
ひ
鶍
(
いすか
)
の
嘴
(
はし
)
の、
112
船
(
ふね
)
は
忽
(
たちま
)
ち
木葉
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
、
113
俺
(
おれ
)
はエデンの
河
(
かは
)
の
藻屑
(
もくづ
)
となつて
此
(
この
)
世
(
よ
)
へ
迷
(
まよ
)
うて
来
(
き
)
たワイ、
114
ヤイ
鳶彦
(
とびひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
115
貴様
(
きさま
)
も
霊主
(
れいしゆ
)
体従
(
たいじゆう
)
の
教
(
をしへ
)
を
奉
(
ほう
)
ずる
代物
(
しろもの
)
、
116
汝
(
なんぢ
)
が
生首
(
なまくび
)
をひつこ
抜
(
ぬ
)
き、
117
冥途
(
めいど
)
へ
伴
(
つ
)
れて
往
(
い
)
つてやらうか、
118
ホーホーホーホーホー、
119
恨
(
うら
)
めしやなア』
120
田加彦
(
たかひこ
)
は、
121
手
(
て
)
を
前
(
まへ
)
にニユツと
下
(
さ
)
げ、
122
舌
(
した
)
をペロリと
出
(
だ
)
し、
123
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
前
(
まへ
)
に
突出
(
つきだ
)
し、
124
田加彦
『ヒユードロドロドロドロ、
125
恨
(
うら
)
めしやなア………』
126
鳶彦
(
とびひこ
)
『ヤイヤイ
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
何
(
なん
)
だ、
127
生
(
い
)
きて
居
(
を
)
る
間
(
うち
)
から
結構
(
けつこう
)
なバラモン
教
(
けう
)
を
棄
(
す
)
てて、
128
三五教
(
あななひけう
)
に
迷
(
まよ
)
う
娑婆
(
しやば
)
の
幽霊
(
いうれい
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
129
ヤツパリ
死
(
し
)
んでも
又
(
また
)
迷
(
まよ
)
うのか、
130
此処
(
ここ
)
はバラモン
教
(
けう
)
の
修行場
(
しうぎやうば
)
だ、
131
亡者
(
まうじや
)
の
来
(
く
)
る
所
(
ところ
)
でない。
132
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
せ、
133
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
へ、
134
アタ
厭
(
いや
)
らしい、
135
シーツシーツシーツ』
136
百舌彦
(
もずひこ
)
『
恨
(
うら
)
めしやなア、
137
鳶彦
(
とびひこ
)
の
生首
(
なまくび
)
が
欲
(
ほ
)
しいワイ』
138
田加彦
(
たかひこ
)
『
冥途
(
めいど
)
の
土産
(
みやげ
)
に
鳶彦
(
とびひこ
)
の
御首
(
みしるし
)
頂戴
(
ちやうだい
)
仕
(
つかまつ
)
らむ。
139
ホーイホーイホー』
140
と
蟷螂
(
かまきり
)
の
様
(
やう
)
な
手附
(
てつき
)
をして、
141
稍
(
やや
)
後方
(
うしろ
)
に
体
(
たい
)
を
反
(
そ
)
り
乍
(
なが
)
ら
空中
(
くうちう
)
を
掻
(
か
)
く。
142
鳶彦
(
とびひこ
)
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
は
半死
(
はんし
)
半生
(
はんしやう
)
の
化物
(
ばけもの
)
だ、
143
幽霊
(
いうれい
)
にしては
立派
(
りつぱ
)
な
足
(
あし
)
がある。
144
此奴
(
こいつ
)
ア
偽
(
にせ
)
幽霊
(
いうれい
)
かも
知
(
し
)
れないぞ、
145
オイ
家来
(
けらい
)
共
(
ども
)
、
146
此奴
(
こいつ
)
を
縛
(
しば
)
れ』
147
百
(
も
)
、
148
田
(
た
)
『ヤア
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
149
幽霊
(
いうれい
)
を
縛
(
しば
)
る
奴
(
やつ
)
が
何処
(
どこ
)
にあるか。
150
チツト
量見
(
りやうけん
)
が
違
(
ちが
)
ひはせぬかのう、
151
ホーホーホーホーイ』
152
鳶彦
(
とびひこ
)
『エー
量見違
(
りやうけんちがひ
)
も
糞
(
くそ
)
もあつたものかい、
153
モウ
斯
(
こ
)
うなつては、
154
どこ
迄
(
まで
)
も
了見
(
れうけん
)
ならぬのだ』
155
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
156
二人
(
ふたり
)
の
帯
(
おび
)
に
太
(
ふと
)
き
綱
(
つな
)
をシツカと
結
(
むす
)
び
付
(
つ
)
けた。
157
鳶彦
(
とびひこ
)
『サアもう
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ、
158
ハンドルを
廻
(
まは
)
せ』
159
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
家来
(
けらい
)
は『ハツ』と
答
(
こた
)
へて、
160
修行用
(
しうぎやうよう
)
のハンドルをクルクルと
繰
(
く
)
り
始
(
はじ
)
めた。
161
井戸
(
ゐど
)
の
釣瓶
(
つるべ
)
の
如
(
や
)
うに、
162
一人
(
ひとり
)
は
頭上
(
づじやう
)
に
高
(
たか
)
く
舞上
(
まひあが
)
る。
163
一人
(
ひとり
)
は
滝壷
(
たきつぼ
)
にドブンと
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
む。
164
今度
(
こんど
)
は
反対
(
あべこべ
)
に、
165
上
(
うへ
)
の
奴
(
やつ
)
が
下
(
した
)
の
滝壷
(
たきつぼ
)
に
落
(
お
)
ち、
166
交
(
かは
)
る
交
(
がは
)
る
数十回
(
すうじつくわい
)
、
167
上
(
あ
)
げては
下
(
お
)
ろし
上
(
あ
)
げては
下
(
お
)
ろし、
168
井戸
(
ゐど
)
の
釣瓶
(
つるべ
)
の
如
(
ごと
)
く、
169
上
(
のぼ
)
り
下
(
くだ
)
りの
道中
(
だうちう
)
最
(
もつと
)
も
雑踏
(
ざつたふ
)
を
極
(
きは
)
め、
170
お
蔭
(
かげ
)
参
(
まゐ
)
りの
伊勢
(
いせ
)
道中
(
だうちう
)
の
光景
(
くわうけい
)
其
(
その
)
儘
(
まま
)
である。
171
二人
(
ふたり
)
は
息
(
いき
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
絶
(
た
)
え、
172
真青
(
まつさを
)
になつて
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
憂目
(
うきめ
)
に
会
(
あ
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
173
此
(
この
)
時
(
とき
)
涼
(
すず
)
しき
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
174
鳶彦
(
とびひこ
)
は
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
家来
(
けらい
)
と
共
(
とも
)
に
一目散
(
いちもくさん
)
に、
175
山奥
(
やまおく
)
指
(
さ
)
して
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したり。
176
安彦
(
やすひこ
)
、
177
国彦
(
くにひこ
)
、
178
道彦
(
みちひこ
)
は
何気
(
なにげ
)
なく
滝
(
たき
)
の
音
(
おと
)
を
知辺
(
しるべ
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あらは
)
れ
来
(
きた
)
り、
179
百舌彦
(
もずひこ
)
が
滝壷
(
たきつぼ
)
の
中空
(
ちうくう
)
にひつかかり
居
(
を
)
るを
見
(
み
)
て
打驚
(
うちおどろ
)
き、
180
安彦、国彦、道彦
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
は
大変
(
たいへん
)
だ、
181
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
けてやらねばなるまい』
182
と
矢庭
(
やには
)
に
両刃
(
もろは
)
の
剣
(
つるぎ
)
を
抜
(
ぬ
)
いて
綱
(
つな
)
をブチ
切
(
き
)
つた。
183
忽
(
たちま
)
ち
百舌彦
(
もずひこ
)
は
滝壷
(
たきつぼ
)
にドブンと
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだ。
184
安彦
(
やすひこ
)
は
赤裸
(
まつぱだか
)
となり、
185
滝壷
(
たきつぼ
)
に
飛込
(
とびこ
)
んで、
186
百舌彦
(
もずひこ
)
の
足
(
あし
)
を
握
(
にぎ
)
り、
187
ひつ
張
(
ぱ
)
り
上
(
あ
)
げた。
188
又
(
また
)
も
一人
(
ひとり
)
の
田加彦
(
たかひこ
)
の
頭髪
(
とうはつ
)
は
水面
(
すゐめん
)
に
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
る。
189
再
(
ふたた
)
び
滝壷
(
たきつぼ
)
に
飛込
(
とびこ
)
みさま、
190
頭髪
(
とうはつ
)
を
握
(
にぎ
)
つて
救
(
すく
)
ひあげた。
191
二人共
(
ふたりとも
)
多量
(
たくさん
)
の
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
み、
192
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えになつて
居
(
ゐ
)
る。
193
安彦
(
やすひこ
)
『アヽ
能
(
よ
)
う
水
(
みづ
)
に
縁
(
えん
)
のある
男
(
をとこ
)
だナア、
194
何
(
なん
)
とかして
水
(
みづ
)
を
吐
(
は
)
かしてやらうかい。
195
まだビコビコと
動
(
うご
)
いて
居
(
を
)
るから、
196
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
なら
助
(
たす
)
かるだらう』
197
国彦
(
くにひこ
)
『
大変
(
たいへん
)
に
沢山
(
たくさん
)
に
水
(
みづ
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
頂
(
いただ
)
きよつたと
見
(
み
)
えて、
198
腹
(
はら
)
は
太鼓
(
たいこ
)
の
様
(
やう
)
だ。
199
一
(
ひと
)
つ
此
(
この
)
双刃
(
もろは
)
の
剣
(
けん
)
で、
200
腹袋
(
はらぶくろ
)
を
破
(
やぶ
)
つて
水
(
みづ
)
を
出
(
だ
)
してやらうか』
201
道彦
(
みちひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
言
(
い
)
うな、
202
ソンナ
事
(
こと
)
したら、
203
それこそ
縡切
(
ことき
)
れて
了
(
しま
)
うよ』
204
国彦
(
くにひこ
)
『
縡切
(
ことき
)
れるか、
205
縡切
(
ことき
)
れぬか、
206
ソンナ
事
(
こと
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
関
(
くわん
)
する
所
(
ところ
)
にあらずだ。
207
生
(
い
)
きるも
死
(
し
)
ぬるも
神
(
かみ
)
の
御心
(
みこころ
)
だ。
208
神
(
かみ
)
が
生
(
い
)
かさうと
思
(
おも
)
へば
生
(
い
)
かして
下
(
くだ
)
さる。
209
吾々
(
われわれ
)
はどうなつとして
水
(
みづ
)
さへ
出
(
だ
)
せば
良
(
い
)
いのじやないか、
210
アハヽヽヽ』
211
安彦
(
やすひこ
)
『
洒落
(
しやれ
)
所
(
どころ
)
かい、
212
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
だ。
213
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
を
見殺
(
みごろし
)
にする
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
くまい。
214
吾々
(
われわれ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
は
敵
(
てき
)
でも
助
(
たす
)
けねばならぬ
職掌柄
(
しよくしやうがら
)
だ。
215
どうしたら
宜
(
よ
)
からうかな』
216
道彦
(
みちひこ
)
『どうも
斯
(
こ
)
うも
仕方
(
しかた
)
があるものか、
217
吾々
(
われわれ
)
は
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して、
218
神助
(
しんじよ
)
を
仰
(
あふ
)
ぐより
外
(
ほか
)
に
道
(
みち
)
はない』
219
安
(
やす
)
、
220
国
(
くに
)
『ア、
221
さうだつたナア。
222
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
に
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
、
223
肝腎
(
かんじん
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
奏上
(
そうじやう
)
を
忘
(
わす
)
れて
居
(
ゐ
)
たワイ』
224
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
225
滝水
(
たきみづ
)
に
口
(
くち
)
を
漱
(
すす
)
ぎ、
226
手
(
て
)
を
洗
(
あら
)
ひ、
227
拍手
(
はくしゆ
)
再拝
(
さいはい
)
、
228
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
229
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
声
(
こゑ
)
もスガスガしく
歌
(
うた
)
ひ
了
(
をは
)
つた。
230
二人
(
ふたり
)
は
忽
(
たちま
)
ち
水
(
みづ
)
を
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
し、
231
ムクムクと
起
(
お
)
きあがり、
232
附近
(
あたり
)
キヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
し
乍
(
なが
)
ら、
233
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
在
(
あ
)
るに
驚
(
おどろ
)
き、
234
百舌彦、田加彦
『ヤア
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
235
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
されました。
236
バラモン
教
(
けう
)
の
鳶彦
(
とびひこ
)
の
奴
(
やつ
)
にスツテの
事
(
こと
)
で
代用
(
かけがひ
)
の
無
(
な
)
い
生命
(
いのち
)
を
奪
(
と
)
られる
所
(
ところ
)
でした。
237
アヽ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
238
生命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
の
安彦
(
やすひこ
)
サン、
239
国彦
(
くにひこ
)
、
240
道彦
(
みちひこ
)
の
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
……』
241
と
両人
(
りやうにん
)
は
大地
(
だいち
)
に
鰭伏
(
ひれふ
)
して、
242
涙
(
なみだ
)
を
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
くに
流
(
なが
)
し
感謝
(
かんしや
)
する。
243
此
(
この
)
時
(
とき
)
何処
(
いづく
)
ともなく
美妙
(
びめう
)
の
音楽
(
おんがく
)
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
り、
244
妙音
(
めうおん
)
菩薩
(
ぼさつ
)
の
冥護
(
みやうご
)
有
(
あ
)
り
有
(
あ
)
りと
伺
(
うかが
)
はれける。
245
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
又
(
また
)
もや
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち、
246
妙音
(
めうおん
)
菩薩
(
ぼさつ
)
の
恩恵
(
おんけい
)
を
感謝
(
かんしや
)
した。
247
是
(
これ
)
より
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
又
(
また
)
もや
道
(
みち
)
を
転
(
てん
)
じて
広野
(
くわうや
)
を
渉
(
わた
)
り、
248
東南
(
とうなん
)
指
(
さ
)
して
足
(
あし
)
を
速
(
はや
)
めた。
249
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
数百丁
(
すうひやくちやう
)
にして、
250
十数軒
(
じふすうけん
)
の
小
(
ちい
)
さき
家
(
いへ
)
の
建
(
た
)
ち
並
(
なら
)
ぶ
村落
(
そんらく
)
に
出
(
で
)
た。
251
この
村落
(
そんらく
)
の
中
(
うち
)
に
巍然
(
ぎぜん
)
として
聳
(
そび
)
えたる
大厦
(
たいか
)
高楼
(
かうろう
)
がある。
252
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
此
(
この
)
館
(
やかた
)
を
目標
(
めあて
)
に
足
(
あし
)
を
速
(
はや
)
め
門前
(
もんぜん
)
に
佇
(
たたず
)
めば、
253
琴
(
こと
)
の
音
(
ね
)
幽
(
かす
)
かに
聞
(
きこ
)
え、
254
何処
(
どこ
)
となく
覚
(
おぼ
)
えのある
女
(
をんな
)
の
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
、
255
門外
(
もんぐわい
)
に
千切
(
ちぎ
)
れ
千切
(
ちぎ
)
れに
漏
(
も
)
れ
来
(
き
)
たる。
256
安彦
(
やすひこ
)
、
257
道彦
(
みちひこ
)
は
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
258
安彦、道彦
『ハテナア』
259
(
大正一一・四・一
旧三・五
松村真澄
録)
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