霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 ウラナイ教(けう)〔五七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第1篇 正邪奮戦 よみ(新仮名遣い):せいじゃふんせん
章:第8章 ウラナイ教 よみ(新仮名遣い):うらないきょう 通し章番号:575
口述日: 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
広い館の門には、風雨にさらされた表札に、神代文字で「ウラナイ教の本部」と書かれていた。安彦は、田加彦と百舌彦に中の様子を見てくるように依頼した。
二人が塀を乗り越えて館の中の様子を見ると、高姫という教主らしい肥えた中婆が中央に控え、七八人の宣伝使らしい男女がとろろ汁を吸っている。いずれも、盲人のような手つきである。
田加彦と百舌彦は、盲人らしいのを幸いに、とろろ汁を奪って吸ってしまう。ウラナイ教徒たちは、仲間にとろろ汁を取られたと思って喧嘩を始めてしまう。
高姫は盲人の真似をしていただけだったので、二人に気づき、出刃包丁を持って追いかけ、大騒ぎになる。
田加彦と百舌彦は、逃げる途中に針だらけの枝が仕掛けてある水ためにはまり込んでしまうが、高姫もよろめくはずみに水ために落ちて苦しむ。その隙に田加彦、百舌彦は逃げてしまう。
安彦、国彦、道彦は水ための側を通りかかり、高姫を救出した。そこへ田加彦、百舌彦が戻ってきた。高姫は二人がとろろ汁を盗んだことを非難する。道彦は話を聞いて吹きだし、お詫びに田加彦と百舌彦をウラナイ教にくれてやろう、という。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-16 01:35:20 文字数:3570 OBC :rm1508
愛善世界社版:92頁 八幡書店版:第3輯 314頁 修補版: 校定版:92頁 普及版:41頁 初版: ページ備考:
001 安彦(やすひこ)、002国彦(くにひこ)、003道彦(みちひこ)の宣伝使(せんでんし)を始(はじ)め、004田加彦(たかひこ)、005百舌彦(もずひこ)の五(ご)人(にん)は、006此(この)広(ひろ)き館(やかた)の門前(もんぜん)に佇(たたず)み内部(ないぶ)の様子(やうす)を耳(みみ)を澄(す)ませて聞(き)き居(ゐ)たり。
007 フト表門(おもてもん)を眺(なが)むれば、008風雨(ふうう)に曝(さら)された標札(へうさつ)に幽(かすか)に『ウラナイ教(けう)の本部(おほもと)』と神代(じんだい)文字(もじ)にて記(しる)されてある。009安彦(やすひこ)は覚束(おぼつか)なげに半(なかば)剥(は)げたる文字(もじ)を読(よ)み、
010安彦『ヤア此奴(こいつ)は、011ウラル教(けう)と三五教(あななひけう)を合併(がつぺい)した変則(へんそく)的(てき)神教(しんけう)の本山(ほんざん)と見(み)える哩(わい)、012それにしても最前(さいぜん)の女(をんな)の声(こゑ)、013何(なん)となく聞(き)き覚(おぼ)えのある感(かん)じがする。014ハテなア、015オー百舌彦(もずひこ)、016田加彦(たかひこ)、017汝(なんぢ)はそつと此(この)塀(へい)を乗(の)り越(こ)え、018中(なか)の様子(やうす)を探(さぐ)り吾(われ)等(ら)の前(まへ)に報告(はうこく)して呉(く)れ』
019 百舌彦(もずひこ)、020田加彦(たかひこ)は嬉(うれ)し気(げ)に打(う)ち諾(うなづ)き、021木伝(こづた)ふ猿(さる)か、022小蟹(ささがに)の蜘蛛(くも)の振舞(ふるまひ)逸早(いちはや)く、023ヒラリと塀(へい)を飛越(とびこ)えて、024庭先(にはさき)の木(き)の茂(しげ)みに姿(すがた)を隠(かく)し、025様子(やうす)を窺(うかが)ひつつありき。
026 ウラナイ教(けう)の教主(けうしゆ)と見(み)えて、027ぼつてり肥(こえ)た婆(ばば)一人(ひとり)、028雑水桶(ざふづをけ)に氷(こほり)のはつたやうな眼(め)をキヨロつかせながら中央(ちうあう)に控(ひか)へて居(ゐ)る。029七八(しちはち)人(にん)の宣伝使(せんでんし)らしき男女(だんぢよ)は、030孰(いづ)れも白内障(はくないしやう)か、031黒内障(こくないしやう)を病(や)んだ盲人(まうじん)の如(ごと)く、032表面(へうめん)眼(まなこ)はキロキロと光(ひか)りながら、033何(なに)も見(み)えぬと見(み)えて手探(てさぐ)りして巨大(きよだい)なる丼鉢(どんぶりばち)に麦飯(むぎめし)薯蕷汁(とろろじる)を多量(どつさり)に盛(も)り、034ツルリツルリと吸(す)うて居(ゐ)る。035二人(ふたり)の薬鑵頭(やくわんあたま)の禿爺(はげおやぢ)は、036頻(しき)りに摺鉢(すりばち)に山(やま)の薯(いも)を摺(す)つて居(ゐ)る。037これも何(ど)うやら盲人(めくら)らしく手探(てさぐ)りしつつ働(はたら)いて居(を)る。038二人(ふたり)は此(この)光景(くわうけい)を見(み)やり、
039田加彦『オイ百舌公(もずこう)、040此処(ここ)の奴(やつ)は何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も皆(みな)盲人(めくら)ばかりだと見(み)える。041大(おほ)きな丼鉢(どんぶりばち)に麦飯(むぎめし)薯蕷汁(とろろじる)をズルズルと啜(すす)つて居(を)るぢやないか、042俺(おれ)達(たち)も之(これ)を見(み)ると俄(にはか)に胃(ゐ)の腑(ふ)の格納庫(かくなふこ)が空虚(くうきよ)を訴(うつた)へ出(だ)したよ。043どうだ、044盲(めくら)を幸(さひは)ひにそつと一杯(いつぱい)頂戴(ちやうだい)して来(こ)ようぢやないか』
045 百舌彦(もずひこ)は、
046百舌彦『ソイツは面白(おもしろ)からう』
047と言(い)ひながら、048のそりのそりと足音(あしおと)を忍(しの)ばせ一同(いちどう)の前(まへ)に現(あら)はれ、049素知(そし)らぬ顔(かほ)して控(ひか)へて居(を)る。050禿爺(はげおやぢ)は丼鉢(どんぶりばち)に麦飯(むぎめし)薯蕷汁(とろろじる)を盛(も)り、
051爺『サアサアお代(かは)りが出来(でき)ました、052高姫(たかひめ)サン』
053とニウツと突(つ)き出(だ)す。054高姫(たかひめ)と云(い)ふ中年増(ちうどしま)のお多福(たふく)婆(ばば)は機械(きかい)人形(にんぎやう)のやうに両手(りやうて)を前(まへ)にさし出(だ)した。055折(をり)も折(をり)百舌彦(もずひこ)の面前(めんぜん)に突(つ)き出(だ)した丼鉢(どんぶりばち)を百舌彦(もずひこ)は作(つく)り声(ごゑ)をしながら、
056百舌彦『ハイ、057これは御(ご)馳走(ちそう)様(さん)、058もう一杯(いつぱい)下(くだ)さいな』
059 爺(おやぢ)は丼鉢(どんぶりばち)を百舌彦(もずひこ)に渡(わた)し、
060爺『よう上(あが)る高姫(たかひめ)サンぢや』
061と小声(こごゑ)に呟(つぶや)きながら又(また)探(さぐ)り探(さぐ)り台所(だいどころ)の方(はう)に帰(かへ)り往(ゆ)き、062一生(いつしやう)懸命(けんめい)に薯(いも)を摺(す)つて居(ゐ)る。
063高姫(たかひめ)『コレ松助(まつすけ)、064何処(どこ)に置(お)いたのだえ、065早(はや)く此方(こちら)へ渡(わた)して呉(く)れないか』
066 松助(まつすけ)は耳(みみ)遠(とほ)く盲(めくら)と来(き)て居(ゐ)るから、067何(なん)の容赦(ようしや)もなく一生(いつしやう)懸命(けんめい)に鼻(はな)を啜(すす)りつつ薯(いも)を摺(す)つて居(ゐ)る。068彼方(あちら)にも此方(こちら)にもミヅバナを啜(すす)るやうな声(こゑ)が、069ずうずうと聞(きこ)えて居(ゐ)る。
070 百舌彦(もずひこ)、071田加彦(たかひこ)は、072丼鉢(どんぶりばち)の両方(りやうはう)より噛(か)みつくやうに腹(はら)が減(へ)つたまま、073ツルツルと非常(ひじやう)な吸引力(きふいんりよく)で、074蟇蛙(ひきがへる)が鼬(いたち)を引(ひ)くやうに大口(おほぐち)開(あ)けて呑(の)み込(こ)んだ。075此(この)時(とき)松助(まつすけ)は又(また)探(さぐ)り探(さぐ)り麦飯(むぎめし)に薯蕷汁(とろろじる)を掛(かけ)た大丼鉢(おほどんぶりばち)を、076足許(あしもと)覚束(おぼつか)なげに、077川水(かはみづ)の中(なか)を歩(ある)くやうな体裁(ていさい)で、
078松助『サアサア高姫(たかひめ)サン、079お代(かは)りが出来(でき)ました』
080 田加彦(たかひこ)は又(また)もや作(つく)り声(ごゑ)をして、
081田加彦『アア松助(まつすけ)、082御(ご)苦労(くらう)であつた。083もう一杯(いつぱい)お代(かは)りを頼(たの)むよ』
084松助『ハイハイ、085もう薯(いも)のへたばかりじやが、086それでも宜(よろ)しければお上(あが)りなさいませ』
087と面(つら)膨(ふく)らし、088部屋(へや)に引返(ひきかへ)す。089高姫(たかひめ)は、
090高姫『コラコラ松助(まつすけ)、091未(ま)だ持(も)つて来(こ)ぬか、092何処(どこ)へ置(お)いたのだい』
093 田加彦(たかひこ)、094百舌彦(もずひこ)は矢庭(やには)に一杯(いつぱい)を平(たひら)げた。095傍(そば)に十数(じふすう)人(にん)の盲人(めくら)は、096丼鉢(どんぶりばち)を前(まへ)に据(す)ゑ、097一口(ひとくち)食(く)つては下(した)に置(お)き楽(たの)しんで居(を)る。
098 百舌彦(もずひこ)は甲(かふ)の丼鉢(どんぶりばち)をソツと乙(おつ)の前(まへ)に置(お)き、099乙(おつ)の丼鉢(どんぶりばち)を丙(へい)の前(まへ)に置(お)き、100丙(へい)の丼鉢(どんぶりばち)を高姫(たかひめ)の前(まへ)にソツと据(す)ゑた。
101甲(かふ)『まだ半分(はんぶん)余(あま)りはあつた積(つも)りだに何時(いつ)の間(ま)に此様(こんな)に減(へ)つて仕舞(しま)つたらう、102オイ貴様(きさま)俺(おれ)のを一緒(いつしよ)に平(たひら)げて仕舞(しま)つたな』
103乙(おつ)『馬鹿(ばか)を云(い)ふな、104俺(おれ)の丼鉢(どんぶりばち)を何処(どこ)かへやりよつたのだ。105自分(じぶん)は一人前(いちにんまへ)平(たひら)げて置(お)いて未(ま)だ他人(ひと)のまで取(と)つて食(く)うとは、106余(あんま)りぢやないか』
107と互(たがひ)に盲人(めくら)同志(どうし)の喧嘩(けんくわ)が始(はじ)まつた。108十数(じふすう)人(にん)の盲人(めくら)は、109取(と)られては一大事(いちだいじ)と丼鉢(どんぶりばち)を堅(かた)く握(にぎ)り、110下(した)にも置(お)かず、111ツルツルズルズルと吸(す)うて居(ゐ)る。112田加彦(たかひこ)は、113火鉢(ひばち)の灰(はい)を掴(つか)んで、114盲人(めくら)の丼鉢(どんぶりばち)に一摘(ひとつま)みづつソツと配(くば)つて廻(まは)つた。
115甲乙丙丁『ヤア何(な)んだ、116この丼鉢(どんぶりばち)の………俄(にはか)に薯蕷汁(とろろじる)の味(あぢ)が変(かは)つたやうだ。117他人(ひと)が盲人(めくら)だと思(おも)つて馬鹿(ばか)にしよるナ、118誰(たれ)か灰(はい)を入(い)れよつたわい』
119百舌彦(もずひこ)『ハイハイ、120左様(さやう)々々(さやう)』
121高姫(たかひめ)『ヤヽ、122誰(たれ)か声(こゑ)の違(ちが)ふ奴(やつ)が来(き)て居(ゐ)るらしい、123オイ皆(みな)の者(もの)気(き)をつけよ、124何(なん)だか最前(さいぜん)から怪(あや)しいと思(おも)つて居(ゐ)た。125俺(わし)は最前(さいぜん)から盲人(めくら)の真似(まね)をして居(を)れば、126何処(どこ)の奴(やつ)か知(し)らぬが、127二人(ふたり)のヒヨツトコ野郎(やらう)奴(め)、128要(い)らぬ悪戯(いたづら)をしよつた。129サアもう了見(れうけん)ならぬ、130家(うち)の爺(おやぢ)が酷(きつ)い肺病(はいびやう)で、131此処(ここ)に薯蕷汁(とろろじる)によう似(に)た痰(たん)が一杯(いつぱい)蓄(たくは)へてある。132之(これ)を食(くら)つてサツサと出(で)て失(う)せ』
133 百舌(もず)と田加(たか)は頭(あたま)を掻(か)きながら、
134百舌彦、田加彦『ヤア、135そいつは御免(ごめん)だ』
136高姫(たかひめ)『御免(ごめん)も糞(くそ)もあつたものか、137ヤアヤア長助(ちやうすけ)、138伴助(はんすけ)、139二人(ふたり)の者(もの)を縛(しば)つて了(しま)へ』
140長助、伴助『畏(かしこ)まつた』
141と次(つぎ)の間(ま)より、142現(あら)はれ出(い)でたる大(だい)の男(をとこ)、143出刃(でば)庖丁(ぼうちやう)を振(ふ)り翳(かざ)し、144二人(ふたり)に向(むか)つて迫(せま)り来(く)る。145高姫(たかひめ)も眉(まゆ)を逆立(さかだ)て、146出刃(でば)庖丁(ぼうちやう)を逆手(さかて)に持(も)ち、147三方(さんぱう)より二人(ふたり)に向(むか)つて斬(き)つてかかる。148百舌彦(もずひこ)、149田加彦(たかひこ)は丼鉢(どんぶりばち)を頭(あたま)に被(かぶ)りトントントンと表(おもて)を指(さ)して逃出(にげだ)す。150百舌彦(もずひこ)の被(かぶ)つた丼鉢(どんぶりばち)には爺(おやぢ)の吐(は)いた痰(たん)が一杯(いつぱい)盛(も)つてあつた。151頭(あたま)から痰(たん)を一(いつ)ぱい浴(あ)びたまま、152スタスタと表(おもて)を指(さ)して駆(か)け出(だ)す。153二人(ふたり)の荒男(あらをとこ)は大股(おほまた)に踏(ふ)ん張(ば)りながら二人(ふたり)の後(あと)を追(お)ひかけ来(きた)り、154澪(こぼ)れた痰(たん)につるりと辷(すべ)つて、155スツテンドウと仰向(あふむ)けに倒(たふ)れた。
156 高姫(たかひめ)は出刃(でば)を振(ふ)り翳(かざ)しながら表(おもて)に駆(か)け出(い)で、157二人(ふたり)の荒男(あらをとこ)に躓(つまづ)き、158バタリと転(こ)けた機(はづみ)に長助(ちやうすけ)の腹(はら)の上(うへ)に出刃(でば)を突(つ)き立(た)て、159長助(ちやうすけ)はウンと一声(いつせい)七転(しちてん)八倒(ばつたふ)、160のた打(う)ち廻(まは)る。161忽(たちま)ち館(やかた)の中(うち)は大騒動(おほさうどう)がおつ始(ぱじ)まりける。
162 田加彦(たかひこ)、163百舌彦(もずひこ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に駆(か)け出(だ)し、164道端(みちばた)の溜(たま)り池(いけ)にザンブと飛込(とびこ)み、165痰(たん)を洗(あら)ひ落(おと)さうとした。166此(この)水溜(みづため)は数多(あまた)の魚(うを)が囲(かこ)うてある。167鼬(いたち)や川獺(かはをそ)の襲来(しふらい)を防(ふせ)ぐために柚(ゆ)の木(き)の針(はり)だらけの枝(えだ)が一面(いちめん)に投(な)げ込(こ)んであつた。168二人(ふたり)はそれとも知(し)らず真裸(まつぱだか)となつて飛込(とびこ)み柚(ゆ)の木(き)の針(はり)に刺(さ)されて身体(からだ)一面(いちめん)に穴(あな)だらけとなり辛(から)うじて這(は)ひ上(あが)りメソメソ泣(な)き出(だ)してゐる。
169 婆(ばば)は眉(まゆ)を逆立(さかだ)て二本(にほん)の角(つの)を一寸(いつすん)許(ばか)り髪(かみ)の間(あひだ)より現(あら)はしながら此(この)場(ば)に現(あら)はれた。170二人(ふたり)が姿(すがた)を見(み)て心地(ここち)よげに打(う)ち笑(わら)ひ、171蹌跟(よろめ)く機(はづみ)に又(また)もや池(いけ)の中(なか)にザンブと斗(ばか)り落(お)ち込(こ)み、
172婆『アイタタアイタタ』
173と婆々(ばば)が悶(もだ)え苦(くる)しむ可笑(おか)しさ、174二人(ふたり)は真裸(まつぱだか)のまま、
175百舌彦、田加彦『態(ざま)ア見(み)やがれ』
176と云(い)ひつつ足(あし)をちがちがさせ田圃道(たんぼみち)を走(はし)つて往(ゆ)く。177安彦(やすひこ)、178国彦(くにひこ)、179道彦(みちひこ)の三(さん)人(にん)は素知(そし)らぬ顔(かほ)して宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひつつこの池(いけ)の傍(かたはら)を通(とほ)り過(す)ぎむとするや、180池(いけ)の中(なか)より高姫(たかひめ)は掌(て)を合(あは)し、181頻(しき)りに助(たす)けを呼(よ)んで居(ゐ)る。182三(さん)人(にん)の宣伝使(せんでんし)は気(き)の毒(どく)さに耐(た)へ兼(か)ね、183漸(やうや)くにして高姫(たかひめ)を救(すく)ひあげた。184高姫(たかひめ)は大(おほい)に喜(よろこ)び三(さん)人(にん)に向(むか)つて救命(きうめい)の大恩(たいおん)を感謝(かんしや)したりける。
185 此(この)時(とき)逃(に)げ去(さ)つた百舌(もず)、186田加(たか)二人(ふたり)の男(をとこ)は真裸(まつぱだか)の儘(まま)慄(ふる)ひ慄(ふる)ひ此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、
187百舌彦、田加彦『モシモシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、188寒(さむ)くつて耐(たま)りませぬワ、189何(ど)うぞウラナイ教(けう)の婆(ば)アサンに適当(てきたう)な着物(きもの)を貰(もら)つて下(くだ)さいな。190ナア婆(ば)アサン、191お前(まへ)も宣伝使(せんでんし)のお蔭(かげ)で命拾(いのちびろ)ひをしたのだから着物(きもの)位(ぐらゐ)進上(しんじやう)なさつても安(やす)いものだらう』
192安彦(やすひこ)『ヤア吾々(われわれ)は着物(きもの)の如(ごと)きものは必要(ひつえう)が御座(ござ)らぬ。193平(ひら)にお断(ことわ)り申(まを)します』
194国(くに)、195道(みち)『吾々(われわれ)も同様(どうやう)、196衣服(いふく)なんか必要(ひつえう)が御座(ござ)らぬ』
197百舌彦(もずひこ)『エヽ気(き)の利(き)かぬ宣伝使(せんでんし)だな、198此処(ここ)に二人(ふたり)も着物(きもの)の要(い)る御(お)方(かた)が御座(ござ)るのが目(め)につきませぬかい』
199道彦(みちひこ)『吾々(われわれ)はウラナイ教(けう)の信者(しんじや)になつたと見(み)え、200薩張(さつぱり)明盲人(あきめくら)になつて仕舞(しま)つたよ。201アハヽヽヽヽ』
202高姫(たかひめ)『お前(まへ)等(ら)は、203ノソノソと吾(わ)が座敷(ざしき)に這(は)ひ込(こ)み、204薯蕷汁(とろろ)を二三杯(にさんばい)もソツと横領(わうりやう)して喰(く)ひ、205其(その)上(うへ)大勢(おほぜい)の盲人(めくら)を附(つ)け込(こ)み、206薯蕷汁(とろろ)の中(なか)に灰(はい)を掴(つま)んで入(い)れた不届(ふとど)きの奴(やつ)ぢや、207着物(きもの)をやる処(どころ)ぢやないが、208併(しか)し生命(いのち)を救(たす)けてもらつた其(その)お礼(れい)として、209長公(ちやうこう)、210伴公(はんこう)の死人(しにん)の着物(きもの)を呉(く)れてやらうか』
211道彦(みちひこ)『これやこれや、212貴様(きさま)等(ら)二人(ふたり)は薯蕷汁(とろろ)を盗(ぬす)み食(く)つたのか』
213百舌彦(もずひこ)『ハイ、214トロロウをやりました。215其(その)代(かは)り酷(ひど)い目(め)に遭(あ)つたんぢや、216汚(きたな)い物(もの)を頭(あたま)に被(かぶ)つたんぢや。217盲人(めくら)を瞞(だま)して薯蕷汁(とろろ)を多量(どつさり)食(く)つたんじや、218それから長公(ちやうこう)伴公(はんこう)に追(お)ひかけられてタンタンタンと一生(いつしやう)懸命(けんめい)逃(に)げたんじや。219門口(かどぐち)で長公(ちやうこう)伴公(はんこう)が転倒(ひつくりかへ)つたんぢや、220其処(そこ)へ婆(ばば)が飛(と)んで来(き)て転(こ)けたんぢや、221倒(こ)けた拍子(へうし)に長公(ちやうこう)のどん腹(ばら)を突(つ)いたんぢや、222二人(ふたり)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)、223痰(たん)の体(からだ)を清(きよ)めんと溜池(ためいけ)に矢庭(やには)に飛込(とびこ)んたんぢや、224柚(ゆ)の針(はり)に身体(からだ)を突(つ)かれて痛(いた)かつたんぢや、225たんたんと立派(りつぱ)な着物(きもの)を頂戴(ちやうだい)致(いた)し度(た)いもんぢや、226なア田加(たか)たん』
227 道彦(みちひこ)は吹(ふ)き出(だ)し、
228道彦『アハヽヽヽ、229身魂(みたま)の汚(きたな)い奴(やつ)ぢやなア、230貴様(きさま)は之(これ)から改心(かいしん)を致(いた)してウラナイ教(けう)の盲人(めくら)仲間(なかま)に入(い)れて貰(もら)うと都合(つがふ)がよからう。231モシモシお婆(ば)アサン此(これ)等(ら)二人(ふたり)は三五教(あななひけう)の教理(けうり)は到底(たうてい)高遠(かうゑん)にして体得(たいとく)する事(こと)は出来(でき)ませぬ、232善(ぜん)とも悪(あく)とも愚(おろか)とも訳(わけ)の分(わか)らぬ半(はん)ドロ的(てき)の人間(にんげん)ですから、233ウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)にでもお使(つか)ひ下(くだ)さらば最(もつと)も適任(てきにん)でせう』
234婆(ばば)『それはそれは誠(まこと)に有難(ありがた)い御(おん)仰(あふ)せ、235ウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)には至極(しごく)適当(てきたう)の人物(じんぶつ)、236幾何(いくら)で売(う)つて下(くだ)さいますか』
237道彦(みちひこ)『サア、238ほんの残(のこ)り者(もの)の未成品(みせいひん)もので御座(ござ)いますから、239無料(ただ)にまけて置(お)きます。240米(こめ)や麦(むぎ)を食(た)べさして貰(もら)うと胃(ゐ)を損(そこ)ねますから、241身魂(みたま)相当(さうたう)に鰌(どぢやう)や蛙(かわづ)で飼(か)うてやつて下(くだ)さい、242アハヽヽヽ』
243婆(ばば)『オホヽヽヽ』
244(大正一一・四・一 旧三・五 加藤明子録)
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