霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 奇(くし)の岩窟(がんくつ)〔五八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第3篇 神山霊水 よみ(新仮名遣い):しんざんれいすい
章:第14章 奇の岩窟 よみ(新仮名遣い):くしのがんくつ 通し章番号:581
口述日: 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
実は娘は木花姫命の化身であり、高国別の心を固めようとして問答を仕掛けたり、引っ掛け戻しをしたりしていたのであった。
木花姫命は、岩窟を探検して魔神に悩まされる多数の生霊を救うように、と高国別に命じて姿を消した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-16 01:48:45 文字数:3186 OBC :rm1514
愛善世界社版:174頁 八幡書店版:第3輯 344頁 修補版: 校定版:174頁 普及版:79頁 初版: ページ備考:
001 高国別(たかくにわけ)はドサリと陥穽(おとしあな)に落(お)ち込(こ)んだ。002以前(いぜん)の女(をんな)、003又(また)もや追掛(おひかけ)来(きた)り、
004女『ホヽヽヽヽ』
005と笑(わら)ひ乍(なが)ら、006何時(いつ)の間(ま)にか金線(きんせん)を吊(つ)り下(お)ろし、007高国別(たかくにわけ)の腮(あご)に引(ひ)つかけ、008振釣瓶(ふりつるべ)を手繰(たぐ)る様(やう)にプリンプリンと引(ひ)き上(あ)げる。009高国別(たかくにわけ)は喉(のど)締(し)め上(あ)げられ、010又(また)もや旧(もと)の穴(あな)の口(くち)に上(あが)つて来(き)た。
011女『ホヽヽヽヽ、012あのマア蒼(あを)いお顔(かほ)』
013高国別(たかくにわけ)『エー、014又(また)しても又(また)しても、015能(よ)く悪戯(いたづら)をする女(をんな)だなア。016繊弱(かよわ)き女(をんな)の分際(ぶんざい)として荒男(あらをとこ)の腮(あご)に綱(つな)を掛(か)け、017引(ひ)き上(あげ)るとは不届(ふとどき)千万(せんばん)な、018飽迄(あくまで)も図々(づうづう)しい奴(やつ)だ。019見(み)た割(わ)りとは力(ちから)の強(つよ)い女(をんな)だなア』
020女『オホヽヽヽ、021何処(どこ)までも執着心(しふちやくしん)の綱(つな)は離(はな)れませぬよ。022此(この)者(もの)と見込(みこ)みを付(つ)けて神(かみ)が綱(つな)を掛(か)けたら放(はな)さぬぞよ、023引掛(ひつかけ)戻(もど)しの此(この)仕組(しぐみ)、024開(あ)いた口(くち)が閉(すぼ)まるまいがな』
025高国別『人(ひと)の腮太(あごた)に堅(かた)い堅(かた)い金線(きんせん)を引掛(ひきか)けよつて開(あ)いた口(くち)が閉(すぼ)んで仕舞(しま)つた哩(わい)、026コウ之(これ)見(み)よコンナ型(かた)がつきよつた』
027女『喉(のど)の型(かた)はついたが妾(わたし)のかたは、028如何(どう)してつけて下(くだ)さる』
029高国別『エー、030五月蝿(うるさ)い奴(やつ)だ、031かたをつけるも、032つけぬも有(あ)つたものかい。033貴様(きさま)と俺(おれ)とは夫婦(ふうふ)でも無(な)ければ味方(みかた)でも無(な)い、034又(また)不倶(ふぐ)戴天(たいてん)の敵(かたき)でも無(な)いのだ。035あまりチヨツカイを出(だ)すと将来(しやうらい)の為(た)めにならぬぞ』
036女『貴方(あなた)、037ちつと見方(みかた)が違(ちが)ひは致(いた)しませぬか、038堅(かた)き誠(まこと)の心(こころ)を以(もつ)て飽迄(あくまで)も神(かみ)の道(みち)を進(すす)まねばなりますまい。039軽挙(けいきよ)妄動(もうどう)を慎(つつし)み慎重(しんちよう)の態度(たいど)を以(もつ)て神(かみ)の道(みち)に仕(つか)ふるが貴方(あなた)のお役(やく)』
040高国別『エー味方(みかた)が違(ちが)ふの、041敵(かたき)が違(ちが)ふのと、042あた八釜(やかま)しい哩(わい)、043一体(いつたい)貴様(きさま)は何者(なにもの)だ、044如何(どう)も腑(ふ)に落(お)ちぬ代物(しろもの)だなア』
045女『妾(わらは)は腑(ふ)に落(お)ちぬ代物(しろもの)か知(し)りませぬが、046貴方(あなた)は穴(あな)に落(お)ちる代物(しろもの)だ。047ホヽヽヽ、048一寸(ちよつと)当(あ)てて御覧(ごらん)、049妾(わらは)の正体(しやうたい)が分(わか)らぬ様(やう)な事(こと)で、050如何(どう)して此(この)地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)が探険(たんけん)出来(でき)ませうか。051第一(だいいち)着手(ちやくしゆ)として妾(わらは)の素性(すじやう)を能(よ)く審神(さには)して下(くだ)さい』
052高国別『吁(あゝ)、053邪魔臭(じやまくさ)いな、054お前(まへ)の方(はう)から「妾(わらは)は何々(なになに)の何々(なになに)じや」と自白(じはく)せぬかい。055さうしたら此(この)方(はう)が正(せい)か邪(じや)か、056真(しん)か偽(ぎ)かと言(い)ふ事(こと)を審神(さには)して与(や)るのだ』
057女『ホヽヽヽヽ、058デモ審神者(さには)の、059探(さぐ)り審神者(さには)の、060ヘボ審神者(さには)サン、061妾(わらは)のネームを聞(き)かねば審神(さには)が出来(でき)ませぬか、062貴方(あなた)には神(かみ)様(さま)の御(ご)守護(しゆご)は零(ゼロ)ですな』
063高国別『何(なん)だ、064審神者(さには)には審神者(さには)としての権能(けんのう)があるのだ、065人(ひと)に物(もの)を尋(たづ)ねるのに何故(なぜ)自分(じぶん)のネームを名告(なの)らないのか、066「妾(わらは)は何(なに)か当(あ)てて御覧(ごらん)」ナンテ、067まるで十字街(じふじがい)に立(たつ)てる旅人(たびびと)が「俺(わし)は何方(どちら)へ行(ゆ)くか知(し)つてますか」と尋(たづ)ねる様(やう)なものだ。068ソンナ理窟(りくつ)が何処(どこ)にあるかい、069早(はや)く名告(なの)らないか』
070女『ホヽヽヽヽ、071お前(まへ)サンは丁度(ちやうど)「私(わたし)の行(ゆ)く処(ところ)は何処(どこ)で御座(ござ)います」と、072人(ひと)に訊(たづ)ねる様(やう)な審神者(さには)だ。073ソンナ審神者(さには)が如何(どう)して地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)が探険(たんけん)出来(でき)ませうぞ。074妾(わらは)の素性(すじやう)がはつきり分(わか)る迄(まで)、075千遍(せんべん)でも万遍(まんべん)でも綱(つな)を掛(か)けて引掛(ひつかけ)戻(もど)しをしますから覚悟(かくご)をなさいませ、076ホヽヽヽ』
077高国別『アーア「進退(しんたい)維(こ)れ谷(きは)まる」とは茲(ここ)の事(こと)だ、078黐桶(とりもちをけ)へ足(あし)をつツ込(こ)んだ様(やう)な者(もの)だ、079困(こま)つたな。080オイオイ女(をんな)、081良(い)い加減(かげん)に洒落(しやれ)て置(お)いたら如何(どう)だ、082神界(しんかい)の御(ご)経綸(けいりん)の妨害(ばうがい)致(いた)すと為(た)めにならぬぞ。083如何(どう)だ、084神界(しんかい)へ汝(なんぢ)の罪(つみ)を奏上(そうじやう)致(いた)さうか』
085女『何(なん)と言(い)つても放(はな)しはせぬ、086いや一寸(ちよつと)も動(うご)かしはせぬ、087動(うご)くなら動(うご)いて御覧(ごら)うじ、088ホヽヽヽヽ』
089高国別『アーア、090仕方(しかた)が無(な)いなア、091いやもう何(いづ)れの神(かみ)か知(し)りませぬが、092トコトン往生(わうじやう)致(いた)しました。093何卒(どうぞ)今迄(いままで)の御(ご)無礼(ぶれい)、094お気障(きざはり)は千万(せんばん)御座(ござ)いませうとも、095広(ひろ)き厚(あつ)き大御心(おほみこころ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し下(くだ)さいまして御(ご)勘弁(かんべん)を願(ねが)ひます。096鼻(はな)の高国別(たかくにわけ)も斯(こ)うなつちや台(だい)なしだ、097此(この)鼻(はな)は薩張(さつぱ)り常世城(とこよじやう)の鷹取別(たかとりわけ)ぢやないがベシヤベシヤだ』
098女『ホヽヽヽヽ、099此鼻(このはな)々々(このはな)、100不細工屋(ぶさいくや)姫(ひめ)の低国別(ひくくにわけ)サン、101合点(がてん)がゆきましたか』
102高国別『オヽヽ、103いつたいつた、104いやもう、105ずんと合点(がてん)がいつた哩(わい)』
106女『ソンナラ当(あ)てて御覧(ごらん)』
107高国別『マアマア矢(や)つ張(ぱり)女(をんな)ぢや。108怪体(けつたい)な訳(わけ)の分(わか)らぬ女神(めがみ)だな』
109女『妾(わたし)のネームは何(なん)と申(まを)しますか』
110高国別『サア何(なん)と申(まを)して好(よ)いやら、111一向(いつかう)合点(がてん)がゆかぬ、112大方(おほかた)お前(まへ)サンはジユピターの神(かみ)であらう』
113 女(をんな)は首(くび)を左右(さいう)に振(ふ)り、
114女『違(ちが)う違(ちが)う』
115高国別『ソンナラ、116ジユピターの神(かみ)のシスターだらう』
117女『違(ちが)う違(ちが)う』
118高国別『アポロの女神(めがみ)か、119アテーナの女神(めがみ)か、120あてなア、121合点(がてん)の往(ゆ)かぬ事(こと)だ』
122女『お前(まへ)も余(よ)つ程(ぽど)アポーロ(阿呆(あほう))の男神(をがみ)だよ、123オホヽヽヽ』
124高国別『アヽ斯(こ)うなると天下(てんか)の審神者(さには)は並(なみ)や大抵(たいてい)では無(な)い哩(わい)』
125女『さうさ、126俄(にはか)信心(しんじん)の俄(にはか)審神者(さには)では此(この)女神(めがみ)の正体(しやうたい)は分(わか)りますまい』
127と鼻(はな)をチヨンと抑(おさ)へて見(み)せた。128高国別(たかくにわけ)は忽(たちま)ち大地(だいち)に平伏(へいふく)し、
129高国別『之(これ)は之(これ)は御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました。130いやもう梅花(ばいくわ)の春陽(しゆんやう)に会(あ)うて一度(いちど)にパツと開(ひら)く如(ごと)く爛漫(らんまん)たる桜花(おうくわ)の如(ごと)く心(こころ)の暗(やみ)は開(ひら)けました。131貴神(あなた)は天教山(てんけうざん)に坐(ま)します木花姫(このはなひめ)の命(みこと)様(さま)』
132と両手(りやうて)を合(あは)せて拝跪(はいき)する。133忽(たちま)ち空中(くうちう)に微妙(びめう)の音楽(おんがく)聞(きこ)え、134馥郁(ふくいく)たる梅花(ばいくわ)の香(にほひ)、135鼻(はな)に迫(せま)るよと見(み)る間(ま)に如何(いかが)はしけむ、136女神(めがみ)の姿(すがた)は煙(けぶり)と消(き)えて、137野路(のぢ)を吹(ふ)き渡(わた)る風(かぜ)に雪(ゆき)さへ交(まじ)つてちらつき初(はじ)めた。
138 此(この)時(とき)捩鉢巻(ねじはちまき)、139襷(たすき)十文字(じふもんじ)に綾(あや)どり、140息(いき)せききつて此(この)場(ば)に現(あら)はれた一人(ひとり)の男(をとこ)、141大地(だいち)にピタリと頭(かしら)を下(さ)げ、
142男『もうしもうし、143高国別(たかくにわけ)の神(かみ)様(さま)、144カナンの家(うち)に御(ご)逗留(とうりう)遊(あそ)ばす立派(りつぱ)なお方(かた)から、145大事変(だいじへん)が突発(とつぱつ)したから貴神(あなた)様(さま)を呼(よ)んで来(こ)いと仰(あふ)せられました。146サア一(いち)時(じ)も早(はや)く私(わたし)の後(あと)についてお帰(かへ)り下(くだ)さいませ。147タヽヽ大変(たいへん)な事(こと)が出来(でき)ました』
148高国別『ナニ、149須佐之男(すさのを)之(の)尊(みこと)様(さま)が某(それがし)に帰(かへ)れと仰有(おつしや)つたか、150はて、151合点(がてん)の往(ゆ)かぬ事(こと)だワイ』
152と双手(もろて)を組(く)んで小丘(こをか)の上(うへ)に端坐(たんざ)した儘(まま)考(かんが)へ込(こ)んで居(ゐ)る。153地底(ちてい)よりは何者(なにもの)の声(こゑ)とも知(し)らぬ、
154怒鳴り声『ヤアヤア、155高国別(たかくにわけ)、156何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)して居(ゐ)る、157早(はや)く地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)へ這入(はい)つて来(こ)ないか、158岩窟内(がんくつない)には大惨事(だいさんじ)が突発(とつぱつ)致(いた)して居(ゐ)るぞ。159人(ひと)を救(すく)ふは宣伝使(せんでんし)の役(やく)だ、160数十(すうじふ)人(にん)の生霊(いきりやう)をみすみす見殺(みごろ)しに致(いた)すか』
161と呶鳴(どな)り声(ごゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。
162 男(をとこ)は、
163男『もしもし高国別(たかくにわけ)サン、164大神(おほかみ)の御(ご)命令(めいれい)で御座(ござ)います、165サアサア早(はや)く御(お)越(こ)し下(くだ)さいませ。166神(かみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)には一(いち)時(じ)も早(はや)く立帰(たちかへ)れ、167愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)さば主従(しゆじゆう)の縁(えん)をきるとの厳(きび)しき御(おん)仰(あふ)せ、168サア早(はや)くお越(こ)し下(くだ)さい』
169 地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)より、
170声『ヤア高国別(たかくにわけ)、171汝(なんぢ)は数十(すうじふ)人(にん)の生霊(せいれい)を見殺(みごろ)しに致(いた)す所存(しよぞん)か、172宣伝使(せんでんし)の天職(てんしよく)を何(なん)と心得(こころえ)て居(ゐ)る。173九死(きうし)一生(いつしやう)の場合(ばあひ)だ、174一刻(いつこく)も早(はや)く岩窟(がんくつ)に侵入(しんにふ)して人命(じんめい)を救(すく)へ』
175男『もしもし何卒(どうぞ)早(はや)くお帰(かへ)り下(くだ)さい、176大神(おほかみ)様(さま)の一大事(いちだいじ)』
177高国別『大神(おほかみ)様(さま)の一大事(いちだいじ)とは如何(いか)なる事(こと)が突発(とつぱつ)いたしたか、178詳細(まつぶさ)に物語(ものがた)れよ』
179 男(をとこ)は、
180男『大神(おほかみ)様(さま)には数百(すうひやく)人(にん)のウラナイ教(けう)の魔神(まがみ)に十重(とへ)二十重(はたへ)に取囲(とりかこ)まれ、181衆寡(しうくわ)敵(てき)せず御(ご)身辺(しんぺん)刻々(こくこく)に危機(きき)に瀕(ひん)し給(たま)ふ。182早(はや)く早(はや)くお帰(かへ)り遊(あそ)ばせ、183時(とき)遅(おく)れては一大事(いちだいじ)、184必(かなら)ず必(かなら)ず躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)して呑臍(どんぜい)の悔(くい)を貽(のこ)し給(たま)ふな』
185 地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)より、
186声『ヤアヤア高国別(たかくにわけ)、187数十(すうじふ)人(にん)の生霊(いきりやう)を見殺(みごろ)しに致(いた)す所存(しよぞん)か、188疾(と)く来(きた)りて可憐(かれん)なる彼(かれ)等(ら)の生命(いのち)を救(すく)へ』
189と両方(りやうはう)より絞木(しめぎ)にかかつた高国別(たかくにわけ)はホツと一息(ひといき)、190兎(と)やせん斯(か)くや詮術(せんすべ)もなくなく涙(なみだ)に暮(く)れて居(ゐ)る。191忠(ちう)と仁(じん)との板挟(いたばさ)みになつた高国別(たかくにわけ)は忠(ちう)ならむとすれば仁(じん)ならず、192仁(じん)ならむとすれば忠(ちう)ならず、193心(こころ)は宙(ちう)に岡(をか)の上(うへ)、194双手(もろて)を組(く)んで深(ふか)き思案(しあん)に沈(しづ)み居(ゐ)る。195地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)よりは阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)の声(こゑ)、196益々(ますます)烈(はげ)しく手(て)にとる如(ごと)く耳朶(じだ)をうつた。
197高国別『アヽ如何(いか)にせむ、198彼方(あちら)たてれば此方(こちら)がたたぬ、199此方(こちら)たてれば彼方(あちら)がたたぬ、200両方(りやうはう)たつれば身(み)がたたぬ』
201と両刃(もろは)の剣(けん)を執(と)るより早(はや)く両肌(もろはだ)を脱(ぬ)いで、202左(ひだり)の脇腹(わきばら)にグツと突(つ)き立(た)てむとする折(をり)しもあれ、203忽然(こつぜん)として此(この)場(ば)に現(あら)はれたる以前(いぜん)の女神(めがみ)、204忽(たちま)ち高国別(たかくにわけ)が右手(みぎて)をグツト抑(おさ)へて動(うご)かさず。205高国別(たかくにわけ)は身(み)を藻掻(もが)き手(て)を振(ふ)り放(はな)ち、206又(また)もや両刃(もろは)の剣(つるぎ)を我(わが)脇腹(わきばら)に突(つ)き立(た)てむとする折(をり)しも、207以前(いぜん)の女神(めがみ)は飛鳥(ひてう)の如(ごと)く飛(と)びかかり、208両刃(もろは)の剣(つるぎ)を手早(てばや)くもぎ取(と)り声(こゑ)厳(おごそ)かに、
209女神『汝(なんぢ)は忠(ちう)と仁(じん)との分水嶺(ぶんすゐれい)に立(た)ち其(その)去就(きよしう)に迷(まよ)ひ、210今(いま)や自(みづか)ら身(み)を殺(ころ)さむとせしは不覚(ふかく)の至(いた)りなり、211先(ま)づ先(ま)づ心(こころ)を落付(おちつ)けよ。212神(かむ)須佐之男(すさのを)の大神(おほかみ)は御(ご)安泰(あんたい)に坐(ま)しますぞ、213汝(なんぢ)が真心(まごころ)を試(ため)さむ為(た)め、214木花姫(このはなひめ)之(の)命(みこと)身(み)を変(へん)じて迎(むか)への男(をとこ)となり、215所存(しよぞん)の臍(ほぞ)を固(かた)めしめむとなしたる神業(かむわざ)なり。216須佐之男(すさのをの)尊(みこと)は神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の神力(しんりき)在(おは)しませば心慮(しんりよ)を煩(わづら)はすに及(およ)ばず、217一(いち)時(じ)も早(はや)く地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)に落(お)ちて、218魔神(まがみ)に悩(なや)まされつつある数多(あまた)の生霊(せいれい)を救(すく)へ』
219と言葉(ことば)終(をは)ると共(とも)に女神(めがみ)の姿(すがた)も男(をとこ)の影(かげ)も煙(けぶり)の如(ごと)く消(き)え失(う)せた。220高国別(たかくにわけ)は地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)目蒐(めが)けて身(み)を躍(をど)らしヒラリと飛(と)び込(こ)んだ。221岩窟(がんくつ)は意外(いぐわい)に広(ひろ)く幾十丁(いくじつちやう)ともなく前方(ぜんぱう)に開展(かいてん)して居(ゐ)る。222高国別(たかくにわけ)は足(あし)を速(はや)め神歌(しんか)を歌(うた)ひ乍(なが)ら先(さき)へ先(さき)へと進(すす)んで行(ゆ)く。
223(大正一一・四・三 旧三・七 北村隆光録)
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