霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
第1章 富士山
第2章 葱節
第3章 破軍星
第4章 素破抜
第5章 松の下
第6章 手料理
第2篇 青垣山内
第7章 五万円
第8章 梟の宵企
第9章 牛の糞
第10章 矢田の滝
第11章 松の嵐
第12章 邪神憑
第3篇 阪丹珍聞
第13章 煙の都
第14章 夜の山路
第15章 盲目鳥
第16章 四郎狸
第17章 狐の尾
第18章 奥野操
第19章 逆襲
第20章 仁志東
第4篇 山青水清
第21章 参綾
第22章 大僧坊
第23章 海老坂
第24章 神助
第25章 妖魅来
霊の礎(九)
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
サイトをリニューアルしました(
従来バージョンはこちら
)【新着情報】
(
サブスク
のお知らせ)
霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第37巻(子の巻)
> 第1篇 安閑喜楽 > 第2章 葱節
<<< 富士山
(B)
(N)
破軍星 >>>
第二章
葱節
(
ねぶかぶし
)
〔一〇一四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第1篇 安閑喜楽
よみ(新仮名遣い):
あんかんきらく
章:
第2章 葱節
よみ(新仮名遣い):
ねぶかぶし
通し章番号:
1014
口述日:
1922(大正11)年10月08日(旧08月18日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
青垣山を四方にめぐらした山陰道の喉首口、丹波の亀岡にほど近い曽我部村の大字穴太は、瑞月王仁の生地である。
この地に生を享けてほとんど二十七年は夢のごとくに過ぎ去り、二十八歳を迎えた明治三十一年如月の八日、浄瑠璃のけいこ友達と知己の家で葱節をどなっていた。
そのとき、宮相撲をとっていた若錦という男が数名の侠客を引き連れて演壇にのぼり、瑞月を担いで桑畑の中へ連れて行き、打つ、殴る、蹴るなどの暴行を加えた。
嘘勝ら瑞月の友人が喧嘩に入り込んで乱闘を始め、宮錦らを追い散らした。瑞月は割木で頭を殴られ、頭が重く、友人らに助けられて自分の精乳館に連れてこられた。
寝込んでいると母がやってきて夜具をまくり、昨晩の喧嘩のことが知られてしまった。母は、父が亡くなったせいで近所の者に侮られるのだと加害者を恨んでいたが、これを聞くと自分も気の毒になり、傷の痛みはどこかへ逃げてしまった。
実際には自分が侠客気取りで喧嘩の仲裁をして回ったり、弟が賭場に入っていたのを引き出したりことから、あたりで鳴らしていた侠客の親分・勘吉に睨まれたことが原因であった。
そうして侠客の娘・多田琴とわりない仲になり、琴の父・亀について侠客の道を学んでいた。亀は瑞月を自分の後継ぎにしようと考えていた。
自分は貧家に生まれて、強者が弱者に対する横暴を非常に不快に感じ、憤っていた。父が亡くなってからはその思いが吹き出し、侠客と命がけのやり取りをして彼らをへこませていたから、睨まれていた。
もしも神様の御用をしなかったら、三十四五までにたたき殺されていたかもしれないと思うと、神様の御恩がしみじみとありがたくなってきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-16 14:26:47
OBC :
rm3702
愛善世界社版:
23頁
八幡書店版:
第7輯 38頁
修補版:
校定版:
24頁
普及版:
9頁
初版:
ページ備考:
001
西
(
にし
)
は
半国
(
はんごく
)
東
(
ひがし
)
は
愛宕
(
あたご
)
002
南
(
みなみ
)
妙見
(
めうけん
)
北
(
きた
)
帝釈
(
たいしやく
)
の
003
山
(
やま
)
の
屏風
(
びやうぶ
)
を
引
(
ひ
)
きまはし
004
中
(
なか
)
の
穴太
(
あなを
)
で
牛
(
うし
)
を
飼
(
か
)
ふ
005
青垣山
(
あをがきやま
)
を
四方
(
しはう
)
に
回
(
めぐ
)
らした
山陰道
(
さんいんだう
)
の
喉首口
(
のどくびぐち
)
、
006
丹波
(
たんば
)
の
亀岡
(
かめをか
)
に
程
(
ほど
)
近
(
ちか
)
き、
007
曽我部
(
そがべ
)
村
(
むら
)
の
大字
(
おほあざ
)
穴太
(
あなを
)
は
瑞月
(
ずゐげつ
)
王仁
(
おに
)
が
生地
(
せいち
)
である。
008
賤ケ伏屋
(
しづがふせや
)
009
に
産声
(
うぶごゑ
)
を
上
(
あ
)
げてより
殆
(
ほとん
)
ど
廿七
(
にじふしち
)
年
(
ねん
)
夢
(
ゆめ
)
の
如
(
ごと
)
くに
過
(
す
)
ぎ
去
(
さ
)
り、
010
廿八
(
にじふはつ
)
歳
(
さい
)
を
迎
(
むか
)
へた
明治
(
めいぢ
)
卅一
(
さんじふいち
)
年
(
ねん
)
の
如月
(
きさらぎ
)
の
八日
(
やうか
)
、
011
半
(
はん
)
円
(
ゑん
)
の
月
(
つき
)
は
皎々
(
かうかう
)
として
天空
(
てんくう
)
に
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り、
012
地上
(
ちじやう
)
には
馥郁
(
ふくいく
)
たる
梅花
(
ばいくわ
)
の
薫
(
かほ
)
り、
013
冷
(
つめた
)
き
風
(
かぜ
)
に
送
(
おく
)
られて
床
(
ゆか
)
しく、
014
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
も
華
(
はな
)
やかに
何
(
なん
)
となく
春
(
はる
)
を
迎
(
むか
)
へた
気分
(
きぶん
)
に
漂
(
ただよ
)
ふ。
015
瑞月
(
ずゐげつ
)
は
其
(
その
)
頃
(
ころ
)
事業
(
じげふ
)
の
閑暇
(
かんか
)
に
浄瑠璃
(
じやうるり
)
を
唸
(
うな
)
る
事
(
こと
)
を
以
(
もつ
)
て
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
楽
(
たのし
)
みとして
居
(
ゐ
)
た。
016
浪華
(
なには
)
の
地
(
ち
)
より
下
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
た
吾妻
(
あづま
)
太夫
(
だいふ
)
といふ
盲目
(
めくら
)
の
男
(
をとこ
)
の
師匠
(
ししやう
)
に、
017
終日
(
しうじつ
)
の
業
(
げふ
)
を
済
(
す
)
ませ、
018
三味
(
さみ
)
は
無
(
な
)
けれども
叩
(
たた
)
きにて
節
(
ふし
)
を
仕込
(
しこ
)
まれて
居
(
ゐ
)
た。
019
今宵
(
こよひ
)
は
浄瑠璃
(
じやうるり
)
の
稽古
(
けいこ
)
友達
(
ともだち
)
の
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
、
020
温習会
(
おんしふくわい
)
を
催
(
もよほ
)
すべく、
021
大石
(
おほいし
)
某
(
ぼう
)
と
云
(
い
)
ふ
知己
(
ちき
)
の
家
(
いへ
)
で
女
(
をんな
)
義太夫
(
ぎだいふ
)
を
雇
(
やと
)
ひ
来
(
きた
)
り、
022
ベラベラ
三味線
(
さみせん
)
をひかせ
乍
(
なが
)
ら、
023
葱節
(
ねぶかぶし
)
を
得意気
(
とくいげ
)
になつて
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
024
下手
(
へた
)
の
横好
(
よこず
)
きとか
云
(
い
)
つて、
025
最初
(
さいしよ
)
の
露払
(
つゆばらひ
)
を
勤
(
つと
)
めたのは
瑞月
(
ずゐげつ
)
で、
026
鏡山
(
かがみやま
)
又助
(
またすけ
)
館
(
やかた
)
の
段
(
だん
)
を、
027
汗
(
あせ
)
みどろになつて
語
(
かた
)
り
終
(
をは
)
り、
028
其
(
その
)
外
(
ほか
)
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
天狗
(
てんぐ
)
連
(
れん
)
の、
029
竹筒
(
たけづつ
)
を
吹
(
ふ
)
いた
様
(
やう
)
な
奴拍子
(
どびやうし
)
のぬけた
声
(
こゑ
)
の
浄瑠璃
(
じやうるり
)
が
止
(
や
)
むと、
030
再
(
ふたた
)
び
三
(
さん
)
月
(
ぐわつ
)
の
菱餅
(
ひしもち
)
を
二
(
ふた
)
つに
切
(
き
)
つた
様
(
やう
)
な
硬々
(
こわごわ
)
した
角立
(
かどだ
)
つたものを
着
(
き
)
せられ、
031
破
(
やぶ
)
れ
扇
(
あふぎ
)
をたたいて
唸
(
うな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
032
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
太閤記
(
たいかふき
)
の
十段目
(
じふだんめ
)
光秀
(
みつひで
)
が『
夕顔棚
(
ゆふがほだな
)
の
此方
(
こなた
)
より
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる………』と
云
(
い
)
ふ
正念場
(
しやうねんば
)
であつた。
033
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
小
(
ちひ
)
さき
百姓家
(
ひやくせうや
)
に
縁
(
えん
)
の
隅
(
すみ
)
から
庭
(
には
)
は
云
(
い
)
ふに
及
(
およ
)
ばず、
034
遅
(
おく
)
れて
来
(
き
)
たものは
門
(
かど
)
に
立
(
た
)
つて
聞
(
き
)
くと
云
(
い
)
ふ
大盛況
(
だいせいきやう
)
である。
035
其
(
その
)
時
(
とき
)
宮相撲
(
みやずもう
)
をとつて
居
(
ゐ
)
た
若錦
(
わかにしき
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
を
先頭
(
せんとう
)
に、
036
侠客
(
けふかく
)
の
小牛
(
こうし
)
、
037
留公
(
とめこう
)
、
038
与三公
(
よさこう
)
、
039
茂一
(
もいち
)
の
五人
(
ごにん
)
連
(
づ
)
れ、
040
矢庭
(
やには
)
に
演壇
(
えんだん
)
に
上
(
のぼ
)
り、
041
有無
(
うむ
)
を
云
(
い
)
はせず
瑞月
(
ずゐげつ
)
を
担
(
かつ
)
いで
附近
(
ふきん
)
の
桑畑
(
くはばたけ
)
の
中
(
なか
)
へ
連
(
つ
)
れ
行
(
ゆ
)
き、
042
打
(
う
)
つ、
043
蹴
(
け
)
る、
044
殴
(
なぐ
)
るの
大
(
だい
)
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎを
始
(
はじ
)
めた。
045
浄瑠璃
(
じやうるり
)
友達
(
ともだち
)
で
隣家
(
となり
)
の
嘘勝
(
うそかつ
)
と
云
(
い
)
ふデモ
侠客
(
けふかく
)
が
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
を
引
(
ひ
)
き
連
(
つ
)
れ、
046
二
(
に
)
尺
(
しやく
)
許
(
ばか
)
りの
割木
(
わりき
)
を
各自
(
てんで
)
に
持
(
も
)
つて
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
仲
(
なか
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
格闘
(
かくとう
)
を
始
(
はじ
)
めた。
047
喧嘩
(
けんくわ
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
一方
(
いつぱう
)
へ
転宅
(
てんたく
)
して
了
(
しま
)
ひ、
048
バラバラバラと
喚
(
わめ
)
きつつ
東南
(
とうなん
)
の
方
(
はう
)
へ
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
049
嘘勝
(
うそかつ
)
の
一隊
(
いつたい
)
は
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかける。
050
其
(
その
)
後
(
あと
)
へ
二三
(
にさん
)
の
友人
(
いうじん
)
がやつて
来
(
き
)
て、
051
瑞月
(
ずゐげつ
)
を
助
(
たす
)
けて
牧畜場
(
ぼくちくぢやう
)
の
精乳館
(
せいにうくわん
)
と
云
(
い
)
ふ
自分
(
じぶん
)
の
館
(
やかた
)
へ
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れた。
052
ひどく
頭部
(
とうぶ
)
を
五
(
いつ
)
つ
六
(
む
)
つ
割木
(
わりき
)
で
殴
(
なぐ
)
られた
結果
(
けつくわ
)
、
053
何
(
なん
)
とはなしに
頭
(
あたま
)
が
重
(
おも
)
たくなり、
054
うづき
出
(
だ
)
し、
055
耳
(
みみ
)
はジヤンジヤンと
早鐘
(
はやがね
)
をつく
様
(
やう
)
に
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
056
時々
(
ときどき
)
火事
(
くわじ
)
の
警鐘
(
けいしよう
)
ではないかと、
057
負傷
(
ふしやう
)
した
身体
(
からだ
)
を
擡
(
もた
)
げて
戸
(
と
)
を
開
(
ひら
)
き
外
(
そと
)
を
眺
(
なが
)
めた
事
(
こと
)
もあつた。
058
精乳館
(
せいにうくわん
)
は
牛乳
(
ぎうにう
)
を
搾
(
しぼ
)
り
附近
(
ふきん
)
の
村落
(
そんらく
)
に
販売
(
はんばい
)
するのが
営業
(
えいげふ
)
であつた。
059
牛乳
(
ぎうにう
)
配達人
(
はいだつにん
)
は
未明
(
みめい
)
からやつて
来
(
き
)
て
搾乳
(
さくにう
)
の
量
(
はか
)
り
渡
(
わた
)
しを
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
060
瑞月
(
ずゐげつ
)
は
頭
(
あたま
)
痛
(
いた
)
み
目
(
め
)
晦
(
くら
)
めき、
061
搾乳
(
さくにう
)
どころの
騒
(
さわ
)
ぎではない。
062
二十数
(
にじふすう
)
頭
(
とう
)
の
牧牛
(
ぼくぎう
)
は
空腹
(
くうふく
)
を
訴
(
うつた
)
へたり、
063
乳
(
ちち
)
の
張
(
は
)
り
切
(
き
)
る
為
(
た
)
め
悲
(
かな
)
し
相
(
さう
)
な
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
一斉
(
いつせい
)
に
呻
(
うな
)
り
出
(
だ
)
した。
064
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
が
頭
(
あたま
)
に
響
(
ひび
)
くと
一層
(
いつそう
)
頭
(
かしら
)
が
割
(
わ
)
れる
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
がする。
065
それでも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
祈
(
いの
)
らうとも
思
(
おも
)
はねば、
066
医者
(
いしや
)
を
呼
(
よ
)
び、
067
薬
(
くすり
)
を
付
(
つ
)
け
様
(
やう
)
とも
飲
(
の
)
まうとも
思
(
おも
)
はない。
068
只
(
ただ
)
自分
(
じぶん
)
の
心裡
(
しんり
)
に
往復
(
わうふく
)
して
居
(
ゐ
)
るのは、
069
今迄
(
いままで
)
大切
(
たいせつ
)
に
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
た
営業
(
えいげふ
)
はスツカリ
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
070
若錦
(
わかにしき
)
一派
(
いつぱ
)
の
奴
(
やつ
)
に
対
(
たい
)
し、
071
早
(
はや
)
く
本復
(
ほんぷく
)
して
仕返
(
しかへ
)
しの
大喧嘩
(
おほけんくわ
)
をやつてやらねばならぬと、
072
そればかりを
一縷
(
いちる
)
の
望
(
のぞ
)
みの
綱
(
つな
)
として
居
(
ゐ
)
た。
073
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
も
裏口
(
うらぐち
)
の
戸
(
と
)
も
錠
(
ぢやう
)
が
卸
(
おろ
)
してある。
074
それ
故
(
ゆゑ
)
配達人
(
はいだつにん
)
は
這入
(
はい
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬ、
075
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
宮垣内
(
みやがいち
)
の
母
(
はは
)
の
宅
(
たく
)
へ
走
(
はし
)
り、
076
配達人
『
何故
(
なぜ
)
か
門口
(
かどぐち
)
が
締
(
しま
)
つて
居
(
を
)
る、
077
一寸
(
ちよつと
)
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
078
と
云
(
い
)
つて
母
(
はは
)
を
呼
(
よ
)
びに
行
(
い
)
つた。
079
相手
(
あひて
)
方
(
がた
)
の
村上
(
むらかみ
)
某
(
ぼう
)
が
軈
(
やが
)
てやつて
来
(
く
)
る
時分
(
じぶん
)
だから
自分
(
じぶん
)
の
昨夜
(
さくや
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
で
負傷
(
ふしやう
)
した
事
(
こと
)
を
見
(
み
)
られては
余
(
あんま
)
り
面白
(
おもしろ
)
くないと、
080
負惜
(
まけをし
)
みを
出
(
だ
)
して、
081
頭
(
あたま
)
を
手拭
(
てぬぐひ
)
で
縛
(
しば
)
り
目
(
め
)
をふさいだ
儘
(
まま
)
、
082
慣
(
な
)
れた
道
(
みち
)
とて、
083
自分
(
じぶん
)
の
嘗
(
かつ
)
て
借
(
か
)
つて
置
(
お
)
いた
喜楽亭
(
きらくてい
)
と
云
(
い
)
ふ
郷
(
ごう
)
神社
(
じんじや
)
の
前
(
まへ
)
の
矮屋
(
わいをく
)
に
隠
(
かく
)
れ
頭
(
あたま
)
から
夜具
(
やぐ
)
を
被
(
かぶ
)
つて
息
(
いき
)
をこらして
横
(
よこたは
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
084
暫
(
しば
)
らくすると、
085
門口
(
かどぐち
)
から
自分
(
じぶん
)
の
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
086
慌
(
あわただ
)
しく
母
(
はは
)
が
這入
(
はい
)
つて
来
(
こ
)
られた。
087
瑞月
(
ずゐげつ
)
は、
088
『こりや
大変
(
たいへん
)
だ、
089
昨夜
(
さくや
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
が
分
(
わか
)
つたのだらう、
090
額口
(
ひたひぐち
)
の
傷
(
きず
)
を
見
(
み
)
られない
様
(
やう
)
に……』
091
と
夜具
(
やぐ
)
をグツスリ
被
(
かぶ
)
り、
092
足
(
あし
)
の
膝
(
ひざ
)
から
先
(
さき
)
は
出
(
で
)
る
程
(
ほど
)
縮
(
すく
)
んで、
093
寝
(
ね
)
たふりをして
居
(
ゐ
)
た。
094
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
母
(
はは
)
は
夜具
(
やぐ
)
をまくり
上
(
あ
)
げ、
095
母
『お
前
(
まへ
)
は
又
(
また
)
喧嘩
(
けんくわ
)
をしたのだなア。
096
去年
(
きよねん
)
までは
親爺
(
おやぢ
)
サンが
居
(
を
)
られたので
誰
(
たれ
)
も
指一本
(
ゆびいつぽん
)
さえる
者
(
もの
)
も
無
(
な
)
かつたが、
097
俺
(
わし
)
が
後家
(
ごけ
)
になつたと
思
(
おも
)
ふて
侮
(
あなど
)
つて、
098
家
(
うち
)
の
伜
(
せがれ
)
を
斯
(
こ
)
んな
酷
(
ひど
)
い
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はしたのであらう。
099
去年
(
きよねん
)
の
冬
(
ふゆ
)
から
丁度
(
ちやうど
)
之
(
これ
)
で
九回目
(
きうくわいめ
)
、
100
中途
(
ちうと
)
に
夫
(
をつと
)
に
別
(
わか
)
れる
程
(
ほど
)
不幸
(
ふかう
)
の
者
(
もの
)
はない、
101
又
(
また
)
親
(
おや
)
のない
子
(
こ
)
程
(
ほど
)
可愛相
(
かあいさう
)
なものは
無
(
な
)
い。
102
弟
(
おとうと
)
の
由松
(
よしまつ
)
は、
103
兄
(
あに
)
の
讐討
(
かたきうち
)
だとか
云
(
い
)
つて
若錦
(
わかにしき
)
の
処
(
ところ
)
へ
押掛
(
おしか
)
け、
104
反対
(
はんたい
)
に
頭
(
あたま
)
をこつかれて、
105
血
(
ち
)
を
出
(
だ
)
して
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て
家
(
うち
)
に
唸
(
うな
)
つて
居
(
を
)
る。
106
兄
(
あに
)
は
又
(
また
)
此
(
こ
)
の
通
(
とほ
)
り、
107
神
(
かみ
)
も
仏
(
ほとけ
)
も
此
(
こ
)
の
世
(
よ
)
にはないものか』
108
と
自分
(
じぶん
)
の
子
(
こ
)
が
悪
(
わる
)
いとは
思
(
おも
)
はず、
109
加害者
(
かがいしや
)
を
怨
(
うら
)
んで
居
(
を
)
られる。
110
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くと
自分
(
じぶん
)
も
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
堪
(
たま
)
らなくなり、
111
傷
(
きず
)
の
痛
(
いた
)
みは
何処
(
どこ
)
へやら
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
112
実際
(
じつさい
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
へば
自分
(
じぶん
)
は、
113
今迄
(
いままで
)
父
(
ちち
)
がブラブラ
病
(
やまひ
)
で
二三
(
にさん
)
年間
(
ねんかん
)
苦
(
くる
)
しんで
居
(
ゐ
)
たので、
114
それが
気
(
き
)
に
掛
(
かか
)
り、
115
云
(
い
)
ひ
度
(
た
)
い
事
(
こと
)
も
云
(
い
)
はず、
116
父
(
ちち
)
に
心配
(
しんぱい
)
をさせまいと
思
(
おも
)
ふて、
117
人
(
ひと
)
と
喧嘩
(
けんくわ
)
する
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
は
成
(
な
)
るべく
避
(
さ
)
ける
様
(
やう
)
にして
居
(
ゐ
)
たから、
118
村
(
むら
)
の
人々
(
ひとびと
)
にも
若
(
わか
)
い
連中
(
れんちう
)
にも、
119
チツとも
憎
(
にく
)
まれた
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
く、
120
却
(
かへつ
)
て
喜楽
(
きらく
)
さん
喜楽
(
きらく
)
さんと
云
(
い
)
つて
重宝
(
ちようほう
)
がられ、
121
可愛
(
かあい
)
がられて
居
(
ゐ
)
たのである。
122
そうした
処
(
ところ
)
、
123
明治
(
めいぢ
)
三十
(
さんじふ
)
年
(
ねん
)
の
夏
(
なつ
)
、
124
父
(
ちち
)
は
薬石
(
やくせき
)
効
(
かう
)
なく
遂
(
つひ
)
に
帰幽
(
きいう
)
したので、
125
最早
(
もはや
)
病身
(
びやうしん
)
の
父
(
ちち
)
に
心配
(
しんぱい
)
さす
事
(
こと
)
もなくなつた。
126
破
(
やぶ
)
れ
侠客
(
けふかく
)
が
田舎
(
いなか
)
で
威張
(
ゐば
)
り
散
(
ち
)
らし、
127
良民
(
りやうみん
)
を
苦
(
くる
)
しめるのを
見
(
み
)
る
度
(
たび
)
に、
128
聞
(
き
)
く
度
(
たび
)
に、
129
癪
(
しやく
)
に
触
(
さは
)
つて
堪
(
たま
)
らない。
130
頼
(
たの
)
まれもせぬのに、
131
喧嘩
(
けんくわ
)
の
中
(
なか
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
仲裁
(
ちうさい
)
をしたり、
132
終
(
しまひ
)
には
調子
(
てうし
)
に
乗
(
の
)
つて、
133
無頼漢
(
ぶらいかん
)
を
向
(
むか
)
ふへまはし
喧嘩
(
けんくわ
)
をするのを、
134
一廉
(
ひとかど
)
の
手柄
(
てがら
)
の
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
になつた。
135
二三遍
(
にさんぺん
)
うまく
喧嘩
(
けんくわ
)
の
仲裁
(
ちうさい
)
をして
味
(
あぢ
)
を
占
(
し
)
め、
136
『
喧嘩
(
けんくわ
)
の
仲裁
(
ちうさい
)
には
喜楽
(
きらく
)
さんに
限
(
かぎ
)
る』
137
と
村
(
むら
)
の
者
(
もの
)
におだてられ、
138
益々
(
ますます
)
得意
(
とくい
)
になつて、
139
『
誰
(
たれ
)
か
面白
(
おもしろ
)
い
喧嘩
(
けんくわ
)
をして
呉
(
く
)
れないか、
140
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つ
仲裁
(
ちうさい
)
して
名
(
な
)
を
売
(
う
)
つてやらう』
141
と
下
(
くだ
)
らぬ
野心
(
やしん
)
にかられて、
142
チツと
高
(
たか
)
い
声
(
こゑ
)
で
話
(
はな
)
して
居
(
を
)
る
門
(
かど
)
を
通
(
とほ
)
つても、
143
聞
(
き
)
き
耳
(
みみ
)
立
(
た
)
てる
様
(
やう
)
になつて
居
(
ゐ
)
たのである。
144
其
(
その
)
時
(
とき
)
、
145
亀岡
(
かめをか
)
の
余部
(
あまるべ
)
と
云
(
い
)
ふ
処
(
ところ
)
に
干支吉
(
えとよし
)
と
云
(
い
)
ふ
侠客
(
けふかく
)
があり、
146
其
(
その
)
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
として
威張
(
ゐば
)
つて
居
(
ゐ
)
た
宿屋
(
やどや
)
の
息子
(
むすこ
)
の
勘吉
(
かんきち
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
、
147
身体
(
からだ
)
も
大
(
おほ
)
きく
背
(
せ
)
も
高
(
たか
)
く、
148
力
(
ちから
)
も
強
(
つよ
)
く、
149
宮相撲
(
みやずもう
)
をとつて
遠近
(
ゑんきん
)
に
鳴
(
な
)
らして
居
(
ゐ
)
た。
150
そして
其
(
その
)
父親
(
てておや
)
は
三哲
(
さんてつ
)
と
云
(
い
)
つて、
151
附近
(
ふきん
)
で
名
(
な
)
の
売
(
う
)
れた
侠客
(
けふかく
)
であつた。
152
其
(
その
)
息子
(
むすこ
)
の
勘吉
(
かんきち
)
が
又
(
また
)
もや
非常
(
ひじやう
)
に
売
(
う
)
り
出
(
だ
)
し、
153
村
(
むら
)
の
者
(
もの
)
は
大変
(
たいへん
)
に
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
154
第一
(
だいいち
)
賭場
(
とば
)
を
開
(
ひら
)
いて
毎日
(
まいにち
)
毎夜
(
まいや
)
テラ
を
取
(
と
)
り、
155
乾児
(
こぶん
)
の
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
も
養
(
やしな
)
ふて
居
(
を
)
つた。
156
自分
(
じぶん
)
の
弟
(
おとうと
)
も
勘吉
(
かんきち
)
の
賭場
(
とば
)
へ
毎日
(
まいにち
)
毎夜
(
まいや
)
出入
(
でいり
)
し、
157
自分
(
じぶん
)
の
時計
(
とけい
)
を
売
(
う
)
り
衣類
(
いるゐ
)
を
売
(
う
)
り、
158
終
(
しま
)
ひには
夜
(
よる
)
の
間
(
ま
)
に
数百
(
すうひやく
)
円
(
ゑん
)
を
投
(
とう
)
じた
乳牛
(
ちちうし
)
をひき
出
(
だ
)
し、
159
亀岡
(
かめをか
)
あたりで
五六十
(
ごろくじふ
)
円
(
ゑん
)
に
投
(
な
)
げ
売
(
う
)
りして、
160
それを
賭博
(
とばく
)
の
資
(
もと
)
とする。
161
自分
(
じぶん
)
が
意見
(
いけん
)
をすると、
162
勘吉
(
かんきち
)
親分
(
おやぶん
)
を
傘
(
かさ
)
にきて
梃
(
てこ
)
にも
棒
(
ぼう
)
にもおへない。
163
村中
(
むらぢう
)
の
息子
(
むすこ
)
は
鼠
(
ねずみ
)
が
餅
(
もち
)
をひく
様
(
やう
)
に、
164
今日
(
けふ
)
も
一人
(
ひとり
)
、
165
明日
(
あす
)
も
二人
(
ふたり
)
と
云
(
い
)
ふ
調子
(
てうし
)
で、
166
勘吉
(
かんきち
)
の
賭場
(
とば
)
に
引込
(
ひきこ
)
まれ、
167
親
(
おや
)
達
(
たち
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
嘆
(
なげ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
168
けれども
勘吉
(
かんきち
)
の
耳
(
みみ
)
に
這入
(
はい
)
つては
如何
(
どん
)
な
事
(
こと
)
をしられるか
知
(
し
)
れぬと
思
(
おも
)
ひ、
169
各自
(
めいめい
)
に
小声
(
こごゑ
)
で
呟
(
つぶや
)
いて
居
(
ゐ
)
るのみであつた。
170
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
いた
自分
(
じぶん
)
は
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つて
堪
(
たま
)
らず、
171
火事場
(
くわじば
)
に
使
(
つか
)
ふ
鳶口
(
とびぐち
)
を
担
(
か
)
たげて、
172
河内屋
(
かはちや
)
の
勘吉
(
かんきち
)
が
賭場
(
とば
)
へ
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
173
夜
(
よる
)
の
八
(
はち
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
174
車坐
(
くるまざ
)
になつて
丁半
(
ちやうはん
)
を
闘
(
たたか
)
はして
居
(
ゐ
)
た
弟
(
おとうと
)
の
帯
(
おび
)
に
鳶口
(
とびぐち
)
を
引
(
ひ
)
つかけ、
175
二三間
(
にさんげん
)
引摺
(
ひきず
)
り
出
(
だ
)
した。
176
そうすると
親分
(
おやぶん
)
の
勘吉
(
かんきち
)
が
巻舌
(
まきじた
)
になつて、
177
勘吉
『
男
(
をとこ
)
を
売
(
う
)
つた
勘吉
(
かんきち
)
の
賭場
(
とば
)
へ
賭場
(
とば
)
荒
(
あら
)
しに
来
(
き
)
よつたのか、
178
素人
(
しろうと
)
の
貴様
(
きさま
)
にこんな
事
(
こと
)
しられて
黙
(
だま
)
つて
居
(
を
)
つては
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
たぬ。
179
……オイ
与三公
(
よさこう
)
、
180
留公
(
とめこう
)
、
181
喜楽
(
きらく
)
をのばして
了
(
しま
)
へ』
182
と
号令
(
がうれい
)
をかけて
居
(
ゐ
)
る。
183
自分
(
じぶん
)
は
逃
(
に
)
ぐるが
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
と、
184
尻
(
しり
)
を
後
(
うしろ
)
へつき
出
(
だ
)
し
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つポンポンとたたいたきり、
185
一目散
(
いちもくさん
)
に
牧場
(
ぼくぢやう
)
に
逃
(
に
)
げて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
186
そして
門
(
もん
)
の
閂
(
かんぬき
)
を
堅
(
かた
)
く
締
(
し
)
めて、
187
若
(
も
)
しも
戸
(
と
)
を
打破
(
うちやぶ
)
つて
這入
(
はい
)
るが
最後
(
さいご
)
、
188
打
(
う
)
ちのばしてやらうと、
189
椋
(
むく
)
の
棒
(
ぼう
)
を
持
(
も
)
つて
外
(
そと
)
の
足音
(
あしおと
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
た。
190
其
(
その
)
夜
(
よ
)
は
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
かつた。
191
勘吉
(
かんきち
)
も
口
(
くち
)
程
(
ほど
)
にない
奴
(
やつ
)
だと
安心
(
あんしん
)
して
牧場
(
ぼくぢやう
)
に
眠
(
ねむ
)
つて
居
(
を
)
ると、
192
夜
(
よる
)
の
十
(
じふ
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
、
193
二三
(
にさん
)
の
乾児
(
こぶん
)
を
連
(
つ
)
れて
門口
(
もんぐち
)
へやつて
来
(
き
)
た。
194
そして、
195
勘吉
『オイ
喜楽
(
きらく
)
、
196
一寸
(
ちよつと
)
用
(
よう
)
があるから
外
(
そと
)
へ
出
(
で
)
て
呉
(
く
)
れ』
197
と
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
198
流石
(
さすが
)
に
先方
(
むかう
)
も、
199
迂闊
(
うかつ
)
に
這入
(
はい
)
つて
鳶口
(
とびぐち
)
でやられては
堪
(
たま
)
らぬと
思
(
おも
)
ふたか、
200
門口
(
もんぐち
)
に
立
(
た
)
つて
誘
(
か
)
ひ
出
(
だ
)
してゐる。
201
自分
(
じぶん
)
は
故意
(
わざ
)
とに
作
(
つく
)
り
鼾
(
いびき
)
をして
寝
(
ね
)
たふりをして
居
(
ゐ
)
た。
202
そして
樫
(
かし
)
の
棒
(
ぼう
)
を
寝床
(
ねどこ
)
の
横
(
よこ
)
に
置
(
お
)
いてあつた。
203
暫
(
しば
)
らくすると
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
で、
204
女(多田琴)
『あんたハン、
205
立派
(
りつぱ
)
な
侠客
(
けふかく
)
サンぢやおまへんか、
206
たつた
一人
(
ひとり
)
の、
207
あんな
弱々
(
よわよわ
)
しい
喜楽
(
きらく
)
サンに
喧嘩
(
けんくわ
)
に
来
(
く
)
るなんて、
208
男
(
をとこ
)
が
下
(
さが
)
りまつせ、
209
さアあんたハン、
210
一杯
(
いつぱい
)
桑酒屋
(
くはざけや
)
へ
飲
(
の
)
みに
行
(
ゆ
)
きまほ』
211
と
勘吉
(
かんきち
)
の
頬辺
(
ほほべた
)
をピシヤピシヤたたいて
居
(
ゐ
)
る
音
(
おと
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
212
此
(
この
)
女
(
をんな
)
は
中村
(
なかむら
)
の
多田
(
ただ
)
亀
(
かめ
)
と
云
(
い
)
ふ
老侠客
(
らうけふかく
)
の
娘
(
むすめ
)
で、
213
多田
(
ただ
)
琴
(
こと
)
と
云
(
い
)
ふ
女
(
をんな
)
である。
214
或
(
ある
)
機会
(
きくわい
)
から
妙
(
めう
)
な
仲
(
なか
)
となつて
居
(
を
)
つた。
215
其
(
その
)
琴
(
こと
)
が
中村
(
なかむら
)
から
遥々
(
はるばる
)
とやつて
来
(
き
)
て、
216
門口
(
かどぐち
)
で
河内屋
(
かはちや
)
に
出会
(
であ
)
ふたのである。
217
流石
(
さすが
)
の
侠客
(
けふかく
)
も、
218
横面
(
よこづら
)
をやさしい
声
(
こゑ
)
で
殴
(
なぐ
)
られてグニヤグニヤになり、
219
五六丁
(
ごろくちやう
)
下
(
しも
)
の
吉川村
(
よしかはむら
)
の
桑酒屋
(
くはさけや
)
へ
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
みに
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
つた。
220
それから
自分
(
じぶん
)
は
多田
(
ただ
)
琴
(
こと
)
の
父親
(
ちちおや
)
の
多田
(
ただ
)
亀
(
かめ
)
に
就
(
つ
)
いて
侠客
(
けふかく
)
学問
(
がくもん
)
を
研究
(
けんきう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
221
多田
(
ただ
)
亀
(
かめ
)
の
云
(
い
)
ふのには、
222
『
侠客
(
けふかく
)
になつて
名
(
な
)
を
挙
(
あ
)
げ
様
(
やう
)
と
思
(
おも
)
へば、
223
頭
(
あたま
)
を
割
(
わ
)
られたり、
224
腕
(
うで
)
の
一本
(
いつぽん
)
位
(
くらゐ
)
とられなくては
本物
(
ほんもの
)
にならぬ。
225
此方
(
こつち
)
が
生命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てる
気
(
き
)
になれば、
226
何百
(
なんびやく
)
人
(
にん
)
の
敵
(
てき
)
も
逃
(
に
)
げるものだ。
227
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
気転
(
きてん
)
が
第一
(
だいいち
)
だ』
228
と
自分
(
じぶん
)
の
娘
(
むすめ
)
の
情夫
(
をとこ
)
と
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
ら、
229
碌
(
ろく
)
でもない
事
(
こと
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
教
(
をし
)
へて
呉
(
く
)
れた。
230
さうして
多田
(
ただ
)
亀
(
かめ
)
の
云
(
い
)
ふのには、
231
『
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
も
大分
(
だいぶ
)
沢山
(
たくさん
)
あるのだが、
232
跡
(
あと
)
を
継
(
つ
)
がす
者
(
もの
)
がない。
233
これからお
前
(
まへ
)
に
仕込
(
しこ
)
んでやるから、
234
此
(
この
)
乾児
(
こぶん
)
を
捨
(
す
)
てるのは
惜
(
をし
)
いから、
235
若親分
(
わかおやぶん
)
になつたら
如何
(
どう
)
だ。
236
お
米
(
よね
)
サン(
瑞月
(
ずゐげつ
)
の
母
(
はは
)
)に
相談
(
さうだん
)
して、
237
お
前
(
まへ
)
サンを
此方
(
こつち
)
の
養子
(
やうし
)
に
貰
(
もら
)
ふ
積
(
つもり
)
だ。
238
此方
(
こちら
)
も
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
をお
前
(
まへ
)
サンの
自由
(
じいう
)
にさして、
239
黙
(
だま
)
つて
居
(
を
)
るのについては
考
(
かんが
)
へがあるのだ。
240
よもや
一
(
いち
)
時
(
じ
)
の
テンゴ
に、
241
俺
(
おれ
)
の
一人娘
(
ひとりむすめ
)
をなぶり
者
(
もの
)
にしたのぢやあるまいなア』
242
と
退引
(
のつぴき
)
させぬ
釘
(
くぎ
)
をさされた。
243
父
(
ちち
)
の
居
(
を
)
る
中
(
うち
)
から、
244
上田
(
うへだ
)
の
跡
(
あと
)
は
弟
(
おとうと
)
に
継
(
つ
)
がして
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いと
云
(
い
)
つて
頼
(
たの
)
んで
居
(
を
)
つた。
245
両親
(
りやうしん
)
は
亀岡
(
かめをか
)
の
或
(
ある
)
易者
(
えきしや
)
に
卦
(
け
)
を
立
(
た
)
てて
貰
(
もら
)
ひ、
246
『
此
(
この
)
子
(
こ
)
は
総領
(
そうりやう
)
に
生
(
う
)
まれて
居
(
を
)
るけれども、
247
親
(
おや
)
の
屋敷
(
やしき
)
に
居
(
を
)
つては
若死
(
わかじに
)
をするから
養子
(
やうし
)
にやつたが
良
(
よ
)
い』
248
といつたとかで、
249
両親
(
りやうしん
)
は
已
(
すで
)
に
自分
(
じぶん
)
の
養子
(
やうし
)
に
行
(
ゆ
)
くのを
承認
(
しようにん
)
して
了
(
しま
)
つた。
250
然
(
しか
)
し
侠客
(
けふかく
)
の
養子
(
やうし
)
に
遣
(
や
)
らうとは
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
なかつたのである。
251
自分
(
じぶん
)
は
幼時
(
えうじ
)
から
貧家
(
ひんか
)
に
生
(
うま
)
れ、
252
弱者
(
じやくしや
)
に
対
(
たい
)
する
強者
(
きやうしや
)
の
横暴
(
わうばう
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
不快
(
ふくわい
)
に
感
(
かん
)
じて
居
(
ゐ
)
た。
253
人間
(
にんげん
)
は
少
(
すこ
)
しく
頭
(
あたま
)
をあげて
金
(
かね
)
でも
貯
(
た
)
めれば、
254
如何
(
どん
)
な
馬鹿
(
ばか
)
でも
賢
(
かしこ
)
う
見
(
み
)
られ、
255
敬
(
うやま
)
はれるが、
256
少
(
すこ
)
しく
地平線
(
ちへいせん
)
下
(
か
)
に
落
(
お
)
ちると、
257
子供
(
こども
)
迄
(
まで
)
が
寄
(
よ
)
つて
集
(
たか
)
つて
踏
(
ふ
)
みつけ
様
(
やう
)
とする。
258
事大
(
じだい
)
思想
(
しさう
)
の
盛
(
さか
)
んな
田舎
(
いなか
)
では
尚更
(
なほさら
)
はげしいのである。
259
何
(
なん
)
でも
一
(
ひと
)
つ
衆
(
しう
)
に
擢
(
ぬき
)
んでなければ
頭
(
あたま
)
があがらない、
260
生存
(
せいぞん
)
の
価値
(
かち
)
がないと、
261
幼時
(
えうじ
)
から
思
(
おも
)
ひつめて
居
(
ゐ
)
た。
262
学問
(
がくもん
)
が
無
(
な
)
ければ
官吏
(
くわんり
)
になる
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
263
軍人
(
ぐんじん
)
に
成
(
な
)
り
度
(
た
)
うても
成
(
な
)
れず、
264
弱
(
よわ
)
い
者
(
もの
)
を
助
(
たす
)
け、
265
強
(
つよ
)
い
者
(
もの
)
を
凹
(
へこ
)
ます
侠客
(
けふかく
)
になつた
方
(
はう
)
が、
266
一番
(
いちばん
)
名
(
な
)
が
挙
(
あ
)
がるだらうと
下
(
くだ
)
らぬ
事
(
こと
)
を
考
(
かんが
)
へ、
267
幡随院
(
ばんずゐゐん
)
長兵衛
(
ちやうべゑ
)
の
ちよんがれ
を
聞
(
き
)
いて、
268
明治
(
めいぢ
)
の
幡随院
(
ばんずいゐん
)
長兵衛
(
ちやうべゑ
)
は
俺
(
おれ
)
がなつてやらうかと
迄
(
まで
)
思
(
おも
)
ふ
事
(
こと
)
が
屡々
(
しばしば
)
あつた。
269
其
(
その
)
平素
(
へいそ
)
の
思
(
おも
)
ひと
強者
(
きやうしや
)
に
虐
(
しひた
)
げられた
無念
(
むねん
)
とが
一
(
ひと
)
つになつて、
270
社会
(
しやくわい
)
の
弱者
(
じやくしや
)
に
対
(
たい
)
する
同情心
(
どうじやうしん
)
が、
271
父
(
ちち
)
の
帰幽
(
きいう
)
と
共
(
とも
)
に
突発
(
とつぱつ
)
し、
272
生命
(
いのち
)
懸
(
が
)
けの
侠客
(
けふかく
)
凹
(
へこ
)
ませを
企
(
くはだ
)
て、
273
猪口才
(
ちよこざい
)
な
奴
(
やつ
)
と
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
が
社会
(
しやくわい
)
[
※
彼等の社会、の意
]
から
睨
(
にら
)
まれて
居
(
ゐ
)
たから、
274
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
経
(
た
)
たぬ
中
(
うち
)
に
九回
(
きうくわい
)
迄
(
まで
)
も
酷
(
ひど
)
い
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はされたのである。
275
若
(
も
)
しも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
をせなかつたらば、
276
自分
(
じぶん
)
は
三十
(
さんじふ
)
四五
(
しご
)
迄
(
まで
)
に
叩
(
たた
)
き
殺
(
ころ
)
されて
居
(
を
)
るかも
知
(
し
)
れないと
思
(
おも
)
ひ
浮
(
うか
)
べて、
277
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御恩
(
ごおん
)
がシミジミと
有難
(
ありがた
)
くなつて
来
(
き
)
たのである。
278
自分
(
じぶん
)
は
母
(
はは
)
の
言葉
(
ことば
)
の
如
(
ごと
)
く、
279
決
(
けつ
)
して
父
(
ちち
)
が
逝
(
な
)
くなつた
為
(
た
)
めに
侠客
(
けふかく
)
に
苦
(
くる
)
しめられたのではない、
280
つまり
自分
(
じぶん
)
から
招
(
まね
)
いた
災
(
わざはい
)
である
事
(
こと
)
を
其
(
その
)
時
(
とき
)
已
(
すで
)
に
自覚
(
じかく
)
し
得
(
え
)
たのである。
281
(
大正一一・一〇・八
旧八・一八
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 富士山
(B)
(N)
破軍星 >>>
霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第37巻(子の巻)
> 第1篇 安閑喜楽 > 第2章 葱節
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第2章 葱節|第37巻|舎身活躍|霊界物語|/rm3702】
合言葉「みろく」を入力して下さい→