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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
第1章 富士山
第2章 葱節
第3章 破軍星
第4章 素破抜
第5章 松の下
第6章 手料理
第2篇 青垣山内
第7章 五万円
第8章 梟の宵企
第9章 牛の糞
第10章 矢田の滝
第11章 松の嵐
第12章 邪神憑
第3篇 阪丹珍聞
第13章 煙の都
第14章 夜の山路
第15章 盲目鳥
第16章 四郎狸
第17章 狐の尾
第18章 奥野操
第19章 逆襲
第20章 仁志東
第4篇 山青水清
第21章 参綾
第22章 大僧坊
第23章 海老坂
第24章 神助
第25章 妖魅来
霊の礎(九)
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第37巻(子の巻)
> 第2篇 青垣山内 > 第9章 牛の糞
<<< 梟の宵企
(B)
(N)
矢田の滝 >>>
第九章
牛
(
うし
)
の
糞
(
くそ
)
〔一〇二一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第2篇 青垣山内
よみ(新仮名遣い):
あおがきやまうち
章:
第9章 牛の糞
よみ(新仮名遣い):
うしのくそ
通し章番号:
1021
口述日:
1922(大正11)年10月09日(旧08月19日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
元市は修行場の貸し出しを謝絶し、自分のことをののしり始めた。静子を中村から引き戻し、高子はそのまま中村で神がかりの修行をしていた。一方で息子の宇一は親父の目を盗んでまた喜楽のところへ出入りし始めた。
するとまた大霜天狗が喜楽にかかり、口を切って宇一に席払いを命じた。宇一は審神者気取りになって、前回の小判堀りの失敗をとがめたてた。
大霜は、改心ができていないから戒めを与えたのだ、と返した。そして改心ができたらいくらでも金を与えてやる、というと、宇一は必要だから欲しいのだ、と食いついてきた。
宇一は、父親が相場で財産を失くして肩身が狭い思いをしているから、それを埋め合わせるお金をもらえたら喜んで信仰します、とお金をねだった。大霜は殊勝な心がけに免じて十万円を与えると、大店の番頭が財布を落とした場所を託宣した。
これを聞いて宇一は大霜のいうとおり禊や祝詞を一生懸命上げ、喜楽に早く行こうとせきたてた。自分は、大霜の言うことは本当のようには思われない、と愚痴を言ったが、宇一はお金の話に乗り気で、信仰を盾に喜楽を促した。
二人は大霜に言われた峠道を下りてきた。暗闇の中に、財布のような黒いものが落ちていたので、二人はそれに手をかけた。財布と思ったのは、牛の糞であった。
宇一はがっかりして、もう神懸りはやめようと喜楽に言った。二人は力なく穴太に帰ってきた。
こうして神様は天狗を使い、自分たちの執着を根底から払拭し去り真の神柱としてやろうと思し召し、いろいろと工夫をこらしてくださったのだと二十年ほど経って気が付いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-20 13:31:11
OBC :
rm3709
愛善世界社版:
113頁
八幡書店版:
第7輯 72頁
修補版:
校定版:
119頁
普及版:
55頁
初版:
ページ備考:
001
斎藤
(
さいとう
)
元市
(
もといち
)
氏
(
し
)
は
大霜
(
おほしも
)
天狗
(
てんぐ
)
の
託宣
(
たくせん
)
のがらりと
外
(
はづ
)
れたのに
愛想
(
あいさう
)
をつかし、
002
修業場
(
しうげふば
)
を
貸
(
か
)
すことを
謝絶
(
しやぜつ
)
し、
003
それきり
自分
(
じぶん
)
の
方
(
はう
)
へは
見向
(
みむ
)
きもせなくなつたのみならず、
004
『
大先生
(
だいせんせい
)
』と、
005
暫
(
しばら
)
く
崇
(
あが
)
めてゐた
喜楽
(
きらく
)
に『
泥狸
(
どぶだぬき
)
、
006
ド
狸
(
たぬき
)
、
007
野天狗
(
のてんぐ
)
、
008
ド
気違
(
きちがひ
)
』と
罵
(
ののし
)
り
始
(
はじ
)
めた。
009
そして
自分
(
じぶん
)
の
妻
(
つま
)
の
妹
(
いもうと
)
のチンコの
静子
(
しづこ
)
を、
010
中村
(
なかむら
)
の
修業場
(
しうげふば
)
から
引張
(
ひつぱり
)
帰
(
かへ
)
り、
011
園部
(
そのべ
)
の
下司
(
げし
)
熊吉
(
くまきち
)
といふ
博奕打
(
ばくちうち
)
の
稲荷下
(
いなりさ
)
げをする
男
(
をとこ
)
の
女房
(
にようばう
)
にやつて
了
(
しま
)
つた。
012
十三
(
じふさん
)
歳
(
さい
)
の
高子
(
たかこ
)
の
方
(
はう
)
は
神懸
(
かむがか
)
りが
面白
(
おもしろ
)
いので、
013
中村
(
なかむら
)
の
多田
(
ただ
)
亀
(
かめ
)
の
内
(
うち
)
で
修業
(
しうげふ
)
をして
居
(
ゐ
)
た。
014
宇一
(
ういち
)
は
爺
(
おやぢ
)
の
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
んで、
015
そろそろ
喜楽
(
きらく
)
の
宅
(
たく
)
へ
出入
(
でい
)
りを
始
(
はじ
)
めた。
016
そして
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
を
覚束
(
おぼつか
)
なげに
研究
(
けんきう
)
してゐた。
017
奥山
(
おくやま
)
で
失敗
(
しつぱい
)
して
帰
(
かへ
)
つてから、
018
五日目
(
いつかめ
)
の
夜
(
よ
)
さであつた。
019
又
(
また
)
もや
大霜
(
おほしも
)
天狗
(
てんぐ
)
サンが、
020
五日間
(
いつかかん
)
の
沈黙
(
ちんもく
)
を
破
(
やぶ
)
つて、
021
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
からグルグルと
舞
(
ま
)
ひ
上
(
のぼ
)
り、
022
喉元
(
のどもと
)
へ
来
(
き
)
て
呶
(
ど
)
なり
始
(
はじ
)
めた。
023
喜楽
(
きらく
)
はヤア
又
(
また
)
かと、
024
迷惑
(
めいわく
)
してゐると、
025
雷
(
かみなり
)
のやうな
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で、
026
大霜
(
おほしも
)
『
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
住吉
(
すみよし
)
の
眷族
(
けんぞく
)
大霜
(
おほしも
)
であるぞよ。
027
男山
(
をとこやま
)
の
眷族
(
けんぞく
)
小松林
(
こまつばやし
)
の
命令
(
めいれい
)
に
依
(
よ
)
つて、
028
再
(
ふたた
)
びここに
現
(
あら
)
はれ、
029
其
(
その
)
方
(
はう
)
に
申渡
(
まをしわた
)
すことがあるから、
030
シツカリ
聞
(
き
)
くがよいぞ。
031
宇一
(
ういち
)
は
暫
(
しばら
)
く
席
(
せき
)
を
遠
(
とほ
)
ざけたがよからう』
032
宇一
(
ういち
)
は
審神者
(
さには
)
気取
(
きど
)
りになり、
033
宇一
(
ういち
)
『コレ
大霜
(
おほしも
)
天狗
(
てんぐ
)
サン、
034
余
(
あま
)
り
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな。
035
奥山
(
おくやま
)
に
金
(
かね
)
が
埋
(
い
)
けてあるなんて、
036
能
(
よ
)
うそんな
出放題
(
ではうだい
)
が
言
(
い
)
へましたなア、
037
モウこれからお
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふことは
一言
(
ひとこと
)
も
聞
(
き
)
きませぬで……オイ
喜楽
(
きらく
)
、
038
チとシツカリせぬと
可
(
い
)
かんぜ。
039
お
前
(
まへ
)
の
口
(
くち
)
から
言
(
い
)
ふのぢやないか、
040
余程
(
よほど
)
気
(
き
)
を
附
(
つ
)
けぬと
気違
(
きちがひ
)
になつて
了
(
しま
)
うぞ。
041
……オイ
大霜
(
おほしも
)
、
042
これでも
神
(
かみ
)
の
申
(
まを
)
すことに
二言
(
にごん
)
がないといふか。
043
八十
(
はちじふ
)
万
(
まん
)
円
(
ゑん
)
なんて
駄法螺
(
だぼら
)
を
吹
(
ふ
)
きやがつて、
044
俺
(
おれ
)
たち
親子
(
おやこ
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にしやがつたな』
045
大霜
(
おほしも
)
『
八十
(
はちじふ
)
万
(
まん
)
円
(
ゑん
)
でも
八百万
(
はつぴやくまん
)
円
(
ゑん
)
でも
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
心次第
(
こころしだい
)
で
与
(
あた
)
へてやる。
046
まだ
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
ぬから、
047
誠
(
まこと
)
のことが
言
(
い
)
うてやれぬのだ。
048
金
(
かね
)
の
欲
(
よく
)
が
離
(
はな
)
れたら
幾
(
いく
)
らでも
金
(
かね
)
を
与
(
あた
)
へてやる』
049
宇一
(
ういち
)
『
金
(
かね
)
の
必要
(
ひつえう
)
があるから
欲
(
ほ
)
しくなるのです。
050
誰
(
たれ
)
だつて
必要
(
ひつえう
)
のない
物
(
もの
)
は
欲
(
ほ
)
しいことはありませぬ、
051
欲
(
ほ
)
しくない
金
(
かね
)
なら
要
(
い
)
りませぬワイ。
052
石瓦
(
いしかはら
)
も
同然
(
どうぜん
)
だから、
053
金
(
かね
)
を
欲
(
ほ
)
しがらぬ
奴
(
やつ
)
には
金
(
かね
)
をやらう、
054
欲
(
ほ
)
しがる
奴
(
やつ
)
にはやらぬといふ
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
神
(
かみ
)
がどこにあるか、
055
チツと
考
(
かんが
)
へなさい。
056
審神者
(
さには
)
が
気
(
き
)
をつけます』
057
大霜
(
おほしも
)
『そんならこれから
神
(
かみ
)
も
改心
(
かいしん
)
して、
058
欲
(
ほ
)
しがる
奴
(
やつ
)
にチツと
計
(
ばか
)
り
与
(
あた
)
へてやらう』
059
宇一
(
ういち
)
『ハイ、
060
私
(
わたし
)
は
別
(
べつ
)
に
必要
(
ひつえう
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬが、
061
内
(
うち
)
の
爺
(
おやぢ
)
は
先祖
(
せんぞ
)
からの
財産
(
ざいさん
)
を
相場
(
さうば
)
でスツクリ
無
(
な
)
くして
了
(
しま
)
つたものですから、
062
親類
(
しんるゐ
)
からはいろいろ
攻撃
(
こうげき
)
せられ、
063
あの
養子
(
やうし
)
は
ようし
ぢやない、
064
わるうし
だと
人
(
ひと
)
に
言
(
い
)
はれるのが
残念
(
ざんねん
)
ぢやと
悔
(
く
)
やんで
居
(
を
)
ります。
065
余
(
あま
)
り
欲
(
よく
)
な
事
(
こと
)
は
申
(
まを
)
しませぬから、
066
元
(
もと
)
の
身上
(
しんじやう
)
になる
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
金
(
かね
)
を
与
(
あた
)
へてやつて
下
(
くだ
)
さい。
067
そしたら
爺
(
おやぢ
)
も
喜
(
よろこ
)
んで
信仰
(
しんかう
)
いたします。
068
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
大霜
(
おほしも
)
サンが
喜楽
(
きらく
)
にうつつて
騙
(
だま
)
しやがつたと
云
(
い
)
つて
怒
(
おこ
)
つてゐます。
069
それ
故
(
ゆゑ
)
私
(
わたし
)
も
爺
(
おやぢ
)
に
内証
(
ないしよう
)
で、
070
斯
(
か
)
うして
神
(
かみ
)
さまの
御用
(
ごよう
)
をさして
貰
(
もら
)
はうと
勉強
(
べんきやう
)
して
居
(
ゐ
)
るので
厶
(
ござ
)
います』
071
大霜
(
おほしも
)
『お
前
(
まへ
)
は
親
(
おや
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ
殊勝
(
しゆしよう
)
な
奴
(
やつ
)
だ、
072
それ
丈
(
だけ
)
の
心掛
(
こころがけ
)
があらば
結構
(
けつこう
)
だ。
073
そんならこれから
金
(
かね
)
の
所在
(
ありか
)
を
本当
(
ほんたう
)
に
知
(
し
)
らしてやる、
074
決
(
けつ
)
して
疑
(
うたが
)
ふではないぞ。
075
先
(
さき
)
に
騙
(
だま
)
されたから
今度
(
こんど
)
も
嘘
(
うそ
)
だらうと、
076
そんな
疑
(
うたがひ
)
を
起
(
おこ
)
さうものなら、
077
又
(
また
)
もや
金銀
(
きんぎん
)
の
入
(
はい
)
つた
財布
(
さいふ
)
が
牛糞
(
うしくそ
)
に
化
(
ば
)
けるか
知
(
し
)
れぬぞ、
078
よいか!』
079
宇一
(
ういち
)
『
決
(
けつ
)
して
神
(
かみ
)
さまのお
言
(
ことば
)
を
始
(
はじ
)
めから
疑
(
うたが
)
うて
居
(
ゐ
)
るのぢや
厶
(
ござ
)
いませぬが、
080
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
様
(
やう
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
間違
(
まちが
)
はされると、
081
又
(
また
)
しても
騙
(
だま
)
されるのぢやないかと、
082
自然
(
しぜん
)
に
心
(
こころ
)
がひがみまして、
083
一寸
(
ちよつと
)
計
(
ばか
)
り
疑
(
うたがひ
)
が
起
(
おこ
)
つて
参
(
まゐ
)
ります』
084
大霜
(
おほしも
)
『それが
大体
(
だいたい
)
悪
(
わる
)
いのだ。
085
綺麗
(
きれい
)
サツパリと
改心
(
かいしん
)
をいたして、
086
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
すことを
一
(
いち
)
から
十
(
じふ
)
迄
(
まで
)
信
(
しん
)
ずるのだぞ』
087
宇一
(
ういち
)
『ハイ、
088
一点
(
いつてん
)
疑
(
うたがひ
)
をさし
挟
(
はさ
)
みませぬから、
089
お
告
(
つ
)
げを
願
(
ねが
)
ひます』
090
大霜
(
おほしも
)
『そんなら
言
(
い
)
つてやらう、
091
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
でよいか』
092
宇一
(
ういち
)
『ハイ、
093
当分
(
たうぶん
)
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
あれば、
094
さぞ
爺
(
おやぢ
)
が
喜
(
よろこ
)
ぶこつて
厶
(
ござ
)
りませう』
095
大霜
(
おほしも
)
『
其
(
その
)
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
を
如何
(
どう
)
する
積
(
つも
)
りだ。
096
天狗
(
てんぐ
)
の
公園
(
こうゑん
)
を
先
(
さき
)
にするか、
097
自分
(
じぶん
)
の
目的
(
もくてき
)
の
相場
(
さうば
)
の
方
(
はう
)
にかかるか、
098
其
(
その
)
先決
(
せんけつ
)
問題
(
もんだい
)
からきめておかねば
言
(
い
)
うてやる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬワイ』
099
宇一
(
ういち
)
『ハイ、
100
そこは
神
(
かみ
)
さまにお
任
(
まか
)
せ
致
(
いた
)
します。
101
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
通
(
どほ
)
りになりますから……』
102
大霜
(
おほしも
)
『そんなら
言
(
い
)
つてやらう、
103
よつく
聞
(
き
)
け!
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
を
二町
(
にちやう
)
許
(
ばか
)
り
西
(
にし
)
へ
下
(
お
)
りかけた
所
(
ところ
)
の
道端
(
みちばた
)
の
叢
(
くさむら
)
に、
104
十万
(
じふまん
)
円
(
ゑん
)
這入
(
はい
)
つた
大
(
おほ
)
きな
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い
財布
(
さいふ
)
がおちてゐる。
105
それは
鴻
(
こう
)
の
池
(
いけ
)
の
番頭
(
ばんとう
)
が
京都
(
きやうと
)
の
銀行
(
ぎんかう
)
から
取出
(
とりだ
)
して、
106
大阪
(
おほさか
)
へ
帰
(
かへ
)
る
途中
(
とちう
)
泥坊
(
どろばう
)
の
用心
(
ようじん
)
にと、
107
ワザと
途
(
みち
)
を
転
(
てん
)
じて
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
を
越
(
こ
)
えた
所
(
ところ
)
、
108
泥坊
(
どろばう
)
の
奴
(
やつ
)
、
109
チヤンと
先廻
(
さきまは
)
りを
致
(
いた
)
し、
110
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
に
待
(
ま
)
つてゐた。
111
それとも
知
(
し
)
らず
番頭
(
ばんとう
)
は、
112
百円札
(
ひやくゑんさつ
)
で
一千
(
いつせん
)
枚
(
まい
)
都合
(
つがふ
)
十万
(
じふまん
)
円
(
ゑん
)
持
(
も
)
つて、
113
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
をスタスタと
登
(
のぼ
)
り、
114
夜
(
よる
)
の
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
通
(
とほ
)
つた
所
(
ところ
)
を、
115
泥棒
(
どろばう
)
が
物
(
もの
)
をも
云
(
い
)
はず、
116
後
(
あと
)
からグーイと
引
(
ひ
)
つたくり、
117
持
(
も
)
つて
逃
(
に
)
げ
様
(
やう
)
と
致
(
いた
)
すのを、
118
此
(
この
)
大天狗
(
だいてんぐ
)
が
大喝
(
だいかつ
)
一声
(
いつせい
)
……
曲者
(
くせもの
)
!……と
樹
(
き
)
の
上
(
うへ
)
から
呶鳴
(
どな
)
りつけた
所
(
ところ
)
、
119
泥棒
(
どろばう
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す、
120
番頭
(
ばんとう
)
は
生命
(
いのち
)
カラガラ
能勢
(
のせ
)
の
方面
(
はうめん
)
へ
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
121
アヽ
大切
(
たいせつ
)
な
主人
(
しゆじん
)
の
金
(
かね
)
を
泥棒
(
どろばう
)
に
取
(
と
)
られて、
122
如何
(
どう
)
申訳
(
まをしわけ
)
があらう、
123
一層
(
いつそう
)
池
(
いけ
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
申訳
(
まをしわけ
)
をせうと、
124
今
(
いま
)
大
(
おほ
)
きな
池
(
いけ
)
のふちにウロウロしてゐる
所
(
ところ
)
だ。
125
それをどうぞして
助
(
たす
)
けてやらうと、
126
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
眷族
(
けんぞく
)
を
間配
(
まくば
)
つて
守護
(
しゆご
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るから、
127
先
(
ま
)
づ
今晩
(
こんばん
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だが、
128
何
(
いづ
)
れ
彼奴
(
あいつ
)
は
金
(
かね
)
が
出
(
で
)
ない
以上
(
いじやう
)
は
死
(
し
)
ぬに
違
(
ちが
)
ひない、
129
それ
故
(
ゆゑ
)
其
(
その
)
方
(
はう
)
が
其
(
その
)
金
(
かね
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ、
130
其
(
その
)
筋
(
すぢ
)
へ
届
(
とど
)
けたなら
規則
(
きそく
)
として
一割
(
いちわり
)
は
貰
(
もら
)
へるのだ、
131
一割
(
いちわり
)
でも
一万
(
いちまん
)
円
(
ゑん
)
になる、
132
サア
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
け!』
133
宇一
(
ういち
)
『それは
何時
(
いつ
)
賊
(
ぞく
)
が
出
(
で
)
ましたので
厶
(
ござ
)
いますか?』
134
大霜
(
おほしも
)
『
今晩
(
こんばん
)
の
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
に
出
(
で
)
たのだ』
135
宇一
(
ういち
)
『
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
136
まだ
午後
(
ごご
)
五
(
ご
)
時
(
じ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
137
日
(
ひ
)
も
暮
(
く
)
れて
居
(
を
)
らぬのに、
138
今晩
(
こんばん
)
の
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
に
賊
(
ぞく
)
が
出
(
で
)
たとは、
139
そら
昨夜
(
さくや
)
の
間違
(
まちが
)
ひと
違
(
ちが
)
ひますか?』
140
大霜
(
おほしも
)
『ナニ
今晩
(
こんばん
)
に
間違
(
まちがひ
)
ない、
141
神
(
かみ
)
は
過去
(
くわこ
)
、
142
現在
(
げんざい
)
、
143
未来
(
みらい
)
一
(
ひと
)
つに
見
(
み
)
え
透
(
す
)
くのだ。
144
先
(
さき
)
に
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らぬ
様
(
やう
)
では
神
(
かみ
)
とは
申
(
まを
)
さぬぞよ。
145
サア
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
け、
146
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
番頭
(
ばんとう
)
の
寿命
(
じゆめう
)
がなくなるばかりか、
147
十万
(
じふまん
)
円
(
ゑん
)
の
金
(
かね
)
を
又
(
また
)
外
(
ほか
)
の
奴
(
やつ
)
に
拾
(
ひろ
)
はれて
了
(
しま
)
へば、
148
メツタに
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
例
(
ため
)
しがない』
149
宇一
(
ういち
)
『
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
は
僅
(
わづか
)
に
一
(
いち
)
里
(
り
)
計
(
ばか
)
りの
所
(
ところ
)
です。
150
今
(
いま
)
から
行
(
ゆ
)
きましたら
六
(
ろく
)
時
(
じ
)
には
着
(
つ
)
きます。
151
六
(
ろく
)
時間
(
じかん
)
も
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのですか?』
152
大霜
(
おほしも
)
『オウそうぢや、
153
お
前
(
まへ
)
は
肉体
(
にくたい
)
を
持
(
も
)
つた
現界
(
げんかい
)
の
人間
(
にんげん
)
だ、
154
神界
(
しんかい
)
と
同
(
おな
)
じ
調子
(
てうし
)
には
行
(
ゆ
)
かぬワイ、
155
そんなら
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
に
賊
(
ぞく
)
が
出
(
で
)
て
金
(
かね
)
を
取
(
と
)
るのだから、
156
余
(
あま
)
り
早過
(
はやす
)
ぎてもいかず、
157
遅過
(
おそす
)
ぎてもいかぬから、
158
此処
(
ここ
)
を
十一
(
じふいち
)
時半
(
じはん
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
け、
159
そうすれば
丁度
(
ちやうど
)
都合
(
つがふ
)
がよからう』
160
宇一
(
ういち
)
『
最前
(
さいぜん
)
申
(
まを
)
した
様
(
やう
)
に
決
(
けつ
)
して
疑
(
うたがひ
)
は
致
(
いた
)
しませぬけれど、
161
もし
間違
(
まちが
)
つたら
如何
(
どう
)
して
下
(
くだ
)
さいますか?』
162
大霜
(
おほしも
)
『
間違
(
まちが
)
うと
思
(
おも
)
ふなら
行
(
ゆ
)
かぬがよかろ、
163
後
(
あと
)
で
不足
(
ふそく
)
を
聞
(
き
)
くのは
面倒
(
めんだう
)
だから、
164
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
喜楽
(
きらく
)
一人
(
ひとり
)
行
(
ゆ
)
くがよい、
165
一万
(
いちまん
)
円
(
ゑん
)
の
謝金
(
しやきん
)
は
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
自由
(
じいう
)
に
使
(
つか
)
うたが
宜
(
よ
)
からうぞ』
166
宇一
(
ういち
)
『もし
大霜
(
おほしも
)
さま、
167
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
様
(
やう
)
に
喜楽
(
きらく
)
丈
(
だけ
)
が
行
(
ゆ
)
きますと、
168
不結果
(
ふけつくわ
)
に
了
(
をは
)
るかも
知
(
し
)
れませぬ。
169
私
(
わたし
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
連
(
つ
)
らつて
行
(
い
)
つたら
如何
(
どう
)
ですか?』
170
大霜
(
おほしも
)
『それも
宜
(
よ
)
からう。
171
それまでに
水
(
みづ
)
を
三百
(
さんびやく
)
三十三
(
さんじふさん
)
杯
(
ばい
)
頭
(
あたま
)
からかぶり
神言
(
かみごと
)
を
五十遍
(
ごじつぺん
)
上
(
あ
)
げよ。
172
そうすればこれから
丁度
(
ちやうど
)
十一
(
じふいち
)
時半
(
じはん
)
迄
(
まで
)
時間
(
じかん
)
がかかる、
173
それから
行
(
い
)
つたがよからう。
174
神
(
かみ
)
は
之
(
これ
)
から
引取
(
ひきと
)
るぞよ』
175
ドスンと
飛上
(
とびあが
)
り、
176
畳
(
たたみ
)
を
響
(
ひび
)
かせ
鎮
(
しづ
)
まつて
了
(
しま
)
つた。
177
宇一
(
ういち
)
は
釣瓶
(
つるべ
)
に
三百
(
さんびやく
)
三十三
(
さんじふさん
)
杯
(
ばい
)
の
水
(
みづ
)
をカブるのは
苦痛
(
くつう
)
で
堪
(
たま
)
らず、
178
小
(
ちひ
)
さい
杓
(
しやく
)
で、
179
一杯
(
いつぱい
)
の
水
(
みづ
)
を
三
(
さん
)
しづく
程
(
ほど
)
酌
(
く
)
んで『
一
(
ひと
)
つ
二
(
ふた
)
つ
三
(
みつ
)
つ……』と
云
(
い
)
つて
三百
(
さんびやく
)
三十三
(
さんじふさん
)
杯
(
ばい
)
かぶる
真似
(
まね
)
をしてゐた。
180
祝詞
(
のりと
)
も
神言
(
かみごと
)
では
長
(
なが
)
いと
云
(
い
)
つて、
181
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
に
代
(
か
)
へて
貰
(
もら
)
ひ、
182
漸
(
やうや
)
くにして
五十遍
(
ごじつぺん
)
早口
(
はやぐち
)
に
唱
(
とな
)
へて
了
(
しま
)
ひ、
183
宇一
(
ういち
)
『サア
喜楽
(
きらく
)
、
184
ソロソロ
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
185
まだ
九
(
く
)
時
(
じ
)
過
(
す
)
ぎだが、
186
道々
(
みちみち
)
修行
(
しうぎやう
)
したりなんかしもつて
行
(
ゆ
)
けば、
187
丁度
(
ちやうど
)
よい
時間
(
じかん
)
になるよ。
188
遅
(
おそ
)
いより
早
(
はや
)
いがましだからな』
189
喜楽
(
きらく
)
『モウおかうかい、
190
おれは
何
(
なん
)
だか
本当
(
ほんたう
)
のやうに
思
(
おも
)
はぬワ。
191
又
(
また
)
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はされると
馬鹿
(
ばか
)
らしいからな』
192
宇一
(
ういち
)
『
羹物
(
あつもの
)
にこりて
膾
(
なます
)
を
吹
(
ふ
)
くとはお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だ、
193
そう
神
(
かみ
)
さまだつて
何遍
(
なんべん
)
も
人
(
ひと
)
を
弄
(
もてあそ
)
びになさる
筈
(
はず
)
がない、
194
疑
(
うたが
)
ふのが
一番
(
いちばん
)
悪
(
わる
)
い、
195
何
(
なん
)
でも
唯々
(
いい
)
諾々
(
だくだく
)
として
是
(
これ
)
命
(
めい
)
維
(
こ
)
れ
従
(
したが
)
ふと
云
(
い
)
ふのが、
196
信仰
(
しんかう
)
の
道
(
みち
)
だ。
197
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
はずに
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
198
喜楽
(
きらく
)
『
余
(
あま
)
り
人
(
ひと
)
に
分
(
わか
)
らぬよにしてをつてくれ。
199
もし
失策
(
しくじ
)
つたら
又
(
また
)
次郎松
(
じろまつ
)
サンに
村中
(
むらぢう
)
触
(
ふ
)
れ
歩
(
ある
)
かれると
困
(
こま
)
るからなア』
200
宇一
(
ういち
)
は『ヨシヨシ』と
諾
(
き
)
き
乍
(
なが
)
ら、
201
早
(
はや
)
くも
吾
(
わが
)
茅家
(
あばらや
)
を
立出
(
たちい
)
でる。
202
喜楽
(
きらく
)
も
従
(
つ
)
いて、
203
田圃路
(
たんぼみち
)
を
辿
(
たど
)
り
天川村
(
てんがはむら
)
を
右
(
みぎ
)
に
見
(
み
)
て、
204
出山
(
いでやま
)
を
越
(
こ
)
え、
205
上佐伯
(
かみさへき
)
の
御霊
(
ごりやう
)
神社
(
じんじや
)
の
森
(
もり
)
に
辿
(
たど
)
りつき、
206
森
(
もり
)
の
杉
(
すぎ
)
の
木
(
き
)
の
株
(
かぶ
)
に
腰
(
こし
)
を
打掛
(
うちか
)
けて、
207
夜
(
よる
)
のボヤボヤした
春風
(
はるかぜ
)
を
身
(
み
)
に
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
208
眠
(
ねむ
)
たいのを
無理
(
むり
)
に
辛抱
(
しんばう
)
して、
209
時刻
(
じこく
)
の
到
(
いた
)
るのを
待
(
ま
)
つてゐた。
210
愈
(
いよいよ
)
十一
(
じふいち
)
時
(
じ
)
を
社務所
(
しやむしよ
)
の
時計
(
とけい
)
が
打出
(
うちだ
)
した。
211
宇一
『アヽモウ
十一
(
じふいち
)
時
(
じ
)
だ、
212
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
かう』
213
と
宇一
(
ういち
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つ。
214
喜楽
(
きらく
)
は
後
(
あと
)
からスタスタと
険
(
けは
)
しき
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
を、
215
七八丁
(
しちはつちやう
)
計
(
ばか
)
り
登
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
216
峠
(
たうげ
)
の
茶屋
(
ちやや
)
に
山田屋
(
やまだや
)
と
云
(
い
)
ふのがあつた。
217
まだ
時刻
(
じこく
)
が
早
(
はや
)
いので、
218
一寸
(
ちよつと
)
一服
(
いつぷく
)
して
行
(
ゆ
)
かうと、
219
戸
(
と
)
の
隙
(
すき
)
から
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
くと、
220
此
(
この
)
五六軒
(
ごろくけん
)
よりかない
村
(
むら
)
の
若
(
わか
)
い
者
(
もの
)
が、
221
まだ
遊
(
あそ
)
んでゐる。
222
……コリヤ
却
(
かへつ
)
て
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
い……と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
223
峠
(
たうげ
)
の
右側
(
みぎがは
)
の
松林
(
まつばやし
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
224
暫
(
しばら
)
く
時刻
(
じこく
)
の
到
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つてゐる
間
(
あひだ
)
に、
225
二人
(
ふたり
)
共
(
とも
)
グツスリ
寝込
(
ねこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
226
フツと
先
(
さき
)
に
目
(
め
)
が
開
(
あ
)
いたのは
宇一
(
ういち
)
であつた。
227
宇一
(
ういち
)
『オイ
喜楽
(
きらく
)
、
228
早
(
はや
)
う
起
(
お
)
きぬか、
229
今
(
いま
)
一寸
(
ちよつと
)
道
(
みち
)
の
方
(
はう
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
居
(
を
)
りたら、
230
神
(
かみ
)
さまの
云
(
い
)
ふたやうに、
231
一人
(
ひとり
)
の
黒
(
くろ
)
い
男
(
をとこ
)
が、
232
財布
(
さいふ
)
の
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
を
担
(
かた
)
げて
通
(
とほ
)
りよつたぞ。
233
又
(
また
)
其
(
その
)
後
(
あと
)
へ
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
が
一町
(
いつちやう
)
ほど
離
(
はな
)
れて
行
(
ゆ
)
きよつた。
234
ヤツパリ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
仰
(
おつ
)
しやる
事
(
こと
)
は
違
(
ちが
)
はぬワ。
235
丁度
(
ちやうど
)
今
(
いま
)
財布
(
さいふ
)
をボツタクられてる
所
(
ところ
)
だ。
236
余
(
あま
)
り
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
くと
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
泥棒
(
どろばう
)
と
間違
(
まちが
)
へられて
天狗
(
てんぐ
)
さまに
叱
(
しか
)
られては
大変
(
たいへん
)
だから、
237
ゆつくりして
行
(
ゆ
)
かうだないか』
238
と
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
囁
(
ささや
)
く。
239
喜楽
(
きらく
)
の
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
は、
240
八分
(
はちぶ
)
まで
信
(
しん
)
ぜられない、
241
如何
(
どう
)
してもウソの
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がする。
242
けれ
共
(
ども
)
二分
(
にぶ
)
許
(
ばか
)
り
何
(
なん
)
とはなしに
希望
(
きばう
)
の
糸
(
いと
)
につながれてるやうな
気
(
き
)
がした。
243
そこで
両人
(
りやうにん
)
は
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
から
街道
(
かいだう
)
へ
下
(
お
)
り、
244
峠
(
たうげ
)
を
二町
(
にちやう
)
ばかり
降
(
くだ
)
つて
見
(
み
)
ると、
245
一寸
(
ちよつと
)
曲
(
まが
)
り
途
(
みち
)
がある。
246
ここに
間違
(
まちが
)
ひないとよく
目
(
め
)
を
光
(
ひか
)
らして
見
(
み
)
れば、
247
財布
(
さいふ
)
の
様
(
やう
)
なものが
黒
(
くろ
)
く
落
(
お
)
ちてゐる。
248
二人
(
ふたり
)
は
一
(
ひ
)
イ
二
(
ふ
)
ウ
三
(
み
)
ツで
其
(
そ
)
の
黒
(
くろ
)
い
物
(
もの
)
に
手
(
て
)
をかけると、
249
財布
(
さいふ
)
と
思
(
おも
)
ふたのは
牛
(
うし
)
の
糞
(
くそ
)
の
段塚
(
だんづか
)
であつた。
250
二人
(
ふたり
)
は
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
らしいので、
251
互
(
たがひ
)
に
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
はず、
252
まだ
外
(
ほか
)
に
落
(
お
)
ちてるに
違
(
ちが
)
ひないと、
253
汚
(
よご
)
れた
手
(
て
)
をそこらの
草
(
くさ
)
にこすりつけ
拭
(
ふ
)
き
取
(
と
)
り
乍
(
なが
)
らガザリガザリと
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
を
捜
(
さが
)
して
見
(
み
)
た。
254
ここは
常
(
つね
)
から
牛車
(
ぎうしや
)
の
一服
(
いつぷく
)
する
場所
(
ばしよ
)
で、
255
路傍
(
みちばた
)
の
草原
(
くさはら
)
に
牛
(
うし
)
をつなぐ
為
(
ため
)
、
256
どこにもかしこにも
牛糞
(
うしくそ
)
だらけである。
257
……コラ
此処
(
ここ
)
ではあるまい……と
又
(
また
)
一町
(
いつちやう
)
許
(
ばか
)
り
降
(
くだ
)
り、
258
そこら
中
(
ぢう
)
捜
(
さが
)
してみたが、
259
何一
(
なにひと
)
つおちてゐない。
260
念入
(
ねんい
)
りに
葦野峠
(
あしのたうげ
)
の
西坂
(
にしさか
)
五六丁
(
ごろくちやう
)
の
間
(
あひだ
)
を
捜
(
さが
)
してる
間
(
あひだ
)
に、
261
夜
(
よ
)
はガラリと
明
(
あ
)
けて
了
(
しま
)
つた。
262
宇一
(
ういち
)
は
失望
(
しつばう
)
落胆
(
らくたん
)
の
余
(
あま
)
り、
263
宇一
(
ういち
)
『オイ
喜楽
(
きらく
)
、
264
貴様
(
きさま
)
の
神懸
(
かむがか
)
りはサツパリ
駄目
(
だめ
)
だ。
265
今度
(
こんど
)
は
糞
(
くそ
)
を
掴
(
つか
)
ましやがつただないか、
266
クソ
忌々
(
いまいま
)
しい、
267
もうこんな
事
(
こと
)
は
誰
(
たれ
)
にもいふなよ。
268
お
前
(
まへ
)
は
口
(
くち
)
が
軽
(
かる
)
いから
困
(
こま
)
る。
269
そして
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
神懸
(
かむがか
)
りは
止
(
や
)
めようぢやないか』
270
喜楽
(
きらく
)
『グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
金
(
かね
)
の
財布
(
さいふ
)
が
牛糞
(
うしぐそ
)
になると
神
(
かみ
)
さまが
言
(
い
)
ふたぢやないか。
271
モウ
仕方
(
しかた
)
がない、
272
これも
修業
(
しうげふ
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて
諦
(
あきら
)
めようかい』
273
宇一
(
ういち
)
『サア
早
(
はや
)
く
帰
(
い
)
なう、
274
誰
(
たれ
)
に
出会
(
であ
)
うか
知
(
し
)
れやしない。
275
余
(
あま
)
り
見
(
み
)
つともよくないから……』
276
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
277
力
(
ちから
)
なげに
両人
(
りやうにん
)
は
穴太
(
あなを
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
278
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
くして
神
(
かみ
)
さまは
天狗
(
てんぐ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
279
自分
(
じぶん
)
等
(
ら
)
の
執着
(
しふちやく
)
を
根底
(
こんてい
)
より
払拭
(
ふつしき
)
し
去
(
さ
)
り、
280
真
(
しん
)
の
神柱
(
かむばしら
)
としてやらうと
思召
(
おぼしめ
)
し、
281
いろいろと
工夫
(
くふう
)
をおこらし
下
(
くだ
)
さつたのだと、
282
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
程
(
ほど
)
経
(
た
)
つて
気
(
き
)
がついた。
283
それ
迄
(
まで
)
は
時々
(
ときどき
)
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
して、
284
馬鹿
(
ばか
)
らしくつて
堪
(
たま
)
らなかつたのである。
285
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
286
(
大正一一・一〇・九
旧八・一九
松村真澄
録)
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