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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
第1章 富士山
第2章 葱節
第3章 破軍星
第4章 素破抜
第5章 松の下
第6章 手料理
第2篇 青垣山内
第7章 五万円
第8章 梟の宵企
第9章 牛の糞
第10章 矢田の滝
第11章 松の嵐
第12章 邪神憑
第3篇 阪丹珍聞
第13章 煙の都
第14章 夜の山路
第15章 盲目鳥
第16章 四郎狸
第17章 狐の尾
第18章 奥野操
第19章 逆襲
第20章 仁志東
第4篇 山青水清
第21章 参綾
第22章 大僧坊
第23章 海老坂
第24章 神助
第25章 妖魅来
霊の礎(九)
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第37巻(子の巻)
> 第2篇 青垣山内 > 第11章 松の嵐
<<< 矢田の滝
(B)
(N)
邪神憑 >>>
第一一章
松
(
まつ
)
の
嵐
(
あらし
)
〔一〇二三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第2篇 青垣山内
よみ(新仮名遣い):
あおがきやまうち
章:
第11章 松の嵐
よみ(新仮名遣い):
まつのあらし
通し章番号:
1023
口述日:
1922(大正11)年10月09日(旧08月19日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
矢田の滝の修行が終わってから宮垣内の自宅でいよいよ神業に奉仕することになった。さまざまな病人が来て鎮魂や神占を乞う。たちまち御神徳の評判が遠近にとどろいて評判を呼び、朝から晩まで食事をする間もないほど多忙を極めた。
またぞろ次郎松がやってきて難癖をつけ、湯呑みの中に入れたものを当てろという。喜楽は神様の教えを伝え人の悩みを助けるのがお役目だと諭すが、あまり騒ぐので、霊眼で湯呑みの中に銅貨を十五枚入れたことを当ててやった。
すると次郎松は狐を使っているとわめきだしたので、霊学の透視術について説明したが、さっぱり理解してくれない。次郎松は狐使いだと近所を言いふらしてあるいたが、参詣人が減ることはなかった。
また侠客の牛公が難癖をつけにやってきたが、喜楽は無抵抗主義で無視していると、しまいには屁をひりかけて去って行った。弟の由松は、無礼な牛公に罰も当てないと神様に怒って、祭壇を返してしまった。
その夜、由松の枕元に五柱の神々が現れて由松を戒めたという。しばらくは由松は殊勝になって祭壇の掃除などをしていたが、一週間もするとまた、次郎松と一緒になって神様の悪口を触れ回り始めた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-21 16:27:37
OBC :
rm3711
愛善世界社版:
138頁
八幡書店版:
第7輯 82頁
修補版:
校定版:
145頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
001
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
の
矢田
(
やだ
)
の
滝
(
たき
)
の
行
(
ぎやう
)
を
終
(
をは
)
つてから、
002
宮垣内
(
みやがいち
)
の
自宅
(
じたく
)
に
於
(
おい
)
て、
003
喜楽
(
きらく
)
は
愈々
(
いよいよ
)
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
する
事
(
こと
)
となつた。
004
盲目
(
めくら
)
や
聾唖
(
つんぼ
)
、
005
リウマチ、
006
其
(
その
)
他
(
ほか
)
いろいろの
病人
(
びやうにん
)
がやつて
来
(
き
)
て
鎮魂
(
ちんこん
)
を
頼
(
たの
)
む、
007
神占
(
しんせん
)
を
乞
(
こ
)
ふ、
008
何
(
いづ
)
れも
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
が
弥顕
(
いやちこ
)
だと
云
(
い
)
ふ
評判
(
へうばん
)
が
忽
(
たちま
)
ち
遠近
(
ゑんきん
)
に
轟
(
とどろ
)
いて、
009
穴太
(
あなを
)
の
天狗
(
てんぐ
)
さまとか
金神
(
こんじん
)
さま、
010
稲荷
(
いなり
)
さまなどといつて、
011
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
参詣人
(
さんけいにん
)
の
山
(
やま
)
を
築
(
きづ
)
き、
012
食事
(
しよくじ
)
する
間
(
ま
)
もない
位
(
くらゐ
)
、
013
多忙
(
たばう
)
を
極
(
きは
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
014
例
(
れい
)
の
次郎松
(
じろまつ
)
サンがやつて
来
(
き
)
て、
015
祭壇
(
さいだん
)
の
前
(
まへ
)
に
尻
(
しり
)
を
捲
(
まく
)
つてドツカと
坐
(
すわ
)
り、
016
大勢
(
おほぜい
)
の
参拝者
(
さんぱいしや
)
の
中
(
なか
)
をも
顧
(
かへり
)
みず、
017
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
して
喜楽
(
きらく
)
を
睨
(
にら
)
みつけ、
018
次郎松
(
じろまつ
)
『コリヤ
極道
(
ごくだう
)
息子
(
むすこ
)
、
019
貴様
(
きさま
)
は
又
(
また
)
しても
山子
(
やまこ
)
商売
(
しやうばい
)
をやる
積
(
つも
)
りだな。
020
ヨシ、
021
今
(
いま
)
に
化
(
ば
)
けの
皮
(
かは
)
をヒン
剥
(
む
)
いて、
022
大勢
(
おほぜい
)
の
前
(
まへ
)
で
赤恥
(
あかはぢ
)
かかして
見
(
み
)
せてやらう。
023
それが
貴様
(
きさま
)
の
将来
(
しやうらい
)
のためにもなり、
024
上田家
(
うへだけ
)
の
為
(
た
)
めにもなるのだ。
025
株内
(
かぶうち
)
や
近所
(
きんじよ
)
へよい
程
(
ほど
)
心配
(
しんぱい
)
をかけさらせやがつて、
026
其
(
その
)
上
(
うへ
)
まだ
狐
(
きつね
)
使
(
つか
)
ひの
真似
(
まね
)
をするとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
027
何故
(
なぜ
)
折角
(
せつかく
)
ここ
迄
(
まで
)
築
(
きづ
)
きあげた、
028
見込
(
みこみ
)
のある
牧畜
(
ぼくちく
)
や
乳屋
(
ちちや
)
を
勉強
(
べんきやう
)
せぬか。
029
神
(
かみ
)
さまだの、
030
占
(
うらなひ
)
だの、
031
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
出鱈目
(
でたらめ
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがつて、
032
世間
(
せけん
)
の
人
(
ひと
)
を
誤魔
(
ごま
)
かし、
033
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
仕様
(
しやう
)
たつて
駄目
(
だめ
)
だぞ、
034
尾
(
を
)
の
無
(
な
)
いド
狐
(
ぎつね
)
とは
貴様
(
きさま
)
の
事
(
こと
)
だ。
035
貴様
(
きさま
)
が
本当
(
ほんたう
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
面会
(
めんくわい
)
が
出来
(
でき
)
、
036
又
(
また
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
が
伺
(
うかが
)
へるのなら、
037
今
(
いま
)
俺
(
おれ
)
が
一
(
ひと
)
つ
検査
(
けんさ
)
をしてやらう。
038
万
(
まん
)
が
一
(
いち
)
にも
当
(
あた
)
つたが
最後
(
さいご
)
、
039
俺
(
おれ
)
の
財産
(
ざいさん
)
四百
(
よんひやく
)
円
(
ゑん
)
の
地価
(
ちか
)
を
残
(
のこ
)
らず
貴様
(
きさま
)
にやる』
040
と
口汚
(
くちぎたな
)
く
罵
(
ののし
)
り
乍
(
なが
)
ら、
041
湯呑
(
ゆの
)
みの
中
(
なか
)
へ
何
(
なに
)
か
小
(
ちひ
)
さい
物
(
もの
)
を
入
(
い
)
れて、
042
其
(
その
)
口
(
くち
)
を
厚紙
(
あつがみ
)
で
貼
(
は
)
り
糊
(
のり
)
をコテコテとつけ、
043
音
(
おと
)
をせぬ
様
(
やう
)
に
懐
(
ふところ
)
から
出
(
だ
)
して
前
(
まへ
)
にソツと
置
(
お
)
き、
044
次郎松
(
じろまつ
)
『サア
先生
(
せんせい
)
、
045
イヤ
極道
(
ごくだう
)
息子
(
むすこ
)
、
046
指一本
(
ゆびいつぽん
)
でも
触
(
さえ
)
る
事
(
こと
)
はならぬ。
047
此
(
この
)
儘
(
まま
)
此
(
この
)
湯呑
(
ゆの
)
みの
中
(
なか
)
に、
048
どんな
物
(
もの
)
がどれ
丈
(
だ
)
け
這入
(
はい
)
つてをるかと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を、
049
貂眼通
(
てんがんつう
)
とか
鼬通
(
いたちつう
)
とか
云
(
い
)
ふ
先生
(
せんせい
)
、
050
見事
(
みごと
)
あてて
見
(
み
)
よ。
051
これが
当
(
あた
)
つたら、
052
それこそ
天
(
てん
)
が
地
(
ち
)
になり
地
(
ち
)
が
天
(
てん
)
になる。
053
お
月
(
つき
)
さまに
向
(
むか
)
つて
放
(
はな
)
す
弓
(
ゆみ
)
の
矢
(
や
)
は
中
(
あた
)
つても、
054
こればつかりは
滅多
(
めつた
)
にあたる
気遣
(
きづか
)
ひはない。
055
如何
(
どう
)
ですな、
056
先生
(
せんせい
)
!』
057
と
軽侮
(
けいぶ
)
の
念
(
ねん
)
を
飽迄
(
あくまで
)
顔面
(
がんめん
)
に
現
(
あらは
)
し、
058
喜楽
(
きらく
)
の
顔
(
かほ
)
を
頤
(
あご
)
をしやくつて
睨
(
ね
)
めつける。
059
喜楽
(
きらく
)
『
俺
(
わし
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
を
伝
(
つた
)
へたり、
060
人
(
ひと
)
の
悩
(
なや
)
みを
助
(
たす
)
けたりするのが
役
(
やく
)
だ。
061
手品師
(
てじなし
)
の
様
(
やう
)
に、
062
そんな
物
(
もの
)
をあてると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
は
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
り
度
(
た
)
い。
063
神
(
かみ
)
さまに
教
(
をし
)
へて
貰
(
もら
)
ふた
事
(
こと
)
はないから
知
(
し
)
りませぬ』
064
次郎松
(
じろまつ
)
はシタリ
顔
(
がほ
)
で、
065
一寸
(
ちよつと
)
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し
頤
(
あご
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つしやくつて、
066
次郎松
(
じろまつ
)
『
態
(
ざま
)
ア
見
(
み
)
やがれド
狸
(
たぬき
)
奴
(
め
)
、
067
到頭
(
たうとう
)
赤
(
あか
)
い
尻尾
(
しつぽ
)
を
出
(
だ
)
しやがつた。
068
エー、
069
おけおけ、
070
此
(
この
)
時節
(
じせつ
)
にそんな
馬鹿
(
ばか
)
の
真似
(
まね
)
さらすと、
071
此
(
この
)
松
(
まつ
)
サンがフンのばして
了
(
しま
)
ふぞ。
072
オイ
狸
(
たぬき
)
先生
(
せんせい
)
、
073
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つのか、
074
何
(
なん
)
だ、
075
其
(
その
)
むつかしい
顔
(
かほ
)
は……
残念
(
ざんねん
)
なか、
076
口惜
(
くや
)
しいか、
077
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
せい、
078
ド
狸野郎
(
たぬきやろう
)
奴
(
め
)
』
079
と
益々
(
ますます
)
傍若
(
ばうじやく
)
無人
(
ぶじん
)
の
悪言
(
あくげん
)
暴語
(
ばうご
)
を
連発
(
れんぱつ
)
する。
080
喜楽
(
きらく
)
はあまり
次郎松
(
じろまつ
)
の
言葉
(
ことば
)
が
煩
(
うる
)
さくなつて
来
(
き
)
たので、
081
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
082
彼
(
かれ
)
の
疑心
(
ぎしん
)
を
晴
(
は
)
らしてやらうと
思
(
おも
)
ひ、
083
喜楽
(
きらく
)
『
松
(
まつ
)
サン、
084
あんまりお
前
(
まへ
)
が
疑
(
うたが
)
ふから、
085
今日
(
けふ
)
一遍
(
いつぺん
)
だけ
云
(
い
)
ふてやるが……
一銭
(
いつせん
)
銅貨
(
どうくわ
)
を
十五
(
じふご
)
枚
(
まい
)
入
(
い
)
れてあるだらう』
086
側
(
そば
)
に
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
つた
数多
(
あまた
)
の
参詣者
(
さんけいしや
)
は、
087
各自
(
めいめい
)
に
此
(
この
)
実地
(
じつち
)
を
見
(
み
)
て
感嘆
(
かんたん
)
して
居
(
ゐ
)
る。
088
次郎松
(
じろまつ
)
は
妙
(
めう
)
な
顔
(
かほ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
089
御
(
ご
)
叮嚀
(
ていねい
)
に
喜楽
(
きらく
)
の
顔
(
かほ
)
を
又
(
また
)
もや
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
み、
090
自分
(
じぶん
)
の
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
で
自分
(
じぶん
)
の
膝頭
(
ひざがしら
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
叩
(
たた
)
き、
091
首
(
くび
)
を
一寸
(
ちよつと
)
傾
(
かたむ
)
けて、
092
次郎松
(
じろまつ
)
『ハア……
案
(
あん
)
の
定
(
ぢやう
)
、
093
狐
(
きつね
)
使
(
つか
)
ひだ。
094
やつぱり
箱根山
(
はこねやま
)
の
道了
(
だうれう
)
権現
(
ごんげん
)
のつかはしの
飯綱
(
いづな
)
をつかつてるのだな。
095
一体
(
いつたい
)
そんな
管狐
(
くだぎつね
)
を
何処
(
どこ
)
で
買
(
か
)
つて
来
(
き
)
たのだ。
096
何匹
(
なんびき
)
ほど
居
(
を
)
るのか。
097
そんなものでも
一匹
(
いつぴき
)
が
一
(
いち
)
円
(
ゑん
)
もとるか、
098
一寸
(
ちよつと
)
俺
(
おれ
)
にも
見
(
み
)
せて
呉
(
く
)
れ、
099
ホンの
一寸
(
ちよつと
)
でよい、
100
大切
(
だいじ
)
なお
前
(
まへ
)
の
商売
(
しやうばい
)
道具
(
だうぐ
)
を
長
(
なが
)
う
見
(
み
)
せてくれとは
云
(
い
)
はぬ』
101
と
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
質問
(
しつもん
)
を
連発
(
れんぱつ
)
する。
102
迷信家
(
めいしんか
)
ほど
困
(
こま
)
つたものはない。
103
喜楽
(
きらく
)
『
神懸
(
かむがか
)
りの
霊術
(
れいじゆつ
)
によつて、
104
透視
(
とうし
)
作用
(
さよう
)
が
利
(
き
)
くのだ』
105
と
少
(
すこ
)
しばかり
霊魂学
(
れいこんがく
)
の
説明
(
せつめい
)
を
簡単
(
かんたん
)
に
述
(
の
)
べたてて
見
(
み
)
た。
106
されど
元来
(
ぐわんらい
)
の
無学者
(
むがくしや
)
だけに、
107
何
(
なに
)
をいつても
馬耳
(
ばじ
)
東風
(
とうふう
)
、
108
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
りさうな
事
(
こと
)
はない。
109
又
(
また
)
もや
次郎松
(
じろまつ
)
は
口
(
くち
)
を
尖
(
とが
)
らして、
110
次郎松
(
じろまつ
)
『
透視
(
とうし
)
だか
水篩
(
すゐのう
)
だか、
111
そんな
事
(
こと
)
ア
知
(
し
)
らぬが、
112
そこらに
小
(
ちひ
)
さい
管狐
(
くだぎつね
)
を
放
(
はう
)
り
出
(
だ
)
さぬ
様
(
やう
)
にして
呉
(
く
)
れよ。
113
ヒヨツと
取
(
と
)
り
憑
(
つ
)
かれでもしたら
大変
(
たいへん
)
だ。
114
皆
(
みな
)
さま
用心
(
ようじん
)
しなさい。
115
此奴
(
こいつ
)
ア
飯綱
(
いづな
)
使
(
つか
)
ひだから、
116
うつかりしてると
憑
(
つ
)
けられますよ。
117
病人
(
びやうにん
)
が
来
(
く
)
ると、
118
管狐
(
くだぎつね
)
を
一寸
(
ちよつと
)
除
(
の
)
かして、
119
病気
(
びやうき
)
を
癒
(
なほ
)
し、
120
又
(
また
)
暫
(
しばら
)
くすると
管狐
(
くだぎつね
)
をつけて
病人
(
びやうにん
)
にして、
121
何度
(
なんど
)
も
礼
(
れい
)
をとると
云
(
い
)
ふ
虫
(
むし
)
の
良
(
よ
)
い
商売
(
しやうばい
)
を
始
(
はじ
)
めかけよつたのだ。
122
何
(
なに
)
しろ
近寄
(
ちかよ
)
らぬが
何
(
なに
)
よりだ。
123
別
(
べつ
)
に
穴太
(
あなを
)
の
村
(
むら
)
に
喜楽
(
きらく
)
が
居
(
を
)
つて
神
(
かみ
)
を
祀
(
まつ
)
らうが
祀
(
まつ
)
らうまいが、
124
矢張
(
やつぱり
)
お
日
(
ひ
)
さまは
東
(
ひがし
)
から
出
(
で
)
て
御座
(
ござ
)
る。
125
暗
(
くら
)
がりになるためしもなし、
126
喜楽
(
きらく
)
が
神
(
かみ
)
さまを
始
(
はじ
)
めてから、
127
お
日
(
ひ
)
さまが、
128
光
(
ひか
)
りが
強
(
つよ
)
くなつた
訳
(
わけ
)
ぢやなし、
129
お
月
(
つき
)
さまが
毎晩
(
まいばん
)
出
(
で
)
る
訳
(
わけ
)
でもないし、
130
斯
(
こ
)
んな
者
(
もの
)
に
騙
(
だま
)
されるより
早
(
はや
)
う
皆
(
みな
)
さまお
帰
(
かへ
)
りなさい。
131
こんな
奴
(
やつ
)
に
眉毛
(
まゆげ
)
をよまれ
尻毛
(
しりげ
)
をぬかれて
堪
(
たま
)
りますか。
132
俺
(
おれ
)
はきつてもきれぬ
親類
(
しんるゐ
)
だから、
133
第一
(
だいいち
)
上田家
(
うへだけ
)
のため、
134
又
(
また
)
此
(
この
)
極道
(
ごくだう
)
の
為
(
た
)
め、
135
お
前
(
まへ
)
サン
達
(
たち
)
の
為
(
た
)
め
気
(
き
)
をつける』
136
と
口
(
くち
)
を
極
(
きは
)
めて
反対
(
はんたい
)
の
気焔
(
きえん
)
をあげる。
137
然
(
しか
)
し
参詣者
(
さんけいしや
)
は
一人
(
ひとり
)
も
消
(
き
)
えぬ。
138
依然
(
いぜん
)
として
鎮魂
(
ちんこん
)
を
乞
(
こ
)
ひ、
139
伺
(
うかが
)
ひを
願
(
ねが
)
つて
喜
(
よろこ
)
んで
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
140
次郎松
(
じろまつ
)
サンは
翌日
(
よくじつ
)
の
朝
(
あさ
)
早
(
はや
)
くから
穴太
(
あなを
)
の
村中
(
むらぢう
)
一軒
(
いつけん
)
も
残
(
のこ
)
らず、
141
次郎松
(
じろまつ
)
『
家
(
うち
)
の
本家
(
ほんけ
)
の
喜楽
(
きらく
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
142
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
飯綱
(
いづな
)
を
買
(
か
)
うて
来
(
き
)
て
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
をして
居
(
ゐ
)
よるから、
143
相手
(
あひて
)
になつてくれるな』
144
と
賃金
(
ちんぎん
)
不要
(
いらず
)
の
広告屋
(
くわうこくや
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
る。
145
次郎松
(
じろまつ
)
は
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
ふ
悪魔
(
あくま
)
の
霊
(
れい
)
に
憑依
(
ひようい
)
されて
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
邪神
(
じやしん
)
の
走狗
(
そうく
)
となつて
了
(
しま
)
つたのである。
146
其
(
その
)
翌日
(
よくじつ
)
大勢
(
おほぜい
)
の
参拝者
(
さんぱいしや
)
を
相手
(
あひて
)
に、
147
鎮魂
(
ちんこん
)
をしたり
神話
(
しんわ
)
を
始
(
はじ
)
めて
居
(
ゐ
)
ると、
148
侠客
(
けふかく
)
俣野
(
またの
)
の
乾児
(
こぶん
)
と
自称
(
じしよう
)
する
背
(
せ
)
の
低
(
ひく
)
い
牛公
(
うしこう
)
がやつて
来
(
き
)
た。
149
足
(
あし
)
に
繃帯
(
はうたい
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
150
牛公
(
うしこう
)
『オイ、
151
喜楽
(
きらく
)
サン、
152
随分
(
ずゐぶん
)
お
前
(
まへ
)
の
商売
(
しやうばい
)
もよう
繁昌
(
はんじやう
)
するね。
153
俺
(
おれ
)
は
夜前
(
やぜん
)
一寸
(
ちよつと
)
足
(
あし
)
に
怪我
(
けが
)
をしたのだ。
154
何卒
(
どうぞ
)
お
前
(
まへ
)
の
鎮魂
(
ちんこん
)
とかで
足
(
あし
)
の
痛
(
いた
)
みを
止
(
と
)
めて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだ』
155
と
横柄
(
わうへい
)
に
手
(
て
)
を
拱
(
こまね
)
き、
156
座敷
(
ざしき
)
の
真中
(
まんなか
)
にドスンと
坐
(
すわ
)
つて
揶揄
(
からか
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
157
元
(
もと
)
より
怪我
(
けが
)
などはして
居
(
ゐ
)
ないのだ。
158
みな
嘘
(
うそ
)
の
皮
(
かは
)
、
159
万々一
(
まんまんいち
)
喜楽
(
きらく
)
が、
160
『さうか、
161
それは
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だ』
162
と
云
(
い
)
つて
直
(
すぐ
)
に
祈願
(
きぐわん
)
でもしやうものなら、
163
『
天眼通
(
てんがんつう
)
の
先生
(
せんせい
)
が
之
(
これ
)
が
分
(
わか
)
らぬか、
164
怪我
(
けが
)
も
何
(
なに
)
もして
居
(
ゐ
)
ない、
165
嘘
(
うそ
)
だぞ』
166
と
云
(
い
)
つて
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
で
笑
(
わら
)
つたり、
167
ねだつたり、
168
困
(
こま
)
らしたりしようとの
悪
(
わる
)
い
企
(
たく
)
みで
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのである。
169
若
(
も
)
し
喜楽
(
きらく
)
が、
170
『お
前
(
まへ
)
は
疵
(
きず
)
も
何
(
なに
)
もして
居
(
ゐ
)
ない。
171
そんな
事
(
こと
)
をして
俺
(
おれ
)
をためしに
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのだ』
172
と
云
(
い
)
へば、
173
自分
(
じぶん
)
の
指
(
ゆび
)
の
下
(
した
)
に
隠
(
かく
)
した
小刀
(
こがたな
)
で
繃帯
(
はうたい
)
を
解
(
と
)
き
乍
(
なが
)
ら
一寸
(
ちよつと
)
足
(
あし
)
を
切
(
き
)
つて
血
(
ち
)
を
出
(
だ
)
し、
174
『これや、
175
これ
丈
(
だ
)
け
血
(
ち
)
が
出
(
で
)
て
居
(
を
)
るのに
怪我
(
けが
)
して
居
(
ゐ
)
ないとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
176
ド
山子
(
やまこ
)
奴
(
め
)
!』
177
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てあやまらして、
178
酒銭
(
さかて
)
の
一
(
いち
)
円
(
ゑん
)
も
取
(
と
)
つてやらうとの
算段
(
さんだん
)
をして
居
(
を
)
るのだと
見
(
み
)
てとつた
喜楽
(
きらく
)
は、
179
牛公
(
うしこう
)
の
言葉
(
ことば
)
を
耳
(
みみ
)
にもかけず
放擲
(
うつちや
)
つて、
180
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
で
数多
(
あまた
)
の
参詣者
(
さんけいしや
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
を
施
(
ほどこ
)
して
居
(
ゐ
)
た。
181
牛公
(
うしこう
)
は
喜楽
(
きらく
)
の
態度
(
たいど
)
が
余程
(
よほど
)
癪
(
しやく
)
に
触
(
さは
)
つたと
見
(
み
)
え、
182
狂
(
くる
)
ひ
獅子
(
じし
)
の
様
(
やう
)
に
暴
(
あば
)
れ
出
(
だ
)
した。
183
忽
(
たちま
)
ち
先祖
(
せんぞ
)
代々
(
だいだい
)
から
家
(
いへ
)
の
宝
(
たから
)
としてる、
184
虫喰
(
むしくひ
)
だらけの
真黒気
(
まつくろけ
)
の
障子
(
しやうじ
)
の
桁
(
さん
)
を
滅茶
(
めちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
叩
(
たた
)
き
破
(
やぶ
)
る、
185
戸
(
と
)
を
蹴破
(
けやぶ
)
る、
186
火鉢
(
ひばち
)
を
蹴
(
け
)
り
倒
(
たふ
)
すと
云
(
い
)
ふ
大乱暴
(
だいらんばう
)
をなし
乍
(
なが
)
ら、
187
再
(
ふたた
)
び
座敷
(
ざしき
)
の
真中
(
まんなか
)
にドスンと
胡坐
(
あぐら
)
をかき、
188
牛公
(
うしこう
)
『こりや
安閑坊
(
あんかんばう
)
の
喜楽
(
きらく
)
! これでも
罰
(
ばち
)
をようあてぬか、
189
腰抜
(
こしぬ
)
け
神
(
がみ
)
の
鼻垂
(
はなた
)
れ
神
(
がみ
)
ぢやな。
190
そんな
やくざ
神
(
がみ
)
を
祀
(
まつ
)
つてる
貴様
(
きさま
)
は、
191
日本一
(
につぽんいち
)
の
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
だ。
192
今
(
いま
)
此
(
この
)
牛
(
うし
)
さまが
神床
(
かむどこ
)
に
小便
(
せうべん
)
をしてやるから、
193
神力
(
しんりき
)
あり
正念
(
しやうねん
)
がある
神
(
かみ
)
なら、
194
立所
(
たちどころ
)
に
罰
(
ばつ
)
をあてるだらう。
195
そんな
事
(
こと
)
して
能
(
よ
)
う
罰
(
ばち
)
をあてん
様
(
やう
)
な
腰抜神
(
こしぬけがみ
)
なら、
196
神
(
かみ
)
でも
何
(
なん
)
でもない、
197
溝狸
(
どぶだぬき
)
位
(
くらゐ
)
なものだ。
198
蚯蚓
(
みみづ
)
に
小便
(
せうべん
)
かけてさへ○○が
腫
(
は
)
れるぞ、
199
此奴
(
こいつ
)
ア
狸
(
たぬき
)
だから
正念
(
しやうねん
)
があるなら、
200
俺
(
おれ
)
の○○を
腫
(
は
)
らして
見
(
み
)
い!』
201
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
犬
(
いぬ
)
の
様
(
やう
)
に
片足
(
かたあし
)
をピンと
上
(
あ
)
げて、
202
無作法
(
ぶさはふ
)
にもジヨウジヨウとやりかけた。
203
数多
(
あまた
)
の
参詣者
(
さんけいしや
)
は
吃驚
(
びつくり
)
して、
204
残
(
のこ
)
らず
外
(
そと
)
に
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
つた。
205
喜楽
(
きらく
)
は
神界
(
しんかい
)
修業
(
しうげふ
)
の
時
(
とき
)
から、
206
三五教
(
あななひけう
)
の
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
たから、
207
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
彼
(
かれ
)
がなす
儘
(
まま
)
放任
(
はうにん
)
して
居
(
ゐ
)
た。
208
牛公
(
うしこう
)
は
益々
(
ますます
)
図
(
づ
)
にのつて、
209
終
(
つ
)
ひには
黒
(
くろ
)
い
尻
(
しり
)
をひきまくり、
210
喜楽
(
きらく
)
の
鼻
(
はな
)
の
前
(
まへ
)
でプンと
一発
(
いつぱつ
)
嗅
(
かが
)
し『アハヽヽヽ』と
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
らサツサと
帰
(
かへ
)
つて
行
(
い
)
つた。
211
それと
擦
(
す
)
れ
違
(
ちが
)
ひに、
212
弟
(
おとうと
)
が
野良
(
のら
)
から
鍬
(
くは
)
を
担
(
かた
)
げて
慌
(
あはた
)
だしく
馳来
(
はせきた
)
り、
213
牛公
(
うしこう
)
の
乱暴
(
らんばう
)
した
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
き
口惜
(
くやし
)
がり、
214
地団太
(
ぢだんだ
)
を
踏
(
ふ
)
み
乍
(
なが
)
ら、
215
由松
(
よしまつ
)
『エーツ、
216
此
(
この
)
神
(
かみ
)
さまは
力
(
ちから
)
の
無
(
な
)
い
神
(
かみ
)
だ。
217
毎日
(
まいにち
)
々々
(
まいにち
)
物
(
もの
)
を
供
(
そな
)
へてやるのに
何
(
なん
)
の
罰
(
ばち
)
でも
能
(
よ
)
うあてぬのか。
218
ウーンと
フン
のばして
了
(
しま
)
へばよいのに、
219
そうすれや
牛公
(
うしこう
)
だつて、
220
次郎松
(
じろまつ
)
だつて
能
(
よ
)
う
侮
(
あなど
)
らぬのだが、
221
此処
(
ここ
)
に
祀
(
まつ
)
つてあるは
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
寝呆
(
ねぼ
)
け
神
(
かみ
)
だから、
222
あんな
奴
(
やつ
)
に
馬鹿
(
ばか
)
にしられるのだ』
223
と
歯
(
は
)
をかみしめて
吃
(
ども
)
り
乍
(
なが
)
ら
怒
(
おこ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
224
喜楽
(
きらく
)
は
静
(
しづか
)
に
弟
(
おとうと
)
に
向
(
むか
)
つて、
225
喜楽
(
きらく
)
『オイ、
226
由松
(
よしまつ
)
、
227
そんな
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふな。
228
よう
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
い、
229
彼奴
(
あいつ
)
ア
畜生
(
ちくしやう
)
だ。
230
名
(
な
)
からして
牛
(
うし
)
ぢやないか。
231
猫
(
ねこ
)
や
鼠
(
ねずみ
)
は
尊
(
たふと
)
い
御
(
ご
)
神前
(
しんぜん
)
の
中
(
なか
)
でも、
232
糞
(
くそ
)
や
小便
(
せうべん
)
を
平気
(
へいき
)
で
垂
(
た
)
れて
居
(
を
)
る、
233
烏
(
からす
)
や
雀
(
すずめ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
棟
(
むね
)
へ
上
(
あが
)
つて
糞
(
くそ
)
小便
(
せうべん
)
を
垂
(
た
)
れかける、
234
それでもチツとも
神罰
(
しんばつ
)
があたらぬのぢやないか。
235
元来
(
がんらい
)
畜生
(
ちくしやう
)
だから、
236
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のおとがめがないのだ。
237
人間
(
にんげん
)
も
人間
(
にんげん
)
の
資格
(
しかく
)
を
失
(
うしな
)
ふたら
畜生
(
ちくしやう
)
同様
(
どうやう
)
だ。
238
畜生
(
ちくしやう
)
に
神罰
(
しんばつ
)
があたるものかい』
239
と
云
(
い
)
はせも
果
(
は
)
てず
由松
(
よしまつ
)
は、
240
由松
(
よしまつ
)
『ナニ、
241
馬鹿
(
ばか
)
たれるか』
242
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
243
祭壇
(
さいだん
)
の
下
(
した
)
へ
頭
(
あたま
)
をつつ
込
(
こ
)
み
其
(
その
)
まま
直立
(
ちよくりつ
)
した。
244
祭壇
(
さいだん
)
も
神具
(
しんぐ
)
もお
供物
(
そなへもの
)
一式
(
いつしき
)
ガタガタと
転落
(
てんらく
)
し、
245
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
からお
供水
(
こうずゐ
)
、
246
洗米
(
せんまい
)
、
247
其
(
その
)
他
(
た
)
いろいろの
供物
(
そなへもの
)
が
座敷
(
ざしき
)
一杯
(
いつぱい
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
248
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
みと
迄
(
まで
)
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うへ
)
にひつくり
返
(
かへ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
249
由松
(
よしまつ
)
は
拾
(
ひろ
)
うては
戸外
(
こぐわい
)
へ
投
(
な
)
げつける、
250
参詣者
(
さんけいしや
)
はビツクリして
顔色
(
がんしよく
)
を
変
(
か
)
へチリチリバラバラに
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
す。
251
由松
(
よしまつ
)
は
猶
(
なほ
)
も
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ひ、
252
由松
(
よしまつ
)
『オイ
哥兄
(
あにき
)
、
253
こんなやくざ
神
(
がみ
)
を
祭
(
まつ
)
つて
拝
(
をが
)
んでも
屁
(
へ
)
の
役
(
やく
)
にもたたぬぢやないか、
254
もう
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
りこんなつまらぬ
事
(
こと
)
はやめてくれ。
255
こんな
餓鬼
(
がき
)
を
祀
(
まつ
)
つただけに
家内中
(
かないぢう
)
が
心配
(
しんぱい
)
したり、
256
村中
(
むらぢう
)
に
笑
(
わら
)
はれたり、
257
戸障子
(
としやうじ
)
を
破
(
やぶ
)
られたり、
258
此
(
この
)
神
(
かみ
)
は
上田家
(
うへだけ
)
の
敵
(
かたき
)
だ。
259
敵
(
かたき
)
を
祀
(
まつ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
何処
(
どこ
)
にあるものか』
260
と
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
愚痴
(
ぐち
)
つて
怒
(
おこ
)
つて
居
(
を
)
る。
261
喜楽
(
きらく
)
は
由松
(
よしまつ
)
の
放
(
ほ
)
かした
おみと
を
拾
(
ひろ
)
ひ
塩
(
しほ
)
で
清
(
きよ
)
め、
262
再
(
ふたた
)
び
祀
(
まつ
)
り
直
(
なほ
)
し
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
詫
(
わび
)
をして、
263
漸
(
やうや
)
く
其
(
その
)
日
(
ひ
)
は
暮
(
く
)
れて
了
(
しま
)
つた。
264
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
夜中頃
(
よなかごろ
)
、
265
由松
(
よしまつ
)
の
枕許
(
まくらもと
)
に
男女
(
なんによ
)
五柱
(
いつはしら
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
ふて、
266
頻
(
しき
)
りに
由松
(
よしまつ
)
に
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
遊
(
あそ
)
ばした
様
(
やう
)
なお
顔
(
かほ
)
が
歴々
(
ありあり
)
と
見
(
み
)
え、
267
恐
(
おそ
)
ろしくて
一目
(
ひとめ
)
もよう
寝
(
ね
)
ず、
268
夢中
(
むちう
)
になつて
寝
(
ね
)
たままあやまつて
居
(
ゐ
)
る。
269
せまい
家
(
いへ
)
の
事
(
こと
)
とて
横
(
よこ
)
に
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
る
喜楽
(
きらく
)
の
可笑
(
おか
)
しさ。
270
由松
(
よしまつ
)
もこれで
少
(
すこ
)
しは
気
(
き
)
がつくだらうと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
ると、
271
翌朝
(
よくてう
)
早
(
はや
)
くから
御
(
ご
)
神前
(
しんぜん
)
をお
掃除
(
さうぢ
)
したり、
272
お
供物
(
そなへもの
)
をしたり、
273
祝詞
(
のりと
)
を
奏
(
あ
)
げるやら、
274
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
は
打
(
う
)
つて
変
(
か
)
はつて
敬神
(
けいしん
)
の
行為
(
かうゐ
)
を
励
(
はげ
)
んで
居
(
ゐ
)
た。
275
然
(
しか
)
し
十日
(
とをか
)
ほどすると、
276
又
(
また
)
もや
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
悪口
(
あくこう
)
を
次郎松
(
じろまつ
)
と
一所
(
いつしよ
)
になつて
始
(
はじ
)
めかけた。
277
(
大正一一・一〇・九
旧八・一九
北村隆光
録)
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