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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
第1章 富士山
第2章 葱節
第3章 破軍星
第4章 素破抜
第5章 松の下
第6章 手料理
第2篇 青垣山内
第7章 五万円
第8章 梟の宵企
第9章 牛の糞
第10章 矢田の滝
第11章 松の嵐
第12章 邪神憑
第3篇 阪丹珍聞
第13章 煙の都
第14章 夜の山路
第15章 盲目鳥
第16章 四郎狸
第17章 狐の尾
第18章 奥野操
第19章 逆襲
第20章 仁志東
第4篇 山青水清
第21章 参綾
第22章 大僧坊
第23章 海老坂
第24章 神助
第25章 妖魅来
霊の礎(九)
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舎身活躍(第37~48巻)
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第37巻(子の巻)
> 第4篇 山青水清 > 第24章 神助
<<< 海老坂
(B)
(N)
妖魅来 >>>
第二四章
神助
(
しんじよ
)
〔一〇三六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第4篇 山青水清
よみ(新仮名遣い):
やまあおくみずきよし
章:
第24章 神助
よみ(新仮名遣い):
しんじょ
通し章番号:
1036
口述日:
1922(大正11)年10月12日(旧08月22日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
金光教の土田雄弘、福島寅之助らは依然金明会に対して反対運動をしていたが、霊学の現場を見て霊感者となってしまった。しかし綾部の修行場も狭くなり、参拝者もたくさんあって思うような稽古もできず、鷹巣の四方平蔵氏宅に修行場を移した。
しかしここも幽斎の発動が激しく苦情が出始めたので、上谷の四方伊左衛門氏の宅に移転した。結果は良好で、二三人の不成功者を出しただけであとは残らず神人感合の境地に到達した。
そこで喜楽は四方平蔵氏を伴って、清水の長沢雄楯先生に報告に上がった。四方氏は霊学の説明を受けてその趣旨を悟るようになり、二昼夜滞在の上別れを告げて綾部に戻った。
帰途、四方氏は京都で汽車に引きずられそうになったり、蛸に当たったり、人力車の車輪がはずれたりなど、あわや大事故という目に一日に三度まであったが、無事であった。
四方氏の信仰の力と大神様のおかげで九分九厘のところを助けられたのは、氏が一心に神様に仕えていたおかげである。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-28 12:20:01
OBC :
rm3724
愛善世界社版:
289頁
八幡書店版:
第7輯 140頁
修補版:
校定版:
300頁
普及版:
145頁
初版:
ページ備考:
001
金光
(
こんくわう
)
教会
(
けうくわい
)
の
八木
(
やぎ
)
の
支部長
(
しぶちやう
)
をして
居
(
ゐ
)
る
土田
(
つちだ
)
雄弘
(
かつひろ
)
と
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
は、
002
金光教
(
こんくわうけう
)
の
足立
(
あだち
)
正信
(
まさのぶ
)
氏
(
し
)
が
金明会
(
きんめいくわい
)
へ
降服
(
かうふく
)
したと
聞
(
き
)
き、
003
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
して
上級
(
じやうきふ
)
教会所
(
けうくわいしよ
)
なる
杉田
(
すぎた
)
政次郎
(
まさじろう
)
氏
(
し
)
と
協議
(
けふぎ
)
した
上
(
うへ
)
、
004
金光教
(
こんくわうけう
)
の
大
(
だい
)
の
熱心者
(
ねつしんじや
)
なる
八木
(
やぎ
)
の
福島
(
ふくしま
)
寅之助
(
とらのすけ
)
氏
(
し
)
を
従
(
したが
)
へ
綾部
(
あやべ
)
へ
駆付
(
かけつ
)
け、
005
直
(
ただち
)
に
足立
(
あだち
)
正信
(
まさのぶ
)
氏
(
し
)
と
面会
(
めんくわい
)
し、
006
土田
『
金光教
(
こんくわうけう
)
の
本部
(
ほんぶ
)
から
応援
(
おうゑん
)
を
乞
(
こ
)
ひ
自分
(
じぶん
)
も
極力
(
きよくりよく
)
応援
(
おうゑん
)
の
労
(
らう
)
をとる
考
(
かんが
)
へだから、
007
金明会
(
きんめいくわい
)
の
下
(
くだ
)
らぬ
所
(
ところ
)
を
脱会
(
だつくわい
)
し、
008
何程
(
なにほど
)
辛
(
つら
)
くても
暫
(
しば
)
らくだから
孤軍
(
こぐん
)
奮闘
(
ふんとう
)
をつづけられよ。
009
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
霊学
(
れいがく
)
等
(
など
)
に
降服
(
かうふく
)
するのは、
010
金光
(
こんくわう
)
教師
(
けうし
)
の
本領
(
ほんりやう
)
ではない。
011
折角
(
せつかく
)
今迄
(
いままで
)
金光教
(
こんくわうけう
)
で
苦労
(
くらう
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
012
脆
(
もろ
)
くも
敵
(
てき
)
に
甲
(
かぶと
)
を
脱
(
ぬ
)
ぐとは
不甲斐
(
ふがひ
)
ない』
013
と
熱涙
(
ねつるゐ
)
を
流
(
なが
)
して
足立
(
あだち
)
氏
(
し
)
を
激励
(
げきれい
)
した。
014
乍併
(
しかしながら
)
足立
(
あだち
)
氏
(
し
)
は
已
(
すで
)
に
金光
(
こんくわう
)
教会
(
けうくわい
)
の
部下
(
ぶか
)
に
対
(
たい
)
する
酷薄
(
こくはく
)
無情
(
むじやう
)
なるに
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
て、
015
出口
(
でぐち
)
教祖
(
けうそ
)
や
喜楽
(
きらく
)
の
温情
(
をんじやう
)
に
漸
(
やうや
)
く
感激
(
かんげき
)
して
居
(
ゐ
)
たる
際
(
さい
)
なれば、
016
熱心
(
ねつしん
)
なる
友人
(
いうじん
)
の
忠告
(
ちうこく
)
も
只
(
ただ
)
一言
(
いちごん
)
の
下
(
もと
)
に
撥
(
は
)
ねつけ、
017
且
(
かつ
)
大本
(
おほもと
)
の
教義
(
けうぎ
)
の
深遠
(
しんゑん
)
霊妙
(
れいめう
)
なる
事
(
こと
)
を
口
(
くち
)
を
極
(
きは
)
めて
説
(
と
)
き、
018
遂
(
つひ
)
に
土田
(
つちだ
)
雄弘
(
かつひろ
)
氏
(
し
)
も
金明会
(
きんめいくわい
)
の
布教師
(
ふけうし
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
019
そこで
喜楽
(
きらく
)
は
足立
(
あだち
)
、
020
土田
(
つちだ
)
、
021
福島
(
ふくしま
)
氏
(
し
)
等
(
ら
)
と
神殿
(
しんでん
)
の
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
で
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
話
(
はなし
)
や
幽斎
(
いうさい
)
の
方法
(
はうはふ
)
などを
説明
(
せつめい
)
して
居
(
ゐ
)
ると
十数
(
じふすう
)
年間
(
ねんかん
)
胃腸病
(
ゐちやうびやう
)
に
悩
(
なや
)
んで
居
(
ゐ
)
た
人
(
ひと
)
が、
022
大原
(
おほはら
)
から
駕
(
かご
)
で
二三
(
にさん
)
の
親類
(
しんるゐ
)
に
連
(
つ
)
れられ
病気
(
びやうき
)
平癒
(
へいゆ
)
の
祈願
(
きぐわん
)
に
来
(
き
)
たので、
023
喜楽
(
きらく
)
は
一寸
(
ちよつと
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
祈願
(
きぐわん
)
をなし、
024
喜楽
(
きらく
)
『
悪神
(
あくがみ
)
立去
(
たちさ
)
れ!』
025
と
只
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
すれば、
026
不思議
(
ふしぎ
)
にも
多年
(
たねん
)
の
病
(
やまひ
)
は
其
(
その
)
場
(
ば
)
にて
恢復
(
くわいふく
)
し、
027
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
んで
帰途
(
きと
)
は
自
(
みづか
)
ら
歩行
(
ほかう
)
し、
028
鼻唄
(
はなうた
)
等
(
など
)
を
唄
(
うた
)
つて
帰
(
かへ
)
る
様
(
やう
)
になつた。
029
又
(
また
)
台頭
(
だいとう
)
と
云
(
い
)
ふ
処
(
ところ
)
から、
030
片山
(
かたやま
)
卯之助
(
うのすけ
)
と
云
(
い
)
ふ
十五
(
じふご
)
歳
(
さい
)
の
男
(
をとこ
)
が
足
(
あし
)
の
立
(
た
)
たぬ
病
(
やまひ
)
となり、
031
之
(
これ
)
も
亦
(
また
)
駕
(
かご
)
に
乗
(
の
)
つて
来
(
き
)
たが、
032
足立
(
あだち
)
、
033
土田
(
つちだ
)
、
034
福島
(
ふくしま
)
氏
(
し
)
の
前
(
まへ
)
で
直
(
すぐ
)
に
足
(
あし
)
が
立
(
た
)
つて
了
(
しま
)
つた。
035
此
(
この
)
現場
(
げんば
)
を
目撃
(
もくげき
)
した
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
霊術
(
れいじゆつ
)
の
効顕
(
かうけん
)
に
驚嘆
(
きやうたん
)
して
居
(
ゐ
)
た。
036
忽
(
たちま
)
ち
福島
(
ふくしま
)
寅之助
(
とらのすけ
)
は
発動
(
はつどう
)
を
始
(
はじ
)
め、
037
福島
『ウンウン』
038
と
呻
(
うな
)
り
出
(
だ
)
し、
039
次
(
つい
)
で
土田
(
つちだ
)
雄弘
(
かつひろ
)
も
霊感者
(
れいかんしや
)
となり、
040
天眼通
(
てんがんつう
)
の
一端
(
いつたん
)
を
修得
(
しうとく
)
するに
到
(
いた
)
つたのである。
041
足立
(
あだち
)
正信
(
まさのぶ
)
氏
(
し
)
は
今迄
(
いままで
)
幽冥界
(
いうめいかい
)
の
実状
(
じつじやう
)
を
知
(
し
)
らなかつた
金光教
(
こんくわうけう
)
の
布教師
(
ふけうし
)
なりしを
以
(
もつ
)
て、
042
神懸
(
かむがか
)
り
状態
(
じやうたい
)
を
見
(
み
)
るのは
生
(
うま
)
れてから
始
(
はじ
)
めてなりし
為
(
た
)
め、
043
非常
(
ひじやう
)
に
奇妙
(
きめう
)
の
思
(
おも
)
ひをし、
044
之
(
これ
)
は
屹度
(
きつと
)
妖神
(
えうしん
)
の
所業
(
しわざ
)
か、
045
又
(
また
)
は
喜楽
(
きらく
)
は
魔法使
(
まはふつかひ
)
ではないかと、
046
そろそろと
疑
(
うたが
)
ひかけたが、
047
現
(
げん
)
に
友人
(
いうじん
)
の
土田
(
つちだ
)
が
霊感
(
れいかん
)
の
神助
(
しんじよ
)
を
得
(
え
)
てから、
048
土田
『
今迄
(
いままで
)
の
金光
(
こんくわう
)
教会
(
けうくわい
)
などはとるに
足
(
た
)
らぬものである。
049
人間
(
にんげん
)
が
寄
(
よ
)
つて
集
(
たか
)
つて
拵
(
こしら
)
へた
編輯教
(
へんしふけう
)
だから
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
ぢやない』
050
と
唱
(
とな
)
へ
出
(
だ
)
し、
051
今度
(
こんど
)
は
反対
(
はんたい
)
に
足立
(
あだち
)
氏
(
し
)
を
説服
(
せつぷく
)
し、
052
土田
『
大本
(
おほもと
)
の
教理
(
けうり
)
は
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
御心
(
みこころ
)
に
出
(
い
)
でたるものなり』
053
と
強
(
つよ
)
く
主張
(
しゆちやう
)
した。
054
されど
足立
(
あだち
)
氏
(
し
)
は
依然
(
いぜん
)
として
正邪
(
せいじや
)
真偽
(
しんぎ
)
の
審判
(
しんぱん
)
に
苦
(
くる
)
しんで
居
(
ゐ
)
た
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
た。
055
教祖
(
けうそ
)
様
(
さま
)
や
役員
(
やくゐん
)
等
(
など
)
の
懇望
(
こんまう
)
によつて、
056
喜楽
(
きらく
)
は
茲
(
ここ
)
に
幽斎
(
いうさい
)
の
修行者
(
しうぎやうしや
)
を
養成
(
やうせい
)
する
事
(
こと
)
となり、
057
本町
(
ほんまち
)
の
中村
(
なかむら
)
竹造
(
たけざう
)
氏
(
し
)
の
宅
(
たく
)
にて、
058
数日間
(
すうじつかん
)
布教
(
ふけう
)
の
傍
(
かたはら
)
幽斎
(
いうさい
)
の
修行
(
しうぎやう
)
を
執行
(
しつかう
)
し、
059
求道者
(
きうだうしや
)
もおひおひ
増加
(
ぞうか
)
し、
060
本町
(
ほんまち
)
の
中村
(
なかむら
)
氏
(
し
)
宅
(
たく
)
も
狭
(
せま
)
くなり、
061
本宮
(
ほんぐう
)
の
東四
(
ひがしよ
)
つ
辻
(
つじ
)
、
062
元
(
もと
)
金光教
(
こんくわうけう
)
の
広前
(
ひろまへ
)
に
修行場
(
しうぎやうば
)
を
移
(
うつ
)
した。
063
福島
(
ふくしま
)
寅之助
(
とらのすけ
)
の
神懸
(
かむがか
)
り
[
※
初版・愛世版では「神懸(かむがか)り」だが、校定版では「神憑(かむがか)り」になっている。福島寅之助に懸かるのは邪霊なので、校定版の編纂者が「神憑」に修正したのではないかと思われる。
]
は
随分
(
ずゐぶん
)
乱暴
(
らんばう
)
なもので、
064
邪神界
(
じやしんかい
)
の
先導者
(
せんだうしや
)
とも
云
(
い
)
ふべき
霊
(
れい
)
であつて、
065
大変
(
たいへん
)
に
審神者
(
さには
)
や
役員
(
やくゐん
)
を
手古摺
(
てこず
)
らした。
066
東隣
(
ひがしどなり
)
には
其
(
その
)
時分
(
じぶん
)
には
綾部
(
あやべ
)
の
警察署
(
けいさつしよ
)
があり、
067
日々
(
ひび
)
撃剣
(
げきけん
)
の
稽古
(
けいこ
)
で
幽斎
(
いうさい
)
の
邪魔
(
じやま
)
になり、
068
且
(
かつ
)
又
(
また
)
沢山
(
たくさん
)
の
参拝者
(
さんぱいしや
)
のために
思
(
おも
)
ふやうに
修行
(
しうぎやう
)
が
出来
(
でき
)
ず、
069
そこで
神界
(
しんかい
)
へ
伺
(
うかが
)
つた
上
(
うへ
)
、
070
猿田彦
(
さるたひこ
)
神
(
がみ
)
の
御
(
ご
)
神勅
(
しんちよく
)
で
山家村
(
やまがむら
)
の
鷹栖
(
たかのす
)
へ
修行場
(
しうぎやうば
)
を
移転
(
いてん
)
する
事
(
こと
)
となつた。
071
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
歌
(
うた
)
に、
072
大稜威
(
おほみいづ
)
高千穂
(
たかちほ
)
山
(
やま
)
の
鷹栖
(
たかのす
)
へ
073
導
(
みちび
)
く
神
(
かみ
)
は
猿田彦
(
さるたひこ
)
神
(
がみ
)
074
直
(
ただち
)
に
鷹栖
(
たかのす
)
の
四方
(
しかた
)
平蔵
(
へいざう
)
氏
(
し
)
の
宅
(
うち
)
へ
修行場
(
しうぎやうば
)
を
移
(
うつ
)
し、
075
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
の
後
(
あと
)
再
(
ふたた
)
び
同地
(
どうち
)
の
信者
(
しんじや
)
四方
(
しかた
)
祐助
(
いうすけ
)
氏
(
し
)
方
(
かた
)
へ
移転
(
いてん
)
した。
076
修行者
(
しうぎやうしや
)
は
何
(
いづ
)
れも
役員
(
やくゐん
)
信者
(
しんじや
)
の
弟子
(
でし
)
のみにて、
077
福島
(
ふくしま
)
寅之助
(
とらのすけ
)
、
078
四方
(
しかた
)
平蔵
(
へいざう
)
、
079
四方
(
しかた
)
祐助
(
いうすけ
)
、
080
四方
(
しかた
)
熊蔵
(
くまざう
)
、
081
同
(
どう
)
春蔵
(
はるざう
)
、
082
同
(
どう
)
甚之丞
(
じんのじよう
)
、
083
同
(
どう
)
すみ
子
(
こ
)
、
084
大槻
(
おほつき
)
とう、
085
塩見
(
しほみ
)
せい
子
(
こ
)
、
086
中村
(
なかむら
)
菊子
(
きくこ
)
、
087
田中
(
たなか
)
つや
子
(
こ
)
、
088
四方
(
しかた
)
久子
(
ひさこ
)
、
089
野崎
(
のざき
)
篤三郎
(
とくさぶらう
)
、
090
西村
(
にしむら
)
まき
子
(
こ
)
、
091
西村
(
にしむら
)
こまつ、
092
村上
(
むらかみ
)
房之助
(
ふさのすけ
)
、
093
黒田
(
くろだ
)
きよ
子
(
こ
)
、
094
上仲
(
うへなか
)
義太郎
(
ぎたらう
)
、
095
四方
(
しかた
)
安蔵
(
やすざう
)
、
096
四方
(
しかた
)
藤太郎
(
とうたらう
)
、
097
中村
(
なかむら
)
竹造
(
たけざう
)
等
(
など
)
の
二十
(
にじふ
)
有余
(
いうよ
)
人
(
にん
)
の
修行者
(
しうぎやうしや
)
が
集
(
あつ
)
まつて
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
までドンドンと
幽斎
(
いうさい
)
の
修行
(
しうぎやう
)
にかかつて
居
(
ゐ
)
た。
098
二十
(
にじふ
)
有余
(
いうよ
)
人
(
にん
)
が
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
発動
(
はつどう
)
するので
床
(
ゆか
)
の
根太
(
ねだ
)
が
歪
(
ゆが
)
み
出
(
だ
)
し、
099
祐助
(
いうすけ
)
氏
(
し
)
の
息子
(
むすこ
)
の
勇一
(
ゆういち
)
氏
(
し
)
が
非常
(
ひじやう
)
に
困
(
こま
)
つて、
100
秘
(
ひそ
)
かに
綾部
(
あやべ
)
の
警察署
(
けいさつしよ
)
へ、
101
四方勇一
『
喜楽
(
きらく
)
や
足立
(
あだち
)
が、
102
しやうもない
事
(
こと
)
を
教
(
をし
)
へて
困
(
こま
)
るから
追払
(
おひはら
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
103
と
願
(
ねが
)
ふて
出
(
で
)
た。
104
戸主
(
こしゆ
)
の
権利
(
けんり
)
を
以
(
もつ
)
て
謝絶
(
しやぜつ
)
すれば
宜
(
よ
)
いものを、
105
自分
(
じぶん
)
の
卑怯
(
ひけふ
)
さから、
106
斯
(
か
)
かる
手段
(
しゆだん
)
を
採
(
と
)
つたのである。
107
喜楽
(
きらく
)
は
小松林
(
こまつばやし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
によつてこれを
前知
(
ぜんち
)
したので、
108
即夜
(
そくや
)
上谷
(
うへだに
)
の
四方
(
しかた
)
伊左衛門
(
いざゑもん
)
氏
(
し
)
方
(
かた
)
へ
修行者
(
しうぎやうしや
)
をつれて
移転
(
いてん
)
し、
109
前方
(
ぜんぱう
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
不動尊
(
ふどうそん
)
を
祀
(
まつ
)
つた
可
(
か
)
なり
大
(
おほ
)
きな
瀑布
(
ばくふ
)
のあるを
幸
(
さいは
)
ひ、
110
上谷
(
うへだに
)
を
修行場
(
しうぎやうば
)
と
定
(
さだ
)
めて
幽斎
(
いうさい
)
に
熱中
(
ねつちゆう
)
した。
111
さうした
処
(
ところ
)
案
(
あん
)
の
定
(
ぢやう
)
、
112
警官
(
けいくわん
)
が
追払
(
おひはら
)
ひに
来
(
き
)
た。
113
けれども
神道
(
しんだう
)
の
為
(
た
)
め
赤誠
(
せきせい
)
をこらして
修業
(
しうげふ
)
にかかつてる
熱心者
(
ねつしんじや
)
のみなれば、
114
少
(
すこ
)
しも
怯
(
ひる
)
まず
頓着
(
とんちやく
)
せずドシドシと
修業
(
しうげふ
)
を
続行
(
ぞくかう
)
して
居
(
ゐ
)
た。
115
猿田彦
(
さるたひこ
)
の
神
(
かみ
)
は
又
(
また
)
もや
神懸
(
かむがか
)
りとなつて、
116
神懸
(
かむがか
)
り
雲
(
くも
)
の
上谷
(
うへだに
)
輝
(
かがや
)
きて
117
動
(
うご
)
かぬ
君
(
きみ
)
の
御代
(
みよ
)
を
照
(
て
)
らさむ
118
と
云
(
い
)
ふ
歌
(
うた
)
を
与
(
あた
)
へられた。
119
まだまだ
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
与
(
あた
)
へられた
神歌
(
しんか
)
は
数百首
(
すうひやくしゆ
)
に
上
(
のぼ
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
120
今
(
いま
)
はハツキリ
記憶
(
きおく
)
して
居
(
ゐ
)
ないのである。
121
扨
(
さて
)
幽斎
(
いうさい
)
修行
(
しうぎやう
)
の
結果
(
けつくわ
)
は
極
(
きはめ
)
て
良好
(
りやうかう
)
であつて、
122
数多
(
あまた
)
の
修行者
(
しうぎやうしや
)
の
中
(
なか
)
に
二三
(
にさん
)
の
変則
(
へんそく
)
的
(
てき
)
不成功
(
ふせいこう
)
者
(
しや
)
を
出
(
だ
)
しただけで、
123
其
(
その
)
他
(
た
)
は
残
(
のこ
)
らず
神人
(
しんじん
)
感合
(
かんがふ
)
の
境
(
きやう
)
に
到達
(
たうたつ
)
し、
124
中
(
なか
)
には
筆紙
(
ひつし
)
を
用
(
もち
)
ひて
世界
(
せかい
)
動乱
(
どうらん
)
の
予言
(
よげん
)
をなす
者
(
もの
)
あり、
125
北清
(
ほくしん
)
事変
(
じへん
)
の
神諭
(
しんゆ
)
を
言
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
あり、
126
日露
(
にちろ
)
戦争
(
せんそう
)
の
予言
(
よげん
)
をしたり
世界
(
せかい
)
戦争
(
せんそう
)
を
予告
(
よこく
)
したりする
神
(
かみ
)
が
憑
(
うつ
)
つて
来
(
き
)
た。
127
天眼通
(
てんがんつう
)
、
128
天耳通
(
てんじつう
)
、
129
宿命通
(
しゆくめいつう
)
、
130
感通
(
かんつう
)
等
(
など
)
の
神術
(
かむわざ
)
に
上達
(
じやうたつ
)
する
者
(
もの
)
も
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
た。
131
大
(
おほい
)
に
神道
(
しんだう
)
の
尊厳
(
そんげん
)
無比
(
むひ
)
を
自覚
(
じかく
)
した
信者
(
しんじや
)
も
尠
(
すくな
)
からずあつた。
132
中
(
なか
)
に
最
(
もつと
)
も
不可思議
(
ふかしぎ
)
なるは
西村
(
にしむら
)
まき
子
(
こ
)
と
云
(
い
)
ふ
十八
(
じふはつ
)
才
(
さい
)
の
女
(
をんな
)
、
133
俗
(
ぞく
)
にいふ
白痴
(
はくち
)
であつたが
彼
(
かれ
)
は
神懸
(
かむがか
)
りとなるや
平素
(
へいそ
)
の
言動
(
げんどう
)
は
一変
(
いつぺん
)
し、
134
かの
神世
(
かみよ
)
に
於
(
お
)
ける
大気津
(
おほげつ
)
姫
(
ひめ
)
の
如
(
ごと
)
く、
135
自分
(
じぶん
)
の
耳
(
みみ
)
から
粟
(
あは
)
を
幾粒
(
いくつぶ
)
となく
出
(
だ
)
し、
136
鼻
(
はな
)
よりは
小豆
(
あづき
)
を
出
(
だ
)
し、
137
秀処
(
ほと
)
よりは
麦種
(
むぎたね
)
抔
(
など
)
を
出
(
だ
)
したる
奇蹟
(
きせき
)
があつた。
138
これを
見
(
み
)
ても
我国
(
わがくに
)
の
神典
(
しんてん
)
が
非凡
(
ひぼん
)
の
真理
(
しんり
)
を
伝
(
つた
)
へたるものなる
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
り
得
(
え
)
らるるのである。
139
幽斎
(
いうさい
)
の
修行
(
しうぎやう
)
もおひおひ
発達
(
はつたつ
)
したので、
140
留守中
(
るすちう
)
を
四方
(
しかた
)
藤太郎
(
とうたらう
)
に
預
(
あづ
)
けおき、
141
四方
(
しかた
)
平蔵
(
へいざう
)
氏
(
し
)
と
共
(
とも
)
に
静岡県
(
しづをかけん
)
富士見
(
ふじみ
)
村
(
むら
)
の
長沢
(
ながさは
)
雄楯
(
かつたて
)
先生
(
せんせい
)
の
奉仕
(
ほうし
)
して
居
(
を
)
られる
月見里
(
やまなし
)
神社
(
じんじや
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
する
事
(
こと
)
となつた。
142
道
(
みち
)
すがら
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
の
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
なるを
説
(
と
)
きつつ、
143
須知山
(
すちやま
)
峠
(
たうげ
)
を
越
(
こ
)
え、
144
大原
(
おほはら
)
、
145
枯木峠
(
かれきたうげ
)
を
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
え
十津川
(
とつがは
)
の
山村
(
やまむら
)
にさしかかつた
時
(
とき
)
、
146
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
俄
(
にはか
)
に
発動
(
はつどう
)
気味
(
ぎみ
)
となり、
147
身体
(
しんたい
)
震動
(
しんどう
)
甚
(
はなはだ
)
しく、
148
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
枯木峠
(
かれきたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
へ
休息
(
きうそく
)
して、
149
喜楽
(
きらく
)
は
立
(
た
)
つたまま
四方
(
しかた
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
を
施
(
ほどこ
)
して
見
(
み
)
た。
150
四方
(
しかた
)
には
松岡
(
まつをか
)
神使
(
しんし
)
が
臨時
(
りんじ
)
憑依
(
ひようい
)
し、
151
天眼通
(
てんがんつう
)
が
層一層
(
そういつそう
)
明
(
あきら
)
かになつて
来
(
き
)
た。
152
喜楽
(
きらく
)
は
前
(
まへ
)
に
述
(
の
)
べた
通
(
とほ
)
り
長沢
(
ながさは
)
雄楯
(
かつたて
)
翁
(
をう
)
の
霊学
(
れいがく
)
の
門人
(
もんじん
)
となつて
居
(
ゐ
)
たので、
153
一度
(
いちど
)
報告
(
はうこく
)
旁
(
かたがた
)
鈿女
(
うづめの
)
命
(
みこと
)
を
祀
(
まつ
)
つた
月見里
(
やまなし
)
神社
(
じんじや
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
したのである。
154
漸
(
やうや
)
くにして
無事
(
ぶじ
)
に
富士見
(
ふじみ
)
村
(
むら
)
の
下清水
(
しもしみづ
)
、
155
長沢
(
ながさは
)
先生
(
せんせい
)
の
館
(
やかた
)
に
到着
(
たうちやく
)
した。
156
さうして
四方
(
しかた
)
平蔵
(
へいざう
)
氏
(
し
)
は、
157
神懸
(
かみがか
)
りと
俗間
(
ぞくかん
)
に
行
(
おこな
)
はれて
居
(
ゐ
)
る
稲荷下
(
いなりさ
)
げとは
其
(
その
)
品位
(
ひんゐ
)
に
於
(
おい
)
て
又
(
また
)
方法
(
はうはふ
)
に
於
(
おい
)
て
雲泥
(
うんでい
)
の
差
(
さ
)
のある
事
(
こと
)
を
一々
(
いちいち
)
例証
(
れいしよう
)
を
挙
(
あ
)
げて
説明
(
せつめい
)
せられ、
158
漸
(
やうや
)
く
霊学
(
れいがく
)
の
趣旨
(
しゆし
)
を
悟
(
さと
)
る
様
(
やう
)
になり
二昼夜
(
にちうや
)
滞在
(
たいざい
)
の
上
(
うへ
)
、
159
惜
(
をし
)
き
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げ
帰綾
(
きれう
)
の
途
(
と
)
についた。
160
下清水
(
しもしみづ
)
より
江尻
(
えじり
)
迄
(
まで
)
二十丁
(
にじつちやう
)
ばかりの
道
(
みち
)
を
歩
(
ある
)
いて、
161
午前
(
ごぜん
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
の
急行
(
きふかう
)
列車
(
れつしや
)
へ
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
まうとする
時
(
とき
)
、
162
僅
(
わづか
)
二分
(
にふん
)
の
短
(
みじか
)
き
停車
(
ていしや
)
、
163
殊
(
こと
)
に
列車
(
れつしや
)
はボギー
式
(
しき
)
で、
164
田舎
(
いなか
)
の
汽車
(
きしや
)
の
様
(
やう
)
に
入口
(
いりぐち
)
が
沢山
(
たくさん
)
にない
処
(
ところ
)
へ、
165
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
生憎
(
あひにく
)
目
(
め
)
が
悪
(
わる
)
い、
166
夜分
(
やぶん
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
灯
(
ひ
)
があつても
見
(
み
)
えぬ
位
(
くらゐ
)
だ。
167
それに
沢山
(
たくさん
)
の
荷物
(
にもつ
)
を
肩
(
かた
)
にひつかけて
居
(
ゐ
)
る。
168
喜楽
(
きらく
)
も
手
(
て
)
一杯
(
いつぱい
)
の
荷物
(
にもつ
)
を
下
(
さ
)
げて
手早
(
てばや
)
く
乗車
(
じやうしや
)
し、
169
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
如何
(
どう
)
かと
昇降台
(
しやうかうだい
)
を
見
(
み
)
れば、
170
今
(
いま
)
片手
(
かたて
)
をかけたばかりに
汽車
(
きしや
)
は
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
171
駅員
(
えきゐん
)
は
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
の
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して『
危
(
あぶ
)
ない
危
(
あぶ
)
ない』と
連呼
(
れんこ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
172
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
七八間
(
しちはちけん
)
も
引
(
ひ
)
きずられて
居
(
ゐ
)
た。
173
喜楽
(
きらく
)
は
金剛力
(
こんがうりき
)
を
出
(
だ
)
して
荷物
(
にもつ
)
諸共
(
もろとも
)
昇降台
(
しやうかうだい
)
迄
(
まで
)
ひきあげた。
174
此
(
この
)
時
(
とき
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ふと
今
(
いま
)
でもゾツとする
様
(
やう
)
だ。
175
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
の
加護
(
かご
)
によつて
危
(
あやふ
)
き
怪我
(
けが
)
を
救
(
すく
)
はれたのだと
心
(
こころ
)
の
裡
(
うち
)
にて
感謝
(
かんしや
)
し
乍
(
なが
)
ら、
176
翌日
(
よくじつ
)
の
午後
(
ごご
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
京都駅
(
きやうとえき
)
に
安着
(
あんちやく
)
し、
177
二人
(
ふたり
)
は
東
(
ひがし
)
本願寺
(
ほんぐわんじ
)
前
(
まへ
)
のある
飲食店
(
いんしよくてん
)
に
這入
(
はい
)
つて
昼飯
(
ひるめし
)
をすませ、
178
それより
七条通
(
しちでうどほ
)
りを
西行
(
せいかう
)
して
西七条
(
にししちでう
)
に
至
(
いた
)
り、
179
此処
(
ここ
)
から
乗合
(
のりあひ
)
馬車
(
ばしや
)
の
亀岡行
(
かめをかゆき
)
の
切符
(
きつぷ
)
を
買
(
か
)
ひ
発車
(
はつしや
)
の
時刻
(
じこく
)
を
待
(
ま
)
つてゐた。
180
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
本願寺
(
ほんぐわんじ
)
前
(
まへ
)
の
茶店
(
ちやみせ
)
で
買
(
か
)
ふて
食
(
く
)
つた
蛸
(
たこ
)
の
中毒
(
ちうどく
)
で
俄
(
にはか
)
に
苦
(
くる
)
しみ
出
(
だ
)
し、
181
嘔
(
は
)
いたり、
182
下痢
(
くだし
)
たり、
183
十数回
(
じふすうくわい
)
に
及
(
およ
)
んだ。
184
顔色
(
がんしよく
)
は
真蒼
(
まつさを
)
となり、
185
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れて
殆
(
ほとん
)
ど
死人
(
しにん
)
の
様
(
やう
)
になつてゐる。
186
馬車屋
(
ばしやや
)
の
主人
(
しゆじん
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
187
馬車屋の主人
『お
客
(
きやく
)
サン、
188
あんたは
虎列剌
(
これら
)
病
(
びやう
)
です。
189
サア
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退却
(
たいきやく
)
して
下
(
くだ
)
され。
190
警察
(
けいさつ
)
へ
知
(
し
)
れたら
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
焼
(
や
)
かれて
了
(
しま
)
ひ、
191
営業
(
えいげふ
)
が
出来
(
でき
)
なくなつて
了
(
しま
)
ひます。
192
そんな
事
(
こと
)
にでもなれば
家
(
うち
)
は
大騒動
(
だいさうどう
)
だ。
193
サア
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
194
と
一旦
(
いつたん
)
受取
(
うけと
)
つた
金
(
かね
)
を
返
(
かへ
)
し
切符
(
きつぷ
)
を
取上
(
とりあ
)
げて
了
(
しま
)
つた。
195
喜楽
(
きらく
)
は
教祖
(
けうそ
)
より
授
(
さづ
)
かつて
来
(
き
)
たお
肌守
(
はだまもり
)
を
懐中
(
くわいちゆう
)
より
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し、
196
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
の
肩
(
かた
)
にかけてやり、
197
又
(
また
)
教祖
(
けうそ
)
様
(
さま
)
から
頂
(
いただ
)
いたおひねり
二体
(
にたい
)
を
口
(
くち
)
に
含
(
ふく
)
ませ
鎮魂
(
ちんこん
)
を
施
(
ほどこ
)
した。
198
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
は
忽
(
たちま
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
199
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
初
(
はじ
)
めて
言語
(
げんご
)
も
明白
(
めいはく
)
になり、
200
元気
(
げんき
)
も
稍
(
やや
)
恢復
(
くわいふく
)
して
来
(
き
)
た。
201
喜楽
(
きらく
)
は
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
の
手
(
て
)
をひき
門
(
かど
)
へ
出
(
い
)
で、
202
折柄
(
をりから
)
空車
(
からぐるま
)
をひいて
来
(
き
)
た
二人
(
ふたり
)
の
車夫
(
しやふ
)
を
認
(
みと
)
め、
203
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
へと
直
(
ただち
)
に
之
(
これ
)
に
乗
(
の
)
り、
204
何喰
(
なにく
)
はぬ
顔
(
かほ
)
にて
一里半
(
いちりはん
)
ばかり
走
(
はし
)
らせ、
205
桂
(
かつら
)
の
大橋
(
おほはし
)
にさしかかると、
206
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
全
(
まつた
)
く
旧
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
くに
元気
(
げんき
)
づき、
207
車
(
くるま
)
の
上
(
うへ
)
から
潔
(
いさぎよ
)
い
声
(
こゑ
)
で
四方山
(
よもやま
)
の
話
(
はな
)
しをしたり、
208
歌
(
うた
)
などを
唄
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
209
それから
大枝阪
(
おほえさか
)
、
210
王子
(
わうじ
)
、
211
篠村
(
しのむら
)
と
疾走
(
しつそう
)
しつつ
篠村
(
しのむら
)
八幡堂
(
はちまんだう
)
の
少
(
すこ
)
し
手前
(
てまへ
)
迄
(
まで
)
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
ると、
212
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
の
乗
(
の
)
つた
腕車
(
わんしや
)
は
忽
(
たちま
)
ち
鉄
(
てつ
)
の
輪
(
わ
)
がガラリと
外
(
はづ
)
れ、
213
グナグナと
砕
(
くだ
)
けて
了
(
しま
)
ひ、
214
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
街路
(
がいろ
)
に
真逆
(
まつさか
)
様
(
さま
)
に
放
(
はう
)
り
出
(
だ
)
されて
了
(
しま
)
つたが、
215
幸
(
さいは
)
ひに
擦傷
(
かすりきず
)
一
(
ひと
)
つせず
無事
(
ぶじ
)
であつた。
216
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
は
余程
(
よほど
)
運
(
うん
)
の
強
(
つよ
)
い
人
(
ひと
)
と
見
(
み
)
え、
217
一
(
いち
)
日
(
にち
)
の
間
(
ま
)
に
三度
(
さんど
)
まで
汽車
(
きしや
)
、
218
馬車
(
ばしや
)
、
219
人力車
(
じんりきしや
)
の
危難
(
きなん
)
に
救
(
すく
)
はれるといふ
事
(
こと
)
は、
220
実
(
じつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
である。
221
これも
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
と
考
(
かんが
)
へるより
外
(
ほか
)
に
判断
(
はんだん
)
はつかぬ。
222
人間
(
にんげん
)
には
一生
(
いつしやう
)
の
中
(
うち
)
には
必
(
かなら
)
ず
一度
(
いちど
)
や
二度
(
にど
)
は
幸運
(
かううん
)
が
向
(
むか
)
ふて
来
(
く
)
る。
223
それと
同様
(
どうやう
)
に
又
(
また
)
一度
(
いちど
)
や
二度
(
にど
)
は
大難
(
だいなん
)
が
来
(
く
)
るものである。
224
四方
(
しかた
)
氏
(
し
)
の
信仰
(
しんかう
)
の
力
(
ちから
)
と
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
で、
225
斯
(
かか
)
る
危
(
あぶ
)
ない
所
(
ところ
)
を
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
で
助
(
たす
)
けられたのは、
226
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
一心
(
いつしん
)
に
仕
(
つか
)
へて
居
(
ゐ
)
たお
蔭
(
かげ
)
である。
227
(
大正一一・一〇・一二
旧八・二二
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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(B)
(N)
妖魅来 >>>
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