霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は従来バージョンをお使い下さい| サブスクのお知らせ

第一〇章 矢田(やだ)(たき)〔一〇二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻 篇:第2篇 青垣山内 よみ(新仮名遣い):あおがきやまうち
章:第10章 矢田の滝 よみ(新仮名遣い):やだのたき 通し章番号:1022
口述日:1922(大正11)年10月09日(旧08月19日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年3月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
葦野山峠の西坂で牛糞をつかまされ、自暴自棄になって二三日は祝詞も修行も注視していた。三日目の晩にまたもや臍下丹田から霊が喉元に上がってきて叫び始めた。
大霜天狗と名乗る神霊は、葦野山峠の失敗を触れて回ってやろうか、とからかい始めた。喜楽は、神霊は大霜天狗ではなく、やっぱり松岡様ではないかと詰め寄ると、神霊は実は松岡だと明かして大笑いした。
喜楽の文句はまったく聞く耳をもたず、松岡神は喜楽の身体を使って夜十二時ごろに自宅を立ち出で、亀岡の産土・矢田神社の奥の滝に水行を命じた。そして一週間の滝行を行うことになった。
七日目ににわかに恐ろしい思いに捉われ、怪しいものを見たが、一声腹の中から『突進』という声を聴くと落ち着くことができた。滝への途上、稲利下げの婆に会った。
滝に来てみると、亀岡旅籠町の外志ハルという神下しの女が行を行っており、喜楽が審神を行った。外志ハルが正気に戻ると、お互いに神様の話をしながら旅籠町に回り、夫の筆吉にも面会して、道のために協力し合うことを約束して穴太に帰ってきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-20 13:56:59 OBC :rm3710
愛善世界社版:124頁 八幡書店版:第7輯 77頁 修補版: 校定版:131頁 普及版:60頁 初版: ページ備考:
001 葦野山(あしのやま)(たうげ)西坂(にしざか)でマンマと牛糞(うしくそ)をつかまされ、002阿呆(あはう)らしくて(たま)らず、003(やや)自暴(じばう)自棄(じき)(てき)になつて、004二三(にさん)(にち)(あひだ)朝寝(あさね)をする、005宵寝(よひね)もする、006天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)や、007鎮魂(ちんこん)帰神(きしん)修業(しうげふ)中止(ちうし)してゐた。008そうすると三日目(みつかめ)(ばん)009(また)もや臍下(さいか)丹田(たんでん)から(れい)のグルグルが喉元(のどもと)()(あが)り、
010『アーアーアー』
011(おほ)きな(こゑ)連発(れんぱつ)し、012(しばら)くすると、
013阿呆(あはう)阿呆(あはう)阿呆(あはう)!』
014呶鳴(どな)りつける。015喜楽(きらく)(おも)うた……本当(ほんたう)天狗(てんぐ)()(とほ)り、016阿呆(あはう)阿呆(あはう)017()なしの阿呆(あはう)だ。018(しか)(なが)(たれ)にも()はずに(いま)まで(かく)してゐるのだから、019大霜(おほしも)天狗(てんぐ)無頓着(むとんちやく)にあんな(こゑ)で、020葦野山(あしのやま)(たうげ)失敗(しつぱい)事件(じけん)(しやべ)りでもせうものなら、021それこそ(おや)兄弟(きやうだい)022近所(きんじよ)株内(かぶうち)(やつ)馬鹿(ばか)にしられ、023(かみ)さまの祭壇(さいだん)取除(とりのぞ)かれて(しま)うに(ちが)ひない、024どうぞ(おほ)きな(こゑ)()してくれねばよいがなア……と(こころ)(なか)(ねん)じてゐた。
025大霜(おほしも)『コレ肉体(にくたい)026スツパ()かうか、027チツと貴様(きさま)(こま)るだろ。028どうせうかな』
029とからかひ(はじ)める。
030喜楽(きらく)『どうなつと勝手(かつて)にしなさい。031(もと)土百姓(どびやくせう)牧畜(ぼくちく)業者(げふしや)になつて(しま)ひます。032(かへつ)素破(すつぱ)ぬいた(はう)(あきら)めがついて(よろ)しい』
033大霜(おほしも)『そう落胆(らくたん)するものぢやない。034まだお(まへ)十分(じふぶん)身魂(みたま)(みが)けて()ないから、035モウ一度(いちど)(かみ)()れて()くから、036水行(すいげう)をするのだ。037小幡(をばた)川原(がはら)(みづ)(からだ)にしみ()んで(あか)がとれぬから駄目(だめ)だ。038今度(こんど)(この)(はう)がよい(ところ)()れて()つてやるから、039(その)用意(ようい)をせい。040草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)をチヤンと(こしら)へて、041今晩(こんばん)十二(じふに)()此処(ここ)()(こと)にするのだ』
042喜楽(きらく)(また)ウソを()ふのぢやありませぬか?』
043大霜(おほしも)(うそ)(くそ)もあつたものかい。044モウ()うなつた以上(いじやう)何事(なにごと)があらうと(かみ)(まか)し、045糞度胸(くそどきよう)()ゑてかからねば何事(なにごと)成功(せいこう)しないぞ。046あの(くらゐ)(こと)でフン(がい)しとるやうな(こと)ぢや駄目(だめ)だ』
047喜楽(きらく)『モシモシ天狗(てんぐ)さま、048(まへ)さまは大霜(おほしも)だと()つて()られるが、049(ちが)ひませう。050どうも()ひぶりが松岡(まつをか)さまらしい』
051大霜(おほしも)松岡(まつをか)でも大霜(おほしも)でも(かま)はぬぢやないか、052(まへ)(たましひ)さへ(みが)けたらいいのぢや。053本当(ほんたう)守護神(しゆごじん)(わか)らぬやうなこつては神柱(かむばしら)駄目(だめ)だ。054本当(ほんたう)(おれ)(たれ)だと(おも)うてるか』
055喜楽(きらく)松岡(まつをか)さまにきまつてゐますワイ』
056松岡(まつをか)『よう()てた、057本当(ほんたう)松岡(まつをか)だ。058奥山(おくやま)金掘(かねほ)りにやつたのも、059(うし)(くそ)(つか)ましてやつたのも(みな)(この)松岡(まつをか)だよ、060アハヽヽヽ、061ウフヽヽヽ』
062喜楽(きらく)馬鹿(ばか)にしなさるな』
063松岡(まつをか)馬鹿(ばか)卒業生(そつげふせい)馬鹿(ばか)にせうと(おも)つても、064する余地(よち)がないぢやないか、065エヘヽヽヽ。066これからサア身魂(みたま)洗濯(せんたく)()れて()かう。067草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)がなければ下駄(げた)ばきでいいワ、068サア()かう』
069(はら)(なか)からどなると(とも)に、070喜楽(きらく)(からだ)器械(きかい)(てき)立上(たちあ)がり、071(には)駒下駄(こまげた)をはいたまま、072(よる)十二(じふに)()(ごろ)自宅(じたく)立出(たちい)で、073小幡川(をばたがは)(わた)り、074スタスタと穴太(あなを)(ひがし)(はな)れ、075重利(しげとし)車清(くるませ)(そば)(はし)()え、076(やぶ)をぬけ、077一町(いつちやう)(ばか)(すす)むと、078自分(じぶん)(あし)土中(どちう)から()えた(やう)にピタリと()まつて(しま)つた。079そこには田園(でんえん)(ほどこ)肥料(ひれう)をたくはへる糞壺(くそつぼ)があつて、080異様(いやう)臭気(しうき)(はな)をついてゐる。081(はら)(なか)から(かたまり)がクルクルと(また)もや喉元(のどもと)へつきつけ、
082松岡(まつをか)『オイ肉体(にくたい)083真裸(まつぱだか)になつて(この)糞壺(くそつぼ)這入(はい)り、084身魂(みたま)洗濯(せんたく)(いた)せ!』
085呶鳴(どな)()した。086(からだ)自然(しぜん)糞壺(くそつぼ)(はう)(すす)んで()く。087(はな)(まが)るほど(くさ)うてたまらぬ。
088喜楽(きらく)『コレ松岡(まつをか)さま、089こんな(ところ)這入(はい)つたら(なほ)(けが)れるぢやありませぬか。090綺麗(きれい)(みづ)洗濯(せんたく)してやらうと()(なが)ら、091糞壺(くそつぼ)這入(はい)れとはチツと間違(まちが)ひぢや(ござ)いませぬか』
092松岡(まつをか)(さび)(かたな)()(とき)も、093生灰(きばい)をつけたり、094(どろ)をつけたりする(やう)に、095(まへ)のやうな製糞器(せいふんき)(くそ)(みが)いてやるのが一番(いちばん)だ。096(くそ)より(きたな)身魂(みたま)()つてゐ(なが)ら、097(くそ)(きたな)いとは(なに)(ぬか)すのだ』
098大声(おほごゑ)呶鳴(どな)()てた。099喜楽(きらく)はビツクリして、
100喜楽(きらく)『ハイ、101そんなら(はだか)になつて這入(はい)ります。102どうぞ(おほ)きな(こゑ)()さぬやうにして(くだ)さい』
103(おび)()かうとする。
104松岡(まつをか)『オイ()()て、105それさへ(わか)ればモウよい。106(まへ)(からだ)機関(きくわん)だ、107生宮(いきみや)だ。108そんな(ところ)這入(はい)つて(もら)ふと(おれ)一寸(ちよつと)(こま)るのだ、109アハヽヽヽ』
110喜楽(きらく)(わたし)(もと)からの()百姓(びやくせう)で、111(くそ)(くらゐ)(なん)とも(おも)つて()りませぬ。112(くそ)がなければ五穀(ごこく)野菜(やさい)(そだ)ちませぬから、113一遍(いつぺん)這入(はい)つて()ませうか』
114松岡(まつをか)這入(はい)るなら勝手(かつて)這入(はい)れ。115(その)(かは)(この)松岡(まつをか)只今(ただいま)(かぎ)守護(しゆご)(いた)さぬからそう(おも)へ。116あとはもぬけのから、117(たぬき)容物(いれもの)にでもなるがよからう』
118 ()()はれると(なん)となしに未練(みれん)()いて()る。119松岡神(まつをかしん)(ひと)(からだ)這入(はい)つて、120ウソ(ばか)()何遍(なんべん)失敗(しつぱい)をさせよる仕方(しかた)のない(やつ)121こんな邪神(じやしん)一時(いつとき)(はや)退散(たいさん)させたいと(おも)(こと)度々(たびたび)であつたが、122サテ()(かぎ)立退(たちの)くと()はれると、123(なん)だか(をし)(やう)()がして()るのが不思議(ふしぎ)である。
124喜楽(きらく)『そんなら、125あなたの(おほせ)(したが)ひます。126サア(これ)から(うつく)しい(みづ)(ところ)()れて()つて(くだ)さい』
127松岡(まつをか)『コレから(いち)()(ばか)(ひがし)()くと、128矢田(やだ)(たき)というて(ひがし)()きに()ちてゐる、129(かたち)(ばか)りの(たき)がある。130そこで水行(すゐぎやう)をするのだ、131サア()ケ!』
132号令(ごうれい)(なが)ら、133喜楽(きらく)肉体(にくたい)自由(じいう)自在(じざい)(あやつ)つて、134足早(あしばや)硫黄谷(いわうだに)()え、135大池(おほいけ)(ほとり)(つた)うて、136亀岡(かめをか)産土(うぶすな)矢田(やだ)神社(じんじや)(おく)(たに)(みちび)水行(すゐぎやう)(めい)じた。137そして(いつ)週間(しうかん)(あひだ)毎夜(まいよ)(この)(たき)(かよ)(こと)肉体(にくたい)厳命(げんめい)した。138喜楽(きらく)はそれより毎夜(まいよ)々々(まいよ)(さび)しい山道(やまみち)(いけ)(ほとり)墓場(はかば)()矢田(やだ)(たき)(かよ)(こと)となつた。
139 矢田(やだ)(たき)(かよ)(はじ)めてから七日目(なぬかめ)140今晩(こんばん)(ぎやう)(あが)りと()(とき)になつて、141なんとなく(こころ)(そこ)恐怖心(きようふしん)()いて()た。142(おく)()にかけてあつた大身鎗(おほみやり)をひつさげ、143十二(じふに)()(ごろ)自宅(じたく)()つて、144穴太(あなを)村外(むらはづ)れまで(すす)んで()ると、145自分(じぶん)()つて()(やり)(こころ)(せい)勝手(かつて)(うご)()し、146リンリンと(うな)(ごゑ)がして()る。147(やり)穂先(ほさき)(よる)でハツキリは()えぬが、148自然(しぜん)(まが)鎌首(かまくび)()ててゐる(やう)()がしてならぬ。149(くろ)(ふる)ぼけた(やり)(にぎ)つた(つも)りでゐたのがいつの()にか(ふと)(へび)(にぎ)つてる(やう)()がして()たので、150麦畑(むぎばたけ)(なか)矢庭(やには)(はう)()み、151車清(くるませ)(はう)(むか)つて(すす)みかけた。152(この)(やり)()ててから余程(よほど)恐怖心(きようふしん)(うす)らいで()た。
153 追々(おひおひ)(すす)んで硫黄谷(いわうだに)大池(おほいけ)(そば)()()ると、154周囲(まはり)(いち)()もあると()はれてゐる山間(さんかん)大池(おほいけ)(なか)二三丈(にさんぢやう)(ばか)りあらうと(おも)はる()(たか)い、155それに恰好(かつかう)した(ふと)さの、156(あか)丸顔(まるがほ)(をとこ)(ふか)池水(いけみづ)(こし)あたりまでつけて、157バサリバサリと自分(じぶん)(はう)()いて(あゆ)んで()(やう)()える。158(かみ)()(ちぢ)(あが)る、159(むね)動悸(どうき)(たか)くなる。160一心(いつしん)不乱(ふらん)に『惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』を(とな)(なが)池端(いけばた)(ひがし)(ひがし)へと(はし)りゆく。161(この)怪物(くわいぶつ)はどうなつたか、162(あと)(わか)らなかつた。163前方(ぜんぱう)(あた)つて(あを)()が、164いつも(とも)つてゐない(ところ)()える。165(すす)みもならず退(しりぞ)きもならず(しばら)途中(とちう)()つて思案(しあん)をしてゐると(からだ)がオゾオゾと(ふる)()す、166益々(ますます)(こは)くなつて()る、167四方(しはう)八方(はつぱう)から(いや)らしい化物(ばけもの)襲撃(しふげき)されるやうな()がしてならない。168あゝこんな(とき)松岡(まつをか)さんが(うつ)つてくれるといいのにと(おも)ひ、
169喜楽松岡(まつをか)天狗(てんぐ)さま、170松岡(まつをか)さま』
171(おほ)きな(こゑ)(さけ)んでみた。172自分(じぶん)(なが)(こゑ)(おほ)きうても、173()(こゑ)(なみ)()ち、174ふるひが(こも)つてゐた。175かうなると自分(じぶん)(こゑ)まで(いや)らしくなつて()る。176(こは)いと(おも)ひかけたら、177如何(どう)にも()うにも仕方(しかた)のないものである。178……マア此処(ここ)(しばら)静坐(せいざ)して公平(こうへい)判断(はんだん)をつけねばなるまい……と(みち)(かたはら)芝生(しばふ)(うへ)(こし)(おろ)し、179姿勢(しせい)(ただ)しうして両手(りやうて)()んで()た。180されど自分(じぶん)(からだ)(こし)()(あし)も、181(ほね)なしの(たこ)のやうになつて、182グラグラして一寸(ちよつと)安定(あんてい)(たも)(こと)出来(でき)なかつた。183たつた一声(ひとこゑ)(はら)(なか)から、
184突進(とつしん)!』
185といふ(こゑ)(きこ)えて()た。186(その)(こゑ)()くと(とも)に、187(にはか)糞落着(くそおちつ)きに落着(おちつ)(こと)出来(でき)た。188そして(こころ)(なか)で……エー()れが霊学(れいがく)修業(しうげふ)だ、189(いづ)霊界(れいかい)(こと)研究(けんきう)するのだから、190現界(げんかい)(おな)じやうな(こと)では研究(けんきう)価値(かち)がない、191これが(かへつ)(かみ)さまの()守護(しゆご)かも()れぬ、192今日(けふ)一週間(いつしうかん)()修業(しうげふ)(あが)りだ、193高熊山(たかくまやま)修業中(しうげふちう)にいろいろと霊界(れいかい)(こと)()せて(もら)ひ、194(をし)へても(もら)うて()る。195随分(ずゐぶん)(その)(とき)(いや)らしい(こと)(おそ)ろしい(こと)があつた、196これ(くらゐ)(こと)霊界(れいかい)探険(たんけん)当時(たうじ)(こと)(おも)へば、197ホンの門口(かどぐち)だ……と直日(なほひ)(かへり)(やうや)(こし)()げて、198(あを)()(はう)(すす)んで()つた。199怖々(こはごは)()(そば)()つて()れば(あを)()つた硝子(がらす)行灯(あんどん)()(とも)してある。200(みち)のわきがすぐ(はか)になつてゐて今日(けふ)()けたばかりの新墓(しんばか)(しろ)墓標(ぼへう)()つてゐる。201()をおちつけて()れば、202亀岡(かめをか)稲荷下(いなりさ)げをして()つた(ばば)アで、203御嶽教(みたけけう)教導職(けうだうしよく)(つと)めて()六十婆(ろくじふばば)アが()んだので、204此処(ここ)(はうむ)つたのだと()(こと)(しろ)墓標(ぼへう)文字(もんじ)(あきら)かになつた。205ヤツと安心(あんしん)して(やうや)矢田(やだ)神社(じんじや)境内(けいだい)にさしかかり、206社前(しやぜん)(みづ)(からだ)(きよ)め、207()(やしろ)(まへ)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、208瞑目(めいもく)静坐(せいざ)などして()()けるのを()つてゐた。209最早(もはや)これから(おく)夜中(よなか)()(だけ)勇気(ゆうき)臆病風(おくびやうかぜ)(さそ)はれて()くなつてゐたからである。
210 ()はホノボノと()けて()た。211そこらの様子(やうす)(なん)となく(ひる)らしくなつたので(にはか)元気(げんき)()し、212細谷川(ほそたにがは)(つた)うて、213(いつ)週間(しうかん)(ある)()れた谷路(たにみち)(のぼ)つて()く。214(しか)実際(じつさい)()()けてゐるのではなかつたと()え、215(ふたた)びそこらが薄暗(うすぐら)くなつて()た。216(そら)(つつ)んでゐた(くも)がうすらぎ、217(ひがし)(そら)から(つき)(のぼ)つたのが薄雲(うすぐも)(とほ)して(ひか)つたからであつた。218二三町(にさんちやう)(ばか)()つた(ところ)に、219五十(ごじふ)五六(ごろく)(ほね)(かは)とになつた、220(やせ)()なり()(たか)(ばば)アが、221一方(いつぱう)()(まへ)()したり(うしろ)()いたり、222(しき)りに樵夫(きこり)前挽(まへびき)をひくやうな(こと)をやつてゐる。223……ハテ怪体(けたい)(やつ)()やがつた。224()()けたと(おも)へば(くら)くなつて()る。225そこへ(かは)(のぞ)んで(ばば)アが(めう)()つきをして(からだ)(ゆす)つて()る。226此奴(こいつ)ア、227ヒヨツとしたら稲荷山(いなりやま)(みね)つづきだから、228奴狐(どぎつね)がだましてゐるのかも()れぬ。229(こころ)よわくては駄目(だめ)だ……と(にはか)空元気(からげんき)()し、230(ばば)アの(ちか)くによつて、231一生(いつしやう)懸命(けんめい)(こゑ)で、
232喜楽『コラツ!』
233呶鳴(どな)つて()た。234(ばば)アは(この)(こゑ)(おどろ)いて、235折角(せつかく)発動(はつどう)してゐた()をピタリと()め、236(こし)(かが)めて、
237(ばば)『ハーイ、238どなたか()りませぬが、239(なに)()無礼(ぶれい)(こと)(いた)しましたかな。240(わたし)樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまに信心(しんじん)して()りまして、241()(だい)さまから(かみ)うつりの伝授(でんじゆ)()け、242今日(けふ)(さん)(ねん)(ばか)毎晩(まいばん)此処(ここ)修業(しうげふ)()()ります。243おかげで(みぎ)()(だけ)(この)(とほ)()()うつりが出来出(できだ)しました。244モウ(さん)(ねん)すれば(また)(ひだり)()()()うつりがあり、245それから(どう)うつり、246(あたま)にうつり、247()(くち)()れるのが、248マアマアザツと(これ)から(じふ)(ねん)修業(しうげふ)御座(ござ)います。249(まへ)さまは(この)(ごろ)評判(ひやうばん)(たか)い、250穴太(あなを)天狗(てんぐ)さまぢや御座(ござ)いませぬか』
251喜楽(きらく)『お(ばあ)サン、252そんな年寄(としよ)りがこれから(じふ)(ねん)修行(しうぎやう)して()つたら、253(くち)()れるのと()ぬのと一時(いつとき)になるぢやないか。254モツと(はや)(くち)()れるやうにして()げようか。255(わたし)修業(しうげふ)さしたら、256(いつ)週間(しうかん)にはキツと(くち)()つて()げる』
257(ばば)『ハヽヽヽヽさうかが(やす)(かみ)(さま)(うつ)つたり、258(くち)()れるやうな(こと)なら、259(この)(ばば)もこんな(なが)修行(しうぎやう)(いた)しませぬワイナ。260(はや)(くち)()れるやうな(かみ)(ろく)なものぢやありませぬ。261どうで(きつね)(たぬき)でせう』
262自分(じぶん)豆狸(まめだぬき)にうつられて()(なが)ら、263狐狸(こり)をくさしてゐる(その)可笑(をか)しさ。264肥持(こえも)ちが(くそ)(にほひ)()らぬのと(おな)じやうなものだなアと(おも)(なが)ら、265(この)()立去(たちさ)らうとすると、266()アサンは(また)(みぎ)()樵夫(きこり)()をひくやうに(うご)かせ(なが)ら、267(こし)をキヨクン キヨクンと()(うご)かし、268(うご)かぬ(はう)()をニユツと(まへ)()し、
269(ばば)『コレもし、270穴太(あなを)天狗(てんぐ)さま、271どうで()世話(せわ)になりますが、272一遍(いつぺん)樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまに(うかが)うた(うへ)(たの)みますワ。273(この)(あひだ)西町(にしまち)()(だい)さまが、274樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまの弟子(でし)()(なが)ら、275余部(あまるべ)稲荷(いなり)さまの(はう)肩替(かたがへ)しやはつたら、276(その)(ばち)()なはりました。277昨日(きのふ)葬式(さうしき)がありました。278(かみ)さまの()機嫌(きげん)(そん)ずると(おそ)ろしいから、279とつくり樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまに(うかが)うた(うへ)()世話(せわ)になりますワ』
280喜楽(きらく)樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまはキツと反対(はんたい)するにきまつてゐる。281此方(こちら)天狗(てんぐ)さま、282そちらは(くろ)サンだからなア』
283(ばば)『コレコレ、284(なん)といふ勿体(もつたい)ない(こと)仰有(おつしや)る。285あの(かみ)さまは正一位(しやういちゐ)天狐(てんこ)御剣(みつるぎ)大明神(だいみやうじん)さまだ。286(いち)(みね)()守護(しゆご)(あそ)ばすお(やま)(いち)()守護神(しゆごじん)さま。287勿体(もつたい)ない、288(くろ)サンぢやなどと、289(たぬき)にして(しま)うとは、290(ばち)(あた)りますぞえ。291そんな()(かた)()世話(せわ)にならうものなら、292どんな(こと)(おこ)るか()れませぬ。293モウ(これ)ぎりお(まへ)さまも(わたし)(こと)(わす)れて(くだ)さい、294(わたし)(わす)れます。295(めう)因縁(いんねん)(つな)がからまると(たがひ)迷惑(めいわく)しますからなア。296六根(ろくこん)清浄(せいじやう)六根(ろくこん)清浄(せいじやう)南無(なむ)妙法(めうはふ)蓮華経(れんげきやう)……』
297一生(いつしやう)懸命(けんめい)(とな)(はじ)めた。298喜楽(きらく)はここを見捨(みす)てて二町(にちやう)(ばか)上手(かみて)東向(ひがしむ)きの(たき)()つて()ると、299いつも(あま)(ふと)くない(たき)一丈(いちぢやう)(ほど)()ちて()るのに、300今日(けふ)(また)如何(どう)したものか、301五六間(ごろくけん)こつちから(たき)()ると、302真白(まつしろ)けの(もの)()つてゐる。303朧月夜(おぼろづきよ)にすかし(なが)ら、304滝壺(たきつぼ)(まへ)まで(ちか)よつて()ると、305二十(にじふ)五六(ごろく)(をんな)白衣(びやくい)をつけて(かみ)をふり(みだ)し、306(たき)にかかつてゐる。307喜楽(きらく)神憑(かむがか)りと()()り、
308喜楽(きらく)何神(なにがみ)さまで御座(ござ)いますか、309()()かして(くだ)さい』
310とやつて()た。311(たき)にかかつた白衣(びやくい)(をんな)両手(りやうて)()んだまま、312頭上(づじやう)(たか)()()げ、313背伸(せの)びをし、314(すこ)しく()(かへ)つて、
315力松(りきまつ)大明神(だいみやうじん)……』
316甲声(かんごゑ)呶鳴(どな)つた。
317喜楽(きらく)力松(りきまつ)大明神(だいみやうじん)とは何処(どこ)守護神(しゆごじん)ですか?』
318(をんな)稲荷山(いなりやま)319奥村(おくむら)大明神(だいみやうじん)()眷族(けんぞく)320力松(りきまつ)大明神(だいみやうじん)だ。321(この)(はう)信仰(しんかう)(いた)せば病気(びやうき)災難(さいなん)一切(いつさい)をのがらしてやるぞよ。322(その)(はう)穴太(あなを)天狗(てんぐ)であらう。323今日(けふ)(いつ)週間(しうかん)修行(しうぎやう)(あが)りと()いた(ゆゑ)324(この)肉体(にくたい)外志(げし)ハルを、325(この)(はう)(さそ)()し、326(その)(はう)面会(めんくわい)させる(ため)()つて()つたのだ。327随分(ずゐぶん)途中(とちう)(こは)かつただらうのう』
328喜楽(きらく)(わか)りました、329どうぞ()引取(ひきとり)(ねが)ひます』
330(をんな)引取(ひきと)れと(まを)さいでも、331(この)力松(りきまつ)大明神(だいみやうじん)はそちの(こころ)をよく()つとるから引取(ひきと)るぞよ。332ウンウン……』
333()つたぎり、334亀岡(かめをか)旅籠町(はたごちやう)外志(げし)ハルと()神憑(かむがか)りは正気(しやうき)(かへ)つて(しま)うた。
335 さうかうする(あひだ)()はカラリと()(わた)つた。336二人(ふたり)はいろいろと(かみ)(さま)(はなし)をし(なが)外志(げし)ハルの(たの)みに()つて、337旅籠町(はたごちやう)(まは)り、338(をつと)筆吉(ふできち)といふに面会(めんくわい)して、339(たがひ)(みち)(ため)(たす)()(こと)(やく)し、340穴太(あなを)(かへ)つて()た。
341大正一一・一〇・九 旧八・一九 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→  
霊界物語ネットは飯塚弘明が運営しています。【メールアドレス】 / 動作に不具合や誤字脱字等を発見されましたら是非お知らせ下さるようお願い申し上げます。 / / 本サイトの著作権(デザイン、プログラム、凡例等)は飯塚弘明にあります。出口王仁三郎の著作物(霊界物語等)の著作権は保護期間が過ぎていますのでご自由にお使いいただいて構いません。ただし一部分を引用するのではなく、本サイト掲載の大部分を利用して電子書籍等に転用する場合には、必ず出典と連絡先を記して下さい。→「本サイト掲載文献の利用について」 / 出口王仁三郎の著作物は明治~昭和初期に書かれたものです。現代においては差別的と見なされる言葉や表現もありますが、当時の時代背景を鑑みてそのままにしてあります。 / プライバシーポリシー
(C) 2007-2024 Iizuka Hiroaki