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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
第1章 富士山
第2章 葱節
第3章 破軍星
第4章 素破抜
第5章 松の下
第6章 手料理
第2篇 青垣山内
第7章 五万円
第8章 梟の宵企
第9章 牛の糞
第10章 矢田の滝
第11章 松の嵐
第12章 邪神憑
第3篇 阪丹珍聞
第13章 煙の都
第14章 夜の山路
第15章 盲目鳥
第16章 四郎狸
第17章 狐の尾
第18章 奥野操
第19章 逆襲
第20章 仁志東
第4篇 山青水清
第21章 参綾
第22章 大僧坊
第23章 海老坂
第24章 神助
第25章 妖魅来
霊の礎(九)
余白歌
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舎身活躍(第37~48巻)
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第37巻(子の巻)
> 第2篇 青垣山内 > 第10章 矢田の滝
<<< 牛の糞
(B)
(N)
松の嵐 >>>
第一〇章
矢田
(
やだ
)
の
滝
(
たき
)
〔一〇二二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第2篇 青垣山内
よみ(新仮名遣い):
あおがきやまうち
章:
第10章 矢田の滝
よみ(新仮名遣い):
やだのたき
通し章番号:
1022
口述日:
1922(大正11)年10月09日(旧08月19日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
葦野山峠の西坂で牛糞をつかまされ、自暴自棄になって二三日は祝詞も修行も注視していた。三日目の晩にまたもや臍下丹田から霊が喉元に上がってきて叫び始めた。
大霜天狗と名乗る神霊は、葦野山峠の失敗を触れて回ってやろうか、とからかい始めた。喜楽は、神霊は大霜天狗ではなく、やっぱり松岡様ではないかと詰め寄ると、神霊は実は松岡だと明かして大笑いした。
喜楽の文句はまったく聞く耳をもたず、松岡神は喜楽の身体を使って夜十二時ごろに自宅を立ち出で、亀岡の産土・矢田神社の奥の滝に水行を命じた。そして一週間の滝行を行うことになった。
七日目ににわかに恐ろしい思いに捉われ、怪しいものを見たが、一声腹の中から『突進』という声を聴くと落ち着くことができた。滝への途上、稲利下げの婆に会った。
滝に来てみると、亀岡旅籠町の外志ハルという神下しの女が行を行っており、喜楽が審神を行った。外志ハルが正気に戻ると、お互いに神様の話をしながら旅籠町に回り、夫の筆吉にも面会して、道のために協力し合うことを約束して穴太に帰ってきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-20 13:56:59
OBC :
rm3710
愛善世界社版:
124頁
八幡書店版:
第7輯 77頁
修補版:
校定版:
131頁
普及版:
60頁
初版:
ページ備考:
001
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
の
西坂
(
にしざか
)
でマンマと
牛糞
(
うしくそ
)
をつかまされ、
002
阿呆
(
あはう
)
らしくて
堪
(
たま
)
らず、
003
稍
(
やや
)
自暴
(
じばう
)
自棄
(
じき
)
的
(
てき
)
になつて、
004
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
の
間
(
あひだ
)
朝寝
(
あさね
)
をする、
005
宵寝
(
よひね
)
もする、
006
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
の
奏上
(
そうじやう
)
や、
007
鎮魂
(
ちんこん
)
帰神
(
きしん
)
の
修業
(
しうげふ
)
は
中止
(
ちうし
)
してゐた。
008
そうすると
三日目
(
みつかめ
)
の
晩
(
ばん
)
、
009
又
(
また
)
もや
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
から
例
(
れい
)
のグルグルが
喉元
(
のどもと
)
へ
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
り、
010
『アーアーアー』
011
と
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
連発
(
れんぱつ
)
し、
012
暫
(
しばら
)
くすると、
013
『
阿呆
(
あはう
)
阿呆
(
あはう
)
阿呆
(
あはう
)
!』
014
と
呶鳴
(
どな
)
りつける。
015
喜楽
(
きらく
)
は
思
(
おも
)
うた……
本当
(
ほんたう
)
に
天狗
(
てんぐ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
016
阿呆
(
あはう
)
も
阿呆
(
あはう
)
、
017
図
(
づ
)
なしの
阿呆
(
あはう
)
だ。
018
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
誰
(
たれ
)
にも
云
(
い
)
はずに
今
(
いま
)
まで
隠
(
かく
)
してゐるのだから、
019
大霜
(
おほしも
)
天狗
(
てんぐ
)
無頓着
(
むとんちやく
)
にあんな
声
(
こゑ
)
で、
020
葦野山
(
あしのやま
)
峠
(
たうげ
)
の
失敗
(
しつぱい
)
事件
(
じけん
)
を
喋
(
しやべ
)
りでもせうものなら、
021
それこそ
親
(
おや
)
兄弟
(
きやうだい
)
、
022
近所
(
きんじよ
)
株内
(
かぶうち
)
の
奴
(
やつ
)
に
馬鹿
(
ばか
)
にしられ、
023
神
(
かみ
)
さまの
祭壇
(
さいだん
)
も
取除
(
とりのぞ
)
かれて
了
(
しま
)
うに
違
(
ちが
)
ひない、
024
どうぞ
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
してくれねばよいがなア……と
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
に
念
(
ねん
)
じてゐた。
025
大霜
(
おほしも
)
『コレ
肉体
(
にくたい
)
、
026
スツパ
抜
(
ぬ
)
かうか、
027
チツと
貴様
(
きさま
)
も
困
(
こま
)
るだろ。
028
どうせうかな』
029
とからかひ
始
(
はじ
)
める。
030
喜楽
(
きらく
)
『どうなつと
勝手
(
かつて
)
にしなさい。
031
元
(
もと
)
の
土百姓
(
どびやくせう
)
や
牧畜
(
ぼくちく
)
業者
(
げふしや
)
になつて
了
(
しま
)
ひます。
032
却
(
かへつ
)
て
素破
(
すつぱ
)
ぬいた
方
(
はう
)
が
諦
(
あきら
)
めがついて
宜
(
よろ
)
しい』
033
大霜
(
おほしも
)
『そう
落胆
(
らくたん
)
するものぢやない。
034
まだお
前
(
まへ
)
は
十分
(
じふぶん
)
に
身魂
(
みたま
)
が
研
(
みが
)
けて
居
(
ゐ
)
ないから、
035
モウ
一度
(
いちど
)
神
(
かみ
)
が
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くから、
036
水行
(
すいげう
)
をするのだ。
037
小幡
(
をばた
)
川原
(
がはら
)
の
水
(
みづ
)
は
体
(
からだ
)
にしみ
込
(
こ
)
んで
垢
(
あか
)
がとれぬから
駄目
(
だめ
)
だ。
038
今度
(
こんど
)
此
(
この
)
方
(
はう
)
がよい
所
(
ところ
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つてやるから、
039
其
(
その
)
用意
(
ようい
)
をせい。
040
草鞋
(
わらぢ
)
や
脚絆
(
きやはん
)
をチヤンと
拵
(
こしら
)
へて、
041
今晩
(
こんばん
)
の
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
に
此処
(
ここ
)
を
立
(
た
)
つ
事
(
こと
)
にするのだ』
042
喜楽
(
きらく
)
『
又
(
また
)
ウソを
言
(
い
)
ふのぢやありませぬか?』
043
大霜
(
おほしも
)
『
嘘
(
うそ
)
も
糞
(
くそ
)
もあつたものかい。
044
モウ
斯
(
か
)
うなつた
以上
(
いじやう
)
は
何事
(
なにごと
)
があらうと
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
し、
045
糞度胸
(
くそどきよう
)
を
据
(
す
)
ゑてかからねば
何事
(
なにごと
)
も
成功
(
せいこう
)
しないぞ。
046
あの
位
(
くらゐ
)
の
事
(
こと
)
でフン
慨
(
がい
)
しとるやうな
事
(
こと
)
ぢや
駄目
(
だめ
)
だ』
047
喜楽
(
きらく
)
『モシモシ
天狗
(
てんぐ
)
さま、
048
お
前
(
まへ
)
さまは
大霜
(
おほしも
)
だと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
られるが、
049
違
(
ちが
)
ひませう。
050
どうも
云
(
い
)
ひぶりが
松岡
(
まつをか
)
さまらしい』
051
大霜
(
おほしも
)
『
松岡
(
まつをか
)
でも
大霜
(
おほしも
)
でも
構
(
かま
)
はぬぢやないか、
052
お
前
(
まへ
)
の
魂
(
たましひ
)
さへ
研
(
みが
)
けたらいいのぢや。
053
本当
(
ほんたう
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が
分
(
わか
)
らぬやうなこつては
神柱
(
かむばしら
)
も
駄目
(
だめ
)
だ。
054
本当
(
ほんたう
)
は
俺
(
おれ
)
を
誰
(
たれ
)
だと
思
(
おも
)
うてるか』
055
喜楽
(
きらく
)
『
松岡
(
まつをか
)
さまにきまつてゐますワイ』
056
松岡
(
まつをか
)
『よう
当
(
あ
)
てた、
057
本当
(
ほんたう
)
は
松岡
(
まつをか
)
だ。
058
奥山
(
おくやま
)
へ
金掘
(
かねほ
)
りにやつたのも、
059
牛
(
うし
)
の
糞
(
くそ
)
を
掴
(
つか
)
ましてやつたのも
皆
(
みな
)
此
(
この
)
松岡
(
まつをか
)
だよ、
060
アハヽヽヽ、
061
ウフヽヽヽ』
062
喜楽
(
きらく
)
『
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな』
063
松岡
(
まつをか
)
『
馬鹿
(
ばか
)
の
卒業生
(
そつげふせい
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にせうと
思
(
おも
)
つても、
064
する
余地
(
よち
)
がないぢやないか、
065
エヘヽヽヽ。
066
これからサア
身魂
(
みたま
)
の
洗濯
(
せんたく
)
に
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
かう。
067
草鞋
(
わらぢ
)
や
脚絆
(
きやはん
)
がなければ
下駄
(
げた
)
ばきでいいワ、
068
サア
行
(
ゆ
)
かう』
069
と
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
からどなると
共
(
とも
)
に、
070
喜楽
(
きらく
)
の
体
(
からだ
)
は
器械
(
きかい
)
的
(
てき
)
に
立上
(
たちあ
)
がり、
071
庭
(
には
)
の
駒下駄
(
こまげた
)
をはいたまま、
072
夜
(
よる
)
の
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
に
自宅
(
じたく
)
を
立出
(
たちい
)
で、
073
小幡川
(
をばたがは
)
を
渡
(
わた
)
り、
074
スタスタと
穴太
(
あなを
)
を
東
(
ひがし
)
に
離
(
はな
)
れ、
075
重利
(
しげとし
)
の
車清
(
くるませ
)
の
側
(
そば
)
の
橋
(
はし
)
を
越
(
こ
)
え、
076
藪
(
やぶ
)
をぬけ、
077
一町
(
いつちやう
)
許
(
ばか
)
り
進
(
すす
)
むと、
078
自分
(
じぶん
)
の
足
(
あし
)
は
土中
(
どちう
)
から
生
(
は
)
えた
様
(
やう
)
にピタリと
止
(
と
)
まつて
了
(
しま
)
つた。
079
そこには
田園
(
でんえん
)
に
施
(
ほどこ
)
す
肥料
(
ひれう
)
をたくはへる
糞壺
(
くそつぼ
)
があつて、
080
異様
(
いやう
)
の
臭気
(
しうき
)
が
鼻
(
はな
)
をついてゐる。
081
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
塊
(
かたまり
)
がクルクルと
又
(
また
)
もや
喉元
(
のどもと
)
へつきつけ、
082
松岡
(
まつをか
)
『オイ
肉体
(
にくたい
)
、
083
真裸
(
まつぱだか
)
になつて
此
(
この
)
糞壺
(
くそつぼ
)
へ
這入
(
はい
)
り、
084
身魂
(
みたま
)
の
洗濯
(
せんたく
)
を
致
(
いた
)
せ!』
085
と
呶鳴
(
どな
)
り
出
(
だ
)
した。
086
体
(
からだ
)
は
自然
(
しぜん
)
に
糞壺
(
くそつぼ
)
の
方
(
はう
)
へ
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
087
鼻
(
はな
)
が
曲
(
まが
)
るほど
臭
(
くさ
)
うてたまらぬ。
088
喜楽
(
きらく
)
『コレ
松岡
(
まつをか
)
さま、
089
こんな
所
(
ところ
)
へ
這入
(
はい
)
つたら
尚
(
なほ
)
汚
(
けが
)
れるぢやありませぬか。
090
綺麗
(
きれい
)
な
水
(
みづ
)
で
洗濯
(
せんたく
)
してやらうと
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
091
糞壺
(
くそつぼ
)
へ
這入
(
はい
)
れとはチツと
間違
(
まちが
)
ひぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
092
松岡
(
まつをか
)
『
錆
(
さび
)
た
刀
(
かたな
)
を
砥
(
と
)
ぐ
時
(
とき
)
も、
093
生灰
(
きばい
)
をつけたり、
094
泥
(
どろ
)
をつけたりする
様
(
やう
)
に、
095
お
前
(
まへ
)
のやうな
製糞器
(
せいふんき
)
は
糞
(
くそ
)
で
研
(
みが
)
いてやるのが
一番
(
いちばん
)
だ。
096
糞
(
くそ
)
より
汚
(
きたな
)
い
身魂
(
みたま
)
を
持
(
も
)
つてゐ
乍
(
なが
)
ら、
097
糞
(
くそ
)
が
汚
(
きたな
)
いとは
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ』
098
と
大声
(
おほごゑ
)
に
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てた。
099
喜楽
(
きらく
)
はビツクリして、
100
喜楽
(
きらく
)
『ハイ、
101
そんなら
裸
(
はだか
)
になつて
這入
(
はい
)
ります。
102
どうぞ
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
さぬやうにして
下
(
くだ
)
さい』
103
と
帯
(
おび
)
を
解
(
と
)
かうとする。
104
松岡
(
まつをか
)
『オイ
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
105
それさへ
分
(
わか
)
ればモウよい。
106
お
前
(
まへ
)
の
体
(
からだ
)
は
機関
(
きくわん
)
だ、
107
生宮
(
いきみや
)
だ。
108
そんな
所
(
ところ
)
へ
這入
(
はい
)
つて
貰
(
もら
)
ふと
俺
(
おれ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
困
(
こま
)
るのだ、
109
アハヽヽヽ』
110
喜楽
(
きらく
)
『
私
(
わたし
)
は
元
(
もと
)
からの
土
(
ど
)
ン
百姓
(
びやくせう
)
で、
111
糞
(
くそ
)
位
(
くらゐ
)
は
何
(
なん
)
とも
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
りませぬ。
112
糞
(
くそ
)
がなければ
五穀
(
ごこく
)
野菜
(
やさい
)
が
育
(
そだ
)
ちませぬから、
113
一遍
(
いつぺん
)
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
ませうか』
114
松岡
(
まつをか
)
『
這入
(
はい
)
るなら
勝手
(
かつて
)
に
這入
(
はい
)
れ。
115
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
此
(
この
)
松岡
(
まつをか
)
は
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
守護
(
しゆご
)
致
(
いた
)
さぬからそう
思
(
おも
)
へ。
116
あとはもぬけのから、
117
狸
(
たぬき
)
の
容物
(
いれもの
)
にでもなるがよからう』
118
斯
(
か
)
う
言
(
い
)
はれると
何
(
なん
)
となしに
未練
(
みれん
)
が
湧
(
わ
)
いて
来
(
く
)
る。
119
松岡神
(
まつをかしん
)
が
人
(
ひと
)
の
体
(
からだ
)
へ
這入
(
はい
)
つて、
120
ウソ
計
(
ばか
)
り
言
(
い
)
ひ
何遍
(
なんべん
)
も
失敗
(
しつぱい
)
をさせよる
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
、
121
こんな
邪神
(
じやしん
)
は
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
退散
(
たいさん
)
させたいと
思
(
おも
)
ふ
事
(
こと
)
は
度々
(
たびたび
)
であつたが、
122
サテ
之
(
こ
)
れ
限
(
かぎ
)
り
立退
(
たちの
)
くと
云
(
い
)
はれると、
123
何
(
なん
)
だか
惜
(
をし
)
い
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がして
来
(
く
)
るのが
不思議
(
ふしぎ
)
である。
124
喜楽
(
きらく
)
『そんなら、
125
あなたの
仰
(
おほせ
)
に
従
(
したが
)
ひます。
126
サア
是
(
これ
)
から
美
(
うつく
)
しい
水
(
みづ
)
の
所
(
ところ
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
127
松岡
(
まつをか
)
『コレから
一
(
いち
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
り
東
(
ひがし
)
へ
行
(
ゆ
)
くと、
128
矢田
(
やだ
)
の
滝
(
たき
)
というて
東
(
ひがし
)
向
(
む
)
きに
落
(
お
)
ちてゐる、
129
形
(
かたち
)
計
(
ばか
)
りの
滝
(
たき
)
がある。
130
そこで
水行
(
すゐぎやう
)
をするのだ、
131
サア
行
(
ゆ
)
ケ!』
132
と
号令
(
ごうれい
)
し
乍
(
なが
)
ら、
133
喜楽
(
きらく
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
操
(
あやつ
)
つて、
134
足早
(
あしばや
)
に
硫黄谷
(
いわうだに
)
を
越
(
こ
)
え、
135
大池
(
おほいけ
)
の
畔
(
ほとり
)
を
伝
(
つた
)
うて、
136
亀岡
(
かめをか
)
の
産土
(
うぶすな
)
矢田
(
やだ
)
神社
(
じんじや
)
の
奥
(
おく
)
の
谷
(
たに
)
に
導
(
みちび
)
き
水行
(
すゐぎやう
)
を
命
(
めい
)
じた。
137
そして
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
の
間
(
あひだ
)
毎夜
(
まいよ
)
此
(
この
)
滝
(
たき
)
に
通
(
かよ
)
ふ
事
(
こと
)
を
肉体
(
にくたい
)
に
厳命
(
げんめい
)
した。
138
喜楽
(
きらく
)
はそれより
毎夜
(
まいよ
)
々々
(
まいよ
)
淋
(
さび
)
しい
山道
(
やまみち
)
や
池
(
いけ
)
の
畔
(
ほとり
)
や
墓場
(
はかば
)
を
越
(
こ
)
え
矢田
(
やだ
)
の
滝
(
たき
)
へ
通
(
かよ
)
ふ
事
(
こと
)
となつた。
139
矢田
(
やだ
)
の
滝
(
たき
)
へ
通
(
かよ
)
ひ
始
(
はじ
)
めてから
七日目
(
なぬかめ
)
、
140
今晩
(
こんばん
)
が
行
(
ぎやう
)
の
上
(
あが
)
りと
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
になつて、
141
なんとなく
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
に
恐怖心
(
きようふしん
)
が
湧
(
わ
)
いて
来
(
き
)
た。
142
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
にかけてあつた
大身鎗
(
おほみやり
)
をひつさげ、
143
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
自宅
(
じたく
)
を
立
(
た
)
つて、
144
穴太
(
あなを
)
の
村外
(
むらはづ
)
れまで
進
(
すす
)
んで
来
(
く
)
ると、
145
自分
(
じぶん
)
の
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
鎗
(
やり
)
が
心
(
こころ
)
の
勢
(
せい
)
か
勝手
(
かつて
)
に
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
し、
146
リンリンと
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
がして
来
(
く
)
る。
147
鎗
(
やり
)
の
穂先
(
ほさき
)
は
夜
(
よる
)
でハツキリは
見
(
み
)
えぬが、
148
自然
(
しぜん
)
に
曲
(
まが
)
り
鎌首
(
かまくび
)
を
立
(
た
)
ててゐる
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がしてならぬ。
149
黒
(
くろ
)
い
古
(
ふる
)
ぼけた
鎗
(
やり
)
を
握
(
にぎ
)
つた
積
(
つも
)
りでゐたのがいつの
間
(
ま
)
にか
太
(
ふと
)
い
蛇
(
へび
)
を
握
(
にぎ
)
つてる
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がして
来
(
き
)
たので、
150
麦畑
(
むぎばたけ
)
の
中
(
なか
)
へ
矢庭
(
やには
)
に
放
(
はう
)
り
込
(
こ
)
み、
151
車清
(
くるませ
)
の
方
(
はう
)
へ
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
みかけた。
152
此
(
この
)
鎗
(
やり
)
を
棄
(
す
)
ててから
余程
(
よほど
)
恐怖心
(
きようふしん
)
が
薄
(
うす
)
らいで
来
(
き
)
た。
153
追々
(
おひおひ
)
進
(
すす
)
んで
硫黄谷
(
いわうだに
)
の
大池
(
おほいけ
)
の
側
(
そば
)
へ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
ると、
154
周囲
(
まはり
)
一
(
いち
)
里
(
り
)
もあると
云
(
い
)
はれてゐる
山間
(
さんかん
)
の
大池
(
おほいけ
)
の
中
(
なか
)
に
二三丈
(
にさんぢやう
)
計
(
ばか
)
りあらうと
思
(
おも
)
はる
背
(
せ
)
の
高
(
たか
)
い、
155
それに
恰好
(
かつかう
)
した
太
(
ふと
)
さの、
156
赤
(
あか
)
い
丸顔
(
まるがほ
)
の
男
(
をとこ
)
が
深
(
ふか
)
い
池水
(
いけみづ
)
に
腰
(
こし
)
あたりまでつけて、
157
バサリバサリと
自分
(
じぶん
)
の
方
(
はう
)
を
向
(
む
)
いて
歩
(
あゆ
)
んで
来
(
く
)
る
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
える。
158
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
は
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
る、
159
胸
(
むね
)
は
動悸
(
どうき
)
が
高
(
たか
)
くなる。
160
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に『
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』を
称
(
とな
)
へ
乍
(
なが
)
ら
池端
(
いけばた
)
を
東
(
ひがし
)
へ
東
(
ひがし
)
へと
走
(
はし
)
りゆく。
161
此
(
この
)
怪物
(
くわいぶつ
)
はどうなつたか、
162
後
(
あと
)
は
分
(
わか
)
らなかつた。
163
前方
(
ぜんぱう
)
に
当
(
あた
)
つて
青
(
あを
)
い
火
(
ひ
)
が、
164
いつも
灯
(
とも
)
つてゐない
所
(
ところ
)
に
見
(
み
)
える。
165
進
(
すす
)
みもならず
退
(
しりぞ
)
きもならず
暫
(
しばら
)
く
途中
(
とちう
)
に
立
(
た
)
つて
思案
(
しあん
)
をしてゐると
体
(
からだ
)
がオゾオゾと
慄
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
す、
166
益々
(
ますます
)
怖
(
こは
)
くなつて
来
(
く
)
る、
167
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
から
厭
(
いや
)
らしい
化物
(
ばけもの
)
に
襲撃
(
しふげき
)
されるやうな
気
(
き
)
がしてならない。
168
あゝこんな
時
(
とき
)
に
松岡
(
まつをか
)
さんが
憑
(
うつ
)
つてくれるといいのにと
思
(
おも
)
ひ、
169
喜楽
『
松岡
(
まつをか
)
天狗
(
てんぐ
)
さま、
170
松岡
(
まつをか
)
さま』
171
と
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
叫
(
さけ
)
んでみた。
172
自分
(
じぶん
)
乍
(
なが
)
ら
声
(
こゑ
)
は
大
(
おほ
)
きうても、
173
其
(
そ
)
の
声
(
こゑ
)
に
波
(
なみ
)
が
打
(
う
)
ち、
174
ふるひが
籠
(
こも
)
つてゐた。
175
かうなると
自分
(
じぶん
)
の
声
(
こゑ
)
まで
厭
(
いや
)
らしくなつて
来
(
く
)
る。
176
怖
(
こは
)
いと
思
(
おも
)
ひかけたら、
177
如何
(
どう
)
にも
斯
(
か
)
うにも
仕方
(
しかた
)
のないものである。
178
……マア
此処
(
ここ
)
で
暫
(
しばら
)
く
静坐
(
せいざ
)
して
公平
(
こうへい
)
な
判断
(
はんだん
)
をつけねばなるまい……と
道
(
みち
)
の
傍
(
かたはら
)
の
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
し、
179
姿勢
(
しせい
)
を
正
(
ただ
)
しうして
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
んで
見
(
み
)
た。
180
されど
自分
(
じぶん
)
の
体
(
からだ
)
も
腰
(
こし
)
も
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も、
181
骨
(
ほね
)
なしの
蛸
(
たこ
)
のやうになつて、
182
グラグラして
一寸
(
ちよつと
)
も
安定
(
あんてい
)
を
保
(
たも
)
つ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
183
たつた
一声
(
ひとこゑ
)
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から、
184
『
突進
(
とつしん
)
!』
185
といふ
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
186
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
共
(
とも
)
に、
187
俄
(
にはか
)
に
糞落着
(
くそおちつ
)
きに
落着
(
おちつ
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
た。
188
そして
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
で……エー
之
(
こ
)
れが
霊学
(
れいがく
)
の
修業
(
しうげふ
)
だ、
189
何
(
いづ
)
れ
霊界
(
れいかい
)
の
事
(
こと
)
を
研究
(
けんきう
)
するのだから、
190
現界
(
げんかい
)
と
同
(
おな
)
じやうな
事
(
こと
)
では
研究
(
けんきう
)
の
価値
(
かち
)
がない、
191
これが
却
(
かへつ
)
て
神
(
かみ
)
さまの
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
かも
知
(
し
)
れぬ、
192
今日
(
けふ
)
は
一週間
(
いつしうかん
)
目
(
め
)
の
修業
(
しうげふ
)
の
上
(
あが
)
りだ、
193
高熊山
(
たかくまやま
)
の
修業中
(
しうげふちう
)
にいろいろと
霊界
(
れいかい
)
の
事
(
こと
)
を
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
ひ、
194
教
(
をし
)
へても
貰
(
もら
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
195
随分
(
ずゐぶん
)
其
(
その
)
時
(
とき
)
も
厭
(
いや
)
らしい
事
(
こと
)
や
恐
(
おそ
)
ろしい
事
(
こと
)
があつた、
196
これ
位
(
くらゐ
)
な
事
(
こと
)
は
霊界
(
れいかい
)
探険
(
たんけん
)
当時
(
たうじ
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
へば、
197
ホンの
門口
(
かどぐち
)
だ……と
直日
(
なほひ
)
に
省
(
かへり
)
み
漸
(
やうや
)
く
腰
(
こし
)
を
上
(
あ
)
げて、
198
青
(
あを
)
い
火
(
ひ
)
の
方
(
はう
)
へ
進
(
すす
)
んで
行
(
い
)
つた。
199
怖々
(
こはごは
)
火
(
ひ
)
の
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
つて
見
(
み
)
れば
青
(
あを
)
く
塗
(
ぬ
)
つた
硝子
(
がらす
)
の
行灯
(
あんどん
)
に
火
(
ひ
)
が
点
(
とも
)
してある。
200
途
(
みち
)
のわきがすぐ
墓
(
はか
)
になつてゐて
今日
(
けふ
)
埋
(
い
)
けたばかりの
新墓
(
しんばか
)
に
白
(
しろ
)
い
墓標
(
ぼへう
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
201
気
(
き
)
をおちつけて
見
(
み
)
れば、
202
亀岡
(
かめをか
)
の
稲荷下
(
いなりさ
)
げをして
居
(
を
)
つた
婆
(
ばば
)
アで、
203
御嶽教
(
みたけけう
)
の
教導職
(
けうだうしよく
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
た
六十婆
(
ろくじふばば
)
アが
死
(
し
)
んだので、
204
此処
(
ここ
)
に
葬
(
はうむ
)
つたのだと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
白
(
しろ
)
い
墓標
(
ぼへう
)
の
文字
(
もんじ
)
で
明
(
あきら
)
かになつた。
205
ヤツと
安心
(
あんしん
)
して
漸
(
やうや
)
く
矢田
(
やだ
)
神社
(
じんじや
)
の
境内
(
けいだい
)
にさしかかり、
206
社前
(
しやぜん
)
の
水
(
みづ
)
で
体
(
からだ
)
を
清
(
きよ
)
め、
207
御
(
お
)
社
(
やしろ
)
の
前
(
まへ
)
で
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
208
瞑目
(
めいもく
)
静坐
(
せいざ
)
などして
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けるのを
待
(
ま
)
つてゐた。
209
最早
(
もはや
)
これから
奥
(
おく
)
へ
夜中
(
よなか
)
に
行
(
ゆ
)
く
丈
(
だけ
)
の
勇気
(
ゆうき
)
が
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
に
誘
(
さそ
)
はれて
無
(
な
)
くなつてゐたからである。
210
夜
(
よ
)
はホノボノと
明
(
あ
)
けて
来
(
き
)
た。
211
そこらの
様子
(
やうす
)
が
何
(
なん
)
となく
昼
(
ひる
)
らしくなつたので
俄
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
を
出
(
だ
)
し、
212
細谷川
(
ほそたにがは
)
を
伝
(
つた
)
うて、
213
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
歩
(
ある
)
き
馴
(
な
)
れた
谷路
(
たにみち
)
を
登
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
214
併
(
しか
)
し
実際
(
じつさい
)
は
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けてゐるのではなかつたと
見
(
み
)
え、
215
再
(
ふたた
)
びそこらが
薄暗
(
うすぐら
)
くなつて
来
(
き
)
た。
216
空
(
そら
)
を
包
(
つつ
)
んでゐた
雲
(
くも
)
がうすらぎ、
217
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
から
月
(
つき
)
が
昇
(
のぼ
)
つたのが
薄雲
(
うすぐも
)
を
通
(
とほ
)
して
光
(
ひか
)
つたからであつた。
218
二三町
(
にさんちやう
)
許
(
ばか
)
り
行
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
に、
219
五十
(
ごじふ
)
五六
(
ごろく
)
の
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
とになつた、
220
痩
(
やせ
)
た
可
(
か
)
なり
背
(
せ
)
の
高
(
たか
)
い
婆
(
ばば
)
アが、
221
一方
(
いつぱう
)
の
手
(
て
)
を
前
(
まへ
)
に
出
(
だ
)
したり
後
(
うしろ
)
へ
引
(
ひ
)
いたり、
222
切
(
しき
)
りに
樵夫
(
きこり
)
が
前挽
(
まへびき
)
をひくやうな
事
(
こと
)
をやつてゐる。
223
……ハテ
怪体
(
けたい
)
な
奴
(
やつ
)
が
出
(
で
)
やがつた。
224
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けたと
思
(
おも
)
へば
暗
(
くら
)
くなつて
来
(
く
)
る。
225
そこへ
川
(
かは
)
に
臨
(
のぞ
)
んで
婆
(
ばば
)
アが
妙
(
めう
)
な
手
(
て
)
つきをして
体
(
からだ
)
を
揺
(
ゆす
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
226
此奴
(
こいつ
)
ア、
227
ヒヨツとしたら
稲荷山
(
いなりやま
)
の
峰
(
みね
)
つづきだから、
228
奴狐
(
どぎつね
)
がだましてゐるのかも
知
(
し
)
れぬ。
229
心
(
こころ
)
よわくては
駄目
(
だめ
)
だ……と
俄
(
にはか
)
に
空元気
(
からげんき
)
を
出
(
だ
)
し、
230
婆
(
ばば
)
アの
近
(
ちか
)
くによつて、
231
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
の
声
(
こゑ
)
で、
232
喜楽
『コラツ!』
233
と
呶鳴
(
どな
)
つて
見
(
み
)
た。
234
婆
(
ばば
)
アは
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて、
235
折角
(
せつかく
)
発動
(
はつどう
)
してゐた
手
(
て
)
をピタリと
止
(
や
)
め、
236
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
めて、
237
婆
(
ばば
)
『ハーイ、
238
どなたか
知
(
し
)
りませぬが、
239
何
(
なに
)
か
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しましたかな。
240
妾
(
わたし
)
は
樽幸
(
たるかう
)
の
稲荷
(
いなり
)
さまに
信心
(
しんじん
)
して
居
(
を
)
りまして、
241
御
(
お
)
台
(
だい
)
さまから
神
(
かみ
)
うつりの
伝授
(
でんじゆ
)
を
受
(
う
)
け、
242
今日
(
けふ
)
で
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
許
(
ばか
)
り
毎晩
(
まいばん
)
此処
(
ここ
)
へ
修業
(
しうげふ
)
に
来
(
き
)
て
居
(
を
)
ります。
243
おかげで
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
丈
(
だけ
)
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
御
(
お
)
手
(
て
)
うつりが
出来出
(
できだ
)
しました。
244
モウ
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
すれば
又
(
また
)
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
に
御
(
お
)
手
(
て
)
うつりがあり、
245
それから
胴
(
どう
)
うつり、
246
頭
(
あたま
)
にうつり、
247
御
(
お
)
口
(
くち
)
が
切
(
き
)
れるのが、
248
マアマアザツと
之
(
これ
)
から
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
の
修業
(
しうげふ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
249
お
前
(
まへ
)
さまは
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
評判
(
ひやうばん
)
の
高
(
たか
)
い、
250
穴太
(
あなを
)
の
天狗
(
てんぐ
)
さまぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか』
251
喜楽
(
きらく
)
『お
婆
(
ばあ
)
サン、
252
そんな
年寄
(
としよ
)
りがこれから
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
も
修行
(
しうぎやう
)
して
居
(
を
)
つたら、
253
口
(
くち
)
の
切
(
き
)
れるのと
死
(
し
)
ぬのと
一時
(
いつとき
)
になるぢやないか。
254
モツと
早
(
はや
)
う
口
(
くち
)
の
切
(
き
)
れるやうにして
上
(
あ
)
げようか。
255
私
(
わたし
)
が
修業
(
しうげふ
)
さしたら、
256
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
にはキツと
口
(
くち
)
を
切
(
き
)
つて
上
(
あ
)
げる』
257
婆
(
ばば
)
『ハヽヽヽヽさうかが
易
(
やす
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
憑
(
うつ
)
つたり、
258
口
(
くち
)
が
切
(
き
)
れるやうな
事
(
こと
)
なら、
259
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
もこんな
永
(
なが
)
い
修行
(
しうぎやう
)
は
致
(
いた
)
しませぬワイナ。
260
早
(
はや
)
う
口
(
くち
)
の
切
(
き
)
れるやうな
神
(
かみ
)
は
碌
(
ろく
)
なものぢやありませぬ。
261
どうで
狐
(
きつね
)
か
狸
(
たぬき
)
でせう』
262
と
自分
(
じぶん
)
が
豆狸
(
まめだぬき
)
にうつられて
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
ら、
263
狐狸
(
こり
)
をくさしてゐる
其
(
その
)
可笑
(
をか
)
しさ。
264
肥持
(
こえも
)
ちが
糞
(
くそ
)
の
臭
(
にほひ
)
を
知
(
し
)
らぬのと
同
(
おな
)
じやうなものだなアと
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
265
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
らうとすると、
266
婆
(
ば
)
アサンは
又
(
また
)
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
樵夫
(
きこり
)
が
木
(
き
)
をひくやうに
動
(
うご
)
かせ
乍
(
なが
)
ら、
267
腰
(
こし
)
をキヨクン キヨクンと
揺
(
ゆ
)
り
動
(
うご
)
かし、
268
動
(
うご
)
かぬ
方
(
はう
)
の
手
(
て
)
をニユツと
前
(
まへ
)
に
出
(
だ
)
し、
269
婆
(
ばば
)
『コレもし、
270
穴太
(
あなを
)
の
天狗
(
てんぐ
)
さま、
271
どうで
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりますが、
272
一遍
(
いつぺん
)
樽幸
(
たるかう
)
の
稲荷
(
いなり
)
さまに
伺
(
うかが
)
うた
上
(
うへ
)
頼
(
たの
)
みますワ。
273
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
西町
(
にしまち
)
の
御
(
お
)
台
(
だい
)
さまが、
274
樽幸
(
たるかう
)
の
稲荷
(
いなり
)
さまの
弟子
(
でし
)
で
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
ら、
275
余部
(
あまるべ
)
の
稲荷
(
いなり
)
さまの
方
(
はう
)
へ
肩替
(
かたがへ
)
しやはつたら、
276
其
(
その
)
罰
(
ばち
)
で
死
(
し
)
なはりました。
277
昨日
(
きのふ
)
葬式
(
さうしき
)
がありました。
278
神
(
かみ
)
さまの
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そん
)
ずると
恐
(
おそ
)
ろしいから、
279
とつくり
樽幸
(
たるかう
)
の
稲荷
(
いなり
)
さまに
伺
(
うかが
)
うた
上
(
うへ
)
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりますワ』
280
喜楽
(
きらく
)
『
樽幸
(
たるかう
)
の
稲荷
(
いなり
)
さまはキツと
反対
(
はんたい
)
するにきまつてゐる。
281
此方
(
こちら
)
は
天狗
(
てんぐ
)
さま、
282
そちらは
黒
(
くろ
)
サンだからなア』
283
婆
(
ばば
)
『コレコレ、
284
何
(
なん
)
といふ
勿体
(
もつたい
)
ない
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
285
あの
神
(
かみ
)
さまは
正一位
(
しやういちゐ
)
天狐
(
てんこ
)
御剣
(
みつるぎ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
さまだ。
286
一
(
いち
)
の
峰
(
みね
)
に
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
遊
(
あそ
)
ばすお
山
(
やま
)
一
(
いち
)
の
御
(
ご
)
守護神
(
しゆごじん
)
さま。
287
勿体
(
もつたい
)
ない、
288
黒
(
くろ
)
サンぢやなどと、
289
狸
(
たぬき
)
にして
了
(
しま
)
うとは、
290
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
りますぞえ。
291
そんな
御
(
お
)
方
(
かた
)
に
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
にならうものなら、
292
どんな
事
(
こと
)
が
起
(
おこ
)
るか
知
(
し
)
れませぬ。
293
モウ
是
(
これ
)
ぎりお
前
(
まへ
)
さまも
妾
(
わたし
)
の
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れて
下
(
くだ
)
さい、
294
妾
(
わたし
)
も
忘
(
わす
)
れます。
295
妙
(
めう
)
な
因縁
(
いんねん
)
の
綱
(
つな
)
がからまると
互
(
たがひ
)
に
迷惑
(
めいわく
)
しますからなア。
296
六根
(
ろくこん
)
清浄
(
せいじやう
)
六根
(
ろくこん
)
清浄
(
せいじやう
)
南無
(
なむ
)
妙法
(
めうはふ
)
蓮華経
(
れんげきやう
)
……』
297
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
唱
(
とな
)
へ
始
(
はじ
)
めた。
298
喜楽
(
きらく
)
はここを
見捨
(
みす
)
てて
二町
(
にちやう
)
許
(
ばか
)
り
上手
(
かみて
)
の
東向
(
ひがしむ
)
きの
滝
(
たき
)
へ
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
ると、
299
いつも
余
(
あま
)
り
太
(
ふと
)
くない
滝
(
たき
)
が
一丈
(
いちぢやう
)
程
(
ほど
)
落
(
お
)
ちて
居
(
ゐ
)
るのに、
300
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
如何
(
どう
)
したものか、
301
五六間
(
ごろくけん
)
こつちから
滝
(
たき
)
を
見
(
み
)
ると、
302
真白
(
まつしろ
)
けの
者
(
もの
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
303
朧月夜
(
おぼろづきよ
)
にすかし
乍
(
なが
)
ら、
304
滝壺
(
たきつぼ
)
の
前
(
まへ
)
まで
近
(
ちか
)
よつて
見
(
み
)
ると、
305
二十
(
にじふ
)
五六
(
ごろく
)
の
女
(
をんな
)
が
白衣
(
びやくい
)
をつけて
髪
(
かみ
)
をふり
乱
(
みだ
)
し、
306
滝
(
たき
)
にかかつてゐる。
307
喜楽
(
きらく
)
は
神憑
(
かむがか
)
りと
見
(
み
)
て
取
(
と
)
り、
308
喜楽
(
きらく
)
『
何神
(
なにがみ
)
さまで
御座
(
ござ
)
いますか、
309
お
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい』
310
とやつて
見
(
み
)
た。
311
滝
(
たき
)
にかかつた
白衣
(
びやくい
)
の
女
(
をんな
)
は
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
んだまま、
312
頭上
(
づじやう
)
高
(
たか
)
く
差
(
さ
)
し
上
(
あ
)
げ、
313
背伸
(
せの
)
びをし、
314
少
(
すこ
)
しく
反
(
そ
)
り
返
(
かへ
)
つて、
315
女
『
力松
(
りきまつ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
……』
316
と
甲声
(
かんごゑ
)
で
呶鳴
(
どな
)
つた。
317
喜楽
(
きらく
)
『
力松
(
りきまつ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
とは
何処
(
どこ
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
ですか?』
318
女
(
をんな
)
『
稲荷山
(
いなりやま
)
、
319
奥村
(
おくむら
)
大明神
(
だいみやうじん
)
の
御
(
ご
)
眷族
(
けんぞく
)
、
320
力松
(
りきまつ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
だ。
321
此
(
この
)
方
(
はう
)
を
信仰
(
しんかう
)
致
(
いた
)
せば
病気
(
びやうき
)
災難
(
さいなん
)
一切
(
いつさい
)
をのがらしてやるぞよ。
322
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
穴太
(
あなを
)
の
天狗
(
てんぐ
)
であらう。
323
今日
(
けふ
)
で
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
の
修行
(
しうぎやう
)
の
上
(
あが
)
りと
聞
(
き
)
いた
故
(
ゆゑ
)
、
324
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
の
外志
(
げし
)
ハルを、
325
此
(
この
)
方
(
はう
)
が
誘
(
さそ
)
ひ
出
(
だ
)
し、
326
其
(
その
)
方
(
はう
)
に
面会
(
めんくわい
)
させる
為
(
ため
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
つたのだ。
327
随分
(
ずゐぶん
)
途中
(
とちう
)
で
怖
(
こは
)
かつただらうのう』
328
喜楽
(
きらく
)
『
分
(
わか
)
りました、
329
どうぞ
御
(
お
)
引取
(
ひきとり
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
330
女
(
をんな
)
『
引取
(
ひきと
)
れと
申
(
まを
)
さいでも、
331
此
(
この
)
力松
(
りきまつ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
はそちの
心
(
こころ
)
をよく
知
(
し
)
つとるから
引取
(
ひきと
)
るぞよ。
332
ウンウン……』
333
と
云
(
い
)
つたぎり、
334
亀岡
(
かめをか
)
旅籠町
(
はたごちやう
)
の
外志
(
げし
)
ハルと
云
(
い
)
ふ
神憑
(
かむがか
)
りは
正気
(
しやうき
)
に
帰
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
うた。
335
さうかうする
間
(
あひだ
)
に
夜
(
よ
)
はカラリと
明
(
あ
)
け
渡
(
わた
)
つた。
336
二人
(
ふたり
)
はいろいろと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
話
(
はなし
)
をし
乍
(
なが
)
ら
外志
(
げし
)
ハルの
頼
(
たの
)
みに
依
(
よ
)
つて、
337
旅籠町
(
はたごちやう
)
に
廻
(
まは
)
り、
338
夫
(
をつと
)
の
筆吉
(
ふできち
)
といふに
面会
(
めんくわい
)
して、
339
互
(
たがひ
)
に
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
に
助
(
たす
)
け
合
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
を
約
(
やく
)
し、
340
穴太
(
あなを
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
341
(
大正一一・一〇・九
旧八・一九
松村真澄
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