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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
第1章 富士山
第2章 葱節
第3章 破軍星
第4章 素破抜
第5章 松の下
第6章 手料理
第2篇 青垣山内
第7章 五万円
第8章 梟の宵企
第9章 牛の糞
第10章 矢田の滝
第11章 松の嵐
第12章 邪神憑
第3篇 阪丹珍聞
第13章 煙の都
第14章 夜の山路
第15章 盲目鳥
第16章 四郎狸
第17章 狐の尾
第18章 奥野操
第19章 逆襲
第20章 仁志東
第4篇 山青水清
第21章 参綾
第22章 大僧坊
第23章 海老坂
第24章 神助
第25章 妖魅来
霊の礎(九)
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第37巻(子の巻)
> 第1篇 安閑喜楽 > 第6章 手料理
<<< 松の下
(B)
(N)
五万円 >>>
第六章
手料理
(
てれうり
)
〔一〇一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第1篇 安閑喜楽
よみ(新仮名遣い):
あんかんきらく
章:
第6章 手料理
よみ(新仮名遣い):
てりょうり
通し章番号:
1018
口述日:
1922(大正11)年10月08日(旧08月18日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
喜楽の姿が消えたことで、最初は母や兄弟も、女のところへ憂さ晴らしにいったのだろうと思って気にも留めていなかった。しかし二日経っても三日たっても帰ってこないで、そろそろ近所の大騒ぎになってきた。
皆それぞれ、占い師や祈祷師のところに行って、喜楽の行方を探索しようとしていた。七日目の十五日正午前に、喜楽は帰ってきた。
家族は喜び、近所の人々は詰めかけて、喜楽を問い詰めた。自分は神様に連れられて修行に行ってきたのだ、とだけ答えたが、神勅を重んじて後は無言で聞いているのみであった。
飯を食って一日寝たり、父親の墓に参ったりしていたが、十七日の朝から自分の身体はますます変になってきて、四肢は強直し口も舌も動かなくなり、身動きがまったくできないようになってしまった。
家族は医者を呼んだり祈祷師を呼んだり手を尽くしていた。自分は耳だけ鋭敏になり、周りのことはすべて聞こえていた。しかし医者も祈祷師もさっぱり効験がなかった。
次郎松は、狸が憑いているに違いないと言って、青松葉に唐辛子や山椒を混ぜいぶし出そうと準備を始めた。自分はこれでは殺されてしまうと思い、全身の力をこめて起き上がろうとしたが、びくともしない。
次郎松が火鉢に火をおこして唐辛子と青松葉の煙を団扇であおぎこもうとしている刹那、母がそれを止めて嘆願し、母の目から落ちた涙が自分の顔をうるおした。
そのとき上の方から一筋の金色の綱が下がってきた。それを手早く握りしめたと思ったとたん、不思議にも自分の身体は自由自在に活動することができるようになった。一同は歓喜の涙に打たれ、自分も復活したような喜びに満たされた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-18 15:12:28
OBC :
rm3706
愛善世界社版:
72頁
八幡書店版:
第7輯 56頁
修補版:
校定版:
75頁
普及版:
34頁
初版:
ページ備考:
001
喜楽
(
きらく
)
の
姿
(
すがた
)
が、
002
郷
(
ごう
)
神社
(
じんじや
)
前
(
まへ
)
の
喜楽亭
(
きらくてい
)
から
二
(
に
)
月
(
ぐわつ
)
九日
(
ここのか
)
の
夜
(
よる
)
より
見
(
み
)
えなくなつたので、
003
母
(
はは
)
や
兄弟
(
きやうだい
)
は……
大方
(
おほかた
)
女
(
をんな
)
の
所
(
ところ
)
へでも
憂
(
う
)
さ
晴
(
は
)
らしに
遊
(
あそ
)
びに
行
(
い
)
つたのか、
004
但
(
ただし
)
は
亀岡
(
かめをか
)
あたりへ
散財
(
さんざい
)
に
往
(
い
)
つたのだらう……
位
(
くらゐ
)
に
思
(
おも
)
つて
気
(
き
)
にも
留
(
と
)
めなかつた。
005
二日
(
ふつか
)
立
(
た
)
つても
三日
(
みつか
)
立
(
た
)
つても
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないので、
006
ソロソロ
例
(
れい
)
の
次郎松
(
じろまつ
)
、
007
其
(
その
)
西隣
(
にしどなり
)
のお
政
(
まさ
)
後家
(
ごけ
)
を
始
(
はじ
)
め、
008
株内
(
かぶうち
)
近所
(
きんじよ
)
の
大騒
(
おほさわ
)
ぎとなつて
来
(
き
)
た。
009
長吉
(
ちやうきち
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
が、
010
亀岡
(
かめをか
)
の
五軒町
(
ごけんまち
)
の
神籬
(
ひもろぎ
)
教院
(
けうゐん
)
中井
(
なかゐ
)
伝教
(
でんけう
)
といふ
稲荷下
(
いなりさげ
)
の
所
(
ところ
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
して、
011
稲荷
(
いなり
)
大明神
(
だいみやうじん
)
の
託宣
(
たくせん
)
を
請
(
こ
)
ふと、
012
伝教
(
でんけう
)
先生
(
せんせい
)
は
白衣
(
びやくい
)
白袴
(
しろばかま
)
に
烏帽子
(
ゑぼし
)
を
着
(
ちやく
)
し、
013
恭
(
うやうや
)
しく
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
や
六根
(
ろくこん
)
清浄
(
しやうじやう
)
の
祓
(
はらひ
)
、
014
心経
(
しんきやう
)
などを
神仏
(
しんぶつ
)
混交
(
こんかう
)
的
(
てき
)
に
称
(
とな
)
へ
上
(
あ
)
げ、
015
少時
(
しばらく
)
すると
忽
(
たちま
)
ち
神霊
(
しんれい
)
降臨
(
かうりん
)
あり、
016
『
水辺
(
すゐへん
)
に
気
(
き
)
をつけよ、
017
早
(
はや
)
く
捜
(
さが
)
さないと
生命
(
いのち
)
が
危
(
あやふ
)
い、
018
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
は
発狂
(
はつきやう
)
の
気味
(
きみ
)
があるぞよ』
019
との
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
を
得
(
え
)
て、
020
あわてて
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
021
池
(
いけ
)
や
井戸
(
ゐど
)
や
川
(
かは
)
などを
探
(
さが
)
し
廻
(
まは
)
れども、
022
少
(
すこ
)
しの
手係
(
てがか
)
りもなかつた。
023
お
政
(
まさ
)
後家
(
ごけ
)
サンが
株内
(
かぶうち
)
のこととて
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
み、
024
宮前村
(
みやざきむら
)
の
宮川
(
みやかは
)
妙霊
(
めうれい
)
教会所
(
けうくわいしよ
)
へ
参
(
まゐ
)
つて
神宣
(
しんせん
)
を
請
(
こ
)
うた
所
(
ところ
)
、
025
西田
(
にしだ
)
清記
(
せいき
)
といふ
教導職
(
けうだうしよく
)
の
神宣
(
しんせん
)
に
依
(
よ
)
れば、
026
『
言
(
い
)
ひ
交
(
か
)
はした
婦人
(
ふじん
)
と
東
(
ひがし
)
の
方
(
はう
)
へ
向
(
む
)
けて
遠
(
とほ
)
く
駆落
(
かけおち
)
してる。
027
併
(
しか
)
し
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
の
内
(
うち
)
には
葉書
(
はがき
)
が
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るから
安心
(
あんしん
)
せよ』
028
との
滑稽
(
こつけい
)
な
神宣
(
しんせん
)
もあつたさうだ。
029
お
政
(
まさ
)
後家
(
ごけ
)
サンは、
030
又
(
また
)
もや
篠村
(
しのむら
)
新田
(
しんでん
)
の
弘法
(
こうぱう
)
大師
(
だいし
)
を
祀
(
まつ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
立江
(
たつえ
)
のお
地蔵
(
ぢざう
)
さまと
称
(
しよう
)
する
婆
(
ば
)
アさまに
占
(
うらな
)
つて
貰
(
もら
)
うた
所
(
ところ
)
、
031
『
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
は
神
(
かみ
)
かくしに
会
(
あ
)
うたのだ。
032
悪
(
わる
)
い
天狗
(
てんぐ
)
に
魅
(
つま
)
まれたのだから、
033
生命
(
いのち
)
に
別状
(
べつじやう
)
はないが、
034
法外
(
はふはづ
)
れの
大
(
おほ
)
馬鹿者
(
ばかもの
)
か、
035
気違
(
きちがひ
)
になつて、
036
キツと
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
の
後
(
のち
)
には
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るから
安心
(
あんしん
)
せよ』
037
との
託宣
(
たくせん
)
であつたと
云
(
い
)
ふことだ。
038
次郎松
(
じろまつ
)
サンは
亀岡
(
かめをか
)
の
易者
(
えきしや
)
の
所
(
ところ
)
へ
行
(
い
)
つて、
039
判断
(
はんだん
)
をして
貰
(
もら
)
つた
所
(
ところ
)
、
040
『
牧畜場
(
ぼくちくぢやう
)
の
売上金
(
うりあげきん
)
を
一百
(
いつぴやく
)
円
(
ゑん
)
計
(
ばか
)
り
持
(
も
)
つて
出
(
で
)
て
居
(
を
)
るが、
041
此奴
(
こいつ
)
は
外国
(
ぐわいこく
)
へ
行
(
ゆ
)
く
積
(
つも
)
りだ。
042
思
(
おも
)
はぬ
野心
(
やしん
)
を
起
(
お
)
こして、
043
朝鮮
(
てうせん
)
から
満洲
(
まんしう
)
に
渡
(
わた
)
り、
044
馬賊
(
ばぞく
)
の
群
(
むれ
)
に
加
(
くは
)
はる
積
(
つも
)
りだから、
045
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
保護
(
ほご
)
願
(
ねがひ
)
をして、
046
外国
(
ぐわいこく
)
へ
渡
(
わた
)
らないやうにせよ』
047
との
途方
(
とはう
)
もない
判断
(
はんだん
)
であつたと
云
(
い
)
ふことだ。
048
人々
(
ひとびと
)
の
噂
(
うはさ
)
は……
節季前
(
せつきまへ
)
だから、
049
支払
(
しはらひ
)
に
困
(
こま
)
つて
夜
(
よ
)
ぬけをしたのだろ。
050
余
(
あま
)
り
金使
(
かねづか
)
ひが
荒過
(
あらす
)
ぎたから……などと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
る
者
(
もの
)
もあり……○○の
女
(
をんな
)
と
駆落
(
かけおち
)
をしたのだ。
051
イヤ
天狗
(
てんぐ
)
につままれたのだ、
052
発狂
(
はつきやう
)
したのだ、
053
狐狸
(
こり
)
にだまされて
山奥
(
やまおく
)
へつれて
行
(
ゆ
)
かれたのだ。
054
河内屋
(
かはちや
)
の
勘吉
(
かんきち
)
や
若錦
(
わかにしき
)
がこわさに
親
(
おや
)
を
振捨
(
ふりす
)
てて、
055
どつかへ
逃
(
に
)
げたのだ、
056
余程
(
よつぽど
)
不孝
(
ふかう
)
な
奴
(
やつ
)
だ、
057
大
(
おほ
)
馬鹿者
(
ばかもの
)
だ、
058
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だ、
059
腰抜
(
こしぬけ
)
だ……とまちまちに
評議
(
へうぎ
)
の
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
いてゐたといふ
事
(
こと
)
だ。
060
喜楽
(
きらく
)
の
机
(
つくゑ
)
の
上
(
うへ
)
に
残
(
のこ
)
してあつた
一通
(
いつつう
)
の
巻紙
(
まきがみ
)
には、
061
左
(
さ
)
の
如
(
ごと
)
き
歌
(
うた
)
が
記
(
しる
)
されてあつた。
062
『
我
(
われ
)
は
空
(
そら
)
行
(
ゆ
)
く
鳥
(
とり
)
なれや
063
我
(
われ
)
は
空
(
そら
)
行
(
ゆ
)
く
鳥
(
とり
)
なれや
064
遥
(
はるか
)
に
高
(
たか
)
き
雲
(
くも
)
に
乗
(
の
)
り
065
下界
(
げかい
)
の
人
(
ひと
)
が
種々
(
くさぐさ
)
の
066
喜怒
(
きど
)
哀楽
(
あいらく
)
に
囚
(
とら
)
はれて
067
身振
(
みぶり
)
足
(
あし
)
ぶりするさまを
068
われを
忘
(
わす
)
れて
眺
(
なが
)
むなり
069
げに
面白
(
おもしろ
)
の
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
や
070
されども
余
(
あま
)
り
興
(
きよう
)
に
乗
(
の
)
り
071
地上
(
ちじやう
)
に
落
(
お
)
つることもがな
072
御神
(
みかみ
)
よ
我
(
わ
)
れと
共
(
とも
)
にあれ』
073
と
毛筆
(
まうひつ
)
で
認
(
したた
)
めてある。
074
何
(
なん
)
の
意味
(
いみ
)
だか
誰
(
たれ
)
も
知
(
し
)
る
者
(
もの
)
はなかつた。
075
七日目
(
なぬかめ
)
の
如月
(
きさらぎ
)
十五
(
じふご
)
日
(
にち
)
正午前
(
しやうごまへ
)
、
076
宮垣内
(
みやがいち
)
の
伏屋
(
ふせや
)
へ
問題
(
もんだい
)
の
男
(
をとこ
)
喜楽
(
きらく
)
は
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
077
家族
(
かぞく
)
の
歓喜
(
くわんき
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
なり、
078
株内
(
かぶうち
)
近所
(
きんじよ
)
の
人々
(
ひとびと
)
が、
079
帰
(
かへ
)
つたと
聞
(
き
)
いて
追々
(
おひおひ
)
つめかけて
来
(
く
)
る。
080
死
(
し
)
んだ
者
(
もの
)
が
冥途
(
めいど
)
から
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た
様
(
やう
)
に
珍
(
めづら
)
しがつて、
081
『コレ
喜楽
(
きらく
)
サン、
082
お
前
(
まへ
)
はどこへ
行
(
い
)
つて
来
(
き
)
たのだ、
083
どこで
何
(
なに
)
をして
居
(
を
)
つたのだ、
084
お
前
(
まへ
)
の
不在中
(
ふざいちゆう
)
の
心配
(
しんぱい
)
は
大抵
(
たいてい
)
のことでなかつた』
085
とウルさい
程
(
ほど
)
質問
(
しつもん
)
の
矢
(
や
)
を
放
(
はな
)
つて
来
(
く
)
る。
086
一々
(
いちいち
)
応答
(
おうたふ
)
してる
日
(
ひ
)
には
際限
(
さいげん
)
がない。
087
自分
(
じぶん
)
も
何
(
なん
)
だか
恥
(
はづ
)
かしくなつて
来
(
き
)
たので、
088
喜楽
『
神
(
かみ
)
さまにつれられて、
089
一寸
(
ちよつと
)
修業
(
しうげふ
)
に
往
(
い
)
つて
来
(
き
)
ました。
090
何
(
なん
)
でも
神界
(
しんかい
)
に
大望
(
たいまう
)
があるさうなので……』
091
と
云
(
い
)
つたきり、
092
あとは
無言
(
むごん
)
でゐると、
093
例
(
れい
)
の
次郎松
(
じろまつ
)
サンは
口
(
くち
)
をとがらして
揚面
(
あげつら
)
をしながら、
094
次郎松
『ヘン、
095
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
096
皆
(
みな
)
サン、
097
眉毛
(
まゆげ
)
に
唾
(
つば
)
でもつけて
居
(
を
)
らぬと、
098
堺峠
(
さかひたうげ
)
のお
紋狐
(
もんぎつね
)
につままれますぞ。
099
田芋
(
たいも
)
か
山
(
やま
)
の
芋
(
いも
)
か、
100
蒟蒻
(
こんにやく
)
か
瓢箪
(
へうたん
)
か
知
(
し
)
らぬが、
101
余程
(
よつぽど
)
安閑坊
(
あんかんばう
)
……ぢやない
安本丹
(
あんぽんたん
)
だ。
102
そんなこと
云
(
い
)
つてゴマかさうと
思
(
おも
)
うても、
103
此
(
この
)
松
(
まつ
)
サンの
黒
(
くろ
)
い
目
(
め
)
で
一目
(
ひとめ
)
睨
(
にら
)
んだら、
104
イツカナ イツカナ
外
(
はづ
)
れはせぬぞ、
105
アハヽヽヽ、
106
なまけ
息子
(
むすこ
)
の
俄狂言
(
にはかきやうげん
)
もモウ
駄目
(
だめ
)
だぞよ。
107
こんな
奴
(
やつ
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
を
)
るとしまひのはてにや
尻
(
しり
)
の
毛
(
け
)
までぬかれて
了
(
しま
)
ふ。
108
険呑
(
けんのん
)
だ
険呑
(
けんのん
)
だ、
109
皆
(
みな
)
サン
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けなさい』
110
と
面
(
つら
)
を
膨
(
ふく
)
らし、
111
半
(
なかば
)
破
(
やぶ
)
れた
畳
(
たたみ
)
を
蹴
(
け
)
つて
足
(
あし
)
をひつかけ
乍
(
なが
)
ら、
112
スタスタと
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
113
それから
代
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
親切屋
(
しんせつや
)
が、
114
何
(
なん
)
とかカンとか
云
(
い
)
つて
忠告
(
ちうこく
)
や
意見
(
いけん
)
をしてくれる。
115
自分
(
じぶん
)
は
神勅
(
しんちよく
)
を
重
(
おも
)
んじ、
116
無言
(
むごん
)
で
聞
(
き
)
いてゐる
許
(
ばか
)
りであつた。
117
又
(
また
)
何程
(
なにほど
)
弁解
(
べんかい
)
してみた
所
(
ところ
)
で、
118
神
(
かみ
)
さまの
御用
(
ごよう
)
で
行
(
い
)
つたなどと
説
(
と
)
いても
駄目
(
だめ
)
だからである。
119
俄
(
にはか
)
に
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
が
空虚
(
くうきよ
)
を
訴
(
うつた
)
へる。
120
自
(
みづか
)
ら
膳
(
ぜん
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
121
冷
(
つめた
)
い
麦飯
(
むぎめし
)
を
二杯
(
にはい
)
許
(
ばか
)
り
矢庭
(
やには
)
にかき
込
(
こ
)
んでみた。
122
実
(
じつ
)
に
山海
(
さんかい
)
の
珍味
(
ちんみ
)
にまさる
心持
(
こころもち
)
がした。
123
堤防
(
ていばう
)
の
決潰
(
けつくわい
)
したが
如
(
ごと
)
き
勢
(
いきほひ
)
で
睡気
(
ねむけ
)
が
襲
(
おそ
)
うて
来
(
き
)
た……ねむたい
時
(
とき
)
には
馬
(
うま
)
に
五十駄
(
ごじふだ
)
の
金
(
かね
)
もいや……といふ
俗謡
(
ぞくえう
)
の
文句
(
もんく
)
の
通
(
とほ
)
り、
124
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
の
執着
(
しふちやく
)
にはなれ、
125
其
(
その
)
まま
暗
(
くら
)
い
部屋
(
へや
)
の
破畳
(
やぶれだたみ
)
の
真中
(
まんなか
)
にゴロリと
横
(
よこ
)
たはつた
儘
(
まま
)
、
126
後
(
あと
)
は
暫
(
しばら
)
く
白河
(
しらかは
)
夜舟
(
よふね
)
で
再
(
ふたた
)
び
天国
(
てんごく
)
をさまようてゐた。
127
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
の
楽
(
たの
)
しさは、
128
後
(
あと
)
にも
先
(
さき
)
にもなき
有様
(
ありさま
)
であつた。
129
十六
(
じふろく
)
日
(
にち
)
の
午後
(
ごご
)
二
(
に
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
になつて、
130
漸
(
やうや
)
く
目
(
め
)
がさめて
来
(
き
)
た。
131
枕許
(
まくらもと
)
には
依然
(
いぜん
)
として
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
男女
(
だんぢよ
)
が
見舞
(
みまひ
)
に
来
(
き
)
て、
132
いろいろの
噂
(
うはさ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
133
介抱
(
かいほう
)
してゐた。
134
目
(
め
)
がさめて
見
(
み
)
ると
随分
(
ずゐぶん
)
きまりが
悪
(
わる
)
い。
135
忽
(
たちま
)
ち
産土
(
うぶすな
)
の
小幡
(
をばた
)
神社
(
じんじや
)
へ
無我
(
むが
)
夢中
(
むちう
)
になつて
参詣
(
さんけい
)
し、
136
其
(
その
)
足
(
あし
)
で
山伝
(
やまづた
)
ひに、
137
父
(
ちち
)
の
墳墓
(
ふんぼ
)
へ
小松
(
こまつ
)
を
根曳
(
ねび
)
きして
供
(
そな
)
へに
行
(
い
)
つた。
138
後
(
あと
)
から
見
(
み
)
えがくれについて
来
(
き
)
たのは、
139
南隣
(
みなみとなり
)
の
八田
(
はちた
)
繁吉
(
しげきち
)
といふ
三十
(
さんじふ
)
男
(
をとこ
)
であつた。
140
日
(
ひ
)
のズツポリ
西山
(
せいざん
)
に
沈
(
しづ
)
んだ
頃
(
ころ
)
、
141
重
(
おも
)
い
足
(
あし
)
を
引
(
ひき
)
ずつて
不安
(
ふあん
)
の
顔色
(
かほいろ
)
をし
乍
(
なが
)
ら
伏家
(
ふせや
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
142
次郎松
(
じろまつ
)
サンやお
政
(
まさ
)
後家
(
ごけ
)
がウルさい
程
(
ほど
)
つめかけて、
143
いろいろと
聞糺
(
ききただ
)
さうとする、
144
自分
(
じぶん
)
は
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
にふつて、
145
何
(
なん
)
にも
答
(
こた
)
へなかつた。
146
翌
(
よく
)
十七
(
じふしち
)
日
(
にち
)
の
早朝
(
さうてう
)
から、
147
自分
(
じぶん
)
の
体
(
からだ
)
は
益々
(
ますます
)
変
(
へん
)
になつて
来
(
き
)
た。
148
催眠術
(
さいみんじゆつ
)
でもかけられた
様
(
やう
)
に、
149
四肢
(
しこ
)
より
強直
(
きやうちよく
)
を
始
(
はじ
)
め、
150
次
(
つ
)
いで
口
(
くち
)
も
舌
(
した
)
もコワばつて
動
(
うご
)
かなくなつた。
151
最早
(
もはや
)
一言
(
ひとこと
)
も
口
(
くち
)
を
利
(
き
)
くことも、
152
一寸
(
ちよつと
)
の
身動
(
みうご
)
きをすることも
出来
(
でき
)
ぬ、
153
生
(
い
)
きた
死骸
(
しがい
)
の
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
つた。
154
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
耳
(
みみ
)
丈
(
だけ
)
は
人々
(
ひとびと
)
の
話声
(
はなしごゑ
)
がよく
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
155
懐中
(
くわいちう
)
時計
(
どけい
)
の
針
(
はり
)
の
音
(
おと
)
までが
聞
(
きこ
)
える
位
(
くらゐ
)
、
156
耳
(
みみ
)
丈
(
だけ
)
鋭敏
(
えいびん
)
になつて
居
(
ゐ
)
た。
157
家族
(
かぞく
)
や
株内
(
かぶうち
)
の
者
(
もの
)
がよつてたかつて、
158
いろいろと
撫
(
な
)
でたりさすつたり、
159
やいと
を
灸
(
す
)
えたりしてゐる。
160
『
今日
(
けふ
)
で
三日
(
みつか
)
ぶり、
161
鱶
(
ふか
)
の
様
(
やう
)
によう
寝
(
ね
)
た
者
(
もの
)
だ、
162
よほどくたぶれたと
見
(
み
)
える。
163
自然
(
しぜん
)
に
目
(
め
)
のさめる
迄
(
まで
)
寝
(
ね
)
さしておくがよからう……』
164
と
一座
(
いちざ
)
の
相談
(
さうだん
)
がまとまつたのが
自分
(
じぶん
)
の
耳
(
みみ
)
にはハツキリと
分
(
わか
)
つてゐた。
165
四日
(
よつか
)
たつてもビクとも
体
(
からだ
)
が
動
(
うご
)
かぬ、
166
眠
(
ねむり
)
からさめぬ。
167
家族
(
かぞく
)
や
株内
(
かぶうち
)
の
人々
(
ひとびと
)
は、
168
忽
(
たちま
)
ち
不審
(
ふしん
)
の
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれて、
169
俄
(
にはか
)
に
慌出
(
あわてだ
)
した。
170
……『モウ
駄目
(
だめ
)
だ、
171
お
参
(
まゐ
)
りだ、
172
用意
(
ようい
)
せなくてはならぬ……』
173
と
松
(
まつ
)
サンの
言
(
い
)
つた
詞
(
ことば
)
が
瞬
(
またた
)
く
間
(
ま
)
に
拡
(
ひろ
)
がつて、
174
見舞客
(
みまひきやく
)
の
山
(
やま
)
を
築
(
きづ
)
いた。
175
誰
(
たれ
)
が
頼
(
たの
)
んで
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
か、
176
お
医者
(
いしや
)
さまの
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
177
自分
(
じぶん
)
は
医者
(
いしや
)
が
来
(
き
)
よつたなと
思
(
おも
)
うてゐると、
178
柿花
(
かきはな
)
の
名医
(
めいい
)
で
吉岡
(
よしをか
)
某
(
ぼう
)
といふ
先生
(
せんせい
)
、
179
叮嚀
(
ていねい
)
に
脈
(
みやく
)
をとる、
180
熱
(
ねつ
)
を
計
(
はか
)
る、
181
打診
(
だしん
)
、
182
聴診
(
ちやうしん
)
、
183
望診
(
ばうしん
)
、
184
問診
(
もんしん
)
、
185
触診
(
しよくしん
)
と、
186
非常
(
ひじやう
)
の
丹精
(
たんせい
)
をこらし、
187
吉岡医師
『
実
(
じつ
)
に
大変
(
たいへん
)
な
痙攣
(
けいれん
)
です。
188
此
(
この
)
強直
(
きやうちよく
)
状態
(
じやうたい
)
が
此
(
この
)
儘
(
まま
)
で
今晩
(
こんばん
)
の
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
まで
持続
(
ぢぞく
)
すれば、
189
最早
(
もはや
)
駄目
(
だめ
)
です。
190
体温
(
たいおん
)
は
存
(
ぞん
)
して
居
(
を
)
りますから
死
(
し
)
んだのではない、
191
つまり
仮死
(
かし
)
状態
(
じやうたい
)
とでも
云
(
い
)
ふのでせう。
192
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
不思議
(
ふしぎ
)
な
病気
(
びやうき
)
です』
193
と
頻
(
しき
)
りに
首
(
くび
)
を
振
(
ふつ
)
てゐる
様子
(
やうす
)
であつた。
194
自分
(
じぶん
)
は
病気
(
びやうき
)
でも
何
(
なん
)
でもありません、
195
神界
(
しんかい
)
の
修業
(
しうげふ
)
ですと
云
(
い
)
つて、
196
ガワとはね
起
(
お
)
き、
197
皆
(
みな
)
の
分
(
わか
)
らずやを
驚
(
おどろ
)
かしてやらうと
思
(
おも
)
うて、
198
全身
(
ぜんしん
)
の
根力
(
こんりき
)
をこめてきばつて
見
(
み
)
たが、
199
ヤツパリ
体
(
からだ
)
はビクとも
動
(
うご
)
かない、
200
口
(
くち
)
もきくことが
出来
(
でき
)
なかつた。
201
お
医者
(
いしや
)
さんの
靴
(
くつ
)
の
足音
(
あしおと
)
が
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
自分
(
じぶん
)
の
耳
(
みみ
)
に
遠
(
とほ
)
く
響
(
ひび
)
いて
来
(
き
)
た。
202
これで
医者
(
いしや
)
の
帰
(
かへ
)
つたのだと
感
(
かん
)
じられた。
203
転輪王
(
てんりんわう
)
明誠
(
みやうせい
)
教会所
(
けうくわいしよ
)
の
斎藤
(
さいとう
)
といふ
先生
(
せんせい
)
が、
204
二人
(
ふたり
)
の
弟子
(
でし
)
と
共
(
とも
)
に、
205
誰
(
たれ
)
が
頼
(
たの
)
んだ
者
(
もの
)
か
祈祷
(
きたう
)
の
為
(
ため
)
にやつて
来
(
き
)
た。
206
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
も
神言
(
かみごと
)
も
上
(
あ
)
げず、
207
直
(
ただち
)
に
拍子木
(
へうしぎ
)
をカチカチと
打
(
う
)
ち、
208
『
悪
(
あし
)
きを
払
(
はら
)
うて
助
(
たす
)
け
玉
(
たま
)
へ
転輪王
(
てんりんわう
)
の
命
(
みこと
)
、
209
一列
(
いちれつ
)
すまして
甘露台
(
かんろだい
)
、
210
一寸
(
ちよいと
)
はなし、
211
神
(
かみ
)
のいふこと
聞
(
き
)
いてくれ、
212
悪
(
あし
)
きの
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はぬでな、
213
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
地
(
ち
)
と
天
(
てん
)
とを
形取
(
かたど
)
りて
夫婦
(
ふうふ
)
を
拵
(
こしら
)
へ
来
(
きた
)
るでな、
214
これが
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
始
(
はじ
)
めだし』
215
と
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
216
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
217
日
(
ひ
)
の
丸
(
まる
)
の
扇
(
あふぎ
)
を
開
(
ひら
)
いて
拍子木
(
へうしぎ
)
をカチカチ
叩
(
たた
)
き
囃
(
はや
)
し
立
(
た
)
てる。
218
祈
(
いの
)
つてゐるのか、
219
踊
(
をど
)
つてゐるのか、
220
チツとも
見当
(
けんたう
)
がつかない。
221
随分
(
ずゐぶん
)
騒
(
さわ
)
がしい
宗教
(
しうけう
)
だなア……と
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
222
斎藤
(
さいとう
)
先生
(
せんせい
)
は
諄々
(
じゆんじゆん
)
として、
223
十柱
(
とはしら
)
の
神
(
かみ
)
さまの
身
(
み
)
の
内
(
うち
)
話
(
ばなし
)
を
説
(
と
)
いた
末
(
すゑ
)
、
224
斎藤
『
此
(
この
)
病人
(
びやうにん
)
サンは
全
(
まつた
)
く
天
(
てん
)
の
理
(
り
)
が
吹
(
ふ
)
いたのだから、
225
一心
(
いつしん
)
に
天
(
てん
)
十柱
(
とはしら
)
の
神
(
かみ
)
さまを
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひなされ』
226
と
親切
(
しんせつ
)
にくり
返
(
かへ
)
しくり
返
(
かへ
)
し
説
(
と
)
きさとし
乍
(
なが
)
ら、
227
斎藤
『
又
(
また
)
明日
(
みやうにち
)
伺
(
うかが
)
ひます』
228
と
言葉
(
ことば
)
を
残
(
のこ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
229
家内
(
かない
)
や
株内
(
かぶうち
)
の
者
(
もの
)
が
感謝
(
かんしや
)
して
居
(
ゐ
)
る
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
た。
230
法華経
(
ほつけきやう
)
信者
(
しんじや
)
のお
睦
(
むつ
)
婆
(
ば
)
アサンが
親切
(
しんせつ
)
に
尋
(
たづ
)
ねに
来
(
き
)
た。
231
そして『お
題目
(
だいもく
)
が
有難
(
ありがた
)
いから』と
云
(
い
)
つて
喧
(
やかま
)
しう『
南無
(
なむ
)
妙法
(
めうはふ
)
蓮華経
(
れんげきやう
)
』を
幾十回
(
いくじつくわい
)
となく
珠数
(
じゆず
)
を
揉
(
もみ
)
乍
(
なが
)
ら、
232
繰返
(
くりかへ
)
し
称
(
とな
)
へてゐる。
233
そして
頭
(
あたま
)
、
234
顔
(
かほ
)
、
235
手足
(
てあし
)
のきらひなく、
236
珠数
(
じゆず
)
で
打
(
う
)
つ、
237
こする、
238
撫
(
な
)
でる、
239
しまひの
果
(
はて
)
には、
240
お
睦
(
むつ
)
婆
(
ば
)
アサン、
241
妙
(
めう
)
なことを
言
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
した。
242
お睦
『コレ、
243
お
狐
(
きつね
)
さまか
黒
(
くろ
)
さまか
知
(
し
)
らぬが、
244
お
前
(
まへ
)
さま
一体
(
いつたい
)
何
(
なに
)
が
不足
(
ふそく
)
で、
245
ここの
喜楽
(
きらく
)
に
憑
(
つ
)
きなさつたのだえ。
246
お
不足
(
ふそく
)
があるならば
遠慮
(
ゑんりよ
)
なしに、
247
トツトと
仰有
(
おつしや
)
れ。
248
小豆飯
(
あづきめし
)
か
揚豆腐
(
あげとうふ
)
か、
249
鼠
(
ねずみ
)
の
油揚
(
あぶらあげ
)
が
欲
(
ほ
)
しいのか、
250
何
(
な
)
ンなつと
注文
(
ちうもん
)
次第
(
しだい
)
拵
(
こしら
)
へて
上
(
あ
)
げませうから、
251
それを
喰
(
く
)
つて、
252
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
う
肉体
(
にくたい
)
を
残
(
のこ
)
して
山
(
やま
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
253
渋
(
しぶ
)
とうなさると、
254
お
題目
(
だいもく
)
で
責
(
せめ
)
ますぞや』
255
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
256
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
珠数
(
じゆず
)
で
脇
(
わき
)
の
下
(
した
)
の
肋骨
(
あばらぼね
)
をガリガリ
言
(
い
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
257
コスリつけるのであつた。
258
自分
(
じぶん
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
で……
馬鹿者
(
ばかもの
)
が
寄
(
よ
)
つてたかつて、
259
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にしやがる……と
憤慨
(
ふんがい
)
してゐた。
260
二十三
(
にじふさん
)
日
(
にち
)
の
早朝
(
さうてう
)
、
261
京都
(
きやうと
)
の
誓願寺
(
せいぐわんじ
)
の
祈願僧
(
きぐわんそう
)
が
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た。
262
溺
(
おぼ
)
るる
者
(
もの
)
はわらしべ
一本
(
いつぽん
)
にもたよらうとする
諺
(
ことわざ
)
の
如
(
ごと
)
く、
263
何
(
なん
)
でもかでも
助
(
たす
)
けてやらうと
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
さへあらば、
264
無暗
(
むやみ
)
矢鱈
(
やたら
)
に
引張
(
ひつぱり
)
込
(
こ
)
んで
来
(
く
)
る。
265
此
(
この
)
祈祷僧
(
きたうそう
)
は
皺枯
(
しわが
)
れた
声
(
こゑ
)
で『
南無
(
なむ
)
妙法
(
めうはふ
)
蓮華経
(
れんげきやう
)
』と
幾回
(
いくくわい
)
もくり
返
(
かへ
)
し
次
(
つぎ
)
に
心経
(
しんきやう
)
を
二三回
(
にさんくわい
)
許
(
ばか
)
り
唱
(
とな
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
266
一人
(
ひとり
)
で
拍子木
(
へうしぎ
)
を
叩
(
たた
)
く、
267
太鼓
(
たいこ
)
をうつ、
268
まだ
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
鐘
(
かね
)
を
叩
(
たた
)
く、
269
汗
(
あせ
)
みどろになつて
勤行
(
ごんぎやう
)
する、
270
其
(
その
)
熱心
(
ねつしん
)
さ
実
(
じつ
)
に
感謝
(
かんしや
)
に
価
(
あたひ
)
すると
思
(
おも
)
うた。
271
併
(
しか
)
し
自分
(
じぶん
)
の
耳
(
みみ
)
がつんぼになり
相
(
さう
)
であつた。
272
これ
程
(
ほど
)
喧
(
やかま
)
しう
騒
(
さわ
)
がねば
聞
(
きこ
)
えぬとは、
273
余程
(
よほど
)
耳
(
みみ
)
の
遠
(
とほ
)
い
仏
(
ほとけ
)
さまだなア……と
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
で
可笑
(
おか
)
しくて
堪
(
たま
)
らなかつた。
274
拍子木
(
へうしぎ
)
打
(
う
)
ち
太鼓
(
たいこ
)
鐘
(
かね
)
叩
(
たた
)
き
経
(
きやう
)
を
読
(
よ
)
む
275
法華
(
ほつけ
)
坊主
(
ばうず
)
の
芸
(
げい
)
の
多
(
おほ
)
さよ
276
此
(
この
)
坊
(
ばう
)
サン
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
声
(
こゑ
)
がかすれ
出
(
だ
)
し、
277
御幣
(
ごへい
)
を
手
(
て
)
に
持
(
も
)
ち、
278
又
(
また
)
もや「
高天原
(
たかあまはら
)
」に「
六根
(
ろくこん
)
清浄
(
しやうじやう
)
」の
祓
(
はらひ
)
を
上
(
あ
)
げる。
279
俄
(
にはか
)
に
彼
(
かれ
)
の
身体
(
しんたい
)
はドスーンドスーンと
上下
(
じやうか
)
に
震動
(
しんどう
)
し、
280
稲荷下
(
いなりさ
)
げのやうな
事
(
こと
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
281
そして
狭
(
せま
)
い
部屋中
(
へやぢう
)
をグルリグルリところげまはり『ウンウン』と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
座
(
ざ
)
に
直
(
なほ
)
り
大声
(
おほごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
282
(坊主に懸かった霊)
『われこそは
妙見山
(
めうけんやま
)
の
新滝
(
しんたき
)
に
守護
(
しゆご
)
いたす、
283
正一位
(
しやういちゐ
)
天狐
(
てんこ
)
恒富
(
つねとみ
)
稲荷
(
いなり
)
大明神
(
だいみやうじん
)
なり、
284
伺
(
うかが
)
ひの
筋
(
すぢ
)
あらば
近
(
ちか
)
うよつて
願
(
ねが
)
へツ』
285
との
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
であつた。
286
一座
(
いちざ
)
の
者
(
もの
)
は
低頭
(
ていとう
)
平身
(
へいしん
)
、
287
息
(
いき
)
をこらして
畏
(
かしこ
)
まつてゐる。
288
次郎松
(
じろまつ
)
サンは
容
(
かたち
)
を
改
(
あらた
)
め
両手
(
りやうて
)
をついて、
289
次郎松
『
有難
(
ありがた
)
き
恒富
(
つねとみ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
さまに
御
(
お
)
伺
(
うかが
)
ひ
致
(
いた
)
しますが、
290
一体
(
いつたい
)
これは
何者
(
なにもの
)
の
仕業
(
しわざ
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
291
どうぞ
御
(
お
)
知
(
し
)
らせを
願
(
ねが
)
ひます』
292
恒富
(
つねとみ
)
『これは
今
(
いま
)
より
三十
(
さんじふ
)
年前
(
ねんぜん
)
、
293
此
(
この
)
家
(
や
)
の
株内
(
かぶうち
)
に
与三郎
(
よさぶろう
)
といふ
男
(
をとこ
)
があつたであらう。
294
其
(
その
)
男
(
をとこ
)
に
狸
(
たぬき
)
が
憑
(
つ
)
いた。
295
此
(
この
)
家
(
や
)
の
者
(
もの
)
、
296
其
(
その
)
外
(
ほか
)
近所
(
きんじよ
)
の
者
(
もの
)
が
当家
(
たうけ
)
によつて
来
(
き
)
て、
297
其
(
その
)
与三郎
(
よさぶろう
)
に
牡丹餅
(
ぼたもち
)
が
出来
(
でき
)
たから
食
(
く
)
てくれと
言
(
い
)
つて、
298
ここへ
引
(
ひき
)
よせた。
299
与三
(
よさ
)
は
牡丹餅
(
ぼたもち
)
をよんでやらうとは
有難
(
ありがた
)
い……といひ
乍
(
なが
)
ら
手
(
て
)
をニユツとつき
出
(
だ
)
した。
300
近所
(
きんじよ
)
のお
睦婆
(
むつば
)
アが、
301
与三
(
よさ
)
には
古狸
(
ふるだぬき
)
がついて
居
(
を
)
るから、
302
此奴
(
こいつ
)
を
追出
(
おひだ
)
した
後
(
あと
)
でなくては
牡丹餅
(
ぼたもち
)
はやらぬと、
303
与三
(
よさ
)
に
見
(
み
)
せつけておき
乍
(
なが
)
ら、
304
狸
(
たぬき
)
退治
(
たいぢ
)
だと
云
(
い
)
つて、
305
青松葉
(
あをまつば
)
に
唐芥子
(
たうがらし
)
をまぜて、
306
鼻
(
はな
)
からくすべ、
307
与三
(
よさ
)
の
肉体
(
にくたい
)
まで
亡
(
な
)
くして
了
(
しま
)
つた。
308
其
(
その
)
恨
(
うらみ
)
をはらすが
為
(
ため
)
に、
309
与三
(
よさ
)
の
怨霊
(
をんりやう
)
が、
310
自分
(
じぶん
)
についてゐた
狸
(
たぬき
)
をお
先
(
さき
)
に
使
(
つか
)
つて、
311
ここの
息子
(
むすこ
)
をたぶらかし、
312
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
巣
(
す
)
をくんで
悩
(
なや
)
めて
居
(
を
)
るのだ。
313
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
恒富
(
つねとみ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
の
神力
(
しんりき
)
に
依
(
よ
)
つて、
314
怨敵
(
をんてき
)
忽
(
たちま
)
ち
退散
(
たいさん
)
さす
程
(
ほど
)
に
有難
(
ありがた
)
く
思
(
おも
)
つて
信心
(
しんじん
)
致
(
いた
)
せ。
315
一時
(
ひととき
)
の
後
(
のち
)
には
与三
(
よさ
)
の
死霊
(
しりやう
)
も
古狸
(
ふるだぬき
)
もサツパリ
降服
(
かうふく
)
するぞよ。
316
ウンウン』
317
と
言
(
い
)
つて
正気
(
しやうき
)
に
返
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
つた
様子
(
やうす
)
である。
318
これを
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
つた
自分
(
じぶん
)
の
可笑
(
おか
)
しさ。
319
一座
(
いちざ
)
は
此
(
この
)
託宣
(
たくせん
)
を
命
(
いのち
)
の
綱
(
つな
)
と
信
(
しん
)
じ、
320
有難涙
(
ありがたなみだ
)
にかきくれて、
321
鼻
(
はな
)
を
啜
(
すす
)
る
声
(
こゑ
)
さへ
聞
(
きこ
)
えて
居
(
を
)
る。
322
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
323
一
(
いち
)
時間
(
じかん
)
たつても、
324
半日
(
はんにち
)
経
(
た
)
つても、
325
死霊
(
しりやう
)
も
退散
(
たいさん
)
せねば、
326
古狸
(
ふるだぬき
)
も
去
(
い
)
なぬと
見
(
み
)
えて、
327
喜楽
(
きらく
)
の
体
(
からだ
)
は
依然
(
いぜん
)
として
強直
(
きやうちよく
)
状態
(
じやうたい
)
を
続
(
つづ
)
けてゐる。
328
祈祷
(
きたう
)
坊主
(
ばうず
)
は
尻
(
しり
)
こそばゆくなつたと
見
(
み
)
え、
329
雪隠
(
せつちん
)
へ
行
(
ゆ
)
くやうな
顔
(
かほ
)
して、
330
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか、
331
礼物
(
れいもつ
)
を
貰
(
もら
)
つた
儘
(
まま
)
姿
(
すがた
)
をかくしたやうな
按配
(
あんばい
)
であつた。
332
黄昏時
(
たそがれどき
)
になつて、
333
又
(
また
)
例
(
れい
)
の
次郎松
(
じろまつ
)
がやつて
来
(
き
)
た。
334
次郎松
『あゝヤツパリあの
糞坊主
(
くそばうず
)
も、
335
尾
(
を
)
のない
狸
(
たぬき
)
だつた。
336
とうとう
尻尾
(
しつぽ
)
をみられぬ
先
(
さき
)
に
逃
(
に
)
げよつたなア。
337
偉相
(
えらさう
)
に
吐
(
ぬか
)
して
居
(
を
)
つた
坊主
(
ばうず
)
の
御
(
ご
)
祈祷
(
きたう
)
も、
338
恒富
(
つねとみ
)
稲荷
(
いなり
)
の
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
も、
339
当
(
あて
)
にならぬ
嘘八百
(
うそはつぴやく
)
をコキ
並
(
なら
)
べよつた。
340
それよりも
手料理
(
てれうり
)
に
限
(
かぎ
)
る。
341
第一
(
だいいち
)
此奴
(
こいつ
)
が
墓
(
はか
)
へ
参
(
まゐ
)
りよつたのがウサンぢや。
342
キツとドブ
狸
(
だぬき
)
がついてゐるにきまつて
居
(
ゐ
)
る、
343
昔
(
むかし
)
の
与三
(
よさ
)
に
憑
(
つ
)
いて
居
(
を
)
つた
奴
(
やつ
)
だろ。
344
青松葉
(
あをまつば
)
位
(
くらゐ
)
でくすべた
所
(
ところ
)
で、
345
此奴
(
こいつ
)
は
余程
(
よほど
)
劫
(
がふ
)
を
経
(
へ
)
て、
346
毛
(
け
)
が
四
(
よ
)
つ
股
(
また
)
になつてる
奴
(
やつ
)
ぢやから、
347
中々
(
なかなか
)
往生
(
わうじやう
)
は
致
(
いた
)
すまい。
348
七味
(
しちみ
)
や
唐辛
(
たうがらし
)
や
山椒
(
さんせう
)
をまぜて、
349
青松葉
(
あをまつば
)
でくすべたら
往生
(
わうじやう
)
するだろ。
350
本人
(
ほんにん
)
の
喜楽
(
きらく
)
は
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
に
死
(
し
)
んで
了
(
しま
)
うてゐるのだ。
351
只
(
ただ
)
狸
(
たぬき
)
の
息
(
いき
)
で
体
(
からだ
)
がぬくい
丈
(
だけ
)
だ。
352
……オイコラ
狸
(
たぬき
)
サン、
353
モウ
駄目
(
だめ
)
だぞ、
354
覚悟
(
かくご
)
はよいか、
355
いいかげんに
去
(
い
)
にさらせ』
356
といひ
乍
(
なが
)
ら、
357
失敬
(
しつけい
)
千万
(
せんばん
)
な
足
(
あし
)
をあげて、
358
自分
(
じぶん
)
の
頭
(
あたま
)
を
蹴
(
け
)
つたり、
359
鼻
(
はな
)
を
捻
(
ね
)
ぢたりしてゐる。
360
青松葉
(
あをまつば
)
や
唐辛
(
たうがらし
)
の
用意
(
ようい
)
が
出来
(
でき
)
たと
見
(
み
)
え、
361
次郎松
(
じろまつ
)
は
得意
(
とくい
)
になつて、
362
次郎松
『オイ
たぬ
サン、
363
これから
七味
(
しちみ
)
や
唐辛
(
たうがらし
)
山椒粒
(
さんせうつぶ
)
に
松葉
(
まつば
)
くすべの
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
だ。
364
サ、
365
ドツトと
遠慮
(
ゑんりよ
)
なしに
上
(
あが
)
つてくれ』
366
と
迷信家
(
めいしんか
)
が
寄
(
よ
)
つて
殺人
(
さつじん
)
の
準備
(
じゆんび
)
行為
(
かうゐ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
367
耳
(
みみ
)
のよく
聞
(
きこ
)
える
自分
(
じぶん
)
は、
368
モウ
斯
(
か
)
うなつては
何所
(
なにどころ
)
でない、
369
全身
(
ぜんしん
)
の
力
(
ちから
)
をこめて
起上
(
おきあが
)
らうとしたが、
370
ビクともしない、
371
口
(
くち
)
も
利
(
き
)
かない。
372
次郎松
(
じろまつ
)
はふちの
欠
(
か
)
けた
火鉢
(
ひばち
)
に
火
(
ひ
)
をおこし、
373
唐辛
(
たうがらし
)
と
青松葉
(
あをまつば
)
をくべて、
374
団扇
(
うちわ
)
で
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
へ
扇
(
あを
)
ぎこまうとしてる
一刹那
(
いちせつな
)
、
375
母
(
はは
)
が、
376
母
『
松
(
まつ
)
サン……
一寸
(
ちよつと
)
』
377
と
何
(
なに
)
か
頭
(
あたま
)
の
先
(
さき
)
で
歎
(
なげ
)
いてゐられる。
378
そして
母
(
はは
)
の
目
(
め
)
からおちた
涙
(
なみだ
)
が、
379
自分
(
じぶん
)
の
顔
(
かほ
)
をうるほはした
其
(
その
)
一刹那
(
いちせつな
)
、
380
どこともなく、
381
上
(
うへ
)
の
方
(
はう
)
から
一筋
(
ひとすぢ
)
の
金色
(
こんじき
)
の
綱
(
つな
)
が
下
(
さが
)
つて
来
(
き
)
た。
382
それを
手早
(
てばや
)
く
握
(
にぎ
)
りしめたと
思
(
おも
)
ふ
途端
(
とたん
)
に、
383
不思議
(
ふしぎ
)
にも
自分
(
じぶん
)
の
体
(
からだ
)
は
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
活動
(
くわつどう
)
することが
出来
(
でき
)
るやうになつた。
384
一同
(
いちどう
)
は
歓喜
(
くわんき
)
の
涙
(
なみだ
)
にうたれてゐる。
385
自分
(
じぶん
)
も
復活
(
ふくくわつ
)
したやうな
喜
(
よろこ
)
びに
充
(
み
)
たされて
居
(
ゐ
)
た。
386
(
大正一一・一〇・八
旧八・一八
松村真澄
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