霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は従来バージョンをお使い下さい| サブスクのお知らせ

第一三章 (けむり)(みやこ)〔一〇二五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻 篇:第3篇 阪丹珍聞 よみ(新仮名遣い):はんたんちんぶん
章:第13章 煙の都 よみ(新仮名遣い):けむりのみやこ 通し章番号:1025
口述日:1922(大正11)年10月10日(旧08月20日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年3月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
松岡天使の命令によって、喜楽はただ一人で初めて大阪の布教を試みようと、汽車に乗ってやってきた。煙突の煙や行きかう人馬の音に圧倒されながら、多田亀の元の妻で多田琴の母である、お国という女の宅を頼ろうと探していた。
多田琴が布教がてらお国の元に行っていたので、協力して大宣伝をしようと思ったのである。
しかし想像だにしない大都会でたくさんの家や通りがあり、住所を探し当てることができなかった。ふと、自宅の隣家出身の斎藤佐一という人が、夫婦で天満橋近くに餅屋をしていることを思いだした。
初めての人力車に乗って、佐一の店に行った。佐一老夫婦とは久しぶりに顔を合わせたが、喜楽が祈祷を始めたことを知っており、お茶を出して親切にもてなしてくれた。
佐一は宿を紹介してくれた。そこに二週間ばかり滞在したら、家屋敷を抵当に入れて借りた持ち金はすっかりなくなってしまった。
大阪への別れに、天満天人様に参拝したところ、小林易断所と書いてある店の爺が声をかけてきた。易者は喜楽が丹波から来たことを当て、今大阪へ出てきたのは時機が早く、十年ばかり丹波で修行を積んだうえで再度大阪に来るように、と告げた。
易者はこれからの喜楽の艱難辛苦は並大抵のものではないが、神様のため、世の中のためだから辛抱するように、と涙ながらに諭した。喜楽は思わず落涙にむせんでいた。しばらくして頭を上げると、小林勇といった老易者の姿は跡形もなく消えていた。
不思議にあってしばらく呆然としていたが、松岡天使の教訓が今さらのごとく胸に浮かんできた。
邪神のすさぶ今の世に、至粋至純なる惟神の大道を研究し、身魂を清め、立派な宣伝使となって世界を覚醒させなくてはならない。神の僕となって暗黒世界の光となり、冷酷な社会の温味となり、身魂を清める塩となり、癒す薬となれ。
四魂を磨き五情を鍛えて誠の大和魂となり、天地の花・果実と謳われ喜ばれ、世のため道のために尽くさなくてはならない。今後十年の間は研究の時期であり、その間に起こる艱難辛苦は非常なものだ。
さりながら少しも恐れるに足らない。神様を力に、誠を杖にして猛進せよ。一時の失敗や艱難で心を変じてはならない。五六七の神の御心を遵奉し、世界へ拡充せよ。神々は汝の身を照らし、身辺に付き添って使命を果たすべく守りたまうであろう。
特に十年間はもっとも必要な修行時代だ、というものであった。
これより社前に額づき、拍手再拝して天津祝詞を奏上した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-03-08 17:21:54 OBC :rm3713
愛善世界社版:163頁 八幡書店版:第7輯 92頁 修補版: 校定版:171頁 普及版:80頁 初版: ページ備考:
001 松岡(まつをか)天使(てんし)命令(めいれい)によつて、002喜楽(きらく)(ただ)一人(ひとり)(はじ)めて大阪(おほさか)布教(ふけう)(こころ)みむと早朝(さうてう)(わが)()()()で、003天然笛(てんねんぶえ)鎮魂(ちんこん)(たま)皮製(かはせい)(かばん)(ひと)(かた)にひつかけ、004生首峠(なまくびたうげ)(わた)茨木(いばらぎ)街道(かいだう)()で、005それより汽車(きしや)()つて大阪(おほさか)()()いた。
006 大阪(おほさか)(けむり)(みやこ)とかねて()いて()た。007(はじ)めて大都会(だいとくわい)()田舎者(いなかもの)()には、008井中(ゐどなか)(かへる)大海(たいかい)(はう)()された(やう)面喰(めんくら)つて(しま)ひ、009何処(どこ)如何(どう)()つたら()いか(わか)らなくなつて(しま)つた。010幾百(いくひやく)とも()れぬ煙突(えんとつ)から()(のぼ)濛々(もうもう)たる黒煙(こくえん)は、011中空(ちうくう)(たつ)(をど)るが(ごと)く、012馬車(ばしや)人車(じんしや)()()(おと)轟々(ぐわうぐわう)として、013(かみなり)()くかとばかり(うたが)はれ、014魂消(たまげ)きつて梅田(うめだ)(えき)から当途(あてど)もなしに(みなみ)(みなみ)へと(すす)んで()つた。015(やうや)(なか)(しま)公園(こうゑん)辿(たど)りつき、016豊太閤(ほうたいかふ)(まつ)つた豊国(ほうこく)神社(じんじや)や、017木村(きむら)重成(しげなり)誠忠碑(せいちうひ)(おほ)きな花崗石(みかげいし)が、018真中(まんなか)から(はすかひ)(ひび)()れて()るの(など)拝礼(はいれい)(なが)ら、019多田(ただ)(かめ)(もと)(つま)たりしお(くに)()(をんな)(たく)(たよ)らうと、020其処(そこ)らあたりをうろつき(まは)つた。021(この)(くに)サンの(うち)には、022多田(ただ)(こと)(むすめ)(こと)とて、023布教(ふけう)がてら(さき)()つて()るので、024両人(りやうにん)(いき)(あは)(この)()大宣伝(だいせんでん)(こころ)みようと(おも)ふたからである。
025 (みづ)(みやこ)大阪市(おほさかし)026中空(ちうくう)(けぶり)(つつ)まれ()(かは)(かこ)まれて()る。027(おな)(やう)(はし)(いく)つともなく()かつて()る。028大阪(おほさか)には(ほとん)(せん)ばかりの橋梁(けうりやう)市内(しない)(かか)つてるさうだが、029(はし)()のつくのは(わづか)(ふた)()つで(その)(ほか)(みな)(ばし)である。030天満橋(てんまばし)031天神橋(てんじんばし)032浪速橋(なにはばし)()(やう)(はし)ばかりの大都会(だいとくわい)を、033軒別(けんべつ)に……お(くに)(うち)此処(ここ)か……と(たづ)(まは)間抜(まぬ)けさ加減(かげん)034(くに)()(とき)多田(ただ)(かめ)にお(くに)サンの住所(ぢうしよ)(くは)しく()(こと)(わす)れて()たのだ。035田舎(いなか)(そだ)ちの喜楽(きらく)は、036()さへ()へば(ちひ)さい田舎(いなか)(やう)(すぐ)(わか)ると(おも)ふて()たから、037住所(ぢうしよ)(くは)しく()ふておかなかつたのである。038何程(なにほど)(ひろ)大阪(おほさか)でも、039交番所(かうばんしよ)(たづ)ねたらお(くに)サンの(ところ)ぐらゐは(すぐ)(わか)ると早合点(はやがつてん)して()た。040それが大阪(おほさか)(はじ)めて()()ればチツとも見当(けんたう)がつかない。041交番所(かうばんしよ)()つて(たづ)ねて()ても巡査(じゆんさ)(わら)はれるばかり、042住所(ぢうしよ)苗字(めうじ)()れぬ(ただ)(くに)サンだけでは到底(たうてい)駄目(だめ)だつた。043不図(ふと)044自宅(じたく)隣家(りんか)()穴太(あなを)斎藤(さいとう)佐一(さいち)()(ひと)天満橋(てんまばし)()(ちか)空心町(くうしんまち)()(ところ)餅屋(もちや)をしてると()(こと)(かね)()いて()た。045これを(おも)()して(たづ)ねようと(かんが)()んだ。046これは地理(ちり)をよく()つた車屋(くるまや)案内(あんない)さすが一番(いちばん)だと(かんが)へ、047折柄(をりから)空俥(からぐるま)をひいて(はし)()めにやつて()俥夫(しやふ)(むか)つて、
048喜楽(きらく)空心町(くうしんまち)斎藤(さいとう)佐一(さいち)()餅屋(もちや)へやつて()れ』
049(たの)んで()た。050車夫(しやふ)は、
051車夫(しやふ)空心町(くうしんまち)余程(よほど)道程(みちのり)がありますから廿五銭(にじふごせん)(くだ)さい』
052といふ。053自分(じぶん)(すぐ)廿五銭(にじふごせん)俥屋(くるまや)(わた)した。054さうして(なが)天満橋(てんまばし)(うへ)(みなみ)(わた)り、055それから(また)(おほ)きな(はし)(ひと)(わた)つて(また)もとの(はし)近所(きんじよ)()れて()られた。056(その)橋詰(はしづめ)(すこ)(へこ)んだ(せま)間口(まぐち)(いへ)(まへ)(おろ)して()れた。057よくよく()れば『実盛餅(さねもりもち)』と()いてある。058あゝ此処(ここ)だなと(うなづ)(なが)ら、
059喜楽(きらく)御免(ごめん)
060といつて(なか)這入(はい)つた。061随分(ずゐぶん)(せま)(いへ)であつた。062(はじ)めに(くるま)()つた(ところ)畢竟(つまり)おろされて()たのである。063(あと)(かんが)へて()れば、064天神橋(てんじんばし)(みなみ)(わた)(また)天満橋(てんまばし)(きた)(わた)り、065町中(まちぢう)(まは)つて(もと)(ところ)(おろ)されたのであつた。066田舎者(ゐなかもん)(こと)とて、067二十八(にじふはつ)(さい)青年(せいねん)人力車(じんりきしや)()つたのは、068(はづ)かし(なが)らこれが(はじ)めてであつた。069実盛餅(さねもりもち)主人(しゆじん)は、070自分(じぶん)(かほ)()て、
071主人(しゆじん)『あゝ喜楽(きらく)サンだすか、072()うおいでやす。073あんたは(この)(ごろ)(うはさ)()けば(えら)信神(しんじん)出来(でき)ますさうな、074そりや結構(けつこう)です。075マアゆつくり一服(いつぷく)して(くだ)さい』
076()ふ。
077喜楽(きらく)『ハイ、078有難(ありがた)う』
079(こし)()け、080(あふぎ)をパチパチと()はして俯向(うつむ)いて()ると、081主人(しゆじん)佐市(さいち)サンはお(しげ)()(よめ)サンに実盛餅(さねもりもち)(さら)()らせて、
082主人(しゆじん)『サアお(あが)り』
083親切(しんせつ)(ちや)()んで()して()れた。084(しげ)サンも(また)
085(しげ)喜楽(きらく)サン、086マア(めづら)しい、087()()なさつた。088折角(せつかく)だから(うち)(とま)つて(もら)()いが、089(この)(とほ)(おもて)二畳敷(にでふじき)090(おく)四畳半(よでふはん)()(ところ)がないので、091(とま)つて(もら)(わけ)にもゆきませぬ。092(わたし)宿屋(やどや)案内(あんない)するから其処(そこ)(とま)りなさい。093旅費(りよひ)()つて()なさつたか』
094(たづ)ねる。095喜楽(きらく)は、
096喜楽(きらく)(じつ)五十(ごじふ)(ゑん)旅費(りよひ)算段(さんだん)して()つて()ました。097まだ、098四十九(よんじふく)(ゑん)五十銭(ごじつせん)(のこ)つて()る』
099(こた)へると、100佐市(さいち)サンは、
101佐市(さいち)『そんな大金(たいきん)()つて()ると、102掏摸(ちぼ)田舎者(ゐなかもん)だと(おも)ふて()るか()れぬから、103シツカリと内懐(うちふところ)()れて片一方(かたいつぱう)()(にぎ)りもつて(ある)きなさい』
104注意(ちうい)(なが)ら、105川傍(かはばた)三階建(さんがいだて)宿屋(やどや)案内(あんない)して()れた。106荷物(にもつ)といつたら(かばん)(ひと)つよりない。107(そと)(かばん)()げて、108()(あた)次第(しだい)布教(ふけう)()ようと宿屋(やどや)出掛(でかけ)ると、109其処(そこ)番頭(ばんとう)喜楽(きらく)襟髪(えりがみ)をグツと(にぎ)り、
110番頭(ばんとう)『こりや何処(どこ)()げて()く、111田舎者(いなかもの)()が!』
112とえらい権幕(けんまく)呶鳴(どな)りつける。113喜楽(きらく)吃驚(びつくり)して、
114喜楽(きらく)『ヘイ、115(わたし)何処(どこ)其処(そこ)らへ(かみ)(さま)(みち)(ひら)きに()かうと(おも)ひます。116(よる)になつたら(かへ)つて()ますから、117何卒(どうぞ)やらして(くだ)さい。118毎日(まいにち)日日(ひにち)こんな(ところ)()て、119宿賃(やどちん)(はら)つて(あそ)んで()つては(つま)りませぬから……』
120()ふと、121番頭(ばんとう)(すこ)(かほ)(やは)らげて、
122番頭(ばんとう)『そんなら(その)(かばん)()いて()かつしやい、123(かね)何程(なんぼ)()つてる』
124()ふ。
125喜楽(きらく)『ここに四十(しじふ)(ゑん)あまり()つて()ます』
126(こた)へると番頭(ばんとう)は、
127番頭(ばんとう)(その)(かね)(あづ)けて()きなさい。128(たしか)(あづか)るから……お(まへ)サンの(やう)都会(とくわい)()れない(ひと)は、129何時(いつ)掏摸(ちぼ)()られるか()れぬから、130もしも()られたら此方(こちら)宿賃(やどちん)まで(もら)へぬ(やう)になつて(しま)ふ。131さうなれば(たがひ)迷惑(めいわく)だ』
132(すこ)言葉(ことば)(やは)らげて()ふ。133そこで喜楽(きらく)四十(よんじふ)(ゑん)此処(ここ)番頭(ばんとう)(あづ)けておき、134(のこ)りの端金(はしたがね)(ふところ)()れて其処(そこ)()あたりをウロつきまはり、135色々(いろいろ)教会(けうくわい)訪問(はうもん)し、136稲荷下(いなりさ)げを調(しら)べたり(なに)かして()週間(しうかん)ばかり(なん)効果(かうくわ)()()ごして(しま)つた。137さうして多田(ただ)(こと)母親(ははおや)(いへ)如何(どう)しても(わか)らなかつた。138夜分(やぶん)になると宿屋(やどや)(かへ)つて鎮魂(ちんこん)をしたり、139自問(じもん)自答(じたふ)して神勅(しんちよく)(うかが)ふたけれど、140チツとも松岡(まつをか)サンも大霜(おほしも)サンもスカタンばかり(をし)へて本当(ほんたう)(こと)()つて()れなかつた。
141 ()週間(しうかん)()つと宿屋(やどや)番当(ばんとう)が、
142番頭(ばんとう)『お(きやく)サン、143勘定(かんぢやう)(ねがひ)ます』
144()つて勘定書(つけ)()つて()る。145よくよく()れば(いち)(にち)(とま)りが()(ゑん)八十銭(はちじつせん)()週間(しうかん)三十九(さんじふく)(ゑん)二十銭(にじつせん)()いてある。146一度(いちど)田舎(いなか)宿(やど)(とま)つた(とき)二十五(にじふご)(せん)であつた。147何程(なにほど)大阪(おほさか)(たか)いと()つても(いち)(にち)五十銭(ごじつせん)()せば大丈夫(だいぢやうぶ)だ……と(おも)ふて()田舎者(いなかもの)喜楽(きらく)は、148生命(いのち)(つな)(たの)んで()旅費(りよひ)大部分(だいぶぶん)が、149(おも)()けなき宿料(やどれう)(みな)とられた(こと)(きも)(つぶ)し、150(ただち)(あづ)けた(かね)(なか)から八十銭(はちじつせん)(かへ)して(もら)ひ、151それを茶代(ちやだい)として(わた)したので、152畢竟(つまり)四十(よんじふ)(ゑん)(かね)()週間(しうかん)(まへ)番頭(ばんとう)(わた)した(とき)()たきり、153それが(なが)のお(わか)れとなつて(しま)つた。154実際(じつさい)()へば(この)五十(ごじふ)(ゑん)は、155牧畜業(ぼくちくげふ)(はう)では(さん)(にん)組合(くみあひ)(かね)如何(どう)することも出来(でき)ないので、156自分(じぶん)(いへ)屋敷(やしき)抵当(ていたう)()れて()つてきた(かね)である。157そこら迂路(うろ)々々(うろ)芝居(しばゐ)()たり落語(らくご)()いたり、158見世物(みせもの)車賃(くるまちん)などで七八(しちはち)(ゑん)(かね)はなくなつて()た。159もはや(ふところ)には(いち)(ゑん)あまり(ほか)160なかつたのである。
161 (この)宿屋(やどや)玉屋(たまや)()いてあつた。162河端(かはばた)()(あたら)しい白木造(しらきづく)りの(いへ)であつた。163(この)玉屋(たまや)()()北区(きたく)天満(てんま)天神(てんじん)さまの鳥居(とりゐ)(くぐ)つて、164大阪(おほさか)(わか)れを()ぐるべく参拝(さんぱい)をした。165神苑内(しんゑんない)には丹頂(たんちやう)(つる)金網(かなあみ)()つて四五羽(しごは)()つてあつた。166さうして六十(ろくじふ)ばかりの(おやぢ)(どぢやう)()つて()る。167(おやぢ)参拝者(さんぱいしや)をつかまへては、
168(おやぢ)(みな)サン、169(つる)サンに(どぢやう)献上(けんじやう)なさいませ。170一盛(ひともり)一銭(いつせん)です』
171呶鳴(どな)つて()る。172()れば(ちひ)さい饂飩(うどん)(やう)(どぢやう)が、173二匹(にひき)(あさ)竹筒(たけづつ)(みづ)一所(いつしよ)()(なら)べてある。174一銭(いつせん)()しては(どぢやう)()ひ、175(つる)()つて()(あさ)水溜(みづたま)りへ()げてやると、176(なが)(くちばし)をつつこんで(すぐ)にとつて()ふ。177(つる)目出度(めでた)(とり)ぢやと()いて()る。178()()いた(つる)沢山(たくさん)()たが、179(いき)たのは(はじ)めてなので、180好奇心(かうきしん)()られて一銭(いつせん)銅貨(どうくわ)交換(かうくわん)しては、181(なら)べてある(どぢやう)竹鉢(たけばち)(のこ)らず(つる)(あた)へて(しま)つた。182さうすると一方(いつぱう)(はう)(しろ)()駿馬(しゆんめ)が、183足摺(あしずり)(あら)くして(いた)()をトントントンと(たた)いて()る。184一寸(ちよつと)()れば其処(そこ)にも土器(かわらけ)大豆(だいづ)()でたのが(なな)()(さら)()つて、
185一皿(ひとさら)一銭(いつせん)(うま)さんにおあげなさいませ』
186()いてある。187(つる)五杯(ごはい)(どぢやう)をスツカリ(あた)へて五銭(ごせん)はり()んでやつたのだから、188(この)(うま)にもやらずには()られぬと、189五七(ごしち)三十五(さんじふご)(つぶ)煮豆(ゆでまめ)を、190白銅(はくどう)(いち)(まい)はりこんで(うま)()()(きよう)()つて()る。191その(とき)(うしろ)(はう)から、
192(易者)先生(せんせい)々々(せんせい)
193()(こゑ)(きこ)える。194(たれ)(こと)かと(おも)ふて(うしろ)()()くと、195白髪(はくはつ)老人(らうじん)周易(しうえき)看板(かんばん)(つくゑ)にブラ()げ、196赤毛布(あかげつと)をかけて椅子(いす)(こし)をかけ、197此方(こちら)()いて手招(てまね)きして()る。198()れば易者(えきしや)五六(ごろく)(にん)境内(けいだい)此処(ここ)彼処(かしこ)易断(えきだん)(みせ)()つて()た。199(その)老人(らうじん)小林(こばやし)易断所(えきだんじよ)としてあつたから、200大方(おほかた)小林(こばやし)()(をとこ)であつただらう。201その老爺(おやぢ)がいふには、
202易者(えきしや)先生(せんせい)203(まへ)さまは丹波(たんば)のお(かた)でせう。204(いま)大阪(おほさか)()()(かみ)(さま)(をしへ)宣伝(せんでん)するのは、205()時機(じき)(はや)い。206(いち)()(はや)丹波(たんば)(くに)(かへ)りなさい。207さうして(じふ)(ねん)ばかり修業(しうげふ)()んだ(うへ)208大阪(おほさか)布教(ふけう)()られたならば屹度(きつと)成功(せいこう)します。209(いま)大切(たいせつ)(とき)だ、210軽挙(けいきよ)盲動(まうどう)をしてはなりませぬぞ』
211(たの)みもせぬのに熱心(ねつしん)()つて()れる。212喜楽(きらく)は、
213喜楽(きらく)不思議(ふしぎ)(こと)()易者(えきしや)だな、214如何(どう)して丹波(たんば)人間(にんげん)()(こと)(わか)つたのか()らぬ』
215(おも)(なが)今度(こんど)此方(こちら)から易者(えきしや)(むか)つて、
216喜楽(きらく)先生(せんせい)217貴方(あなた)(かみ)さまの(やう)(ひと)ですな、218一体(いつたい)何処(どこ)(くに)でお(うま)れになつたのですか』
219()ひかけると老易者(らうえきしや)は、
220易者(えきしや)(わし)(わか)(とき)から(なが)らくの(あひだ)221富士講(ふじかう)()つて浅間(せんげん)(さま)教会(けうくわい)這入(はい)り、222富士(ふじ)(やま)修業(しうげふ)をして()つたものだ。223さうした(ところ)224富士講(ふじかう)丸山(まるやま)教会(けうくわい)は、225教祖(けうそ)六郎兵衛(ろくろうべゑ)サンが神罰(しんばつ)(かうむ)つて悶死(もんし)されてから、226(その)教会(けうくわい)滅茶(めちや)々々(めちや)(こわ)れて(しま)(いま)(なさけ)ないこんな易者(えきしや)になつて大阪(おほさか)渡世(とせい)をしてるのだ。227(じつ)(わたし)小林(こばやし)(いさむ)()(もの)である。228(しか)(なが)ら、229これは一寸(ちよつと)(かり)()だ、230本当(ほんたう)()(ふたた)びお(まへ)()ふて打明(うちあ)かす(とき)()るであらう。231()達者(たつしや)にして修業(しうげふ)()さるが(よろ)しい。232これからお(まへ)サンの丹波(たんば)(かへ)つてから(じふ)年間(ねんかん)艱難(かんなん)辛苦(しんく)といふものは、233(いま)から(おも)ふても(ほん)可哀相(かあいさう)()がする。234(しか)(なが)らこれも(かみ)(さま)のため、235()(なか)()めだから辛抱(しんばう)しなさい』
236()(こゑ)さへも(なみだ)(くも)つて()る。237喜楽(きらく)(おも)はず俯伏(ふふく)し、238一言(ひとこと)(はつ)()落涙(らくるい)(むせ)んで()た。239(しばら)くして(あたま)をあげて()れば、240(いま)小林(こばやし)(いさむ)()つた老易者(らうえきしや)(かげ)何処(どこ)()つたか跡方(あとかた)もなく()えて()つた。241かかる不思議(ふしぎ)出会(であ)ふた喜楽(きらく)()()(くび)(かたむ)けて(しば)茫然(ばうぜん)(たたず)んで()た。
242喜楽『アヽ(いま)のは(かみ)(さま)化身(けしん)ではなかつたかなア』
243 (わす)れもせない()(ぐわつ)九日(ここのか)()244芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)松岡(まつをか)天使(てんし)高熊山(たかくまやま)(さそ)はれて()けた教訓(けうくん)245今更(いまさら)(ごと)(むね)()かんで()た。
246 (その)(とき)松岡(まつをか)天使(てんし)教訓(けうくん)大略(たいりやく)()(とほ)りであつた。
247澆季(げうき)末法(まつぽう)(かたむ)いた邪神(じやしん)(すさ)(いま)(とき)(あた)つて、248(まへ)至粋(しすゐ)至純(しじゆん)なる惟神(かむながら)大道(だいだう)研究(けんきう)し、249身魂(みたま)(きよ)め、250立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)となつて世界(せかい)(むか)ひ、251神道(しんだう)喇叭(らつぱ)()()て、252世界(せかい)覚醒(かくせい)せなくてはならぬぞよ。253(いま)(おい)惟神(かむながら)大道(だいだう)宣伝(せんでん)し、254世界(せかい)()()ますものが()ければ、255今日(こんにち)社会(しやくわい)維持(ゐぢ)する(こと)出来(でき)ない。256()いては世界(せかい)破滅(はめつ)招来(せうらい)する(こと)(かがみ)にかけて()(やう)だ。257(まへ)はこれから(かみ)(しもべ)となつて、258暗黒(あんこく)世界(せかい)(ひかり)となり、259冷酷(れいこく)社会(しやくわい)温味(ぬくみ)となり、260(くさ)りきつた身魂(みたま)(すく)(きよ)める(しほ)となり、261身魂(みたま)(やまひ)(なほ)(くすり)ともなり、262四魂(しこん)(みが)五情(ごじやう)(きた)へ、263(まこと)大和(やまと)(だましひ)となつて、264天地(てんち)(はな)(うた)はれ果実(くわじつ)(よろこ)ばれ、265()()(みち)()めに(つく)して()れねばならぬ。266(しん)(ゆう)267(しん)(しん)268(しん)(あい)269(しん)智慧(ちゑ)(かがや)かし(この)大任(たいにん)完成(くわんせい)せむとするは、270仲々(なかなか)容易(ようい)事業(じげふ)ではない。271今後(こんご)(じふ)(ねん)(あひだ)(その)(はう)研究(けんきう)時期(じき)である。272(その)(あひだ)(おこ)(ところ)艱難(かんなん)辛苦(しんく)非常(ひじやう)なものだ。273(これ)忍耐(にんたい)せなくては(なんぢ)使命(しめい)(はた)(こと)出来(でき)ないぞ。274(しばしば)(かみ)(ためし)にも()ひ、275邪神(じやしん)(むれ)包囲(はうゐ)され(くる)しむ(こと)もあるであらう。276前途(ぜんと)(あた)つて(ふか)(たに)もあり、277(つるぎ)(やま)や、278()(いけ)地獄(ぢごく)や、279(へび)(むろ)280(はち)(むろ)281暴風(ばうふう)怒濤(どたう)(くる)しみ、282一命(いちめい)(あやふ)(こと)(しばしば)あるであらう。283手足(てあし)(つめ)(まで)()かれて、284神退(かむやら)ひに退(やら)はれる(こと)覚悟(かくご)して()らねばならぬ。285さり(なが)(すこ)しも(おそ)るるには(およ)ばぬ。286(かみ)(さま)(ちから)(まこと)(つゑ)猛進(まうしん)せよ。287如何(いか)なる災害(さいがい)()ふとも(けつ)して退却(たいきやく)してはならぬ。288何事(なにごと)(みな)(かみ)()経綸(けいりん)だと(おも)へ。289(いち)()失敗(しつぱい)艱難(かんなん)出会(であ)ふた()めに、290(かみ)(みち)(とほ)ざかり(こころ)(へん)じてはならぬ。291五六七(みろく)(かみ)御心(みこころ)を、292生命(いのち)(つづ)(かぎ)遵奉(じゆんぽう)し、293(かつ)世界(せかい)拡充(くわくじゆう)せよ。294神々(かみがみ)(なんぢ)()()らし、295(なんぢ)身辺(しんぺん)()()ふて、296(この)使命(しめい)(はた)すべく(まも)(たま)ふであらう。297(とく)(じふ)年間(ねんかん)(もつと)必要(ひつえう)修業(しうげふ)時代(じだい)だ』
298との(きび)しき神示(しんじ)(ふか)脳裡(なうり)(きざ)まれてあつた。299其処(そこ)(いま)(また)小林(こばやし)(いさむ)()不思議(ふしぎ)老易者(らうえきしや)より(おな)(やう)教訓(けうくん)()けたのは(じつ)不思議(ふしぎ)であつた。
300 これより社前(しやぜん)(ぬか)づき、301拍手(はくしゆ)再拝(さいはい)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、302社内(しやない)退(しりぞ)(ふところ)(さび)しきまま、303天満橋(てんまばし)(づめ)空心町(くうしんまち)実盛餅(さねもりもち)目当(めあて)(たづ)ねて()(こと)とした。
304大正一一・一〇・一〇 旧八・二〇 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→  
霊界物語ネットは飯塚弘明が運営しています。【メールアドレス】 / 動作に不具合や誤字脱字等を発見されましたら是非お知らせ下さるようお願い申し上げます。 / / 本サイトの著作権(デザイン、プログラム、凡例等)は飯塚弘明にあります。出口王仁三郎の著作物(霊界物語等)の著作権は保護期間が過ぎていますのでご自由にお使いいただいて構いません。ただし一部分を引用するのではなく、本サイト掲載の大部分を利用して電子書籍等に転用する場合には、必ず出典と連絡先を記して下さい。→「本サイト掲載文献の利用について」 / 出口王仁三郎の著作物は明治~昭和初期に書かれたものです。現代においては差別的と見なされる言葉や表現もありますが、当時の時代背景を鑑みてそのままにしてあります。 / プライバシーポリシー
(C) 2007-2024 Iizuka Hiroaki