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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
第1章 富士山
第2章 葱節
第3章 破軍星
第4章 素破抜
第5章 松の下
第6章 手料理
第2篇 青垣山内
第7章 五万円
第8章 梟の宵企
第9章 牛の糞
第10章 矢田の滝
第11章 松の嵐
第12章 邪神憑
第3篇 阪丹珍聞
第13章 煙の都
第14章 夜の山路
第15章 盲目鳥
第16章 四郎狸
第17章 狐の尾
第18章 奥野操
第19章 逆襲
第20章 仁志東
第4篇 山青水清
第21章 参綾
第22章 大僧坊
第23章 海老坂
第24章 神助
第25章 妖魅来
霊の礎(九)
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>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第37巻(子の巻)
> 第3篇 阪丹珍聞 > 第14章 夜の山路
<<< 煙の都
(B)
(N)
盲目鳥 >>>
第一四章
夜
(
よる
)
の
山路
(
やまみち
)
〔一〇二六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第3篇 阪丹珍聞
よみ(新仮名遣い):
はんたんちんぶん
章:
第14章 夜の山路
よみ(新仮名遣い):
よるのやまみち
通し章番号:
1026
口述日:
1922(大正11)年10月10日(旧08月20日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
大阪を去る前に佐一の餅屋を尋ねたところ、そこで一夜の宿をいただけることになった。いつしか佐一の一間に雑魚寝で寝入ってしまった。
西日の中、淀川のほとりにたたずんで大阪城を眺め、感慨にふけっていた。すると十二三歳の少年が番頭風の男に追われている。聞けば、店先の薬を盗んだのだという。
少年は、母が病気で苦しみ、貧乏で薬も買えずに苦しんでいたところ、どうしても薬が欲しくなって手が出てしまったのだという。喜楽は五十銭出して、少年のために薬を買ってあげた。
番頭風の男は怒りに口汚くののしりながら、五十銭をひったくるように受け取って帰ってしまった。喜楽はその無情さに歯ぎしりしながら見送っていた。
そして、この貧しい少年の境遇を見ても、鄙も都も暗黒世界は同じものだとため息をついていた。すると、佐一の妻のお繁婆さんにゆすり起こされた。今の夢は、神様の御心で喜楽の心に戒めを与えられたものだと気が付いた。
また郷里には母や祖母のあることを思いださしめ、早く帰国させようというお計らいであったことが、後日感じられた。
丹波への帰り道、夜の山路の岐路で迷っていると、怪しい白衣の旅人が現れ、案内をするように進んで行く。怪しみながら着いていくと、眠気に襲われて道端の六地蔵の屋根の下に横たわり、眠り込んでしまった。
ふと目を覚ますと、怪しい女が赤ん坊を背に負い、『南無阿弥陀仏』と唱えながら地蔵の数多から水をかけて祈願しているようである。喜楽は恐ろしくなったが、気を落ち着かせ、恐ろしい思いをしながら山道をたどって一目散に馳せかえった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-22 11:37:14
OBC :
rm3714
愛善世界社版:
176頁
八幡書店版:
第7輯 97頁
修補版:
校定版:
184頁
普及版:
87頁
初版:
ページ備考:
001
喜楽
(
きらく
)
は
懐
(
ふところ
)
淋
(
さび
)
しく、
002
何
(
なん
)
となしに
力落
(
ちからお
)
ちがして
愈
(
いよいよ
)
帰国
(
きこく
)
の
途
(
と
)
に
就
(
つ
)
かむとした。
003
一度
(
いちど
)
空心町
(
くうしんまち
)
の
斎藤
(
さいとう
)
の
家
(
いへ
)
に
暇
(
いとま
)
乞
(
ご
)
ひに
立寄
(
たちよ
)
つて
見
(
み
)
ようと
思
(
おも
)
ひ、
004
再
(
ふたた
)
び
訪
(
おとづ
)
れると、
005
佐市
(
さいち
)
夫婦
(
ふうふ
)
を
始
(
はじ
)
め、
006
四
(
よ
)
年
(
ねん
)
以前
(
いぜん
)
に
一寸
(
ちよつと
)
悶錯
(
もんさく
)
を
起
(
おこ
)
して
別
(
わか
)
れた
娘
(
むすめ
)
が
折
(
をり
)
よく
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
た。
007
お
繁
(
しげ
)
婆
(
ば
)
アさんは
粋
(
すゐ
)
を
利
(
き
)
かして、
008
狭
(
せま
)
い
内
(
うち
)
だけれど
今晩
(
こんばん
)
は
泊
(
とま
)
つて
帰
(
かへ
)
れと
云
(
い
)
ふ。
009
そこへ
十六七
(
じふろくしち
)
の
富野
(
とみの
)
といふ
妹
(
いもうと
)
が
居
(
ゐ
)
るので、
010
僅
(
わづか
)
四畳半
(
よでふはん
)
の
間
(
ま
)
で、
011
五
(
ご
)
人
(
にん
)
が
雑魚寝
(
ざこね
)
することとなつた。
012
姉娘
(
あねむすめ
)
のお
秋
(
あき
)
といふのが
夜
(
よる
)
の
十
(
じふ
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
に、
013
ガラガラと
車
(
くるま
)
でやつて
来
(
き
)
て、
014
何
(
なん
)
だかブツブツ
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
015
おいの
といふ
女
(
をんな
)
を
合乗
(
あひの
)
りで
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
016
油揚
(
あぶらあげ
)
を
鳶
(
とび
)
にさらはれたやうな
気分
(
きぶん
)
で、
017
喜楽
(
きらく
)
は
舌打
(
したう
)
ちし
乍
(
なが
)
ら
眠
(
ねむり
)
に
就
(
つ
)
いた。
018
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
時
(
とき
)
の
喜楽
(
きらく
)
は
一切
(
いつさい
)
の
情欲
(
じやうよく
)
に
離
(
はな
)
れ、
019
只
(
ただ
)
信仰
(
しんかう
)
一点張
(
いつてんばり
)
に
酔
(
よ
)
つ
払
(
ぱら
)
つて
居
(
ゐ
)
た
時
(
とき
)
だから、
020
昔
(
むかし
)
の
女
(
をんな
)
に
出会
(
であ
)
ひ
一間
(
ひとま
)
に
寝
(
ね
)
た
所
(
ところ
)
で、
021
別
(
べつ
)
に
旧交
(
きうかう
)
を
温
(
あたたか
)
めようとも
何
(
なん
)
ともそんな
考
(
かんが
)
へは
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
なかつた。
022
乍併
(
しかしながら
)
何
(
なん
)
となくなつかしいやうな
気
(
き
)
がして、
023
其
(
その
)
女
(
をんな
)
と
同
(
おな
)
じ
家
(
いへ
)
に
一宿
(
いつしゆく
)
することを
嬉
(
うれ
)
しく
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
たのである。
024
夜
(
よ
)
は
容赦
(
ようしや
)
なく
更
(
ふ
)
け
渡
(
わた
)
る。
025
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
安々
(
やすやす
)
と
眠
(
ねむ
)
りについて
了
(
しま
)
つた。
026
○
027
永
(
なが
)
き
春日
(
はるび
)
も
稍
(
やや
)
西
(
にし
)
に
傾
(
かたむ
)
いて、
028
淀
(
よど
)
の
川水
(
かはみづ
)
に
金鱗
(
きんりん
)
の
光
(
ひかり
)
を
流
(
なが
)
す、
029
水瀬
(
みなせ
)
も
深
(
ふか
)
き
浪速潟
(
なにはがた
)
、
030
水
(
みづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
天神橋
(
てんじんばし
)
の
上
(
うへ
)
に
立
(
た
)
つて、
031
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
思案
(
しあん
)
にくれてゐた。
032
巽
(
たつみ
)
の
方
(
はう
)
を
見
(
み
)
れば、
033
山岳
(
さんがく
)
の
如
(
ごと
)
く
巍々
(
ぎぎ
)
として
築
(
きづ
)
き
上
(
あ
)
げられた、
034
宏壮
(
くわうさう
)
雄大
(
ゆうだい
)
なる
大阪城
(
おほさかじやう
)
が
水
(
みづ
)
に
映
(
うつ
)
つて、
035
薨
(
いらか
)
がキラキラと
西日
(
にしび
)
に
輝
(
かがや
)
いてゐる。
036
喜楽
(
きらく
)
は
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て
感
(
かん
)
に
打
(
う
)
たれ、
037
独言
(
ひとりごと
)
を
云
(
い
)
つてゐた。
038
喜楽
『あゝ
人間
(
にんげん
)
の
運命
(
うんめい
)
といふものは
不思議
(
ふしぎ
)
なものだ。
039
二百八
(
にひやくはち
)
間
(
けん
)
の
矢矧
(
やはぎ
)
の
長橋
(
ながばし
)
に
菰
(
こも
)
を
纏
(
まと
)
うた
腕白
(
わんぱく
)
小僧
(
こぞう
)
の
藤吉郎
(
とうきちろう
)
も、
040
忍耐
(
にんたい
)
勉励
(
べんれい
)
の
功
(
こう
)
空
(
むな
)
しからず、
041
登竜
(
とうりう
)
の
大志
(
たいし
)
を
達成
(
たつせい
)
し
威徳
(
ゐとく
)
赫々
(
かくかく
)
として、
042
旭日
(
きよくじつ
)
東海
(
とうかい
)
の
波
(
なみ
)
をけり、
043
躍
(
をど
)
り
出
(
い
)
でたるが
如
(
ごと
)
く、
044
遂
(
つひ
)
に
六十
(
ろくじふ
)
余
(
よ
)
州
(
しう
)
の
天下
(
てんか
)
を
掌握
(
しやうあく
)
し、
045
三韓
(
さんかん
)
を
切
(
き
)
り
従
(
したが
)
へ、
046
大明王
(
たいみんわう
)
を
驚
(
おどろ
)
かせ、
047
万古
(
ばんこ
)
不朽
(
ふきう
)
の
偉業
(
ゐげふ
)
を
後世
(
こうせい
)
に
伝
(
つた
)
へた。
048
話
(
はなし
)
に
聞
(
き
)
くも
実
(
じつ
)
に
心持
(
こころもち
)
よき
英雄
(
えいゆう
)
である。
049
豊太閤
(
ほうたいかふ
)
だとてヤツパリ
人間
(
にんげん
)
の
生
(
う
)
んだ
子
(
こ
)
だ。
050
彼
(
かれ
)
も
亦
(
また
)
同
(
おな
)
じ
百姓
(
ひやくせう
)
から
生
(
うま
)
れた
人間
(
にんげん
)
だ。
051
豊太閤
(
ほうたいかふ
)
の
幼時
(
えうじ
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
は、
052
又
(
また
)
喜楽
(
きらく
)
の
当時
(
たうじ
)
に
酷似
(
こくじ
)
してゐる。
053
矢矧
(
やはぎ
)
の
橋
(
はし
)
ならぬ
天神橋
(
てんじんばし
)
の
袂
(
たもと
)
、
054
自分
(
じぶん
)
も
此処
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
何
(
なに
)
か
思案
(
しあん
)
をせなくてはなるまい。
055
折角
(
せつかく
)
無理
(
むり
)
算段
(
さんだん
)
をして
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
た
旅費
(
りよひ
)
はいつの
間
(
ま
)
にか、
056
煙
(
けむり
)
の
都
(
みやこ
)
の
煙
(
けぶり
)
と
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
ひ、
057
何一
(
なにひと
)
つ
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
るべき
土産
(
みやげ
)
もない。
058
精神
(
せいしん
)
一到
(
いつたう
)
何事
(
なにごと
)
か
成
(
な
)
らざむや、
059
吾
(
わ
)
れも
太閤
(
たいかふ
)
の
成功
(
せいこう
)
位
(
くらゐ
)
に
甘
(
あま
)
んじては
居
(
を
)
れまい。
060
神
(
かみ
)
を
力
(
ちから
)
に
誠
(
まこと
)
を
杖
(
つゑ
)
に、
061
五六七
(
みろく
)
神政
(
しんせい
)
の
基礎
(
きそ
)
を
固
(
かた
)
めねばならぬ』
062
と
往来
(
わうらい
)
しげき
橋
(
はし
)
の
上
(
うへ
)
にて、
063
吾
(
わ
)
れを
忘
(
わす
)
れて
雄健
(
をたけ
)
びなしつつ、
064
空想
(
くうさう
)
にからるる
一刹那
(
いちせつな
)
、
065
ドンと
突当
(
つきあた
)
つた
十二三
(
じふにさん
)
歳
(
さい
)
の
子供
(
こども
)
があつた。
066
喜楽
(
きらく
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
其
(
その
)
子供
(
こども
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
つめてゐる。
067
あとより
息
(
いき
)
せき
切
(
き
)
つてかけ
来
(
きた
)
る
三十
(
さんじふ
)
前後
(
ぜんご
)
の
番頭風
(
ばんとうふう
)
の
大男
(
おほをとこ
)
有無
(
うむ
)
をいはせず
子供
(
こども
)
を
引掴
(
ひつつか
)
み、
068
打
(
う
)
つやら、
069
蹴
(
け
)
るやら、
070
乱暴
(
らんばう
)
狼藉
(
ろうぜき
)
を
恣
(
ほしいまま
)
にしてゐる。
071
子供
(
こども
)
は
悲鳴
(
ひめい
)
をあげて、
072
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶのを、
073
物見
(
ものみ
)
高
(
だか
)
い
大阪人
(
おほさかじん
)
の
常
(
つね
)
として、
074
忽
(
たちま
)
ち
橋
(
はし
)
の
上
(
うへ
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
075
五
(
ご
)
人
(
にん
)
、
076
十
(
じふ
)
人
(
にん
)
と
立止
(
たちど
)
まり、
077
往来止
(
わうらいど
)
めの
姿
(
すがた
)
と
変
(
かは
)
つて
了
(
しま
)
つた。
078
番頭風
(
ばんとうふう
)
の
男
(
をとこ
)
は
尚
(
なほ
)
も
続
(
つづ
)
いて
手首
(
てくび
)
を
無理
(
むり
)
に
固
(
かた
)
く
執
(
と
)
り、
079
腕
(
うで
)
もぬけむ
計
(
ばか
)
りに
引張
(
ひつぱ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
080
男
(
をとこ
)
『
一寸
(
ちよつと
)
警察
(
けいさつ
)
迄
(
まで
)
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い!』
081
と
引
(
ひ
)
きずつて
行
(
ゆ
)
かうとする。
082
喜楽
(
きらく
)
は
見
(
み
)
るに
見
(
み
)
かねて、
083
喜楽
(
きらく
)
『モシモシ
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
つてやつて
下
(
くだ
)
さい。
084
どんな
悪
(
わる
)
いことをしたか
知
(
し
)
りませぬが……』
085
と
言
(
い
)
はせも
果
(
は
)
てず、
086
男
(
をとこ
)
は
言
(
ことば
)
も
荒々
(
あらあら
)
しく、
087
男
(
をとこ
)
『お
前
(
まへ
)
は
田舎下
(
いなかくだ
)
りの
旅人
(
たびびと
)
、
088
構
(
かま
)
うてくれな。
089
此奴
(
こいつ
)
ア
チボ
の
玉子
(
たまご
)
だ。
090
今
(
いま
)
店先
(
みせさき
)
にあつた
実母散
(
じつぼさん
)
を
一服
(
いつぷく
)
かつさらへ、
091
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
してうせたヅ
太
(
ぶと
)
き
小僧
(
こぞう
)
だ。
092
今後
(
こんご
)
の
戒
(
いまし
)
めに
橋詰
(
はしづめ
)
の
巡査
(
じゆんさ
)
に
引渡
(
ひきわた
)
すのだ』
093
と
鼻息
(
はないき
)
あらく、
094
エライ
権幕
(
けんまく
)
で
睨
(
にら
)
みつける。
095
子供
(
こども
)
は
薬
(
くすり
)
の
包
(
つつみ
)
をそこへなげ
出
(
だ
)
し、
096
両手
(
りやうて
)
をつき、
097
涙
(
なみだ
)
乍
(
なが
)
らに
泣
(
な
)
きわびるいぢらしさ。
098
喜楽
(
きらく
)
は
此
(
この
)
子供
(
こども
)
もウブからのチボではあるまいと
思
(
おも
)
ひ、
099
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
に
向
(
むか
)
つて
言葉
(
ことば
)
を
叮嚀
(
ていねい
)
に、
100
子供
(
こども
)
に
代
(
かは
)
つてあやまり、
101
子供
(
こども
)
の
言
(
い
)
ふことを
聞訊
(
ききただ
)
してみれば、
102
子供
(
こども
)
『
私
(
わたくし
)
の
母
(
はは
)
は
永
(
なが
)
らく
子宮病
(
しきうびやう
)
とかに
罹
(
かか
)
つて
苦
(
くるし
)
み
最早
(
もはや
)
生命
(
いのち
)
も
危
(
あやふ
)
うなつて
居
(
を
)
ります。
103
貧乏
(
びんばふ
)
の
為
(
ため
)
に
薬
(
くすり
)
を
買
(
か
)
ふことも
出来
(
でき
)
ず、
104
お
医者
(
いしや
)
さまに
診
(
み
)
て
貰
(
もら
)
ふことも
出来
(
でき
)
ないので、
105
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
らお
母
(
か
)
アサンの
死
(
し
)
ぬのを
見
(
み
)
るに
忍
(
しの
)
びず、
106
日々
(
ひび
)
エライ
心配
(
しんぱい
)
をして
居
(
を
)
りましたが、
107
隣
(
となり
)
の
人
(
ひと
)
の
話
(
はなし
)
によると、
108
女
(
をんな
)
の
病
(
やまひ
)
には
実母散
(
じつぼさん
)
を
呑
(
の
)
んだら、
109
キツと
全快
(
ぜんくわい
)
すると
聞
(
き
)
いて、
110
俄
(
にはか
)
に
其
(
その
)
薬
(
くすり
)
が
欲
(
ほ
)
しくなり
母
(
はは
)
を
大事
(
だいじ
)
と
思
(
おも
)
ふ
一念
(
いちねん
)
から、
111
後前
(
あとさき
)
の
弁
(
わきま
)
へもなく
薬屋
(
くすりや
)
の
店先
(
みせさき
)
にあつた
実母散
(
じつぼさん
)
を
一服
(
いつぷく
)
持
(
も
)
つて
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
ました』
112
と
語
(
かた
)
り
了
(
をは
)
つて、
113
ワツと
計
(
ばか
)
り
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
泣
(
な
)
き
倒
(
たふ
)
れた。
114
孝行
(
かうかう
)
息子
(
むすこ
)
の
心
(
こころ
)
にほだされて、
115
喜楽
(
きらく
)
も
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
貰
(
もら
)
ひ
泣
(
な
)
きをし
乍
(
なが
)
ら、
116
懐
(
ふところ
)
を
探
(
さぐ
)
つて
五十銭
(
ごじつせん
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
117
喜楽
(
きらく
)
『
此
(
この
)
薬
(
くすり
)
を
私
(
わたくし
)
に
売
(
う
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
118
そして
子供
(
こども
)
の
罪
(
つみ
)
を
許
(
ゆる
)
してやつて
下
(
くだ
)
さい』
119
といへば、
120
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
は
面
(
つら
)
をふくらせ
乍
(
なが
)
ら、
121
男
(
をとこ
)
『
此奴
(
こいつ
)
は
許
(
ゆる
)
し
難
(
がた
)
い
奴
(
やつ
)
だが、
122
今日
(
けふ
)
はお
前
(
まへ
)
に
免
(
めん
)
じて
忘
(
わす
)
れてやるから
今後
(
こんご
)
はキツと
慎
(
つつし
)
め!』
123
と
口汚
(
くちぎたな
)
く
罵
(
ののし
)
り、
124
一服
(
いつぷく
)
十銭
(
じつせん
)
の
薬
(
くすり
)
に
五十銭
(
ごじつせん
)
を
引
(
ひ
)
つたくるやうにして
受取
(
うけと
)
り、
125
ツリをも
払
(
はら
)
はず
肩
(
かた
)
を
怒
(
いか
)
らして
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く
其
(
その
)
無情
(
むじやう
)
さ。
126
血
(
ち
)
も
涙
(
なみだ
)
も
通
(
かよ
)
はぬ
男
(
をとこ
)
かなと、
127
怒
(
いか
)
りの
色
(
いろ
)
を
現
(
あら
)
はして、
128
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
男
(
をとこ
)
の
姿
(
すがた
)
を
歯
(
は
)
ぎしりし
乍
(
なが
)
ら
見送
(
みおく
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
129
草枕
(
くさまくら
)
旅
(
たび
)
にし
出
(
い
)
でて
悟
(
さと
)
りけり
130
空
(
そら
)
恐
(
おそ
)
ろしき
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
131
大阪
(
おほさか
)
と
云
(
い
)
へば
日本
(
にほん
)
三大
(
さんだい
)
都会
(
とくわい
)
の
一
(
ひと
)
つ、
132
商業
(
しやうげふ
)
発達
(
はつたつ
)
の
大地
(
だいち
)
で
七福神
(
しちふくじん
)
のみの
楽天地
(
らくてんち
)
と
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つたのに、
133
今
(
いま
)
目
(
ま
)
のあたり
貧児
(
ひんじ
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
を
見聞
(
みきき
)
して、
134
どこへ
行
(
い
)
つても、
135
ヤツパリ
秋
(
あき
)
には
秋
(
あき
)
が
来
(
く
)
る、
136
冬
(
ふゆ
)
はヤツパリ
冬
(
ふゆ
)
だ、
137
暗黒界
(
あんこくかい
)
は
鄙
(
ひな
)
も
都
(
みやこ
)
も
同
(
おな
)
じものだと
溜息
(
ためいき
)
つくつく、
138
『アヽアヽ』と
歎
(
なげ
)
いた
声
(
こゑ
)
が、
139
側
(
そば
)
に
寝
(
ね
)
てゐるおしげ
婆
(
ば
)
アサンの
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
り、
140
おしげ
『コレコレ
喜楽
(
きらく
)
サン、
141
何
(
なに
)
寝言
(
ねごと
)
をいつてるのだ』
142
とゆすり
起
(
おこ
)
されて
気
(
き
)
がついてみれば、
143
狭
(
せま
)
い
餅屋
(
もちや
)
の
四畳半
(
よでふはん
)
に
眠
(
ねむ
)
つてゐた。
144
今
(
いま
)
の
橋
(
はし
)
の
上
(
うへ
)
の
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
の
出来事
(
できごと
)
は
神
(
かみ
)
さまの
御心
(
みこころ
)
によりて、
145
喜楽
(
きらく
)
の
心
(
こころ
)
を
鞭撻
(
べんたつ
)
し、
146
郷里
(
くに
)
に
一人
(
ひとり
)
の
母
(
はは
)
や、
147
老祖母
(
らうそぼ
)
のあることを
思
(
おも
)
ひ
出
(
いだ
)
さしめ、
148
早
(
はや
)
く
帰国
(
きこく
)
させむとの
計
(
はか
)
らひなりしことが
後日
(
ごじつ
)
に
至
(
いた
)
つて
感
(
かん
)
じられた。
149
易者
(
えきしや
)
の
言葉
(
ことば
)
に
励
(
はげ
)
まされ
150
丹波
(
たんば
)
の
国
(
くに
)
へ
帰
(
かへ
)
らむと
151
心
(
こころ
)
の
駒
(
こま
)
に
鞭
(
むち
)
うつて
152
車
(
くるま
)
も
呼
(
よ
)
ばずトボトボと
153
梅田
(
うめだ
)
の
駅
(
えき
)
につきにけり
154
仕度
(
したく
)
なさむと
懐中
(
くわいちう
)
を
155
探
(
さぐ
)
りてみれば
情
(
なさけ
)
ない
156
残
(
のこ
)
りの
金
(
かね
)
は
二銭半
(
にせんはん
)
157
汽車
(
きしや
)
はあれ
共
(
ども
)
乗
(
の
)
るすべも
158
何
(
なん
)
と
線路
(
せんろ
)
の
真中
(
まんなか
)
を
159
一直線
(
いつちよくせん
)
に
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
160
腹
(
はら
)
も
吹田
(
すゐた
)
のうまやぢの
161
茶店
(
ちやみせ
)
にひさぐ
蒸
(
む
)
し
芋
(
いも
)
は
162
栗
(
くり
)
より
甘
(
うま
)
い
十三
(
じふさん
)
里
(
り
)
の
163
道程
(
みちのり
)
一歩
(
いつぽ
)
又
(
また
)
一歩
(
いつぽ
)
164
茨木町
(
いばらぎまち
)
を
北
(
きた
)
に
取
(
と
)
り
165
丹波
(
たんば
)
をさして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
166
頃
(
ころ
)
しも
四
(
し
)
月
(
ぐわつ
)
十五夜
(
じふごや
)
の
167
月
(
つき
)
は
東
(
ひがし
)
の
山
(
やま
)
の
端
(
は
)
に
168
丸
(
まる
)
き
面
(
おもて
)
をあらはして
169
ニコニコ
笑
(
ゑ
)
ませ
玉
(
たま
)
へ
共
(
ども
)
170
夕
(
ゆふ
)
べの
空
(
そら
)
の
何
(
なん
)
となく
171
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しき
一人旅
(
ひとりたび
)
172
東
(
ひがし
)
も
西
(
にし
)
も
南北
(
なんぽく
)
も
173
知人
(
しるひと
)
もなくなく
山路
(
やまみち
)
を
174
空
(
そら
)
の
月
(
つき
)
かげ
力
(
ちから
)
とし
175
一度
(
いちど
)
通
(
とほ
)
りしおろ
覚
(
おぼ
)
えの
176
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
との
谷路
(
たにみち
)
を
177
どこやら
不安
(
ふあん
)
の
心地
(
ここち
)
して
178
岐路
(
きろ
)
ある
所
(
ところ
)
に
停立
(
ていりつ
)
し
179
首
(
くび
)
をかたぐる
時
(
とき
)
も
時
(
とき
)
180
忽
(
たちま
)
ち
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれし
181
怪
(
あや
)
しき
白衣
(
びやくい
)
の
旅人
(
たびびと
)
は
182
四五間
(
しごけん
)
先
(
さき
)
へ
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く
183
喜楽
(
きらく
)
が
進
(
すす
)
めば
彼
(
かれ
)
進
(
すす
)
み
184
立止
(
たちとど
)
まれば
又
(
また
)
止
(
と
)
まり
185
モウシモウシと
声
(
こゑ
)
をかけ
186
呼
(
よ
)
べど
答
(
こた
)
へぬ
白
(
しろ
)
い
影
(
かげ
)
187
或
(
あるひ
)
は
現
(
あら
)
はれ
又
(
また
)
は
消
(
き
)
え
188
変幻
(
へんげん
)
出没
(
しゆつぼつ
)
不思議
(
ふしぎ
)
なり
189
二股道
(
ふたまたみち
)
に
現
(
あら
)
はれて
190
又
(
また
)
もや
案内
(
あない
)
をする
如
(
ごと
)
し
191
怪
(
あや
)
しみ
乍
(
なが
)
らも
力
(
ちから
)
得
(
え
)
て
192
足
(
あし
)
を
運
(
はこ
)
べど
空腹
(
くうふく
)
と
193
疲
(
つか
)
れの
為
(
ため
)
に
進
(
すす
)
みかね
194
眠
(
ねむ
)
けの
鬼
(
おに
)
におそはれて
195
街路
(
がいろ
)
に
転倒
(
てんたふ
)
し
乍
(
なが
)
らも
196
眠
(
ねむ
)
たさ
怺
(
こら
)
へて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
197
西別院
(
にしべつゐん
)
の
村外
(
むらはづ
)
れ
198
下
(
くだ
)
り
坂
(
さか
)
にとさしかかる
199
水
(
みづ
)
さへ
音
(
おと
)
なき
丑
(
うし
)
の
刻
(
こく
)
200
道
(
みち
)
の
片方
(
かたへ
)
の
細谷川
(
ほそたにがは
)
を
201
隔
(
へだ
)
てて
狭
(
せま
)
き
墳墓
(
ふんぼ
)
あり
202
六地蔵
(
ろくぢざう
)
さまを
祀
(
まつ
)
りたる
203
小
(
ちひ
)
さき
屋根
(
やね
)
が
見
(
み
)
えてゐる
204
ここにて
雨露
(
うろ
)
を
凌
(
しの
)
がむと
205
厭
(
いや
)
らし
墓
(
はか
)
と
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
ら
206
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
へと
喜
(
よろこ
)
びて
207
六体
(
ろくたい
)
並
(
なら
)
んだ
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
208
しりへに
身
(
み
)
をば
横
(
よこ
)
たへて
209
手枕
(
てまくら
)
したままグウグウと
210
華胥
(
くわしよ
)
の
国
(
くに
)
へ
上
(
のぼ
)
りゆく
211
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
212
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はへましませよ。
213
あたり
寂然
(
せきぜん
)
として
静
(
しづ
)
まり
返
(
かへ
)
る
時
(
とき
)
しもあれ、
214
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
幻
(
まぼろし
)
か、
215
吾
(
わが
)
枕頭
(
ちんとう
)
に
近
(
ちか
)
く
聞
(
きこ
)
ゆる
女
(
をんな
)
の
忍
(
しの
)
び
泣
(
な
)
く
声
(
こゑ
)
、
216
幽
(
かす
)
かに
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
ると
共
(
とも
)
にフと
目
(
め
)
をさませば、
217
喜楽
(
きらく
)
は
六地蔵
(
ろくぢざう
)
の
後
(
うしろ
)
に
横
(
よこ
)
たはつてゐることに
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いた。
218
喜楽
(
きらく
)
の
頬
(
ほほ
)
に、
219
冷
(
つめ
)
たい
水
(
みづ
)
のしぶきがかかる。
220
キツと
目
(
め
)
をあけて
見
(
み
)
れば
六地蔵
(
ろくぢざう
)
の
前
(
まへ
)
に
余
(
あま
)
り
背
(
せ
)
の
高
(
たか
)
くない、
221
横太
(
よこぶと
)
い
怪
(
あや
)
しい
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
が、
222
赤
(
あか
)
ん
坊
(
ばう
)
を
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
223
土瓶
(
どびん
)
のやうな
物
(
もの
)
を
片手
(
かたて
)
に
提
(
ひつさ
)
げ、
224
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
頭
(
あたま
)
から、
225
『
南無
(
なむ
)
阿弥陀仏
(
あみだぶつ
)
』といひ
乍
(
なが
)
ら、
226
冷
(
つめ
)
たい
水
(
みづ
)
をかけて、
227
何事
(
なにごと
)
か
切
(
しき
)
りに、
228
石地蔵
(
いしぢざう
)
に
訴
(
うつた
)
へてゐるやうである、
229
喜楽
(
きらく
)
は
轟
(
とどろ
)
く
心臓
(
しんざう
)
の
鼓動
(
こどう
)
を
強
(
しひ
)
て
鎮圧
(
ちんあつ
)
し、
230
息
(
いき
)
を
殺
(
ころ
)
して
伺
(
うかが
)
ひ
居
(
を
)
れば、
231
怪
(
あや
)
しき
女
(
をんな
)
の
影
(
かげ
)
は
一歩
(
いつぽ
)
々々
(
いつぽ
)
とゆるぐが
如
(
ごと
)
く、
232
しづしづとして
新
(
あたら
)
しい
墓
(
はか
)
の
前
(
まへ
)
に
到
(
いた
)
り、
233
マツチをすり
蝋燭
(
らふそく
)
を
点
(
てん
)
じ、
234
合掌
(
がつしやう
)
し
乍
(
なが
)
ら
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
になつて、
235
伏
(
ふ
)
し
屈
(
かが
)
んでゐる。
236
石地蔵
(
いしぢざう
)
の
立
(
た
)
つてゐる
隙間
(
すきま
)
から、
237
此
(
この
)
様子
(
やうす
)
を
覗
(
のぞ
)
きみた
喜楽
(
きらく
)
は
俄
(
にはか
)
に
恐怖心
(
きようふしん
)
にかられ、
238
頭
(
あたま
)
の
毛
(
け
)
はちぢみ、
239
体
(
からだ
)
はふるひ
出
(
だ
)
し、
240
寸時
(
すんじ
)
もここに
居
(
ゐ
)
たたまらず、
241
厭
(
いや
)
らしさに
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
さうかと
思
(
おも
)
つたが、
242
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
から
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で、
243
『
待
(
ま
)
て』と
云
(
い
)
ふやうに
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
244
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
自分
(
じぶん
)
は
再
(
ふたた
)
び
胴
(
どう
)
をすえ、
245
直日
(
なほひ
)
に
省
(
かへり
)
りみることを
得
(
え
)
た。
246
……
喜楽
(
きらく
)
は
顕幽
(
けんいう
)
両界
(
りやうかい
)
の
救済者
(
きうさいしや
)
たらむとする
霊学
(
れいがく
)
の
修業者
(
しうげふしや
)
である、
247
今
(
いま
)
幸
(
さいは
)
ひにして
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
怪霊
(
くわいれい
)
に
出会
(
しゆつくわい
)
し、
248
研究
(
けんきう
)
の
好材料
(
かうざいれう
)
を
得
(
え
)
たのは
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
さまの
御心
(
みこころ
)
であらう。
249
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば
天
(
あめ
)
が
下
(
した
)
に
素
(
もと
)
より
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
のあるべき
筈
(
はず
)
がない、
250
何
(
いづ
)
れも
皆
(
みな
)
心
(
こころ
)
の
迷
(
まよ
)
ひから
怖
(
こわ
)
くない
者
(
もの
)
が
怖
(
こわ
)
くなつたりするのである。
251
何
(
なん
)
でもない
者
(
もの
)
を
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
だと
思
(
おも
)
つて、
252
昏迷
(
こんめい
)
誑惑
(
けうわく
)
其
(
その
)
度
(
ど
)
を
失
(
うしな
)
はむとしたのは、
253
何
(
なん
)
たる
卑怯
(
ひけふ
)
であらう。
254
長途
(
ちやうと
)
の
旅
(
たび
)
にて
心身
(
しんしん
)
疲労
(
ひらう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
255
こんな
妄想
(
もうさう
)
に
陥
(
おちい
)
つたのではあるまいか……と、
256
キツと
心胆
(
しんたん
)
を
据
(
す
)
え、
257
目
(
め
)
を
見
(
み
)
はれば
妖怪
(
えうくわい
)
でも
幽霊
(
いうれい
)
でもなく、
258
田舎
(
いなか
)
婦人
(
ふじん
)
が
何事
(
なにごと
)
か
急
(
きふ
)
の
出来事
(
できごと
)
の
為
(
ため
)
に、
259
此
(
この
)
真夜中
(
まよなか
)
に
亡
(
な
)
き
夫
(
をつと
)
の
墓
(
はか
)
に
参
(
まゐ
)
つたのであるらしく、
260
稍
(
やや
)
久
(
ひさ
)
しく
祈
(
いの
)
つた
後
(
のち
)
、
261
『
南無
(
なむ
)
阿弥陀仏
(
あみだぶつ
)
』と
力
(
ちから
)
なげに
口
(
くち
)
ずさみ
乍
(
なが
)
ら、
262
ヨボヨボと
元来
(
もとき
)
し
細谷川
(
ほそたにがは
)
を
渡
(
わた
)
つて、
263
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
は
木立
(
こだち
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
見
(
み
)
えなくなつて
了
(
しま
)
つた。
264
女
(
をんな
)
の
姿
(
すがた
)
の
消
(
き
)
えしより、
265
喜楽
(
きらく
)
も
亦
(
また
)
俄
(
にはか
)
に
恐
(
おそ
)
ろしくなつて
来
(
き
)
た。
266
永居
(
ながゐ
)
はならじとソロソロ
立上
(
たちあが
)
り、
267
頬
(
ほほ
)
かぶりをなし、
268
尻
(
しり
)
をひつからげ、
269
コワゴワ
渓流
(
けいりう
)
を
渡
(
わた
)
り、
270
山路
(
やまみち
)
に
出
(
い
)
でたる
一刹那
(
いちせつな
)
、
271
『
怖
(
こわ
)
いツ!』
272
といふ
子供
(
こども
)
の
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
が、
273
つい
足許
(
あしもと
)
に
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
274
喜楽
(
きらく
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
二度
(
にど
)
ビツクリし
乍
(
なが
)
ら、
275
喜楽
『
何
(
なん
)
にも
怖
(
こわ
)
いことはない、
276
俺
(
おれ
)
は
人間
(
にんげん
)
だ!』
277
と
呼
(
よ
)
ばはりつつ
後
(
あと
)
ふり
向
(
む
)
きもせず、
278
一目散
(
いちもくさん
)
に
足
(
あし
)
の
痛
(
いた
)
みも
忘
(
わす
)
れて、
279
法貴谷
(
ほふきだに
)
の
方
(
はう
)
へと
走
(
は
)
せ
帰
(
かへ
)
るのであつた。
280
(
大正一一・一〇・一〇
旧八・二〇
松村真澄
録)
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【第14章 夜の山路|第37巻|舎身活躍|霊界物語|/rm3714】
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