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第三章 山嵐(やまあらし)〔一一二八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第1篇 波瀾重畳 よみ(新仮名遣い):はらんちょうじょう
章:第3章 山嵐 よみ(新仮名遣い):やまあらし 通し章番号:1128
口述日:1922(大正11)年11月14日(旧09月26日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
照山峠の頂上に登りついたセーラン王の一行は、眼下の原野を見下ろし感慨無量の気に打たれてため息をついていた
そこへシャールに派遣されたヤスダラ姫捜索隊の五人の騎士が馬で登ってきた。騎士はヤスダラ姫を発見し、テルマン国のシャールの館へ帰るようにと声をかけた。
ヤスダラ姫はシャールの不義やひどい仕打ちを上げて、決してシャールの下へは帰らないと騎士に伝えた。
騎士コルトンは力づくでヤスダラ姫を捕えて連れて行こうとしたが、レーブはたちまち騎士たちを投げ飛ばし、コルトンを蹴り倒してしまった。
コルトンは足の痛みが回復すると、四人の騎士を連れて一目散に逃げ出してしまった。王は、シャールの追っ手が徘徊していることに警戒心を抱き、一行は馬を下りて坂を下っていくこととなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-20 13:48:12 OBC :rm4203
愛善世界社版:37頁 八幡書店版:第7輯 655頁 修補版: 校定版:38頁 普及版:11頁 初版: ページ備考:
001 照山峠(てるやまたうげ)頂上(ちやうじやう)馬背(ばはい)(またが)り、002(やうや)(のぼ)りついたセーラン(わう)一行(いつかう)は、003尾上(をのへ)(わた)晩秋(ばんしう)(かぜ)(おもて)()かれ(なが)ら、004眼下(がんか)原野(げんや)瞰下(みおろ)し、005感慨(かんがい)無量(むりやう)()にうたれ、006悲喜(ひき)交々(こもごも)心中(しんちう)往来(わうらい)しつつ(ふと)溜息(ためいき)()いて()る。007無心(むしん)(こま)(うれ)しげに(かしら)(もた)(いなな)くもあり、008(いろ)(かは)つた黄金色(わうごんしよく)芝草(しばくさ)むしるもあり、009人馬(じんば)(とも)(なん)(へだ)てもなく(しば)(こころ)(ゆる)めて浩然(こうぜん)()(やしな)ひつつあつた。010そこへヤスダラ(ひめ)捜索隊(さうさくたい)として()(にん)騎士(きし)(うま)(またが)(のぼ)つて()た。011騎士(きし)一隊(いつたい)は、012ヤスダラ(ひめ)(わう)(はじ)四五(しご)(にん)部下(ぶか)(とも)此処(ここ)悠然(いうぜん)として休息(きうそく)して()るに(きも)(つぶ)し、013()(まる)くし、014(すこ)しく()(ごし)になつて、
015騎士(きし)の一『ヤア、016そこに()らるるはヤスダラ(ひめ)にましまさずや。017(われ)こそはテルマン(ごく)のシヤール殿(どの)より(つか)はされたるコルトンと()騎士(きし)(ござ)る。018いい(ところ)でお()にかかりました。019さアこれから吾々(われわれ)がお(とも)(いた)し、020テルマン(ごく)(かへ)りませう』
021馬上(ばじやう)より(こゑ)(ふる)はせて()ふ。
022ヤスダラ姫『ヤア其方(そなた)はシヤールさまから(たの)まれて()騎士(きし)だな。023遠方(ゑんぱう)のところ、024()苦労(くらう)(ござ)りました。025(しか)しながら、026(わたし)(なん)()はれてもシヤールの(やかた)へは(かへ)りませぬから、027(はや)(かへ)つて(その)(よし)復命(ふくめい)して(くだ)さい。028(また)無実(むじつ)難題(なんだい)鉄牢(てつらう)()()まれては、029(たま)りませぬからな。030ホヽヽヽヽ』
031とヤスダラ(ひめ)神力(しんりき)無双(むさう)神司(かむづかさ)(ともな)うて()るため、032心強(こころづよ)くなり、033平気(へいき)平左(へいざ)で、034顔色(かほいろ)()へず(わら)ひながら(こた)へてゐる。035その大胆(だいたん)さに騎士(きし)益々(ますます)()()まれ、036()(まる)くし、
037コルトン『これはしたり(ひめ)(さま)038左様(さやう)(こと)(あふ)せられては、039吾々(われわれ)(かほ)()ちませぬ。040(けつ)して今後(こんご)左様(さやう)残酷(ざんこく)(こと)はせないと、041シヤールの主人(しゆじん)悔悟(くわいご)して()ましたから、042(かへ)(くだ)さつても大丈夫(だいぢやうぶ)です。043(また)(わたし)がついて()ります以上(いじやう)は、044(けつ)して左様(さやう)(こと)はさせませぬ。045()安心(あんしん)(うへ)何卒(どうぞ)吾々(われわれ)(とも)()帰国(きこく)(ねが)ひます』
046ヤスダラ姫『ホヽヽヽヽ同穴(どうけつ)(むじな)047夜分(やぶん)なれば(だま)されるかも()れませぬが、048なんぼ(やま)(なか)だと()つて、049その(だま)しは()きますまい。050シヤールの()()いても身慄(みぶる)ひが(いた)します。051もう左様(さやう)繰言(くりごと)はこれきり一言(ひとこと)(おつ)シヤールなや。052ホヽヽヽヽ』
053コルトン『これ、054(ひめ)さま、055いや奥様(おくさま)056一生(いつしやう)懸命(けんめい)使命(しめい)(もつ)てお(ねが)(まを)して()るのに、057滑稽(こつけい)(どころ)ぢや(ござ)りますまい。058何卒(どうぞ)貴女(あなた)(さま)婦道(ふだう)(おも)んじ、059(をつと)(めい)(したが)つてお(かへ)(あそ)ばすが正当(せいたう)(ござ)りませう』
060ヤスダラ姫(わたし)飽迄(あくまで)婦道(ふだう)(まも)つて()ました。061今迄(いままで)微塵(みじん)婦道(ふだう)()けた(こと)(いた)した(おぼ)えは(ござ)りませぬ。062それにも(かか)はらず、063(つみ)なき(わたし)鉄窓(てつさう)のもとに()()み、064虐待(ぎやくたい)をなさるやうな(をつと)(いへ)へは、065護身(ごしん)関係(くわんけい)(じやう)剣呑(けんのん)(かへ)(こと)出来(でき)ませぬから、066(これ)までの(えん)(あきら)めて(くだ)さいと伝言(でんごん)して(くだ)さい。067シヤールさまは夫道(ふだう)(まも)(かた)ぢやありませぬ。068一家(いつか)主婦(しゆふ)たる(わたし)(たい)し、069家政(かせい)(じやう)について一回(いつくわい)()相談(さうだん)(あそ)ばすぢやないし、070(つま)無視(むし)して数多(あまた)(いや)しき(をんな)(はべ)らせ、071無限(むげん)侮辱(ぶじよく)(くは)へたお(かた)072仮令(たとへ)()んでも左様(さやう)(ところ)へは滅多(めつた)(かへ)りませぬ。073かうなつたのもシヤールさまの(こころ)(さび)から()()たのですから、074最早(もはや)回復(くわいふく)見込(みこ)みはありませぬ。075覆水盆(ふくすゐぼん)にかへらず、076何程(なにほど)巧妙(かうめう)辞令(じれい)(もつ)籠絡(ろうらく)しようとなさつても、077そりや駄目(だめ)ですよ。078ヤスダラ(ひめ)だつて(すこ)しは精神(せいしん)もありますから、079何時迄(いつまで)無限(むげん)侮辱(ぶじよく)(あま)んずる(こと)出来(でき)ませぬ。080女権(ぢよけん)拡張(くわくちやう)問題(もんだい)持上(もちあが)つた今日(けふ)(この)(ごろ)081たとへ(をんな)(はし)くれでも(をんな)権利(けんり)保護(ほご)する(てん)から()ても、082どうして左様(さやう)馬鹿(ばか)げた(こと)出来(でき)ませうか。083天下(てんか)婦人(ふじん)(たい)しても(わたし)責任(せきにん)がすみませぬ。084………ヤスダラ(ひめ)多数(たすう)婦人(ふじん)面上(めんじやう)(どろ)()つたと()はれては()みませぬ。085最早(もはや)一個(いつこ)婦人(ふじん)として(かんが)ふる(こと)出来(でき)ませぬ。086天下(てんか)婦人(ふじん)代表(だいへう)して、087(をんな)権利(けんり)極力(きよくりよく)保護(ほご)する(わたし)(かんが)へで(ござ)ります。088何時迄(いつまで)(なん)仰有(おつしや)つても金輪(こんりん)奈落(ならく)帰国(きこく)(いた)しませぬ。089何卒(どうぞ)シヤールさまにもこんな不貞腐(ふてくさ)(をんな)()にかけずに、090貴方(あなた)のお()()つた()婦人(ふじん)面白(おもしろ)可笑(をか)しくお(くら)(あそ)ばせと、091ヤスダラ(ひめ)()つたと仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ。092なあコルトンさま、093さうでせう』
094コルトン『さう()けばさうでもありませうが、095そりやあんまり冷淡(れいたん)ぢやありませぬか。096(すこ)しは温情(をんじやう)(こも)つた()返事(へんじ)(うけたま)はらなくては、097如何(どう)して旦那(だんな)(さま)復命(ふくめい)出来(でき)ませうか』
098ヤスダラ姫『ホヽヽヽヽ温情(をんじやう)()いて(あき)れますわ。099(いま)資本家(しほんか)労働者(らうどうしや)(たい)して温情(をんじやう)主義(しゆぎ)だとか()つて、100うまく自分(じぶん)都合(つがふ)のよい標語(へうご)(もち)ひますが、101そんな有言(ゆうげん)不実行(ふじつかう)のやり(かた)はヤスダラ(ひめ)大嫌(だいきら)ひで(ござ)ります。102シヤールさまもテルマン(ごく)大富豪(だいふがう)103(だい)資本家(しほんか)だから、104口癖(くちぐせ)(やう)温情(をんじやう)主義(しゆぎ)をまくし()てて()られましたな。105ホヽヽヽヽ』
106 コルトンは(あたま)()きながら、
107コルトン奥様(おくさま)108貴方(あなた)(にはか)(この)(ごろ)(そら)ぢやないが、109心機(しんき)一転(いつてん)したのぢや(ござ)りませぬか』
110ヤスダラ姫『エー、111辛気(しんき)(くさ)い、112心機(しんき)一転(いつてん)もしませうかいな。113一天(いつてん)(にはか)にかき(くも)ると(おも)へば(たちま)()れる(あき)(そら)114(わたし)(すで)(すで)にシヤールさまからあきられてゐました。115(わたし)もあの(やう)脅迫(けうはく)されたり、116虐待(ぎやくたい)されて虚偽(きよぎ)生活(せいくわつ)をつづける(こと)最早(もはや)(しの)びませぬ。117それよりも(はや)くイルナの都入(みやこい)りをせなくてはなりませぬから、118何卒(どうぞ)(わたし)(かま)はずお(かへ)(くだ)さいませ』
119コルトン『これだけ(まを)()げてもお()(くだ)さらねば、120(わたし)職務(しよくむ)(じやう)()むを()ませぬ。121失礼(しつれい)ながらフン(じば)つてでも()れて(かへ)りますから、122(その)覚悟(かくご)をなさいませ』
123ヤスダラ姫『ホヽヽヽヽ()勝手(かつて)()されませえな。124(わたし)指一本(ゆびいつぽん)でも()へるなら()へて御覧(ごらん)
125 コルトンは部下(ぶか)目配(めくば)せし、126ヤスダラ(ひめ)捕縛(ほばく)せしめむとした。127()(にん)(ひめ)(むか)つて捕縄(とりなは)しごきながら武者(むしや)()りつかむとするを、128レーブは(この)(とき)突然(とつぜん)()(おこ)し、129大音声(だいおんじやう)()()げて、
130レーブ無礼者(ぶれいもの)131狼藉者(らうぜきもの)
132()ひながら、133武者(むしや)()りつかむとする一人(ひとり)襟首(えりくび)をとつてスツテンドウと谷道(たにみち)()げつけた。
134コルトン(なに)135猪口才(ちよこざい)な』
136とコルトンは()(つばき)し、137武者(むしや)()りつくを、138レーブは向脛(むかふずね)をポンと()つた。139コルトンはアツと一声(ひとこゑ)(その)()(たふ)れ、140無念(むねん)()ぎしりをしながら、141向脛(むかふずね)(かほ)(しか)めてさすつて()る。
142レーブ『アハヽヽヽコルトンさまがコルトンと
143(すね)をけられて(ころ)げけるかな。
144テルマンの(くに)より(きた)()(にん)づれ
145照山峠(てるやまたうげ)(あわ)()くなり。
146イヒヽヽヽ(いのち)(をし)くない(やつ)
147ヤスダラ(ひめ)手向(てむか)うてみよ。
148ウフヽヽヽうつかりと手出(てだ)しを(いた)(もの)あらば
149(くび)(どう)とを()けてやるぞよ。
150エヘヽヽヽえら(さう)(なん)ぢやかんぢやと世迷言(よまひごと)
151(ほざ)いたあとの(その)(ざま)()よ。
152オホヽヽヽ(おそ)ろしい大権幕(だいけんまく)でやつて()
153吠面(ほえづら)かわく(あさ)ましの(ざま)
154コルトン『イタヽヽ(あき)れはてたる奥様(おくさま)
155(つよ)(こし)には(たて)もつかれず。
156(つは)つて()(かへ)らうと(おも)ひしに
157(いま)手足(てあし)使(つか)(すべ)なし。
158ロウロと(ひめ)御後(みあと)(した)ひつつ
159(くる)しき破目(はめ)()ひにけるかな。
160()まれて捜索隊(さうさくたい)(ちやう)となり
161九死(きうし)一生(いつしやう)今日(けふ)災難(わざはひ)
162()大蛇(をろち)(とら)(おほかみ)(おそ)れねど
163(ひめ)剛情(がうじやう)(われ)(おどろ)く』
164セーラン『何事(にごと)(かみ)御旨(みむね)(まか)すこそ
165(ひと)のゆくべき真道(まみち)なるらむ。
166西東(しひがし)(みなみ)(きた)天地(あめつち)
167(かみ)(まも)りのしげき()なるよ。
168奴羽玉(ばたま)暗路(やみぢ)辿(たど)(ひと)()
169()けつ(まろ)びつ(のぼ)りつ(くだ)りつ。
170(んごろ)(さと)(こと)()()かずして
171(つれ)なく()りし仇花(あだばな)あはれ。
172()(やま)もはや羽衣(はごろも)()ぎすてて
173(ふる)(をのの)くコルトンの(むね)
174コルトン『腹立(らだ)たし(たうげ)(うへ)(たふ)されて
175さがる(よし)なし(むね)溜飲(りういん)
176昼夜(るよる)(たづ)ねまはりし甲斐(かひ)もなく
177こんな憂目(うきめ)()うた(かな)しさ。
178()(ちか)照山峠(てるやまたうげ)木枯(こがらし)
179()かれながらに(あわ)()くなり。
180屁放(つぴ)りの葦毛(あしげ)(うま)(またが)つて
181ここで(また)もや閉口(へいこう)頓首(とんしゆ)す。
182ほめられて手柄(てがら)をしようと(おも)ひしに
183()(くぢ)かれて(いた)()るなり』
184竜雲(りううん)枉神(がかみ)(しこ)尾先(をさき)使(つか)はれて
185わが()()らずの馬鹿(ばか)なコルトン。
186()()へてヤスダラ(ひめ)(とら)へむと
187(うそ)筑紫(つくし)(うま)()られつ。
188(かし)より(いま)(かは)らぬ(かみ)(みち)
189(すす)真人(まびと)()むる(おろ)かさ。
190(づら)しや照山峠(てるやまたうげ)頂上(ちやうじやう)
191神代(かみよ)()かぬ芝居(しばゐ)()るかな。
192諸々(ろもろ)(たく)みを(むね)(いだ)きたる
193(しこ)(つかさ)()(うへ)あはれ』
194カル『惟神(むながら)(かみ)大道(おほぢ)(すす)()
195(こころ)(こま)(いさ)()つなり。
196()()らぬ(をつと)()てて(かへ)()
197(ひめ)()()(きた)馬鹿者(ばかもの)
198()しさを(こら)へて(すね)をなでながら
199まだ()りずまに事騒(ことさわ)ぐかな。
200()しからぬシヤールの(まが)使(つか)はれて
201(こま)ひき(いだ)(ひと)(あは)れさ。
202此処()(いま)(こころ)(こま)()(なほ)
203(つみ)重荷(おもに)もカルに(すく)はれむ』
204テームス『坂道(かみち)(のぼ)りて()ればコルトンが
205(ひめ)(もと)めて()るに出会(であ)ひぬ。
206トシトと手綱(たづな)かいくり(こま)()
207(またが)(きた)(まが)捕手(とりて)()
208ワコソと捕縄(とりなは)とつて(ひめ)(まへ)
209(せま)()もなく(あし)()られつ。
210()(はら)()へられぬとてコルトンが
211強談判(こはだんぱん)(こし)()けたり。
212曾志毛里(しもり)(さと)天降(あも)りし素盞嗚(すさのを)
213(かみ)(いまし)()のあたり()るも』
214 コルトンは(やや)(あし)(いた)みも恢復(くわいふく)したれば、215手早(てばや)(うま)打乗(うちの)り、216()(にん)騎士(きし)目配(めくば)せしながら、217照山峠(てるやまたうげ)一目散(いちもくさん)(うま)手綱(たづな)をひきしめひきしめ、218生命(いのち)からがら()(かへ)()く。219あと見送(みおく)つてヤスダラ(ひめ)(また)(うた)ふ。
220ヤスダラ姫『はるばると(わらは)(あと)(たづ)()
221シホシホ(かへ)(ひと)(あは)れさ。
222(わらは)とて(おに)にあらねば()(なか)
223(ひと)なやめむと(おも)はざりしよ。
224(おも)はずも(われ)()ひくる捕人(とりうど)
225なやめまつりし(こと)(くる)しさ。
226さりながら(まぬが)(がた)(この)場合(ばあひ)
227見直(みなほ)(たま)天地(あめつち)(かみ)
228()げて()後姿(うしろすがた)()るにつけ
229(かな)しくなりぬ(こころ)さやぎぬ』
230セーラン『()むを()出来事(できごと)なりと天地(あめつち)
231(かみ)見直(みなほ)(ゆる)(たま)はむ』
232竜雲(りううん)(つと)むべき(こと)のさはなる()(なか)
233捕手(とりて)となりし(ひと)(あは)れさ』
234テームス『(かれ)とても(うま)れついての(まが)ならじ
235やがて(まこと)(みち)目覚(めざ)めむ』
236レーブ『照山(てるやま)(たうげ)()ちて()げて()
237(ひと)姿(すがた)()るぞうたてき』
238カル『天地(あめつち)(かみ)(まも)りの(あつ)くして
239虎口(ここう)(のが)(たま)ひたる(きみ)
240いざさらば(こま)(またが)りシトシトと
241(みやこ)()して(すす)()くべし』
242セーラン『シヤールの(つか)はした騎士(きし)が、243最早(もはや)此処(ここ)まで(ひめ)在処(ありか)(たづ)ねて(すす)(きた)(うへ)は、244(けつ)して油断(ゆだん)はなるまい。245(この)(たうげ)(くだ)れば益々(ますます)危険(きけん)区域(くゐき)だ。246(また)坂路(さかみち)乗馬(じやうば)(かへつ)剣呑(けんのん)千万(せんばん)247(こま)(くち)をとつてソロソロ(くだ)らうではないか。248(なん)とはなしに胸騒(むなさわ)がしくなつて()た。249サア、250一同(いちどう)()かう』
251(さき)()ち、252急坂(きふはん)(くだ)()く。
253 一行(いつかう)(わう)(あと)(したが)ひ、254(こま)()()れ、255ハイハイハイと(こゑ)をかけながら(くだ)()く。
256大正一一・一一・一四 旧九・二六 北村隆光録)
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