霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 失恋(しつれん)会議(くわいぎ)〔一一四一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第4篇 怨月恨霜 よみ(新仮名遣い):えんげつこんそう
章:第16章 失恋会議 よみ(新仮名遣い):しつれんかいぎ 通し章番号:1141
口述日:1922(大正11)年11月17日(旧09月29日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
右守館の奥の間では、サマリー姫とサモア姫が右守の行動を怪しみ、心を痛めながら善後策を話し合っていた。
サモア姫とマンモスの探偵によって、右守がヤスダラ姫に恋慕してうつつを抜かしていることはサマリー姫にも報告されていた。また、ヤスダラ姫とカールチンの間を取り持ったのはのはユーフテスであることも知られていた。
二人はマンモスを呼び、カールチンが今どこにいるかを探ってくるようにと言いつけた。マンモスは、今日はサモア姫と婚礼を上げる日だと勝手に思い込んでおり、サモア姫に約束の履行を迫った。サモア姫はそんな約束をした覚えはないとマンモスを退けた。
サモア姫に振られたマンモスは、捨て台詞を残して去ったが、傷心のあまり犬猿の仲であったユーフテスの館を尋ね、自分の恋の顛末を打ち明けた。白狐のセーリス姫になぶられたユーフテスも恋の傷心を分かち合った。
そこへカールチンが血相を変えてやってきた。カールチンは自分が偽のヤスダラ姫にだまされていたことを明かした。
三五教の宣伝使たちにだまされていたことを知った三人は、今晩城内に忍び込んで仇たちを殺害しようと謀議をこらしていた。ユーフテスの下女チールは三人の計画を立ち聞きしてしまい、サマリー姫にすっかり報告した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-26 15:38:48 文字数:3406 OBC :rm4216
愛善世界社版:193頁 八幡書店版:第7輯 711頁 修補版: 校定版:198頁 普及版:81頁 初版: ページ備考:
001 右守(うもり)の館(やかた)の奥(おく)の一間(ひとま)には、002サマリー姫(ひめ)とサモア姫(ひめ)の二人(ふたり)が、003此(この)頃(ごろ)右守司(うもりのかみ)の行動(かうどう)の何(なん)となく遽(そはそは)として落着(おちつ)きのないのに心(こころ)を痛(いた)めつつ、004密々(ひそびそ)と前後策(ぜんごさく)を攻究(こうきう)しつつあつた。
005サマリー姫『サモア殿(どの)、006其方(そなた)は此(この)頃(ごろ)の父上(ちちうへ)の御(ご)様子(やうす)に就(つい)て、007何(なに)か不思議(ふしぎ)に思(おも)ふ事(こと)はないか、008私(わたし)何(な)ンだか心配(しんぱい)になつて仕方(しかた)がないのよ。009母上(ははうへ)がハルナ国(こく)へ御(ご)出陣(しゆつぢん)になつてからは、010家(いへ)を外(そと)にして出歩(である)き通(どほ)し、011家事(かじ)一切(いつさい)は其方除(そつちの)けの有様(ありさま)、012それに合点(がてん)の行(ゆ)かぬは俄(にはか)に髪(かみ)を揃(そろ)へたり髯(ひげ)をいぢつたり、013男(をとこ)の癖(くせ)に顔(かほ)に白粉(おしろい)を塗(ぬ)つたり眉(まゆ)を揃(そろ)へたり、014衣服(いふく)を毎日(まいにち)着替(きか)へたり、015まるで若(わか)い男(をとこ)のする様(やう)な事(こと)ばかり為(し)て居(を)られるぢやありませぬか。016大方(おほかた)ヤスダラ姫(ひめ)さまに口先(くちさき)でチヨロマカされて、017アンナ狂気(きやうき)じみた事(こと)を為(な)さるのぢやなからうかと、018案(あん)じられて仕様(しやう)がありませぬよ』
019サモア姫『私(わたし)の察(さつ)する所(ところ)では、020旦那(だんな)様(さま)はどうやらヤスダラ姫(ひめ)様(さま)に恋慕(れんぼ)遊(あそ)ばされ、021現(うつつ)をぬかして居(ゐ)らつしやる様(やう)に思(おも)はれます。022マンモスの話(はなし)から考(かんが)へて見(み)ると、023旦那(だんな)には大変(たいへん)な悪魔(あくま)が付(つ)けねらつて居(ゐ)る様(やう)ですわ。024コリヤどうしても姫(ひめ)さまから一応(いちおう)御(ご)諫言(かんげん)をして戴(いただ)かねば、025到底(たうてい)私(わたし)なぞが御(お)諫(いさ)め申上(まをしあ)げてもダメですわ』
026サマリー姫『困(こま)つた事(こと)がで来(き)ましたなア。027父(ちち)は到底(たうてい)私(わたし)どもの言(い)ふ事(こと)は耳(みみ)に入(い)れる気遣(きづか)ひはないから、028旦那(だんな)様(さま)の御(ご)信任(しんにん)厚(あつ)きユーフテスから申上(まをしあ)げる様(やう)にしたらドンなものだらうかな』
029サモア姫『それは全然(ぜんぜん)ダメでせうよ。030ユーフテスが旦那(だんな)様(さま)の精神(せいしん)を混乱(こんらん)させたのですもの』
031サマリー姫『あのユーフテスが? そんな事(こと)を父上(ちちうへ)に勧(すす)めたのかい。032何(な)ンとマア悪(わる)い男(をとこ)だなア。033これからユーフテスを呼(よ)び出(だ)して厳重(げんぢう)に調(しら)べて見(み)ませう。034コレコレ、035マンモス、036其処(そこ)に居(ゐ)ないか、037一寸(ちよつと)用事(ようじ)がある。038早(はや)く来(き)て下(くだ)さい』
039と呼(よ)ばはる声(こゑ)に襖(ふすま)を押開(おしあ)けて入(い)り来(きた)るはマンモスであつた。040彼(かれ)は二人(ふたり)の密談(みつだん)を不道徳(ふだうとく)にも隣室(りんしつ)に息(いき)を殺(ころ)して立聞(たちぎ)きして居(ゐ)たのであつた。
041マンモス『姫(ひめ)さま、042御(お)呼(よ)びになつたのは私(わたくし)で御座(ござ)りますか。043何(なん)なりと、044御用(ごよう)を仰(あふ)せ付(つ)け下(くだ)さりませ』
045サマリー『アヽマンモス、046偉(えら)う早(はや)いぢやないか。047大方(おほかた)最前(さいぜん)からの二人(ふたり)の談話(だんわ)をすつかり聞(き)いて了(しま)つたのだらう』
048マンモス『ハイ御(ご)推量(すゐりやう)に違(たが)はず、049一切(いつさい)の経緯(いきさつ)を残(のこ)らず承(うけたま)はりました。050実(じつ)に困(こま)つた事(こと)になりましたねえ。051是(これ)と云(い)ふも全(まつた)くユーフテスの為(な)す行(わざ)で、052決(けつ)して旦那(だんな)様(さま)の心(こころ)より出(で)た事(こと)ではありませぬ。053それだからマンモスが何時(いつ)も旦那(だんな)様(さま)や奥様(おくさま)始(はじ)め姫(ひめ)様(さま)にも申上(まをしあ)げたでせう。054ユーフテスは実(じつ)に右守家(うもりけ)の爆裂弾(ばくれつだん)だから、055一(いち)時(じ)も早(はや)く放逐(はうちく)遊(あそ)ばし、056彼(かれ)の代(かは)りに此(この)マンモスを御(ご)採用(さいよう)下(くだ)されと。057私(わたし)は決(けつ)して私利(しり)私欲(しよく)に駆(か)られて人(ひと)を落(おと)し、058自分(じぶん)が出世(しゆつせ)をしようと思(おも)ふやうなケチな心(こころ)ではありませぬ。059只々(ただただ)お家(いへ)の大事(だいじ)を思(おも)へばこそ、060死(し)を決(けつ)して御(ご)忠告(ちうこく)申上(まをしあ)げたのです』
061サマリー姫『兎(と)も角(かく)もお前(まへ)御(ご)苦労(くらう)だが、062父上(ちちうへ)の在処(ありか)を一(いち)時(じ)も早(はや)く探(さぐ)つて連(つ)れ帰(かへ)つてお呉(く)れ。063愚図(ぐづ)々々(ぐづ)しては居(を)られないから』
064マンモス『エヽ承知(しようち)致(いた)しました。065併(しか)しながら今日(けふ)は貴女(あなた)様(さま)の予(かね)ての御(おん)許(ゆる)しのサモア姫(ひめ)と改(あらた)めて夫婦(ふうふ)の結婚(けつこん)をなすべきマンモス一生(いつしやう)の大事(だいじ)の日(ひ)で厶(ござ)りますから、066何卒(なにとぞ)此(この)御用(ごよう)はハルマンに申付(まをしつ)けて下(くだ)さいませ。067私(わたくし)一生(いつしやう)の祝日(しゆくじつ)ですから、068今日(けふ)一(いち)日(にち)や二日(ふつか)に旦那(だんな)様(さま)がドウカウといふ訳(わけ)でありませぬからなア』
069サマリー姫『コレコレ マンモス、070お前(まへ)とそんな約束(やくそく)は私(わたし)はした覚(おぼえ)はない。071神妙(しんめう)に忠義(ちうぎ)を竭(つく)した暁(あかつき)は、072都合(つがふ)に依(よ)つたらサモア姫(ひめ)の様(やう)な美人(びじん)をお前(まへ)の女房(にようばう)にしてやらうと言(い)つたまでだよ。073斯(か)う言(い)ふと済(す)まぬが、074先達(せんだつ)ての様(やう)に左守(さもり)の邸宅(ていたく)へ忍術(にんじゆつ)を以(もつ)て忍(しの)び込(こ)み、075下手(へた)をして捕(とら)へられ、076男(をとこ)らしくもない、077主人(しゆじん)に頼(たの)まれた秘密(ひみつ)まで悉皆(すつかり)敵方(てきがた)に打明(うちあ)けて、078生命(いのち)を惜(をし)み逃(に)げ帰(かへ)つて来(く)る様(やう)な卑怯(ひけふ)な男(をとこ)には、079何程(なにほど)サモア姫(ひめ)だつて愛想(あいさう)を尽(つ)かさずには居(を)られないぢやないかえ。080モウそんな野望(やばう)は思(おも)ひ切(き)つたが宜(よ)からう。081第一(だいいち)家筋(いへすぢ)からして段(だん)が違(ちが)つてるのだから』
082マンモス『ハイ宜敷(よろし)う厶(ござ)います。083一寸(いつすん)の虫(むし)にも五分(ごぶ)の魂(たましひ)、084月夜(つきよ)ばかりぢやありませぬ。085暗(やみ)の夜(よ)もありますから、086随分(ずゐぶん)御(ご)注意(ちうい)なさいませ。087サマリー姫(ひめ)様(さま)、088サモア殿(どの)、089左様(さやう)なら』
090と凄(すご)い文句(もんく)を残(のこ)してスタスタと足音(あしおと)荒(あら)く表(おもて)を指(さ)して出(で)て行(い)つた。
091 後見送(あとみおく)つて両人(りやうにん)は、092暫(しば)し茫然(ばうぜん)として居(ゐ)た。
093サマリー姫『オホヽヽヽ何(なん)と男(をとこ)の恋(こひ)に呆(はう)けたのは見(み)つともないものだなア。094サモア殿(どの)、095あのスタイルを御覧(ごらん)になつたら、096定(さだ)めし満足(まんぞく)でせうなア』
097サモア姫『オホヽヽヽ、098心(こころ)の底(そこ)から、099属根(ぞつこん)嫌(いや)になつて了(しま)ひますわ。100エヘヽヽヽ』
101 話変(はなしかは)つて、102マンモスは二人(ふたり)の女(をんな)に手痛(ていた)き肱鉄(ひぢてつ)の言霊(ことたま)を浴(あ)びせられ、103無念(むねん)やる方(かた)なく、104失恋者(しつれんしや)同士(どうし)の応援(おうゑん)を求(もと)めむため、105犬猿(けんゑん)も啻(ただ)ならざりしユーフテスの館(やかた)へさして、106トントントントン駆(か)けて行(ゆ)く。107ユーフテスはマンモスの来訪(らいほう)に際(さい)し、108一度(いちど)も吾(わが)家(や)の敷居(しきゐ)を跨(また)げた事(こと)がないマンモスが飛(と)んで来(き)たのは、109唯事(ただごと)ではあるまいと、110いつもなら塩(しほ)振(ふ)りかけて箒(はうき)を立(た)てる処(ところ)だが、111自分(じぶん)も失恋(しつれん)の結果(けつくわ)、112何(なん)となく心細(こころぼそ)くなつて居(ゐ)たので、113いつもの敵(てき)も今日(けふ)は強(つよ)い味方(みかた)が出来(でき)たやうな心持(こころもち)で門口(もんぐち)に迎(むか)へに出(い)で、
114ユーフテス『ヤア、115マンモス殿(どの)、116其(その)慌(あわ)て方(かた)は何(なん)で厶(ござ)るか。117よもやサモア鉄道(てつだう)の脱線(だつせん)顛覆(てんぷく)ではありませぬかなア』
118マンモス『脱線(だつせん)も顛覆(てんぷく)も通(とほ)り越(こ)えて、119メチヤメチヤに破壊(はくわい)してしまひましたよ。120セーリス姫(ひめ)さまはどうなりましたか』
121ユーフテス『どうなつたか、122かうなつたか、123サツパリ見当(けんたう)が付(つ)かないのですよ。124彼奴(あいつ)は、125ババ化物(ばけもの)でした』
126マンモス『ヘーン、127あのセーリス姫(ひめ)が……どう云(い)ふ意味(いみ)の化物(ばけもの)ですか。128矢張(やは)りサモア姫(ひめ)のやうに貴方(あなた)を今(いま)まで甘(うま)くチヨロまかし、129最後(さいご)の五(ご)分間(ふんかん)になつて伏兵(ふくへい)が現(あら)はれ、130クリツプ砲(はう)で砲撃(はうげき)と出(で)かけたのですか』
131ユーフテス『何(なに)、132それならまだ気(き)が利(き)いて居(ゐ)るが、133セーリス姫(ひめ)と思(おも)つたのは大変(たいへん)な古狐(ふるぎつね)でしたよ。134大方(おほかた)狐(きつね)の奴(やつ)、135本物(ほんもの)のセーリス姫(ひめ)をいつの間(ま)にかバリバリとやつて了(しま)ひ、136旨(うま)く化(ば)けて居(ゐ)やがつたと見(み)えますわい、137いやもう女(をんな)には懲(こ)り懲(こ)りだ。138今(いま)思(おも)ひ出(だ)してもゾツとするやうだ』
139マンモス『何(なに)、140そんな事(こと)があるものか。141今朝(けさ)もセーリス姫(ひめ)さまが本当(ほんたう)に心配(しんぱい)して「此(この)頃(ごろ)ユーフテスさまのお顔(かほ)が見(み)えぬ」と云(い)うて居(ゐ)たよ。142併(しか)し彼奴(あいつ)もサモアの亜流(ありう)だ。143惚(ほ)れられて居(ゐ)たと思(おも)ふと違(ちが)ふから、144まア断念(だんねん)するのだなア』
145ユーフテス『如何(いか)にも断念(だんねん)(残念)至極(しごく)だ。146併(しか)しながら、147右守(うもり)の神(かみ)様(さま)のレコはどうなつたらう、148此(この)間(あひだ)から舌(した)を痛(いた)めたので外出(ぐわいしゆつ)もせず燻(くす)ぼつて居(ゐ)たので、149一寸(ちよつと)も御(ご)様子(やうす)が分(わか)らぬが、150キツト、151アフンの幕(まく)が下(お)りたに違(ちが)ひなからうなア』
152マンモス『サア其(その)事(こと)について、153大変(たいへん)サマリー姫(ひめ)とサモアとが御(ご)心配(しんぱい)の体(てい)だ。154俺(おれ)もそれを思(おも)ふと大変(たいへん)気(き)の毒(どく)で堪(た)へられぬ……事(こと)はないわい。155いや寧(むし)ろ小気味(こきみ)がよいやうだ』
156 かく話(はな)す処(ところ)へ門口(かどくち)より、
157(カールチン)『ユーフテス ユーフテス』
158と呼(よ)びながら入(い)り来(きた)るは右守(うもり)の司(かみ)のカールチンであつた。159ユーフテスは、160其(その)姿(すがた)を見(み)て口(くち)を尖(とが)らし、
161ユーフテス『ヤア旦那(だんな)様(さま)、162血相(けつさう)変(か)へて、163何事(なにごと)で厶(ござ)いますか』
164カールチン『ヤア大変(たいへん)だ大変(たいへん)だ。165王(わう)が二(ふた)つもあり、166ヤスダラ姫(ひめ)が二人(ふたり)も居(ゐ)るのだから、167あんまり恐(おそ)ろしくて居(を)られた態(ざま)ぢやない。168スツテの事(こと)で……無事(ぶじ)に命(いのち)が助(たす)かるかと思(おも)つた城内(じやうない)は、169どいつもこいつも化物(ばけもの)ばかりだ。170甘(うま)い事(こと)、171柔(やさ)しい事(こと)吐(ぬか)しやがつて俺(おれ)達(たち)を安心(あんしん)させ、172ソツと召(め)しとらうといふ計劃(けいくわく)だから、173俺(おれ)も強者(しれもの)、174改心(かいしん)したやうな顔(かほ)をして歌(うた)をよんで其(その)場(ば)を誤魔化(ごまくわ)し、175便所(べんじよ)へ行(ゆ)くと云(い)つて便所(べんじよ)の穴(あな)からソツと逃(に)げて帰(かへ)つた所(ところ)だ。176何(なん)でも一人(ひとり)は本物(ほんもの)で一人(ひとり)は化物(ばけもの)だ。177もうかう露顕(ろけん)した上(うへ)はユーフテス、178お前(まへ)も助(たす)かるまい、179俺(おれ)もどうかせなけりやならないと、180此処(ここ)へ相談(さうだん)に来(き)たのだ。181ヤア、182マンモス、183貴様(きさま)も此処(ここ)へ来(き)て居(ゐ)たのか、184三(さん)人(にん)寄(よ)れば文珠(もんじゆ)の智慧(ちゑ)だから、185此処(ここ)一(ひと)つ相談(さうだん)をしようぢやないか』
186ユーフテス『旦那(だんな)様(さま)、187あの奥(おく)の間(ま)から、188セーラン王(わう)の声音(こわね)を使(つか)つて居(ゐ)るのは、189三五教(あななひけう)の黄金姫(わうごんひめ)と云(い)ふ奴(やつ)です。190さうしてヤスダラ姫(ひめ)と名乗(なの)つて居(ゐ)る奴(やつ)は、191矢張(やはり)贋者(にせもの)で三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、192清照姫(きよてるひめ)と云(い)ふ、193鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)の妻子(さいし)ですよ』
194カールチン『そんな詳(くは)しい事(こと)を貴様(きさま)は誰(たれ)に聞(き)いたのか』
195ユーフテス『何(なん)と云(い)うても蛇(じや)の道(みち)は蛇(へび)ですわ。196或(ある)方法(はうはふ)をもつてすつかり偵察(ていさつ)しましたわい』
197カールチン『そいつは大変(たいへん)だ。198愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して居(ゐ)ては俺(おれ)達(たち)の命(いのち)がなくなるかも知(し)れないぞ。199サア今晩(こんばん)のうちに吾々(われわれ)三(さん)人(にん)が城内(じやうない)に忍(しの)び込(こ)み、200一人(ひとり)も残(のこ)らず斬(き)り殺(ころ)して了(しま)はねば、201枕(まくら)を高(たか)うする事(こと)は出来(でき)まいぞ』
202マンモス『こんどは忍術(にんじゆつ)の奥(おく)の手(て)を出(だ)しますから滅多(めつた)に失敗(しつぱい)は致(いた)しませぬ。203サアお二人(ふたり)様(さま)、204奥(おく)へお出(いで)なさいませ。205私(わたし)が秘密(ひみつ)を教(をし)へます』
206と奥(おく)の離室(はなれ)に進(すす)み入(い)る。207茲(ここ)に三(さん)人(にん)は今夜(こんや)の十二(じふに)時(じ)を期(き)して、208黄金姫(わうごんひめ)以下(いか)重(おも)なる幹部(かんぶ)を殺害(さつがい)せむと、209鳩首(きうしゆ)謀議(ぼうぎ)をこらして居(ゐ)た。210ユーフテスの家(いへ)に仕(つか)へて居(ゐ)る下女(げぢよ)のチールは三(さん)人(にん)の隠謀(いんぼう)を残(のこ)らず立聞(たちぎ)きし、211何(なに)食(く)はぬ顔(かほ)をして、212そつと裏口(うらぐち)をぬけ出(だ)し、213右守(うもり)の娘(むすめ)サマリー姫(ひめ)にその顛末(てんまつ)をすつかり密告(みつこく)して了(しま)つた。214サマリー姫(ひめ)は今後(こんご)如何(いか)なる活動(くわつどう)をなすであらうか。
215(大正一一・一一・一七 旧九・二九 加藤明子録)
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