霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 墓場(はかば)の怪(くわい)〔一一三五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第3篇 意変心外 よみ(新仮名遣い):いへんしんがい
章:第10章 墓場の怪 よみ(新仮名遣い):はかばのかい 通し章番号:1135
口述日:1922(大正11)年11月15日(旧09月27日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
右守はいい機嫌で歌を歌いながら城への道を歩いていると、セーリス姫と白狐におどかされて逃げてきたユーフテスに突き当てられ、道の真ん中に倒れてしまった。
カールチンは怒って怒鳴りつけた。ユーフテスはこの声に、突き当たったのが右守であることを覚った。ユーフテスは白狐におどかされて意味のわからないことを右守に報告している。
カールチンはユーフテスが肘鉄を食わされたのだろうと意にも留めずに城に行こうとするのを、しがみついて止めた。とうとう止めきれずに手を放したとたんに、カールチンは勢い余って小栗の森に飛び込んだ。
この森にはイルナの城に仕えて居た先祖の墓があった。カールチンは石塔に頭を打って倒れてしまった。
気が付くと、あたりは夕闇となっていた。カールチンは石塔の後ろから狸に話しかけられ、追い払った。
やがて提灯をともしたヤスダラ姫が、小栗の森の墓場の道をやってくるのが見えた。カールチンは、大きな眼をした古狸ことをヤスダラ姫に話した。
ヤスダラ姫はこんな眼か、と大声を出した。カールチンが見ると、ヤスダラ姫の口は耳まで裂け、蛇の目傘のような目をむいていた。カールチンは驚いて闇の道をイルナの城門さして逃げていく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-23 14:16:51 文字数:4098 OBC :rm4210
愛善世界社版:133頁 八幡書店版:第7輯 690頁 修補版: 校定版:137頁 普及版:55頁 初版: ページ備考:
001カールチン『イルナの都(みやこ)に名(な)も高(たか)き
002右守(うもり)の司(かみ)と仕(つか)へたる
003吾(われ)は賢(かしこ)きカールチン
004千思(せんし)万慮(ばんりよ)の其(その)結果(けつくわ)
005バラモン教(けう)の大棟梁(だいとうりやう)
006大黒主(おほくろぬし)のお見出(みだ)しに
007預(あづ)かりまして今(いま)ははや
008右守(うもり)の司(かみ)を尊(たふと)しと
009思(おも)うた事(こと)も夢(ゆめ)となり
010左守(さもり)や右守(うもり)を使(つか)ふ身(み)の
011イルナの都(みやこ)の刹帝利(せつていり)
012セーラン王(わう)の後(あと)を継(つ)ぎ
013時(とき)めき渡(わた)るも目(ま)のあたり
014うれしき事(こと)が重(かさ)なれば
015よくも重(かさ)なるものだなア
016天女(てんによ)を欺(あざむ)く美貌(びばう)持(も)ち
017ヤスダラ姫(ひめ)に慕(した)はれて
018思(おも)はず知(し)らず顔(かほ)の皺(しわ)
019俄(にはか)にのびて来(き)たやうだ
020文珠(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)の再来(さいらい)か
021曾富戸(そほど)の神(かみ)の生宮(いきみや)か
022何(なん)だか知(し)らぬが俺(おれ)は又(また)
023尊(たふと)き知識(ちしき)があるだらう
024古(ふる)くなつたるテーナ姫(ひめ)
025どうしてやろかと朝夕(あさゆふ)に
026思案(しあん)なげ首(くび)息(いき)を吐(つ)き
027困(こま)りぬいたる折(をり)もあれ
028ヤスダラ姫(ひめ)の忠告(ちうこく)に
029渡(わた)りに船(ふね)と喜(よろこ)んで
030テーナの姫(ひめ)に遥々(はるばる)と
031軍(いくさ)を率(ひき)ゐて遠国(ゑんごく)に
032出陣(しゆつぢん)せよと命(めい)ずれば
033天下(てんか)に武名(ぶめい)を現(あら)はして
034イルナの花(はな)と謳(うた)はれむ
035あゝ面白(おもしろ)しと勇(いさ)み立(た)ち
036進(すす)み行(ゆ)くこそ嬉(うれ)しけれ
037定(さだ)めしテーナは途中(とちう)にて
038敵(てき)の軍勢(ぐんぜい)に出会(でつくは)し
039奮戦(ふんせん)苦闘(くとう)の其(その)結果(けつくわ)
040必(かなら)ず討死(うちじに)するだらう
041さうなりや俺(おれ)の活舞台(くわつぶたい)
042これから自由(じいう)に開(ひら)け往(ゆ)く
043畳(たたみ)の古(ふる)くなつたのと
044居宅(きよたく)が焼(や)けて女房(にようばう)が
045死(し)んだのは泣(な)き泣(な)き新(あたら)しく
046なるものなりと聞(き)く上(うへ)は
047ほんに嬉(うれ)しい俺(わし)の胸(むね)
048もはや女房(にようばう)に対(たい)しては
049絶対(ぜつたい)気兼(きがね)はいるまいぞ
050あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
051梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
052神(かみ)の御(おん)目(め)に叶(かな)うたか
053よい事(こと)ばかりが続々(ぞくぞく)と
054吾(わが)身(み)を襲(おそ)うて来(き)たやうだ
055それはさておき今頃(いまごろ)は
056ヤスダラ姫(ひめ)は首(くび)のばし
057カールチンさまはなぜ遅(おそ)い
058心(こころ)変(かは)つたのぢやあるまいか
059何(なん)とはなしに気(き)がもめる
060一時(いつとき)さへも千秋(せんしう)の
061思(おも)ひがすると首(くび)のばし
062案(あん)じて待(ま)つて居(ゐ)るだらう
063エヘヽヽヘツヘ エヘヽヽヽ
064イヒヽヽヒツヒイあゝぼろい
065年(とし)をとつたと思(おも)へども
066惚(ほ)れた女(をんな)の眼(まなこ)より
067見(み)た時(とき)や若(わか)く見(み)えるのか
068ほんに合点(がてん)のゆかぬ事(こと)
069さはさりながらカールチン
070色(いろ)は黒(くろ)ても跛(びつこ)でも
071惚(ほ)れた弱身(よわみ)の姫(ひめ)様(さま)の
072心(こころ)にうつるは天教(てんけう)の
073山(やま)に在(ま)します日(ひ)の出別(でわけ)
074司(つかさ)の如(ごと)くに見(み)えるだらう
075俺(おれ)は矢張(やつぱ)り女(をんな)等(ら)に
076もてる男(をとこ)に違(ちが)ひない
077エヘヽヽヘヽヽヽエヘヽヽヽ
078涎(よだれ)の奴(やつ)めが知(し)らぬ間(ま)に
079俺(おれ)に許(ゆる)しもうけぬ間(ま)に
080勝手(かつて)気儘(きまま)に流(なが)れよる
081アハヽヽヽヽヽ面白(おもしろ)い
082此奴(こいつ)また偉(えら)いエラしこぢや
083右守(うもり)の司(かみ)も恋路(こひぢ)には
084話(はなし)にならぬ呆(とぼ)け方(かた)
085嘸(さぞ)や他人(たにん)が見(み)たならば
086吹(ふ)き出(だ)すだらうと思(おも)へども
087そこがかはつた恋(こひ)の路(みち)
088唐変木(たうへんぼく)には分(わか)らない
089アイタヽタツタ躓(つまづ)いた
090誰(たれ)だか知(し)らぬがスタスタと
091向(むか)ふの方(はう)からやつて来(く)る
092もうよい加減(かげん)に切(き)り上(あ)げて
093惚(のろ)けの歌(うた)はやめようか
094勿体(もつたい)なやと思(おも)へども
095心猿(しんゑん)意馬(いば)奴(め)が狂(くる)ひたち
096中々(なかなか)容易(ようい)にや納(をさ)まらぬ
097ヤスダラ姫(ひめ)の事(こと)思(おも)や
098思(おも)はず知(し)らずドシドシと
099自然(しぜん)に足(あし)が早(はや)くなる
100女(をんな)の力(ちから)と云(い)ふやつは
101ほんとに偉(えら)いものだなア
102時(とき)めき渡(わた)る右守(うもり)さへ
103涼(すず)しい目玉(めだま)をさしむけて
104自由(じいう)自在(じざい)に翻弄(ほんろう)し
105中々(なかなか)苦労(くらう)をかけよるな
106とは云(い)ふものの苦労(くらう)せにや
107誠(まこと)の花(はな)は咲(さ)かないと
108三五教(あななひけう)でも云(い)つて居(ゐ)る
109恋(こひ)の花(はな)咲(さ)くイルナ城(じやう)
110男(をとこ)は沢山(たくさん)ありとても
111此(この)花(はな)手折(たを)る主人公(しゆじんこう)は
112カールチンさまより外(ほか)にない
113山(やま)も田地(でんぢ)も家倉(いへくら)も
114靨(ゑくぼ)の中(なか)へ吸(す)ひ込(こ)んで
115俺(おれ)の魂(たま)までグチヤグチヤに
116分(わか)らぬやうにして了(しま)ふ
117女(をんな)は魔神(まがみ)と聞(き)きつれど
118あんな優(やさ)しい顔(かほ)をして
119右守(うもり)の司(かみ)やヤスダラ姫(ひめ)の
120心(こころ)が貴方(あなた)に分(わか)らぬか
121悲(かな)しう御座(ござ)ると泣(な)いた時(とき)や
122俺(おれ)もチヨツクリ泣(な)きかけた
123右守(うもり)は男(をとこ)だ悲(かな)しうて
124決(けつ)して泣(な)いたのぢやないほどに
125余(あま)り嬉(うれ)して嬉(うれ)し泣(な)き
126あんな所(ところ)をテーナ奴(め)が
127一寸(ちよつと)のぞいた事(こと)ならば
128地震(ぢしん)雷(かみなり)火(ひ)の雨(あめ)が
129ガラガラ ビシヤビシヤ ピカピカと
130乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎが起(おこ)るだらう
131桑原(くはばら)々々(くはばら)惟神(かむながら)
132危(あぶ)ないところであつたわい
133アイタヽタツタ、イツタイ……』
134と云(い)つた途端(とたん)に、135ドスンと何者(なにもの)にか衝(つ)き当(あた)られ、136大道(だいだう)の真中(まんなか)に仰向(あふむけ)に倒(たふ)れて了(しま)つた。137衝(つ)き当(あた)つた男(をとこ)は、138セーリス姫(ひめ)に嚇(おど)かされて、139命(いのち)からがら尻引(しりひ)きまくり、140頭(あたま)を先(さき)に尻(しり)を一間(いつけん)ばかりつき出(だ)して、141向(むか)ふ見(み)ずに飛(と)んで来(き)たユーフテスであつた。
142カールチン『タヽ誰(たれ)ぢやい。143往来(わうらい)を歩(ある)くのに、144ちつと気(き)をつけぬか。145人(ひと)に衝突(しようとつ)しよつて何者(なにもの)ぢや。146勿体(もつたい)なくも俺(おれ)はイルナの城(しろ)の右守司(うもりのかみ)だぞ。147もはや了簡(れうけん)ならぬ。148姓名(せいめい)を名乗(なの)れ。149後(あと)から捕吏(ほり)を遣(つか)はして相当(さうたう)の処分(しよぶん)をなしてやる』
150と呶鳴(どな)る声(こゑ)も慄(ふる)つて居(ゐ)る。151ユーフテスは此(この)声(こゑ)に初(はじ)めて右守(うもり)たる事(こと)を知(し)り、152衝突(しようとつ)したる頭(あたま)の痛(いた)さを耐(こら)へ顔(かほ)を顰(しか)めながら、
153ユーフテス『マヽ誠(まこと)にすみませぬ。154タヽ大変(たいへん)ですよ。155何(ど)うにも斯(か)うにも、156ドテライ女(をんな)に出会(でつくわ)して私(わたし)はもう懲々(こりこり)致(いた)しました。157貴方(あなた)もこれから女(をんな)の所(ところ)へ行(ゆ)くのでせう。158悪(わる)い事(こと)は云(い)ひませぬ。159おきなさい。160むきますぜ。161それはそれは大(おほ)きな奴(やつ)を、162おまけに同(おな)じ奴(やつ)が二人(ふたり)も出(で)ますぜ。163あゝ恐(こは)い恐(こは)い、164あた嫌(いや)らしい』
165カールチン『ナヽ何(なん)と申(まを)す。166むくとは何(なに)をむくのぢや。167膝節(ひざぶし)を擦(す)りむいたのか、168大変(たいへん)な慌方(あわてかた)ぢやないか』
169ユーフテス『これが慌(あわ)てずに何(なん)としませう。170それはそれはむきましたぜ。171セーリス姫(ひめ)だと思(おも)うて居(を)つたら、172ドテライ狐(きつね)でした。173もう私(わたし)は諦(あきら)めました。174旦那(だんな)様(さま)、175悪(わる)い事(こと)は云(い)ひませぬ。176サアこれから私(わたし)と館(やかた)へ帰(かへ)りませう』
177カールチン『貴様(きさま)の云(い)ふ事(こと)は、178何(なに)が何(なん)だか曖昧(あいまい)模糊(もこ)として捕捉(ほそく)する事(こと)が出来(でき)ないぢやないか。179もつとハツキリ分(わか)るやうに云(い)はぬかい。180一体(いつたい)何(なに)が出(で)たと云(い)ふのぢや』
181ユーフテス『それが分(わか)るやうな事(こと)なら、182何(ど)うして逃(に)げて帰(かへ)りますものか。183偉(えら)い事(こと)頬辺(ほつぺた)をつめりますぜ、184痛(いた)いの痛(いた)くないのつて、185涙(なみだ)が一升(いつしよう)程(ほど)出(で)ました』
186カールチン『一升(いつしよう)も涙(なみだ)がどこから出(で)たのだ』
187ユーフテス『尿道(ねうだう)から出(で)ました』
188カールチン『エヽ貴様(きさま)のやうな没分暁漢(わからずや)に相手(あひて)になつて居(ゐ)る所(ところ)ぢない。189ヤスダラ姫(ひめ)が待(ま)つて居(を)るわい、190大方(おほかた)貴様(きさま)は肱鉄(ひぢてつ)を喰(く)はされよつたのだなア』
191と云(い)ひながら、192又(また)もや尻引(しりひ)つからげ駆(か)け出(だ)さうとするのを、193ユーフテスは後(うしろ)から腰(こし)をグツと掴(つか)んだ。194カールチンは向(むか)ふに気(き)を取(と)られ、195ユーフテスが剛力(がうりき)に任(まか)せ腰(こし)を抱(だ)いて居(ゐ)るのにも気(き)が付(つ)かず、196同(おな)じ所(ところ)ばかり手(て)を振(ふ)つて石(いし)づきをやつて居(を)る。197恰度(ちやうど)横槌(よこづち)を縦(たて)にして、198柄(え)に石亀(いしがめ)をのせたやうなスタイルである。
199カールチン『あゝ、200何(なん)ぼう歩(ある)いても捗(はかど)らぬ道(みち)だなア。201近(ちか)いやうでも遠(とほ)いのは恋(こひ)の道(みち)だワイ。202ウントコドツコイ ドツコイ、203これでも進(すす)めば、204何時(いつ)かは行(ゆ)くだらう。205何(なん)だか後髪(うしろがみ)を引(ひ)かれるやうだ。206俄(にはか)に体(からだ)が重(おも)くなつて来(き)よつた』
207と益々(ますます)石亀(いしがめ)の地団駄(ぢだんだ)を踏(ふ)んで居(ゐ)る。208ユーフテスはとうとう根負(こんまけ)をして手(て)を放(はな)した。209其(その)勢(いきほひ)にバタバタバタと三間(さんげん)ばかり急進(きふしん)し、210バタリと倒(たふ)れ、
211カールチン『アイタツタツタ、212又(また)膝頭(ひざがしら)を擦(す)りむいた』
213と云(い)ひながら、214覚束(おぼつか)ない足(あし)を無理(むり)に踏(ふ)ん張(ば)り、215タヽヽヽと一目散(いちもくさん)に駆(か)けて行(ゆ)く。216勢(いきほひ)あまつて左(ひだり)へおりる道(みち)を一町(いつちやう)ばかり右(みぎ)へ取(と)り、217小栗(をぐり)の森(もり)に飛(と)び込(こ)んで了(しま)つた。218此(この)森(もり)はイルナの城(しろ)に仕(つか)へて居(ゐ)る神司(かむつかさ)の先祖(せんぞ)や身内(みうち)のものが葬(はうむ)つてある墓場(はかば)であつた。219矢庭(やには)に墓場(はかば)に飛(と)び込(こ)み、220石塔(せきたふ)に頭(あたま)を打(う)つて、
221カールチン『アイタツタツタ』
222と叫(さけ)ぶと共(とも)に目(め)から星(ほし)のやうにパツと火(ひ)が出(で)た。223自分(じぶん)の目(め)から出(で)た火(ひ)に驚(おどろ)いてドスンと腰(こし)をおろし、224どうしたものか一声(ひとこゑ)も出(で)なくなつて了(しま)つた。225カールチンは昼(ひる)頃(ごろ)から一(いち)のくらみになる迄(まで)ビクとも動(うご)かず、226ウンとも得言(えい)はず、227墓(はか)の石塔(せきたふ)と睨(にら)み合(あ)ひをして居(ゐ)た。228心(こころ)のせいか、229何(なに)か知(し)らず石塔(せきたふ)の後(うしろ)から婆(ばば)が赤黒(あかぐろ)い手(て)をしうと前(まへ)に垂(た)らし、230蚊(か)の鳴(な)くやうな声(こゑ)で、
231婆『恨(うら)めしや』
232とやり出(だ)した。233カールチンは益々(ますます)驚(おどろ)きよくよく見(み)れば女房(にようばう)のテーナ姫(ひめ)の顔(かほ)にそつくりである。
234カールチン『ヤア貴様(きさま)はテーナぢやないか………ハ……テーナ……いつの間(ま)に、235こんな所(ところ)へ来(き)やがつたのだ。236エーン』
237婆『お前(まへ)はカールチンぢやないか。238ヤスダラ姫(ひめ)に現(うつつ)を抜(ぬ)かし、239私(わたし)をハルナの都(みやこ)へ軍(いくさ)に出(だ)し、240其(その)間(あひだ)に甘(うま)い事(こと)、241恋(こひ)の欲望(よくばう)を遂(と)げようとした悪性(あくしやう)男(をとこ)だ。242此(この)テーナは途中(とちう)に於(おい)て非業(ひごふ)の最後(さいご)を遂(と)げ、243先祖(せんぞ)の骨(ほね)の埋(うづ)めてある此(この)墓(はか)へ幽霊(いうれい)となつて出(で)て来(き)たのだ。244併(しか)し此(この)婆(ばば)も、245かう幽霊(いうれい)になつた上(うへ)は、246お前(まへ)と添(そ)ふ訳(わけ)にも往(ゆ)かぬ。247見(み)て見(み)ぬ振(ふり)をして居(を)るから、248仲(なか)よくヤスダラ姫(ひめ)と添(そ)ふがよからう』
249と蟷螂(かまきり)のやうなスタイルをして、250訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)を喋(しやべ)りたて、251クルクルと毬(まり)のやうな目(め)を剥(む)いて見(み)せた。
252カールチン『コリヤコリヤ、253貴様(きさま)は狸(たぬき)ぢやな。254俺(おれ)の女房(にようばう)はそんな弱(よわ)いものと違(ちが)ふわい。255馬鹿(ばか)にさらすと了簡(れうけん)ならぬぞ。256早(はや)く俺(おれ)の腰(こし)を癒(なほ)さぬか』
257と何時(いつ)の間(ま)にやら言論(げんろん)機関(きくわん)が円滑(ゑんくわつ)に働(はたら)き出(だ)した。
258婆『実(じつ)の処(ところ)は俺(おれ)は小栗(をぐり)の森(もり)の古狸(ふるだぬき)だよ。259どうぞこれぎり、260キツト出(で)ませぬとは申(まを)さぬから、261許(ゆる)して下(くだ)さい。262左様(さやう)なら、263又(また)明晩(みやうばん)改(あらた)めてお目(め)にかかりませう』
264 ブスツと象(ざう)が屁(へ)をこいたやうな音(おと)をして消(き)えて了(しま)つた。265カールチンは漸(やうや)く立(た)ち上(あが)り、
266カールチン『何(なん)だ狸(たぬき)奴(め)、267馬鹿(ばか)にしやがつた。268何時(いつ)の間(ま)にか慌(あわ)ててこんな所(ところ)へ飛(と)び込(こ)んで来(き)たと見(み)えるわい。269俺(おれ)もやつぱり恋(こひ)の暗路(やみぢ)に迷(まよ)うて居(を)るのかなア。270女(をんな)一人(ひとり)関係(くわんけい)をつけようと思(おも)へば大抵(たいてい)の事(こと)ぢやない、271命(いのち)がけだ』
272と呟(つぶや)いて居(ゐ)る。273そこへ提灯(ちやうちん)を灯(とぼ)してスタスタとやつて来(き)た美(うつく)しい女(をんな)がある。274カールチンは其(その)女(をんな)の顔(かほ)を怪(あや)しみながら、275こはごは窺(のぞ)いて見(み)ると、276豈計(あにはか)らむやヤスダラ姫(ひめ)であつた。
277カールチン『ヤア貴女(あなた)はヤスダラ様(さま)ぢやありませぬか。278どうしてまアこんな物騒(ぶつそう)な所(ところ)へ、279女(をんな)の身(み)としてお越(こ)しなさつたのですか』
280ヤスダラ姫『ハイ、281私(わたし)日(ひ)が暮(く)れたので、282貴方(あなた)のお越(こ)しを待(ま)つて居(ゐ)ました処(ところ)、283お出(いで)が遅(おそ)いものだから、284じれつたくて仕方(しかた)がなく、285そこで一寸(ちよつと)人目(ひとめ)を忍(しの)び、286裏門(うらもん)からお迎(むか)へに参(まゐ)りました。287こんな恐(おそ)ろしい所(ところ)に、288ようまア独(ひと)り何(なん)ともありませなんだなア。289私(わたし)ならよう参(まゐ)りませぬわ。290恋(こひ)しい貴方(あなた)が御座(ござ)ると思(おも)へばこそ、291ここ迄(まで)お迎(むか)へに来(き)たのですよ』
292 カールチンは嬉(うれ)しさうに、
293カールチン『あゝさうでしたか、294御(ご)親切(しんせつ)にようまア迎(むか)へに来(き)て下(くだ)さつた』
295ヤスダラ姫『何(なに)も変(かは)つた事(こと)は厶(ござ)いませなんだかなア』
296カールチン『私(わたし)の名(な)がカールチンだと思(おも)うて、297余程(よほど)カールたチン(変(かは)つた珍(ちん))な事(こと)を古狸(ふるだぬき)の奴(やつ)やつて見(み)せたのですよ。298随分(ずゐぶん)大(おほ)きな目(め)をむきましたよ。299其(その)時(とき)には私(わたし)も随分(ずゐぶん)肝(きも)を潰(つぶ)しました』
300ヤスダラ姫『悪戯(いたづら)な狸(たぬき)もあつたものですなア。301どんなに大(おほ)きな目(め)でしたか、302こんなんですか』
303と団栗(どんぐり)のやうな目(め)をむいて見(み)せた。
304 カールチンは何(なん)だか少(すこ)し怪(あや)しいと思(おも)ひながら、
305カールチン『そんな小(ちひ)さなのぢやありませぬ、306随分(ずゐぶん)大(おほ)きな目(め)でしたよ』
307ヤスダラ姫『こんなんか』
308と大(おほ)きな声(こゑ)を出(だ)し、309耳(みみ)まで裂(さ)けた口(くち)を開(あ)け、310蛇(じや)の目(め)の傘(かさ)のやうな目(め)を、311クリクリとむいて見(み)せた。312カールチンはビツクリして一生(いつしやう)懸命(けんめい)に闇(やみ)の道(みち)をスタスタとイルナ城(じやう)の表門(おもてもん)さして逃(に)げて行(ゆ)く。
313(大正一一・一一・一五 旧九・二七 加藤明子録)
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