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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第42巻(巳の巻)
序文に代へて
総説に代へて
第1篇 波瀾重畳
第1章 北光照暗
第2章 馬上歌
第3章 山嵐
第4章 下り坂
第2篇 恋海慕湖
第5章 恋の罠
第6章 野人の夢
第7章 女武者
第8章 乱舌
第9章 狐狸窟
第3篇 意変心外
第10章 墓場の怪
第11章 河底の怪
第12章 心の色々
第13章 揶揄
第14章 吃驚
第4篇 怨月恨霜
第15章 帰城
第16章 失恋会議
第17章 酒月
第18章 酊苑
第19章 野襲
第5篇 出風陣雅
第20章 入那立
第21章 応酬歌
第22章 別離の歌
第23章 竜山別
第24章 出陣歌
第25章 惜別歌
第26章 宣直歌
余白歌
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霊界物語
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舎身活躍(第37~48巻)
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第42巻(巳の巻)
> 第2篇 恋海慕湖 > 第5章 恋の罠
<<< 下り坂
(B)
(N)
野人の夢 >>>
第五章
恋
(
こひ
)
の
罠
(
わな
)
〔一一三〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
篇:
第2篇 恋海慕湖
よみ(新仮名遣い):
れんかいぼこ
章:
第5章 恋の罠
よみ(新仮名遣い):
こいのわな
通し章番号:
1130
口述日:
1922(大正11)年11月14日(旧09月26日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月1日
概要:
舞台:
イルナ城(入那城、セーラン王の館、イルナの都の神館)
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
イルナの都の神館の奥の間には、黄金姫、清照姫、セーリス姫の三人が鼎坐してひそびそ話にふけっている。右守のカールチンが計略に乗ってやってくるかどうかと女三人、雑談を交えている。
そこへびっこをひきながらカールチンがやってきた。カールチンは、ヤスダラ姫に化けた清照姫にでれた様子も隠さずに話しかける。
黄金姫はそっとその場をはずし、セーリス姫も退室しようとしたとき、転んで舌を切ったユーフテスがやってきた。ユーフテスはセーリス姫に介抱されて二人は退場する。
清照姫はカールチンに対して、セーラン王が退位してカールチンが王位に就いたら、自分を正妃にするようにと要求した。カールチンは自分にはテーナ姫という長年連れ添った女房があると難色を示した。
清照姫は、大黒主の前例を出してカールチンに選択を迫った。カールチンは清照姫を正妃とすることを承諾してしまった。
また清照姫は、大黒主の援軍を辞退してハルナの都に返し、逆にイルナ国から援軍を出すようにと進言した。カールチンはこれも承諾してしまい、ヤスダラ姫の館を後にした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-21 13:49:23
OBC :
rm4205
愛善世界社版:
63頁
八幡書店版:
第7輯 664頁
修補版:
校定版:
67頁
普及版:
21頁
初版:
ページ備考:
001
イルナの
都
(
みやこ
)
の
神館
(
かむやかた
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
には、
002
黄金姫
(
わうごんひめ
)
、
003
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
004
セーリス
姫
(
ひめ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
鼎坐
(
ていざ
)
して、
005
ヒソビソ
話
(
ばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
006
黄金姫
『ユーフテスが
甘
(
うま
)
く
使命
(
しめい
)
を
果
(
はた
)
して
帰
(
かへ
)
るだらうかなア。
007
カールチンの
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
る
迄
(
まで
)
は、
008
何
(
なん
)
とはなしに
心許
(
こころもと
)
ない
感
(
かん
)
じが
致
(
いた
)
します。
009
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
010
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だらうかなア』
011
清照姫
『お
母
(
か
)
アさま、
012
そんな
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬ、
013
キツと
右守司
(
うもりのかみ
)
は
宙
(
ちう
)
を
飛
(
と
)
んでやつて
来
(
き
)
ますよ。
014
前
(
まへ
)
以
(
もつ
)
て
怪
(
あや
)
しき
秋波
(
しうは
)
を
私
(
わたし
)
に
送
(
おく
)
つてゐましたもの、
015
メツタに
外
(
はづ
)
れつこありませぬワ、
016
オホヽヽ』
017
黄金姫
『さうだらうかな、
018
何時
(
いつ
)
そんな
微細
(
びさい
)
な
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
看破
(
かんぱ
)
しておいたのですか、
019
まだ
一度
(
いちど
)
より
御
(
お
)
会
(
あ
)
ひになつてゐないぢやないか』
020
清照姫
『
一度
(
いちど
)
会
(
あ
)
うても
二度
(
にど
)
会
(
あ
)
うても、
021
カールチンの
顔
(
かほ
)
には
変化
(
へんくわ
)
はありますまい。
022
どうも
怪
(
あや
)
しい
目付
(
めつき
)
でしたよ。
023
余程
(
よほど
)
いいデレ
助
(
すけ
)
ですわ、
024
オツホヽヽ』
025
黄金姫
『
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
娘
(
むすめ
)
だなア。
026
そんなことを
云
(
い
)
つて
本当
(
ほんたう
)
にお
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
から
何々
(
なになに
)
してるのではあるまいかな。
027
年頃
(
としごろ
)
の
娘
(
むすめ
)
を
持
(
も
)
つと、
028
親
(
おや
)
も
気
(
き
)
が
揉
(
も
)
めますワイ。
029
オホヽヽヽ』
030
と
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
して
笑
(
わら
)
ふ。
031
清照姫
『お
母
(
か
)
アさま、
032
私
(
わたし
)
だつて
女
(
をんな
)
ですワ、
033
異性
(
いせい
)
の
匂
(
にほ
)
ひを
嗅
(
か
)
いでみたい
様
(
やう
)
な
心
(
こころ
)
もたまには……
起
(
おこ
)
りませぬワ、
034
オホヽヽ』
035
セーリス姫
『
何
(
なん
)
とマア
貴女
(
あなた
)
等
(
がた
)
母子
(
おやこ
)
は
気楽
(
きらく
)
な
方
(
かた
)
ですな、
036
娘
(
むすめ
)
が
母親
(
ははおや
)
を
掴
(
つか
)
まへて
惚気
(
のろけ
)
るといふ
事
(
こと
)
がありますか、
037
前代
(
ぜんだい
)
未聞
(
みもん
)
ですワ。
038
清照姫
(
きよてるひめ
)
様
(
さま
)
はさうすると、
039
貰
(
もら
)
ひ
子
(
ご
)
と
見
(
み
)
えますなア』
040
黄金姫
『ハイお
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
041
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
で
拾
(
ひろ
)
うて
来
(
き
)
ましたお
転婆娘
(
てんばむすめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
042
今
(
いま
)
こそ
斯
(
か
)
うして
宣伝使
(
せんでんし
)
になつて
真面目
(
まじめ
)
な
顔
(
かほ
)
をして
居
(
を
)
りますが、
043
随分
(
ずゐぶん
)
拾
(
ひろ
)
つた
時分
(
じぶん
)
は、
044
此
(
この
)
育
(
そだ
)
ての
親
(
おや
)
を
手古摺
(
てこず
)
らしたものですよ。
045
蛇
(
へび
)
が
食
(
く
)
ひたいの、
046
蛙
(
かはづ
)
が
食
(
く
)
ひたいのと
申
(
まを
)
しましてなア、
047
丸
(
まる
)
で
雉子
(
きじ
)
の
様
(
やう
)
な
娘
(
むすめ
)
ですワ』
048
清照姫
『
雉子
(
きじ
)
だの、
049
友彦
(
ともひこ
)
だのと、
050
それ
丈
(
だけ
)
は
言
(
い
)
はぬやうにして
下
(
くだ
)
さい、
051
顔
(
かほ
)
が
赤
(
あか
)
うなりますワ』
052
黄金姫
『
顔
(
かほ
)
が
赤
(
あか
)
うなる
丈
(
だけ
)
、
053
まだどこか
見込
(
みこみ
)
がありますなア。
054
母
(
はは
)
もそれ
聞
(
き
)
いてチツとばかり
安心
(
あんしん
)
しましたよ。
055
カールチンも
定
(
さだ
)
めて、
056
お
前
(
まへ
)
さまの
口車
(
くちぐるま
)
にキツと
乗
(
の
)
るでせう。
057
早
(
はや
)
うやつて
来
(
く
)
ると
面白
(
おもしろ
)
いのだがなア』
058
セーリス『ユーフテスを
使
(
つかひ
)
にやつたのですから、
059
キツと
直
(
すぐ
)
に
見
(
み
)
えますよ。
060
あの
男
(
をとこ
)
も
中々
(
なかなか
)
抜目
(
ぬけめ
)
のない
人物
(
じんぶつ
)
ですからなア』
061
黄金
(
わうごん
)
『あなたもユーフテスさまに
余程
(
よほど
)
執着
(
しふちやく
)
があると
見
(
み
)
えますな。
062
どうぞ
本当
(
ほんたう
)
にならぬやうに
願
(
ねが
)
ひますよ。
063
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へてると、
064
何
(
なん
)
だか
怪
(
あやし
)
くてたまりませぬワ』
065
セーリス姫
『あなたの
慧眼
(
けいがん
)
にさへ
怪
(
あや
)
しく
見
(
み
)
える
位
(
くらゐ
)
でなければ、
066
あの
男
(
をとこ
)
が
如何
(
どう
)
して
擒
(
とりこ
)
になりませう。
067
私
(
わたし
)
も
随分
(
ずゐぶん
)
凄
(
すご
)
い
腕
(
うで
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
りませうがなア。
068
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
何
(
なん
)
だかすまないやうな
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しますけれど、
069
之
(
これ
)
も
忠義
(
ちうぎ
)
の
為
(
ため
)
だから、
070
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さるでせう』
071
清照
(
きよてる
)
『セーリス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
上手
(
じやうづ
)
な
行方
(
やりかた
)
には、
072
私
(
わたし
)
も
感服
(
かんぷく
)
して
居
(
を
)
ります。
073
到底
(
たうてい
)
私
(
わたし
)
なんぞは
足許
(
あしもと
)
へも
寄
(
よ
)
れませぬ。
074
爪
(
つめ
)
の
垢
(
あか
)
でも
煎
(
せん
)
じて
頂
(
いただ
)
きたいものですな』
075
かく
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
になつて
馬鹿話
(
ばかばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
076
そこへチガチガと
跛
(
びつこ
)
をひきながらやつて
来
(
き
)
たのは
右守司
(
うもりのかみ
)
であつた。
077
セーリス
姫
(
ひめ
)
は
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
へぬ
優
(
やさ
)
しみを
面
(
おもて
)
に
浮
(
うか
)
べ、
078
優
(
やさ
)
しい
声
(
こゑ
)
で、
079
セーリス姫
『アヽ
貴方
(
あなた
)
は
右守司
(
うもりのかみ
)
様
(
さま
)
、
080
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
081
大変
(
たいへん
)
お
待
(
ま
)
ち
申
(
まを
)
して
居
(
を
)
りましたよ』
082
カールチン
『
承
(
うけたま
)
はれば、
083
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
少
(
すこ
)
しく
御
(
ご
)
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
いとのこと、
084
其
(
その
)
後
(
ご
)
の
経過
(
けいくわ
)
は
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
います』
085
セーリス姫
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う。
086
御覧
(
ごらん
)
の
通
(
とほ
)
り、
087
此
(
この
)
様
(
やう
)
に
元気
(
げんき
)
にお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばしました。
088
貴方
(
あなた
)
がお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さるに
相違
(
さうゐ
)
ないと、
089
覚束
(
おぼつか
)
ながら
独合点
(
ひとりがてん
)
して、
090
姉
(
ねえ
)
さまに
申上
(
まをしあ
)
げた
所
(
ところ
)
、
091
不思議
(
ふしぎ
)
なことには
大病
(
たいびやう
)
はケロリと
忘
(
わす
)
れた
様
(
やう
)
な
顔
(
かほ
)
をして、
092
ニコニコと
何
(
なに
)
が
嬉
(
うれ
)
しいのか
知
(
し
)
りませぬが、
093
勇
(
いさ
)
んでゐらつしやるのですよ』
094
カールチン
『それは
何
(
なに
)
より
結構
(
けつこう
)
でござる。
095
イヤ、
096
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
097
先日
(
せんじつ
)
は
偉
(
えら
)
い
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
098
どうぞお
心易
(
こころやす
)
う
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
します。
099
少
(
すこ
)
しくおかげんが
悪
(
わる
)
かつたさうですな』
100
清照
(
きよてる
)
(ヤスダラ姫に化けている清照姫)
『ハイ、
101
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
102
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
りませぬが、
103
貴方
(
あなた
)
のことを
一寸
(
ちよつと
)
思
(
おも
)
ふと
一寸
(
ちよつと
)
悪
(
わる
)
くなり、
104
ヤツと
思
(
おも
)
ふとヤツと
悪
(
わる
)
くなり、
105
或
(
あるひ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
よくなつたり、
106
又
(
また
)
大変
(
たいへん
)
によくなつたり
致
(
いた
)
しますのですよ。
107
私
(
わたし
)
の
身魂
(
みたま
)
はどうやら
貴方
(
あなた
)
の
身魂
(
みたま
)
と
合
(
あ
)
つてる
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
が
致
(
いた
)
します。
108
本当
(
ほんたう
)
に
妙
(
めう
)
な
塩梅
(
あんばい
)
ですワ』
109
カールチン
『ヒヨツとしたら、
110
前世
(
ぜんせ
)
に
於
(
おい
)
て
身魂
(
みたま
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
だつたかも
分
(
わか
)
りませぬな。
111
私
(
わたし
)
も
何
(
なん
)
だか
貴女
(
あなた
)
のことを
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
すと、
112
気
(
き
)
が
変
(
へん
)
になつて
堪
(
たま
)
りませぬワ。
113
エツヘヽヽヽ』
114
セーリス『モシ
右守
(
うもり
)
さま、
115
ハンケチをお
使
(
つか
)
ひなさいませ、
116
何
(
なん
)
だかおチヨボ
口
(
ぐち
)
の
横
(
よこ
)
の
方
(
はう
)
から、
117
瑠璃
(
るり
)
の
玉
(
たま
)
のやうな
物
(
もの
)
がしたたつてゐるぢやありませぬか』
118
カールチン
『これは
私
(
わたし
)
に
取
(
と
)
つては
非常
(
ひじやう
)
な
神聖
(
しんせい
)
にして
且
(
かつ
)
貴重
(
きちよう
)
な
物
(
もの
)
ですよ。
119
私
(
わたし
)
のヤスダラ
姫
(
ひめ
)
さまに
対
(
たい
)
する
隠
(
かく
)
しても
隠
(
かく
)
しきれぬ
喜
(
よろこ
)
びの
露
(
つゆ
)
ですからなア。
120
エヘヽヽヽ』
121
と
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くし、
122
現在
(
げんざい
)
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
黄金姫
(
わうごんひめ
)
が
六ケ
(
むつか
)
しい
顔
(
かほ
)
をして
控
(
ひか
)
へてゐるのも
気
(
き
)
がつかず、
123
清照姫
(
きよてるひめ
)
にのみ
視線
(
しせん
)
を
集注
(
しふちう
)
してゐた。
124
黄金姫
(
わうごんひめ
)
は
右守司
(
うもりのかみ
)
の
視線
(
しせん
)
を
避
(
さ
)
けて
漸
(
やうや
)
く
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
姿
(
すがた
)
をかくし、
125
ヤツと
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
でおろした。
126
セーリス姫
『モシ
姉
(
ねえ
)
さま、
127
私
(
わたし
)
がここに
居
(
を
)
つても
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
にはなりますまいかな』
128
清照姫
『
姉
(
あね
)
の
処
(
ところ
)
に
妹
(
いもうと
)
が
居
(
ゐ
)
るのに、
129
何
(
なに
)
が
邪魔
(
じやま
)
になりませう。
130
姉妹
(
きやうだい
)
同士
(
どうし
)
だから、
131
他人
(
たにん
)
に
言
(
い
)
へないことでも、
132
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
して
話
(
はな
)
せるぢやありませぬか』
133
セーリス姫
『さうですね。
134
さう
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
されば、
135
私
(
わたし
)
だつて
嬉
(
うれ
)
しいですワ。
136
併
(
しか
)
し
貴女
(
あなた
)
、
137
右守司
(
うもりのかみ
)
様
(
さま
)
と
何
(
なに
)
か
秘密
(
ひみつ
)
の
話
(
はなし
)
がおありでせう。
138
一寸
(
ちよつと
)
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かしませうか、
139
あの
粋
(
すゐ
)
を
利
(
き
)
かして
別席
(
べつせき
)
致
(
いた
)
しませうかなア』
140
カールチン
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
してお
気遣
(
きづか
)
ひ
下
(
くだ
)
さいますな。
141
秘密
(
ひみつ
)
のあらう
道理
(
だうり
)
はございませぬから、
142
私
(
わたし
)
も
申上
(
まをしあ
)
げたい
事
(
こと
)
は
赤裸々
(
せきらら
)
に
申上
(
まをしあ
)
げますから、
143
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
もどうぞ
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
をお
話
(
はな
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
144
清照姫
(
きよてるひめ
)
はワザとツーンとして、
145
清照姫
『
私
(
わたし
)
は
別
(
べつ
)
に
右守
(
うもり
)
さまに
何
(
なに
)
も
申上
(
まをしあ
)
げる
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬワ。
146
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
奥
(
おく
)
さまのある
御
(
お
)
方
(
かた
)
に、
147
内証話
(
ないしようばなし
)
をしては
済
(
す
)
みませぬからなア』
148
セーリス
姫
(
ひめ
)
は
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
りジラしてやらうと
思
(
おも
)
ひ、
149
セーリス姫
『さうだつて
姉
(
ねえ
)
さま、
150
あなた
心
(
こころ
)
と
口
(
くち
)
と
違
(
ちが
)
つてゐるでせう。
151
私
(
わたし
)
がゐますと
又
(
また
)
大病
(
たいびやう
)
が
起
(
おこ
)
ると
互
(
たがひ
)
の
迷惑
(
めいわく
)
ですから、
152
暫
(
しば
)
らく
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
ります』
153
清照姫
『ホヽヽ
甘
(
うま
)
いこと
仰有
(
おつしや
)
いますこと、
154
ユーフテスさまがあなたの
居間
(
ゐま
)
に
待
(
ま
)
つてゐられるものだから、
155
気
(
き
)
が
気
(
き
)
でないのでせう』
156
セーリス姫
『あなただつて、
157
私
(
わたし
)
がここにゐると
気
(
き
)
が
気
(
き
)
ぢやありますまい。
158
思
(
おも
)
へば
同
(
おな
)
じ
女気
(
をんなぎ
)
の、
159
男恋
(
をとここひ
)
しき
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
、
160
顔
(
かほ
)
に
紅葉
(
もみぢ
)
の
唐紅
(
からくれなゐ
)
、
161
とめてとまらぬ
紅葉
(
もみぢば
)
の、
162
色
(
いろ
)
……とか
云
(
い
)
ひましてなア、
163
言
(
い
)
ふに
云
(
い
)
はれぬ、
164
誰
(
たれ
)
だつて
秘密
(
ひみつ
)
はありますワ。
165
それなら
姉
(
ねえ
)
さま、
166
一寸
(
ちよつと
)
往
(
い
)
つて
来
(
き
)
ます。
167
どうぞシツポリとお
楽
(
たの
)
しみ
遊
(
あそ
)
ばせ。
168
なア
右守
(
うもり
)
さま、
169
あまり
御
(
ご
)
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
なる
話
(
はなし
)
ぢや
御座
(
ござ
)
りますまい、
170
オホヽヽヽ』
171
カールチンは
鼻
(
はな
)
をビコつかせながら、
172
カールチン
『
左様
(
さやう
)
々々
(
さやう
)
、
173
客
(
きやく
)
と
白鷺
(
しらさぎ
)
、
174
立
(
た
)
つが
美事
(
みごと
)
、
175
暫
(
しばら
)
くユーフテスさまと、
176
郊外
(
かうぐわい
)
の
散歩
(
さんぽ
)
でもなさつたら
面白
(
おもしろ
)
いでせう』
177
セーリス姫
『
右守
(
うもり
)
さまのイヤなこと、
178
そんな
粋
(
すゐ
)
を
利
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はなくても
宜
(
よろ
)
しいワ。
179
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
自由
(
じいう
)
結婚
(
けつこん
)
の
流行
(
りうかう
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ですもの、
180
そんな
事
(
こと
)
は
如才
(
じよさい
)
のある
私
(
わたし
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬ。
181
なア
姉
(
ねえ
)
さま、
182
古
(
ふる
)
い
道徳
(
だうとく
)
に
捉
(
とら
)
はれてゐる
連中
(
れんちう
)
の
様
(
やう
)
に、
183
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
一生
(
いつしやう
)
一代
(
いちだい
)
に
関
(
くわん
)
する
夫婦
(
ふうふ
)
問題
(
もんだい
)
まで、
184
無理解
(
むりかい
)
な
親
(
おや
)
に
干渉
(
かんせふ
)
されちや
堪
(
たま
)
りませぬからなア。
185
それなら
右守
(
うもり
)
さま、
186
ユーフテス……イエイエ
自分
(
じぶん
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
暫
(
しばら
)
く
下
(
さが
)
りますから、
187
ゆつくりとお
話
(
はなし
)
を
遊
(
あそ
)
ばしませや。
188
そしてよい
結果
(
けつくわ
)
を
齎
(
もたら
)
して、
189
私
(
わたし
)
にお
目出度
(
めでた
)
うといふ
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さいませ』
190
カールチン
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
191
惟神
(
かむながら
)
ですからなア』
192
斯
(
か
)
く
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
へユーフテスは
舌
(
した
)
を
切
(
き
)
り、
193
鰓
(
あご
)
の
辺
(
あた
)
りまで
膨
(
ふく
)
らせながら
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
194
ユーフテス
『あゝゝあなたは、
195
う
右守
(
うもり
)
さまでせう、
196
あゝ
余
(
あま
)
りぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
197
人
(
ひと
)
をふみこかして
先
(
さき
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るとは。
198
コヽコレ、
199
セーリス
姫
(
ひめ
)
……どの、
200
こんな
無情
(
むじやう
)
な
人
(
ひと
)
は、
201
末
(
すゑ
)
が
恐
(
おそ
)
ろしいから、
202
姉
(
ねえ
)
さまが
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても、
203
あんたが
水
(
みづ
)
を
注
(
さ
)
さねば……なりませぬぞや。
204
清
(
きよ
)
……オツトドツコイ、
205
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
にお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ですから』
206
セーリス『ユーフテス
様
(
さま
)
、
207
其
(
その
)
お
顔
(
かほ
)
はどうなさいました。
208
チツと
変
(
へん
)
ぢやありませぬか』
209
ユーフテス
『ミヽ
道
(
みち
)
でぶつ
倒
(
たふ
)
れ、
210
シヽ
舌
(
した
)
をかんで、
211
コヽ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
212
ハヽ
腫
(
は
)
れました、
213
イヽ
痛
(
いた
)
くて
堪
(
たま
)
りませぬ』
214
カールチン
『コリヤ、
215
ユーフテス、
216
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
無礼
(
ぶれい
)
なことを
申
(
まを
)
すか。
217
俺
(
おれ
)
が、
218
そして
何時
(
いつ
)
貴様
(
きさま
)
を
踏
(
ふ
)
んだか』
219
ユーフテス
『
誠
(
まこと
)
にスヽ
済
(
す
)
みませなんだ。
220
セーリス
姫
(
ひめ
)
は、
221
私
(
わたし
)
の
予約済
(
よやくずみ
)
だから、
222
滅多
(
めつた
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
るやうなことはなさらぬでせうな。
223
何
(
なん
)
だかチツと
様子
(
やうす
)
が
変
(
へん
)
だから……ワヽ
私
(
わたし
)
もキヽ
気
(
き
)
が
揉
(
も
)
めますワイ』
224
カールチン
『ワハヽヽヽ』
225
清照
(
きよてる
)
『オホヽヽヽ』
226
セーリス姫
『マアいやなこと、
227
ユーフテスさま、
228
サア
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
へおいでなさいませ。
229
私
(
わたし
)
が
介抱
(
かいほう
)
して
直
(
なほ
)
して
上
(
あ
)
げませう、
230
嬉
(
うれ
)
しいでせう』
231
とワザとに
意茶
(
いちや
)
ついて、
232
右守
(
うもり
)
の
恋
(
こひ
)
を
沸
(
わ
)
きたてようとしてゐる。
233
ユーフテスはいい
気
(
き
)
になり、
234
姫
(
ひめ
)
の
肩
(
かた
)
に
凭
(
もた
)
れかかり、
235
ヒヨロリ ヒヨロリとこの
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて、
236
セーリス
姫
(
ひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
伴
(
ともな
)
はれ
行
(
い
)
つてしまつた。
237
後
(
あと
)
にカールチン、
238
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
239
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
な
様子
(
やうす
)
で
黙
(
だま
)
り
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
240
カールチンは
姫
(
ひめ
)
の
発言
(
はつげん
)
を
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つても
口切
(
くちき
)
りがないので、
241
とうとう
劫
(
がふ
)
を
煮
(
に
)
やし、
242
矢庭
(
やには
)
に
飛付
(
とびつ
)
く
様
(
やう
)
にして、
243
顔
(
かほ
)
をそむけながら、
244
清照姫
(
きよてるひめ
)
の
柔
(
やはら
)
かい
手
(
て
)
を
岩
(
いは
)
のやうな
固
(
かた
)
い
手
(
て
)
でグツと
握
(
にぎ
)
つた。
245
清照姫
(
きよてるひめ
)
は、
246
清照姫
『エー』
247
と
一声
(
ひとこゑ
)
ふりはなす
途端
(
とたん
)
に、
248
ヒヨロ ヒヨロ ヒヨロとカールチンは
一間
(
いつけん
)
ばかり、
249
後
(
うしろ
)
に
尻餅
(
しりもち
)
をつき、
250
カールチン
『あゝコレコレ、
251
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
、
252
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
のあられもない、
253
そんな
乱暴
(
らんばう
)
なことをするものぢやありませぬぞ』
254
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
恥
(
はづ
)
かしさうな
風
(
ふう
)
をして、
255
清照姫
『それでも
恥
(
はづ
)
かしうてたまりませぬワ、
256
モウこらへて
下
(
くだ
)
さいな、
257
お
頼
(
たの
)
みですから』
258
カールチン
『ワハヽヽヽ、
259
流石
(
さすが
)
は
女
(
をんな
)
だなア、
260
そこが
尊
(
たふと
)
い
所
(
ところ
)
だ。
261
矢張
(
やつぱり
)
ウブなものだワイ。
262
生
(
うま
)
れが
違
(
ちが
)
ふとどこともなしに
床
(
ゆか
)
しい
所
(
ところ
)
がおありなさる、
263
ウフヽヽヽ』
264
と
言
(
い
)
ひながら、
265
今度
(
こんど
)
は
姫
(
ひめ
)
の
背後
(
はいご
)
より
両手
(
りやうて
)
をグツと
肩
(
かた
)
にかけ、
266
抱
(
だ
)
き
締
(
し
)
めようとするのを、
267
清照姫
(
きよてるひめ
)
は、
268
カールチンの
両腕
(
りやううで
)
をグツと
取
(
と
)
り、
269
ウンと
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れた
拍子
(
ひやうし
)
に
体
(
たい
)
をすくめた。
270
カールチンは
負投
(
おひなげ
)
を
喰
(
くら
)
つて
一間
(
いつけん
)
ばかり
向
(
むか
)
ふへ
飛
(
と
)
び、
271
床柱
(
とこばしら
)
に
後頭部
(
こうとうぶ
)
をカチンと
打
(
う
)
ち、
272
カールチン
『アイタヽヽヽ、
273
コレコレ
姫
(
ひめ
)
さま、
274
何
(
なん
)
といふ
手荒
(
てあら
)
いことをなさるのだ。
275
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に
柔術
(
じうじゆつ
)
を
覚
(
おぼ
)
えましたかな、
276
天晴
(
あつぱれ
)
な
御
(
お
)
手際
(
てぎは
)
だ。
277
ヤア
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
』
278
清照姫
『
余
(
あま
)
り
無礼
(
ぶれい
)
な
事
(
こと
)
をなさいますと、
279
私
(
わたし
)
は
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しませぬぞや』
280
カールチン
『
何
(
なん
)
と
偉
(
えら
)
いヒステリツクだなア。
281
如何
(
どう
)
したら
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
がとれるかなア。
282
まてまて、
283
姫
(
ひめ
)
の
心
(
こころ
)
の
奥底
(
おくそこ
)
を
測量
(
そくりやう
)
もせずに
無暗
(
むやみ
)
に
相手
(
あひて
)
になつて、
284
はねるのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
285
惚切
(
ほれき
)
つた
男
(
をとこ
)
にからかはれると、
286
却
(
かへつ
)
て
嬉
(
うれ
)
し
驚
(
おどろ
)
きに
肱鉄砲
(
ひぢてつぱう
)
をかまし、
287
後
(
あと
)
から
後悔
(
こうくわい
)
する
女
(
をんな
)
が、
288
間々
(
まま
)
あるものだ。
289
姫
(
ひめ
)
もヤツパリ
其
(
その
)
伝
(
でん
)
だなア』
290
と
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
小声
(
こごゑ
)
で
囁
(
ささや
)
く。
291
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
可笑
(
をか
)
しさを
怺
(
こら
)
へて、
292
清照姫
『
右守
(
うもり
)
さま、
293
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
います。
294
私
(
わたし
)
は
決
(
けつ
)
してヒステリツクぢやありませぬよ。
295
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
296
ビチビチ
肥
(
こ
)
えとるぢやありませぬか。
297
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らないが、
298
身魂
(
みたま
)
が
合
(
あ
)
はないと
見
(
み
)
えまして、
299
守護神
(
しゆごじん
)
が
怒
(
おこ
)
つて
仕様
(
しやう
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬワ。
300
チツと
此
(
この
)
守護神
(
しゆごじん
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
でもして
帰順
(
きじゆん
)
するやうに
言
(
い
)
ひきかして
下
(
くだ
)
さいませな。
301
本当
(
ほんたう
)
に
私
(
わたし
)
困
(
こま
)
つちまひますワ』
302
カールチン
『あゝそれでよく
分
(
わか
)
りました。
303
さうすると
貴女
(
あなた
)
の
肉体
(
にくたい
)
はカールチンに
対
(
たい
)
し、
304
別
(
べつ
)
に
嫌忌
(
けんき
)
の
情
(
じやう
)
をお
持
(
も
)
ちになつてるのぢやありませぬなア』
305
清照姫
『ハイ』
306
カールチン
『
本人
(
ほんにん
)
の
肉体
(
にくたい
)
さへ
承知
(
しようち
)
なら、
307
守護神
(
しゆごじん
)
位
(
くらゐ
)
、
308
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
309
物
(
もの
)
の
数
(
かず
)
でもありませぬワイ』
310
と
言
(
い
)
ひながら、
311
又
(
また
)
もや
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
をグツと
握
(
にぎ
)
る。
312
清照姫
(
きよてるひめ
)
はワザと
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らし、
313
清照姫
『
妾
(
わらは
)
はヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
、
314
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
清照姫
(
きよてるひめ
)
で
厶
(
ござ
)
るぞよ。
315
汝
(
なんぢ
)
苟
(
いやし
)
くも
右守司
(
うもりのかみ
)
となり、
316
万民
(
ばんみん
)
を
導
(
みちび
)
く
身
(
み
)
でゐながら
其
(
その
)
卑
(
いや
)
しき
振舞
(
ふるまひ
)
は
何事
(
なにごと
)
ぞや。
317
容赦
(
ようしや
)
は
致
(
いた
)
さぬぞ。
318
今
(
いま
)
其
(
その
)
方
(
はう
)
を
投
(
な
)
げつけたのは、
319
此
(
この
)
清照姫
(
きよてるひめ
)
の
霊
(
れい
)
がしたのぢや。
320
決
(
けつ
)
してヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
所為
(
しよゐ
)
ではない
程
(
ほど
)
に、
321
誤解
(
ごかい
)
をせぬやうにしたがよからう。
322
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
を
立去
(
たちさ
)
る
程
(
ほど
)
に、
323
後
(
あと
)
は
其
(
その
)
方
(
ほう
)
の
自由
(
じいう
)
に
致
(
いた
)
したが
宜
(
よ
)
からうぞや。
324
ウンウン』
325
ドスンと
飛上
(
とびあが
)
り、
326
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
おこり
のおちたやうなケロリとした
顔
(
かほ
)
をして、
327
カールチンの
顔
(
かほ
)
を
打眺
(
うちなが
)
め、
328
清照姫
『ヤア
貴方
(
あなた
)
は
恋
(
こひ
)
しい
慕
(
した
)
はしい
右守
(
うもり
)
さまで
御座
(
ござ
)
いましたか、
329
能
(
よ
)
うマア
御
(
ご
)
多忙
(
たばう
)
な
職務
(
しよくむ
)
をすてて、
330
妾
(
わたし
)
の
願
(
ねがひ
)
を
叶
(
かな
)
へて
御
(
お
)
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さいました、
331
あゝ
嬉
(
うれ
)
しう
御座
(
ござ
)
います。
332
どうぞ
不束
(
ふつつか
)
な
私
(
わたし
)
、
333
お
見捨
(
みすて
)
なく
末永
(
すえなが
)
く
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さいませ』
334
と
右守
(
うもり
)
の
膝
(
ひざ
)
に
頭
(
かしら
)
をなげつけ、
335
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
にふつて
嬉
(
うれ
)
し
泣
(
なき
)
の
真似
(
まね
)
をして
見
(
み
)
せる。
336
カールチンは
悦
(
えつ
)
に
入
(
い
)
り、
337
カールチン
『ウツフヽヽヽ、
338
イヤ
姫
(
ひめ
)
、
339
心配
(
しんぱい
)
なさるな。
340
其方
(
そち
)
の
事
(
こと
)
なら、
341
如何
(
いか
)
なることでも
吾
(
わが
)
力
(
ちから
)
に
叶
(
かな
)
ふことならば、
342
叶
(
かな
)
へて
進
(
しん
)
ぜませう。
343
どうぞカールチンも
今
(
いま
)
の
心
(
こころ
)
で
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さいや』
344
となまめかしい
声
(
こゑ
)
で、
345
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くして
喋
(
しやべ
)
り
出
(
だ
)
した。
346
どこともなく、
347
桶
(
をけ
)
の
輪
(
わ
)
がゆるんだやうな
言葉
(
ことば
)
遣
(
づか
)
ひである。
348
清照姫
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
349
それなら
此
(
この
)
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
願
(
ねがひ
)
は
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいますか』
350
カールチン
『
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
351
どんな
事
(
こと
)
でも
聞
(
き
)
いて
上
(
あ
)
げるから
言
(
い
)
つて
見
(
み
)
なさい』
352
清照姫
『それなら
申上
(
まをしあ
)
げますが、
353
決
(
けつ
)
してお
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てて
下
(
くだ
)
さいますなや。
354
貴方
(
あなた
)
も
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
355
セーラン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
茲
(
ここ
)
一
(
いつ
)
ケ
月
(
げつ
)
の
後
(
のち
)
には
万事
(
ばんじ
)
の
準備
(
じゆんび
)
を
整
(
ととの
)
へて、
356
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
に
後
(
あと
)
をお
譲
(
ゆづ
)
り
遊
(
あそ
)
ばすことに
内定
(
ないてい
)
して
居
(
を
)
りますのは
確
(
たしか
)
です。
357
さうすれば
貴方
(
あなた
)
は
右守司
(
うもりのかみ
)
ではなくて、
358
入那
(
いるな
)
の
都
(
みやこ
)
の
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
、
359
さう
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
を
遊
(
あそ
)
ばした
時
(
とき
)
は、
360
こんな
卑
(
いや
)
しき
女
(
をんな
)
は
体面
(
たいめん
)
に
係
(
かか
)
はると
仰有
(
おつしや
)
つて、
361
キツと
妾
(
わたし
)
をお
捨
(
す
)
て
遊
(
あそ
)
ばすでせう。
362
貴方
(
あなた
)
が
本当
(
ほんたう
)
に
私
(
わたし
)
を
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さるのならば、
363
ここで
一
(
ひと
)
つどこまでも
捨
(
す
)
てないと
云
(
い
)
ふ
書付
(
かきつけ
)
を
書
(
か
)
いて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
364
カールチン
『
如何
(
いか
)
なる
難問題
(
なんもんだい
)
かと
思
(
おも
)
へば、
365
そんな
事
(
こと
)
か。
366
ヨシヨシ、
367
書
(
か
)
いてやらう。
368
何
(
なん
)
と
書
(
か
)
けばいいのだなア』
369
清照姫
『
私
(
わたし
)
の
要求
(
えうきう
)
は
到底
(
たうてい
)
貴方
(
あなた
)
には
聞入
(
ききい
)
れられますまい。
370
いざと
云
(
い
)
ふ
場合
(
ばあひ
)
になれば、
371
キツと
拒絶
(
きよぜつ
)
なさるにきまつて
居
(
を
)
りますワ』
372
カールチン
『
武士
(
ぶし
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
はない。
373
女
(
をんな
)
の
一人
(
ひとり
)
位
(
くらゐ
)
誑
(
たぶ
)
かつて
何
(
なん
)
になるか。
374
早
(
はや
)
く
其
(
その
)
要求
(
えうきう
)
の
次第
(
しだい
)
を
細々
(
こまごま
)
と
言
(
い
)
つて
見
(
み
)
なさい』
375
清照姫
『
貴方
(
あなた
)
が
刹帝利
(
せつていり
)
にお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
暁
(
あかつき
)
は、
376
キツと
妾
(
わたし
)
を
正妃
(
せいひ
)
にして
下
(
くだ
)
さるでせうなア』
377
カールチン
『ウーン、
378
そりや、
379
せぬでもないが、
380
私
(
わたし
)
にはテーナ
姫
(
ひめ
)
といふ
女房
(
にようばう
)
があるぢやないか』
381
清照姫
『
其
(
その
)
テーナさまは、
382
貴方
(
あなた
)
が
右守司
(
うもりのかみ
)
としての
奥
(
おく
)
さまでせう。
383
決
(
けつ
)
して
刹帝利
(
せつていり
)
の
奥
(
おく
)
さまでは
厶
(
ござ
)
いますまい。
384
刹帝利
(
せつていり
)
の
奥
(
おく
)
さまには
誰
(
たれ
)
をお
選
(
えら
)
みですか。
385
ヤツパリ
依然
(
いぜん
)
として
古
(
ふる
)
いのを
御
(
ご
)
使用
(
しよう
)
遊
(
あそ
)
ばしますか。
386
それでは
折角
(
せつかく
)
貴方
(
あなた
)
が
一切
(
いつさい
)
の
規則
(
きそく
)
を
革新
(
かくしん
)
しようとなさつても、
387
城内
(
じやうない
)
の
空気
(
くうき
)
を
新
(
あたら
)
しくする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
388
能
(
よ
)
う
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
389
バラモン
教
(
けう
)
の
大教主
(
だいけうしゆ
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神柱
(
かむばしら
)
は、
390
永
(
なが
)
らく
共
(
とも
)
に
苦労
(
くらう
)
を
遊
(
あそ
)
ばした
糟糠
(
さうかう
)
の
妻
(
つま
)
を
放逐
(
はうちく
)
し、
391
新規
(
しんき
)
蒔
(
ま
)
き
直
(
なほ
)
しの
若
(
わか
)
い
美
(
うる
)
はしい
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
正妃
(
せいひ
)
と
遊
(
あそ
)
ばしたぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
392
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
でさへも
遊
(
あそ
)
ばしたことを、
393
貴方
(
あなた
)
が
出来
(
でき
)
ない
道理
(
だうり
)
はありますまい。
394
サア
何卒
(
どうぞ
)
これからきめて
下
(
くだ
)
さい。
395
おイヤですかな。
396
おイヤならばお
厭
(
いや
)
とキツパリ
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
397
私
(
わたし
)
にも
一
(
ひと
)
つ
覚悟
(
かくご
)
がありますから』
398
カールチン
『
成程
(
なるほど
)
さう
聞
(
き
)
けばそれも
尤
(
もつと
)
もだ。
399
それなら
貴女
(
あなた
)
を
正妃
(
せいひ
)
とすることを
固
(
かた
)
く
約
(
やく
)
しませう』
400
清照姫
『
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います、
401
それなら
今日
(
けふ
)
から
私
(
わたし
)
はあなた
様
(
さま
)
の
誠
(
まこと
)
の
妻
(
つま
)
ですなア』
402
となまめかしい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
403
満面
(
まんめん
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へて
凭
(
もた
)
れかかつた。
404
其
(
その
)
しをらしさにカールチンは
骨
(
ほね
)
も
魂
(
たま
)
も
抜
(
ぬ
)
けた
如
(
ごと
)
くグニヤ グニヤとなつて
了
(
しま
)
ひ、
405
顔
(
かほ
)
の
相好
(
さうがう
)
を
崩
(
くづ
)
して
平素
(
へいそ
)
のさがり
目
(
め
)
を
一入
(
ひとしほ
)
下
(
さ
)
げ、
406
声
(
こゑ
)
の
調子
(
てうし
)
まで
狂
(
くる
)
はしながら、
407
カールチン
『ウンウンよしよし、
408
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふことなら、
409
命
(
いのち
)
でもやらう。
410
ホンに
可愛
(
かあい
)
い
奴
(
やつ
)
だなア、
411
エヘヽヽヽ』
412
清照姫
『それなら
妾
(
わたし
)
に
一
(
ひと
)
つの
願
(
ねがひ
)
が
厶
(
ござ
)
います。
413
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
414
最早
(
もはや
)
刹帝利
(
せつていり
)
の
授受
(
じゆじゆ
)
は
円満
(
ゑんまん
)
解決
(
かいけつ
)
の
曙光
(
しよくわう
)
を
認
(
みと
)
めてゐるのですから、
415
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
を
借用
(
しやくよう
)
するのはお
止
(
や
)
めになつたら
如何
(
どう
)
ですか、
416
何程
(
なにほど
)
円満
(
ゑんまん
)
解決
(
かいけつ
)
とは
言
(
い
)
ひながら、
417
カールチンは
刹帝利
(
せつていり
)
の
位
(
くらゐ
)
を
奪
(
うば
)
はむ
為
(
ため
)
に、
418
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
を
借用
(
しやくよう
)
して
脅迫
(
けうはく
)
したといはれては
末代
(
まつだい
)
までの
不名誉
(
ふめいよ
)
、
419
又
(
また
)
国民
(
こくみん
)
一般
(
いつぱん
)
に
対
(
たい
)
しても
治政
(
ちせい
)
上
(
じやう
)
大変
(
たいへん
)
な
障害
(
しやうがい
)
となるぢやありませぬか。
420
どうぞ
妾
(
わたし
)
の
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
ですから、
421
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
早馬使
(
はやうまづかひ
)
をハルナの
都
(
みやこ
)
にさし
向
(
む
)
け、
422
軍隊
(
ぐんたい
)
の
派遣
(
はけん
)
を
断
(
ことわ
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
423
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
だつて、
424
近国
(
きんごく
)
に
動乱
(
どうらん
)
が
起
(
おこ
)
つてゐるのですから、
425
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
でせう。
426
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
427
貴方
(
あなた
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
応援
(
おうゑん
)
の
為
(
ため
)
お
差向
(
さしむ
)
けになつたならば、
428
貴方
(
あなた
)
の
武勇
(
ぶゆう
)
は
天下
(
てんか
)
に
轟
(
とどろ
)
き
又
(
また
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
のお
覚
(
おぼ
)
えはますます
目出度
(
めでた
)
く、
429
遂
(
つひ
)
にはハルナの
都
(
みやこ
)
の
後継
(
あとつぎ
)
にお
成
(
な
)
りなさる
端緒
(
たんちよ
)
を
開
(
ひら
)
くといふものです。
430
これ
位
(
くらゐ
)
の
決断
(
けつだん
)
がなくては
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
ですからなア』
431
カールチン
『
成程
(
なるほど
)
さう
聞
(
き
)
けばさうだなア。
432
それなら
一先
(
ひとま
)
づ
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へ
立帰
(
たちかへ
)
り、
433
早馬使
(
はやうまづかひ
)
を
走
(
はし
)
らせて、
434
軍隊
(
ぐんたい
)
の
派遺
(
はけん
)
を
御
(
ご
)
辞退
(
じたい
)
申上
(
まをしあ
)
げ、
435
味方
(
みかた
)
の
勇士
(
ゆうし
)
をして、
436
残
(
のこ
)
らず
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
に
応援
(
おうゑん
)
させよう。
437
ヤア、
438
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
、
439
又
(
また
)
ゆつくりとお
目
(
め
)
にかからう。
440
キツと
明日
(
あす
)
は
早朝
(
さうてう
)
から
登城
(
とじやう
)
するから、
441
安心
(
あんしん
)
して
待
(
ま
)
つてゐるがよい。
442
左守殿
(
さもりどの
)
へも
其方
(
そち
)
から
宜
(
よろ
)
しく
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
443
私
(
わたし
)
から
云
(
い
)
ふのは
何
(
なん
)
だか
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
い
様
(
やう
)
だから』
444
清照姫
『
父
(
ちち
)
の
左守
(
さもり
)
は
最早
(
もはや
)
妾
(
わたし
)
の
切
(
せつ
)
なる
恋
(
こひ
)
を
看破
(
かんぱ
)
し、
445
夜前
(
やぜん
)
も
厳
(
きび
)
しく
膝詰
(
ひざつめ
)
談判
(
だんぱん
)
を
致
(
いた
)
しました
故
(
ゆゑ
)
、
446
命
(
いのち
)
をかけて、
447
いろいろと
陳弁
(
ちんべん
)
しました
所
(
ところ
)
、
448
ヤツと
得心
(
とくしん
)
して
呉
(
く
)
れまして……
流石
(
さすが
)
は
俺
(
おれ
)
の
娘
(
むすめ
)
だ。
449
よい
所
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
がついた、
450
お
前
(
まへ
)
がさうなつてくれれば、
451
右守司
(
うもりのかみ
)
との
暗闘
(
あんとう
)
もこれでサツパリ
解
(
と
)
けるだらう……と
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
んで
別
(
わか
)
れた
位
(
くらゐ
)
ですから、
452
父
(
ちち
)
の
方
(
はう
)
は
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
くださいますなや』
453
カールチン
『ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
、
454
お
名残
(
なごり
)
惜
(
を
)
しいが、
455
明日
(
あす
)
又
(
また
)
お
目
(
め
)
にかからう』
456
と
云
(
い
)
ひながら、
457
滴
(
したた
)
る
涎
(
よだれ
)
をソツとたぐり、
458
イソイソとして
己
(
おの
)
が
館
(
やかた
)
へ
立帰
(
たちかへ
)
るのであつた。
459
後
(
あと
)
に
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
姿
(
すがた
)
を、
460
首
(
くび
)
を
伸
(
の
)
ばして
眺
(
なが
)
めてゐたが、
461
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
姫
(
ひめ
)
の
首
(
くび
)
は
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
縦
(
たて
)
に
動
(
うご
)
き、
462
赤
(
あか
)
い
舌
(
した
)
まで
はみ
出
(
だ
)
して
居
(
ゐ
)
た。
463
(
大正一一・一一・一四
旧九・二六
松村真澄
録)
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