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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第42巻(巳の巻)
序文に代へて
総説に代へて
第1篇 波瀾重畳
第1章 北光照暗
第2章 馬上歌
第3章 山嵐
第4章 下り坂
第2篇 恋海慕湖
第5章 恋の罠
第6章 野人の夢
第7章 女武者
第8章 乱舌
第9章 狐狸窟
第3篇 意変心外
第10章 墓場の怪
第11章 河底の怪
第12章 心の色々
第13章 揶揄
第14章 吃驚
第4篇 怨月恨霜
第15章 帰城
第16章 失恋会議
第17章 酒月
第18章 酊苑
第19章 野襲
第5篇 出風陣雅
第20章 入那立
第21章 応酬歌
第22章 別離の歌
第23章 竜山別
第24章 出陣歌
第25章 惜別歌
第26章 宣直歌
余白歌
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舎身活躍(第37~48巻)
>
第42巻(巳の巻)
> 第3篇 意変心外 > 第11章 河底の怪
<<< 墓場の怪
(B)
(N)
心の色々 >>>
第一一章
河底
(
かてい
)
の
怪
(
くわい
)
〔一一三六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
篇:
第3篇 意変心外
よみ(新仮名遣い):
いへんしんがい
章:
第11章 河底の怪
よみ(新仮名遣い):
かていのかい
通し章番号:
1136
口述日:
1922(大正11)年11月16日(旧09月28日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
右守のカールチンは墓場に迷い込み、怪物におどかされて卒倒した。目を覚まし、十五夜の月の光をたよりに、あくまでヤスダラ姫に会おうと宵闇の道を駆け出した。
入那川の橋までやってきた。いつもは濁っている川が不思議にもこのときは一丈あまりある川底まで透き通って見える。カールチンは思わず覗き込むと、妻のテーナ姫が水底をもがきながら流れてきた。
不意に背後にユーフテスが現れ、妻のテーナ姫をなぜ救わないのだ、とカールチンをなじる。川底のテーナ姫の叫び声は泡となって上ってきて、これもカールチンの不道徳をなじる。
するとヤスダラ姫も川底を流れてきて、テーナ姫と同じところに沈んだ。カールチンはヤスダラ姫は救おうと川に飛び込もうとする。
カールチンはユーフテスが止めるのを振り切って着衣のまま川に飛び込んだ。ユーフテスと見えた男は白狐の姿になってどこかへ行ってしまった。
右守館の守備ハルマンは、カールチンの帰りが遅いのを心配して探しにやってきた。イルナ川の橋まで来ると、川底から浮き上がってくる影があるので飛び込んで救い上げれば、主人のカールチンであった。
カールチンは気が付き、ヤスダラ姫はどこだと問いかける。ハルマンはそんな人はいないと答えてカールチンを抱えて館に戻った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-24 14:13:39
OBC :
rm4211
愛善世界社版:
146頁
八幡書店版:
第7輯 694頁
修補版:
校定版:
150頁
普及版:
60頁
初版:
ページ備考:
001
墓場
(
はかば
)
に
迷
(
まよ
)
ひ
込
(
こ
)
み、
002
怪物
(
くわいぶつ
)
に
荒肝
(
あらぎも
)
をとられて
二度
(
にど
)
ビツクリをしながら、
003
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ、
004
イルナ
城
(
じやう
)
のヤスダラ
姫
(
ひめ
)
に
会
(
あ
)
はむものと、
005
宵暗
(
よひやみ
)
の
路
(
みち
)
を
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
006
十五夜
(
じふごや
)
の
満月
(
まんげつ
)
は、
007
ソロソロ
地上
(
ちじやう
)
に
光
(
ひかり
)
を
投
(
な
)
げ
始
(
はじ
)
めた。
008
カールチンは
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
に
漸
(
やうや
)
く
安心
(
あんしん
)
し、
009
立止
(
たちど
)
まつて、
010
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
011
月神
(
げつしん
)
を
拝
(
はい
)
しながら
独言
(
ひとりごと
)
、
012
カールチン
『あゝあ、
013
恋
(
こひ
)
の
闇
(
やみ
)
が
何
(
ど
)
うやら
明
(
あか
)
るくなつて
来
(
き
)
たやうだ。
014
むすびの
神
(
かみ
)
は
月下
(
げつか
)
氷人
(
ひようじん
)
とか
言
(
い
)
ふさうだから、
015
恋路
(
こひぢ
)
の
暗
(
やみ
)
を
照
(
て
)
らすお
月様
(
つきさま
)
は、
016
俺
(
おれ
)
にとつては
助
(
たす
)
け
神
(
がみ
)
のやうなものだ。
017
あゝ
月
(
つき
)
なる
哉
(
かな
)
月
(
つき
)
なる
哉
(
かな
)
。
018
これからヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
ツキ
、
019
いろいろ
雑多
(
ざつた
)
と
意茶
(
いちや
)
ツキ
、
020
粘
(
ねば
)
り
ツキ
、
021
武者
(
むしや
)
ぶり
ツキ
、
022
終
(
しま
)
ひには
悋気
(
りんき
)
の
角
(
つの
)
を
生
(
は
)
やして
咬
(
か
)
み
ツキ
、
023
食
(
く
)
ひ
ツキ
といふ
段取
(
だんどり
)
になるかも
知
(
し
)
れないぞ。
024
エヘヽヽヽ』
025
と
涎
(
よだれ
)
をたぐりつつ
入那川
(
いるながは
)
の
橋詰
(
はしづめ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た。
026
不思議
(
ふしぎ
)
や
深
(
ふか
)
さ
一丈
(
いちぢやう
)
余
(
あま
)
りもある
川底
(
かはぞこ
)
が
水晶
(
すゐしやう
)
の
如
(
ごと
)
く
透
(
す
)
き
通
(
とほ
)
り、
027
月夜
(
つきよ
)
にも
拘
(
かかは
)
らず、
028
小魚
(
こうを
)
の
泳
(
およ
)
ぐの
迄
(
まで
)
がハツキリと
見
(
み
)
えて
来
(
き
)
た。
029
カールチンは、
030
カールチン
『
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
があるものだ。
031
昼
(
ひる
)
でさへも
此
(
この
)
川
(
かは
)
はうす
濁
(
にご
)
りで
底
(
そこ
)
の
見
(
み
)
えた
事
(
こと
)
はないのに、
032
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
何
(
ど
)
うしたものだらう、
033
透
(
す
)
きとほつた
水晶
(
すゐしやう
)
の
水
(
みづ
)
が
流
(
なが
)
れてゐるワイ。
034
ヤツパリ
之
(
これ
)
も
月
(
つき
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が、
035
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
恋
(
こひ
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
祝
(
しゆく
)
して
下
(
くだ
)
さるのだらう』
036
と
独言
(
ひとりご
)
ちつつ、
037
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
んでゐる。
038
そこへ
水底
(
みなそこ
)
をもがきながら、
039
流
(
なが
)
れて
来
(
き
)
たのがテーナ
姫
(
ひめ
)
であつた。
040
カールチン
『ヤア、
041
テーナの
奴
(
やつ
)
、
042
この
川上
(
かはかみ
)
で
落馬
(
らくば
)
して
川
(
かは
)
へはまり、
043
此処
(
ここ
)
まで
流
(
なが
)
れて
来
(
き
)
よつたと
見
(
み
)
えるワイ。
044
何
(
なん
)
だか、
045
まだ
川
(
かは
)
の
底
(
そこ
)
で
動
(
うご
)
いてゐるやうだ。
046
ヤア、
047
此処
(
ここ
)
で、
048
とうとう
沈澱
(
ちんでん
)
するらしいぞ』
049
どこともなく
声
(
こゑ
)
ありて、
050
(ユーフテス)
『テーナ
姫
(
ひめ
)
は
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
女房
(
にようばう
)
ではないか。
051
なぜ
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
河中
(
かちう
)
に
飛込
(
とびこ
)
み
救
(
すく
)
うてやらぬのか。
052
ホンに
水臭
(
みづくさ
)
い
男
(
をとこ
)
だなア』
053
と
叫
(
さけ
)
ぶ
者
(
もの
)
がある。
054
後
(
あと
)
ふり
返
(
かへ
)
り
見
(
み
)
れば、
055
ユーフテスであつた。
056
カールチン
『コリヤ、
057
ユーフテス、
058
どこから
来
(
き
)
たのだい。
059
救
(
すく
)
はうと
救
(
すく
)
ふまいと、
060
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
だ。
061
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
の
敢
(
あへ
)
て
干渉
(
かんせう
)
する
範囲
(
はんゐ
)
ぢやないわい。
062
黙
(
だま
)
つて
居
(
ゐ
)
よう』
063
テーナ
姫
(
ひめ
)
は
川底
(
かはそこ
)
に
坐
(
すわ
)
り
込
(
こ
)
み、
064
何
(
なん
)
だか
手
(
て
)
をあげて
救
(
すく
)
ひを
叫
(
さけ
)
ぶ。
065
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
は
残
(
のこ
)
らず
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
となつて、
066
ブクブクブクと
屁
(
へ
)
の
玉
(
たま
)
が
風呂
(
ふろ
)
の
中
(
なか
)
で
行列
(
ぎやうれつ
)
して
浮
(
う
)
き
上
(
あが
)
る
様
(
やう
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
067
ユーフテス
『
旦那
(
だんな
)
さま、
068
あんた
俄
(
にはか
)
に
水臭
(
みづくさ
)
くなりましたなア。
069
何程
(
なにほど
)
恋
(
こひ
)
の
邪魔
(
じやま
)
になると
云
(
い
)
つても、
070
女房
(
にようばう
)
を
見殺
(
みごろ
)
しにするのは、
071
チツト
不道徳
(
ふだうとく
)
ぢやありませぬか』
072
カールチン
『どうで
不道徳
(
ふだうとく
)
だらうよ、
073
併
(
しか
)
し
事
(
こと
)
の
成行
(
なりゆき
)
ならば
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか』
074
かく
話
(
はな
)
してゐる
所
(
ところ
)
へ、
075
又
(
また
)
もや
川底
(
かはそこ
)
をゴロリゴロリと
流
(
なが
)
れて
来
(
く
)
る
女
(
をんな
)
の
姿
(
すがた
)
が
手
(
て
)
に
取
(
と
)
るやうに
見
(
み
)
える。
076
二人
(
ふたり
)
は
目
(
め
)
を
見
(
み
)
はつて、
077
よくよく
見
(
み
)
れば、
078
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
が
綺麗
(
きれい
)
な
着物
(
きもの
)
を
着飾
(
きかざ
)
つた
儘
(
まま
)
、
079
髪
(
かみ
)
を
垂
(
た
)
らして
流
(
なが
)
れて
来
(
き
)
た。
080
そしてテーナ
姫
(
ひめ
)
の
沈
(
しづ
)
んでゐる
所
(
ところ
)
へ
折
(
をり
)
よく
沈澱
(
ちんでん
)
した。
081
カールチン
『ヤア、
082
此奴
(
こいつ
)
ア
大変
(
たいへん
)
だ、
083
肝腎
(
かんじん
)
の
目的物
(
もくてきぶつ
)
が
身投
(
みなげ
)
をしたと
見
(
み
)
える。
084
此奴
(
こいつ
)
ア、
085
助
(
たす
)
けにやなるまい』
086
と
赤裸
(
まつばだか
)
にならうとするのを、
087
ユーフテスは
其
(
その
)
手
(
て
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
088
ユーフテス
『モシモシ
旦那
(
だんな
)
さま、
089
危
(
あぶ
)
ない
危
(
あぶ
)
ない、
090
こんな
所
(
ところ
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
まうものなら、
091
それこそテーナ
姫
(
ひめ
)
さまと
情死
(
じやうし
)
するやうなものだ。
092
おきなさいな』
093
カールチン
『ナーニ、
094
俺
(
おれ
)
はヤスダラ
姫
(
ひめ
)
と
心中
(
しんぢう
)
するのだ。
095
かもてくれない』
096
と
赤裸
(
まつぱだか
)
になり、
097
飛込
(
とびこ
)
まうとするのを、
098
グツと
襟髪
(
えりがみ
)
をつかみ、
099
ユーフテス
『
待
(
ま
)
てと
申
(
まを
)
さば、
100
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づお
待
(
ま
)
ちなさいませ』
101
カールチン
『エヽ
邪魔
(
じやま
)
ひろぐな、
102
グヅグヅしてると、
103
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
息
(
いき
)
の
根
(
ね
)
が
切
(
き
)
れてしまふぢやないか』
104
川
(
かは
)
の
底
(
そこ
)
では
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
が、
105
組
(
く
)
んづ
組
(
く
)
まれつ、
106
力限
(
ちからかぎ
)
りに
格闘
(
かくとう
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
107
カールチンは、
108
カールチン
『コラ、
109
テーナ
姫
(
ひめ
)
、
110
何
(
なに
)
をする、
111
俺
(
おれ
)
が
了簡
(
れうけん
)
せぬぞ』
112
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
113
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
たまま、
114
ザンブと
飛込
(
とびこ
)
んだ
途端
(
とたん
)
に、
115
ブルブルブルと
石
(
いし
)
を
投込
(
なげこ
)
んだ
様
(
やう
)
に
沈
(
しづ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
116
橋
(
はし
)
の
袂
(
たもと
)
には
凩
(
こがらし
)
が
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
いて
通
(
とほ
)
つてゐる。
117
ユーフテスと
見
(
み
)
えた
男
(
をとこ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
巨大
(
きよだい
)
な
白狐
(
びやくこ
)
となり、
118
のそりのそりと
橋
(
はし
)
を
渡
(
わた
)
つてイルナ
城
(
じやう
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
119
テーナ
姫
(
ひめ
)
の
出陣
(
しゆつぢん
)
の
後
(
のち
)
、
120
館
(
やかた
)
の
守備
(
しゆび
)
に
任
(
にん
)
ぜられ、
121
ハルナの
応援軍
(
おうゑんぐん
)
から
取残
(
とりのこ
)
された
大男
(
おほをとこ
)
、
122
ハルマンは
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
カールチンの
挙動
(
きよどう
)
の
常
(
つね
)
ならぬのに
不審
(
ふしん
)
を
起
(
おこ
)
し、
123
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れても
主人
(
しゆじん
)
の
帰
(
かへ
)
りなきを
案
(
あん
)
じて
橋詰
(
はしづめ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た。
124
川
(
かは
)
の
面
(
おもて
)
は
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
でキラキラと
光
(
ひか
)
つてゐる。
125
忽
(
たちま
)
ちムクムクと
川底
(
かはそこ
)
から
浮上
(
うきあが
)
つた
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
がある。
126
ハルマンは
透
(
す
)
かし
見
(
み
)
て、
127
ハルマン
『ヤアやこれは
誰
(
たれ
)
かが
川
(
かは
)
へ
はま
つて
死
(
し
)
にかけてゐるのだ。
128
助
(
たす
)
けにやならぬ』
129
と
衣類
(
いるゐ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
捨
(
す
)
て、
130
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らしてザンブとばかり
飛込
(
とびこ
)
み、
131
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
を
矢庭
(
やには
)
に
引掴
(
ひつつか
)
み、
132
抜
(
ぬ
)
き
手
(
て
)
を
切
(
き
)
つて
一方
(
いつぱう
)
の
手
(
て
)
で
水
(
みづ
)
をかき
分
(
わ
)
け、
133
泳
(
およ
)
いで
岸
(
きし
)
に
取
(
と
)
りつき、
134
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
135
いろいろと
介抱
(
かいほう
)
して
呼
(
よ
)
び
生
(
い
)
かし、
136
よくよく
見
(
み
)
れば
右守司
(
うもりのかみ
)
のカールチンであつた。
137
ハルマンは
二度
(
にど
)
ビツクリ、
138
言葉
(
ことば
)
もせはしく、
139
ハルマン
『ヤア、
140
貴方
(
あなた
)
は
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
141
危
(
あぶ
)
ないこつて
厶
(
ござ
)
いました。
142
チと
確
(
しつ
)
かりして
下
(
くだ
)
さいませ』
143
カールチンは
漸
(
やうや
)
くにして
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
き、
144
カールチン
『あゝお
前
(
まへ
)
はヤスダラ
姫
(
ひめ
)
か、
145
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
だつた。
146
俺
(
おれ
)
も
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にお
前
(
まへ
)
の
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けてやらうと
思
(
おも
)
うて
飛込
(
とびこ
)
んだのだ、
147
マアよかつた。
148
サア
之
(
これ
)
から
城内
(
じやうない
)
へ
行
(
ゆ
)
かう、
149
こんな
所
(
ところ
)
にグヅグヅして
居
(
を
)
つて、
150
人
(
ひと
)
に
見付
(
みつ
)
けられちや
大変
(
たいへん
)
だから』
151
ハルマン
『モシモシ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
152
確
(
しつか
)
りなさいませ。
153
ここは
何処
(
どこ
)
だと
思
(
おも
)
つて
厶
(
ござ
)
るのですか』
154
カールチン
『ここは
入那川
(
いるながは
)
の
堤
(
つつみ
)
ぢやないか、
155
サア
早
(
はや
)
く
行
(
ゆ
)
かう。
156
ヨモヤ
又
(
また
)
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いたり、
157
妙
(
めう
)
な
手付
(
てつき
)
をして
俺
(
おれ
)
をおどかす
狸村
(
たぬきむら
)
喜平
(
きへい
)
ぢやあろまいな、
158
エーン』
159
ハルマン
『モシモシ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
160
私
(
わたし
)
はヤスダラ
姫
(
ひめ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬよ、
161
家来
(
けらい
)
のハルマンですがな。
162
チと
確
(
しつ
)
かりして
下
(
くだ
)
さいな』
163
カールチン
『ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
命
(
いのち
)
は
助
(
たす
)
かつたか、
164
何
(
ど
)
うだ。
165
早
(
はや
)
く
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
かしてくれないか』
166
ハルマン
『そんな
人
(
ひと
)
は
如何
(
どう
)
なつたか、
167
私
(
わたし
)
や
分
(
わか
)
りませぬ。
168
只
(
ただ
)
貴方
(
あなた
)
さへ
助
(
たす
)
ければ
私
(
わたし
)
の
役
(
やく
)
がすむのぢやありませぬか。
169
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
なんて、
170
テルマン
国
(
ごく
)
から
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
たやうなアバズレ
女
(
をんな
)
に
構
(
かま
)
ふことがあるものですか。
171
あんな
奴
(
やつ
)
ア、
172
死
(
し
)
なうと
生
(
い
)
きようと
放
(
ほ
)
つときやいいのですよ。
173
貴方
(
あなた
)
もヤスダラ
姫
(
ひめ
)
を
大変
(
たいへん
)
に
憎
(
にく
)
んで
居
(
ゐ
)
らつしやつたぢやありませぬか。
174
サマリー
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
が
変
(
かは
)
つて、
175
如何
(
どう
)
やらヤスダラ
姫
(
ひめ
)
を
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
女房
(
にようばう
)
にしさうだと
云
(
い
)
つて、
176
大変
(
たいへん
)
に
疳
(
かん
)
を
立
(
た
)
てて
泣
(
な
)
いてばかりゐられますよ。
177
私
(
わたし
)
はそれが
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
見
(
み
)
て
居
(
を
)
れないので、
178
かうして
捜
(
さが
)
しに
来
(
き
)
たのです。
179
何
(
なん
)
で
又
(
また
)
こんな
川
(
かは
)
へ、
180
盲
(
めくら
)
でもないのに
落込
(
おちこ
)
みなさつたのですか』
181
カールチン
『
今
(
いま
)
は
何時
(
なんどき
)
だ、
182
テンと
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬやうになつて
来
(
き
)
たワイ』
183
ハルマン
『
夜
(
よる
)
の
五
(
いつ
)
つ
時
(
どき
)
、
184
あの
通
(
とほ
)
りお
月様
(
つきさま
)
が
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
へお
上
(
あが
)
りになつてるぢやありませぬか。
185
サア、
186
私
(
わたし
)
がお
供
(
とも
)
して
帰
(
かへ
)
りませう。
187
お
召物
(
めしもの
)
もズクズクになり、
188
風
(
かぜ
)
に
当
(
あた
)
つてお
風邪
(
かぜ
)
でも
召
(
め
)
したら
大変
(
たいへん
)
です』
189
と
言
(
い
)
ひながら、
190
無理
(
むり
)
にカールチンを
引抱
(
ひつかか
)
へ、
191
大力
(
たいりき
)
無双
(
むさう
)
のハルマンは
右守司
(
うもりのかみ
)
の
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
して、
192
トントントンと
地響
(
ぢひびき
)
させながら
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
193
(
大正一一・一一・一六
旧九・二八
松村真澄
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