霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 女(をんな)武者(むしや)〔一一三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第2篇 恋海慕湖 よみ(新仮名遣い):れんかいぼこ
章:第7章 女武者 よみ(新仮名遣い):おんなむしゃ 通し章番号:1132
口述日:1922(大正11)年11月14日(旧09月26日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
カールチンはテーナ姫と王位に就く願望成就の前祝の酒を酌み交わしていた。カールチンは、自分の王位簒奪が争いをせずに成就したので、反乱討伐で多忙の大黒主に援軍を出そうとテーナ姫に提案した。
カールチンはテーナ姫をおだてて、大黒主への援軍の大将に任命してしまった。テーナ姫は軍を引き連れて遠征の途に上ることになった。
テーナ姫を遠征に出したカールチンは、出勤日だから登城するとサモア姫に留守を預け、共も連れずに一人で城内に進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-22 14:51:11 文字数:3894 OBC :rm4207
愛善世界社版:94頁 八幡書店版:第7輯 676頁 修補版: 校定版:98頁 普及版:36頁 初版: ページ備考:
001秋(あき)も漸(やうや)く深(ふか)くして
002澄(す)み渡(わた)りたる朝日影(あさひかげ)
003東(ひがし)の窓(まど)をおしあけて
004今日(けふ)は心(こころ)もカールチン
005テーナの姫(ひめ)と諸共(もろとも)に
006目出度(めでた)い目出度(めでた)い、お目出度(めでた)い
007鯛(たひ)や鰹(かつを)の生魚(なまざかな)
008夫婦(ふうふ)はここにさし向(むか)ひ
009水(みづ)も漏(も)らさぬ親(した)しみの
010色(いろ)を表(おもて)に現(あら)はして
011酒(さけ)汲(く)み交(かは)す右守司(うもりつかさ)
012ホロ酔(よひ)機嫌(きげん)の高笑(たかわら)ひ
013盃(さかづき)重(かさ)ねてフナフナと
014腰(こし)のあたりも怪(あや)しげに
015恋(こひ)(鯉)に迷(まよ)うた目(め)の光(ひか)り
016どことはなしにキラキラと
017月(つき)(盃)にさし込(こ)む朝日子(あさひこ)の
018眩(まばゆ)きばかりヤスダラ女(によ)
019女房(にようばう)となつてほしの空(そら)
020天(あま)の河原(かはら)を中(なか)にして
021年(ねん)に一度(いちど)は七夕(たなばた)の
022逢(あ)ふ瀬(せ)も清(きよ)き恋(こひ)の川(かは)
023そしらぬ顔(かほ)に盃(さかづき)を
024女房(にようばう)にさせばテーナ姫(ひめ)
025さも嬉(うれ)しげに頂(いただ)いて
026これが別(わか)れの盃(さかづき)と
027知(し)らぬが仏(ほとけ)神心(かみごころ)
028胸(むね)に一物(いちもつ)たたみたる
029右守(うもり)の司(かみ)の布袋顔(ほていがほ)
030やうやう右守(うもり)は顔(かほ)をあげ
031カールチン『テーナの姫(ひめ)よ、吾(わが)妻(つま)よ
032いよいよ願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)の
033時(とき)こそ迫(せま)り来(きた)りけり
034吾(われ)はイルナの刹帝利(せつていり)
035汝(なれ)は妃(きさき)の貴(たか)き身(み)よ
036陰(いん)と陽(やう)との息(いき)合(あ)はせ
037イルナの国(くに)を永久(とこしへ)に
038守(まも)るも嬉(うれ)し松(まつ)の御代(みよ)
039待(ま)つ甲斐(かひ)あつて妹(いも)と背(せ)の
040夫婦(ふうふ)の喜(よろこ)び千代(ちよ)の縁(えん)
041勇(いさ)み喜(よろこ)び舞(ま)ひ歌(うた)へ
042梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
043大国彦(おほくにひこ)の御恵(みめぐ)みは
044天津(あまつ)御空(みそら)も只(ただ)ならず
045大海原(おほうなばら)のいと広(ひろ)く
046恵(めぐ)みの露(つゆ)を遠近(をちこち)の
047青人草(あをひとぐさ)に垂(た)れ給(たま)ふ
048蒼生(あをひとぐさ)は神(かみ)の御子(みこ)
049尊(たふと)き神(かみ)の珍(うづ)の宮(みや)
050御子(みこ)と宮(みや)とを預(あづ)かりて
051イルナの国(くに)に君臨(くんりん)し
052堅磐(かきは)常磐(ときは)に世(よ)を守(まも)る
053吾(わが)身(み)の上(うへ)ぞ楽(たの)しけれ
054あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
055御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ
056朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
057月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
058仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
059汝(なれ)と吾(われ)とは永久(とこしへ)に
060夫婦(ふうふ)の仲(なか)も睦(むつま)じく
061八千代(やちよ)の椿(つばき)優曇華(うどんげ)の
062花(はな)咲(さ)く春(はる)を楽(たの)しみて
063神(かみ)の大道(おほぢ)に仕(つか)ふべし
064梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
065神(かみ)の御前(みまへ)に真心(まごころ)を
066誓(ちか)ひて祈(いの)り奉(たてまつ)る』
067と一杯(いつぱい)機嫌(きげん)で、068右守(うもり)の司(かみ)は妻(つま)のテーナ姫(ひめ)と共(とも)に酒(さけ)酌(く)み交(かは)しながら歌(うた)つて居(ゐ)る。069テーナ姫(ひめ)は気(き)もさえざえしく笑(ゑみ)を満面(まんめん)に湛(たた)へて、070夫(をつと)に盃(さかづき)をさしながら節(ふし)面白(おもしろ)く歌(うた)ひ始(はじ)めた。
071テーナ姫『大梵天王(だいぼんてんわう)自在天(じざいてん)
072大国彦(おほくにひこ)の大神(おほかみ)の
073恩頼(みたまのふゆ)は目(ま)のあたり
074現(あら)はれ来(きた)り吾(わが)夫(つま)は
075イルナの国(くに)の刹帝利(せつていり)
076四民(しみん)の親(おや)と仰(あふ)がれて
077時(とき)めき給(たま)ふ時(とき)は来(き)ぬ
078妾(わらは)も同(おな)じ妻司(つまがみ)の
079麻(あさ)に連(つ)れ添(そ)ふ蓬(よもぎ)ぞよ
080君(きみ)が高(たか)きにのぼりなば
081妾(わらは)も高(たか)き位(くらゐ)につき
082月日(つきひ)並(なら)べて永久(とこしへ)に
083天津(あまつ)御空(みそら)の星(ほし)のごと
084群集(うごな)はり居(を)る蒼生(たみぐさ)を
085いと平(たひら)けく安(やす)らけく
086神(かみ)のまにまに治(をさ)めゆき
087イルナの国(くに)の生神(いきがみ)と
088名(な)を万世(よろづよ)に轟(とどろ)かし
089尊(たふと)き神(かみ)の御柱(みはしら)と
090なるぞ嬉(うれ)しき夫婦仲(ふうふなか)
091あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
092御霊(みたま)幸(さち)はへましまして
093一日(ひとひ)も早(はや)く片時(かたとき)も
094此(この)目的(もくてき)を委曲(まつぶさ)に
095立(た)てさせ給(たま)へと願(ね)ぎまつる
096思(おも)へば思(おも)へば先(さき)の世(よ)で
097吾(われ)等(ら)夫婦(ふうふ)は天地(あめつち)の
098神(かみ)の御前(みまへ)に身(み)を尽(つく)し
099誠(まこと)を尽(つく)せしものならむ
100忽(たちま)ち入(い)り来(く)る福(ふく)の神(かみ)
101大黒主(おほくろぬし)は云(い)ふも更(さら)
102右守(うもり)の司(かみ)の恵比須(ゑびす)顔(がほ)
103小事(せうじ)を苦(く)にせぬ布袋(ほて)つ腹(ばら)
104命(いのち)も長(なが)く福禄寿(げほ)頭(あたま)
105弁財天(べんざいてん)の御(ご)利益(りやく)で
106珍(うづ)の宝(たから)を積(つ)み重(かさ)ね
107毘舎門天(びしやもんてん)の武勇(ぶゆう)をば
108四方(よも)の国々(くにぐに)果(は)てしなく
109発揮(はつき)しまつり天国(てんごく)の
110目出度(めでた)き様(さま)を地(ち)の上(うへ)に
111築(きづ)き上(あ)ぐるも目(ま)のあたり
112あゝ頼(たの)もしや頼(たの)もしや
113神(かみ)は吾(われ)等(ら)を守(まも)りまし
114吾(われ)等(ら)は神(かみ)を敬(うやま)ひつ
115神人(しんじん)和合(わがふ)し敬愛(けいあい)し
116名位(めいゐ)寿富(じゆふう)の大徳(だいとく)を
117千代(ちよ)万代(よろづよ)に永久(とこしへ)に
118授(さづ)け給(たま)へよ自在天(じざいてん)
119元津(もとつ)御祖(みおや)の大神(おほかみ)の
120御前(みまへ)に畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
121あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
122御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ』
123カールチン『テーナ姫(ひめ)、124日頃(ひごろ)の大望(たいまう)もどうやら成功(せいこう)の機運(きうん)に向(むか)つたやうだなア。125今日(けふ)は一入(ひとしほ)酒(さけ)の味(あぢ)もよいぢやないか。126お前(まへ)も前祝(まへいは)ひに今日(けふ)は十分(じふぶん)飲(の)んだらよからう。127エーン』
128テーナ姫『左様(さやう)で厶(ござ)いますなア、129これと云(い)ふのも日頃(ひごろ)信(しん)ずる大自在天(だいじざいてん)様(さま)の御(ご)利益(りやく)で厶(ござ)いませう。130何卒(どうぞ)旦那(だんな)様(さま)、131貴方(あなた)は御(ご)出世(しゆつせ)なさつても私(わたし)を捨(す)てない様(やう)にして下(くだ)さいませや。132出世(しゆつせ)をなさればなさる程(ほど)気(き)の揉(も)めるは女(をんな)の常(つね)です。133お見捨(みす)てない様(やう)に呉(く)れ呉(ぐ)れもお願(ねがひ)申(まを)して置(お)きますよ』
134カールチン『アハヽヽヽまたしてもまたしても、135取越(とりこ)し苦労(くらう)をする女(をんな)だなア。136仮令(たとへ)三千(さんぜん)世界(せかい)を手(て)に入(い)れるとも、137お前(まへ)と別(わか)れて暮(くら)すのなら、138何(なん)の楽(たの)しみもないぢやないか。139お前(まへ)は二十(にじふ)年(ねん)以上(いじやう)も添(そ)うて置(お)いて、140まだ私(わし)の心(こころ)が分(わか)らぬのぢやなあ。141エーン』
142テーナ姫『旦那(だんな)様(さま)が其(その)お心(こころ)ならば私(わたし)は嬉(うれ)しう厶(ござ)います。143その代(かは)りどんな事(こと)を仰有(おつしや)つても、144決(けつ)して背(そむ)きは致(いた)しませぬわ。145こんな親切(しんせつ)な旦那(だんな)様(さま)に背(そむ)くやうな事(こと)があつては、146大自在天(だいじざいてん)様(さま)の御(ご)冥罰(めいばつ)が恐(おそ)ろしう厶(ござ)いますからなア』
147カールチン『イヤ好(よ)く云(い)つて呉(く)れた。148それでこそ俺(おれ)の女房(にようばう)だ。149併(しか)しお前(まへ)に一(ひと)つ相談(さうだん)があるが、150キツト聞(き)いて呉(く)れるだらうなア』
151テーナ姫『オホヽヽヽ、152聞(き)いて呉(く)れえなんて、153そりや又(また)何(なに)を仰有(おつしや)います。154夫(をつと)が女房(にようばう)に頼(たの)むお人(ひと)が何処(どこ)の世界(せかい)に厶(ござ)いませうか。155貴方(あなた)のお望(のぞ)みとは何事(なにごと)で厶(ござ)いますか。156何卒(なにとぞ)手取(てつと)り早(ばや)く仰有(おつしや)つて下(くだ)さい、157貴方(あなた)のお頼(たの)みが一刻(いつこく)も早(はや)く聞(き)きたう厶(ござ)います』
158カールチン『アハヽヽヽ、159実(じつ)の処(ところ)は是(これ)からお前(まへ)にハルナの都(みやこ)まで出陣(しゆつぢん)して貰(もら)ひ度(た)いのだ。160夫(をつと)の言葉(ことば)をよもや背(そむ)きは致(いた)すまいなア。161エーン』
162テーナ姫『ハテ心得(こころえ)ぬ其(その)お言葉(ことば)、163今(いま)や大黒主(おほくろぬし)様(さま)から五百騎(ごひやくき)の兵士(つはもの)をお送(おく)り下(くだ)さる筈(はず)になつて居(を)るぢやありませぬか。164それに又(また)反対(はんたい)に此方(こちら)から軍隊(ぐんたい)を連(つ)れて行(ゆ)くとは、165どういふお考(かんが)へでございますか』
166カールチン『もはやセーラン王(わう)様(さま)は御(ご)決心(けつしん)遊(あそ)ばしたなり、167軍隊(ぐんたい)の必要(ひつえう)は些(すこ)しもないのぢや。168大黒主(おほくろぬし)様(さま)は近国(きんごく)に騒動(さうだう)が起(おこ)り、169沢山(たくさん)の兵(へい)を御(ご)派遣(はけん)になり、170ハルナの城(しろ)は守備(しゆび)全(まつた)く薄弱(はくじやく)となつて居(ゐ)る。171一方(いつぱう)は三五教(あななひけう)征伐(せいばつ)に鬼春別(おにはるわけ)を出(だ)し、172一方(いつぱう)はウラル教(けう)征伐(せいばつ)に大足別(おほだるわけ)が出陣(しゆつぢん)して居(ゐ)る。173云(い)はば国家(こくか)多事(たじ)の時(とき)だ。174こんな時(とき)に戦争(いくさ)もないのに援軍(ゑんぐん)を乞(こ)ふとは全(まつた)く済(す)まないぢやないか。175さうしてカールチンは神力(しんりき)が足(た)らないものだから、176大黒主(おほくろぬし)様(さま)から軍隊(ぐんたい)をかりて、177非望(ひばう)を遂(と)げたなど云(い)はれては末代(まつだい)の恥(はぢ)だ。178それよりも此方(こなた)より軍隊(ぐんたい)をさしむけ大黒主(おほくろぬし)様(さま)のお手伝(てつだ)ひをしようものなら、179吾々(われわれ)の武勇(ぶゆう)は天下(てんか)に轟(とどろ)き、180大黒主(おほくろぬし)様(さま)の御(おん)覚(おぼ)えも目出度(めでた)う、181吾々(われわれ)の守護(しゆご)する社稷(しやしよく)は金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)のやうなものだ。182エーン、183テーナ、184合点(がてん)が行(い)つたか』
185テーナ姫『旦那(だんな)様(さま)のお言葉(ことば)に背(そむ)く訳(わけ)ぢや厶(ござ)いませぬが、186さう楽観(らくくわん)も出来(でき)ますまい。187寸善(すんぜん)尺魔(しやくま)の世(よ)の中(なか)、188何時(なんどき)どんな事(こと)が突発(とつぱつ)するか分(わか)つたものぢや厶(ござ)いませぬ。189こればかりは篤(とつく)り御(ご)思案(しあん)を願(ねが)ひたいものです』
190カールチン『英雄(えいゆう)の胸中(きようちう)が女童(をんなわらべ)に分(わか)つて耐(たま)らうか。191オイ、192テーナ、193其(その)方(はう)は夫(をつと)の命令(めいれい)に反抗(はんかう)する積(つも)りか。194ヨシ、195ヨーシ、196それならそれで此(この)方(はう)にも了簡(れうけん)がある。197今日(こんにち)限(かぎ)り夫(をつと)でないぞ、198女房(にようばう)でないぞ、199サア一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)館(やかた)を立(た)ち去(さ)り召(め)され。200エーン』
201と声(こゑ)を尖(とが)らし語気(ごき)を強(つよ)めて叱(しか)りつけた。
202テーナ姫『それは余(あま)り非道(ひだう)なお言葉(ことば)、203あまりと云(い)へば余(あま)り水臭(みづくさ)いぢやございませぬか』
204カールチン『決(けつ)して俺(おれ)は水臭(みづくさ)い事(こと)はない、205其(その)方(はう)こそ夫(をつと)の言葉(ことば)に背(そむ)く冷淡(れいたん)至極(しごく)の女(をんな)だ。206俺(おれ)だつて長(なが)らく添(そ)うて来(き)た女房(にようばう)を放(はふ)り出(だ)すやうな約(つま)らぬ事(こと)は致(いた)し度(た)くないのだ。207お前(まへ)が余(あま)り頑固(ぐわんこ)だから腹(はら)が立(た)つたのだ。208エーン』
209テーナ姫『貴方(あなた)は実際(じつさい)私(わたし)を愛(あい)して呉(く)れては居(ゐ)ませぬなア。210どうも此(この)ごろの御(ご)様子(やうす)がちつと怪(あや)しいぢや厶(ござ)いませぬか』
211カールチン『嫌(いや)ぢや、212嫌(いや)ぢやで十(じふ)年(ねん)暮(く)れた、213到底(とても)々々(とても)で添(そ)ひ遂(と)げた、214と云(い)ふ世間(せけん)の噂(うはさ)もあるぢやないか、215さう気(き)に入(い)つた女房(にようばう)ばかりあるものぢやない。216併(しか)し俺(おれ)はお前(まへ)に対(たい)して一度(いちど)も嫌(いや)なイの字(じ)も思(おも)うた事(こと)はない。217お前(まへ)のやうなよい女房(にようばう)がどこにあらうかと実(じつ)は感謝(かんしや)して居(ゐ)るのだ。218余(あま)り可愛(かあい)いものだから、219つひこんな事(こと)を云(い)うたのだ。220これテーナ姫(ひめ)、221堪忍(こら)へて呉(く)れ、222この通(とほ)りだから』
223と手(て)を合(あは)して拝(をが)んで見(み)せる。224テーナ姫(ひめ)は俄(にはか)に機嫌(きげん)を直(なほ)し、225いそいそとして肩(かた)を揺(ゆす)ぶりながら、
226テーナ姫『ホヽヽヽ、227あのまア男(をとこ)らしいお顔(かほ)だち、228今更(いまさら)のやうに新枕(にひまくら)の昔(むかし)が思(おも)ひ出(だ)されて嬉(うれ)し涙(なみだ)が零(こぼ)れます。229それなら吾(わが)夫様(つまさま)、230仰(あふ)せに従(したが)ひハルナの都(みやこ)に参(まゐ)りませう』
231 カールチンは仕済(しすま)したりと私(ひそ)かに打(う)ち喜(よろこ)び、232態(わざ)と厳(おごそ)かな口調(くてう)で、
233カールチン『ヤア天晴(あつぱ)れ天晴(あつぱ)れ、234サアこれより汝(なんぢ)はハルナの国(くに)に立(た)ち向(むか)ひ、235五百騎(ごひやくき)の応援軍(おうゑんぐん)を元(もと)へ帰(かへ)し、236大黒主(おほくろぬし)様(さま)の御(ご)加勢(かせい)に出陣(しゆつぢん)致(いた)せ。237吾(われ)は都(みやこ)に留(とど)まり、238汝(なんぢ)が凱旋(がいせん)の日(ひ)を指折(ゆびを)り数(かぞ)へて待(ま)ち暮(く)らさむ。239サア一時(いつとき)も早(はや)く』
240とせき立(た)てる。241テーナ姫(ひめ)は部下(ぶか)の士卒(しそつ)を残(のこ)らず集(あつ)め、242茲(ここ)に三百(さんびやく)余(よ)騎(き)を引(ひ)き連(つ)れ、243イルナの都(みやこ)を後(あと)にハルナの都(みやこ)をさして遠征(ゑんせい)の途(と)に上(のぼ)る事(こと)となつた。
244 後(あと)にカールチンは、245やれ、246股(また)の腫物(できもの)がうんで潰(つぶ)れたと云(い)ふやうな心持(こころもち)で、247一人(ひとり)笑壺(ゑつぼ)に入(い)り、
248カールチン『エヘヽヽヽ、249遉(さすが)は右守(うもり)さまだ。250吾々(われわれ)の神謀(しんぼう)奇策(きさく)には疑(うたが)ひ深(ぶか)い女房(にようばう)も、251とうとう納得(なつとく)して出(で)て行(ゆ)きやがつた。252エヘヽヽヽ、253三寸(さんずん)の舌鋒(ぜつほう)をもつて五百(ごひやく)の応援軍(おうゑんぐん)を喰(く)ひとめ、254女房(にようばう)を動(うご)かして、255又(また)もや三百(さんびやく)の兵士(へいし)を大黒主(おほくろぬし)様(さま)に差(さ)し向(む)けた俺(おれ)の力(ちから)には、256大自在天(だいじざいてん)様(さま)だつて舌(した)を巻(ま)き給(たま)ふだらう。257あゝしてテーナ姫(ひめ)を陣頭(ぢんとう)に立(た)たせた以上(いじやう)は、258討死(うちじに)するは当然(たうぜん)だ。259ウフヽヽヽ、260イヤもう、261とんともう根(ね)つから葉(は)つから面白(おもしろ)くなつて来(き)たワイ。262サアこれから弁財天(べんざいてん)のやうな、263ヤスダラ姫(ひめ)のお顔(かほ)を拝見(はいけん)して来(こ)うかなア』
264と思(おも)はず知(し)らず大声(おほごゑ)を出(だ)した。265隣室(りんしつ)に居(ゐ)たサモア姫(ひめ)は、266すつかりカールチンの独言(ひとりごと)を聞(き)いて了(しま)ひ、267目(め)を丸(まる)くし舌(した)を巻(ま)いて呆(あき)れかへつて居(ゐ)た。268併(しか)し何喰(なにく)はぬ顔(かほ)をして足(あし)の運(はこ)びも淑(しと)やかにカールチンの傍(そば)に進(すす)み、
269サモア姫『旦那(だんな)様(さま)、270お奥様(おくさま)が御(ご)出陣(しゆつぢん)遊(あそ)ばし、271嘸(さぞ)お淋(さび)しい事(こと)で厶(ござ)いませうなア。272私(わたくし)も女(をんな)で厶(ござ)いますが、273まさか奥様(おくさま)の代理(だいり)を勤(つと)めると云(い)ふ訳(わけ)にも参(まゐ)らず、274御(ご)心中(しんちう)お察(さつ)し申上(まをしあ)げます。275併(しか)し乍(なが)ら、276旦那(だんな)様(さま)は本当(ほんたう)に偉(えら)い方(かた)ですなア。277ヤスダラ姫(ひめ)様(さま)がお待(ま)ち兼(か)ねでせうから、278一度(いちど)お顔(かほ)を拝(をが)ましてお上(あ)げなされましたらどうでせうか』
279カールチン『これこれサモア、280滅多(めつた)なことを云(い)ふではないぞ。281ヤスダラ姫(ひめ)如(ごと)きにこの方(はう)は用事(ようじ)はないわ』
282サモア姫『ホヽヽヽヽ、283さうでせうとも、284御(ご)用事(ようじ)はありさうな筈(はず)はありませぬわねえ』
285カールチン『これサモア姫(ひめ)、286今日(けふ)は俺(おれ)の出勤日(しゆつきんび)だから登城(とじやう)して来(く)る、287留守(るす)を頼(たの)むぞ。288さうして下僕(しもべ)共(ども)の行動(かうどう)を監督(かんとく)して呉(く)れ』
289サモア姫『ハイ畏(かしこ)まりました。290急(いそ)いで又(また)転(ころ)げないやうになさいませや。291ホヽヽヽヽ』
292カールチン『エー、293いらぬ事(こと)を云(い)ふな』
294とゆるゆる叱(しか)りつけ、295供(とも)をも連(つ)れず唯(ただ)一人(ひとり)、296裏門(うらもん)より城内(じやうない)さして進(すす)み行(ゆ)く。
297(大正一一・一一・一四 旧九・二六 加藤明子録)
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