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第七章 (をんな)武者(むしや)〔一一三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第2篇 恋海慕湖 よみ(新仮名遣い):れんかいぼこ
章:第7章 女武者 よみ(新仮名遣い):おんなむしゃ 通し章番号:1132
口述日:1922(大正11)年11月14日(旧09月26日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
カールチンはテーナ姫と王位に就く願望成就の前祝の酒を酌み交わしていた。カールチンは、自分の王位簒奪が争いをせずに成就したので、反乱討伐で多忙の大黒主に援軍を出そうとテーナ姫に提案した。
カールチンはテーナ姫をおだてて、大黒主への援軍の大将に任命してしまった。テーナ姫は軍を引き連れて遠征の途に上ることになった。
テーナ姫を遠征に出したカールチンは、出勤日だから登城するとサモア姫に留守を預け、共も連れずに一人で城内に進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-22 14:51:11 OBC :rm4207
愛善世界社版:94頁 八幡書店版:第7輯 676頁 修補版: 校定版:98頁 普及版:36頁 初版: ページ備考:
001(あき)(やうや)(ふか)くして
002()(わた)りたる朝日影(あさひかげ)
003(ひがし)(まど)をおしあけて
004今日(けふ)(こころ)もカールチン
005テーナの(ひめ)諸共(もろとも)
006目出度(めでた)目出度(めでた)い、お目出度(めでた)
007(たひ)(かつを)生魚(なまざかな)
008夫婦(ふうふ)はここにさし(むか)
009(みづ)()らさぬ(した)しみの
010(いろ)(おもて)(あら)はして
011(さけ)()(かは)右守司(うもりつかさ)
012ホロ(よひ)機嫌(きげん)高笑(たかわら)
013(さかづき)(かさ)ねてフナフナと
014(こし)のあたりも(あや)しげに
015(こひ)(鯉)に(まよ)うた()(ひか)
016どことはなしにキラキラと
017(つき)(盃)にさし()朝日子(あさひこ)
018(まばゆ)きばかりヤスダラ(によ)
019女房(にようばう)となつてほしの(そら)
020(あま)河原(かはら)(なか)にして
021(ねん)一度(いちど)七夕(たなばた)
022()()(きよ)(こひ)(かは)
023そしらぬ(かほ)(さかづき)
024女房(にようばう)にさせばテーナ(ひめ)
025さも(うれ)しげに(いただ)いて
026これが(わか)れの(さかづき)
027()らぬが(ほとけ)神心(かみごころ)
028(むね)一物(いちもつ)たたみたる
029右守(うもり)(かみ)布袋顔(ほていがほ)
030やうやう右守(うもり)(かほ)をあげ
031カールチン『テーナの(ひめ)よ、(わが)(つま)
032いよいよ願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)
033(とき)こそ(せま)(きた)りけり
034(われ)はイルナの刹帝利(せつていり)
035(なれ)(きさき)(たか)()
036(いん)(やう)との(いき)()はせ
037イルナの(くに)永久(とこしへ)
038(まも)るも(うれ)(まつ)御代(みよ)
039()甲斐(かひ)あつて(いも)()
040夫婦(ふうふ)(よろこ)千代(ちよ)(えん)
041(いさ)(よろこ)()(うた)
042梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
043大国彦(おほくにひこ)御恵(みめぐ)みは
044天津(あまつ)御空(みそら)(ただ)ならず
045大海原(おほうなばら)のいと(ひろ)
046(めぐ)みの(つゆ)遠近(をちこち)
047青人草(あをひとぐさ)()(たま)
048蒼生(あをひとぐさ)(かみ)御子(みこ)
049(たふと)(かみ)(うづ)(みや)
050御子(みこ)(みや)とを(あづ)かりて
051イルナの(くに)君臨(くんりん)
052堅磐(かきは)常磐(ときは)()(まも)
053(わが)()(うへ)(たの)しけれ
054あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
055御霊(みたま)(さち)はへましませよ
056朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
057(つき)()つとも()くるとも
058仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
059(なれ)(われ)とは永久(とこしへ)
060夫婦(ふうふ)(なか)(むつま)じく
061八千代(やちよ)椿(つばき)優曇華(うどんげ)
062(はな)()(はる)(たの)しみて
063(かみ)大道(おほぢ)(つか)ふべし
064梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
065(かみ)御前(みまへ)真心(まごころ)
066(ちか)ひて(いの)(たてまつ)る』
067一杯(いつぱい)機嫌(きげん)で、068右守(うもり)(かみ)(つま)のテーナ(ひめ)(とも)(さけ)()(かは)しながら(うた)つて()る。069テーナ(ひめ)()もさえざえしく(ゑみ)満面(まんめん)(たた)へて、070(をつと)(さかづき)をさしながら(ふし)面白(おもしろ)(うた)(はじ)めた。
071テーナ姫大梵天王(だいぼんてんわう)自在天(じざいてん)
072大国彦(おほくにひこ)大神(おほかみ)
073恩頼(みたまのふゆ)()のあたり
074(あら)はれ(きた)(わが)(つま)
075イルナの(くに)刹帝利(せつていり)
076四民(しみん)(おや)(あふ)がれて
077(とき)めき(たま)(とき)()
078(わらは)(おな)妻司(つまがみ)
079(あさ)()()(よもぎ)ぞよ
080(きみ)(たか)きにのぼりなば
081(わらは)(たか)(くらゐ)につき
082月日(つきひ)(なら)べて永久(とこしへ)
083天津(あまつ)御空(みそら)(ほし)のごと
084群集(うごな)はり()蒼生(たみぐさ)
085いと(たひら)けく(やす)らけく
086(かみ)のまにまに(をさ)めゆき
087イルナの(くに)生神(いきがみ)
088()万世(よろづよ)(とどろ)かし
089(たふと)(かみ)御柱(みはしら)
090なるぞ(うれ)しき夫婦仲(ふうふなか)
091あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
092御霊(みたま)(さち)はへましまして
093一日(ひとひ)(はや)片時(かたとき)
094(この)目的(もくてき)委曲(まつぶさ)
095()てさせ(たま)へと()ぎまつる
096(おも)へば(おも)へば(さき)()
097(われ)()夫婦(ふうふ)天地(あめつち)
098(かみ)御前(みまへ)()(つく)
099(まこと)(つく)せしものならむ
100(たちま)()()(ふく)(かみ)
101大黒主(おほくろぬし)()ふも(さら)
102右守(うもり)(かみ)恵比須(ゑびす)(がほ)
103小事(せうじ)()にせぬ布袋(ほて)(ばら)
104(いのち)(なが)福禄寿(げほ)(あたま)
105弁財天(べんざいてん)()利益(りやく)
106(うづ)(たから)()(かさ)
107毘舎門天(びしやもんてん)武勇(ぶゆう)をば
108四方(よも)国々(くにぐに)()てしなく
109発揮(はつき)しまつり天国(てんごく)
110目出度(めでた)(さま)()(うへ)
111(きづ)()ぐるも()のあたり
112あゝ(たの)もしや(たの)もしや
113(かみ)(われ)()(まも)りまし
114(われ)()(かみ)(うやま)ひつ
115神人(しんじん)和合(わがふ)敬愛(けいあい)
116名位(めいゐ)寿富(じゆふう)大徳(だいとく)
117千代(ちよ)万代(よろづよ)永久(とこしへ)
118(さづ)(たま)へよ自在天(じざいてん)
119元津(もとつ)御祖(みおや)大神(おほかみ)
120御前(みまへ)(かしこ)()ぎまつる
121あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
122御霊(みたま)(さち)はへましませよ』
123カールチン『テーナ(ひめ)124日頃(ひごろ)大望(たいまう)もどうやら成功(せいこう)機運(きうん)(むか)つたやうだなア。125今日(けふ)一入(ひとしほ)(さけ)(あぢ)もよいぢやないか。126(まへ)前祝(まへいは)ひに今日(けふ)十分(じふぶん)()んだらよからう。127エーン』
128テーナ姫左様(さやう)(ござ)いますなア、129これと()ふのも日頃(ひごろ)(しん)ずる大自在天(だいじざいてん)(さま)()利益(りやく)(ござ)いませう。130何卒(どうぞ)旦那(だんな)(さま)131貴方(あなた)()出世(しゆつせ)なさつても(わたし)()てない(やう)にして(くだ)さいませや。132出世(しゆつせ)をなさればなさる(ほど)()()めるは(をんな)(つね)です。133見捨(みす)てない(やう)()()れもお(ねがひ)(まを)して()きますよ』
134カールチン『アハヽヽヽまたしてもまたしても、135取越(とりこ)苦労(くらう)をする(をんな)だなア。136仮令(たとへ)三千(さんぜん)世界(せかい)()()れるとも、137(まへ)(わか)れて(くら)すのなら、138(なん)(たの)しみもないぢやないか。139(まへ)二十(にじふ)(ねん)以上(いじやう)()うて()いて、140まだ(わし)(こころ)(わか)らぬのぢやなあ。141エーン』
142テーナ姫旦那(だんな)(さま)(その)(こころ)ならば(わたし)(うれ)しう(ござ)います。143その(かは)りどんな(こと)仰有(おつしや)つても、144(けつ)して(そむ)きは(いた)しませぬわ。145こんな親切(しんせつ)旦那(だんな)(さま)(そむ)くやうな(こと)があつては、146大自在天(だいじざいてん)(さま)()冥罰(めいばつ)(おそ)ろしう(ござ)いますからなア』
147カールチン『イヤ()()つて()れた。148それでこそ(おれ)女房(にようばう)だ。149(しか)しお(まへ)(ひと)相談(さうだん)があるが、150キツト()いて()れるだらうなア』
151テーナ姫『オホヽヽヽ、152()いて()れえなんて、153そりや(また)(なに)仰有(おつしや)います。154(をつと)女房(にようばう)(たの)むお(ひと)何処(どこ)世界(せかい)(ござ)いませうか。155貴方(あなた)のお(のぞ)みとは何事(なにごと)(ござ)いますか。156何卒(なにとぞ)手取(てつと)(ばや)仰有(おつしや)つて(くだ)さい、157貴方(あなた)のお(たの)みが一刻(いつこく)(はや)()きたう(ござ)います』
158カールチン『アハヽヽヽ、159(じつ)(ところ)(これ)からお(まへ)にハルナの(みやこ)まで出陣(しゆつぢん)して(もら)()いのだ。160(をつと)言葉(ことば)をよもや(そむ)きは(いた)すまいなア。161エーン』
162テーナ姫『ハテ心得(こころえ)(その)言葉(ことば)163(いま)大黒主(おほくろぬし)(さま)から五百騎(ごひやくき)兵士(つはもの)をお(おく)(くだ)さる(はず)になつて()るぢやありませぬか。164それに(また)反対(はんたい)此方(こちら)から軍隊(ぐんたい)()れて()くとは、165どういふお(かんが)へでございますか』
166カールチン『もはやセーラン(わう)(さま)()決心(けつしん)(あそ)ばしたなり、167軍隊(ぐんたい)必要(ひつえう)(すこ)しもないのぢや。168大黒主(おほくろぬし)(さま)近国(きんごく)騒動(さうだう)(おこ)り、169沢山(たくさん)(へい)()派遣(はけん)になり、170ハルナの(しろ)守備(しゆび)(まつた)薄弱(はくじやく)となつて()る。171一方(いつぱう)三五教(あななひけう)征伐(せいばつ)鬼春別(おにはるわけ)()し、172一方(いつぱう)はウラル(けう)征伐(せいばつ)大足別(おほだるわけ)出陣(しゆつぢん)して()る。173()はば国家(こくか)多事(たじ)(とき)だ。174こんな(とき)戦争(いくさ)もないのに援軍(ゑんぐん)()ふとは(まつた)()まないぢやないか。175さうしてカールチンは神力(しんりき)()らないものだから、176大黒主(おほくろぬし)(さま)から軍隊(ぐんたい)をかりて、177非望(ひばう)()げたなど()はれては末代(まつだい)(はぢ)だ。178それよりも此方(こなた)より軍隊(ぐんたい)をさしむけ大黒主(おほくろぬし)(さま)のお手伝(てつだ)ひをしようものなら、179吾々(われわれ)武勇(ぶゆう)天下(てんか)(とどろ)き、180大黒主(おほくろぬし)(さま)(おん)(おぼ)えも目出度(めでた)う、181吾々(われわれ)守護(しゆご)する社稷(しやしよく)金剛(こんがう)不壊(ふゑ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)のやうなものだ。182エーン、183テーナ、184合点(がてん)()つたか』
185テーナ姫旦那(だんな)(さま)のお言葉(ことば)(そむ)(わけ)ぢや(ござ)いませぬが、186さう楽観(らくくわん)出来(でき)ますまい。187寸善(すんぜん)尺魔(しやくま)()(なか)188何時(なんどき)どんな(こと)突発(とつぱつ)するか(わか)つたものぢや(ござ)いませぬ。189こればかりは(とつく)()思案(しあん)(ねが)ひたいものです』
190カールチン英雄(えいゆう)胸中(きようちう)女童(をんなわらべ)(わか)つて(たま)らうか。191オイ、192テーナ、193(その)(はう)(をつと)命令(めいれい)反抗(はんかう)する(つも)りか。194ヨシ、195ヨーシ、196それならそれで(この)(はう)にも了簡(れうけん)がある。197今日(こんにち)(かぎ)(をつと)でないぞ、198女房(にようばう)でないぞ、199サア(いち)()(はや)(この)(やかた)()()()され。200エーン』
201(こゑ)(とが)らし語気(ごき)(つよ)めて(しか)りつけた。
202テーナ姫『それは(あま)非道(ひだう)なお言葉(ことば)203あまりと()へば(あま)水臭(みづくさ)いぢやございませぬか』
204カールチン(けつ)して(おれ)水臭(みづくさ)(こと)はない、205(その)(はう)こそ(をつと)言葉(ことば)(そむ)冷淡(れいたん)至極(しごく)(をんな)だ。206(おれ)だつて(なが)らく()うて()女房(にようばう)(はふ)()すやうな(つま)らぬ(こと)(いた)()くないのだ。207(まへ)(あま)頑固(ぐわんこ)だから(はら)()つたのだ。208エーン』
209テーナ姫貴方(あなた)実際(じつさい)(わたし)(あい)して()れては()ませぬなア。210どうも(この)ごろの()様子(やうす)がちつと(あや)しいぢや(ござ)いませぬか』
211カールチン(いや)ぢや、212(いや)ぢやで(じふ)(ねん)()れた、213到底(とても)々々(とても)()()げた、214()世間(せけん)(うはさ)もあるぢやないか、215さう()()つた女房(にようばう)ばかりあるものぢやない。216(しか)(おれ)はお(まへ)(たい)して一度(いちど)(いや)なイの()(おも)うた(こと)はない。217(まへ)のやうなよい女房(にようばう)がどこにあらうかと(じつ)感謝(かんしや)して()るのだ。218(あま)可愛(かあい)いものだから、219つひこんな(こと)()うたのだ。220これテーナ(ひめ)221堪忍(こら)へて()れ、222この(とほ)りだから』
223()(あは)して(をが)んで()せる。224テーナ(ひめ)(にはか)機嫌(きげん)(なほ)し、225いそいそとして(かた)(ゆす)ぶりながら、
226テーナ姫『ホヽヽヽ、227あのまア(をとこ)らしいお(かほ)だち、228今更(いまさら)のやうに新枕(にひまくら)(むかし)(おも)()されて(うれ)(なみだ)(こぼ)れます。229それなら(わが)夫様(つまさま)230(あふ)せに(したが)ひハルナの(みやこ)(まゐ)りませう』
231 カールチンは仕済(しすま)したりと(ひそ)かに()(よろこ)び、232(わざ)(おごそ)かな口調(くてう)で、
233カールチン『ヤア天晴(あつぱ)天晴(あつぱ)れ、234サアこれより(なんぢ)はハルナの(くに)()(むか)ひ、235五百騎(ごひやくき)応援軍(おうゑんぐん)(もと)(かへ)し、236大黒主(おほくろぬし)(さま)()加勢(かせい)出陣(しゆつぢん)(いた)せ。237(われ)(みやこ)(とど)まり、238(なんぢ)凱旋(がいせん)()指折(ゆびを)(かぞ)へて()()らさむ。239サア一時(いつとき)(はや)く』
240とせき()てる。241テーナ(ひめ)部下(ぶか)士卒(しそつ)(のこ)らず(あつ)め、242(ここ)三百(さんびやく)()()()()れ、243イルナの(みやこ)(あと)にハルナの(みやこ)をさして遠征(ゑんせい)()(のぼ)(こと)となつた。
244 (あと)にカールチンは、245やれ、246(また)腫物(できもの)うん(つぶ)れたと()ふやうな心持(こころもち)で、247一人(ひとり)笑壺(ゑつぼ)()り、
248カールチン『エヘヽヽヽ、249(さすが)右守(うもり)さまだ。250吾々(われわれ)神謀(しんぼう)奇策(きさく)には(うたが)(ぶか)女房(にようばう)も、251とうとう納得(なつとく)して()()きやがつた。252エヘヽヽヽ、253三寸(さんずん)舌鋒(ぜつほう)をもつて五百(ごひやく)応援軍(おうゑんぐん)()ひとめ、254女房(にようばう)(うご)かして、255(また)もや三百(さんびやく)兵士(へいし)大黒主(おほくろぬし)(さま)()()けた(おれ)(ちから)には、256大自在天(だいじざいてん)(さま)だつて(した)()(たま)ふだらう。257あゝしてテーナ(ひめ)陣頭(ぢんとう)()たせた以上(いじやう)は、258討死(うちじに)するは当然(たうぜん)だ。259ウフヽヽヽ、260イヤもう、261とんともう()つから()つから面白(おもしろ)くなつて()たワイ。262サアこれから弁財天(べんざいてん)のやうな、263ヤスダラ(ひめ)のお(かほ)拝見(はいけん)して()うかなア』
264(おも)はず()らず大声(おほごゑ)()した。265隣室(りんしつ)()たサモア(ひめ)は、266すつかりカールチンの独言(ひとりごと)()いて(しま)ひ、267()(まる)くし(した)()いて(あき)れかへつて()た。268(しか)何喰(なにく)はぬ(かほ)をして(あし)(はこ)びも(しと)やかにカールチンの(そば)(すす)み、
269サモア姫旦那(だんな)(さま)270奥様(おくさま)()出陣(しゆつぢん)(あそ)ばし、271(さぞ)(さび)しい(こと)(ござ)いませうなア。272(わたくし)(をんな)(ござ)いますが、273まさか奥様(おくさま)代理(だいり)(つと)めると()(わけ)にも(まゐ)らず、274()心中(しんちう)(さつ)申上(まをしあ)げます。275(しか)(なが)ら、276旦那(だんな)(さま)本当(ほんたう)(えら)(かた)ですなア。277ヤスダラ(ひめ)(さま)がお()()ねでせうから、278一度(いちど)(かほ)(をが)ましてお()げなされましたらどうでせうか』
279カールチン『これこれサモア、280滅多(めつた)なことを()ふではないぞ。281ヤスダラ(ひめ)(ごと)きにこの(はう)用事(ようじ)はないわ』
282サモア姫『ホヽヽヽヽ、283さうでせうとも、284()用事(ようじ)はありさうな(はず)はありませぬわねえ』
285カールチン『これサモア(ひめ)286今日(けふ)(おれ)出勤日(しゆつきんび)だから登城(とじやう)して()る、287留守(るす)(たの)むぞ。288さうして下僕(しもべ)(ども)行動(かうどう)監督(かんとく)して()れ』
289サモア姫『ハイ(かしこ)まりました。290(いそ)いで(また)(ころ)げないやうになさいませや。291ホヽヽヽヽ』
292カールチン『エー、293いらぬ(こと)()ふな』
294とゆるゆる(しか)りつけ、295(とも)をも()れず(ただ)一人(ひとり)296裏門(うらもん)より城内(じやうない)さして(すす)()く。
297大正一一・一一・一四 旧九・二六 加藤明子録)
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