霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 乱舌(らんぜつ)〔一一三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第2篇 恋海慕湖 よみ(新仮名遣い):れんかいぼこ
章:第8章 乱舌 よみ(新仮名遣い):らんぜつ 通し章番号:1133
口述日:1922(大正11)年11月15日(旧09月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
セーリス姫は、カールチンの王位簒奪計画を防ぐためとは言いながら、心にそぐわないユーフテスに色目を使って仲を偽ってきたことに心を痛め、二弦琴を弾きながら歌っている。
そこへユーフテスがそっとやってきた。ユーフテスは、清照姫の計略が当たり、カールチンが大黒主の援軍を断って返したことを報告にやってきた。
セーリス姫は自分の心を押さえてあくまでユーフテスに気がある風を装っている。ユーフテスは、これまで自分はセーリス姫にだまされているのではないかという疑いの心があったが、セーリス姫の真心がわかったと言って感動を露わにした。
ユーフテスが有頂天になっていると、扉の外からセーリス姫が呼びかけた。ユーフテスは、自分が今ここでセーリス姫と話をしているのに、不審を抱いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-22 15:38:29 文字数:4647 OBC :rm4208
愛善世界社版:106頁 八幡書店版:第7輯 680頁 修補版: 校定版:110頁 普及版:42頁 初版: ページ備考:
001(セーリス姫)『凩(こがらし)荒(すさ)ぶ秋(あき)の空(そら)
002妻(つま)恋(こ)ふ鹿(しか)の鳴(な)く声(こゑ)も
003細(ほそ)りて早(はや)くも冬(ふゆ)の空(そら)
004冷(つめ)たき風(かぜ)は窓(まど)を吹(ふ)き
005錦(にしき)飾(かざ)りし野(の)も山(やま)も
006木(こ)の葉(は)の衣(きぬ)を脱(ぬ)ぎすてて
007漸(やうや)く裸(はだか)となりにける
008時(とき)しもあれやユーフテス
009わが身(み)を思(おも)ふ恋衣(こひぎぬ)は
010いよいよ厚(あつ)く重(かさ)なりて
011百度(ひやくど)以上(いじやう)の上(のぼ)せ方(かた)
012冬(ふゆ)と夏(なつ)とを間違(まちが)へて
013猛(たけ)り狂(くる)ふぞ浅猿(あさま)しき
014誠(まこと)の道(みち)にありながら
015右守司(うもりつかさ)に比(くら)ぶれば
016稍(やや)正直(しやうぢき)な男(をとこ)をば
017詐(いつは)り操(あやつ)る吾(わが)心(こころ)
018げに恥(はづ)かしく思(おも)へども
019セーラン王(わう)や国(くに)の為(ため)
020仮令(たとへ)地獄(ぢごく)に堕(お)つるとも
021騙(だま)さにやならぬ此(この)場合(ばあひ)
022天地(てんち)の神(かみ)もセーリスが
023心(こころ)を諾(うべな)ひ遊(あそ)ばして
024曲行(まがおこな)ひを惟神(かむながら)
025直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
026宣(の)り直(なほ)されて此(この)度(たび)の
027イルナの国(くに)の大変(たいへん)を
028未発(みはつ)に防(ふせ)がせ給(たま)へかし
029騙(だま)され切(き)つたユーフテス
030さぞ今頃(いまごろ)は勇(いさ)み立(た)ち
031舌(した)をかみ切(き)り腮(あご)をうち
032苦(くる)しい身(み)をも打忘(うちわす)れ
033吾(わが)身(み)の事(こと)を一心(いつしん)に
034思(おも)ひこらしてスタスタと
035家路(いへぢ)を出(い)でて大道(だいだう)を
036急(いそ)ぎて進(すす)み来(きた)るらむ
037又(また)もや大道(だいだう)に顛倒(てんたふ)し
038大(おほ)きな怪我(けが)のなき様(やう)に
039梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
040厚(あつ)く守(まも)らせ給(たま)へかし
041ユーフもヤツパリ天地(あめつち)の
042神(かみ)の御水火(みいき)に生(うま)れたる
043神(かみ)の御子(みこ)なり神(かみ)の宮(みや)
044妾(わらは)も憎(にく)しと思(おも)はねど
045セーラン王(わう)の御(おん)為(ため)に
046忠義(ちうぎ)の犠牲(ぎせい)と心得(こころえ)て
047心(こころ)にもなき詐(いつは)りを
048図々(づうづう)しくも白昼(はくちう)に
049振舞(ふるま)ひ来(きた)るぞ悲(かな)しけれ
050天地(てんち)の神(かみ)よ百神(ももがみ)よ
051セーリス姫(ひめ)の罪業(ざいごふ)を
052咎(とが)め給(たま)はず速(すみや)かに
053許(ゆる)させ給(たま)へ惟神(かむながら)
054神(かみ)の御前(みまへ)にねぎ奉(まつ)る』
055と二絃琴(にげんきん)に合(あ)はして淑(しと)やかに歌(うた)つてゐるのは、056歌(うた)の文句(もんく)に現(あら)はれたセーリス姫(ひめ)である。
057 廊下(らうか)に足音(あしおと)を忍(しの)ばせながら、058あたりを窺(うかが)ひ、059ソツと這入(はい)つて来(き)たのはユーフテスである。060痩犬(やせいぬ)が臭(くさ)い乞食(こじき)の飯(めし)を嗅(か)ぎつけたやうなスタイルで、061負傷(ふしやう)した舌(した)を五分(ごぶ)ばかりニヨツと出(だ)し、062下唇(したくちびる)の上(うへ)に大切(だいじ)さうにチヤンと載(の)せ、063腰(こし)と首(くび)と互(たがひ)ちがひに振(ふ)りながら、064少(すこ)しく屈(かが)んで、065左右(さいう)の手(て)を妙(めう)な恰好(かつかう)にパツと広(ひろ)げ、066掌(てのひら)を上向(うへむ)けにして、067乞食(こじき)が物(もの)を貰(もら)ふ様(やう)な手(て)つき可笑(をか)しく、
068ユーフテス『モシ…………モシ…………姫(ひめ)さま』
069と言(い)ひ憎(にく)さうに口(くち)を切(き)つた。070セーリス姫(ひめ)は……あゝ又(また)嫌(いや)な男(をとこ)がやつて来(き)た、071暫(しばら)く虫(むし)を抑(おさ)へて、072一活動(ひとくわつどう)やらねばならぬ、073何(なに)ほど嫌(いや)でも嫌(いや)さうな顔(かほ)は出来(でき)ない。074「いやなお客(きやく)に笑(わら)うて見(み)せて、075ソツと泣(な)き出(だ)す好(す)きの膝(ひざ)」といふ事(こと)もある。076ここは遺憾(ゐかん)なく愛嬌(あいけう)を振(ふ)りまくのが孫呉(そんご)の兵法(へいはふ)だ…………と敏(さと)くも心(こころ)に決(けつ)し、077笑(ゑみ)を十二分(じふにぶん)に湛(たた)へて、
078セーリス姫『ユーフテス様(さま)、079御(お)怪我(けが)は如何(どう)で御座(ござ)いますか、080御(ご)用心(ようじん)して下(くだ)さいませや。081あたえ心配(しんぱい)致(いた)しまして、082昨夜(ゆふべ)も碌(ろく)に寝(ね)なかつたのですよ。083貴郎(あなた)が此(この)世(よ)の中(なか)に生存(せいぞん)して居(ゐ)られなかつたら、084あたえも最早(もはや)社会(しやくわい)に生存(せいぞん)の希望(きばう)はありませぬワ。085ねえ貴郎(あなた)、086可愛(かあい)いものでせう、087オホヽヽヽおゝ恥(はづか)し………』
088 ユーフテスは之(これ)を聞(き)いて頭(あたま)のぎりぎりまでザクザクさせ、089自由(じいう)のきかぬ舌(した)の側面(そくめん)から止(と)め度(ど)もなく涎(よだれ)を迸出(へいしゆつ)しながら、090慌(あわ)てて袂(たもと)で拭(ふ)き取(と)り、
091ユーフテス『(言(い)ひにくさうに言(い)ふ)お姫(ひめ)さま………有難(ありがた)う………お蔭(かげ)様(さま)で………大(たい)した事(こと)は………ありませぬから、092マア、093安心(あんしん)して下(くだ)さい………至極(しごく)………健全(けんぜん)です。094昨日(さくじつ)は大変(たいへん)に痛(いた)みましたが、095今日(こんにち)はお蔭(かげ)で大(だい)ウヅキがとまり、096気分(きぶん)も余程(よほど)よくなりました』
097セーリス姫『本当(ほんたう)にそれ聞(き)いて、098あてえ嬉(うれ)しいワ。099そらさうでせうよ、100終日(しうじつ)終夜(しゆうや)、101大自在天(だいじざいてん)様(さま)に御(ご)祈願(きぐわん)をこらしてゐたのだもの、102貴郎(あなた)の為(ため)なら、103仮令(たとへ)あたえの命(いのち)がなくなつても、104チツとも惜(を)しくないワネエ』
105ユーフテス『そりや………有難(ありがた)いなア………お姫(ひめ)さまの………御(ご)精神(せいしん)が………そこまで………熱誠(ねつせい)だとは………夢(ゆめ)にも思(おも)はなかつたですよ。106始(はじ)めの内(うち)は何(なに)か、107気(き)をひかれてゐるのぢやなからうかと、108疑(うたが)つてゐましたが………ヤツパリ疑(うたが)ふのは………私(わたし)の心(こころ)が汚(きたな)いからでした………どうぞ、109お姫(ひめ)さま、110こんなつまらぬ男(をとこ)でも、111ここまでも解(と)け合(あ)うたのですから、112どうぞ末永(すえなが)う可愛(かあい)がつて下(くだ)さい………其(その)代(かは)りに、113貴女(あなた)の為(ため)ならば鬼(おに)の巣窟(さうくつ)へでも、114獅子(しし)狼(おほかみ)の岩窟(いはや)へでも、115飛込(とびこ)めと仰有(おつしや)れば飛込(とびこ)みます。116猛獣(まうじう)の棲処(すみか)は愚(おろ)か、117猛火(まうくわ)の中(なか)でも水底(みなそこ)へでも、118御(ご)命令(めいれい)ならば………いやお頼(たの)みならば………何(なん)でも忠実(ちうじつ)に御用(ごよう)を承(うけたま)はりますワ』
119セーリス姫『オホヽヽ、120貴郎(あなた)そんな叮嚀(ていねい)な事(こと)いつて下(くだ)さると、121あたえ、122何(なん)だか他人(たにん)行儀(ぎやうぎ)のやうになつて気(き)が術(じゆつ)なうてなりませぬワ。123どうぞこれから、124そんな虚偽(きよぎ)の辞令(じれい)は抜(ぬ)きにして、125あたえを女房(にようばう)扱(あつか)ひに呼(よ)んで下(くだ)さいねえ。126そしておくれやしたら、127あたえ、128何(なん)ぼ嬉(うれ)しいか知(し)れませぬワ。129オホヽヽ』
130ユーフテス『時(とき)にお姫(ひめ)さま、131否(いな)セーリス姫(ひめ)、132喜(よろこ)べ、133偉(えら)い事(こと)が出来(でき)たぞ。134天(てん)が地(ち)になり、135地(ち)が天(てん)になる………と云(い)ふ大事変(だいじへん)だ。136それもヤツパリ智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)のユーフテスとセーリス姫(ひめ)との方寸(はうすん)から捻(ひね)りだした結果(けつくわ)だから、137剛勢(がうせい)なものだよ、138オツホヽヽ。139アイタヽヽ、140余(あま)り笑(わら)ふと、141ヤツパリ舌(した)が痛(いた)いワイ。142アーン』
143セーリス姫『大変(たいへん)とは何(なん)ですか。144早(はや)う言(い)つて下(くだ)さいな。145あたえ、146気(き)にかかつて仕様(しやう)がありませぬワ。147吉(きち)か凶(きよう)か、148善(ぜん)か悪(あく)か、149サ早(はや)う聞(き)かして頂戴(ちやうだい)』
150と、151目(め)を細(ほそ)うし首(くび)を傾(かたむ)け腮(あご)を前(まへ)へ突(つ)き出(だ)し、152舌(した)を右(みぎ)の唇(くちびる)の縫目(ぬひめ)へニユツと出(だ)し、153色目(いろめ)を使(つか)つて見(み)せた。154ユーフテスは益々(ますます)得意(とくい)になり、155十分(じふぶん)に手柄話(てがらばなし)を針小(しんせう)棒大(ぼうだい)にやつて見(み)たいのは山々(やまやま)だが、156思(おも)ふ様(やう)に舌(した)が命令(めいれい)を聞(き)かぬので、157もどかしがり、158目(め)をしばしばさせながら、
159ユーフテス『天地(てんち)が変(かは)るといふのは………それ、160お前(まへ)の心配(しんぱい)してゐた、161大黒主(おほくろぬし)様(さま)の御(ご)派遣(はけん)遊(あそ)ばす、162五百騎(ごひやくき)をぼつ返(かへ)す様(やう)になつたのだ』
163セーリス姫『エヽいよいよ決行(けつかう)されましたかなア。164さぞ清照姫(きよてるひめ)さまも喜(よろこ)ばれる事(こと)でせう、165清照姫(きよてるひめ)さまはヤツパリ偉(えら)いですなア』
166ユーフテス『そらさうですとも、167セーリス姫(ひめ)さまの………ドツコイ、168お前(まへ)の贋(にせ)の姉(あね)になるといふ腕前(うでまへ)だからなア、169偉(えら)いと云(い)へば偉(えら)いものだが、170併(しか)しながら其(その)八九分(はちくぶ)迄(まで)の功績(こうせき)は、171ヤツパリ、172ユーフテスとセーリス姫(ひめ)にあるのだからなア。173何程(なにほど)智慧(ちゑ)があつても、174器量(きりやう)がよくても、175一人(ひとり)で芝居(しばゐ)は出来(でき)ないから、176吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)は千(せん)両(りやう)役者(やくしや)と云(い)つても………過言(くわごん)ではあるまい。177アーン』
178セーリス姫『オホヽヽ、179正式(せいしき)結婚(けつこん)もせない内(うち)から、180夫婦(ふうふ)なんて言(い)ふものぢやありませぬよ。181もしも口(くち)さがなき京童(きやうわらべ)の耳(みみ)へでも這入(はい)らうものなら、182ユーフテスの夫婦(ふうふ)は自由(じいう)結婚(けつこん)をやつたとか、183セーリス姫(ひめ)はお転婆(てんば)の標本(へうほん)だとか、184新(あたら)しい女(をんな)だとか言(い)はれちや、185互(たがひ)の迷惑(めいわく)ですからなア』
186ユーフテス『それなら何(なん)と言(い)つたらいいのだ。187夫婦(ふうふ)と言(い)はれても、188余(あま)り気(き)が悪(わる)くなる問題(もんだい)ぢやあるまい。189アーン』
190セーリス姫『そらさうですとも、191一刻(いつこく)も早(はや)く、192互(たがひ)に夫(をつと)よ妻(つま)よと意茶(いちや)ついて暮(くら)したいのは山々(やまやま)ですワ。193余(あま)り嬉(うれ)しうて、194一寸(ちよつと)すねて見(み)たのですよ。195オホヽヽ』
196ユーフテス『エヽ肚(はら)の悪(わる)い女(をんな)だなア。197さう夫(をつと)をジラすものぢやないワ』
198セーリス姫『夫(をつと)でも男(をとこ)でも、199オツトセーでも、200ナツトセーでも良(い)いぢやありませぬか。201本当(ほんたう)の私(わたし)のオツトセーになるのは、202此(この)広(ひろ)い世界(せかい)に貴郎(あなた)丈(だけ)ですワネエ。203なつと千匹(せんびき)に夫(をつと)一匹(いつぴき)と云(い)ひまして、204択捉島(えとろふじま)あたり沢山(たくさん)に棲息(せいそく)してゐる膃肭臍(おつとせい)も、205真実(しんじつ)は千匹(せんびき)の中(なか)で真(しん)のオツトセーは只(ただ)の一匹(いつぴき)より居(ゐ)ないさうです。206九百(きうひやく)九十九(きうじふきう)匹(ひき)迄(まで)は皆(みな)なつとせいださうですからな。207アホツホヽヽ』
208ユーフテス『なつとせい………なんて、209そんな事(こと)は初耳(はつみみ)だがなア、210オツトセーとなつとせいと何処(どこ)で区別(くべつ)がつくのだらうかな』
211セーリス姫『そりや確(たしか)に区別(くべつ)がありますワ。212ナツトセーといふのは、213人間(にんげん)でいへばやくざ男(をとこ)の事(こと)ですよ。214婿(むこ)えらみをした結果(けつくわ)、215どれを見(み)ても帯(おび)には短(みじか)し襷(たすき)に長(なが)し、216意中(いちう)の夫(をつと)が見(み)つからない、217さうかうする内(うち)に月日(つきひ)の駒(こま)は矢(や)の如(ごと)く進(すす)み、218綻(ほころ)びかけた桜(さくら)の花(はな)は、219グヅグヅしてゐると既(すで)に梢(こずゑ)を去(さ)らむとするやうになつて来(く)る。220そこで慌(あわ)てて背(せ)となる人(ひと)を俄(にはか)にきめます。221其(その)時(とき)にどれを見(み)ても、222甲(かふ)乙(おつ)丙(へい)丁(てい)の区別(くべつ)がつかぬ、223併(しか)し此(この)男(をとこ)は鼻(はな)が高(たか)いとか、224口元(くちもと)がしまつてるとか、225目(め)が涼(すず)しいとか、226一(ひと)つの気(き)に入(い)る点(てん)を掴(つか)まへ出(だ)し、227コレナツと夫(をつと)にしようか………と云(い)つて、228女(をんな)の方(はう)からきめるのが、229所謂(いはゆる)ナツトセーですワ。230オツホヽヽ』
231ユーフテス『さうすると、232俺(おれ)はナツトセーの方(はう)かなア。233それを聞(き)くと余(あま)り有難(ありがた)くもないやうだ。234アーンアーン』
235セーリス姫『貴郎(あなた)はオツトセーですよ。236毛(け)の皮(かは)は柔(やはら)かいし、237皮(かは)むいて首巻(くびまき)にしたつて大変(たいへん)な高貴(かうき)なものなり、238皮(かは)になつても、239女(をんな)の首(くび)丈(だけ)はきつと、240ホコホコするといふ大事(だいじ)の大事(だいじ)のオツトセーですワ。241どの男(をとこ)を婿(むこ)に持(も)たうかと、242あたえも永(なが)らく調(しら)べてゐましたが、243あなたのやうな色(いろ)の白(しろ)い、244目(め)のパツチリとした、245鼻筋(はなすぢ)の通(とほ)つた、246口元(くちもと)のリリしい、247カイゼル髯(ひげ)の生(は)えた、248背(せ)のスラリと高(たか)い、249肌(はだ)の柔(やはら)かい、250しかも智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)と来(き)てゐるのだから、251オツトマカセに喰(くは)へ込(こ)んだのだから、252オツト待(ま)つてましたといふ具合(ぐあひ)に、253猫(ねこ)のやうに喉(のど)をゴロゴロならして飛付(とびつ)いたのですもの、254真(しん)の誠(まこと)のオツトセーですワ。255オホヽヽ』
256ユーフテス『アハヽヽ、257アハヽ、258アイタヽヽ、259何(なん)だか笑(わら)ふと舌(した)が痛(いた)い、260困(こま)つた事(こと)だ。261有難(ありがた)いなア』
262セーリス姫『コレ丈(だけ)恋慕(こひした)うてゐる女房(にようばう)ですもの、263あなただつて、264何(なに)もかも腹蔵(ふくざう)なく仰有(おつしや)つて下(くだ)さいますわねえ。265夫婦(ふうふ)の間(あひだ)といふものは、266本当(ほんたう)に親(した)しいもので、267生(う)んでくれた親(おや)にも見(み)せない所(ところ)まで見(み)せたり、268話(はな)さない事(こと)まで話(はな)すのですもの。269夫婦(ふうふ)は家庭(かてい)の日月(じつげつ)天地(てんち)の花(はな)ですワ』
270ユーフテス『俺(おれ)はお前(まへ)の事(こと)なら、271何(なん)でも皆(みな)秘密(ひみつ)を明(あ)かしてやる覚悟(かくご)だ。272時(とき)に何(なん)だよ………五百騎(ごひやくき)を差止(さしと)めたばかりでなく、273テーナ姫(ひめ)さまが三百(さんびやく)余(よ)騎(き)の強者(つはもの)を皆(みな)引率(いんそつ)して、274ハルナの国(くに)まで行(い)つて了(しま)つたのだから、275カールチンの部下(ぶか)は最早(もはや)一人(ひとり)も残(のこ)つてゐないのだ。276もう斯(か)うなつちや、277何程(なにほど)謀叛(むほん)を企(たく)まうたつて、278駄目(だめ)だからなア。279後(あと)に残(のこ)つてる奴(やつ)ア、280目(め)ツかちや、281跛(びつこ)や聾(つんぼ)、282間(ま)しやくに合(あ)はぬ奴(やつ)ばかりウヨウヨしてるのだ。283屈強(くつきやう)盛(ざか)りの豪傑(がうけつ)連(れん)は、284皆(みな)テーナ姫(ひめ)に従軍(じゆうぐん)したのだから、285之(これ)を一(いち)時(じ)も早(はや)く、286清照(きよてる)さまに………報告(はうこく)して喜(よろこ)ばしたいものだ。287アーン』
288セーリス姫『ホヽヽ、289そんな事(こと)ですかい。290それなら夜前(やぜん)私(わたし)の許(もと)へチヤンと無言(むげん)霊話(れいわ)がかかりましたワ。291清照姫(きよてるひめ)様(さま)も既(すで)に既(すで)に御存(ごぞん)じですよ。292そんな遅(おそ)い報告(はうこく)は駄目(だめ)です。293モチツト早(はや)く報告(はうこく)して貰(もら)はぬと、294女房(にようばう)のあてえが清照姫(きよてるひめ)様(さま)へ申上(まをしあ)げて手柄(てがら)にする訳(わけ)には行(ゆ)かぬぢやありませぬか』
295ユーフテス『何分(なにぶん)舌(した)を怪我(けが)したものだから、296舌(した)が遅(おく)れたのだよ。297それは惜(を)しい事(こと)をしたものだ。298ウツフヽヽヽ、299此奴(こいつ)ア一(ひと)つガツカリした』
300セーリス姫『オツホヽヽヽ時(とき)に右守(うもり)は如何(どう)して居(を)られますか、301随分(ずゐぶん)御(ご)機嫌(きげん)が良(よ)いでせうなア』
302 ユーフテスは最前(さいぜん)から余(あま)り舌(した)を無暗(むやみ)に使(つか)つたので、303チツとばかり腫(は)れて来(き)たと見(み)え、
304ユーフテス『アヽヽ』
305と言(い)ひながら、306手(て)を拡(ひろ)げて不恰好(ぶかつかう)な仕方(しかた)をして見(み)せて居(ゐ)る。
307セーリス姫『オホヽヽまるで蟷螂(かまきり)が踊(をど)つとる様(やう)だワ。308モウ一(ひと)つ違(ちが)うたら米搗(こめつき)バツタの手踊(てをどり)みたやうですワ。309あたえ、310そんなスタイル見(み)るの、311嫌(いや)になつたワ。312オツホヽヽヽ』
313ユーフテス『アーンアーンアーン、314ウーウーウー、315シシ舌(した)が、316オオ思(おも)ふよに、317きけなくなつた』
318 セーリス姫(ひめ)は両手(りやうて)を組(く)み、319鎮魂(ちんこん)の姿勢(しせい)を取(と)り、320心(こころ)静(しづ)かにユーフテスの舌(した)に向(むか)つて、
321セーリス姫『一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)』
322と天(あま)の数歌(かずうた)を三四回(さんしくわい)繰返(くりかへ)し祈願(きぐわん)をこらした。323不思議(ふしぎ)やユーフテスの舌(した)は其(その)場(ば)で腫(はれ)が引(ひ)き、324痛(いた)みもとまり、325又(また)もや水車(みづぐるま)の如(ごと)く運転(うんてん)し始(はじ)めた。
326ユーフテス『ヤア有難(ありがた)う、327不思議(ふしぎ)の御(ご)神徳(しんとく)で輪転機(りんてんき)の破損(はそん)が全部(ぜんぶ)修繕(しうぜん)したと見(み)え、328運転(うんてん)が自由(じいう)自在(じざい)になつて来(き)ました。329サア是(これ)から三寸(さんずん)の舌鋒(ぜつぽう)を縦横(じうわう)無尽(むじん)にふりまはし、330懸河(けんが)の弁舌(べんぜつ)滔々(たうたう)と神算(しんさん)秘策(ひさく)を陳述(ちんじゆつ)する事(こと)としよう。331女房(にようばう)喜(よろこ)べ、332天(あま)の瓊矛(ぬぼこ)は恢復(くわいふく)したぞや、333アハヽヽヽ』
334セーリス姫『オホヽヽヽあの元気(げんき)な事(こと)、335わたしも之(これ)で一安心(ひとあんしん)しました。336イヒヽヽ』
337 かく云(い)ふ所(ところ)へやさしい女(をんな)の声(こゑ)で、338襖(ふすま)の外(そと)から、
339別のセーリス姫『モシモシ、340ユーフテス様(さま)、341あてえはセーリスで厶(ござ)います、342どうぞ開(あ)けて下(くだ)さいな』
343ユーフテス『ハテ合点(がてん)が行(ゆ)かぬ様(やう)になつて来(き)たワイ。344俺(おれ)が今(いま)セーリス姫(ひめ)と話(はなし)をしてゐるに、345なアんだ。346又(また)チツトも違(ちが)はぬ声(こゑ)を出(だ)しよつて………ユーフテスさま、347開(あ)けて下(くだ)さい………と吐(ぬか)しよる、348ウーン、349此奴(こいつ)はチツト変(へん)だぞ』
350と首(くび)をかたげ、351眉毛(まゆげ)に唾(つば)をぬりつけ始(はじ)めた。
352セーリス『オホヽヽ』
353 襖(ふすま)の外(そと)から、354同(おな)じ声色(こわいろ)で、
355別のセーリス姫『オホヽヽ』
356(大正一一・一一・一五 旧九・二七 松村真澄録)
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