霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 心(こころ)の色々(いろいろ)〔一一三七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第3篇 意変心外 よみ(新仮名遣い):いへんしんがい
章:第12章 心の色々 よみ(新仮名遣い):こころのいろいろ 通し章番号:1137
口述日:1922(大正11)年11月16日(旧09月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
カールチン館の奥の間では、ハルマン、サマリー姫、カールチンがひそびそ話にふけっている。ハルマン、サマリー姫はカールチンのこの頃の挙動を心配してそれとなく注意を促した。
二人はカールチンがこの頃考えを変えて、ヤスダラ姫をひいきするのでカールチンに考えを問うた。カールチンは、セーラン王の妃はあくまでサマリー姫だと明言した。
そして、ヤスダラ姫は自分の女房になるのだ、セーラン王が自分に位を譲ることを約束したのだと二人に明し、自分は将来の刹帝利だと威張り散らした。
そこへ青い顔をしてユーフテスがやってきて、二人の美人が自分を責めると意味のわからないことを口走り、カールチンに城内は妖怪変化の巣窟になってしまったとまくしたてた。
カールチンはユーフテスの報告を一笑に付し、自分の天眼力にかかれば妖怪などすぐさま退治してやると気を吐いた。
サマリー姫も、これ以上カールチンを刺激しないように静かに退場した。ハルマンとユーフテスも帰ると、カールチンはまた身なりを整え、裏門からこっそり一人で城内を指して進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-24 14:34:16 文字数:4752 OBC :rm4212
愛善世界社版:153頁 八幡書店版:第7輯 697頁 修補版: 校定版:157頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 カールチンの奥(おく)の間(ま)にはハルマン、002サマリー姫(ひめ)と主人(しゆじん)の三(さん)人(にん)が鼎坐(かなへざ)となりて、003ヒソビソ話(ばなし)に夜(よ)の明(あ)くるのも知(し)らず、004耽(ふけ)つてゐる。
005ハルマン『旦那(だんな)さま、006貴方(あなた)はお昼前(ひるまへ)から、007館(やかた)をソツとお立出(たちい)でになり、008お帰(かへ)りが夜(よ)になつてもないので、009若(も)しや御(ご)城内(じやうない)で、010お酒(さけ)でもおすごし遊(あそ)ばし、011クダを巻(ま)いて皆(みな)の者(もの)を、012いつものやうに困(こま)らせて厶(ござ)るのではあるまいかと心配(しんぱい)でならず、013ソツと城内(じやうない)を窺(うかが)うて見(み)た所(ところ)が、014門番(もんばん)の話(はなし)にも、015今日(けふ)は右守(うもり)さまのお姿(すがた)は見(み)なかつたと言(い)ひ、016女中(ぢよちう)共(ども)に聞(き)いて見(み)ても、017お越(こ)しがないと言(い)つて居(ゐ)ましたので、018そこら中(ぢう)を捜(さが)しまはつて居(を)りました所(ところ)、019入那川(いるながは)の水面(すゐめん)に怪(あや)しい音(おと)がするので、020ハテ不思議(ふしぎ)と立止(たちど)まり様子(やうす)を考(かんが)へてゐると、021大(おほ)きな狐(きつね)がノソノソと橋(はし)を渡(わた)つて北(きた)の方(はう)へ行(ゆ)く。022此奴(こいつ)ア変(へん)だと水面(すゐめん)を眺(なが)めてると、023パツと浮上(うきあが)つた黒(くろ)い影(かげ)、024命(いのち)カラガラ飛込(とびこ)んで救(すく)ひ上(あ)げ、025よくよく見(み)れば旦那(だんな)様(さま)、026取止(とりと)めもないことを仰有(おつしや)つて、027本当(ほんたう)に此(この)ハルマンも如何(どう)なる事(こと)かと気(き)を揉(も)みました。028奥様(おくさま)の御(ご)不在中(ふざいちう)に、029若(も)しもの事(こと)があつたら、030此(この)ハルマンは申訳(まをしわけ)がありませぬからなア、031マアマア結構(けつこう)で厶(ござ)いました』
032サマリー姫『お父(とう)さま、033此(この)頃(ごろ)はお母(か)アさまの不在中(ふざいちゆう)ですから、034何卒(なにとぞ)どつこへも行(ゆ)かずに内(うち)に居(を)つて下(くだ)さい。035心配(しんぱい)でなりませぬ。036もし御(ご)登城(とじやう)遊(あそ)ばすなら、037何時(いつ)ものやうに二三(にさん)人(にん)の家来(けらい)を伴(つ)れて行(い)つて下(くだ)さい。038苟(いやし)くも右守司(うもりのかみ)の職掌(しよくしやう)でありながら、039一人(ひとり)歩(ある)きをなさるとは、040余(あま)り軽々(かるがる)しいではありませぬか』
041カールチン『ナアニ、042一人(ひとり)歩(ある)くのにも、043之(これ)には言(い)ふに云(い)はれぬ秘密(ひみつ)があるのだ。044俺(おれ)の神謀(しんぼう)鬼策(きさく)は女童(をんなわらべ)の知(し)る所(ところ)でない。045マア俺(おれ)のする様(やう)に任(まか)しておいたが宜(よ)からうぞ』
046ハルマン『日中(につちう)ならばソリヤお一人(ひとり)でも宜(よろ)しからうが、047今夜(こんや)の様(やう)な事(こと)があつては大変(たいへん)ですから、048何卒(どうぞ)日(ひ)の暮(く)れない内(うち)に之(これ)からお帰(かへ)り遊(あそ)ばす様(やう)に願(ねが)ひます。049若(わか)い男(をとこ)が恋女(こひをんな)の後(あと)を追(お)ふ様(やう)に、050夜分(やぶん)にコソコソと一人(ひとり)歩(ある)きするのは、051何卒(どうぞ)心得(こころえ)て下(くだ)さいませ。052姫(ひめ)さまも大変(たいへん)に御(ご)心配(しんぱい)遊(あそ)ばしますから……』
053カールチン『イヤ実(じつ)の所(ところ)は、054お前(まへ)の知(し)つてる通(とほ)り、055女房(にようばう)が出陣(しゆつぢん)をしたのだから、056先(ま)づ第一(だいいち)に大自在天(だいじざいてん)様(さま)に御(ご)祈願(きぐわん)を凝(こ)らし、057御(ご)先祖(せんぞ)の墓(はか)へも参(まゐ)り、058女房(にようばう)の武勇(ぶゆう)を発揮(はつき)するやう祈(いの)つて居(を)つたのだ。059そした所(ところ)が、060御(ご)先祖(せんぞ)様(さま)の石塔(せきたふ)の後(うしろ)から、061テーナ姫(ひめ)の顔(かほ)其(その)儘(まま)の怪物(くわいぶつ)が現(あら)はれ、062恨(うら)めしの冷飯(ひやめし)の……と吐(ほざ)きやがつて、063怪体(けつたい)な手付(てつき)を致(いた)し、064終焉(をはり)の果(はて)にや、065毬(まり)のやうな目(め)を剥(む)きよつた。066そこへ又(また)一人(ひとり)の化物(ばけもの)がやつて来(き)て、067傘(からかさ)のやうな目玉(めだま)を剥(む)きよつたものだから、068流石(さすが)の俺(おれ)も一寸(ちよつと)おつたまげて、069わが家(や)を指(さ)して逃帰(にげかへ)る途中(とちう)、070誤(あやま)つて入那川(いるながは)へ陥没(かんぼつ)したのだ。071そこを貴様(きさま)が折(をり)よく通(とほ)つて助(たす)けてくれたのだ、072マア有難(ありがた)い、073御(お)礼(れい)を申(まを)さねばなるまい。074併(しか)しながら、075エー……ン、076彼奴(あいつ)の命(いのち)は如何(どう)なつたか知(し)らぬてな』
077ハルマン『彼奴(あいつ)の命(いのち)も此奴(こいつ)の命(いのち)もあつたものですか。078貴方(あなた)は大変(たいへん)に、079ヤスダラ ヤスダラと仰有(おつしや)いましたが、080ヤスダラ姫(ひめ)に対(たい)し、081何(なに)かお考(かんが)へがあるのですか』
082カールチン『何(なに)、083別(べつ)に之(これ)といふ考(かんが)へもあるのぢやない、084彼奴(あいつ)の生死(せいし)に就(つ)いて、085少(すこ)しばかり気(き)にかかつてならないのだ』
086サマリー姫『私(わたし)もヤスダラ姫(ひめ)さまの事(こと)が気(き)に係(かか)つてならないのですよ。087噂(うはさ)に聞(き)けば、088テルマン国(ごく)からお帰(かへ)りになつたといふ事(こと)、089若(も)しや王(わう)様(さま)と御(ご)夫婦(ふうふ)にでもなられようものなら、090私(わたし)は如何(どう)しようかと、091そればかりが心配(しんぱい)でなりませぬワ』
092カールチン『コリヤ娘(むすめ)、093そんな心配(しんぱい)は少(すこ)しも要(い)らない。094お前(まへ)はどこまでもセーラン王(わう)の妃(きさき)だ。095俺(おれ)がキツと保証(ほしよう)して添(そ)はしてやるから安心(あんしん)せい。096併(しか)しながら、097若(も)しも俺(おれ)の女房(にようばう)が、098今度(こんど)の戦(たたか)ひで命(いのち)を奪(と)られるやうな事(こと)があつたら、099お前(まへ)何(なん)と思(おも)ふか』
100サマリー姫『それは申(まを)すまでもなく、101悲(かな)しう厶(ござ)います。102お父(とう)さまも矢張(やつぱ)り悲(かな)しいでせう』
103カールチン『そりや俺(おれ)だつて、104悲(かな)しい……のは当(あた)り前(まへ)だ。105併(しか)しながらウーン……』
106サマリー姫『お父(とう)さま、107其(その)後(あと)を言(い)つて下(くだ)さい。108如何(どう)なさると仰有(おつしや)るのですか』
109カールチン『マア刹那心(せつなしん)を楽(たの)しむのだな。110其(その)時(とき)や其(その)時(とき)の又(また)風(かぜ)が吹(ふ)くだらうから』
111ハルマン『モシ姫(ひめ)さま、112御(ご)心配(しんぱい)なさいますな、113旦那(だんな)さまの心(こころ)の中(うち)には、114行先(ゆくさき)の事(こと)までチヤンと成案(せいあん)があるのですから……それはそれは抜目(ぬけめ)のない旦那(だんな)さまですから、115流石(さすが)は貴女(あなた)のお父(とう)さまだけあつて、116よく注意(ちうい)の行届(ゆきとど)いたものです。117ヤスダラ山(やま)の春風(はるかぜ)が吹(ふ)いて、118此(この)お館(やかた)は軈(やが)て百花(ひやくくわ)爛漫(らんまん)、119天国(てんごく)の花園(はなぞの)と変(かは)るかも知(し)れませぬ』
120サマリー姫『お父(とう)さま、121貴方(あなた)は此(この)頃(ごろ)、122大変(たいへん)にヤスダラ姫(ひめ)さまを御(ご)贔屓(ひいき)遊(あそ)ばすさうですが、123ヨモヤ、124セーラン王(わう)様(さま)の御(お)妃(きさき)になさる御(お)考(かんが)へぢやありますまいな。125さうなりや、126私(わたし)はどうしたら良(い)いのですか』
127カールチン『すべて人間(にんげん)は、128何事(なにごと)も十分(じふぶん)といふ事(こと)はいかぬものだ。129恋(こひ)を得(え)むと欲(ほつ)すれば位(くらゐ)を捨(す)てなくてはならず、130位(くらゐ)を得(え)むと欲(ほつ)すれば恋(こひ)そのものを放擲(はうてき)せなくてはならぬ。131両方(りやうはう)良(よ)いのは頬被(ほほかぶ)りと○○だけだ。132それさへお前(まへ)に合点(がてん)が行(ゆ)けば、133お前(まへ)の恋(こひ)は永遠(ゑいゑん)に継続(けいぞく)させてやるが、134どうだ、135此(この)間(あひだ)からお前(まへ)に相談(さうだん)しようと思(おも)うてゐたが、136丁度(ちやうど)今日(けふ)は好(よ)い機会(きくわい)だから聞(き)いて見(み)るのだ』
137サマリー姫『妙(めう)なことを仰有(おつしや)います。138私(わたし)はイルナの国(くに)では最高級(さいかうきふ)のセーラン王(わう)の妃(きさき)、139又(また)国内(こくない)第一(だいいち)の立派(りつぱ)な夫(をつと)に恋(こひ)してゐるのです。140それをどちらか捨(す)てねばならぬとは、141ヤツパリさうすると、142貴方(あなた)は王(わう)様(さま)を退隠(たいいん)させ、143自分(じぶん)が年来(ねんらい)の野心(やしん)を遂(と)げるといふ、144面白(おもしろ)からぬ御(お)考(かんが)へでせう』
145カールチン『イヤ、146俺(おれ)の方(はう)から無理(むり)に迫(せま)るのぢやない。147今(いま)までは武力(ぶりよく)に訴(うつた)へてでも目的(もくてき)を達(たつ)しようと思(おも)つてゐたのだが、148お前(まへ)の知(し)つてゐる通(とほ)り、149大黒主(おほくろぬし)様(さま)の応援軍(おうゑんぐん)迄(まで)お断(ことわ)り申(まを)し、150部下(ぶか)の武士(ぶし)迄(まで)残(のこ)らず遠征(ゑんせい)の途(と)に上(のぼ)らせた位(くらゐ)だから、151何事(なにごと)も円満(ゑんまん)解決(かいけつ)のつく見込(みこみ)が十分(じふぶん)立(た)つてゐるのだ。152王(わう)様(さま)の口(くち)から仰有(おつしや)つたのだから、153お前(まへ)が何程(なにほど)頑張(ぐわんば)つた所(ところ)で、154王(わう)様(さま)の御(ご)決心(けつしん)は動(うご)かす事(こと)は出来(でき)まい。155さうだから、156位(くらゐ)をすてて恋(こひ)を選(えら)めといつたのだ。157お前(まへ)の夫(をつと)が刹帝利(せつていり)になるのも、158親(おや)がなるのも、159お前(まへ)としては別(べつ)に差支(さしつかへ)がないぢやないか。160チツとは親(おや)の養育(やういく)の恩(おん)も考(かんが)へて呉(く)れたらどうだ』
161サマリー姫『オホヽヽヽ、162何(なん)とマア虫(むし)のよいお考(かんが)へですこと。163あの王(わう)様(さま)に限(かぎ)つて、164そんなこと仰有(おつしや)る筈(はず)がありませぬワ。165そりや貴方(あなた)の独合点(ひとりがてん)でせう。166さうでなくば、167城内(じやうない)の悪者(わるもの)共(ども)にチヨロまかされ、168油断(ゆだん)をさされて厶(ござ)るのでせう。169あゝ困(こま)つた事(こと)をなさいましたなア。170あゝ併(しか)しながら、171これで安心(あんしん)しました。172貴方(あなた)に軍隊(ぐんたい)を抱(かか)へさしておくと、173勢(いきほひ)に任(まか)せて脱線(だつせん)をなさるから気(き)が気(き)でありませなんだ。174これで王(わう)様(さま)、175一安心(ひとあんしん)なさりませう。176キツと貴方(あなた)は翼(つばさ)剥(は)がれた鳥(とり)のやうなものだから、177叛逆人(はんぎやくにん)として入那(いるな)の牢獄(らうごく)にブチ込(こ)まれるにきまつてゐます。178それは私(わたし)が気(き)の毒(どく)でなりませぬ。179併(しか)しながら海山(うみやま)の養育(やういく)の恩(おん)に酬(むく)ゆる為(ため)、180命(いのち)に代(か)へてでも貴方(あなた)を助(たす)ける様(やう)に王(わう)様(さま)へ願(ねが)ひますから、181どうぞ之(これ)からは、182悪(わる)い考(かんが)へを出(だ)さないやうにして下(くだ)さい。183そしてヤスダラ姫(ひめ)様(さま)に、184どうぞ接近(せつきん)しないやうに心得(こころえ)て下(くだ)さい。185頼(たの)みますから………』
186カールチン『実(じつ)の所(ところ)は、187何(なに)もかもブチあけて言(い)ふが、188ヤスダラ姫(ひめ)は最早(もはや)俺(おれ)の女房(にようばう)だ。189いろいろと悪魔(あくま)が邪魔(じやま)をしやがつて、190恋(こひ)の妨害(ばうがい)を致(いた)しよる、191お前(まへ)がゴテゴテいふのも、192決(けつ)してお前(まへ)の本心(ほんしん)からではあるまい。193副守(ふくしゆ)の奴(やつ)、194お前(まへ)の口(くち)を借(か)つて、195俺(おれ)の金剛心(こんがうしん)を鈍(にぶ)らさうとかかつて居(ゐ)るだらう。196モウ斯(か)うなつては俺(おれ)も命(いのち)がけだ。197誰(たれ)が何(なん)と云(い)つても、198梃子(てこ)でも棒(ぼう)でも動(うご)くやうなチヨロい決心(けつしん)ぢやないから、199モウ下(くだ)らぬ意見(いけん)は止(や)めてくれ。200ハルマン、201貴様(きさま)も俺(おれ)が出世(しゆつせ)をすれば一緒(いつしよ)について昇(のぼ)るのだから、202邪魔(じやま)を致(いた)しては後日(ごじつ)の為(ため)にならないぞ、203よいか。204賢明(けんめい)な主人(しゆじん)の本心(ほんしん)がチツとは分(わか)つたか』
205ハルマン『ハイ、206分(わか)つたでもなし、207分(わか)らぬでもありませぬ。208併(しか)しながら、209国家(こくか)の為(ため)に自重(じちよう)せなくてはならない大切(たいせつ)な御(お)身(み)の上(うへ)、210今後(こんご)は私(わたし)がどこへお出(い)でになるにも、211お供(とも)を致(いた)しますから、212どうぞお一人(ひとり)で館(やかた)を出(で)ないやうに願(ねが)ひます』
213カールチン『エヽ小(こ)ざかしし、214ツベコベと主人(しゆじん)の行動(かうどう)に就(つい)て干渉(かんせう)するのか。215今日(こんにち)限(かぎ)りグヅグヅぬかすと、216暇(いとま)を遣(つか)はすから、217トツトと出(で)て行(ゆ)け。218サマリー姫(ひめ)、219其方(そなた)も、220俺(おれ)のする事(こと)に喙(くちばし)を入(い)れるのならば、221最早(もはや)了簡(れうけん)は致(いた)さぬぞ。222何(なん)だ偉(えら)さうに、223夫(をつと)に嫌(きら)はれて、224のめのめと親(おや)の内(うち)へ逃帰(にげかへ)り、225世話(せわ)になつてゐながら、226何時(いつ)までも親(おや)に対(たい)し、227主人(しゆじん)気取(きど)りで居(ゐ)るとは何(なん)の事(こと)だ。228いゝ加減(かげん)に慢心(まんしん)しておくがよからうぞ。229最早(もはや)俺(おれ)は入那(いるな)の国(くに)の刹帝利(せつていり)だ。230国中(くにぢう)に於(おい)て俺(おれ)に一口(ひとくち)でも逆(さか)らふ者(もの)があつたら、231忽(たちま)ち追放(つゐはう)だから、232さう思(おも)へ。233エーン』
234 斯(か)かる所(ところ)へ慌(あわただ)しくやつて来(き)たのは例(れい)のユーフテスであつた。235三(さん)人(にん)はユーフテスの落着(おちつ)かぬ姿(すがた)を見(み)て、236稍(やや)怪(あや)しみながら、237ハルマンは膝(ひざ)を立(た)て直(なほ)し、
238ハルマン『ヤア其方(そなた)はユーフテス殿(どの)、239いつもに変(かは)る今日(けふ)の御(ご)様子(やうす)、240何(なに)か城内(じやうない)に変(かは)つたことが起(おこ)つたのぢやありませぬか』
241と言葉(ことば)せはしく問(と)ひかける。242ユーフテスは真青(まつさを)な顔(かほ)をしながら、
243ユーフテス『城内(じやうない)には大変(たいへん)な事(こと)が突発(とつぱつ)しましたぞ。244グヅグヅしてゐると、245何時(いつ)目玉(めだま)が飛出(とびで)るか、246尾(を)が下(さが)るか知(し)れませぬ、247気(き)をつけなさいませ。248旦那(だんな)様(さま)も御(ご)注意(ちうい)をなさらぬと、249馬鹿(ばか)を見(み)られちやお気(き)の毒(どく)だと思(おも)つて御(ご)注進(ちゆうしん)に参(まゐ)りました。250私(わたし)は大変(たいへん)にやられて来(き)ました。251前車(ぜんしや)の覆(くつが)へるは後車(こうしや)の戒(いまし)め、252私(わたし)のやうな失敗(しつぱい)を旦那(だんな)様(さま)にさしちや申訳(まをしわけ)がないと思(おも)ひ、253忠義(ちうぎ)の心(こころ)抑(おさ)へ難(がた)く取(と)る物(もの)も取敢(とりあへ)ず、254痛(いた)い足(あし)を引摺(ひきず)つて参(まゐ)つたので厶(ござ)います』
255ハルマン『テンと貴方(あなた)のお言葉(ことば)は要領(えうりやう)を得(え)ぬぢやありませぬか。256その頬(ほほ)べたは如何(どう)なさいました。257紫色(むらさきいろ)に腫(は)れ上(あが)つてるぢやありませぬか』
258ユーフテス『天下(てんか)無双(むさう)の美人(びじん)が両(りやう)ホウから私(わたし)の両(りやう)ホホを、259可愛(かあい)さ余(あま)つて憎(にく)らしいと云(い)つて、260抓(つめ)りよつたのです。261ズイ分(ぶん)痛(いた)い同情(どうじやう)に預(あづ)かつて来(き)ました。262モシ旦那(だんな)様(さま)、263何卒(どうぞ)ここ四五(しご)日(にち)は登城(とじやう)なさらぬやうに心得(こころえ)て下(くだ)さい。264又(また)頬(ほほ)ベタを抓(つめ)られちや堪(たま)りませぬからなア』
265カールチン『美人(びじん)に頬(ほほ)を抓(つめ)られたのを、266お自慢(じまん)で俺(おれ)に見(み)せに来(き)たのだろ。267随分(ずゐぶん)気分(きぶん)がよかつたらうのう』
268ユーフテス『ハイ、269宜(よ)かつたり、270悪(わる)かつたり、271嬉(うれ)しかつたり、272怖(こは)かつたり、273つまり喜怒(きど)哀楽(あいらく)愛憎欲(あいぞうよく)の七情(しちじやう)が遺憾(ゐかん)なく発露(はつろ)致(いた)しました。274立派(りつぱ)なセーリス姫(ひめ)だと思(おも)へば、275其奴(そいつ)が大(おほ)きな白狐(びやくこ)になつてノソノソと歩(ある)き出(だ)す。276一人(ひとり)は本当(ほんたう)のセーリス姫(ひめ)だと思(おも)へば、277其奴(そいつ)が又(また)目(め)がつり上(あが)り口(くち)が尖(とが)り、278忽(たちま)ち狐(きつね)の御(ご)面相(めんそう)になつて了(しま)ふ。279イヤもう入那(いるな)の城内(じやうない)は、280此(この)頃(ごろ)はサーパリ妖怪(えうくわい)変化窟(へんげくつ)となつて了(しま)ひました。281何(なん)とかして本当(ほんたう)のセーリス姫(ひめ)を発見(はつけん)しなくてはなりませぬ。282旦那(だんな)様(さま)も今(いま)お出(い)でになつたら、283キツと私(わたし)の二(に)の舞(まひ)をやつて馬鹿(ばか)を見(み)せられるに違(ちが)ひありませぬ。284さうだから四五(しご)日(にち)は御(お)見合(みあは)せを願(ねが)ひたいと言(い)つてるのですよ』
285カールチン『アハヽヽヽ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、286狐(きつね)でも狸(たぬき)でも何(なん)でも構(かま)はぬ。287そこを看破(かんぱ)するのが天眼通(てんがんつう)力(りき)だ。288貴様(きさま)は恋(こひ)の為(ため)に眼(め)がくらんでゐるから、289そんな目(め)に遇(あ)ふのだ。290そこは流石(さすが)のカールチンさまだ。291城内(じやうない)の妖怪(えうくわい)を残(のこ)らず看破(かんぱ)して、292至治(しち)泰平(たいへい)の天国(てんごく)を築(きづ)き上(あ)げるのが此(この)方(はう)の役(やく)だから、293先(ま)づ黙(だま)つて俺(おれ)の御(お)手際(てぎは)を見(み)てゐるがよからう。294ハルマン、295貴様(きさま)も今(いま)が思案(しあん)のし時(どき)だ。296ここで改心(かいしん)致(いた)し、297主人(しゆじん)の自由(じいう)行動(かうどう)を妨(さまた)げないといふ誓(ちか)ひを立(た)てるなら、298従前(じゆうぜん)の通(とほ)り、299家来(けらい)に使(つか)つてやらう。300オイ、301娘(むすめ)、302貴様(きさま)もその通(とほ)りだ。303今日(こんにち)の場合(ばあひ)、304神力(しんりき)無双(むさう)、305旭日(きよくじつ)昇天(しようてん)の御(ご)威勢(ゐせい)高(たか)き俺(おれ)に向(むか)つて、306ツベコベ横槍(よこやり)を入(い)れると、307親子(おやこ)の縁(えん)も今日(けふ)限(かぎ)りだ。308どうだ、309分(わか)つたか、310エーン』
311 ハルマンはヤツと胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し、312兎(と)も角(かく)も放(ほ)り出(だ)されちや大変(たいへん)と、313ワザとに嬉(うれ)しさうな顔(かほ)をして、
314ハルマン『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)いました。315今後(こんご)は決(けつ)して何(なに)も申(まを)しませぬ。316絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を誓(ちか)ひますから、317どうぞ末永(すえなが)く可愛(かあい)がつて使(つか)つて下(くだ)さいませ』
318カールチン『ウン、319ヨシヨシ、320それさへ慎(つつし)まば、321俺(おれ)だつて貴様(きさま)に暇(ひま)をやりたいことはないのだ』
322ハルマン『時(とき)にユーフテスさま、323実際(じつさい)そんな不思議(ふしぎ)が城内(じやうない)に突発(とつぱつ)してるのか、324チツと合点(がてん)が行(ゆ)かぬぢやないか』
325ユーフテス『ウン、326本当(ほんたう)に不可思議(ふかしぎ)千万(せんばん)だ』
327サマリー『それなら、328カールチン殿(どの)、329暫(しばら)く妾(わたし)は沈黙(ちんもく)して、330時(とき)の移(うつ)るを待(ま)つであらう、331さらば』
332と言(い)ひ棄(す)て、333裾(すそ)をゾロリゾロリと引摺(ひきず)りながら、334奥(おく)の間(ま)指(さ)して進(すす)み入(い)る。335ハルマンも、336ユーフテスも続(つづ)いて、337自分(じぶん)の家路(いへぢ)へ指(さ)して一先(ひとま)づ立帰(たちかへ)る事(こと)となつた。338カールチンは、
339カールチン『ヤレヤレ邪魔物(じやまもの)が払(はら)はれた』
340と打喜(うちよろこ)び、341化粧室(けしやうしつ)に入(い)つて、342いろいろと顔(かほ)の整理(せいり)を終(をは)り、343美(うる)はしき衣服(いふく)を身(み)に纒(まと)ひ、344裏門(うらもん)よりニコニコとして、345城内(じやうない)指(さ)して又(また)もや進(すす)み行(ゆ)くのであつた。
346(大正一一・一一・一六 旧九・二八 松村真澄録)
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