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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第42巻(巳の巻)
序文に代へて
総説に代へて
第1篇 波瀾重畳
第1章 北光照暗
第2章 馬上歌
第3章 山嵐
第4章 下り坂
第2篇 恋海慕湖
第5章 恋の罠
第6章 野人の夢
第7章 女武者
第8章 乱舌
第9章 狐狸窟
第3篇 意変心外
第10章 墓場の怪
第11章 河底の怪
第12章 心の色々
第13章 揶揄
第14章 吃驚
第4篇 怨月恨霜
第15章 帰城
第16章 失恋会議
第17章 酒月
第18章 酊苑
第19章 野襲
第5篇 出風陣雅
第20章 入那立
第21章 応酬歌
第22章 別離の歌
第23章 竜山別
第24章 出陣歌
第25章 惜別歌
第26章 宣直歌
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第42巻(巳の巻)
> 第2篇 恋海慕湖 > 第9章 狐狸窟
<<< 乱舌
(B)
(N)
墓場の怪 >>>
第九章
狐狸
(
こり
)
窟
(
くつ
)
〔一一三四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
篇:
第2篇 恋海慕湖
よみ(新仮名遣い):
れんかいぼこ
章:
第9章 狐狸窟
よみ(新仮名遣い):
こりくつ
通し章番号:
1134
口述日:
1922(大正11)年11月15日(旧09月27日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
室内のセーリス姫は、室外のセーリス姫を呼んで招き入れた。外から入ってきたセーリス姫に突き飛ばされて、ユーフテスは倒れた。
二人のセーリス姫は、ユーフテスを介抱しながら自分たちは狐の化けものだ、どちらも本物だとユーフテスをからかっている。ユーフテスは両方から腕を引っ張られて往生し、金輪際女には懲りたと白旗を上げる。
女は白狐の本性を現して、太い白い尻尾をユーフテスの前に現した。ユーフテスはあっと叫んでその場に転倒してしまった。
白狐の旭はセーリス姫にお辞儀をしてどこかに去って行った。セーリス姫は自分の顔を狐の顔に化粧し、ユーフテスの面分に清水を吹きかけた。ユーフテスは気が付いて起き上がり、セーリス姫の顔を見てびっくりり、廊下をはって逃げ帰ってしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-23 14:12:40
OBC :
rm4209
愛善世界社版:
119頁
八幡書店版:
第7輯 685頁
修補版:
校定版:
123頁
普及版:
48頁
初版:
ページ備考:
001
ユーフテスは
外
(
そと
)
から
呼
(
よ
)
んだ
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
に
不審
(
ふしん
)
の
念
(
ねん
)
晴
(
は
)
れやらず、
002
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
んで
暫
(
しばら
)
く「ウーン」と
溜息
(
ためいき
)
をついてゐる。
003
外
(
そと
)
より
以前
(
いぜん
)
の
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
、
004
外の女(別のセーリス姫)
『もしもしユーフテス
様
(
さま
)
、
005
セーリス
姫
(
ひめ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
006
這入
(
はい
)
りましてもお
差支
(
さしつかへ
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬかな』
007
ユーフテス
『
差支
(
さしつかへ
)
がないとは
申
(
まを
)
さぬ。
008
二人
(
ふたり
)
もセーリス
姫
(
ひめ
)
があつて
堪
(
たま
)
るかい。
009
ばヽヽヽ
化物
(
ばけもの
)
奴
(
め
)
、
010
早
(
はや
)
く
退却
(
たいきやく
)
せい。
011
ユーフテスには
腕
(
うで
)
があるぞ』
012
外の女
『オホヽヽヽ
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
さまが
密約
(
みつやく
)
御
(
ご
)
成立
(
せいりつ
)
の
間際
(
まぎは
)
に、
013
白首
(
しらくび
)
が
参
(
まゐ
)
りましては、
014
嘸
(
さぞ
)
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
でせう。
015
然
(
しか
)
しながら、
016
あたえは
本当
(
ほんたう
)
のセーリスですから、
017
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
侵入
(
しんにふ
)
致
(
いた
)
しますよ』
018
ユーフテス
『
主人
(
しゆじん
)
の
許可
(
きよか
)
もないのに
無断
(
むだん
)
で
闖入
(
ちんにふ
)
すると、
019
治警法
(
ちけいほふ
)
嘘
(
うそ
)
八百条
(
はつぴやくでう
)
によつて
告発
(
こくはつ
)
してやるぞ。
020
それでも
承知
(
しようち
)
なら、
021
闖入
(
ちんにふ
)
なつと
乱入
(
らんにふ
)
なつと、
022
やつたら
宜
(
よ
)
からう。
023
アーン、
024
オホン』
025
セーリス姫
『
何方
(
どなた
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
026
何卒
(
どうぞ
)
お
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
027
あなたも
矢張
(
やつぱり
)
セーリス
姫
(
ひめ
)
さまで
厶
(
ござ
)
いますか。
028
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
もあるものですな』
029
外の女
『ハイ、
030
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
031
同名
(
どうめい
)
同人
(
どうにん
)
のセーリス
姫
(
ひめ
)
ですよ』
032
ユーフテス
『こりやこりや
女房
(
にようばう
)
、
033
オツトセーの
俺
(
おれ
)
に
答
(
こた
)
へもなく、
034
勝手
(
かつて
)
に
女
(
をんな
)
を
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
へ
引
(
ひ
)
き
入
(
い
)
れると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか。
035
婦人
(
ふじん
)
道徳
(
だうとく
)
をチツトは
考
(
かんが
)
へたがよからうぞ』
036
セーリス姫
『オホヽヽヽヽようそんな
事
(
こと
)
仰有
(
おつしや
)
いますな。
037
女
(
をんな
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
女
(
をんな
)
が
来
(
く
)
るのが、
038
何
(
なに
)
がそれ
程
(
ほど
)
悪
(
わる
)
いのですか。
039
貴郎
(
あなた
)
如何
(
どう
)
です、
040
私
(
わたし
)
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
何時
(
いつ
)
もニヨコニヨコやつて
来
(
く
)
るぢやありませぬか。
041
外
(
そと
)
のセーリス
姫
(
ひめ
)
さまが
御
(
お
)
入来
(
いで
)
になるのが
不道徳
(
ふだうとく
)
ならば、
042
貴郎
(
あなた
)
の
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
不道徳
(
ふだうとく
)
ですわ、
043
あゝもう
貴郎
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
が
俄
(
にはか
)
に
怪体
(
けたい
)
になつて
来
(
き
)
て、
044
私
(
わたし
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
045
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
が
排日
(
はいにち
)
運動
(
うんどう
)
をやりかけました。
046
国際
(
こくさい
)
問題
(
もんだい
)
の
起
(
おこ
)
らぬうちに
早
(
はや
)
く
退却
(
たいきやく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
047
ねえ、
048
オツトセーのユーフテスさま』
049
ユーフテス
『こりやこりや
女房
(
にようばう
)
、
050
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
暴言
(
ばうげん
)
を
吐
(
は
)
くのだ。
051
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
添
(
そ
)
うて
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つたぢやないか。
052
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
と
云
(
い
)
ふも
実
(
じつ
)
に
甚
(
はなは
)
だしい』
053
セーリス姫
『
手
(
て
)
を
翻
(
ひるがへ
)
せば
雨
(
あめ
)
となり、
054
手
(
て
)
を
覆
(
くつが
)
へせば
風
(
かぜ
)
となる、
055
君
(
きみ
)
見
(
み
)
ずや
管鮑
(
くわんぱう
)
貧時
(
ひんじ
)
の
交
(
かう
)
、
056
此
(
この
)
道
(
みち
)
近人
(
きんじん
)
すてて
土
(
つち
)
の
如
(
ごと
)
し、
057
オホヽヽヽヽ』
058
ユーフテス
『
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは
本当
(
ほんたう
)
に
分
(
わか
)
らぬものだな。
059
八
(
はつ
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
を
三寸
(
さんずん
)
の
舌鋒
(
ぜつぽう
)
で、
060
肉
(
にく
)
を
剔
(
えぐ
)
り
骨
(
ほね
)
を
挫
(
くじ
)
き、
061
血
(
ち
)
を
搾
(
しぼ
)
るやうな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はしやがる。
062
貴様
(
きさま
)
は
大方
(
おほかた
)
化州
(
ばけしう
)
だらう。
063
アーン』
064
セーリス姫
『ホヽヽヽヽ
貴郎
(
あなた
)
も
余程
(
よほど
)
頓馬
(
とんま
)
ですな、
065
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
女
(
をんな
)
は
化物
(
ばけもの
)
と
云
(
い
)
ふぢやありませぬか。
066
そんな
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
な
野呂作
(
のろさく
)
では、
067
婦人
(
ふじん
)
に
対
(
たい
)
し
彼是
(
かれこれ
)
云
(
い
)
ふ
資格
(
しかく
)
はありますまい。
068
ねえ
外
(
そと
)
からお
出
(
い
)
でやしたセーリス
姫
(
ひめ
)
さま、
069
どつちが
化物
(
ばけもの
)
だか
分
(
わか
)
つたものぢやありませぬねえ』
070
外の女
『どうせ
化物
(
ばけもの
)
ばかりの
跳梁
(
てうりやう
)
跋扈
(
ばつこ
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ですもの、
071
このユーフテスさまだつてヤハリ
化物
(
ばけもの
)
ですわ。
072
恋
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふ
曲者
(
くせもの
)
の
魔
(
ま
)
の
手
(
て
)
に
誑惑
(
きやうわく
)
されて、
073
三代
(
さんだい
)
相恩
(
さうおん
)
の
主人
(
しゆじん
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
を
残
(
のこ
)
らず
相手
(
あひて
)
方
(
がた
)
へ
密告
(
みつこく
)
なさる
様
(
やう
)
な
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ですもの、
074
百鬼
(
ひやくき
)
昼行
(
ちうかう
)
は
現代
(
げんだい
)
の
世相
(
せさう
)
だから、
075
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
076
是
(
これ
)
から
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
が
両方
(
りやうはう
)
から
膏
(
あぶら
)
を
搾
(
しぼ
)
つてあげませうか。
077
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
を
二
(
ふた
)
つ
書
(
か
)
いて
真中
(
まんなか
)
に
男
(
をとこ
)
の
字
(
じ
)
をはさむと
嫐
(
なぶ
)
られるとか
読
(
よ
)
むさうですな。
078
オホヽヽヽヽ』
079
セーリス姫
『
男
(
をとこ
)
の
字
(
じ
)
を
二
(
ふた
)
つ
並
(
なら
)
べて
女
(
をんな
)
を
一字
(
いちじ
)
はさめると
嬲
(
なぶ
)
るとか
読
(
よ
)
むさうですわ。
080
何
(
いづ
)
れ
恋
(
こひ
)
とか
鮒
(
ふな
)
とかに
嫐
(
なぶ
)
られてゐる
天下
(
てんか
)
の
色男
(
いろをとこ
)
だから、
081
嬲
(
なぶ
)
るのも
嫐
(
なぶ
)
られるのも
光栄
(
くわうえい
)
でせう。
082
サア
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
083
外
(
そと
)
のセーリス
姫
(
ひめ
)
さま、
084
お
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さい』
085
ユーフテス
『
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だか
狐
(
きつね
)
に
魅
(
つま
)
されてる
様
(
やう
)
だ。
086
ハテ、
087
如何
(
どう
)
したら
此
(
この
)
真偽
(
しんぎ
)
が
分
(
わか
)
るだらうかな』
088
と
頻
(
しき
)
りに
首
(
くび
)
を
捻
(
ひね
)
る。
089
其
(
その
)
間
(
ま
)
に
外
(
そと
)
の
女
(
をんな
)
は
襖
(
ふすま
)
をガラリと
引
(
ひ
)
き
開
(
あ
)
け、
090
転
(
こ
)
け
込
(
こ
)
む
様
(
やう
)
にしてユーフテスの
前
(
まへ
)
にドスンと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てて
坐
(
すわ
)
り
込
(
こ
)
んだ。
091
其
(
その
)
反動
(
はんどう
)
でユーフテスは
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
ばかり
大
(
だい
)
の
図体
(
づうたい
)
を
撥
(
は
)
ね
上
(
あ
)
げられ、
092
惰力
(
だりよく
)
が
余
(
あま
)
つて
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
餅
(
もち
)
搗
(
つ
)
きの
演習
(
えんしふ
)
をやつてゐる。
093
女
『これ、
094
ユーフテスさま、
095
お
怪我
(
けが
)
は
如何
(
いかが
)
ですか。
096
あてえ、
097
本当
(
ほんたう
)
に
心配
(
しんぱい
)
しましたわ』
098
ユーフテス
『こりやこりや
女
(
をんな
)
、
099
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬ
)
かしやがる、
100
セーリス
姫
(
ひめ
)
の
真似
(
まね
)
をしやがつて、
101
馬鹿
(
ばか
)
にするな。
102
そんな
事
(
こと
)
で
ちよろまか
される
様
(
やう
)
なユーさまぢやないぞ』
103
女
『ホヽヽヽヽ
已
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
騙
(
だま
)
されてゐるぢやありませぬか。
104
ユーさまの
舌
(
した
)
が
俄
(
にはか
)
に
直
(
なほ
)
つたのは
何
(
なん
)
とお
考
(
かんが
)
へです。
105
本当
(
ほんたう
)
の
人間
(
にんげん
)
なれば、
106
さう
即座
(
そくざ
)
に
神言
(
かみごと
)
を
称
(
とな
)
へたつて
直
(
なほ
)
るものぢやありますまい。
107
セーリス
姫
(
ひめ
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
なさるのは、
108
其
(
その
)
実
(
じつ
)
は
狐々
(
こんこん
)
さまですよ。
109
ねえセーリス
姫
(
ひめ
)
さま、
110
さうでせう』
111
セーリス姫
『お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り
狐々
(
こんこん
)
さまかも
知
(
し
)
れませぬ。
112
あたい
何
(
なん
)
だか
肌
(
はだ
)
に
薄
(
うす
)
い
毛
(
け
)
がモシヤモシヤ
生
(
は
)
え
出
(
だ
)
した
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しますわ。
113
オホヽヽヽヽ、
114
イヤらしいわいの。
115
こんな
毛
(
け
)
の
生
(
は
)
えたものを、
116
それでも
女房
(
にようばう
)
にしてくれると
仰有
(
おつしや
)
る、
117
涙
(
なみだ
)
もろい
慈悲
(
じひ
)
深
(
ぶか
)
い
頓馬
(
とんま
)
野郎
(
やらう
)
があるのですからね。
118
まるつきり
女
(
をんな
)
でも
捨
(
す
)
てたものぢやありませぬわ。
119
イヒヽヽヽ』
120
ユーフテス
『こりやこりや、
121
セーリス、
122
到頭
(
たうとう
)
貴様
(
きさま
)
は
発狂
(
はつきやう
)
しよつたな。
123
オイ、
124
ちつとシツカリして
呉
(
く
)
れぬかい』
125
セーリス姫
『あなた、
126
チツとシツカリなさいませや。
127
あてえ
今
(
いま
)
までセーリスさまになつて
化
(
ば
)
けてゐたのよ。
128
ユーさまの
睫
(
まつげ
)
の
毛
(
け
)
が
何本
(
なんぼん
)
あると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
も、
129
みんな
知
(
し
)
つてゐますわ。
130
そして
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ながら、
131
お
尻
(
しり
)
の
毛
(
け
)
は
一本
(
いつぽん
)
もない
様
(
やう
)
に
頂戴
(
ちやうだい
)
しておきました。
132
ウフヽヽヽヽ』
133
ユーフテスは
俄
(
にはか
)
に
懐
(
ふところ
)
から
手
(
て
)
を
伸
(
のば
)
し、
134
尻
(
しり
)
に
手
(
て
)
をあて、
135
尻毛
(
しりげ
)
の
有無
(
うむ
)
を
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
、
136
指
(
ゆび
)
でクツと
毛
(
け
)
を
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
つて
見
(
み
)
て、
137
ユーフテス
『アイタヽヽヤツパリ
毛
(
け
)
は
依然
(
いぜん
)
として
蓬々
(
ぼうぼう
)
たりだ。
138
オイ、
139
セーリス
姫
(
ひめ
)
、
140
憚
(
はばか
)
りながら
一本
(
いつぽん
)
だつて
紛失
(
ふんしつ
)
はして
居
(
ゐ
)
ないぞ』
141
セーリス姫
『オツホヽヽヽ、
142
いつも
肛門
(
こうもん
)
から
糞出
(
ふんしゆつ
)
さして
御座
(
ござ
)
るぢやありませぬか。
143
フヽーン』
144
ユーフテス
『えー
糞
(
くそ
)
面白
(
おもしろ
)
うもない。
145
糞慨
(
ふんがい
)
の
至
(
いた
)
りだ。
146
オイ、
147
外
(
そと
)
から
来
(
き
)
た
女
(
をんな
)
、
148
貴様
(
きさま
)
は
早
(
はや
)
く
去
(
い
)
んでくれ、
149
俺
(
おれ
)
の
家内
(
かない
)
が
貴様
(
きさま
)
の
邪気
(
じやき
)
にうたれてサツパリ
発狂
(
はつきやう
)
して
了
(
しま
)
つた。
150
アーン、
151
さあ
早
(
はや
)
く
去
(
い
)
なぬかい』
152
女
(
をんな
)
は
涙
(
なみだ
)
をホロホロと
流
(
なが
)
し、
153
悲
(
かな
)
しさうな
声
(
こゑ
)
で、
154
女
『これ
旦那
(
だんな
)
さま、
155
否
(
いえ
)
オツトセー
様
(
さま
)
、
156
チツト
確
(
しつか
)
りして
下
(
くだ
)
さいませ。
157
あたいは
本当
(
ほんたう
)
のセーリス
姫
(
ひめ
)
ですよ』
158
セーリス姫
『これ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
159
チツト
確
(
しつか
)
りして
下
(
くだ
)
さいや。
160
あてえこそ
本当
(
ほんたう
)
のセーリス
姫
(
ひめ
)
よ』
161
と
右左
(
みぎひだり
)
よりユーフテスの
袖
(
そで
)
に
取
(
と
)
りすがり、
162
両手
(
りやうて
)
を
一本
(
いつぽん
)
づつ
握
(
にぎ
)
つて「ヤイノヤイノ」と
言
(
い
)
ひながら
変
(
かは
)
つた
方面
(
はうめん
)
へ
力限
(
ちからかぎ
)
りに
引張
(
ひつぱ
)
る。
163
ユーフテスの
腕
(
かひな
)
は
関節
(
くわんせつ
)
の
骨
(
くろろ
)
が
如何
(
どう
)
かなつたと
見
(
み
)
えて、
164
パチンと
怪
(
あや
)
しき
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てた。
165
ユーフテス
『アイタヽヽヽ
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
166
さう
両方
(
りやうはう
)
から
腕
(
かひな
)
を
引張
(
ひつぱ
)
られちや
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
たぬぢやないか、
167
いや
俺
(
おれ
)
の
体
(
からだ
)
が
立
(
た
)
たぬぢやないか。
168
許
(
ゆる
)
せ
許
(
ゆる
)
せ、
169
色男
(
いろをとこ
)
と
云
(
い
)
ふものは
叶
(
かな
)
はぬものぢや。
170
何故
(
なぜ
)
かう
女
(
をんな
)
に
惚
(
ほ
)
れられる
様
(
やう
)
に
生
(
うま
)
れて
来
(
き
)
たのだらう。
171
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
に
攻
(
せ
)
められて、
172
判別
(
はんべつ
)
も
付
(
つ
)
かず、
173
烏
(
からす
)
の
雌雄
(
しゆう
)
を
何
(
ど
)
うして
識別
(
しきべつ
)
し
得
(
え
)
むやだ。
174
五里
(
ごり
)
霧中
(
むちゆう
)
に
彷徨
(
はうくわう
)
するとはこんな
事
(
こと
)
をいふのかな』
175
セーリス姫
『ホヽヽヽ、
176
五里
(
ごり
)
霧中
(
むちゆう
)
所
(
どころ
)
か
無理
(
むり
)
夢中
(
むちう
)
ですわ。
177
それも
一理
(
いちり
)
ありませう。
178
エヘヽヽヽ、
179
さあ
後
(
あと
)
のセーリスさま、
180
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
可愛
(
かあい
)
い
男
(
をとこ
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
181
あたいも
引張
(
ひつぱ
)
りますから……』
182
ユーフテス
『アヽヽアイタツタヽヽ
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
183
待
(
ま
)
てと
申
(
まを
)
さば、
184
二人
(
ふたり
)
の
女房
(
にようばう
)
、
185
暫
(
しば
)
らく
待
(
ま
)
ちやいのう』
186
女
(
をんな
)
『もしユーさま、
187
両手
(
りやうて
)
に
花
(
はな
)
、
188
右
(
みぎ
)
と
左
(
ひだり
)
に
月
(
つき
)
と
雪
(
ゆき
)
、
189
貴郎
(
あなた
)
も
今
(
いま
)
が
花
(
はな
)
ですよ。
190
男
(
をとこ
)
と
生
(
うま
)
れたからは
一度
(
いちど
)
はこんな
事
(
こと
)
もなくては、
191
この
世
(
よ
)
に
生
(
うま
)
れた
甲斐
(
かひ
)
がないぢやありませぬか』
192
ユーフテス
『
何程
(
なんぼ
)
、
193
甲斐
(
かひ
)
があると
云
(
い
)
つても、
194
さう
引張
(
ひつぱ
)
られちや
腕
(
かひな
)
がなくなるぢやないか。
195
もうもう
女
(
をんな
)
は
懲
(
こ
)
り
懲
(
こ
)
りだ。
196
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
綺麗
(
きれい
)
サツパリと
断念
(
だんねん
)
する。
197
さう
心得
(
こころえ
)
たがよからうぞよ』
198
セーリス姫
『オホヽヽヽ、
199
何
(
なん
)
と
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
男
(
をとこ
)
だこと。
200
僅
(
わづ
)
か
二人
(
ふたり
)
や
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
に
嫐
(
なぶ
)
られて
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
くとは
見下
(
みさ
)
げはてたる
瓢六玉
(
へうろくだま
)
だな。
201
さうだと
云
(
い
)
つて、
202
一旦
(
いつたん
)
思
(
おも
)
ひ
詰
(
つ
)
めたユーさまを
如何
(
どう
)
して
思
(
おも
)
ひきる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうぞ。
203
ねえ、
204
後
(
あと
)
から
御
(
お
)
出
(
い
)
でたセーリスさま、
205
さうぢやありませぬか』
206
女
『
本当
(
ほんたう
)
に
意志
(
いし
)
の
薄弱
(
はくじやく
)
なユーさまには、
207
あたいも
唖然
(
あぜん
)
と
致
(
いた
)
しましたよ。
208
女
(
をんな
)
にかけたら
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
ア
話
(
はなし
)
にならぬ
程
(
ほど
)
弱
(
よわ
)
いものですな。
209
私
(
わたし
)
だつて
一旦
(
いつたん
)
約束
(
やくそく
)
したユーさまには
如何
(
どう
)
しても
離
(
はな
)
れませぬわ。
210
今更
(
いまさら
)
別
(
わか
)
れる
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
なら、
211
潔
(
いさぎよ
)
う
睾丸
(
きんたま
)
噛
(
か
)
んで
死
(
し
)
んで
了
(
しま
)
ひますよ。
212
オホヽヽヽ、
213
これユーさま、
214
此
(
この
)
中
(
うち
)
で
一人
(
ひとり
)
は
本真物
(
ほんまもの
)
、
215
一人
(
ひとり
)
は
化物
(
ばけもの
)
だが、
216
どつちが
本真物
(
ほんまもの
)
か
調
(
しら
)
べて
下
(
くだ
)
さい』
217
ユーフテス
『どちらを
見
(
み
)
ても
何処
(
どこ
)
一
(
ひと
)
つ
変
(
かは
)
つた
点
(
てん
)
がないのだから、
218
俺
(
おれ
)
は
実
(
じつ
)
は、
219
その
真偽
(
しんぎ
)
判別
(
はんべつ
)
に
苦
(
くる
)
しんでゐるのだ』
220
女
『それなら、
221
その
真偽
(
しんぎ
)
の
分
(
わか
)
る
方法
(
はうはふ
)
を
教
(
をし
)
へてあげませう。
222
貴郎
(
あなた
)
の
頬辺
(
ほほべた
)
を
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
に
抓
(
つめ
)
らして
御覧
(
ごらん
)
、
223
痛
(
いた
)
さのひどい
方
(
はう
)
が
本物
(
ほんもの
)
ですわ。
224
何程
(
なにほど
)
よく
似
(
に
)
たと
云
(
い
)
つても、
225
ヤハリ
妖怪
(
えうくわい
)
は
妖怪
(
えうくわい
)
、
226
肝腎
(
かんじん
)
の
時
(
とき
)
に
力
(
ちから
)
がありませぬからね』
227
ユーフテス
『うん、
228
そりやさうだ。
229
よい
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さつた。
230
それなら
両方
(
りやうはう
)
の
頬辺
(
ほほべた
)
を
一時
(
いつとき
)
に
抓
(
つめ
)
つて
見
(
み
)
い』
231
女
『
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
あてえも
抓
(
つめ
)
りますから、
232
セーリス
姫
(
ひめ
)
さまも
抓
(
つめ
)
つておあげやす。
233
一
(
ひ
)
二
(
ふ
)
三
(
み
)
つ』
234
と
云
(
い
)
ひながら
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
はユーフテスの
両方
(
りやうはう
)
の
頬
(
ほほ
)
を
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
捻
(
ね
)
ぢる。
235
ユーフテス
『おー
随分
(
ずゐぶん
)
痛
(
いた
)
いものだな。
236
あんまり
痛
(
いた
)
くて
度
(
ど
)
が
分
(
わか
)
らぬわい。
237
どちらも
同
(
おな
)
じ
様
(
やう
)
な
痛
(
いた
)
さだよ。
238
オイも
一
(
ひと
)
つ
気張
(
きば
)
つて
抓
(
つめ
)
つて
見
(
み
)
い』
239
二人
(
ふたり
)
は
顔
(
かほ
)
見合
(
みあは
)
せながら、
240
又
(
また
)
グツと
抓
(
つめ
)
る。
241
ユーフテス
『いゝゝゝ
痛
(
いた
)
いわい。
242
あゝゝゝゝもういゝもういゝ、
243
さつぱり
分
(
わか
)
らぬ。
244
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い、
245
どつちも
同
(
おな
)
じやうに
痛
(
いた
)
いわい。
246
こりやヤツパリ、
247
先
(
せん
)
の
嬶
(
かかあ
)
嘘
(
うそ
)
つかぬと
云
(
い
)
ふから、
248
前
(
まへ
)
のが
本当
(
ほんたう
)
だらう。
249
オイ
後
(
あと
)
の
奴
(
やつ
)
、
250
今日
(
けふ
)
から
暇
(
ひま
)
をくれてやるからトツトと
帰
(
かへ
)
れ』
251
女
『いえいえ、
252
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても、
253
これが
如何
(
どう
)
して
帰
(
かへ
)
られませうか。
254
姉
(
あね
)
のヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
しても
合
(
あは
)
す
顔
(
かほ
)
がありませぬ。
255
お
父
(
とう
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
にも
大
(
おほ
)
きな
顔
(
かほ
)
して
帰
(
かへ
)
られませぬ。
256
それなら
何卒
(
どうぞ
)
あなたの
手
(
て
)
にかけて
殺
(
ころ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
257
それがせめても
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
258
オホヽヽヽヽ』
259
ユーフテス
『
益々
(
ますます
)
分
(
わか
)
らぬ
様
(
やう
)
になつて
来
(
き
)
よつた。
260
オイ
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つてくれ、
261
両人
(
りやうにん
)
、
262
之
(
これ
)
から
手水
(
てうづ
)
を
使
(
つか
)
つて
来
(
き
)
て、
263
沈思
(
ちんし
)
黙考
(
もくかう
)
せなくちや
真偽
(
しんぎ
)
の
審神
(
さには
)
が
出来
(
でき
)
ないわ』
264
セーリス『あなた
今
(
いま
)
まで
活動
(
くわつどう
)
なさつた
事
(
こと
)
に
就
(
つい
)
て
最善
(
さいぜん
)
を
尽
(
つく
)
したと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ますか。
265
或
(
あるひ
)
は
横道
(
よこみち
)
を
通
(
とほ
)
つたとお
考
(
かんが
)
へにはなりませぬの。
266
それを
一寸
(
ちよつと
)
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいな』
267
ユーフテス
『
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
活動
(
くわつどう
)
するのが
智者
(
ちしや
)
の
道
(
みち
)
だ。
268
縦
(
たて
)
も
横
(
よこ
)
もあつたものかい。
269
正邪
(
せいじや
)
不二
(
ふじ
)
、
270
明暗
(
めいあん
)
一如
(
いちによ
)
だ。
271
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
善
(
ぜん
)
の
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
しさへすれば、
272
それが
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
対
(
たい
)
して
孝行
(
かうかう
)
となるのだ。
273
此
(
この
)
ユーフテスは
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
を
探査
(
たんさ
)
して、
274
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
に
獅子
(
しし
)
奮迅
(
ふんじん
)
の
活動
(
くわつどう
)
をやつてゐるのだから、
275
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
い
行動
(
かうどう
)
をとつたとは
微塵
(
みじん
)
も
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ないよ。
276
忠臣
(
ちうしん
)
の
鑑
(
かがみ
)
と
云
(
い
)
ふのは、
277
天下
(
てんか
)
広
(
ひろ
)
しと
雖
(
いへど
)
も
此
(
この
)
ユーフテスより
外
(
ほか
)
にはないからな。
278
是
(
これ
)
から
三十万
(
さんじふまん
)
年
(
ねん
)
の
未来
(
みらい
)
になると、
279
晋
(
しん
)
の
予譲
(
よじやう
)
だとか、
280
楠正成
(
くすのきまさしげ
)
とか
大石
(
おほいし
)
凡蔵之助
(
ぼんくらのすけ
)
とかが
現
(
あら
)
はれて、
281
忠臣
(
ちうしん
)
の
名
(
な
)
を
擅
(
ほしいまま
)
にする
時代
(
じだい
)
が
来
(
く
)
るが、
282
今日
(
こんにち
)
では
正
(
まさ
)
に
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
だ。
283
此
(
この
)
忠臣
(
ちうしん
)
を
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つセーリス
姫
(
ひめ
)
は
余程
(
よほど
)
の
果報者
(
くわほうもの
)
だ。
284
(
義太夫
(
ぎだいふ
)
)「
女房
(
にようばう
)
喜
(
よろこ
)
べユーフテスは
王
(
わう
)
様
(
さま
)
のお
役
(
やく
)
に
立
(
た
)
つたぞや…………とズツと
通
(
とほ
)
るは
松王丸
(
まつわうまる
)
、
285
源蔵
(
げんざう
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
二度
(
にど
)
ビツクリ、
286
夢
(
ゆめ
)
現
(
うつつ
)
か
夫婦
(
ふうふ
)
かと
呆
(
あき
)
れはてたるばかりなり」と
云
(
い
)
ふ
次第柄
(
しだいがら
)
だ。
287
ウツフヽヽヽ』
288
セーリス
姫
(
ひめ
)
はユーフテスの
横面
(
よこづら
)
を
平手
(
ひらて
)
でピシヤピシヤと
殴
(
なぐ
)
りながら、
289
セーリス姫
『これユーさま、
290
おきやんせいな。
291
何
(
なに
)
をユーフテスのだい。
292
好
(
す
)
かぬたらしい』
293
女
(
をんな
)
『イツヒヽヽヽ、
294
それなら
化物
(
ばけもの
)
のセーリスさまは
一先
(
ひとま
)
づ
化
(
ばけ
)
を
現
(
あら
)
はして
退却
(
たいきやく
)
致
(
いた
)
します。
295
ユーフテスさま、
296
目
(
め
)
を
開
(
あ
)
けて
御覧
(
ごらん
)
、
297
あてえ、
298
こんな
者
(
もの
)
ですよ』
299
と
花
(
はな
)
も
羞
(
はぢ
)
らふ
様
(
やう
)
な
美人
(
びじん
)
が
忽
(
たちま
)
ちクレツと
尻
(
しり
)
を
捲
(
まく
)
り、
300
ユーフテスの
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
につき
出
(
だ
)
した。
301
見
(
み
)
れば
真白
(
まつしろ
)
の
毛
(
け
)
が
密生
(
みつせい
)
し、
302
太
(
ふと
)
い
白
(
しろ
)
い
尻尾
(
しりを
)
がブラ
下
(
さが
)
つてゐる。
303
ユーフテスは「アツ」と
叫
(
さけ
)
んで
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
顛倒
(
てんたふ
)
した。
304
女
(
をんな
)
は
忽
(
たちま
)
ち
巨大
(
きよだい
)
なる
白狐
(
びやくこ
)
と
化
(
くわ
)
し、
305
セーリス
姫
(
ひめ
)
に
叮嚀
(
ていねい
)
に
辞儀
(
じぎ
)
をしながら、
306
ノソリノソリと
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
何処
(
どこ
)
ともなく
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
307
セーリス姫
『オホヽヽヽ、
308
まアまア
旭
(
あさひ
)
さまのお
化
(
ばけ
)
の
上手
(
じやうず
)
な
事
(
こと
)
、
309
斯
(
か
)
うなると
自分
(
じぶん
)
も
白狐
(
びやくこ
)
になつて
見
(
み
)
たいわ。
310
どれどれユーフテスの
倒
(
たふ
)
れてる
間
(
あひだ
)
に、
311
一
(
ひと
)
つ
化
(
ば
)
けて
見
(
み
)
ようかな』
312
と
云
(
い
)
ひながら
俄
(
にはか
)
に
鏡台
(
きやうだい
)
の
前
(
まへ
)
に
坐
(
すわ
)
り、
313
狐
(
きつね
)
の
顔
(
かほ
)
に
作
(
つく
)
り
変
(
か
)
へ、
314
ユーフテスの
面部
(
めんぶ
)
に
清水
(
せいすゐ
)
を
吹
(
ふ
)
きかけた。
315
ユーフテスはウンウンと
呻
(
うめ
)
くと
共
(
とも
)
に
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り、
316
目
(
め
)
をパチつかせてゐる。
317
セーリス
姫
(
ひめ
)
は
狐
(
きつね
)
に
作
(
つく
)
つた
顔
(
かほ
)
をニユツと
出
(
だ
)
し、
318
セーリス姫
『これユーさま、
319
気
(
き
)
がつきましたか。
320
ホヽヽヽヽ』
321
ユーフテスはセーリス
姫
(
ひめ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
二度
(
にど
)
ビツクリし、
322
ユーフテス
『やあ
此奴
(
こいつ
)
あ
堪
(
たま
)
らぬ』
323
とノタノタノタと
自分
(
じぶん
)
も
狐
(
きつね
)
の
様
(
やう
)
に
這
(
は
)
ひ
出
(
だ
)
し、
324
長廊下
(
ながらうか
)
をさして
己
(
おの
)
が
館
(
やかた
)
へ
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
325
(
大正一一・一一・一五
旧九・二七
北村隆光
録)
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