霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 狐狸(こり)窟(くつ)〔一一三四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第2篇 恋海慕湖 よみ(新仮名遣い):れんかいぼこ
章:第9章 狐狸窟 よみ(新仮名遣い):こりくつ 通し章番号:1134
口述日:1922(大正11)年11月15日(旧09月27日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
室内のセーリス姫は、室外のセーリス姫を呼んで招き入れた。外から入ってきたセーリス姫に突き飛ばされて、ユーフテスは倒れた。
二人のセーリス姫は、ユーフテスを介抱しながら自分たちは狐の化けものだ、どちらも本物だとユーフテスをからかっている。ユーフテスは両方から腕を引っ張られて往生し、金輪際女には懲りたと白旗を上げる。
女は白狐の本性を現して、太い白い尻尾をユーフテスの前に現した。ユーフテスはあっと叫んでその場に転倒してしまった。
白狐の旭はセーリス姫にお辞儀をしてどこかに去って行った。セーリス姫は自分の顔を狐の顔に化粧し、ユーフテスの面分に清水を吹きかけた。ユーフテスは気が付いて起き上がり、セーリス姫の顔を見てびっくりり、廊下をはって逃げ帰ってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-23 14:12:40 文字数:4642 OBC :rm4209
愛善世界社版:119頁 八幡書店版:第7輯 685頁 修補版: 校定版:123頁 普及版:48頁 初版: ページ備考:
001 ユーフテスは外(そと)から呼(よ)んだ女(をんな)の声(こゑ)に不審(ふしん)の念(ねん)晴(は)れやらず、002腕(うで)を組(く)んで暫(しばら)く「ウーン」と溜息(ためいき)をついてゐる。003外(そと)より以前(いぜん)の女(をんな)の声(こゑ)、
004外の女(別のセーリス姫)『もしもしユーフテス様(さま)、005セーリス姫(ひめ)で厶(ござ)います。006這入(はい)りましてもお差支(さしつかへ)は厶(ござ)いませぬかな』
007ユーフテス『差支(さしつかへ)がないとは申(まを)さぬ。008二人(ふたり)もセーリス姫(ひめ)があつて堪(たま)るかい。009ばヽヽヽ化物(ばけもの)奴(め)、010早(はや)く退却(たいきやく)せい。011ユーフテスには腕(うで)があるぞ』
012外の女『オホヽヽヽ御(ご)両人(りやうにん)さまが密約(みつやく)御(ご)成立(せいりつ)の間際(まぎは)に、013白首(しらくび)が参(まゐ)りましては、014嘸(さぞ)御(ご)迷惑(めいわく)でせう。015然(しか)しながら、016あたえは本当(ほんたう)のセーリスですから、017何(なん)と仰有(おつしや)つても侵入(しんにふ)致(いた)しますよ』
018ユーフテス『主人(しゆじん)の許可(きよか)もないのに無断(むだん)で闖入(ちんにふ)すると、019治警法(ちけいほふ)嘘(うそ)八百条(はつぴやくでう)によつて告発(こくはつ)してやるぞ。020それでも承知(しようち)なら、021闖入(ちんにふ)なつと乱入(らんにふ)なつと、022やつたら宜(よ)からう。023アーン、024オホン』
025セーリス姫『何方(どなた)か知(し)りませぬが、026何卒(どうぞ)お這入(はい)り下(くだ)さいませ。027あなたも矢張(やつぱり)セーリス姫(ひめ)さまで厶(ござ)いますか。028妙(めう)な事(こと)もあるものですな』
029外の女『ハイ、030有難(ありがた)う厶(ござ)います。031同名(どうめい)同人(どうにん)のセーリス姫(ひめ)ですよ』
032ユーフテス『こりやこりや女房(にようばう)、033オツトセーの俺(おれ)に答(こた)へもなく、034勝手(かつて)に女(をんな)を吾(わが)居間(ゐま)へ引(ひ)き入(い)れると云(い)ふ事(こと)があるか。035婦人(ふじん)道徳(だうとく)をチツトは考(かんが)へたがよからうぞ』
036セーリス姫『オホヽヽヽヽようそんな事(こと)仰有(おつしや)いますな。037女(をんな)の居間(ゐま)へ女(をんな)が来(く)るのが、038何(なに)がそれ程(ほど)悪(わる)いのですか。039貴郎(あなた)如何(どう)です、040私(わたし)一人(ひとり)の女(をんな)の居間(ゐま)へ何時(いつ)もニヨコニヨコやつて来(く)るぢやありませぬか。041外(そと)のセーリス姫(ひめ)さまが御(お)入来(いで)になるのが不道徳(ふだうとく)ならば、042貴郎(あなた)の方(はう)が余程(よほど)不道徳(ふだうとく)ですわ、043あゝもう貴郎(あなた)の御(ご)面相(めんさう)が俄(にはか)に怪体(けたい)になつて来(き)て、044私(わたし)は兎(と)も角(かく)、045腹(はら)の虫(むし)が排日(はいにち)運動(うんどう)をやりかけました。046国際(こくさい)問題(もんだい)の起(おこ)らぬうちに早(はや)く退却(たいきやく)して下(くだ)さい。047ねえ、048オツトセーのユーフテスさま』
049ユーフテス『こりやこりや女房(にようばう)、050何(なん)と云(い)ふ暴言(ばうげん)を吐(は)くのだ。051千(せん)年(ねん)も万(まん)年(ねん)も添(そ)うて呉(く)れと云(い)つたぢやないか。052心機(しんき)一転(いつてん)と云(い)ふも実(じつ)に甚(はなは)だしい』
053セーリス姫『手(て)を翻(ひるがへ)せば雨(あめ)となり、054手(て)を覆(くつが)へせば風(かぜ)となる、055君(きみ)見(み)ずや管鮑(くわんぱう)貧時(ひんじ)の交(かう)、056此(この)道(みち)近人(きんじん)すてて土(つち)の如(ごと)し、057オホヽヽヽヽ』
058ユーフテス『女(をんな)と云(い)ふものは本当(ほんたう)に分(わか)らぬものだな。059八(はつ)尺(しやく)の男子(だんし)を三寸(さんずん)の舌鋒(ぜつぽう)で、060肉(にく)を剔(えぐ)り骨(ほね)を挫(くじ)き、061血(ち)を搾(しぼ)るやうな目(め)に遇(あ)はしやがる。062貴様(きさま)は大方(おほかた)化州(ばけしう)だらう。063アーン』
064セーリス姫『ホヽヽヽヽ貴郎(あなた)も余程(よほど)頓馬(とんま)ですな、065開闢(かいびやく)以来(いらい)女(をんな)は化物(ばけもの)と云(い)ふぢやありませぬか。066そんな訳(わけ)の分(わか)らぬ様(やう)な野呂作(のろさく)では、067婦人(ふじん)に対(たい)し彼是(かれこれ)云(い)ふ資格(しかく)はありますまい。068ねえ外(そと)からお出(い)でやしたセーリス姫(ひめ)さま、069どつちが化物(ばけもの)だか分(わか)つたものぢやありませぬねえ』
070外の女『どうせ化物(ばけもの)ばかりの跳梁(てうりやう)跋扈(ばつこ)する世(よ)の中(なか)ですもの、071このユーフテスさまだつてヤハリ化物(ばけもの)ですわ。072恋(こひ)と云(い)ふ曲者(くせもの)の魔(ま)の手(て)に誑惑(きやうわく)されて、073三代(さんだい)相恩(さうおん)の主人(しゆじん)の陰謀(いんぼう)を残(のこ)らず相手(あひて)方(がた)へ密告(みつこく)なさる様(やう)な世(よ)の中(なか)ですもの、074百鬼(ひやくき)昼行(ちうかう)は現代(げんだい)の世相(せさう)だから、075如何(いかん)ともする事(こと)は出来(でき)ますまい。076是(これ)から二人(ふたり)の女(をんな)が両方(りやうはう)から膏(あぶら)を搾(しぼ)つてあげませうか。077女(をんな)と云(い)ふ字(じ)を二(ふた)つ書(か)いて真中(まんなか)に男(をとこ)の字(じ)をはさむと嫐(なぶ)られるとか読(よ)むさうですな。078オホヽヽヽヽ』
079セーリス姫『男(をとこ)の字(じ)を二(ふた)つ並(なら)べて女(をんな)を一字(いちじ)はさめると嬲(なぶ)るとか読(よ)むさうですわ。080何(いづ)れ恋(こひ)とか鮒(ふな)とかに嫐(なぶ)られてゐる天下(てんか)の色男(いろをとこ)だから、081嬲(なぶ)るのも嫐(なぶ)られるのも光栄(くわうえい)でせう。082サア遠慮(ゑんりよ)は要(い)りませぬ。083外(そと)のセーリス姫(ひめ)さま、084お這入(はい)り下(くだ)さい』
085ユーフテス『何(なに)が何(なん)だか狐(きつね)に魅(つま)されてる様(やう)だ。086ハテ、087如何(どう)したら此(この)真偽(しんぎ)が分(わか)るだらうかな』
088と頻(しき)りに首(くび)を捻(ひね)る。089其(その)間(ま)に外(そと)の女(をんな)は襖(ふすま)をガラリと引(ひ)き開(あ)け、090転(こ)け込(こ)む様(やう)にしてユーフテスの前(まへ)にドスンと音(おと)を立(た)てて坐(すわ)り込(こ)んだ。091其(その)反動(はんどう)でユーフテスは一(いつ)尺(しやく)ばかり大(だい)の図体(づうたい)を撥(は)ね上(あ)げられ、092惰力(だりよく)が余(あま)つて二(ふた)つ三(み)つ餅(もち)搗(つ)きの演習(えんしふ)をやつてゐる。
093女『これ、094ユーフテスさま、095お怪我(けが)は如何(いかが)ですか。096あてえ、097本当(ほんたう)に心配(しんぱい)しましたわ』
098ユーフテス『こりやこりや女(をんな)、099何(なに)を吐(ぬ)かしやがる、100セーリス姫(ひめ)の真似(まね)をしやがつて、101馬鹿(ばか)にするな。102そんな事(こと)でちよろまかされる様(やう)なユーさまぢやないぞ』
103女『ホヽヽヽヽ已(すで)に已(すで)に騙(だま)されてゐるぢやありませぬか。104ユーさまの舌(した)が俄(にはか)に直(なほ)つたのは何(なん)とお考(かんが)へです。105本当(ほんたう)の人間(にんげん)なれば、106さう即座(そくざ)に神言(かみごと)を称(とな)へたつて直(なほ)るものぢやありますまい。107セーリス姫(ひめ)ぢやと思(おも)うて居(ゐ)なさるのは、108其(その)実(じつ)は狐々(こんこん)さまですよ。109ねえセーリス姫(ひめ)さま、110さうでせう』
111セーリス姫『お察(さつ)しの通(とほ)り狐々(こんこん)さまかも知(し)れませぬ。112あたい何(なん)だか肌(はだ)に薄(うす)い毛(け)がモシヤモシヤ生(は)え出(だ)した様(やう)な気(き)が致(いた)しますわ。113オホヽヽヽヽ、114イヤらしいわいの。115こんな毛(け)の生(は)えたものを、116それでも女房(にようばう)にしてくれると仰有(おつしや)る、117涙(なみだ)もろい慈悲(じひ)深(ぶか)い頓馬(とんま)野郎(やらう)があるのですからね。118まるつきり女(をんな)でも捨(す)てたものぢやありませぬわ。119イヒヽヽヽ』
120ユーフテス『こりやこりや、121セーリス、122到頭(たうとう)貴様(きさま)は発狂(はつきやう)しよつたな。123オイ、124ちつとシツカリして呉(く)れぬかい』
125セーリス姫『あなた、126チツとシツカリなさいませや。127あてえ今(いま)までセーリスさまになつて化(ば)けてゐたのよ。128ユーさまの睫(まつげ)の毛(け)が何本(なんぼん)あると云(い)ふ事(こと)も、129みんな知(し)つてゐますわ。130そして気(き)の毒(どく)ながら、131お尻(しり)の毛(け)は一本(いつぽん)もない様(やう)に頂戴(ちやうだい)しておきました。132ウフヽヽヽヽ』
133 ユーフテスは俄(にはか)に懐(ふところ)から手(て)を伸(のば)し、134尻(しり)に手(て)をあて、135尻毛(しりげ)の有無(うむ)を調(しら)べて見(み)、136指(ゆび)でクツと毛(け)を引(ひ)つ張(ぱ)つて見(み)て、
137ユーフテス『アイタヽヽヤツパリ毛(け)は依然(いぜん)として蓬々(ぼうぼう)たりだ。138オイ、139セーリス姫(ひめ)、140憚(はばか)りながら一本(いつぽん)だつて紛失(ふんしつ)はして居(ゐ)ないぞ』
141セーリス姫『オツホヽヽヽ、142いつも肛門(こうもん)から糞出(ふんしゆつ)さして御座(ござ)るぢやありませぬか。143フヽーン』
144ユーフテス『えー糞(くそ)面白(おもしろ)うもない。145糞慨(ふんがい)の至(いた)りだ。146オイ、147外(そと)から来(き)た女(をんな)、148貴様(きさま)は早(はや)く去(い)んでくれ、149俺(おれ)の家内(かない)が貴様(きさま)の邪気(じやき)にうたれてサツパリ発狂(はつきやう)して了(しま)つた。150アーン、151さあ早(はや)く去(い)なぬかい』
152 女(をんな)は涙(なみだ)をホロホロと流(なが)し、153悲(かな)しさうな声(こゑ)で、
154女『これ旦那(だんな)さま、155否(いえ)オツトセー様(さま)、156チツト確(しつか)りして下(くだ)さいませ。157あたいは本当(ほんたう)のセーリス姫(ひめ)ですよ』
158セーリス姫『これ旦那(だんな)様(さま)、159チツト確(しつか)りして下(くだ)さいや。160あてえこそ本当(ほんたう)のセーリス姫(ひめ)よ』
161と右左(みぎひだり)よりユーフテスの袖(そで)に取(と)りすがり、162両手(りやうて)を一本(いつぽん)づつ握(にぎ)つて「ヤイノヤイノ」と言(い)ひながら変(かは)つた方面(はうめん)へ力限(ちからかぎ)りに引張(ひつぱ)る。163ユーフテスの腕(かひな)は関節(くわんせつ)の骨(くろろ)が如何(どう)かなつたと見(み)えて、164パチンと怪(あや)しき音(おと)を立(た)てた。
165ユーフテス『アイタヽヽヽ待(ま)つた待(ま)つた、166さう両方(りやうはう)から腕(かひな)を引張(ひつぱ)られちや男(をとこ)が立(た)たぬぢやないか、167いや俺(おれ)の体(からだ)が立(た)たぬぢやないか。168許(ゆる)せ許(ゆる)せ、169色男(いろをとこ)と云(い)ふものは叶(かな)はぬものぢや。170何故(なぜ)かう女(をんな)に惚(ほ)れられる様(やう)に生(うま)れて来(き)たのだらう。171二人(ふたり)の美人(びじん)に攻(せ)められて、172判別(はんべつ)も付(つ)かず、173烏(からす)の雌雄(しゆう)を何(ど)うして識別(しきべつ)し得(え)むやだ。174五里(ごり)霧中(むちゆう)に彷徨(はうくわう)するとはこんな事(こと)をいふのかな』
175セーリス姫『ホヽヽヽ、176五里(ごり)霧中(むちゆう)所(どころ)か無理(むり)夢中(むちう)ですわ。177それも一理(いちり)ありませう。178エヘヽヽヽ、179さあ後(あと)のセーリスさま、180力(ちから)一杯(いつぱい)可愛(かあい)い男(をとこ)を引張(ひつぱ)つて下(くだ)さい。181あたいも引張(ひつぱ)りますから……』
182ユーフテス『アヽヽアイタツタヽヽ待(ま)つた待(ま)つた、183待(ま)てと申(まを)さば、184二人(ふたり)の女房(にようばう)、185暫(しば)らく待(ま)ちやいのう』
186女(をんな)『もしユーさま、187両手(りやうて)に花(はな)、188右(みぎ)と左(ひだり)に月(つき)と雪(ゆき)、189貴郎(あなた)も今(いま)が花(はな)ですよ。190男(をとこ)と生(うま)れたからは一度(いちど)はこんな事(こと)もなくては、191この世(よ)に生(うま)れた甲斐(かひ)がないぢやありませぬか』
192ユーフテス『何程(なんぼ)、193甲斐(かひ)があると云(い)つても、194さう引張(ひつぱ)られちや腕(かひな)がなくなるぢやないか。195もうもう女(をんな)は懲(こ)り懲(こ)りだ。196只今(ただいま)限(かぎ)り綺麗(きれい)サツパリと断念(だんねん)する。197さう心得(こころえ)たがよからうぞよ』
198セーリス姫『オホヽヽヽ、199何(なん)と気(き)の弱(よわ)い男(をとこ)だこと。200僅(わづ)か二人(ふたり)や三(さん)人(にん)の女(をんな)に嫐(なぶ)られて弱音(よわね)を吹(ふ)くとは見下(みさ)げはてたる瓢六玉(へうろくだま)だな。201さうだと云(い)つて、202一旦(いつたん)思(おも)ひ詰(つ)めたユーさまを如何(どう)して思(おも)ひきる事(こと)が出来(でき)ませうぞ。203ねえ、204後(あと)から御(お)出(い)でたセーリスさま、205さうぢやありませぬか』
206女『本当(ほんたう)に意志(いし)の薄弱(はくじやく)なユーさまには、207あたいも唖然(あぜん)と致(いた)しましたよ。208女(をんな)にかけたら男(をとこ)と云(い)ふ奴(やつ)ア話(はなし)にならぬ程(ほど)弱(よわ)いものですな。209私(わたし)だつて一旦(いつたん)約束(やくそく)したユーさまには如何(どう)しても離(はな)れませぬわ。210今更(いまさら)別(わか)れる様(やう)な事(こと)なら、211潔(いさぎよ)う睾丸(きんたま)噛(か)んで死(し)んで了(しま)ひますよ。212オホヽヽヽ、213これユーさま、214此(この)中(うち)で一人(ひとり)は本真物(ほんまもの)、215一人(ひとり)は化物(ばけもの)だが、216どつちが本真物(ほんまもの)か調(しら)べて下(くだ)さい』
217ユーフテス『どちらを見(み)ても何処(どこ)一(ひと)つ変(かは)つた点(てん)がないのだから、218俺(おれ)は実(じつ)は、219その真偽(しんぎ)判別(はんべつ)に苦(くる)しんでゐるのだ』
220女『それなら、221その真偽(しんぎ)の分(わか)る方法(はうはふ)を教(をし)へてあげませう。222貴郎(あなた)の頬辺(ほほべた)を二人(ふたり)の女(をんな)に抓(つめ)らして御覧(ごらん)、223痛(いた)さのひどい方(はう)が本物(ほんもの)ですわ。224何程(なにほど)よく似(に)たと云(い)つても、225ヤハリ妖怪(えうくわい)は妖怪(えうくわい)、226肝腎(かんじん)の時(とき)に力(ちから)がありませぬからね』
227ユーフテス『うん、228そりやさうだ。229よい事(こと)を聞(き)かして下(くだ)さつた。230それなら両方(りやうはう)の頬辺(ほほべた)を一時(いつとき)に抓(つめ)つて見(み)い』
231女『力(ちから)一杯(いつぱい)あてえも抓(つめ)りますから、232セーリス姫(ひめ)さまも抓(つめ)つておあげやす。233一(ひ)二(ふ)三(み)つ』
234と云(い)ひながら二人(ふたり)の女(をんな)はユーフテスの両方(りやうはう)の頬(ほほ)を力(ちから)一杯(いつぱい)捻(ね)ぢる。
235ユーフテス『おー随分(ずゐぶん)痛(いた)いものだな。236あんまり痛(いた)くて度(ど)が分(わか)らぬわい。237どちらも同(おな)じ様(やう)な痛(いた)さだよ。238オイも一(ひと)つ気張(きば)つて抓(つめ)つて見(み)い』
239 二人(ふたり)は顔(かほ)見合(みあは)せながら、240又(また)グツと抓(つめ)る。
241ユーフテス『いゝゝゝ痛(いた)いわい。242あゝゝゝゝもういゝもういゝ、243さつぱり分(わか)らぬ。244意地(いぢ)の悪(わる)い、245どつちも同(おな)じやうに痛(いた)いわい。246こりやヤツパリ、247先(せん)の嬶(かかあ)嘘(うそ)つかぬと云(い)ふから、248前(まへ)のが本当(ほんたう)だらう。249オイ後(あと)の奴(やつ)、250今日(けふ)から暇(ひま)をくれてやるからトツトと帰(かへ)れ』
251女『いえいえ、252何(なん)と仰有(おつしや)つても、253これが如何(どう)して帰(かへ)られませうか。254姉(あね)のヤスダラ姫(ひめ)様(さま)に対(たい)しても合(あは)す顔(かほ)がありませぬ。255お父(とう)様(さま)の前(まへ)にも大(おほ)きな顔(かほ)して帰(かへ)られませぬ。256それなら何卒(どうぞ)あなたの手(て)にかけて殺(ころ)して下(くだ)さい。257それがせめても貴方(あなた)の御(ご)親切(しんせつ)で厶(ござ)います。258オホヽヽヽヽ』
259ユーフテス『益々(ますます)分(わか)らぬ様(やう)になつて来(き)よつた。260オイ一寸(ちよつと)待(ま)つてくれ、261両人(りやうにん)、262之(これ)から手水(てうづ)を使(つか)つて来(き)て、263沈思(ちんし)黙考(もくかう)せなくちや真偽(しんぎ)の審神(さには)が出来(でき)ないわ』
264セーリス『あなた今(いま)まで活動(くわつどう)なさつた事(こと)に就(つい)て最善(さいぜん)を尽(つく)したと思(おも)つて居(ゐ)ますか。265或(あるひ)は横道(よこみち)を通(とほ)つたとお考(かんが)へにはなりませぬの。266それを一寸(ちよつと)聞(き)かして下(くだ)さいな』
267ユーフテス『縦横(じうわう)無尽(むじん)に活動(くわつどう)するのが智者(ちしや)の道(みち)だ。268縦(たて)も横(よこ)もあつたものかい。269正邪(せいじや)不二(ふじ)、270明暗(めいあん)一如(いちによ)だ。271兎(と)も角(かく)善(ぜん)の目的(もくてき)を達(たつ)しさへすれば、272それが神(かみ)様(さま)へ対(たい)して孝行(かうかう)となるのだ。273此(この)ユーフテスは悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の右守(うもり)の司(かみ)の陰謀(いんぼう)を探査(たんさ)して、274王(わう)様(さま)の為(ため)に獅子(しし)奮迅(ふんじん)の活動(くわつどう)をやつてゐるのだから、275決(けつ)して悪(わる)い行動(かうどう)をとつたとは微塵(みじん)も思(おも)つて居(ゐ)ないよ。276忠臣(ちうしん)の鑑(かがみ)と云(い)ふのは、277天下(てんか)広(ひろ)しと雖(いへど)も此(この)ユーフテスより外(ほか)にはないからな。278是(これ)から三十万(さんじふまん)年(ねん)の未来(みらい)になると、279晋(しん)の予譲(よじやう)だとか、280楠正成(くすのきまさしげ)とか大石(おほいし)凡蔵之助(ぼんくらのすけ)とかが現(あら)はれて、281忠臣(ちうしん)の名(な)を擅(ほしいまま)にする時代(じだい)が来(く)るが、282今日(こんにち)では正(まさ)に俺(おれ)一人(ひとり)だ。283此(この)忠臣(ちうしん)を夫(をつと)に持(も)つセーリス姫(ひめ)は余程(よほど)の果報者(くわほうもの)だ。284(義太夫(ぎだいふ))「女房(にようばう)喜(よろこ)べユーフテスは王(わう)様(さま)のお役(やく)に立(た)つたぞや…………とズツと通(とほ)るは松王丸(まつわうまる)、285源蔵(げんざう)夫婦(ふうふ)は二度(にど)ビツクリ、286夢(ゆめ)現(うつつ)か夫婦(ふうふ)かと呆(あき)れはてたるばかりなり」と云(い)ふ次第柄(しだいがら)だ。287ウツフヽヽヽ』
288 セーリス姫(ひめ)はユーフテスの横面(よこづら)を平手(ひらて)でピシヤピシヤと殴(なぐ)りながら、
289セーリス姫『これユーさま、290おきやんせいな。291何(なに)をユーフテスのだい。292好(す)かぬたらしい』
293女(をんな)『イツヒヽヽヽ、294それなら化物(ばけもの)のセーリスさまは一先(ひとま)づ化(ばけ)を現(あら)はして退却(たいきやく)致(いた)します。295ユーフテスさま、296目(め)を開(あ)けて御覧(ごらん)、297あてえ、298こんな者(もの)ですよ』
299と花(はな)も羞(はぢ)らふ様(やう)な美人(びじん)が忽(たちま)ちクレツと尻(しり)を捲(まく)り、300ユーフテスの目(め)の前(まへ)につき出(だ)した。301見(み)れば真白(まつしろ)の毛(け)が密生(みつせい)し、302太(ふと)い白(しろ)い尻尾(しりを)がブラ下(さが)つてゐる。303ユーフテスは「アツ」と叫(さけ)んで其(その)場(ば)に顛倒(てんたふ)した。304女(をんな)は忽(たちま)ち巨大(きよだい)なる白狐(びやくこ)と化(くわ)し、305セーリス姫(ひめ)に叮嚀(ていねい)に辞儀(じぎ)をしながら、306ノソリノソリと此(この)場(ば)を立(た)つて何処(どこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した。
307セーリス姫『オホヽヽヽ、308まアまア旭(あさひ)さまのお化(ばけ)の上手(じやうず)な事(こと)、309斯(か)うなると自分(じぶん)も白狐(びやくこ)になつて見(み)たいわ。310どれどれユーフテスの倒(たふ)れてる間(あひだ)に、311一(ひと)つ化(ば)けて見(み)ようかな』
312と云(い)ひながら俄(にはか)に鏡台(きやうだい)の前(まへ)に坐(すわ)り、313狐(きつね)の顔(かほ)に作(つく)り変(か)へ、314ユーフテスの面部(めんぶ)に清水(せいすゐ)を吹(ふ)きかけた。315ユーフテスはウンウンと呻(うめ)くと共(とも)に起(お)き上(あが)り、316目(め)をパチつかせてゐる。317セーリス姫(ひめ)は狐(きつね)に作(つく)つた顔(かほ)をニユツと出(だ)し、
318セーリス姫『これユーさま、319気(き)がつきましたか。320ホヽヽヽヽ』
321 ユーフテスはセーリス姫(ひめ)の姿(すがた)を見(み)て二度(にど)ビツクリし、
322ユーフテス『やあ此奴(こいつ)あ堪(たま)らぬ』
323とノタノタノタと自分(じぶん)も狐(きつね)の様(やう)に這(は)ひ出(だ)し、324長廊下(ながらうか)をさして己(おの)が館(やかた)へ逃(に)げて行(ゆ)く。
325(大正一一・一一・一五 旧九・二七 北村隆光録)
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