霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 野人(やじん)の夢(ゆめ)〔一一三一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第2篇 恋海慕湖 よみ(新仮名遣い):れんかいぼこ
章:第6章 野人の夢 よみ(新仮名遣い):やじんのゆめ 通し章番号:1131
口述日:1922(大正11)年11月14日(旧09月26日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
カールチンは自宅に帰り、奥の間に一人悦に入っている。そこへユーフテスとセーリス姫が訪ねてきた。セーリス姫は、姉のヤスダラ姫に代わってカールチンの気持ちを確かめに来たのだという。
カールチンがヤスダラ姫(清照姫)に執心であることを見届けると、ユーフテスとセーリス姫は帰って行った。
テーナ姫が帰ってきたが、カールチンはそっけなく出迎えた。テーナ姫は、カールチンが数日前からそわそわして様子が違うことから、早速若い女と浮気したことに気づいてカールチンに掴みかかった。
テーナ姫は荒れ狂い修羅場が展開したが、カールチンはあくまで落ち着いてあしらっていた。テーナ姫はとうとう、自分を送ってきたマンモスを連れて右守の館を出て行ってしまった。
後に右守は、テーナ姫を追い出す手間が省けたとほくそ笑んでいる。するとやにわに戸を開けてテーナ姫が入ってきてカールチンに襲い掛かってきた。
と見るや、これは夢であった。カールチンはテーナ姫に揺り起こされて目を覚ました。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-21 15:14:20 文字数:4984 OBC :rm4206
愛善世界社版:81頁 八幡書店版:第7輯 671頁 修補版: 校定版:85頁 普及版:30頁 初版: ページ備考:
001 カールチンは吾(わが)館(やかた)の奥(おく)の間(ま)に只(ただ)一人(ひとり)ニコニコしながら恋(こひ)の瞑想(めいさう)に耽(ふけ)つてゐる。002そこへやつて来(き)たのはユーフテス、003セーリス姫(ひめ)の二人(ふたり)であつた。
004セーリス姫『右守(うもり)さま、005最前(さいぜん)はようこそ御(ご)登城(とじやう)の上(うへ)、006姉(あね)にお会(あ)ひ下(くだ)さいまして、007誠(まこと)に有難(ありがた)う御座(ござ)ります。008貴方(あなた)がお帰(かへ)り遊(あそ)ばしたその後(あと)で姉(あね)も非常(ひじやう)に気分(きぶん)がよくなつたと申(まを)し、009それはそれは偉(えら)い御(ご)機嫌(きげん)で厶(ござ)ります。010就(つ)いては姉(あね)の申(まを)しますのには、011男心(をとこごころ)と秋(あき)の空(そら)、012如何(どう)変(かは)るやら心許(こころもと)ない。013右守(うもり)の司様(かみさま)に、014も一度(いちど)お目(め)にかかる迄(まで)は安心(あんしん)ならない。015もしや奥様(おくさま)に感(かん)づかれ遊(あそ)ばして、016種々(いろいろ)と御(お)争(いさか)ひの結果(けつくわ)、017お心変(こころがは)りをなされはすまいかと申(まを)しまして、018妾(わたし)に一遍(いつぺん)御(ご)様子(やうす)を伺(うかが)つて来(き)てくれと、019まるで狂人(きちがひ)の様(やう)に申(まを)しますの。020貴方(あなた)に限(かぎ)つてそんな水臭(みづくさ)い方(かた)ぢやないから御(ご)安心(あんしん)遊(あそ)ばせと何度(なんど)云(い)つても聞(き)きませぬ。021それ故(ゆゑ)夜中(やちう)にも拘(かかは)らず、022御(お)邪魔(じやま)をいたした様(やう)な次第(しだい)で厶(ござ)ります。023夜中(やちう)御(ご)門前(もんぜん)が通(とほ)れないと存(ぞん)じまして、024ユーフテス様(さま)について来(き)て頂(いただ)きました』
025 カールチンは小声(こごゑ)で、
026カールチン『あゝさうでしたか、027それは御(ご)苦労(くらう)でした。028屹度(きつと)心変(こころがは)りするなと姫(ひめ)に云(い)つてやつて下(くだ)さい。029さうすりや安心(あんしん)するでせう』
030と早(はや)くも女房扱(にようばうあつかひ)にしてゐる。031セーリス姫(ひめ)は可笑(をか)しさを堪(こら)へ、032故意(わざ)と湿(しめ)つぽい声(こゑ)を出(だ)して、
033セーリス姫『ハイ有難(ありがた)い其(その)お言葉(ことば)、034妾(わたし)の夫(をつと)になつて下(くだ)さつた様(やう)に嬉(うれ)しう厶(ござ)りますわ、035ホヽヽヽヽ』
036カールチン『これこれセーリス姫(ひめ)殿(どの)、037気(き)の多(おほ)い事(こと)を云(い)つちやなりませぬぞ。038貴女(あなた)の最愛(さいあい)のユーフテスが其処(そこ)に居(ゐ)るぢやありませぬか。039大変(たいへん)に気(き)を揉(も)んで、040顔(かほ)の色(いろ)まで変(か)へて居(を)りますよ。041アハヽヽヽヽ』
042セーリス姫『ホヽヽヽヽこんな口(くち)の腫(は)れた、043物(もの)も碌(ろく)に云(い)へぬ様(やう)な男(をとこ)、044妾(わたし)俄(にはか)に嫌(いや)になつちまつたのですよ…………と云(い)ふのは表向(おもてむ)き、045ねえユーフテスさま、046貴方(あなた)、047私(わたし)の心(こころ)の中(うち)はよく知(し)つてゐますね。048人(ひと)の前(まへ)でさう惚気(のろけ)も云(い)へませぬからな』
049 ユーフテスは嬉(うれ)しさうな顔(かほ)して、
050ユーフテス『ウフヽヽヽ』
051と笑(わら)ふ。
052セーリス姫『あのマア好(す)かぬたらしい笑(わら)ひ様(やう)わいな。053本当(ほんたう)に嫌(いや)になつてしまふワ。054如何(どう)して、055こんな好(す)かぬたらしい男(をとこ)が好(す)きになつたのだらう。056吾(われ)と吾(わが)心(こころ)で判断(はんだん)がつかぬワ』
057カールチン『これこれセーリスさま、058あまりぢやありませぬか。059何(なに)か一(ひと)つ奢(おご)つて貰(もら)ひませう。060たつぷりとお惚気(のろけ)を聞(き)かされまして』
061セーリス姫『お惚気(のろけ)はお互(たがひ)様(さま)ですわ。062奢(おご)るだけは倹約(けんやく)を致(いた)しまして、063為替(かはせ)に願(ねが)ひませうか。064時(とき)にカールチンさま、065奥様(おくさま)の処置(しよち)は如何(どう)なさいましたの。066それを承(うけたま)はらねば、067姉(あね)が矢張(やつぱ)り気(き)を揉(も)みますから、068なあユーフテスさま、069さうでしたね』
070ユーフテス『そ……それが肝腎要(かんじんかなめ)の只今(ただいま)の御用(ごよう)ですわ。071もし旦那(だんな)様(さま)、072如何(どう)なりましたか。073屹度(きつと)直様(すぐさま)、074何(なん)とか御(ご)処置(しよち)を取(と)られたでせうな』
075カールチン『実(じつ)の所(ところ)、076今日(けふ)はマンモス、077サモア姫(ひめ)に招(まね)かれて、078テーナは未(ま)だ帰(かへ)つて来(こ)ないのだ。079然(しか)しながら出(だ)し抜(ぬ)けにそんな事(こと)云(い)つたら、080此(この)際(さい)一悶錯(ひともんさく)が起(おこ)るから、081暫(しば)らく執行(しつかう)猶予(いうよ)を願(ねが)ひたいものだ。082何(いづ)れ折(をり)を見(み)て甘(うま)くやる積(つも)りだから、083ヤスダラ姫(ひめ)にもカールチンの心(こころ)は大(だい)磐石心(ばんじやくしん)だから安心(あんしん)せよと伝(つた)へて下(くだ)さい。084それよりも姫(ひめ)の方(はう)に心変(こころがは)りのせないやうと此(この)方(はう)から却(かへつ)て気(き)を揉(も)んでゐる位(くらゐ)だ。085アハヽヽヽヽ』
086セーリス姫『好(よ)い男(をとこ)さまに生(うま)れると気(き)の揉(も)める事(こと)ですな。087妾(わたし)の様(やう)なお多福(たふく)の方(はう)が却(かへつ)て幸(さいは)ひかも知(し)れませぬわ。088それでも世間(せけん)は広(ひろ)いもので、089干瓢(かんぺう)に目鼻(めはな)をつけた様(やう)なユーフテスさまが秋波(しうは)を送(おく)つて下(くだ)さいますもの、090お多福(たふく)だつて、091さう悲観(ひくわん)したものぢや厶(ござ)りませぬな』
092カールチン『あゝ何(なん)だか妙(めう)な気分(きぶん)になつて来(き)ましたわい。093貴女(あなた)も気(き)が利(き)きませぬな。094ユーフテスの様(やう)な男(をとこ)をつれずに、095何故(なぜ)姉(ねえ)さまをソツと連(つ)れて来(こ)ないのですか。096さうすれば何事(なにごと)も直(すぐ)に氷解(ひようかい)が出来(でき)ますがね。097矢張(やはり)姉(ねえ)さまよりもユーフテスの方(はう)が宜(よ)いと見(み)えますな』
098セーリス姫『そりやさうでせうとも。099何程(なにほど)姉(ねえ)さまが綺麗(きれい)だと云(い)つても、100女(をんな)同士(どうし)世帯(しよたい)を持(も)つ訳(わけ)には行(い)かぬぢやありませぬか。101何程(なにほど)ヒヨツトコでも瓢箪(へうたん)でも干瓢(かんぺう)さまでも蜥蜴(とかげ)の欠伸(あくび)した様(やう)な男(をとこ)でも、102夫(をつと)とすれば、103ヤツパリ贔屓(ひいき)がつきますわ。104オホヽヽヽヽ』
105カールチン『時(とき)にセーリス姫(ひめ)様(さま)、106追(お)つ立(た)てる様(やう)で済(す)みませぬが、107今(いま)に女房(にようばう)が帰(かへ)つて来(き)て感(かん)づかれては大変(たいへん)ですから、108何卒(どうぞ)ユーフテスと共(とも)に此処(ここ)を立退(たちの)いて下(くだ)さいますまいか』
109セーリス姫『はい、110承知(しようち)致(いた)しました。111気(き)の利(き)かぬ女(をんな)だと思召(おぼしめ)すでせう。112これが姉(あね)だつたら、113そんな事(こと)滅多(めつた)に仰有(おつしや)いますまいに。114お多福(たふく)はヤツパリ仕方(しかた)がありませぬわ。115奥様(おくさま)がお待(ま)ち兼(か)ねでせう。116何卒(どうぞ)御(ご)夫婦(ふうふ)睦(むつ)まじうお暮(くら)しなさいませ。117姉(あね)も御(ご)親密(しんみつ)な御(ご)夫婦(ふうふ)だと聞(き)いたら、118嘸(さぞ)気(き)を揉(も)みませう、119いや喜(よろこ)びませう。120誠(まこと)にいけすかない女(をんな)が参(まゐ)りまして済(す)みませぬでした。121何卒(なにとぞ)神直日(かむなほひ)、122大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)して下(くだ)さいまして、123永当(えいたう)々々(えいたう)御(ご)贔屓(ひいき)に願(ねが)ひまアす』
124ユーフテス『(東西屋(とうざいや)口調(くてう))チヨン チヨン チヨン、125えー今晩(こんばん)はこれで大切(おほぎ)りと致(いた)しまして、126又(また)明晩(みやうばん)は新手(あらて)を入(い)れ替(か)へ、127大序(だいじよ)より大切(おほぎ)りまで御覧(ごらん)に入(い)れます。128芸題(げだい)は入那(いるな)の城(しろ)入那(いるな)の城(しろ)、129登場(とうぢやう)役者(やくしや)は右守(うもり)の司(かみ)カールチン殿(どの)、130ヤスダラ姫(ひめ)のローマンスの情味(じやうみ)津々(しんしん)たる艶場(つやば)をお目(め)にかけますれば、131近所(きんじよ)合壁(がつぺき)誘(さそ)ひ合(あは)せ、132賑々(にぎにぎ)しく御(ご)観覧(くわんらん)の程(ほど)を偏(ひとへ)に乞(こ)ひ願(ねが)ひあげよこ奉(まつ)ります。133アハヽヽヽヽ』
134セーリス『ウツフヽヽヽヽ』
135ユーフテス『(義太夫(ぎだいふ))「右守(うもり)は悠然(いうぜん)として立上(たちあが)り、136テーナ姫(ひめ)の館(やかた)をさして、137入(い)りにける。138後(あと)に残(のこ)りし両人(りやうにん)は、139四辺(あたり)をキツと打見(うちみ)やり、140互(たがひ)に手(て)に手(て)を取(と)り交(か)はし、141ヤイノ ヤイノと意茶(いちや)つく間(ま)もなく、142表(おもて)に聞(きこ)ゆる人(ひと)の足音(あしおと)、143コリヤ叶(かな)はぬと、144暗(やみ)に紛(まぎ)れて逃(に)げ失(う)せたりチヨン」と云(い)ふ所(ところ)ですな。145イヒヽヽヽヽ』
146カールチン『セーリス姫(ひめ)殿(どの)、147又(また)改(あらた)めてお目(め)にかかりませう』
148と云(い)ひすて足早(あしばや)に奥(おく)の間(ま)指(さ)して姿(すがた)をかくした。149二人(ふたり)は是非(ぜひ)なく暗(やみ)に紛(まぎ)れて館(やかた)を出(い)で、150木枯(こがらし)烈(はげ)しき野道(のみち)をよぎり、151城内(じやうない)指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
152 カールチンは二人(ふたり)に別(わか)れ、153奥(おく)の大広間(おほひろま)に座蒲団(ざぶとん)を幾枚(いくまい)も積(つ)み重(かさ)ね、154ばいの化物然(ばけものぜん)とすまし込(こ)み、155頻(しき)りに首(くび)をかたげて時々(ときどき)堪(こら)へきれぬ様(やう)な笑(ゑみ)を洩(もら)し、156鼻糞(はなくそ)をほぜくつたり、157手(て)の甲(かふ)で歯糞(はくそ)を取(と)つたり、158眉毛(まゆげ)の癖(くせ)を直(なほ)したり、159首筋(くびすぢ)を撫(な)で上(あ)げたり等(など)して、160俄(にはか)に若(わか)やいだ気分(きぶん)になつて上機嫌(じやうきげん)で納(をさ)まり返(かへ)つてゐる。161そこへマンモスに送(おく)られて帰(かへ)つて来(き)たのはテーナ姫(ひめ)であつた。
162マンモス『旦那(だんな)様(さま)、163今日(けふ)は奥様(おくさま)に穢(むさくる)しい処(ところ)へ御(お)入来(いで)を願(ねが)ひまして実(じつ)に光栄(くわうえい)で御座(ござ)いました。164サモア姫(ひめ)も大変(たいへん)に満足(まんぞく)致(いた)しましたと、165旦那(だんな)様(さま)へお礼(れい)を申上(まをしあ)げて呉(く)れよと申(まを)しました。166今日(けふ)はツイにない御(ご)機嫌(きげん)なお顔(かほ)を拝(はい)し、167マンモスに於(おい)ても恐悦(きようえつ)至極(しごく)に存(ぞん)じます』
168カールチン『マンモス、169よう送(おく)つて来(き)てくれた。170も少(すこ)し遅(おそ)くても構(かま)はなかつたになあ』
171 テーナ姫(ひめ)は不機嫌(ふきげん)な顔(かほ)をして一杯(いつぱい)機嫌(きげん)を幸(さいは)ひ、172カールチンの前(まへ)に進(すす)み出(い)で矢庭(やには)に胸倉(むなぐら)をグツと取(と)り、
173テーナ姫『これ、174旦那(だんな)さま、175薬鑵(やくわん)老爺(おやぢ)さま、176もちつと長(なが)くともよいとは、177そりや何(なん)と云(い)ふ事(こと)を仰有(おつしや)いますか。178大方(おほかた)貴方(あなた)は妾(わたし)の帰(かへ)つて来(く)るのがお気(き)に入(い)らぬのでせう。179二三(にさん)日前(にちぜん)から、180何(なん)だかソワソワして落着(おちつ)かぬ風(ふう)ぢやと思(おも)つてゐましたが、181到頭(たうとう)本音(ほんね)を吹(ふ)いたぢやありませぬか。182ツイ二三(にさん)日前(にちぜん)まで妾(わたし)が一息(ひといき)の間(ま)居(を)らなくても八釜(やかま)しく仰有(おつしや)つたぢやありませぬか。183貴方(あなた)は何(なに)か外(ほか)に増(ま)す花(はな)が出来(でき)たのでせう。184いやもの云(い)ふ花(はな)を手折(たお)つて来(き)たのでせう。185サア今日(けふ)は何処迄(どこまで)も調(しら)べ上(あ)げねばおきませぬぞ。186女房(にようばう)は手(て)の下(した)の罪人(ざいにん)だと思(おも)つて何時(いつ)も馬鹿(ばか)にしてゐなさるが、187もう私(わたし)も今日(けふ)は了簡(れうけん)しませぬ。188さあ白状(はくじやう)しなさい、189男(をとこ)らしう』
190と云(い)ひながら力限(ちからかぎ)り襟髪(えりがみ)をとつて前後(ぜんご)にシヤクリまはす。
191カールチン『アハヽヽヽ、192悋気(りんき)も宜(い)い加減(かげん)にしたが良(よ)からうぞ。193十九(つづ)や二十(はたち)の身(み)ぢやあるまいし、194四十(しじふ)女(をんな)の姥桜(うばざくら)の分際(ぶんざい)として、195その態(ざま)は何(なん)だ。196あまり見(み)つともよくないぢやないか』
197テーナ姫『雀(すずめ)百(ひやく)まで雄鳥(をんどり)を忘(わす)れぬと云(い)ふぢやありませぬか。198四十(しじふ)女(をんな)がいやなら、199元(もと)の十七(じふしち)にして返(かへ)しなさい。200お前(まへ)さまに嫁(かし)づいて年(とし)をとらされたのだから、201元(もと)のスタイルにさへして貰(もら)へば何時(いつ)にても帰(かへ)りますわ。202サア何処(どこ)で何奴(どいつ)と意茶(いちや)ついて来(き)た。203白状(はくじやう)しなさい。204実(じつ)の処(ところ)は今日(けふ)マンモスに招(まね)かれて行(い)つたのも、205お前(まへ)さまの秘密(ひみつ)を探(さぐ)る為(た)めだつた。206隠(かく)しても駄目(だめ)ですよ。207何(なに)もかも皆(みな)ユーフテスやセーリス姫(ひめ)のドスベタの取持(とりも)ちでやつて居(ゐ)る事(こと)はチヤンとマンモスに探偵(たんてい)がさしてあるのですよ。208あまり人(ひと)を盲目(めくら)にしなさるな。209サア之(これ)でもお前(まへ)さまは知(し)らぬと云(い)ひますか』
210カールチン『何(なん)と偉(えら)い権幕(けんまく)だな。211まるで狂人(きちがひ)の様(やう)ぢやないか』
212テーナ姫『良妻(りやうさい)賢母(けんぼ)も夫(をつと)の仕打(しうち)が悪(わる)いと、213こんなになるのですよ。214権幕(けんまく)が荒(あら)くなつたのも狂人(きちがひ)になつたのも、215何(なに)かの素因(そいん)がなくてはなりますまい。216あゝ残念(ざんねん)や、217くゝゝゝ口惜(くや)しやな。218こんな事(こと)と知(し)つたなら、219何故(なぜ)二十(にじふ)年(ねん)も昔(むかし)に命(いのち)までかけて恋慕(こひした)うて居(を)つたキユールさまに、220添(そ)はなかつたのだらう』
221と焼糞(やけくそ)になつて悋気(りんき)の角(つの)を生(は)やし、222襖(ふすま)や畳(たたみ)や其処辺(そこら)の道具(だうぐ)にあたり散(ち)らす。223忽(たちま)ち箪笥(たんす)は顛覆(てんぷく)する、224襖(ふすま)は倒(たふ)れる、225土瓶(どびん)は腹(はら)を破(やぶ)つて小便(せうべん)を垂(た)れる、226火鉢(ひばち)は宙(ちう)に舞(ま)ふ。227座敷(ざしき)一面(いちめん)灰煙(はひけむり)が濛々(もうもう)と包(つつ)む。228手(て)も足(あし)もつけられなくなつて了(しま)つた。
229マンモス『マンマンマン モスモスモスもすこし待(ま)つて下(くだ)さい。230奥(おく)さま、231さう腹(はら)を立(た)てちやお身体(からだ)に障(さは)ります。232まだ確(たしか)なことは見届(みとど)けてないのですから、233さう早(はや)くから予行(よかう)演習(えんしふ)をやられちや、234旦那(だんな)様(さま)は申(まを)すに及(およ)ばず、235マンモスまでが忽(たちま)ち迷惑(めいわく)を致(いた)します。236先(ま)づ先(ま)づお鎮(しづ)まりを願(ねが)ひます』
237 カールチンはマンモスをハツタと睨(ね)めつけ、238声(こゑ)を震(ふる)はせて、
239カールチン『こりや、240マヽヽヽマン、241左様(さやう)な不届(ふとど)きな事(こと)を申(まを)して右守(うもり)の館(やかた)を攪乱(かくらん)せむとするのか。242不忠(ふちう)不義(ふぎ)の痴(し)れ者(もの)奴(め)、243今日(けふ)限(かぎ)り暇(ひま)を遣(つか)はす。244トツトと出(で)て行(ゆ)かう』
245テーナ姫『これカールチンさま、246マンモスが居(ゐ)ると大変(たいへん)に御(ご)都合(つがふ)がお悪(わる)いでせう。247序(ついで)に妾(わたし)も此処(ここ)に居(を)りますと貴方(あなた)の御(ご)都合(つがふ)が嘸(さぞ)お悪(わる)う御座(ござ)いませう。248妾(わたし)はこれから御免(ごめん)を蒙(かうむ)ります。249何程(なにほど)貴方(あなた)に棄(す)てられても、250決(けつ)して難儀(なんぎ)は致(いた)しませぬ。251広(ひろ)い世界(せかい)に女(をんな)の廃(すた)り物(もの)はありませぬぞや。252女(をんな)やもめ[※初版・三版・愛世版では「男やもめ」だが、校定版では「女やもめ」に直している。文脈上は「女やもめ」が妥当。]に蛆(うぢ)が湧(わ)きませぬぞえ。253大(おほ)きに永々(ながなが)御(お)世話(せわ)になりました。254何卒(どうぞ)鬼薊(おにあざみ)の様(やう)なお方(かた)と末永(すえなが)うお添(そ)ひなさいませ。255これマンモス、256捨(す)てる神(かみ)があれば拾(ひろ)ふ神(かみ)もある。257妾(わたし)の財産(ざいさん)だつて、258云(い)ふと済(す)まぬが、259旦那(だんな)様(さま)より倍(ばい)以上(いじやう)もあるから心配(しんぱい)なさるな、260屹度(きつと)養(やしな)うて上(あ)げますぞや。261えーえー、262こんな所(ところ)にようも二十(にじふ)年(ねん)も居(を)つた事(こと)だ』
263と足(あし)で畳(たたみ)を蹴(け)り立(た)て髪(かみ)ふり乱(みだ)し、264恥(はぢ)も外聞(ぐわいぶん)も構(かま)はばこそ、265オンオンと狼泣(おほかみな)きしながら館(やかた)を後(あと)に何処(いづこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した。
266 後(あと)見送(みおく)つてカールチンは、267さも嬉(うれ)し気(げ)に肩(かた)を聳(そび)やかし、268頤(あご)をしやくり独言(ひとりごと)を云(い)つてゐる。
269カールチン『アハヽヽヽヽ、270都合(つがふ)の好(い)い時(とき)には何処(どこ)までも都合(つがふ)の好(よ)いものだな。271如何(どう)して追放(おつぽ)り出(だ)さうかと、272そればかり思案(しあん)してゐたのに、273自分(じぶん)の方(はう)から飛(と)び出(だ)すと云(い)ふのは、274何(な)したマア都合(つがふ)のいい事(こと)だらう。275あれ丈(だけ)乱暴(らんばう)して行(い)つた以上(いじやう)は、276よもやテーナも帰(かへ)つて来(く)る考(かんが)へぢやあるまいし、277俺(おれ)だつてあれだけ踏(ふ)みつけられた女(をんな)を、278又(また)ノメノメと家(うち)において置(お)く様(やう)な事(こと)では、279右守(うもり)の司(かみ)の威勢(ゐせい)も空(から)つきり駄目(だめ)になつて了(しま)ふ。280もう何人(なんぴと)が仲裁(ちうさい)に這入(はい)つても聞(き)く必要(ひつえう)はない。281エヘヽヽヽヽ福(ふく)の神(かみ)の御(ご)入来(じゆらい)、282貧乏神(びんばふがみ)の御(ご)退却(たいきやく)、283実(じつ)に恐(おそ)れ入谷(いりや)の鬼子(きし)母神(ぼじん)、284そこへヤスダラ姫(ひめ)の弁財天(べんざいてん)が御(ご)降臨(かうりん)遊(あそ)ばし、285暫(しばら)く天之(あめの)御柱(みはしら)、286国之(くにの)御柱(みはしら)を巡(めぐ)り合(あ)ふうち、287忽(たちま)ち布袋(ほてい)さまと早変(はやがは)り、288大黒天(だいこくてん)さまもお羨(うらや)み遊(あそ)ばすやうな円満(ゑんまん)な家庭(かてい)を作(つく)り、289仮令(たとへ)女房(にようばう)の素性(すじやう)が毘舎門天(びしやもんてん)でも美人(びじん)でさへあれば、290それで本能(ほんのう)が満足(まんぞく)するのだ。291それさへあるにヤスダラ姫(ひめ)は刹帝利(せつていり)の御(おん)種(たね)、292こんな結構(けつこう)な事(こと)が、293ようマア如何(どう)して勃発(ぼつぱつ)したのだらうかな。294南無(なむ)大自在天(だいじざいてん)大国彦(おほくにひこの)大神(おほかみ)、295謹(つつし)み敬(うやま)ひ感謝(かんしや)し奉(たてまつ)ります。296あゝあ今日(けふ)位(くらゐ)目(め)の上(うへ)の瘤(こぶ)がとれて愉快(ゆくわい)な事(こと)があらうか。297エヘヽヽヽヽもう誰(たれ)に遠慮(ゑんりよ)も要(い)らぬ、298天下(てんか)晴(は)れての夫婦(ふうふ)だ』
299と独言(ひとりごと)を独(ひと)り喜(よろこ)んでゐる。300そこへ隣(となり)の襖(ふすま)をガラリと引(ひ)き開(あ)け、301髪(かみ)ふり乱(みだ)し、302馮河(ひようが)暴虎(ばうこ)の勢(いきほひ)で現(あら)はれたのはテーナ姫(ひめ)であつた。303矢庭(やには)に首筋(くびすぢ)を剛力(がうりき)に任(まか)せてグツと抑(おさ)へ、
304テーナ姫『えーえ、305何(なに)もかも知(し)らぬかと思(おも)うて蛙(かへる)は口(くち)から白状(はくじやう)致(いた)したな。306もう此(この)上(うへ)はテーナ姫(ひめ)が死物狂(しにものぐるひ)、307生首(なまくび)引(ひ)き抜(ぬ)き地獄(ぢごく)の八丁目(はつちやうめ)まで担(かた)げて行(い)つて鬼(おに)に喰(く)はしてやるから左様(さう)思(おも)へ、308如何(どう)ぢや如何(どう)ぢや』
309と頭(あたま)がめしやげる程(ほど)畳(たたみ)に圧(おさ)へつける。310カールチンは苦(くる)しさに堪(た)へかね、311キヤツと悲鳴(ひめい)をあげる途端(とたん)に、
312テーナ姫『これこれ旦那(だんな)様(さま)』
313と揺(ゆ)り起(おこ)したのはテーナ姫(ひめ)であつた。
314テーナ姫『旦那(だんな)様(さま)、315えらう魘(うな)されてゐましたな。316しつかりなさいませ。317えらい冷汗(ひやあせ)が出(で)てゐますよ』
318カールチン『あゝあ、319夢(ゆめ)だつたか、320ま、321夢(ゆめ)でよかつた。322貴様(きさま)も余程(よほど)ひどい奴(やつ)だな』
323テーナ姫『何(なん)ですか、324妾(わたし)の夢(ゆめ)を御覧(ごらん)になりましたの。325へー、326何(なに)か妾(わたし)に怒(おこ)られるやうな事(こと)をなさつてゐられるので、327そんな夢(ゆめ)を御覧(ごらん)になつたのでせう』
328カールチン『何(なに)、329お前(まへ)の武者振(むしやぶり)を夢(ゆめ)に見(み)たのだ。330それはなア随分(ずゐぶん)、331白馬(はくば)の上(うへ)に跨(また)がつて軍隊(ぐんたい)を指揮(しき)する勢(いきほひ)は目覚(めざま)しいものだつたよ。332あれが俺(わし)の女房(にようばう)かと驚嘆(きやうたん)のあまり目(め)が覚(さ)めたのだよ、333アハヽヽヽ』
334テーナ姫『オホヽヽヽ』
335(大正一一・一一・一四 旧九・二六 北村隆光録)
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