霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 哀別(あいべつ)の歌(うた)〔一三三八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第1篇 鶴首専念 よみ(新仮名遣い):かくしゅせんねん
章:第2章 哀別の歌 よみ(新仮名遣い):あいべつのうた 通し章番号:1338
口述日:1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
人間は天の高天原であろうと地の高天原であろうと、霊域に昇りその内に入るにしたがい、智慧と証覚はいよいよ増して来て、かつて難解と思っていた問題もおいおいと感得することができるようになる。いずれも、大神より来る愛の力によるものである。
大神の御神格をその内分に受けることが多い人間を、天的人間、また内的天人、高処天人ともいうのである。天国にある天人がいるところの愛を天愛といい、霊国にある天人がいるところの愛を霊愛という。天国には大神は太陽と現れ給ひ、霊国には月と現れ給う。
初稚姫は天国天人の部類に属し、現の御魂にして太陽の熱すなわち愛を全部となし給う。言依別命は霊国にある天人にして、信の真におり、月の光をもってその全部となし給う。
ゆえに初稚姫はよく神を祭り、祝詞を奏上し、宣伝使や信者の模範となりたまう。言依別命は智的方面に住し、宇宙の真理を説き諭し、現幽神三界の真相を明らかにし、すべての原動力とならせ給う霊的天人である。
天国は大神の祭司的国土にして大神の御住所である。霊国は大神の王土にしてこれを王座または瑞の法座ともいう。天国と霊国の交通の機関は、大神の思し召しによって置かせられた媒介的天人団体の手によって行われている。
初稚姫はこの媒介的天人の手によってある時は天国と交通し、ある時は霊国と交通し、また天国霊国一度に交通し給うこともあった。初稚姫のような地上の天人であっても、肉体人の境遇に居る間は、どうしても媒介者を通じる必要があったのである。
初稚姫は、祠の森を立ち出でていよいよ遠征の途に就こうとした。珍彦夫婦をはじめとする幹部役員、信徒たちは親のごとく神のごとく慕っていた初稚姫と別れることを非常に嘆き悲しみ、今しばしの逗留を望んだが、神業のため初稚姫がさらに祠の森に留まる余地はなかった。
初稚姫は愛別離苦の情もあり、また自分が去った後に再び強烈な曲津神のために祠の森が惑わされることがあるまいかと案じていた。しかし斎苑の館からほど遠くないこの地点なら、まさかのときには宣伝使たちが応援に来てくれるだろうと思い直し自らの心を励まして、出立を決意した。
初稚姫は神殿の前にて、珍彦以下の神の僕たちが悪魔に狂惑されることがないようにと祈りの歌を歌い、また神業の使命を全うせんことを懇願して、送別の宴に臨んだ。珍彦は別れを惜しむ歌を歌い、以下祠の森の神司たちは、初稚姫と別れの歌を交わした。
別れを交換し哀別の涙を流しながら、初稚姫はスマートを従えて宣伝歌を歌いながら降って行った。至マートも祠の森の人々に別れを惜しむごとく、二声三声悲しげな声を残して、尾を振りながら初稚姫に従いゆく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-09-25 22:01:52 文字数:3634 OBC :rm5202
愛善世界社版:25頁 八幡書店版:第9輯 389頁 修補版: 校定版:26頁 普及版:14頁 初版: ページ備考:
001 人間(にんげん)は天(てん)の高天原(たかあまはら)と地(ち)の高天原(たかあまはら)とを問(と)はず、002その霊域(れいゐき)に昇(のぼ)るに際(さい)し、003愈(いよいよ)内(うち)に入(い)るに従(したが)ひ、004(即(すなは)ち愈(いよいよ)高(たか)きに昇(のぼ)るに従(したが)ひ)証覚(しようかく)と智慧(ちゑ)とは愈(いよいよ)増(ま)し来(きた)りて、005其(その)霊魂(れいこん)に光明(くわうみやう)を放(はな)ち、006真理(しんり)に住(ぢゆう)し、007嘗(かつ)て難解(なんかい)の問題(もんだい)と思惟(しゐ)した事(こと)も、008追々(おひおひ)と感得(かんとく)するに至(いた)り得(う)るものである。009何(いづ)れも皆(みな)斯(かく)の如(ごと)き情態(じやうたい)に進(すす)むは、010大神(おほかみ)より来(きた)る愛(あい)の力(ちから)に依(よ)るものである。011此(この)愛(あい)なるものは高天原(たかあまはら)の一切(いつさい)のものを容(い)るべき器(うつは)なるが故(ゆゑ)である。012大神(おほかみ)の御(ご)神格(しんかく)を其(その)内分(ないぶん)に受(う)くること多(おほ)き所(ところ)の人間(にんげん)を称(しよう)して天的(てんてき)天人(てんにん)といふ。013又(また)内的(ないてき)天人(てんにん)、014高処(かうしよ)天人(てんにん)とも別称(べつしよう)するのである。015高天原(たかあまはら)にも亦(また)内的(ないてき)、016外的(ぐわいてき)の区別(くべつ)があり、017内的(ないてき)の天界(てんかい)を高処(かうしよ)天界(てんかい)といひ、018外的(ぐわいてき)の天界(てんかい)を低処(ていしよ)天界(てんかい)と称(とな)へられてゐる。019而(しか)して天国(てんごく)に在(あ)る天人(てんにん)が居(ゐ)る所(ところ)の愛(あい)を天愛(てんあい)といひ、020在霊国(ざいれいごく)の天人(てんにん)が居(ゐ)る所(ところ)の愛(あい)を霊愛(れいあい)といふ。021而(しか)して天国(てんごく)には大神(おほかみ)は太陽(たいやう)と現(あら)はれ給(たま)ひ、022霊国(れいごく)に在(あ)つては月(つき)と現(あら)はれ給(たま)ふ。023初稚姫(はつわかひめ)の如(ごと)きは、024どちらかと云(い)へば天国(てんごく)天人(てんにん)の部類(ぶるい)に属(ぞく)し、025厳(いづ)の御霊(みたま)にして太陽(たいやう)の熱(ねつ)即(すなは)ち愛(あい)の全部(ぜんぶ)とも云(い)つても可(い)いのである。026又(また)言依別(ことよりわけの)命(みこと)は霊国(れいごく)に在(あ)る天人(てんにん)にして、027信(しん)の真(しん)に居(を)り、028月(つき)の光(ひかり)を以(もつ)て其(その)全部(ぜんぶ)となし給(たま)ふものである。029故(ゆゑ)に初稚姫(はつわかひめ)は能(よ)く神(かみ)を祭(まつ)り、030祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、031而(しか)して宣伝使(せんでんし)や信者(しんじや)の模範(もはん)となり給(たま)ひ、032言依別(ことよりわけの)命(みこと)は智的(ちてき)方面(はうめん)に主(しゆ)として住(ぢゆう)し給(たま)ふが故(ゆゑ)に、033宇宙(うちう)の真理(しんり)を説(と)き諭(さと)し、034現幽神(げんいうしん)三界(さんかい)の真相(しんさう)を明(あきら)かにし、035すべての原動力(げんどうりよく)とならせ給(たま)ふ霊的(れいてき)天人(てんにん)である。036木花姫(このはなひめの)命(みこと)の如(ごと)きは霊的(れいてき)天人(てんにん)の部(ぶ)に属(ぞく)し給(たま)ひ、037日(ひ)の出神(でのかみ)は天的(てんてき)天人(てんにん)の部類(ぶるい)に属(ぞく)し給(たま)ふ神人(しんじん)である。038されども何(いづ)れの神(かみ)も、039霊的(れいてき)天人(てんにん)にして天的(てんてき)天人(てんにん)たり、040天的(てんてき)天人(てんにん)にして霊的(れいてき)天人(てんにん)たることは、041其(その)平素(へいそ)の御(ご)活動(くわつどう)の状態(じやうたい)に依(よ)つて悟(さと)り得(う)るのである。
042 天国(てんごく)はすべて大神(おほかみ)の祭司(さいし)的(てき)国土(こくど)にして大神(おほかみ)の御(ご)住所(ぢゆうしよ)である。043霊国(れいごく)は大神(おほかみ)の王土(わうど)にして之(これ)を王座(わうざ)又(また)は瑞(みづ)の宝座(はうざ)とも云(い)ふ。044而(しか)して天国(てんごく)と霊国(れいごく)との交通(かうつう)の機関(きくわん)は、045何(いづ)れも媒介(ばいかい)的(てき)天人(てんにん)団体(だんたい)の手(て)によつて行(おこな)はれてゐる。046これも皆(みな)大神(おほかみ)の思召(おぼしめし)に依(よ)つておかせ給(たま)うた所(ところ)の交通(かうつう)機関(きくわん)である。047初稚姫(はつわかひめ)は又(また)此(この)媒介(ばいかい)的(てき)天人(てんにん)の手(て)によつて、048或(ある)時(とき)は天国(てんごく)と交通(かうつう)し、049或(ある)時(とき)は霊国(れいごく)と交通(かうつう)し、050又(また)は天国(てんごく)霊国(れいごく)一度(いちど)に交通(かうつう)し給(たま)ふ事(こと)があつた。051初稚姫(はつわかひめ)の如(ごと)き地上(ちじやう)の天人(てんにん)は、052媒介(ばいかい)的(てき)団体(だんたい)の手(て)に依(よ)らなくても、053直(すぐ)に交通(かうつう)し得(う)べきものと考(かんが)へらるるなれども、054一旦(いつたん)地上(ちじやう)に降(くだ)りて肉体人(にくたいじん)の境遇(きやうぐう)に居(を)らるる間(あひだ)は、055何(ど)うしても媒介者(ばいかいしや)を通(つう)ずる必要(ひつえう)があるのである。056如何(いかん)とならば、057内的(ないてき)外的(ぐわいてき)の両方面(りやうはうめん)の中(うち)に介在(かいざい)し給(たま)ふ天人(てんにん)なるが故(ゆゑ)である。
058 初稚姫(はつわかひめ)は祠(ほこら)の森(もり)を立出(たちい)でて、059愈(いよいよ)遠征(ゑんせい)の途(と)に就(つ)かむとした。060此(この)時(とき)珍彦(うづひこ)夫婦(ふうふ)を始(はじ)め楓(かへで)及(およ)び幹部(かんぶ)役員(やくゐん)を始(はじ)め、061正(ただ)しき信徒(しんと)は、062親(おや)の如(ごと)く神(かみ)の如(ごと)く慕(した)うてゐた此(この)神人(しんじん)に別(わか)るる事(こと)を非常(ひじやう)に歎(なげ)き悲(かな)しみ、063せめてモウ一(いち)日(にち)なりとも足(あし)を留(とど)められむことをと赤心(まごころ)より懇願(こんぐわん)して止(や)まなかつた。064されど初稚姫(はつわかひめ)は、065如何(いか)に愛(あい)らしき信仰(しんかう)に充(み)てる人々(ひとびと)が熱涙(ねつるゐ)を流(なが)しての哀願(あいぐわん)も、066之(これ)を受入(うけい)るる余地(よち)がなかつた。067何故(なにゆゑ)ならば、068自分(じぶん)は大神(おほかみ)より任(まか)されたる大神務(だいしんむ)を果(はた)さねばならぬ身(み)の上(うへ)である。069そして一(いち)日(にち)も早(はや)く神業(しんげふ)を完成(くわんせい)し天下(てんか)の害(がい)を除(のぞ)き大神(おほかみ)の前(まへ)に復命(ふくめい)せなくてはならぬからであつた。070初稚姫(はつわかひめ)も哀別(あいべつ)離苦(りく)の情(じやう)に絆(ほだ)されて、071其(その)内心(ないしん)は、072此処(ここ)を立去(たちさ)る事(こと)を非常(ひじやう)に惜(を)しんだのである。073万一(まんいち)吾(われ)此処(ここ)を去(さ)らば、074未(いま)だ徳(とく)全(まつた)からず智慧(ちゑ)証覚(しようかく)の薄(うす)き珍彦(うづひこ)を始(はじ)め其(その)他(た)の役員(やくゐん)信者(しんじや)は、075又(また)もや強烈(きやうれつ)なる曲神(まがかみ)の為(ため)に誑惑(きやうわく)され、076折角(せつかく)の信仰(しんかう)を失墜(しつつゐ)せざらむやとの案(あん)じが残(のこ)つてゐたからである。077併(しか)し乍(なが)ら斎苑(いそ)の館(やかた)に余(あま)り遠(とほ)からざる地点(ちてん)なれば、078正勝(まさか)の時(とき)には綺羅星(きらぼし)の如(ごと)く立並(たちなら)ぶ宣伝使(せんでんし)が、079何(なん)とか事務(じむ)を繰合(くりあは)して応援(おうゑん)に来(き)て呉(く)れるであらう。080さうすれば、081自分(じぶん)はここを去(さ)つても、082さまで憂(うれ)ふべき失態(しつたい)は来(きた)さないであらうと一縷(いちる)の望(のぞ)みを残(のこ)して、083いよいよ心(こころ)を励(はげ)まし、084人情(にんじやう)の外(そと)に立(た)つて、085神(かみ)の為(ため)に活動(くわつどう)せむことを決意(けつい)した。086初稚姫(はつわかひめ)は神殿(しんでん)に向(むか)つて訣別(けつべつ)の辞(じ)を述(の)べられた。087其(その)詞(ことば)、
088初稚姫『高天原(たかあまはら)の霊国(れいごく)を
089地上(ちじやう)に移(うつ)しまつりたる
090祠(ほこら)の森(もり)の聖場(せいぢやう)を
091珍(うづ)の宮居(みやゐ)と定(さだ)めまし
092下(した)つ巌根(いはね)に宮柱(みやばしら)
093太(ふと)しく立(た)てて永久(とこしへ)に
094しづまりいます三五(あななひ)の
095皇(すめ)大神(おほかみ)を始(はじ)めとし
096左右(さいう)の脇(わき)にあれまする
097百(もも)の神(かみ)等(たち)御霊(みたま)等(たち)
098珍(うづ)の御前(みまへ)に謹(つつし)みて
099初稚姫(はつわかひめ)が真心(まごころ)を
100披陳(ひちん)し仕(つか)へ奉(たてまつ)る
101三千(さんぜん)世界(せかい)の梅(うめ)の花(はな)
102一度(いちど)に開(ひら)く御(ご)神業(しんげふ)
103精霊界(せいれいかい)や地獄界(ぢごくかい)
104其(その)外(ほか)怪(け)しき邪神界(じやしんかい)
105暗(やみ)に彷徨(さまよ)ふ霊(みたま)等(たち)
106残(のこ)る隈(くま)なく大神(おほかみ)の
107至善(しぜん)至愛(しあい)の高徳(かうとく)に
108なびかせまつり愚(おろ)かなる
109おのもおのもの霊(みたま)をば
110研(みが)き清(きよ)めて心身(しんしん)の
111光(ひかり)を与(あた)へ天界(てんかい)の
112神(かみ)の光(ひかり)に向(むか)はしめ
113宇宙(うちう)一切(いつさい)万有(ばんいう)を
114高天原(たかあまはら)の楽園(らくゑん)に
115救(すく)はむ為(た)めの鹿島立(かしまだ)ち
116妾(わらは)は若(わか)き身(み)を以(もつ)て
117魔神(まがみ)のたけぶ荒野原(あらのはら)
118分(わ)けゆき進(すす)む身(み)にしあれば
119醜(しこ)の曲津(まがつ)は隙間(すきま)なく
120妾(わらは)を亡(ほろ)ぼしなやめむと
121隙(すき)を窺(うかが)ひ待(ま)つならむ
122ああ大神(おほかみ)よ大神(おほかみ)よ
123如何(いか)なる曲(まが)の襲(おそ)ふとも
124醜(しこ)の魔風(まかぜ)のすさぶとも
125聖(きよ)き尊(たふと)き御光(みひかり)と
126愛(あい)の熱(ねつ)とに吾(わが)身魂(みたま)
127守(まも)らせ給(たま)へ皇神(すめかみ)の
128依(よ)さし給(たま)ひし神業(しんげふ)を
129いと平(たひら)けく安(やす)らけく
130事(こと)終(を)へしめて大前(おほまへ)に
131一日(ひとひ)も早(はや)く復命(かへりごと)
132申(まを)させ給(たま)へ惟神(かむながら)
133御前(みまへ)に慎(つつし)み願(ね)ぎまつる
134旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
135月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
136天変(てんべん)地妖(ちえう)は襲(おそ)ふとも
137神(かみ)に任(まか)せし此(この)身体(からだ)
138生死(せいし)の外(ほか)に超越(てうゑつ)し
139愛(あい)の善徳(ぜんとく)経(たて)となし
140信(しん)の真徳(しんとく)緯(ぬき)として
141撓(たゆ)まず屈(くつ)せず何処(どこ)までも
142吾(わが)天職(てんしよく)を守(まも)るべく
143誓(ちか)ひまつりし上(うへ)からは
144仮令(たとへ)吾(わが)身(み)は亡(ほろ)ぶとも
145神(かみ)に受(う)けたる霊身(れいしん)は
146千代(ちよ)に八千代(やちよ)に永久(とこしへ)に
147朽(く)ちず亡(ほろ)びず活動(くわつどう)し
148幾万(いくまん)年(ねん)の後(のち)までも
149顕幽(けんいう)二界(にかい)に出没(しゆつぼつ)し
150此(この)目的(もくてき)を達(たつ)せずば
151いかでか止(や)まむ大和魂(やまとだま)
152吾(わが)身(み)の内(うち)に天国(てんごく)を
153開(ひら)きて進(すす)む勇(いさ)ましさ
154忽(たちま)ち地獄(ぢごく)は天国(てんごく)と
155神(かみ)のまにまに立直(たてなほ)し
156吾(わが)霊魂(れいこん)の天分(てんぶん)を
157完全(うまら)に委曲(つばら)に尽(つく)すべし
158守(まも)らせ給(たま)へ惟神(かむながら)
159皇(すめ)大神(おほかみ)の大前(おほまへ)に
160畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる』
161と念(ねん)じ終(をは)り、162且(かつ)珍彦(うづひこ)以下(いか)の神(かみ)の下僕(げぼく)が悪魔(あくま)に誑惑(きやうわく)さるることなく、163惟神(かむながら)の大道(だいだう)を遵奉(じゆんぽう)し、164其(その)使命(しめい)を全(まつた)うせむことを懇願(こんぐわん)して大前(おほまへ)を退(しりぞ)き、165珍彦(うづひこ)の館(やかた)に入(い)りて送別(そうべつ)の宴(えん)に臨(のぞ)み、166いよいよ此処(ここ)を離(はな)るることとなつた。
167 珍彦(うづひこ)は別(わか)れに臨(のぞ)んで歌(うた)をよむ。
168珍彦『久方(ひさかた)の天津空(あまつそら)より降(くだ)りましし
169君(きみ)に別(わか)るる今日(けふ)の悲(かな)しさ。
170願(ねが)はくばせめて一日(ひとひ)を此(この)森(もり)に
171過(すご)させ給(たま)へ厳(いづ)の生宮(いきみや)』
172初稚姫(はつわかひめ)『珍彦(うづひこ)の神(かみ)の御言(みこと)を如何(いか)にして
173背(そむ)くべきかは、ああされどされど。
174惟神(かむながら)神(かみ)の言葉(ことば)は背(そむ)かれず
175惜(を)しき別(わか)れを告(つ)ぐる苦(くる)しさ。
176身(み)は遠(とほ)くハルナの都(みやこ)に進(すす)むとも
177吾(わが)魂(たましひ)は汝(なれ)に添(そ)ひなむ』
178珍彦(うづひこ)『有難(ありがた)し其(その)御言葉(みことば)を力(ちから)とし
179柱(はしら)となして神(かみ)に仕(つか)へむ。
180野(の)も山(やま)も荒(あ)れに荒(あ)れたる醜草(しこぐさ)を
181別(わ)けて進(すす)ます君(きみ)ぞ尊(たふと)き。
182何事(なにごと)も幸(さち)あれかしと大前(おほまへ)に
183朝(あさ)な夕(ゆふ)なに願(ねが)ひまつらむ』
184静子(しづこ)『貴(うづ)の君(きみ)これの館(やかた)へ出(い)でまして
185聖(きよ)き宝(たから)を与(あた)へ給(たま)ひぬ。
186目(め)に見(み)えぬ百(もも)の宝(たから)を与(あた)へられぬ
187研(みが)きすまして神(かみ)に捧(ささ)げむ』
188初稚姫(はつわかひめ)『目(め)に見(み)えぬ宝(たから)は朽(く)ちず虫(むし)喰(く)はず
189いや永久(とこしへ)に汝(な)が物(もの)となるも。
190信仰(しんかう)の徳(とく)充(み)ちぬれば曲津見(まがつみ)も
191如何(いか)なる仇(あだ)も襲(おそ)ふべしやは』
192静子(しづこ)『妖幻坊(えうげんばう)高姫(たかひめ)の如(ごと)き曲津見(まがつみ)が
193来(きた)りし時(とき)は如何(いか)になさむか。
194これのみが心(こころ)にかかり日(ひ)も夜(よる)も
195眠(ねむ)られぬ身(み)を救(すく)はれにけり。
196さりながら又(また)思(おも)ふかな曲津見(まがつみ)の
197襲(おそ)ひ来(きた)らむ例(ため)しなきやと』
198初稚姫(はつわかひめ)『珍彦(うづひこ)よ静子(しづこ)の君(きみ)よ楓姫(かへでひめ)よ
199心(こころ)安(やす)かれ珍(うづ)の聖地(せいち)ぞ。
200汝(なれ)が身(み)に高天原(たかあまはら)の開(ひら)けなば
201大蛇(をろち)も鬼(おに)も襲(おそ)ひ来(く)べきや。
202恐(おそ)るべき吾(わが)身(み)の仇(あだ)は心(こころ)より
203神(かみ)に背(そむ)きし罪(つみ)とこそ知(し)れ』
204珍彦(うづひこ)『有難(ありがた)し聖(きよ)き教(をしへ)を蒙(かうむ)りて
205甦(よみがへ)りたる心地(ここち)しにけり』
206楓姫(かへでひめ)『初稚姫(はつわかひめ)神(かみ)の命(みこと)の帰(かへ)りまさば
207誰(たれ)をたよりに日(ひ)をや過(すご)さむ。
208この君(きみ)を命(いのち)の親(おや)と崇(あが)めつつ
209仕(つか)へ来(きた)りしわれぞ悲(かな)しき。
210別(わか)れても又(また)会(あ)ふ事(こと)のあるものと
211神(かみ)の教(をしへ)をたよりに待(ま)つも』
212初稚姫(はつわかひめ)『楓姫(かへでひめ)名残(なごり)は尽(つ)きず吾(わが)涙(なみだ)
213神(かみ)の光(ひかり)に干(ほ)して行(ゆ)くべし』
214楓姫(かへでひめ)『今(いま)流(なが)す涙(なみだ)の雨(あめ)もやがて又(また)
215晴(は)れて嬉(うれ)しき神国(かみくに)の園(その)』
216イル『いかにして此(この)出(い)でましを止(とど)めむと
217祈(いの)りし甲斐(かひ)なく別(わか)れむとぞする』
218イク『どうしても御供(みとも)に仕(つか)へまつらむと
219朝(あさ)な夕(ゆふ)なに願(ねが)ひてしかも』
220サール『何処(どこ)までも君(きみ)の御後(みあと)に従(したが)ひて
221吾(われ)は行(ゆ)くなり神(かみ)のまにまに』
222初稚姫(はつわかひめ)『ますらをの心(こころ)は嬉(うれ)しさりながら
223神(かみ)の仰(おほ)せに背(そむ)くよしなし』
224サール『さりとても是(これ)が此(この)儘(まま)何(なん)として
225別(わか)れらりようか胸(むね)の苦(くる)しさ』
226ハル『はるばると荒野(あらの)を越(こ)えて月(つき)の国(くに)に
227出(い)でます君(きみ)ぞ雄々(をを)しかりけり。
228われも亦(また)御供(みとも)に仕(つか)へまつらむと
229願(ねが)ひしことも夢(ゆめ)となりぬる』
230テル『如何(いか)にして君(きみ)が首途(かどで)をとどめむと
231思(おも)ひし甲斐(かひ)も泣(な)く泣(な)くわかるる』
232初稚姫(はつわかひめ)『いざさらば珍彦(うづひこ)其(その)他(た)の司(つかさ)等(たち)
233神(かみ)の守(まも)りに安(やす)くましませ』
234珍彦(うづひこ)『君(きみ)行(ゆ)かば祠(ほこら)の森(もり)は凩(こがらし)に
235木(こ)の葉(は)の散(ち)りし如(ごと)くなるらむ』
236初稚姫(はつわかひめ)『木(こ)の葉(は)散(ち)るも春(はる)の陽気(やうき)の生(うま)れ来(き)て
237恵(めぐみ)の花(はな)の匂(にほ)ふ聖場(せいぢやう)。
238いつまでも此処(ここ)にあるとも如何(いか)にせむ
239神(かみ)の心(こころ)に叶(かな)はざりせば。
240皇神(すめかみ)の大御心(おほみこころ)に逸早(いちはや)く
241ハルナに行(ゆ)けと宣(の)らせ給(たま)へば』
242 斯(か)く互(たがひ)に訣別(けつべつ)の歌(うた)を交換(かうくわん)し、243哀別(あいべつ)の涙(なみだ)を流(なが)しながら、244愛犬(あいけん)スマートを従(したが)へ、245宣伝歌(せんでんか)を唄(うた)ひつつ、246初稚姫(はつわかひめ)は崎嶇(きく)たる山路(やまぢ)を、247宣伝使(せんでんし)服(ふく)に身(み)をかため、248杖(つゑ)を力(ちから)に降(くだ)り行(ゆ)く。249スマートも祠(ほこら)の森(もり)の人々(ひとびと)に別(わか)れを惜(を)しむものの如(ごと)く、250二声(ふたこゑ)三声(みこゑ)悲(かな)しげな声(こゑ)を残(のこ)し、251初稚姫(はつわかひめ)の後(あと)になり先(さき)になり、252又(また)もや嬉(うれ)しげに頭(かしら)をふり、253尾(を)を掉(ふ)り従(したが)ひ行(ゆ)く。
254(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 松村真澄録)
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