霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 巡拝(じゆんぱい)〔一三四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第2篇 文明盲者 よみ(新仮名遣い):ぶんめいもうじゃ
章:第8章 巡拝 よみ(新仮名遣い):じゅんぱい 通し章番号:1344
口述日:1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
イクとサールは大広前の神殿を拝礼し終わり、蠑螈別、魔我彦、お寅などの旧跡を巡っては歌を四で回った。そして木花姫神、金勝要神、玉依姫を祀った祠を廻り、それぞれ述懐の歌を歌った。
日の大神、月の大神、そして最上段の国常立尊の祠の前に参拝した。二人は拝礼を終ると、互いにからかい合いながら、枝ぶりのよい松の七八本かたまった下に、あまり広からず狭からざる瀟洒な館が立っている。それが松姫の館であった。
二人は館の前にやってくると、さすがに恥ずかしくなり、互いに先に初稚姫のところへ行けと押し合いを始めた。スマートは二人を認めると、喜んで走ってきて二人にじゃれついた。
イクとサールは軽口を叩き合いながら思い切って門口に立ち寄り、恐そうに中を眺めた。初稚姫と松姫は、何事かにこにこと話の最中である。サールはガラリと戸を開け、松姫に挨拶した。松姫は二人を仲に招いた。二人は、初稚姫にびくびくしながら中に入る。
初稚姫は二人を見ると、言葉静かに話しかけた。二人は頭をかき、もじもじとして土間にしゃがんでしまった。初稚姫に促されて、イクは思い切って、自分たちはどうしても初稚姫のお供をしたいと申し出た。
初稚姫は山口の森で起こったことを二人に問いかけ、二人が水晶玉だと思っていたのは、夜光の玉といって筑紫の島から現れたダイヤモンドだと明かした。そして、いったん妖魅の手に入ったからには、玉は汚れているから清めなければならないと忠告した。
そして、イクが玉に執着していることを看破して諭し、この玉は自分が日の出神に祈願して、二人の熱心に応じて神様から授けられたことを明かした。二人の身魂が一つになった証拠であり、一人が独占すべきないことを二人に諭した。
この宝は世界救世のための御神宝でもあり、人間が私すべきものでないこと、大切に保存して、祠の森に帰って玉を保持すべきことを説いた。しかしサールは、それなればこの神宝を返上するから、どうかお供させてくれ、と熱誠を面に表し涙を流して頼み込んだ。
初稚姫は、単独での神業遂行が自分への神命であることを歌に詠んで二人に諭した。松姫は互いの仲裁をなし、二人に初稚姫の言葉を聞くように促し、時間をおいて省みるように諭した。二人は自分たちの思いを歌に伝え、しばらく時間をおいて身の振り方を考えることにした。
イクとサールはどうしても初稚姫がお供を許してくれないので、進退窮まり涙に暮れていた。初稚姫は松姫に別れを告げ、いちはやく小北山を発って征途に上った。
イクとサールは初稚姫が先に発ったことを知らずに一夜を明かした。そして文助が危篤と聞いて、夜中ごろに館を飛び出し、河鹿川に降って水垢離を取り、その回復を祈った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-11-18 20:32:57 文字数:5229 OBC :rm5208
愛善世界社版:107頁 八幡書店版:第9輯 418頁 修補版: 校定版:112頁 普及版:48頁 初版: ページ備考:
001 イク、002サールの二人(ふたり)は、003大広前(おほひろまへ)の神殿(しんでん)を拝礼(はいれい)しをはり、004蠑螈別(いもりわけ)が籠(こも)りしと云(い)ふ館(やかた)の前(まへ)に立(た)つて、
005サール『蠑螈別(いもりわけ)お寅(とら)婆(ば)さまの古戦場(こせんぢやう)
006見(み)るにつけても可笑(をか)しくなりぬ』
007イク『この館(やかた)土瓶(どびん)が踊(をど)り徳利(とくり)舞(ま)ひ
008盃(さかづき)われし古戦場(こせんぢやう)なり』
009サール『魔我彦(まがひこ)やお寅(とら)婆(ば)さまが改心(かいしん)を
010なしたる場所(ばしよ)も此(この)館(やかた)なり』
011イク『酔(よ)ひドレの熊公(くまこう)さまが飛込(とびこ)んで
012脅(おど)し文句(もんく)で金(かね)を千(せん)両(りやう)(占領(せんりやう))。
013一段(いちだん)と高(たか)く築(きづ)ける段梯子(だんばしご)
014登(のぼ)りて行(ゆ)くも姫(ひめ)を訪(たづ)ねて』
015 二人(ふたり)は木花姫(このはなひめ)を祀(まつ)りたる小(ちひ)さき祠(ほこら)に参拝(さんぱい)し拝礼(はいれい)を了(をは)り、
016イク『木花姫(このはなひめ)神(かみ)の恵(めぐみ)は目(ま)のあたり
017開(ひら)き初(そ)めにき木々(きぎ)の梢(こずゑ)に』
018サール『木(こ)の花(はな)の姫(ひめ)の命(みこと)の御(おん)前(まへ)に
019その鼻高(はなたか)をさらすイクなり。
020天教(てんけう)の山(やま)より下(くだ)りし皇神(すめかみ)は
021わが馬鹿面(ばかづら)を笑(わら)ひますらむ。
022イクの奴(やつ)狸(たぬき)の曲(まが)に魅(つま)まれて
023恥(はぢ)も知(し)らずに大前(おほまへ)に来(き)つ』
024 斯(か)く歌(うた)ひ、025今度(こんど)は金勝要(きんかつかねの)神(かみ)の祠(ほこら)の前(まへ)に進(すす)み拝礼(はいれい)を了(をは)り、
026イク『縁(えん)結(むす)ぶ畏(かしこ)き神(かみ)と聞(き)きしより
027ゐたたまらずして詣(まう)で来(き)にけり』
028サール『其(その)面(つら)で何程(なにほど)神(かみ)を拝(をが)むとも
029妻(つま)となるべき人(ひと)のあるべき』
030イク『吾輩(わがはい)の顔(かほ)を眺(なが)めて笑(わら)ふより
031一寸(ちよつと)見(み)て来(こ)い水鏡(みづかがみ)をば』
032サール『顔容(かほかたち)姿(すがた)で妻(つま)が出来(でき)ようか
033魂(たま)麗(うるは)しき人(ひと)でなくては。
034此(この)様(やう)に見(み)えても俺(おれ)はをちこちの
035女(をんな)にチヤホヤされる曲者(くせもの)』
036イク『其(その)様(やう)に慢心(まんしん)ばかりするでないよ
037乙女(をとめ)に馬鹿(ばか)にされた身(み)ながら。
038要(かね)の神(かみ)貴(うづ)の御前(みまへ)にこんな事(こと)
039囀(さへづ)る奴(やつ)は鰥鳥(やもめどり)かも。
040さア行(ゆ)かう大神(おほかみ)様(さま)に恥(はづ)かしい
041女(をんな)なんぞと言(い)ふ面(つら)でなし
042 アハハハハハ』
043と笑(わら)ひながら玉依姫(たまよりひめ)(竜宮(りうぐう)の乙女(おとひめ))様(さま)を祭(まつ)つたる祠(ほこら)の前(まへ)に進(すす)みよつた。
044イク『いろいろの宝(たから)をためて海(うみ)の底(そこ)に
045隠(かく)し給(たま)ひし欲(よく)な神(かみ)様(さま)』
046サール『馬鹿(ばか)言(い)ふな乙姫(おとひめ)様(さま)は今(いま)は早(はや)
047物質欲(ぶつしつよく)に離(はな)れた神(かみ)よ』
048イク『これはしたり失礼(しつれい)な事(こと)を言(い)ひました
049聞直(ききなほ)しませ乙姫(おとひめ)の神(かみ)』
050サール『神(かみ)様(さま)は宝(たから)を以(もつ)て人々(ひとびと)に
051与(あた)へ給(たま)へどお前(まへ)には列外(れつぐわい)』
052イク『列外(れつぐわい)か又(また)案外(あんぐわい)か知(し)らねども
053宝(たから)なくては世(よ)に立(た)つを得(え)ず』
054サール『物質(ぶつしつ)の宝(たから)求(もと)めて何(なん)になる
055朽(く)ちぬ宝(たから)を霊(みたま)につめよ』
056イク『馬鹿(ばか)云(い)ふな水晶玉(すいしやうだま)も物質(ぶつしつ)よ
057されど暗夜(やみよ)を照(て)らしましける。
058金(かね)なくて何(なん)のおのれが人間(にんげん)かと
059世(よ)の人々(ひとびと)は相手(あひて)にもせず。
060それ故(ゆゑ)に俺(おれ)は金銀(きんぎん)財宝(ざいほう)を
061むげには捨(す)てぬ冥加者(みやうがもの)ぞや』
062サール『イクの奴(やつ)イク地(ぢ)の足(た)らぬ証拠(しようこ)には
063宝々(たからたから)と憧(あこが)れゐるも。
064神(かみ)様(さま)は何程(なにほど)宝(たから)あるとても
065貧乏面(びんぼふづら)にくれるものかは。
066サア行(ゆ)かう目(め)の正(しやう)月(ぐわつ)をするよりも
067宝(たから)忘(わす)れて宝(たから)拾(ひろ)ひに。
068俺(おれ)の云(い)ふ宝(たから)といふは金銀(きんぎん)や
069水晶(すいしやう)でない教(をしへ)の宝(たから)よ』
070 かく歌(うた)ひ終(をは)つて、071今度(こんど)は中段(ちうだん)の宮(みや)の前(まへ)に進(すす)んだ。072此処(ここ)には日(ひ)の大神(おほかみ)の祠(ほこら)が建(た)つてゐる。
073イク『伊弉諾(いざなぎ)の皇(すめ)大神(おほかみ)を斎(まつ)りたる
074この御舎(みあらか)は殊(こと)に麗(うるは)し』
075サール『其(その)筈(はず)だつくしの日向(ひむか)の立花(たちばな)で
076禊(みそ)ぎ給(たま)ひし神(かみ)に坐(ま)しませば』
077イク『許々多久(ここたく)の罪(つみ)や汚(けが)れに溺(おぼ)れたる
078霊(みたま)を洗(あら)へ神(かみ)の御前(みまへ)に』
079サール『曲神(まがかみ)に騙(たばか)られたる愚(おろか)さを
080許(ゆる)し給(たま)へと詫(わ)びよイク公(こう)』
081イク『かもてなや頭(あたま)打(う)たりよが打(う)たりよまいが
082お前(まへ)の知(し)つた事(こと)でなければ』
083サール『道伴(みちづ)れの一人(ひとり)が狸(たぬき)に叩(たた)かれて
084吠面(ほえづら)かわくを見(み)るつらさかな。
085天教(てんけう)の山(やま)に天降(あも)りし日(ひ)の神(かみ)の
086宮(みや)は殊更(ことさら)高(たか)くおはせり』
087 又(また)此処(ここ)を去(さ)つて、088今度(こんど)は月(つき)の大神(おほかみ)を斎(まつ)りたる祠(ほこら)の前(まへ)に進(すす)んだ。
089イク『素盞嗚(すさのを)の神(かみ)の御霊(みたま)を祀(まつ)りたる
090社(やしろ)の前(まへ)に月(つき)の大神(おほかみ)』
091サール『古狸(ふるだぬき)梟(ふくろ)の奴(やつ)に馬鹿(ばか)にされ
092乙女(をとめ)にまでも笑(わら)はれにけり。
093さながらに愛想(あいさう)も月(つき)の大神(おほかみ)が
094貴様(きさま)の面(つら)を笑(わら)ひ給(たま)はむ』
095イク『馬鹿(ばか)云(い)ふな善言(ぜんげん)美詞(びし)の神(かみ)様(さま)だ
096必(かなら)ずよきに見直(みなほ)しまさむを』
097サール『此(この)男(をとこ)世界(せかい)に稀(まれ)な馬鹿(ばか)なれば
098守(まも)らせ給(たま)へ月(つき)の大神(おほかみ)』
099イク『サールこそ馬鹿(ばか)の証拠(しようこ)にや水晶(すいしやう)の
100玉(たま)をばイクにせしめられける』
101サール『イクの奴(やつ)イク地(ぢ)がないと知(し)つた故(ゆゑ)
102玉(たま)を持(も)たせておいたばかりよ』
103イク『サア行(ゆ)かう月(つき)の光(ひかり)に照(て)らされて
104何(なん)とはなしに恥(はづ)かしき宵(よひ)』
105 今度(こんど)は最上段(さいじやうだん)の国常立(くにとこたちの)尊(みこと)の祠(ほこら)の前(まへ)に参拝(さんぱい)した。
106イク『掛巻(かけまく)も畏(かしこ)き神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
107詣(まう)で来(きた)りし吾(われ)は罪人(つみびと)。
108さりながら悔(く)い改(あらた)めて大神(おほかみ)の
109道(みち)に仕(つか)へしイク身魂(みたま)なり』
110サール『われこそは皇(すめ)大神(おほかみ)の御恵(みめぐみ)に
111与(あづか)りました未(ひつじ)サールの神(かみ)』
112イク『罰当(ばちあた)りサールのやうな面(つら)をして
113坤(ひつじさる)とはよくもいはれた。
114お前(まへ)こそ世人(よびと)がサールの人真似(ひとまね)と
115嘲(あざけ)るとても仕方(しかた)あるまい』
116サール『三五(あななひ)の道(みち)にサール者(もの)ありと云(い)ふ
117此(この)神司(かむづかさ)知(し)らぬ馬鹿者(ばかもの)』
118イク『国所(くにどころ)立(たち)のき彦(ひこ)の狼(おほかみ)と
119人(ひと)に言(い)はれた馬鹿者(ばかもの)は誰(たれ)』
120 斯(か)く二人(ふたり)は拝礼(はいれい)を終(をは)り、121次(つ)いで互(たがひ)に揶揄(からか)ひ合(あ)ひながら、122枝振(えだぶ)りのよい松(まつ)の七八本(しちはちほん)かたまつた下(した)に、123余(あま)り広(ひろ)からず狭(せま)からざる瀟洒(せうしや)たる一棟(ひとむね)が建(た)つてゐる。124それが所謂(いはゆる)松姫(まつひめ)の館(やかた)であつた。
125イク『常磐木(ときはぎ)の松(まつ)の木蔭(こかげ)に建(た)てられし
126松姫館(まつひめやかた)をなつかしみ思(おも)ふ』
127サール『吾(わが)慕(した)ふ初稚姫(はつわかひめ)のいます上(うへ)は
128一(ひと)しほ恋(こひ)しき館(やかた)なりけり』
129イク『小北山(こぎたやま)要(かなめ)となりし此(この)館(たち)は
130扇(あふぎ)の如(ごと)くに建(た)てられにける』
131サール『常磐木(ときはぎ)の松(まつ)の緑(みどり)は青々(あをあを)と
132とめどもなしに伸(の)び立(た)てるかも』
133イク『初稚姫(はつわかひめ)神(かみ)の司(つかさ)がますと聞(き)けば
134胸(むね)轟(とどろ)きて進(すす)みかねつつ』
135サール『臆病風(おくびやうかぜ)又(また)吹(ふ)き荒(すさ)みイクの奴(やつ)
136イク地(ぢ)のなきを暴露(ばくろ)せりけり』
137イク『そんな事(こと)言(い)ふなら俺(おれ)が先(さき)に立(た)ち
138一(ひと)つ肝(きも)をば見(み)せてやらうかい』
139サール『面白(おもしろ)い初稚姫(はつわかひめ)の前(まへ)に出(で)て
140叱(しか)り飛(と)ばされベソをかくだろ』
141イク『水晶(すいしやう)の玉(たま)を抱(いだ)きしわれなれば
142初稚姫(はつわかひめ)も褒(ほ)め給(たま)ふべし。
143その時(とき)は指(ゆび)をくはへてサールの奴(やつ)は
144恨(うら)めしさうに見(み)てゐるがよい』
145サール『姫(ひめ)様(さま)に会(あ)うたら皆(みんな)素破(すつぱ)ぬき
146一伍(いちぶ)一什(しじふ)を申(まを)し上(あ)ぐべし。
147その時(とき)は赤(あか)い顔(かほ)をばせぬがよい
148梟鳥(ふくろどり)にもなぶられる奴(やつ)よ』
149イク『イクらでも人(ひと)の悪口(わるくち)言(い)ふがよい
150首吊(くびつ)りそこねし死損(しにぞこ)ね奴(め)が』
151サール『貴様(きさま)とて矢張(やはり)首吊(くびつ)り仲間(なかま)ぞや
152何(ど)うして姫(ひめ)に顔(かほ)があはせよう』
153 二人(ふたり)は流石(さすが)に恥(はづ)かしさに堪(た)へかね、154松姫(まつひめ)の館(やかた)の四五間(しごけん)ばかり側(そば)までやつて来(き)て、155互(たがひ)に「お前(まへ)から先(さき)へ行(ゆ)け」「イヤ貴様(きさま)から先(さき)へ」と、156押合(おしあ)ひをやつてゐる。157スマートは二人(ふたり)の影(かげ)を見(み)るより、158喜(よろこ)んで走(はし)り来(きた)り、159胸(むね)に飛(と)びついたり、160背中(せなか)に抱(だ)きついたり、161頬(ほほ)をなめたり、162勇(いさ)み出(だ)した。
163イク『ヤア、164スーちやんか、165先(ま)づ先(ま)づ御(ご)無事(ぶじ)でお目出度(めでた)う。166漸(やうや)く此処(ここ)までお後(あと)を慕(した)つて参(まゐ)りました。167何卒(どうぞ)姫(ひめ)様(さま)に宜(よろ)しうお取(と)りなしを願(ねが)ひますよ』
168サール『ハハハハハ馬鹿(ばか)だなア。169此(この)頃(ごろ)の衆議院(しうぎゐん)の候補者(こうほしや)のやうに、170犬(いぬ)にまで追従(つゐしよう)してゐやがる、171犬(いぬ)がもの言(い)ふかい』
172イク『主人(しゆじん)に威勢(ゐせい)があると、173何(なん)だか犬(いぬ)に迄(まで)頭(あたま)が下(さ)がるやうな気(き)になるものだ。174そこが人情(にんじやう)の然(しか)らしむる所(ところ)だよ。175娘(むすめ)を嫁(よめ)にやつてある在所(ざいしよ)へ入(はい)ると、176其(その)親(おや)は野良犬(のらいぬ)にでも辞儀(じぎ)をするといふぢやないか。177貴様(きさま)も訳(わけ)の分(わか)らぬ奴(やつ)だなア。178そんな事(こと)で今日(こんにち)の虚偽(きよぎ)万能(ばんのう)の世(よ)の中(なか)に、179どうして生存(せいぞん)が続(つづ)けられると思(おも)うてるか、180時代遅(じだいおく)れの骨董品(こつとうひん)だなア』
181サール『ほつといてくれ、182何程(なにほど)偉(えら)さうに云(い)つても、183姫(ひめ)様(さま)に叱(しか)られるかと思(おも)つて、184ビリビリしとるやうな腰抜(こしぬけ)の言葉(ことば)に、185何(ど)うして権威(けんゐ)があるものか、186マア、187俺(おれ)のすることを見(み)てをれ、188エヘン』
189と云(い)ひながら、190思(おも)ひ切(き)つて門口(かどぐち)に立寄(たちよ)り、191怖(こは)さうに中(なか)を眺(なが)めた。192初稚姫(はつわかひめ)と松姫(まつひめ)は何事(なにごと)か一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、193ニコニコしながら話(はなし)の最中(さいちう)であつた。194サールがガラリと戸(と)を開(あ)け、
195サール『へーご免(めん)なさいませ。196松姫(まつひめ)様(さま)、197始(はじ)めてお目(め)にかかります。198私(わたし)は祠(ほこら)の森(もり)のサールと申(まを)す者(もの)、199モ一人(ひとり)の従者(じゆうしや)はイクと申(まを)します。200イヤもう意気地(いくぢ)のない野郎(やらう)で厶(ござ)いますから、201何卒(どうぞ)可愛(かあい)がつてやつて下(くだ)さいませ』
202松姫(まつひめ)『それは それは よくマアいらせられました。203サ、204どうぞお上(あが)り下(くだ)さいませ』
205サール『スマートさまも御(ご)壮健(さうけん)で、206大慶(たいけい)至極(しごく)に存(ぞん)じます』
207と初稚姫(はつわかひめ)に御(ご)機嫌(きげん)を取(と)らうといふ考(かんが)へか、208切(しき)りに犬(いぬ)に追従(つゐしよう)してゐる。209イクは不在(ふざい)の家(うち)へ盗人(ぬすびと)が這入(はい)るやうな調子(てうし)で、210ビリビリもので、211足音(あしおと)もさせず這入(はい)つて来(き)た。
212 初稚姫(はつわかひめ)は二人(ふたり)を見(み)て、213言葉(ことば)静(しづか)に、
214初稚姫『貴方(あなた)はイクさま、215サールさま、216神(かみ)様(さま)へお参(まゐ)りで厶(ござ)いますか』
217 二人(ふたり)は、
218イク、サール『へー、219あの、220何(なん)です』
221と頭(あたま)をかき、222モヂモヂとして土間(どま)に踞(しやが)んで了(しま)つた。
223初稚(はつわか)『妾(わらは)に何(なん)ぞ御用(ごよう)が厶(ござ)いましたのか、224何卒(どうぞ)早(はや)く仰有(おつしや)つて下(くだ)さいな』
225 イクは思(おも)ひ切(き)つて、
226イク『イヤ実(じつ)の所(ところ)は姫(ひめ)様(さま)の、227何処(どこ)までもお供(とも)をさして頂(いただ)かうと思(おも)ひまして、228お後(あと)を慕(した)ひ参(まゐ)つたので厶(ござ)います。229吾々(われわれ)両人(りやうにん)の真心(まごころ)をお汲(く)み取(と)り下(くだ)さいまして、230是非(ぜひ)にお供(とも)をさして頂(いただ)きたう厶(ござ)います』
231初稚姫『貴方(あなた)、232山口(やまぐち)の森(もり)で何(なに)か変(かは)つたことは厶(ござ)いませぬでしたか』
233イク『ハイ、234イヤもう面白(おもしろ)いこつて厶(ござ)いましたよ。235結構(けつこう)な御(ご)神力(しんりき)を戴(いただ)いて鬼(おに)の奴(やつ)、236二匹(にひき)迄(まで)遁走(とんそう)させました。237それはそれは随分(ずいぶん)愉快(ゆくわい)なもので厶(ござ)いましたよ』
238初稚姫『それはお手柄(てがら)で厶(ござ)いましたな。239そして貴方(あなた)、240何(なん)だか神(かみ)様(さま)から頂(いただ)いたでせう』
241イク『ハイ、242頂(いただ)きました』
243初稚姫『無事(ぶじ)に此処(ここ)まで、244貴方(あなた)は守護(しゆご)して来(き)ましたか。245途中(とちう)に他(ほか)の者(もの)の手(て)に入(い)るやうなことはありませなんだかな』
246イク『へ、247此(この)通(とほ)り、248此処(ここ)に所持(しよぢ)して居(を)ります。249実(じつ)に立派(りつぱ)な水晶玉(すいしやうだま)で厶(ござ)います』
250初稚姫『それは夜光(やくわう)の玉(たま)と云(い)つて、251水晶(すいしやう)ではありませぬ。252筑紫(つくし)の島(しま)から現(あら)はれた結構(けつこう)なダイヤモンドですよ』
253イク『へーエ、254さうで厶(ござ)いましたか、255誠(まこと)に有難(ありがた)いこつて厶(ござ)いました』
256初稚姫『貴方(あなた)、257途中(とちう)で妖怪(えうくわい)につままれ、258一旦(いつたん)ふんだくられるやうな、259不都合(ふつがふ)な事(こと)はなさいますまいな』
260サール『イヤもう恐(おそ)れ入(い)りました。261実(じつ)の所(ところ)は、262古狸(ふるだぬき)に騙(たぶら)かされ、263取(と)られて了(しま)つたのですが、264お千代(ちよ)さまのお蔭(かげ)で再(ふたた)び元(もと)へ返(かへ)つたのです』
265初稚姫『其(その)玉(たま)は一旦(いつたん)曲神(まがかみ)の手(て)に入(い)つた上(うへ)は、266大変(たいへん)に汚(けが)れて居(を)りますよ。267これは今(いま)のうちに禊(みそぎ)をなさらぬと、268役(やく)に立(た)たなくなりますからねえ』
269イク『塩水(しほみづ)を貰(もら)つて清(きよ)めませうかなア』
270初稚姫『貴方(あなた)の無形(むけい)の魂(たましひ)をお清(きよ)めになれば自然(しぜん)に玉(たま)は浄(きよ)まります。271そしてお前(まへ)さまは其(その)玉(たま)に執着心(しふちやくしん)を持(も)つてゐるでせう。272なぜサールさまに渡(わた)さなかつたのですか。273一旦(いつたん)貴方(あなた)の手(て)に入(い)り、274妖魅(えうみ)に取(と)られたのだから、275貴方(あなた)は玉(たま)に対(たい)して、276監督権(かんとくけん)を自然(しぜん)に放棄(はうき)したやうなものです。277今度(こんど)はサールさまに持(も)たせておくが宜(よろ)しい。278実(じつ)の所(ところ)は妾(わらは)より日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)にお願(ねが)ひ申(まを)し、279貴方(あなた)等(がた)の熱心(ねつしん)に感(かん)じて、280お二人(ふたり)様(さま)の中(なか)へ一個(いつこ)をお与(あた)へ申(まを)したのですから、281此(この)玉(たま)は二人(ふたり)の身魂(みたま)が一(ひと)つになつた証拠(しようこ)です。282決(けつ)して一人(ひとり)が独占(どくせん)すべき物(もの)ではありませぬ。283即(すなは)ちイクさまの心(こころ)はサールさまの心(こころ)、284サールさまの心(こころ)はイクさまの心(こころ)、285二人(ににん)一体(いつたい)となり、286神界(しんかい)の為(ため)に活動(くわつどう)なさるやうに仕組(しぐ)まれてあるのです』
287サール『オイ、288イク州(しう)、289どうだ。290ヤツパリ宝(たから)の独占(どくせん)は許(ゆる)されまいがな。291貴様(きさま)が自分(じぶん)の物(もの)のやうにして、292俺(おれ)にも碌(ろく)に見(み)せず、293懐(ふところ)へ捻(ね)ぢ込(こ)んで来(き)よつたものだから、294神罰(しんばつ)が当(あた)つて、295狸(たぬき)の野郎(やらう)に一旦(いつたん)取(と)られて了(しま)つたのだよ』
296イク『モシ姫(ひめ)様(さま)、297さうすると此(この)玉(たま)は、298これからサールに渡(わた)すべき物(もの)で厶(ござ)いますか』
299初稚姫『誰(たれ)の物(もの)といふ訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ。300お二人(ふたり)さまが交代(かたみ)に保護(ほご)なさるれば宜(よろ)しい。301そして此(この)宝(たから)は世界(せかい)救済(きうさい)の為(ため)の御(ご)神宝(しんぱう)で、302人間(にんげん)の私(わたくし)すべき物(もの)ではありませぬ。303暫(しばら)く拝借(はいしやく)してゐる考(かんが)へになつて、304大切(たいせつ)に保存(ほぞん)なさいませ。305そして其(その)玉(たま)が手(て)に入(い)つた以上(いじやう)は、306妾(わらは)について来(く)る必要(ひつえう)はありませぬ。307一(いち)時(じ)も早(はや)く祠(ほこら)の森(もり)に帰(かへ)つて下(くだ)さい。308貴方(あなた)の御(ご)親切(しんせつ)は有難(ありがた)う厶(ござ)いますが、309妾(わらは)は神(かみ)様(さま)が沢山(たくさん)に守(まも)つて下(くだ)さいますから、310決(けつ)して淋(さび)しい事(こと)は厶(ござ)いませぬからな』
311サール『それなら、312此(この)玉(たま)を貴方(あなた)に御(お)返(かへ)し致(いた)します。313何卒(どうぞ)、314どんな御用(ごよう)でも致(いた)しますから、315そんな事(こと)仰有(おつしや)らずに、316サール一人(ひとり)でも、317ハルナの都(みやこ)までお供(とも)を許(ゆる)して下(くだ)さいませ。318モシ此(この)通(とほ)りで厶(ござ)います』
319と熱誠(ねつせい)を面(おもて)にあらはして、320涙(なみだ)を流(なが)しながら頼(たの)み込(こ)むのであつた。
321初稚姫(はつわかひめ)『夜(よる)光(ひか)る宝(たから)を神(かみ)に得(え)し君(きみ)は
322祠(ほこら)の森(もり)に帰(かへ)り行(ゆ)きませ。
323この玉(たま)は日(ひ)の出神(でのかみ)の賜(たま)ひてし
324暗夜(やみよ)を照(て)らす珍(うづ)の御宝(みたから)。
325曲神(まがかみ)のたけり狂(くる)へる月(つき)の国(くに)へ
326かかる宝(たから)を持(も)ち行(ゆ)くべしやは。
327汝(なれ)こそは此(この)御宝(みたから)を守(まも)るべく
328計(はか)り給(たま)ひし神(かみ)の御心(みこころ)
329ハルナへは供(とも)を連(つ)れ行(ゆ)く事(こと)ならず
330神(かみ)の厳(きび)しき仰(おほ)せなりせば』
331イク『姫(ひめ)様(さま)のその御(お)言葉(ことば)には背(そむ)かれず
332さりとて此(この)儘(まま)帰(かへ)るべきやは』
333サール『いかならむ仰(おほ)せ受(う)けさせ給(たま)ふとも
334許(ゆる)させ給(たま)へ見直(みなほ)しまして』
335初稚姫(はつわかひめ)『益良夫(ますらを)の心(こころ)の花(はな)は匂(にほ)へども
336手折(たを)らむ由(よし)もなきぞうたてき』
337イク『さりとても此(この)儘(まま)これが帰(かへ)らりよか
338仮令(たとへ)死(し)すとも姫(ひめ)に仕(つか)へむ』
339サール『どうしても許(ゆる)し給(たま)はぬ事(こと)ならば
340われは此処(ここ)にて腹(はら)を切(き)るなり』
341松姫(まつひめ)『姫君(ひめぎみ)の厳(いづ)の言葉(ことば)を聞(き)かずして
342迷(まよ)へる人(ひと)ぞ憐(あは)れなりけり。
343赤心(まごころ)の溢(あふ)れ出(い)でたる益良夫(ますらを)が
344心(こころ)はかりて涙(なみだ)こぼるる。
345さりながら皇(すめ)大神(おほかみ)の御心(みこころ)に
346背(そむ)くべしやは宣伝使(せんでんし)のわれ』
347初稚姫(はつわかひめ)『イク、サール二人(ふたり)の司(つかさ)よ村肝(むらきも)の
348心(こころ)鎮(しづ)めてかへりみませよ』
349イク『今(いま)暫(しば)し思案(しあん)定(さだ)めていらへせむ
350何(なに)は兎(と)もあれ頼(たの)み参(まゐ)らす』
351サール『姫君(ひめぎみ)の言葉(ことば)を背(そむ)くにあらねども
352弥猛心(やたけごころ)を抑(おさ)ゆるすべなし
353さりながら暫(しば)し彼方(かなた)に休(やす)らひて
354身(み)の振方(ふりかた)を胸(むね)に問(と)ひみむ』
355 斯(か)く歌(うた)を以(もつ)て姫(ひめ)に答(こた)へ、356蠑螈別(いもりわけ)、357お寅(とら)の住居(ぢゆうきよ)せし元(もと)の教主館(けうしゆやかた)に退(しりぞ)きて、358二人(ふたり)は茶(ちや)を啜(すす)りながら、359腕(うで)を組(く)み、360吐息(といき)をもらし、361進退(しんたい)谷(きは)まつて、362涙(なみだ)に暮(く)れてゐた。363これより初稚姫(はつわかひめ)は松姫(まつひめ)に別(わか)れを告(つ)げ、364二人(ふたり)の隙(すき)を窺(うかが)ひ、365スマートを伴(ともな)ひ、366逸早(いちはや)く聖場(せいぢやう)を立(た)ち出(い)で、367征途(せいと)に上(のぼ)ることとなつた。368イク、369サールの両人(りやうにん)は、370依然(いぜん)として初稚姫(はつわかひめ)は松姫館(まつひめやかた)にいます事(こと)と確信(かくしん)し、371お菊(きく)に酒(さけ)を勧(すす)められ一夜(いちや)を明(あ)かした。372そして文助(ぶんすけ)の危篤(きとく)を聞(き)いて、373夜中頃(よなかごろ)館(やかた)を飛出(とびだ)し、374河鹿川(かじかがは)に降(くだ)つて水垢離(みづごり)を取(と)り、375一生(いつしやう)懸命(けんめい)に其(その)恢復(くわいふく)を祈(いの)つた。
376(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 松村真澄録)
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