霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第52巻(卯の巻)
序文
総説代用
第1篇 鶴首専念
第1章 真と偽
第2章 哀別の歌
第3章 楽屋内
第4章 俄狂言
第5章 森の怪
第6章 梟の笑
第2篇 文明盲者
第7章 玉返志
第8章 巡拝
第9章 黄泉帰
第10章 霊界土産
第11章 千代の菊
第3篇 衡平無死
第12章 盲縞
第13章 黒長姫
第14章 天賊
第15章 千引岩
第16章 水車
第17章 飴屋
第4篇 怪妖蟠離
第18章 臭風
第19章 屁口垂
第20章 険学
第21章 狸妻
第22章 空走
第5篇 洗判無料
第23章 盲動
第24章 応対盗
第25章 恋愛観
第26章 姑根性
第27章 胎蔵
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サブスク完了しました
。どうもありがとうございます。
|
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第52巻(卯の巻)
> 第1篇 鶴首専念 > 第5章 森の怪
<<< 俄狂言
(B)
(N)
梟の笑 >>>
第五章
森
(
もり
)
の
怪
(
くわい
)
〔一三四一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
篇:
第1篇 鶴首専念
よみ(新仮名遣い):
かくしゅせんねん
章:
第5章 森の怪
よみ(新仮名遣い):
もりのかい
通し章番号:
1341
口述日:
1923(大正12)年01月29日(旧12月13日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年1月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
イクとサールは、初稚姫が変装の術を使って熊となり、獅子と変じたスマートに乗って立ち去った後ろ姿を眺めて、しきりに両手を合わせ、舌を巻いて感じ入ってしまった。
二人はますます初稚姫のお供をしたい気持ちが高まり、体を清めて顔の塗りを落とすと、宣伝歌を歌いながら初稚姫を追いかけて荒野ケ原を渡って行く。
二人が山口の森を目指して進んで行くと、森の一部が火のごとく明るくなった。火光を目指して進んで行くと、山の神の祠跡の台石の上に鬼が二匹いた。これは、妖幻坊の眷属である古狸・幻相坊、幻魔坊が鬼に化けてイクとサールを悩まそうと待ち構えていたのであった。
しかし二人は、初稚姫とスマートが変装術で自分たちを驚かそうとしていると思い込み、恐がりもせずにツカツカと鬼に近寄って声をかけ、変装を批評し始めた。幻相坊と幻魔坊は、自分たちの術が見破られたと思ってふるえだし、青い火柱となって消えてしまった。
イクとサールは、鬼が初稚姫たちの変装ではなく曲津が化けて脅そうとしていたことを悟り、お互いに注意し合った。イクは暗がりをいいことに、サールに手を伸ばして化け物のふりをして驚かそうとしたが、サールに殴られてしまう。
二人が茶番劇に笑い興じていると、今度は大きな火の玉が現れてその中から顔が出てきておかしそうに笑い出した。この火の玉の光に照らされて足許を見れば、二匹の古狸が大きなムカデを山ほど積んで、二人を刺し殺そうと企んでいた。
狸とムカデどもは火の玉の光に照らされて森の中に逃げ隠れてしまった。光の玉は小さくなって二人の傍らに転がってきた。二人はこれは自分たちを助けてくれた神の化身だろうと考え、両手を合わせて感謝した。
二人はいつのまにか眠ってしまった。暁のカラスの声で驚いて目を覚ますと、傍らに直径一寸ばかりの水晶玉が転がっていた。これは日の出神が、二人の危難を救うために神宝を授けたのであった。これより両人は玉を懐中に入れ、初稚姫の後を慕って駆けて行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-10-13 19:13:50
OBC :
rm5205
愛善世界社版:
61頁
八幡書店版:
第9輯 401頁
修補版:
校定版:
64頁
普及版:
28頁
初版:
ページ備考:
001
二人
(
ふたり
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
が
変装
(
へんさう
)
の
術
(
じゆつ
)
を
使
(
つか
)
つて
熊
(
くま
)
となり、
002
スマートを
獅子
(
しし
)
と
変
(
へん
)
じて、
003
二人
(
ふたり
)
を
睨
(
にら
)
みおき、
004
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逸早
(
いちはや
)
く
立去
(
たちさ
)
つて
了
(
しま
)
つた
後姿
(
うしろすがた
)
を
眺
(
なが
)
めて、
005
頻
(
しき
)
りに
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ
舌
(
した
)
を
巻
(
ま
)
いて
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
つて
了
(
しま
)
つた。
006
イク
『おい、
007
サール、
008
大
(
たい
)
したものだらう。
009
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は
正勝
(
まさか
)
の
時
(
とき
)
になつたら、
010
あれだけの
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
があるのだから、
011
俺
(
おれ
)
が
貴様
(
きさま
)
を
勧
(
すす
)
めて
追駆
(
おつか
)
けて
来
(
き
)
たのも
無理
(
むり
)
はあるまい。
012
如何
(
どう
)
だ、
013
俺
(
おれ
)
の
先見
(
せんけん
)
は、
014
之
(
これ
)
から
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にして
呉
(
く
)
れまいぞ』
015
サール
『ヘン、
016
偉
(
えら
)
さうに
吐
(
ぬか
)
すない。
017
貴様
(
きさま
)
だつて
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
にあれだけの
隠
(
かく
)
し
芸
(
げい
)
がある
事
(
こと
)
は
初
(
はじ
)
めてだらう。
018
何処
(
どこ
)
ともなし
優
(
やさ
)
しい
慕
(
した
)
はしい、
019
そして
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
が
備
(
そな
)
はつてるものだから、
020
何処
(
どこ
)
がどうと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
なしにお
慕
(
した
)
ひ
申
(
まを
)
してやつて
来
(
き
)
たのだらう。
021
先見
(
せんけん
)
の
明
(
めい
)
も
糞
(
くそ
)
もあつたものかい。
022
然
(
しか
)
し
大熊
(
おほくま
)
となつて
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らし「ウー」とやられた
時
(
とき
)
にや、
023
あまり
気分
(
きぶん
)
のよいものぢやなかつたのう。
024
貴様
(
きさま
)
もビリビリ
慄
(
ふる
)
つて
居
(
ゐ
)
たぢやないか。
025
怖
(
こは
)
さうに
地
(
ぢ
)
べた
に
喰
(
くら
)
ひつきよつて、
026
其
(
その
)
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
さと
云
(
い
)
つたらお
話
(
はな
)
しにならなかつたワ』
027
イク
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな。
028
俺
(
おれ
)
は
屹度
(
きつと
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は
熊
(
くま
)
にお
化
(
ば
)
け
遊
(
あそ
)
ばすに
違
(
ちが
)
ひないと
予期
(
よき
)
してゐたのだ。
029
それが
俺
(
おれ
)
の
鋭敏
(
えいびん
)
な
頭脳
(
づなう
)
に
感
(
かん
)
じた
通
(
とほ
)
り
現出
(
げんしゆつ
)
したのだから、
030
余
(
あま
)
り
有難
(
ありがた
)
くて
勿体
(
もつたい
)
なくて
慄
(
ふる
)
うてゐたのだ。
031
云
(
い
)
はば
歓喜
(
くわんき
)
の
慄
(
ふる
)
ひだ。
032
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
蒟蒻慄
(
こんにやくぷる
)
ひとは
聊
(
いささ
)
か
選
(
せん
)
を
異
(
こと
)
にしてるのだからね、
033
エヘン』
034
サール
『へ、
035
仰有
(
おつしや
)
りますわい。
036
そして
今後
(
こんご
)
の
計画
(
けいくわく
)
は
何
(
ど
)
うなさいますか。
037
もう
之
(
これ
)
で
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
へ
御
(
ご
)
退却
(
たいきやく
)
でせうね』
038
イク
『
馬鹿
(
ばか
)
を
云
(
い
)
へ。
039
貴様
(
きさま
)
は
臆病者
(
おくびやうもの
)
だから
退却
(
たいきやく
)
したがよからう。
040
俺
(
おれ
)
はあの
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
を
見届
(
みとど
)
けた
上
(
うへ
)
は
弥
(
いや
)
益々
(
ますます
)
熱心
(
ねつしん
)
にお
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
ひ、
041
仮令
(
たとへ
)
噛
(
か
)
み
殺
(
ころ
)
されても
構
(
かま
)
はないのだ。
042
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のためには
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てる
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てると
口癖
(
くちぐせ
)
のやうに
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
043
こんな
時
(
とき
)
にビツクリして、
044
ビクビクもので
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せるものだ。
045
此
(
この
)
イクは
之
(
これ
)
から
大熊
(
おほくま
)
さまや
唐獅子
(
ライオン
)
さまに
喰
(
く
)
はれにイクの
司
(
つかさ
)
だ。
046
さアここで
貴様
(
きさま
)
と
別
(
わか
)
れて、
047
英雄
(
えいゆう
)
と
卑怯者
(
ひけふもの
)
とが
顔
(
かほ
)
を
洗
(
あら
)
ひ
水盃
(
みづさかづき
)
でもしようぢやないか。
048
もう
之
(
これ
)
が
貴様
(
きさま
)
と
長
(
なが
)
の
別
(
わか
)
れとならうかも
知
(
し
)
れぬ。
049
御縁
(
ごえん
)
があらば
又
(
また
)
地獄
(
ぢごく
)
の
八丁目
(
はつちやうめ
)
でお
目
(
め
)
にかかりませうよ』
050
サール
『
何
(
なに
)
、
051
馬鹿
(
ばか
)
のこと
云
(
い
)
ひくサールのだ。
052
俺
(
おれ
)
だつて
本当
(
ほんたう
)
の
獅子
(
しし
)
や
熊
(
くま
)
になら、
053
チツとは
驚
(
おどろ
)
くか
知
(
し
)
らぬが、
054
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
化獅子
(
ばけじし
)
や
化熊
(
ばけぐま
)
だから
生命
(
いのち
)
に
別条
(
べつでう
)
はない。
055
そんな
事
(
こと
)
の
分
(
わか
)
らないサールさまとは
違
(
ちが
)
ふのだ。
056
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
057
斯
(
こ
)
んな
顔
(
かほ
)
してゐては
化物
(
ばけもの
)
と
見違
(
みちが
)
へられる。
058
一遍
(
いつぺん
)
裸
(
はだか
)
となつて
体中
(
からだぢう
)
を
清
(
きよ
)
め、
059
そして
野馬
(
やば
)
でも
居
(
を
)
つたら、
060
取捉
(
とつつか
)
まへて、
061
其奴
(
そいつ
)
に
跨
(
またが
)
り
御後
(
みあと
)
を
追
(
お
)
ふ
事
(
こと
)
にしよう。
062
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐると、
063
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れて
行衛
(
ゆくゑ
)
を
見失
(
みうしな
)
ふかも
知
(
し
)
れないぞ。
064
さア
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く』
065
と
二人
(
ふたり
)
は
体
(
からだ
)
を
清
(
きよ
)
め、
066
顔
(
かほ
)
の
白黒
(
しろくろ
)
をスツカリ
落
(
おと
)
し、
067
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
を
渉
(
わた
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
068
イク『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
御
(
おん
)
供
(
とも
)
に
069
仕
(
つか
)
へて
神業
(
しんげふ
)
を
全
(
まつた
)
うし
070
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
に
復命
(
かへりごと
)
071
白
(
まを
)
さむ
為
(
た
)
めと
両人
(
りやうにん
)
が
072
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
を
抜
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
して
073
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
急坂
(
きふはん
)
を
074
先
(
さき
)
に
下
(
くだ
)
つて
山口
(
やまぐち
)
の
075
樫
(
かし
)
の
根元
(
ねもと
)
に
立
(
た
)
ち
居
(
を
)
れば
076
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神司
(
かむつかさ
)
077
谷間
(
たにま
)
をピカピカ
照
(
て
)
らしつつ
078
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
縫
(
ぬ
)
うて
下
(
くだ
)
り
来
(
く
)
る
079
其
(
その
)
神姿
(
みすがた
)
の
崇高
(
けだか
)
さよ
080
スマートさまは
後前
(
あとさき
)
に
081
なつて
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
守
(
まも
)
りつつ
082
主従
(
しゆじゆう
)
ここに
現
(
あら
)
はれて
083
白黒
(
しろくろ
)
二人
(
ふたり
)
の
三番叟
(
さんばそう
)
084
眺
(
なが
)
め
給
(
たま
)
ひし
床
(
ゆか
)
しさよ
085
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
086
エンヤナ、オンハ、カッタカタ
087
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
088
身魂
(
みたま
)
を
洗
(
あら
)
ふは
滝
(
たき
)
の
水
(
みづ
)
089
瑞
(
みづ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
流
(
なが
)
れぞと
090
二人
(
ふたり
)
の
口
(
くち
)
から
出放題
(
ではうだい
)
091
俄作
(
にはかづく
)
りの
歌
(
うた
)
唄
(
うた
)
ひ
092
漸
(
やうや
)
く
仕組
(
しぐ
)
んだ
三番叟
(
さんばそう
)
093
其
(
その
)
甲斐
(
かひ
)
もなく
一言
(
ひとくち
)
に
094
はね
飛
(
と
)
ばされて
両人
(
りやうにん
)
は
095
予
(
かね
)
て
企
(
たく
)
みし
決死隊
(
けつしたい
)
096
用意
(
ようい
)
の
細帯
(
ほそおび
)
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
して
097
堅木
(
かたぎ
)
の
枝
(
えだ
)
にパツとかけ
098
プリンプリンとブラ
下
(
さが
)
る
099
其
(
その
)
苦
(
くる
)
しさは
言
(
こと
)
の
葉
(
は
)
の
100
尽
(
つく
)
し
得
(
え
)
らるる
事
(
こと
)
でない
101
本当
(
ほんと
)
に
今度
(
こんど
)
は
死
(
し
)
ぬのかと
102
観念
(
くわんねん
)
したる
折柄
(
をりから
)
に
103
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
助
(
たす
)
けられ
104
ヤツト
気
(
き
)
がつきや、あら
不思議
(
ふしぎ
)
105
思
(
おも
)
ひがけなき
熊
(
くま
)
となり
106
獅子
(
しし
)
と
変
(
へん
)
じて
両人
(
りやうにん
)
を
107
眼
(
まなこ
)
瞋
(
いか
)
らし
睨
(
にら
)
みたる
108
其
(
その
)
時
(
とき
)
こそは
吾々
(
われわれ
)
も
109
本当
(
ほんと
)
の
事
(
こと
)
を
白状
(
はくじやう
)
すりや
110
あまり
良
(
よ
)
い
気
(
き
)
はせなかつた
111
さはさりながら
荒野原
(
あらのはら
)
112
獅子
(
しし
)
狼
(
おほかみ
)
の
吼
(
ほ
)
え
猛
(
たけ
)
る
113
醜葦原
(
しこあしはら
)
を
進
(
すす
)
む
身
(
み
)
は
114
どうであの
様
(
やう
)
な
隠
(
かく
)
し
芸
(
げ
)
が
115
無
(
な
)
くて
一人
(
ひとり
)
で
進
(
すす
)
まれよか
116
之
(
これ
)
を
思
(
おも
)
へば
吾々
(
われわれ
)
は
117
何程
(
なにほど
)
排斥
(
はいせき
)
せられても
118
仮令
(
たとへ
)
脅喝
(
けふかつ
)
せられても
119
之
(
これ
)
を
見捨
(
みす
)
てて
帰
(
かへ
)
れない
120
何処
(
どこ
)
々々
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
追
(
お
)
ひついて
121
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
122
之
(
これ
)
が
誠
(
まこと
)
の
大和魂
(
やまとだま
)
123
肝
(
きも
)
を
試
(
ため
)
すは
此
(
この
)
時
(
とき
)
だ
124
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
125
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
126
仮令
(
たとへ
)
曲津
(
まがつ
)
に
喰
(
く
)
はるとも
127
思
(
おも
)
ひ
立
(
た
)
つたる
此
(
この
)
首途
(
かどで
)
128
中途
(
ちうと
)
に
帰
(
かへ
)
つて
堪
(
たま
)
らうか
129
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
130
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
131
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
進
(
すす
)
みます
132
ハルナの
都
(
みやこ
)
へ
吾々
(
われわれ
)
を
133
尊
(
たふと
)
き
恵
(
めぐ
)
みの
其
(
その
)
下
(
もと
)
に
134
進
(
すす
)
ませ
給
(
たま
)
へと
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
135
四方
(
よも
)
の
山々
(
やまやま
)
芽
(
め
)
を
吹
(
ふ
)
いて
136
躑躅
(
つつじ
)
の
花
(
はな
)
も
此処
(
ここ
)
彼処
(
かしこ
)
137
艶
(
えん
)
を
競
(
きそ
)
へる
春
(
はる
)
の
野
(
の
)
は
138
又
(
また
)
格別
(
かくべつ
)
の
愉快
(
ゆくわい
)
さぞ
139
紫雲英
(
げんげ
)
の
花
(
はな
)
は
遠近
(
をちこち
)
に
140
処
(
ところ
)
まんだら
咲
(
さ
)
き
初
(
はじ
)
め
141
松
(
まつ
)
の
緑
(
みどり
)
も
樫
(
かし
)
の
葉
(
は
)
の
142
新芽
(
しんめ
)
も
漸
(
やうや
)
う
伸
(
の
)
び
立
(
た
)
ちて
143
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
荒武者
(
あらむしや
)
に
144
活動
(
くわつどう
)
せよと
勧
(
すす
)
めてる
145
烏
(
からす
)
や
鳶
(
とび
)
や
雲雀
(
ひばり
)
まで
146
御後
(
みあと
)
を
慕
(
した
)
うて
走
(
はし
)
れよと
147
応援
(
おうゑん
)
してゐる
心地
(
ここち
)
する
148
こんな
処
(
ところ
)
で
屁古垂
(
へこた
)
れて
149
ノメノメ
後
(
あと
)
へ
帰
(
かへ
)
りなば
150
烏
(
からす
)
の
奴
(
やつ
)
にも
笑
(
わら
)
はれる
151
三五教
(
あななひけう
)
に
退却
(
たいきやく
)
の
152
二字
(
にじ
)
は
決
(
けつ
)
してない
程
(
ほど
)
に
153
善
(
ぜん
)
と
思
(
おも
)
うたら
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
154
命
(
いのち
)
限
(
かぎ
)
りに
進
(
すす
)
むのが
155
男
(
をとこ
)
の
中
(
なか
)
の
男
(
をとこ
)
だらう
156
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
157
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
158
と
歌
(
うた
)
ひ
行
(
ゆ
)
くのはイクであつた。
159
山口
(
やまぐち
)
の
此
(
この
)
樫
(
かし
)
の
木
(
き
)
の
麓
(
ふもと
)
から
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
は、
160
近
(
ちか
)
く
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
ても
殆
(
ほとん
)
ど
五十町
(
ごじつちやう
)
ばかりの
距離
(
きより
)
があつた。
161
イク
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
まで
進
(
すす
)
まにやなるまい』
162
とコンパスに
撚
(
より
)
をかけ、
163
春風
(
しゆんぶう
)
を
肩
(
かた
)
で
斜
(
ななめ
)
に
切
(
き
)
りながら、
164
蟹
(
かに
)
の
如
(
ごと
)
く
横飛
(
よこと
)
びして、
165
特急
(
とくきふ
)
列車
(
れつしや
)
的
(
てき
)
に
脇目
(
わきめ
)
をふらず、
166
路傍
(
ろばう
)
に
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
花
(
はな
)
にも
目
(
め
)
もくれず、
167
トントントンと
駆
(
か
)
けついた。
168
空
(
そら
)
はドンヨリと
曇
(
くも
)
つて
来
(
き
)
た。
169
星
(
ほし
)
の
影
(
かげ
)
さへ
見
(
み
)
えなくなつてゐる。
170
最早
(
もはや
)
咫尺
(
しせき
)
暗澹
(
あんたん
)
、
171
一歩
(
いつぽ
)
も
進
(
すす
)
めなくなつて
了
(
しま
)
つた。
172
俄
(
にはか
)
に
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
の
或
(
ある
)
局部
(
きよくぶ
)
が
火
(
ひ
)
の
如
(
ごと
)
く
明
(
あか
)
くなつた。
173
夏
(
なつ
)
の
虫
(
むし
)
が
灯火
(
とうくわ
)
をたづねて
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
む
様
(
やう
)
な
勢
(
いきほひ
)
で、
174
火光
(
くわくわう
)
を
目当
(
めあて
)
に
二人
(
ふたり
)
は
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くと、
175
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
の
祠
(
ほこら
)
の
跡
(
あと
)
の
台石
(
だいいし
)
の
上
(
うへ
)
に、
176
暗
(
やみ
)
を
照
(
て
)
らして
輝
(
かがや
)
いてゐる
二人
(
ふたり
)
の
怪物
(
くわいぶつ
)
があつた。
177
之
(
これ
)
は
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
眷属
(
けんぞく
)
幻相坊
(
げんさうばう
)
、
178
幻魔坊
(
げんまばう
)
と
云
(
い
)
ふ
古狸
(
ふるだぬき
)
が
鬼
(
おに
)
の
姿
(
すがた
)
と
化
(
ば
)
けて、
179
暗
(
やみ
)
を
照
(
て
)
らしながら
両人
(
りやうにん
)
を
艱
(
なや
)
まさむと
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へてゐたのである。
180
両人
(
りやうにん
)
は
十間
(
じつけん
)
ばかり
近寄
(
ちかよ
)
つてツと
立止
(
たちど
)
まり、
181
イク
『おい、
182
サール、
183
妙
(
めう
)
ぢやないか。
184
あれだから
俺
(
おれ
)
が
好
(
す
)
きといふのだ。
185
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は
鬼
(
おに
)
となり、
186
スマート
迄
(
まで
)
が
小鬼
(
こおに
)
に
化
(
ば
)
けて
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
嚇
(
おど
)
かし
逃
(
に
)
がしてやらうとして、
187
ああ
云
(
い
)
ふ
芸当
(
げいたう
)
をやつて
厶
(
ござ
)
るのだぞ。
188
何
(
なん
)
と
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は
偉
(
えら
)
いものぢやないか、
189
エー』
190
サール
『
成程
(
なるほど
)
、
191
こいつア
感心
(
かんしん
)
だ。
192
益々
(
ますます
)
以
(
もつ
)
て
其
(
その
)
本能
(
ほんのう
)
を
発揮
(
はつき
)
し
給
(
たま
)
ふと
云
(
い
)
ふものだ。
193
俺
(
おれ
)
も
一
(
ひと
)
つ
何
(
なに
)
かの
方法
(
はうはふ
)
で、
194
何処
(
どこ
)
までも
追跡
(
つゐせき
)
して
教
(
をし
)
へて
貰
(
もら
)
はなくちや、
195
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
へも
帰
(
かへ
)
れぬからのう。
196
一
(
ひと
)
つ
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
つて
談判
(
だんぱん
)
しようぢやないか』
197
イク
『ウン、
198
そいつは
面白
(
おもしろ
)
い。
199
何程
(
なにほど
)
恐
(
こは
)
い
顔
(
かほ
)
したつて、
200
素性
(
すじやう
)
が
分
(
わか
)
つてるのだから
屁
(
へ
)
でもないわ』
201
と
云
(
い
)
ひながら
嬉
(
うれ
)
しさうにツカツカと
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
つた。
202
何程
(
なにほど
)
妖怪
(
えうくわい
)
が
怖
(
こは
)
い
顔
(
かほ
)
して
嚇
(
おど
)
さうと
思
(
おも
)
つても、
203
相手
(
あひて
)
方
(
がた
)
が
驚
(
おどろ
)
かねば
張合
(
はりあひ
)
がぬけたものである。
204
そして
其
(
その
)
妖術
(
えうじゆつ
)
は
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せるものである。
205
幻相坊
(
げんさうばう
)
、
206
幻魔坊
(
げんまばう
)
はいやらしき
鬼
(
おに
)
となり、
207
四辺
(
あたり
)
を
輝
(
かがや
)
かしながら
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
をして、
208
牛
(
うし
)
の
様
(
やう
)
な
角
(
つの
)
を
額
(
ひたひ
)
に
二本
(
にほん
)
づつ
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
ばかり
生
(
は
)
やし、
209
耳
(
みみ
)
まで
裂
(
さ
)
けた
口
(
くち
)
に
青
(
あを
)
い
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し、
210
体
(
からだ
)
は
餓鬼
(
がき
)
の
如
(
ごと
)
く
痩
(
や
)
せ
衰
(
おとろ
)
へて
壁下地
(
かべしたぢ
)
を
現
(
あら
)
はしてゐる。
211
イクはツカツカと
側
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
り、
212
イク
『よう、
213
天晴
(
あつぱれ
)
々々
(
あつぱれ
)
、
214
実
(
じつ
)
に
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りました。
215
おい
畜生
(
ちくしやう
)
、
216
貴様
(
きさま
)
も
中々
(
なかなか
)
乙
(
おつ
)
な
事
(
こと
)
をやり
居
(
を
)
るのう。
217
エヘヘヘヘ、
218
そんな
怖
(
こは
)
い
顔
(
かほ
)
したつて
驚
(
おどろ
)
くものか。
219
素性
(
すじやう
)
の
分
(
わか
)
らぬ
化物
(
ばけもの
)
なら、
220
此方
(
こつち
)
も
面喰
(
めんくら
)
ふか
知
(
し
)
らぬが、
221
スツカリ
分
(
わか
)
つてるのだから
面白
(
おもしろ
)
いわ。
222
アツハハハハ、
223
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
、
224
のうサール、
225
うまいものだね』
226
サール
『ウン、
227
之
(
これ
)
だから
旅
(
たび
)
はやめられぬと
云
(
い
)
ふのだ。
228
何
(
なに
)
せよ、
229
ハルナの
都
(
みやこ
)
まで
悪魔
(
あくま
)
退治
(
たいぢ
)
に
行
(
ゆ
)
くのだから……こんな
事
(
こと
)
が
怖
(
こは
)
い
位
(
くらゐ
)
では
駄目
(
だめ
)
だから……
畜生
(
ちくしやう
)
までが
一人前
(
いちにんまへ
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
ゐ
)
やがらア、
230
エヘヘヘヘ、
231
実
(
じつ
)
に
巧妙
(
かうめう
)
なものだなア』
232
折角
(
せつかく
)
化
(
ば
)
けた
幻相坊
(
げんさうばう
)
、
233
幻魔坊
(
げんまばう
)
も
相手
(
あひて
)
が
平然
(
へいぜん
)
として、
234
「
畜生
(
ちくしやう
)
よく
化
(
ば
)
けよつた」
等
(
など
)
と
云
(
い
)
ふものだから、
235
『
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
は
自分
(
じぶん
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
知
(
し
)
つてゐやがるのだな。
236
こんな
肝
(
きも
)
の
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
に
悪戯
(
いたづら
)
をして
威
(
おど
)
かさうとしても
駄目
(
だめ
)
だ。
237
却
(
かへつ
)
てひどい
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はされるに
違
(
ちが
)
ひない』
238
と
妖怪
(
えうくわい
)
の
方
(
はう
)
で
慄
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
し、
239
俄
(
にはか
)
に
還元
(
くわんげん
)
する
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
240
涙
(
なみだ
)
をポロポロと
落
(
おと
)
し
出
(
だ
)
した。
241
イク
『ハハア、
242
コン
畜生
(
ちくしやう
)
、
243
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
してゐやがる。
244
おい、
245
サール、
246
こりやチツと
可怪
(
をか
)
しいぞ。
247
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまなら
泣
(
な
)
かつしやる
筈
(
はず
)
がない。
248
何
(
なん
)
でもこいつア、
249
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
眷属
(
けんぞく
)
が
化
(
ば
)
けてゐやがるのだ。
250
一
(
ひと
)
つ
問答
(
もんだふ
)
してやらうかい』
251
サール
『そりや
面白
(
おもしろ
)
い。
252
こりや
化州
(
ばけしう
)
、
253
貴様
(
きさま
)
、
254
こんな
所
(
とこ
)
で
俺
(
おれ
)
に
火
(
ひ
)
をつけて
首振
(
くびふ
)
り
芝居
(
しばゐ
)
を
見
(
み
)
せて
呉
(
く
)
れたつて、
255
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だか
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか。
256
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
はぬかい。
257
人形
(
にんぎやう
)
芝居
(
しばゐ
)
なら
太夫
(
たいふ
)
が
語
(
かた
)
つてくれるから
意味
(
いみ
)
も
分
(
わか
)
るが、
258
六斎
(
ろくさい
)
念仏
(
ねんぶつ
)
の
様
(
やう
)
に
黙
(
だま
)
つて
慄
(
ふる
)
つてゐた
所
(
ところ
)
が、
259
それ
位
(
くらゐ
)
の
表情
(
へうじやう
)
では
意味
(
いみ
)
が
分
(
わか
)
らぬぞ。
260
おい
一
(
ひと
)
つ
貴様
(
きさま
)
と
俺
(
おれ
)
と
合併
(
がつぺい
)
して
芝居
(
しばゐ
)
をやらうぢやないか』
261
イク
『こらこら、
262
サール、
263
こんな
鬼
(
おに
)
と
芝居
(
しばゐ
)
したつて、
264
はずまぬぢやないか。
265
物好
(
ものず
)
きもいい
加減
(
かげん
)
にしたら
如何
(
どう
)
だい。
266
ヤ、
267
だんだん
小
(
ちひ
)
さくなりやがつたぞ』
268
と
云
(
い
)
つてる
間
(
ま
)
に、
269
青
(
あを
)
い
火柱
(
くわちう
)
となつて
二人
(
ふたり
)
ともスポツと
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つたので、
270
四辺
(
あたり
)
は
何処
(
どこ
)
ともなしに
真闇
(
まつくら
)
がりになつた。
271
イク『ハハア、
272
到頭
(
たうとう
)
夜立店
(
よだちみせ
)
も
流行
(
はや
)
らぬと
見
(
み
)
えて、
273
カンテラを
消
(
け
)
して
帰
(
い
)
んで
了
(
しま
)
ひよつたな。
274
併
(
しか
)
しそこらに
魔誤
(
まご
)
ついてゐるかも
知
(
し
)
れぬから、
275
よく
気
(
き
)
をつけよ』
276
サール『さうだな。
277
彼奴
(
あいつ
)
はヤツパリ
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまぢやなかつたわい。
278
馬鹿
(
ばか
)
にしやがる、
279
之
(
これ
)
から
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
も
十分
(
じふぶん
)
注意
(
ちゆうい
)
をしなくちや、
280
かう
暗
(
くら
)
くなつちや、
281
何
(
なに
)
がうせるか
分
(
わか
)
らぬからのう』
282
イク
『かふいふ
晩
(
ばん
)
には
化物
(
ばけもの
)
が
自分
(
じぶん
)
の
前
(
まへ
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て
睾丸
(
きんたま
)
を
狙
(
ねら
)
ふといふことだよ。
283
そしてよく
人
(
ひと
)
に
化
(
ば
)
けるから
気
(
き
)
をつけにやいくまいぞ。
284
今
(
いま
)
消
(
き
)
えた
鬼
(
おに
)
は
屹度
(
きつと
)
方法
(
はうはふ
)
を
変
(
か
)
へて、
285
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
睾丸
(
きんたま
)
を
狙
(
ねら
)
ひに
来
(
く
)
るのだから……サール、
286
チツト
気
(
き
)
をつけ
給
(
たま
)
へ』
287
サール
『ウン、
288
十分
(
じふぶん
)
注意
(
ちゆうい
)
する。
289
なるべく
両人
(
りやうにん
)
が
接近
(
せつきん
)
して
敵
(
てき
)
の
襲来
(
しふらい
)
に
備
(
そな
)
へようぢやないか』
290
イク
『そら、
291
さうだ。
292
併
(
しか
)
し
貴様
(
きさま
)
の
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
に、
293
暗
(
くら
)
くてシツカリ
分
(
わか
)
らぬが、
294
何
(
なん
)
だか
化物
(
ばけもの
)
が
頭
(
あたま
)
をつき
出
(
だ
)
してる
様
(
やう
)
だぞ』
295
サール
『ナーニ、
296
今
(
いま
)
手
(
て
)
を
伸
(
の
)
ばして
探
(
さぐ
)
つて
見
(
み
)
たけど、
297
何
(
なに
)
も
居
(
ゐ
)
やせないわ』
298
イク
『それでも
俺
(
おれ
)
の
目
(
め
)
には、
299
貴様
(
きさま
)
の
前
(
まへ
)
に
何
(
なん
)
だか
黒
(
くろ
)
いものがある
様
(
やう
)
だ。
300
一寸
(
ちよつと
)
撫
(
な
)
でて
見
(
み
)
ようか』
301
と
云
(
い
)
ひながら
暗
(
くら
)
がりを
幸
(
さいは
)
ひ、
302
イクはサールの
前
(
まへ
)
に
頭
(
あたま
)
をつき
出
(
だ
)
した。
303
サールはイクがこんな
悪戯
(
いたづら
)
をしてるとは
知
(
し
)
らず、
304
一寸
(
ちよつと
)
手
(
て
)
を
伸
(
の
)
ばすと
毛
(
け
)
の
生
(
は
)
えた
頭
(
あたま
)
がつかへたので、
305
驚
(
おどろ
)
きながら
自棄糞
(
やけくそ
)
になつて
左手
(
ひだりて
)
に
髻
(
たぶさ
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
306
滅多
(
めつた
)
矢鱈
(
やたら
)
に
処
(
ところ
)
構
(
かま
)
はず
殴
(
なぐ
)
りつけた。
307
そして
漸
(
やうや
)
くに
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した。
308
イクは
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だと
諦
(
あきら
)
めながら、
309
ソツと
元
(
もと
)
の
座
(
ざ
)
へ
直
(
なほ
)
り、
310
イク
『おい、
311
サール、
312
貴様
(
きさま
)
は
今
(
いま
)
、
313
何
(
なん
)
だかバサバサやつてゐたぢやないか』
314
サール
『ウン、
315
到頭
(
たうとう
)
化物
(
ばけもの
)
の
奴
(
やつ
)
、
316
俺
(
おれ
)
の
睾丸
(
きんたま
)
を
狙
(
ねら
)
ひに
来
(
き
)
よつたので、
317
髻
(
たぶさ
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り
殴
(
なぐ
)
つてやつたのだよ』
318
イク
『ウン、
319
さうか。
320
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
所
(
ところ
)
だな』
321
と
云
(
い
)
ひながら、
322
サールの
声
(
こゑ
)
の
出
(
で
)
る
所
(
ところ
)
を
目当
(
めあて
)
に、
323
最前
(
さいぜん
)
の
仕返
(
しかへ
)
しをポカポカとやつた。
324
サール
『アイタツタ、
325
おい、
326
イク、
327
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れ。
328
何
(
なん
)
だか
俺
(
おれ
)
の
周囲
(
ぐるり
)
に
化州
(
ばけしう
)
の
奴
(
やつ
)
、
329
ひつついてゐるやうだ。
330
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
331
イク
『よう、
332
何
(
なん
)
だ
何
(
なん
)
だ。
333
何処
(
どこ
)
に
何処
(
どこ
)
に』
334
と
云
(
い
)
ひながら、
335
今度
(
こんど
)
は
喉
(
のど
)
の
下
(
した
)
をコソばかさうとしてヌツと
手
(
て
)
をつき
出
(
だ
)
した。
336
サールも
何気
(
なにげ
)
なく
手
(
て
)
をつき
出
(
だ
)
す
途端
(
とたん
)
に、
337
妙
(
めう
)
な
物
(
もの
)
があると
思
(
おも
)
ひグツと
握
(
にぎ
)
つた。
338
イク
『アイタタタ、
339
俺
(
おれ
)
だ
俺
(
おれ
)
だ、
340
イクだイクだイクだ』
341
サール
『こりや、
342
イクの
奴
(
やつ
)
、
343
俺
(
おれ
)
の
頭
(
あたま
)
を
殴
(
くら
)
はせよつたのは
貴様
(
きさま
)
だな。
344
悪戯
(
ふざけ
)
た
真似
(
まね
)
をさらすと
了簡
(
れうけん
)
せぬぞ』
345
イク
『ヘン、
346
貴様
(
きさま
)
だつて
俺
(
おれ
)
の
髻
(
たぶさ
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
握
(
にぎ
)
りよつて、
347
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
殴
(
なぐ
)
つたぢやないか』
348
サール
『ハハハハハ、
349
罰
(
ばち
)
は
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
だな』
350
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
してゐる
所
(
ところ
)
へ、
351
森
(
もり
)
の
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
照
(
て
)
らして
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
たのは、
352
直径
(
ちよくけい
)
二
(
に
)
尺
(
しやく
)
位
(
くらゐ
)
ある
光
(
ひかり
)
の
玉
(
たま
)
である。
353
そしてその
玉
(
たま
)
の
中
(
なか
)
から、
354
目
(
め
)
、
355
鼻
(
はな
)
、
356
口
(
くち
)
、
357
眉毛
(
まゆげ
)
まで
現
(
あら
)
はれ「エヘヘヘヘ」と
可笑
(
をか
)
しさうに
笑
(
わら
)
つてゐる。
358
そのために
足許
(
あしもと
)
はパツと
明
(
あか
)
くなつた。
359
よくよく
見
(
み
)
れば、
360
二人
(
ふたり
)
の
足許
(
あしもと
)
に
幻相坊
(
げんさうばう
)
、
361
幻魔坊
(
げんまばう
)
の
二疋
(
にひき
)
の
古狸
(
ふるだぬき
)
が
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
もあらうと
云
(
い
)
ふ
大蜈蚣
(
おほむかで
)
を
山
(
やま
)
程
(
ほど
)
積
(
つ
)
んで、
362
二人
(
ふたり
)
の
体
(
からだ
)
を
刺
(
さ
)
し
殺
(
ころ
)
さうと
企
(
たく
)
んでゐたのである。
363
二匹
(
にひき
)
の
古狸
(
ふるだぬき
)
は
此
(
この
)
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らされて
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
り、
364
大蜈蚣
(
おほむかで
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
走
(
はし
)
つて
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
の
暗
(
やみ
)
に
隠
(
かく
)
れて
了
(
しま
)
つた。
365
そして
此
(
この
)
光
(
ひかり
)
はおひおひと
容積
(
ようせき
)
を
減
(
げん
)
じ、
366
小
(
ちひ
)
さき
玉
(
たま
)
となつて
二人
(
ふたり
)
の
側
(
そば
)
に
転
(
ころ
)
げて
来
(
き
)
た。
367
二人
(
ふたり
)
は
別
(
べつ
)
に
驚
(
おどろ
)
きもせず、
368
(イク、サール)
『
之
(
これ
)
は
自分
(
じぶん
)
を
助
(
たす
)
けてくれた
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
だらう。
369
此
(
この
)
暗
(
くら
)
がりに
此
(
この
)
光玉
(
ひかりだま
)
がなかつたら、
370
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
はどんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つたかも
知
(
し
)
れぬ。
371
南無
(
なむ
)
光
(
ひかり
)
大明神
(
だいみやうじん
)
様
(
さま
)
』
372
と
両方
(
りやうはう
)
から
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せて
感謝
(
かんしや
)
した。
373
二人
(
ふたり
)
は
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にかウトウトと
眠
(
ねむ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
374
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
の
烏
(
からす
)
はカアカアと
暁
(
あかつき
)
を
告
(
つ
)
げた。
375
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
376
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
377
自分
(
じぶん
)
の
傍
(
かたはら
)
に
直径
(
ちよくけい
)
一寸
(
いつすん
)
ばかりの
水晶玉
(
すいしやうだま
)
が
転
(
ころ
)
がつてゐた。
378
之
(
これ
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
二人
(
ふたり
)
の
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ふべく
神宝
(
しんぱう
)
を
授
(
さづ
)
け
給
(
たま
)
うたのである。
379
之
(
これ
)
より
両人
(
りやうにん
)
は
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けたを
幸
(
さいは
)
ひ、
380
玉
(
たま
)
を
懐中
(
ふところ
)
にしパンを
噛
(
か
)
ぢりながら、
381
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
うて
駆
(
か
)
けて
行
(
ゆ
)
く。
382
(
大正一二・一・二九
旧一一・一二・一三
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 俄狂言
(B)
(N)
梟の笑 >>>
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第52巻(卯の巻)
> 第1篇 鶴首専念 > 第5章 森の怪
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第5章 森の怪|第52巻|真善美愛|霊界物語|/rm5205】
合言葉「みろく」を入力して下さい→