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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第52巻(卯の巻)
序文
総説代用
第1篇 鶴首専念
第1章 真と偽
第2章 哀別の歌
第3章 楽屋内
第4章 俄狂言
第5章 森の怪
第6章 梟の笑
第2篇 文明盲者
第7章 玉返志
第8章 巡拝
第9章 黄泉帰
第10章 霊界土産
第11章 千代の菊
第3篇 衡平無死
第12章 盲縞
第13章 黒長姫
第14章 天賊
第15章 千引岩
第16章 水車
第17章 飴屋
第4篇 怪妖蟠離
第18章 臭風
第19章 屁口垂
第20章 険学
第21章 狸妻
第22章 空走
第5篇 洗判無料
第23章 盲動
第24章 応対盗
第25章 恋愛観
第26章 姑根性
第27章 胎蔵
余白歌
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(B)
(N)
玉返志 >>>
第六章
梟
(
ふくろ
)
の
笑
(
わらひ
)
〔一三四二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
篇:
第1篇 鶴首専念
よみ(新仮名遣い):
かくしゅせんねん
章:
第6章 梟の笑
よみ(新仮名遣い):
ふくろのわらい
通し章番号:
1342
口述日:
1923(大正12)年01月29日(旧12月13日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年1月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
二人が進んで行くと、道の傍らの木の下に一人の美人が黒犬を連れて首をうなだれ、何か思案に沈んでいる。二人が女の挙動を伺っていると、女はたちまち木に細帯を投げかけ、首を吊った。
二人は木の下にかけつけて助け下ろした。女は気が付いて、自分は死ぬのが目的だったのになぜ助けた、と二人に喰ってかかった。女はひとしきり二人を罵倒すると、突然イクの横面を張り飛ばした。
イクがよろめいて田んぼの中に倒れると、女の連れていた黒犬が懐の水晶玉をくわえて駆け出した。女はその様子を見て手を打って笑い、自分たちは昨夜、山口の森で二人を脅そうとした怪物であり、水晶玉を奪うために計略をしかけたのだ、と言うと、大狸の正体を表し、逃げて行った。
サールはイクを助け起こし、ともかくも小北山の聖場に参拝しようと、トボトボと力なく進んで行く。傍らの枝には梟がとまり、神宝をあっさり取られた二人に鳴き立てている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-10-18 06:45:42
OBC :
rm5206
愛善世界社版:
75頁
八幡書店版:
第9輯 406頁
修補版:
校定版:
79頁
普及版:
35頁
初版:
ページ備考:
001
サール『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
従
(
したが
)
ひて
002
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
進
(
すす
)
まむと
003
イクと
二人
(
ふたり
)
が
云
(
い
)
ひ
合
(
あは
)
せ
004
一足先
(
ひとあしさき
)
に
失敬
(
しつけい
)
して
005
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
上
(
のぼ
)
り
口
(
くち
)
006
樫
(
かし
)
の
大木
(
おほき
)
の
麓
(
ふもと
)
にて
007
神算
(
しんさん
)
鬼謀
(
きぼう
)
を
廻
(
めぐ
)
らしつ
008
否応
(
いやおう
)
云
(
い
)
はさず
御
(
おん
)
供
(
とも
)
の
009
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
けむと
三番叟
(
さんばそう
)
010
折角
(
せつかく
)
企
(
たく
)
んだ
芸当
(
げいたう
)
も
011
忽
(
たちま
)
ち
画餅
(
ぐわへい
)
となりぬれば
012
最後
(
さいご
)
の
手段
(
しゆだん
)
と
首
(
くび
)
を
吊
(
つ
)
り
013
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
驚
(
おどろ
)
かし
014
有無
(
うむ
)
を
云
(
い
)
はせず
御
(
おん
)
供
(
とも
)
に
015
仕
(
つか
)
へむものと
思
(
おも
)
ひしが
016
これも
矢張
(
やつぱり
)
当
(
あて
)
はづれ
017
忽
(
たちま
)
ち
熊
(
くま
)
と
変化
(
へんげ
)
して
018
睨
(
にら
)
み
給
(
たま
)
ひし
怖
(
おそ
)
ろしさ
019
魂
(
たましひ
)
奪
(
うば
)
はれ
魄
(
はく
)
消
(
き
)
えて
020
絶
(
た
)
え
入
(
い
)
るばかり
戦
(
をのの
)
けど
021
弱味
(
よわみ
)
をみせては
叶
(
かな
)
はじと
022
吾
(
われ
)
と
心
(
こころ
)
を
励
(
はげ
)
まして
023
御後
(
みあと
)
を
慕
(
した
)
ひすたすたと
024
曲神
(
まがみ
)
の
集
(
つど
)
ふ
山口
(
やまぐち
)
の
025
森
(
もり
)
の
手前
(
てまへ
)
にかかる
折
(
をり
)
026
夜
(
よ
)
はずつぽりと
暮
(
く
)
れ
果
(
は
)
てて
027
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わ
)
かずなりにけり
028
忽
(
たちま
)
ち
見
(
み
)
ゆる
大火光
(
だいくわくわう
)
029
これぞ
全
(
まつた
)
く
大神
(
おほかみ
)
の
030
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
守
(
まも
)
りたまへるかと
031
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
み
近
(
ちか
)
づけば
032
形相
(
ぎやうさう
)
実
(
げ
)
にも
凄
(
すさま
)
じき
033
二
(
ふた
)
つの
鬼
(
おに
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る
034
これぞ
全
(
まつた
)
く
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
035
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
嚇
(
おど
)
して
帰
(
かへ
)
さむと
036
企
(
たく
)
み
給
(
たま
)
ひし
業
(
わざ
)
ならむ
037
素性
(
すじやう
)
の
分
(
わか
)
つた
化物
(
ばけもの
)
に
038
如何
(
いか
)
でか
怖
(
おそ
)
れ
縮
(
ちぢ
)
まむや
039
二人
(
ふたり
)
は
傍
(
そば
)
にかけよつて
040
平気
(
へいき
)
の
平左
(
へいざ
)
でかけあへば
041
初稚姫
(
はつわかひめ
)
に
非
(
あら
)
ずして
042
正体
(
えたい
)
の
知
(
し
)
れぬ
妖魅界
(
えうみかい
)
043
意想外
(
いさうぐわい
)
なる
古狸
(
ふるだぬき
)
044
蜈蚣
(
むかで
)
の
奴
(
やつ
)
がやつて
来
(
き
)
て
045
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
を
刺
(
さ
)
し
殺
(
ころ
)
し
046
悩
(
なや
)
めむとして
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たる
047
危
(
あやふ
)
き
所
(
ところ
)
をあら
尊
(
たふと
)
048
天
(
てん
)
を
照
(
て
)
らして
降
(
くだ
)
りくる
049
光
(
ひかり
)
眩
(
まばゆ
)
き
大火光
(
だいくわくわう
)
050
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれて
051
四辺
(
あたり
)
隈
(
くま
)
なく
伊照
(
いて
)
らせば
052
遉
(
さすが
)
の
魔神
(
まがみ
)
も
戦慄
(
せんりつ
)
し
053
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
054
火団
(
くわだん
)
は
忽
(
たちま
)
ち
縮小
(
しゆくせう
)
し
055
一寸
(
いつすん
)
ばかりの
玉
(
たま
)
となり
056
清
(
きよ
)
き
光
(
ひかり
)
を
現
(
あら
)
はして
057
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
守
(
まも
)
りたまひけり
058
ああ
有難
(
ありがた
)
や
尊
(
たふと
)
やと
059
感謝
(
かんしや
)
の
言葉
(
ことば
)
捧
(
ささ
)
げつつ
060
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
眠
(
ねむ
)
りけり
061
烏
(
からす
)
の
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
きて
062
眼
(
まなこ
)
をさまし
眺
(
なが
)
むれば
063
水晶玉
(
すいしやうだま
)
が
唯
(
ただ
)
一個
(
ひとつ
)
064
二人
(
ふたり
)
の
間
(
あひだ
)
に
置
(
お
)
いてある
065
これぞ
全
(
まつた
)
く
皇神
(
すめかみ
)
の
066
闇夜
(
やみよ
)
を
照
(
て
)
らす
御
(
おん
)
宝
(
たから
)
067
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
が
赤心
(
まごころ
)
に
068
感
(
かん
)
じて
天
(
てん
)
より
宝玉
(
はうぎよく
)
を
069
下
(
くだ
)
させ
給
(
たま
)
ひしものなりと
070
押
(
お
)
し
戴
(
いただ
)
いて
懐
(
ふところ
)
に
071
いと
叮嚀
(
ていねい
)
に
納
(
をさ
)
めつつ
072
勇気
(
ゆうき
)
は
頓
(
とみ
)
に
加
(
くは
)
はりて
073
百草
(
ももくさ
)
萠
(
も
)
ゆる
春
(
はる
)
の
野
(
の
)
を
074
心
(
こころ
)
いそいそ
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く
075
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
076
斯
(
か
)
くも
尊
(
たふと
)
き
御
(
おん
)
守
(
まも
)
り
077
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
に
下
(
くだ
)
らせ
給
(
たま
)
ふ
上
(
うへ
)
は
078
如何
(
いか
)
でか
曲
(
まが
)
を
怖
(
おそ
)
るべき
079
闇夜
(
やみよ
)
を
照
(
て
)
らす
宝玉
(
はうぎよく
)
の
080
光
(
ひかり
)
と
共
(
とも
)
に
何処
(
どこ
)
までも
081
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
後
(
あと
)
追
(
お
)
うて
082
御供
(
みとも
)
に
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
らねば
083
男
(
をとこ
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
つまいぞ
084
イクの
司
(
つかさ
)
よ
気
(
き
)
をつけて
085
サールの
後
(
あと
)
について
来
(
こ
)
い
086
野中
(
のなか
)
の
森
(
もり
)
も
近
(
ちか
)
づいた
087
それから
先
(
さき
)
は
小北山
(
こぎたやま
)
088
珍
(
うづ
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
がありと
聞
(
き
)
く
089
もしや
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は
090
其
(
その
)
聖場
(
せいぢやう
)
に
道寄
(
みちよ
)
りを
091
なさつて
厶
(
ござ
)
るぢやあるまいか
092
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
093
小北
(
こぎた
)
の
山
(
やま
)
に
参詣
(
まゐまう
)
で
094
神
(
かみ
)
に
願
(
ねがひ
)
をかけまくも
095
畏
(
かしこ
)
き
所在
(
ありか
)
を
探
(
たづ
)
ねだし
096
初心
(
しよしん
)
を
貫徹
(
くわんてつ
)
せにやならぬ
097
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
098
三五教
(
あななひけう
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
099
何卒
(
なにとぞ
)
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
が
100
此
(
この
)
願望
(
ぐわんまう
)
を
逸早
(
いちはや
)
く
101
許
(
ゆる
)
させたまへと
願
(
ね
)
ぎまつる』
102
と
歌
(
うた
)
ひつつ
行
(
ゆ
)
く。
103
イク『
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
104
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
落
(
お
)
つるとも
105
海
(
うみ
)
はあせなむ
世
(
よ
)
ありとも
106
大和
(
やまと
)
男子
(
をのこ
)
の
益良夫
(
ますらを
)
が
107
一旦
(
いつたん
)
思
(
おも
)
ひ
立
(
た
)
ちし
事
(
こと
)
108
通
(
とほ
)
さにやおかぬ
弓張
(
ゆみはり
)
の
109
月
(
つき
)
に
誓
(
ちか
)
ひて
突
(
つ
)
き
貫
(
ぬ
)
かむ
110
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はスマートを
111
伴
(
ともな
)
ひ
一人
(
ひとり
)
出
(
い
)
でませど
112
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
曲津見
(
まがつみ
)
や
113
高姫司
(
たかひめつかさ
)
がいろいろと
114
姿
(
すがた
)
を
変
(
へん
)
じ
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へ
115
もしも
艱
(
なや
)
ませまつりなば
116
大神業
(
だいしんげふ
)
は
如何
(
いか
)
にして
117
完成
(
くわんせい
)
すべき
道
(
みち
)
やある
118
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
は
綺羅星
(
きらぼし
)
の
119
如
(
ごと
)
くに
数多
(
あまた
)
ましませど
120
此
(
この
)
姫君
(
ひめぎみ
)
に
勝
(
まさ
)
りたる
121
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
は
稀
(
まれ
)
なれば
122
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
はたとへ
死
(
し
)
すとても
123
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
を
124
助
(
たす
)
け
守
(
まも
)
らにや
居
(
を
)
らうまい
125
身
(
み
)
も
魂
(
たましひ
)
も
打
(
う
)
ち
捨
(
す
)
てて
126
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
ふる
吾々
(
われわれ
)
は
127
如何
(
いか
)
なる
敵
(
てき
)
も
怖
(
おそ
)
れむや
128
野
(
の
)
は
青々
(
あをあを
)
と
生
(
お
)
ひ
茂
(
しげ
)
り
129
風
(
かぜ
)
暖
(
あたた
)
かく
薫
(
かを
)
りつつ
130
蝶
(
てふ
)
舞
(
ま
)
ひ
遊
(
あそ
)
ぶ
野辺
(
のべ
)
の
花
(
はな
)
131
菫
(
すみれ
)
、
蒲公英
(
たんぽぽ
)
、
紫雲英
(
げんげばな
)
132
咲
(
さ
)
き
誇
(
ほこ
)
りたる
道
(
みち
)
の
上
(
うへ
)
133
其
(
その
)
中心
(
ちうしん
)
を
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く
134
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
をば
135
旅行
(
りよかう
)
なしつる
心地
(
ここち
)
なり
136
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
137
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
御
(
おん
)
上
(
うへ
)
を
138
守
(
まも
)
らせたまへ
大御神
(
おほみかみ
)
139
珍
(
うづ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
願
(
ね
)
ぎまつる』
140
と
歌
(
うた
)
ひつつ
道
(
みち
)
を
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
141
道
(
みち
)
の
片方
(
かたへ
)
の
榛
(
はり
)
の
木
(
き
)
の
下
(
もと
)
に、
142
一人
(
ひとり
)
の
美人
(
びじん
)
が
黒
(
くろ
)
い
犬
(
いぬ
)
をつれて
首
(
くび
)
をうなだれ、
143
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
をして
何
(
なに
)
か
思案
(
しあん
)
に
沈
(
しづ
)
む
風情
(
ふぜい
)
であつた。
144
イク、
145
サールの
両人
(
りやうにん
)
は
十間
(
じつけん
)
ばかり
道
(
みち
)
を
隔
(
へだ
)
てた
田
(
た
)
の
向
(
むか
)
ふに
女
(
をんな
)
の
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
るのを
眺
(
なが
)
め、
146
つと
立留
(
たちど
)
まり、
147
イク
『オイ、
148
サール、
149
あの
女
(
をんな
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
によく
似
(
に
)
て
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
150
そしてスマートによく
似
(
に
)
た
犬
(
いぬ
)
まで
傍
(
そば
)
について
居
(
ゐ
)
る。
151
一
(
ひと
)
つお
尋
(
たづ
)
ねして
見
(
み
)
ようぢやないか』
152
サール
『ウン、
153
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
ではよく
似
(
に
)
て
厶
(
ござ
)
るやうだが、
154
些
(
すこ
)
し
顔
(
かほ
)
が
長
(
なが
)
いなり、
155
背
(
せ
)
が
高過
(
たかす
)
ぎるぢやないか。
156
そしてあの
犬
(
いぬ
)
もスマートから
見
(
み
)
れば、
157
どこともなしに
容積
(
かさ
)
がないやうだ。
158
又
(
また
)
昨夜
(
ゆうべ
)
の
曲神
(
まがかみ
)
奴
(
め
)
が
第二
(
だいに
)
の
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
を
立
(
た
)
てよつて、
159
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
艱
(
なや
)
めようとして
居
(
ゐ
)
るのかも
知
(
し
)
れないぞ。
160
うつかり
相手
(
あひて
)
になつては
不利益
(
ふりえき
)
だから、
161
見
(
み
)
ぬ
顔
(
かほ
)
して
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
162
イク
『それもさうだが、
163
何
(
なん
)
だか
心配
(
しんぱい
)
さうな
顔
(
かほ
)
をして
居
(
ゐ
)
るぞ。
164
彼処
(
あすこ
)
は
川側
(
かはぶち
)
だから、
165
身投
(
みな
)
げでもする
積
(
つも
)
りぢやなからうかな』
166
サール
『サア、
167
あの
様子
(
やうす
)
では
何
(
なん
)
とも
判別
(
はんべつ
)
がつかないよ。
168
まア
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
で
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へようぢやないか』
169
イク
『ウン、
170
よからう』
171
と、
172
二人
(
ふたり
)
は
暫
(
しば
)
し
女
(
をんな
)
の
挙動
(
きよどう
)
を
看守
(
みまも
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
173
忽
(
たちま
)
ち
女
(
をんな
)
は
榛
(
はり
)
の
木
(
き
)
に
細帯
(
ほそおび
)
を
投
(
な
)
げかけ、
174
プリンプリンとぶら
下
(
さが
)
つた。
175
傍
(
そば
)
に
居
(
ゐ
)
た
黒犬
(
くろいぬ
)
は
悲鳴
(
ひめい
)
をあげ、
176
二人
(
ふたり
)
の
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
177
前足
(
まへあし
)
で
空
(
くう
)
をかきながら
救
(
すく
)
ひを
求
(
もと
)
むるものの
如
(
ごと
)
くであつた。
178
イク
『オイ、
179
サール、
180
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
後継
(
あとつぎ
)
が
出来
(
でき
)
たぢやないか、
181
随分
(
ずいぶん
)
苦
(
くる
)
しさうにやつてけつかる。
182
何
(
なん
)
と
無細工
(
ぶさいく
)
なものだなア、
183
あれを
見
(
み
)
い、
184
洟
(
はな
)
を
垂
(
た
)
らしよつて、
185
あの
態
(
ざま
)
つたら
見
(
み
)
られたものぢやない。
186
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
が
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
のブリブリして
洟
(
はな
)
をたらした
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
められた
時
(
とき
)
にや、
187
何
(
なん
)
とした
馬鹿
(
ばか
)
な
奴
(
やつ
)
だ、
188
情
(
なさけ
)
ない
男
(
をとこ
)
だとキツト
思
(
おも
)
はれたに
違
(
ちが
)
ひないぞ。
189
人
(
ひと
)
の
姿
(
ふり
)
見
(
み
)
て
吾
(
わが
)
姿
(
ふり
)
直
(
なほ
)
せと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるからなア』
190
サール
『オイ、
191
イク、
192
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
ぢやないよ。
193
人
(
ひと
)
の
危難
(
きなん
)
を
見
(
み
)
て
批評
(
ひひやう
)
所
(
どころ
)
ぢやない。
194
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
絶命
(
ことき
)
れて
了
(
しま
)
ふから、
195
サア
貴様
(
きさま
)
と
二人
(
ふたり
)
で
助
(
たす
)
けてやらうぢやないか』
196
イク
『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
は、
197
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
荒男
(
あらをとこ
)
の
首吊
(
くびつ
)
り
二人
(
ふたり
)
まで
御
(
お
)
助
(
たす
)
けなさつたのだ、
198
高
(
たか
)
が
女
(
をんな
)
の
首吊
(
くびつ
)
り
一人
(
ひとり
)
に
男
(
をとこ
)
が
二人
(
ふたり
)
まで
行
(
ゆ
)
かなくても
貴様
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
で
結構
(
けつこう
)
ぢや。
199
俺
(
おれ
)
は
此処
(
ここ
)
で
水晶玉
(
すいしやうだま
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
をして
居
(
ゐ
)
るから……
汚
(
けが
)
れたものに
触
(
さは
)
ると
玉
(
たま
)
が
汚
(
けが
)
れるからのう、
200
貴様
(
きさま
)
往
(
い
)
つて
助
(
たす
)
けて
来
(
こ
)
い』
201
サール
『
何
(
なん
)
だか
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
くて
仕方
(
しかた
)
がない、
202
イクよ、
203
せめて
傍
(
そば
)
までついて
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れないか。
204
さうしたら
俺
(
おれ
)
が
一人
(
ひとり
)
で
助
(
たす
)
けてやるから』
205
イク
『エエ
意気地
(
いくぢ
)
のない
男
(
をとこ
)
だなア、
206
サア
行
(
ゆ
)
かう』
207
とサールを
促
(
うなが
)
し
榛
(
はり
)
の
木
(
き
)
の
下
(
もと
)
に
歩
(
あし
)
を
急
(
いそ
)
いだ。
208
女
(
をんな
)
は
真青
(
まつさを
)
になつて、
209
最早
(
もはや
)
手足
(
てあし
)
も
動
(
うご
)
かず、
210
ブラリと
吊柿
(
つるし
)
のやうに
垂
(
さが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
211
サールは、
212
手早
(
てばや
)
く
女
(
をんな
)
を
抱
(
いだ
)
き、
213
サール
『アヽ
何
(
なん
)
と
柄
(
がら
)
にも
似合
(
にあ
)
はぬ
重
(
おも
)
い
女
(
をんな
)
だなア、
214
此奴
(
こいつ
)
ア
化州
(
ばけしう
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ』
215
と
云
(
い
)
ひながら
助
(
たす
)
け
下
(
おろ
)
した。
216
女
(
をんな
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
気
(
き
)
がついたらしく、
217
キヨロキヨロ
其処辺
(
そこら
)
を
見廻
(
みまは
)
し、
218
女
『ああお
前
(
まへ
)
さまは
何処
(
どこ
)
のお
方
(
かた
)
か
知
(
し
)
らぬが、
219
私
(
わし
)
が
折角
(
せつかく
)
天国
(
てんごく
)
の
旅
(
たび
)
をしかけて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
を、
220
殺生
(
せつしやう
)
な、
221
なぜ
邪魔
(
じやま
)
をするのだい。
222
よい
加減
(
かげん
)
に
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
ける
宣伝使
(
せんでんし
)
が
悪戯
(
いたづら
)
をして
置
(
お
)
きなさいよ』
223
と
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
ふかと
思
(
おも
)
へば、
224
反対
(
はんたい
)
に
女
(
をんな
)
は
仏頂面
(
ぶつちやうづら
)
をして
怒
(
おこ
)
り
出
(
だ
)
した。
225
サール
『オイ、
226
何処
(
どこ
)
の
女
(
をんな
)
か
知
(
し
)
らぬが、
227
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
うて
不足
(
ふそく
)
を
云
(
い
)
ふものが
何処
(
どこ
)
にあるかい、
228
のうイク、
229
こんな
事
(
こと
)
なら
助
(
たす
)
けてやるぢやなかつたに、
230
チエー
馬鹿
(
ばか
)
にしてけつかる。
231
ハハ
此奴
(
こいつ
)
はキ
印
(
じるし
)
だな』
232
女
『キ
印
(
じるし
)
でも
構
(
かま
)
うて
下
(
くだ
)
さるな。
233
朋友
(
ともだち
)
でもなければ
親類
(
しんるゐ
)
でもなし、
234
お
前
(
まへ
)
さまに
助
(
たす
)
けられる
理由
(
りいう
)
が
無
(
な
)
いぢやないか』
235
サール『それだつて
此
(
この
)
犬
(
いぬ
)
奴
(
め
)
、
236
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
に
向
(
む
)
いて
救
(
すく
)
ひを
求
(
もと
)
めたものだから、
237
忙
(
いそが
)
しい
道中
(
だうちう
)
を
繰合
(
くりあは
)
せて
助
(
たす
)
けに
来
(
き
)
てやつたのだ』
238
女
『ヘン
阿呆
(
あはう
)
らしい、
239
犬
(
いぬ
)
が
物
(
もの
)
言
(
い
)
ひますか。
240
お
前
(
まへ
)
さまも
見
(
み
)
た
割
(
わ
)
りとは
馬鹿
(
ばか
)
だな。
241
人
(
ひと
)
の
目的
(
もくてき
)
の
邪魔
(
じやま
)
をして
置
(
お
)
きながら、
242
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
へなどとは
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
だ。
243
これ
位
(
ぐらゐ
)
分
(
わか
)
らぬ
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
が
又
(
また
)
と
世界
(
せかい
)
にあるだらうかなア、
244
私
(
わたし
)
は
死
(
し
)
ぬのが
目的
(
もくてき
)
だ。
245
その
目的
(
もくてき
)
を
妨害
(
ばうがい
)
して
置
(
お
)
いて
何
(
なん
)
だ、
246
お
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
ふの
云
(
い
)
はぬのと……
謝罪
(
あやま
)
りなさい、
247
怪
(
け
)
しからぬ
人足
(
にんそく
)
だ』
248
イク『こりや
女
(
をんな
)
、
249
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
馬鹿
(
ばか
)
だとは
何
(
なん
)
だ。
250
余
(
あま
)
り
口
(
くち
)
が
過
(
す
)
ぎるぢやないか。
251
貴様
(
きさま
)
は
死
(
し
)
ぬのが
目的
(
もくてき
)
だと
申
(
まを
)
したが、
252
死
(
し
)
んでどうする
積
(
つも
)
りだ。
253
エーン、
254
何
(
なん
)
ぞいい
目的
(
もくてき
)
があるのか』
255
女
『ヘン
馬鹿
(
ばか
)
だなア、
256
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
霊界
(
れいかい
)
の
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つて
耐
(
たま
)
らうかい。
257
馬鹿
(
ばか
)
と
云
(
い
)
うたのは
外
(
ほか
)
でもないが、
258
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
命
(
いのち
)
がけの
事
(
こと
)
をして
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
け、
259
さうして
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
から
褒
(
ほ
)
めて
貰
(
もら
)
はうと
考
(
かんが
)
へたり、
260
一口
(
ひとくち
)
の
礼
(
れい
)
でも
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
はうと
考
(
かんが
)
へる
奴
(
やつ
)
ばかりだ。
261
それだから
馬鹿
(
ばか
)
と
云
(
い
)
ふのだよ。
262
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けてやつた
女
(
をんな
)
に、
263
眉毛
(
まゆげ
)
を
読
(
よ
)
まれ、
264
尻
(
しり
)
の
毛
(
け
)
をぬかれ、
265
現
(
うつつ
)
をぬかし、
266
涎
(
よだれ
)
を
繰
(
く
)
り、
267
終
(
しまひ
)
には
先祖譲
(
せんぞゆづ
)
りの
財産
(
ざいさん
)
迄
(
まで
)
すつかり
取
(
と
)
られる
馬鹿
(
ばか
)
の
多
(
おほ
)
い
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だよ。
268
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
も
俺
(
おれ
)
が
女
(
をんな
)
だと
思
(
おも
)
うて
助
(
たす
)
けに
来
(
き
)
たのだらう。
269
どうだ、
270
これから
骨
(
ほね
)
を
抜
(
ぬ
)
き
取
(
と
)
り、
271
章魚
(
たこ
)
のやうにグニヤグニヤに
蕩
(
とろ
)
かしてやらうか。
272
俺
(
おれ
)
の
目
(
め
)
は
千両目
(
せんりやうめ
)
と
云
(
い
)
うて、
273
一瞥
(
いちべつ
)
よく
城
(
しろ
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
274
山林
(
さんりん
)
を
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばす
威力
(
ゐりよく
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだぞ。
275
俺
(
おれ
)
のやうな
者
(
もの
)
が
娑婆
(
しやば
)
を
離
(
はな
)
れて
霊界
(
れいかい
)
に
行
(
い
)
つたならば、
276
娑婆
(
しやば
)
の
邪魔者
(
じやまもの
)
がなくなつて、
277
人民
(
じんみん
)
がどれ
位
(
くらゐ
)
喜
(
よろこ
)
ぶか
知
(
し
)
れないのだ。
278
また
生
(
い
)
かしやがるものだから、
279
この
涼
(
すず
)
しい
目
(
め
)
をもつて
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
を
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
骨
(
ほね
)
を
抜
(
ぬ
)
き、
280
足腰
(
あしこし
)
の
立
(
た
)
たぬやうに
殺生
(
せつしやう
)
をしなくてはならぬワイ。
281
貴様
(
きさま
)
は
一人
(
ひとり
)
を
助
(
たす
)
けて
大
(
おほ
)
きな
害
(
がい
)
を
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
拡
(
ひろ
)
げようとする
頓馬
(
とんま
)
だから
馬鹿
(
ばか
)
と
云
(
い
)
つたのだ。
282
これ
二人
(
ふたり
)
の
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
、
283
分
(
わか
)
つたか。
284
分
(
わか
)
つたら
犬蹲
(
いぬつくばひ
)
となつてお
断
(
ことわ
)
りを
申
(
まを
)
せ』
285
サール
『
何
(
なん
)
とまア、
286
理窟
(
りくつ
)
と
云
(
い
)
ふものは、
287
どんなにでもつくものだなア。
288
まるで
高姫
(
たかひめ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
のやうな
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
すぢやないか、
289
のうイク』
290
イクは、
291
イク
『フン』
292
と
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
て、
293
女
(
をんな
)
の
顔
(
かほ
)
を
打
(
う
)
ち
眺
(
なが
)
め、
294
イク
『こんな
優
(
やさ
)
しい
顔
(
かほ
)
をしながら、
295
どこを
押
(
おさ
)
へたら、
296
あんな
悪垂口
(
あくたれぐち
)
が
出
(
で
)
るのだらうか』
297
と
頻
(
しき
)
りにみつめて
居
(
ゐ
)
ると、
298
女
(
をんな
)
は、
299
女
『
馬鹿
(
ばか
)
』
300
と
一声
(
いつせい
)
イクの
横面
(
よこづら
)
を
張
(
は
)
り
倒
(
たふ
)
した。
301
イクはヨロヨロとよろめいて
田圃
(
たんぼ
)
の
中
(
なか
)
に
倒
(
たふ
)
れた。
302
犬
(
いぬ
)
はイクの
懐
(
ふところ
)
の
水晶玉
(
すいしやうだま
)
をくはへるや
否
(
いな
)
や、
303
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
駆出
(
かけだ
)
した。
304
サールは、
305
サール
『こりや
畜生
(
ちくしやう
)
待
(
ま
)
て』
306
と
叫
(
さけ
)
ぶのを
見
(
み
)
て、
307
女
(
をんな
)
は
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
笑
(
わら
)
ひ、
308
女
『ホホホホホ、
309
馬鹿
(
ばか
)
だな、
310
俺
(
おれ
)
は
昨夜
(
さくや
)
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
で
貴様
(
きさま
)
を
嚇
(
おど
)
さうとした
怪物
(
くわいぶつ
)
だ。
311
貴様
(
きさま
)
に
水晶玉
(
すいしやうだま
)
を
持
(
も
)
たせて
置
(
お
)
くと
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
邪魔
(
じやま
)
になるから、
312
計略
(
けいりやく
)
を
以
(
もつ
)
て
取
(
と
)
つてやつたのだ。
313
アバヨ、
314
イヒヒヒヒ』
315
と
白
(
しろ
)
い
歯
(
は
)
を
出
(
だ
)
し、
316
腮
(
あご
)
をしやくりながら
大狸
(
おほだぬき
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はし、
317
南
(
みなみ
)
をさして
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
した。
318
サールはイクを
抱起
(
だきおこ
)
し、
319
ブツブツ
小言
(
こごと
)
を
言
(
い
)
ひながら、
320
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
小北山
(
こぎたやま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
参拝
(
さんぱい
)
せむと、
321
間抜
(
まぬ
)
けた
面
(
つら
)
をして
力
(
ちから
)
なげにトボトボと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
322
傍
(
かたはら
)
の
密樹
(
みつじゆ
)
の
枝
(
えだ
)
に
梟
(
ふくろ
)
がとまつて、
323
『ホー、
324
ホー、
325
ホー
助
(
すけ
)
、
326
ホー
助
(
すけ
)
、
327
ころりと
取
(
と
)
られたなア、
328
ホー、
329
ホー、
330
ホー
助
(
すけ
)
、
331
アツポー アツポー』
332
と
啼
(
な
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
333
(
大正一二・一・二九
旧一一・一二・一三
加藤明子
録)
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