霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 天賊(てんぞく)〔一三五〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第3篇 衡平無死 よみ(新仮名遣い):こうへいむし
章:第14章 天賊 よみ(新仮名遣い):てんぞく 通し章番号:1350
口述日:1923(大正12)年02月09日(旧12月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
文助は悄然として、黒蛇に囲まれた道を神に任せてまっしぐらに進んで行ったところ、沼に行き当たった。どうしたことか、黒蛇は沼の中には襲ってこなかった。
文助は怪しい虫が這いあがってくるのを薙ぎ払い落としつつ進んで行くと、たくさんの人間の頭が水面に浮かんでいるところにやってきた。よくみれば、今まで自分が霊祭りをしてやった知己や朋友、また現世にいるはずの人々であった。
文助は、その中の一人・久助という男に声をかけ、なぜこんなところにいるのかと尋ねた。久助は、文助が神様の職権を横領して天国へ上げてやろうと慢心して霊祭りをしたから、本来天国に行くべき自分の先祖までがこんなところに落とされてしまったと非難した。
文助は、自分が霊祭りをしたとこに、久助は霊媒に懸って天国へ救われたと言ったではないか、と反論した。久助は、天国へ霊を上げるのは大神様だけだ、慢心した宣伝使の言霊を聞いて、兇党界の悪霊が集まり、自分や先祖の名を騙ったのだと答えた。
文助は、久助たちは罪を犯したからここにいるのだ、自分が救ってやる、とあくまで自説を曲げない。久助が下知すると、沼の亡者たちの頭が水面に大小無数に浮かび上がり、口から真っ黒な水を吹いて文助を襲撃する。
文助は沼の中を一生懸命に泳ぎ走り、ようやく向こう岸に着いた。文助が後を振り返ると、たくさんの亡者の首が水際まで追いかけてきて、恨めしそうな顔をしている。
久助の頭が進んでくると文助に向かい、つい今しがた、瑞の御魂が現れて自分たちを沼から救い出してくれるという御沙汰が下ったところだから、文助への怨みはきれいさっぱり忘れてやる、と告げた。
そして久助は、自分たちはもともと悪人ではなく、天国へ進むだけの資格が合ったにもかかわらず、案内者の不徳によって苦しんでいたのだと告げ、これからは自分の神力で祖先の霊や病気が助かるなどと慢心してはならない、と戒めを与えた。
無数の亡者の頭はにわかに白煙となり、紫色に変じると月のような玉になり、たくさんの星のようなものがその周囲に集まった。そして次第に南の天を指して上って行った。
文助はこの態を見て初めて自分の慢心を悟った。文助は自分こそ天の賊であったと懺悔しながら、荒風が猛る萱野ケ原を進んで行く。ここには草原の中にかなり大きな平たい石があって、むくむくと動いている。文助は立ち止まって、何事かと石を眺めていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2019-11-13 23:20:20 文字数:2957 OBC :rm5214
愛善世界社版:187頁 八幡書店版:第9輯 445頁 修補版: 校定版:195頁 普及版:80頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 第四篇 神霊世界 > 第二十五章 天賊
001 文助(ぶんすけ)は悄然(せうぜん)として黒蛇(くろへび)に天地(てんち)四方(しはう)を包(つつ)まれながら、002何事(なにごと)も神(かみ)に任(まか)して驀地(まつしぐら)に進(すす)み行(ゆ)く。003ピタリと玉子草(たまこ)の生(は)えた沼(ぬま)に行当(ゆきあた)つた、004何(ど)うしてもここを跋渉(ばつせふ)せなくては前進(ぜんしん)することは出来(でき)ぬ。005黒蛇(くろへび)は此(この)沼(ぬま)の畔(ほとり)まで追(お)つかけて来(き)たが、006何(ど)うしたものか水中(すいちう)へは襲(おそ)うて来(こ)なかつた。007文助(ぶんすけ)はヤツと蛇(へび)の難(なん)を遁(のが)れ一息(ひといき)したと思(おも)へば、008此(この)沼(ぬま)を渡(わた)らねばならぬ、009どこ迄(まで)広(ひろ)いか遠(とほ)いか見当(けんたう)のつかぬシクシク原(ばら)である。010そして怪(あや)しの虫(むし)が足(あし)にたかつて来(き)て登(のぼ)りつき、011尺取虫(しやくとりむし)の様(やう)な恰好(かつかう)で顔(かほ)の方(はう)まで這(は)うてくる其(その)気持(きもち)の悪(わる)さ、012消(き)え入(い)るばかりに思(おも)はれて来(き)た。013力(ちから)限(かぎ)りに之(これ)を薙払(なぎはら)ひ、014むしつては落(おと)し、015漸(やうや)く顔(かほ)だけは中立(ちうりつ)地帯(ちたい)の安全(あんぜん)を得(え)て進(すす)んで行(ゆ)くと、016沢山(たくさん)な人間(にんげん)の頭(あたま)が水面(すいめん)に浮(うか)んでゐる。017よくよく見(み)れば、018自分(じぶん)が今(いま)迄(まで)霊祭(みたままつ)りをしてやつた知己(ちき)や朋友(ほういう)の霊界(れいかい)に行(い)つた者(もの)及(およ)びまだ現世(げんせ)に居(を)る筈(はず)の人間(にんげん)の顔(かほ)である。019文助(ぶんすけ)は此(この)時(とき)は既(すで)に目(め)が余程(よほど)明(あか)くなつてゐた。020そして其(その)声(こゑ)の色(いろ)によつて、021現界(げんかい)で知己(ちき)となつた信者(しんじや)は皆(みな)悟(さと)ることを得(え)た。022真先(まつさき)に現(あら)はれた人間(にんげん)の頭(あたま)は、023小北山(こぎたやま)に永(なが)らく参詣(さんけい)し、024ヘグレ神社(じんしや)の信者(しんじや)であつた久助(きうすけ)といふ男(をとこ)である。
025文助『オイ、026お前(まへ)は久助(きうすけ)さまぢやないか、027何(なに)しにこんな所(ところ)に迷(まよ)うてゐるのだい、028結構(けつこう)な天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し霊祭(みたままつり)までしてやつてあるのに、029なぜこんな所(ところ)にうろついてゐるのか』
030久助『お前(まへ)が神(かみ)様(さま)の職権(しよくけん)を横領(わうりやう)して猪口才(ちよこざい)な霊祭(みたままつり)をしてやらうの、031天国(てんごく)へ上(あ)げてやらうのと慢心(まんしん)を致(いた)したものぢやから、032天国(てんごく)へ行(ゆ)くべき俺(おれ)の先祖(せんぞ)までが、033これ此(この)通(とほ)り、034こんな所(ところ)に堕(おと)されてゐるのだ。035祝詞(のりと)のお蔭(かげ)で、036地獄(ぢごく)へまでは行(ゆ)かないが、037地獄(ぢごく)に等(ひと)しいこんな沼(ぬま)の中(なか)で苦(くる)しんでゐるのは、038皆(みな)貴様(きさま)が神(かみ)さま気取(きどり)になつて、039神(かみ)様(さま)から貰(もら)うた俺(おれ)たちの霊(みたま)を左右(さいう)致(いた)したからだ。040ササ何(ど)うしてくれる、041大先祖(おほせんぞ)が地獄(ぢごく)に堕(お)ちてるから、042霊祭(みたままつり)をして高天原(たかあまはら)へ上(あ)げてやらうなどと吐(ほざ)きやがつて、043こんな所(ところ)へ押込(おしこ)めておいたぢやないか』
044文助『ソリヤ貴様(きさま)が悪(わる)いのだよ。045おれが霊祭(みたままつり)をした時(とき)にや、046貴様(きさま)霊媒(れいばい)に憑(かか)つて……お蔭(かげ)で天国(てんごく)へ救(すく)はれた、047地獄(ぢごく)の苦(く)を遁(のが)れました……と喜(よろこ)びよつたぢやないか、048一旦(いつたん)天国(てんごく)へ上(のぼ)つて又(また)悪(あく)を致(いた)し、049こんな所(ところ)へ落(おと)されたのだらう、050そんな不足(ふそく)は聞(き)きませぬぞや』
051久助『今(いま)の宣伝使(せんでんし)といふ奴(やつ)は、052皆(みな)自分(じぶん)が神(かみ)様(さま)の気取(きどり)になり、053神(かみ)様(さま)の神徳(しんとく)を横領(わうりやう)して、054平然(へいぜん)と構(かま)へてゐる天賊(てんぞく)だから、055そんな奴(やつ)の言霊(ことたま)が何(ど)うして大神(おほかみ)様(さま)の耳(みみ)に達(たつ)するか、056皆(みな)兇党界(きようたうかい)の悪霊(あくれい)が、057貴様(きさま)の声(こゑ)を聞(き)いて集(あつ)まり来(きた)り、058俺(おれ)達(たち)の先祖(せんぞ)の名(な)を騙(かた)り、059天国(てんごく)へ助(たす)けてくれたの何(なん)のと、060嘘(うそ)を言(い)つてゐるのだ。061霊(みたま)を天国(てんごく)へ上(あ)げるものは大神(おほかみ)様(さま)よりないのだ、062又(また)大神(おほかみ)様(さま)の聖霊(せいれい)に充(みた)された予言者(よげんしや)のみ、063之(これ)をよくするのだ。064其(その)外(ほか)の宣伝使(せんでんし)の分際(ぶんざい)として、065何(ど)うして結構(けつこう)な神(かみ)様(さま)の分霊(ぶんれい)が左右(さいう)されるか、066不心得(ふこころえ)にも程(ほど)があるぞ。067俺(おれ)の子孫(しそん)は貴様(きさま)等(ら)盲(めくら)審神者(さには)に騙(だま)されて、068自分(じぶん)の先祖(せんぞ)は天国(てんごく)へ行(い)つて居(を)ると云(い)つて喜(よろこ)んでゐるが、069子孫(しそん)の供物(くもつ)は皆(みな)兇党界(きようたうかい)にしてやられ、070可愛(かあい)い子孫(しそん)の側(そば)へも近(ちか)づくことが出来(でき)ない様(やう)にしてしまつたのだ。071お前(まへ)に限(かぎ)らずすべての宣伝使(せんでんし)は自我心(じがしん)が強(つよ)く癲狂(てんきやう)痴呆(ちはう)の輩(やから)だから、072大(だい)それた神(かみ)様(さま)の権利(けんり)を代理(だいり)するやうな考(かんが)へでゐるのだから困(こま)つたものだ。073地獄界(ぢごくかい)の案内者(あんないしや)といふのは、074貴様(きさま)等(ら)如(ごと)き天賊(てんぞく)的(てき)プロパガンディストの仕業(しわざ)だ。075サア是(これ)から俺(おれ)たちの先祖(せんぞ)や知己(ちき)を迷(まよ)はしてくれたお礼(れい)だ、076チツタ苦(くる)しうても辛抱(しんばう)せい。077これから暫(しばら)く此(この)沼(ぬま)の中(なか)へ沈(しづ)めてブルブルをさしてやらう。078さうなとせなくちや、079俺(おれ)たちの虫(むし)がいえないワ、080のう熊八(くまはち)、081テル、082ヨク、083七(しち)、084ヨツ、085賢太郎(けんたらう)、086権州(ごんしう)、087さうぢやないか。088お富(とみ)、089お竹(たけ)、090お夏(なつ)貴様(きさま)もチツと来(こ)い、091此奴(こいつ)の為(ため)には被害者(ひがいしや)だ』
092といふや否(いな)や、093「ワーツ」と蜂(はち)の巣(す)を破(やぶ)つたやうな声(こゑ)を出(だ)して、094水面(すいめん)に各(おのおの)首(くび)をつき出(だ)した。095数百千(すうひやくせん)のゴム毬(まり)を水中(すいちう)に投(な)げたやうに、096円(まる)い頭(あたま)が四方(しはう)八方(はつぱう)から数(かず)限(かぎ)りもなく浮上(うきあが)つて来(き)た。
097文助『今(いま)文助(ぶんすけ)が言霊(ことたま)を奏上(そうじやう)して助(たす)けてやらう。098身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)せと云(い)ふことがある。099知(し)らず知(し)らずの御(ご)無礼(ぶれい)御(お)気障(きざは)りだ。100神(かみ)様(さま)も神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)して下(くだ)さるだらう。101これから貴様(きさま)たちも、102俺(おれ)が宣(の)り直(なほ)しをするから浮(うか)べるだらう、103マアさう一時(いつとき)に喧(やかま)しくいふない。104惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
105久助『コリヤ、106久助(きうすけ)は一同(いちどう)の代表者(だいへうしや)だが、107そんな濁(にご)つた言霊(ことたま)は益々(ますます)俺(おれ)たちを苦(くる)しむるものだ。108そして言霊(ことたま)を奏上(そうじやう)して救(すく)うてやらうとは何(なん)だ。109まだ貴様(きさま)は我(が)が折(を)れぬのか、110ここでお詫(わび)を致(いた)せばよし、111まだ我(が)をはるのなら、112此方(こちら)にも考(かんが)へがあるぞ』
113文助『俺(おれ)は何(なん)と云(い)つても、114貴様(きさま)達(たち)を悪(あく)に導(みちび)かうとしてやつたことぢやない、115どうぞよくしてやらうと思(おも)ふから、116一生(いつしやう)懸命(けんめい)に霊祭(みたままつり)をしたり、117貴様(きさま)達(たち)の子孫(しそん)に言(い)ひ付(つ)けて鄭重(ていちよう)なお給仕(きふじ)をさしてるのだ。118そんな不足(ふそく)は聞(き)きたくはないワイ』
119久助『此奴(こいつ)ア何(なん)と云(い)つても駄目(だめ)だ。120オーイ、121皆(みな)の連中(れんぢう)、122餓鬼(がき)も人数(にんず)だ、123かかれ かかれ』
124と下知(げち)するや、125バサバサと水(みづ)をもぐつて幾千万(いくせんまん)とも限(かぎ)りなく大小(だいせう)無数(むすう)の頭(あたま)が浮(う)き上(あが)り、126口(くち)から各(おのおの)真黒(まつくろ)のエグイともにがいとも知(し)れぬ、127煙草(たばこ)の脂(ず)を溶(と)いたやうな水(みづ)を吹(ふ)き、128四方(しはう)八方(はつぱう)より襲撃(しふげき)する。129文助(ぶんすけ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、130早(はや)く岸(きし)に泳(およ)ぎつきたいものだと、131頭(あたま)に躓(つまづ)き乍(なが)ら目(め)も眩(くら)むばかりになつて、132殆(ほとん)ど二時(ふたとき)ばかりを無性(むしやう)矢鱈(やたら)にシクシク原(ばら)の膝(ひざ)を没(ぼつ)する許(ばか)りの沼(ぬま)を漸(やうや)く向岸(むかふぎし)に着(つ)いた。
133 後(あと)振返(ふりかへ)り見(み)れば、134沢山(たくさん)の首(くび)は水際(みづぎは)まで追(お)つかけ来(きた)り、135恨(うら)めしさうな顔(かほ)をして眺(なが)めてゐる。136久助(きうすけ)の頭(あたま)は真先(まつさき)に進(すす)んで、137目(め)を怒(いか)らし、
138久助『俺(おれ)達(たち)は貴様(きさま)の為(ため)に、139斯様(かやう)な所(ところ)へ押(お)し込(こ)められてゐるが、140素(もと)より案内者(あんないしや)の貴様(きさま)が悪(わる)かつた為(ため)に苦(くる)しんでゐるのだ。141決(けつ)して元(もと)よりの悪人(あくにん)ぢやない、142天国(てんごく)へ進(すす)むだけの資格(しかく)は持(も)つてゐるのだ。143其(その)証拠(しようこ)は常(つね)から神(かみ)様(さま)を信仰(しんかう)して来(き)たのだ。144今(いま)に瑞(みづ)の御霊(みたま)が現(あら)はれて、145水(みづ)の中(なか)から救(すく)つて下(くだ)さるといふ御(ご)沙汰(さた)が今(いま)下(くだ)つた所(ところ)だから、146最早(もはや)お前(まへ)を恨(うら)んだ所(ところ)で仕方(しかた)がない。147綺麗(きれい)薩張(さつぱり)と大神(おほかみ)様(さま)の徳(とく)に対(たい)して忘(わす)れてやるから、148これから先(さき)、149気(き)をつけたがよからうぞ。150キツと自分(じぶん)の神力(しんりき)で祖先(そせん)の霊(みたま)や人(ひと)の病気(びやうき)が助(たす)かるなぞと思(おも)うたら当(あて)が違(ちが)ふぞ。151皆(みな)人(ひと)をかやうな苦(くる)しい所(ところ)へおとすばかりだから、152別(わか)れに臨(のぞ)んで一言(いちごん)注意(ちゆうい)を与(あた)へておく。153何(いづ)れ八衢(やちまた)において会(あ)ふかも知(し)れない、154それまでにチツと心(こころ)を直(なほ)しておくがよからう』
155と言(い)ふより早(はや)く、156無数(むすう)の頭(あたま)は俄(にはか)に白煙(はくえん)となつて、157沼(ぬま)の二三間(にさんげん)許(ばか)り上(うへ)に渦(うづ)をまき、158遂(つひ)にはそれが紫色(むらさきいろ)に変(へん)じ、159月(つき)の如(ごと)き玉(たま)となり、160沢山(たくさん)の星(ほし)の様(やう)なものが其(その)周囲(しうゐ)に集(あつ)まり、161次第(しだい)々々(しだい)に昇騰(しようとう)して南(みなみ)の天(てん)を指(さ)して昇(のぼ)つて行(ゆ)く。162其(その)中(うち)の最(もつと)も大(だい)なる月(つき)の如(ごと)き玉(たま)は久助(きうすけ)の精霊(せいれい)であつた。163其(その)他(た)の小(ちひ)さき星(ほし)の如(ごと)き光(ひかり)は、164何(いづ)れも神(かみ)の道(みち)に在(あ)つて忠実(ちうじつ)なる信者(しんじや)なりし者(もの)が、165宣伝使(せんでんし)に誤(あやま)られて、166一(いち)時(じ)ここに苦悶(くもん)を続(つづ)けてゐたのである。167文助(ぶんすけ)は此(この)態(てい)を見(み)て、168初(はじ)めて悟(さと)り………
169文助『ああ自分(じぶん)は実(じつ)に慢心(まんしん)をして居(を)つた、170いかにも久助(きうすけ)の言(い)つた通(とほり)だ。171厳(いづ)の御霊(みたま)、172瑞(みづ)の御霊(みたま)の大神(おほかみ)様(さま)、173貴神(あなた)の御(ご)神徳(しんとく)を、174知(し)らず知(し)らずに慢心(まんしん)を致(いた)して自分(じぶん)の物(もの)と致(いた)して居(を)りました。175重々(ぢゆうぢゆう)の罪悪(ざいあく)をお許(ゆる)し下(くだ)さいませ。176御(ご)神諭(しんゆ)にある天(てん)の賊(ぞく)とは全(まつた)く吾々(われわれ)の事(こと)で厶(ござ)いました。177ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
178と詫(わ)びながら、179荒風(あらかぜ)たける萱野(かやの)ケ原(はら)を当途(あてど)もなく進(すす)んで行(ゆ)く。180後(あと)へ帰(かへ)らうとすれども、181何者(なにもの)か後(うしろ)より押(お)すやうに思(おも)へて、182一歩(いつぽ)も退(しりぞ)くことは出来(でき)ぬ。183只(ただ)機械(きかい)的(てき)に馬車馬(ばしやうま)的(てき)に、184何者(なにもの)にか制縛(せいばく)されつつあるやうな心地(ここち)で、185心(こころ)ならずも進(すす)み行(ゆ)くのであつた。186ここには草原(くさはら)の中(なか)に可(か)なり大(おほ)きな平(ひら)たい石(いし)があつて、187ムクムクと其(その)石(いし)が動(うご)いてゐる。188ハテ訝(いぶ)かしやと、189文助(ぶんすけ)は立止(たちど)まつて目(め)も放(はな)たず眺(なが)めてゐた。
190(大正一二・二・九 旧一一・一二・二四 松村真澄録)
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