霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 黄泉(よみ)帰(がへり)〔一三四五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第2篇 文明盲者 よみ(新仮名遣い):ぶんめいもうじゃ
章:第9章 黄泉帰 よみ(新仮名遣い):よみがえり 通し章番号:1345
口述日:1923(大正12)年01月30日(旧12月14日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
イクとサールは、お菊にもてなされて夜中ごろまで酒を勧め、互いに歌などを詠み交わして過ごしていた。イクとサールは、どうしても初稚姫にお供を許してもらえそうにないこと、夜が明けたらどうにかしてもう一度願い出て、それでも聞き入れられなければ自由行動でハルナの都まで行く覚悟であることなどを話し合っていた。
お菊はすでに初稚姫が小北山を発ったことを知っていたが、気の毒で二人にそのことを告げることはできなかった。お菊は、せっかくだからこの小北山に留まってはどうかと二人を慰め、歌を交わしながら夜を過ごしていた。
俄かに騒がしい人の声が聞こえ、お千代があわただしく入ってきた。お千代は文助の様子が変になったとお菊を呼びに来た。イクとサールも、お菊とお千代について文助の病室に駆けこんだ。見れば、松姫が一生懸命に魂返しの祝詞を奏上していた。
イクは夜光の玉を松姫に預けて文助の額に当てるように頼むと、自分たちは河鹿川で禊をしに出て行った。お菊も共に河に飛び込み、三人声をそろえて文助の蘇生を祈った。
河鹿川の激流に危険を冒して祈る三人の赤誠を、大神も赦し給うであろう。平素はいたずら好きで口が悪くあまり親切らしく見えないイクとサール、お転婆娘のお菊も、人の危難に際してはその赤心現れ、我が身の危険も忘れて神に祈る。これぞ全く美はしき人情の発露にして、神に従い、神を信じ、誠の道を悟りうるものでなくてはできない所為である。
三人は文助の身を気遣いながら帰ってきた。たちまちお菊は神がかり状態となって病床に駆けてきて、松姫の手から夜光の玉を受け取り、小声で称えながら何事か祈っている。イクとサールの両人は、裸のまま文助の足をもんだり息を吹いたり、あらゆる手段を尽くした。
文助はウンとひと声叫んで目を開け、あたりを見回した。文助は昏睡していた間に、初と徳と会ったり目が見えるようになって美しい光景を見たことを語った。文助がさまよったのは、第三天国の広大な原野であった。そこで初と徳の精霊と出会ったのである。
もとより初と徳は文助を尊敬していたが、一時の欲に駆られて高姫や妖幻坊に誤られ、文助に怪我を負わせる騒動が勃発したのであった。初と徳の精霊は、呼び戻すために第三天国に現れたのであった。そこへ、熱心なイク、サール、お菊、松姫らの祈祷の力によって現世の残務を果たすべく、蘇生せしめられたのであった。
文助は肉体的には目が不自由であったが、霊界に至るやたちまち外部的状態を脱出し、第二の中間状態を越えて、第三の内分的状態にまで急速度をもって進んだ。そのため、神に親しみ神に仕えたる赤心のみ残存し、心の眼が開けて天界を見ることができたのであった。
文助はまず天の八衢についていたが、なぜこのようなところへ来たかについては一行考えなかった。そして現界に残してきた人々のこともすっかり忘れていた。ただ、神に関する知識のみますます明瞭になっていた。
文助は八衢の守衛にここがどこか尋ねたが、守衛は、文助がまだ現界に寿命を残していることを知っていたので、答えることはできないときっぱり応じた。文助は何とはなしに愉快な気分に満たされ、足も軽々と進んで行った。
途中、現界にある知己友人の精霊や、すでに帰幽した人間にも出会った。されどそのときの彼の心は、帰幽した者と帰幽していない者を判別する考えはなく、いずれも自分と同じように肉身を持って働いていると思っていた。
人間は現世において神に背き、真理を無視し、社会に大害を与えない限り、死後は肉体上における欲望や観念、自愛の悪念は払しょくされ、内分に属する善のみ自由に活躍することを得る故に、死後の安逸なる生涯を楽しむことができるのである。
肉体のあるうちはどうしても善悪混交、美醜相交わる中有的生涯に甘んじなくてはならない。しかし虚偽と罪悪に満ちた地獄界に籍を置く人間は、生前においてせめて中有界なりと救われなくては、死後の生涯を安楽ならしむることは不可能である。
神は至仁至愛にましますがゆえに、いかなるものもあらゆる方法手段を尽くしてこれを天国に導き、天国の住民として霊界のために働かしめ楽しき生涯を送らしめんと念じ給うのである。
神は宇宙を一個の人格者とみなしてこれを統制し給う。ゆえに、いかなる悪人といえども、一個人の身体の一部である。神は、人間をはじめ宇宙一切を吾が身のごとく愛し給う。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-11-19 14:59:56 文字数:5425 OBC :rm5209
愛善世界社版:128頁 八幡書店版:第9輯 425頁 修補版: 校定版:134頁 普及版:56頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 第四篇 神霊世界 > 第二十一章 黄泉帰
001 侠客育(けふかくそだ)ちのお菊(きく)は年(とし)にも似合(にあ)はず人馴(ひとな)れがして、002二人(ふたり)の男(をとこ)をよくもてなし、003夜中頃(よなかごろ)まで酒(さけ)を勧(すす)め互(たがひ)に歌(うた)などを詠(よ)み交(かは)してゐた。004イク、005サールは初稚姫(はつわかひめ)にお供(とも)を願(ねが)つた処(ところ)、006あの様子(やうす)では到底(たうてい)許(ゆる)されさうにもない。007夜光(やくわう)の玉(たま)は戴(いただ)いて嬉(うれ)しいが、008其(その)為(ため)に自分(じぶん)の目的(もくてき)を遮(さへぎ)られるのは、009又(また)格別(かくべつ)に苦(くる)しい。010初稚姫(はつわかひめ)さまも宝(たから)を与(あた)へて、011吾々(われわれ)の進路(しんろ)を壅塞(ようそく)せむとし給(たま)ふ、012其(その)やり口(くち)、013随分(ずいぶん)お人(ひと)が悪(わる)い……と時々(ときどき)愚痴(ぐち)りながら、014お菊(きく)の酌(しやく)でチビリチビリと飲(の)んでゐた。015されど神経(しんけい)興奮(こうふん)して、016或(あるひ)は悲(かな)しく或(あるひ)は淋(さび)しくなり、017ま一度(いちど)夜(よ)が明(あ)けたら、018所在(あらゆる)方法(はうはふ)を以(もつ)て姫(ひめ)に願(ねが)ひ出(い)で、019どうしても聞(き)かれなければ、020自分(じぶん)等(ら)二人(ふたり)は自由(じいう)行動(かうどう)をとり、021後(あと)になり先(さき)になりしてハルナの都(みやこ)まで行(ゆ)かねばおかぬ。022神(かみ)様(さま)が吾々(われわれ)の決心(けつしん)を試(ため)して厶(ござ)るのかも知(し)れぬなどと、023積(つ)んだり崩(くづ)したり、024ひそびそ話(ばなし)に時(とき)を移(うつ)した。025お菊(きく)は既(すで)に既(すで)に初稚姫(はつわかひめ)が此(この)聖場(せいぢやう)を出立(しゆつたつ)された事(こと)はよく知(し)つてゐた。026併(しか)し二人(ふたり)に余(あま)り気(き)の毒(どく)と思(おも)つて、027其(その)実(じつ)を明(あか)さなかつたのである。
028イク『黙然(もくねん)と手(て)を組(く)みし儘(まま)寝(ね)もやらず
029息(いき)の白(しろ)きに見入(みい)りけるかも』
030サール『悲(かな)しみは冥想(めいさう)となり歌(うた)となり
031涙(なみだ)となりて吾(われ)をめぐるも』
032お菊(きく)『益良夫(ますらを)が固(かた)き心(こころ)をひるがへし
033帰(かへ)り行(ゆ)きます事(こと)のあはれさ』
034イク『何事(なにごと)の都合(つがふ)のますか知(し)らねども
035強(し)ひて行(ゆ)かましハルナの都(みやこ)へ』
036サール『益良夫(ますらを)が若(わか)き女(をんな)に弾(はじ)かれて
037恥(はぢ)の上塗(うはぬり)するぞ悲(かな)しき』
038お菊(きく)『皇神(すめかみ)は何処(いづく)の地(ち)にも坐(まし)ませば
039いまし二人(ふたり)は此処(ここ)に居(ゐ)たまへ』
040イク『イク度(たび)か思(おも)ひ返(かへ)してみたれども
041思(おも)ひ切(き)られぬ初一念(しよいちねん)なり』
042サール『玉(たま)の緒(を)の命(いのち)惜(を)しまず道(みち)の為(ため)に
043進(すす)む吾(わが)身(み)を許(ゆる)させ給(たま)へ。
044神国(かみくに)に生(うま)れあひたる吾々(われわれ)は
045神(かみ)より外(ほか)に仕(つか)ふるものなし』
046イク『いかにして此(この)難関(なんくわん)を切抜(きりぬ)けむ
047ああ只(ただ)心々(こころごころ)なりけり』
048お菊(きく)『汝(な)が心(こころ)深(ふか)くも思(おも)ひやるにつけ
049われも涙(なみだ)に濡(ぬ)れ果(は)てにける。
050魔我彦(まがひこ)の司(つかさ)なりともましまさば
051かくも心(こころ)を痛(いた)めざるらむ』
052イク『兎(と)も角(かく)も初稚姫(はつわかひめ)に今一度(いまいちど)
053命(いのち)を的(まと)に願(ねが)ひみむかな』
054サール『千引岩(ちびきいは)押(お)せども引(ひ)けども動(うご)きなき
055固(かた)き心(こころ)をいかにとやせむ』
056お菊(きく)『夜(よる)の間(ま)にもしも嵐(あらし)の吹(ふ)くならば
057汝(なれ)等(ら)二人(ふたり)はいかに散(ち)るらむ』
058イク『イク度(たび)か嵐(あらし)に吹(ふ)かれ叩(たた)かれて
059実(み)を結(むす)ぶなり白梅(しらうめ)の花(はな)は』
060サール『敷島(しきしま)の大和心(やまとごころ)は白梅(しらうめ)の
061旭(あさひ)に匂(にほ)ふ如(ごと)くなりけり。
062大和魂(やまとだま)振(ふる)ひ起(おこ)して進(すす)み行(ゆ)かむ
063千里(せんり)万里(ばんり)の荒野(あらの)わたりて』
064イク『岩根(いはね)木根(きね)ふみさくみつつ月(つき)の国(くに)に
065進(すす)まにやおかぬ大和(やまと)魂(だましひ)』
066 斯(か)く三(さん)人(にん)は夜更(よふ)けまで眠(ね)もやらず、067淋(さび)しげに歌(うた)を詠(よ)んで、068初稚姫(はつわかひめ)の拒否(きよひ)の如何(いかん)を気遣(きづか)ひつつあつた。069俄(にはか)に騒(さわ)がしき人(ひと)の声(こゑ)、070足駄(あしだ)の音(おと)、071何事(なにごと)ならむと耳(みみ)をすます処(ところ)へ、072お千代(ちよ)は慌(あわただ)しく入(い)り来(きた)り、
073お千代『お菊(きく)さま、074文助(ぶんすけ)さまの様子(やうす)が変(へん)になりました。075何卒(どうぞ)来(き)て下(くだ)さいな』
076お菊(きく)『そら大変(たいへん)です、077もしお二人(ふたり)さま、078此処(ここ)に待(ま)つてゐて下(くだ)さい。079一寸(ちよつと)文助(ぶんすけ)さまの居間(ゐま)まで行(い)つて来(き)ます』
080と早(はや)くも立出(たちい)でむとする。081二人(ふたり)は驚(おどろ)いて、
082イク、サール『私(わたし)もお供(とも)しませう』
083とお菊(きく)の後(あと)に従(したが)ひ、084文助(ぶんすけ)の病室(びやうしつ)へ駆(か)け込(こ)んだ。085見(み)れば松姫(まつひめ)が一生(いつしやう)懸命(けんめい)に魂返(たまがへ)しの祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)してゐる最中(さいちう)であつた。086数多(あまた)の役員(やくゐん)信徒(しんと)は室(しつ)の内外(ないぐわい)に狼狽(うろた)へ騒(さわ)いで、087殆(ほとん)どなす所(ところ)を知(し)らざる有様(ありさま)である。088イク公(こう)は、
089イク『御免(ごめん)』
090と云(い)ひながら、091文助(ぶんすけ)の側(そば)に寄(よ)り、092松姫(まつひめ)に向(むか)ひ、
093イク『御(ご)苦労(くらう)さまで厶(ござ)います』
094と軽(かる)く挨拶(あいさつ)し、095懐中(くわいちう)から夜光(やくわう)の玉(たま)を取出(とりだ)して、096文助(ぶんすけ)の前額部(ぜんがくぶ)に当(あ)て、097赤心(まごころ)を捧(ささ)げて十(じつ)分間(ぷんかん)ばかり祈願(きぐわん)を凝(こ)らした。098此(この)時(とき)既(すで)に文助(ぶんすけ)は冷(つめ)たくなつてゐた。099只(ただ)心臓部(しんざうぶ)の鼓動(こどう)が幽(かす)かにあるのみ。
100イク『ヤア此奴(こいつ)ア駄目(だめ)かも知(し)れませぬな、101実(じつ)に困(こま)つた事(こと)です。102松姫(まつひめ)様(さま)、103此(この)玉(たま)を貴女(あなた)にお預(あづ)け致(いた)します。104何卒(どうぞ)之(これ)を前額部(ぜんがくぶ)に離(はな)さぬやうに当(あ)てておいて下(くだ)さい。105私(わたし)はこれから河鹿川(かじかがは)で禊(みそぎ)をして参(まゐ)ります』
106とイクはサール、107お菊(きく)を伴(ともな)ひ、108河辺(かはべ)に向(むか)つた。109そして神政松(しんせいまつ)の根元(ねもと)に衣類(いるゐ)を脱(ぬ)ぎすて、110ザンブとばかり飛込(とびこ)んで、111鼻(はな)から上(うへ)を出(だ)し、112三(さん)人(にん)声(こゑ)を揃(そろ)へて、113文助(ぶんすけ)の再(ふたた)び蘇生(そせい)せむ事(こと)を祈(いの)つた。
114お菊(きく)『赤心(まごころ)を神(かみ)に捧(ささ)げて仕(つか)へたる
115司(つかさ)の命(いのち)救(すく)ひ給(たま)へよ。
116惟神(かむながら)神(かみ)のまにまに行(ゆ)く人(ひと)を
117止(とど)めむとするわれは悲(かな)しも』
118イク『何事(なにごと)も速川(はやかは)の瀬(せ)に流(なが)しすてて
119清(きよ)き身魂(みたま)を甦(よみがへ)らせよ』
120サール『死(し)して行(ゆ)く人(ひと)の命(いのち)をとどめむと
121願(ねが)ふも人(ひと)の誠(まこと)なりけり。
122今一度(いまいちど)息(いき)吹返(ふきかへ)し道(みち)の為(ため)に
123尽(つく)す真人(まびと)とならしめ給(たま)へ』
124お菊(きく)『日頃(ひごろ)より誠(まこと)一(ひと)つの此(この)翁(おきな)を
125神(かみ)も憐(あは)れみ救(すく)ひますらむ。
126道(みち)のために世(よ)のため尽(つく)す此(この)翁(おきな)を
127救(すく)はせ給(たま)へ神(かみ)の力(ちから)に。
128無理(むり)ばかり神(かみ)の御前(みまへ)に宣(の)る心(こころ)を
129あはれと思(おも)へ天地(あめつち)の神(かみ)』
130と心(こころ)急(せ)くまま、131口(くち)から出任(でまか)せの歌(うた)を歌(うた)ひ、132激流(げきりう)に浮(う)きつ沈(しづ)みつ、133危険(きけん)を冒(をか)して祈(いの)り出(だ)した。134大神(おほかみ)もこの三(さん)人(にん)が赤心(まごころ)を必(かなら)ず許(ゆる)し給(たま)ふであらう。135平素(へいそ)は悪戯好(いたづらずき)の茶目(ちやめ)男(をとこ)、136余(あま)り親切(しんせつ)らしく見(み)えぬイク、137サールの口(くち)の悪(わる)い連中(れんちう)も、138お転婆娘(てんばむすめ)のお菊(きく)も、139人(ひと)の危難(きなん)に際(さい)しては其(その)赤心(まごころ)現(あら)はれ、140吾(わが)身(み)の危険(きけん)を忘(わす)れて神(かみ)に祈(いの)る。141これぞ全(まつた)く美(うる)はしき人情(にんじやう)の発露(はつろ)にして、142常(つね)に神(かみ)に従(したが)ひ、143神(かみ)を信(しん)じ、144誠(まこと)の道(みち)を悟(さと)り得(う)るものでなくては出来(でき)ぬ所為(しよゐ)である。
145 三(さん)人(にん)は文助(ぶんすけ)の身(み)を気遣(きづか)ひながら帰(かへ)つて来(き)た。146忽(たちま)ちお菊(きく)は神懸(かむがかり)状態(じやうたい)となつて病床(びやうしやう)に駆(か)け入(い)り、147松姫(まつひめ)が手(て)より夜光(やくわう)の玉(たま)を取(と)り、148左右(さいう)の耳(みみ)の穴(あな)に代(かは)る代(がは)る当(あ)て、149何事(なにごと)か小声(こごゑ)に称(とな)へながら、150汗(あせ)を流(なが)して祈(いの)つてゐる。151イク、152サールの両人(りやうにん)は赤裸(まつばだか)のまま文助(ぶんすけ)の足(あし)を揉(も)んだり、153息(いき)を吹(ふ)いたり、154あらゆる手段(しゆだん)を尽(つく)した。155「ウン」と一声(ひとこゑ)叫(さけ)んで目(め)をパチリとあけ、156起上(おきあが)つた文助(ぶんすけ)、157四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)しながら、158大勢(おほぜい)の集(あつ)まりゐるを知(し)つて、
159文助『皆(みな)さま、160何(なん)ぞ変(かは)つた事(こと)が出来(でき)ましたか、161大勢(おほぜい)さまがお集(あつ)まりになつて居(を)りますが』
162お菊(きく)『気(き)がつきましたか、163それはマア嬉(うれ)しいこつて厶(ござ)います。164本当(ほんたう)にお菊(きく)も心配(しんぱい)いたしましたよ』
165文助『私(わたし)は或(ある)美(うる)はしき山(やま)へ遊(あそ)びに行(い)つて居(を)りました。166何(なん)だか急(きふ)に目(め)が見(み)え出(だ)して、167そこら中(ぢう)の青々(あをあを)とした景色(けしき)や咲(さ)き匂(にほ)ふ花(はな)の色香(いろか)、168久(ひさ)し振(ぶ)りで自分(じぶん)の目(め)が見(み)え、169世(よ)の中(なか)の明(あか)りに接(せつ)した時(とき)の愉快(ゆくわい)さ、170口(くち)で云(い)ふ様(やう)な事(こと)ぢやありませぬ。171ああ又(また)目(め)が見(み)えなくなつた』
172と力(ちから)なげに云(い)ふ。
173松姫(まつひめ)『文助(ぶんすけ)さま、174貴方(あなた)は此(この)間(あひだ)から人事(じんじ)不省(ふせい)で、175皆(みな)の者(もの)が大変(たいへん)に心配(しんぱい)をして居(を)りました。176初(はつ)、177徳(とく)の両人(りやうにん)が貴方(あなた)を打擲(ちやうちやく)したきり姿(すがた)を晦(くら)まし、178貴方(あなた)はその時(とき)からチツとも性念(しやうねん)がなかつたのですよ。179毎日(まひにち)日日(ひにち)囈言(うはごと)ばかり云(い)うてゐられました。180マアマア正気(しやうき)になられて結構(けつこう)で厶(ござ)いますワ。181松姫(まつひめ)も蘇生(そせい)の思(おも)ひが致(いた)します』
182文助(ぶんすけ)『成程(なるほど)、183さう聞(き)けば、184そんな事(こと)もあつたやうに仄(ほのか)に覚(おぼ)えて居(を)ります。185つひ最前(さいぜん)も小(ちひ)さい村(むら)の四辻(よつつじ)で二人(ふたり)に会(あ)ひましたが、186大変(たいへん)親切(しんせつ)にしてくれました』
187お菊(きく)『文助(ぶんすけ)さま、188貴方(あなた)は此処(ここ)に寝(ね)たきり、189そんな男(をとこ)は来(き)ませぬよ。190大方(おほかた)夢(ゆめ)でも見(み)たのでせう。191チツと確(しつか)りなさいませ。192一旦(いつたん)貴方(あなた)は死(し)んで居(ゐ)たのですからなア』
193文助『イエイエ、194私(わたし)は決(けつ)して死(し)んだ覚(おぼえ)はありませぬ。195どこの方(かた)か知(し)らぬが、196美(うつく)しい娘(むすめ)さまが私(わたし)の手(て)を曳(ひ)いて、197いろいろの所(ところ)へ連(つ)れて行(い)つて下(くだ)さいました。198そして目(め)を直(なほ)して下(くだ)さつたお蔭(かげ)で、199永(なが)らく見(み)なんだ現界(げんかい)の風光(ふうくわう)に接(せつ)し、200本当(ほんたう)に楽(たの)しい旅(たび)を続(つづ)けました。201そした処(ところ)に、202自分(じぶん)の顔(かほ)の二三間(にさんげん)ばかり前(まへ)に、203大変(たいへん)な光物(ひかりもの)が現(あら)はれ、204眩(まぶ)しくてたまらず、205暫(しばら)く目(め)を塞(ふさ)いで居(を)つた所(ところ)、206今度(こんど)は祝詞(のりと)の声(こゑ)が聞(きこ)え出(だ)したので、207よくよく耳(みみ)をすませて考(かんが)へてゐると、208松姫(まつひめ)さまやお菊(きく)さま其(その)他(ほか)の方々(かたがた)の声(こゑ)であつた。209ハツと思(おも)うたら又(また)目(め)が見(み)えなくなりました』
210と惜(を)しさうにいふ。
211 文助(ぶんすけ)は初(はつ)、212徳(とく)の二人(ふたり)の若者(わかもの)と格闘(かくとう)した際(さい)、213頭蓋骨(づがいこつ)を打(う)たれて昏倒(こんたう)し、214一旦(いつたん)仮死(かし)状態(じやうたい)になつてゐたのである。215此(この)時(とき)若(も)しもイク、216サールの両人(りやうにん)が夜光(やくわう)の玉(たま)を持(も)つて居(を)らなかつたなれば、217或(あるひ)は蘇生(そせい)しなかつたかも知(し)れぬ。218文助(ぶんすけ)が幽冥界(いうめいかい)に入(い)つて彷徨(さまよ)うたのは、219第三(だいさん)天国(てんごく)の広大(くわうだい)なる原野(げんや)であつた。220そして或(ある)村(むら)の十字(じふじ)街頭(がいとう)で初(はつ)、221徳(とく)の両人(りやうにん)に出会(であ)つたのは、222何(いづ)れも其(その)精霊(せいれい)であつた。223初(はつ)、224徳(とく)の両人(りやうにん)は元(もと)より文助(ぶんすけ)を尊敬(そんけい)してゐた。225併(しか)しながら一(いち)時(じ)の欲(よく)に駆(か)られて、226高姫(たかひめ)や妖幻坊(えうげんばう)に誤(あやま)られ、227文助(ぶんすけ)の拾(ひろ)うておいた妖幻坊(えうげんばう)の玉(たま)を受取(うけと)つて帰(かへ)らうとしたのを文助(ぶんすけ)が拒(こば)んだので、228止(や)むを得(え)ず、229こんな騒動(さうだう)が突発(とつぱつ)したのである。230併(しか)しながら二人(ふたり)の精霊(せいれい)は肉体(にくたい)の意思(いし)と反対(はんたい)で、231文助(ぶんすけ)を虐待(ぎやくたい)したことを非常(ひじやう)に怒(いか)り、232暫(しばら)く両人(りやうにん)の体(たい)を脱出(だつしゆつ)して、233文助(ぶんすけ)を現界(げんかい)に今一度(いまいちど)呼戻(よびもど)さむと此処(ここ)までやつて来(き)たのである。234そこへ熱心(ねつしん)なるイク、235サール、236お菊(きく)、237松姫(まつひめ)等(など)の祈祷(きたう)の力(ちから)に依(よ)つて、238再(ふたた)び現世(げんせ)の残務(ざんむ)を果(はた)すべく蘇生(そせい)せしめられたのである。239文助(ぶんすけ)は肉体(にくたい)の眼(まなこ)は既(すで)に盲(まう)し、240非常(ひじやう)な不愍(ふびん)な者(もの)であつたが、241霊界(れいかい)に到(いた)るや、242忽(たちま)ち外部(ぐわいぶ)的(てき)状態(じやうたい)を脱出(だつしゆつ)し、243第二(だいに)の中間(ちうかん)状態(じやうたい)を越(こ)えて、244第三(だいさん)の内分(ないぶん)的(てき)状態(じやうたい)にまで急速度(きふそくど)を以(もつ)て進(すす)んだ。245其(その)為(ため)、246神(かみ)に親(した)しみ神(かみ)に仕(つか)へたる赤心(まごころ)のみ残存(ざんぞん)し、247心(こころ)の眼(まなこ)開(ひら)け居(を)りし為(ため)に、248天界(てんかい)を見(み)ることを得(え)たのである。
249 すべて現界(げんかい)に在(あ)つて耳(みみ)の遠(とほ)き者(もの)、250或(あるひ)は手足(てあし)の自由(じいう)の利(き)かぬ者(もの)、251其(その)他(た)種々(いろいろ)の難病(なんびやう)に苦(くるし)んでゐた者(もの)も、252霊肉(れいにく)脱離(だつり)の関門(くわんもん)を経(へ)て霊界(れいかい)に入(い)る時(とき)は、253肉体(にくたい)の時(とき)の如(ごと)き不具者(ふぐしや)ではない。254すべての官能(くわんのう)は益々(ますます)正確(せいかく)に明瞭(めいれう)に活動(くわつどう)するものである。255併(しか)しながら仮令(たとへ)円満(ゑんまん)具足(ぐそく)せる肉体人(にくたいじん)と雖(いへど)も、256其(その)心(こころ)に欠陥(けつかん)ありし者(もの)は、257霊肉(れいにく)脱離(だつり)の後(のち)に聾者(ろうしや)となり盲目(まうもく)となり、258或(あるひ)は痴呆者(ちはうしや)となり不具者(かたは)となり、259其(その)容貌(ようばう)は忽(たちま)ち変化(へんくわ)して妖怪(えうくわい)の如(ごと)くなるものである。260総(すべ)て人間(にんげん)の面貌(めんばう)は心(こころ)の索引(さくいん)ともいふべきものなるが故(ゆゑ)に、261其(その)心性(しんせい)の如何(いかん)は直(ただち)に霊界(れいかい)に於(おい)ては暴露(ばくろ)さるるものである。262現界(げんかい)に於(おい)ても悪(あく)の最(もつと)も濃厚(のうこう)なる者(もの)は、263何程(なにほど)立派(りつぱ)な容貌(ようばう)と雖(いへど)も、264之(これ)を熟視(じゆくし)する時(とき)は、265どこかに其(その)妖怪(えうくわい)的(てき)面相(めんさう)を認(みと)め得(う)るものである。266形体(けいたい)は申分(まをしぶん)なき美人(びじん)にして、267凄(すご)く或(あるひ)は厭(いや)らしく見(み)える者(もの)もあり、268又(また)どことなくお化(ばけ)の様(やう)な気持(きもち)のする人間(にんげん)は、269其(その)精霊(せいれい)の悪(あく)に向(むか)ふ事(こと)最(もつと)も甚(はなは)だしきを証(しよう)するものである。
270 文助(ぶんすけ)は先(ま)づ天(あめ)の八衢(やちまた)の関所(せきしよ)に突然(とつぜん)着(つ)いてゐた。271されど本人(ほんにん)は自分(じぶん)の嘗(かつ)て死去(しきよ)した事(こと)や、272如何(いか)なる手続(てつづ)きによつて、273こんな見(み)ず知(し)らずの所(ところ)へ来(き)たかなどと云(い)ふ事(こと)は一向(いつかう)考(かんが)へなかつた。274そして現界(げんかい)に残(のこ)してある妻子(さいし)のことや、275知己(ちき)朋友(ほういう)の事(こと)などもスツカリ忘(わす)れてゐた。276只(ただ)神(かみ)に関(くわん)する知識(ちしき)のみ益々(ますます)明瞭(めいれう)になつてゐた。277彼(かれ)は八衢(やちまた)の関所(せきしよ)の門(もん)を何(なん)の気(き)もなく潜(くぐ)つて行(い)つた。278後(あと)振(ふ)り返(かへ)つて見(み)れば、279白面(はくめん)赤面(せきめん)の守衛(しゆゑい)が二人(ふたり)、280門(もん)の左右(さいう)に立(た)つてゐる。
281文助『ハテ不思議(ふしぎ)な所(ところ)だ、282地名(ちめい)は何(なん)といふだらうか、283あの守衛(しゆゑい)に尋(たづ)ねて見(み)たいものだ』
284と再(ふたた)び踵(きびす)を返(かへ)して側(そば)に寄(よ)り、285文助(ぶんすけ)は、
286文助『此処(ここ)は何(なん)と云(い)ふ所(ところ)ですか』
287と尋(たづ)ねてみた。288二人(ふたり)の守衛(しゆゑい)は、
289白、赤の守衛『何(いづ)れ後(あと)になつたら分(わか)るでせう。290お尋(たづ)ねには及(およ)びませぬ。291又(また)吾々(われわれ)も申(まを)し上(あ)げる事(こと)は出来(でき)ない』
292とキツパリ答(こた)へた。293これはまだ現界(げんかい)へ帰(かへ)るべき因縁(いんねん)がある事(こと)を守衛(しゆゑい)が知(し)つてゐたからである。294もし此処(ここ)は霊界(れいかい)の八衢(やちまた)であるといふ事(こと)を知(し)らしたならば、295或(あるひ)は文助(ぶんすけ)が吃驚(びつくり)して、296現界(げんかい)に於(お)ける妻子(さいし)のことを思(おも)ひ浮(う)かべ、297美(うる)はしき天国(てんごく)の関門(くわんもん)を覗(のぞ)く事(こと)も出来(でき)ず、298又(また)其(その)魂(たましひ)が中有界(ちううかい)に彷徨(さまよ)うて、299容易(ようい)に肉体(にくたい)に還(かへ)り得(え)ない事(こと)を知(し)つたからである。300文助(ぶんすけ)は何(なん)とはなしに愉快(ゆくわい)な気分(きぶん)に充(み)たされ、301小北山(こぎたやま)の事(こと)も念頭(ねんとう)になく、302只(ただ)自分(じぶん)の行先(ゆくさき)に結構(けつこう)な処(ところ)、303美(うる)はしき所(ところ)があるやうな思(おも)ひで、304足(あし)も軽々(かるがる)と進(すす)むのであつた。305そして俄(にはか)に目(め)の開(あ)いたのに心(こころ)勇(いさ)み、306フラフラフラと花(はな)に憧憬(あこが)れた蝶(てふ)の如(ごと)く、307次(つぎ)へ次(つぎ)へと進(すす)んだのである。308途中(とちう)に現界(げんかい)に在(あ)る友人(いうじん)や知己(ちき)並(ならび)に自分(じぶん)等(ら)の知己(ちき)にして、309既(すで)に帰幽(きいう)せし人間(にんげん)にも屡(しばしば)出会(であ)うた。310されど其(その)時(とき)の彼(かれ)の心(こころ)は帰幽(きいう)せし者(もの)と帰幽(きいう)せざる者(もの)とを判別(はんべつ)する考(かんが)へもなく、311何(いづ)れも自分(じぶん)と同様(どうやう)に肉身(にくしん)を以(もつ)て生(い)きて働(はたら)いてゐることとのみ思(おも)うてゐたのである。
312 斯(かく)の如(ごと)く、313人間(にんげん)は仮死(かし)状態(じやうたい)の時(とき)も、314又(また)全(まつた)く死(し)の状態(じやうたい)に入(い)つた後(のち)も、315決(けつ)して自分(じぶん)は霊肉(れいにく)脱離(だつり)して、316霊界(れいかい)に来(き)てゐるといふ事(こと)を知(し)らないものである。317何故(なにゆゑ)ならば、318意思(いし)想念(さうねん)其(その)他(た)の総(すべ)ての情動(じやうどう)に何(なん)等(ら)の変移(へんい)なく、319且(かつ)現界(げんかい)に於(お)けるが如(ごと)き種々(しゆじゆ)煩雑(はんざつ)なる羈絆(きはん)なく、320恰(あだか)も小児(せうに)の如(ごと)き情態(じやうたい)に身(み)を置(お)くが故(ゆゑ)である。321之(これ)を思(おも)へば人間(にんげん)は現世(げんせ)に於(おい)て神(かみ)に背(そむ)き、322真理(しんり)を無視(なみ)し、323社会(しやくわい)に大害(たいがい)を与(あた)へざる限(かぎ)り、324死後(しご)は肉体(にくたい)上(じやう)に於(お)ける欲望(よくばう)や感念(かんねん)即(すなは)ち自愛(じあい)の悪念(あくねん)は払拭(ふつしき)され、325其(その)内分(ないぶん)に属(ぞく)する善(ぜん)のみ自由(じいう)に活躍(くわつやく)することを得(う)るが故(ゆゑ)に、326死後(しご)の安逸(あんいつ)なる生涯(しやうがい)を楽(たの)しむ事(こと)が出来(でき)るのである。
327 天国(てんごく)は上(のぼ)り難(がた)く地獄(ぢごく)は落(お)ち易(やす)しと或(ある)聖人(せいじん)が云(い)つた。328併(しか)しながら人間(にんげん)は肉体(にくたい)のある限(かぎ)り、329どうしても外的(ぐわいてき)生涯(しやうがい)と内的(ないてき)生涯(しやうがい)との中間(ちうかん)的(てき)境域(きやうゐき)に居(を)らねばならぬ。330故(ゆゑ)に肉体(にくたい)のある中(うち)には、331どうしても天国(てんごく)に在(あ)る天人(てんにん)の如(ごと)き円満(ゑんまん)なる善(ぜん)を行(おこな)ふ事(こと)は出来(でき)ない。332どうしても善悪(ぜんあく)混淆(こんこう)、333美醜(びしう)相交(あひまじ)はる底(てい)の中有(ちうう)的(てき)生涯(しやうがい)に甘(あま)んぜねばならぬ。334人(ひと)の死後(しご)に於(お)けるや、335神(かみ)は直(ただち)に生前(せいぜん)の悪(あく)と善(ぜん)とを調(しら)べ、336悪(あく)の分子(ぶんし)を取(と)り去(さ)つて、337可成(なるべ)く天国(てんごく)へ救(すく)はむとなし給(たま)ふものである。338故(ゆゑ)に吾々(われわれ)は天国(てんごく)は上(のぼ)り易(やす)く、339地獄(ぢごく)は落(お)ち難(がた)しと言(い)ひたくなるのである。340併(しか)しながら之(これ)は普通(ふつう)の人間(にんげん)としての見解(けんかい)であつて、341今日(こんにち)の如(ごと)く虚偽(きよぎ)と罪悪(ざいあく)に充(み)ちたる地獄界(ぢごくかい)に籍(せき)をおける人間(にんげん)は、342既(すで)に已(すで)に地獄(ぢごく)の住民(ぢゆうみん)であるから、343生前(せいぜん)に於(おい)て此(この)地獄(ぢごく)を脱却(だつきやく)し、344せめて中有界(ちううかい)なりと救(すく)はれておかねば、345死後(しご)の生涯(しやうがい)を安楽(あんらく)ならしむることは不可能(ふかのう)である。346されど神(かみ)は至仁(しじん)至愛(しあい)にましますが故(ゆゑ)に、347如何(いか)なる者(もの)と雖(いへど)も、348あらゆる方法(はうはふ)手段(しゆだん)を尽(つく)して、349之(これ)を天国(てんごく)に導(みちび)き、350天国(てんごく)の住民(ぢゆうみん)として霊界(れいかい)の為(ため)に働(はたら)かしめ且(かつ)楽(たの)しき生涯(しやうがい)を送(おく)らしめむと念(ねん)じ給(たま)ふのである。
351 前(まへ)にも述(の)べたる如(ごと)く、352神(かみ)は宇宙(うちう)を一個(いつこ)の人格者(じんかくしや)と看做(みな)して之(これ)を統制(とうせい)し給(たま)ふが故(ゆゑ)に、353如何(いか)なる悪人(あくにん)と雖(いへど)も、354一個人(いつこじん)の身体(しんたい)の一部(いちぶ)である。355何程(なにほど)汚穢(むさくる)しい所(ところ)でも、356そこに痛(いた)みを生(しやう)じ或(あるひ)は腫物(はれもの)などが出来(でき)た時(とき)は、357其(その)一個人(いつこじん)たる人間(にんげん)は種々(しゆじゆ)の方法(はうはふ)を尽(つく)して之(これ)を癒(いや)さむ事(こと)を願(ねが)ふやうに、358神(かみ)は地獄界(ぢごくかい)に落(お)ち行(ゆ)く……即(すなは)ち吾(わが)肉体(にくたい)の一部分(いちぶぶん)に発生(はつせい)する腫物(はれもの)や痛(いた)み所(どころ)を治(なほ)さむと焦慮(せうりよ)し給(たま)ふは当然(たうぜん)である。359之(これ)を以(もつ)ても神(かみ)が如何(いか)に人間(にんげん)を始(はじ)め宇宙(うちう)一切(いつさい)を吾(わが)身(み)の如(ごと)くにして愛(あい)し給(たま)ふかが判明(はんめい)するであらう。360惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
361(大正一二・一・三〇 旧一一・一二・一四 松村真澄録)
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