霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 臭風(しうふう)〔一三五四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第4篇 怪妖蟠離 よみ(新仮名遣い):かいようばんり
章:第18章 臭風 よみ(新仮名遣い):しゅうふう 通し章番号:1354
口述日:1923(大正12)年02月09日(旧12月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
(第51巻第21章からの続き)浮木の森の火の見やぐら前の庭園で、狸にだまされて一夜を明かしたガリヤ、ケース、初、徳の四人は、あたりを見回しながら互いに苦笑していた。そこへ美しい女が一人現れて、四人の前後左右を丸に十を書いて回り、臭い屁を放ってどこかに姿を隠した。
一同はこの場の怪異を平定しなければと気焔を上げている。四人は物見やぐらの最上階に上り、座敷に陣取った。すると押入れの隅からコトコト音がする。戸を開けると、さきほどの屁こき女が小さくなってふるえていた。
女は、自分はおならというこの界隈で有名な屁こき女であり、そのために村においてもらえずに物見やぐらに追いやられているのだ、と語った。女は四人に自分の屁がいかにすごいか、そのためにどうして嫁ぎ先を追い出されたかなど身の上を面白おかしく語って聞かせた。
徳は、おならの耳が動くのに気付いて言い立てた。ガリヤは、自分は初めからこいつはイタチの化け物だと知っていたとおならを詰問する。
おならは、間違いないと自ら正体を明かし、最後っ屁を放った。四人は息がつまり、階段を降って逃げるうちに階下に転落して唸っている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-12-15 16:23:01 文字数:3940 OBC :rm5218
愛善世界社版:223頁 八幡書店版:第9輯 459頁 修補版: 校定版:231頁 普及版:99頁 初版: ページ備考:
001 浮木(うきき)の森(もり)の火(ひ)の見(み)櫓(やぐら)の前(まへ)の庭園(ていゑん)に、002悪狸(わるだぬき)に騙(だま)されて一夜(いちや)を明(あか)したガリヤ、003ケース、004初(はつ)、005徳(とく)の四(よ)人(にん)は、006瘧(おこり)のおちた様(やう)な顔(かほ)をして、007四辺(あたり)をキヨロ キヨロ見廻(みまは)しながら、008互(たがひ)に面(おもて)を見合(みあは)せ苦笑(くせう)してゐた。009そこへ何(なん)とも知(し)れぬ美(うつく)しい女(をんな)が一人(ひとり)、010何処(どこ)からともなく現(あら)はれ来(きた)り、011四(よ)人(にん)の前後(ぜんご)左右(さいう)を○(まる)に十(じふ)を描(ゑが)いて足跡(あしあと)を印(いん)し、012一歩(ひとあし)々々(ひとあし)尻(しり)から欠伸(あくび)をしながら、013臭(くさ)い匂(にほ)ひを遠慮(ゑんりよ)なく放出(はうしゆつ)し、014どこともなく足早(あしばや)に姿(すがた)を隠(かく)した。015四(よ)人(にん)は鼻(はな)を撮(つま)んで、016息(いき)も塞(ふさ)ぐばかりに苦(くるし)んでゐた。017サツと吹来(ふきく)る一陣(いちぢん)の風(かぜ)に、018四辺(あたり)の臭気(しうき)はスツカリ払拭(ふつしき)された。
019ガリヤ『あああ、020エライ目(め)に遇(あ)うた。021狸(たぬき)にはつままれ、022鼬(いたち)のお化(ばけ)には屁(へ)を嗅(か)がされ、023本当(ほんたう)に踏(ふ)んだり蹴(け)つたりな目(め)に遇(あ)うた。024オイ皆(みな)の連中(れんぢう)、025長居(ながゐ)は恐(おそ)れだ、026一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)場(ば)を退却(たいきやく)しようぢやないか』
027ケース『何(なん)と云(い)つても日(ひ)の下(した)開山(かいざん)の天下(てんか)の力士(りきし)だ。028退却(たいきやく)は断(だん)じてやらない。029退却(たいきやく)の後(あと)にはキツト追撃(つゐげき)が伴(ともな)ふものだ。030宣教師(せんけうし)の後(うしろ)には必(かなら)ず大砲(たいはう)ありだ。031俺(おれ)達(たち)も一(ひと)つ宣教師(せんけうし)となつた以上(いじやう)は、032大砲(たいはう)でも放射(はうしや)して、033鼬(いたち)のお化(ばけ)に応戦(おうせん)せなくちや、034此(この)儘(まま)予定(よてい)の退却(たいきやく)は出来(でき)ぬぢやないか。035幸(さいは)ひここに物見櫓(ものみやぐら)がある。036此(この)櫓(やぐら)に陣取(ぢんど)つて、037大(おほい)に騙(だま)サレ組(ぐみ)の気焔(きえん)を上(あ)げようぢやないか』
038ガリヤ『さうだな、039何(なん)とかせなくちや馬鹿(ばか)らしくて此(この)儘(まま)帰(かへ)る訳(わけ)にも行(ゆ)かない。040マア一(ひと)つ上(うへ)へ上(あが)つて悪魔(あくま)を平定(へいてい)するか、041或(あるひ)は屁輪(へいわ)快議(くわいぎ)でも開(ひら)かうかな』
042ケース『何(なん)と云(い)つても、043吾々(われわれ)に因縁(いんねん)のある此(この)物見櫓(ものみやぐら)だ。044百(ひやく)日(にち)以前(いぜん)は俺(おれ)達(たち)がここで羽振(はぶり)を利(き)かして居(を)つた所(ところ)だから、045誰(たれ)に遠慮(ゑんりよ)はいらぬ。046又(また)ランチ将軍(しやうぐん)様(さま)から払下(はらひさげ)になつたのでもなし、047其(その)儘(まま)においてあるのだから、048特定(とくてい)の持主(もちぬし)がある筈(はず)もない。049サア上(あが)つたり上(あが)つたり』
050と茲(ここ)に四(よ)人(にん)は、051ランチ、052片彦(かたひこ)が恋(こひ)の伊達引(だてひき)をやつて、053幽界(いうかい)旅行(りよかう)をしたと云(い)ふ新(あたら)しい歴史(れきし)の残(のこ)つた最高(さいかう)の座敷(ざしき)に陣取(ぢんど)つた。054上(のぼ)つて見(み)るとコトコトと押入(おしいれ)のスミから音(おと)がするので、055ケースはコハゴハ戸(と)を開(あ)けると、056以前(いぜん)の屁(へ)こき女(をんな)が小(ちひ)さくなつて慄(ふる)うてゐる。057ケースは矢庭(やには)に胸倉(むなぐら)をグツと取(と)り、058押入(おしいれ)から引張(ひつぱ)り出(だ)して、
059ケース『コラあまつちよ、060失敬(しつけい)千万(せんばん)な、061武士(ぶし)の前(まへ)に屁(へ)を嗅(か)がすといふ事(こと)があるか。062何(なに)か之(これ)には理由(りいう)があらう、063サ、064一々(いちいち)白状(はくじやう)致(いた)せ』
065女(おなら)『ハイ、066私(わたし)はおならと申(まを)します。067ここら界隈(かいわい)切(き)つての屁(へ)こき女(をんな)で、068それが為(ため)に村(むら)にもおいて貰(もら)へず、069此(この)物見櫓(ものみやぐら)が空(あ)いてゐるのを幸(さいは)ひ、070村(むら)の衆(しう)に送(おく)られて、071ここへ放(はふ)り込(こ)まれたのですよ。072そして余(あま)り物(もの)を食(く)はすと、073屁(へ)をたれるからと云(い)つて、074食(く)ふものもロクにくれず、075腹(はら)がへつてたまらないの。076そこへ又(また)オナラが止(と)め度(ど)もなく出(で)るものですから、077すいた腹(はら)が猶(なほ)すいてたまりませぬ』
078ケース『ハハハハア、079此奴(こいつ)アさうすると鼬(いたち)の生(うま)れ変(かは)りだな。080オイおならとやら、081貴様(きさま)随分(ずいぶん)綺麗(きれい)な面(つら)をしてゐるが、082どこに欠点(けつてん)はないけれど、083屁(へ)たれるだけが尻点(けつてん)とみえるのう。084何(なん)とかして此(この)病気(びやうき)を直(なほ)してやりたいものだ、085否(いな)ヘーユさして見(み)たいものだ。086オイ初公(はつこう)、087徳公(とくこう)、088何(なに)かいい考(かんが)へはあるまいかの。089こんな奴(やつ)が側(そば)に居(ゐ)ると、090何時(いつ)屁(へ)をひられるか分(わか)つたものぢやない。091本当(ほんたう)に最前(さいぜん)に懲(こ)りてるからなア』
092初(はつ)『これが所謂(いはゆる)屁和(へーわ)の女神(めがみ)といふのだらうかい。093屁(へ)といふものは随分(ずいぶん)笑顔(ゑがほ)のいいものだからなア』
094ケース『コリヤおならとやら、095お前(まへ)はそれだけ屁(へ)が出(で)るといふと、096到底(たうてい)完全(くわんぜん)な夫(をつと)を持(も)つ訳(わけ)には行(ゆ)くまいのう』
097おなら『ハイ、098私(わたし)も一度(いちど)は嫁入(よめいり)を致(いた)しましたが、099屁(へ)の為(ため)に失敗(しくじ)つて帰(かへ)つて来(き)たのですよ』
100 一同(いちどう)は、
101一同『アハハハハハ』
102と倒(こ)けて笑(わら)ふ。
103ケース『ヤア面白(おもしろ)い、104屁(へ)をこいて離縁(りえん)されたとは初耳(はつみみ)だ。105オイおならさま、106一寸(ちよつと)其(その)顛末(てんまつ)を聞(き)かして貰(もら)へまいかなア』
107おなら『へーへー、108今更(いまさら)隠(かく)した所(ところ)で仕方(しかた)がありませぬ、109随分(ずいぶん)名高(なだか)い話(はなし)ですよ。110ヘコキのおならと云(い)つたら、111此(この)界隈(かいわい)に知(し)らぬ者(もの)はありませぬ。112私(わたし)のお父(とう)さまは文助(ぶんすけ)、113お母(かあ)さまはお久(きう)と云(い)ひまして、114私(わたし)がおならと申(まを)します。115私(わたし)も今年(ことし)は十八(じふはち)になつたものだから、116一寸(ちよつと)渋皮(しぶかは)の剥(む)けた所(ところ)から、117屁(へ)こき娘(むすめ)でも、118随分(ずいぶん)矢入(やい)れが沢山(たくさん)あつて困(こま)りましたのよ。119何(なん)と云(い)つても、120女(をんな)にスタリ者(もの)はありませぬ。121……さて、122ピラトの村(むら)の平助(へいすけ)さまの家(うち)へ嫁入(よめい)ることにきまりました所(ところ)、123家(うち)のお母(かあ)さまが今(いま)までは、124自分(じぶん)の家(うち)だから、125何程(なにほど)屁(へ)をひつても差支(さしつかへ)ないが、126他家(よそ)へ行(い)つて花嫁(はなよめ)が屁(へ)をこくと外聞(ぐわいぶん)が悪(わる)い。127それが不縁(ふえん)の元(もと)になつちやならないから、128辛抱(しんばう)して居(を)れと仰有(おつしや)いました。129それで私(わたし)も正直(しやうぢき)に親(おや)の言葉(ことば)を守(まも)り、130平助(へいすけ)さまの嫁(よめ)になつても、131屁(へ)の出(で)ないやう屁(へ)の出(で)ないやうと尻(しり)に詰(つめ)をしてきばつて居(を)りましたが、132屁(へ)が逆流(ぎやくりう)して欠伸(あくび)となり、133臭(くさ)い臭(くさ)い息(いき)が出(で)ますのよ。134それでもヤツパリ屁(へ)ではないと思(おも)うて、135ゴミを濁(にご)して居(を)りましたが、136体(からだ)はブウブウと膨(ふく)れて来(く)る、137毎日(まいにち)日日(ひにち)顔(かほ)は青(あを)うなる、138どうにもかうにもこらへ切(き)れなくなつたので、139一遍(いつぺん)親(おや)の家(うち)へ帰(かへ)つて、140思(おも)ふ存分(ぞんぶん)屁(へ)をひつて来(こ)ようと思(おも)ひ、141お福(ふく)といふ姑(しうと)さまに、142何卒(どうぞ)一寸(ちよつと)帰(かへ)して下(くだ)さいと願(ねが)つた所(ところ)、143お福(ふく)さまの仰有(おつしや)るには……コレおなら、144お前(まへ)は私(わたし)の家(うち)へ来(き)てから、145私(わたし)に親切(しんせつ)に仕(つか)へて下(くだ)さるなり、146平助(へいすけ)を大事(だいじ)にしてくれるさうだから、147大変(たいへん)に喜(よろこ)んでゐるのに、148家(うち)へ帰(かへ)りたいといふのは、149何(なに)が気(き)にいらぬのだ……と問(と)はれましたので私(わたし)も包(つつ)み隠(かく)さず……実(じつ)の所(ところ)は、150屁(へ)の出(で)る病(やまひ)があつて、151こきたくてこきたくて仕方(しかた)がありませぬけれど、152家(うち)のお母(かあ)さまが、153嫁(よめ)にいつたら、154決(けつ)して屁(へ)は一(ひと)つもこいちやならぬ。155もしそんな事(こと)があつたら、156一遍(いつぺん)に不縁(ふえん)になるぞと仰有(おつしや)いましたから、157それでようこかずに辛抱(しんばう)して居(を)りましたら、158この通(とほ)り膨(ふく)れたので厶(ござ)います……と、159コハゴハ申上(まをしあ)げた所(ところ)、160姑(しうと)のお福(ふく)さまも開(ひら)けた人(ひと)で……ナアニおなら、161そんな心配(しんぱい)はいるものか。162お前(まへ)の名(な)からしておならぢやないか。163屁(へ)といふものは笑(わら)ひの神(かみ)さまだから、164あいさに屁(へ)の一(ひと)つもこいて貰(もら)はなくちや家庭(かてい)が面白(おもしろ)くない。165サアサア遠慮(ゑんりよ)はいらぬ。166鳴物入(なりものい)りで嫁(よめ)を貰(もら)つたと思(おも)へば結構(けつこう)だ。167サアサアこいたりこいたり……と気(き)よう言(い)うて下(くだ)さりました。168それを聞(き)くと矢(や)も楯(たて)もたまらず、169私(わたし)の命令(めいれい)を下(くだ)さぬ先(さき)に、170屁(へ)の奴(やつ)勝手(かつて)に連発銃(れんぱつじう)の様(やう)に、171ポンポンポンと際限(さいげん)なく放出(はうしゆつ)し、172屁風(へかぜ)の勢(いきほひ)で、173とうとう姑婆(しうとばあ)さまを天井(てんじやう)まで吹(ふ)き上(あ)げて了(しま)ひ、174姑(しうと)さまは天井裏(てんじやううら)にヘバリついて両手(りやうて)を合(あは)せ……コレコレおなら、175モウ沢山(たくさん)だ、176一(いち)時(じ)も早(はや)く屁口(へぐち)をとめてたも……と仰有(おつしや)つたので、177俄(にはか)に止(と)めようと思(おも)つても止(と)まらず、178仕方(しかた)なしに平助(へいすけ)さまの着物(きもの)を尻(しり)につめて、179ヤツトの事(こと)で屁口(へぐち)をとめました。180そした所(ところ)が、181俄(にはか)に屁風(へかぜ)がやんだので、182吹上(ふきあ)げられてゐたお婆(ばあ)さまが、183風(かぜ)の抵抗力(ていかうりよく)が取(と)れたとみえ、184パタツと鼠(ねづみ)がおちたやうに、185座敷(ざしき)の真(ま)ん中(なか)にふん伸(の)びて目(め)をまかして了(しま)つた。186それから又(また)もや屁(へ)が切(しき)りに催(もよほ)して来(き)た。187エエ焼(や)け糞(くそ)だと、188雪隠(せつちん)へ飛込(とびこ)み、189尻(しり)ひんまくつて放射(はうしや)した所(ところ)、190出(で)るワ出(で)るワ、191まるで火事(くわじ)の太鼓(たいこ)のやうな音(おと)がして来(き)ましたよ。192ホホホホ、193余(あま)りのことで、194吾(われ)ながらケツが呆(あき)れて雪隠(せつちん)は踊(をど)る、195音(おと)はポンポンとするので、196近所(きんじよ)合壁(がつぺき)から火事(くわじ)だと思(おも)ひ、197杢平(もくへい)、198田吾作(たごさく)、199八助(はちすけ)どんや、200其(その)他(ほか)沢山(たくさん)の連中(れんぢう)が寄(よ)つて来(き)て、201火元(ひもと)はどこぢやどこぢやと駆(か)けまはる可笑(をか)しさ。202仕方(しかた)がないので、203屁元(へもと)はここだと尻(しり)を捲(まく)つて飛(と)んで出(で)ました。204それつきり平助(へいすけ)さまに愛想(あいさう)をつかされ、205忽(たちま)ち不縁(ふえん)となり、206平和(へいわ)の家庭(かてい)は破(やぶ)れて、207親(おや)の家(うち)へつき戻(もど)された時(とき)の残念(ざんねん)さ、208御(ご)推量(すゐりやう)して下(くだ)さりませ、209アンアンアン ホホホホ』
210と泣(な)いたり、211笑(わら)うたりやつてゐる。
212ケース『成程(なるほど)、213随分(ずいぶん)豪(がう)ケツだな。214俺(おれ)も豪傑(がうけつ)だと思(おも)うてゐたが、215お前(まへ)のケツは又(また)格別(かくべつ)だ、216古今(ここん)無双(むさう)のケツ物(ぶつ)だ。217俺(おれ)ならそんな屁(へ)こきさまなら、218喜(よろこ)んで妻君(さいくん)に貰(もら)ふのだけれどなア』
219おなら『お前(まへ)さまは駄目(だめ)ですよ。220あの位(くらゐ)な屁(へ)を嗅(か)がされて、221鼻(はな)が曲(まが)るのどうのと云(い)つて悔(くや)むやうなこつては、222私(わたし)の夫(をつと)になる資格(しかく)はありませぬよ。223世(よ)の中(なか)には物好(ものずき)があつて、224平助(へいすけ)さまの家(うち)を屁(へ)で失敗(しくじ)つた私(わたし)を貰(もら)はうと云(い)ふ方(かた)があつて、225同(おな)じ在所(ざいしよ)のベコ助(すけ)さまの所(ところ)へ貰(もら)はれて行(ゆ)きました。226所(ところ)がそこの姑婆(しうとばあ)さまがおキツというて、227本当(ほんたう)にキツくて、228悋気(りんき)がひどくて、229流石(さすが)のおならもやり切(き)れない。230怪我(けが)の拍子(ひやうし)に屁(へ)でもひらうものなら、231スツたもんだと云(い)つて苦(くる)しめるので、232私(わたし)も腹(はら)が立(た)つてたまらず、233飯(めし)を焚(た)きよつた所(ところ)へ、234婆(ばあ)さまがやつて来(き)て、235しつこ しつこ小言(こごと)をいふものだから、236正勝(まさか)姑(しうと)さまを叩(たた)く訳(わけ)にも行(ゆ)かぬので、237傍(そば)に居(を)つた羊(ひつじ)を婆(ばあ)さまに当(あ)てつけて、238もえ杭(ぐひ)でコン畜生(ちくしやう)と云(い)つてくらはした所(ところ)、239羊(ひつじ)の毛(け)に火(ひ)がつき、240羊(ひつじ)は驚(おどろ)いて藁小屋(わらごや)の中(うち)に飛(と)び込(こ)み、241其(その)藁小屋(わらごや)に火(ひ)がついて、242とうとうベコ助(すけ)さまの家(いへ)が焼(や)けてしまひ、243又(また)も放(はふ)り出(だ)され、244こんな所(ところ)へ押込(おしこ)められて居(を)るのだ。245本当(ほんたう)に困(こま)つたものですよ、246ヘヘヘヘ』
247初(はつ)『プツプツプツプツ』
248ガリヤ『イヤもう、249お前(まへ)さまの経歴(けいれき)は、250ガリヤもスツカリ承(うけたま)はりました。251其処(そこ)まで徹底(てつてい)すれば偉(えら)いものだ』
252おなら『ねえ貴方(あなた)、253さうでせう、254貴方(あなた)だつて、255へーたれさまと云(い)つて、256毎日(まいにち)日日(ひにち)プツプツプツと口(くち)からラツパを吹(ふ)いてゐたでせう。257男(をとこ)は口(くち)から屁(へ)を吹(ふ)き、258女(をんな)は尻(しり)からラツパを吹(ふ)くのは当然(あたりまへ)ですわねえ』
259徳(とく)『オイおならさま、260お前(まへ)の耳(みみ)が動(うご)くぢやないか、261チツと徳(とく)さまには可笑(をか)しいぞ』
262おなら『ホホホホ、263耳(みみ)が動(うご)くのが可笑(をか)しいのかいな。264今(いま)耳(みみ)から屁(へ)を殺(ころ)して出(だ)してるから、265耳(みみ)たぶが屁風(へかぜ)に揺(ゆ)れて動(うご)いとるのだよ』
266徳『まるで化物(ばけもの)みたやうな女(をんな)だなア』
267ガリヤ『徳公(とくこう)、268化物(ばけもの)は始(はじ)めから定(きま)つてるぢやないか。269此奴(こいつ)ア古鼬(ふるいたち)の化(ば)けたのだ。270マア兎(と)も角(かく)、271俺(おれ)も狸(たぬき)に騙(だま)された腹(はら)いせに、272此(この)化鼬(ばけいたち)を、273騙(だま)されたやうな顔(かほ)して、274ガリヤが反対(あべこべ)に騙(だま)してやつたのだよ……コリヤ鼬(いたち)、275どうだ、276間違(まちが)ひはあらうまいがな』
277おなら『間違(まちがひ)ありませぬよ、278最後屁(さいごぺ)をひつて上(あ)げませうか。279さうすりや、280お前(まへ)さま等(ら)の息(いき)がとまつて了(しま)ふがな、281ホホホホ』
282と云(い)ひながら、283ブスツと臭(くさ)い奴(やつ)をひつた。284そこら一面(いちめん)黄色(きいろ)になつて、285鼻(はな)ふさがり息(いき)つまり、286四(よ)人(にん)は、287此奴(こいつ)はたまらぬと階段(かいだん)を下(くだ)るうち、288雪崩(なだれ)の如(ごと)くなつて階下(かいか)に顛落(てんらく)し、289腕(うで)や向脛(むかふずね)をうち、290四(よ)人(にん)共(とも)ウンウンと唸(うな)つてゐる。291春風(はるかぜ)はかむばしき花(はな)の香(か)を送(おく)つて、292あけつ放(ぱな)しの居間(ゐま)を通(とほ)つて行(ゆ)く。
293(大正一二・二・九 旧一一・一二・二四 松村真澄録)
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