霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 俄(にはか)狂言(きやうげん)〔一三四〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第1篇 鶴首専念 よみ(新仮名遣い):かくしゅせんねん
章:第4章 俄狂言 よみ(新仮名遣い):にわかきょうげん 通し章番号:1340
口述日:1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
半時ばかりすると、初稚姫がスマートを伴い、宣伝歌を歌いながら降ってくる姿が木の間から見えだした。二人は互いに注意しながら身ぶり足ぶりなどして三番叟の下稽古をやっている。
初稚姫は、イクとサールが道連れを望んで待ち構えていることを見抜いており、自分の神業には供は許されないと宣伝歌に歌いこんで二人に言い聞かせた。
二人はこの歌を聞いて失望落胆の色を表したが、サールは気を取り直して口拍子をとって歌いだした。イクも引き出されて歌いながら踊りだした。両人は谷道をふさぎ、御供を従えて行くも神の恵みだと歌って踊り狂った。
スマートは顔を塗った二人を不審を抱いたが、イクとサールだとわかると、尾を振りながら二人の間に分け入って吠えたてた。イクとサールはそれを合図に三番叟を舞い終えた。
イクとサールは改めて初稚姫にお供を申し出たが、初稚姫は自分は一人旅を命じられており、またイクとサールは珍彦の配下とて勝手に連れて行くわけにはいかないと説き諭した。
イクとサールは目配せすると、懐に用意していた腰帯を樫の木の梢にかけて、あごを吊ってしまった。スマートはこれをみて驚き、二人を助けるように初稚姫を促す。初稚姫は手早く二人の体を抱えて持ち上げ、救い下ろした。
初稚姫は二人の熱烈なる願いを聞くわけにゆかず、しばし涙に暮れて考えていた。両人がやや正気になったのを幸い、初稚姫はたちまち神に祈ってその身を大熊と変じた。スマートは唐獅子となって二人に向かって目を怒らし、唸って見せた。
二人は驚いて両手を合わせ、一言も発せずその場にうつむいて震えている。初稚姫は元の姿に戻り、スマートは巨大な獅子と化し、姫を背に乗せて荒野ケ原を一目散に進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-10-07 18:40:51 文字数:3862 OBC :rm5204
愛善世界社版:49頁 八幡書店版:第9輯 397頁 修補版: 校定版:52頁 普及版:23頁 初版: ページ備考:
001 イク、002サールの両人(りやうにん)は、003三番叟(さんばそう)の準備(じゆんび)を整(ととの)へて、004初稚姫(はつわかひめ)の来(きた)るを今(いま)やおそしと待(ま)ち構(かま)へて居(ゐ)た。005半時(はんとき)許(ばか)り経(た)つて、006初稚姫(はつわかひめ)はスマートを伴(ともな)ひ、007声(こゑ)爽(さはや)かに宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら降(くだ)り来(く)る姿(すがた)が、008木(こ)の間(ま)をもれてちらりちらりと見(み)え出(だ)した。009二人(ふたり)は「サアこれからが性念場(しやうねんば)だ、010ぬかつてはならぬ」と互(たがひ)に注意(ちゆうい)しながら、011身振(みぶり)足振(あしぶり)などして三番叟(さんばさう)の下稽古(したげいこ)をやつて居(ゐ)る。
012 初稚姫(はつわかひめ)は声(こゑ)淑(しとや)かに歌(うた)ふ。
013初稚姫『産土山(うぶすなやま)の聖場(せいぢやう)を
014後(あと)に眺(なが)めて大神(おほかみ)の
015任(ま)けのまにまに進(すす)み往(ゆ)く
016吾(われ)は初稚姫(はつわかひめ)の司(つかさ)
017祠(ほこら)の森(もり)に立寄(たちよ)りて
018醜(しこ)の魔神(まがみ)につかれたる
019高姫司(たかひめつかさ)を初(はじ)めとし
020妖幻坊(えうげんばう)の曲津(まがつ)神(かみ)は
021父(ちち)の命(みこと)と偽(いつは)りて
022あらゆる曲(まが)を遂行(すゐかう)し
023珍(うづ)の聖場(せいぢやう)を蹂躙(じうりん)し
024曲津(まがつ)の棲家(すみか)を作(つく)らむと
025企(たく)み居(ゐ)たりし忌々(ゆゆ)しさよ
026神(かみ)の恵(めぐみ)に守(まも)られて
027妾(わらは)は祠(ほこら)の森(もり)に入(い)り
028神(かみ)の依(よ)さしの神業(かむわざ)に
029心(こころ)を尽(つく)し身(み)を尽(つく)し
030曲(まが)の身霊(みたま)を言向(ことむ)けて
031天国(てんごく)浄土(じやうど)に救(すく)はむと
032思(おも)ひし事(こと)も水(みづ)の泡(あわ)
033今(いま)はあへなくなりにけり
034皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
035前途(ぜんと)の幸(さち)を祈(いの)りつつ
036珍彦(うづひこ)夫婦(ふうふ)や楓姫(かへでひめ)
037百(もも)の司(つかさ)や信徒(まめひと)に
038惜(を)しき袂(たもと)をわかちつつ
039神(かみ)のたまひしスマートを
040長途(ちやうと)の旅(たび)の力(ちから)とし
041神(かみ)の恵(めぐみ)を杖(つゑ)として
042漸(やうや)く此処(ここ)に進(すす)み来(き)ぬ
043谷(たに)の流(なが)れは淙々(そうそう)と
044自然(しぜん)の音楽(おんがく)奏(そう)しつつ
045木々(きぎ)の若芽(わかめ)は春風(はるかぜ)に
046そよぎて自然(しぜん)の舞踏(ぶたふ)なし
047人跡(じんせき)稀(まれ)なる谷間(たにあひ)も
048さも賑(にぎは)しき鳥(とり)の声(こゑ)
049緑(みどり)紅(くれなゐ)青(あを)黄色(きいろ)
050其(その)外(ほか)百(もも)の花(はな)の香(か)は
051妾(わらは)が眼(まなこ)を慰(なぐさ)めつ
052実(げ)にも長閑(のどか)な春(はる)の空(そら)
053ホーホケキヨーの鶯(うぐひす)の
054其(その)鳴(な)き声(ごゑ)に何(なん)となく
055神(かみ)の救(すく)ひの御声(みこゑ)あり
056妾(わらは)は素(もと)より一人旅(ひとりたび)
057教(をしへ)の司(つかさ)を伴(ともな)ひて
058長途(ちやうと)の旅(たび)は許(ゆる)されず
059又(また)吾(われ)とても神(かみ)の道(みち)
060進(すす)み行(ゆ)く身(み)に供人(ともびと)を
061携(たづさ)へ行(ゆ)かむすべもなし
062如何(いか)なる曲(まが)の来(きた)るとも
063絶対(ぜつたい)無限(むげん)の大神(おほかみ)の
064御稜威(みいづ)に守(まも)られ行(ゆ)く上(うへ)は
065怖(おそ)るるものは世(よ)にあらじ
066ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
067神(かみ)の恵(めぐみ)の有難(ありがた)さ
068朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
069月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
070醜(しこ)の曲津(まがつ)は猛(たけ)ぶとも
071思(おも)ひ定(さだ)めし一人旅(ひとりたび)
072如何(いか)でか供(とも)を許(ゆる)さむや
073さはさりながら山口(やまぐち)の
074樫(かし)の根元(ねもと)にイク、サール
075目(め)も白黒(しろくろ)と顔(かほ)を塗(ぬ)り
076吾(われ)に従(したが)ひ進(すす)まむと
077手具脛(てぐすね)ひいて待(ま)ち居(ゐ)たる
078其(その)赤心(まごころ)は嘉(よみ)すれど
079神(かみ)の許(ゆる)さぬ道連(みちづ)れを
080如何(いか)でか妾(わらは)が許(ゆる)し得(え)む
081ああ、イク、サール両人(りやうにん)よ
082妾(わらは)が心(こころ)を推(お)し量(はか)り
083斯(か)かる望(のぞ)みを打(う)ち捨(す)てて
084一(いち)時(じ)も早(はや)く聖場(せいぢやう)に
085帰(かへ)りて神(かみ)に仕(つか)へませ
086神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)にあり
087たとへ吾(われ)等(ら)に従(したが)ひて
088いづくの果(はて)に来(きた)るとも
089神(かみ)の許(ゆる)しのなき上(うへ)は
090如何(いか)でか望(のぞ)みの達(たつ)すべき
091諦(あきら)めたまへ二柱(ふたはしら)
092初稚姫(はつわかひめ)が慎(つつし)みて
093心(こころ)の丈(たけ)を隈(くま)もなく
094汝(な)が身(み)の前(まへ)に打(う)ち明(あか)し
095その赤心(まごころ)の厚(あつ)きをば
096謹(つつし)み感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
097ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
098御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
099と歌(うた)ひながら急坂(きふはん)を下(くだ)り、100一歩(ひとあし)々々(ひとあし)近(ちか)づき来(きた)る。101二人(ふたり)は此(この)歌(うた)を聞(き)いて失望(しつばう)落胆(らくたん)の色(いろ)を現(あら)はしながら、
102イク『オイ、103色(いろ)の黒(くろ)き尉殿(じやうどの)、104あの歌(うた)を聞(き)いたか、105遉(さすが)は初稚姫(はつわかひめ)様(さま)だ、106ちやんと俺(おれ)達(たち)が顔(かほ)に白(しろ)いものや黒(くろ)いものまで附(つ)けて、107此処(ここ)に待(ま)つて居(ゐ)る事(こと)まで御存(ごぞん)じと見(み)えて、108「目(め)を白黒(しろくろ)、109顔(かほ)を塗(ぬ)り立(た)てて」と仰有(おつしや)つたぢやないか。110こいつは駄目(だめ)かも知(し)れぬぞ』
111サール『イヤ、112色(いろ)の白(しろ)き尉殿(じやうどの)、113必(かなら)ず必(かなら)ず御(ご)心配(しんぱい)召(め)さるな』
114と云(い)ひながら片手(かたて)に扇(あふぎ)を持(も)ち、115片手(かたて)に梢(こずゑ)を携(たづさ)へ、116妙(めう)な腰付(こしつき)をして足拍子(あしびやうし)を揃(そろ)へ、117サールは、
118サール『トートータラリ、119トータラリ、120タラリーリ、121トータラリヤー、122タラリ、123トータラリ、124朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも、125オンハ、126カッタカタ、127エンヤハ、128オイ、129カッタカタ』
130と口拍子(くちびやうし)を取(と)りながら歌(うた)ひだした。131イクも亦(また)引(ひ)き出(だ)されて真白(まつしろ)の顔(かほ)をさらしながら、
132イク『月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも、133仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも』
134サール『初稚姫(はつわかひめ)の御(おん)供(とも)に
135 エンヤ、136カッタカタ
137 オンハ、138カッタカタ
139 仕(つか)へまつらで置(お)くべきか
140 抑々(そもそも)三五(あななひ)の神(かみ)の教(をしへ)は
141 敵(てき)でも餓鬼(がき)でも虫族(むしけら)でも
142 助(たす)くるー道(みち)なりー助(たす)くるー道(みち)なり』
143イク『かるが故(ゆゑ)に
144 如何(いか)に初稚姫(はつわかひめ)の神(かみ)なりとて
145 此(この)色(いろ)の白(しろ)き尉殿(じやうどの)や
146 まつた この色(いろ)の黒(くろ)き尉殿(じやうどの)が
147 赤心(まごころ)こめて願(ね)ぎまつる
148 ハルナの都(みやこ)の御(おん)供(とも)を
149 許(ゆる)させたまはぬ
150 事(こと)やあるべき。
151如何(いか)に色(いろ)の黒(くろ)き尉殿(じやうどの)、152ここは吾々(われわれ)両人(りやうにん)、153天津(あまつ)乙女(をとめ)の舞(まひ)を奏(かな)でて初稚姫(はつわかひめ)の御心(みこころ)を和(やは)らげ、154許(ゆる)され難(がた)き御(おん)供(とも)に、155たつて仕(つか)へまつらうでは厶(ござ)らぬか』
156サール『されば候(さふらふ)、157天津(あまつ)乙女(をとめ)の舞(まひ)、158速(すみやか)に御(おん)舞(ま)ひ候(さふら)へ、159かく舞(ま)ふ時(とき)は天女(てんによ)に等(ひと)しき初稚姫(はつわかひめ)、160祠(ほこら)の森(もり)の元(もと)の屋敷(やしき)に御(おん)直(なほ)り候(さふら)ふべし。161オンハ、162カッタカタ、163エンハ、164カッタカタ、165カッタリコ カッタリコ、166カッタ カッタ カッタリコ、167エンヤ、168オンハ、169此(この)世(よ)を造(つく)り給(たま)ひし神直日(かむなほひ)の神(かみ)、170御心(みこころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)の神(かみ)、171唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は、172直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)し、173如何(いか)なる事(こと)も宣(の)り直(なほ)し給(たま)ふ、174尊(たふと)き神(かみ)の御使(みつかひ)と、175現(あら)はれ給(たま)ふ初稚姫(はつわかひめ)、176世人(よびと)を救(すく)ふ宣伝使(せんでんし)と、177現(あら)はれ給(たま)ふ御(おん)身(み)なれば、178如何(いか)でか吾(われ)等(ら)が熱心(ねつしん)なる願(ねがひ)を許(ゆる)し給(たま)はざる事(こと)のあるべき。179朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも、180四辺(あたり)に響(ひび)く滝(たき)の水(みづ)、181抑(そもそも)これの滝水(たきみづ)は、182産土山(うぶすなやま)の山麓(さんろく)より落(お)ち来(きた)る恵(めぐみ)の露(つゆ)の暫(しば)し木(こ)の葉(は)の下潜(したくぐ)りつつ、183河鹿(かじか)の河(かは)に流(なが)れ来(き)て、184此処(ここ)に滝(たき)とぞなりにける。185抑(そもそも)これの流(なが)れは、186産土山(うぶすなやま)に湧(わ)き出(い)でし時(とき)は、187僅(わづ)かの露(つゆ)にてありしもの、188流(なが)れ流(なが)れて谷々(たにだに)の、189小川(をがは)の水(みづ)を一(ひと)つになし、190斯(か)くも目出度(めでた)く麗(うるは)しき瑞(みづ)の御霊(みたま)の滝(たき)とぞなりにける』
191イク『初稚姫(はつわかひめ)もその如(ごと)く、192産土山(うぶすなやま)を出(い)で給(たま)ひし時(とき)こそ、193木(こ)の葉(は)の露(つゆ)に等(ひと)しき御(おん)出立(いでた)ち、194繊弱(かよわ)き乙女(をとめ)の旅衣(たびごろも)、195語(かた)らふ友(とも)もなかりしに、196神(かみ)の恵(めぐみ)のあら尊(たふと)、197畜生(ちくしやう)の身(み)をもつて、198其(その)御(おん)供(とも)に仕(つか)へまつりたる、199スマートを添(そ)へ茲(ここ)に征途(せいと)に上(のぼ)らせ給(たま)ふ、200其(その)有様(ありさま)を譬(たと)ふれば、201この滝水(たきみづ)の次第(しだい)々々(しだい)に、202行(ゆ)くに随(したが)ひ水量(みづかさ)増(まさ)り、203小川(をがは)を合(あは)せて太(ふと)り行(ゆ)く如(ごと)く、204御供(みとも)の神(かみ)を数多(あまた)従(したが)へ、205出(い)でますべきは天地(てんち)の道理(だうり)ならめ、206あら有難(ありがた)や尊(たふと)しやな、207今(いま)や吾(わが)目(め)の前(まへ)に御姿(みすがた)を現(あら)はし給(たま)ひし初稚姫(はつわかひめ)、208御供(みとも)に仕(つか)へさしてたび給(たま)へ、209色(いろ)の白(しろ)き尉殿(じやうどの)と黒(くろ)き尉殿(じやうどの)が、210黒白(あやめ)も分(わか)ぬ闇(やみ)の世(よ)の救(すく)ひのために、211天地(あめつち)の神(かみ)に誓(ちか)ひまつりて、212姫(ひめ)が御前(みまへ)に願(ね)ぎまつる。213オンハ、214カッタカタ、215エンハ、216カッタカタ、217カッタ カッタ カッタリコ、218カッタリ カッタリ カッタリコ、219エンヤ、220オンハ』
221と両人(りやうにん)は谷道(たにみち)を塞(ふさ)ぎ、222一生(いつしやう)懸命(けんめい)に踊(をど)り狂(くる)ふ。223遉(さすが)の初稚姫(はつわかひめ)も二人(ふたり)の理詰(りづめ)に答(こた)ふる言葉(ことば)もなく、224少時(しばし)茫然(ばうぜん)として二人(ふたり)の舞(まひ)を眺(なが)め居(ゐ)たりき。225スマートは二人(ふたり)の顔(かほ)の変(かは)つたのに不審(ふしん)を抱(いだ)き、226首(くび)を傾(かた)げて考(かんが)へて居(ゐ)たが、227やつとの事(こと)でイク、228サールの両人(りやうにん)の戯(たはむ)れなる事(こと)を知(し)り、229二人(ふたり)の中(なか)に分(わ)け行(い)つて、230尾(を)を掉(ふ)りながら、231ワンワンワンと二声(ふたこゑ)三声(みこゑ)吠(ほ)え猛(たけ)るや、232イク、233サールの両人(りやうにん)は、234やつとの事(こと)で三番叟(さんばそう)を舞(ま)ひ納(をさ)めた。235一生(いつしやう)懸命(けんめい)に茲(ここ)を先途(せんど)と踊(をど)り狂(くる)うたのだから、236ビツシヨリ汗(あせ)に濡(ぬ)れ、237何(なん)とも形容(けいよう)の出来(でき)ぬ化物面(ばけものづら)になつて仕舞(しま)つた。
238初稚姫『ホホホホホ、239貴方(あなた)はイク、240サールの司(つかさ)ぢやありませぬか。241何時(いつ)の間(ま)に斯様(かやう)な所(ところ)にお出(いで)になつたのです。242珍彦(うづひこ)さまが嘸(さぞ)心配(しんぱい)をしてゐらつしやるでせう。243サア早(はや)く帰(かへ)つて神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)をして下(くだ)さい。244さうして又(また)其(その)顔(かほ)はどうなさつたのですか。245本当(ほんたう)にみつともない、246お化(ばけ)のやうですわ。247三番叟(さんばさう)が済(す)みましたら、248早(はや)く此(この)谷川(たにがは)でお顔(かほ)をお洗(あら)ひなさいませ。249どこの方(かた)が通(とほ)られるか知(し)れませぬよ。250旅(たび)のお方(かた)が貴方(あなた)等(がた)のお顔(かほ)を見(み)たら、251キツト吃驚(びつくり)せられますからなア』
252イク『イヤモウ大変(たいへん)な目出度(めでた)い事(こと)で厶(ござ)いました。253貴女(あなた)の御(ご)旅行(りよかう)について、254天(てん)の大神(おほかみ)様(さま)が吾々(われわれ)にお供(とも)をせいと仰有(おつしや)つての事(こと)か、255思(おも)はず知(し)らず此処(ここ)まで体(からだ)が宙(ちう)に飛(と)んで参(まゐ)りまして、256生(うま)れてから初(はじ)めての三番叟(さんばさう)を踏(ふ)まされました。257何卒(なにとぞ)惟神(かむながら)と思召(おぼしめ)して、258何処(どこ)までもお供(とも)にお連(つ)れ下(くだ)さいますやう、259偏(ひとへ)にお願(ねが)ひ申(まを)します』
260サール『どうぞ、261私(わたし)もイクの申(まを)した通(とほ)り、262是非(ぜひ)ともお供(とも)をさして頂(いただ)きたう存(ぞん)じます』
263初稚姫『折角(せつかく)の思召(おぼしめし)を無(む)にするのも苦(くる)しう厶(ござ)いますが、264最前(さいぜん)申(まを)した通(とほ)り、265妾(わらは)は供(とも)は許(ゆる)されないのですから、266どうぞそれだけは堪(こら)へて頂(いただ)きたう存(ぞん)じます』
267イク『そこを、268たつてお願(ねが)ひ申(まを)したいと存(ぞん)じ、269合(あは)す顔(かほ)が厶(ござ)いませぬので、270此(この)通(とほ)り白(しろ)く黒(くろ)く塗(ぬ)りまして、271お願(ねが)ひ申(まを)したので厶(ござ)います。272何(なん)と仰有(おつしや)つても私(わたくし)はお供(とも)を致(いた)します。273珍彦(うづひこ)様(さま)に許(ゆる)しも受(う)けず、274勝手(かつて)に飛(と)び出(だ)して来(き)たので厶(ござ)いますから、275此(この)儘(まま)帰(かへ)る事(こと)は出来(でき)ませぬ。276吾々(われわれ)を助(たす)けると思(おも)うて何卒(どうぞ)お許(ゆる)しを願(ねが)ひます。277何程(なにほど)神(かみ)様(さま)のお道(みち)だと申(まを)しても、278特別(とくべつ)のお取扱(とりあつか)ひ破格(はかく)の思召(おぼしめし)と云(い)ふ事(こと)が厶(ござ)いませう。279其処(そこ)は神直日(かむなほひ)、280大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)しまして、281お許(ゆる)し下(くだ)さるが人(ひと)を助(たす)ける宣伝使(せんでんし)の役(やく)ぢや厶(ござ)いませぬか』
282初稚姫『本当(ほんたう)に困(こま)りましたなア。283併(しか)しながら、284貴方(あなた)は祠(ほこら)の森(もり)の神司(かむつかさ)珍彦(うづひこ)様(さま)の支配(しはい)を受(う)けねばならぬお方(かた)故(ゆゑ)、285私(わたし)が勝手(かつて)につれて参(まゐ)る訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ。286そんな無理(むり)を仰有(おつしや)らずに、287早(はや)く帰(かへ)つて下(くだ)さい。288それが神(かみ)様(さま)に対(たい)する第一(だいいち)の務(つと)めで厶(ござ)いますからなア』
289イク『アヽ是(これ)程(ほど)頼(たの)んでも聞(き)いて下(くだ)さらねば、290最早(もはや)是非(ぜひ)がない。291オイ、292サール、293愈(いよいよ)決死隊(けつしたい)だ』
294と目配(めくば)せする。295茲(ここ)に両人(りやうにん)は懐(ふところ)に用意(ようい)して置(お)いた腰帯(こしおび)を樫(かし)の木(き)の梢(こずゑ)にパツと手早(てばや)く引(ひ)つかけ、296顎(あご)を吊(つ)つてプリンプリンと三番叟(さんばさう)の舞(まひ)は、297忽(たちま)ち住吉踊(すみよしをど)りの人形(にんぎやう)とヘグレて仕舞(しま)つた。298スマートは此(この)体(てい)を見(み)て驚(おどろ)き、299ワンワンと吠立(ほえた)て、300初稚姫(はつわかひめ)の身(み)の廻(まは)りをウロウロしながら袖(そで)をくはへて「早(はや)く両人(りやうにん)を助(たす)けて下(くだ)さい」と、301口(くち)には云(い)はねど其(その)形容(けいよう)に現(あら)はし、302悲(かな)しき声(こゑ)を絞(しぼ)つて啼(な)く。303初稚姫(はつわかひめ)は手早(てばや)くブラ下(さが)つた体(からだ)をグツと抱(かか)へ、304五寸(ごすん)ばかり持(も)ちあげて二人(ふたり)とも救(すく)ひ下(おろ)した。305二人(ふたり)は気(き)が遠(とほ)くなつて呆然(ばうぜん)として居(ゐ)る。306初稚姫(はつわかひめ)は二人(ふたり)の熱烈(ねつれつ)なる願(ねが)ひを聞(き)く訳(わけ)にもゆかず、307断(ことわ)る訳(わけ)にもゆかず、308暫(しば)し涙(なみだ)に暮(く)れて考(かんが)へて居(ゐ)たが、309やや両人(りやうにん)が正気(しやうき)になつたのを幸(さいは)ひ、310忽(たちま)ち神(かみ)に祈(いの)り、311身(み)を変(へん)じて大熊(おほくま)となり、312スマートは唐獅子(からじし)となり、313目(め)を怒(いか)らし足掻(あがき)をしながら、314ウーウーと二人(ふたり)に唸(うな)つて見(み)せた。315二人(ふたり)は吃驚(びつくり)して両手(りやうて)を合(あは)せ一言(ひとこと)も発(はつ)し得(え)ず、316其(その)場(ば)に俯向(うつむ)いて慄(ふる)うて居(ゐ)る。317初稚姫(はつわかひめ)は再(ふたた)び元(もと)の姿(すがた)となり、318スマートは巨大(きよだい)なる獅子(しし)と化(くわ)し、319初稚姫(はつわかひめ)を背(せ)に乗(の)せて荒野(あらの)ケ原(はら)を一目散(いちもくさん)に進(すす)み往(ゆ)く。
320(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 加藤明子録)
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