霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二六章 姑根性(しうとめこんじやう)〔一三六二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第5篇 洗判無料 よみ(新仮名遣い):せんばんむりょう
章:第26章 姑根性 よみ(新仮名遣い):しゅうとめこんじょう 通し章番号:1362
口述日:1923(大正12)年02月10日(旧12月25日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
次に文助の娘・お年とその弟が呼び出された。守衛たちは、二人は本来天国に行くところを親の罪によってこれまで中有界で修業をしていただけだ、と告げた。そして審判の必要はないと言い渡すと、門内から天男天女を呼び出した。姉弟は、霊光に包まれると、天人たちと共に光となって立ち去った。
次にひどい悋気の姑婆・お照がやってきた。お照は息子の嫁にずいぶんひどい仕打ちをしたが、それはすべて自分が正しかったと守衛たちの前で弁解した。守衛たちは、お照は地獄行きだと叱りつけて門をくぐらせたが、お照は、嫁の悪事をうったえるのだと息巻いている。
次に腕に入墨をした荒くれ男が引き出された。鳶の弁造と名乗る侠客は、守衛に促されて善悪の秤の上に乗せられた。秤は天国も地獄も指さずに水平になった。守衛は、口は悪いが比較的善人だと弁造を評した。
守衛は、弁造は今の状態では天国へも地獄へもいけないから、中有界でしばらく修業するように言いつけた。弁造は、侠客渡世の自分は地獄行きのはずだが、と冴えない顔をして中有界の荒野へ進んで行った。
それからも、たくさんの精霊が一々姓名を尋ねられ、記憶を繰られ、天国・地獄・中有界とそれぞれ主とするところの愛によって裁かれて行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-12-23 17:59:59 文字数:4438 OBC :rm5226
愛善世界社版:303頁 八幡書店版:第9輯 488頁 修補版: 校定版:311頁 普及版:137頁 初版: ページ備考:
001 次(つぎ)に呼(よ)び出(だ)されたのはお年(とし)であつた。
002赤(あか)『お前(まへ)は文助(ぶんすけ)の娘(むすめ)お年(とし)であつたなア』
003お年『ハイ、004左様(さやう)で厶(ござ)います』
005赤の守衛『いつ霊界(れいかい)へ来(き)たのか』
006お年『ハイ、007三(みつ)つの年(とし)に現界(げんかい)を去(さ)り、008八衢(やちまた)の世界(せかい)に於(おい)て今日(けふ)まで成長(せいちやう)して参(まゐ)りました』
009赤の守衛『其処(そこ)に居(を)るのはお前(まへ)の弟(おとうと)か』
010お年『左様(さやう)で厶(ござ)います。011両人(りやうにん)とも萱野(かやの)ケ原(はら)で淋(さび)しい生活(せいくわつ)を続(つづ)けて居(を)りました』
012赤の守衛『お前(まへ)等(ら)姉弟(きやうだい)は親(おや)の罪(つみ)によつて、013天国(てんごく)に往(ゆ)くべき所(ところ)を長(なが)らく修業(しゆげふ)を致(いた)したのだから、014これから直(すぐ)に天国(てんごく)にやつてやらう。015最早(もはや)審判廷(しんぱんてい)に往(ゆ)く必要(ひつえう)もない。016暫(しばら)く待(ま)つて居(ゐ)るがよい』
017と云(い)ひ放(はな)ち白(しろ)に目配(めくば)せした。018白(しろ)は直(ただち)に門内(もんない)に駆(か)け込(こ)んだ。019暫(しばら)くして得(え)も云(い)はれぬ麗(うるは)しい天男(てんなん)天女(てんによ)が、020琵琶(びは)や胡弓(こきう)や縦笛(たてぶえ)等(など)をもつて、021どこからともなく現(あら)はれ来(きた)り、022両人(りやうにん)に麗(うるは)しき衣類(いるゐ)を与(あた)へ、023不思議(ふしぎ)なる霊光(れいくわう)に二人(ふたり)をパツと包(つつ)み、024微妙(びめう)の音楽(おんがく)を奏(そう)しながら東(ひがし)をさして雲(くも)に乗(の)り、025光(ひかり)となつて立(た)ち去(さ)つて仕舞(しま)つた。026二人(ふたり)の守衛(しゆゑい)は其(その)姿(すがた)を見送(みおく)つて合掌(がつしやう)し、027喜(よろこ)びの色(いろ)を顔(かほ)に浮(うか)べて居(ゐ)る。
028赤(あか)『いつもかふいふ精霊(せいれい)ばかりがやつて来(く)ると気分(きぶん)がよいのだがなア。029高姫(たかひめ)のやうな死損(しにぞこな)ひの阿婆摺(あばず)れ女(をんな)がやつて来(き)ては、030サツパリ関所守(せきしよもり)も手古摺(てこず)らざるを得(え)ないワ。031それに又(また)お艶(つや)に呆助(はうすけ)、032極端(きよくたん)のデレ助(すけ)だから恋(こひ)の奴(やつこ)となり果(は)て、033正邪(せいじや)理非(りひ)の弁別(べんべつ)も殆(ほとん)どつかない迄(まで)に恋愛(れんあい)に心酔(しんすゐ)して居(ゐ)るのだから、034伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)様(さま)もさぞお困(こま)りなさる事(こと)だらうなア』
035白の守衛『本当(ほんたう)に困(こま)つたものですなア。036サアこれから又(また)、037ボツボツ調(しら)べねばなりますまい』
038と云(い)ひながら、039白(しろ)は一番(いちばん)近(ちか)くに居(を)つた婆(ばば)の手(て)を引(ひ)いて赤(あか)の前(まへ)に立(た)たせた。
040赤の守衛『お前(まへ)は柊(ひひらぎ)村(むら)のお照(てる)ぢやないか、041どうして此処(ここ)へ来(き)たのだ』
042お照『ハイよう聞(き)いて下(くだ)さいませ。043私(わたし)には天(てん)にも地(ち)にも只(ただ)一人(ひとり)の息子(むすこ)が厶(ござ)います。044その息子(むすこ)は孝助(かうすけ)と云(い)うて、045ほんとうに孝行(かうかう)して呉(く)れました。046若(わか)い時(とき)夫(をつと)に離(はな)れ、047長(なが)い間(あひだ)後家(ごけ)を立(た)て通(とほ)し、048這(は)へば立(た)て、049立(た)てば歩(あゆ)めと親心(おやごころ)、050寝(ね)ても起(お)きても忘(わす)れた暇(ひま)はなく、051一(ひと)つ咳(せき)をしても肺病(はいびやう)になつたのぢやないかと思(おも)ひ、052寝息(ねいき)が荒(あら)くても心臓病(しんざうびやう)ぢやないかと、053それはそれはえらい心配(しんぱい)して漸(やうや)く成人(せいじん)させ、054優(やさ)しい女房(にようばう)をもたせて老後(らうご)を楽(たの)しまうと思(おも)うて居(ゐ)ました。055処(ところ)が、056私(わたし)の姪(めい)にあたるものにお清(きよ)と云(い)ふ娘(むすめ)がありましたので、057それと娶(めあ)はせました所(ところ)、058二三(にさん)日(にち)の間(あひだ)は夫婦(ふうふ)共(とも)大切(たいせつ)にして呉(く)れましたが、059それから後(のち)と云(い)ふものは孝助(かうすけ)の心(こころ)がすつかり変(かは)り、060一(いち)にもお清(きよ)、061二(に)にもお清(きよ)と申(まを)して、062お母(かあ)さま其処(そこ)に居(を)るかとも云(い)うて呉(く)れませぬ。063そして夜(よる)になるとこの老人(らうじん)を別(べつ)に寝(ね)かせ、064自分(じぶん)等(ら)二人(ふたり)が抱(だ)き合(あ)つてグツスリ寝(ね)て居(ゐ)るぢやありませぬか。065自分(じぶん)の大事(だいじ)の息子(むすこ)をお清(きよ)に取(と)られる位(くらゐ)なら、066女房(にようばう)に貰(もら)ふぢやなかつたにと悔(くや)んでも最早(もはや)追付(おつつ)きませぬ。067そこで息子(むすこ)の孝助(かうすけ)に、068親(おや)の気(き)に入(い)らぬ女房(にようばう)はトツトと追(お)ひ出(だ)せと申(まを)した所(ところ)、069孝助(かうすけ)の云(い)ひますのには「今(いま)迄(まで)は親(おや)の云(い)ふ事(こと)は何(なん)でも聞(き)きましたが、070お清(きよ)は私(わたし)の女房(にようばう)でお前(まへ)さまの女房(にようばう)ぢやないから構(かま)はいでもよろしい。071老(お)いては子(こ)に従(したが)へと云(い)ふ事(こと)がある。072お前(まへ)はおとなしうして遊(あそ)んで居(を)れば、073私(わたし)等(ら)夫婦(ふうふ)が働(はたら)いてお前(まへ)さまを養(やしな)ひます」と云(い)うて憎(にく)い憎(にく)い嫁(よめ)を追(お)ひ出(だ)さうとも申(まを)しませぬ。074私(わたし)が懐(ふところ)に抱(だ)いて育(そだ)てた孝助(かうすけ)をお清(きよ)に自由(じいう)にされて、075どうして私(わたし)の顔(かほ)が立(た)ちますか。076御(ご)推量(すゐりやう)なさつて下(くだ)さいませ、077アンアンアン』
078赤の守衛『ハテ、079困(こま)つたものだなア』
080お照『本当(ほんたう)に困(こま)つたもので厶(ござ)いませう。081併(しか)しながら私(わたし)の息子(むすこ)に限(かぎ)つて、082あんな不孝(ふかう)な者(もの)ぢや厶(ござ)いませなんだが、083何分(なにぶん)嫁(よめ)が悪(わる)い奴(やつ)で厶(ござ)いますから、084何彼(なにか)と悪(わる)い知恵(ちゑ)をつけますので、085一人(ひとり)しかないこの親(おや)に不孝(ふかう)を致(いた)します。086それが残念(ざんねん)さに裏(うら)の柿(かき)の木(き)で首(くび)を吊(つ)つてやりました。087さうした所(ところ)、088死(し)にまんが悪(わる)いと見(み)えて、089矢張(やつぱ)りこんな所(ところ)へ迷(まよ)うて参(まゐ)りました。090死(し)にたうても死(し)なれもせず、091本当(ほんたう)に因果(いんぐわ)な婆(ばば)で厶(ござ)います、092オンオンオン』
093赤の守衛『お前(まへ)の息子(むすこ)夫婦(ふうふ)が不孝(ふかう)したと云(い)ふのは、094一体(いつたい)何(ど)ういふ事(こと)をしたのだ』
095お照『ハイ、096親(おや)の気(き)に入(い)らぬ事(こと)ばかり致(いた)します。097お清(きよ)が来(き)てからと云(い)ふものは、098些(ちつと)も私(わたし)と寝(ね)て呉(く)れませぬ。099それが腹(はら)が立(た)つて耐(たま)りませぬ。100親(おや)の気(き)に入(い)らぬ事(こと)をするのは不孝(ふかう)ぢや厶(ござ)いませぬか』
101赤の守衛『そりや夫婦(ふうふ)同衾(どうきん)するのは当然(あたりまへ)ぢやないか。102何(なん)でそれが不孝(ふかう)に当(あた)るのぢや。103お前(まへ)は姑根性(しうとめこんじやう)を起(おこ)して法界(ほふかい)悋気(りんき)をして居(ゐ)るのだらう』
104お照『滅相(めつさう)な、105なんでそんな事(こと)を致(いた)しませう。106私(わたし)は孝助(かうすけ)の身(み)の上(うへ)を案(あん)じ、107夜分(やぶん)も寝(ね)ずに孝助(かうすけ)夫婦(ふうふ)の身(み)の上(うへ)を考(かんが)へて居(を)りますれば、108お清(きよ)の奴(やつ)、109大事(だいじ)の大事(だいじ)の息子(むすこ)をハアハア云(い)ふ目(め)に遇(あ)はせ、110虐待(いぢ)めて泣(な)かしますので腹(はら)が立(た)つて耐(たま)りませぬ。111どうしてあんな事(こと)を親(おや)が見(み)て居(を)られませうか、112御(ご)推量(すゐりやう)下(くだ)さいませ。113私(わたし)のやうな不仕合(ふしあは)せなものはありませぬ。114夫(をつと)には早(はや)く別(わか)れ、115一人(ひとり)の子(こ)に粗末(そまつ)にされ、116嫁(よめ)には情(つれ)なく当(あた)られ、117どうして生(い)きて居(ゐ)られませうかいなア、118アンアンアン』
119 赤(あか)の守衛(しゆゑい)は口(くち)をへの字(じ)に結(むす)んだきり、120横(よこ)に長(なが)い帳面(ちやうめん)を開(ひら)いて見(み)てニタリと笑(わら)ひ、
121赤の守衛『これこれお照(てる)、122お前(まへ)は随分(ずいぶん)嫁(よめ)をイヂつたなア』
123お照『ハイ、124イヂりました。125向(むか)ふの出(で)やうが出(で)やうで厶(ござ)いますもの、126姑婆(しうとめばば)の針(はり)いぢりと申(まを)して、127あまり腹(はら)が立(た)つと、128木綿針(もめんばり)で嫁(よめ)の尻(しり)をチヨイチヨイと突(つ)いてやりました。129併(しか)し、130これは姑(しうとめ)の針(はり)いぢりと昔(むかし)から諺(ことわざ)にも残(のこ)つて居(ゐ)る所(ところ)で厶(ござ)います。131些(ちつ)と痛(いた)い目(め)に遇(あ)はして躾(しつけ)をせねば家(いへ)のためになりませぬから』
132赤の守衛『その方(はう)は随分(ずいぶん)悪党(あくたう)な婆(ばば)だ。133息子(むすこ)が女房(にようばう)と親密(しんみつ)に暮(くら)して居(ゐ)るのが腹(はら)が立(た)つと見(み)えるな』
134お照『些(ちつ)とは腹(はら)も立(た)ちませうかい。135お前(まへ)さまだつて姑(しうと)の身分(みぶん)になつて御覧(ごらん)なさい。136お前(まへ)さまは役人(やくにん)とみえるが、137チツとは老人(らうじん)の贔屓(ひいき)もして、138嫁(よめ)を叱(しか)つて下(くだ)さつたら好(よ)かりさうなものだがなア』
139赤の守衛『嫁(よめ)には些(ちつと)も悪(わる)い事(こと)はない、140お前(まへ)と息子(むすこ)が悪(わる)い、141これから一(ひと)つ成敗(せいばい)をしてやらう』
142お照『滅相(めつさう)な、143私(わたし)の息子(むすこ)に限(かぎ)つて悪(わる)いことは塵(ちり)程(ほど)も致(いた)した覚(おぼ)えは厶(ござ)りませぬ。144又(また)このお照(てる)も、145若(わか)い時(とき)から貞節(ていせつ)を守(まも)り、146夫(をつと)の目(め)を盗(ぬす)んで男(をとこ)を拵(こしら)へたやうな事(こと)もなし、147よく調(しら)べて下(くだ)さいませ』
148赤の守衛『お前(まへ)はお清(きよ)が朝寝(あさね)をしたと申(まを)して、149お清(きよ)を庭(には)の土間(どま)に坐(すわ)らせ、150戸棚(とだな)からありたけの瀬戸物(せともの)を出(だ)し、151一口(ひとくち)小言(こごと)を云(い)つては庭(には)に打(う)ちつけ、152又(また)一言(ひとこと)云(い)つては打(う)ちつけ、153終(つひ)には土瓶(どびん)、154燗徳利(かんどくり)、155火鉢(ひばち)迄(まで)なげつけてメチヤ メチヤに毀(こは)したぢやないか。156お清(きよ)が土間(どま)に頭(あたま)を下(さ)げて謝(あやま)つて居(ゐ)るのに、157なぜ左様(さやう)な乱暴(らんばう)を致(いた)したか』
158お照『ハイ、159何(なん)と云(い)つても自分(じぶん)の家(いへ)の宝(たから)ですから割(わ)りたくはありませぬ。160初(はじ)めの間(あひだ)は欠(か)けた茶碗(ちやわん)や、161ニウの入(い)つた手塩皿(てしほざら)を投(な)げつけたのです。162その時(とき)気(き)の利(き)いた嫁(よめ)なら私(わたし)の手(て)に取(と)りついて「お母(かあ)さま待(ま)つて下(くだ)さい」と泣(な)いて留(と)める所(ところ)ですのに、163あのお清(きよ)は家(うち)を思(おも)はぬ馬鹿(ばか)な女(をんな)ですから一(ひと)つも留(と)めはせず、164謝(あやま)つてばかり居(ゐ)るので、165惜(を)しいて叶(かな)はぬあの瀬戸物(せともの)を、166つひ行(ゆ)きがかり上(じやう)、167壊(こは)して仕舞(しま)つたのです。168本当(ほんたう)に惜(を)しい事(こと)で厶(ござ)いました。169決(けつ)してこの婆(ばば)が壊(こは)したのぢやありませぬ、170お清(きよ)の奴(やつ)がむかつかしたのが原動力(げんどうりよく)となつて、171つひあんな事(こと)が出来(でき)たので厶(ござ)います。172本当(ほんたう)に心得(こころえ)の悪(わる)い女(をんな)で厶(ござ)います。173私(わたし)を諫(いさ)める事(こと)はしないで、174おしまひには、175錦手(にしきで)の立派(りつぱ)な鉢(はち)まで持(も)つて来(き)て、176お母(かあ)さま、177序(ついで)にこれも割(わ)つて呉(く)れと申(まを)しますので、178エ、179割(わ)つてやらうかと思(おも)ひましたが、180余(あま)り惜(を)しいので上等品(じやうとうひん)だけは残(のこ)して置(お)きました。181そして首(くび)を吊(つ)る時(とき)に考(かんが)へたのは、182こんな瀬戸物(せともの)やお金(かね)まで残(のこ)して死(し)んでも、183皆(みな)あんな憎(にく)らしい嫁(よめ)のものになるのが惜(を)しいから、184紙幣(しへい)は皆(みな)燃(も)やして仕舞(しま)ひ、185瀬戸物(せともの)は皆(みな)割(わ)つて了(しま)つてやらうと思(おも)ひましたが、186何(なん)としても可愛(かあい)い孝助(かうすけ)が、187困(こま)るだらうと思(おも)うて、188割(わ)らずと置(お)きました。189お金(かね)も臍繰(へそくり)が五百(ごひやく)両(りやう)ばかりありましたが、190この金(かね)には書(か)き残(のこ)して置(お)きました。191「このお金(かね)は孝助(かうすけ)が使(つか)ふべきもの、192お清(きよ)は手(て)を触(ふ)れる事(こと)も出来(でき)ない、193これをお清(きよ)が使(つか)ふと化(ば)けて出(で)る」と書(か)いておきましたから、194何(なん)ぼ悪党(あくたう)な嫁(よめ)でも、195こればかりはよう使(つか)ひきりますまい、196オンオンオン』
197赤の守衛『何(なん)とまア、198業(ごふ)の深(ふか)い婆(ばば)だなア。199貴様(きさま)のやうな悪垂(あくた)れ婆(ばば)はキツと地獄行(ぢごくゆ)きだらう。200さア、201キリキリとこの門(もん)を潜(くぐ)れ』
202お照『お前(まへ)さまの様(やう)な没分暁漢(わからずや)に云(い)つた所(ところ)で、203老人(らうじん)の精神(せいしん)は分(わか)りますまい。204さア、205これから出(で)る所(ところ)へ出(で)て、206嫁(よめ)の悪事(あくじ)を訴(うつた)へ仇(あだ)を討(う)たねば置(お)きませぬわいなア、207南無(なむ)阿弥陀仏(あみだぶつ)南無(なむ)阿弥陀仏(あみだぶつ)、208ああ腰(こし)の痛(いた)い事(こと)だ。209ここは何(なん)と云(い)ふお役所(やくしよ)だか知(し)らないが、210こんな若(わか)いお役人(やくにん)が何(なに)を知(し)るものか、211一(いち)日(にち)でも先(さき)に生(うま)れたら世(よ)の中(なか)のお師匠(ししやう)さまだ。212どれどれ ちと分(わか)る人(ひと)に会(あ)うて、213この訳(わけ)を聞(き)いて貰(もら)はう。214これ赤白(あかしろ)の若(わか)い衆(しう)、215偉(えら)いお邪魔(じやま)を致(いた)しました。216皆(みな)さま、217お先(さき)イ、218左様(さやう)なら』
219と藜(あかざ)の杖(つゑ)をついて海老(えび)のやうに腰(こし)を曲(ま)げ、220禿(は)げた頭(あたま)にお定目(ぢやうもく)ばかりの髪(かみ)を後(うしろ)に束(たば)ね、221エチエチと門内(もんない)さして進(すす)み入(い)る。
222 次(つぎ)に引(ひ)き出(だ)されたのは、223腕(うで)に入墨(いれずみ)をした荒(あら)くれ男(をとこ)であつた。
224赤の守衛『其(その)方(はう)のネームは何(なん)と申(まを)すか』
225男(弁造)『ハイ俺(わつちや)ア、226鳶(とび)の弁造(べんざう)と云(い)つて世(よ)の中(なか)に些(ちつと)は男(をとこ)を売(う)つたものでござんす。227如何(いか)なる揉(も)め事(ごと)が起(おこ)つても、228此(この)弁造(べんざう)さまが真裸(まつぱだか)となり、229捻鉢巻(ねじはちまき)をグツと締(し)め「まつたまつた」とやつたが最後(さいご)、230鶴(つる)の一声(ひとこゑ)、231何(なん)でも彼(か)でも水(みづ)をうつた如(ごと)く、232一度(いちど)に納(をさ)まると云(い)ふ男達(をとこだて)でござんす。233一体(いつたい)此処(ここ)は何(なん)と云(い)ふ所(ところ)で厶(ござ)んすか。234ヘン、235お前(まへ)さま等(ら)にメモアルを調(しら)べらるると云(い)ふのは根(ね)つから葉(は)つから腑(ふ)に落(お)ちませぬワイ』
236赤の守衛『此処(ここ)は八衢(やちまた)の関所(せきしよ)だ。237随分(ずいぶん)お前(まへ)も現世(げんせ)に於(おい)て乱暴(らんばう)な事(こと)をやつて来(き)た奴(やつ)だから、238この衡(はかり)にかかれ。239さうして地獄行(ぢごくゆ)きの方(はう)が下(さが)れば地獄行(ぢごくゆ)き、240天国行(てんごくゆ)きの方(はう)が下(さが)れば天国(てんごく)にやつてやらう』
241弁造『ヤア、242有難(ありが)テエ、243地獄(ぢごく)の釜(かま)のどん底(ぞこ)でもビクとも致(いた)さぬ某(それがし)、244根(ね)が侠客(けふかく)渡世(とせい)兼(けん)鳶(とび)の親分(おやぶん)だから、245地獄行(ぢごくゆ)きが俺(わつち)の性(しやう)に合(あ)つて居(ゐ)るでせう。246どうか衡(はかり)なんか面倒(めんだう)くせえ事(こと)をせずに、247すぐ地獄(ぢごく)にやつて下(くだ)せえな、248天国(てんごく)なんか性(しやう)に合(あ)はない、249地獄(ぢごく)には定(さだ)めし喧嘩(けんくわ)もあるであらう、250又(また)火事(くわじ)もあるであらう。251其(その)時(とき)は鳶(とび)の弁造(べんざう)が真裸(まつぱだか)となつて飛(と)び込(こ)み仲裁(ちうさい)をし、252甘(うま)い酒(さけ)でも飲(の)むに便利(べんり)がいい。253喧嘩鳶(けんくわとび)の、254グヅ鳶(とび)の、255グレン鳶(とび)と云(い)はれて来(き)た、256チヤキ チヤキの兄(あに)イだ』
257と胡坐(あぐら)をかき、258侠客(けふかく)気分(きぶん)を極端(きよくたん)に発揮(はつき)して居(ゐ)る。
259赤の守衛『兎(と)も角(かく)霊界(れいかい)の規則(きそく)だから、260この衡(はかり)に乗(の)つて呉(く)れ、261サア早(はや)く』
262とせき立(た)てる。
263弁造『よし、264幡随院(ばんずいゐん)長兵衛(ちやうべゑ)は柳(やなぎ)の爼(まないた)の上(うへ)に坐(すわ)つて、265白鞘組(しらさやぐみ)から生(い)きながら料理(れうり)をされた例(ためし)もある。266俺(おれ)達(たち)は其(その)幡随院(ばんずいゐん)を理想(りさう)とするものだ。267何(なん)でも構(かま)はぬ乗(の)つてやらう。268些(ちつ)と位(ぐらゐ)好(よ)い事(こと)があつても、269決(けつ)して天国(てんごく)へやつてはいけないぞ』
270と業託(ごふたく)を云(い)ひながら衡(はかり)にかかつた。271衡(はかり)は両方(りやうはう)、272水平(すいへい)になつて、273地獄(ぢごく)の方(はう)も指(さ)さず、274天国(てんごく)の方(はう)も指(さ)さず、275じつとして居(ゐ)る。
276赤の守衛『ハハこいつは比較(ひかく)的(てき)善人(ぜんにん)だ。277口(くち)で悪垂(あくた)れを吐(ほざ)くが、278善(ぜん)が半分(はんぶん)、279悪(あく)が半分(はんぶん)、280マアマアこれなら今日(こんにち)の娑婆(しやば)では上等(じやうとう)の部(ぶ)だ。281オイ弁造(べんざう)、282気(き)の毒(どく)ながら其(その)方(はう)の望(のぞ)む地獄(ぢごく)にやる事(こと)は出来(でき)ぬ。283さりとて天国(てんごく)にもやられず八衢(やちまた)人足(にんそく)だ。284まづ暫(しば)し中有界(ちううかい)で修業(しゆげふ)を致(いた)したがよからう。285決(けつ)して地獄行(ぢごくゆ)きなどを望(のぞ)むぢやないぞ。286其(その)方(はう)は審判(しんぱん)の必要(ひつえう)がない。287これから西北(せいほく)の方(はう)をさして勝手(かつて)に行(ゆ)け。288又(また)其(その)方(はう)相当(さうたう)の相棒(あいぼう)が待(ま)つて居(を)るであらう』
289 弁造(べんざう)は梟鳥(ふくろどり)が夜食(やしよく)に外(はづ)れたやうな詰(つま)らぬ顔(かほ)をして、
290弁造『エエ中有界(ちううかい)なんて気(き)がきかない、291なぜ俺(おれ)を地獄(ぢごく)にやらないのかなア』
292と呟(つぶや)きながらノソリノソリと両腕(りやううで)を振(ふ)り荒野(あらの)をさして進(すす)み行(ゆ)く。
293 それから沢山(たくさん)の精霊(せいれい)は一々(いちいち)ネームを訊(たづ)ねられ、294メモアルを繰(く)られ、295或(あるひ)は天国(てんごく)へ、296或(あるひ)は中有界(ちううかい)へ、297又(また)は地獄(ぢごく)へと各(おのおの)其(その)所主(しよしゆ)の愛(あい)に依(よ)つて審(さば)かれて行(ゆ)く。
298(大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 加藤明子録)
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