霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 飴屋(あめや)〔一三五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第3篇 衡平無死 よみ(新仮名遣い):こうへいむし
章:第17章 飴屋 よみ(新仮名遣い):あめや 通し章番号:1353
口述日:1923(大正12)年02月09日(旧12月24日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
霊主体従とは、人間の内分が神に向かって開け、神を愛し理解し、善徳を積み、真の知恵を輝かせて信の真徳に居り、外的事物に拘泥しない状態を云うのである。このような人は地上の天人にして、生きながら天国に籍を置いている。この精霊を本守護神という。
体主霊従とは、人間はどうしても霊界と現界の中間に介在し、一方に天国を開き一方に地獄を開いている。ゆえに、どうしても善悪美醜たがいに交わって世の中の神業に奉仕しなくてはならない。そこでもし、霊を軽んじ体を重んじるなら、体五霊五となり、地獄に向かって内分が開けることになる。
一般に体主霊従は霊学の説明上「悪」とされているが、これは生きながら中有界に迷っている人間の境遇を云うのである。人間は最善を尽くして一つも悪をなさなくても、その心性情動の如何によって、あるいは善となり、あるいは悪となるものである。
何ほど善を尽くしたと思っても、その愛が神的であれば天国、自然的であれば地獄に分かれるのである。体主霊従的人間が、現世で一つでも悪事をなしたら、どうしてもこれは体五霊五より堕ちてしまい、たちまち地獄道に落ちなければならないのである。
善悪不二とは、神が中有界に迷える人間にも自愛の心をもって臨むことを表した言葉であり、人間の言動に当てはまることではない。人間は、肉体を保って現世に在る間は絶対的な善をなすことはできない。しかしその内的生涯において天国に籍を置くことができるなら、これを霊主体従の人ということができるのである。
中有界の八衢は、善悪正邪の審判所である。人間の大部分は、中有界と地獄界に籍を置いている。人間が霊界に行ったときは、外分が除却されて内分のみ存在し、霊的生涯を営むことになる。
純潔な霊は、肉体に附けるすべての悪が払しょくされ、霊相応に天国の団体に和合することができる。あまり利己心の強い精霊は、死後にいたるまでその執着を残し、容易に駆除されず、外分のみ開けてしまう。またその内底の悪が暴露され、浅ましい面貌となって地獄界に堕ちるものである。
文助は八衢の関所に着き、白と赤の守衛に比較的丁寧に導かれて、門の傍らの石の上に腰をかけて息を休めていた。すると半町ばかり手前に騒がしい飴屋の囃子が聞こえてきた。
飴屋は関所の前に荷を卸、ラッパを吹きたてる。たくさんの子供が集まってきて、先を争って銭を差し出し、飴をくれと押し掛ける。子供にせがまれて囃子を歌い、しきりに金を出せを歌って子供相手の商売をやっている。
守衛たちは通行人の身元調べに忙しい中、飴屋が大勢の子供を集めて騒ぎ出したので面喰い、城の守衛が側に寄ってきて、飴屋の爺に別の場所に移動するように言い聞かせた。飴屋はここが幽界の八衢だとは信じず、騒ぎまわる。赤の守衛は大いに怒り、飴屋を手早くひっくくって門内に姿を隠した。
文助は五里霧中に彷徨した心地で、これまでのことは夢か現かとしきりに首をひねっていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-12-05 13:39:58 文字数:3702 OBC :rm5217
愛善世界社版:210頁 八幡書店版:第9輯 453頁 修補版: 校定版:217頁 普及版:92頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第一巻 皇道編 > 第七篇 高天原 > 第十章 霊主体従・体主霊従
001 霊主(れいしゆ)体従(たいじゆう)とは、002人間(にんげん)の内分(ないぶん)が神(かみ)に向(むか)つて開(ひら)け、003唯(ただ)神(かみ)を愛(あい)し、004神(かみ)を理解(りかい)し、005善徳(ぜんとく)を積(つ)み、006真(しん)の智慧(ちゑ)を輝(かがや)かし、007信(しん)の真徳(しんとく)に居(を)り、008外的(ぐわいてき)の事物(じぶつ)に些(すこ)しも拘泥(こうでい)せざる状態(じやうたい)を云(い)ふのである。009斯(かく)の如(ごと)き人(ひと)は所謂(いはゆる)地上(ちじやう)の天人(てんにん)にして、010生(い)きながら天国(てんごく)に籍(せき)を置(お)いて居(ゐ)る者(もの)で、011この精霊(せいれい)を称(しよう)して本(ほん)守護神(しゆごじん)と云(い)ふのである。012至粋(しすゐ)、013至純(しじゆん)、014至美(しび)、015至善(しぜん)、016至愛(しあい)、017至真(ししん)の徳(とく)に居(を)るものでなくては、018此(この)境遇(きやうぐう)に居(を)る事(こと)は出来(でき)ぬ。
019 又(また)体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)とは、020人間(にんげん)はどうしても霊界(れいかい)と現界(げんかい)との中間(ちうかん)に介在(かいざい)するものである以上(いじやう)は、021一方(いつぱう)に天国(てんごく)を開(ひら)き一方(いつぱう)に地獄(ぢごく)を開(ひら)いて居(ゐ)るものだ。022故(ゆゑ)に人間(にんげん)はどうしても善悪(ぜんあく)混交(こんかう)美醜(びしう)互(たがひ)に交(まじ)はつて世(よ)の中(なか)の神業(しんげふ)に奉仕(ほうし)せなくてはならない。023併(しか)しこれは、024普通(ふつう)一般(いつぱん)の善(ぜん)にも非(あら)ず悪(あく)にも非(あら)ざる人間(にんげん)の事(こと)である。025人間(にんげん)は肉体(にくたい)を基礎(きそ)とし、026又(また)終極点(しうきよくてん)とするが故(ゆゑ)に、027外的(ぐわいてき)方面(はうめん)より見(み)て体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)と云(い)ふのであるが、028併(しか)しながら、029之(これ)を主観(しゆくわん)的(てき)に云(い)へば霊的(れいてき)五分(ごぶ)、030体的(たいてき)五分(ごぶ)、031即(すなは)ち、032霊五(れいご)体五(たいご)たるべきものである。033若(も)し霊(れい)を軽(かろ)んじ体(たい)を重(おも)んずるに至(いた)らば、034茲(ここ)に、035体五(たいご)霊五(れいご)となるのである。036同(おな)じ体(たい)五分(ごぶ)霊(れい)五分(ごぶ)と雖(いへど)も、037其(その)所主(しよしゆ)の愛(あい)が外的(ぐわいてき)なると、038内的(ないてき)なるとに依(よ)つて、039霊五(れいご)体五(たいご)となり、040又(また)体五(たいご)霊五(れいご)となるのである。041故(ゆゑ)に霊五(れいご)体五(たいご)の人間(にんげん)は、042天国(てんごく)に向(むか)つて内分(ないぶん)が開(ひら)け、043体五(たいご)霊五(れいご)の人間(にんげん)は、044地獄(ぢごく)に向(むか)つて其(その)内分(ないぶん)が開(ひら)けて居(ゐ)るものである。
045 一般(いつぱん)に体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)と云(い)へば、046霊学(れいがく)の説明(せつめい)上(じやう)悪(あく)となつて居(ゐ)るが、047併(しか)し体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)とは、048生(いき)ながら中有界(ちううかい)に迷(まよ)つて居(ゐ)る人間(にんげん)の境遇(きやうぐう)を云(い)ふのである。049人間(にんげん)は最善(さいぜん)を尽(つく)し、050唯(ただ)一(ひと)つの悪(あく)をなさなくても其(その)心性(しんせい)情動(じやうどう)の如何(いかん)に依(よ)りて、051或(あるひ)は善(ぜん)となり或(あるひ)は悪(あく)となるものである。052故(ゆゑ)に人間(にんげん)は、053どうしても霊五(れいご)体五(たいご)より下(くだ)る事(こと)は出来(でき)ない。054これを下(くだ)れば忽(たちま)ち地獄界(ぢごくかい)に堕(お)ちねばならぬのである。055何程(なにほど)善(ぜん)を尽(つく)したと思(おも)つて居(ゐ)ても、056其(その)愛(あい)が神的(しんてき)なると自然(しぜん)的(てき)なるとに依(よ)つて、057天国(てんごく)地獄(ぢごく)が分(わか)るるのであるから、058体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)的(てき)人間(にんげん)が、059現世(げんせ)に於(おい)て一(ひと)つでも悪事(あくじ)をなしたならば、060どうしても是(これ)は体五(たいご)霊五(れいご)所(どころ)か体六(たいろく)霊四(れいし)、061体七(たいしち)霊三(れいさん)となりて、062忽(たちま)ち地獄道(ぢごくだう)へ落(お)ちねばならぬのである。
063 信者(しんじや)の中(なか)には善悪(ぜんあく)不二(ふじ)とか、064正邪(せいじや)一如(いちによ)とか云(い)ふ聖言(せいげん)を楯(たて)に取(と)つて、065自分(じぶん)の勝手(かつて)のよいやうに解釈(かいしやく)して居(ゐ)る人(ひと)もあるやうだが、066是(これ)は神(かみ)が善悪(ぜんあく)不二(ふじ)と云(い)はるるのは中有界(ちううかい)に迷(まよ)へる人間(にんげん)に対(たい)して云(い)はれるのであり、067且(かつ)神(かみ)は善悪(ぜんあく)に拘(かか)はらず慈愛(じあい)の心(こころ)をもつて臨(のぞ)ませらるる見地(けんち)から仰(おほ)せらるる言葉(ことば)である。068決(けつ)して人間(にんげん)の云為(うんゐ)すべき言葉(ことば)ではない。069どうしても人間(にんげん)が肉体(にくたい)を保(たも)つて現世(げんせ)にある間(あひだ)は、070絶対(ぜつたい)的(てき)の善(ぜん)を為(な)す事(こと)は出来(でき)ない。071併(しか)しながら其(その)内的(ないてき)生涯(しやうがい)に於(おい)て天国(てんごく)に籍(せき)を置(お)く事(こと)を得(う)るならば、072最早(もはや)これを霊主(れいしゆ)体従(たいじゆう)の人(ひと)と云(い)ふ事(こと)が出来(でき)るのである。
073 中有界(ちううかい)の八衢(やちまた)は善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)の審判所(しんぱんしよ)であつて、074今日(こんにち)の人間(にんげん)の大部分(だいぶぶん)はこの中有界(ちううかい)と地獄界(ぢごくかい)に籍(せき)を置(お)いて居(ゐ)るものである。075されども人間(にんげん)が霊肉(れいにく)脱離(だつり)の関門(くわんもん)を越(こ)えて霊界(れいかい)に行(い)つた時(とき)は、076其(その)外分(ぐわいぶん)の情態(じやうたい)は時(とき)を経(ふ)るに従(したが)つて除却(ぢよきやく)さるるが故(ゆゑ)に、077其(その)内分(ないぶん)のみ存在(そんざい)し、078茲(ここ)に霊的(れいてき)生涯(しやうがい)を営(いとな)む事(こと)となる。079此(この)時(とき)は肉体(にくたい)に附(つ)ける総(すべ)ての悪(あく)は払拭(ふつしき)され、080其(その)純潔(じゆんけつ)なる霊(みたま)は天国(てんごく)の団体(だんたい)に、081霊相応(みたまさうおう)に和合(わがふ)し得(う)るものである。082併(しか)しながら余(あま)り利己心(りこしん)の強(つよ)い精霊(せいれい)は、083死後(しご)に至(いた)るまで其(その)執着(しふちやく)を残(のこ)し、084容易(ようい)に駆除(くぢよ)されないが故(ゆゑ)に、085外分(ぐわいぶん)のみ開(ひら)け、086且(かつ)又(また)外分(ぐわいぶん)が時(とき)を追(お)うて脱離(だつり)すると共(とも)に其(その)内底(ないてい)の悪(あく)は忽(たちま)ち暴露(ばくろ)され、087妖怪(えうくわい)変化(へんげ)の如(ごと)き浅(あさ)ましき面貌(めんばう)となつて地獄界(ぢごくかい)に堕(お)ち往(ゆ)くものである。
088 文助(ぶんすけ)は漸(やうや)くにして八衢(やちまた)の関所(せきしよ)に着(つ)いた。089白(しろ)、090赤(あか)二人(ふたり)の守衛(しゆゑい)に比較(ひかく)的(てき)叮嚀(ていねい)に導(みちび)かれ、091門(もん)の傍(かたはら)のロハ台(だい)の上(うへ)に腰打(こしうち)かけ、092息(いき)を休(やす)めて居(ゐ)た。093半町(はんちやう)ばかり手前(てまへ)に当(あた)つて騒(さわ)がしい音(おと)が聞(きこ)えて来(き)た。
094『トンチントントン チンチントントン
095チントン、チントン、チンチントン
096夕日(ゆふひ)が赤(あか)い横町(よこちやう)に
097飴屋(あめや)のお爺(ぢい)さん鉦(かね)ならす
098大(おほ)きい子供(こども)に小(ちひ)さな子供(こども)
099一銭(いつせん)出(だ)しては飴(あめ)お呉(く)れ
100二銭(にせん)出(だ)しては飴(あめ)お呉(く)れ
101お爺(ぢい)サン両手(りやうて)が巧(たくみ)に動(うご)く
102金魚(きんぎよ)が一(ひと)つ兎(うさぎ)が一(ひと)つ
103も一(ひと)つ目(め)には日(ひ)がくれた
104飴屋(あめや)のお爺(ぢい)さん鉦(かね)ならす』
105と子供(こども)が沢山(たくさん)に群(むら)がつて飴屋(あめや)の後(うしろ)から跟(つ)いて来(く)る。106飴屋(あめや)は妙(めう)な身振(みぶり)をしながら、
107『トンチントントン、チンチントントン
108チントン チントン、チンチントン』
109と囃(はや)し立(た)て、110八衢(やちまた)の関所(せきしよ)の前(まへ)にやつて来(き)た。111さうして其処(そこ)に荷(に)を下(お)ろし、112おもちやの喇叭(らつぱ)を頻(しき)りに吹(ふ)き立(た)てて沢山(たくさん)の子供(こども)を集(あつ)め出(だ)した。113子供(こども)は四方(しはう)八方(はつぱう)から集(あつ)まつて来(き)て、114お酒(さけ)に酔(よ)つた赤(あか)い銭(ぜに)や、115白粉(おしろい)をつけた白(しろ)い銀貨(ぎんくわ)を出(だ)して、116先(さき)を争(あらそ)うて『飴(あめ)呉(く)れ飴(あめ)呉(く)れ』と押(お)しかける。117飴屋(あめや)は指(ゆび)の先(さき)を巧(たくみ)に動(うご)かして、118兎(うさぎ)や、119鶏(にはとり)、120達磨(だるま)なぞを瞬(またた)く間(うち)に捻(ひね)つては拵(こしら)へ、121麦藁(むぎわら)でぷつと吹(ふ)いて量(かさ)を高(たか)うし、122寄(よ)つて来(く)る子供(こども)に金(かね)と引(ひ)きかへに渡(わた)して居(ゐ)る。123さうして子供(こども)の所望(しよまう)によつて又(また)もや歌(うた)ひだした。
124『トンチントントン チンチントントン
125チントン チントン チンチントン
126飴(あめ)の中(なか)からお多(た)やんエ、お多(た)やんが嫌(いや)なら金時(きんとき)だ
127金時(きんとき)嫌(いや)なら達磨(だるま)さま
128兎(うさぎ)でも餅(もち)つく、お猿(さる)でも
129十五(じふご)のお月(つき)さんの餅(もち)つきに
130よう似(に)た飴屋(あめや)のお爺(ぢい)さんよ
131こりやこりや其処(そこ)らの子供(こども)達(たち)
132飴(あめ)が欲(ほ)しけりや幾何(いくら)でもやらう
133しかしお金(かね)と引(ひ)きかへぢや
134地獄(ぢごく)の沙汰(さた)でも金次第(かねしだい)
135お金(かね)が無(な)ければ甘(うま)い汁(しる)
136どうしてもかうしても吸(す)はりやせぬ
137お母(かん)の乳(ちち)よりお砂糖(さと)より
138もつと甘(あま)いのは此(この)飴(あめ)ぢや
139あめが下(した)には他人(たにん)と云(い)ふ事(こと)は
140無(な)いものぞやと三五教(あななひけう)の
141神(かみ)様(さま)が云(い)はしやつたけれど
142何程(なにほど)あめの下(した)ぢやとて
143金(かね)が無(な)ければ他人(たにん)ぢやぞ
144金(かね)が敵(かたき)の世(よ)の中(なか)だ
145このお爺(ぢい)さんが今(いま)打(う)つ鉦(かね)は
146ミロク三会(さんゑ)の明(あ)けの鐘(かね)
147金(かね)の無(な)い奴(やつ)ア近寄(ちかよ)るな
148トンチントントン、チンチントントン
149チントン、チントン、チンチントン』
150と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に子供(こども)を相手(あひて)に暴儲(ぼろまう)けをやつて居(ゐ)る。
151 白(しろ)、152赤(あか)の守衛(しゆゑい)は通行人(つうかうにん)の身許調(みもとしら)べに忙殺(ぼうさつ)されて居(ゐ)る所(ところ)へ、153沢山(たくさん)の子供(こども)を集(あつ)め、154鉦(かね)や太鼓(たいこ)で騒(さわ)ぎ出(だ)したので大(おほい)に面喰(めんくら)ひ、155白(しろ)の守衛(しゆゑい)は傍(そば)に寄(よ)つて、
156白の守衛『これこれお爺(ぢい)さん、157場所(ばしよ)を考(かんが)へないか。158こんな関所(せきしよ)の前(まへ)で、159さうやかましく云(い)つて呉(く)れては、160俺(おれ)達(たち)の邪魔(じやま)になるぢやないか。161ちと気(き)を利(き)かして、162彼方(あつち)の方(はう)へ行(い)つてやつたらどうだ』
163飴屋『構(かま)うて下(くだ)さるな。164私(わたし)は行商(ぎやうしやう)と云(い)つて道路(だうろ)を歩(ある)いて商(あきな)ひをするものだ。165これでも政府(せいふ)へ税金(ぜいきん)を納(をさ)めて居(ゐ)るものだ。166何処(どこ)で商売(しやうばい)をしようと構(かま)うて下(くだ)さるな。167子供(こども)の沢山(たくさん)よつて居(ゐ)る所(ところ)で、168子供(こども)相手(あひて)の商売(しやうばい)をやつて居(を)るのだ。169私(わたし)の商売(しやうばい)の邪魔(じやま)をするのなら、170損害(そんがい)賠償(ばいしやう)で訴(うつた)へませうか』
171白の守衛『現界(げんかい)でなればお前(まへ)の勝手(かつて)だらうが、172此処(ここ)は冥途(めいど)の八衢(やちまた)の関所(せきしよ)だから、173お前(まへ)もやがて調(しら)べてやる時(とき)が来(く)るのだ。174まア暫(しばら)く彼方(あちら)の方(はう)へ往(い)つて居(ゐ)て呉(く)れ』
175飴屋『何(なん)と云(い)つても此処(ここ)は動(うご)かないのだ。176ヘン冥途(めいど)の八衢(やちまた)なんぞと馬鹿(ばか)にしなさんな。177最前(さいぜん)から声(こゑ)が枯(か)れる程(ほど)歌(うた)つて子供(こども)を集(あつ)め、178商売(しやうばい)繁昌(はんじやう)の真最中(まつさいちう)だ。179お前(まへ)の勝手(かつて)がよければ此方(こつち)の勝手(かつて)が悪(わる)い、180私(わたし)の商売(しやうばい)が邪魔(じやま)になるのなら、181なぜ高(たか)い税金(ぜいきん)を取(と)るのだ』
182と呶鳴(どな)りつけ、183尚(なほ)トンチントントン、184チンチントントンと鉦(かね)を叩(たた)き歌(うた)を歌(うた)つて、185子供(こども)の機嫌(きげん)を取(と)つて居(ゐ)る。
186 赤(あか)の守衛(しゆゑい)は、187余(あま)り頑強(ぐわんきやう)の飴屋(あめや)の態度(たいど)にグツト目(め)を剥(む)き、
188赤の守衛『これ飴屋(あめや)、189これ程(ほど)事(こと)を分(わ)けて申(まを)すのに、190其(その)方(はう)は聞(き)かぬのか』
191飴屋『そんな日(ひ)の丸(まる)のやうな赤(あか)い顔(かほ)をして睨(にら)んだ所(ところ)が、192此(この)亜米利加(アメリカ)屋(や)さまはビクとも致(いた)しませぬわいな、193ヤンキイモンキイ云(い)はずに、194黙言(だま)つて引込(ひつこ)んで居(ゐ)なさい。
195トンチントントン、チンチントントン
196飴(あめ)の中(なか)からお多(た)やんと金太(きんた)さんが飛(と)んで出(で)たよ』
197と又(また)もや踊(をど)り狂(くる)ふ。198赤(あか)は白(しろ)の守衛(しゆゑい)に向(むか)ひ、
199赤の守衛『困(こま)つたものですな、200どうしませうかなア』
201白の守衛『暫(しばら)くほつといてやりませうかい、202訳(わけ)の分(わか)らぬ爺(おやぢ)をつかまへて叱(しか)つて見(み)た所(ところ)で何(なん)にもなりますまい。203やがて商売(あきなひ)が無(な)くなつたら帰(かへ)るでせうし、204子供(こども)だつて有(あ)るだけの金(かね)をつかへば飴屋(あめや)に用(よう)はありませぬからなア』
205赤(あか)『デモ、206かう喧(やかま)しくては仕方(しかた)がないぢやありませぬか、207どうしてもこいつは追払(おつぱら)はにやなりますまい。208こりやこりや飴屋(あめや)、209此処(ここ)に居(を)る事(こと)は許(ゆる)さないから、210どこかへ行(い)つて商売(あきない)をして来(く)るがよからう、211喧(やかま)しくて事務(じむ)の邪魔(じやま)になるからな』
212飴屋『ヘン甘(うま)い事(こと)仰有(おつしや)りますワイ。213飴屋(あめや)の太鼓(たいこ)位(ぐらゐ)が何(なに)喧(やかま)しいのだ。214今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)は労働(らうどう)争議(さうぎ)とか普選(ふせん)問題(もんだい)とか、215小作(こさく)争議(さうぎ)だとか外交(ぐわいかう)問題(もんだい)だとか云(い)つて、216あれだけ喧(やかま)しう騒(さわ)ぎ立(た)てて居(ゐ)るのに、217其(その)声(こゑ)が聞(きこ)えないのか。218飴屋(あめや)位(ぐらゐ)が喧(やかま)しいとはチと聞(きこ)えないぢやないか。219これ位(くらゐ)の事(こと)が耳(みみ)に障(さは)るやうで、220どうして役人(やくにん)がつとまるか。221役人(やくにん)の耳(みみ)は何億(なんおく)と云(い)ふ人民(じんみん)の号泣(がうきふ)の声(こゑ)がちつとも聞(きこ)えないやうに塞(ふさ)がつて居(ゐ)るのだ。222それでなくては今日(こんにち)の世(よ)に処(しよ)して、223大人物(だいじんぶつ)とは云(い)はれないぞ。224仮令(たとへ)木端(こつぱ)役員(やくゐん)と雖(いへど)も勤(つと)まるものぢやない。225庚申(かうしん)さまの眷族(けんぞく)になつて、226見(み)ざる、227聞(き)かざる、228言(い)はざるを守(まも)つて居(ゐ)るのが一番(いちばん)賢(かしこ)いやりかただ。229喧(やかま)しう云(い)ふと何時(いつ)までも門番(もんばん)をさされて苦(くる)しんで居(を)らねばならぬぞ、230ほんとに仕方(しかた)のない奴(やつ)だ。
231トンチントントン チントントン
232チンチントン
233八衢(やちまた)街道(かいだう)のまん中(なか)で
234白(しろ)と赤(あか)との守衛(しゆゑい)に出会(であ)うた
235飴(あめ)の味(あぢ)をば知(し)らないと見(み)えて
236苦(にが)い顔(かほ)して睨(ねら)みよる
237ほんに因果(いんぐわ)な生(うま)れつき
238チンチントントン チントントン』
239と又(また)もや喧(やかま)しく囃立(はやした)て踊(をど)り狂(くる)ふ。240赤(あか)は大(おほい)に怒(いか)り、241矢庭(やには)に飴屋(あめや)の腕(うで)を後(うしろ)に廻(まは)し、242手早(てばや)く引(ひ)つ括(くく)つて門内(もんない)に姿(すがた)を隠(かく)した。
243 文助(ぶんすけ)は五里(ごり)霧中(むちゆう)に彷徨(はうくわう)した心地(ここち)で、244今(いま)渉(わた)つて来(き)た山路(やまみち)や沼(ぬま)、245萱野(かやの)ケ原(はら)の事(こと)や、246両親(りやうしん)に会(あ)うた事(こと)など思(おも)ひ出(だ)し、247夢(ゆめ)か現(うつつ)か将(は)た現界(げんかい)か幽界(いうかい)かと、248頻(しき)りに首(くび)を捻(ひね)つて居(ゐ)た。
249(大正一二・二・九 旧一一・一二・二四 加藤明子録)
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