霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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希臘(ギリシヤ)の天地(てんち)開闢(かいびやく)説(せつ)

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻 篇:前付 よみ(新仮名遣い):
章:希臘の天地開闢説 よみ(新仮名遣い):ぎりしゃのてんちかいびゃくせつ 通し章番号:
口述日:1933(昭和8)年12月06日(旧10月19日) 口述場所:水明閣 筆録者:森良仁 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:5983 OBC :rm760006
愛善世界社版: 八幡書店版:第13輯 430頁 修補版: 校定版:25頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 ギリシヤの天地(てんち)開闢説(かいびやくせつ)は古来(こらい)種々(しゆじゆ)の伝承(でんしよう)があつて、002人々(ひとびと)によつて区々(くく)である。003併(しか)し大体(だいたい)から言(い)へばユダヤの神話(しんわ)にある如(ごと)き世界(せかい)創造説(さうざうせつ)ではなく、004支那(しな)の神話(しんわ)に見(み)ゆる如(ごと)き天地(てんち)開闢説(かいびやくせつ)である。005即(すなは)ち此(こ)の世界(せかい)は造(つく)られたものでなく、006幾万(いくまん)年(ねん)の世代(せだい)の変化(へんくわ)を経(へ)て、007次第(しだい)に現在(げんざい)の状態(じやうたい)になつたものである。008従(したが)つて神々(かみがみ)も世界(せかい)よりさきに存在(そんざい)したのではなくて、009神々(かみがみ)自身(じしん)も亦(また)此(こ)の世界(せかい)と言(い)ふ一家族(いつかぞく)のうちに生(うま)れて来(き)たものである。
010 天地(てんち)開闢(かいびやく)の神話(しんわ)は、011それを語(かた)り伝(つた)へた詩人(しじん)によつて区々(くく)である。012ホメロスによれば、013口(くち)で尾(を)をくはへた蛇(へび)のやうに海(うみ)と陸(りく)とを取(と)りまいてゐる広大(くわうだい)無辺(むへん)の大河(たいが)オケアノスが万物(ばんぶつ)の本源(ほんげん)で、014また総(すべ)ての神々(かみがみ)の父(ちち)であつた。015また他(た)の伝説(でんせつ)によると、016「夜(よる)」と「闇(やみ)」が世界(せかい)の根源(こんげん)で、017そのうちから光(ひかり)が生(うま)れたといつてゐる。018更(さら)に詩人(しじん)オルフェウスが伝(つた)へたと言(い)はれてゐる説(せつ)によると、019世界(せかい)の始(はじ)めには無始(むし)無終(むしう)の「時(クロノス)」があつて、020これから「カオス」と言(い)ふ底(そこ)なしの淵(ふち)が生(うま)れ、021其(そ)の深淵(しんえん)の中(なか)で「夜(よる)」と「霧(きり)」と「精気(アイテル)」が育(はぐ)くまれた。022その中(うち)に「時(クロノス)」は「霧(きり)」を動(うご)かして中心(ちうしん)なる「精気(アイテル)」のまはりを、023独楽(こま)のやうに廻転(くわいてん)させたので、024世界(せかい)は大(おほ)きな卵(たまご)のやうな塊団(かたまり)になり、025それがまた廻転(くわいてん)の速力(そくりよく)でまづ二(ふた)つに割(わ)れて、026一(ひと)つは昇(のぼ)つて天(てん)となり、027一(ひと)つは降(くだ)つて地(ち)と成(な)つた。028そして其(その)卵(たまご)の中(なか)からは「愛(エロス)」をはじめ、029いろいろな不思議(ふしぎ)なものが生(うま)れたと言(い)ふのである。
030 併(しか)し世界(せかい)と神々(かみがみ)の起源(きげん)を述(の)べたものの中(うち)で、031一番(いちばん)纒(まと)まつてゐるのはヘシオドスの「テオゴニヤ」(神統記(しんとうき))であつた。032「テオゴニヤ」によると、033万物(ばんぶつ)の始(はじ)めには「カオス」があつた。034次(つぎ)に広(ひろ)い胸(むね)を持(も)つた「ガイヤ」(地(ち))と地(ち)の底(そこ)なる暗黒(あんこく)の「タルタロス」と不死(ふし)の神々(かみがみ)の中(うち)で一番(いちばん)美(うつく)しいエロス(愛(あい))が出来(でき)た。035「カオス」は(口(くち)をあいた場所(ばしよ))といふ意味(いみ)で、036其(その)内部(ないぶ)は真黒(まつくろ)な霧(きり)で満(みた)されてゐた。037「カオス」の次(つぎ)には地(ち)が出来(でき)て、038雪(ゆき)をいただくオリムポスの絶頂(ぜつちやう)に住(す)むべき神々(かみがみ)の安全(あんぜん)な座位(ざゐ)となつた。039けれどもまだ空(そら)も海(うみ)も山々(やまやま)もなければ、040昼(ひる)や夜(よる)もなかつた。041堅(かた)い地(ち)の外(ほか)には何物(なにもの)もなかつた。042その次(つぎ)に現(あら)はれたのが「エロス」であつた。043エロスは男性(だんせい)と女性(ぢよせい)とを結(むす)びつけて新(あた)らしい世代(せだい)を生(う)み出(い)ださせる愛(あい)の力(ちから)であつた。
044 次(つぎ)に「カオス」からは、045地下(ちか)の闇(やみ)なる「エレボス」と遠(とほ)い日没(にちぼつ)の国(くに)に住(す)んでゐる地上(ちじやう)の闇(やみ)なる「夜(ニツクス)」が生(うま)れた。046「エロス」は「夜(ニツクス)」と「エレボス」とを結(むす)び付(つ)けて其(その)間(あひだ)に二人(ふたり)の子(こ)を生(う)ませた。047天(てん)の光(ひかり)なる「精気(アイテル)」と地(ち)の光(ひかり)なる「昼(ヘメラ)」である。048次(つぎ)に「ガイヤ」即(すなは)ち母(はは)なる地(ち)は「エロス」と接触(せつしよく)して「ウラノス」(星(ほし)の多(おほ)い天(てん))と広大(くわうだい)な山々(やまやま)と「ボントス」(荒(あら)い海(うみ))を生(う)む。049「ウラノス」と「ガイヤ」(天(てん)と地(ち))はこの世界(せかい)の最初(さいしよ)の主宰者(しゆさいしや)として、050次(つぎ)の世代(せだい)の神々(かみがみ)の父母(ふぼ)となつた。
051 ヘシオドスの記事(きじ)は斯(か)くの如(ごと)き幼稚(えうち)なものであるが、052併(しか)しギリシヤの開闢(かいびやく)神話(しんわ)の中(なか)では、053これらが代表(だいへう)的(てき)なものである。054勿論(もちろん)この開闢説(かいびやくせつ)の中(なか)に、055どれほど深(ふか)い哲学(てつがく)的(てき)思想(しさう)の芽(め)が包(つつ)まれてゐるかは、056問題(もんだい)ではないのである。
 
057   神々(かみがみ)の世代(せだい)
 
058 ギリシヤの神話(しんわ)は、059この世界(せかい)を支配(しはい)する神々(かみがみ)の世代(せだい)をほぼ三(み)つに分(わか)つてゐる。060天地(てんち)万物(ばんぶつ)が生(しやう)じて、061第一(だいいち)に此(こ)の世界(せかい)の主宰者(しゆさいしや)となつた神(かみ)は「ウラノス」と「ガイヤ」であつたが、062それに就(つい)て「クロノス」と「レア」の治世(ちせい)が永(なが)い間(あひだ)続(つづ)いた後(のち)、063最後(さいご)に「ゼウス」と「ヘラ」が此(こ)の天地(てんち)の主宰者(しゆさいしや)となつた。064「ウラノス」と「ガイヤ」の系統(けいとう)には「チタン」と「キクローベ」と「ケンチマネ」と言(い)ふ三(み)つの神族(しんぞく)があつた。065このうち「チタン」族(ぞく)は後(のち)の神族(しんぞく)の敵(てき)となつて、066この世界(せかい)に大動乱(だいどうらん)を起(おこ)したもので、067ギリシヤの神代史(じんだいし)の中(うち)で、068いつも争闘(さうとう)の渦中(くわちう)に飛(と)び込(こ)んで、069増悪(ぞうを)と争闘(さうとう)とを煽(あふ)るものはこの一族(いちぞく)であつた。070神話(しんわ)学者(がくしや)の間(あひだ)には、071火山(くわざん)の爆発(ばくはつ)とか、072地震(ぢしん)とか言(い)ふ地球(ちきう)上(じやう)の大変動(だいへんどう)を人格化(じんかくくわ)したものと解釈(かいしやく)されてゐる。073「ホメロス」の詩(し)に現(あら)はれる「チタン」族(ぞく)は「イアベトス」と「クロノス」の二(ふた)つだけであるが、074ヘシオドスは十三(じふさん)の「チタン」族(ぞく)の名(な)を挙(あ)げてゐる。075即(すなは)ち「オケアノス」と「テチス」「ヒペリオス」と「テイヤ」「コイオス」と「フオイベ」「クレイオス」と「エウリビヤ」と「イヤベトス」「テミス」と「ムネモシネ」「クロノス」と「レア」である。
076 次(つぎ)に「キクローベ」族(ぞく)は雙眼(せきがん)の大怪物(だいくわいぶつ)で、077その名(な)を「プロンテス」「ステロペス」「アルゲス」と言(い)ひ、078雷鳴(らいめい)と電光(でんくわう)と落雷(らくらい)の人格化(じんかくくわ)であつた。
079 最後(さいご)に「ケンチマネ」族(ぞく)は、080百本(ひやつぽん)の手(て)を持(も)つた怪物(くわいぶつ)で、081「プリアレオス」「ギエス」「コツトス」と言(い)ひ、082大地(だいち)を震(ふる)はす海(うみ)の激動(げきどう)や怒号(どがう)や、083山(やま)のやうな波濤(はたう)の恐怖(きようふ)を人格化(じんかくくわ)したものである。
084 「ウラノス」は此(こ)の三神族(さんしんぞく)のうち、085後(あと)の二族(にぞく)を怖(おそ)ろしいものに思(おも)つて、086生(うま)れると直(す)ぐ母(はは)なる大地(だいち)の底(そこ)の「タルタロス」へ投(な)げ込(こ)んで、087そこへ封(ふう)じ込(こ)めて了(しま)つた。088母(はは)の「ガイヤ」は、089この無情(むじやう)な行動(かうどう)を深(ふか)く憤(いきどほ)つて、090「ウラノス」に対(たい)して復讐(ふくしゆう)を企(くはだ)て、091「チタン」族(ぞく)の助(たす)けを求(もと)めたが、092「クロノス」の外(ほか)は、093たれも母(はは)に味方(みかた)をするものはなかつた。094「ガイヤ」はそこで、095「クロノス」に一(ひと)つの鋭利(えいり)な鎌(かま)を与(あた)へて、096「ウラノス」を待(ま)ち伏(ぶ)せに襲(おそ)つて深傷(ふかで)を負(お)はせた。097そのとき「ウラノス」の体(たい)から流(なが)れた血(ち)は化生(くわせい)して、098蛇(へび)の髪(かみ)をもつた復讐(ふくしゆう)の三女神(さんめがみ)「エリニエス」や新(あたら)しい大怪物(だいくわいぶつ)巨人族(きよじんぞく)となり、099また海(うみ)に落(お)ちたものは、100美(び)の女神(めがみ)「アフロヂテ」となつた。101「ウラノス」に就(つい)ては、102これ以上(いじやう)に何事(なにごと)も伝(つた)はつてゐない。103ギリシヤ人(じん)は「ウラノス」を神(かみ)に祓(まつ)らなかつた、104従(したが)つてギリシヤ神話(しんわ)に於(お)ける「ウラノス」の地位(ちゐ)は、105只(ただ)自然界(しぜんかい)の基本(きほん)的(てき)な力(ちから)を代表(だいへう)する神々(かみがみ)の父(ちち)と言(い)ふだけに過(す)ぎなかつた。
106 かうして「ウラノス」の時代(じだい)は過(す)ぎて新(あたら)しい「クロノス」の世(よ)となつたが、107「クロノス」は父(ちち)に取(と)つて代(かは)つたといふ事情(じじやう)があるので、108父(ちち)の祟(たた)りだけでも永続(えいぞく)しないやうな運命(うんめい)を帯(お)びてゐた。
109 一方(いつぱう)ではまた「ウラノス」の系統(けいとう)を引(ひ)いた神々(かみがみ)から、110自然(しぜん)と「クロノス」とは異系(いけい)の多(おほ)くの神々(かみがみ)が生(うま)れた。111「オケアノス」と「テチス」の間(あひだ)には無数(むすう)の河神(かしん)や泉(いづみ)と森(もり)の少女(せうぢよ)「ニムフェ」が生(うま)れ、112続(つづ)いて海(うみ)の「ニムフェ」だの海(うみ)や陸(りく)の色々(いろいろ)な怪物(くわいぶつ)が出来(でき)た。113「ヒベリオン」と「テイヤ」とは「日(ひ)」と「月(つき)」と「暁(あかつき)」の両親(りやうしん)となり、114暁(あかつき)の女神(めがみ)は色々(いろいろ)な「風(かぜ)」と「暁(あけ)の明星(みやうじやう)」の母(はは)となつた。115また「イヤベトス」の子(こ)には広大(くわうだい)無辺(むへん)の天(てん)を支(ささ)へてゐる「アトラス」と人間(にんげん)の創造(さうざう)に力(ちから)を尽(つく)した「プロメテウス」「エピメテウス」の兄弟(きやうだい)があつた。116「クロノス」は妹(いもうと)の「レア」と共(とも)に天地(てんち)を支配(しはい)して、117その間(あひだ)に「ヘスチヤ」「デメテル」「ヘラ」の三女神(さんめがみ)と「ハデス」「ポサイドン」「ゼウス」の三男神(さんをがみ)を生(う)んだ。
118 「クロノス」の治世(ちせい)は此(こ)の天地(てんち)が未(いま)だ罪(つみ)と汚(けが)れを知(し)らなかつた、119いはゆる黄金(わうごん)時代(じだい)で、120疾病(しつぺい)も知(し)らず、121老(お)いると言(い)ふ事(こと)もなく、122野山(のやま)には種々(しゆじゆ)の果実(このみ)が、123一面(いちめん)に実(みの)つてゐるから、124働(はたら)いて食(く)ふと言(い)ふ心配(しんぱい)もなく、125天地間(てんちかん)の万物(ばんぶつ)が無限(むげん)の幸福(かうふく)と快楽(くわいらく)とを味(あぢ)はつて居(ゐ)た時代(じだい)だと伝(つた)へられる。126この黄金(わうごん)時代(じだい)は久(ひさ)しい間(あひだ)続(つづ)いたが、127その間(あひだ)に「クロノス」は自分(じぶん)が生(う)んだ子(こ)が、128いつか自分(じぶん)に代(かは)つてこの天地(てんち)の主宰者(しゆさいしや)になると言(い)ふことを知(し)つてゐたので、129子供(こども)が生(うま)れるや否(いな)や、130みんな呑(の)んで了(しま)つたが、131併(しか)し最後(さいご)に「ゼウス」の生(うま)れる時(とき)は、132母(はは)の「レア」は「クレテ」の嶋(しま)へ行(い)つて生(うま)れた赤子(あかご)を一(ひと)つの洞窟(どうくつ)の中(なか)へ隠(かく)し、133大(おほ)きな石(いし)を産衣(うぶぎ)の中(なか)へ包(つつ)んで「クロノス」へ渡(わた)したので、134「クロノス」は気(き)がつかずに一口(ひとくち)にそれを呑(の)み込(こ)んで了(しま)つた。
135 かうして危(あやふ)い命(いのち)を助(たす)けられた「ゼウス」は、136クレテ島(じま)に「ニムフェ」らに保護(ほご)されて、137「アマルテイヤ」と言(い)ふ山羊(やぎ)の乳(ちち)でそだてられたが、138「ニムフェ」らは赤児(あかご)が泣(な)く度(たび)に鐘(かね)や太鼓(たいこ)を鳴(な)らし、139軍(いくさ)のまねごとをして泣(な)き声(ごゑ)を「クロノス」の耳(みみ)に入(い)れないやうにしたと伝(つた)へられる。140そのうちに「ゼウス」は生長(せいちやう)すると、141先(ま)づ祖母(そぼ)の「ガイヤ」の助(たす)けをかりて「クロノス」の口(くち)から呑(の)み込(こ)んだ同胞(はらから)らを吐(は)き出(だ)させた。142その時(とき)第一(だいいち)に出(で)たのは「ゼウス」の身代(みがは)りになつた大石(おほいし)で、143これは後(のち)に神託(しんたく)で有名(いうめい)になつた「デルフォイ」の神殿(しんでん)に保存(ほぞん)された。144それから、145順々(じゆんじゆん)にほかの五(ご)人(にん)の同胞(はらから)らが吐(は)き出(だ)されて、146母(はは)の「レア」の手(て)へ戻(もど)された。147そこで天上界(てんじやうかい)に第二(だいに)の革命(かくめい)が起(おこ)つた。
148 「ゼウス」はその同胞(はらから)の神々(かみがみ)と倶(とも)に「オリムポス」の山上(さんじやう)へ立籠(たてこも)ると、149多(おほ)くの「チタン」族(ぞく)は「クロノス」を助(たす)けて「オトリス」の山(やま)に拠(よ)つて十(じふ)年(ねん)の間(あひだ)戦争(せんさう)を続(つづ)けた。150この戦争(せんさう)は自然力(しぜんりよく)の全部(ぜんぶ)を闘争(とうさう)の渦中(くわちう)に捲(ま)き込(こ)んで、151この世界(せかい)の存在(そんざい)をも脅(おびや)かしたほどに猛烈(まうれつ)なものであつた。152同時(どうじ)に他(た)の一方(いつぱう)では、153神(かみ)と悪魔(あくま)、154正義(せいぎ)と暴力(ばうりよく)との戦(たたか)ひであつた。155此(この)間(あひだ)に「チタン」族(ぞく)のうちでも「テミス」と「ムネモシネ」(公正(こうせい)と記憶(きおく))とは、156暴力(ばうりよく)の味方(みかた)になることを避(さ)けて、157智力(ちりよく)と秩序(ちつじよ)の代表(だいへう)たる「ゼウス」の味方(みかた)につき、158また「プロメテウス」(先見(せんけん))も終局(しうきよく)の勝利(しようり)が「ゼウス」にあることを予知(よち)して「オリムポス」に走(はし)つた。
159 戦争(せんさう)は殆(ほと)んど果(はて)しが付(つ)かなかつた。160「ゼウス」は終(つひ)に「チタン」族(ぞく)の暴力(ばうりよく)を征服(せいふく)するには、161他(た)の暴力(ばうりよく)を借(か)るほかはないと悟(さと)つた。162そこで「ゼウス」は再(ふたた)び祖母(そぼ)「ガイヤ」の力(ちから)を借(か)りて、163「ウラノス」が地底(ちそこ)の「タルタロス」へ封(ふう)じ込(こ)めて置(お)いた「キクローベ」や「ケンチマネ」の一族(いちぞく)を解放(かいはう)して味方(みかた)につけ、164「キクローベ」の手(て)から雷電(らいでん)を譲(ゆづ)り受(う)けて、165先頭(せんとう)に立(た)つて敵(てき)に向(むか)ふと、166三箇(さんこ)の「ケンチマネ」は三百本(さんびやつぽん)の手(て)で岩(いは)をつかんでは敵(てき)に向(むか)つて雨霰(あめあられ)と投(な)げつけた。167その時(とき)「オリムポス」の山上(さんじやう)から投(な)げかける雷電(らいでん)のために、168周囲(しうゐ)の地(ち)は焼(や)けただれ、169河海(かかい)の水(みづ)は沸騰(ふつとう)して、170火(ひ)の如(ごと)き霧(きり)は「オトリス」の山(やま)を包(つつ)み、171「チタン」族(ぞく)は絶(た)えず閃(ひら)めく電光(でんくわう)のために悉(ことごと)くその視力(しりよく)を失(うしな)つた。
172 同時(どうじ)に「ケンチマネ」は地(ち)と海(うみ)を震(ふる)はして突進(とつしん)したので、173さすがに勇猛(ゆうまう)な「チタン」族(ぞく)も、174電光(でんくわう)に焼(や)かれ岩(いは)の下(した)に埋(うづ)められて、175たうとう「ゼウス」の軍(ぐん)に降服(かうふく)して了(しま)つた。176そこで「ゼウス」は「ケンチマネ」に命(めい)じて、177「クロノス」を始(はじ)め自分(じぶん)に刃向(はむか)つた「チタン」族(ぞく)を、178「タルタロス」の底(そこ)へ幽閉(いうへい)し、179「ケンチマネ」をして監視(かんし)させた。
180 神々(かみがみ)と「チタン」族(ぞく)との戦闘(せんとう)の神話(しんわ)は、181世界(せかい)の起原(きげん)に関(くわん)するギリシヤの神話(しんわ)の中(うち)でも、182恐(おそ)らく最古(さいこ)の伝説(でんせつ)に関(くわん)するものである。183この戦闘(せんとう)の舞台(ぶたい)となつた「テツサリヤ」の地勢(ちせい)を見(み)れば何人(なんぴと)にも想像(さうざう)されることではあるが、184そこには自然(しぜん)の激変(げきへん)の跡(あと)が著(いちじる)しく残(のこ)つてゐる。185「テツサリヤ」の平原(へいげん)そのものが、186あの山壁(さんぺき)を裂(さ)いて「テンペ」の大谿谷(だいけいこく)を作(つく)り出(だ)した大地震(だいぢしん)の産物(さんぶつ)であつた。187そして「オリムポス」山(さん)と「オトリス」山(さん)とは丁度(ちやうど)この大谿谷(だいけいこく)を挟(はさ)んで相対峙(あひたいじ)する大城壁(だいじやうへき)のやうな形勢(けいせい)をして、188その間(あひだ)の谿谷(けいこく)には処々(しよしよ)に巨大(きよだい)な漂石(へうせき)が「ゼウス」族(ぞく)と「チタン」族(ぞく)の間(あひだ)に投(な)げかはされた巌石(がんせき)のやうに捲(ま)き散(ち)らされて居(ゐ)るのである。
189 「クロノス」の黄金(わうごん)時代(じだい)は、190かうして永久(えいきう)に過(す)ぎ去(さ)つた。191「クロノス」の神話(しんわ)については、192互(たがひ)に矛盾(むじゆん)した二(ふた)つの性質(せいしつ)が賦与(ふよ)されてゐる。193一方(いつぱう)では、194この時代(じだい)を地上(ちじやう)には永久(えいきう)の春(はる)が続(つづ)いて人間(にんげん)が無限(むげん)の幸福(かうふく)を享楽(きやうらく)した黄金(わうごん)時代(じだい)だと説(と)くとともに、195他(た)の一方(いつぱう)では、196その治世(ちせい)が既(すで)に父(ちち)の「ウラノス」に対(たい)する反逆(はんぎやく)に始(はじ)まつたやうに、197この治世(ちせい)を通(つう)じて権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)によつて支配(しはい)された時代(じだい)のやうにも説(と)いてゐる。198この第二(だいに)の伝説(でんせつ)によると、199「クロノス」は結局(けつきよく)正義(せいぎ)の代表者(だいへうしや)たる「ゼウス」に対(たい)して、200邪曲(じやきよく)の代表者(だいへうしや)と見(み)られるのである。201併(しか)しさう言(い)ふ道徳(だうとく)的(てき)の矛盾(むじゆん)を除外(ぢよぐわい)して見(み)れば、202この時代(じだい)は、203後(のち)の天地(てんち)万物(ばんぶつ)の秩序(ちつじよ)が次第(しだい)に整(ととの)つて来(き)た時代(じだい)であつた。
204 「ゼウス」は終(つひ)にその強敵(きやうてき)「チタン」族(ぞく)を征服(せいふく)したけれども、205「ゼウス」の主権(しゆけん)はまだ本当(ほんたう)に安定(あんてい)する所(ところ)までは行(い)かなかつた。206「ガイヤ」は一旦(いつたん)は孫(まご)の「ゼウス」を助(たす)けて「クロノス」と「チタン」族(ぞく)を征服(せいふく)させたけれども、207いよいよ「ゼウス」が勝(か)つて見(み)ると、208さすがに自分(じぶん)の生(う)んだ「チタン」族(ぞく)の没落(ぼつらく)を憐(あはれ)むやうな心持(こころもち)も出(で)て、209「ゼウス」に対(たい)してまたまた陰謀(いんぼう)を企(くはだ)てるやうになつた。
210 「ガイヤ」には、211「チタン」族(ぞく)のほかに「チフオイオス」といふ子(こ)があつた。212「チフオイオス」は同胞(どうはう)の「チタン」族(ぞく)よりは一層(いつそう)恐(おそ)ろしい怪物(くわいぶつ)で、213どうしても全能(ぜんのう)の「ゼウス」に反抗(はんかう)すべき運命(うんめい)を持(も)つて居(ゐ)た。214この「チフオイオス」は一百(いつぴやく)の蛇(へび)の頭(あたま)と火(ひ)の如(ごと)く暉(かがや)く目(め)と真黒(まつくろ)な舌(した)を持(も)ち、215其(その)一百(いつぴやく)の口(くち)からは同時(どうじ)に蛇(へび)、216牡牛(をうし)や獅子(しし)や犬(いぬ)や其(その)他(た)あらゆるものの声(こゑ)を立(た)てて咆吼(ほうこう)するのであつた。217この怪物(くわいぶつ)が母(はは)の「ガイヤ」の命(めい)を受(う)けて「ゼウス」に向(むか)つて戦(たたか)ひを挑(いど)んで来(き)たが、218「ゼウス」は直(す)ぐにその雷電(らいでん)をあびせかけて打(う)ち倒(たふ)し、219「チタン」らと一緒(いつしよ)に「タルタロス」の底(そこ)へ投(な)げ込(こ)んで了(しま)つた。
220 併(しか)しこの戦争(せんさう)で天(てん)も地(ち)もその為(ため)震撼(しんかん)して「タルタロス」の底(そこ)までも響(ひび)き渡(わた)つた。221そして「ゼウス」の雷光(らいくわ)に包(つつ)まれながらも、222その怪物(くわいぶつ)の吐(は)き出(だ)す息(いき)がかかつた地(ち)は、223まるで白蝋(はくらふ)かなにかのやうに、224どろどろに鎔(と)けたと伝(つた)へられてゐる。225この怪物(くわいぶつ)は今(いま)もなほ「タルタロス」の底(そこ)で、226折々(をりをり)恐(おそ)ろしい唸(うな)り声(ごゑ)や泣(な)き声(ごゑ)を立(た)てる、227その度(たび)に噴火山(ふんくわざん)の口(くち)から怖(おそ)ろしい火(ひ)の舌(した)を吐(は)き、228或(あるひ)は恐(おそ)ろしい熱風(ねつぷう)を起(おこ)して、229地上(ちじやう)の草木(くさき)を焼(や)き払(はら)ふのである。230「チフオイオス」は猛烈(まうれつ)な旋風(せんぷう)の人格化(じんかくくわ)であつた。
231 「チフオイオス」の反乱(はんらん)に続(つづ)いて巨人族(きよじんぞく)の反乱(はんらん)があつた。232巨人族(きよじんぞく)と言(い)ふのは、233「ウラノス」の血(ち)から生(うま)れた巨大(きよだい)な怪物(くわいぶつ)である。234伝説(でんせつ)によると、235キラキラした鎧(よろひ)を着(き)て手(て)に長槍(ながやり)を持(も)つた魁偉(くわいゐ)な巨人(きよじん)であつた。236巨人族(きよじんぞく)の中(なか)でも、237特(とく)に雄強(ゆうきやう)なものは「アルキオネス」「パラス」「エンケラドス」及(およ)び火(ひ)の王(わう)「ボルフィリオン」であつた。238この巨人族(きよじんぞく)との戦(たたか)ひでは、239「オリムポス」諸神(しよしん)の中(うち)でも、240「ヘラ」と「アテーネ」の二女神(にぢよしん)が首功(しゆこう)を立(た)て、241また「ゼウス」の血(ち)を受(う)けた英雄(えいゆう)「ヘラクレス」がその強弓(がうきう)をひいて敵(てき)をなやましたと言(い)ふことになつてゐる。
242 この巨人族(きよじんぞく)は自然界(しぜんかい)の勢力(せいりよく)の人格化(じんかくくわ)であつた。243「チタン」族(ぞく)とは違(ちが)つて、244俗間(ぞくかん)の信仰(しんかう)に根拠(こんきよ)を持(も)つた妖魔(えうま)であつた。245従(したが)つて巨人族(きよじんぞく)は「チタン」族(ぞく)や「キクローベ」や「チフォイオス」よりは一層(いつそう)人間(にんげん)に近(ちか)く、246古(ふる)い彫刻(てうこく)では獣(けもの)の皮(かは)を着(き)て岩(いは)や根棒(こんぼう)を武器(ぶき)とする蛮族(ばんぞく)の姿(すがた)であらはされてゐるが、247後(のち)には胴(どう)から下(した)は人間(にんげん)の形体(けいたい)を失(うしな)つて、248脚(あし)のかはりに頭(あたま)をもつた二匹(にひき)の蛇(へび)をつけるやうになつた。249巨人族(きよじんぞく)は恐(おそ)らくある地方(ちはう)に特有(とくいう)な俗間(ぞくかん)信仰(しんかう)から出(で)て一般(いつぱん)の神話(しんわ)の領域(りやうゐき)に侵入(しんにふ)して行(い)つたものらしく、250その性質(せいしつ)には、251有史前(いうしぜん)の獰猛(だうまう)な蛮族(ばんぞく)を暗示(あんじ)するところがある。252人間(にんげん)と同様(どうやう)に土(つち)から生(うま)れたといふ形容詞(けいようし)をつけられてゐるのも、253その一(ひと)つの証拠(しようこ)である。254とにかくこの巨人族(きよじんぞく)も、255他(た)の二族(にぞく)と同様(どうやう)に「ゼウス」の為(ため)に全(まつた)く征服(せいふく)されて「タルタロス」の底(そこ)へ全(まつた)く葬(はうむ)られて了(しま)つた。
256 そこで天地(てんち)の秩序(ちつじよ)が始(はじ)めて定(さだ)まり、257「ゼウス」は「クロノス」に代(かは)つて天地(てんち)の主宰者(しゆさいしや)となつた。
258 この時(とき)「ゼウス」は神々(かみがみ)の会議(くわいぎ)を開(ひら)いて、259それぞれにその支配(しはい)を定(さだ)めた。260「ポサイドン」「オケアノス」に代(かは)つて海(うみ)を支配(しはい)し、261「ハデス」は暗黒(あんこく)な地下(ちか)の世界(せかい)と「タルタロス」の王(わう)となり、262「ヘラ」は「ゼウス」の妃(ひ)として「オリムポス」の女王(ぢよわう)となつた。
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