霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 御舟巌(みふねいは)〔一九三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻 篇:第3篇 孤軍奮闘 よみ(新仮名遣い):こぐんふんとう
章:第15章 御舟巌 よみ(新仮名遣い):みふねいわ 通し章番号:1932
口述日:1933(昭和8)年12月08日(旧10月21日) 口述場所:水明閣 筆録者:谷前清子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
八十曲津神たちは、沼に変じて朝香比女を待ち伏せていたが、あべこべに比女の言霊に固められて、本物の沼となって大野ケ原に永遠に横たわることになってしまった。また、曲津見の本体であった巨巌も、比女の沼渡りに逆に使われた挙句、御舟巌と固められてしまった。
その他の悪神たちは沼底の貝と変じて、わずかに命脈を保つことを許されたのみであった。
朝香比女は沼と巌に、魚貝を育てて国津神たちにを養う糧を生み育てることを命じて、東南方を指して進んで行った。
程なくして、国津神たちが住む集落にたどり着いた。国津神の長、狭野比古(さぬひこ)は、比女の前にひざまずき笑みをたたえ、高天原より降り来た女神に、飢えに悩む国津神を救ってくれるよう懇願した。
朝香比女は、湖水の魚を食べるように諭すが、狭野比古は、国津神は木の実を食べて生きるもので、魚は食べられない、と答えた。そこで比女は彼らに火を与え、魚貝を焼いて食べることを教えた。
国津神たちは、その美味さに先を争って魚貝を食べた。狭野比古は、湖水に豊富に生息する魚貝を食料にできるならば、もう飢えに悩むことはないと喜び、感謝の歌をささげた。
朝香比女は、御舟巌の回りだけは漁をすることを禁じ、また必ず湖水の魚貝に火を通してから食べることを教えた。
すると狭野比古は次に、この近辺は水が悪いために、病気になり命を落とすものまでいることを訴えた。朝香比女は土を練って瓶を焼き、水を満たして沸騰させることを教えた。以後、国津神たちは白湯を飲んで水あたりすることはなくなった。これが、火食の道の始まりである。
狭野比古は感謝の歌を歌い、また真賀の湖水の湖辺に新しい宮居を造り、主の神の神霊を祀り、相殿に朝香比女の神霊を祀り、国津神がかわるがわる奉仕することとなった。
朝香比女は狭野の郷を発って、さらに西方の国に進むことになった。狭野比古は別れ惜しさに、比女の逗留を懇願するが、比女の心は固かった。そこで、狭野比古はせめて曲津神の多くなる先の道中を守るため、比女の共を申し出た。
朝香比女は快諾し、かくして比女は狭野比古を従えて大野ケ原を進んでいくこととなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:3810 OBC :rm7615
愛善世界社版: 八幡書店版:第13輯 574頁 修補版: 校定版:446頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 八十(やそ)曲津見(まがつみ)は朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の行手(ゆくて)を遮(さへぎ)らむとして、002広大(くわうだい)なる沼(ぬま)と体(み)を変(へん)じ、003女神(めがみ)を悩(なや)まし奉(まつ)らむとして待(ま)ち構(かま)へ居(ゐ)たりしが、004女神(めがみ)の生言霊(いくことたま)に固(かた)められて、005忽(たちま)ち真(まこと)の沼(ぬま)となり、006永久(とこしへ)に大野(おほの)ケ原(はら)の真中(まんなか)に横(よこた)はる事(こと)となりにける。007又(また)巨巌(きよがん)は八十(やそ)曲津見(まがつみ)の本体(ほんたい)なりけるを、008言霊(ことたま)の幸(さち)はひによりて水上(すゐじやう)に浮(うか)ぶ磐楠舟(いはくすぶね)となり、009比女神(ひめがみ)を彼岸(ひがん)に渡(わた)す御用(ごよう)に逆(さか)しまに使(つか)はれ、010再(ふたた)び汀辺(みぎはべ)に万世(ばんせい)不動(ふどう)の御舟巌(みふねいは)と固(かた)められければ、011八十(やそ)曲津見(まがつみ)は如何(いかん)とも詮(せん)すべなく、012その率(ひき)ゐたる百(もも)の曲津見(まがつみ)は、013いづれも沼底(ぬまそこ)の貝(かひ)と変(へん)じて、014わづかに生命(いのち)を保(たも)つ事(こと)を許(ゆる)されにける。
015 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は、016この態(さま)を見(み)て御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
017『面白(おもしろ)し八十(やそ)曲津見(まがつみ)は大野原(おほのはら)の
018中(なか)に動(うご)かぬ沼(ぬま)となりしよ
019曲津見(まがつみ)の沼(ぬま)となりける水(み)の上(うへ)を
020磐楠舟(いはくすぶね)に乗(の)りて渡(わた)りし
021今日(けふ)よりは弥永久(いやとこしへ)に沼(ぬま)となりて
022所(ところ)を変(か)へな世(よ)の終(をは)るまで
023もろもろの曲津神(まがつかみ)等(たち)は沼底(ぬまそこ)の
024貝(かひ)となりつつ生命(いのち)をたもて
025貝(かひ)は皆(みな)吾(わが)乗(の)り来(きた)りし楠舟(くすぶね)の
026形(かたち)となりて沼(ぬま)にひそめよ
027天津(あまつ)日(ひ)は真賀(まが)の湖水(こすゐ)の面(おも)照(てら)し
028狭霧(さぎり)もやもや立(た)ち昇(のぼ)りつつ
029わが為(ため)に謀(はか)らひたりし醜(しこ)の沼(ぬま)は
030またわが為(ため)に謀(はか)らはれける
031水底(みなそこ)に青(あを)くうつろふ山影(やまかげ)は
032栄城(さかき)の山(やま)か波(なみ)にさゆれつ
033月読(つきよみ)の光(かげ)を浮(うか)べしこの沼(ぬま)は
034曲津(まがつ)の化身(けしん)と思(おも)はれざりしよ
035何事(なにごと)も善意(ぜんい)に解(かい)せばもの皆(みな)は
036わが為(ため)によきものとなるかも
037曲津(まがつ)神(かみ)も愛(あい)と善(ぜん)には勝(か)ち難(がた)く
038大地(だいち)に伏(ふ)して沼(ぬま)と溢(あふ)れつ
039国津(くにつ)神(かみ)の日毎(ひごと)々々(ひごと)の餌(ゑ)を生(う)みて
040魚貝(ぎよかひ)を育(そだ)てよ真賀(まが)の湖(みづうみ)
041沼水(ぬまみづ)はいやつぎつぎに澄(す)みきりて
042深(ふか)き湖水(こすゐ)となりにけらしな
043御舟巌(みふねいは)の側(そば)に集(あつ)まる魚族(うろくづ)は
044いや永久(とこしへ)に生命(いのち)たもたむ
045御舟巌(みふねいは)は吾(われ)を助(たす)けし神(かみ)なれば
046幾千代(いくちよ)までも滅(ほろ)びざるべし
047巌ケ根(いはがね)に住(す)み魚族(うろくづ)も諸貝(もろかひ)も
048われを助(たす)けし功(いさを)に生(い)きむ
049いざさらば吾(われ)は進(すす)まむ湖(みづうみ)よ
050国津神(くにつかみ)等(たち)を永久(とは)に養(やしな)へ』
051 斯(か)く歌(うた)ひ給(たま)ひつつ駒(こま)にひらりと跨(またが)り、052東南方(とうなんぱう)の野辺(のべ)をさして進(すす)み給(たま)へば、053程近(ほどちか)き野辺(のべ)の真中(まんなか)に余(あま)り高(たか)からぬ丘陵(きうりよう)ありて、054国津神(くにつかみ)等(たち)の住家(すみか)幾十(いくじふ)となく建(た)ち並(なら)び居(ゐ)たりければ、055朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は国津(くにつ)神(かみ)の住(すま)へる村(むら)を訪(と)はむとして進(すす)ませ給(たま)ふ。
056 国津(くにつ)神(かみ)の長(をさ)たる狭野(さぬ)比古(ひこ)は、057比女神(ひめがみ)の御前(みまへ)に跪(ひざまづ)きながら満面(まんめん)に笑(ゑみ)をたたへて、
058『汝(なれ)こそは高天原(たかあまはら)ゆ降(くだ)ります
059女神(めがみ)にますか面(おも)かがやける
060この郷(さと)に国津神(くにつかみ)等(たち)守(まも)りつつ
061住(すま)へる吾(われ)は狭野(さぬ)比古(ひこ)にこそ
062願(ねが)はくばこの村里(むらざと)に止(とど)まりて
063国津神(くにつかみ)等(たち)を救(すく)はせたまへ
064国津(くにつ)神(かみ)は日毎(ひごと)の餌(ゑば)に苦(くる)しみつ
065飢(う)ゑ渇(かわ)きたり安(やす)きをたまへ
066気魂(からたま)をたしに保(たも)てる国津(くにつ)神(かみ)は
067餌(ゑば)なく飢(うゑ)に渇(かわ)きゐるなり』
068 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は狭野(さぬ)比古(ひこ)に答(こた)へて、
069『国津(くにつ)神(かみ)の日々(ひび)の糧(かて)をば与(あた)ふべし
070真賀(まが)の湖水(こすゐ)の魚族(うろくづ)とらせよ』
071 狭野(さぬ)比古(ひこ)は答(こた)へて、
072『ありがたし忝(かたじけ)なしと思(おも)へども
073木(こ)の実(み)に生(い)くる国津(くにつ)神(かみ)なるよ
074魚族(うろくづ)をくひて生(い)くべき生命(いのち)なれば
075吾(われ)等(ら)は飢(うゑ)にせまらざるべし』
076 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は、
077『木(こ)の実(み)また生命(いのち)の為(ため)によけれども
078魚族(うろくづ)喰(くら)へば生命(いのち)ながけむ
079われは今(いま)国津神(くにつかみ)等(たち)に魚族(うろくづ)を
080焼(や)きて喰(く)ふべき真火(まひ)を与(あた)へむ』
081 斯(か)く宣(の)らせ給(たま)ひて朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は、082この村里(むらざと)の小川(をがは)に満(み)てる魚貝(ぎよかひ)等(など)を漁(あさ)らせ給(たま)ひ、083燧(ひうち)により火(ひ)を切(き)り出(だ)して、084木草(きぐさ)に燃(も)えつかせ、085魚貝(ぎよかひ)をその中(なか)にほりくべ、086加減(かげん)よく焙(あぶ)り給(たま)へば、087芳(かむ)ばしき香(かを)り四辺(あたり)に満(み)ちぬる。
088 国津神(くにつかみ)等(たち)は、089この香(かを)りにそそられて、090先(さき)を争(あらそ)ひ、091貪(むさぼ)る如(ごと)くに喰(く)ひ始(はじ)めたり。092狭野(さぬ)比古(ひこ)は喜(よろこ)びて、
093『比女神(ひめがみ)の恵(めぐみ)畏(かしこ)し魚族(うろくづ)の
094よき味(あぢ)はひを教(をし)へ給(たま)ひぬ
095今日(けふ)よりはこの村里(むらざと)の国津(くにつ)神(かみ)
096飢(うゑ)に歎(なげ)かむ恐(おそ)れはあらじ
097比女神(ひめがみ)のきり出(い)で給(たま)ひし真火(まひ)こそは
098神(かみ)の御霊(みたま)か光(ひか)りかがよふ
099この真火(まひ)を吾(われ)に賜(たま)はば永久(とこしへ)に
100国津神(くにつかみ)等(たち)は滅(ほろ)びざるべし』
101 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は懐中(くわいちう)より控(ひか)への燧(ひうち)を取(と)り出(い)で、102狭野(さぬ)比古(ひこ)に与(あた)へ給(たま)へば、103狭野(さぬ)比古(ひこ)は感謝(かんしや)措(お)く能(あた)はず、104カチリカチリと火(ひ)を切(き)り出(い)でながら、105喜(よろこ)びの余(あま)り俗謡(ぞくえう)を歌(うた)ひて、106国津神(くにつかみ)等(たち)と共(とも)に月(つき)の輪(わ)を造(つく)りて踊(をど)り舞(ま)ひ狂(くる)ひける。
107『天津(あまつ)比女神(ひめがみ)この郷(さと)に
108降(くだ)りましまし永久(とこしへ)の
109光(ひか)りを与(あた)へ給(たま)ひけり
110吾(われ)等(ら)は今迄(いままで)木(こ)の実(み)のみ
111喰(く)ひて生(い)きたる国津(くにつ)神(かみ)
112夏(なつ)と秋(あき)とはよけれども
113冬(ふゆ)さり春(はる)の来(き)むかへば
114飢(うゑ)にくるしみ悩(なや)みたり
115今日(けふ)は如何(いか)なる吉(よ)き日(ひ)ぞや
116湖水(こすゐ)池水(いけみづ)川底(かはそこ)に
117ところせきまで満(み)ち足(た)らふ
118魚族(うろくづ)喰(く)ひて永久(とこしへ)に
119生命(いのち)保(たも)つと教(をし)へまし
120燧(ひうち)を吾(われ)に与(あた)へまし
121焼(や)きて喰(く)ふべく教(をし)へます
122大御恵(おほみめぐみ)のありがたや
123今日(けふ)より吾(われ)等(ら)国津(くにつ)神(かみ)は
124生命(いのち)の糧(かて)を得(え)たりけり
125ああたのもしやたのもしや
126天(あめ)より降(くだ)りし比女神(ひめがみ)の
127恵(めぐみ)は千代(ちよ)に忘(わす)れまじ
128ああありがたやありがたや
129祝(いは)へよ祝(いは)へよ国津(くにつ)神(かみ)
130踊(をど)れよ舞(ま)へよ国津(くにつ)神(かみ)
131御空(みそら)は碧(あを)く地(つち)広(ひろ)く
132月日(つきひ)は清(きよ)く輝(かがや)きて
133吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)もおだやかに
134天津(あまつ)神国(みくに)はまのあたり
135生(うま)れ出(い)でたり惟神(かむながら)
136神(かみ)の御前(みまへ)に感謝言(ゐやひごと)
137白(まを)さむ言葉(ことば)もあら尊(たふ)と
138千代(ちよ)も八千代(やちよ)も永久(とこしへ)に
139女神(めがみ)の恵(めぐみ)は忘(わす)れまじ
140祝(いは)へよ祝(いは)へよ踊(をど)れよ踊(をど)れよ
141大地(だいち)の底(そこ)のぬけるまで
142竜宮(りうぐう)の釜(かま)の割(わ)るるまで』
143 狭野(さぬ)比古(ひこ)の音頭(おんど)につれて、144国津神(くにつかみ)等(たち)は次(つ)ぎ次(つ)ぎに集(あつま)り来(きた)り、145天地(てんち)を震動(しんどう)させながら、146踊(をど)り狂(くる)ひ給(たま)ひける。147朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は、148諸神(ももがみ)に向(むか)ひ御歌(みうた)もて宣(の)らせ給(たま)ふ。
149『曲津見(まがつみ)の醜(しこ)のすさびを退(やら)はむと
150われは燧(ひうち)を汝(なれ)等(ら)に与(あた)へし
151今日(けふ)よりは真賀(まが)の湖(こ)に棲(す)む魚族(うろくづ)を
152汝(なれ)等(ら)がかてに与(あた)へおくべし
153御舟巌(みふねいは)のまはりに棲(す)める魚族(うろくづ)は
154いやとこしへに漁(すなど)るなゆめ
155御舟巌(みふねいは)は吾(われ)を助(たす)けし神(かみ)なれば
156近(ちか)くの魚族(うろくづ)は助(たす)け置(お)くべし
157過(あやま)ちて巌根(いはね)に棲(す)まむ魚貝(ぎよかひ)喰(く)はば
158忽(たちま)ち汝(なれ)等(ら)が生命(いのち)は失(う)せむ
159いや広(ひろ)き湖(みづうみ)なれば到(いた)るところ
160汝(なれ)等(ら)が喰(く)ふべき魚貝(ぎよかひ)は満(み)てり
161魚族(うろくづ)は火(ひ)にて焙(あぶ)りて喰(くら)ふべし
162生(い)きたるままにて必(かなら)ず喰(を)すな』
163 狭野(さぬ)比古(ひこ)は御歌(みうた)もて喜(よろこ)び答(こた)ふ。
164『久方(ひさかた)の天(あめ)より降(くだ)りし比女神(ひめがみ)の
165神言(みこと)かしこみ千代(ちよ)に守(まも)らむ
166今日(けふ)よりは国津神(くにつかみ)等(たち)安(やす)らかに
167喜(よろこ)びいさみ恵(めぐ)みに浸(ひた)らむ
168魚族(うろくづ)は数限(かずかぎ)りなし年(とし)普(まね)く
169湖(うみ)に満(み)てれば飢(う)ゆる事(こと)なし
170願(ねが)はくば吾(われ)等(ら)に水(みづ)を与(あた)へかし
171小川(をがは)に流(なが)るるこの真清水(ましみづ)を
172国津(くにつ)神(かみ)真清水(ましみづ)飲(の)みて腹(はら)痛(いた)め
173生命(いのち)をおとす憂(うれ)ひありせば』
174 ここに朝香(あさか)の比女神(ひめがみ)は、175真土(まつち)を水(みづ)にて練(ね)り、176瓶(かめ)を造(つく)り、177暫(しばら)くの間(あひだ)を天津(あまつ)日(ひ)の光(ひかり)に干(ほ)し乾(かわ)かせ、178土(つち)をもて窯(かまど)を築(きづ)き、179火(ひ)をおこして瓶(かめ)を焼(や)き、180𪫧怜(うまら)にかたらに造(つく)り上(あ)げ、181之(これ)に水(みづ)を満(みた)して窯(かまど)を造(つく)り火(ひ)をもて焼(や)かせ給(たま)へば、182忽(たちま)ち瓶(かめ)の水(みづ)は沸騰(ふつとう)して美(うる)はしき白湯(さゆ)となりにける。183比女神(ひめがみ)はこの白湯(さゆ)を国津神(くにつかみ)等(たち)に与(あた)へ、184飲(の)む事(こと)を教(をし)へ給(たま)ひければ、185国津(くにつ)神(かみ)は喜(よろこ)び勇(いさ)みて之(これ)より白湯(さゆ)を飲(の)む事(こと)となしければ、186生水(なまみづ)の如(ごと)く腹(はら)を痛(いた)むることなく、187各々(おのおの)その天寿(てんじゆ)を保(たも)ちけるこそ目出度(めでた)けれ。188之(これ)より火食(くわしよく)の道(みち)始(はじ)まりにける。
189 狭野(さぬ)比古(ひこ)は喜(よろこ)びの余(あま)り感謝(ゐやひ)の歌(うた)を詠(よ)む。
190『比女神(ひめがみ)の恵(めぐみ)の露(つゆ)にうるほひて
191吾(われ)等(ら)は白湯(さゆ)の味(あぢ)はひ悟(さと)りぬ
192火(ひ)に焼(や)きし魚族(うろくづ)の味(あぢ)芳(かむ)ばしく
193吾(われ)等(ら)が生命(いのち)もよみがへるなり
194土(つち)を練(ね)りて瓶(かめ)を造(つく)らせその瓶(かめ)を
195又(また)火(ひ)に焼(や)かす神業(みわざ)尊(たふと)し
196焼(や)き上(あ)げし瓶(かめ)に真清水(ましみづ)盛(も)り満(みた)し
197薪(たきぎ)燃(もや)せば白湯(さゆ)は沸(わ)くかも
198火(ひ)の力(ちから)始(はじ)めて悟(さと)りし吾々(われわれ)は
199今日(けふ)より飢(うゑ)に泣(な)く事(こと)なからむ
200永久(とこしへ)の生命(いのち)保(たも)ちてこの郷(さと)に
201われは栄(さか)えむ国津神(くにつかみ)等(たち)と
202曲津見(まがつみ)の襲(おそ)ひ来(きた)らば真火(まひ)もちて
203放(はふ)り退(やら)はむ力(ちから)おぼえし
204比女神(ひめがみ)の神言(みこと)畏(かしこ)み御舟巌(みふねいは)の
205あたりの魚族(うろくづ)永久(とは)にとらさじ
206空(そら)は晴(は)れ地上(ちじやう)は夏(なつ)の風(かぜ)吹(ふ)きて
207心(こころ)清(すが)しも比女(ひめ)の出(い)でまし
208比女神(ひめがみ)の教(をし)へたまひし御恵(みめぐみ)を
209四方(よも)の神(かみ)等(たち)に分(わか)ちよろこばむ
210この国土(くに)は葦原(あしはら)の国(くに)と昔(むかし)より
211たたへ来(きた)りし常闇(とこやみ)なりけり
212常闇(とこやみ)のこの葦原(あしはら)も今日(けふ)よりは
213真火(まひ)の力(ちから)によみがへるべし
214火(ひ)と水(みづ)を与(あた)へ給(たま)ひし比女神(ひめがみ)の
215恵(めぐみ)は永久(とは)に忘(わす)れざるべし
216比女神(ひめがみ)の恵(めぐみ)を永久(とは)に忘(わす)れじと
217宮居(みやゐ)を造(つく)り斎(いは)ひまつらむ』
218 斯(か)く宣(の)り終(を)へて、219狭野(さぬ)比古(ひこ)は数多(あまた)の国津(くにつ)神(かみ)を率(ひき)ゐて、220真賀(まが)の湖辺(こへん)に新(あたら)しき清(すが)しき宮居(みや)を造(つく)り、221朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の幸(さち)を祈(いの)るべく、222主(ス)の神(かみ)の神霊(しんれい)を祀(まつ)り、223相殿(あひどの)に朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の神魂(みたま)を合(あは)せ祀(まつ)りて、224朝(あさ)な夕(ゆふ)な国津(くにつ)神(かみ)は交(かは)る交(がは)る奉仕(ほうし)する事(こと)となりぬ。
225 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は再(ふたた)び駒(こま)に跨(またが)り、226この部落(ぶらく)を立(た)ち出(い)でむとして御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
227『いざさらば狭野(さぬ)の小郷(をさと)に住(す)み給(たま)ふ
228国津神(くにつかみ)等(たち)に暇(いとま)を告(つ)げむ
229これよりは吾(われ)西方(にしかた)の稚国土(わかぐに)を
230さして進(すす)まむすこやかにあれよ』
231 狭野(さぬ)比古(ひこ)は別(わか)れを惜(を)しみて歌(うた)を宣(の)る。
232『比女神(ひめがみ)の功(いさを)たふとしせめて今(いま)
233一日(ひとひ)をここに止(とど)まり給(たま)はれ
234国津(くにつ)神(かみ)の生命(いのち)の糧(かて)をたまひたる
235女神(めがみ)に別(わか)ると思(おも)へばかなし
236国津(くにつ)神(かみ)諸々(もろもろ)ここに集(あつ)まりて
237公(きみ)の旅立(たびだ)ち惜(を)しみて泣(な)くも
238狭野(さぬ)の郷(さと)の救(すく)ひの神(かみ)と現(あ)れましし
239比女神(ひめがみ)の旅(たび)を止(とど)めたく思(おも)ふ
240とこしへに主(ス)の大神(おほかみ)と諸共(もろとも)に
241公(きみ)が神魂(みたま)をいつきまつらむ』
242 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
243『国津(くにつ)神(かみ)の心(こころ)は悟(さと)らぬにあらねども
244御子生(みこう)みのため止(とど)まるべしやは
245気魂(からたま)をもたせる汝(なれ)等(ら)国津(くにつ)神(かみ)よ
246いたづきもなくまめやかにあれ
247吾(われ)こそは主(ス)の大神(おほかみ)の御水火(みいき)より
248生(うま)れし神(かみ)ぞ身(み)にさはりなし
249いざさらば愛(め)ぐしき国津神(くにつかみ)等(たち)よ
250われは進(すす)まむ永久(とは)に栄(さか)えよ』
251 狭野(さぬ)比古(ひこ)は別(わか)れ惜(を)しさに又(また)歌(うた)ふ。
252『かくならば止(とど)めむ術(すべ)もなかりけり
253国津神(くにつかみ)等(ら)と神霊(みたま)に仕(つか)へむ
254願(ねが)はくば御供(みとも)を許(ゆる)し給(たま)へかし
255この行先(ゆくさき)の曲津(まが)しげければ
256玉(たま)の緒(を)の生(い)きの生命(いのち)をすつるとも
257比女(ひめ)のためには惜(を)しからざるべし
258今日(けふ)よりは御供(みとも)の神(かみ)と仕(つか)へつつ
259比女神(ひめがみ)のために従(したが)ひ行(ゆ)かむ』
260 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は微笑(ほほゑ)みながら、
261『やさしかる狭野(さぬ)比古(ひこ)の心(こころ)うべなひて
262今日(けふ)よりわれの供(とも)を許(ゆる)さむ』
263 狭野(さぬ)比古(ひこ)は喜(よろこ)びに堪(た)へず、
264『比女神(ひめがみ)の許(ゆる)しありけり国津(くにつ)神(かみ)よ
265神(かみ)の宮居(みやゐ)に清(きよ)く仕(つか)へませ
266いざさらば御供(みとも)仕(つか)へむ朝香(あさか)比女(ひめ)の
267神(かみ)よ御馬(みうま)に鞭(むち)うたせませ』
268 朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)はここに狭野(さぬ)比古(ひこ)を従(したが)へ、269晴(は)れたる大野(おほの)ケ原(はら)を、270駒(こま)を並(なら)べて勇(いさ)ましく進(すす)ませ給(たま)ひける。
271(昭和八・一二・八 旧一〇・二一 於水明閣 谷前清子謹録)
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