霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 善言(ぜんげん)美霊(びれい)〔一九二五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻 篇:第2篇 晩春の神庭 よみ(新仮名遣い):ばんしゅんのしんてい
章:第8章 善言美霊 よみ(新仮名遣い):ぜんげんびれい 通し章番号:1925
口述日:1933(昭和8)年12月06日(旧10月19日) 口述場所:水明閣 筆録者:林弥生 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
朝香比女の神は、顕津男の神を慕う狂おしい心に、御樋代神たちや宮司神たちのいさめを聞かず、白馬に鞭打ち、黄昏の空を東南指して駆け出でてしまった。
後に残された宮居の神々たちは、朝香比女の短慮を怒り嘆いたが、高地秀の宮居の聖殿に心静かに帰って朝香比女の神の旅の無事を祈るしかなかった。
一同は祭典の準備が整うと、鋭敏鳴出の神が宮居の司の務めとして、自ら高御座の大前にひれ伏し、声さわやかに、朝香比女の無事を願う祝詞を奏上した。
高野比女の神は御祭りの庭に立って朝香比女の行動を述懐し、皆のいさめを聞かずに飛び出した比女を「面勝神」と宣すが、無事を祈る歌を歌った。そして最後には、朝香比女の内に秘められた、激しく顕津男の神を思う心に思い至り、その心を汲むことができなかった自分を悔い、宣りなおした。
神々はそれぞれ、西方の国へ向かった朝香比女の無事を祈る歌を歌い継いだ。そして御樋代神の中には、「面勝神」である朝香比女が、実は曲津神をも糺す力を持った雄雄しい神であることを悟るものもあった。
最後に天津女雄の神は、朝香比女の雄雄しさに打たれ、西方の国魂神を生むべく旅立っていったその心をたたえた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:3943 OBC :rm7608
愛善世界社版: 八幡書店版:第13輯 539頁 修補版: 校定版:314頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 ここに朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)は、002顕津男(あきつを)の神(かみ)を慕(した)はせ給(たま)ふ心(こころ)の駒(こま)の狂(くる)ひたちて足掻(あが)き止(や)まねば、003御樋代(みひしろ)神(がみ)等(たち)、004宮司神(みやつかさがみ)等(たち)の心(こころ)を籠(こ)め力(ちから)を尽(つく)しての諫(いさ)めも、005空(そら)吹(ふ)く風(かぜ)と聞(き)き流(なが)し、006白馬(しらこま)に鞭(むち)うち、007黄昏(たそがれ)の空(そら)を東南(とうなん)指(さ)して駆(か)け出(い)で給(たま)ふぞ雄々(をを)しけれ。008後(あと)に残(のこ)れる御樋代(みひしろ)神(がみ)等(たち)は慨然(がいぜん)として歎(なげ)かせ給(たま)ひつつ、009高地秀(たかちほ)の宮居(みや)の聖殿(すがどの)に心(こころ)静(しづ)かに帰(かへ)らせ給(たま)ひて、010朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)の旅(たび)の無事(ぶじ)を祈(いの)らむと、011種々(くさぐさ)の美味物(うましもの)を奉(たてまつ)り、012大御前(おほみまへ)に祈(いの)りの祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し給(たま)ひぬ。
013 先(ま)づ例(かた)の如(ごと)く祭典(さいてん)の用意(ようい)整(ととの)ひたれば、014鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)は宮居(みや)の司(つかさ)の務(つとめ)として、015御自(みみづか)ら高御座(たかみくら)の大前(おほまへ)にひれ伏(ふ)し、016御声(みこゑ)爽(さはや)かに太祝詞(ふとのりと)白(まを)し給(たま)ふ。
 
017『掛巻(かけま)くも綾(あや)に畏(かしこ)き高地秀(たかちほ)山(やま)の下津(したつ)岩根(いはね)に大宮柱(おほみやばしら)太(ふと)しき建(た)て、018高天原(たかあまはら)に千木高(ちぎたか)知(し)りて、019堅磐(かきは)常磐(ときは)に此(これ)の聖所(すがど)を領有(うしは)ぎ鎮(しづ)まりいます主(ス)の大神(おほかみ)の大御前(おほみまへ)に、020斎主(いはひぬし)鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)、021謹(つつし)み敬(ゐやま)ひ畏(かしこ)み畏(かしこ)みも白(まを)さく。022如何(いか)なる神(かみ)の経綸(しぐみ)なるかも、023如何(いか)なる神(かみ)の計(はか)らひなるかも、024御樋代(みひしろ)比女神(ひめがみ)と神(かみ)の依(よ)さしに朝(あさ)な夕(ゆふ)なを仕(つか)へましし、025其(そ)が中(なか)の一柱(ひとはしら)とます朝香(あさか)の比女神(ひめがみ)は、026百神(ももがみ)等(たち)の諫(いさ)め止(とど)むる言霊(ことたま)をも聞(き)かせ給(たま)はず、027駿馬(はやこま)に鞭(むち)うち給(たま)ひて常闇(とこやみ)の夕(ゆふべ)の空(そら)を、028太元(おほもと)顕津男(あきつを)の神(かみ)の御許(みもと)に詣(まう)で仕(つか)へむと、029心(こころ)雄々(をを)しく出(い)でましぬ。030かれかくなりし上(うへ)は、031吾(われ)等(ら)が真心(まごころ)もちて止(とど)めまつらむ由(よし)もなければ、032惟神(かむながら)神(かみ)に任(まか)せて、033比女神(ひめがみ)の旅路(たびぢ)を安(やす)らけく平(たひら)けく渡(わた)らせ給(たま)へと祈(いの)るより外(ほか)に詮術(せんすべ)無(な)かりければ、034ここに神々(かみがみ)相議(あひはか)りて、035今日(けふ)の御祭(みまつり)仕(つか)へまつると、036海河(うみかは)山野(やまぬ)種々(くさぐさ)の美味物(うましもの)を、037八足(やたり)の机代(つくゑしろ)に横山(よこやま)なす置(お)き足(た)らはして、038奉(たてまつ)る状(さま)を、039平(たひら)けく安(やす)らけく穏(おだひ)に聞(きこ)し召(め)しまして、040朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)が伊行(いゆ)き給(たま)ふ道(みち)の隈手(くまで)も恙(つつが)なく聖所(すがど)に進(すす)ませ給(たま)へかし。041過(あやま)ち犯(をか)さむ事(こと)しあらば、042神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し宣(の)り直(なほ)しまして、043比女(ひめ)の神言(みこと)の出立(いでたち)に恙(つつが)あらせじと、044夜(よ)の守(まも)り日(ひ)の守(まも)りに守(まも)り幸(さきは)へ給(たま)へと、045鹿児自(かごじ)物(もの)膝折(ひざを)り伏(ふ)せ宇自物(うじもの)頸根(うなね)突貫(つきぬ)きて畏(かしこ)み畏(かしこ)みも祈願(こひのみ)奉(まつ)らくと白(まを)す。046一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)、047惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)、048惟神(かむながら)御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ』
049 高野(たかの)比女(ひめ)の神(かみ)は御祭(みまつり)の庭(には)に立(た)たせ給(たま)ひて、050御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
051『高地秀(たかちほ)の貴(うづ)の宮居(みやゐ)に永久(とこしへ)に
052ます大神(おほかみ)に願(ね)ぎごと白(まを)さむ
053朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)は夕(ゆふ)べを立(た)ち出(い)でぬ
054つつがあらすな道(みち)の隈手(くまで)も
055朝香(あさか)比女(ひめ)は面勝神(おもかつがみ)よ射向(いむか)ふ神(かみ)
056わが言霊(ことたま)も聞(き)かず出(い)でましぬ
057思(おも)ひ立(た)ちし事(こと)を貫(つらぬ)く朝香(あさか)比女(ひめ)の
058こころの駒(こま)は止(とど)め得(え)ざりき
059かくならば詮術(せんすべ)もなし主(ス)の神(かみ)の
060あつき恵(めぐ)みにすがらむと思(おも)ふ
061曲津(まが)神(かみ)の伊猛(いたけ)り狂(くる)ふ荒野原(あらのはら)を
062進(すす)ます比女(ひめ)の身(み)をあやぶみぬ
063危(あや)ふかる旅(たび)の枕(まくら)を重(かさ)ねむと
064朝香(あさか)の比女(ひめ)は雄々(をを)しく出(い)でませり
065かくまでも其(そ)の心(こころ)ばせを立(た)て通(とほ)す
066朝香(あさか)の比女(ひめ)は面勝神(おもかつがみ)なり
067御樋代(みひしろ)神(がみ)われは司(つかさ)と任(ま)けられて
068詫(わ)びごと宣(の)らむ言(こと)の葉(は)も出(で)ず
069わが心(こころ)おろそかにして朝香(あさか)比女(ひめ)の
070こころを今(いま)まで悟(さと)らざりしよ
071悟(さと)らざりしわが過(あやま)ちを神直日(かむなほひ)
072大直日(おほなほひ)神(かみ)宣(の)り直(なほ)しませ』
073 鋭敏鳴出(うなりづ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
074『朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の雄々(をを)しき心(こころ)ばせを
075われは気付(きづ)かず眠(ねむ)らひにけり
076予(かね)てよりかくと定(さだ)めし朝香(あさか)比女(ひめ)の
077こころの駒(こま)は止(とど)め得(え)ざりき
078朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の神言(みこと)はまさしくや
079射向(いむか)ふ神(かみ)なり面勝神(おもかつがみ)なる
080果(は)てしなき荒野(あらの)を一人(ひとり)出(い)で立(た)たす
081雄々(をを)しき比女(ひめ)をまもらせたまへ
082曲津(まが)神(かみ)は姿(すがた)をいろいろ変(か)へにつつ
083比女(ひめ)の行方(ゆくへ)にさやらむとすも
084曲津見(まがつみ)の猛(たけ)びは如何(いか)に強(つよ)くとも
085喪(も)なく事(こと)なくすすませたまへ
086八百万(やほよろづ)神(かみ)ましませど朝香(あさか)比女(ひめ)の
087雄々(をを)しき心(こころ)は誰(た)も持(も)たなくに』
088 梅咲(うめさく)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
089『東南(とうなん)の荒野(あらの)は山(やま)も高(たか)くして
090初夏(はつなつ)ながら春(はる)の気(き)漂(ただよ)はむ
091白梅(しらうめ)の花(はな)はあちこちに匂(にほ)ひつつ
092比女神(ひめがみ)の旅(たび)を慰(なぐさ)むなるらむ
093白梅(しらうめ)の匂(にほ)へる山路(やまぢ)を踏(ふ)みわけて
094白毛(しろげ)の駒(こま)に鞭(むち)うたすらむ
095主(ス)の神(かみ)の厚(あつ)き恵(めぐ)みに朝香(あさか)比女(ひめ)の
096神(かみ)はやすやす進(すす)ませ給(たま)はむ
097言霊(ことたま)の幸(さち)はひたすくる天界(かみくに)に
098さやらむ曲津(まが)は必(かなら)ず亡(ほろ)びむ
099さりながら朝香(あさか)の比女(ひめ)の草枕(くさまくら)
100旅(たび)の苦(くる)しさわれにせまるも
101朝夕(あさゆふ)を神(かみ)の御前(みまへ)に祈(いの)らばや
102朝香(あさか)の比女(ひめ)に恙(つつが)なかれと
103四方(よも)八方(やも)に白梅(しらうめ)薫(かを)る春(はる)の野(の)を
104心(こころ)豊(ゆたか)に立(た)ち出(い)でますらむ』
105 香具(かぐ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
106『非時(ときじく)に香具(かぐ)の木(こ)の実(み)の香(かを)りたる
107紫微(しび)天界(てんかい)はにぎはしきかも
108桜花(さくらばな)散(ち)り敷(し)く庭(には)の夕(ゆふ)ぐれを
109朝香(あさか)の比女(ひめ)は一人(ひとり)立(た)たせる
110神々(かみがみ)の誠(まこと)をこめての言霊(ことたま)も
111聞(き)かさず立(た)ちし比女神(ひめがみ)天晴(あは)れ
112比女神(ひめがみ)の後姿(うしろで)見送(みおく)りてわれはただ
113故(ゆゑ)知(し)らぬ涙(なみだ)ほとばしりぬる
114今日(けふ)を限(かぎ)り長(なが)の別(わか)れにならむかと
115おもへば悲(かな)しくなみだぐまるも
116大野原(おほのはら)駒(こま)に鞭(むち)うち一人(ひとり)ゆかす
117雄々(をを)しき比女(ひめ)の心(こころ)いたまし
118背(せ)の岐美(きみ)をおもふあまりの旅立(たびだ)ちと
119おもへばわれも悲(かな)しくなりぬ
120神(かみ)思(おも)ひ岐美(きみ)を慕(した)ひて胸(むね)の火(ひ)の
121炎(ほのほ)消(け)さむと出(い)でませしはや
122燃(も)ゆる火(ひ)も溢(あふ)るる水(みづ)もいとひなく
123恋路(こひぢ)のためには命(いのち)惜(を)しまさず
124玉(たま)の緒(を)の命(いのち)捧(ささ)げし岐美(きみ)ゆゑに
125かくもありけむ朝香(あさか)比女神(ひめがみ)は
126よしやよし曲津見(まがつみ)のさやり繁(しげ)くとも
127つらぬき通(とほ)せ公(きみ)の真心(まごころ)を』
128 寿々子(すずこ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
129『朝香(あさか)比女(ひめ)道(みち)の隈手(くまで)も恙(つつが)なかれと
130こころ清(きよ)めて祈(いの)りけらしな
131駿馬(はやこま)に鞭(むち)をうたせて出(い)で立(た)ちし
132比女(ひめ)の姿(すがた)は雄々(をを)しかりける
133岐美(きみ)おもふ心(こころ)の征矢(そや)を通(とほ)さむと
134駒(こま)にまたがり駆(か)け出(い)で給(たま)ひぬ
135春(はる)さりて夏(なつ)来(きた)りける大野原(おほのはら)を
136進(すす)ます公(きみ)のすがた偲(しの)ばゆ
137昆虫(はふむし)の災(わざはひ)もなく高津(たかつ)神(かみ)の
138さまたげもなく進(すす)み給(たま)はれ
139一度(ひとたび)は止(とど)めまつれど如何(いか)にせむ
140かくなるうへはただに祈(いの)らむ
141比女神(ひめがみ)の進(すす)ます道(みち)は安(やす)くあれ
142高津鳥(たかつとり)等(ら)のわざはひもなく
143山(やま)を越(こ)え野(の)を越(こ)え溪川(たにがは)渡(わた)りつつ
144出(い)で行(ゆ)く公(きみ)の雄々(をを)しきろかも
145かくならば後(あと)に残(のこ)りしわれわれも
146比女神(ひめがみ)の旅(たび)を祈(いの)るのみなる』
147 宇都子(うづこ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
148『高地秀(たかちほ)の宮居(みや)の聖所(すがど)を後(あと)にして
149山河(やまかは)わたり比女神(ひめがみ)出(い)でましぬ
150数千(すせん)里(り)の旅(たび)の枕(まくら)をかさねつつ
151一人(ひとり)出(い)でます比女神(ひめがみ)天晴(あは)れ
152百神(ももがみ)の神言(みこと)の止(とど)めも聞(き)かずして
153雄々(をを)しも比女(ひめ)は出(い)でましにける』
154 狭別(さわけ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
155『幾十(いくじふ)日(にち)筑紫(つくし)の宮居(みや)の旅(たび)をへて
156間(ま)もなく比女神(ひめがみ)又(また)旅(たび)に立(た)てり
157気魂(からたま)も神魂(みたま)も強(つよ)き比女神(ひめがみ)の
158こころの駒(こま)を止(と)むる術(すべ)なし
159幾千(いくせん)里(り)荒野(あらの)をわたり旅立(たびだ)たす
160朝香(あさか)の比女(ひめ)は雄々(をを)しき神(かみ)なり
161徒(いたづら)に月日(つきひ)送(おく)らむ苦(くる)しさに
162朝香(あさか)の比女(ひめ)は立(た)ち出(い)でにけむ
163主(ス)の神(かみ)の御許(みゆる)しもなくただ一人(ひとり)
164立(た)たせる朝香(あさか)比女(ひめ)の神(かみ)はも
165朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の神言(みこと)のとりしわざは
166かへりて神(かみ)に叶(かな)ふなるらむ
167主(ス)の神(かみ)の御旨(みむね)に叶(かな)はぬわざなれば
168朝香(あさか)の比女(ひめ)の駒(こま)は走(はし)らじ
169黄昏(たそがれ)の闇(やみ)を駆(か)け出(だ)しし雄々(をを)しかる
170すがたに神旨(みむね)をわれはうたがふ
171村肝(むらきも)の心(こころ)照(て)らして言霊(ことたま)の
172水火(いき)清(きよ)まらばすべてはならむも
173朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)はかならず顕津男(あきつを)の
174神(かみ)と御水火(みいき)を合(あ)はせますらむ
175西方(にしかた)の国土(くに)稚(わか)ければ御樋代(みひしろ)の
176神(かみ)まさぬ世(よ)を悟(さと)らしにけむ
177西方(にしかた)の国土(くに)の御樋代(みひしろ)神(がみ)となり
178国魂神(くにたまがみ)を生(う)ます旅(たび)かも
179西方(にしかた)の国土(くに)は黒雲(くろくも)立(た)ちこめて
180大曲津見(おほまがつみ)の棲(す)めるとぞ聞(き)く
181曲津見(まがつみ)のほしいままなる振舞(ふるまひ)を
182たださむとして出(い)でましにけむ
183朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)は面勝神(おもかつがみ)なれば
184大曲津見(おほまがつみ)もただになびかむ
185かくの如(ごと)雄々(をを)しき神(かみ)はあらざりき
186御樋代(みひしろ)神(がみ)は数多(あまた)ませども』
187 花子(はなこ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
188『高地秀(たかちほ)の峰(みね)の桜(さくら)は早(は)や散(ち)りて
189青葉(あをば)の園(その)となりにけらしな
190野(の)に山(やま)に若葉(わかば)若草(わかぐさ)萌(も)え立(た)ちて
191夏(なつ)の御空(みそら)は来(き)むかひにけり
192青葉(あをば)萌(も)ゆる山河(やまかは)渡(わた)り駒(こま)の背(せ)に
193乗(の)りて出(い)でます朝香(あさか)比女(ひめ)はも
194朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)はかならず曲津見(まがつみ)の
195猛(たけ)びにくるしみ給(たま)ふなるらむ
196朝香(あさか)比女(ひめ)旅(たび)の悩(なや)みをおもひつつ
197腮辺(しへん)につたふわがなみだかな
198西方(にしかた)の国土(くに)は黒雲(くろくも)立(た)ちこめて
199スウヤトゴルの曲津(まが)は火(ひ)を吐(は)く
200非時(ときじく)に黒雲(くろくも)むらむら立(た)ち上(のぼ)り
201御空(みそら)をつつむ西方(にしかた)小暗(をぐら)き
202月(つき)も日(ひ)も星(ほし)もかげなき西方(にしかた)の
203国土(くに)造(つく)るべく出(い)でましにけむ
204朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の雄々(をを)しき心(こころ)ばせを
205われは朝夕(あさゆふ)悟(さと)り居(ゐ)しはや
206かくの如(ごと)思(おも)ひきりたる草枕(くさまくら)
207旅(たび)にたたすをうべよと思(おも)へり
208今(いま)とならば止(とど)めむよしもなきままに
209恙(つつが)なかれと祈(いの)るのみなる
210朝香(あさか)比女(ひめ)功(いさを)を太(ふと)しく建(た)てまさば
211御樋代(みひしろ)神(がみ)のほまれなるかも
212八柱(やはしら)の御樋代(みひしろ)比女神(ひめがみ)の中(なか)にして
213雄々(をを)しき神(かみ)の出(い)でますは嬉(うれ)し』
214 小夜子(さよこ)比女(ひめ)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
215『丹牡丹(にぼたん)の花(はな)はくづれて庭池(にはいけ)の
216菖蒲(あやめ)の紫(むらさき)匂(にほ)ひ初(そ)めたり
217大庭(おほには)の瀬見(せみ)の小川(をがは)にかげうつす
218菖蒲(あやめ)の花(はな)のつやつやしかも
219菖蒲(あやめ)咲(さ)くころの聖所(すがど)を後(あと)にして
220朝香(あさか)の比女(ひめ)は旅立(たびだ)たしける
221朝香(あさか)比女(ひめ)は燃(も)ゆる心(こころ)の苦(くる)しさに
222菖蒲(あやめ)も目(め)にはうつらざりけむ
223庭(には)の面(も)に咲(さ)ける菖蒲(あやめ)や燕子花(かきつばた)
224何(いづ)れをそれと別(わか)ち兼(か)ねつつ
225朝香(あさか)比女(ひめ)の今日(けふ)の旅立(たびだ)ちよしあしの
226あやめもわかずわれは黙(もだ)さむ
227何事(なにごと)も主(ス)の大神(おほかみ)の御心(みこころ)に
228任(まか)すは真(まこと)のつとめなるらむ
229如何(いか)ならむ太(ふと)しき功(いさを)たつるとも
230御神(みかみ)の御許(みゆる)しなきは仇(あだ)なり
231主(ス)の神(かみ)の生言霊(いくことたま)に依(よ)らずして
232われは進(すす)まむ雄心(をごころ)起(おこ)らず
233徒(いたづら)に長(なが)き月日(つきひ)を送(おく)りしと
234思(おも)ふは心(こころ)のひがみなりしよ
235朝夕(あさゆふ)に神(かみ)に仕(つか)へて祝詞(のりと)宣(の)るは
236御樋代(みひしろ)神(がみ)のつとめなりける
237地(つち)稚(わか)きこの天界(かみくに)を固(かた)めむと
238御樋代(みひしろ)神(がみ)を生(う)ましし神(かみ)はや
239御子生(みこう)みの神業(わざ)はさておき言霊(ことたま)の
240御樋代(みひしろ)として生(あ)れ出(い)でしならむ
241かくならば朝(あさ)な夕(ゆふ)なに世(よ)の為(ため)に
242御樋代(みひしろ)神(がみ)は言霊(ことたま)宣(の)らばや
243一日(ひとひ)だも生言霊(いくことたま)をおこたらば
244乱(みだ)るる世(よ)なりと悟(さと)らひにけり』
245 天津(あまつ)女雄(めを)の神(かみ)は御歌(みうた)詠(よ)ませ給(たま)ふ。
246『御樋代(みひしろ)の比女神(ひめがみ)等(たち)に従(したが)ひて
247珍(めづら)しき事(こと)を見聞(みき)きするかも
248真心(まごころ)を筑紫(つくし)の宮居(みやゐ)あとにして
249高地秀(たかちほ)の宮居(みや)に仕(つか)へつるかも
250朝香(あさか)比女(ひめ)神(かみ)の旅立(たびだ)ち送(おく)りつつ
251雄々(をを)しき姿(すがた)に見(み)とれけるかな
252かくの如(ごと)雄々(をを)しき神(かみ)にいますとは
253愚(おろ)かしきわれは悟(さと)らざりしよ
254この上(うへ)は朝(あさ)な夕(ゆふ)なを大宮居(おほみや)に
255祈(いの)りて比女(ひめ)の幸(さち)を守(まも)らむ
256西方(にしかた)の国魂神(くにたまがみ)を生(う)ますべく
257雄々(をを)しく一人(ひとり)出(い)でましにけむ
258今(いま)となりて悔(くや)むも詮(せん)なし真心(まごころ)を
259持(も)ちて祈(いの)らむ神(かみ)の御前(みまへ)に』
260 かくの如(ごと)く、261神々(かみがみ)は大宮居(おほみや)の前(まへ)に比女神(ひめがみ)の無事(ぶじ)を祈(いの)りつつ各自(おのもおのも)述懐歌(じゆつくわいか)をうたひて、262静(しづ)かに定(さだ)めの居間(ゐま)に就(つ)かせ給(たま)ひける。
263(昭和八・一二・六 旧一〇・一九 於水明閣 林弥生謹録)
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