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思(おも)ひ出(で)の一二(いちに)

インフォメーション
鏡：水鏡 題名：思ひ出の一二 よみ： 著者：出口王仁三郎
神の国掲載号：1927（昭和2）年10月号 八幡書店版：302頁 愛善世界社版：54頁 著作集： 第五版：116頁 第三版：116頁 全集：395頁 初版：106頁
概要： 備考： タグ： データ凡例： データ最終更新日： OBC ：kg095
001　私(わたし)が初(はじ)めて綾部(あやべ)にいつた時(とき)に持(も)つて行(い)つたものは、002手帳(てちやう)一冊(いつさつ)、003鎮魂(ちんこん)の玉(たま)一個(いつこ)、004天然笛(てんねんぶえ)一個(いつこ)、005会員(くわいゐん)名簿(めいぼ)一冊(いつさつ)、006唯(ただ)それだけであつた。007それを小(ちい)さな鞄(かばん)に入(い)れて持(も)つていつた。008着(つ)いた綾部(あやべ)の教祖様(けうそさま)の御住宅(ごぢうたく)は六畳(ろくでふ)一間(ひとま)の土蔵(どざう)で、009教祖様(けうそさま)のお膳(ぜん)が唯(ただ)一個(いつこ)あつたばかり、010私(わたし)が行(い)つたら忽(たちま)ち私(わたし)のお膳(ぜん)や茶碗(ちやわん)を買(か)ふと云(い)ふ始末(しまつ)で他(た)に何(なに)もなかつた。011三十年(さんじふねん)の歳月(さいげつ)が流(なが)れて、012綾部(あやべ)にもあれだけの建物(たてもの)が立(た)ち、013道具(だうぐ)も揃(そろ)ひ、014亀岡(かめをか)にもこれだけの建造物(けんざうぶつ)が出来(でき)た。015顧(かへり)みて多少(たせう)の感慨(かんがい)無(な)き能(あた)はぬ次第(しだい)である。016私(わたし)は生母(せいぼ)よりも教祖様(けうそさま)の方(はう)がずつと心(こころ)やすかつた。017又(また)教祖様(けうそさま)も自分(じぶん)の子供(こども)の誰(たれ)よりも一番(いちばん)私(わたし)が可愛(かあい)かつたのである。018当時(たうじ)長男(ちやうなん)の竹造(たけざう)さんが、019嗾(そその)かされて、020「私(わたし)が家(いへ)の後取(あとと)りである」と云(い)ふて呶鳴(どな)り込(こ)んで来(き)た事(こと)があるが、021私(わたし)は竹造(たけざう)さんを転(ころ)がしてやつた。022教祖様(けうそさま)は見(み)て居(を)られたが、023よく叱(しか)つておやりなさい、024も些(すこ)し懲(こら)してやれと、025私(わたし)の肩(かた)をもつて、026自分(じぶん)の子(こ)をたしなめられた。027私(わたし)に対(たい)して怒(おこ)られるやうな事(こと)は一寸(ちよつと)もなかつた。028私(わたし)も教祖様(けうそさま)を大切(たいせつ)にした。029月(つき)のよい夜(よる)などはよく教祖様(けうそさま)を背負(せお)つて神苑内(しんゑんない)を散歩(さんぽ)してあげた。030小供(こども)のやうに喜(よろこ)んで、031背(せな)の上(うへ)から、032あれは何(なん)と云(い)ふ木(き)か、033石(いし)かなど聞(き)いて居(を)られた。034私(わたし)が居(ゐ)ないと淋(さび)しがつて「先生(せんせい)はどこに行(ゆ)かれたか、035早(はや)くお帰(かへ)りになるとよい」と云(い)はれて、036私(わたし)が家(うち)に居(ゐ)さへしたら御機嫌(ごきげん)がよかつた。037神懸(かむがか)りになると喧嘩(けんくわ)をしたが、038それは神様(かみさま)同士(どうし)の争(あらそ)ひであつて、039肉体(にくたい)ではお互(たがひ)に何(なん)ともないのだから「先生(せんせい)叶(かな)ひませんなあ」と云(い)ふて歎(なげ)かれた事(こと)も度々(たびたび)あつた。040思(おも)へば長(なが)い昔(むかし)の事(こと)であるが、041昨今(さくこん)の如(ごと)く懐(なつか)しい事(こと)である。
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