霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二三章 盲動(まうどう)〔一三五九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻 篇:第5篇 洗判無料 よみ(新仮名遣い):せんばんむりょう
章:第23章 盲動 よみ(新仮名遣い):もうどう 通し章番号:1359
口述日:1923(大正12)年02月10日(旧12月25日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年1月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
文助は、秋の時雨の季節を現した八衢の関所で、路傍の石に腰かけて門を通る数多の精霊の審判を聞いていた。
高姫は妖幻坊にさらわれて空中をかけり、途中で取り離されて空中から転落し、デカタン高原のある地点の砂原に気絶していた。その間に精霊が八衢にやってきた。高姫はあたりかまわず日の出神の生き宮を振り回し、自分は時置師神・杢助の妻だと威張り散らしている。
八衢の守衛は杢助は斎苑の館でずっと総務を取っていると高姫をたしなめるが、高姫はまったく聞かず、守衛たちを嘲弄する。文助は高姫に声をかけ、幽冥界の役人に乱暴な言葉を使わないように注意するが、高姫の態度は変わらない。
そこへ、伊吹戸主神様に御用がある本物の杢助が天の一方からやってきた。高姫は杢助に一緒に帰ろうと声をかけるが、本物の杢助は、高姫が妖幻坊という妖怪にだまされていること、自分は高姫と祠の森で会っていないし曲輪城も知らない、と事実を説いて聞かせた。
高姫は杢助の話を信じず、門内に入ろうとする杢助にすがって泣き喚いた。杢助は高姫をポンとけって街道に転げさせ、文助を招いて門内に入って行った。
高姫は八衢の街道に転がりながら、自分は常世姫の再来、高宮姫だと大音声に呼ばわっている。この声をききつけて、八衢に来る精霊が集まってきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-12-20 17:40:45 文字数:4895 OBC :rm5223
愛善世界社版:269頁 八幡書店版:第9輯 476頁 修補版: 校定版:277頁 普及版:120頁 初版: ページ備考:
001 一(ひと)しきり雨(あめ)が降(ふ)るかと思(おも)へば、002又(また)一(ひと)しきり晴(は)れわたる秋(あき)の時雨(しぐれ)の季節(きせつ)を現(あら)はした八衢(やちまた)の関所(せきしよ)に、003文助(ぶんすけ)はロハ台(だい)に腰(こし)打(う)ちかけて、004此(この)関門(くわんもん)を通(とほ)る数多(あまた)の精霊(せいれい)の審判(しんぱん)を、005胸(むね)を轟(とどろ)かせながら聞(き)いてゐた。006そこへやつて来(き)たのは、007顔(かほ)に白粉(おしろい)をベツタリとつけた、008高慢(かうまん)さうな面付(つらつき)をした婆(ばば)アである。009文助(ぶんすけ)は不思議(ふしぎ)な奴(やつ)が出(で)て来(き)たものだなア、010さぞ彼奴(あいつ)の審判(しんぱん)は面白(おもしろ)いだらうと、011稍(やや)興味(きようみ)を以(もつ)て待(ま)つてゐた。012これは肉体(にくたい)のある精霊(せいれい)とみえて、013稍(やや)俯(うつむ)いてヒヨロリ ヒヨロリとやつて来(く)る。014関所(せきしよ)の門(もん)にトンと突(つ)き当(あた)り、015額(ひたひ)を打(う)ち、
016婆(高姫)『アイタタ、017こんな所(ところ)に、018断(ことわ)りもなく赤門(あかもん)を拵(こしら)へ、019通行人(つうかうにん)の頭(あたま)を打(う)たすとは以(もつ)ての外(ほか)だ。020日(ひ)の出神(でのかみ)の義理(ぎり)天上(てんじやう)さまがお通(とほ)り遊(あそ)ばすのに、021何(なん)と云(い)ふ不都合(ふつがふ)だ……ヤアお前(まへ)はここの門番(もんばん)と見(み)えるが、022なぜ職務(しよくむ)を大事(だいじ)に致(いた)さぬのかい。023こんな怠惰(たいだ)な事(こと)をして居(ゐ)ると、024日(ひ)の出神(でのかみ)が承知(しようち)致(いた)しませぬぞや』
025とエライ権幕(けんまく)である。026文助(ぶんすけ)は日(ひ)の出神(でのかみ)といふ声(こゑ)を聞(き)いて、027よくよく透(すか)しみれば高姫(たかひめ)であつた。028高姫(たかひめ)は妖幻坊(えうげんばう)にかつ攫(さら)はれ、029空中(くうちう)を翔(かけ)り行(ゆ)く途中(とちう)に於(おい)て、030デカタン高原(かうげん)の或(ある)地点(ちてん)で妖幻坊(えうげんばう)に取放(とりはな)され、031空中(くうちう)より砂(すな)つ原(ぱら)に顛落(てんらく)して気絶(きぜつ)してゐた。032其(その)間(あひだ)に精霊(せいれい)が此処(ここ)へ迷(まよ)うて来(き)たのである。033されど高姫(たかひめ)は自分(じぶん)が正気(しやうき)を失(うしな)つた事(こと)も、034霊界(れいかい)へ来(き)てゐることも少(すこ)しも気(き)がつかず、035依然(いぜん)として現界(げんかい)を歩(ある)いてゐるやうな心持(こころもち)であつた。036赤色(あかいろ)の守衛(しゆゑい)は大喝(たいかつ)一声(いつせい)、
037赤の守衛『高姫(たかひめ)、038暫(しばら)く待(ま)て、039取調(とりしら)べることがある』
040と呶鳴(どな)りつけた。
041高姫『ヘン門番(もんばん)の分際(ぶんざい)として、042義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)を取調(とりしら)べるとは片腹痛(かたはらいた)いワ。043それよりも此方(こちら)から取調(とりしら)べにやならぬ事(こと)がある。044三五教(あななひけう)の三羽烏(さんばがらす)の一(いち)人(にん)、045時置師(ときおかし)の神(かみ)様(さま)を何処(どこ)へ隠(かく)したか。046サ、047キツパリと白状(はくじやう)しなさい。048グヅグヅ致(いた)すと、049天(あめ)の八衢(やちまた)はまだおろか、050地獄(ぢごく)の釜(かま)のドン底(ぞこ)へ堕(おと)しますぞや』
051赤の守衛『其(その)方(はう)はデカタン高原(かうげん)に於(おい)て、052妖幻坊(えうげんばう)といふ悪魔(あくま)のために空中(くうちう)から取落(とりおと)され、053気絶(きぜつ)を致(いた)して此処(ここ)へやつて来(き)た亡者(まうじや)であるぞ。054最早(もはや)此処(ここ)へ来(く)れば冥土(めいど)の規則(きそく)に従(したが)はねばならぬ。055これから其(その)方(はう)の罪状(ざいじやう)を調(しら)べるに依(よ)つて、056包(つつ)まず隠(かく)さず申開(まをしひら)きを致(いた)したがよからうぞ』
057高姫『オホホホホ、058あのマア鹿爪(しかつめ)らしい顔(かほ)わいの、059一石(いつこく)の米(こめ)が百(ひやく)両(りやう)するやうな、060其(その)しやつ面(つら)は何(なん)だい、061お前(まへ)も余程(よほど)此(この)頃(ごろ)は生活難(せいくわつなん)に襲(おそ)はれて、062会計(くわいけい)が辛(つら)いと見(み)える。063日(ひ)の出神(でのかみ)の義理(ぎり)天上(てんじやう)さまに従(したが)うて来(く)れば、064此(この)世(よ)の中(なか)に不景気(ふけいき)もなければ心配(しんぱい)もいりませぬ。065三千(さんぜん)世界(せかい)の救(すく)ひ主(ぬし)、066日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)高姫(たかひめ)さまで厶(ござ)るぞや。067さてもさても、068世(よ)の中(なか)に可哀相(かあいさう)な人民(じんみん)が沢山(たくさん)あるものだなア。069これだから一時(いつとき)も早(はや)く現界(げんかい)、070幽界(いうかい)、071神界(しんかい)の立直(たてなほ)しを致(いた)さねば、072五六七(みろく)神政(しんせい)成就(じやうじゆ)は致(いた)さぬと仰有(おつしや)るのだ。073あああ、074世界中(せかいぢう)の人民(じんみん)を助(たす)けねばならぬ日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)も、075此(この)高姫(たかひめ)の肉宮(にくみや)も、076並大抵(なみたいてい)ぢやありませぬワイな、077ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
078 赤(あか)の守衛(しゆゑい)は、079余(あま)りきつい高姫(たかひめ)の脱線振(だつせんぶり)に、080取調(とりしら)べる訳(わけ)にも行(ゆ)かず、081又(また)生死簿(せいしぼ)には死(し)んでゐない、082近(ちか)き中(うち)に現界(げんかい)へ帰(かへ)る奴(やつ)だから、083本真剣(ほんしんけん)に調(しら)べる訳(わけ)にも行(ゆ)かず、084いい加減(かげん)にあしらつて追(お)ひ帰(かへ)さむものと思(おも)ひながら、
085赤の守衛『オイ、086高姫(たかひめ)、087お前(まへ)はここを何(なん)と心得(こころえ)てるか』
088高姫『ヘン、089釈迦(しやか)に経(きやう)を説(と)くやうな事(こと)を云(い)ふものぢやありませぬぞや。090馬鹿(ばか)にするにも程(ほど)がある。091此処(ここ)は大門(おほもん)神社(じんしや)の一(いち)里(り)許(ばか)り手前(てまへ)ぢやないか。092お前(まへ)達(たち)は素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の厄雑神(やくざがみ)の眷属(けんぞく)だらう。093こんな所(ところ)にしやちこ張(ば)つて居(を)るよりも、094此(この)義理(ぎり)天上(てんじやう)の肉宮(にくみや)の教(をしへ)を聞(き)いて、095一度(いちど)大門開(おほもんびら)きの御用(ごよう)に立(た)つたら何(ど)うだ。096結構(けつこう)な事(こと)を聞(き)かしてやるぞや』
097 文助(ぶんすけ)は高姫(たかひめ)の袖(そで)を引(ひ)いて、
098文助『モシモシ高姫(たかひめ)さま、099珍(めづら)しい所(ところ)でお目(め)にかかりました。100私(わたし)は三五教(あななひけう)の文助(ぶんすけ)で厶(ござ)いますよ』
101高姫『ヤア、102最前(さいぜん)から怪体(けつたい)な男(をとこ)が居(ゐ)ると思(おも)うたら文助(ぶんすけ)だな。103ても扨(さ)ても淋(さび)しさうな面(つら)をして、104こんな所(ところ)に何(なに)をしてゐるのだい。105サ、106文助(ぶんすけ)どん、107高姫(たかひめ)に跟(つ)いて厶(ござ)れ。108ウラナイ教(けう)の誠生粋(まこときつすゐ)を聞(き)かして上(あ)げよう。109こんな赤面(あかづら)や青瓢箪(あをべうたん)面(づら)が、110何(なに)を知(し)つてゐるものか。111世(よ)の元(もと)の根本(こつぽん)の根本(こつぽん)の元(もと)を掴(つか)んだ、112此(この)高姫(たかひめ)ぢやぞえ。113途中(とちう)から湧(わ)いた神(かみ)や、114学(がく)で知恵(ちゑ)の出来(でき)た鼻高(はなだか)が、115何(ど)うして誠(まこと)の事(こと)が分(わか)るものか。116……聞(き)きたくば訪(たづ)ねて厶(ござ)れ。117神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて、118義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)、119高宮姫(たかみやひめの)命(みこと)となつて、120世界(せかい)の事(こと)を何(なに)もかも説(と)いて聞(き)かすぞや。121……こんな門番(もんばん)を致(いた)して居(を)るやうな、122途中(とちう)の鼻高(はなだか)に、123ヘン、124神界(しんかい)の誠(まこと)が分(わか)つてたまりますかい。125サアサア文助(ぶんすけ)どん、126私(わたし)に跟(つ)いて厶(ござ)れ』
127赤(あか)『高姫(たかひめ)、128まだ其(その)方(はう)がここへ来(く)るのはチツと早(はや)い。129これから現界(げんかい)へ帰(かへ)り、130充分(じうぶん)に狂態振(きやうたいぶ)りを発揮(はつき)し、131手(て)も足(あし)も出(で)なくなつてから始(はじ)めて気(き)がつくだらう。132さうすれば三五教(あななひけう)の尊(たふと)い事(こと)や、133素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)の御心(みこころ)が分(わか)るであらう。134事務(じむ)の妨(さまた)げとなるから、135トツトと此処(ここ)を立(た)ち去(さ)れ』
136高姫『ヘン、137赤(あか)さまは、138私(わし)が居(を)ると都合(つがふ)が悪(わる)いでせう。139ハハア、140ここは案(あん)に違(たが)はず、141ヤツパリ三五教(あななひけう)の門口(もんぐち)だな。142時置師(ときおかし)の神(かみ)様(さま)を、143うまく引張(ひつぱ)り込(こ)みやがつたに違(ちがひ)ない。144挺(てこ)でも棒(ぼう)でも動(うご)きは致(いた)さぬぞや。145ササ早(はや)く時置師(ときおかし)の神(かみ)様(さま)を、146此処(ここ)へ出(だ)して下(くだ)され』
147赤の守衛『時置師(ときおかし)の神(かみ)様(さま)は、148斎苑(いそ)の館(やかた)の総務(そうむ)をして厶(ござ)るのだ。149まだ現界(げんかい)にゐらつしやるから、150此処(ここ)へお越(こ)しになる筈(はず)がない。151さてもさても分(わか)らぬ代物(しろもの)だなア』
152高姫『ヘン、153うまい事(こと)仰有(おつしや)いますワイ、154ホホホホホ、155流石(さすが)は変性(へんじやう)女子(によし)の悪(あく)の教(をしへ)を腹(はら)へ締(し)め込(こ)みて居(を)るとみえて、156上手(じやうず)に嘘(うそ)をつきますな。157そんな事(こと)にチヨロまかされるやうな義理(ぎり)天上(てんじやう)ぢや厶(ござ)りませぬワイな、158赤(あか)さま』
159と目(め)を細(ほそ)うして頤(あご)をしやくつて嘲弄(てうろう)する。
160文助(ぶんすけ)『モシ高姫(たかひめ)さま、161此処(ここ)は冥土(めいど)の八衢(やちまた)の関所(せきしよ)ですよ。162決(けつ)して現界(げんかい)ぢやありませぬから、163そんな事(こと)を言(い)ふものぢやありませぬ。164ササ、165トツトと帰(かへ)りなさい。166そして三五教(あななひけう)にお詫(わび)をして誠(まこと)の魂(たましひ)に立帰(たちかへ)り、167改(あらた)めて天国(てんごく)に昇(のぼ)れるやうに御(お)願(ねが)ひなさりませ』
168高姫『ようマア、169文助(ぶんすけ)どん、170しらばくれますね。171お前(まへ)も余程(よほど)変性(へんじやう)女子(によし)の霊(みたま)が憑(うつ)つたとみえますワイ。172嘘(うそ)は一(ひと)つも言(い)はれぬお道(みち)ですよ。173嘘(うそ)で固(かた)めた三五(あななひ)の道(みち)、174オホホホホ、175高姫(たかひめ)誠(まこと)に感心(かんしん)致(いた)しました。176お前(まへ)は目(め)が悪(わる)いから、177夢(ゆめ)でも見(み)て居(ゐ)るのだらう。178チツと確(しつか)りしなさらぬかいな』
179と横面(よこづら)をピシヤピシヤと撲(なぐ)りつけた。180文助(ぶんすけ)は少(すこ)しばかりムツとして、
181文助『コリヤ高姫(たかひめ)、182これだけ事(こと)を分(わ)けて知(し)らしてやるのに、183まだお前(まへ)は分(わか)らぬのか。184なぜお役人(やくにん)さまの言葉(ことば)を守(まも)つて帰(かへ)りなさらぬのだ。185皺(しわ)だらけの面(つら)に白(しろ)い物(もの)を塗(ぬ)つて、186何(なん)だ。187まるきり気違(きちが)ひの所作(しよさ)ぢやないか』
188高姫『ヘン、189お構(かま)ひ御(ご)無用(むよう)。190これでも、191トさまが可(い)いと仰有(おつしや)るのだから、192別(べつ)にお前(まへ)の様(やう)な盲(めくら)共(ども)に見(み)て貰(もら)はなくても宜(よろ)しい。193サ、194之(これ)から奥(おく)へ踏(ふ)み込(こ)んで、195トさまにお目(め)にかかり、196厭(いや)でも応(おう)でもウラナイ教(けう)へ連(つ)れて帰(かへ)らなおきませぬぞや。197かう見(み)えても、198此(この)高姫(たかひめ)は今(いま)迄(まで)とは違(ちが)ひますぞや。199曲輪城(まがわじやう)の城主(じやうしゆ)高宮彦(たかみやひこ)の妻(つま)、200高宮姫(たかみやひめ)とは日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の事(こと)だ。201そんな事(こと)を言(い)はずに、202一遍(いつぺん)浮木(うきき)の森(もり)の曲輪城(まがわじやう)まで私(わたし)に従(つ)いて来(き)てみなさい。203いかなお前(まへ)でも、204あの御殿(ごてん)を見(み)たら吃驚(びつくり)致(いた)すぞえ。205神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の曲輪(まがわ)の法(はふ)によつて、206中天(ちうてん)高(たか)く飛行(ひかう)の術(じゆつ)を習(なら)ひ覚(おぼ)えた此(この)高姫(たかひめ)、207最早(もはや)天下(てんか)に恐(おそ)るる者(もの)はチツともありませぬ。208どうか其(その)積(つも)りで交際(つきあ)つて下(くだ)さいや』
209と高姫(たかひめ)は浮木(うきき)の森(もり)の妖怪(えうくわい)のばれた事(こと)はまだ気(き)がついて居(を)らぬらしい。210斯(か)かる処(ところ)へ大(おほ)きな獅子(しし)に乗(の)つて驀地(まつしぐら)に天(てん)の一方(いつぱう)から降(くだ)つて来(き)たのは、211まがふ方(かた)なき杢助(もくすけ)であつた。
212 高姫(たかひめ)は此(この)姿(すがた)を見(み)て大(おほい)に喜(よろこ)び、
213高姫『ホホホホホ、214お手柄(てがら)お手柄(てがら)、215杢助(もくすけ)さま、216お前(まへ)は何(ど)うしてマア、217それ程(ほど)偉(えら)いお方(かた)になつたのだ。218これほど猛悪(まうあく)な唐獅子(からじし)を自由(じいう)自在(じざい)に使(つか)ふとは、219ヤツパリ私(わたし)の夫(をつと)だな。220コレ文助(ぶんすけ)どん、221アレ御覧(ごらん)、222曲輪(まがわ)の法力(ほふりき)によつて、223あんな離(はな)れ業(わざ)が出来(でき)るのだもの、224ウラナイ教(けう)は偉(えら)いものでせう。225三五教(あななひけう)の奴(やつ)に一人(ひとり)だつて、226こんな事(こと)が出来(でき)ますか。227初稚姫(はつわかひめ)や治国別(はるくにわけ)、228言依別(ことよりわけ)や東助(とうすけ)に、229杢助(もくすけ)さまの、230天晴(あつぱれ)武者振(むしやぶり)を見(み)せてやりたいものだなア。231エヘヘヘヘ、232南無(なむ)杢助(もくすけ)大明神(だいみやうじん)様(さま)』
233と手(て)を合(あ)はして拝(をが)む可笑(をか)しさ。234杢助(もくすけ)は獅子(しし)の背(せな)からヒラリと飛(と)びおり、235高姫(たかひめ)には目(め)もくれず、236赤(あか)の守衛(しゆゑい)に向(むか)ひ、
237杢助『御(お)役目(やくめ)御(ご)苦労(くらう)です。238一寸(ちよつと)伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)様(さま)にお目(め)にかかりたいと、239三五教(あななひけう)の杢助(もくすけ)が申(まを)し入(い)れたと伝(つた)へて下(くだ)さい』
240 赤(あか)の守衛(しゆゑい)は幾度(いくたび)も腰(こし)を屈(かが)め、241敬礼(けいれい)を表(へう)しながら走早(あしばや)に門内(もんない)に入(い)る。242高姫(たかひめ)は杢助(もくすけ)の言葉(ことば)に少(すこ)し合点(がてん)の行(ゆ)かぬ節(ふし)があるとは思(おも)へども、243ワザとあんな事(こと)を言(い)つて居(ゐ)るのであらう、244杢助(もくすけ)さまは洒落(しやれ)が上手(じやうず)だから……と心(こころ)の中(うち)にきめて了(しま)ひ、
245高姫『コレ杢助(もくすけ)さま、246ええ加減(かげん)に洒落(しやれ)ておきなさい。247斎苑(いそ)の館(やかた)の東助(とうすけ)に放(ほ)り出(だ)され、248アタ汚(けが)らはしい、249三五教(あななひけう)の杢助(もくすけ)なんて、250言(い)ふものぢや厶(ござ)りませぬぞや。251サア、252一緒(いつしよ)に帰(かへ)りませう』
253杢助『高姫(たかひめ)殿(どの)、254お前(まへ)さまは妖幻坊(えうげんばう)にチヨロまかされ、255其(その)悪魔(あくま)を杢助(もくすけ)だと思(おも)ひ詰(つ)め、256随分(ずいぶん)狂態(きやうたい)を演(えん)じてるやうだが、257此(この)杢助(もくすけ)にはお前(まへ)さまに会(あ)つて、258ウラナイ教(けう)の話(はなし)をした事(こと)もなし、259又(また)祠(ほこら)の森(もり)で面会(めんくわい)した事(こと)もない。260まして曲輪城(まがわじやう)などには足踏(あしぶ)みも致(いた)して居(を)らぬから、261よく胸(むね)に手(て)をおいて、262真偽(しんぎ)の判別(はんべつ)を願(ねが)ひたいものだ』
263高姫『ホホホホホ、264白々(しらじら)しい、265杢(もく)さまの言(い)ひ様(やう)、266人(ひと)の前(まへ)だと思(おも)つて、267そんな体裁(ていさい)を作(つく)るものぢやありませぬぞや。268コレ高宮彦(たかみやひこ)さま、269そんな六ケ(むつか)しい顔(かほ)せずに、270ササ早(はや)く曲輪城(まがわじやう)へ帰(かへ)りませう。271コレ文助(ぶんすけ)どん、272何(ど)うだえ、273高姫(たかひめ)の三国一(さんごくいち)の婿(むこ)といふのは、274此(この)杢助(もくすけ)さまだぞえ。275三羽烏(さんばがらす)の一(いち)人(にん)と聞(きこ)えたる時置師(ときおかしの)神(かみ)様(さま)、276今(いま)はウラナイ教(けう)の大教主(だいけうしゆ)、277曲輪城(まがわじやう)の城主(じやうしゆ)様(さま)だ。278サ、279私(わし)に従(つ)いて厶(ござ)れ。280昔(むかし)の厚誼(よしみ)で、281キツと立派(りつぱ)な役(やく)にして上(あ)げよう。282小北山(こぎたやま)の受付(うけつけ)位(くらゐ)して居(を)つてもはづみませぬぞや』
283文助(ぶんすけ)『あああ、284困(こま)つた人(ひと)だな、285盲(めくら)と気違(きちがひ)と馬鹿(ばか)位(ぐらゐ)始末(しまつ)に了(を)へぬものはないワ。286私(わたし)も、287モツと高姫(たかひめ)さまは偉(えら)い人(ひと)だと思(おも)うて居(を)つたに……現在(げんざい)八衢(やちまた)へ来(き)てゐながら、288執着心(しふちやくしん)が深(ふか)い為(ため)、289ヤツパリ娑婆(しやば)だと思(おも)うてるらしい。290ああ気(き)の毒(どく)なものだなア』
291と呟(つぶや)く。292高姫(たかひめ)は耳敏(みみざと)く之(これ)を聞(き)き取(と)つて、
293高姫『ヘン、294気違(きちがひ)だの、295馬鹿(ばか)だのとよう仰有(おつしや)いますワイ。296オホホホホ、297日(ひ)の出神(でのかみ)の心(こころ)の鏡(かがみ)にお前(まへ)の迷妄(めいまう)暗愚(あんぐ)な魂(みたま)が写(うつ)つたのだよ。298……人(ひと)の事(こと)だと思(おも)うてゐると皆(みな)吾(わが)事(こと)であるぞよ。299今(いま)の人民(じんみん)は皆(みな)盲(めくら)聾(つんぼ)ばかりであるぞよ。300日(ひ)の出神(でのかみ)が現(あら)はれて、301夜(よる)の守護(しゆご)の世(よ)の中(なか)を日(ひ)の出(で)の守護(しゆご)に致(いた)し、302五六七(みろく)の世(よ)が参(まゐ)りたならば、303盲(めくら)も目(め)があき、304聾(つんぼ)も耳(みみ)が聞(きこ)えるやうになるぞよ……と変性(へんじやう)男子(なんし)の筆先(ふでさき)にも現(あら)はれてゐませうがな。305日(ひ)の出神(でのかみ)の真似(まね)の筆先(ふでさき)にもチヤンと出(で)てますよ。306……コレ杢助(もくすけ)さま、307エエ加減(かげん)にとぼけておかんせいな』
308 かかる所(ところ)へ赤(あか)の守衛(しゆゑい)は恭(うやうや)しく杢助(もくすけ)の前(まへ)に現(あら)はれ、
309赤の守衛『三五教(あななひけう)の杢助(もくすけ)様(さま)、310伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)様(さま)が、311早速(さつそく)お目(め)にかからうと仰有(おつしや)います。312サ、313私(わたし)に従(つ)いてお越(こ)し下(くだ)さいませ』
314杢助『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います。315此(この)ライオンは暫(しばら)く御(お)預(あづか)りを願(ねが)ひます』
316赤の守衛『ハイ宜(よろ)しう厶(ござ)います。317叮嚀(ていねい)に保護(ほご)致(いた)します。318コレ白(しろ)さま、319お前(まへ)さま此処(ここ)に守(まも)つてゐて下(くだ)さい。320……サア杢助(もくすけ)様(さま)、321かうお出(い)でなさいませ』
322と先(さき)に立(た)つて行(ゆ)かうとする。323杢助(もくすけ)も後(あと)に従(したが)ひ門(もん)を潜(くぐ)りかけた。324高姫(たかひめ)は袖(そで)にすがり、325金切声(かなきりごゑ)を出(だ)して、326涙交(なみだまじ)りに、
327高姫『コレ杢助(もくすけ)さま、328余(あま)りぢや厶(ござ)んせぬか。329ここは三五教(あななひけう)の奴(やつ)等(ら)の集(あつ)まる場所(ばしよ)、330なぜあれ程(ほど)固(かた)い約束(やくそく)をしながら、331今(いま)となつて変心(へんしん)をなさるのだえ。332義理(ぎり)天上(てんじやう)日(ひ)の出神(でのかみ)は恐(おそ)れませぬか』
333杢助『高姫(たかひめ)さま、334拙者(せつしや)は拙者(せつしや)の権利(けんり)を以(もつ)て、335伊吹戸主(いぶきどぬし)様(さま)にお目(め)にかかるのだ。336貴女(あなた)は之(これ)からお帰(かへ)りなさい』
337と行(ゆ)かうとする。338高姫(たかひめ)は袖(そで)に喰(くら)ひついて放(はな)さず、
339高姫『イエイエ何(なん)と仰有(おつしや)つても、340此(この)高姫(たかひめ)の目(め)の黒(くろ)い中(うち)は、341一足(ひとあし)たりとも、342三五教(あななひけう)の門(もん)は潜(くぐ)らせませぬぞや。343アンアンアンアンアン、344男(をとこ)の心(こころ)と秋(あき)の空(そら)、345変(かは)ると言(い)うても余(あま)りだ。346エーエ残念(ざんねん)や残念(ざんねん)や、347クク口惜(くちを)しい』
348杢助『アハハハ、349何(なん)と、350面白(おもしろ)い芝居(しばゐ)を見(み)せて貰(もら)うたものだ。351ああ文助(ぶんすけ)殿(どの)、352拙者(せつしや)の後(あと)へついて厶(ござ)れ』
353と言(い)ひながら、354ポンと蹴(け)れば、355高姫(たかひめ)は思(おも)はず裾(すそ)を放(はな)し、356二(ふた)つ三(み)つコロコロコロと街道(かいだう)に毬(まり)の如(ごと)く転(ころ)げて、357其(その)終点(しうてん)でパツと大(だい)の字(じ)に拡(ひろ)がり倒(たふ)れて了(しま)つた。
358 杢助(もくすけ)、359文助(ぶんすけ)は門(もん)をガタリと締(し)めて、360奥庭(おくには)へ姿(すがた)を隠(かく)した。361高姫(たかひめ)は大(だい)の字(じ)になつて、362手足(てあし)を動(うご)かせながら、
363高姫『此(この)女(をんな)は、364元(もと)を糺(ただ)せば、365変性(へんじやう)男子(なんし)の体(たい)をかつて、366生(うま)れ出(い)でたる常世姫(とこよひめの)命(みこと)の再来(さいらい)、367高宮姫(たかみやひめ)。368若(わか)い時(とき)から、369男女(をとこをんな)と綽名(あだな)を取(と)つたヤンチヤ娘(むすめ)、370一度(いちど)は東助(とうすけ)さまと夫婦(ふうふ)になり、371子(こ)までなしたる仲(なか)なれど、372余(あま)り東助(とうすけ)の心(こころ)が無情(むじやう)冷酷(れいこく)なるが故(ゆゑ)、373斎苑(いそ)の館(やかた)でキツパリ暇(ひま)をくれて、374祠(ほこら)の森(もり)に立帰(たちかへ)り、375杢助(もくすけ)さまと夫婦(ふうふ)となり、376今(いま)は浮木(うきき)の森(もり)に曲輪城(まがわじやう)を築(きづ)き、377高宮姫(たかみやひめ)と名(な)を改(あらた)めてウラナイ教(けう)の神柱(かむばしら)、378先(さき)をみてゐて下(くだ)されよ』
379と大音声(だいおんじやう)に呼(よ)ばはつてゐる。380八衢(やちまた)へ来(く)る精霊(せいれい)は此(この)声(こゑ)を聞(き)きつけ、381各(おのおの)歩(ほ)を急(いそ)ぎバラバラと駆(か)けつけた。
382(大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 松村真澄録)
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