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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第11巻(戌の巻)
言霊反
凡例
信天翁(二)
総説歌
第1篇 長駆進撃
第1章 クス野ケ原
第2章 一目お化
第3章 死生観
第4章 梅の花
第5章 大風呂敷
第6章 奇の都
第7章 露の宿
第2篇 意気揚々
第8章 明志丸
第9章 虎猫
第10章 立聞
第11章 表教
第12章 松と梅
第13章 転腹
第14章 鏡丸
第3篇 言霊解
第15章 大気津姫の段(一)
第16章 大気津姫の段(二)
第17章 大気津姫の段(三)
第4篇 満目荒寥
第18章 琵琶の湖
第19章 汐干丸
第20章 醜の窟
第21章 俄改心
第22章 征矢の雨
第23章 保食神
第5篇 乾坤清明
第24章 顕国宮
第25章 巫の舞
第26章 橘の舞
第27章 太玉松
第28章 二夫婦
第29章 千秋楽
余白歌
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<<< 死生観
(B)
(N)
大風呂敷 >>>
第四章
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
〔四七一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第11巻 霊主体従 戌の巻
篇:
第1篇 長駆進撃
よみ(新仮名遣い):
ちょうくしんげき
章:
第4章 梅の花
よみ(新仮名遣い):
うめのはな
通し章番号:
471
口述日:
1922(大正11)年02月28日(旧02月02日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年9月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
二人の横を千匹の狼が走り抜けていった。その物音に目を覚まし、東彦(本当は高彦)は次は大蛇が出てくるぞ、と時公をおどかした。
そこへ突然美しい女が現れ、梅ケ香姫だと名乗った。時公は大蛇が化けているのではないかと、えらい権幕で疑ってかかる。梅ケ香姫は時公をからかって、人間の肉が食いたい、と大蛇のふりをする。
時公は覚悟を決めて、東彦と一緒に大蛇に飲まれよう、と言うが、梅ケ香姫は冗談であることを明かす。そして、石凝姥宣伝使と、鉄彦も一緒にいると明かすと、二人は草の中から現れた。
一行五人は夜が明けるのを待って、クス野ケ原の大蛇を言向け和すことになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-08-11 19:27:15
OBC :
rm1104
愛善世界社版:
38頁
八幡書店版:
第2輯 527頁
修補版:
校定版:
38頁
普及版:
15頁
初版:
ページ備考:
001
東彦
(
あづまひこ
)
、
002
時公
(
ときこう
)
の
二人
(
ふたり
)
は
草疲
(
くたび
)
れ
果
(
は
)
てて、
003
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
暖
(
あたた
)
かき
夢
(
ゆめ
)
を
結
(
むす
)
ぶ
折
(
をり
)
しも、
004
前方
(
ぜんぱう
)
より
慌
(
あわただ
)
しき
何者
(
なにもの
)
かの
足音
(
あしおと
)
が
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
た。
005
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
物音
(
ものおと
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし、
006
折柄
(
をりから
)
昇
(
のぼ
)
る
半
(
はん
)
円
(
ゑん
)
の
月
(
つき
)
に
透
(
す
)
かし
見
(
み
)
れば、
007
巨大
(
きよだい
)
なる
獅子
(
しし
)
の
群
(
むれ
)
幾百
(
いくひやく
)
ともなく、
008
二人
(
ふたり
)
の
眠
(
ねむ
)
る
横側
(
よこがは
)
を
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
くのであつた。
009
時公
(
ときこう
)
は
東彦
(
あづまひこ
)
の
耳
(
みみ
)
に
口
(
くち
)
寄
(
よ
)
せ、
010
時公
『モシモシ、
011
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
012
千疋
(
せんびき
)
獅子
(
しし
)
が
通
(
とほ
)
りましたデ、
013
……
知
(
し
)
つてますか』
014
東彦
(
あづまひこ
)
『
千疋
(
せんびき
)
獅子
(
しし
)
と
云
(
い
)
ふものがあるか、
015
あれは
千疋
(
せんびき
)
狼
(
おほかみ
)
だ。
016
お
前
(
まへ
)
がシヤツチもない
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つて
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せと
云
(
い
)
ふに、
017
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
さないものだから、
018
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
怒
(
いか
)
つて、
019
獅子
(
しし
)
を
遣
(
つか
)
はしてお
前
(
まへ
)
を
探
(
さが
)
して
御座
(
ござ
)
るのだ。
020
モウおつつけ
此方
(
こちら
)
へ
引返
(
ひきかへ
)
して
来
(
く
)
る
時分
(
じぶん
)
だ。
021
早
(
はや
)
う
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ』
022
時公
(
ときこう
)
『そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
恐嚇
(
おどし
)
たつて、
023
この
時
(
とき
)
さんは、
024
時々
(
ときどき
)
この
野
(
の
)
で
千疋
(
せんびき
)
獅子
(
じし
)
に
会
(
あ
)
ふのだから、
025
獅子
(
しし
)
喰
(
く
)
た
犬
(
いぬ
)
に
其
(
その
)
嚇
(
おど
)
しは
利
(
き
)
きませぬで……
貴方
(
あなた
)
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しなさい』
026
東彦
(
あづまひこ
)
(本当は高彦)
『イヤ、
027
汝
(
おまへ
)
はねぶた
目
(
め
)
で
獅子
(
しし
)
と
間違
(
まちが
)
つたのだ、
028
あれは
巨大
(
きよだい
)
な
狼
(
おほかみ
)
だよ。
029
何
(
なん
)
でも
大
(
おほ
)
きな
大蛇
(
だいじや
)
が
現
(
あら
)
はれたので
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
たのだ。
030
キツト
此
(
この
)
次
(
つぎ
)
は
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
031
用心
(
ようじん
)
せよ』
032
時公
(
ときこう
)
『
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
つて、
033
大蛇
(
だいじや
)
ですか』
034
東彦
(
あづまひこ
)
(本当は高彦)
『さうだ、
035
大蛇
(
をろち
)
といふものは
斯
(
か
)
ういふ
草原
(
くさはら
)
に
隠
(
かく
)
れてるものだ。
036
あまりお
前
(
まへ
)
が
人間
(
にんげん
)
臭
(
くさ
)
い
事
(
こと
)
をいふものだから、
037
大蛇
(
をろち
)
の
奴
(
やつ
)
一
(
ひと
)
つ
呑
(
の
)
んでやらうと
思
(
おも
)
つて
現
(
あら
)
はれたのだよ。
038
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
高彦
(
たかひこ
)
さまが
御座
(
ござ
)
る
間
(
あひだ
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
039
マア
安心
(
あんしん
)
せい』
040
時公
(
ときこう
)
『あなた、
041
矢張
(
やつぱり
)
化物
(
ばけもの
)
だな。
042
悪魔彦
(
あくまひこ
)
だとか
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
つたと
思
(
おも
)
へば
又
(
また
)
鷲
(
わし
)
は
鷹
(
たか
)
だとか、
043
鳶
(
とび
)
だとか、
044
鳥
(
とり
)
とめもない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
だ』
045
高彦
(
たかひこ
)
『マアどうでもよい。
046
今
(
いま
)
に
長
(
なが
)
い
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
がザーツと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
ててお
出
(
で
)
ましだ。
047
一
(
ひと
)
つ
宣伝歌
(
せんでんか
)
でも
聞
(
き
)
かしてやらうかい』
048
時公
(
ときこう
)
『さうですなア。
049
宣伝
(
せんでん
)
万歌
(
ばんか
)
(
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
)の
言霊
(
ことたま
)
の
妙用
(
めうよう
)
を
試
(
ため
)
すは
此
(
この
)
時
(
とき
)
です』
050
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
忽然
(
こつぜん
)
として
美
(
うつく
)
しき
女
(
をんな
)
が
現
(
あら
)
はれた。
051
女
(
をんな
)
『ヤア、
052
お
前
(
まへ
)
は
時
(
とき
)
さまか。
053
どうして
斯
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
やしやんしたのだい』
054
時公
(
ときこう
)
『ヤ、
055
出
(
で
)
やがつたなア。
056
ヤイ
大蛇
(
をろち
)
、
057
綺麗
(
きれい
)
な
別嬪
(
べつぴん
)
に
化
(
ば
)
けやがつて、
058
俺
(
おれ
)
を
誤魔化
(
ごまくわ
)
さうと
思
(
おも
)
つたつて
誤魔化
(
ごまくわ
)
せないぞ。
059
コラツ、
060
俺
(
おれ
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
る。
061
蛇
(
へび
)
を
掴
(
つか
)
んで
喰
(
く
)
ふ
蛇掴
(
へびつか
)
みの
悪神
(
あくがみ
)
でさへも、
062
俺
(
おれ
)
のフンと
吹
(
ふ
)
いた
鼻息
(
はないき
)
で、
063
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
るといふ
様
(
やう
)
な、
064
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
の
豪傑
(
がうけつ
)
だ。
065
良
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
さんと、
066
掴
(
つか
)
んで
喰
(
く
)
てやらうか』
067
高彦
(
たかひこ
)
『アハヽヽヽ』
068
時公
(
ときこう
)
『コレコレ、
069
高
(
たか
)
さん、
070
何
(
なに
)
が
可笑
(
をか
)
しい、
071
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
だ。
072
是
(
これ
)
から
時
(
とき
)
さまの
腕試
(
うでだめ
)
しだ。
073
チツト
都合
(
つがふ
)
の
良
(
よ
)
い
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
074
応援
(
おうゑん
)
だ
応援
(
おうゑん
)
だ』
075
高彦
(
たかひこ
)
『アハヽヽヽヽ』
076
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽ』
077
時公
(
ときこう
)
『フン、
078
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがる。
079
此
(
この
)
寒
(
さむ
)
い
時分
(
じぶん
)
にホヽヽなんて、
080
呆
(
ほう
)
けやがつて。
081
鶯
(
うぐひす
)
の
真似
(
まね
)
をしたつて
誰
(
たれ
)
が
其
(
その
)
手
(
て
)
に
乗
(
の
)
るかい。
082
呆助
(
ほうすけ
)
奴
(
め
)
が、
083
とぼけやがるな。
084
時
(
とき
)
さんは
時
(
とき
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
085
ホヽヽと
言
(
い
)
うて
出
(
で
)
る
奴
(
やつ
)
は、
086
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
く
時分
(
じぶん
)
だ』
087
女
(
をんな
)
『わたしは
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
088
時公
(
ときこう
)
『ナニツ、
089
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
もあつたものかい。
090
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
は、
091
二日前
(
ふつかまへ
)
に
鉄谷村
(
かなたにむら
)
を
三人
(
さんにん
)
連
(
づれ
)
で
出
(
で
)
た
筈
(
はず
)
だ。
092
貴様
(
きさま
)
一人
(
ひとり
)
こんな
処
(
ところ
)
においとく
筈
(
はず
)
がない。
093
貴様
(
きさま
)
の
正体
(
しやうたい
)
は
時
(
とき
)
さまがチヤーンと
見届
(
みとど
)
けてあるのだ。
094
ソレ、
095
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
の
長
(
なが
)
い
奴
(
やつ
)
だらう。
096
俺
(
おれ
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
は
百発
(
ひやくぱつ
)
百中
(
ひやくちゆう
)
だ。
097
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つたか、
098
邪神
(
じやしん
)
奴
(
め
)
が』
099
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽ、
100
時
(
とき
)
さまのあの
気張
(
きば
)
り
様
(
やう
)
、
101
わたしはお
臍
(
へそ
)
が
茶
(
ちや
)
を
沸
(
わ
)
かします。
102
ホヽヽヽ』
103
時公
(
ときこう
)
『エヽ、
104
厭
(
いや
)
らしい。
105
此
(
この
)
野原
(
のはら
)
に
夜
(
よる
)
の
夜中
(
よなか
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
やがつて、
106
魔性
(
ましやう
)
の
姿
(
すがた
)
をして、
107
何
(
なに
)
をほざきやがるのだ。
108
煙草
(
たばこ
)
の
脂
(
づう
)
を
飲
(
の
)
ましてやろか』
109
高彦
(
たかひこ
)
『アハヽヽヽ』
110
女
(
をんな
)
『
妾
(
わらは
)
は
時
(
とき
)
さまの
天眼通
(
てんがんつう
)
力
(
りき
)
に
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました、
111
お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
112
太
(
ふと
)
い
長
(
なが
)
い
此
(
この
)
クス
野ケ原
(
のがはら
)
の
主
(
ぬし
)
で
御座
(
ござ
)
います。
113
妾
(
わらは
)
は
沢山
(
たくさん
)
の
獅子
(
しし
)
を
餌食
(
ゑじき
)
に
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
114
一口
(
ひとくち
)
に
牛
(
うし
)
の
様
(
やう
)
な
獅子
(
しし
)
を
十疋
(
じつぴき
)
くらゐ
喰
(
く
)
はねば、
115
歯
(
は
)
にも
当
(
あた
)
らぬ
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
します。
116
ホヽヽヽ』
117
時公
(
ときこう
)
『ヤア、
118
厭
(
いや
)
らしい
奴
(
やつ
)
だ。
119
コレコレ
高彦
(
たかひこ
)
さま、
120
あなたも
起
(
おき
)
ぬか。
121
なんぼ
死
(
し
)
んで
生
(
うま
)
れて、
122
死
(
し
)
んで
生
(
うま
)
れると
言
(
い
)
つても、
123
こんな
奴
(
やつ
)
に
呑
(
の
)
まれて
死
(
し
)
ぬのは、
124
チツト
残念
(
ざんねん
)
だ。
125
サア
起
(
おき
)
て
下
(
くだ
)
さい、
126
早
(
はや
)
う
早
(
はや
)
う』
127
高彦
(
たかひこ
)
『アハヽヽヽ、
128
可笑
(
をか
)
しい
奴
(
やつ
)
だナ。
129
モシモシ
大蛇娘
(
をろちむすめ
)
さま、
130
お
前
(
まへ
)
さま、
131
獅子
(
しし
)
ばつかり
喰
(
く
)
つて
居
(
を
)
つても、
132
あんまり
珍
(
めづら
)
しくなからう。
133
ここに
一
(
ひと
)
つ
人肉
(
ひとしし
)
の
温
(
あたた
)
かいのがあるが、
134
是
(
これ
)
はどうだな』
135
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽヽ、
136
それは
何
(
なに
)
よりの
好物
(
かうぶつ
)
、
137
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませう』
138
時公
(
ときこう
)
『オヽ、
139
それがよい、
140
それがよい。
141
蛇
(
へび
)
の
口
(
くち
)
から、
142
高彦
(
たかひこ
)
が
喰
(
く
)
て
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
つてる。
143
此奴
(
こいつ
)
をグーと
一
(
ひと
)
つ
呑
(
の
)
んで、
144
それで
帳消
(
ちやうけ
)
しだ』
145
女
(
をんな
)
『イエイエ、
146
時
(
とき
)
さまが
美味
(
おいし
)
さうなお
顔付
(
かほつき
)
、
147
肉
(
にく
)
の
具合
(
ぐあひ
)
といひ、
148
コツクリと
肌
(
はだ
)
の
黒
(
くろ
)
い
美味
(
うま
)
さうなお
姿
(
すがた
)
。
149
ホヽヽヽヽ』
150
時公
(
ときこう
)
『エイ
邪魔
(
じやま
)
臭
(
くさ
)
い、
151
口
(
くち
)
開
(
あ
)
け、
152
獅子
(
しし
)
の
十
(
とう
)
も
喰
(
くら
)
うて
歯
(
は
)
に
当
(
あた
)
らぬ
様
(
やう
)
な
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
なら、
153
俺
(
おれ
)
もトンネルだと
思
(
おも
)
つて
喰
(
く
)
はれてやらう。
154
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
此
(
この
)
杖
(
つゑ
)
を
振
(
ふ
)
つて
振
(
ふ
)
つて
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
し、
155
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
這入
(
はい
)
つた
時
(
とき
)
に
腸
(
はらわた
)
を
突
(
つ
)
いて
突
(
つ
)
いて
突
(
つ
)
き
廻
(
まは
)
してやるから、
156
さう
思
(
おも
)
へ。
157
サア、
158
早
(
はや
)
う
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はさぬか』
159
女
(
をんな
)
『わたしの
口
(
くち
)
は
火
(
ひ
)
の
様
(
やう
)
な
熱
(
ねつ
)
があります。
160
口
(
くち
)
へ
入
(
い
)
れたが
最期
(
さいご
)
、
161
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
へ
薄氷
(
うすこほり
)
を
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んだ
様
(
やう
)
なもの、
162
時
(
とき
)
さまのお
身体
(
からだ
)
も、
163
鉄棒
(
てつぼう
)
もみんな
熔
(
と
)
けて
了
(
しま
)
ひます』
164
時公
(
ときこう
)
『コイツ
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
いなア。
165
オイ
高
(
たか
)
さま、
166
籤引
(
くじびき
)
だ。
167
言
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
し、
168
放
(
こ
)
き
出
(
だ
)
し、
169
笑
(
わらひ
)
出
(
だ
)
しだ。
170
屁
(
へ
)
でもない
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものだから
俺
(
おれ
)
を
喰
(
く
)
ふなんて
云
(
い
)
ひやがるんだ。
171
サア、
172
一緒
(
いつしよ
)
に
附合
(
つきあひ
)
だ。
173
二人
(
ふたり
)
乍
(
なが
)
ら
呑
(
の
)
ましてやらうかい』
174
高彦
(
たかひこ
)
『アハヽヽヽ』
175
女
(
をんな
)
『モシモシ
時
(
とき
)
さん、
176
嘘
(
うそ
)
ですよ。
177
妾
(
わたし
)
は
蛇掴
(
へびつか
)
みの
岩窟
(
いはや
)
へ
清姫
(
きよひめ
)
さまの
身代
(
みがは
)
りになつて、
178
貴方
(
あなた
)
に
担
(
かつ
)
いで
往
(
いつ
)
て
貰
(
もら
)
うた
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
です』
179
時公
(
ときこう
)
『
嘘
(
うそ
)
の
様
(
やう
)
な、
180
本真
(
ほんま
)
の
様
(
やう
)
な
話
(
はなし
)
だが、
181
そんなら
何故
(
なぜ
)
俺
(
おれ
)
ん
所
(
とこ
)
の
主人
(
しゆじん
)
の
鉄彦
(
かなひこ
)
さまと、
182
石凝姥
(
いしこりどめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
をどうしたのだ』
183
女
(
をんな
)
『
二人
(
ふたり
)
共
(
とも
)
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
られます。
184
アヽモシモシお
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
、
185
此処
(
ここ
)
へお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
186
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
から
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
の
声
(
こゑ
)
187
石凝姥、鉄彦
『アハヽヽヽ、
188
オホヽヽヽ』
189
今
(
いま
)
まで
薄雲
(
うすぐも
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
190
ドンヨリとして
居
(
ゐ
)
た
月光
(
つきかげ
)
は
皎々
(
かうかう
)
と
輝
(
かがや
)
き
初
(
はじ
)
めた。
191
高彦
(
たかひこ
)
『ヤア、
192
貴方
(
あなた
)
は
石凝姥
(
いしこりどめ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
[
※
石凝姥の旧名は「東彦」
]
、
193
珍
(
めづら
)
しい
処
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
に
掛
(
かか
)
りました』
194
時公
(
ときこう
)
『ナーンだ。
195
全然
(
まるで
)
お
紋狐
(
もんぎつね
)
に
魅
(
つま
)
まれた
様
(
やう
)
だ』
196
是
(
これ
)
より
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
くるを
待
(
ま
)
つて、
197
クス
野ケ原
(
のがはら
)
の
大蛇
(
をろち
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
す
事
(
こと
)
となつたのである。
198
(
大正一一・二・二八
旧二・二
松村真澄
録)
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